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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】ゲル組成物、システム、及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/06 20060101AFI20240711BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20240711BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
A61L31/06
A61L31/14 300
A61P1/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503421
(86)(22)【出願日】2022-07-19
(85)【翻訳文提出日】2024-03-11
(86)【国際出願番号】 US2022073894
(87)【国際公開番号】W WO2023004318
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】63/223,808
(32)【優先日】2021-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/260,113
(32)【優先日】2021-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506192652
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
(71)【出願人】
【識別番号】301069856
【氏名又は名称】トラスティーズ オブ ボストン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ライデッカー、ローレン エス.
(72)【発明者】
【氏名】フレドリクソン、ジェラルド
(72)【発明者】
【氏名】ベリー、サマンサ
(72)【発明者】
【氏名】クック、キャサリン エイ.
(72)【発明者】
【氏名】グリンスタッフ、マーク
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC16
4C081BA12
4C081BB04
4C081CA151
4C081CA181
4C081CA20
4C081CE11
4C081CF21
4C081DA12
4C081EA13
(57)【要約】
ゲルを形成する方法、及びそのようなゲルで対象を処置する関連する方法が記載される。本方法は、第1のポリエチレングリコール(PEG)系ポリマー、ポリ(エチレンイミン)系ポリマー、又はポリ(1,2-グリセロール)カルボナート系ポリマーを含むマクロマーであって、少なくとも1つの第1の官能部分を含むマクロマーと、少なくとも1つの第2の官能部分を含む第2のPEG系ポリマーを含む架橋剤と、光開始剤とを組み合わせることによって組成物を調製すること、及び光源を介して光開始剤を活性化することでゲルを形成することを含み得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルを形成する方法であって、前記方法は、
第1のポリエチレングリコール(PEG)系ポリマー、ポリ(エチレンイミン)系ポリマー、又はポリ(1,2-グリセロール)カルボナート系ポリマーを含むマクロマーであって、少なくとも1つの第1の官能部分を含む前記マクロマー、
少なくとも1つの第2の官能部分を含む第2のPEG系ポリマーを含む架橋剤、及び
光開始剤
を組み合わせることによって組成物を調製すること、及び
光源を介して前記光開始剤を活性化することで、生体適合性のゲルを形成すること
を含む方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの第1の官能部分は、チオール基、ビニル基、アリル基、アクリラート基、又はノルボルネン基を含み、前記少なくとも1つの第2の官能部分は、チオール基、ビニル基、アリル基、アクリラート基、又はノルボルネン基を含み、前記少なくとも1つの第1の官能部分は前記少なくとも1つの第2の官能部分とは異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの第1の官能部分又は前記少なくとも1つの第2の官能部分の一方は、ビニル基、アリル基、アクリラート基、又はノルボルネン基を含み、前記少なくとも1つの第1の官能部分又は前記少なくとも1つの第2の官能部分の他方は、チオール基を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記マクロマー、前記架橋剤、及び前記光開始剤は、前記組成物の総重量に対して、合計で前記組成物の約10~25重量%を占める、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの第1の官能部分と前記少なくとも1つの第2の官能部分とのモル比は、1:1~2:1の範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記マクロマーは、前記組成物の総重量に対して、合計で前記組成物の約5~15重量%を占め、かつ/又は、前記架橋剤は、前記組成物の総重量に対して、合計で前記組成物の5~10重量%を占める、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記架橋剤はN-ヒドロキシスクシンイミド基及び/又はマレイミド基を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物中の前記光開始剤の濃度は、約0.1mM~約100mMの範囲である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物は生理学的緩衝液をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記光源はUV光又は可視光を発する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
UV光で照らされると、前記ゲルは5秒以内に形成され、又は、前記光開始剤が可視光で活性化されると、前記ゲルは10秒以内に形成される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記マクロマーは超分岐ポリマーである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物は、前記組成物のゲル化時間を促進するために、チロシン誘導体を含む添加剤をさらに含み、任意選択で、前記チロシン誘導体は、チロシンメチルエステル又はチロシンエチルエステルを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物は、10mMまで、例えば約0.1mM~約5mMの前記添加剤を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ヒトの胃腸管の組織を処置するための、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法に従って形成されたゲルの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、主に、内視鏡手術を含む医療処置に有用な治療用ゲルに関する。例えば、本開示は、ゲル、ならびにゲルを形成するように配合された組成物及びシステム(例えば、胃腸管などの身体組織への適用のための)を含む。
【背景技術】
【0002】
内視鏡手術、例えば、内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)、及び吻合、ならびに、意図的な又は疾患に起因する瘻孔の形成、炎症性腸疾患(IBD)、及びIBDに付随する疾患などの健康状態は、胃腸(GI)管の組織への損傷をもたらし得、及び/又はそれに寄与し得る。結腸直腸がんは、先進国におけるがんによる死亡の主な原因の一つである。50歳以上の患者のための標準的な予防的ケアは、結腸直腸がんを評価するための結腸内視鏡検査によるポリープの生検(ポリペクトミーとして知られている)を含む。実際には、医師は、麻酔下で患者の結腸に内視鏡を挿入し、結腸を検査した後、ポリープを除去する。除去後、創傷は結腸内部環境に対して開いたままにするか、電気凝固を使用して熱的に閉じられる。GI管におけるポペクトミー後又は他の内視鏡手術後の傷口は、出血及び敗血症をもたらし得る。電気凝固は、灌流又はポリープ切除後凝固症候群などの他の合併症をもたらし得る。
【0003】
これらの種類の医療処置及び健康状態により、GI管壁の比較的薄い組織層が残ることがある。現在、医師は、GI管壁の治癒を可能にするために、クリッピング又は内視鏡的縫合を含む時間又は外科的処置に頼ることが多い。しかしながら、これらの実践は、大きな欠損及び/又は脆弱なもしくは線維性の組織などの特定の場合には不適切であり得る。生じ得る合併症としては、穿孔、感染、及び敗血症が挙げられる。
【発明の概要】
【0004】
医療処置において有用なゲルを形成する方法が開示される。本開示は、例えば、ゲルを形成する方法であって、第1のポリエチレングリコール(PEG)系ポリマー、ポリ(エチレンイミン)系ポリマー、又はポリ(1,2-グリセロール)カルボナート系ポリマーを含むマクロマーであって、少なくとも1つの第1の官能部分を含むマクロマーと、少なくとも1つの第2の官能部分を含む第2のPEG系ポリマーを含む架橋剤と、光開始剤とを組み合わせることによって組成物を調製すること、及び光源を介して光開始剤を活性化することでゲルを形成することを含む方法を含む。ゲルは、生体適合性及び/又は生分解性であり得る。前記少なくとも1つの第1の官能部分は、例えば、チオール基、ビニル基、アリル基、アクリラート基、又はノルボルネン基を含み得、かつ/又は前記少なくとも1つの第2の官能部分は、チオール基、ビニル基、アリル基、アクリラート基、又はノルボルネン基を含み得、前記少なくとも1つの第1の官能部分は前記少なくとも1つの第2の官能部分とは異なる。少なくとも1つの例では、前記少なくとも1つの第1の官能部分又は前記少なくとも1つの第2の官能部分は、ビニル基、アリル基、アクリラート基、又はノルボルネン基を含み得、前記少なくとも1つの第1の官能部分又は前記少なくとも1つの第2の官能部分の他方はチオール基を含み得る。本明細書のいくつかの例によれば、マクロマー、架橋剤、及び光開始剤は、組成物の総重量に対して、合計で組成物の10~25重量%を占め得る。任意選択で、前記少なくとも1つの第1の官能部分と前記少なくとも1つの第2の官能部分とのモル比は、1:1~2:1の範囲であり得る。これに加えて又はこれに代えて、マクロマーは、組成物の総重量に対して、合計で組成物の5~15重量%を占め得る。架橋剤は、組成物の総重量に対して、合計で組成物の5~10重量%を占め得る。組成物中の光開始剤の濃度は、約0.1mM~約100mMの範囲であり得る。いくつかの例では、架橋剤はN-ヒドロキシスクシンイミド基及び/又はマレイミド基を含む。これに加えて又はこれに代えて、マクロマーは超分岐ポリマーを含み得る。
【0005】
本明細書のいくつかの態様によれば、組成物はさらに生理学的緩衝液を含み得る。光源は、UV光又は可視光を発し得る。例えば、UV光で照らされると、ゲルは5秒以内に形成され得る。いくつかの例では、光開始剤が可視光で活性化されると、ゲルは10秒以内に形成され得る。任意選択で、組成物は、組成物のゲル化時間を促進するために、チロシン誘導体を含む添加剤をさらに含み得る。いくつかの態様では、組成物は最大10mMの添加剤を含み得る。チロシン誘導体は、例えば、チロシンメチルエステル又はチロシンエチルエステルを含み得る。
【0006】
上記及び本明細書の他の場所に記載されたゲルは、対象、例えばヒト対象の組織を治療するために使用され得る。例えば、ゲルは、対象の胃腸管の組織を治療するために使用され得る。
【0007】
本開示はまた、ポリエチレングリコール(PEG)系ポリマー、ポリ(エチレンイミン)系ポリマー、又はポリ(1,2-グリセロール)カルボナート系ポリマーを含むマクロマーであって、少なくとも1つの第1の官能基を含むマクロマーと、第1の緩衝液とを組み合わせることによって第1の溶液を調製すること;複数の第2の官能基を含む第2の(PEG)系ポリマーを含む架橋剤と、第1の緩衝液よりも低いpHを有する第2の緩衝液とを組み合わせることによって第2の溶液を調製すること;及び第1の溶液と第2の溶液を混合することでゲルを形成することを含む、ゲルを形成する方法を含む。ゲルは、生体適合性及び/又は生分解性であり得る。前記少なくとも1つの第1の官能基は、例えばチオール基又はアミン基を含み得、かつ/又は複数の第2の官能基は、N-ヒドロキシスクシンイミド基又はマレイミド基を含み得る。いくつかの例では、マクロマーの分子量は約2,000Daであり得る。これに加えて又はこれに代えて、架橋剤の分子量は約3,400Daであり得る。いくつかの例では、架橋剤対マクロマーのモル比は、3:2から7:3の範囲であり得る。
【0008】
上述のように、本明細書に開示されるゲルは、対象の組織を治療するために使用され得る。例えば、ゲルを形成する方法は、対象の胃腸管の組織上にゲルを形成することによって対象を治療することを含み得る。少なくとも1つの例では、方法は、ポリエチレングリコール(PEG)系ポリマー、ポリ(エチレンイミン)系ポリマー、又はポリ(1,2-グリセロール)カルボナート系ポリマーを含むマクロマーであって、少なくとも1つの第1の官能基を含むマクロマーと第1の緩衝液とを含む第1の溶液を組織に適用すること;及び複数の第2の官能基を含む第2の(PEG)系ポリマーを含む架橋剤と、第1の緩衝液よりも低いpHを有する第2の緩衝液とを含む第2の溶液を組織に適用することを含み、第1の溶液が第2の溶液と接触することで組織上にゲルを形成する。第1の溶液は、第2の溶液の前に、後に、又は第2の溶液と同時に組織に適用され得る。
【0009】
本開示はまた、ポリエチレングリコール(PEG)系ポリマー、ポリ(エチレンイミン)系ポリマー、又はポリ(1,2-グリセロール)カルボナート系ポリマーを含むマクロマーを含む組成物を含み、マクロマーは、少なくとも1つのチオール基又はアミン基を含み;架橋剤は、N-ヒドロキシスクシンイミド官能基、マレイミド官能基、又はその両方を含むPEG系ポリマーを含み、組成物はヒドロゲルとして製剤化される。ヒドロゲルは、体管腔に接着した場合、少なくとも2,000Paのゲル強度及び/又は0.03~0.90N/cmのせん断力を有し得る。これに加えて又はこれに代えて、ヒドロゲルが結腸組織に接着されて約1mm×約5mmの組織の開口を満たすとき、ヒドロゲルは約15,000Pa(約150mbar)までの破裂圧力に耐えるように製剤化され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付の図面は、様々な例示的な実施形態を示し、明細書とともに、開示された実施形態の原理を説明する役割を果たす。
図1A図1A及び1Bは、本開示のいくつかの態様による例示的なマクロマー構造を示す。
図1B】同上。
図2A図2A~2Gは、本開示のいくつかの態様による例示的なマクロマーを示す。
図2B】同上。
図2C】同上。
図2D】同上。
図2E】同上。
図2F】同上。
図2G】同上。
図3A図3A及び3Bは、本開示のいくつかの態様による例示的な架橋剤構造を示す。
図3B】同上。
図4A図4A~4Dは、本開示のいくつかの態様による例示的な架橋剤を示す。
図4B】同上。
図4C】同上。
図4D】同上。
図5】本開示のいくつかの態様によるゲルの形成の概略図である。
図6】本開示のいくつかの態様によるゲルの溶解の概略図である。
図7】システインの存在下でのゲルの溶解メカニズムを示す。
図8】水の存在下でのゲルの溶解メカニズムを示す。
図9】本開示のいくつかの態様による、例示的な架橋剤との可能な反応を示す。
図10】実施例1で述べるゲル強度のチャートである。
図11A図11A及び11Bは、実施例2で述べるゲル強度及びゲル膨潤率のチャートである。
図11B】同上。
図12A図12A~12Eは、実施例3で述べるゲル強度及びゲル化時間のチャートである。
図12B】同上。
図12C】同上。
図12D】同上。
図12E】同上。
図13】実施例4で述べる例示的な架橋剤の合成を示す。
図14】実施例6で述べるゲルの形成に使用される架橋剤及びマクロマーを示す。
図15】実施例6で述べるゲル化測定結果を示す。
図16図16及び17は、実施例6で述べるヒドロゲルのレオロジー測定結果を示す。
図17】同上。
図18】実施例6で述べるNHSエステル及び内部エステル結合におけるアミド化反応速度を報告する。
図19】実施例6で述べる加水分解をモニタリングするためのH NMRデータを示す。
図20】実施例6で述べる異なる温度におけるヒドロゲルの貯蔵弾性率データを示す。
図21】実施例6で述べるヒドロゲルの膨潤を報告する。
図22】実施例6で述べるヒドロゲルの接着測定結果を示す。
図23】実施例6で述べるヒドロゲルの細胞毒性の結果を報告する。
図24図24及び25は、実施例6で述べるヒドロゲルの細菌移動研究を報告する。
図25】同上。
図26】実施例6で述べるヒドロゲルのSEM画像である。
図27図27及び28は、実施例6で述べるヒドロゲルの寒天プレートアッセイ結果を示す。
図28】同上。
図29】実施例7で述べるいくつかの例示的な架橋剤の合成を示す。
図30】実施例8で述べる様々なヒドロゲルについて測定された特性を示す。
図31】実施例8で述べる様々なヒドロゲルのSEM画像を示す。
図32】実施例8で述べるマクロマーとの反応前後の架橋剤のH NMRスペクトルを示す。
図33】実施例8で述べる架橋剤のNHS加水分解を調査するH NMRスペクトルを示す。
図34】実施例8で述べる様々なヒドロゲルの動態研究を報告する。
図35】実施例8で述べるヒドロゲルのひずみスイープ及び周波数スイープを報告する。
図36図36及び37は、実施例8で述べるヒドロゲルの貯蔵弾性率を報告する。
図37】同上。
図38】実施例8で述べるヒドロゲルの膨潤を報告する。
図39】実施例8で述べるヒドロゲルの溶解を報告する。
図40図40及び41は、実施例8で述べるヒドロゲルのレオロジー測定結果を報告する。
図41】同上。
図42】実施例8で述べるヒドロゲルの溶解結果を報告する。
図43】実施例8で述べるヒドロゲルの細胞生存率を報告する。
図44-1】図44は、実施例8で述べるin vivo研究計画を示す。
図44-2】同上。
図45図45~49は、実施例8で述べる様々な組織サンプルのH&E染色を示す。
図46】同上。
図47】同上。
図48】同上。
図49】同上。
図50】実施例8で述べる創傷被覆材として使用されるヒドロゲルの溶解の概略図である。
図51】実施例9で述べるいくつかの例示的な架橋剤の合成を示す。
図52】実施例10で述べる例示的なマクロマーの合成を示す。
図53】実施例10で述べるPEI及びPEI-SH分子の第一級アミンを検出するTNBSアッセイの結果を示す。
図54】実施例11で述べるヒドロゲルのレオロジー測定結果を示す。
図55】実施例11で述べる架橋剤のH NMRスペクトルを示す。
図56】実施例11で述べる破裂圧力を測定するために使用されるシステムを示す。
図57】実施例11で述べるヒドロゲルの破裂圧力データを報告する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
前述の全般的な説明及び以下の詳細な説明は両方とも例示的かつ説明的なものにすぎず、特許請求の範囲に記載されている特徴を限定するものではない。本明細書で使用される場合、「含む」、「有する」、「包含する」という用語又はそれらの他の変形は、要素のリストを含むプロセス、方法、物品、又は装置がそれらの要素のみを含むのではなく、明示的に列挙されていない、又はそのようなプロセス、方法、物品、又は装置に固有の他の要素を含み得るように、非排他的な包含をカバーすることを意図している。本開示では、例えば「約」、「実質的に」、「概して」、及び「およそ」などの相対的な用語は、記載された値又は特性における±10%の変動の可能性を示すために使用される。全ての範囲は上限・下限を含むものと理解され、例えば、5重量%~10重量%のマクロマー含量には、5重量%、10重量%、及びそれらの間にあるすべての値が含まれる。
【0012】
本開示の実施形態は、当技術分野における1つ以上の制限に対処することができる。しかしながら、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義されるものであり、特定の問題を解決する能力によって定義されるものではない。本開示には、ゲル、例えばヒドロゲルを形成するように配合された組成物及びシステム、ならびに例えば胃腸管の組織への適用に有用なゲル/ヒドロゲル形態の組成物が含まれる。本明細書のヒドロゲルは、ポリペクトミーなどの医療処置の直後に適用される、一時的で低侵襲性のin situヒドロゲル被覆材として機能し得る。ヒドロゲルは、創傷を覆って保護することにより、合併症の可能性を予防又は軽減することができる。生体材料設計の観点から見ると、被覆材は次の1つ以上を達成できる:1)in situで迅速に形成される;2)結腸組織に接着する;3)非細胞毒性である;4)3~5日で自然に溶解する;5)創傷滲出液を吸収するために最大200%まで膨潤する;6)細菌の拡散又は移動を防止する;及び/又は7)結腸内腔の展性のある形状に適合する。本明細書のゲルは、ヒドロゲル組成に応じて、ゲル化速度、接着強度、膨潤、細胞毒性、及び/又は分解などの所望の特性を備えるように配合することができる。本明細書の組成物は、内視鏡を通して挿入されるカテーテルなどの適切な医療装置によって対象に送達され得る。例えば、デュアルルーメンカテーテルが使用されてもよい。ヒドロゲルのバリア特性は、細菌の移動を防ぐのに役立ち得る。
【0013】
本明細書の組成物、システム、及び方法は、とりわけ固有の凝集力及び組織への接着を含む、一連の特性を提供し得る。このような特性により、本明細書のゲルは、体管腔、例えばGI管の薄い、損傷した、及び/又はその他の損傷を受けた組織のための保護バリアとして機能し得る。例えば、例示的な組成物、例えば、ゲルを形成するための製剤又はシステムは、GI管に沿った標的部位に適用することができ、組成物は架橋してゲルを形成することができ、これにより、標的部位にバリア保護/治療を提供することができる。本明細書の組成物及びゲルシステムの成分は、例えば医療処置の前、最中、及び/又は後の組織保護に有利な所望の特性を提供し得る。本明細書の組成物及びシステムは、適切な方法又は技術によって標的部位に送達され得る。例えば粘度などの組成物の特性は、医療処置に有用なデバイスの中でも特に、例えば内視鏡を含むシングル/マルチルーメンカテーテル、及びシリンジなどの適切な医療デバイスを介したゲル形成製剤の標的部位への送達可能性を促進し得る。例えば、ゲル形態の本明細書の組成物は、室温(約22~25℃)で約0.010Pa・sから、例えば約0.015Pa・sまでの範囲、例えば約0.013Pa・sの粘度を有し得る。組成物又はゲルシステムの成分は架橋してゲルを形成してもよく、これには1つ以上の成分をpH値や光などの刺激で、又はそのような刺激の存在下で活性化することが含まれ得る。本明細書のヒドロゲルは、マクロマー及び架橋剤から形成される親水性の三次元ポリマーネットワークであってもよい。本明細書のゲル、例えばヒドロゲルは、架橋を開始するための適切なpH条件下又は露光下でマクロマーと架橋剤とを組み合わせることによって形成され得る。
【0014】
本開示に有用な例示的なマクロマーには、ポリエチレングリコール(PEG)系ポリマー、ポリ(1,2-グリセロール)カルボナート(PGC)系ポリマー、及びポリ(エチレンイミン)系ポリマーが含まれる。マクロマーは、架橋剤との反応に利用できる、アミン、アルケン、及び/又はチオール官能基などの複数の官能基を有し得る。図1A及び1Bは、アミン官能基を有する分岐ポリ(エチレンイミン)(図1A)及びチオール官能基を有する分岐ポリ(エチレンイミン)(図1B)を表す例示的なマクロマー構造を示す。本明細書で使用できるマクロマーのさらなる例を図2A(ポリ(エチレンイミン))、図2B(4アームPEG-NH)、図2C(アルケン官能基を有するPEG系マクロマー)、図2D(アルケン官能基を有するポリ(1,2-グリセロール)カルボナート系マクロマー。式中、m及びnは合計100%までの各単位の量を表す整数であり、「ran」はランダムコポリマーを指す)、図2E(アルケン官能基を有するノルボルネン部分を含むPEG系マクロマー)、図2F((アルケン官能基を有するノルボルネン部分を含むポリ(1,2-グリセロールカルボナート系マクロマー。式中、l、m、及びnは1以上の整数である)、及び図2G(超分岐ポリ(エチレンイミン)-チオール)(実施例7も参照)に示す。少なくとも1つの例において、マクロマーは、少なくとも1つのノルボレン(norborene)基を有するポリ(1,2-グリセロール)カルボナート系ポリマーを含み、ノルボレン基はマクロマーの1%~90%を構成する。
【0015】
本開示に有用な架橋剤の例としては、1つ以上のN-ヒドロキシスクシンイミド又はマレイミド官能基を含むPEG系ポリマーが挙げられる。図3A及び3Bは、N-ヒドロキシスクシンイミド-PEGポリマー(図3A)及びマレイミド-PEGポリマー(図3B)を表す例示的な架橋剤構造を示す。本明細書で使用することができる架橋剤のさらなる例を図4A~4Dに示す。図4A及び4Bは、2つの異なるタイプのN-ヒドロキシスクシンイミド官能化PEG架橋剤である。構造は、図4Aに示されるものには加水分解可能な内部エステル結合が含まれていることを除いて同じである。図4Cは、N-ヒドロキシスクシンイミド官能化PEG架橋剤の別の例示的な構造を示し、mは1以上の整数、例えば、m=1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20である(実施例5も参照)。図4Dは、マレイミド官能化PEG架橋剤の例示的な構造を示し、nは1以上の整数、例えば、n=1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20である(実施例6も参照)。
【0016】
上述したように、本明細書のゲルは、創傷又は体内の他の関心部位、例えば結腸又はGI管の別の部分の上にバリアを形成できる三次元ポリマーネットワークを形成し得る。図5は、マクロマーと架橋剤との間の架橋の簡略図であり、マクロマーの官能基が架橋剤の官能基と反応する。マクロマーと架橋剤との間の結合の強さに応じて、ゲルのポリマーネットワークが破壊され、例えばゲルが溶解することがある。図6は、ゲルの溶解を簡略化して示す図である。溶解は、例えば加水分解によって生じ得る。図7は、チオール基を有するヒドロゲルの加水分解を示す。溶解はまた、以下のいくつかの実施例で述べるように、システインメチルエステルとの反応などによるチオール-チオエステル交換を介して生じ得る(図8)。後者の場合、システインメチルエステルの第一級アミンが再配列されて不可逆的なアミド結合を形成し、ポリマーネットワークが崩壊した後のゲルの再形成を妨げると考えられる。
【0017】
架橋剤の構造は、溶解速度の制御に役立ち得る。図9は、例示的なN-ヒドロキシスクシンイミド官能化PEG架橋剤の異なる部位で起こり得る反応を示す:(A)NHSエステルとの反応、(B)内部チオエステルとの反応、及び(C)内部エステルとの反応。これらの部位とマクロマーポリ(エチレンイミン)、システインメチルエステル、及び水との反応が示されており、濃い陰影の領域はより高い反応性を有する部分に相当する。したがって、NHSエステル(A)はマクロマーポリ(エチレンイミン)と最も反応性が高く、内部チオエステル(B)はシステインメチルエステルと最も反応性が高い。内部エステルは、マクロマー、システインメチルエステル、及び水に対して同等の反応性を有する。理論に束縛されるものではないが、ゲルの安定性は、隣接するチオエステルを加水分解又はチオール-チオエステル交換から保護する疎水性メチレン鎖の長さに少なくとも部分的に由来すると考えられる。
【0018】
本明細書のゲルは、GI管の組織など(例えば、腸組織、結腸組織など)の対象の標的組織上に形成され得る。例えば、架橋剤及びマクロマーは、これら2つの成分が標的組織部位に到達するまで互いに接触しないように、標的組織部位に別々に送達され得る。いくつかの例では、デュアルルーメンカテーテルが使用され得、例えば、架橋剤及びマクロマーが別個の管腔で標的組織部位に送達される。これら2つの成分は、標的組織部位で互いに接触することができ、適切なpH(例えば、GI管の生理的pHで架橋するように配合された成分)により、又はUVもしくは可視光によって活性化された光開始剤の存在下、標的組織部位でゲル化が起こる。例えば、光開始剤は、架橋剤及び/又はマクロマーの前、後、又は同時に標的組織部位に適用され、その後、光開始剤を活性化するために光が適用され、架橋を開始してゲルを形成することができる。ゲル化は、0秒超かつ30秒未満、25秒未満、20秒未満、15秒未満、10秒未満、又は5秒未満の時間、例えば、1秒超かつ15秒未満の時間で開始され得る。架橋剤及びマクロマー(及び存在する場合には光開始剤)は、GI管などの曲がりくねった環境で重力の引力にさらされたときにゲルを形成する比較的速いゲル化速度を提供するように選択され得る。
【0019】
ゲルは、組織上にin situで形成されると、所望の期間にわたって無傷のままであるのに十分な強度を備えたバリアを形成し得る。例えば、ゲルは、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも4時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも16時間、少なくとも20時間、少なくとも24時間、少なくとも2日、少なくとも5日、少なくとも7日、少なくとも14日、少なくとも21日又は少なくとも30日、組織上に留まり得る。本開示のいくつかの態様によれば、ゲルは、組織上に約1時間~約60日、約1時間~約30日、約1時間~約14日、約1時間~約24時間、約12時間~約48時間、又は約2日~約21日、約5日~約14日の範囲の期間持続するバリアを形成することができる。
【0020】
架橋剤及びマクロマーは、ゲルが組織上にバリアを形成するのに望ましい期間に適合するのに十分な強度を提供するように選択され得る。以下の実施例で考察するように、より高い架橋密度(架橋剤及びマクロマーの官能基の数及び種類に少なくとも部分的に依存する)及び/又は相対的な疎水性は、組織に適用した場合、より長い滞留時間を有するより強力なゲルを提供すると予想される。本明細書のゲルは、生体適合性及び/又は生分解性であり得る。例えば、ゲルは、ゲルの架橋密度及び強度に応じて、時間の経過とともに(例えば、加水分解によって、及び/又は以下の実施例で述べるようにチオール-チオエステル交換などの外因性チオエステルの存在下で)溶解し得る。
【0021】
以下に、内視鏡処置を含む医療処置に有用な例示的な組成物及びシステム、例えば、ゲルを含む、又はゲルを形成するように配合された組成物又はシステムについてさらに説明する。組成物は、治療目的で対象に適用することができ、組成物は、(例えば、その場でゲルを形成するように)様々な機構を介して活性化することができる。
【0022】
pH活性化ゲルシステム
本開示のいくつかの態様では、組成物又はシステムは、生理学的pH、例えば約7~約7.5、例えば約7.35~7.45のpH下で架橋し、粘着性の凝集性ゲルを形成するように配合され得る。したがって、そのような組成物及びシステムは、ゲル、例えばヒドロゲルが中性から塩基性pHでは選択的に架橋し(例えば、酸性pHでは架橋がほとんど又は全くない)、pHが上昇するにつれて反応速度が増加するように、pHで活性化され得る。本開示のいくつかの態様によれば、組成物又はシステムは、ゲル、例えばヒドロゲルを形成するためにpHで活性化され得る。例えば、組成物は、生理的pH、例えば、約7から約7.5の範囲内のpHで架橋する少なくとも2つの成分、例えば、第1の成分(例えば、第1の部分溶液)及び第2の成分(例えば、第2の部分溶液)を含み得る。したがって、例えば、第1及び第2の部分溶液は異なるpH値を有することができ、生理学的pHを提供するために一緒に混合することでゲルを形成することができる。
【0023】
例示的なシステムの第1の成分は、マクロマーを含み得る。マクロマーは、多官能性ポリエチレングリコール(PEG)系又はポリ(エチレンイミン)系ポリマーであり得る。例えば、PEG系ポリマー又はポリ(エチレンイミン)系ポリマーは、少なくとも1500Da(g/モル)、例えば約1800Da~約2200Da、例えば約2000Daの分子量を有し得る。例えば、マクロマーは、約1500Da~約2500Da、約1500Da~約2000Da、又は約1800Da~約2200Daの範囲の分子量を有し得る。ポリ(エチレンイミン)は直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい。いくつかの例では、マクロマーは、複数の官能基を有する多官能性PEG系又はポリ(エチレンイミン)系ポリマーであり得る。複数の官能基は、システムの架橋剤と反応し得る(架橋剤の例は以下でさらに詳細に論じられる)。そのような官能基は、例えば、アミン又はチオール官能基であり得る。いくつかの態様によれば、多官能性PEG系又はポリ(エチレンイミン)系ポリマーは、複数の2~20個の官能基、例えば、4、6、8、又は15個の官能基を含み得る。アミン官能基を有する分岐ポリ(エチレンイミン)(図1A)及びチオール官能基を有する分岐ポリ(エチレンイミン)(図1B)を表す例示的な構造を本開示で使用することができる。いくつかの態様では、マクロマーは緩衝液に溶解される。マクロマーを溶解できる例示的な緩衝液には、ホウ酸緩衝液が含まれるが、これに限定されない。例えば、ホウ酸緩衝液は、約8.5~9.0のpHを有し得る。
【0024】
このシステムの第2の成分は、架橋剤を含み得る。架橋剤の例には、PEG系ポリマーが含まれるが、これに限定されない。例えば、架橋剤として使用されるPEG系ポリマーは、3000Daを超える分子量、例えば約3200Da~約3500Da、例えば約3400Daを有し得る。本開示のいくつかの態様によれば、架橋剤は、約3000Da~約3800Da、約3200Da~約3500Da、又は約3400Da~約3800Daの範囲の分子量を有する。いくつかの例では、架橋剤は、1つ以上のN-ヒドロキシスクシンイミド又はマレイミド官能基を含むPEG系ポリマーであり得る。N-ヒドロキシスクシンイミド又はマレイミド基は、以下でさらに詳細に述べるように、マクロマーと反応し得る。N-ヒドロキシスクシンイミド-PEGポリマー及びマレイミド-PEGポリマーを表す例示的な構造を、それぞれ図3A及び3Bに示す。しかしながら、適切な架橋剤、例えばPEG系ポリマーは、N-ヒドロキシスクシンイミド又はマレイミド官能基に限定されないことに留意されたい。本開示に適したPEG系ポリマーは、ゲルを形成するためのシステムの第1の成分のマクロマーと反応し得る他の官能基を含み得る。
【0025】
いくつかの態様では、架橋剤は、緩衝剤を含む溶液中で提供されてもよく、例えば、架橋剤は緩衝液に溶解されている。例えば、緩衝液は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などのリン酸緩衝液であってもよい。架橋剤が提供される、例えば溶解される緩衝液は、マクロマーが溶解される緩衝液よりも低いpHを有し得る。例えば、架橋剤は、約6.0~6.5のpHを有するPBS溶液に提供、例えば溶解することができる。したがって、本開示によるゲルを形成するためのシステムは、pHで活性化され得、一方が他方よりも高いpHを有する少なくとも2つの緩衝液を含み得る。
【0026】
架橋剤及びマクロマーは、約3:2~7:3のモル比、例えばそれぞれ2:1のモル比の官能基比(例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド:アミン、N-ヒドロキシスクシンイミド:チオール、マレイミド:アミン、マレイミド:チオールなど)で存在し得る。ゲルは、架橋剤及びマクロマーの合計含有量が組成物の総重量に対して少なくとも15重量%である水性組成物であってもよい。例えば、架橋剤の含有量は、組成物の総重量に対して約10~20重量%であってもよく、例えば、約10重量%~約15重量%、約12重量%~約18重量%、又は約15重量%~約20重量%の範囲であってもよい。これに加えて又はこれに代えて、マクロマーの含有量は、組成物の総重量に対して約5~10重量%、例えば、約5重量%~約8重量%、又は約7重量%~約9重量%の範囲であってもよい。上述したように、第1及び第2の部分溶液は、少なくとも2つの異なる緩衝液、例えば、架橋剤に適した第1の緩衝液及びマクロマーに適した第2の緩衝液を含んでもよい。いくつかの態様によれば、第1の緩衝液はリン酸緩衝液を含み、第2の緩衝液はホウ酸緩衝液を含む。水性組成物は、緩衝剤として任意の適切な塩を含み得る。本明細書の組成物によって形成されるゲル、例えばヒドロゲルの機械的特性は、マクロマー及び/又は架橋剤の量によって少なくとも部分的に決定され得ることに留意されたい。例えば、ゲル強度は、水性組成物中のマクロマー及び架橋剤の含有量が増加するにつれて増加し得る。したがって、例えば、水性ゲルシステムの総重量に対して約20重量%又は約25重量%のマクロマー及び架橋剤の組み合わせを含む組成物は、約15重量%のマクロマー及び架橋剤の組み合わせを含む組成物から形成されるゲルよりも高いゲル強度を有するゲルを形成し得る。
【0027】
組成物又はシステムの成分(例えば、マクロマー、架橋剤、及びそれぞれの緩衝液)は一緒に混合することができる。
生理的pHの下では、架橋剤の官能基とマクロマーの官能基が化学的結合を介して相互に反応し、それによって即時のゲル化が可能になる。例えば、組成物が約7~約7.5のpHにある場合、マクロマーと架橋剤が反応してゲルを形成し得る。いくつかの態様では、ゲルは、第1の緩衝液とともにマクロマーを含む第1の成分と、第2の緩衝液とともに架橋剤を含む第2の成分とを混合すると、20秒以内、15秒以内、10秒以内、又は約5秒以内に形成され得る。例えば、ゲルは、約1秒~約15秒、約3秒~約8秒、約5秒~約10秒、又は約2秒~約5秒の範囲の時間で形成され得る。得られるゲル、例えばヒドロゲルは、例えば生理学的環境内で時間の経過とともに受動的に、又はヒドロゲルネットワークを破壊できる薬剤の適用などの要求に応じて溶解可能であり得る。例えば、ゲルは約10~30分間以内に溶解し得る。溶解度は、例えばゲルを水溶液に浸したときのレオロジーを測定することによって、実験室環境内で測定することができる。
【0028】
マクロマー及び架橋剤から形成されたゲルは、望ましい特性を示し得る。例えば、得られるゲル、例えばヒドロゲルの貯蔵弾性率(ゲル強度の尺度として)は、約2.0~10.5kPa、例えば約2.5kPa~約10kPa、約5kPa~約8kPa、又は約3.5kPa~約7.5kPaの範囲であり得る。これに加えて又はこれに代えて、ゲルは、ほぼ室温設定で、例えば最長30日以上などの所望の期間、約2000~10,000Paの範囲のゲル強度(本明細書では貯蔵弾性率G’とも呼ばれる)を保持し得る。さらに、例えば、ゲル、例えばヒドロゲルは、組織、例えば体管腔の組織、例えばGI管の結腸組織に接着した場合、約0.03~0.90N/cm、例えば約0.1~0.6N/cm、例えば約0.05N/cm~約0.4N/cm、約0.5N/cm~約0.9N/cm、又は約0.75N/cm~約0.9N/cm範囲のせん断力を有し得る。
【0029】
これに加えて又はこれに代えて、ゲルは、約200mbarまでの圧力、例えば150mbarまでの圧力、例えば1mbarを超え、200mbar以下(1mbar=100Pa)の破裂圧力(ゲルが組織に接着したときに裂けるか破損する圧力に相当する)に耐えるように配合され得る。ゲルの破裂圧力は、カテーテル及び圧力トランスデューサー(例えば、圧力センサを備えたミラー(Millar)カテーテルを含む)によって測定することができ、これはベースライン圧力及び破裂直前の圧力を測定するために利用され得ることに留意されたい。破裂圧力を測定するために、ゲルを組織サンプルの開口部にin situで形成し、ゲルの凝集及び/又は組織へのゲルの接着が破壊されて流体が組織の開口部を通過するまで圧力が増加する流体にさらすことができる。ゲルが破壊する直前の流体の最大圧力に対応する圧力が破裂圧力である。
【0030】
結腸組織などのGI管の組織に適用されるゲルの破裂圧力は、以下のように測定され得る。まず、およそ1mm×5mmの幅及び長さの寸法を有する開口を組織内に切り込む(開口の深さは組織の厚さに相当し、結腸組織の場合は約5mm)。組織サンプルは、直径約51mm(約2インチ)の領域が容器上の邪魔にならない窓として配置されるように、容器の開口端上に固定される。生理食塩水を容器に導入し、開口を通って流れるようにして、圧力センサをベースライン圧力に校正する。次いで、ゲルをin situで形成させて開口を閉じる。次いで、生理食塩水を容器に導入し、ゲルの開口を溶液が通過して容器から排出されることができなくなるまで、増加する流体圧力を測定する。生理食塩水がゲルを突き破って開口から出る直前の最大圧力が破裂圧力である。本明細書のいくつかの例では、ゲルは、結腸組織に接着した場合、少なくとも50mbar、少なくとも100mbar、又は少なくとも120mbar(1mbar=100Pa)の破裂圧力に耐えるように配合され得る。例えば、本明細書のゲルは、結腸組織に接着した場合に最大約150mbarの破裂圧力、例えば、約50mbar~約150mbar、約100mbar~約150mbar、又は約125mbar~約150mbarの範囲の破裂圧力に耐えるように配合され得る。破裂圧力は、上述のように、1mm×5mmの開口サイズを使用して、結腸組織に対して測定され得る。
【0031】
動脈又は他の血管閉塞デバイスとして使用されるゲルの破裂圧力は、直径4~6mmの血管を閉じるためにin situでゲルを形成することによって測定され得る。シリンジポンプ及び圧力トランスデューサーを使用することができ(図56及び実施例11を参照)、ゲルサンプル中の漏れが観察されるまで、DOを1mL/分の速度でシリンジポンプを通してポンプ輸送することができる。圧力トランスデューサーから検出されるピーク圧力が破裂圧力として記録される(圧力の単位、1mmHg=133.322Pa)。
【0032】
光活性化ゲルシステム
本開示はまた、刺激としての光によって活性化されるとゲルを形成するように配合された組成物及びシステムを含む。いくつかの例では、組成物は、光(例えば、UV光又は可視光)に曝露されたときに架橋して凝集性ゲルを形成するように配合され得る。したがって、そのような組成物及びシステムは、光活性化されるものとして説明され得る。このような組成物及びシステムは、例えば、マクロマー、架橋剤、光開始剤、及び緩衝液を含み得る。緩衝液は、使用する緩衝液に応じて、生理学的pH付近又はそれをわずかに超える任意の適切な緩衝液であり得る。例えば、リン酸緩衝液は、7.0~8.0のpH範囲にあり得る。
【0033】
マクロマーは、少なくとも1つの官能基を含む多官能性PEG系ポリマーであり得る。PEG系ポリマーは直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい。マクロマーの少なくとも1つの官能基は、例えば、チオール基、又はアルケン基の中でも特に、ビニル基、アリル基、アクリラート基、もしくはノルボルネン基などのアルケン基を含み得る。マクロマーの官能基は、例えばゲル化時間を含む、ゲルの所望の特性に基づいて選択され得る。マクロマーの官能基の数は、4~100の間、例えば、10~50の間、25~65の間、又は45~85の間であり得る。
【0034】
いくつかの例では、架橋剤は、少なくとも1つの官能基を含むPEG系ポリマーであり得る。架橋剤の官能基は、マクロマーと架橋剤とを架橋するために、マクロマーの官能基と相補的であってもよい。例えば、架橋剤の少なくとも1つの官能基は、チオール基、又はビニル基、アリル基、アクリラート基、ノルボルネン基、又は他の種類のアルケン基などのアルケン基を含み得る。架橋剤の官能基は、ゲルの所望の分解特性に基づいて選択され得る。本明細書のいくつかの例では、架橋剤の官能基の数は、2~4の間、例えば、2、3、又は4つの異なる官能基であり得る。
【0035】
いくつかの例では、マクロマーはチオール基を含み、架橋剤はアルケン基を含み、又はその逆でもあり得る。例えば、架橋剤は、チオール基を含むPEG系ポリマーを含むことができ、マクロマーは、アルケン基、例えば、アクリラート基を含む。別の例では、マクロマーは、チオール基を含むPEG系ポリマーを含むことができ、架橋剤は、アリルエーテル基などのアルケン基を含むPEG系ポリマーを含み得る。
【0036】
上述したように、組成物は、例えばゲル化を開始するために光開始剤を含み得る。したがって、例えば、光開始剤は、光の所与の波長の光を吸収する化合物であり得る。本開示の態様によれば、光開始剤は、UV光(例えば、約100~390nmの間の波長)又は可視光(例えば、約390~800nmの間の波長)を吸収し得る。UV光によって活性化される、本明細書の組成物に適した光開始剤の例には、限定するものではないが、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(Irgacure2959)及びリチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸(LAP)が挙げられる。UV光によって活性化されるゲル化は、例えばUV光曝露の約5秒以内に直ちに起こり得る。可視光によって活性化される、本明細書の組成物に適した光開始剤の例としては、限定するものではないが、エオシンYが挙げられる。可視光によって活性化されるゲル化は、可視光暴露後短時間で又は直後に、例えば、可視光暴露の約10秒以内に起こり得る。いくつかの例では、光開始剤は白色光、例えば約390nm~約700nmの波長を吸収する。したがって、組成物にUV光又は可視光(例えば、白色光)を照射すると、使用される光開始剤に応じて、組成物は架橋してゲルを形成し得る。UV光又は可視光の強度は、約1mW/cmから約150mW/cmの範囲であり得る。例えば、UV光(365nm)強度は、約4mW/cmから約120mW/cmの範囲であってもよく、白色光強度は、約10mW/cm(例えば、光開始剤の最大吸収時)から約45mW/cmまでの範囲、例えば42.9W/cmであってもよい。
【0037】
いくつかの例では、組成物は、光重合ゲル化反応速度を促進し又は高めるための添加剤を含み得る。例示的な添加剤には、例えば、チロシン誘導体、例えば、チロシンメチルエステル又はチロシンエチルエステルなどの小分子添加剤が含まれる。このような組成物は、可視光、例えば白色光を吸収する光開始剤を含み得る。
【0038】
マクロマー、架橋剤、及び光開始剤の前述の成分は、組成物の総重量に対して約10~25重量%の合計濃度で存在し得る。より高い量(例えば、約20~25重量%)では、組成物は比較的短いゲル化時間を有し、比較的高い弾性を有するゲルをもたらし得る。架橋剤の含有量は、組成物の総重量に対して5~10重量%であり得る。これに加えて又はこれに代えて、マクロマーの含有量は、組成物の総重量に対して5~15重量%であり得る。マクロマーの官能基と架橋剤の官能基との間のモル比は、組成物中で1:1から2:1の範囲であり得る。いくつかの例では、上記モル比は約1:1である。前述の部分の1:1の比は、前述の2:1のモル比と比較して、弾性、すなわちゲル弾性率の増加をもたらし得ることに留意されたい。いくつかの例では、組成物又はシステムは、組成物又はシステムの架橋剤ごとに2つ以上の官能基を含むマクロマーを含み得る(例えば、マクロマーと架橋剤が1:1の比であり、マクロマーは少なくとも2つの官能基を含むか、又はマクロマーと架橋剤が1:2の比であり、マクロマーは少なくとも4つの官能基を含む)。さらに、官能部分の異なる化学量論量、例えばマクロマーあたりの官能基又は反応性基の数が、得られるゲル、例えばヒドロゲルの機械的特性と膨潤率の両方に影響を与え得ることに留意されたい。例えば、光活性化ゲルシステムのマクロマーの官能基の数が増加すると、より膨潤率の低い、より硬い(例えば、より粘稠な)ゲルが得られ得る。
【0039】
組成物は、約0.1mM~約100mMの光開始剤を含み得る。より高い光開始剤濃度、例えば、約90~100mMは、より低い濃度、例えば、約0.1~1mMと比較して、比較的速いゲル化速度を提供し得る。組成物が添加剤を含む場合、組成物は、最大10mMの添加剤、例えば、約0.1mM~約10mM、約0.1mM~約5mM、約1mM~約5mM、又は約0.5mM~約1mMを含み得る。
【0040】
得られる光活性化ゲル、例えばヒドロゲルは、医療処置の前、最中、及び/又は後に組織に適用するのに有益な多くの所望の特性を示し得る。例えば、ゲル、例えばヒドロゲルは、500~2500Pa、例えば約500Paから約1500Pa、約1000Paから約2000Pa、約750Paから約1250Pa、約1750Paから約2500Paの範囲のゲル強度(貯蔵弾性率G’とも呼ばれる)を示し得る。ゲル強度G’は、組成物中の濃度、マクロマー及び架橋剤、及び/又は成分相互の比率に依存し得る。ゲル、例えばヒドロゲルは、初期質量の約1.8から約1.9倍、又は初期質量の約2.3から約2.4倍の範囲の膨潤比mf/mi(吸水によるゲルの重量の変化倍数、すなわち、mfはゲルを緩衝液に浸した後の特定の時点におけるゲルの重量であり、miは緩衝液に浸す前のゲルの初期重量)を示し得る。得られたゲルは、比較的低レベルの細胞毒性を示し得る。例えば、ゲルは、NIH3T3線維芽細胞などの細胞株に24時間曝露した後、少なくとも97%を超える生存率を示し得る。
【0041】
以下の実施例は本開示を説明することを意図しているが、本質的に限定するものではない。本開示は、前述の説明及び以下の実施例に沿った追加の実施形態を包含することが理解される。本開示は、以下にさらに説明する実施例に限定されるものではなく、本開示の範囲から逸脱することなく追加の条件を包含する。
【0042】
実施例
実施例1
例示的なpH活性化組成物(ゲルシステム)を、湿潤環境において表1に従って室温でex vivoで調製した。第1の部分溶液を、アミン末端PEG系マクロマー又はポリ(エチレンイミン)マクロマーとpH8.5のホウ酸緩衝液とを混合することによって調製した。これとは別に、pH6.5のリン酸緩衝液に溶解したN-ヒドロキシスクシンイミド架橋剤を含む第2の部分溶液を調製した。
【0043】
【表1】
【0044】
第1の部分溶液と第2の部分溶液を一緒に混合することで水溶液を形成し、この水溶液はその後ゲルを形成した。組成物を1時間放置して完全にゲル化させてから、もたらされた特性を評価した。
【0045】
ゲルのゲル強度(貯蔵弾性率G’)をTA instruments DHR-2レオメーターを使用して室温(約22~25℃)で測定し、1Hzの周波数で1~100%のひずみスイープを使用して評価した。線形粘弾性領域を、曲線のゲル強度の傾きが10%低下するまで、ひずみの割合が増加するに従い決定した。次に、3%ひずみの線形粘弾性領域内で1~10Hzの周波数スイープを行った。ゲルが溶解するまでゲルを50mM PBSに浸漬した後、t=0、4時間、24時間、48時間、7日、及び30日の時点で周波数スイープを行った。
【0046】
図10は、上記の時間中のゲルのゲル強度を示す。示されているように、ゲルは少なくとも30日間、少なくとも1,000Paのゲル強度を示した。ゲルは、t=0で約4,000Paの初期ゲル強度を示し、t=24時間で約8,000Paのピークゲル強度を示した。これらの特性は、pHで活性化されたゲルが少なくとも30日間、組織のための持続的な保護バリアとして機能し得ることを示す。
【0047】
ゲル化時間を、逆さチューブ試験を使用して決定した。ゲル化は、第1及び第2の部分溶液を混合した直後に、逆さにしたときにゲルがバイアルの側面を流れ落ちなくなった時として決定された。ゲル化時間は1秒未満で測定された。
【0048】
膨潤率を、50mM PBSに浸漬した後のヒドロゲルの重量パーセントとして、以下の式:
【0049】
【数1】
【0050】
に従って決定した。ただし、mfは、ゲルを緩衝液に浸した後の特定の時点でのゲルの重量であり、miは、緩衝液に浸す前のゲルの初期重量である。
【0051】
【表2】
【0052】
接着測定値は、生体外ブタ結腸組織を使用し、Instron(登録商標)マシンによるラップせん断試験によって決定した。この組織を約51mm×25mm(約2インチ×1インチ)の断片に切り分けた。ゲルを結腸組織の2片の間に置き、湿潤チャンバー内に1時間放置して完全にゲル化させた。この例では、ゲル化を、体外組織/接着測定をより適切に処理できる約5~10分まで遅らせたことに注意されたい。したがって、完全なゲル化を確実にするために、組織サンプルをチャンバー内に1時間放置した。次に、ゲル組織構造体をInstron(登録商標)に取り付け、結腸組織の2つの細片を10mm/分の速度で互いに反対方向に引っ張り、ヒドロゲルの凝集破壊が観察されるまで、力を継続的に測定した。接着力の測定値は0.03~0.85N/cmの範囲であった。
【0053】
実施例2
2つのUV活性化組成物(ゲル組成物1及び2)を、表3に従って、アルケン含有PEG系マクロマー、チオール含有PEG系架橋剤、及び光開始剤LAPをpH7.4のPBS中で混合することによって、室温でex vivoで調製した。ゲル組成物1を、図2Dに示されるPGC系マクロマーを使用して調製し、ゲル組成物2を、図2Cに示されるPEG系マクロマーを使用して調製した。架橋剤は、PEGジチオール架橋剤又は4アーム-PEG-チオール架橋剤であった。
【0054】
【表3】
【0055】
365nmのUV光の手持ち式4Wランプを使用して、組成物をゲル化した。
緩衝液中でゲルを膨潤させる前後のゲル強度を、室温(約22~25℃)で8mm平行プレートを使用するTA機器DHR-2レオメーターで測定した。周波数スイープを1%のひずみで行い、ゲル強度G’をスイープの線形粘弾性部分から特定した。
【0056】
図11Aは、膨潤前後のゲルのゲル強度を示す。組成物1から得られたゲルは、膨潤前では約1,800Paのゲル強度を示し、膨潤後では約1,500Paのゲル強度を示した。組成物2から得られたゲルは、膨潤前では約700Paのゲル強度を示し、膨潤後では約1000Paのゲル強度を示した。組成物1は、1分子あたり4つの反応性部分を有するマクロマーを有する組成物2と比較して、1分子あたりより多くの反応性部分を有するマクロマーを含んでいることに留意されたい。したがって、組成物1は組成物2よりも高い架橋密度を示し、その結果、より強いゲル強度が得られた。
【0057】
膨潤率を、上記の数式1に従い、初期のゲルの質量(mi)を取得し、次に緩衝液中で24時間膨潤させ、過剰な緩衝液を拭き取った後のゲルの質量(mf)を取得することによって決定した。
【0058】
図11Bは、両方のゲルのゲル膨潤率(図11Bにはパーセントではなく、mfをmiで割った比率として表される)を示す。組成物1から得られたゲルは約1.9の比を示し、一方、組成物2から得られたゲルは約2.4の比を示した。2つの組成物間の膨潤率の違いは、使用したマクロマーの違いの結果であるとも考えられ、その結果、架橋密度が異なる。架橋密度が高くなると膨潤率が低くなることが分かる。
【0059】
実施例3
例示的な可視光活性化ゲルシステム(組成物3)を、表4に従って、アルケン含有PEG系マクロマーと、チオール含有PEG系架橋剤、光開始剤エオシンY、添加剤チロシンエチルエステル、及びpH7.0のリン酸緩衝液を混合することにより、室温でex vivoで調製した。
【0060】
【表4】
【0061】
このシステムを、広スペクトルの白色光(400~700nm)のデュアルグースネック光ファイバー照明装置を備えたAmScope150Wハロゲンランプを使用してゲル化した。
【0062】
ゲル強度を、図12Aに示すように、実施例2と同様にt=0、4時間、24時間、48時間、及び7日の時点で室温(約22~25℃)で測定した。
ゲルは、t=0で約600Paの初期ゲル強度を示し、その後7日間にわたってゲル強度が増加し、ピークゲル強度はt=24時間の約2,100Paであった。ゲルは、少なくとも7日間、少なくとも600Paのゲル強度を示した。したがって、これらの結果は、ゲルが少なくとも7日間、組織のための持続的な保護バリアとして機能し得ることを示す。
【0063】
ゲル化時間を、20mm平行板を用いて、ハロゲンランプの2つのグースネックを溶液に向けてから2枚の平行板間に露光し、室温(約22~25℃)でDHR-2レオメーターで測定した。1Hzの周波数で時間スイープを行った。30秒でランプを点灯し、その後ゲル化が起こった時間を記録した。ゲル化時間を図12Bに示す。示されているように、チロシンエチルエステルの濃度が増加するにつれて(0から10mMまで)、ゲル化速度が増加する。
【0064】
ゲル前駆体の粘度を、50mm1.008°のコーンプレートを使用し、37℃でDHR-2レオメーターでのフロースイープから測定した。図12Cに示される結果は、光開始前に、ゲル前駆体溶液が、長いカテーテルを通して溶液を適用できるようなニュートン特性、及び、1/sを超えるせん断速度範囲での十分に低い粘度を示したことを示す。さらに、溶液は顕著なせん断減粘又は増粘を示さなかった。
【0065】
光開始剤及びゲルのin vitro細胞毒性を、10%ウシ胎仔血清と1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で培養したNIH3T3線維芽細胞を使用して試験した。細胞を、96ウェルプレート又は12ウェルプレートのいずれかに、それぞれ2,500細胞/ウェル又は25,000細胞/ウェルの密度で播種し、一晩接着させた。光開始剤溶液及びゲル溶液を、in vitroで試験する前に、0.22μmフィルターを使用して滅菌濾過した。次いで、ゲル溶液を、150Wハロゲンランプを使用してバイオセーフティキャビネット内でゲル化し、孔径3μmのトランズウェルインサートを使用して細胞と共培養した。細胞を24時間、処理とともにインキュベートした後、MTS(3-(4,5-ジメチルトリアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-トラトラゾリウム、分子内塩)アッセイを使用して生存率を測定した(CellTiter96(商標)AQueous One、Promega)。細胞生存率を、対照の未処理細胞に対して正規化した。
【0066】
図12D~12Eは、上述の細胞毒性試験の結果を示す。光開始剤のIC50は約0.223mMであり、これはゲル製剤で使用した濃度を上回る。3重量パーセントのゲル製剤すべてについて97%を超える細胞生存率を実証している図12Eに見られるように、IC50未満の光開始剤を使用することにより、ゲルでは細胞毒性の問題は予想されなかった。さらに、3つのゲル製剤の生存率の間に差は見られず、ゲルの他の成分についても、溶液中の濃度が増加してもそれらに関連する重大な毒性がないことが示された。
【0067】
実施例4
図4Aに示す架橋剤(「SA架橋剤」)を、図13に示すように、以下のように合成した。
【0068】
まず、SA-PEG-SAを次のように合成した。ポリ(エチレングリコール)(PEG;平均Mn3000g/mol;Sigma Aldrich)(5g、1.6mmol)を、三口丸底フラスコ中で120℃で撹拌しながら溶解させた。溶解したら、フラスコを真空下に置き、温度を80℃に下げて30分間撹拌した。フラスコを窒素で3回パージした。無水コハク酸(SA)(99%;Aldrich)(0.75g、7.5mmol)をフラスコに加えた。反応物を窒素下で18時間撹拌した。次いで、内容物を最少量の無水塩化メチレン(DCM;99%;無水;Sigma Aldrich)に溶解させ、ジエチルエーテル中で沈殿させた。最後に、生成物を濾過し、真空下で1日間乾燥させた(白色固体、収率99%)。プロトン及び炭素の核磁気共鳴(H-NMR、13C-NMR)スペクトルを、Agilent500MHz分光計でCDCl中で取得した。SA-PEG-SA生成物のNMRスペクトルは以下の通りであった:H NMR(500MHz),CDCl:δ2.62(m,8H),3.64(オーバーラップ,288H),4.24(m,J=4.6Hz,4H);13C NMR(500MHz),CDCl:δ174.0,172.1,70.5,63.8,29.3,28.3ppm。SA-PEG-SA中間体は99%の反応収率で得られた。
【0069】
次に、SA-PEG-SA(4g、1.3mmol)を乾燥した丸底フラスコに加え、15mLの乾燥DCMに溶解させた。N-ヒドロキシスルホンイミド(NHS;99%、Sigma Aldrich)(0.4g、3.8mmol)及びジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC;99%、Sigma Aldrich)(0.8g、3.8mmol)を加え、フラスコをアルゴンでパージした。混合物を室温で18時間撹拌した。ジシクロヘキシル尿素を濾過し、溶液を濃縮し、ジエチルエーテル中で沈殿させた。得られた生成物であるSA架橋剤(白色の水溶性粉末)を濾過により収集し、真空下で一晩乾燥させた(白色固体、収率98%)。構造を、H NMR、13C NMR、DSC、及びGPCによって確認した。上記のように測定されたSA架橋剤のNMRスペクトルは以下の通りであった:H NMR(500MHz),CDC1:δ2.70(t,J=1.0Hz,4H),2.77(t,J=1.0Hz,8H),2.89(t,J=1.0Hz、4H),3.57(オーバーラップ,296H),4.20(t,J=1.0Hz,4H)ppm。13C NMR(500MHz),CDC1:δ170.9,168.9,167.6,70.7,64.1,28.6,26.2,25.5ppm。
【0070】
分子量及びポリマー分布を、移動相としてテトラヒドロフラン(THF)中で流速1.0mL/分でゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用して測定した。SA架橋剤の場合、M:2949g/mol;PDI:1.02。2つの同一のJordi Gel DVBカラム(Jordi Labs、250mm×10mm、孔径10Å)を取り付けたOptiLab DSP干渉屈折計(Wyatt Technology)で、GPC分析を行った。SA架橋剤の場合、GPC:M:2893g/mol。SMART-beam IIとフラッシュ検出器を備えたBruker autoflex Speed分光計でマトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI-TOF)を行った。SA架橋剤の場合、MALDI-TOF(pos):M:3600m/z。示差走査熱量計(DSC)スペクトルをQ100TA機器熱量計で取得し、融点(mp)を決定するために使用した。SA架橋剤の場合、Mp(DSC):43.5℃。
【0071】
実施例5
図4Bに示す架橋剤(「SVA架橋剤」)(平均Mn3400)を、Lay san Bio,Inc.から入手し、グローブボックス内に保管した。上記のように測定したNMRスペクトルは以下の通りであった:H NMR(500MHz),CDC1:δ1.69(tt,J=7.3,7.4 4H),1.83(tt,J=6.1,7.3,4H),2.64(t,J=7.3,4H),2.83(b,8H),3.49(t,J=6.1,4H),3.63(m,300H)ppm。13C NMR(500MHz),CDCl:δ169.1,168.6,70.4,30.6,28.4,25.5,21.4ppm。SVA架橋剤について以下を測定し、実施例4に記載したように測定した。MALDI-TOF(pos):M:3700m/z;GPC:M:4635g/mol;M:4812g/mol;多分散指数PDI:1.03;Mp(DSC):47.6℃。
【0072】
実施例6
図4Aに示される架橋剤(「SA架橋剤」)及び図4Bに示される架橋剤(「SVA架橋剤」)と超分岐ポリエチレンイミン(PEI)(平均Mn2000g/mol、製造元Polysciences)又は4アームPEG-NHHCl塩(4アームPEG-NH)(スターポリマー、Mn5000g/mol、製造元JenKem)とを混合することによって、図14に示すようにヒドロゲルを調製した。簡潔に述べると、各PEG架橋剤を0.1Mリン酸緩衝液、pH6.5に溶解させた。PEI及び4アームPEG-NHのそれぞれを、0.3Mホウ酸緩衝液、pH8.6に溶解させた。架橋剤とマクロマー溶液を混合した後に得られるpHをpH8.5に調整した。アミン:NHSのモル比は1:15であり、ヒドロゲルは10、15、又は20重量パーセント(重量%)で調製された。架橋におけるマクロマーのアミン基対NHS基の比率は一定に保たれ、溶液中の量を増やすために重量%を増加させた。ヒドロゲルの特性を、次のセクションで説明するように測定及び分析した。
【0073】
データをGraph Pad Prism8で分析した。ヒドロゲルの特性評価研究の場合、エラーバーは3回以上の反復から得た結果の標準偏差を表す。細菌移動研究の場合、エラーバーは、それぞれ3つ以上の技術的反復で実施された3つの生物学的反復からの結果の標準偏差を表す。スチューデントのT検定を使用して結果を比較し、有意性を評価した。*p<0.05は有意である。
【0074】
ゲル化測定
比較的速いゲル化時間(例えば、3秒未満)は、例えば、ポリペクトミー処置又は他の内部創傷被覆の際に、in situでゲルを形成するのに有用であり得る。ゲル化測定では、架橋剤とアミン末端マクロマー溶液を混合し、2mLガラスバイアルに入れた。ゲル化は、逆さチューブ試験の仕組みを使用して試験した。10秒ごとにチューブを反転させた。ゲル化は、バイアルを逆さにしたときに溶液が底に残る時間によって定義した。すべてのゲル化研究を室温25℃で実施した。
【0075】
図15はゲル化測定を示す。パネルA)様々な重量パーセント及び様々な配合でのヒドロゲルのゲル化時間、及びパネルB)上昇していくpHでのSA架橋剤+PEIヒドロゲル、15重量%のゲル化時間。*p<0.05。SA架橋剤+PEIヒドロゲルは、図15のパネルA)に示されるように、重量パーセントが10重量%から20重量%に増加するにつれてより速くゲル化した(パネルA)のすべてのヒドロゲルはpH8.5で形成された)。ゲル化時間の増加は、反応性基の濃度が高く、したがってより迅速なゲル化が促進されることに起因すると考えられる。次に、SA架橋剤とPEI又は4アームPEG-NHマクロマーのいずれかとの間のゲル化時間を15重量%で比較した。ゲル化時間は約90秒(1.5分)で同様であり、これは、ゲル化がアミンマクロマーとは無関係であることを示唆している。
【0076】
SVA架橋剤+PEIヒドロゲルは、SA架橋剤+4アームPEG-NH及びSA架橋剤+PEIヒドロゲルと同様の速度でゲル化することが判明した。しかしながら、SVA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルは、SA架橋剤+4アームPEG-NHよりも速くゲル化することが観察された。このゲル化時間の増加は2つの要因によるものと考えられる。4アームPEG-NHマクロマーは4つの長いアミン末端アームを含み、分子量は5kDaである。PEIは、分子量2.0kDaのより凝縮された分岐マクロマーである。4アームPEG-NHの長いPEGアームは、末端アミンを含む短いアームとより小さい分子量を有する分岐ポリマーであるPEIと比較して立体自由度が増すため、SVA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルのより速いゲル化時間に有利であると考えられる。この、より小さい分岐PEI構造で観察される立体障害は、より高分子量でアームの長い星形4アームPEG-NH構造と比較して、ヒドロゲルネットワーク内のNHS反応性基と容易に反応する能力を低下させると考えられる。
【0077】
ヒドロゲルネットワークの欠陥に関しては、末端アミンはNHSエステルでの結合を促進するが、SA架橋剤にはマクロマーアミド化及び加水分解にも影響されやすい内部エステルが含まれている。SA架橋剤におけるアミド化に好ましい部位はNHSエステルにあり、これはモデル系のH NMR分析、t1/2=0.60min-1によって確認される。図19は反応のNMRスペクトルの変化を示し、図18は、NHSエステル及び内部エステルのNMRにおけるシグナルのモニタリング変化、時間の関数としての変化を示す。可能性は低いと考えられるが、内部エステルでアミド化が起こり、ヒドロゲルネットワークに欠陥が生じる可能性がある(t1/2=1.8min-1)(図18を参照)。さらに、エステル結合における加水分解の半減期は、pH8.0でt1/2=<5分であり、さらにヒドロゲルネットワークに欠陥が生じる。内部エステルの加水分解とアミド化は競合反応であるため、SVA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルと比較してゲル化時間が遅くなる可能性がある。
【0078】
ゲル化時間に対するpHの影響も、図15のパネルB)にまとめたように、15重量%のSA架橋剤+PEIヒドロゲルについて、pH8.5、pH9.5、及びpH10.5で評価した。ゲル化速度は、PEI緩衝溶液のpHが高くなるほど増加した:pH8.6で100秒、pH9.5で60秒、pH10.5で5秒。比較のために、図15のパネルA)を参照すると、pH8.5では、SA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルは80秒でゲル化し、SVA架橋剤+PEIヒドロゲルは90秒でゲル化し、SVA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルは45秒でゲル化した。PEI溶液のpHを上げると、ゲル化が速くなった。
【0079】
レオロジー測定
レオロジー測定値を、TA Instruments DHR-2レオメーターを使用して得た。レオロジー8mm平行プレートを使用して、22℃でレオロジー測定を行った。振動ひずみスイープを、0.1Hzの周波数で0.1~10%のひずみまで実施した。ひずみスイープから、ひずみパーセント(それ以下ではG’が水平から10°逸脱する)として線形粘弾性領域を決定した。その後、周波数スイープを30日にわたりすべての時点で実施した。ひずみは3%の線形粘弾性領域内に収まるように設定され、周波数を以前に公開されたプロトコルに従って0.1Hzから10Hzの範囲で実施した。データは平均±標準偏差(n≧3)として表される。
【0080】
ヒドロゲルの貯蔵弾性率(G’)を、100mM PBS、pH7.4中で膨潤させた後、0時間、4時間、24時間、48時間、7日、及び30日で測定した(3%のひずみを加えた)。各ヒドロゲルの膨潤率及び貯蔵弾性率(G’)を、強度の指標及びヒドロゲルの膨潤の指標として、30日にわたり、又はヒドロゲルが100μM PBS(pH7.4)に溶解するまで測定した。図16は、以下のヒドロゲルについて測定された強度(G’)を示す:パネルA)様々な重量パーセントのSA架橋剤+PEI;パネルB)15重量%のSA架橋剤+PEI又はSA架橋剤+4アームPEG-NH;パネルC)15重量%のSA架橋剤+4アームPEG-NH及びSVA+4アームPEG-NH;パネルD)15重量%のSA架橋剤+PEI及びSVA架橋剤+PEI。すべてのレオメトリーは膨潤後に経時的に記録された。*p<0.05。
【0081】
10重量%、15重量%、及び20重量%のSA架橋剤+PEIヒドロゲルは、ゲル化時にそれぞれ638Pa、992Pa、及び2930Paの平均G’を示した。15重量%及び20重量%のヒドロゲルは48時間まで機械的完全性(G’>300Pa)を維持したが、10重量%SA架橋剤+PEIヒドロゲルは4時間後に溶解した(G’<300Pa)。機械的強度に対する架橋剤中の分解性エステル結合の影響を評価するために、SA又はSVA架橋剤と4アームPEG-NH(パネルB)及びD))を使用してヒドロゲルを調製した。比較すると、15重量%SA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルは、時間t=0で3814PaのG’を示し、7日間の膨潤にわたって完全性を維持し、24時間にわたるG’の変化は最小限であり、48時間と7日の機械的強度は低下した。15重量%のSVA架橋剤+PEI及びSVA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルは、それぞれ1683Pa及び7739PaのG’を示した。全てのヒドロゲルのG’は、膨潤時に最初は増加した(図16)。SA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルは、48時間にわたってG’が変化せず(3591Pa)完全性を維持し、7日間の膨潤の間ヒドロゲルの形態を維持することがわかった。一方、SVA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルは、30日間の膨潤にわたって機械的強度を維持した(13766Pa)。PEIを使用して調製したヒドロゲルでも同様の傾向が観察されたが、SA架橋剤+PEIヒドロゲルでは48時間にわたってG’は同様のままであった(1380Pa)。
【0082】
SA架橋剤+PEIヒドロゲルで示されているように、ヒドロゲル重量パーセントの増加により、G’が大きくなり、機械的強度がより長く持続するようになった(パネルA)を参照)。さらに、各SA架橋剤+PEI水素(hydrogen)では時間の経過とともにG’が減少し、これは内部エステル結合での加水分解によるものと考えられる。一方、SVA架橋剤+PEIヒドロゲルでは30日間の膨潤の間G’は変化せず、これはSVA架橋剤構造内に分解性結合が欠如していることによるものと考えられる(パネルC)を参照)。
【0083】
SA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルと比較したSA架橋剤+PEIヒドロゲルの分解速度の増加は、PEIの結果としてのヒドロゲルネットワーク内の局所的な塩基性pHに起因すると考えられる。pHの影響を、SA架橋剤+PEIヒドロゲルをdHO、pH5.0中で膨潤させ、SA架橋剤+4アームPEG-NHをpH8.0のTEA水溶液(第三級アミン、PEI系ヒドロゲル中に存在するものと同等の[M])中で膨潤させることによって評価した。図17は、パネルA)において、pH7.4及びpH5.0で膨潤したSA架橋剤+PEIヒドロゲルの貯蔵弾性率を示し、パネルB)において、pH7.4及びpH8.0で膨潤したSA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルの貯蔵弾性率を示す。*p<0.05。SA架橋剤+PEIヒドロゲルは、pH7.4のPBS中での膨潤と同様に、pH5.0で膨潤し、48時間で加水分解した(パネルAを参照))。同様の分解速度は、PEIの強力な塩基性の性質と、局所的なpHを緩衝できないことに起因すると考えられる。SA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルをTEAを含む溶液中で膨潤させることにより、ヒドロゲルの加水分解が加速され、ヒドロゲルはpH7.4のPBS中では7日であったのに対し、24時間で分解した。SA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルのこの加水分解の増加は、PEIの局所的な塩基性pHが、ヒドロゲルネットワーク内の内部エステルの加水分解を促進することと一致する(パネルB)を参照)。
【0084】
dHO、pH5.0中のSA架橋剤+PEIヒドロゲルについて、及びpH8.0のSA架橋剤+4アームPEG-NHについてレオロジー測定を行った。SA架橋剤+PEIヒドロゲルは、t=0の時点で1362PaのG’を示し、顕著な加水分解が起こるまで48時間にわたって同様の機械的完全性を維持した(300Pa未満の貯蔵弾性率を示す場合、ジオロジー測定の間ヒドロゲルはその機械的構造を保持できないため、ヒドロゲルの完全性の損失はG’<300Paとして定義される)。これはゲルを膨潤させる水のpHに関係なかった(図17を参照)。SA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲル製剤のG’は、時間t=0で2239Paであり、48時間までにpH8.0の水溶液に溶解した(G’<300Pa)。一方、pH7.4で膨潤させたSA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルのG’は、時間の経過とともに減少したが、7日間を通してその機械的完全性を維持した(G’>300Pa)(図17を参照)。
【0085】
内部エステル結合における加水分解を、モデル系におけるH NMRでエステルに隣接するメチレンピークの4.19ppmから4.15ppmへのシフトを追跡することによって確認した。SA架橋剤を、pH8.0のDO中の0.3M重炭酸ナトリウム緩衝溶液に溶解させた。図19は、NMRシグナルの変化に基づいた、緩衝されていないDO中のSA架橋剤の加水分解されていない内部エステル(下)と比較して、pH8.0のDO中で上方にシフトしたSA架橋剤の内部エステル(上)の加水分解を示す。半減期(t1/2)は、TEAが存在する(やはり、PEI系ヒドロゲルに存在する場合と同等の[M])DO中、pH8.0でのエステル結合で19.8分であったが、TEAが存在しない場合(pH5又は6)には、24時間にわたるH NMRではエステル結合の加水分解は発生しなかった。
【0086】
SA架橋剤+PEIヒドロゲルの加水分解を、結腸環境を模倣するために37℃で評価した。図20は、パネルA)SA架橋剤+PEIヒドロゲル、及びパネルB)SA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルについて、37℃と比較した室温での貯蔵弾性率G’値を示す。SA架橋剤+PEIヒドロゲルは37℃で24時間以内に分解したが、SA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルは温度(室温(RT)又は37℃)に関係なく同じ速度で分解し、7時間存在した。温度の上昇により、PEIが触媒するヒドロゲルの加水分解がさらに加速されたと考えられる。SA架橋剤+PEIヒドロゲルは37℃で、室温に維持したヒドロゲルと比較してより大きいG’値(3579Pa)を示したが、SA+4アームPEG-NHヒドロゲルは、温度に関係なく7日間の膨潤の間安定であった。
【0087】
ヒドロゲルの組成に関係なく、ヒドロゲルを100mM PBSに浸漬すると、最初の4時間後に貯蔵弾性率と膨潤の初期増加が発生した。図21は、24時間にわたるヒドロゲルの膨張を報告する。10重量%ヒドロゲルのSA架橋剤+PEIは24時間で加水分解したため、膨潤データは入手できなかった。ヒドロゲルの膨潤率は、膨潤の24時間後に報告された。ヒドロゲルは、24時間で平衡に達するか分解するまで膨潤した。すべてのヒドロゲルは、緩衝液中で初期重量の少なくとも200%まで膨潤した。ヒドロゲルの重量パーセントを増加させると(SA架橋剤+10、15、及び20重量%のPEI)、それぞれ153%、259%、及び411%膨潤した。SA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルは396%膨潤した。SVA架橋剤+PEI及びSVA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルは、それぞれ274%及び376%膨潤した。この吸収特性は、ポリペクトミー処置や他の医療処置における創傷被覆材としての使用など、組織を覆うのに役立つと考えられる。
【0088】
接着
生体外ブタ結腸組織へのヒドロゲルの接着を、Instron 5944 Micro-testerで実施した。ヒドロゲルを混合し、2つの結腸組織片の間に配置した。結腸組織を25mm×25mm(1インチ×1インチ)片に分割し、ヒドロゲルを組織上で直接ゲル化させた。ヒドロゲルを結腸組織に適用する際、追加の組織片を「サンドイッチ式」で一番上に置いた(組織-ヒドロゲル-組織)。各サンプルにおいて、ヒドロゲルに接着している組織(結腸組織をメスで削り取ることで得た)は、結腸組織の粘膜層、又は粘膜下層のいずれかであった。湿潤チャンバー内で1時間ゲル化させた後、結腸組織上のヒドロゲルの接着についてASTM D3165プロトコルに従ってラップせん断試験を実施した。接着の失敗が検出されるまで、室温で5mm/分の速度で組織片を引き剥がした。データは平均値±標準偏差(n=3)として表される。
【0089】
15重量%のSA架橋剤+PEI、SVA架橋剤+PEI、及びSA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルの接着強度を、粘膜層が存在する場合と存在しない場合の結腸組織上で25℃で測定した。これらのヒドロゲルは、ヒドロゲルにおけるPEI又は4アームPEG-NHの存在により接着力が変化するかどうか、また、加水分解性SA架橋剤又は非加水分解性SVA架橋剤が接着力に影響を与えるかどうかを決定するために選択された。いくつかのサンプルでは、ポリペクトミー後に結腸組織上の粘膜層をメスで除去し、粘膜下層をより適切なモデル組織に露出させた。図22に示されるように、SA架橋剤+PEI、SVA架橋剤+PEI、及びSA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルは、無傷の粘膜層がある場合は、それぞれ0.18N/cm、0.36N/cm、及び0.03N/cmの平均接着強度を示し、無傷の粘膜層がない場合は、それぞれ0.31N/cm、0.29N/cm、及び0.64N/cmの平均接着強度を示した。図22では、無傷の粘膜層を有する(黒色で示された左側のデータ)及び粘膜層を有しない(濃い灰色で示された右側のデータ)結腸組織上の厚さ1mmのヒドロゲルの接着が示されている。*p<0.05。
【0090】
SA架橋剤+PEI及びSVA架橋剤+PEIヒドロゲルは、無傷の粘膜層を有する組織に最もよく接着し、それぞれ0.18N/cm及び0.36N/cmの接着力値を示した。SA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルは、粘膜層のない組織に最も強く接着した(0.64N/cm)(図22)。この接着力の違いは、中性PEGと比較したカチオン性PEIと粘膜層との間の水素結合及び電荷-電荷相互作用に起因すると考えられる。粘液は、PEIなどの分子との水素結合や静電相互作用に利用できる糖タンパク質を含むアニオン性、疎水性、かつ粘弾性のネットワークである。一方、PEGは帯電しておらず、親水性であり、非接着性である。すべての特性は粘液への接着を遅らせると理解されている。SA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルは粘膜層のない結腸組織に最も強力に接着した。これは、おそらく組織基質との静電相互作用がないためである。結腸組織への接着を維持するには、少なくとも0.3N/cmの力で十分であると考えられる。
【0091】
細胞毒性研究
15重量%のヒドロゲルの細胞毒性を、NIH3T3線維芽細胞に対して評価した。架橋剤及びPEI溶液を0.22μmのPVDFフィルターに通した後、無菌条件下で混合及びゲル化した。ヒドロゲルの50mg、25mg、及び10mg(±2.5mg)の部分を、透過性細胞培養インサート(PES、3μm孔)(Cell Treat、230637)中に配置した。ヒドロゲルサンプルを含む透過性細胞培養インサートを滅菌脱イオン水中で4℃で16時間インキュベートして膨潤させた。NIH3T3(ATCC、CRL-1658)をDMEM+10%BCS+1%PS中、37℃、5%CO及び95%加湿空気中で培養した。実験では、すべての細胞は4~8継代であった。細胞を24ウェルプレートに1.25×10細胞/cmで播種し、16時間接着させた。培地を交換し、膨潤したヒドロゲルを含む細胞培養インサートを、接着した細胞を含むウェルに移した。ヒドロゲルサンプルを、移す前に簡単に37℃に平衡化した。ヒドロゲルを細胞の存在下で24時間インキュベートした。細胞培養インサートを除去し、培地で1:9に希釈したMTS試薬(Promega、G5421)を各ウェルに加えた。4時間後に吸光度(490nm)を測定した。相対的な細胞生存率を、ヒドロゲルに曝露された細胞対曝露されていない対照で吸光度を正規化することによって決定した。すべての実験は3回繰り返して完了し、エラーバーは平均からの1標準偏差を表す。全てのヒドロゲルは、細胞毒性が最小限であることが判明した(>88%の細胞生存率)(図23)。
【0092】
細菌の移動
大腸菌及びバクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)はどちらも腸内によく見られ、感染症を引き起こすことが知られているため、これらの細菌の分離株を用いて細菌移動研究を行った。大腸菌は移動性が高く、ヒドロゲルを通過する可能性があると考えられる。B.フラジリス分離株は、多剤耐性を示し、敗血症を引き起こすことが知られている。病原性の可能性を持つこれら2つの一般的な腸内細菌を、SA架橋剤+PEI及びSA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルを通過する能力について評価した。
【0093】
寒天プレート上でのin vitro試験及び顕微鏡研究を実施した。寒天ベースのアッセイの利点は、個々の細菌が目に見えるコロニーになるまで約24時間増殖することができるため、細菌細胞が少数でもヒドロゲルに侵入したかどうかを検出できることである。臨床分離株大腸菌(ADR129Q-SMC9096)及びB.フラジリス(CFPLTA004_1B-SMC9107)は、嚢胞性線維症の小児から得られた。ヒドロゲルの接種前に、大腸菌分離株をLB(溶原性ブロス)中で好気的に一晩培養し、B.フラジリス分離株をGasPakシステムを使用して血液寒天(TSA+5%ヒツジ血液)上で嫌気的に48時間培養した。ヒドロゲルディスク(直径8mm×高さ2.5mm)をLB寒天(大腸菌の場合)又はTSA+5%ヒツジ血液寒天(B.フラジリスの場合)上に置き、5μLの細菌又はPBSを各ヒドロゲルの最上部に加えた。次いで、プレートを好気的に(大腸菌)又は嫌気的に(B.フラジリス)で37℃で24時間インキュベートした。24時間後、ヒドロゲルを除去し、寒天プレートを各微生物にとって適切な条件下でさらに24時間インキュベートすることで、微生物がヒドロゲルを通過できたかどうかの尺度としてヒドロゲルの下での細菌の増殖を試験した。増殖後、B.フラジリス分離株をこすり落として1mLのPBSに入れ、均質化した。B.フラジリスと大腸菌のそれぞれ1mLを16,000×gで30秒間遠心分離し、PBSに再懸濁した。次いで、各分離株を、寒天プレート実験についてはPBS中で1.0のOD600に、顕微鏡実験については、報告されているように(バイオプロジェクト登録番号PRJNA557692)最少培地中で1.0のOD600に正規化した。培地のみで処理したウェルはバックグラウンド蛍光を決定するために使用し、分析前に各サンプルから差し引かれた。
【0094】
顕微鏡検査を、Nikon Elements ARで動作するHamamatsu ORCA-Flash 4.0カメラを備えたNikon Eclipse Ti倒立顕微鏡で行った。高速スキャンモードと2X2ビニングを使用し、Plan Fluor 40x DIC M N2対物レンズを通して画像を取得した。画像をImageJで処理し、バックグラウンドを差し引いて、Integrated Density(IntDen)関数を通じてピクセルあたりの平均信号強度を測定することで信号強度を定量化した。顕微鏡研究のために、300μLのSA架橋剤+4アームPEG-NHを8ウェルプレート(Cellvis、カタログ番号C8-1.5H-N)の各ウェルに接種した。細菌を視覚化するために、ヒドロゲル接種前に各培養物にSyto9を添加した。細菌培養物を、ヒドロゲルの最上部、又は最初にピペットチップで穴を開けたヒドロゲルの下のいずれかに接種した。インキュベーションの前後の両方でプレートを画像化し、最上部に接種した細菌がヒドロゲルを通過できるかどうかを判定した。結果は、これらの微生物がSA+4アームPEG-NHヒドロゲルを横断しないことを示し、これはin vivoでの敗血症予防の可能性を示す。図24は、SA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルによる細菌の軽減を示す。大腸菌(左)とB.フラジリス(右)の存在を、細菌がウェルの底に接種された有孔ヒドロゲル(上の2つのパネル)と、細菌が表面に配置された無孔ヒドロゲル(下の2つのパネル)で評価した。3回の独立した実験が行われ、それぞれについて3回の技術的反復が行われた。明視野染色とSyto9染色を組み合わせた代表的な画像が示されている。ヒドロゲルの厚さは約1mmであった。有孔ヒドロゲルの底部に添加された大腸菌及びB.フラジリスは顕微鏡で観察されたが(図24、それぞれ左上及び右上)、無孔ヒドロゲルの最上部に添加された場合には存在しなかった(図24、下のパネル)。
【0095】
ヒドロゲルによる細菌の軽減に対する影響を定量化するために、培地のみの対照からバックグラウンド蛍光を差し引いた後、ヒドロゲルの底部でSyto9シグナル強度を評価した。図25は、SA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲル上に大腸菌(上のグラフA)及びB.フラジリス(下のグラフB)を接種してから24時間後のSyto9染色された細菌の測定された表面積を報告する。細菌の存在は3回の独立した実験で測定された。細菌が占める表面積を、細菌をウェルの底に接種した有孔ヒドロゲルと、細菌を表面に接種した無孔ヒドロゲルとの間で比較した。エラーバーは標準偏差を表し、*、**、及び****は、それぞれ0.05、0.01、及び0.0001未満のP値で有意な細菌表面積の差を示す。図24の画像と一致して、有孔ヒドロゲルの底部に接種された細菌は、最上部に接種された対照と比較して、Syto9染色の上昇を示す(図25)。SA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルは、大腸菌及びB.フラジリスに対して少なくとも24時間有効なバリアであることが判明した。対照的に、SA架橋剤+PEIヒドロゲルは37℃の実験室条件下で加水分解したため、研究できなかった。
【0096】
ヒドロゲルを通した細菌の移動がないのは、細菌のサイズに対するヒドロゲルの孔径の結果である可能性がある。ヒドロゲルの孔径は、1μm未満から20μmまでの範囲であり、SA架橋剤+4アーム-PEG-NHヒドロゲルについて走査型電子顕微鏡で示されるように、孔同士は連結しておらず、メッシュ状ネットワークとなっていた(図26)。大腸菌及びB.フラジリスの長さは約1.0~4.5μmである。したがって、孔径と多孔度が細菌の動く曲がりくねった経路を生み出し、細菌の移動を阻害した。SA架橋剤+PEIヒドロゲルは37℃の実験室条件下で加水分解するため、この研究には適していなかった。
【0097】
寒天プレートアッセイの結果を図27~28に示す。図27は、B.フラジリスがSA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルを通過できるかどうかを、ヒドロゲルをTSA+5%ヒツジ血液寒天上に置き、細菌をヒドロゲルの表面に適用し、その後24時間及び48時間の合計インキュベーション時間後の寒天上でのB.フラジリスの増殖を評価することにより、試験する。1回の実験につきn=3の対照とn=4~5個のバクテロイデス接種ヒドロゲルディスクを使用して、3回の独立した実験を行った。各プレートについて、細菌を陽性対照としてプレート上に直接スポットした(大きい矢印、左上)。独立したレプリケートごとに1つの代表的なプレートが表示される。各ヒドロゲルの頂端側に、10μLの滅菌PBS又は1OD600/mLのPBS中の10μLのB.フラジリス培養物のいずれかを接種した。プレートを嫌気的に37℃で24時間インキュベートした(上段)。24時間後、ヒドロゲルを除去し(中段)、プレートを同じ条件下でさらに24時間インキュベートした(下段)。24時間後、B.フラジリスの増殖はヒドロゲルの頂端側では明らかであったが、寒天上では見られなかった。これは、B.フラジリスが大量にヒドロゲルを通過しなかったことを示す。48時間後、合計14の技術的反復のうち11で汚染が確認された。これらのうち、10/11は、ヒドロゲルをプレートから除去するときに発生したエッジ汚染である可能性が最も高い(黒い矢印)。実験1では、24時間後にヒドロゲルをプレート上で裏返し、ヒドロゲルの頂端側でのB.フラジリの生存率を確認した。48時間時点でのヒドロゲルの頂端側に由来する増殖は、B.フラジリスがまだ生存していたことを示す(小さい白い矢印、左下)。
【0098】
図28は、LB寒天プレート上にヒドロゲルを配置し、ヒドロゲルの表面に大腸菌を適用し、その後の24時間及び48時間の合計インキュベーション時間後の寒天プレート上での大腸菌増殖を評価することによる、SA架橋剤+4アームPEG-NHヒドロゲルについての大腸菌の結果を示す。3回の独立した実験を、1回の実験につきn=3の対照及びn=4~5の大腸菌接種ヒドロゲルディスクを用いて行った。独立したレプリケートごとに1つの代表的なプレートが表示される。各プレートについて、細菌を陽性対照としてプレート上に直接スポットした(大きい白い矢印、左上)。各ヒドロゲルの頂端側に、10μLの滅菌PBS又は1OD600/mLのPBS中の10μLの大腸菌培養物のいずれかを接種した。プレートを37℃で24時間好気的にインキュベートした(上段)。24時間後、ヒドロゲルを除去し(中段)、プレートを同じ条件下でさらに24時間インキュベートした(下段)。24時間後、大腸菌の増殖はヒドロゲルの頂端側で明らかであったが、無傷のまま残った大腸菌接種ヒドロゲルの寒天上では見られなかった(n=11/15)。これは、大腸菌が大量に寒天を通過しなかったことを示す。48時間の時点で、n=8/15のディスクでプレートの汚染が見られた(黒い矢印)。24時間のすべて及び48時間の大部分の汚染は、実験2中に発生した。これらのヒドロゲルは他の実験に比べてわずかに薄く、一部は24時間で溶けていた。これが汚染の最も可能性の高い原因である。実験1では、24時間後にヒドロゲルをプレート上で裏返し、ヒドロゲルの頂端側での大腸菌の生存率を確認した。48時間の頂端側からの増殖は、大腸菌がまだ生存していたことを示す(小さい白い矢印、左下)。
【0099】
結腸組織サンプル上の標的部位での出口でのその後のヒドロゲル形成のために、デュアルルーメンカテーテルを通して架橋剤及びマクロマー成分を投与することにより、ヒドロゲルの適用及び取扱い性を調査した。デュアルルーメンカテーテルを使用した。このカテーテルは、生体内で内視鏡を通して結腸に挿入できるため、別個の装置は必要ない。デュアルルーメンカテーテルを通して空気圧を適用し、ヒドロゲル前駆体成分を創傷にスプレーしてその場でゲル化することができる。2つの部分からなるヒドロゲルシステムを、生体外の結腸組織に送達した。12種類のヒドロゲル製剤すべてがデュアルルーメンカテーテルを通して注入され、その後重力に従う場合と重力に逆らう場合の両方でゲル化して結腸組織に接着した。
【0100】
実施例7
追加の架橋剤(架橋剤5、6、及び7)を、図29に示すようにPEG(M3000)から出発して合成した。簡潔に述べると、PEG(M3000)を適切な無水物と反応させてPEG二酸を形成し、その後NHSエステルで活性化して架橋剤1を得た。架橋剤1を1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデカ-7-エン(DBU)、及び1、5、及び10メチレンのそれぞれのチオール末端カルボン酸と反応させて、それぞれ中間体2、3、及び4を得た。次に、NHSとのジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)カップリング化学によってNHS活性化架橋剤を調製し、生成物をジエチルエーテル中での沈殿によって精製した。収率はすべての反応で85~98%であった。架橋剤の構造を、H NMR、13C NMR、GPC、MALDI、及びDSCによって確認した。特性評価測定を、実施例6で述べたように実施した。データは次のとおりであった。
【0101】
PEG二酸:PEG二酸化合物の合成は、以前に報告されたプロトコルに基づいていた。H NMR(500MHz),CDCl:δ1.93(q,J=7.21Hz,4H),2.4(tt,J=7.21,8H),3.62(m,292H),4.22(tt,J=4.73Hz,4H)ppm;13C NMR(500MHz),CDCl:175.3,172.8,70.6,68.9,63.4,33.1,32.6,19.9ppm。
【0102】
架橋剤1.出発物質の合成は、以前に報告されたプロトコルに基づいていた。H NMR(500MHz),CDCl:δ4.15(tt,J=3.3,1.5,4H),3.54(m,296H),2.8(b,8H),2.6(t,J=7.3,4H),2.4(t,J=7.3,4H),2.0(q,J=7.3,4H)ppm;13C NMR(500MHz),CDCl:172.3,169.0,168.0,70.5,69.0,63.6,32.4,29.9,25.5,19.7ppm。
【0103】
中間体2.合成は、以前に報告されたプロトコルに基づいていた。H NMR(500MHz),CDCl:δ4.21(m,J=4.6,4.9,4H),3.62(m,296H),2.68(t,J=7.3,4H),2.40(t,J=7.2,4H),1.98(t,J=7.2,4H)ppm;13C NMR(500MHz),CDCl:196.8,172.6,169.8,70.6,69.0,63.6,42.3,32.8,31.0,20.5ppm。
【0104】
中間体3.火炎乾燥させたフラスコ中で、1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデカ-7-エン(265μL)及び6-メルカプトヘキサン酸(122μL)を、架橋剤1(1g)の無水DMF(5mL)溶液に加えた。溶液を室温で16時間撹拌した。有機相を1M HCl溶液、水、及びブラインで抽出した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、ジエチルエーテル中で沈殿させた。沈殿物を濾過し、真空下で乾燥させて、中間体3を白色固体として得た(収率96%)。H NMR(500MHz),CDCl:δ4.22(t,J=4.8,4H),3.63(m,308H),2.86(t,J=7.2,4H),2.61(t,J=7.3,4H),2.38(t,J=7.4,4H),2.30(t,J=7.4,4H),1.97(t,J=7.3,4H),1.60(m,8H),1.39(m,4H),ppm;13C NMR(500MHz),CDCl:198.6,176.1,172.7,70.7,69.0,42.8,33.5,32.9,29.2,28.5,28.1,24.2,20.6ppm。
【0105】
中間体4.合成は、チオール源として11-メルカプトウンデカン酸(0.190g)を使用して上記の手順に従って行った(収率92%)。H NMR(500MHz),CDCl:δ4.22(t,J=4.9,4H),2.85(t,J=7.4,7.3,4H),2.60(t=7.3,4H),2.38(t,J=7.3,4H),2.30(t,J=7.5,4H),1.97(t,J=7.3,4H),1.60(m,8H),1.39(m,24H)ppm;13C NMR(500MHz),CDCl:198.7,176.5,172.7,70.5,69.0,63.5,33.8,32.9,29.4,29.3,29.2,29.1,29.0,28.95,28.8,28.7,24.7,20.6ppm。
【0106】
架橋剤5、6及び7.架橋剤5、6、及び7の合成は、以前に報告されたプロトコルに基づいていた(収率96~98%)。
架橋剤5.H NMR(500MHz),CDCl:δ4.16(t,J=4.3,4H),3.92(s,4H),3.57(m,257H),2.78(b,8H),2.67(t,J=7.3,4H),2.34(t,J=7.3,4H),1.95(q,J=7.3,4H)ppm;13C NMR(500MHz),CDCl:δ ppm;MALDI-TOF(pos):M:3763m/z;GPC:M:5077;M:5312;PDI:1.05;Mp(DSC):46.06℃。
【0107】
架橋剤6.H NMR(500MHz),CDCl:δ4.21(tt,J=1.5,3.4,4H),3.63(m,290H),2.86(t,J=7.3,4H),2.81(b,8H),2.60(tt,J=2.5,4.9,8H),2.37(t,J=7.3,4H),1.96(q,J=7.3,7.4,4H),1.74(q,J=7.4,7.7,4H),1.59(m,4H),1.46(m,4H)ppm;13C NMR(500MHz),CDCl:δ198.6,172.7,169.1,168.4,70.5,69.1,63.6,42.9,33.0,29.1,28.4,27.8,25.6,24.1,20.6ppm;MALDI-TOF(pos):M:3807m/z;GPC:M:4999;M:5196;PDI:1.04;Mp(DSC):45.80℃。
【0108】
架橋剤7.H NMR(500MHz),CDCl:δ4.22(m,4H),3.62(m,278H),2.85(m,8H),2.70(t,J=7.2,7.3,2H),2.60(tt,J=7.3,4H)),2.45(t,J=7.2,7.4,4H),2.37(t,J=7.2,7.3,4H),2.04(q,J=7.2,7.4,4H),1.95(m,4H),1.71(m,2H),1.52(m,4H),1.25(m,10H)ppm;13C NMR(500MHz),CDCl:δ198.8,172.7,169.2,168.6,70.5,69.0,63.5,42.8,32.9,30.9,29.5,29.3,29.2,29.0,28.8,28.7,25.6,24.5,20.6ppm;MALDI-TOF(pos):M:4210m/z;GPC:M:6038;M:6313;PDI:1.05;Mp(DSC):47.42℃。
【0109】
実施例8
0.1Mリン酸緩衝液(pH6.5)に溶解した実施例7の架橋剤(すなわち、架橋剤5、6、及び7)を0.3Mホウ酸緩衝液(pH8.5)中の分岐ポリエチレンイミン(PEI;M1800)と混合することによって、10重量%、15重量%、及び20重量%のヒドロゲルを調製した。緩衝液中での架橋剤7の溶解度は最小限であることが観察され、これはその構造内のメチレン鎖の疎水性によるものと考えられる。溶解度の低さを克服するために、PEI溶液と混合する前に、架橋剤7を50%エタノールを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH6.5)に溶解させた。PEI及びそれぞれの架橋剤のアミド化を確実にするために、NHS:NHの比は2:1であった。2:1又は1:1のNHS:NH比では、ヒドロゲルの機械的特性に大きな違いは観察されなかった。逆さチューブゲル化試験により測定したところ、すべての組成物(各ヒドロゲル5、6、及び7)について5分以内に透明な固体ヒドロゲルが形成された(実施例6の考察を参照)。ヒドロゲルのゲル化時間は、疎水性鎖の長さの増加と正の相関があることが判明した。図30に示すように、架橋剤5、6、及び7を用いて調製されたヒドロゲルは、それぞれ5秒未満、90秒未満、及び3~5分未満でゲル化した。図30は、以下のことを報告している:パネルA)10重量%、15重量%、及び20重量%のヒドロゲルのゲル化時間;パネルB)10重量%、15重量%、及び20重量%のヒドロゲル7の貯蔵弾性率;パネルC)15重量%のヒドロゲル5、6、及び7の貯蔵弾性率;パネルD)15重量%ヒドロゲルの経時的な膨潤。ゲル化時間は重量パーセントと正の相関があることも判明した。つまり、重量パーセントが高いほどゲル化時間が長くなる。
【0110】
次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用してヒドロゲルの形態を特性評価した。全てのヒドロゲルは、5μmから100μmまでの様々な孔径を有し、ハニカム状構造を有していた。ヒドロゲル7は、他のヒドロゲルとは異なり、より層状の構造を示した。図31は、ヒドロゲル5(上)、6(中央)、及び7(下)のSEM画像を示す。この観察された二次構造のため、ピレンアッセイを使用して架橋剤7の臨界凝集濃度(CAC)を評価した。0.050mMのCACが観察され、これはヒドロゲル架橋剤濃度(0.053mM)よりも低い濃度であった。これは、ヒドロゲル自体の中に自己組織化構造が形成され、SEMで見られる層状構造が生じていることを示している。化学反応性の観点から見ると、PEIの末端アミンは末端NHSエステル又は内部チオエステルと反応してアミド結合を形成し得る。アミンの優先攻撃部位を、H NMRによって決定した。具体的には、N-ブチルアミンをPEIの第一級末端アミンのモデルとして使用し、架橋剤6を含む水溶液に添加した。アミド化反応を、H NMRによって追跡した。選択的反応性は、PEIと架橋剤のNHSエステルとの間で観察され、内部チオールエステルでは観察されなかった(20分間でNHS部位で>99%)。NHSエステルのアミド化は架橋剤6上の2.82ppmの結合NHSエステルから2.49ppmの遊離NHSへの高磁場シフトによって確認されたが、チオエステルの2.6ppmのメチレンピークはシフトしない。図32は、PEI模倣物である4-ブチルアミンとの反応前(太線)及び反応後(細線)の架橋剤6の代表的なH NMRスペクトルを示す。4-ブチルアミンと反応したとき、NHSエステルが架橋剤6から切断された後、架橋剤6に結合したNHSピークのシフトが2.78ppm(太線)から2.49ppm(細線)で観察された。図33は、無傷の架橋剤6(下)(2.78ppmのNHS)、及び0.3M重炭酸ナトリウム緩衝液、pH8.0中のNHS加水分解(2.54ppm)架橋剤6(上)の代表的なH NMRスペクトルを示す。
【0111】
NHSエステルに対する末端アミンの攻撃は10秒未満と迅速に起こったが、ヒドロゲルではこの反応はおそらく遅くなる。その理由は、アミンの1つがNHSエステルを攻撃すると、絡み合いと固化が起こると考えられ、その結果、立体障害が増加すると考えられるからである。したがって、ゲル化時間が長くなる。さらに、NHSエステルでは競合的な加水分解反応が生じた。図34は、パネルA)0.3Mホウ酸緩衝液、pH8.0中の架橋剤5におけるチオエステル加水分解の速度順序;パネルB)0.3Mホウ酸緩衝液、pH8.0中の架橋剤6におけるチオエステル加水分解の速度順序;及びパネルC)0.1Mリン酸緩衝液(pH6.5)中でのNHSエステルの安定性を示す。しかし、NHSエステルの加水分解は、pH6.5では20分間にわたって無視でき、これはヒドロゲルを調製するのに十分な時間を超えている(パネルC)を参照)。NHSエステルにおけるアミド化のこの選択性により、内部チオエステル結合が確実に保持され、システインメチルエステル(CME)による溶解が可能になる。
【0112】
機械的特性に関しては、50mM PBSでの膨潤の前後の様々な時点でひずみと周波数のスイープを実行した。まず、ひずみスイープを使用して線形粘弾性領域を決定した(図35(左))。周波数スイープを、1から10Hzまで、3%ひずみですべてのヒドロゲルに対して実行した(図35(右))。これらのヒドロゲルは、貯蔵弾性率(G’)>損失弾性率(G”)という粘弾性の固体のような挙動を示した。
【0113】
図36は、10重量%(左)及び20重量%(右)の架橋剤5、6、及び7をそれぞれ用いて調製されたヒドロゲル5、6、及び7の貯蔵弾性率を報告する。また、図37は、10重量%、15重量%、及び20重量%の架橋剤5(左)、6(中央)、及び7(右)を用いて調製されたヒドロゲルの、30日間の膨潤又は溶解までの貯蔵弾性率を報告する。30日間の膨潤にわたって、ヒドロゲル5で最も低い貯蔵弾性率が観察され、膨潤後の一定期間10kPa未満のG’が維持された。架橋剤6及び7を用いて調製されたヒドロゲルの貯蔵弾性率はどちらもより大きく、15重量%でのピーク貯蔵弾性率はそれぞれ約12kPa及び20kPaであった。各ヒドロゲルの貯蔵弾性率のこの増加は、メチレンの疎水性に起因すると考えられ、メチレン鎖長が長くなるほど疎水性相互作用が大きくなり、ヒドロゲルがより強力になる。この観察は重量パーセント依存性にも当てはまり、重量パーセントが高くなるほど、貯蔵弾性率は大きくなる。
【0114】
図38は、20重量%のヒドロゲルの膨潤を報告する。図39は、0.3M CME溶液、pH8.6に浸漬した際の、10重量%(左)及び20重量%(右)の架橋剤5、6、及び7をそれぞれ用いて調製されたヒドロゲル5、6、及び7の溶解を報告する。図40は、架橋剤6から2:1(黒色)又は1:1(灰色)のNHS:NHモル比で調製されたヒドロゲルのレオロジー測定を報告する。図41は、EtOHを使用した場合と使用しない場合の、架橋剤6から作製されたヒドロゲルのレオロジー測定を報告する。
【0115】
架橋剤7を用いて調製されたヒドロゲルの貯蔵弾性率がエタノールの存在によって増加しないことを確認するために、架橋剤7について使用したヒドロゲルと同じ条件下で、架橋剤6を用いて調製されたヒドロゲルのレオロジー測定を行った。EtOHの有無にかかわらず調製されたヒドロゲルの間で貯蔵弾性率の有意差は観察されず、緩衝条件がヒドロゲルの機械的特性を変えなかったことを示している(図41)。
【0116】
30日間の膨潤中に、ヒドロゲルは、ヒドロゲル製剤の重量パーセント及び疎水性に応じて、150~350%膨潤した(図38)。すべてのヒドロゲルの膨潤は48時間後に平衡に達した。架橋剤7を使用して調製されたヒドロゲルは、おそらく長いメチレン鎖長内の疎水性の結果として膨潤が最も少なく、一方、架橋剤5を使用して調製されたヒドロゲルは最も膨潤した。
【0117】
全体構造の損失と経時的な貯蔵弾性率の低下によって示されるように、すべてのヒドロゲルは30日間の膨潤にわたって加水分解を受けた。ヒドロゲル5は貯蔵弾性率と全体構造の即時損失を示したが、ヒドロゲル6及び7は膨潤するにつれて強度が増加した。しかしながら、ヒドロゲル6及び7では、膨潤後30日までに貯蔵弾性率の低下が観察された。この構造と機械的特性の損失は、架橋剤の加水分解に起因すると考えられる。加水分解をさらに特性評価するために、架橋剤の加水分解速度を、0.1M重炭酸ナトリウム緩衝液、pH8.0中で、H NMRによって測定した。加水分解は、架橋剤5及び6についてそれぞれk=0.055min-1及びk=0.003min-1の速度で、チオエステル結合で優先的に起こることが観察された(図34)。これは、架橋剤のグルタル酸とPEGとの間のエステル結合とは対照的である。ヒドロゲル7は7日間以上安定であった。架橋剤7におけるチオエステル結合の安定性は、隣接するチオエステルを加水分解から保護する疎水性メチレン鎖の長さに起因すると考えられた(図9を参照)。加水分解とは別に、チオエステルはシステインメチルエステル(CME)の存在下でのチオール-チオエステル交換を通じてヒドロゲルの溶解を促進した。ヒドロゲルをpH8.6の0.3M CME溶液に曝露すると、システインメチルエステルのチオールが架橋剤の内部チオエステルを攻撃して置換すると考えられる。内部システインメチルエステルのアミンは、その後再配列されて、チオエステルを置換することによってアミド結合を形成すると考えられる(図29を参照)。このアミド結合は、元の内部チオールの再攻撃を防ぐと考えられる。この溶解プロセスによりヒドロゲルのネットワークが断片化され、時間の経過とともにヒドロゲルが分解されると考えられる。CME溶液中のヒドロゲルの貯蔵弾性率を、pH8.6における時間の関数として評価した。G’<300Paで定義される完全な溶解は、ヒドロゲルの配合と重量パーセントに応じて10分未満から90分以上で起こることが判明し、重量パーセントが高くなるほどメチレン鎖長が長くなり、完全に溶解するまでの時間が長くなる。図42は、パネルA)0.3M CME溶液中の15重量%のヒドロゲルの溶解;パネルB)ラップせん断試験を使用したヒト乳房組織へのヒドロゲルの接着;及びパネルC)熱傷させた及び未熱傷のヒト腹部組織への15重量%ヒドロゲル6の接着を示す。図39も参照されたい。具体的には、15重量%では、ヒドロゲル5は10分以内に溶解し、ヒドロゲル6は30分以内に溶解し、ヒドロゲル7は80分以内に溶解した。この傾向は、重量パーセントに関係なく、すべてのヒドロゲルにわたって継続した。ヒドロゲル7のこの遅い溶解は、ヒドロゲル5及び6と比較して、チオエステル近くの追加の疎水性メチレンが局所的な親水性を低下させることに起因すると考えられる。水の加水分解とチオール-チオエステル交換の間のチオエステルにおける競合反応のため、重炭酸ナトリウム緩衝液pH8.0中のCMEを使用した溶解速度を、架橋剤6を用いてH NMRにより研究した。チオエステルに隣接するメチレンプロトンの減少をモニタリングしたところ、チオール-チオエステル交換速度はk=0.084min-1であると決定された。この速度は加水分解の速度よりも速かったため、チオール-チオエステル交換が0.3M CME溶液条件下での好ましい溶解様式であることを示していると解釈された。
【0118】
ヒドロゲルの接着特性をヒトの皮膚に対して研究した。生体外のヒトの乳房組織及び腹部組織における接着強度を測定するために、ラップせん断試験を実施した。全てのヒドロゲルは、約0.5N/cmの値で同様に組織に接着し、ヒドロゲルと皮膚の界面で凝集破壊を示した(図42)。さらに、ヒドロゲルは健康な皮膚だけでなく熱傷させた皮膚にも同様に接着した。この接着強度は、ヒドロゲルとヒトの皮膚の間の物理的な絡み合いに起因すると考えられる。
【0119】
in vivo研究の前に、NIH3T3線維芽細胞を使用して細胞毒性を評価した。図43は、架橋剤5、6、7及びPEIを用いて調製されたヒドロゲルの、NIH3T3線維芽細胞に対する細胞生存率を報告する。ヒドロゲル6及び7は>85%の生存率を示したが、ヒドロゲル5は非常に低い生存率を示した。これは、グルタル酸の急速な放出と溶解による局所的な酸性度の増加によるものと考えられる。
【0120】
これらの結果のまとめに基づいて、15重量%のヒドロゲル6をin vivo試験用に選択した。ヒドロゲル6は、非毒性の、ヒトの皮膚と同程度の貯蔵弾性率を示し、7日間にわたって機械的強度と構造を維持し、皮膚に付着し、膨潤し、30分で溶解した。in vivoモデルでは、真鍮シリンダーを80℃に加熱し、ブタの背中に20秒間置くことにより、4頭のブタにII度熱傷を誘発させた。図44に示すように、被覆材を1回又は2回交換して、治療群を7日目及び14日目に群間の治癒の違いを観察することで評価した。ヒドロゲル6を、ガーゼスポンジ被覆材、Mepilex(登録商標)、及びxeroformと比較した。トリプル抗生物質軟膏(triple antibiotic ointment)を各熱傷に塗布してから被覆材をした。剖検後、組織を解剖し、ヘマトキサリン&エオシン(H&E)染色を行った。図44は、パネルA)実験の概略図;パネルB)熱傷部位の代表的な写真と組織学;パネルC)壊死と血管新生の組織学的スコアを示す。
【0121】
図45~49及び表5~9は、サンプルから得られたデータを報告する。図45は、ガーゼ(左)、被覆材なし(中央)、及びヒドロゲル被覆材(右)についての群1のH&Eを示す(表5を参照)。図46は、ガーゼ(左)、被覆材なし(中央)、及びヒドロゲル被覆材(右)についての群1のH&Eを示す(表6を参照)。図47は、ガーゼ(左)、被覆材なし(中央)、及びヒドロゲル被覆材(右)についての群2のH&Eを示す(表7を参照)。図48は、ガーゼ(左)、被覆材なし(中央)、及びヒドロゲル被覆材(右)についての群4のH&Eを示す(表8を参照)。図49は、ガーゼ(左)、被覆材なし(中央)、及びヒドロゲル被覆材(右)についての群5のH&Eを示す(表9を参照)。表5~9は、炎症及び炎症性細胞種の平均±SD、中央値及び発生率を示す。
【0122】
【表5】
【0123】
【表6】
【0124】
【表7】
【0125】
【表8】
【0126】
【表9】
【0127】
総じて、すべての治療群で軽度/中度の壊死、表皮潰瘍形成、炎症、及び血管新生が見られた。しかしながら、ヒドロゲル6は、他の治療群よりも少ない壊死、表皮潰瘍形成、及び炎症を示し、14日目までにすべての治療群と同様の血管新生、熱傷深さ(mm)及び表皮真皮厚さ(mm)を示した(図44、パネルC))。さらに、すべてのヒドロゲルは14日目までにある程度の再上皮化を示し、ヒドロゲル6は2回の被覆材交換後に2つの熱傷で完全な再上皮化、及び1つの熱傷で部分的な再上皮化を示した(N=3)。これは複数の熱傷で完全な再上皮化を示した唯一の被覆材である。熱傷で完全な再上皮形成を示した治療群には、14日目のヒドロゲル6(被覆材交換1回)と、14日目の滅菌ガーゼ被覆材(被覆材交換2回)のみが含まれる。群間の差は統計的に有意ではないが(P>0.05)、ヒドロゲル6は従来のガーゼ、Mepilex(登録商標)、及びxeroform被覆材よりも優れた性能を示す傾向があった。我々のヒドロゲルのスプレー塗布及び除去プロセスにより、被覆中の塗布及びデブリードマンが容易になり、機械的なデブリードマンや新たに形成された組織の破壊が不要になる。図50は、熱傷被覆材として使用されるヒドロゲル6の溶解の概略図を示す。ガーゼを0.3M CME溶液に浸し、ヒドロゲル6熱傷被覆材の上に10分間置き、被覆剤の溶解を誘導した。続いて、HOに浸したガーゼで熱傷の部分を拭き、創傷の上に新しいヒドロゲル被覆材を準備した。
【0128】
実施例9
本開示による追加のヒドロゲルを調製する。マクロマーは、アルケン官能部分を特徴とする、PEG系マクロマー又はポリ(1,2-グリセロールカルボナート)(PGC)系マクロマーのいずれかである。架橋剤は、チオール部分を特徴とするPEG系架橋剤である(実施例9を参照)。これらの成分を、pH7~8の範囲のリン酸緩衝液に、10重量%~25重量%の範囲の総ポリマー濃度で溶解させる。ゲル溶液の重量パーセントが増加すると、ゲル化時間が短くなり、ゲルの弾性率が増加する。アルケン部分とチオール部分との間のモル比は、ゲル製剤中で1:1から2:1の間の範囲であり得る。1:1の比率は、2:1の比率と比較して、ゲルの弾性率のわずかな増加をもたらす。アルケン官能部分は、図2C及び2Dに示されるアルキルエーテル、又は図2E及び2Fに示されるノルボルネンなどであるがこれらに限定されない多くの異なる構造を包含する。上記部分の選択はゲル化時間に影響し、ノルボルネンではアルキルエーテルよりも反応速度が速くなる。マクロマーは、1分子あたり4~100個のアルケン部分を特徴とし得る。より多量のアルケン部分を特徴とするマクロマーは、より硬いゲルとより低い膨潤率をもたらす。架橋剤は、1分子当たり2~4個のチオールを含有し得る。ゲル前駆体溶液は、使用する光開始剤に応じて、365nmUV光又は白色光を照射されるまで固化しない。光開始剤は、フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム(LAP)又はエオシンYである。光開始剤の濃度は、光開始剤とゲル化速度に応じて0.1mM~100mMの範囲であり、光開始剤の濃度が高いほど速度は速くなる。非常に高濃度では、ゲルのマクロ構造が破壊される可能性があり、細胞毒性の危険性があると考えられる。可視光システムの場合、ゲル化速度を高めるためにチロシンエチルエステルが最大10mM含まれる。これらのゲルは、4~120mW/cmの広範囲のUV(365nm)強度及び10mW/cm(光開始剤の最大吸収時)から42.9W/cmフルスペクトル白色光の白色光下で形成される。
【0129】
UV活性化ヒドロゲルの場合、マクロマーと架橋剤の濃度と比率を変更することで、貯蔵弾性率を500Pa~2,000Paの間で調整できる。これらの配合物は単一溶液であり、内視鏡の長さ方向に沿ってシングルルーメンカテーテルを介して適用するのに適した粘度を示す。これらの配合物は、長波UV光に反応して速い反応速度で刺激応答性のゲル化を利用し、照射後5秒以内にゲルを形成する。このゲルはブタの結腸組織に接着し、小さい欠損を封止するために使用すると強い破裂圧力を示す。in vivo研究は、内視鏡カテーテルを使用してコンポーネントを適用するために行われる。得られるゲルは適用後2.5時間でもまだ存在する。得られるゲルは細胞毒性が低く、NIH 3T3線維芽細胞において24時間にわたって97%以上の生存率を示す。この光開始剤は、NIH 3T3線維芽細胞においてIC50未満の濃度で使用されるが、10mMまでのチロシンエチルエステルと組み合わせると、自転車ライト、ランプ、内視鏡などの広範囲の白色光源に応答して高速(10秒未満)のゲル化反応速度を示す。
【0130】
実施例9
図51に示すように、チオール部分を有する追加の架橋剤をPEG(M3000)から出発して合成した。これらの架橋剤は、実施例10及び11でさらに説明する、分枝状PEI-チオールと二官能性マレイミド活性化PEG架橋剤との間のマイケル付加反応を介してin situで形成されるヒドロゲルの形成に関する研究用に調製された。この架橋剤内には内部チオエステル結合があり、システインメチルエステル(CME)溶液とのチオール-チオエステル交換によって溶解しやすくなる。チオール-チオエステル交換後、CMEの第一級アミンが再配列されて不可逆的なアミド結合を形成し、ポリマーネットワークが崩壊した後のヒドロゲルの再形成を防止すると考えられる(図8参照)。PEG架橋剤を、メチレン鎖長が2、3、又は4になるように調製した。メチレン鎖の長さを変化させることで、ヒドロゲルの機械的特性、膨潤、溶解時間、及び破裂圧力への依存性を決定した。ヒドロゲルは、チオール-チオエステル交換による溶解のための内部チオエステルと、超分岐ポリ(エチレンイミン)-チオール(「PEI-SH」)との結合のためのマレイミド末端基を含んでいた。
【0131】
図51に要約されるように、PEG-ジオールをそれぞれの無水物(無水コハク酸、無水グルタル酸、又は無水アジピン酸)と反応させて、対応するPEG二酸を得た。次に、DCCカップリングを介してPEG二酸をN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)末端基で官能化して、架橋剤1、2、及び3を生成した。磁気撹拌子を備えた火炎乾燥させた丸底フラスコ内で、架橋剤1、2、又は3(1g)をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させた。チオグリコール酸(68.8μL)及びジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(279μL)をこの順序で加えた。チオグリコール酸は、チオエステルに隣接して親水性があり、溶解時間が速いため選択された。反応物を室温で一晩撹拌した。有機相を1N HCl溶液、水、次いでブラインで抽出した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾紙で濾過し、ジエチルエーテル中で沈殿させて白色粉末を得た(収率98%)。
【0132】
前のステップに続いて、乾燥DCM中でマレイミドトリフルオロ酢酸、PyBOP、DIPEAを使用するペプチドカップリング法により、中間体1、2、及び3をマレイミド反応性末端基で官能化して、最終的な架橋剤である架橋剤4、5、及び6を得た。メチレン鎖の長さはそれぞれ2、3、4である。磁気撹拌子を備えた火炎乾燥させた丸底フラスコ中で、中間体1、2、又は3を乾燥塩化メチレンに溶解させた。マレイミド-エチルアミントリフルオロ酢酸、DIPEA、HOBt、及びEDCを反応物に加えた。溶液を室温で一晩撹拌した。有機相を飽和クエン酸溶液、水、及びブラインを使用して抽出した。次いで、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾紙で濾過し、ジエチルエーテル中で沈殿させて、オフホワイトの固体を得た。固体を真空下で一晩乾燥させた。次いで、固体を水に溶解させ、0.22μmのシリンジフィルターを通して濾過し、凍結乾燥させて、オフホワイトの固体(収率80~90%)を得た。上記の反応の収率はすべて80%以上であった。
【0133】
H NMR、13C NMR、GPC、及びDSCによる特性データは次のとおりである。
PEG二酸。このポリマーは、以前に公開されたプロトコルに従って調製された(実施例7も参照)。
【0134】
架橋剤1、2、3。架橋剤1、2、及び3の合成は、以前に公開されたプロトコルに基づいていた(実施例7も参照)。
中間体1、2、3。合成は上記のように行った。H NMR(500MHz)、CDClによる特性評価:中間体1-δ4.22(tt,J=4.7Hz,4H),3.62(m,310H),2.93(t,J=6.8Hz,4H),2.68(t,J=6.8Hz,4H)ppm;中間体2-δ4.22(tt,J=4.8Hz,4H),3.63(m,308H),2.86(t,J=7.2Hz,4H),2.61(t,J=7.3Hz,4H),2.38(t,J=7.4Hz,4H),2.30(t,J=7.4Hz,4H),1.97(t,J=7.3Hz,4H),1.60(m,8H),1.39(m,4H)ppm;中間体3-δ4.21(tt,J=4.4,4.9Hz,4H),3.63(m,277H),2.62(t,J=6.7,7.2Hz,4H),2.34(t,J=6.7,7.2Hz,4H),1.69(m,8H)ppm。13C NMR(500MHz)、CDClによる特性評価:中間体1-195.9,171.5,70.5,64.1,30.9,29.1ppm;中間体2-198.6,172.7,70.7,69.0,33.5,32.9,20.6ppm;中間体3-197.0,173.0,70.5,63.5,33.7,31.0,24.7,24.0ppm。
【0135】
架橋剤4、5、6。合成を上記のように行った。
架橋剤4。H NMR:δ6.71(s,2H),6.55(b,1H),4.23(tt,J=4.2,4.9Hz,4H),3.62(m,322H),2.96(t,J=6.8Hz,4H),2.74(t,J=6.8Hz,4H)ppm;13C NMR:197.5,171.9,134.2,70.5,64.0,32.3,29.1ppm;M(GPC,THF):2868Da;M(GPC,THF):2801Da;PDI(GPC,THF):1.02;融点(DSC):41.78℃;結晶化点(DSC):39.9℃。
【0136】
架橋剤5。H NMR:δ6.72(s,2H),6.51(b,1H),4.23(tt,J=4.8Hz,4H),3.63(m,297H),2.73(t,J=7.3Hz,4H),2.42(t,J=7.2Hz,4H),2.01(m,J=7.2,7.3Hz,4H)ppm;13C NMR:198.2,172.6,134.2,70.4,63.6,32.8,32.3,20.2ppm;M(GPC,THF):3028Da;M(GPC,THF):2955Da;PDI(GPC,THF):1.02;融点(DSC):40.22℃;結晶化点(DSC):21.3℃。
【0137】
架橋剤6。1H NMR:δ6.71(s,2H),6.50(b,1H),4.21(tt,J=,4H),2.67(t,3H),2.36(t,J=,4H),1.67(m,8H)ppm;13C NMR:198.6,173.1,134.2,70.5,63.5,33.5,32.4,24.6,24.0ppm;M(GPC,THF):3351Da;M(GPC,THF):3162Da;PDI(GPC,THF):1.06;融点(DSC):45.04℃;結晶化点(DSC):33.5℃。
【0138】
実施例10
チオール末端ポリエチレンイミン(PEI-SH)超分岐マクロマー(図2G)を、図51に要約したように実施例9のマレイミド末端PEG架橋剤と反応させて合成した。PEI-SHの合成には、ペンタフルオロフェニル官能化3-(トリチルチオ)プロピオン酸をPEIと一晩反応させて、トリチル保護されたPEI-チオール超分岐ポリマー(以下「PEI-STr」)を得ることが含まれた(収率=68%)。次に、TFAとEtSiを使用してトリチル基を脱保護し、最終的なPEI-SH超分岐ポリマーを得た(収率=96%)。H NMR、13C NMR、GPC、及びDSCを含む特性データは以下のとおりである。
【0139】
最初のPEI-SH合成では、PEI分子あたり15当量のチオールを反応させてPEIを完全にチオール化した。しかし、ポリマーあたりのチオール濃度が高いため、ホウ酸緩衝液(pH8.6)中のPEI-SHのピンク色の溶液を介して視覚的に観察されるように、分子内及び分子間のジスルフィド結合が形成された。これにより、実施例9のマレイミド官能化架橋剤とのマイケル付加反応に利用可能な遊離チオールの数が最小限に抑えられた。したがって、PEIと反応するチオールの当量を減らして、分子間及び分子内のジスルフィド結合の数を最小限に抑えた。遊離アミンの数を、図53に示すように比色TNBSアッセイによって測定した。このアッセイを、0.1M重炭酸ナトリウム緩衝液、pH8.5中の2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)の0.01%(w/v)溶液をPEI-SHと反応させることによって実施した。溶液を37℃で2時間インキュベートした後、得られた黄色の溶液を10%SDS及び1N HClで希釈して、反応を止めた。溶液に存在する第一級アミンの数と相関する吸光度を335nmで読み取った。PEI及び完全にチオール化されたPEI-SHの様々な濃度に基づいて標準曲線を作成した。RFU対濃度(μg/mL)グラフの傾きは、特定の分子上の遊離アミンの数と相関する。PEI(MW1800)には平均15個の遊離アミンがあり、TNBSアッセイの傾きは0.007である。完全にチオール化されたPEI-SHは、予想どおり0.000の傾きを示し、分子上に第一級アミンが存在しないことを示す。4当量のトリチルチオプロピオン酸を用いて調製されたPEI-SHを表す線の傾きを評価した。その線の傾きは0.002で、官能化されていないPEIの傾きの3分の1である。これらのデータから、PEIポリマーの約2/3がチオール化されていることが確認され、これは5~6個の第一級アミンが残っていることを意味する。PEIのこの部分官能化により、分子内及び分子間のジスルフィド結合が最小限に抑えられ、マレイミド官能化架橋剤によるヒドロゲルの形成が促進されることが期待される。
【0140】
PEI-STr。PEI(3g)をDMFに溶解させた。3-(トリチルチオ)プロピオン酸ペントフルオロフェノール(3.4g)、HOBt(3.2g)、及びDIPEA(4.7mL)を加えた。反応物を室温で一晩撹拌した。反応物を塩化メチレンに溶解させ、有機相を重炭酸ナトリウム、水、及びブラインから抽出した。有機溶液を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾紙で濾過し、濃縮した。有機溶液をジエチルエーテル中で沈殿させ、真空下で乾燥させて、淡黄色の固体を得た(収率68%)。H NMR:δ8.00(s,1H),7.49-7.10(m,48H),3.65-2.01(m,60H)ppm;13C NMR:162.5,144.6,129.5,127.9,126.7,36.5,35.1,27.7ppm。
【0141】
PEI-SH。磁気撹拌子を備えた丸底フラスコ内で、PEI-STr(2g)を最小量の塩化メチレンに溶解させた。トリフルオロ酢酸(TFA)(12.3mL)及びトリエチルシラン(2.7mL)を、撹拌溶液に同時に滴下した。反応物を室温で3時間撹拌した。塩化メチレン及びTFAを真空下で除去し、最小量の塩化メチレンに再溶解させた。溶液をジエチルエーテル中で沈殿させ、生成物を真空下で一晩乾燥させた。生成物を1N HClに溶解させ、0.22μmシリンジフィルターを通して濾過し、凍結乾燥して、淡黄色固体(収率96%)を得た。H NMR:7.9(s,1H),3.61-2.49(m,217.13H)ppm;13C NMR:163.1,162.8,117.6,115.3,39.5,22.7ppm;M(GPC,水性):5660Da;M(GPC,水性):6994Da;PDI(GPC,水性):1.12;Mp(DSC):15.6℃。
【0142】
実施例11
実施例9の架橋剤と実施例10のマクロマーを組み合わせることによりヒドロゲルを調製した。ヒドロゲルを、2:1の架橋剤:PEI(SH)の比で調製した。架橋剤及びPEI-SHを、それぞれ、0.1Mリン酸緩衝液pH6.5及び0.3Mホウ酸緩衝液pH8.6に溶解させた。各溶液を混合チップを備えたデュアルルーメンシリンジに充填し、円筒型に注入して固体ヒドロゲルを形成した。
【0143】
ゲル化反応速度を、マレイミド架橋剤をPEI-SH模倣物であるメルカプトプロピオン酸と混合したときのH NMRにおける6.70ppmでのマレイミドアルケンピークの消失を追跡することによって評価した。in situでPEI-SH模倣物として使用される2当量のメルカプトプロピオン酸を注入した後、NMRスペクトルを0.4秒ごとに約20秒間記録した。PEI-SH模倣物の注入直後には6.70ppmではアルケンのピークは観察されず、0.4秒より速いゲル化速度を示した。
【0144】
ゲル化後、ヒドロゲルの貯蔵弾性率を機械的強度の評価として、ひずみ及び周波数スイープによって測定し、線形粘弾性領域(LVER)を決定した。LVERは10ひずみ%まで存在し、これは塑性変形が発生する前にこれらのヒドロゲルに適用できる最大ひずみである。周波数スイープは、LVER内で3%ひずみ、0.1~10Hzで行った。我々のヒドロゲルの初期貯蔵弾性率は2000~5000Paであった。50mM PBS中でヒドロゲルが膨潤すると、架橋剤4、5、及び6は貯蔵弾性率の低下を示した。図54は、パネルA)ヒドロゲルのレオロジー測定;パネルB)50mM PBS中での膨潤;及びパネルC)0.3M CME溶液中のヒドロゲルの溶解を示す。G’の時間経過に伴う減少は、加水分解による架橋剤の劣化に起因すると考えられる。
【0145】
分解速度を推定し、エステルではなく内部チオエステルでの加水分解の位置を確認するために、H NMR架橋剤スペクトルを0.3M重炭酸ナトリウム緩衝液、pH8.0中で20分間モニタリングした。内部チオールに隣接するメチレンは3.41ppmから3.17ppmにシフトしたが、架橋剤中の二酸結合(コハク酸、グルタル酸、アジピン酸)のもう一方の末端メチレンに対応する、エステル結合に隣接する4.15ppmのメチレンピークは、塩基触媒による加水分解中にシフトしなかった。このH NMRシフトにより、チオエステルの選択的加水分解が確認された。図55は、チオールに隣接するメチレンの3.41ppm(結合)から3.17ppm(加水分解)へのシフトによって観察される、チオエステルの加水分解を示すH NMRスペクトルを示す。
【0146】
架橋剤4、5、及び6を使用して調製されたヒドロゲルの分解速度は4時間超、24時間超、及び7日超と様々で、架橋の内部チオエステルを加水分解から保護する内部二酸結合の疎水性メチレン鎖長に対応して増加した。架橋剤4は2つのメチレンとの内部コハク酸結合を含み、一方、架橋剤5と6はそれぞれ3つと4つのメチレンのグルタル酸とアジピン酸結合を含む。架橋剤中のメチレン鎖長が長く疎水性が高いほど、チオエステルは加水分解開裂に対してより安定すると考えられ、その結果、分解速度が遅くなる。架橋剤4、5、及び6内のメチレン鎖長に対する分解速度の変化により、機械的完全性を維持するために架橋剤の構造を通じてヒドロゲルの機械的特性を調整することができる。
【0147】
200~400%の間で膨潤が観察された(図54、パネルB))。膨張は、50mM PBSに浸漬してから24時間後に最大に達した。ヒドロゲルには周囲環境から水性液体を吸収するとサイズが拡大する能力があるため、水溶液中での膨潤はヒドロゲルにとって有利であると考えられる。
【0148】
0.3Mシステインメチルエステル(CME)溶液に浸漬したときの、チオール-チオエステル交換によるヒドロゲルのオンデマンド溶解時間を評価した(図8)。周波数スイープを、ヒドロゲルネットワークが完全に崩壊又は分解するまで(G’<300Pa)、十分なCME曝露を可能にするために10分間隔で実施した。チオール-チオエステル交換により、ヒドロゲルのネットワークが崩壊し、CMEのアミンが再配列されて不可逆的なアミド結合が形成され、ヒドロゲルの再形成が妨げられた。溶解は、3つのヒドロゲル製剤すべてについて10分以内に起こった(図54、パネルC))。酸結合(コハク酸、グルタル酸、アジピン酸)は中性条件下では加水分解を遅らせるが、CME溶液の塩基性条件はチオール-チオエステル交換反応を触媒する。チオール-チオエステル交換によるヒドロゲルネットワークの迅速な溶解は、患者の麻酔時間を最小限に抑えるなど、医療現場で役立つ可能性がある。
【0149】
ex vivo研究の前に、NIH3T3線維芽細胞に対するヒドロゲルの細胞毒性を24時間の曝露にわたって評価した。ヒドロゲル4及び5は60%の平均細胞生存率を示し、一方、ヒドロゲル6は98%の平均細胞生存率を示した。ヒドロゲル4及び5の細胞生存率が低いのは、ヒドロゲルネットワークの崩壊によるコハク酸及びグルタル酸の急速な放出と、トランスウェルプレートの閉鎖環境での局所的な酸性度の増加によるものと考えられる。
【0150】
ヒドロゲル破裂圧力を、生体外の2cmブタ頸動脈の一端にマクロマーを総体積1mLで注入してヒドロゲルを形成することによって測定した。ヒドロゲルは血管を満たし、所定の位置に留まった。この塞いだ動脈を湿気の多い環境で30分間保管した後(例えば、例示的な外科手術中の時間を模倣する)、この血管を、コンピュータに接続された圧力トランスデューサーとシリンジポンプを備えた自社独自の破裂圧力システムに取り付けた(図56)。漏れが観察されるまで、脱イオンHOを1mL/分で血管にポンプで送り込み、破損するまで圧力を記録した。架橋剤4、5、6を用いて調製されたヒドロゲル4、5、6の破裂圧力はそれぞれ382mmHg、440mmHg、及び231mmHgであり、動脈圧(120/60)よりも最大4倍大きかった(図57)。200~600mmHgの破裂圧力はヒドロゲル閉塞デバイスには十分であると考えられる。
【0151】
本開示の範囲から逸脱することなく、本開示に対して様々な修正及び変形を行うことができることは、当業者には明らかであろう。他の実施形態は、本明細書及び本明細書に開示される本発明の実施を考慮することにより当業者には明らかとなるであろう。本明細書及び実施例は例示としてのみ考慮され、本発明の真の範囲及び趣旨は特許請求の範囲によって示されることが意図されている。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
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図44-1】
図44-2】
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【国際調査報告】