(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】ヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(HA-G-PNIPAM)の調製方法
(51)【国際特許分類】
C08G 81/02 20060101AFI20240711BHJP
C08B 37/08 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C08G81/02
C08B37/08 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502431
(86)(22)【出願日】2021-07-14
(85)【翻訳文提出日】2024-03-13
(86)【国際出願番号】 TH2021000040
(87)【国際公開番号】W WO2023287366
(87)【国際公開日】2023-01-19
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524018431
【氏名又は名称】ナブソルート カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】ルッカナガル、ジッティマ エイミー
(72)【発明者】
【氏名】ブラナスジャ、ヴィサル
【テーマコード(参考)】
4C090
4J031
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090AA05
4C090BA67
4C090BB02
4C090BB33
4C090BB35
4C090BB36
4C090BB55
4C090BB69
4C090BB98
4C090CA35
4C090DA11
4C090DA22
4J031AA02
4J031AA22
4J031AB01
4J031AB06
4J031AC09
4J031AD01
4J031AE05
4J031AF03
(57)【要約】
【要約】
【解決手段】 本発明は、ヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(HA-g-pNIPAM)の調製方法であって、
a)水混和性溶媒中で、ヒアルロン酸化合物、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、およびカルボジイミド架橋剤を含む混合物を調製する工程と、
b)pHを7.2~7.8の範囲に調整し、20~40℃で1~3日間撹拌して前記混合物を反応させる工程と、
c)工程b)の前記混合物を乾燥させる工程と、を含み、
ヒアルロン酸、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、およびカルボジイミド架橋剤のモル比は、0.1:0.0025:1~0.2:0.0125:1の範囲である、方法に関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(HA-g-pNIPAM)の調製方法であって、
a)水混和性溶媒中で、ヒアルロン酸化合物、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、およびカルボジイミド架橋剤を含む混合物を調製する工程と、
b)pHを7.2~7.8の範囲に調整し、20~40℃で1~3日間撹拌して前記混合物を反応させる工程と、
c)工程b)の前記混合物を乾燥させる工程と、を含み、
ヒアルロン酸、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、およびカルボジイミド架橋剤のモル比は、0.1:0.0025:1~0.2:0.0125:1の範囲である、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記カルボジイミド架橋剤が、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、またはそれらの混合物から選択される、方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法において、前記カルボジイミド架橋剤が、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)とN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)とを1:0.5~1:1.5のモル比で混合したものである、方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、ヒアルロン酸化合物の重量平均分子量が30,000~60,000ダルトンの範囲である、方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法において、前記ヒアルロン酸化合物が、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、またはそれらの混合物から選択される、方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法において、前記ヒアルロン酸塩が、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、またはそれらの混合物から選択される、方法。
【請求項7】
請求項6記載の方法において、前記ヒアルロン酸塩がヒアルロン酸ナトリウムである、方法。
【請求項8】
請求項1記載の方法において、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)の重量平均分子量が4,000~6,000ダルトンの範囲である、方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法において、工程a)において使用される前記水混和性溶媒が、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、ヒドロアルコール溶液、またはそれらの混合物から選択される、方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法において、工程a)で使用される前記水混和性溶媒が水である、方法。
【請求項11】
請求項1記載の方法において、前記方法は、工程b)を実施する前に、工程a)から得られた前記混合物のpHを4.8~5.8の範囲に調整する工程と、前記混合物を0.5~2時間撹拌する工程と、をさらに含む、方法。
【請求項12】
請求項1記載の方法において、前記pHが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カルシウム、またはそれらの混合物から選択されるpH調整剤によって調整される、方法。
【請求項13】
請求項11記載の方法において、前記pHが、塩酸、硫酸、またはそれらの混合物から選択されるpH調整剤によって調整される、方法。
【請求項14】
請求項1記載の方法において、前記工程c)が、凍結乾燥、真空乾燥、空気乾燥、またはそれらの組み合わせから選択される過程によって実施される、方法。
【請求項15】
請求項1記載の方法において、前記方法が、工程c)を実施する前に、工程b)から得られた生成物を精製する工程をさらに含む、方法。
【請求項16】
請求項15記載の方法において、前記精製する工程が、工程c)を実施する前に、透析、クロスフロー濾過、液体-液体抽出、またはそれらの組み合わせによって実施される、方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1つに記載の方法から得られるヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(HA-g-pNIPAM)。
【請求項18】
請求項17記載のヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)であって、前記ヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)が、4~8%の範囲のグラフト化度を有する、ヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)。
【請求項19】
0.0001~2質量体積%の濃度で、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、クエン酸緩衝液、またはそれらの混合物から選択される水混和性溶媒中に存在する、請求項17~19のいずれか1つに記載のヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)のコロイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学分野に関し、特にヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(HA-G-PNIPAM)の調製方法に関する。
【背景】
【0002】
ヒアルロン酸またはHAは天然のグリコサミノグリカン(GAG)であり、D-グルクロン酸とN-アセチル-D-グルコサミンが化学結合して二糖サブユニットを形成したものである。このような二糖サブユニットは、2,4-グリコシド結合を介して結合し、長鎖で大きな構造を形成する。自然に、70kgの人体中、約15gのHAが皮膚、関節、眼球およびその他の組織の中に存在することが分かっている。今日、HAは例えば雄鶏のとさかや、分子量5,000~1,800,000kDaの黄色ブドウ球菌の発酵物から自然に生産することができる。
【0003】
ヒアルロン酸には優れた特性、特に保水性があり、1グラムのHAで6リットルの水を保持できることが分かっている。さらに、HAは吸湿性があり、ゲルを形成するのに適切な粘性を持ち、生分解性で、生体適合性を持っている。現在、HAは生体材料ならびに化粧品、例えば抗炎症、創傷治癒、および組織再生のためのゲル、クリーム、フォーム、注射、またはハイドロゲルに広く使われている。
【0004】
ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)またはpNIPAMは、N-イソプロピルアクリルアミドモノマーの重合反応から得られる熱応答性ポリマーである。pNIPAMの下限臨界溶液温度(LCST)、またはポリマーが柔軟な溶媒和状態からより剛直な非溶媒和状態へ相転移する温度は32℃である。温度が32℃未満の場合、pNIPAMは親水性で可溶性である。一方、温度が32℃以上(体温など)の場合、pNIPAMは疎水性で不溶性であり、組織接着性を有するハイドロゲルを形成することができる。
【0005】
ナノゲルはコロイドの一種であり、ナノスケールの範囲で三次元的かつナノサイズ化されたハイドロゲルのような物質である。ナノゲルの主な利点は、保水性、到達が困難な臓器、組織、細胞への全身投与が可能な乳剤を形成する能力、迅速な薬物動態が可能であることである。そのため、最近では薬物送達、診断、画像診断、グルコース感知、および組織工学の分野でナノゲルが注目されている。
【0006】
文献調査から、ヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)は以下の文献に開示されている:
【0007】
米国特許文献20130171197A1は、特定のハチの巣構造を有するヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)ハイドロゲルを開示している。このハイドロゲルは熱応答性で形成することができ、組織工学の効率を高めるために使用することができる。
【0008】
Chenら(Journal of pharmaceutical sciences,2011,100(2),655-666.)は、ヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)ハイドロゲルをがん治療薬シスプラチンの薬物送達のために開発した。このハイドロゲルは40%以上のグラフト化度を持ち、ネットワーク状のハイドロゲルを形成している。
【0009】
Amenda(Wagner,A.2019)は、カルボジイミド架橋剤として1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を用いたヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)ナノゲルを開示した。このナノゲルは約25%のグラフト化度を有し、さらに疎水性薬物送達システムに使用される。
【0010】
しかしながら、これまでの開示によるヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)は、グラフト化度が高いため粘度が高く、ネットワーク状のハイドロゲルを形成する。したがって、本発明の目的は、高い安定性と生体適合性を維持しながら、低粘度を提供する低グラフト化度のヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(HA-g-pNIPAM)を合成することである。本発明におけるHA-g-pNIPAMは、送達システム、創傷治癒、細胞増殖、抗炎症、抗酸化、および光保護など多くの用途に用いることができる。
【発明の概要】
【0011】
一実施形態では、本発明はヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(HA-g-pNIPAM)の調製方法に関し、前記方法は、
a)水混和性溶媒中で、ヒアルロン酸化合物、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、およびカルボジイミド架橋剤を含む混合物を調製する工程と、
b)pHを7.2~7.8の範囲に調整し、20~40℃で1~3日間撹拌して前記混合物を反応させる工程と、
c)工程b)の前記混合物を乾燥させる工程と、を含み、0.002:1:0.01~0.004:1:0.08、
ヒアルロン酸、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、およびカルボジイミド架橋剤のモル比は、0.1:0.0025:1~0.2:0.0125:1の範囲である、方法である。
【0012】
さらに、上記の方法で調製されたヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(HA-g-pNIPAM)が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)試料1、(b)試料2、(c)試料3、(d)試料4、(e)試料5の核磁気共鳴(NMR)スペクトルを示す。
【
図2】ヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(HA-g-pNIPAM)の化学構造を示す。
【
図3】試料2の赤外(IR)スペクトルを示す。HAとpNIPAMとのグラフト化が1606.4、1406.3、および1373.2cm
-1の波数に特徴的なピークとして示されている。
【
図4】試料3の熱重量分析(TGA)スペクトルを示す。
【
図6】(a)0.25質量体積%の試料1、(b)0.25質量体積%の試料2、(c)0.25質量体積%の試料4、および(d)0.25質量体積%の試料5の透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す。
【
図7】(a)ケラチノサイト(HaCaT細胞)および(b)線維芽細胞(BJ細胞)における試料2の細胞増殖効率を示す。
【
図8】(a)ケラチノサイト(HaCaT細胞)および(b)線維芽細胞(BJ細胞)における試料2の創傷治癒効率を示す。
【
図9】ケラチノサイト(HaCaT細胞)における試料2の抗炎症効率を示す。
【
図10】ケラチノサイト(HaCaT細胞)における試料2の酸化防止効率を示しており、(a)は過酸化水素(H
2O
2)の有無、(b)は用量依存的効率を示す。
【
図11】ケラチノサイト(HaCaT細胞)における試料2の光保護効率を示しており、(a)はUVA5J/cm
3で処理し、(b)はUVA7.5J/cm
3で処理したものである。
【
図12】ケラチノサイト(HaCaT)における試料2のコラゲナーゼ分解効率を示す。
【
図13】(a)0.25質量体積%の試料1、(b)0.25質量体積%の試料4、および(c)0.25質量体積%の試料5にカプセル化したクルクミンの透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す。
【
図14】(a)0.1質量体積%、(b)0.15質量体積%、(c)0.25質量体積%の試料2にカプセル化したアジア酸の透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す。
【
図15】(a)0.1質量体積%、(b)0.25質量体積%、(c)0.5質量体積%の試料2にカプセル化したポリ(I:C)の透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す。
【
図16】(a)0.1質量体積%、(b)0.25質量体積%、(c)0.5質量体積%の試料2にカプセル化したポリ(I:C)のゼータ電位とサイズを示す。
【
図17】試料1、4および5のNIH-3T3細胞へのクルクミン細胞取り込み効率試験の共焦点顕微鏡画像を示す。
【
図18】試料3の歯根膜幹細胞へのクルクミン細胞取り込み効率試験の共焦点顕微鏡画像を示す。
【
図19】試料2の線維芽細胞増殖因子(FGF)安定性を示す。
【
図20】(a)0.1質量体積%の試料2、および(b)0.25質量体積%の試料1、4、5のクルクミン溶解効率を示す。
【
図21】試料2の(a)担持量(mM)、(b)担持効率(%)、(c)担持容量(%)及び(e)封入効率(%)を示す。
【
図22】(a)エタノール溶液なし、(b)エタノール溶液ありにおける試料2のレスベラトロール溶解効率を示す。
【
図23】試料2の濃度0、0.06、0.12、0.25、0.5、1、および2質量体積%における角膜上皮細胞の細胞毒性を示す。
【
図24】7.5J/cm
2の紫外線A(UVA)を照射した試料2の濃度0、0.05、0.5質量体積%のケラチノサイト(HaCaT)の細胞生存率を示す。
【
図25】PrestoBlue(商標)アッセイによる試料2の0、0.1、0.15、0.25質量体積%での細胞生存率を示す。
【発明の詳細な説明】
【0014】
本発明は、高い安定性と生体適合性を維持しながら、低粘度を提供する低グラフト化度のヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(HA-g-pNIPAM)の調製方法に関する。本発明におけるHA-g-pNIPAMは、送達システム、創傷治癒、細胞増殖、抗炎症、抗酸化、光保護など多くの用途に用いることができる。
【0015】
ここに記載された態様は、特に断りのない限り、本発明の他の態様への適用を含むことを意味する。
【0016】
定義
ここで使用される専門用語や科学用語は、特に断りのない限り、当業者が理解する定義を有する。
【0017】
ここに挙げた道具、装置、方法、または化学薬品は、本発明のみに特有な道具、装置、方法、または化学薬品であることが明記されていない限り、当業者によって一般的に使用されている道具、装置、方法、または化学薬品を意味する。
【0018】
特許請求の範囲または明細書における「含む(comprising)」と単数名詞または単数代名詞の使用は、「1つ(one)」を意味し、「1つまたはそれ以上(one or more)」、「少なくとも1つ(at least one)」、「1つまたはそれ以上(one or more than one)」も含む。
【0019】
本出願において開示されるすべての組成物および/または方法、ならびに特許請求の範囲は、特許請求の範囲に具体的に記載されていないものの、当業者によれば、本実施形態と同等の有用性および結果を有する対象物を得るために、本発明と大きく異なる実験を行うことなく、任意の作用、性能、修正、または調整から実施形態をカバーすることを目的とする。従って、本実施形態と代替可能又は類似の対象は、当業者であれば明らかに分かるような軽微な修正又は調整を含めて、添付の特許請求の範囲に記載された発明の精神、範囲及び概念に留まるものと解釈されるべきである。
【0020】
本出願を通じて、「約(about)」という用語は、機器、方法、または前記機器もしくは方法を使用する個人のいかなる誤差からも変化または逸脱する可能性のある、ここに表示または示されるあらゆる数値を意味する。
【0021】
以下、本発明の実施形態は、本発明の範囲を限定する目的で示されるものではない。
【0022】
例示的な実施形態では、本発明はヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(HA-g-pNIPAM)の調製方法であって、
a)水混和性溶媒中で、ヒアルロン酸化合物、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、およびカルボジイミド架橋剤を含む混合物を調製する工程と、
b)pHを7.2~7.8の範囲に調整し、20~40℃で1~3日間撹拌して前記混合物を反応させる工程と、
c)工程b)の前記混合物を乾燥させる工程と、を含み、
ヒアルロン酸、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、およびカルボジイミド架橋剤のモル比は、0.1:0.0025:1~0.2:0.0125:1の範囲である、方法である。
【0023】
好ましい例示的な実施形態では、前記カルボジイミド架橋剤は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、またはそれらの混合物から選択される。
【0024】
好ましい例示的な実施形態では、前記カルボジイミド架橋剤は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)とN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)とを1:0.5~1:1.5のモル比で混合したものである。
【0025】
好ましい例示的な実施形態では、ヒアルロン酸化合物の重量平均分子量は30,000~60,000ダルトンの範囲である。
【0026】
好ましい例示的な実施形態では、前記ヒアルロン酸化合物は、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、またはそれらの混合物から選択される。
【0027】
好ましい例示的な実施形態では、前記ヒアルロン酸塩は、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、またはそれらの混合物から選択される。
【0028】
好ましい例示的な実施形態では、前記ヒアルロン酸塩はヒアルロン酸ナトリウムである。
【0029】
好ましい例示的な実施形態では、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)の重量平均分子量が4,000~6,000ダルトンの範囲である。
【0030】
好ましい例示的な実施形態では、工程a)において使用される前記水混和性溶媒が、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、ヒドロアルコール溶液、またはそれらの混合物から選択される。
【0031】
好ましい例示的な実施形態では、工程a)で使用される前記水混和性溶媒が水である。
【0032】
好ましい例示的な実施形態では、前記方法は、工程b)を実施する前に、工程a)から得られた前記混合物のpHを4.8~5.8の範囲に調整する工程と、前記混合物を0.5~2時間撹拌する工程と、をさらに含む。
【0033】
好ましい例示的な実施形態では、前記pHが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カルシウム、またはそれらの混合物から選択されるpH調整剤によって調整される。
【0034】
好ましい例示的な実施形態では、前記pHが、塩酸、硫酸、またはそれらの混合物から選択されるpH調整剤によって調整される。
【0035】
好ましい例示的な実施形態では、前記工程c)が、凍結乾燥、真空乾燥、空気乾燥、またはそれらの組み合わせから選択される過程によって実施される。
【0036】
好ましい例示的な実施形態では、前記方法が、工程c)を実施する前に、工程b)から得られた生成物を精製する工程をさらに含む。
【0037】
好ましい例示的な実施形態では、前記精製する工程が、工程c)を実施する前に、透析、クロスフロー濾過、液体-液体抽出、またはそれらの組み合わせによって実施される。
【0038】
別の実施形態では、本発明は本発明に係るヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(HA-g-pNIPAM)に関する。
【0039】
好ましい例示的な実施形態では、前記ヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)が、4~8%の範囲のグラフト化度を有する。
【0040】
別の実施形態では、本発明に係るヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)のコロイドは、0.0001~2質量体積%の濃度で、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、クエン酸緩衝液、またはそれらの混合物から選択される水混和性溶媒中に存在する。
【0041】
本発明をよりよく理解するために、本発明によるヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)の実施例を示すが、以下の実施例は本発明の実施形態を示すためのものであり、本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0042】
本出願を通して、水混和性溶媒は、これに限定されるものではないが、脱イオン水、蒸留水、水道水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、クエン酸緩衝液、細胞培養培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地(MEM)、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)緩衝液、トリス緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、ヒドロアルコール溶液、もしくは生体適合性有機溶媒、またはそれらの混合物から選択される。生体適合性有機溶媒は、希釈メタノール、希釈エタノール、もしくは希釈酢酸、またはそれらの混合物の群から選択される。
【0043】
ヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(HA-g-pNIPAM)の調製(試料1~5)
ヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(HA-g-pNIPAM)の試料1~5は以下の手順で調製した。
【0044】
(1)重量平均分子量約47,000ダルトンのヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)を水に溶解した。
【0045】
(2)工程(1)のヒアルロン酸ナトリウム溶液に、重量平均分子量約5,500ダルトンのポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(pNIPAM)を添加し、続いて1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)とN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)をそれぞれ添加した。
【0046】
(3)工程(2)の溶液のpHを水酸化ナトリウムで約5.5に調整し、室温で攪拌しながら約1時間反応させた。
【0047】
(4)工程(3)の溶液のpHを塩酸で約7.5に一旦調整し、さらに室温で約3日間撹拌しながら反応させた。
【0048】
(5)工程(4)で得られたHA-g-pNIPAMをそれぞれ透析で精製し、凍結乾燥法で乾燥した。
【0049】
試料1~5に用いたヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(pNIPAM)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)の量を表1に示す。
【0050】
本発明のHA-g-pNIPAMの特性評価
(1)核磁気共鳴(NMR)
試料1~5の核磁気共鳴(NMR)スペクトルを
図1に示す。その結果、試料1~5にはヒアルロン酸とポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)に特有のピークがあり、1.10~1.65ppmにはポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)の脂肪族プロトンが、1.65~2.01ppmにはヒアルロン酸のD-グルコサミン環上のN-アセチル基とポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)のプロトンの重なりが確認された。さらに、試料1~5のグラフト化度はNMRスペクトルの2つの顕著なピークから計算した。ヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(HA-g-pNIPAM)の化学構造を
図2に示す。pNIPAMとHAのグラフト化度、平均分子量、質量比を表2に示す。
【0051】
(2)赤外分光法(IR)スペクトル
図3に示すように、試料2の赤外(IR)スペクトルはHA-g-pNIPAMの特徴的なピークを示した。1,606cm
-1のピークはアミドバンド(C=Oの伸縮振動)であった。1,406.3および1,373cm
-1のピークは、N-イソプロピルアクリルアミドのメチル基におけるC-H結合の特徴的な変形振動ピークであった。IRの結果から、pNIPAMコア構造上にHAがグラフ化していることが確認された。
【0052】
(3)熱重量分析(TGA)
試料3の熱分解を熱重量分析(TGA)で調べた結果を
図4に示す。その結果、この試料3の分解は約200℃と約400℃の2つに分かれた。ヒアルロン酸化合物の分解温度と比較すると、試料2の分解は約200℃で起こった。
【0053】
(4)粒子径
試料2を水に分散させ、0.0001、0.001、0.01、0.1、0.15、0.25質量体積%の濃度範囲でコロイドを得た。得られた試料2のコロイドを動的光散乱(DLS)で調べた。コロイド状試料2の各濃度の粒子径および平均粒子径を表3に示す。その結果、コロイドの濃度を上げると平均粒子径が大きくなることがわかった。
【0054】
(5)熱応答性
試料3コロイドの熱応答性を動的光散乱(DLS)法で調べた。試料3の熱応答性を
図5に示す。その結果、0.5質量体積%の試料3コロイドの球状粒子は、約25~32℃の温度で約30~80nmの範囲の粒子径を有し、温度が32℃以上になると、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)の低臨界溶液温度(LCST)特性により、粒子径が増大した。
【0055】
(6)粒子形態
試料1、2、4および5を水に分散させ、0.25質量体積%のコロイドを得た。得られたコロイドを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。
【0056】
粒子の形態を
図6に示す。その結果、0.25質量体積%の試料1(
図6a)、0.25質量体積%の試料2(
図6b)、0.25質量体積%の試料4(
図6c)、および0.25質量体積%の試料5(
図6d)に記載されているように、コロイドは明確に定義された球状を有することが示された。
【0057】
HA-g-pNIPAMの効率試験
以下、0.0001~2質量体積%の範囲の濃度を有するコロイド状試料1、2、4および5を用いて、HA-g-pNIPAMの効率を調べた。
【0058】
(1)細胞増殖
3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイを用いて、コロイド状試料2の細胞増殖試験を行った。MTTアッセイは、細胞の生存率と増殖を測定するための至適基準法である。実験は以下の手順で行った。HaCaTケラチノサイトおよびBJ線維芽細胞を、0、0.06、0.12、0.25、0.5、1および2質量体積%の濃度の試料2で24時間処理した。処理後、細胞増殖をMTTアッセイで評価した。
【0059】
細胞増殖効率試験を
図7に示す。その結果、試料2は、非処理細胞と比較して、HaCaTケラチノサイト(
図7a)およびBJ線維芽細胞(
図7b)の細胞生存率の増加によって決定されるように、皮膚細胞の増殖を促進できることが示された。
【0060】
(2)創傷治癒
コロイド状試料2の創傷治癒試験を以下の手順で行った。BJ線維芽細胞を剃刀でひっかき、0.0001、0.0005、0.001、0.005、0.01、0.05質量体積%の濃度の試料2で24時間処理した。化合物の治癒活性を顕微鏡で観察した。
【0061】
創傷治癒効率試験を
図8に示す。その結果、試料2を処理した線維芽細胞は、ヒアルロン酸処理細胞や非処理細胞よりも早く傷を治すことができた(
図8a)。試料2の創傷治癒活性は用量依存的であった(
図8b)。これらの結果から、試料2は有望な創傷治癒活性を有することが示唆された。
【0062】
(3)抗炎症作用
0.1質量体積%濃度のコロイド状試料2の抗炎症試験を以下の手順で行った。HaCaTケラチノサイトを、腫瘍壊死因子α(TNF-α)およびインターフェロン-γ(IFN-γ)の存在下、試料2で24時間処理した。処理後、放出されたTARCのレベルを酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)で測定した。TNF-αとIFN-γは炎症誘導物質であり、胸腺および活性化制御ケモカイン(TARC)は炎症マーカーである。
【0063】
抗炎症効率試験を
図9に示す。その結果、試料2の曝露により、胸腺および活性化制御ケモカイン(TARC)レベルを低下させることができ、試料2が抗炎症活性を有することが示唆された。
【0064】
(4)抗酸化作用
コロイド状試料2の抗酸化試験を以下の手順で行った。HaCaTケラチノサイトを0、0.0005、0.0001、0.005、0.01、0.05、0.1質量体積%の濃度の試料2で24時間処理した。処理後、細胞を過酸化水素とともに1時間インキュベートし、酸化ストレス状態を2’-7’-ジクロロフルオレジンジアセテート(DCFH-DA)アッセイで評価した。過酸化水素は酸化ストレス誘導剤として用いた。
【0065】
抗酸化効率試験を
図10に示す。その結果、試料2は過酸化水素処理後の酸化ストレスを低減することができ、試料2が抗酸化活性を有することが示された。
【0066】
(5)光保護
コロイド状試料2の光保護試験を以下の手順で行った。HaCaTケラチノサイトを0、0.0001、0.0005、0.001、0.01および0.05質量体積%の濃度の試料2で24時間処理した。処理後、細胞に紫外線A(UVA)を5J/cm
2(
図11a)および7.5J/cm
2(
図11b)で照射し、MTTアッセイで細胞生存率を測定した。
【0067】
光保護効率試験を
図11に示す。その結果、試料2はUVA照射による毒性からケラチノサイトを防ぐことができ、試料2には光保護活性があることが示唆された。
【0068】
(6)コラゲナーゼ分解
コロイド状試料2のコラゲナーゼ分解試験を以下の手順で行った。HaCaT細胞を試料2で24時間処理した。処理後、細胞に7.5J/cm2 の紫外線A(UVA)を照射した。マトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)とマトリックスメタロプロテアーゼ-9(MMP-9)のレベルは、照射24時間後にウェスタンブロット分析で測定した。
【0069】
コラゲナーゼ分解効率試験を
図12に示す。その結果、試料2は、UVA照射に対するMMP-1およびMMP-9の発現を抑制できることが示された。この結果から、試料2はコラゲナーゼの分解を促進できることが示唆された。
【0070】
(7)送達システム
クルクミン、アジア酸、ポリイノシン酸:ポリシチジル酸(ポリ(I:C))を含む化合物のカプセル化は、以下の手順で試験された。化合物は、簡単なインキュベーション法を用いてナノ粒子にカプセル化された。
【0071】
クルクミンについては、クルクミンのエタノール原液をコロイド状試料1、4および5に約1:10の体積比で滴下添加し、4℃で24時間撹拌しながらインキュベートした後、遠心分離して未溶解の化合物を除去した。
【0072】
アジア酸については、アジア酸のエタノール原液をコロイド状試料2に約1:10の体積比で滴下添加し、25℃で6時間撹拌しながらインキュベートした後、遠心分離して未溶解の化合物を除去した。
【0073】
ポリイノシン酸:ポリシチジル酸(ポリ(I:C))については、ポリ(I:C)の水性原液をコロイド状試料2に約1:10の体積比で室温で30分間撹拌しながら滴下添加した。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてカプセル化された化合物ナノ粒子の形態学的形状と外観を観察し、動的光散乱(DLS)を用いてポリイノシン酸:ポリシチジル酸(ポリ(I:C))カプセル化ナノ粒子のサイズとゼータ電位の測定を行った。
【0074】
クルクミンカプセル化ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を
図13に示す。その結果、ナノ粒子のサイズ、形状、および外観の変化から判断して、クルクミンがコロイド状で0.25質量体積%の試料1、試料4、および試料5にうまくカプセル化されたことが示された。
【0075】
図14に、カプセル化されたアジア酸ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す。その結果、ナノ粒子のサイズ、形状、および外観の変化から判断して、試料2の0.1質量体積%、0.15質量体積%、および0.25質量体積%のコロイド形態に、アジア酸がうまくカプセル化されていることが示された。
【0076】
ポリイノシン酸:ポリシチジル酸(ポリ(I:C))カプセル化ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を
図15に示す。その結果、ナノ粒子のサイズ、形状、および外観の変化から判断して、クルクミンがコロイド状で試料2の0.1質量体積%、0.25質量体積%、および0.5質量体積%にうまくカプセル化されたことが示された。
【0077】
ポリイノシン酸:ポリシチジル酸(poly(I:C))のカプセル化を
図16に示す。その結果、0.1質量体積%(
図16a)および0.5質量体積%(
図16b)の試料2の粒径減少により、有効成分をカプセル化した試料と比較して、異なる濃度(0.2および1μg/ml)のポリイノシン酸:ポリシチジル酸(ポリ(I:C))がコロイド状試料2にカプセル化されていることが示された。
【0078】
(8)細胞への取り込み
コロイド状のクルクミンカプセル化試料1、4および5の細胞取り込み試験を以下の手順で行った。NIH-3T3細胞を試料1、4および5で24時間処理した。処理後、細胞を4’,6-ジアミノ-2-フェニルインドール二塩酸塩(DAPI)(核染色)およびローダミンファロイジン(アクチン染色)で15~30分間染色した。24時間処理後、蛍光顕微鏡で細胞の取り込みレベルを測定した。
【0079】
NIH-3T3細胞へのクルクミン細胞取り込み効率試験の共焦点顕微鏡画像を
図17に示す。その結果、クルクミンコロイドの細胞内取り込みは緑色の蛍光強度で示され、クルクミンコロイドはNIH-3T3細胞に取り込まれたことが示された。
【0080】
試料3のカプセル化クルクミンの細胞取り込み試験は、以下の手順で行った。歯根膜幹細胞を試料3で24時間処理した。処理後、細胞を4’,6-ジアミノ-2-フェニルインドール二塩酸塩(DAPI)(核染色)およびローダミンファロイジン(アクチン染色)で15~30分間染色した。24時間処理後、蛍光顕微鏡で細胞の取り込みレベルを測定した。
【0081】
歯根膜幹細胞へのクルクミン細胞取り込み効率試験の共焦点顕微鏡画像を
図18に示す。その結果、緑色の蛍光強度で示されるクルクミンコロイドの細胞内への取り込みは、水中のクルクミンよりも高いことが示された。
【0082】
(9)透過性
アスコルビルリン酸ナトリウム(SAP)と0.1質量体積%の試料2をコロイド状にカプセル化したSAPの浸透性を、フランツ拡散セルを用いてブタの皮膚で試験した。その結果、SAPは6μg/cm2、0.1質量体積%の試料2をコロイド状にカプセル化したSAPは68.78μg/cm2、それぞれブタの皮膚に浸透した。したがって、HA-g-pNIPAMは表皮への透過性を高めることができることが確認された。
【0083】
(10)有効医薬品成分の安定性
コロイド状試料2の物理的安定性因子(色、沈殿物など)、化学的安定性因子(pH、L-929細胞における細胞増殖誘導など)を含む線維芽細胞増殖因子(FGF)の安定性を、FGFと試料2にカプセル化したFGFを比較することにより検討した。実験は、コロイド状試料2にFGFを組み込んでから0、2、4、8、18週後に行った。
【0084】
L-929細胞における細胞増殖誘導は、PrestoBlue(商標)アッセイを用いたL-929細胞の代謝率分析である。L-929細胞を、5体積%のウシ胎児血清と150μLの2mM L-グルタミンを含むダルベッコ改変イーグル培地/栄養混合F-12(DMEM-F-12)(以下、「培地」と言う)で24時間培養し、96ウェルプレートへの細胞の接着を促進した。その後、各ウェルで培地を除去し、試験材料であるFGF(対照)、およびFGFを50μLの試料2にカプセル化したもので交換した。さらに、細胞を5%CO2、37℃のインキュベーターで24時間培養した。その後、試験材料も除去し、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、10%のPrestoBlue(商標)含有培地に交換し、さらに5%CO2、37℃で1時間インキュベートした。最後に、蛍光強度をマイクロプレートリーダーで560/590nm(励起/発光)で測定した。
【0085】
細胞生存率試験を
図19に示す。その結果、コロイド-FGF製剤では、FGFの生物学的活性が低下する一方で、FGF誘導性細胞増殖が18週間の保存期間にわたって維持されたことが示された。
【0086】
(11)溶解度
クルクミン、アジア酸、レスベラトロールを添加したコロイド状試料2、およびクルクミンを添加したコロイド状試料1、4、5の溶解度は、以下の手順で試験した。レスベラトロールとクルクミンについては紫外可視(UV-Vis)分光光度分析、アジア酸については高速液体クロマトグラフィー分析を用いた。
【0087】
濃度0.1質量体積%のクルクミン担持コロイド状試料2、および濃度0.25質量体積%のクルクミン担持コロイド状試料1、4、5の溶解度を
図20に示す。その結果、濃度0.1%の試料2(
図20a)では、コロイドはクルクミンの溶解度を26倍高めることができた。試料1、4および5は、対照としての水と比較して、それぞれ約2倍、約3倍、および約2倍クルクミンの溶解度を増加させることができた。
【0088】
0、0.1、0.15、および0.25質量体積%の濃度のコロイド状で、アジア酸を担持した試料2の溶解性を、担持量(
図21a)、担持効率(
図21b)、担持容量(
図21c)、および封入効率(
図21d)の観点から
図21に示す。その結果、試料2を0.1%、0.15%、0.25%の濃度で水に添加した場合、コロイドは対照としての水と比較して、それぞれ約400倍、約370倍、約250倍のアジア酸の担持量を増加させることができた。
【0089】
レスベラトロールを担持したコロイド状試料2の溶解度を0、0.1、0.2質量体積%の濃度で測定した結果を
図22に示す。その結果、濃度0.2%の試料2を水またはヒドロアルコール水溶液に溶解させた場合、コロイドは水を対照とした場合に比べ、レスベラトロールの溶解度を4.5~5倍高めることができた。
【0090】
(12)保湿試験
0.1および2質量体積%濃度のコロイド状試料2の保湿試験を、5人の健康なボランティアを用いて以下の手順で行った。治療の前に、参加者は1週間、試験部位への化粧品の使用を控える必要があった。温度25±2℃、湿度50±5%の環境下で、1日2回、14日間、前腕部に試料を均一に塗布した。試料2とその対照品を塗布する前後で、一定の圧力で皮膚に押し当てた測定用コンデンサを用いて皮膚水分含量をチェックし、その測定値をコルネオメーターで評価した。あるいは、経表皮水分喪失(TEWL)試験は、試料2の適用前後を比較するTEWL測定プローブを用いて実施した。
【0091】
0.1および2質量体積%濃度のコロイド状試料2の保湿試験を表4に示す。その結果、試料2は、2%および0.1%濃度の試料2を水中に適用した後、それぞれ124%および11.91%の皮膚水分含量を増加させることができたが、未修飾のHAは0.1%濃度の対照ポリマーでは皮膚水分含量を変化させることができなかった。さらに、0.1%の試料2を上腕の皮膚に塗布すると、経表皮水分喪失(TEWL)が12.1%減少した。
【0092】
(13)ヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(HA-g-pNIPAM)の毒性
ケラチノサイト(HaCaT細胞)、線維芽細胞(BJ細胞)および角膜上皮細胞におけるコロイド状試料2のin vitro毒性試験を以下の手順で実施した。細胞を0、0.06、0.12、0.25、0.5、1、2質量体積%の濃度で24時間処理した後、MTTアッセイで毒性を評価した。
【0093】
ケラチノサイト(HaCaT細胞)および線維芽細胞(BJ細胞)における細胞毒性試験を
図7に示す。これらの結果から、試料2は両皮膚細胞の細胞生存率を低下させなかったことから、試料2は両細胞株に対して毒性を引き起こさないことが示唆された。
【0094】
また、角膜上皮細胞を用いた細胞毒性試験を
図23に示す。これらの結果から、試料2を処理した細胞に毒性は観察されなかった。これらの結果は、試料2の安全性プロファイルを支持するものである。
【0095】
(14)HA-g-pNIPAMの光毒性
コロイド状試料2のin vitro光毒性試験を以下の手順で行った。HaCaTケラチノサイトを0、0.05、0.5質量体積%の濃度の試料2で24時間処理した。処理後、細胞に7.5J/cm2の紫外線A(UVA)を照射し、MTTアッセイで細胞生存率を測定した。
【0096】
光毒性試験を
図24に示す。その結果、試料2はUVA照射による毒性を防止できることがわかった。
【0097】
(15)副作用試験
0、0.1、0.15、および0.25質量体積%濃度のコロイド状試料2の副作用試験は、PrestoBlue(商標)アッセイにより繊維芽細胞L929細胞におけるアジア酸の毒性減少を考慮することで検討した。
【0098】
0、0.1、0.15、0.25質量体積%濃度のコロイド状試料2の副作用試験を
図25に示す。その結果、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した12.5μMのアジア酸を細胞培養培地に使用した場合、細胞生存率は5%に低下した。しかし、12.5μMのアジア酸をコロイドにし、試料の0.1、0.15、および0.25質量体積%の濃度でコロイドを作ると、細胞生存率は100%に増加した。したがって、本発明のヒアルロン酸グラフトポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(HA-g-pNIPAM)は、アジア酸の毒性を軽減できることが確認された。
【0099】
(16)皮膚刺激性試験
濃度2.0質量体積%のコロイド状試料2の刺激性試験を、24時間閉塞性ヒトパッチテストにより調べた。インフォームド・コンセントを取得し、対象/除外基準、すなわち、すべての被験者は20~59歳の健康な成人であり、いかなる除外基準も有していないことを確認した後、検査技師がそれぞれの被験者の背中(脊椎傍)を調べた。さらに、検査技師は、選択された各被験者の背中上部(傍脊椎領域)の検査部位を観察し、写真に収めた。その後、被験者にパッチテストユニットを用いて試験試料を適切な用量で塗布した。貼付24時間後、被験者自身によりパッチが剥がされた。パッチ除去から1時間後(合計24時間後)と24時間後(合計48時間後)に、技術者が試験部位を撮影した。さらに、皮膚反応性判定や皮膚刺激性スコアの判定などは、皮膚科医が評価した。
【0100】
その結果、成人被験者24名全員が試料に対して反応を示さなかった。その結果、スガイの分類(cosmetic sciences, 1995, 19: 49-56.)によると、皮膚刺激性スコアは0となり、5未満となった。従って、試料2は安全で刺激のない製品であることが確認された。
【0101】
(17)感作性試験
2.0質量体積%濃度のコロイド状試料2の感作性試験を、ヒト反復負荷パッチテスト(HRIPT)により検討した。HRIPTは、(1)スクリーニング期、(2)誘導期、(3)休息期、(4)チャレンジ期の4段階に大別される。スクリーニング期では、インフォームド・コンセントと、20~59歳の健康な成人であること、除外基準を持たないこと、といった被験者の組み入れ基準を入手し、確認した。次に、検査技師が、選択された各被験者の背中上部(傍脊椎領域)の検査部位を観察し、写真撮影を行った。誘導期では、被験者にパッチテストユニットを用いて適切な用量の被験試料を塗布した。貼付24時間後、被験者自身がパッチを剥がした。24時間後または48時間後に次のパッチテストユニットを貼付する前に、訓練を受けた検査技師が皮膚反応を評価し、写真撮影を行った。その後、同じ試料を検査技師が各被験者の背中の同じ場所に貼付した。この手順を週3回、3週間連続で繰り返した(合計9セットの貼付と剥離)。誘導期の後、すべての被験者に10~14日間の休息期間が与えられた。最後に、チャレンジ期では、誘導期で塗布した部位の近くの正常皮膚に、パッチテストユニットを用いて同じ被験試料を塗布した。各パッチテストユニットは、貼付24時間後に各被験者から取り外された。各被験者の試験部位は検査技師によって写真に撮られ、皮膚反応はパッチテストユニットの除去から1時間後と24時間後に皮膚科医によって判定された(それぞれ「24時間後」と「48時間後」)。
【0102】
その結果、表6に示すように、56名の被験者のほとんどに反応は認められず、わずか1~2名の被験者に試験部位にわずかな紅斑が認められたのみであった。このことから、試料2は感作の原因とはならず、試験条件下では低アレルギー性製品とみなすことができると解釈された。
【0103】
発明を実施するための最良の形態
本発明の最良のまたは好ましい実施形態は、本発明の説明に記載した通りである。
【国際調査報告】