(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】バッテリシステム用の断熱マット
(51)【国際特許分類】
H01M 10/6555 20140101AFI20240711BHJP
H01M 50/293 20210101ALI20240711BHJP
H01M 50/209 20210101ALI20240711BHJP
H01M 50/204 20210101ALI20240711BHJP
H01M 50/227 20210101ALI20240711BHJP
H01M 50/291 20210101ALI20240711BHJP
H01M 50/224 20210101ALI20240711BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20240711BHJP
H01M 10/647 20140101ALI20240711BHJP
H01M 10/658 20140101ALI20240711BHJP
H01M 10/653 20140101ALI20240711BHJP
H01M 10/625 20140101ALN20240711BHJP
【FI】
H01M10/6555
H01M50/293
H01M50/209
H01M50/204 401H
H01M50/227
H01M50/291
H01M50/224
H01M10/613
H01M10/647
H01M10/658
H01M10/653
H01M10/625
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502069
(86)(22)【出願日】2022-07-13
(85)【翻訳文提出日】2024-02-19
(86)【国際出願番号】 EP2022069541
(87)【国際公開番号】W WO2023285504
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】102021118437.1
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509170017
【氏名又は名称】エリコン フリクション システムズ(ジャーマニー) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヘリベルト ヴァルター
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル マーク
(72)【発明者】
【氏名】トビアス フリッツ
(72)【発明者】
【氏名】アレックス トーマシュポルスキ
(72)【発明者】
【氏名】ジェシカ ウーレマン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス イュープラー
【テーマコード(参考)】
5H031
5H040
【Fターム(参考)】
5H031AA09
5H031CC01
5H031EE01
5H031EE03
5H031EE04
5H031KK02
5H040AA28
5H040AS07
5H040AT02
(57)【要約】
本発明は、バッテリシステム内で隣り合うバッテリセル(2)、特に角形バッテリセル同士を離隔するための断熱マット(1)であって、繊維・エラストマー複合体製の弾性変形可能な基板(7)から成り、基板(7)の2つの主面に、互いに平行にかつ互いに間隔をあけて基板(7)の主面を横断して延びる所定の数のリブ(8)が設けられており、2つの主面のリブユニットは、環状のフレーム(10)によって包囲されており、リブ(8)とフレーム(10)との間にはギャップ(11)が存在しており、基板(7)の繊維・エラストマー複合体は、鉱物繊維から成る少なくとも1つの中間層が埋設されたエラストマーマトリックスから形成されており、断熱マットは同時に、セル成分の化学的劣化と、充電時および放電時のセルの周期的な膨張および収縮とに基づくバッテリセルのシステム固有の体積変化を補償することができる、断熱マット(1)に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特にバッテリシステム内で隣り合うバッテリセル(2)間を離隔するための断熱マット(1)であって、繊維・エラストマー複合体から成る弾性変形可能な基板(7)を備えており、
前記基板(7)の2つの主面に、互いに平行にかつ互いに間隔をあけて前記基板(7)の前記主面を横断して延びる所定の数のリブ(8)が設けられており、
前記2つの主面のリブユニットは、環状のフレーム(10)によって包囲されており、前記リブ(8)と前記フレーム(10)との間にはギャップ(11)が存在しており、
前記基板(7)の前記繊維・エラストマー複合体は、鉱物繊維から成る少なくとも1つの中間層を含むエラストマーマトリックスから形成されている、
断熱マット(1)。
【請求項2】
前記エラストマー材料は、シリコーンエラストマーのうち、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、天然ゴム(NR)、ブチルゴム、イソブタン-イソプレンゴム(IIR)、イソプレンゴム(IR)、およびポリウレタン(PUR)から選択されている、請求項1記載の断熱マット(1)。
【請求項3】
前記エラストマーは、シリコーンエラストマーおよびポリウレタンから選択されている、請求項2記載の断熱マット(1)。
【請求項4】
前記中間層用の前記鉱物繊維は、ガラス繊維、バサルト繊維、シリカ繊維および酸化物セラミック繊維から選択されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の断熱マット(1)。
【請求項5】
圧縮荷重が加えられていない状態では、前記環状のフレーム(10)の高さは前記リブ(8)の高さよりも高くなっており、前記環状のフレーム(10)の変形抵抗は前記リブ(8)の変形抵抗よりも大きい、請求項1から4までのいずれか1項記載の断熱マット(1)。
【請求項6】
前記環状のフレーム(10)の幅は、前記リブ(8)の幅よりも大きい、請求項5記載の断熱マット(1)。
【請求項7】
2つの隣り合う前記リブ(8)の間の間隔(9)の幅は、前記リブ(8)の幅の少なくとも1.5倍~2倍である、請求項1から6までのいずれか1項記載の断熱マット(1)。
【請求項8】
前記リブ(8)および前記環状のフレーム(10)は、エラストマー材料から形成されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の断熱マット(1)。
【請求項9】
前記リブ(8)は、または前記リブ(8)と前記環状のフレーム(10)は両方共、前記基板と同じエラストマー材料から形成されている、請求項8記載の断熱マット(1)。
【請求項10】
前記基板(7)は、鉱物繊維から成る2つ以上の中間層(12)を有している、請求項1から9までのいずれか1項記載の断熱マット(1)。
【請求項11】
鉱物繊維から成る2つの前記中間層(12)の間には、バインダとしてエラストマー材料が設けられている、請求項10記載の断熱マット(1)。
【請求項12】
前記基板(7)には、赤外線を反射する金属シートが設けられている、請求項1から11までのいずれか1項記載の断熱マット(1)。
【請求項13】
前記基板(7)と、前記リブ(8)と、前記環状のフレーム(10)とは、一体の部品である、請求項1から12までのいずれか1項記載の断熱マット(1)。
【請求項14】
前記リブ(8)を横断する中断部(16)が設けられており、かつ/または前記環状のフレーム(10)に、反応ガスの導出用の少なくとも1つの出口開口(17,18)が設けられている、請求項1から13までのいずれか1項記載の断熱マット(1)。
【請求項15】
角形バッテリセルを備えたバッテリシステムに対する、請求項1から14までのいずれか1項記載の断熱マットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリシステム、特にリチウムイオンバッテリシステム用の断熱マットに関し、この場合、断熱マットが、バッテリシステムの単セルの間に配置されており、これにより、例えばバッテリセルの過熱の結果としてバッテリセルが故障した場合に、隣接するバッテリセルへの過熱の進行を阻止する。本発明による断熱マットは、有利には、電気自動車の分野で使用されるようなバッテリシステムに使用することができる。
【背景技術】
【0002】
バッテリシステムは一般に、複数の単セルから構成されており、これにより、必要とされる高いエネルギ密度を得ることができる。この場合、所定数の単セルが1つのモジュールにまとめられ、単モジュールが1つのスタックにまとめられて、互いに電気的に接続される。得られたバッテリシステムは、外部の影響から保護するために、気密に閉鎖されるハウジング内に収納される。
【0003】
原則としてバッテリの種類は、円筒形セルと、角形セルと、パウチ型セルとに区別される。角形セルは、(セルカップとも呼ばれる)剛性のハウジングを備えた直方体形を有しており、これに対してコーヒーバッグ型セルとも呼ばれるパウチ型セルは、シートから成るフレキシブルなカバーを有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は特に、蓄電池とも呼ばれる再充電可能な電池、いわゆる二次電池を備えたバッテリシステムに関する。例えば電気自動車の分野で頻繁に使用されるバッテリシステムは、リチウムイオン電池を基礎としたバッテリシステムである。
【0005】
複数の単セルから成るバッテリシステムの確実な作動を保証するために、例えば過熱の結果、1つのバッテリセルのセル火災が発生した場合には、隣接するセルに、バッテリシステム全体の焼損(熱暴走)に至るまでセル火災が広がることを阻止することが必須である。
【0006】
セル火災の場合には、ほんの数秒以内に600℃以上の高温が生じる。隣接セルへの火災の過熱と広がりとを防止するためには、隣接セルの温度が臨界値を超えて上昇することを阻止する対策を講じる必要がある。
【0007】
リチウムイオン電池においてこの臨界温度値を決定する要素は、特に電解質またはその組成およびシャットダウンセパレータの発動範囲である。
【0008】
リチウムイオン電池用には、100℃の沸点を有し発火し易い成分を含む電解液が使用される。したがって、気密に閉鎖されたセル内の圧力上昇を回避するために、セル温度を沸点未満に保たねばならない。セル内部圧力が極度に高い場合には、形成されたガスを逃がす安全弁が開くようになっており、これらの条件下で高反応性の電解質は、通常直ちに発火する。シャットダウンセパレータは、臨界温度を超過した場合にセパレータの微細孔が塞がれることにより、イオンの移動を阻止すると共に電流の流れを中断する安全手段である。2つのポリマーシートからなる積層体から形成されたシャットダウンセパレータが知られており、この場合、ポリマーはそれぞれ異なる融点を有している。例えば、頻繁に使用されるシャットダウンセパレータは、融点が120℃のポリエチレンと、170℃のポリプロピレンとを含む、ポリエチレン/ポリプロピレン積層体から形成されている。より低い融点を有するポリマーシート、この場合はポリエチレンの融点を超過すると、このポリマーシートが溶融して、より高温で溶融するポリマーシート、この場合はポリプロピレンの孔を塞ぐ。
【0009】
上述のことから、セルの過熱と、これに関連した安全上のリスクとを回避するためには、セル温度を必然的に150℃未満、特に120℃未満、好適には可能な限り100℃未満に保たねばならないことが明らかである。
【0010】
隣接するセルが臨界温度を超えて加熱されること、ひいては、セル火災の発動を阻止するために、隣り合うセルの間に断熱装置を設けることが知られている。
【0011】
断熱の他に、バッテリシステムの安全な作動のためにはさらに別の観点が考慮され得る。
【0012】
つまり、断熱手段は同時に、セルまたはセルハウジングに印加される、1つのモジュールのセル間の電位差を電気的に絶縁する電気絶縁体の機能を同時に有することが望ましい。
【0013】
リチウムイオン電池システムを形成する際の1つの別の重要な観点は、システムに起因する、(膨張としても知られている)バッテリセルの体積変化である。その原因は、一方ではセル成分の化学的な劣化に基づく連続的なセル膨張であり、他方では充電時および放電時のセルの周期的な膨張および収縮である。このシステム固有の体積変化は、特に角形セルを基礎とするバッテリシステムの製造に際して、その固いセルハウジングに基づき考慮されるべきである。この場合、セル成分の体積増加は、大きな主面の中央領域における膨張につながる。これに対して、縁部領域は、隣接する面につながる角隅部により、機械的に安定化されている。
【0014】
長さ236mm、高さ115mm、厚さ32mmの、自動車使用分野の角形セルの典型的な寸法の場合、劣化した角形セルに充電すると、主面は0.2mm~1mm未満だけ膨張することがあり、これにより、通常10~14の単セルを含む1つのモジュールに、2mm~10mm未満の総膨張量が生じる恐れがある。
【0015】
したがって、有利には、断熱マットが、隣り合うバッテリセルの断熱および電気的な絶縁に加えて、充電および放電の過程における周期的な体積変化と、連続的な体積増加の両方のセルの体積膨張を、セルの耐用年数にわたり補償することができることが望ましい。
【0016】
さらに、断熱マットは、最低限の重量を有していること、省スペース式に取り付けること、および廉価であることが望ましい。
【0017】
断熱とは、600℃以上の熱が発生するセル火災の場合に、隣接するセルに僅か30秒以内に伝達される熱が、有利には100℃未満に制限されるべきであることを意味する。
【0018】
寿命にわたり、セルの体積変化の補償を保証することは、材料が弾性変形可能でありかつ十分に小さな圧縮ひずみを有しており、したがって、圧縮荷重および温度変動に基づき固化はしないことを必要とする。
【0019】
さらに考慮すべきなのは、モジュールを組み立てるためには所望の数の、典型的には12~14個の単セルが1つのスタックにまとめられ、例えば5~19kNの所定の予荷重力により加圧され、この予荷重力に基づき固定され、これにより、所定のスタック幾何学形状が得られる、ということである。断熱マットは、モジュールの寸法安定性を保証するために、この予荷重を全寿命にわたり維持することができねばならない。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に基づき、上で示した問題は、繊維・エラストマー複合体から成る弾性変形可能な基板を備えた断熱マットであって、基板の両主面に、互いに平行にかつ互いに間隔をあけて基板の主面を横断して延びる所定の数のリブが設けられており、両主面のリブは、互いにずらされて配置されており、リブ構造を有する基板は、環状のフレームによって包囲されており、リブは、フレームから分離されている、断熱マットによって解決される。好適には、フレームも同様に、エラストマー材料から形成されている。
【0021】
リブの「ずらされた配置」とは、基板の一方の主面のリブが、基板の他方の主面の2つのリブの間の間隔内に延びていることを意味する。リブ同士の間の間隔は、リブが延びる幅よりも広幅であることが望ましく、これにより、リブが間隔内へばね弾性的に撓むことを可能にする。
【0022】
「分離されている」とは、リブがフレームに結合されていないこと、すなわちリブの端面も、最も外側の各リブの外側に位置する側面も、フレームには接触していないことを意味する。
【0023】
本発明による断熱マットの寸法設定は、各用途に従う。本明細書で説明する形態では、断熱マットは、特に角形セルの間で使用するように設計されている。ただし、断熱マットを別の形式のバッテリと共に使用するために、容易に適合させることもできる。
【0024】
角形バッテリセルの中間絶縁体として使用するために、断熱マットは、実質的に矩形の基本形状を有している。断熱マットの周は、取付け状態においてバッテリセルの周と整合していてよい。代替的に、フレームまたはフレームの縁部は、例えば長辺または短辺またはその両方でもって、バッテリセルの周を越えて突出していてもよい。
【0025】
弾性変形可能な基板は、2つの主面を有する面状の矩形形状を有している。各主面には、互いに平行にかつ互いに間隔をあけて配置され、主面を横断して延びる所定の数のリブが設けられており、この場合、2つの主面のリブは、互いにずらされて配置されている。
【0026】
リブユニットを備えた基板は、環状のフレームによって包囲されている。本発明による断熱マットは、隣り合う角形バッテリセルの間に主面同士が接触するように配置される。フレームの露出した上面は、取付け状態では隣接する1つまたは複数のバッテリセルに接触している。
【0027】
よって組立状態では、断熱マットのフレームは、バッテリセルの、寸法的に剛性の縁部に沿って延びており、縁部に支持されることができる。このようにして、モジュールを構成する際にバッテリセルと断熱マットのフレームとに加えられる予圧荷重を、環状のフレームを介して受け止めて補償することができる。
【0028】
フレームは、予圧荷重によってせいぜい極僅かに変形するだけに過ぎず、これに相応して、低圧縮性を有していることが望ましい。フレームの圧縮強さは、材料の弾性、フレームの幅、およびフレームの構造により様々な影響を及ぼされて調整することができる。例えば、フレームの製造に使用されるエラストマー材料の圧縮弾性率に応じて、モジュール構成中に緊締した後に所望のフレーム厚さが得られるように、フレーム高さを選択することができる。
【0029】
劣化および充電過程による体積増加に基づくセルの主面の膨張は、以下で詳しく説明するように、弾性変形可能な基板に関連したリブを介して補償される。
【0030】
1つのバッテリセルの一方の主面の膨張により、隣接する本発明による断熱マットのリブに圧力が加えられると、リブは、基板の変形により、各リブの下側に位置する、基板の他方の面に配置されたリブの間の間隔内に変位する。例えば、放電に基づき膨張部が収縮して放圧されると、基板の弾性に基づき、リブは再びその初期状態に戻ることができる。リブが配置された弾性変形可能な基板は、ばね部材として作用し、この場合、圧縮荷重が加えられるとばね弾性的に撓み、圧縮が軽減されるとばね弾性的に初期状態に戻る。
【0031】
1つの有利な構成では、リブが配置された、ばね部材として作用する基板を介して追加的に、調整可能な圧力をセル表面に加えることができるようになっているので、セルスタックは、緊締圧力に追加して軽度に圧縮されることになる。このようにして得ることができる追加的な圧力は、スタックのセルのサイクル安定性にポジティブな影響を及ぼし得るということがわかった。
【0032】
ばね弾性的な撓みの程度は、単独で、または2つ以上を組み合わせて使用されてもよい複数の様々な手段によって制御することができる。
【0033】
例えば、ばね弾性的な撓みの程度は幾何学形状的に、リブ幅の少なくとも1.5~2倍であることが望ましいリブ間の間隔によって制御することができる。リブ幅に比べて間隔が広幅であるほど、基板とリブとから成る構造体はより一層変形可能になる、すなわち、リブが基板と共に、間隔内により深く押し込まれることになる。
【0034】
さらに、ばね弾性的な撓みの程度は、基板の構成および材料により決定される。基板は、エラストマープラスチック(エラストマー)から成るマトリックスを有する繊維・エラストマー複合体から形成されており、かつ基板には、繊維から成る少なくとも1つの中間層(繊維中間層とも呼ばれる)が埋設されている。エラストマーは、セル火災の場合に高温に耐えることができるようにするために、必要とされる弾性の他に十分な耐熱性を有している必要がある。
【0035】
適切な耐高温性のエラストマーの例は、シリコーンエラストマー、例えば、メチル-フェニル-シリコーンゴム(PMQ)、メチル-フェニル-ビニル-シリコーンゴム(PVMQ)、メチル-シリコーンゴム、メチル-ビニル-シリコーンゴム(VMQ)、フルオロ-ビニル-メチル-シリコーンゴム(FVMQ)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、天然ゴム(NR)、ブチルゴム、イソブタン-イソプレンゴム(IIR)、およびイソプレンゴム(IR)ならびにポリウレタン(PUR)である。
【0036】
エラストマーの弾性は、好適には20~80、特に45~75、特に好適には50~60のショアA硬度の範囲にあることが好ましい。
【0037】
所望の耐熱性の観点から、繊維から成る中間シートには、鉱物繊維、例えばガラス繊維、バサルト繊維、シリカ繊維および酸化物セラミック繊維が使用される。鉱物繊維は、織布またはスクリム等の面状造形物の形態で存在していてよく、この場合、面状造形物自体は、これらの繊維から成る粗糸または糸から製造されていてよい。繊維は、典型的には20g/m2~200g/m2の単位面積当たりの重量でもって使用される。例えば、2つ以上の繊維中間層が設けられる場合には、個々の層の単位面積当たりの重量は、下の範囲内にあってよいか、またはそれどころかそれ未満であってよい。
【0038】
繊維は、補強中間層としてエラストマーマトリックス内に埋設されている。2つ以上の繊維中間層の場合、個々の繊維中間層の間に、バインダとしてエラストマーから成る薄い層が設けられていてよい。
【0039】
基板用の1つの好適な材料の組合せは、ガラス繊維織布から成る1つまたは2つの中間層を含むシリコーンエラストマーである。
【0040】
エラストマーの種類の他に、基板の変形性ひいてはばね弾性的な撓みの程度は、繊維の配向により決定される。最小の変形性を示すのは0°/90°の配向であり、この場合、ばね弾性的な撓みは全くまたはせいぜい極僅かにしか生じない。これに対して、繊維は±45°の配向において、リブ相互の最大のばね弾性的な撓みを伴うファイバの最大の移動を示す。これらの値の間に位置する適切な配向の一例は、30°/120°の配向である。ばね弾性的に撓むと、基板は長手方向に伸長し、このとき、繊維間の角度は減少する、すなわち、マトリックスと繊維との間に相互作用が生じる。
【0041】
さらに、エラストマーマトリックスに無機充填材を添加することにより、弾性を変化させることができる。この場合、充填材は、純粋に機械的な機能を引き受けることができる。エラストマーが変形すると、充填材粒子同士の間隔が、充填材粒子同士が接触するまで減少し、これにより、エラストマーのさらなる変形が阻止される。阻止効果の実現には、充填度、粒径および粒子形状、粒径分布(モノモーダル、バイモーダルまたはトリモーダル)等の複数のパラメータを介して影響を及ぼすことができる。例えば、粒子形状、例えば丸いまたは鋭利な粒子形状は、粒子同士のマトリックス内での滑り特性および阻止特性に影響を及ぼす。
【0042】
充填剤は、基本的にセラミック質、炭素に基づく性質または金属質であってよい。ただし、充填材を選択する際には、本発明による断熱マットの基本的な断熱機能および電気絶縁機能に関して、充填材の熱的特性および電気的特性が考慮されるべきである。したがって、最低限の導電性を有する充填材、例えばセラミック充填材が好適である。
【0043】
機械的特性および電気的特性の調整の他に、充填材は、エラストマーの熱的挙動を改善するために添加されてもよい。
【0044】
例えば、熱伝導を低下させる充填材を使用することができる。これは、中空体、例えばガラス中空球等の絶縁性のエアクッションまたはガスクッションを形成する材料であってもよいし、またはエアロゲル、アエロジルまたは膨張材等の、多孔率の高い材料であってもよい。
【0045】
火災温度で吸熱反応して系から熱エネルギを除去する充填材も使用することができる。これらは例えば、火炎温度でセラミック化する、ガラス化または炭化する、冷却作用を及ぼす、かつ酸素を除去する、例えば基本的にプラスチック用の防火手段として知られた材料である。適切な例は、加熱すると水が分離して保護セラミック層を形成する金属水酸化物または金属オキシ水酸化物、例えば約200℃から反応してAl2O3および水を形成する水酸化アルミニウム(アルミニウム三水和物)(ATH)、または約300℃から反応してMgOおよび水を形成する水酸化マグネシウム等である。熱を除去する適切な充填材の別の例は、メラミンポリホスファートまたはアンモニウムポリホスファート等のポリホスファートを基礎としたものであり、これらはアンモニア(NH3)の分離状態で膨れあがり(膨張し)、かつアンモニアが窒素および水に反応することにより酸素を除去するように作用する。
【0046】
原則として、充填材および充填度の変更により、有利には材料特性を的確に調整して適合させることができる。この場合、達成すべき充填度は、充填材粒子の粒径分布、粒径および表面反応性に大幅に左右される。例えば充填度は、大きさが10~100μmの粒子の主成分を含む粒子に関しては最大60重量%であってよく、ナノスケール粒子の場合には100体積パーセントを大幅に上回っていてよい。全ての充填材に関する前提条件は、これらがエラストマーの弾性挙動にネガティブな影響を及ぼさないということである。
【0047】
1つの有利な構成では、必要に応じて、本発明による断熱マット内に、充填材の反応とエラストマーの熱分解とにより形成されるガスを導出するための通路が設けられていてよい。これらの通路でもって、1つのモジュール内のバッテリセルの壁と断熱マットとの間の、予圧荷重によって実質的に気密にシールされた領域における過剰圧力の発生に抗して作用することができる。
【0048】
このために、リブを横断する中断部が設けられていてよく、かつ/または環状のフレームに出口開口が設けられていてよい。この場合、形成された反応ガスを場合により、中断部に沿って基板の面にわたり分散させ、かつ出口開口を介して逃がすことができる。特に有利なのは、中断部が連続的な配置形式を有している場合である。この場合、中断部は、隣接するリブにおいて互いに延長されて設けられており、このようにして、リブ間の間隔により中断された1つの連続する通路を形成している。中断部の連続的な配置に基づき、ガスを方向付けて逃がすことができる。
【0049】
既に述べたように、本発明による断熱マットの寸法およびその構造は、具体的な使用要件により定められている。複数の角形バッテリセルから成るバッテリシステム、例えばモジュールにおいて中間断熱材として使用するために、本発明による断熱マットは、最小限の総厚さを有していることが望ましい。
【0050】
好適には、厚さは、無荷重状態において3mmを上回らず、0.4~0.5mmのリブ高さ、1.0mm~3.0mmの範囲内のリブ幅、およびリブ幅の1.5~3倍の範囲内のリブ間の間隔、ならびに5~10mmのフレーム厚さであることが望ましい。有利には、断熱マットの総厚さは、バッテリモジュールの5kNの予圧荷重下で1.5mm以下、特に1mm以下である。
【0051】
これらの値は例示的なものであり、その時々の要求に応じて容易に変更され得ることは自明である。
【0052】
1つの別の有利な構成では、基板に追加的に、赤外線を反射する金属シート、例えばアルミニウムシートから成る中間層が設けられていてよい。省スペースの要件に関して、シートは可能な限り薄いこと、例えば約0.1mmであることが望ましい。
【0053】
本発明による断熱マットの製造には、繊維強化プラスチックから成る部品を製造するために知られているような一般的な製造方法を使用することができる。1つの例は、部品の所望の構造に相応して形成された型を使用した流し込み法またはプレス法である。つまり、例えば型にまず、リブ構造と、場合により環状のフレーム用の構造とを形成するための第1のエラストマー層を置き、次いで繊維中間層用の繊維材料を入れ、次いで型に、繊維含浸用ならびに別のリブ構造および場合によりフレーム構造の形成用の別のエラストマー材料を充填することができる。
【0054】
本発明により提供される断熱マットは、実際の使用に望ましいあらゆる要求を満たすことができる。すなわち:
・この断熱マットは、材料厚さが約1.5mmで高温側の温度が700℃の場合に、低温側の温度は100℃未満である断熱性能を示す。
・繊維・エラストマー複合体から成る基板は、少なくとも0.4mmだけ圧縮されることができ、これにより、セルの劣化および充電サイクルに基づくバッテリセルの膨張を補償することができる。
・圧縮ひずみが極僅かでしかなく、これにより、バッテリモジュールの全寿命にわたり、セル複合体における予圧荷重を維持しながら行程補償機能を保証することができる。
・所望の電気絶縁性能に関して、絶縁耐力を有利には少なくとも3kVに調整可能である。
・所要スペースを、バッテリシステム用に所望される低いパッケージ密度に関して少なく抑えることができる。
・この断熱マットは、簡単かつ廉価に製造することができる。
【0055】
以下に、本発明によるセル断熱マットを、角形バッテリセルに適した本発明による断熱マットの1つの実施形態を概略的に示す添付の図面に基づき、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】4つの角形バッテリセルの配置と、その間に配置された本発明による断熱マットとを示す図である。
【
図2】膨張した状態の角形バッテリセルを示す側面図である。
【
図3】本発明による断熱マットを上から見た図である。
【
図4】
図3に示した本発明による断熱マットを上から見た側面図である。
【
図5a】無荷重状態の、
図4に示した本発明による断熱マットのリブおよびフレームの縦断面図である。
【
図5b】
図5aに示した図を、圧縮荷重が加えられた状態で示す図である。
【
図6】本発明による断熱マットをフレーム無しで概略的に示す分解図である。
【
図7】ずらされて配置されたリブを備えた基板を、荷重が加えられた(ばね弾性的に撓んだ)状態で概略的に示す図である。
【
図8a】無荷重状態の、繊維・エラストマー複合体から成る本発明による基板の基本構造を上から見た図である。
【
図8b】
図8aに示した構造を、荷重が加えられた(ばね弾性的に撓んだ)状態で示す図である。
【
図9a】充填材が混合された、繊維・エラストマー複合体から成る基板の基本構造の1つの実施形態を、無荷重状態で概略的に示す図である。
【
図9b】
図9aに示した構造を、荷重が加えられた(ばね弾性的に撓んだ)状態で概略的に示す図である。
【
図10】ガス導出用の通路構造の1つの実施形態を備えた本発明による断熱マットを概略的に示す平面図である。
【
図11】本発明により製造されたサンプルにおける伝熱測定の結果を示すグラフである。
【
図12】リブ間隔に応じた、本発明により製造されたサンプルのばね特性線を示すグラフである。
【
図13】シリコーンエラストマーの硬度(ショアA)に応じた、本発明により製造されたサンプルのばね特性線を示すグラフである。
【
図14】リブ間隔に応じた、本発明により製造されたサンプルの変形挙動の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0057】
図1には、従来技術による4つの角形バッテリセル2を備えたバッテリユニットが示されており、この場合、2つの隣り合うセル2の間にはそれぞれ、本発明による断熱マット1が設けられている。
【0058】
バッテリセル2の内部構造は、固い直方体形または角柱形のセルハウジングによって気密に包囲されており、セルハウジングは、1つの狭幅の側面に2つの接続端子3,4と1つの安全弁5とを有している。
【0059】
安全弁5は、セル内部圧力が、温度上昇の結果形成された反応ガスによって臨界値を超えると開いて、ガスを逃がすことができ、セルの爆発が阻止されるようになっている。
【0060】
図2には、セルハウジングの主面6が膨張した角形バッテリセル2が示されている。この変形は、実質的に主面6の中央領域にのみ生じる。なぜなら、セルハウジングの角隅部を経て隣接するより小さな側面に到る縁部は機械的に安定的であり、通常の動作では変形しないからである。
【0061】
図3は、本発明による断熱マット1を上から見た図であり、本発明による断熱マットのリブ配置が明確にわかり、基板7と、複数のリブ8とが設けられており、リブ8は、互いに平行にかつ互いに間隔9をあけて基板7を横断して延びている。この場合、間隔9はリブ8よりも広幅である。リブユニットは、環状のフレーム10によって包囲されており、リブ8はフレーム10から分離されており、すなわちリブ8はフレーム10に接触していない。リブ8の端面も、外側に位置するリブの側面も、フレーム10には結合されていないため、リブ8の端面とフレーム10との間にはギャップ11が存在する。
【0062】
フレーム10は、ここでは平坦な露出した上面を有しており、この上面でもってフレーム10は、取付け状態においてバッテリセルの環状の縁部に接触している。また、フレーム10は、図示の構成ではリブ8よりも広幅であるので、フレーム10は、リブよりも高い変形抵抗を有している。取り付けられて荷重が加えられた状態では、フレーム10は予圧荷重を補償することができ、予圧荷重がリブに影響を及ぼすことはない。
【0063】
図4には、本発明による断熱マット1を斜め前から見た図が示されている。図中、基板7の上側の主面上のリブ8の配置、ならびに間に基板7が配置された上側のリブユニットと下側のリブユニットとを取り囲んで延びる環状のフレーム10が明確に認められる。基板7は、繊維材料から成る中間層12を有している。
【0064】
図5aおよび
図5bには、リブ8ならびに環状のフレーム10に沿った縦断面が、無荷重状態(
図5a)と、バッテリモジュールの組立て時の予圧荷重によってフレーム10に圧力が加えられたときの荷重が加えられた状態とで示されている。無荷重状態では、フレーム10の高さはリブ8の高さよりも高くなっている。リブ8の端面とフレーム10との間には、リブユニット全体を取り囲むように続くギャップ11が存在する。
【0065】
図5bは、組立て時にバッテリモジュールに加えられる予圧荷重によって圧縮荷重が加えられたときの状態を示している。予圧荷重により、フレーム10は高さが圧縮され、このときフレーム10の高さとリブ8の高さとは互いに一様になる。フレーム10に圧縮荷重が加えられた場合でもギャップ11は残留しているので、フレーム10に圧縮荷重が加えられた場合でも、環状のフレーム10からのリブ8の分離が生じている。
【0066】
所望の変形抵抗は、フレームの幅を介して設定することができ、この場合、変形抵抗は幅と共に増大する。さらに、変形抵抗は、材料、エラストマーの架橋度、圧縮率等の選択により適合させることができる。
【0067】
その結果、2つのバッテリセル2の間に本発明による断熱マット1が配置されて組み立てられたモジュールでは、フレーム10には予圧荷重によって荷重が加えられるが、リブ8は実質的に無荷重状態のままである。
【0068】
図6には、本発明による断熱マット1の一実施形態の分解図が示されており、構造を明示するために、環状のフレーム10は省かれている。
【0069】
基板7の主面上に複数のリブ8が配置されていることがわかり、この場合、各主面には複数のリブ8が互いに平行にかつ互いに間隔9をあけて配置されており、リブ8は主面を横断して延びている。
【0070】
この場合、主面のリブ8の間の間隔9は、リブ8の幅よりも大きく、好適には間隔9は、リブ8の幅の少なくとも1.5倍~2倍である。
【0071】
両主面のリブは、互いにずらされて配置されており、この場合、一方の主面のリブ8は、他方の主面の間隔9に沿って延びている。
【0072】
基板7は、鉱物繊維から成る中間層12を含むエラストマー材料から形成されている。
【0073】
別の実施形態に基づき繊維材料から成る1つまたは2つの別の中間層12が設けられている場合、繊維材料から成る2つの中間層の間には、バインダとして追加的なエラストマー材料が設けられていてよい。
【0074】
繊維材料から成る中間層12を備えた基板7の製造用およびリブ8用には、同じエラストマー材料を使用することができ、この場合、リブ8を、基板7の一体の構成部分として成形することができる。フレーム10も、同じエラストマー材料から形成することができ、一体の構成部分として基板7と共に成形することができる。
【0075】
図7に示すように、バッテリセルの主面(ここには図示せず)の膨張部が増大する過程で、リブ8に圧力が加えられ、リブ8は、その下に位置する基板7と共に、基板7の反対側に位置する主面にずらされて配置されたリブ8の間隔9内に押し込まれる。
【0076】
ばね弾性的に撓んだこの状態では、基板7は、上向きまたは下向きに各間隔9内に交互に突入する湾曲部を有するジグザグ延在部を形成している。例えば、バッテリセルの放電の過程で圧縮荷重が減少すると、これらの変形部は相応して、基板7の弾性に基づき元の状態に戻る。
【0077】
変形の程度は、実質的に間隔9の幅と基板7の変形性とにより決定され、基板7の変形性は、例えば
図8a、
図8bならびに
図9a、
図9bに明示されているように、特にエラストマーの硬度(弾性)と、繊維の配向とにより影響を及ぼされる。
【0078】
図8a、
図8bならびに
図9a、
図9bにはそれぞれ、内部構造が概略的に図示された、繊維中間層12を備えた基板7の平面図が、無荷重状態(
図8aおよび
図9a)およびばね弾性的に撓んだ状態(
図8bおよび
図9b)で示されている。
【0079】
繊維中間層12の繊維は、それぞれ±45°の配向を有しているため、異なる符号を有する繊維同士が90°の角度14aで交差している。繊維が埋め込まれているエラストマーマトリックス13は、グレーの面として示されている。さらに、この面を横断して延びるリブ8が示されている。リブ8に沿って左右に延在する縁部は、その下に位置する、基板7の下面に設けられずらされて配置されたリブ8の間の間隔9を示している。
【0080】
ここに示す無荷重状態では、異なる符号を有する繊維が90°の角度14aで交差している。
【0081】
図8bに示すように、断熱マット1に圧力が加えられ、リブ8のばね弾性的な撓みが生じると、基板7の繊維・マトリックス複合材は、幅を減少させつつ(図の上縁部および下縁部における矢印により示唆)長くなる(左向きまたは右向きの矢印により示唆)。その結果、繊維間の交差角度14bは、ここでは60°に減少する。
【0082】
図9aに無荷重状態で示し、かつ
図9bにばね弾性的に撓んだ状態で示すように、エラストマー材料に充填材粒子15が添加された基板のリブ8に圧力を加え、ばね弾性的に撓んだ場合の変形も同様に進行する。ここでも、繊維中間層12内の繊維の±45°の配向が、90°の交差角度14aと共に存在している。この例には、それぞれ異なる大きさの充填材粒子15が使用された。
【0083】
隣接するバッテリセル(図示せず)の膨張による加圧に基づき圧縮されると、基板7は長くなり(左右の矢印)、基板7の幅は減少する(上下の矢印)。同時に、符号が異なる繊維の交差角度14bは60°に減少する。
【0084】
図8aおよび
図8bとは異なり、ここでは変形の程度が追加的に充填材粒子15により制御される。なぜなら、圧縮によって粒子15同士の間の間隔が小さくなるからである。粒子15同士が接触して互いに引っ掛かる程度に間隔が小さくなると直ちに、さらなる変形は停止する。なぜなら、繊維は最早互いに移動することができないからである。
【0085】
図10は、平行に配置されたリブ8と、環状のフレーム10と、リブ8と環状のフレーム10との間のギャップ11とを備えた本発明による断熱マット1の平面図であり、この場合、リブ8は、実質的にリブ8を横断して延びる中断部16から成る構造を有している。
【0086】
これらの中断部16および出口開口17,18は、過熱時の特に充填材の相転移および分解によって生じ得る反応ガスの導出に用いられる。これにより生じる気相は、エラストマーの熱分解の結果として生じる気相と共に、フレーム10によってシールされた、セル壁と基板7との間の領域内に、極めて高いガス圧を生じさせることがある。この圧力を低下させるために、
図10の例に示すように、ガス抜き補助手段として、中断部16および出口開口17,18を断熱マット1に組み込むことが有利な場合がある。
【0087】
中断部16は、ここでは連続する複数のリブ8に、連続的な構造として形成されている。この場合、1つのリブ8の左側または右側に配置されたリブに設けられた中断部16は、これらの中断部16の間に位置するリブ8に設けられた中断部16の続きを形成している。その結果、ガス導出用の連続的な通路が得られる。
図10に具体的に示す例では、中断部16はそれぞれ対角線上で、基板の中央から出発して4つの角隅部の方向に延びており、全体図では広がったXの形状が生じている。さらに追加的に、反応ガスをセル壁と断熱マット1との間の中間空間領域から導出するための出口開口17,18が、環状のフレーム10の短辺に設けられている。
【0088】
本発明による断熱マットの断熱作用およびひずみ特性に関する調査を実施した。結果を
図11~
図14のグラフに示す。
【0089】
サンプルの製造用には、シリコーンエラストマーとして、室温で架橋する市販の、それぞれ異なるショアA硬度の二成分液状シリコーンを使用した。製品データおよびメーカは、表1に記載されている。
【0090】
【0091】
例示的なセル断熱マットにおける伝熱測定の結果を
図11に示す。この調査は、膨張過程をシミュレーションするために1.9barの圧力を加えたときの伝熱測定レベルで実施された。サンプルピースは、それぞれ163g/m
2の単位面積当たりの重量を有する2層のEガラスファイバ織布を含む、ショアA45の、ELANTAS社のシリコーンエラストマーSK85L7から製造された。サンプルピースの寸法は、典型的な角形セルの寸法に相応して、235mm×113.5mm×2.0mmであった。リブ高さは0.4mmであり、リブ幅は1.0mmであり、リブ間隔は2.0mmであった。
【0092】
測定のために、サンプルをまず5分間、均一な温度分布のために50℃に保ち、この時間の最中に圧力を調整した。次いで、200秒以内に700℃に加熱した(圧力の後調整無し)。表側および裏側における温度上昇を、パイロメータを用いて測定した。結果として、表側の温度が50℃から700℃に上昇した後でも、裏側の温度は100℃未満でしかないことが確認された。よって、裏側の温度は明らかに、実際に使用するために要求される範囲内にあった。
【0093】
図12および
図13には、本発明によるセル断熱マット用の複数の典型的な材料サンプルのばね特性線により、応力ひずみ曲線が示されている。
【0094】
サンプルピースの寸法は40mm×40mmであり、0.4mmのリブ高さ、2mmのリブ幅および2mmの試料の総厚さを有していた。繊維中間層の厚さは、0.8~0.9mmであった。
【0095】
この場合、
図12には、リブ間隔に応じた、その他の点では同じ条件下でのばね特性が示されており、
図13には、ガラスファイバ織布を含むシリコーンエラストマーの硬度に応じた、その他の点では同じ条件下でのばね特性の変化が示されている。
【0096】
図12に示す試験には、ショアA硬度が45であり、かつ単位面積当たりの重量が25g/m
2で+/-45°の配向を有する亜麻布の製織形式のEガラスファイバ織布から成る繊維中間層を含むシリコーンエラストマーADDV-42から成るサンプルピースを使用した。
【0097】
図13に示した試験に関して、材料サンプルのリブ間隔は一様に2mmであった。繊維中間層はそれぞれ、単位面積当たりの重量が80g/m
2で0°/90°の配向を有する亜麻布の製織形式のEガラスファイバ織布であった。どのサンプルも、ここでは40%のひずみまではほぼ均一な特性を示し、この場合、それぞれショアA硬度45または55を有するSK85 L7-45およびQSil 550から成るサンプルの曲線7および8が最も小さな増加量を有している。
【0098】
図14には、リブ間隔に応じた、異なる総厚さのサンプルの、予荷重下および全荷重下での変形特性が示されている。サンプルピースの寸法は、
図12および
図13に示した試験に関して上述したものと同様であるが、リブ間隔を変化させた。材料構造に関しては、単位面積当たりの重量が80g/m
2で+/-45°の配向を有する亜麻布の製織形式のEガラスファイバ織布から成る2つの繊維中間層を含む、表1に記載のシリコーンエラストマーSK85 L7-45が使用された。個々のサンプルの、圧縮荷重無しの初期厚さは、1.860mm~1.530mmまで様々である。これらのサンプルを、0.186N/mm
2の予荷重および1.115N/mm
2の最大面圧にさらし、変形の程度を測定した。この場合、予荷重強度は、一般に使用される5kNの予荷重強度に相当した。調べたいのは、角形バッテリセルを用いる用途に関して今日典型的に目標とされるような、予荷重下での1.4mmの目標厚さの前後における変形の変化である。
【0099】
この場合に最良の結果を示したのは、2mmのリブ間隔を有するサンプルと、1.5mmまたは2.5mmのリブ間隔を有するサンプルであり、これらのサンプルの予荷重厚さは、1.4mmの所望値を極僅かにしか上回っていなかった。
【0100】
本発明は、バッテリシステム内で隣り合うバッテリセル2、特に角形バッテリセルを離隔するための断熱マット1であって、繊維・エラストマー複合体製の弾性変形可能な基板7から成り、基板7の2つの主面に所定数のリブ8が設けられており、リブ8は、互いに平行にかつ互いに離間して基板7の主面を横断して延びており、2つの主面のリブユニットは、環状のフレーム10によって包囲されており、リブ8とフレーム10との間にはギャップ11が存在しており、基板7の繊維・エラストマー複合体は、鉱物繊維から成る少なくとも1つの中間層が埋設されたエラストマーマトリックスから形成されており、断熱マットは同時に、セル成分の化学的な劣化と、充電時および放電時のセルの周期的な膨張および収縮とに基づくバッテリセルのシステム固有の体積変化を補償することができる。
【符号の説明】
【0101】
1 断熱マット
2 バッテリセル
3,4 接続端子
5 熱的な安全弁
6 バッテリセルの膨張した主面
7 基板
8 リブ
9 (2つのリブの間の)間隔
10 環状のフレーム
11 (リブとフレームとの間の)ギャップ
12 繊維から成る中間層
13 エラストマーマトリックス
14a,b 交差角度
15 充填材粒子
16 中断部
17,18 フレーム10における出口開口
【国際調査報告】