(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】改良されたシード層を有するトンネル磁気抵抗(TMR)デバイス
(51)【国際特許分類】
H10B 61/00 20230101AFI20240711BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20240711BHJP
H10N 50/80 20230101ALI20240711BHJP
【FI】
H10B61/00
H10N50/10 Z
H10N50/80 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502156
(86)(22)【出願日】2022-05-08
(85)【翻訳文提出日】2024-01-15
(86)【国際出願番号】 US2022028238
(87)【国際公開番号】W WO2023038680
(87)【国際公開日】2023-03-16
(32)【優先日】2021-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504056130
【氏名又は名称】ウェスタン デジタル テクノロジーズ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 進
(72)【発明者】
【氏名】カイザー、クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ヨーク、ブライアン アール.
【テーマコード(参考)】
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA15
4M119AA17
4M119BB01
4M119CC05
4M119DD07
4M119DD24
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4M119JJ03
4M119JJ09
5F092AA05
5F092AB08
5F092AC12
5F092AC26
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5F092BB24
5F092BB36
5F092BB44
5F092BC04
5F092BD13
5F092EA06
(57)【要約】
2つの強磁性層におけるホウ素の必要性を排除する下部又は第1の強磁性層のための改良されたシード層を有するトンネル磁気抵抗(TMR)デバイスに関する。シード層、例えばRuAl合金は、非晶質プレシード層上に堆積されるとき、(001)テクスチャを有するB2結晶構造を有し、これは、(001)平面がTMRデバイス基板の表面に平行であることを意味する。続いて堆積されるCoFe合金のような第1の強磁性層、及び典型的にはMgOであるトンネルバリア層は、シード層の(001)テクスチャを継承する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル磁気抵抗(TMR)デバイスであって、
基板と、
前記基板上に結晶構造及び(001)テクスチャを有するシード層と、
前記シード層上にBCC結晶構造及び(001)テクスチャを有するホウ素を含まない第1の強磁性層であって、前記第1の強磁性層はCoFe合金、ホイスラ合金及びハーフホイスラ合金から選択される、ホウ素を含まない第1の強磁性層と、
前記第1の強磁性層上に、岩塩結晶構造又はスピネル構造及び(001)テクスチャを有するトンネルバリア層と、
前記トンネルバリア層上の第2の強磁性層と、
を備える、トンネル磁気抵抗(TMR)デバイス。
【請求項2】
前記シード層は、RuAl合金及びCrMo合金から選択される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記トンネルバリア層は、MgO、ZnO、MnO、CoO、TiO、VO、MgAl
2O
4及びMgGa
2O
4から選択される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記基板と前記シード層との間に非晶質プレシード層を更に備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記プレシード層は、NiFeTa合金、CoFeTa合金、CoFeB合金、CoFeBTa合金及びTaから選択された材料を含む層又は多層である、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
前記第1の強磁性層は、Co及びCoFe合金から選択されるナノ層を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記シード層と前記第1の強磁性層との間に、BCC結晶構造を有する非強磁性副層を更に備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記副層は本質的にCrから成る、請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
前記第2の強磁性層は、ホウ素を含まない強磁性層である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記TMRデバイスは、ピン止め型TMRデバイス及び二重自由層(DFL)TMRデバイスから選択される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記TMRデバイスは磁気記録読取りヘッドである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
請求項11に記載の磁気記録読取りヘッドを備える、磁気記録デバイス。
【請求項13】
請求項1に記載のTMRデバイスを備える、磁気ランダムアクセスメモリデバイス。
【請求項14】
請求項1に記載のTMRデバイスを備える、センサデバイス。
【請求項15】
トンネル磁気抵抗(TMR)デバイスであって、
基板と、
前記基板上の非晶質プレシード層と、
RuAl合金及びCrMo合金から選択され、前記プレシード層上に結晶構造及び(001)テクスチャを有するシード層と、
前記シード層上のBCC結晶構造及び(001)テクスチャを有するCo及びFeから成る第1の強磁性層を備える、ホウ素を含まない合金と、
前記第1の強磁性層上のMgOから本質的に成るトンネルバリア層と、
前記トンネルバリア層上の第2の強磁性層と、
を備える、トンネル磁気抵抗(TMR)デバイス。
【請求項16】
前記プレシード層は、NiFeTa合金、CoFeTa合金、CoFeB合金、CoFeBTa合金及びTaから選択された材料を含む層又は多層である、請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
前記シード層は本質的にRu
xAl
(100-x)から成り、xは原子パーセントであり、45以上60以下である、請求項15に記載のデバイス。
【請求項18】
前記第1の強磁性層は、前記トンネルバリア層に隣接するCo及びCoFe合金から選択されるナノ層を含み、前記第2の強磁性層は、前記トンネルバリア層に隣接するCo及びCoFe合金から選択されるナノ層を含む、請求項15に記載のデバイス。
【請求項19】
前記シード層と前記第1の強磁性層との間に、本質的にCrから成る副層を更に含む、請求項15に記載のデバイス。
【請求項20】
前記第2の強磁性層は、ホウ素を含まない強磁性層である、請求項15に記載のデバイス。
【請求項21】
前記TMRデバイスは、ピン止め型TMR磁気記録読取りヘッド及び二重自由層(DFL)磁気記録読取りヘッドから選択される、請求項15に記載のデバイス。
【請求項22】
請求項21に記載の磁気記録読取りヘッドを備える、磁気記録デバイス。
【請求項23】
前記TMRデバイスは、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)デバイスにおける使用に適合された磁気トンネル接合(MTJ)メモリセルである、請求項15に記載のデバイス。
【請求項24】
請求項23に記載のMTJメモリセルを備える、磁気ランダムアクセスメモリデバイス。
【請求項25】
請求項1に記載のTMRデバイスを備える、センサデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年9月10日に出願された「TUNNELING MAGNETORESISTIVE(TMR)DEVICE WITH IMPROVED SEED LAYER」と題する米国非仮出願第17/472,019号の利益を主張し、その内容の全体はあらゆる目的のために参照により本出願に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、一般にトンネル磁気抵抗(TMR)デバイスに関し、より詳細には、トンネルバリア層の形成及びTMRデバイスの性能を改善するシード層を有するTMRデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
(関連技術の説明)
磁気トンネル接合(MTJ)デバイスとも呼ばれるトンネル磁気抵抗(TMR)デバイスは、薄い絶縁トンネルバリア層によって分離された2つの強磁性層から構成される。バリア層は、典型的には、電荷キャリアの量子力学的トンネルが2つの強磁性層の間で生じるほど十分に薄い金属酸化物から作られる。トンネルバリア材料としては、ZnO、MnO、CoO、TiO、VO等の種々の金属酸化物が提案されているが、最も一般的な材料は結晶性酸化マグネシウム(MgO)である。量子力学的トンネルプロセスは電子スピン依存であり、これは、接合を横切ってセンス電流を印加するときに測定される電気抵抗が、強磁性層及びバリア層のスピン依存電子特性に依存し、2つの強磁性層の磁化の相対的な向きの関数であることを意味する。
【0004】
ピン止め型と呼ばれるTMR又はMTJデバイスの1つの型では、基準層と呼ばれる強磁性層の一方の磁化が固定又はピン止めされ、自由層と呼ばれる他方の強磁性層の磁化が外部磁界に応答して自由に回転する。ピン止め型TMRデバイスは、記録された磁気媒体からの磁界の存在下で自由強磁性層の磁化が基準強磁性層の磁化に対して回転する磁気記録読取りヘッドにおいて使用可能である。ピン止め型TMRデバイスはまた、メモリ記憶ビット又はセルとしてMTJを使用する磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)(例えば、スピントランスファトルクMRAM(STT-MRAM)及びスピン軌道トルクMRAM(SOT-MRAM))デバイスにおいて使用可能であり、MTJにおける基準層に対する自由層の磁化は、電流によって直接変化する。また、TMRデバイスは、様々な用途(例えば、産業用、自動車用、医療用)で使用可能な磁気センサデバイスの一部として使用することもできる。
【0005】
二重自由層(DFL)型と呼ばれる別の型のTMRデバイスでは、2つの自由強磁性層があり、両方の強磁性層の磁化は、外部磁界に応答して「シザリング」効果で互いに対して自由に回転する。磁気記録デバイス用のDFL読取りヘッドは、米国特許第7,035,062 B2号及び同第8,670,217 B1号に記載されている。
【発明の概要】
【0006】
CoFe/MgO/CoFeトンネル接合のようなMgOトンネルバリア層を有するTMRデバイスは、特定の対称性を有する電子のコヒーレントなトンネル効果により、非常に大きなトンネル磁気抵抗(TMR)を示す。しかしながら、強磁性層及びMgOバリア層は、高いTMRを達成するために完全な結晶性を有することが要求される。強磁性層及びMgOバリア層は、典型的には、スパッタ堆積及びその後のアニールによって形成され、それによって結晶構造が形成される。要求される低抵抗面積積(RA)を示すCoFe/MgO/CoFeトンネル接合は、おそらくMgOバリア層の結晶性が劣っているために、高いTMRを示さない。しかしながら、多層構造において薄い非晶質CoFeB又はCoFeBTa層を使用するなど、1つ以上の強磁性層においてホウ素(B)が使用される場合、アニール後により高いTMRが観察されることが分かっている。非晶質CoFeB層は、(001)テクスチャ(基板の表面に平行な表面平面)を有するMgOのより良好な成長を促進し、したがってより高いTMRを促進する。
【0007】
更に高いTMRを有する進歩したTMRデバイスは、抵抗-面積積(RA)の低減を必要とし、これは、MgOバリア層をより薄くする必要があることを意味する。しかしながら、MgOの厚さが減少するにつれて、降伏電圧及びTMRも減少し、これは、部分的に、MgOバリア層へのホウ素の拡散に起因すると考えられる。必要とされるのは、薄いMgOバリア層を有し、したがってRAが低減されているが、高いTMRを有するTMRデバイスである。
【0008】
本発明の実施形態は、強磁性層におけるホウ素の必要性を排除する下部又は第1の強磁性層のための改良されたシード層を有するTMRデバイスに関する。シード層、例えばRuAl合金は、(001)テクスチャを有するB2結晶構造(CsCl結晶構造とも呼ばれる)を有し、これは(001)平面がTMRデバイス基板の表面に平行であることを意味する。続いて堆積されるCoFe合金のような第1の強磁性層、及び典型的にはMgOであるトンネルバリア層も、シード層の(001)テクスチャを継承する。第2の強磁性層の堆積及びアニールの後、拡散されたホウ素が存在せず、ホウ素を含まない強磁性層の粒径がより大きいため、強磁性層及びトンネルバリア層の結晶化が改良され、これにより粒界における欠陥が低減される。得られたTMRデバイスは、従来技術のホウ素含有TMRデバイスよりもRAが減少し、TMRが増加している。
【0009】
本発明の性質及び利点をより完全に理解するために、添付の図面とともに以下の詳細な説明を参照すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】2つの型の従来のトンネル磁気抵抗(TMR)デバイスの構造を示す断面図である。
【
図2】スピントランスファトルク磁化反転磁気ランダムアクセスメモリ(STT-MRAM)デバイスにおけるメモリセルとしての磁気トンネル接合(MTJ)の斜視図である。
【
図3】従来技術のピン止め型TMR読取りヘッドの詳細構造を示す断面図である。
【
図4】両方の強磁性(FM)層にホウ素が存在する典型的なFM1層/MgO/FM2層構造を示す概略図である。
【
図5】改良されたシード層並びにホウ素を含まないFM1層及びFM2層を有する本発明の一実施形態によるFM1層/MgO/FM2層構造の概略断面図である。
【
図6A】B2構造シード層上の(001)テクスチャを有するFM1及びトンネルバリア層の成長を示す概略側面図である。
【
図6B】RuAl(シード)層、CoFe(FM1)層及びMgO(トンネルバリア)層の(001)平面の概略上面図であり、CoFe層上に45度の角度で成長した(001)平面を有するMgO層のNaCl構造を示す。
【
図7】従来技術の二重自由層(DFL)デバイス及び本発明の一実施形態によるDFLデバイスについて、測定されたTMR対抵抗面積積(RA)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、2つの型のTMR読取りヘッド10の断面図を示す。TMR読取りヘッドは、底部強磁性(FM1)層18、絶縁トンネルバリア層20、及び上部強磁性(FM2)層32を含む。TMR読取りヘッドは、底部及び上部非磁性電極又はリード12、14をそれぞれ有し、底部非磁性電極12は適切な基板上に形成される。シード層(図示せず)を底部リードとFM1との間に配置することができ、キャップ層(図示せず)をFM2と上部リードとの間に配置することができる)。DFL読取りヘッドでは、FM1及びFM2の両方が「自由」強磁性層であるが、その理由は、それらの磁化が、記録された磁気媒体からの外部磁界の存在下で、シザリング効果によって互いに対して自由に回転するからである。
【0012】
ピン止め型TMRデバイスでは、FM1又はFM2のいずれか一方の磁化が固定又はピン止めされ、他方の強磁性層の磁化が外部磁界の存在下で自由に回転する。ピン止めされた強磁性層は、その磁化が回転しないようにされているので、基準層と呼ばれる。基準層の磁化は、高保磁力膜から形成されることによって、又は反強磁性(AF)「ピン止め」層に交換結合されることによって、固定又はピン止めすることができる。ピン止め型TMRデバイスは、
図2に示すように、STT-MRAMデバイスのメモリセルとして使用することができる。STT-MRAMデバイスには単一のMTJが示されている。自由強磁性層の磁化の向きは、スピン偏極電流を使用して、基準層の固定磁化に対して平行又は逆平行のいずれかの向きを有するように修正され、それによって、MTJセル内のビットとして1(平行)又は0(逆平行)を表す2つの抵抗レベルを生成することができる。MTJは、STT効果の代わりにSOT効果によって書き込みがどのように達成されるかという点でSTT-MRAMとは主に異なるSOT-MRAMデバイスにおいても同様に使用することができる。上述したように、読取りヘッド及び磁気メモリ用途に加えて、TMRデバイスは、センサデバイスの一部とすることもできる。
【0013】
また、ピン止め型TMRデバイスは、
図3に詳細に示すように、ハードディスクドライブのような磁気記録デバイスの読取りヘッドとして使用することもできる。
図3は、磁気記録ハードディスクドライブで使用されるような従来技術のピン止め型TMR読取りヘッドの構造を示す非常に概略的な断面図である。この断面図は、TMR読取りヘッドの気体軸受面(GBS)と一般に呼ばれるものの図である。TMR読取りヘッドは、典型的には電気めっきされたNiFe合金膜から成る2つの強磁性シールド層S1、S2の間に形成された層のセンサスタックを含む。センサスタックは、横方向に(ページから離れる方向に)配向されたピン止め磁化121を有する強磁性基準層120と、記録ディスクからの横方向外部磁界に応答して層110の平面内で回転することができる磁化111を有する強磁性自由層110と、強磁性基準層120と強磁性自由層110との間の、典型的には酸化マグネシウム(MgO)である電気絶縁トンネルバリア層130とを含む。
【0014】
基準層120は、典型的には反強磁性層に交換結合されることによって、その磁化方向121がピン止め又は固定された従来の「単純な」又は単一のピン止め層とすることができる。しかしながら、
図3の例では、基準層120は、米国特許第5,465,185号明細書に記載されているように、「積層」ピン止め層とも呼ばれる周知の逆平行(AP)ピン止め又は磁束閉構造の一部である。APピン止め構造は、基準層120と自由層110との静磁気結合を最小限に抑える。APピン止め構造は、Ru、Ir、Rh、もしくはCr、又はそれらの合金などのAP結合(APC)層123を横切って反強磁性的に結合された基準強磁性(AP2)層120と下部ピン止め強磁性(AP1)層122とを含む。APC層123を横切る逆平行結合により、基準(AP2)強磁性層120及びピン止め(AP1)強磁性層122は、互いに逆平行に配向されたそれぞれの磁化121、127を有する。その結果、AP2及びAP1強磁性層120、122の正味の磁化は非常に小さいので、強磁性自由層110内の磁束閉構造によって誘導される減磁界は実質的に最小化され、したがって、TMR読取りヘッドが最適に動作することが可能になる。
【0015】
基板と、下部シールド層S1と、APピン止め構造との間には、シード層125及び反強磁性(AF)ピン止め層124が配置されている。シード層125は、AFピン止め層124が強い結晶テクスチャを有する微細構造を成長させ、したがって強い反強磁性を発現することを容易にする。したがって、AFピン止め層124は、強磁性ピン止め層122に強く交換結合し、それによって、強磁性ピン止め層122の磁化127を、GBSに対して垂直でGBSから離れる方向に堅くピン止めする。次いで、APC層123を横切る逆平行結合は、その後、強磁性基準層120の磁化121を、ABSに対して垂直でABSに向かう方向に、かつ磁化127に対して逆平行に強固にピン止めする。その結果、強磁性AP2層120及びAP1層122の正味の磁化は強固にピン止めされ、したがって、TMR読取りヘッドの最適動作が保証される。
【0016】
強磁性自由層110と上部シールド層S2との間には、キャッピング層又はキャップ層と呼ばれることもある層112が配置される。層112は、強磁性自由層110が良好な強磁性特性を維持するように、強磁性自由層110を処理中の化学的及び機械的損傷から保護する。
【0017】
関心のある範囲内の外部磁界、すなわち、記録ディスク上に書き込まれたデータからの磁界が存在する場合、強磁性層120、122の正味の磁化は堅くピン止めされたままであるが、強磁性自由層110の磁化111は、磁界に応答して回転する。したがって、センス電流ISが上部シールド層S2から垂直にセンサスタックを通って下部シールド層S1に流れるとき、強磁性自由層111の磁化回転は、強磁性基準層120の磁化と強磁性自由層110の磁化との間の角度の変化をもたらし、これは電気抵抗の変化として検出可能である。センス電流は、2つのシールドS1とS2との間の層のスタックを通って垂直に向けられるので、TMR読取りヘッドは、面垂直電流(CPP)読取りヘッドである。
【0018】
図3はまた、それぞれシールドS1、S2とセンサスタックとの間の任意の別個の電気リード126、113を示す。リードは任意であり、シールド間の間隔を調整するために使用されてもよい。リード126及び113が存在しない場合、底部シールドS1及び上部シールドS2は電気リードとして使用される。
図3に示すTMR読取りヘッドは、APピン止め構造が自由層110の下にあるので、「底部ピン止め」読取りヘッドであるが、自由層110は、APピン止め構造の下に配置することができる。このような構成では、APピン止め構造の層が逆になり、AP2層120がバリア層130の上にあり、バリア層130と接触している。
【0019】
MgOトンネル接合は、(001)テクスチャ及び完全な結晶性を有することが必要とされる。MgOバリア層は、典型的には、スパッタ堆積によって非晶質層上に(001)テクスチャを有するNaCl(岩塩)結晶構造として堆積され、その後のアニールは、歪みを除去することによって結晶構造を改善する。一方又は両方の強磁性層に薄い非晶質CoFeB又はCoFeBTa層を使用すると、より高いTMR又はTMR比(ΔR/R)が得られることが分かっている。堆積されたままの非晶質CoFeB層は、(001)テクスチャMgOと、アニール後の(001)テクスチャへのCoFeB結晶化を伴うより高いTMRとを促進することが知られている。
【0020】
図4は、両方の強磁性層にホウ素が存在する典型的なFM1層/MgO/FM2層構造の概略断面図である。FM1及びFM2は両方とも、DFLデバイス内の自由層であり得るか、又はFM1及びFM2のうちの1つは、ピン止め型デバイス内の基準層であり得る。基準強磁性層及び自由強磁性層の各々は、MgOバリア層に隣接する薄い(例えば、約1~4Åの厚さの)CoFe「ナノ層」、CoFe層、並びにナノ層とCoFe層との間のCoFeB(場合によってはCoHf、CoFeBTa、又は他の非晶質挿入層)層として示されている。CoFeB層は、(Co
xFe
(100-x))
(100-y)B
yの典型的な組成を有し、下付き文字は原子パーセントを表し、xは約40~100であり、yは約10~20である。FM1及びFM2強磁性層の各々の総厚は、典型的には約20~80Åである。Co又はFeナノ層、NiFe合金、及びホイスラ合金など、他の材料が強磁性層に使用されることがよく知られている。
【0021】
しかしながら、
図4の従来技術のTMRデバイスでは、アニール中にホウ素がMgOバリア層に拡散し、これが降伏電圧及びTMRを低下させることが発見された。また、高度なTMRデバイスでは、抵抗面積積(RA)を低減するためにMgOをより薄くする必要がある。より薄いMgOバリア層は、ホウ素拡散の影響を更に受けやすい。また、CoFeB上に堆積されたMgOのより小さい粒子は、アニール後にMgO粒界により多くの欠陥が存在し得ることを意味する。
【0022】
図5は、ホウ素を含まない強磁性層及び改良されたシード層を有する本発明の一実施形態によるFM1層/MgO/FM2層構造の概略断面図である。FM1層及びFM2層の各々は、単層又は多層であってもよい。FM1は、MgO界面に隣接する任意選択のCo(又はCoFe)ナノ層とともに示されている。導電性非晶質プレシード層は、適切な基板上に形成されたリード層上に直接堆積される。プレシード層は、NiFeTa合金、CoFeTa合金、CoFeB合金、CoFeBTa合金及びTaから選択された材料を含む層又は多層であってもよく、総厚は約5~50Åの範囲である。好ましくはRuAl合金(又は代替的にCrMo合金)である導電性シード層は、プレシード層上に直接堆積され、RuAlの場合にはB2結晶構造(CsCl構造とも呼ばれる)として、又はCrMo(Moは約30~50原子パーセント)の場合にはBCC相として、(001)テクスチャを伴って形成され、すなわち、(001)平面はプレシード層及び基板の表面に平行である。RuAlシード層は、約5~50Åの範囲の厚さ及びRu
xAl
(100-x)の好ましい組成を有し、ここでxは原子パーセントであり、45以上60以下である。ホウ素を含まないFM1層は、好ましくはCoFe合金であり、シード層上に堆積され、<001>方向であり、(001)テクスチャを継承する。FM1層の堆積前に、Crのような任意のBCC副層(
図5には図示せず)をシード層上に堆積させることができ、この場合、FM1層は副層上に直接堆積される。(本明細書で使用される場合、「層の上」という句は、上部層と下部層との間に1つ以上の中間層が存在し得ることを意味し、「層の直接上」という句は、上部層が下部層の直接上にあり、下部層と接触していることを意味する)。ホウ素を含まないFM1層は、20~80Åの範囲の典型的な厚さを有し、
図5に示すように、多層であってもよい。CoFe合金はFM1にとって好ましい材料であるが、シード層の(001)テクスチャを継承することができるBCC構造を有する他の適切な材料は、CoFeNiベースの合金、Co
2MnSi、Co
2MnAl、Co
2MnGe、Co
2FeSi及びCo
2FeAlのようなホイスラ合金、並びにNiMnSbのようなハーフホイスラ合金を含む。次に、MgOバリア層を、CoFe層上に直接堆積させるか、あるいは任意選択のCoナノ層(2~20Å)上に直接堆積させて、約4~20Åの範囲の厚さにする。MgOバリア層は、FM1層上に001テクスチャでエピタキシャル成長する。MgOが好ましいが、トンネルバリア層として機能し、FM1層の(001)テクスチャを継承することができる他の材料には、ZnO、MnO、CoO、TiO及びVO、並びにMgAl
2O
4及びMgGa
2O
4などのスピネル材料が含まれる。
図6Aは、RuAlシード層上の(001)テクスチャを有するFM1及びトンネルバリア層の<001>成長方向を示す側面図の概略図である。
図6Bは、RuAl(シード)層、CoFe(FM1)層及びMgO(トンネルバリア)層の(001)平面の概略上面図であり、MgO層のNaCl構造の(001)平面がCoFe層上で45度の角度にあることを示す。
【0023】
次に、MgOバリア層上にFM2層を堆積させる。FM2層もホウ素を含まない層であることが好ましく、CoFe合金であることが好ましいが、軟磁気特性や低磁歪化のためにBを含んでいてもよい。FM2層は、MgO界面における層がBCC構造を有するという条件で、BCC構造であってもよいし、非晶質層又はFCC層を含む多層であってもよい。スタック内の層の堆積後、スタックは、好ましくは約180~280°Cで2~5時間アニールされる。これは、歪みを低減することによって、FM1層及びFM2層並びにバリア層の結晶性を改善する。従来技術とは異なり、バリア層へのホウ素拡散はない。また、典型的にはMgOであるバリア層の結晶構造中の欠陥は粒界にあるが、本発明の様々な実施形態におけるバリア層中の粒は、従来技術のCoFeB層上に形成されたバリア層の粒よりも大きいので、アニール後のバリア層中の欠陥はより少ない。Ru/Ta/Ru多層のような非磁性キャップ層がFM2上に形成されてもよい。
【0024】
図7は、従来技術のDFLウェハ(
図4のような)及び本発明の一実施形態によるDFLウェハ(
図5のような)について測定されたTMR対RAのグラフである。TMR比は、ΔR/R=(R
AP-R
P)/R
Pによって与えられ、ここで、R
P及びR
APは、強磁性層磁化の平行及び逆平行構成について測定された抵抗を表す。データが下側の曲線によって示される従来技術のDFLウェハは、CoHf(20Å)/CoFeB(50Å)/Co(4Å)多層のFM1、及びCoFe(4Å)/CoFeB(50Å)/CoHf(20Å)多層のFM2を有していた。データが上側の曲線によって示される本発明の実施形態は、RuAlシード層と、CoFe(50Å)/Co(5Å)多層のFM1と、CoFe(50Å)層のFM2とを有した。RA範囲が約0.34~0.38(オーム-ミクロン
2)の場合、本発明の実施形態は、約50~85%の範囲を有する従来技術と比較して、約80~100%のより高いTMRを有する。同様に、約50~85%のTMR範囲について、本発明の実施形態は、約0.34~0.38(オーム-ミクロン
2)の範囲を有する先行技術と比較して、約0.28~0.34(オームミクロン
2)のより低いRAを有する。
【0025】
本発明は、好ましい実施形態を参照して具体的に示され、説明されてきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態及び詳細における様々な変更が行われ得ることが当業者によって理解されるであろう。したがって、開示された本発明は、単に例示的なものとして考慮されるべきであり、添付の特許請求の範囲に規定されるような範囲のみに限定されるべきである。
【国際調査報告】