(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】多孔質材料において酸化グラフェンの還元剥離の自己伝播プロセスを誘起するための方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/192 20170101AFI20240711BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C01B32/192
H05H1/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502127
(86)(22)【出願日】2022-05-03
(85)【翻訳文提出日】2024-01-12
(86)【国際出願番号】 CZ2022050047
(87)【国際公開番号】W WO2022233349
(87)【国際公開日】2022-11-10
(32)【優先日】2021-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CZ
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524017283
【氏名又は名称】マサリコヴァ ウニヴェルジッタ
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】チェルナーク ミルコ
(72)【発明者】
【氏名】クランポレック リチャード
(72)【発明者】
【氏名】ゼレナク フランチシェク
【テーマコード(参考)】
2G084
4G146
【Fターム(参考)】
2G084AA26
2G084CC19
2G084CC34
2G084DD14
2G084DD63
4G146AA01
4G146AD22
4G146BA02
4G146BB02
4G146BC16
4G146BC23
4G146CB13
4G146CB17
4G146DA03
4G146DA16
(57)【要約】
【課題】 多孔質材料において酸化グラフェンの還元剥離の自己伝播プロセスを誘起するための方法を提供すること。
【解決手段】 この方法は、酸化グラフェンを含有する多孔質材料において、酸化グラフェンの自己伝播還元剥離プロセスを誘起し、多孔質材料の総電気伝導率および比表面積を増大させることに関する。その主題は、初期電気プラズマが、還元剥離された多孔質材料の塊全体(2)の隣接部分において、および内側部分(4)の一部のみにおいて生成されることにある。これは、自己伝播還元剥離プロセスを誘起し、ここでは、初期電気プラズマを生成するために、次のグループのパラメータ、すなわち、作動ガスの温度が400℃未満、作動ガスの圧力が10kPaよりも高い、作動ガスの速度が0.1m×s
-1未満、多孔質材料の塊全体の温度が200℃未満、が満足される。
【選択図】
図10Aおよび
図10B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化グラフェンを含有する多孔質材料において酸化グラフェンの自己伝播還元剥離プロセスを誘起し、前記多孔質材料の総電気伝導率および比表面積を増大させる方法であって、初期電気プラズマが、還元剥離された多孔質材料の塊全体(2)の隣接部分において、および、内側部分(4)の一部のみにおいて生成され、前記初期電気プラズマを生成するために、以下のグループのパラメータ、すなわち、作動ガスの温度が400℃未満、前記作動ガスの圧力が10kPaよりも高い、前記作動ガスの速度が0.1m×s
-1未満、前記多孔質材料の前記塊全体の温度が200℃未満、が満足され、同時に、前記初期電気プラズマ(3)によって交差されていない前記多孔質材料の塊(1)におけるラプラシアン電場が、前記作動ガスの臨界電場よりも小さく、前記作動ガスが、5%未満の水素ガスを含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記初期電気プラズマは、電場強度が、前記作動ガスの臨界電場強度よりも高い、前記ラプラシアン電場の局所的存在による前記作動ガスにおける放電によって生成されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記作動ガスが、50%未満の希ガスを含むことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記初期電気プラズマが、誘電体バリア放電によって生成されることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記初期電気プラズマが、拡散表面誘電体バリア放電を使用して生成されることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記初期電気プラズマが、10J.cm
-2を超える入射レーザフルエンスでのレーザ照射によって生成されることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記プラズマ作動ガスが、前記還元剥離プロセス中に、酸化グラフェンを含有する多孔質材料をドーピングするための少なくとも1つのガス混合物を含むことを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化グラフェンを含有する多孔質材料における還元剥離の自己伝播プロセスの工業的大量生産に適用可能な高速方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、その顕著な電子および熱伝導率、大きな比表面積、高い化学的安定性、および機械的強度により、科学技術的に大きな注目を集めている。現在、グラフェンを調製するために様々な方法が使用されているが、酸化グラフェン(GO)は、費用対効果の高い化学的方法で、グラファイトから大規模に製造できるため、酸化グラフェン(GO)の還元は、グラフェンの大量生産のための大きな可能性を秘めている。
【0003】
本発明をよりよく理解するために、グラファイトは、層状結晶格子内に組織化された炭素原子から構成される六角形の非金属鉱物であると説明されるものとする。黒鉛から酸化グラフェン(GO)を製造することが可能である。GOは、炭素、酸素、および水素が、様々な比率で構成されている化合物であり、黒鉛を酸化剤および酸で処理することによって得られる。これは、黒鉛の層状構造に、炭素以外の原子、特に酸素原子が導入されていることを意味する。GOは、炭素の原子と、他の元素の原子との両方を含有するグラファイトの層状構造から除去された薄いシートであると理解される。層状構造が薄いシートに分解されることは、剥離と呼ばれる。構造から酸素原子を除去するプロセスは、還元と呼ばれる。
【0004】
酸化グラフェンは、炭素原子に結合された異なる酸素含有基を有する、様々なサイズの炭素のsp2混成原子で構成されるフレークからなる。GOフレークの基底面と、フレークの端とに存在する数種類の酸素含有官能基により、GOは、広範囲の有機材料および無機材料と相互作用することができるが、同時に、共役芳香族グラフェンの網を破壊し、電気絶縁性のGOフレークを生成する。
【0005】
多くの重要な用途のために必要なGOの伝導率は、酸素含有基を除去して、関連する表面積および電気伝導率が増加され、グラフェンの代替として利用できる、還元された多層酸化グラフェン(rGO)プレートレットを形成することによって、劇的に向上させることができる。黒鉛構造の部分的な修復は、熱によって(米国特許出願第2007/0092432号(特許文献1))、化学的に(米国特許出願第201703126951号(特許文献2))、マイクロ波によって(Han HuのCarbon 50(2012)3267~3273(非特許文献1))、レーザによって(米国特許第8,883,042号(特許文献3))、および水素プラズマ還元によって(米国特許第8,182,917号(特許文献4))達成することができる。還元された酸化グラフェン(rGO)は、たとえば、電気プラズマによってrGOを他の化学物質で処理すること(YIQING WangらのJ.Mater.Chem.A(2017)DOI:10.1039/c7ta08607e(非特許文献2))によって、または、rGOを他の材料と組み合わせて新しい化合物を作成することによって、異なる用途における使用のために官能化することができる。
【0006】
また、真空剥離、化学的剥離、および高温での剥離、すなわち熱的な剥離(米国特許出願第2007/0092432号(特許文献1))を含む、多くの「還元剥離」技法が報告されている。最も一般的に使用される熱的な「還元剥離」に関して、Me AllisterらのChem Mater,2007,19,4396~4404(非特許文献3)は、550℃の臨界温度を示唆している。しかしながら、技術的には、単層または数層のグラフェンシートを完全に剥離するために適用される処理温度は、通常は1000℃よりも高く、これは、エネルギを大量に消費し、制御が難しいため、このプロセスは、rGOの大量生産には適していない。さらに、高温加熱プロセスは、圧力が上昇するにつれてプレートレットの構造に損傷を与え、H2OガスおよびCO2ガスが放出され、こうして生成されるrGOの機械的強度および伝導率に悪影響を与える可能性がある。
【0007】
エネルギの節約と、よりよい製造プロセス制御とを目的として、多孔質GO材料を使用して還元剥離温度を下げることが、いくつかの研究で試みられている。S.Shivakumaraらの2015 ECS Electrochem.Lett.4.A87(非特許文献4)は、空気雰囲気下の200℃において、自由に充填されたGO粉末が、より微細な粒子に膨張する、GO粉末のゆっくりとした(10分間の)熱剥離を観察した。急速な低温剥離は、F.KimらのFunct.Mater.2010,20,2867(非特許文献5)で観察された。これは、IR温度計によって測定された400℃の局所剥離温度において、4cm/sの速度で還元剥離が自己伝播するため、60℃を超える初期材料温度および環境空気温度で発生した。剥離は、薄い10~20μmのGOストリップを、熱いはんだごて(約400℃)で単に叩くことによる、局所的な熱衝撃によって誘起された。そのような低温で適切に制御される熱剥離の状況では、GOの還元は非常に発熱的であり、エネルギ利得は、入熱の10倍に増加するが、GOは、加熱時の膨張挙動と、そのラジカル消去効果とにより、難燃性材料としても研究されていることに注目されたい(Nabipour H.らのMaterials Chemistry and Physics 256(2020)123656(非特許文献6))。
【0008】
上記で説明された低温熱剥離技法は、rGO粉末を製造するために、すでに成功裏に使用されている(Wei WeiらのInd.Eng.Chem.Res.2020,59,2946~2952(非特許文献7))。しかしながら、同じ論文に表されているように、ごく最近になって、慎重に制御された加熱速度で、非常に複雑で遅い(数10分以上の)熱剥離プロセスを使用して、薄い(約10μm)自立多孔質rGOフィルムが、300℃において調製された(Wei WeiらのInd.Eng.Chem.Res.2020,59,2946~2952(非特許文献7)を参照)。そのような安定したフィルムは、その後、折り畳み可能なスーパキャパシタの製造に使用されるハニカム構造を備えた厚さ約300μmのrGOスポンジに折り畳まれた。米国特許第8,871,821号(特許文献5)には、温度が室温から300℃までゆっくりと上昇され、その温度で10時間維持されたアルゴンガス中で、強化ポリマ化合物の分解なしに、安定なrGO多孔質材料を製造するために、熱的に剥離されたポリマ強化GOエアロゲルが説明されている。
【0009】
Plasma Treatment of Graphene Oxide,http://dx.doi.org/10.5772/intechopen.77396(非特許文献8)においてE.F.Neustroyevによって、およびS.H.B.V.Kumar、R Muydinov、およびSzyszkaらによるPlasma Assisted Reduction of Graphene Oxide Films,Nanomaterials 2021,11,382(非特許文献9)において広範囲に検討されているように、熱プロセスに対する代替を見つける試みにおいて、いくつかの研究グループは、電気プラズマによるGO処理時に、GOの低温還元と剥離とが同時に発生する可能性があることを観察した。そのような還元剥離プロセスは、還元性水素含有プラズマ(Eng,AYS:Sofer,Z;Simek,P;Kosina,J;Pumera,Mらによる2013:Highly Hydrogenated Graphene through Microwave Exfoliation of Graphite Oxide in Hydrogen Plasma:Towards Electrochemical Applications(非特許文献10)、Chemistry a European Journal 19(46),p.15583~15592,doi:10.1002/chem.201303164、Seung Whan Leeら(非特許文献11)、J.Phys.Chem.Lett.2012,3,772~777(非特許文献12))において、化学的に不活性なアルゴンプラズマ(M.CardinaliらによるChemical Physics Letters 508(2011)285~288(非特許文献13))において、窒素プラズマ(K.WangによるNano Energy 31(2017)486~494(非特許文献14))において観察され、多くの場合、窒素ドーピングと同時に発生するが、非常に驚くべきことに、通常は酸化性の空気プラズマにおいても生じる(V.Kedambaimoole ACS Appl.Mater.Interfaces 2020,12,15527~15537(非特許文献15))。
【0010】
電気プラズマは、イオン、電子、中性物質の反応性混合物である。これは、作動ガスに十分なエネルギを注入して、部分的または完全にイオン化することによって生成される。エネルギは、たとえば、いわゆる電子衝撃イオン化をもたらす高電場の形態で、熱により、またレーザ照射により、供給することができる。電子とイオンの密度はほぼ同一であり、プラズマ全体が電気的にほぼ中性になる。プラズマでは、各荷電粒子が近くの荷電粒子に影響を与え、集合的な効果を生み出すことができるように、荷電粒子の密度が十分に高く、電気的に中性のガスの塊が、電子およびイオンによって十分に満たされている必要がある。これが、プラズマが、電気力および/または磁力によって支配される理由である。
【0011】
様々なタイプの放電によって生成される「冷たい」非平衡電気プラズマの最も重要な特徴は、熱力学的平衡から遠く離れていることが多いことである。したがって、作動ガス温度が低い条件下でも、所望の化学処理を行うことができる。この点において、非平衡プラズマは、多孔質材料を含有するGOのプラズマ「還元剥離」を含む多くの材料処理にとって魅力的である。
【0012】
たとえばQuan ZhouらのJ.Mater.Chem.,2012,22,6061~6066(非特許文献16)、およびKeliang WangらのNano Energy 31(2017)486~494(非特許文献14)に明示されているこのプロセスは、一般に、高エネルギのプラズマ電子およびイオンによって、または、局所的な電場の強度が、ガスの絶縁耐力とも呼ばれる、いわゆる臨界電場値を超えている、制限されたプラズマ塊内で生成されたプラズマによる局所的な加熱によって、引き起こされる効果によるものと考えられる。より具体的には、GOの酸素含有基における極性化学結合が、高エネルギのプラズマ電子およびイオンによって歪められ、ナノ秒以内に大量のH2OおよびCO2を放出させると仮定されている。その結果、GO層間のガス圧力が、ファンデルワールス力で層をともに保持できなくなるレベルまで増加され、その結果、急速な膨張が発生して、還元された酸化グラフェンのシートを形成する。
【0013】
R.TrusovasらによるAdv.Optical Mater.2016,4,37~65(非特許文献17)によってレビューされているように、多くの研究グループは、空間的によく制御されたGOの還元剥離の可能性のため、GOのレーザ照射を研究してきた。GOの強力なレーザ照射により、小さなプラズマ塊、いわゆるプラズマプルーム(米国特許第8,883,042号(特許文献3))が形成されることが観察された。J.SerranoらのSpectrochimica Acta Part B 97(2014)105~112(非特許文献18)によれば、これは7.7J.cm-2を超える入射レーザフルエンスで発生する。同様に、上記で議論された大気圧プラズマの場合におけるように、そのような小さなレーザ生成プラズマ塊を使用したGO含有材料の処理によって、制限され空間的に制御された還元剥離されたrGO塊が得られ、これは、パターニングには役立つが、大面積のrGO製造のために必要とされるスケーラビリティが制限される。M.TrennらのProc.SPIE 11105,Novel Optical Systems,Methods, and Applications XXII,1110502(2019年9月9日);doi:10.1117/12.2529261(非特許文献19)は、GOのレーザ還元におけるプラズマプルームの役割がよく理解されておらず(D.A.SokolovらのCarbon 53(2013)81~89(非特許文献20))、通常は無視されている(R.D.RodriquezらのMater.Horiz.,2020,7,1030(非特許文献21))ことを指摘している。その結果、一般に受け入れられているレーザベースのアプローチは、主なGO還元経路として、光還元、光化学、または熱プロセスしか示唆していない。R.TrusovasらのAdv.Optical Mater.2016,4,37~65(非特許文献17)は、光子エネルギが3.2eV(387nm)を超えるとGO光還元が発生する一方、レーザ照射波長が390nm(エキシマレーザ-248nm)より短い場合、光化学効果が支配的になると記載している。しかしながら、レーザ波長が390nmより長い場合、GO還元は、主に光熱プロセスによって引き起こされる。
【0014】
GOのプラズマ処理は、処理済みの多孔質GO含有材料を、大量の均一な無フィラメントプラズマに浸漬することにより、静止または流動しているプラズマ作動ガスにおいて低圧(たとえば0.1気圧未満)で生成されたガス放電において容易に実行され得る(K.WangらのNano Energy 31(2017)486~494(非特許文献14))。低圧ガス放電プラズマプロセスは、よく理解されており、半導体産業において広く使用されているが、真空条件が必要であるという事実により、低圧プラズマ処理は、rGOの高スループットかつ低コストの製造には非現実的である。他の欠点の中でも特に、酸化グラフェンの低圧プラズマ処理は、材料の元の形状を、還元された酸化グラフェンの微細粒子へ破壊する。
【0015】
真空システムにおけるプラズマ処理に代わる大気圧プラズマ源の開発は、産業用プラズマ工学における現在のトレンドである。しかしながら、圧力範囲の拡大は、潜在的に処理コストを削減し、GO含有材料の大きな面積および体積の、迅速なプラズマ還元剥離を可能とするが、プラズマに曝される面積、プラズマの均一性、およびプラズマの体積が、圧力の増加に伴って、連続的に減少するという事実によって妨げられてきた。約0.1気圧を超える圧力では、プラズマは、通常収縮して、導電性の高い高温の細い火花状のフィラメントになる。
【0016】
小さなプラズマ塊を使用して、GO含有材料を処理すると、制限され空間的に制御された還元剥離された塊の、伝導率および内部表面積が増加し、これは、たとえば、GO紙やGOコーティングされた織物上に、導電性rGOをパターン化するのに役立つ(Zheng BoらによるJ.Phys.Chem.C 2014,118,13493~13502(非特許文献22)、V.KedambaimooleらによるACS Appl.Mater.Interfaces 2020,12,15527~15537(非特許文献15))。一方、局所的なプラズマ処理面積および体積は、特に、大気圧下で生成されるプラズマによって還元された酸化グラフェンを含有する自立多孔質材料の、大きな面積および体積の、需要の高い大気圧プラズマによって支援された高スループット製造にとって、著しい制限および技術的問題を構成する。これらは、導電性および難燃性繊維や、軽量電磁波吸収材料や、バッテリおよびスーパキャパシタ用の電極材料や、太陽エネルギ収集用材料や、触媒担体や、放射性核種、ヒ素、抗生物質、ビリルビンなどの吸着除去用材料である。
【0017】
そのような大面積のGO含有材料を、一般的な市販の大気圧プラズマ源を使用して処理するためには、通常、1分を超える非実用的に長い合計プラズマ照射時間で、還元される領域の、プラズマジェットスキャンによる処理が必要である(F.AlotaibiによるCarbon 127(2018)113el21(非特許文献23))。一般的なプラズマジェットでは、プラズマ作動ガスは、1m/sを超える速度で流れ、電場が臨界電場強度よりも高い、制限された空間体積内で同時にイオン化され、そこに、イオン化されたプラズマ作動ガスの流れを生成する(A.DeyらのPhys.Chem.Chem.Phys.,2020,22,7685(非特許文献24)と、Ying ZhaoらのAIP Advances 10,015216(2020)(非特許文献25))。イオン化されたプラズマ作動ガスは、Chii-Rong YangらのNanomaterials 2018.8,802(非特許文献26)によって仮定されているように、プラズマ作動ガスを、たとえば800℃を超えるプラズマ作動ガス温度においてイオン化するように加熱することによっても生成できる。その後、イオン化されたプラズマ作動ガスは、プラズマノズルを、1m/sを超える速度で流れ、ノズルのすぐ後ろに電気プラズマ塊を生成し、処理材料に向かうプラズマ流は、プラズマノズルから、1cmを超える距離において、低電場領域に局在化される。
【0018】
分単位の長い処理時間は、当該技術分野でよく知られている、いわゆる体積誘電体バリア放電(DBD)の体積フィラメント状プラズマに浸漬された、酸化グラフェンを含有する多孔質材料の大気圧プラズマ還元にも特徴的である(Quan ZhouらのJ.Mater.Chem.,2012,22,6061~6066(非特許文献16)、Yiqing WangらのJ.Mater.Chem.A 2017 DOI:10.1039/c7ta08607e(非特許文献2))。体積DBDによって処理された多孔質材料の内部の電場強度は、電子衝撃によるガスのイオン化に必要な臨界電場強度よりも高いため、プラズマフィラメントが、高電場で多孔質材料の塊に入り、内部に局所的な熱的および機械的損傷を引き起こす。結果として、この技法は、エネルギ貯蔵、触媒作用、環境修復などの多くの用途で需要が高い、エアロゲル、フォーム、スポンジ、膜、および様々な複合材料などの自立型および多孔質のrGOベースの材料の製造には不便である。Y.WangらのJournal of Materials Science:Materials in Electronics(2019)30:8944~8954(非特許文献27)によって観察されたように、プラズマフィラメントによってそのような材料に引き起こされる損傷は、DBDを0.2気圧の減圧で操作することによって排除できる。
【0019】
プラズマフィラメントが、処理されたGO多孔質構造を損傷することによる、GOの体積DBDプラズマ還元の上記の欠点のいくつかに対する解決策として、発明者のうち2人の参加を得たチームは、独自の大気圧プラズマ源を使用して、拡散大気圧プラズマの広い領域を生成することができる、いわゆる拡散共面バリア放電(当業者によって認識される略語はDCSBD)が、還元性水素プラズマ中における4秒の処理時間で、メソ多孔性の薄いインクジェット印刷された可撓性GO層を還元することに成功した(T.HomolaらのChemSusChem 2018,11,941~947(非特許文献28))。欧州特許第1387901号(特許文献6)に表されているこのプラズマ源は、以前のプラズマ発生器よりもはるかに大きな表面積にわたって、薄い(0.3mm)均一なプラズマ塊を提供する。
【0020】
それにも関らず、T.Homolaらによって発見されたように、この方法は、約300nmより厚いメソ多孔性材料のプラズマ還元には適用できない。大面積プラズマ処理には適用可能であるが、厚さが300nmを超えるメソ多孔性材料の処理や、典型的な細孔サイズが0.001mmのオーダを超え、0.3mmよりも薄い材料の処理には、適していない(M.SimorらのAppl.Phys.Lett.81,2716(2002)(非特許文献29))。さらに、水素プラズマガスの使用は、大規模な産業用途には実用的でも、安全でも、経済的でもない。
【0021】
本発明の目的は、当該技術分野の上述した状態の欠点を克服し、迅速で、工業的および大量生産に適用可能で、経済的コストの観点から持続可能であり、さらに、プラズマ生成のために不燃性で毒性のない作動ガスを適用する観点から、安全であると考えられる、酸化グラフェンを含有する多孔質材料において、還元剥離プロセスを実行する方法を創出することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許出願第2007/0092432号
【特許文献2】米国特許出願第201703126951号
【特許文献3】米国特許第8,883,042号
【特許文献4】米国特許第8,182,917号
【特許文献5】米国特許第8,871,821号
【特許文献6】欧州特許第1387901号
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Han Hu著、Carbon 50(2012)3267~3273
【非特許文献2】YIQING Wangら著、J.Mater.Chem.A(2017)DOI:10.1039/c7ta08607e
【非特許文献3】Me Allisterら著、Chem Mater,2007,19,4396-4404
【非特許文献4】S.Shivakumaraら著、2015 ECS Electrochem.Lett.4.A87
【非特許文献5】F.Kimら著、Funct.Mater.2010,20,2867
【非特許文献6】Nabipour H.ら著、Materials Chemistry and Physics 256(2020)123656
【非特許文献7】Wei Weiら著、Ind.Eng.Chem.Res.2020,59,2946~2952
【非特許文献8】E.F.Neustroyev著、Plasma Treatment of Graphene Oxide,http://dx.doi.org/10.5772/intechopen.77396
【非特許文献9】S.H.B.V.Kumar、R Muydinov、およびSzyszkaら著、Plasma Assisted Reduction of Graphene Oxide Films,Nanomaterials 2021,11,382
【非特許文献10】Eng,AYS:Sofer,Z;Simek,P;Kosina,J;Pumera,Mら著、2013:Highly Hydrogenated Graphene through Microwave Exfoliation of Graphite Oxide in Hydrogen Plasma:Towards Electrochemical Applications
【非特許文献11】Seung Whan Leeら著、Chemistry a European Journal 19(46),p.15583~15592,doi:10.1002/chem.201303164
【非特許文献12】J.Phys.Chem.Lett.2012,3,772~777
【非特許文献13】M.Cardinaliら著、Chemical Physics Letters 508(2011)(285~288)
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【非特許文献21】R.D.Rodriquezら著、Mater.Horiz.,2020,7,1030
【非特許文献22】Zheng Boら著、J.Phys.Chem.C 2014,118,13493~13502
【非特許文献23】F.Alotaibi著、Carbon 127(2018)113el21
【非特許文献24】A.Deyら著、Phys.Chem.Chem.Phys.,2020,22,7685
【非特許文献25】Ying Zhaoら著、AIP Advances 10,015216(2020)
【非特許文献26】Chii-Rong Yangら著、Nanomaterials 2018.8,802
【非特許文献27】Y.Wangら著、Journal of Materials Science:Materials in Electronics(2019)30:8944~8954
【非特許文献28】T.Homolaら著、ChemSusChem 2018,11,941~947
【非特許文献29】M.Simorら著、Appl.Phys.Lett.81,2716(2002)
【非特許文献30】S.Celestinら著、Eur.Phys.J.Appl.Phys.47,22810(2009)
【非特許文献31】Davide MariottiおよびR Mohan Sankaran著、2010 J.Phys.D:Appl.Phys.43 323001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の上記で説明された目的は、本発明にしたがって、酸化グラフェンを含有する多孔質材料において、酸化グラフェンの自己伝播還元剥離プロセスを誘起する方法を創出することによって解決される。
【0025】
この方法は、酸化グラフェンを含有する多孔質材料において、酸化グラフェンの自己伝播還元剥離プロセスを誘起して、多孔質材料の電気伝導率および比表面積を増大させることに関する。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の主題は、初期電気プラズマが、還元剥離された多孔質材料の塊全体の隣接部分において、および内側部分の一部のみにおいて生成されることにある。これは、自己伝播還元剥離プロセスを誘起し、ここでは、初期電気プラズマを生成するために、次のグループのパラメータ、すなわち、作動ガスの温度が400℃未満、作動ガスの圧力が10kPaよりも高い、作動ガスの速度が0.1m×s-1未満、多孔質材料の塊全体の温度が200℃未満、が満足される。
【0027】
調製されたサンプルの塊全体に適用される、発明の背景技術において説明された酸化グラフェンの熱およびプラズマ還元剥離技法の欠点は、調製されたサンプルの塊内のラプラシアン電場の強度が、臨界電場強度よりも低い、10kPaを超えるガス圧力および200℃未満の材料の温度で生じる、これまでに説明されていない、秒のオーダの高速な自己剥離還元剥離プロセスを使用して克服できる。
【0028】
本発明の主な利点は、初期電気プラズマが、塊全体の一部においてのみ生成されることにあり、それによって、本発明は、これまで知られていない還元剥離プロセスの、誘起された自己伝播を活用する。本発明は、酸化グラフェンを含有する多孔質材料を改変するために、工業的な大量適用のために、塊全体の残りにおける電子雪崩の拡大を用いて、これまでに知られていない還元剥離プロセスの局所的な誘起を適用する。
【0029】
これまでに知られていない還元剥離プロセスは、当該技術分野においてすでに知られている放電プラズマ還元剥離によって誘起される。たとえば、Quan ZhouらのJ.Mater.Chem.,2012,6061~6066(非特許文献16)、およびKeliang WangらのNano Energy 31(2017)486~494(非特許文献14)に表されているように、当該技術分野で知られている放電プラズマ還元剥離は、制限された放電プラズマ塊内に存在する高エネルギの放電プラズマ電子によるGOの衝突によるものであり、ここでは、いわゆるラプラシアン電場の局所値は、高エネルギのプラズマ電子を生成する電子衝突電離に必要な、使用されるプラズマガスに特有の、いわゆる臨界電場強度よりも高くなる。
【0030】
当該技術分野でよく知られているように、S.CelestinらのEur.Phys.J.Appl.Phys.47,22810(2009)(非特許文献30)によれば、ラプラシアン電場の局所値は、プラズマを生成するために使用される放電電極システムの形状と、放電プラズマなしで電極に印加される電圧とによって決定される。米国特許第8,883,042号(特許文献3)において表されているレーザによるGO含有材料の強力な照射によって生成されるプラズマと、電子、イオン、および中性プラズマ種が、0.1m/sを超える速度のイオン化された作動プラズマガスの速い流れによって、臨界電場強度未満の電場値で多孔質GO材料に輸送される、この分野でよく知られているプラズマジェットとを除いて、高エネルギ電子を含有する電気プラズマが、臨界電場強度を下回るラプラシアン電場の局所値で、GO含有多孔質材料のすぐ近くおよび内部で生成される本発明の特定の分野において、知られている先行技術はない。これが、これまで知られていない還元剥離プロセスを採用する本発明の利点である。
【0031】
典型的な放電では、プラズマを生成する一次イオン化プロセスは、電子が、電場からの平均自由行程内で十分なエネルギを獲得してイオン化を引き起こすことができる場合の作動ガス分子の電子衝撃イオン化による。たとえば、窒素分子および酸素分子のイオン化エネルギは、15.5eVおよび12.2eVであり、大気圧における対応する平均電子自由行程は、それぞれ6.28μmおよび6.79μmである。したがって、通常のガス圧力および温度条件では、臨界電場約10~100kV/cmに対応する1cmのガスギャップで、プラズマ生成放電を引き起こすには、約104~105Vの電圧が必要とされる。破壊電場とも呼ばれる臨界電場は、プラズマ作動ガスに特有であり、大気中では3.0×104V/cmであることが知られている。
【0032】
本発明者らは、小さな(半径約1mmの)プラズマプルームの形態をとる開始プラズマ塊が、10J.cm-2を超える入射レーザフルエンスでのエキシマレーザまたはCO2レーザの照射によっても生成できることを発見した。
【0033】
したがって、局所的な初期プラズマによってプロセスを誘起した後、還元剥離プロセスが、多孔質材料の隣接する塊内で自発的に、すなわち、明らかな外部原因や刺激なしに伝播し、この伝播は、当該技術分野で知られているプラズマおよび熱による還元剥離プロセスとは異なるメカニズムの下で発生するという事実を活用することが有利である。
【0034】
本発明の目的は、酸化グラフェンを含有する多孔質材料の高速かつ低温の還元剥離の方法を提供することであり、これによって、これらの材料の伝導率および気孔率が増加する。
【0035】
以下の条件、すなわち、作動ガスが50%未満の希ガスを含むこと、作動ガスが5%未満の水素ガスを含むこと、のうちの少なくとも1つが当てはまる本発明を実施することが有利である。
【0036】
初期電気プラズマが誘電体バリア放電、特に拡散表面誘電体バリア放電によって生成される場合、有利である。
【0037】
遅くて技術的に要求の高い化学的還元剥離の方法で、すなわち、エネルギ的に高い要求で動作する最先端の技法の観点で、そして、懸念される爆発のリスクの観点で、酸化グラフェンの有用な特性を劣化させる、酸化グラフェンを含有する多孔質材料の熱還元の危険な方法と、それに要求される動作パラメータとが、大量産業での適用を不可能にするが、これらは、初期プラズマ放電の局所作用によって、これまで知られていなかった自己伝播還元剥離プロセスを誘起する本発明によって、完全に克服される。初期電気プラズマ放電の生成のための技術的パラメータは、それほど要求が厳しくないため、本発明は、合理的な運転コストおよび高い安全基準を維持しながら、大量工業生産に導入することができる。このプロセスは、秒のオーダで自己伝播するため、還元剥離プロセスを実行するという知られている方法よりも優れている。
【発明の効果】
【0038】
本発明は、図面においてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1A】
図1Aは、ラプラシアン電場値が約3.0×10
4V/cmを超える臨界電場強度を超える塊において、実験室空気中の共面表面誘電体バリア放電によって生成された、約4.5cm×1.5cmの面積および0.3mmの厚さで生成された、電気プラズマ塊の写真である。
【
図1B】
図1Bは、時間t=0におけるプラズマ還元剥離の開始直前に、酸化グラフェンサンプルの一部と接触する
図1の初期電気プラズマ塊の写真である。初期プラズマ塊は、写真を撮影するために必要な強い外部光のため、
図1Bではよく識別できない。
【
図1C】
図1Cは、時間t=0におけるプラズマ還元剥離の開始直前に、酸化グラフェンサンプルの一部と接触する
図1の初期電気プラズマ塊の模式図である。
【
図1D】
図1Dは、t=50ミリ秒において撮影され、ラプラシアン電場値が臨界電場強度を超える、多孔質材料の塊において発生するプラズマ還元剥離プロセスを例示する写真である。
【
図1E】
図1Eは、異なる時間に撮影され、ラプラシアン電場値が臨界電場強度未満である多孔質材料の塊において発生する還元剥離プロセスを図示する写真である。
【
図1F】
図1Fは、異なる時間に撮影され、ラプラシアン電場値が臨界電場強度未満である多孔質材料の塊において発生する還元剥離プロセスを図示する写真である。
【
図1G】
図1Gは、異なる時間に撮影され、ラプラシアン電場値が臨界電場強度未満である多孔質材料の塊において発生する還元剥離プロセスを図示する写真である。
【
図2】
図2は、
図1B~
図1Dによって例示されるプラズマ誘起還元剥離プロセス中の時間におけるサンプル温度の時間的変化を図示する図である。
【
図3A】
図3Aは、走査型電子顕微鏡からの酸化グラフェンの元のエアロゲルサンプルの画像である。
【
図3B】
図3Bは、図示される還元酸化グラフェンを生成する、本発明によって誘起される還元剥離プロセス後の酸化グラフェンの元のサンプルの走査型電子顕微鏡からの画像である。
【
図4】
図4は、
図1B~
図1Dによって例示されるプラズマ誘起還元剥離プロセスによって調製された還元酸化グラフェンのサンプルの3D自立構造の写真である。
【
図5A】
図5Aは、市販のDCSCD電極システムの表面に位置する酸化グラフェンの、いわゆるエアロゲル「ケーキ」を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、大気圧における窒素ガス雰囲気中でのGOエアロゲルケーキのプラズマ誘起還元剥離によって、本発明にしたがって製造された還元酸化グラフェンの、いわゆるエアロゲル「ケーキ」を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明にしたがって部分的に還元剥離された薄い多孔質酸化グラフェン層によってコーティングされたPP(ポリプロピレン)不織布織物のサンプルを示す図である。
【
図7】
図7は、体積DBDプラズマ誘起酸化グラフェンの還元剥離を使用して、本発明にしたがって製造されたサンプルまたは還元酸化グラフェンの図である。
【
図8】
図8は、酸化グラフェンサンプルおよびプラズマの初期の塊の平面図の切断概略図である。
【
図9】
図9は、酸化グラフェンサンプルおよびプラズマの初期の塊の平面図の切断概略図である。
【
図10A】
図10Aは、デバイス内に配置されたサンプルの側面からの概略図である。
【
図10B】
図10Bは、デバイス内に配置されたサンプルの側面からの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に説明および例示される本発明の特定の実施形態は、本発明の、提供される実施例への限定としてではなく、例示の目的のために提示されると理解されるものとする。当業者は、日常的な実験を使用して、本明細書で説明される本発明の特定の実施形態に対して、より多数の、またはより少数の等価物を発見または提供することができるであろう。
【0041】
「酸化グラフェン(GO)含有」という用語を使用することは、本発明にしたがって処理された多孔質材料中にGOが存在することを意味し、他の化合物、材料、および粒子の存在を排除するものではない。一般に、本発明にしたがって処理される多孔質材料は、ポリマ、スポンジ、および他の自立構造で強化できる粉末層、連続気泡フォーム、GO紙またはエアロゲルの構造や、不織布繊維構造、または織布繊維構造を有することができる。
【0042】
「多孔質」という用語は、細孔または他の通路を介して流体が通過できるように、透過性のあるGO含有材料を称する。
【0043】
処理された材料におけるGOの含有量に対して、特に下限はない。たとえば、処理される材料が、GOの薄い層でコーティングされた比較的厚いポリマ繊維からなる繊維構造である場合、相対的なGO含有量を、非常に低くできる。
【0044】
低い外光照射下で撮影された
図1Aは、(放電開始電圧より50%高い7.9kVの電圧におけるM.SimorらのAppl.Phys.Lett.81,2716(2002)(非特許文献29))に表されているように、DCSBD電極システム上の実験室空気体積において生成された、良好に識別可能な明るい初期プラズマ塊3を図示している。0.3mmの厚さおよび1.5cm×4.5cmの面積の初期プラズマ塊3が、実験室空気体積において生成され、ここでは、ラプラシアン電場の値は、臨界電場の値よりも高かった。
【0045】
図1Bは、初期プラズマ塊3の開始の瞬間にDCSBD電極システムの表面上に部分的に位置する塊全体2を有する厚さ約1mmの自立GOエアロゲルのサンプルを図示している。しかしながら、初期プラズマ塊2は、写真を撮影するために必要な強い外光のため、
図1Bでは認識可能ではない。
【0046】
塊1、塊2、および塊4は、
図1Cに概略的に例示されている。これは、還元剥離される多孔質GO含有材料の塊全体2の一部分4の内部にも初期電気プラズマ塊3を生成する多くの可能な実験的な構成および技法の一例であることに留意されたい。
図1Cに例示されるように、薄い初期プラズマ塊3の部分は、サンプルの塊の一部分4と交差しており、すなわち、塊2内に0.3mm未満で接触し、垂直に貫通していた。局所電場値が、3.0×10
4V/cmの臨界値よりも高かったこの小さな一部分4では、当該技術分野で知られているプラズマ還元剥離プロセスが生じた。
【0047】
電極システム表面から0.3mm未満の垂直距離での初期電気プラズマの初期塊3の形成により、塊の制限された一部分4で発生するプラズマ還元剥離プロセスは、サンプルの全厚内で、垂直方向に伝播するこれまで知られていない還元剥離プロセスを迅速に誘起した。これらのプロセスはいずれも、初期プラズマ放電開始後、50ミリ秒において撮影された、
図1Dにおいて良好に明らかな、還元されたGOの黒い領域の形成をもたらした。
図1E~
図1Gは、初期電気プラズマの初期塊3の外側で、約10cm/sの速度で水平に自発的に伝播する、これまで知られていない高速の還元剥離プロセスを例示している。
【0048】
図1Gは、サンプルの全塊2の還元剥離が完了した後の状況を図示している。暗褐色(GO)から黒(還元GO)へのサンプルの色の変化から、サンプル塊全体2の大部分1が、初期電気プラズマの初期塊3によってではないが、一部分4における初期還元剥離プロセスによって誘起された、これまで知られていないプロセスによって、還元剥離されたことがわかる。このプロセスは、初期電気プラズマの開始塊3の境界から、数ミリメートルの長手方向の距離でも生じ、ここでは、電極形状および印加電圧形状から決定されるラプラシアン電場強度の値は、電子衝撃イオン化による初期プラズマ形成に必要な臨界電場(すなわち、絶縁耐力)よりもはるかに小さかったことが留意されるべきである。
【0049】
図2は、プラズマ開始の時間がマークされた接触熱電対を使用して測定されたサンプルの温度の時間的変化と、ビデオカメラ記録によって決定された還元剥離プロセスの開始および完了の時間とを図示している。これまで知られていなかった還元剥離プロセス中、サンプル温度は200℃未満であり、塊の一部分4におけるプラズマ還元剥離によって誘起された後、数秒以内にプロセスが完了し、サンプルの伝導率および気孔率は、それぞれ10
8倍および3倍増加したことが明らかである。本発明による還元剥離プロセスによるサンプルの気孔率および微細形態の変化が、
図3A~
図3Bに図示される。
【0050】
図4から明らかなように、非常に驚くべきことに、プラズマおよび還元剥離プロセスの知られているしばしば望ましくない機械的効果とは対照的に、非常に脆弱なGOエアロゲルサンプルの3D自立構造は、本発明による還元剥離プロセスによって破壊されなかった。これは、
図2から明らかなプロセスの低温により、明らかに、本発明による方法の別の顕著な利点である。
【0051】
本発明のさらに別の予期されない態様は、本発明による方法の結果は、驚くべきことに、プラズマ作動ガスの化学組成、および10kPaを超える作動ガス圧力にも依存しないことである。ドーパントガスをプラズマ作動ガスに添加して、生成された還元されたGO含有多孔質材料のドーピングを提供することができる。
【0052】
一方、本発明による結果は、たとえば、GO含有量や、捕捉された層間水の含有量や、しばしばGO水分散液のpH値を調整するために使用されるアンモニウム水酸化物の含有量、および、修正フンメル法を使用して調製される場合にGOに結合されるスルホン基のように、処理されたGO含有多孔質材料の化学組成に非常に敏感であることが留意されるべきである。
【0053】
初期電気プラズマの初期塊3を生成するために使用される様々な電気ガス放電タイプがあり得るが、例示的かつ非限定的な手法は、当該技術分野でよく知られている、異なる電極幾何学形状を有する、いわゆる誘電体バリア放電を使用して、大気圧に近いガス圧力において、非平衡プラズマを生成することである。
【0054】
本明細書において使用される「塊全体2の内部に部分的に初期電気プラズマの初期塊3を生成する」という表現は、初期電気プラズマの初期塊3が塊全体2の外側に生成され、その後、たとえば、処理されたGO材料の塊全体2に対する初期電気プラズマの初期塊3の相対移動によって、塊全体2の一部分4と接触されるシーケンスをも称する。
【0055】
本明細書で使用される「プラズマガス温度」という用語は、プラズマ内の電気的に中性のガス分子の回転温度を称し、異なるタイプの電気プラズマにおけるガス温度測定値として広く使用されており、気体分子の並進温度と平衡状態にあると仮定されている。
【0056】
「初期電気プラズマ」という用語は、次の条件、すなわち、生成されたプラズマの割合が、現在の電気プラズマ理論からよく知られている、いわゆるデバイ長よりも実質的に大きいことが当てはまる古典的な電気プラズマを称する。たとえば(Davide MariottiおよびR Mohan Sankaranによる2010 J.Phys.D:Appl.Phys.43 323001(非特許文献31))から推測されるように、本発明の条件下では、デバイ長は、およそ10-4~10-5mのオーダである。
【実施例1】
【0057】
本発明による方法を用いて、
図1B~
図1Cに図示されたものと同一の酸化グラフェンサンプルを還元剥離した。還元剥離プロセスは、強力なプルームをサンプルに照射することによって生成された初期電気プラズマによって誘起された。
【0058】
サンプルは、以下のように、すなわち、サイズ<20μm、濃度2.5%=25mg/mLの酸化グラフェンフレークの水分散液(Advanced Grapene products、ポーランド)が、水中で1:10に希釈されて調製された。超音波均質化(60分)後、大気圧未満の圧力および室温において、エアブラシ法により、水分散液が、ポリイミド基板上にコーティングされた。その後、厚紙と同様の厚いGOシートを、室温において、真空中(100Pa)で12時間乾燥させて、高多孔質GOシートサンプルを調製した。
【0059】
サンプルは、室温22℃において、
図1Bに図示されるのと同様に、DCSBD電極システム上に配置されたが、電極に印加された電圧は3.1kV、すなわち、DCSBDを点火し、放電プラズマを生成するために必要な放電開始電圧のわずか50%であったので、
図1Aに見られるような薄い放電プラズマ層は生成されなかった。その後、DCSBD電極システムに直接局在されたサンプルの一部分が、入射レーザフルエンス15J.cm
-2において、QスイッチNd:YAGレーザ(20Hz、1064nm、パルス幅8ナノ秒)によって照射された結果、そこに初期電気プラズマの初期塊3が形成された。
図1Bを参照されたい。フェーザパルスが、サンプル表面に垂直に向けられ、直径約0.5mmのスポットに集束された。
【0060】
レーザ誘起された初期電気プラズマの領域は、
図1D~
図1Gに図示されるプロセスと非常によく似た還元剥離プロセスを誘起した。
【0061】
プロセスの完了から1時間後、プラズマ還元剥離されたGO材料は、シート抵抗R□=136.1±0.6Ω.□-1を示した。比較すると、プラズマ改質前のGOシートの測定されたシート抵抗は、>107Ω.□-1であった。シート抵抗は、OSSILA抵抗測定システム(T2001A3-EU)を利用して、四点プローブ法により測定および解析された。元のGOサンプルと、N2吸着/脱着等温線から決定され本発明にしたがって調製されたrGOサンプルとの表面積は、それぞれ150m2/gおよび650m2/g(改質後)であった。
【実施例2】
【0062】
図5Aに図示される直径5.5cm、厚さ1.5cmの暗褐色のGOエアロゲルケーキが、温和な条件下で、GOの水溶液から、60℃において真空オーブンで24時間乾燥させることによって製造された。GOケーキは、Roplass社(ブルノ、チェコ共和国)によって供給される市販の初期DCSBDプラズマ源の電極システム表面上に、大気圧において、窒素ガス雰囲気中に、室温において配置された。初期プラズマ源は、8.6kVの交流電圧によって励起され、90Wの総プラズマ電力の放電を生成した。本発明による高速プラズマ誘起還元剥離プロセスは、
図5Bに図示される還元剥離されたGO材料の黒色によって示されるように、窒素プラズマ点火後2秒後に、初期DCSBDプラズマによって誘起され、次の2秒で完了した。材料のX線光電子分光法XPS分析によって決定されるように、この方法によって製造された窒素ドープ還元されたGOは、10という高い炭素/酸素比および3原子%の窒素含有量を有する。周囲温度において四点プローブメータによって測定されたNドープされたエアロゲルの伝導率は、2.4×10
-2Sm
-1の値であった。本発明による方法によって製造された多孔質の還元剥離されたGOは、厚さ50μmの薄いシートにプレスされ、その後、周囲温度において、500S.m
-1の伝導率値で、四点プローブメータによって分析された。
【実施例3】
【0063】
15gsmのポリプロピレンスパンボンド不織布織物の2.50cm×4.5cmのサンプルを、実験室空気のDCSBDプラズマへ0.5秒間曝すことによって親水化された。サイズ<20μm、濃度2.5%=25mg/mLの酸化グラフェンフレークの水分散液が、水中において1:10の比率で希釈された。超音波均質化(60分)後、繊維サンプルの一部にエアブラシによって拡散され、室温で乾燥された。このようにして、薄い多孔質GO層によってコーティングされた(ポリプロピレン)PP織物の塊2が調製された。その後、サンプルが、実施例2において説明されたものと同じDCSBD電極システム上に配置された。初期プラズマ源が、10.5kVの交流電圧によって印加され、相対湿度30%の実験室において、400Wの総プラズマ出力の薄い21cm×8.5cm×0.03cmの実験室空気プラズマ塊を生成した。
図6に図示されるように、この薄い初期プラズマ層は、本発明による還元剥離のプロセスを誘起し、その結果、厚さ0.3mmの初期DCSBDプラズマ塊の外側に、還元されたGOによってコーティングされたPP織物の黒色の導電性の塊が形成された。これは、初期電気プラズマが、合計厚さ1mmのうち0.3mmにしか広がっていなかったことを意味する。
【実施例4】
【0064】
本発明による方法は、
図1Aに図示され、実施例1において説明されたものと同一の酸化グラフェンサンプルを還元剥離するために使用された。還元剥離プロセスは、体積誘電体バリア放電(DBD)によって生成された初期実験室空気プラズマによって誘起された。
【0065】
図7に図示されるように、体積DBDの下部電極は、アルミニウム板から作られた。上部の光学的に透明な電極は、導電性塩水で満たされた直径8cmのガラス製ペトリ皿から作られた。アルミニウム電極とペトリ皿底部との間の放電ギャップは1mmであった。
【0066】
図7に例示されるように、実施例1において説明されたものと同一のGOサンプルの塊が、電極間のギャップに部分的に挿入され、その位置にテープによって固定された。その後、
図7に見られる薄いプラズマフィラメントの輝点によってマークされた初期電気プラズマの初期塊3が、12kV/10kHzのAC電圧の印加によって電極間に生成された。ラプラシアン電場の値が、臨界電場30kV/cmよりも高い場合、初期電気プラズマの初期塊3によって交差されたサンプル塊全体2の一部分4において発生するプラズマ還元剥離プロセスが、電場のラプラシアン値が臨界値よりもはるかに小さい、サンプルの交差していない塊1においても、本発明による縮小剥離プロセスを誘起した。そのような還元剥離プロセスにより、
図6から明らかなように、サンプルが黒色化し、還元剥離されたGOサンプルのシート抵抗は、R
□=150±1Ω.□
-1に減少し、これは、本発明による還元剥離プロセス前のGOサンプルの抵抗>10
7Ω.□
-1よりもはるかに小さい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明にしたがって生成された多孔質材料の伝導率および比表面積を増加させるために、酸化グラフェンを含有する多孔質材料における酸化グラフェンの自己伝播還元剥離の方法は、たとえば、電子部品の開発および製造において、化学工業において、繊維工業などおいて適用可能である。
【国際調査報告】