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特表2024-526878調節されたウイルス送達システムおよびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】調節されたウイルス送達システムおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20240711BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20240711BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240711BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240711BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240711BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240711BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240711BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240711BHJP
   A61K 38/02 20060101ALN20240711BHJP
   A61K 38/45 20060101ALN20240711BHJP
   A61K 38/46 20060101ALN20240711BHJP
   A61K 38/51 20060101ALN20240711BHJP
   A61K 38/47 20060101ALN20240711BHJP
   A61K 47/34 20170101ALN20240711BHJP
【FI】
C12N7/01
C12N15/867 Z ZNA
A61P43/00 121
A61P43/00 123
A61K48/00
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P35/02
A61K45/00
A61K35/76
A61K38/02
A61K38/45
A61K38/46
A61K38/51
A61K38/47
A61K47/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503529
(86)(22)【出願日】2022-07-21
(85)【翻訳文提出日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 US2022074024
(87)【国際公開番号】W WO2023004396
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】63/224,330
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】カサハラ ノリユキ
(72)【発明者】
【氏名】コリンズ サラ エー.
(72)【発明者】
【氏名】ハッダッド アレクサンダー エフ.
(72)【発明者】
【氏名】アギー マニッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ログ クリストファー アール.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA72Y
4B065AA90Y
4B065AA93Y
4B065AA97X
4B065AA97Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA27
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC26
4C076CC27
4C076EE17
4C084AA02
4C084AA13
4C084AA22
4C084BA44
4C084CA53
4C084DC22
4C084DC25
4C084DC26
4C084DC50
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA15
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZB271
4C084ZC751
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA15
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZB27
4C087ZC75
(57)【要約】
2種以上の協調的に調節されるウイルスベクターを含む組換えウイルスシステムが、本明細書において提供される。これらのシステムを用いて細胞増殖性障害を処置するための方法もまた、提供される。本明細書において提供される組成物および方法は、受容体干渉および/または重複感染抵抗性を回避することによって(それにより両ベクターの漸進的な複製と各ベクターによる効率的な遺伝子送達とを可能にする)、以前の方法よりもより大きな導入遺伝子および/またはより多量の導入遺伝子の、より効率的なかつ協調的な送達を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(i)第1のアクチベーターをコードする核酸に機能的に連結された第1の調節エレメントをコードし、かつ
(ii)第1のレトロウイルスが複製欠損レトロウイルス(RDV)になるように、複製に必要とされる少なくとも1種のウイルスタンパク質のコード配列を欠く、
第1のレトロウイルスと、
(b)第1のレトロウイルスにおいて欠いている、ウイルス複製に必要な1種または複数種のウイルスタンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドを含む核酸を含み、第1のアクチベーターが第1のポリヌクレオチドおよび/またはそのコードされるウイルスタンパク質の発現を活性化する時だけ第1のポリヌクレオチドが発現される、第2のレトロウイルスと
を含む、組換えレトロウイルスシステム。
【請求項2】
アクチベーターが、第1のポリヌクレオチドの転写または翻訳を増加させることにより発現を活性化する、請求項1記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項3】
第2のレトロウイルスが、ウイルス複製に必要なウイルスタンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドに機能的に連結された第2の調節エレメントを含み、
第1のアクチベーターが、第2の調節エレメントに結合することにより第1のポリヌクレオチドの転写を活性化する、
請求項1または2記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項4】
アクチベーターが第2の調節エレメントに結合して転写を活性化し、第2の調節エレメントがプロモーター、エンハンサー、またはリプレッサー結合配列である、請求項1~3のいずれか一項記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項5】
第1のアクチベーターがデリプレッサーであり、
該デリプレッサーが第1のポリヌクレオチドおよび/またはウイルスタンパク質の発現を抑制解除することにより発現を活性化する時にだけ、第2のレトロウイルスによってコードされる第1のポリヌクレオチド配列が発現される、
請求項1記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項6】
抑制解除が転写レベルまたは翻訳レベルで起こる、請求項5記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項7】
第1の調節エレメントおよび/または第2の調節エレメントが、プロモーター、エンハンサー、プロモーター/エンハンサーの組み合わせ、内部リボソーム進入部位、エピジェネティック制御因子、および翻訳制御因子からなる群より選択される、請求項1~6のいずれか一項記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項8】
プロモーターが、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターである、請求項7記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項9】
第2のレトロウイルスが、ウイルス複製に必要な全てのウイルスタンパク質をコードする複製レトロウイルス(RRV)である、請求項1~8のいずれか一項記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項10】
第1のおよび/または第2のレトロウイルスが、ペイロードポリヌクレオチド配列に機能的に連結されたペイロードプロモーターを含む異種発現カセットをさらに含む、請求項1~9のいずれか一項記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項11】
複製に必要とされるウイルスタンパク質が、gag、env、pol、rev、およびtatからなる群より選択される、請求項1~10のいずれか一項記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項12】
レトロウイルスが、レンチウイルス、マウス白血病ウイルス(MLV)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、フォーミーウイルスからなる群より選択される、請求項1~11のいずれか一項記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項13】
ペイロードポリヌクレオチドが、治療用タンパク質、プロドラッグアクチベーター、細胞傷害性タンパク質、およびレポータータンパク質からなる群より選択されるポリペプチドをコードする、請求項10~12のいずれか一項記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項14】
プロドラッグアクチベーターが、チミジンキナーゼ、シチジンデアミナーゼ、またはプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)である、請求項13記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項15】
第1のアクチベーターが、HIV-1トランスアクチベータータンパク質(Tat)、HIV-1 Rev、Gal4-VP16、GAL4FF、GAL4-VP64、およびVP16-E2、およびテトラサイクリントランスアクチベータータンパク質からなる群より選択される、請求項1~14のいずれか一項記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項16】
第1のアクチベーターがGAL4-VP16であり、
GAL4-VP16が、第2のレトロウイルス中の1つまたは複数のGAL4結合部位に結合する、
請求項15記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項17】
第2のレトロウイルスが複製欠損レトロウイルス(RDV)であり、かつ第2のアクチベーターをコードする核酸に機能的に連結された第3の調節エレメントをコードし、第1のレトロウイルスが、ウイルス複製に必要なウイルスタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドを含む核酸を含み、
第2のアクチベーターが第2のポリヌクレオチドの発現を活性化する時だけ第2のポリヌクレオチドが発現され、かつ
第1のおよび第2のアクチベーターが発現された時だけ第1のおよび第2のレトロウイルスが複製できる、
請求項1記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項18】
第1のレトロウイルスが、ウイルス複製に必要なウイルスタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドに機能的に連結された第4の調節エレメントを含み、
第1のアクチベーターが、第4の調節エレメントに結合することにより第2のポリヌクレオチドの転写を活性化する、
請求項17記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項19】
第3の調節エレメントまたは第4の調節エレメントが、プロモーター、エンハンサー、プロモーター/エンハンサーの組み合わせ、内部リボソーム進入部位、エピジェネティック制御因子、および翻訳制御因子からなる群より選択される、請求項17または18記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項20】
プロモーターが、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターである、請求項19記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項21】
第1のレトロウイルスもしくは第2のレトロウイルスまたはその両方が、ペイロードポリヌクレオチドに機能的に連結されたペイロードプロモーターを含む異種発現カセットを含む、請求項18~20のいずれか一項記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項22】
ペイロードポリヌクレオチドが、治療用タンパク質、プロドラッグアクチベーター、細胞傷害性タンパク質、およびレポータータンパク質からなる群より選択されるポリペプチドをコードする、請求項21記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項23】
複製に必要とされるウイルスタンパク質が、gag、env、pol、rev、およびtatからなる群より選択される、請求項17~22のいずれか一項記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項24】
レトロウイルスが、レンチウイルス、マウス白血病ウイルス(MLV)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、およびフォーミーウイルスからなる群より選択される、請求項17~23のいずれか一項記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項25】
ペイロードポリヌクレオチドが、治療用タンパク質、プロドラッグアクチベーター、細胞傷害性タンパク質、およびレポータータンパク質からなる群より選択されるポリペプチドをコードする、請求項17~24のいずれか一項記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項26】
プロドラッグアクチベーターが、チミジンキナーゼ、シチジンデアミナーゼ、またはプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)である、請求項25記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項27】
第3のまたは第4の調節エレメントが、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、および組織特異的プロモーターからなる群より選択される、請求項17~26のいずれか一項記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項28】
アクチベーターが、HIV-1トランスアクチベータータンパク質(Tat)、HIV-1 Rev、Gal4-VP16、およびVP16-E2、およびテトラサイクリントランスアクチベータータンパク質からなる群より選択される、請求項17~27のいずれか一項記載の組換えレトロウイルスシステム。
【請求項29】
(a)第1の適切な宿主細胞に、請求項1~28のいずれか一項記載の第1のレトロウイルスベクターをトランスフェクトする工程;
(b)第2の適切な宿主細胞に、請求項1~28のいずれか一項記載の第2のレトロウイルスベクターをトランスフェクトする工程;ならびに
(c)第1のおよび第2のレトロウイルスを回収する工程
を含む、組換えレトロウイルスシステムを作製するための方法。
【請求項30】
標的細胞に複製レトロウイルスシステムをトランスフェクトするための方法であって、標的細胞を、請求項1~29のいずれか一項記載の第1のレトロウイルスおよび第2のレトロウイルスと接触させる工程を含む、前記方法。
【請求項31】
細胞が哺乳動物細胞である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
細胞を、インビトロ、エクスビボ、またはインビボで接触させる、請求項29~31のいずれか一項記載の方法。
【請求項33】
(a)請求項1~28のいずれか一項記載のシステムの第1のレトロウイルスおよび/または第2のレトロウイルスと、
(b)薬学的担体と
を含む、薬学的組成物。
【請求項34】
その必要がある対象において疾患を処置する方法であって、請求項1~28のいずれか一項記載のシステムまたは請求項33記載の薬学的組成物を該対象に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項35】
前記疾患が細胞増殖性障害である、請求項34記載の方法。
【請求項36】
細胞増殖性障害が、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、精巣癌、腎臓癌、尿路癌、口腔癌、頭頚部癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、結腸直腸癌、皮膚癌、黒色腫、肉腫、リンパ腫、白血病、および、膠芽腫、未分化星状細胞腫、乏突起神経膠腫、髄芽細胞腫を含む脳癌からなる群より選択される、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記癌が膠芽腫である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
第1のまたは第2のポリヌクレオチドがプロドラッグアクチベーターをコードし、前記方法が、プロドラッグアクチベーターが発現された時にプロドラッグアクチベーターがプロドラッグを毒性薬物に変換するように該プロドラッグを前記対象に投与する工程をさらに含む、請求項34~37のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
第1のおよび/または第2のレトロウイルスベクターが、プラスミドとしてまたは感染性レトロウイルス粒子として前記対象に投与される、請求項34~38のいずれか一項記載の方法。
【請求項40】
前記対象が哺乳動物である、請求項34~39のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
前記対象がヒトである、請求項40記載の方法。
【請求項42】
前記投与が全身投与、局部投与、または局所投与である、請求項34~41のいずれか一項記載の方法。
【請求項43】
前記システムの第1のおよび第2のレトロウイルスが、前記対象に、同時にまたは連続して投与される、請求項34~42のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
先行する関連出願
本願は、2021年7月21日に出願された米国仮出願第63/224,330号の恩典を主張する。米国仮出願第63/224.330号は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景
ウイルス遺伝子療法において進歩が見られたが、固形腫瘍塊の全体にわたって安定して、かつ持続的に発現される多量の遺伝情報を送達するのは困難なことが多い。既存の技術では導入遺伝子を送達するために1種の非複製ウイルスベクターまたは複製ウイルスベクターしか利用しないことが多い。2種以上のベクターが組み合わされても、同調した複製ならびに導入遺伝子発現を可能にするやり方で協調して調節されない。従って、より大きな導入遺伝子および/またはより多量の導入遺伝子を、効率的かつ協調的に送達するための組成物および方法が必要である。
【発明の概要】
【0003】
概要
協調的に調節される2種以上のウイルスベクターを含む組換えウイルスシステムが本明細書において提供される。一部の態様において、組換えウイルスシステムは、協調的に調節される2種以上のレトロウイルスベクターを含む組換えレトロウイルスシステムである。本発明者らは、協調的に調節するウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクターが受容体干渉および/または重複感染抵抗性を回避し、それによって両ベクターの漸進的な複製と各ベクターによる効率的な遺伝子送達とを可能にすることを発見した。
【0004】
(a)(i)第1のアクチベーターをコードする核酸に機能的に連結された第1の調節エレメントをコードし、かつ(ii)第1のウイルスが複製欠損ウイルスになるように、複製に必要とされる少なくとも1種のウイルスタンパク質のコード配列を欠く、第1のウイルスと、(b)第1のウイルスにおいて欠いている、ウイルス複製に必要な1種または複数種のウイルスタンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドを含む核酸を含み、第1のアクチベーターが第1のポリヌクレオチドおよび/またはそのコードされるウイルスタンパク質の発現を活性化する時だけ第1のポリヌクレオチドが発現される、第2のウイルスとを含む、組換えウイルスシステムが本明細書において提供される。
【0005】
一部の態様において、組換えウイルスシステムは組換えレトロウイルスシステムである。従って、(a)(i)第1のアクチベーターをコードする核酸に機能的に連結された第1の調節エレメントをコードし、(ii)第1のレトロウイルスが複製欠損レトロウイルス(RDV)になるように、複製に必要とされる少なくとも1種のウイルスタンパク質のコード配列を欠く、第1のレトロウイルスと、(b)第1のレトロウイルスにおいて欠いている、ウイルス複製に必要な1種または複数種のウイルスタンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドを含む核酸を含み、第1のアクチベーターが、第1のポリヌクレオチドおよび/またはそのコードされるウイルスタンパク質の発現を活性化する時にだけ、第1のポリヌクレオチドが発現される、第2のレトロウイルスとを含む、組換えレトロウイルスシステムが本明細書において提供される。
【0006】
一部の態様において、アクチベーターは第1のポリヌクレオチドの転写または翻訳を増加させることにより発現を活性化する。一部の態様において、第2のウイルス、例えば、レトロウイルスは、ウイルス複製に必要なウイルスタンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドに機能的に連結された第2の調節エレメントを含み、第1のアクチベーターは、第2の調節エレメントに結合することにより第1のポリヌクレオチドの転写を活性化する。一部の態様において、前記アクチベーターは第2の調節エレメントに結合して転写を活性化し、第2の調節エレメントはプロモーター、エンハンサー、またはリプレッサー結合配列である。
【0007】
一部の態様において、第1のアクチベーターはデリプレッサーであり、デリプレッサーが第1のポリヌクレオチドおよび/またはウイルスタンパク質の発現を抑制解除することにより発現を活性化する時にだけ、第2のウイルス、例えば、レトロウイルスによってコードされる第1のポリヌクレオチド配列は発現される。一部の態様において、抑制解除は転写レベルまたは翻訳レベルで起こる。
【0008】
一部の態様において、第1の調節エレメントおよび/または第2の調節エレメントは、プロモーター、エンハンサー、プロモーター/エンハンサーの組み合わせ、内部リボソーム進入部位、エピジェネティック制御因子、および翻訳制御因子からなる群より選択される。一部の態様において、プロモーターは構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターである。一部の態様において、第2のウイルスは、ウイルス複製に必要な全てのタンパク質をコードする、複製ウイルス、例えば、複製レトロウイルス(RRV)である。一部の態様において、第1のおよび/または第2のウイルス、例えば、レトロウイルスは、ペイロードポリヌクレオチド配列に機能的に連結されたペイロードプロモーターを含む異種発現カセットをさらに含む。
【0009】
一部の態様において、複製に必要とされるウイルスタンパク質は、gag、env、pol、rev、およびtatからなる群より選択される。一部の態様において、レトロウイルスは、レンチウイルス、マウス白血病ウイルス(MLV)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、フォーミーウイルスからなる群より選択される。一部の態様において、ペイロードポリヌクレオチドは、治療用タンパク質、プロドラッグアクチベーター、細胞傷害性タンパク質、およびレポータータンパク質からなる群より選択されるポリペプチドをコードする。一部の態様において、プロドラッグアクチベーターは、チミジンキナーゼ、シチジンデアミナーゼ、またはプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)である。
【0010】
一部の態様において、第1のアクチベーターは、HIV-1トランスアクチベータータンパク質(Tat)、HIV-1 Rev、Gal4-VP16、GAL4FF、GAL4-VP64、およびVP 16-E2、ならびにテトラサイクリントランスアクチベータータンパク質からなる群より選択される。
【0011】
一部の態様において、第2のウイルスは複製欠損ウイルス、例えば、複製欠損レトロウイルス(RDV)であり、第2のアクチベーターをコードする核酸に機能的に連結された第3の調節エレメントをコードする。第1のウイルス、例えば、レトロウイルスは、ウイルス複製に必要なウイルスタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドを含む核酸を含み、第2のアクチベーターが第2のポリヌクレオチドの発現を活性化する時にだけ第2のポリヌクレオチドは発現され、第1のおよび第2のアクチベーターが発現される時にだけ、第1のおよび第2のウイルス、例えば、レトロウイルスは複製できる。
【0012】
一部の態様において、第1のウイルス、例えば、レトロウイルスは、ウイルス複製に必要なウイルスタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドに機能的に連結された第4の調節エレメントを含み、第1のアクチベーターは第4の調節エレメントに結合することにより第2のポリヌクレオチドの転写を活性化する。一部の態様において、第3の調節エレメントまたは第4の調節エレメントは、プロモーター、エンハンサー、プロモーター/エンハンサーの組み合わせ、内部リボソーム進入部位、エピジェネティック制御因子、および翻訳制御因子からなる群より選択される。一部の態様において、プロモーターは構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターである。
【0013】
一部の態様において、第1のもしくは第2のウイルス(例えば、第1のもしくは第2のレトロウイルス)またはその両方が、ペイロードポリヌクレオチドに機能的に連結されたペイロードプロモーターを含む異種発現カセットを含む。一部の態様において、ペイロードポリヌクレオチドは、治療用タンパク質、プロドラッグアクチベーター、細胞傷害性タンパク質、およびレポータータンパク質からなる群より選択されるポリペプチドをコードする。
【0014】
一部の態様において、複製に必要とされるウイルスタンパク質は、gag、env、pol、rev、およびtatからなる群より選択される。一部の態様において、レトロウイルスは、レンチウイルス、マウス白血病ウイルス(MLV)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、およびフォーミーウイルスからなる群より選択される。
【0015】
一部の態様において、ペイロードポリヌクレオチドは、治療用タンパク質、プロドラッグアクチベーター、細胞傷害性タンパク質、およびレポータータンパク質からなる群より選択されるポリペプチドをコードする。一部の態様において、プロドラッグアクチベーターは、チミジンキナーゼ、シチジンデアミナーゼ、またはプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)である。
【0016】
一部の態様において、第3の調節エレメントまたは第4の調節エレメントは、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、および組織特異的プロモーターからなる群より選択される。一部の態様において、アクチベーターは、HIV-1トランスアクチベータータンパク質(Tat)、HIV-1 Rev、Gal4-VP16、およびVP16-E2、およびテトラサイクリントランスアクチベータータンパク質からなる群より選択される。
【0017】
一部の態様において、本明細書に記載のベクターは1つまたは複数の末端反復(LTR)配列を含む。本明細書に記載の任意のベクターにおいて、どのLTR配列も、例えば、3’LTRおよび/または5’LTRは欠失を含んでもよく、例えば、LTRのU3領域に欠失を含んでもよい。一部の態様において、3’LTRおよび/または5’LTRは異種プロモーター(例えば、CMVプロモーター)を含む。一部の態様において、3’LTR配列は、3’LTRの天然プロモーター機能を低減または破壊するように改変されているレトロウイルス3’LTR配列(例えば、MMLV3’LTR配列)である。天然プロモーター機能は、例えば、3’LTRにある1つもしくは複数の配列を欠失させることにより、および/または1つもしくは複数の配列を挿入することにより低減または破壊することができる。一部の態様において、アクチベーターの結合部位、例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、またはそれ以上のGAL4結合部位を含む1つまたは複数の核酸配列がLTRに挿入される。一部の態様において、本明細書に記載の任意のベクターの3’LTR配列は、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、またはSEQ ID NO:3に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、または99%の同一性を有する核酸配列を含む。
【0018】
組換えウイルスシステム、例えば、レトロウイルスシステムを作製するための方法であって、(a)第1の適切な宿主細胞に、本明細書に記載の任意のシステムの第1のウイルスベクターをトランスフェクトする工程;(b)第2の適切な宿主細胞に、本明細書において提供される任意のシステムの第2のウイルスベクターをトランスフェクトする工程;ならびに(c)第1のおよび第2のウイルスを回収する工程を含む、方法が本明細書において提供される。
【0019】
標的細胞に複製レトロウイルスシステムを形質導入するための方法であって、標的細胞を、本明細書に記載のシステムのいずれか1つの第1のおよび第2のウイルスと接触させる工程を含む、方法が本明細書において提供される。
【0020】
一部の態様において、前記細胞は哺乳動物細胞である。一部の態様において、前記細胞はインビトロ、エクスビボ、またはインビボで接触させる。
【0021】
(a)本明細書において提供される任意のシステムの第1のウイルスおよび/または第2のウイルスと、(b)薬学的担体とを含む、薬学的組成物も提供される。
【0022】
その必要がある対象において疾患を処置する方法であって、本明細書において提供される任意のシステムまたは薬学的組成物を対象に投与する工程含む、方法も提供される。一部の方法において、疾患は細胞増殖性障害である。一部の態様において、細胞増殖性障害は、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、精巣癌、腎臓癌、尿路癌、口腔癌、頭頚部癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、結腸直腸癌、皮膚癌、黒色腫、肉腫、リンパ腫、白血病、および、膠芽腫、未分化星状細胞腫、乏突起神経膠腫、髄芽細胞腫を含む脳癌からなる群より選択される。一部の態様において、癌は膠芽腫である。
【0023】
一部の態様において、第1のまたは第2のポリヌクレオチドはプロドラッグアクチベーターをコードし、プロドラッグアクチベーターが発現された時にプロドラッグアクチベーターがプロドラッグを毒性薬物に変換するように、前記方法はプロドラッグを対象に投与する工程をさらに含む。一部の態様において、第1のおよび/または第2のウイルスベクター、例えば、第1のおよび/または第2のレトロウイルスベクターはプラスミドとして、または感染性ウイルス粒子として対象に投与される。一部の態様において、対象は哺乳動物である。一部の態様において、対象はヒトである。
【0024】
一部の態様において、投与は全身投与、局部投与、または局所投与である。一部の態様において、システムの第1のおよび第2のレトロウイルスは、対象に、同時にまたは連続して投与される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本願は以下の図面を含む。図面は、前記組成物および方法のある特定の態様および/または特徴を例示し、前記組成物および方法のあらゆる説明を補足することが意図される。図面が前記組成物および方法の範囲を限定することを書面による説明が明確に示している場合を除いて、前記組成物および方法の範囲を限定しない。
【0026】
図1図1は、実施例に記載のような、GAL4/VP16アクチベーター(GAL4FF)を含む例示的な複製欠損レトロウイルス(RDV)であるplXIX GAL4 IRES EMDレトロウイルスベクターの模式図である。
図2図2は、実施例に記載の例示的な複製レトロウイルス(RRV)であるpAC3_P2A_Stb_GAL4BS_最小欠失レトロウイルスベクターの模式図である。
図3図3は、実施例に記載の例示的な複製レトロウイルス(RRV)であるpAC3_P2A_Stb_GAL4BS_最大欠失レトロウイルスベクターの模式図である。
図4図4は、実施例に記載の例示的なRDVであるpLXIX Tat IRES EMDレトロウイルスベクターの模式図である。
図5図5は、実施例に記載の例示的なRRVであるpAC3 TIN IRES EMDレトロウイルスベクターの模式図である。
図9図9Aは、9日後に野生型SB28腫瘍細胞においてpAC3_P2A_Stb_GAL4BS_最小欠失レトロウイルスベクターが複製しないことを示すグラフである。図9Bは、SB28腫瘍細胞においてGAL4/VP16を安定して発現させた時にpAC3_P2A_Stb_GAL4BS_最小欠失が効率的に複製することを示すグラフである。
図10A図10Aは、pLXIX GAL4 IRES EMDレトロウイルスベクターとpAC3_P2A_Stb_GAL4BS_最小欠失レトロウイルスベクター(最小Strawberryベクター)を一緒にSB28膠芽腫腫瘍細胞に添加することによりロバストなウイルス複製と両ウイルスの伝播が可能になったことを示すグラフである。
図10B図10Bは、同時感染細胞がStrawberry発現のより多い発現を証明したことを示す。このことはバイナリー複製システムの相乗的な性質を強調する。
図10C図10Cは、pLXIX GAL4 IRES EMDレトロウイルスベクターとpAC3_P2A_Stb_GAL4BS_最大欠失レトロウイルスベクター(最大Strawberryベクター)を一緒にSB28膠芽腫腫瘍細胞に添加することにより、高パーセントの二重陽性細胞までのロバストなウイルス複製と両ウイルスの伝播が可能になったことを示す。
図11A図11Aは、各ウイルス構築物が感染した頭蓋内腫瘍のパーセント、ならびにpAC3_P2A_Stb_GAL4BS_最小欠失プレミックス(Min-P)とpAC3_P2A_Stb_GAL4BS_最大欠失プレミックス(Max-P)について二重感染したパーセントを示すグラフである。
図11B図8Bは、Min-PおよびMax-Pについて全ての感染SB28腫瘍細胞に対するパーセントとしてのウイルス感染サブグループの内訳を示すグラフである。
図11C図11Cは、Max-Pの代表的なフローサイトメトリー分析である。
図11D図11Dは、Min-Pの代表的なフローサイトメトリー分析である。
図12A図12Aは、各ウイルス構築物が感染した頭蓋内腫瘍のパーセント、ならびにpAC3_P2A_Stb_GAL4BS_最小欠失注射(Min-I)について二重感染したパーセントを示すグラフである。
図12B図12Bは、Min-Iについて全ての感染SB28腫瘍細胞に対するパーセントとしてのウイルス感染サブグループの内訳を示すグラフである。
図12C図12Cは、Min-Iの代表的なフローサイトメトリー分析である。
図13図13は、Tat依存性コンピテントウイルスと、Tatをコードする例示的な複製欠損レトロウイルス(RDV)を含む例示的なレトロウイルスベクターシステムである。
図14図14は、イムノモジュレーターを送達するための例示的なレトロウイルスベクターシステムである。この例示的なベクターでは、欠損ウイルスの中に、送達される3つの免疫調節性転写物がある。FLT3Lは樹状細胞の動員と発達を助ける。IL-7はT細胞の増殖と活性化を助ける。4-1BBLは、持続的なT細胞活性化を助けることができる補助刺激分子である。IL-15スーパーアゴニスト (RLI)が、協調的に調節されるコンピテントウイルスの中に入れられて送達されるだろう。このサイトカインもT細胞の活性化と増殖を助ける。
図15図15は、Cas9を細胞に送達するための例示的なレトロウイルスベクターシステムである。このシステムは、欠損ウイルス中のCas9を送達するのに使用することができる。関心対象の遺伝子に対するコグネイトガイドRNA(gRNA)は、協調的に調節されるコンピテントウイルスの中に入れられて送達される。このシステムは、機能的gRNAが腫瘍細胞に存在すると、その機能的gRNAに対する任意の遺伝子をノックアウトすることができる。
図16図16Aは、Gal4とCas9をコードする例示的な複製欠損レトロウイルス(RDV)(pLXIX_GAL4_P2A_EGFP_T2A_Cas9)である。図16Bは、Gal4とCas9をコードする、pLXIX_GAL4_P2A_EGFP_T2A_Cas9中の発現カセットの線を使った図である。
図17図17A~Cは、例示的な複製コンピテントレトロウイルス(RRV)の線を使った図である。図17Aは、ギブソンアセンブリを用いて最小欠失RRVベクター(図17B)および最大欠失RRVベクター(図17C)のNot1部位にU6-B2MsgRNA発現カセットを挿入するためのテンプレートとして役立ったU6-B2MsgRNA発現ベクターの線を使った図である。
図18A図18Aは、β-2-ミクログロブリンを標的とするsgRNAをコードする例示的な最小欠失複製コンピテントレトロウイルス(pgalAC3_P2A_strb_U6_B2M)である。
図18B図18Bは、β-2-ミクログロブリンを標的とするsgRNAをコードする例示的な最大欠失複製コンピテントレトロウイルス(pgallargeAC3_P2A_STRB_U6_B2M)である。
図19図19は、実施例に記載のように、U87vIII細胞における、複製欠損レトロウイルス(RDV)(pLXIX_GAL4_P2A_EGFP_T2A_Cas9)と、β-2-ミクログロブリンを標的とするsgRNAをコードする最小欠失複製コンピテントレトロウイルス(pgalAC3_P2A_strb_U6_B2M)のインビトロ伝播を示すグラフである。
図20図20は、LXIX-GAL4-P2A-EGFP-T2A-Cas9と最小欠失AC3-P2A-Strb-U6-B2MsgRNAを用いた、細胞集団全体における、または特に同時導入集団におけるB2Mノックダウンの確認を示すグラフである。
図21A図21Aは、実施例に記載のように、GAL4/VP16アクチベーター(GAL4FF)を含む例示的な複製欠損レトロウイルス(RDV)であるplXIX_GAL4_イムノモジュレーターレトロウイルスベクターの模式図である。
図21B図21Bは、実施例に記載のpAC3_GAL4BS_IL15スーパーアゴニストレトロウイルスベクターの模式図である。
図22図22は、10mLの培地が入っているT75プレート中で感染させた、SB28にplXIX_GAL4_イムノモジュレーターとpAC3-GAL4BS-IL-15を感染させると、IL-7、RLI、およびFLT3Lが75ng/mLまたは0.09pg/細胞/48時間の濃度で効率的に分泌されることを示すグラフである。
図23A図23Aは、実施例に記載のように、pLXIX-GAL4-IMとpAC3-GAL4BS-RLI処理で処理すると腫瘍成長が低減することを示すグラフである。丸:PBS対照;四角:空のRRV;三角:バイナリー-IM(pLXIX-GAL4-IMおよびpAC3-GAL4BS-RLIの投与)。
図23B図23Bは、実施例に記載のように、pLXIX-GAL4-IMとpAC3-GAL4BS-RLI処理で処理すると生存率が増加することを示す生存曲線である。100%の上の線はバイナリー-IM(pLXIX-GAL4-IMとpAC3-GAL4BS-RLIの投与)に対応する。
図24図24は、実施例に記載のように、14日の時点で、pLXIX-GAL4-IMとpAC3-GAL4BS-RLIは、CD3+免疫細胞浸潤(3.0%対20.0%、p=0.001)とCD8 T細胞浸潤(0.8%対8.0%、p=0.01)を含むリンパ球の腫瘍浸潤を増加させたことを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
詳細な説明
以下の説明は、本組成物および方法の様々な局面および態様を列挙する。特定の態様が、前記組成物および方法の範囲を規定すると意図されない。むしろ、前記態様は、少なくとも、開示された組成物および方法の範囲内に含まれる様々な組成物および方法の非限定的な例を提供しているのにすぎない。説明は当業者の立場から解釈されなければならない。従って、当業者に周知の情報が必ず含まれるとは限らない。
【0028】
序論
複製コンピテントウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクター(RRV)には、腫瘍細胞を含む分裂細胞全体にわたって複製および伝播する能力がある。さらに、RRVは、感染した細胞に安定して組み込まれて、感染細胞によるRRV遺伝情報の持続的発現を引き起こす。追加の非ウイルス遺伝子をRRV遺伝情報の中に配置し、複製に必要なウイルス遺伝子に加えて、これらの遺伝子を安定して発現することができる。
【0029】
複製欠損ウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクター(RDV)は、複製に必要なウイルス遺伝子の一部または全てを欠き、結果として、より大きな非ウイルス遺伝子ペイロードを腫瘍細胞に送達することができる。しかしながら、複製欠損ウイルスベクターは複製することができず、腫瘍を通って伝播する能力を欠いており、そのため、腫瘍への遺伝子送達レベルが不十分なために臨床試験において治療利益を実現するのに有効でない。
【0030】
細胞に複製コンピテントウイルスベクターと複製欠損ウイルスベクター、例えば、RRVとRDVを、同時に感染させる、または連続して感染させる(が、細胞に最初にRDVを感染させ、次にRRVに感染させる場合のみ)ことにより、両ウイルスが産生および伝播される。なぜなら、RRVによって産生されたウイルスタンパク質もRDVが伝播するのを可能にするからである。しかしながら、RDV伝播は限定される。一般的に、RRVはRDVを素早く打ち負かし、RDVより速く腫瘍全体に伝播する。
【0031】
さらに、最初にRRVに感染したどの細胞も、その後で、同じウイルスに由来する別のRDVに感染する能力を失う。これは、重複感染抵抗性として知られる現象である。これは、最初にRRVが細胞に感染する場合に、ウイルスが感染細胞の中で、より多くのウイルス粒子を複製し、組み立てる時に、そのエンベロープ(env)タンパク質を天然で産生するために起こる。これらのエンベロープタンパク質は、RDVが細胞に感染するのにも必要とされる、細胞表面受容体として働く細胞タンパク質に内因的に結合し、これを隔離する。この機構により、RRVに既に感染している細胞にRDVは侵入できなくなる。
【0032】
または、複製伝播は、トランス相補性(trans-complementary)または半複製性(semi-replicative)の2種のRDVを用いることにより成し遂げることができる。すなわち、ウイルスゲノムが2種のベクター間で分割されており、それぞれのRDVが他方に無い成分を供給する。しかしながら、この場合でも、envタンパク質を発現するRDVが最初に細胞に感染するのであれば、これにより、他方のRDVは同じ細胞に侵入できなくなり、これ以上複製できなくなる。
【0033】
本明細書において提供される新規の、協調的に調節されるウイルス遺伝子送達システムはこれらの問題に対処する。例えば、本明細書において提供される組成物および方法を用いて、RRVが腫瘍全体に伝播するように、RRVがRDVに依存するように操作することができる。これは、アクチベーターをコードする核酸をRDVに組み込むことにより成し遂げられ、両ベクターが同じ細胞に感染した時に、このアクチベーターはRRVのアクチベーターとして働く。従って、RDVも存在する場合にだけ、RRVは複製することができ、その結果として、RDVが複製するのも助ける。RRVは複製するためにRDVに依存するので、この組み合わせはRRVがRDVを打ち負かすのを妨げる。別の態様において、(通常、感染細胞においてウイルスに対する細胞受容体を独占する)env遺伝子を発現するRDVが、アクチベーター、例えば、第1のRDVにあるプロモーターに結合し、その時だけenv遺伝子転写の進行を可能にする転写因子を供給する第2のRDVに依存するように、互いの複製遺伝子機能をトランス相補することができる2種のRDVが協調的に調節される。従って、重複感染抵抗性は阻止され、両RDVは共同で、全てのウイルス遺伝子を発現することができ、そのため、両方とも複製し、腫瘍を通り抜けて伝播することが可能になる。
【0034】
定義
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用する単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、特に文脈によってはっきりと規定されていない限り複数への言及を含む。
【0035】
「約」とは、ある特定の値が、望ましい結果に影響を及ぼすこと無く終点より「わずかに大きく」てもよく「わずかに小さく」てもよいことを示すことにより数値範囲の終点に柔軟さを与えるために使用される。
【0036】
「含む(including)」、「含む(comprising)」、または「有する」という用語およびその語尾変化の本明細書における使用は、その後ろに列挙される要素およびその均等物ならびに追加の要素を包含することが意図される。ある特定の要素を「含む(including)」、「含む(comprising)」、または「有する」と列挙された態様は、ある特定の要素「から本質的になる」および「からなる」とも意図される。本明細書で使用する「および/または」とは、関連する列挙された項目の1つまたは複数の任意の、かつ全ての考えられる組み合わせ、ならびに選択的(「または」)に解釈される場合は組み合わせの欠如を指し、かつ包含する。
【0037】
本明細書で使用する「から本質的になる」という移行句(および文法上の異形)は、列挙された材料または工程と、クレームされた発明の基本的な、かつ新規の特徴に実質的に影響を及ぼさないものを包含すると解釈しなければならない。In re Herz, 537 F.2d 549, 551-52, 190 U.S.P.Q. 461,463(CCPA1976)(原文にある強調)を参照されたい。MPEP§2111.03も参照されたい。従って、本明細書で使用する「から本質的になる」という用語は「含む(comprising)」と同じであると解釈してはならない。
【0038】
本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書において特に定めのない限り、単に、その範囲内にある、それぞれの別個の値について個々に言及する省略表現法として機能することを目的とし、それぞれの別個の値は、本明細書において個々に列挙されるように本明細書に組み入れられる。例えば、濃度の範囲が1%~50%と指定されていれば、2%~40%、10%~30%、または1%~3%などの値が本明細書において明確に列挙されることが意図される。これらは、明確に意図されるものの例にすぎず、列挙された最小値と最大値の間にあり、かつこれらを含む数値の全ての考えられる組み合わせが本開示において明確に指定されると考えなければならない。
【0039】
本明細書で使用する「レトロウイルス」は、ウイルスゲノムがRNAであるRNAウイルスである。宿主細胞がレトロウイルスに感染すると、ゲノムRNAはDNA中間体に逆転写され、DNA中間体は感染細胞の染色体DNAに非常に効率的に組み込まれる。組み込まれたDNA中間体はプロウイルスと呼ばれる。レトロウイルスは、典型的に、例えば、ウシ、サル、ヒツジ、およびヒトなどの哺乳動物ならびに鳥類種に感染する、エンベロープのある一本鎖RNAウイルスである。レトロウイルスは、その増殖のためにRNAのDNAコピーが合成され、次いで、感染細胞ゲノムに組み込まれる点でRNAウイルスの中で独特である。
【0040】
レトロウイルス科(Retroviridae family)は、3つのグループ:スプーマウイルス(またはフォーミーウイルス)、例えば、ヒトフォーミーウイルス(HFV);レンチウイルス、およびヒツジのビスナウイルス;ならびにオンコウイルス(だが、このグループ内の全てのウイルスが発癌性を示すわけではない)からなる。「レトロウイルス」という用語は、従来の意味では、逆転写酵素を含有するウイルスの一つの属について述べるために使用される。レトロウイルスにはレンチウイルスが含まれる。レンチウイルスは、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)1型および2型(HIV-1およびHIV-2)ならびにサル免疫不全症ウイルス(SIV)を含む「免疫不全症ウイルス」を含む。オンコウイルスは、ウイルス成熟中に電子顕微鏡下で見られるように粒子形態に基づいてA群、B群、C群、およびD群にさらに細分される。
【0041】
レトロウイルスは、その遺伝物質を複製するやり方で規定される。複製中にRNAはDNAに変換される。細胞に感染した後、逆転写として知られる分子プロセスによって、ウイルス粒子中に保有される2つのRNA分子からDNAの二本鎖分子が作製される。DNA形態はプロウイルスとして宿主細胞ゲノムに共有結合より組み込まれ、これから、細胞因子および/またはウイルス因子の助けを借りてウイルスRNAが発現される。発現されたウイルスRNAは粒子にパッケージングされ、感染性ビリオンとして放出される。
【0042】
レトロウイルス粒子は2つ同一のRNA分子で構成される。それぞれの野生型ゲノムは、5'末端でキャッピングされ、3'テールでポリアデニル化されているプラス鎖一本鎖RNA分子を有する。二倍体ウイルス粒子は、gagタンパク質、ウイルス酵素(pol遺伝子産物)、およびgagタンパク質の「コア」構造の中の宿主tRNA分子と複合体を形成した2本のRNA鎖を含有する。このキャプシドを、宿主細胞膜に由来し、ウイルスエンベロープ(env)タンパク質を含有する脂質二重層が取り囲み、保護している。envタンパク質は、ウイルスに対する細胞受容体に結合し、粒子は、典型的に、受容体によって媒介されるエンドサイトーシスおよび/または膜融合を介して宿主細胞に侵入する。外側エンベロープが脱ぎ捨てられた後に、ウイルスRNAは逆転写によってDNAにコピーされる。これは、pol領域によってコードされる逆転写酵素によって触媒され、DNA合成用のプライマーとして、ビリオンにパッケージングされた宿主細胞tRNAを使用する。このように、RNAゲノムは、より複雑なDNAゲノムに変換される。逆転写によって生成された二本鎖直鎖DNAは核の中で環状化しなければならない場合がある、または環状化する必要がない場合がある。今や、プロウイルスは両端に末端反復配列(LTR)として知られる2つ同一の反復配列を有する。常に、プロウイルスがLTRの末端から2塩基対(bp)の場所で宿主DNAに連結されるように、2つのLTR配列の末端は、組込みを触媒するインテグラーゼタンパク質であるpol産物によって認識される部位を生じる。細胞配列の重複は両LTRの末端で見られる。組込みは標的細胞ゲノム内で本質的に無作為に起こると考えられている。しかしながら、末端反復配列を改変することによりレトロウイルスゲノムの組込みを制御することができる。
【0043】
組み込まれたウイルスDNAの転写、RNAスプライシング、および翻訳は宿主細胞タンパク質によって媒介される。ウイルスは、低い効率で、受容体非依存性の非特異的な侵入経路を使用することがあるが、レトロウイルスの効率的な感染性伝播には、ウイルスエンベロープタンパク質を特異的に認識する受容体が標的細胞上で発現されることが必要である。さらに、ウイルスが結合し、侵入した後に、標的細胞タイプは複製サイクルの全段階を支援できなければならない。
【0044】
本明細書で使用する「ウイルスベクター」とは、ポリヌクレオチド構築物を細胞に送達するのに用いられる遺伝子療法ベクターを指す。ウイルスベクターという用語は、組換えベクター粒子またはビリオン(すなわち、少なくとも1種のキャプシドまたはエンベロープタンパク質と、被包された組換えウイルスベクターを含むウイルス粒子)および組換えベクタープラスミドを包含すると理解される。
【0045】
本明細書で使用する「組換えウイルスベクター」とは、ウイルスベクターに通常存在しない核酸配列(すなわち、ウイルスベクターにとって異種のポリヌクレオチド)を含むウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクターを指す。他のベクターには、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、および単純ヘルペスベクターが含まれるが、これに限定されない。一般的に、異種核酸には、少なくとも1つの、一般的には2つの末端反復配列(LTR)、例えば、5’LTRおよび3’LTRが隣接する。本明細書で使用するレトロウイルスベクターは、マウス、サル、またはヒトのレトロウイルスの誘導体でもよい。導入遺伝子(例えば、異種ポリヌクレオチド配列)を挿入することができるレトロウイルスベクターの例には、レンチウイルス、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMuLV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳癌ウイルス(MuMTV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、およびフォーミーウイルスが含まれるが、これに限定されない。
【0046】
「核酸」または「ヌクレオチド」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、および一本鎖型または二本鎖型いずれかの、その重合体、例えば、ポリヌクレオチドを指す。核酸分子は、DNA、cDNA、合成DNA、RNA、またはその組み合わせを含む様々な供給源に由来してもよい。このような核酸配列は、天然イントロンを含んでもよく、含まなくてもよいゲノムDNAを含んでもよい。さらに、このようなゲノムDNAは、プロモーター領域、イントロン、またはポリA配列と結合して得られてもよい。特に定めのない限り、特定の核酸配列は、暗黙的に、その保存的に改変されたバリアント(例えば、縮重コドン置換)、対立遺伝子、オルソログ、SNP、および相補的配列ならびに明示的に示された配列も包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1つまたは複数の選択された(または全ての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作製することによって成し遂げられ得る(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991); Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985);およびRossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。
【0047】
「遺伝子」または「導入遺伝子」という用語は、ポリペプチド鎖の生成に関与するか、またはこれをコードするDNAセグメント(例えば、ポリヌクレオチド配列)を指すことがある。この用語は、コード領域の前にある領域およびコード領域の後ろにある領域(リーダーおよびトレイラー(trailer))ならびに個々のコードセグメント(エキソン)の間にある介在配列(イントロン)を含んでもよい。または、「遺伝子」または「導入遺伝子」という用語は、rRNA、tRNA、ガイドRNA(例えば、シングルガイドRNA)、またはマイクロRNAなどの非翻訳RNAの生成に関与するか、またはこれをコードするDNAセグメントを指すことがある。
【0048】
本明細書で使用する「異種」という句は、自然界で通常見出されないものを指す。「異種ヌクレオチド配列」という用語は、自然界で、所定の野生型ウイルスゲノムにも細胞にも通常見出されないヌクレオチド配列を指す。従って、異種ヌクレオチド配列は、(a)その宿主細胞もしくはウイルスゲノムにとって外来のものでもよく(すなわち、その細胞とって外因性である)、(b)宿主細胞に天然で見出されるが(すなわち、内因性であるが)、その細胞に非天然の量で(すなわち、宿主細胞に天然で見出される量より多いかもしくは少ない量で)存在してもよく、または(c)宿主細胞もしくはウイルスゲノムに天然で見出されるが、その天然の遺伝子座の外側に配置されてもよい。
【0049】
本明細書で使用する「アクチベーター」という用語は、本明細書に記載のウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクターから任意のポリヌクレオチド配列の発現を活性化する分子、例えば、ポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列である。本明細書において提供される組成物および方法において、アクチベーターは、このアクチベーターをコードするベクターとは異なるベクター上にあるポリヌクレオチドの発現を活性化する、すなわち、トランス作用アクチベーターである。一部の態様において、アクチベーターは、ポリヌクレオチド配列の転写または翻訳を活性化することによりポリヌクレオチドの発現を活性化する。アクチベーターがポリヌクレオチド配列の転写を活性化する場合、転写活性化はアクチベーターと調節エレメント、例えば、ポリヌクレオチドの発現を制御するシス作用調節エレメントとの結合を介して行われる場合がある。シス作用調節エレメントには、プロモーター配列、エンハンサー配列、およびリプレッサー結合配列が含まれるが、これに限定されない。
【0050】
一部の例において、アクチベーターは、ポリヌクレオチド配列の発現を制御するプロモーターに結合し、従って、ポリヌクレオチド配列の転写を活性化する転写アクチベーターである。一部の態様において、アクチベーターは、ウイルスベクター中にあるポリヌクレオチド配列の転写もしくは翻訳を抑制解除することにより、または転写もしくは翻訳の抑制を取り除くことによりポリヌクレオチド配列の発現を活性化するデリプレッサーである。
【0051】
「プロモーター」は、核酸転写を誘導する1つまたは複数の核酸制御配列と定義される。本明細書で使用するプロモーターは、転写開始点の近くにある必要な核酸配列、例えば、ポリメラーゼII型プロモーターの場合はTATAエレメントを含む。プロモーターはまた、任意で、遠位のエンハンサーまたはリプレッサーエレメントも含み、これらは転写開始点から数千塩基対と離れた場所に位置していることがある。
【0052】
核酸は、別の核酸配列と機能的に関係するように配置された時に「機能的に連結」されている。例えば、プロモーターまたはエンハンサーはコード配列の転写に影響を及ぼすのであればコード配列に機能的に連結されている。または、リボソーム結合部位は翻訳を促進するように配置されていれば、コード配列に機能的に連結されている。
【0053】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」はアミノ酸残基の重合体を指すために本明細書において同義に用いられる。本明細書で使用する、これらの用語は、アミノ酸残基が共有結合であるペプチド結合によって連結された、完全長タンパク質を含む任意の長さのアミノ酸鎖を包含する。
【0054】
核酸またはウイルスベクターを導入する文脈で本明細書で使用する「導入する」という句は、細胞の外部から細胞の内部への核酸配列またはウイルスベクターの移動を指す。場合によっては、導入するとは、細胞または細胞集団を、1つまたは複数の非ウイルス核酸を保有するウイルスベクターまたはウイルス粒子に感染させることを指す。場合によっては、細胞の外部から細胞核の内部への核酸の移動が起こる。ウイルス感染、エレクトロポレーション、トランスフェクション、形質導入、ナノワイヤまたはナノチューブとの接触、受容体を介した内部移行,細胞透過ペプチドを介した移動、リポソームを介した移動などを含むが、これに限定されない、このような移動の様々な方法が意図される。
【0055】
本明細書で使用する「選択マーカー」という用語は、マーカーを含む、宿主細胞の選択を可能にする遺伝子を指す。選択マーカーには、蛍光マーカー、ルミネセンスマーカーおよび薬物選択マーカー、細胞表面受容体などが含まれ得るが、これに限定されない。一部の態様において、選択は正の選択でもよい。すなわち、このマーカーを発現する細胞は、例えば、選択マーカーを発現する細胞の濃縮された集団を生じるように集団から単離される。分離は、使用された選択マーカーに適した任意の便利な分離法によって行うことができる。例えば、蛍光マーカーが使用された場合、蛍光標識細胞分取によって細胞を分離することができる。これに対して、細胞表面マーカーが挿入されていれば、細胞は、親和性分離法、例えば、磁気分離、アフィニティクロマトグラフィー、固体マトリックスに取り付けられた親和性試薬を用いた「パニング」、蛍光標識細胞分取、または他の便利な技法によって不均一な集団から分離することができる。
【0056】
本明細書で使用する「細胞」はインビボ、エクスビボ、またはインビトロでもよく、ウイルス、(例えば、レトロウイルス)が感染できる任意の細胞または細胞集団、例えば、ヒト細胞を含む。本明細書で使用する「細胞」という用語は、非分裂細胞、分裂細胞、および制御されていない増殖を示す細胞を含む。本明細書で使用する非分裂細胞とは、有糸分裂を経験していない細胞を指す。分裂細胞は、活発な有糸分裂または減数分裂を経ている細胞である。このような分裂細胞には、幹細胞、皮膚細胞(例えば、線維芽細胞およびケラチノサイト)、配偶子、ならびに当技術分野において公知の他の分裂細胞が含まれる。分裂細胞には、細胞増殖性障害に関連する細胞、例えば、新生細胞が含まれる。
【0057】
感染することができる他の細胞には、末梢血樹状細胞、濾胞性樹状細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、初代細胞、造血細胞、幹細胞、好酸球、前駆CD4+骨髄細胞、未熟胸腺前駆細胞、T細胞、ランゲルハンス細胞、巨核球、ニューロン、星状細胞、オリゴデンドログリア、腎臓上皮細胞、子宮頸細胞、直腸細胞、腸粘膜細胞も含まれるが、これに限定されない。脳、肝臓、肺、乳房、卵巣、食道、皮膚、唾液腺、眼、前立腺、精巣、および副腎などの臓器に由来する他の細胞および組織にも感染することができる。
【0058】
本明細書で使用する「幹細胞」という用語は、多能性幹細胞、多分化能幹細胞、および全能性幹細胞を含む。一部の態様において、幹細胞は造血幹細胞である。本明細書で使用する「造血幹細胞」という句は、血球を生じることができる幹細胞の一種を指す。造血幹細胞は骨髄球系列もしくはリンパ球系列の細胞またはその組み合わせを生じることができる。
【0059】
本明細書で使用する「造血細胞」という句は、造血幹細胞に由来する細胞を指す。造血細胞は、生物、システム、臓器、または組織(例えば、血液またはその画分)から単離することによって入手または提供することができる。または、造血幹細胞は単離することができ、造血細胞は幹細胞を分化させることにより入手または提供することができる。造血細胞には、さらに進んだ細胞タイプに分化する能力が限られている細胞が含まれる。このような造血細胞には、多能性前駆細胞、系列制限前駆細胞、骨髄系共通前駆細胞、顆粒球-マクロファージ前駆細胞、または巨核球・赤芽球前駆細胞が含まれるが、これに限定されない。造血細胞には、リンパ球系列および骨髄球系列の細胞、例えば、リンパ球、赤血球、顆粒球、単球、および血小板が含まれる。一部の態様において、造血細胞は、免疫細胞、例えば、T細胞、B細胞、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、または樹状細胞である。一部の態様において、前記細胞は自然免疫細胞である。
【0060】
初代細胞の文脈で本明細書中で使用する「初代の」という句は、形質転換も不死化もされていない細胞である。このような初代細胞は、限られた回数で培養、継代培養、または継代することができる(例えば、0回、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、12回、13回、14回、15回、16回、17回、18回、19回、または20回培養することができる)。場合によっては、初代細胞はインビトロ培養条件に合わせられる。場合によっては、初代細胞は、生物、システム、臓器、または組織から単離され、任意で、選別され、培養も継代培養もなく直接利用される。場合によっては、初代細胞は刺激、活性化、または分化される。例えば、初代T細胞は、CD3、CD28アゴニスト、IL-2、IFN-γ、またはその組み合わせと接触することにより(例えば、CD3、CD28アゴニスト、IL-2、IFN-γ、またはその組み合わせの存在下で培養することにより)活性化することができる。
【0061】
「同一性」または「実質的同一性」という用語は、本明細書に記載のポリヌクレオチド配列(例えば、SEQ ID NO:1-13)の文脈で使用される時には、参照配列に対して少なくとも60%の配列同一性を有する配列を指す。または、パーセント同一性は60%~100%の任意の整数でもよい。例示的な態様は、本明細書に記載のプログラムを用いて、好ましくは、下記のように標準的なパラメータを使用したBLASTを用いて、参照配列と比較して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%を含む。
【0062】
配列比較の場合、典型的に、ある配列が、試験配列と比較する参照配列として働く。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列および参照配列がコンピュータに入力され、必要に応じて、部分配列の座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。デフォルトプログラムパラメータが使用されてもよく、代替パラメータが指定されてもよい。次いで、配列比較アルゴリズムはプログラムパラメータに基づいて参照配列に対する試験配列のパーセント配列同一性を計算する。
【0063】
本明細書で使用する「比較ウィンドウ」は、20~600、約20~50、約20~100、約50~約200、または約100~約150からなる群より選択される連続した位置の数のいずれか1つのセグメントについての言及を含む。このセグメントにおいて、ある配列と、同じ数の連続した位置の参照配列が最適にアラインメントされた後に2つの配列を比較することができる。比較のための配列のアラインメント方法は当技術分野において周知である。比較のための最適な配列アラインメントは、Smith and Waterman Add. APL. Math. 2:482 (1981)の局所ホモロジーアルゴリズム、Needleman and Wunsch J. Mol. Biol. 48:443 (1970)のホモロジーアラインメントアルゴリズム、Pearson and Lipman Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 85: 2444 (1988)の類似性手法のための検索、これらのアルゴリズムのコンピュータによる実行(例えば、BLAST)、または手作業によるアラインメントおよび目視検査によって行うことができる。
【0064】
パーセント配列同一性および配列類似性を決定するのに適したアルゴリズムはBLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらは、それぞれ、Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215: 403-410、およびAltschul et al. (1977) Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402に記載されている。BLAST解析を行うためのソフトウェアは米国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(NCBI)のウエブサイトから公的に入手することができる。このアルゴリズムは、まず最初に、データベース配列中の長さWのワードとアラインメントした時に正の値の閾値スコアTにマッチまたは適合する、クエリー配列中の長さWの短いワードを特定することによって高スコア配列対(high scoring sequence pair)(HSP)を特定することを伴う。Tは隣接ワードスコア閾値(neighborhood word score threshold)と呼ばれる(Altschul et al,前出)。これらの最初の隣接ワードヒットは、それらを含むさらに長いHSPを発見する検索を開始するための種配列(seed)として働く。次いで、このワードヒットは、累積アラインメントスコアが増加する限り、それぞれの配列に沿って両方向に延長される。累積スコアは、ヌクレオチド配列の場合、パラメータM(一対のマッチ残基のリワードスコア;常に、>0)およびN(ミスマッチ残基のペナルティースコア;常に、<0)を用いて計算される。累積アラインメントスコアが、その達成される最大値から量Xだけ減少した時に;1つもしくは複数の負のスコアの残基アラインメントの蓄積のために累積スコアが0もしくはそれ以下になった時に;またはいずれかの配列の末端に到達した時に、各方向でのワードヒットの延長は止まる。BLASTアルゴリズムパラメータW、T、およびXはアラインメントの感度および速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列の場合)は、デフォルトとして、28のワードサイズ(W)、10の期待値(E)、M=1、N=-2、および両鎖の比較を使用する。
【0065】
BLASTアルゴリズムはまた2つの配列間の類似性の統計解析も行う(例えば、Karlin & Altschul, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 90:5873-5787 (1993)を参照されたい)。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの尺度は最小合計確率(smallest sum probability)(P(N))であり、2つのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列間の一致が偶然に起こる確率を示す。例えば、試験核酸と参照核酸を比較した時の最小合計確率が約0.01未満、より好ましくは約10-5未満、最も好ましくは約10-20未満であれば、核酸は参照配列に類似しているとみなされる。
【0066】
組成物
協調的に調節される、2種以上のウイルスベクターを含む組換えウイルスシステムが本明細書において提供される。例えば、本明細書において提供されるシステムにおいて、2種以上のウイルスベクター、3種以上のウイルスベクター、4種以上のウイルスベクター、5種以上のウイルスベクターなどを使用することができる。一部の態様において、2種以上、3種以上、4種以上、5種以上のウイルスベクターなどはアデノウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターであり、これらは協調的に調節される。
【0067】
一部の態様において、異種ポリヌクレオチドを有する完全複製コンピテントレトロウイルスベクター(RRV)の感染性伝播は、アクチベーター、例えば、異種ポリヌクレオチドの転写または翻訳を活性化することにより異種ポリヌクレオチドの発現を活性化する転写アクチベーターを発現する複製欠損レトロウイルス(RDV)ベクターによって調節される。
【0068】
他の例示的な態様において、複製に必要なウイルス遺伝子とペイロードポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドを発現する第1のRDVは、(i)アクチベーター;(ii)任意で、ペイロードポリペプチドをコードする第2の異種ポリヌクレオチド;および(iii)両ベクターの複製に必要とされる相補的な(すなわち、RDVによって保有される複製に必要なウイルス遺伝子に相補的な)ウイルス遺伝子を発現する第2のRDVによって調節される。
【0069】
(a)(i)第1のアクチベーターをコードする核酸に機能的に連結された第1の調節エレメントをコードし、かつ(ii)第1のレトロウイルスが複製欠損レトロウイルス(RDV)になるように、複製に必要とされる少なくとも1種のウイルスタンパク質のコード配列を欠く、第1のレトロウイルスと、(b)第1のウイルスにおいて欠いている、ウイルス複製に必要な1種または複数種のウイルスタンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドを含む核酸を含み、第1のアクチベーターが第1のポリヌクレオチドおよび/またはそのコードされるウイルスタンパク質の発現を活性化する時だけ第1のポリヌクレオチドが発現される、第2のレトロウイルスとを含む、組換えレトロウイルスシステムが本明細書において提供される。
【0070】
一部の態様において、第2のレトロウイルスは、ウイルス複製に必要なウイルスタンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドに機能的に連結された第2の調節エレメントを含み、第1のアクチベーターは、第2の調節エレメント、例えば、プロモーターに結合することにより第1のポリヌクレオチドの転写を活性化する。
【0071】
第2のレトロウイルスが複製欠損レトロウイルス(RDV)であり、かつ第2のアクチベーターをコードする核酸に機能的に連結された第3の調節エレメントをコードし、第1のレトロウイルスが、ウイルス複製に必要なウイルスタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドを含む核酸を含む、システムであって、第2のアクチベーターが第2のポリヌクレオチドの発現を活性化する時だけ第2のポリヌクレオチドが発現され、かつ第1のおよび第2のアクチベーターが発現された時だけ第1のおよび第2のレトロウイルスが複製できる、システムも本明細書において提供される。
【0072】
一部の態様において、第1のレトロウイルスは、ウイルス複製に必要なウイルスタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドに機能的に連結された第4の調節エレメントを含み、第1のアクチベーターは第4の調節エレメントに結合することにより第2のポリヌクレオチドの転写を活性化する。
【0073】
本明細書に記載の任意のシステムにおいて、調節エレメントは、プロモーター、エンハンサー、プロモーター/エンハンサーの組み合わせ、またはエピジェネティック制御因子からなる群より選択することができる。一部の態様において、エピジェネティック制御因子を用いて、エピジェネティックマーカーに基づいてタンパク質発現を調整することができる。例えば、エピジェネティックマーカーとしてのM6aの使用について説明している、Park et al. 「Engineering epigenetic regulation using synthetic read-write modules」, Cell 176(1-2): 227-238 (2019)を参照されたい。M6Aは、通常、ヒトにおいて見出されないエピジェネティックマーカーである。しかしながら、Parkらに記載のように、合成「ライター(writer)」がm6Aマークを特定のDNA配列に置くことができ、次いで、合成「リーダー(reader)」がm6A配列に特異的に結合して遺伝子発現を誘導することができる。
【0074】
本明細書に記載の任意のシステムにおいて、アクチベーターは転写調節または翻訳調節(例えば、miRNA)を介してポリヌクレオチド配列の発現を活性化することができる。一部の態様において、アクチベーターは、ポリヌクレオチド配列(例えば、第1のポリヌクレオチド配列)の転写または翻訳を活性化する、すなわち、増加させることにより発現を活性化する。アクチベーターの非存在下ではポリヌクレオチド配列は全く発現されないか、またはアクチベーターがポリヌクレオチド発現をオンにするような認識可能な程度まで発現されないと理解される。
【0075】
一部の態様において、アクチベーターは、ポリヌクレオチド配列の発現を活性化するようにポリヌクレオチド配列に機能的に連結されたプロモーターに結合する転写アクチベーターである。一部の態様において、プロモーターに結合するアクチベーターは転写因子である。例示的なアクチベーターには、HIV-1トランスアクチベータータンパク質(Tat)、HIV-1 Rev、Gal4またはその断片、Ga14-VP16、およびVP16-E2、およびテトラサイクリントランスアクチベータータンパク質が含まれるが、これに限定されない。一部の態様において、Tat依存性の複製コンピテントウイルスは、RDV上に含まれるRNA標的配列(TAR)を介してポリヌクレオチド配列の発現を刺激または活性化する(例えば、図13を参照されたい)。例示的なアクチベーター配列を表1に示した。表1に示した任意の配列と少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、または99%の同一性を有する配列も提供される。第1のベクターから発現された本明細書に記載のどのアクチベーターも、本明細書に記載の任意のウイルスベクターシステムの第2のベクター中にある対応する部位に結合して、第2のベクター中にある1つまたは複数のポリヌクレオチドの発現を活性化できると理解される。
【0076】
(表1)例示的なアクチベーター配列
【0077】
一部の態様において、アクチベーターは、抑圧的な生物学的事象を抑制解除するか、または阻害することによりポリヌクレオチド配列の発現を活性化するデリプレッサーである。例えば、デリプレッサーは、第2のレトロウイルスベクターの発現および/または複製を抑圧する、第2のレトロウイルスベクターによって発現されるmiRNAと相互作用する(例えば、第2のレトロウイルスベクターによって発現されるmiRNAに結合する)、第1のレトロウイルスベクターによってコードされるmiRNAスポンジ(sponge)でもよいが、それに限定されるわけではない。miRNAスポンジの非存在下では、第2のレトロウイルスベクターによってコードされるmiRNAの発現は第2のレトロウイルスベクターの複製を抑圧する。しかしながら、miRNAスポンジが第1のレトロウイルスベクターから発現されると、第1のレトロウイルスベクターからの複製に加えて第2のレトロウイルスベクターの発現および複製が進行できるように、スポンジは、第2のレトロウイルスベクターからの発現を通常、抑圧するmiRNAに結合するように作用する。例えば、Ebert and Sharp 「MicroRNA sponges: Progress and possibilities」 RNA 16(11): 2043-2050 (2010);およびTay et al.「Using artificial microRNA sponges to achieve microRNA loss-of-function in cancer cells」, Advanced Drug Delivery Reviews 81: 117-127 (2015)を参照されたい。
【0078】
本明細書において提供される組成物において、ウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクターが、複製に必要とされる少なくとも1種のウイルスタンパク質を欠く時に、このウイルス、例えば、レトロウイルスは、複製に必要な1種または複数種のウイルスタンパク質を含むウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクターと組み合わされた時だけ複製できる。一部の態様において、第1のウイルスベクターは、ウイルス複製に必要な1種または複数種のウイルスタンパク質を含み、第2のウイルスベクターは、第1のウイルスベクターに含まれない、ウイルス複製に必要な1種または複数種のウイルスタンパク質を含む。本明細書で使用する「複製に必要なウイルスタンパク質」は、Gag、Env、Pol、Rev、またはTatウイルスタンパク質でもよい。一部の態様において、この用語は、Gag、Env、またはPolレトロウイルスタンパク質を指す。例えば、一部の態様において、ベクターが組み合わされると、複製に必要なウイルスタンパク質の全てが第1のレトロウイルスと第2のレトロウイルスベクターの複製を可能にするように、第1のレトロウイルスベクター(RDV)は、Gagタンパク質をコードする核酸配列を含み、第2のレトロウイルスベクターは、(i)エンベロープ(Env)タンパク質をコードする核酸配列と、(ii)レトロウイルスPolタンパク質をコードする核酸配列を含む。別の例では、第1のレトロウイルスは、ウイルス複製に必要なウイルスタンパク質を含まないRDVであり、第2のレトロウイルスは、ウイルス複製に必要な全てのウイルスタンパク質(すなわち、Gal、Pol、およびEnvタンパク質)をコードするRRVである。レトロウイルスを、ある特定の細胞または組織タイプに標的化するのに使用することができる、ウイルス複製に必要な改変ウイルスタンパク質も本明細書において意図される。例えば、ある特定の細胞または組織タイプに結合する標的特異的リガンド(すなわち、抗体、受容体、または受容体リガンド)を含むようにEnvタンパク質配列を改変することができる。さらに、組織特異的合成シグナル伝達タンパク質、例えば、SynNotch(Morsut et al.「Engineered Customized Cell Sensing and Response Behaviors using Synthetic Note Receptors」, Cell 164: 780-791 (2016))を使用して、システムの複製を制御し、組織/標的特異的な複製を確実にすることができるかもしれない。
【0079】
本明細書において提供される任意の組成物において、プロモーター(例えば、本明細書において提供される任意のベクター中の第1の、第2の、第3の、または第4のプロモーター)は構成的プロモーター(例えば、SV40、EF1A、RSV、CMVなど)でもよく、誘導性プロモーター(例えば、テトラサイクリン(Iida et al. J. Virol., 70(9): 6054-9)、GAL4標的上流活性化配列(Osterwalder et al., PNAS 98(22): 12596-12601 (2001)、クメート(Cumate)誘導性発現システム(Seo and Dannert, Appl. Microbiol. Biotechnol. 103(1): 303-313 (2019))でもよい。本明細書において提供される任意のレトロウイルスベクターにおいて、プロモーターはLTR配列中に、例えば、5’もしくは3’LTR配列の中に入れられてもよく、異種ポリヌクレオチド配列に隣接して、例えば、ポリヌクレオチド配列(例えば、第1のポリヌクレオチド配列、第2のポリヌクレオチド配列、第3のポリヌクレオチド配列など)の3’末端に隣接して入れられてもよい。本明細書に記載の任意の3’LTR配列、例えば、レトロウイルス3’LTR配列(例えば、MMLV 3’LTR配列)は、例えば、3’LTRにある1つもしくは複数の配列を欠失させることにより、および/または3’LTRに1つもしくは複数の配列、例えば、GAL4結合部位を含む1つもしくは複数の核酸配列を挿入することにより、3’LTRにおいて天然プロモーター機能を低減または破壊するように改変することができる。例示的なGAL4結合部位は、Nが任意のヌクレオチド(A、C、T、もしくはG)であるコンセンサス配列(CGGN11CCG)として、またはSEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:3にされるようにSEQ ID NO:4(cggagtactgtcctccgagcgg)として本明細書において提供される。1つまたは複数のGAL4結合部位を含む例示的な配列をSEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:3として本明細書中に示した。一部の態様において、ベクターの1つまたは複数のLTR、例えば、3’LTRおよび/または5’LTRは、特定の細胞、組織、または臓器における1つまたは複数のポリヌクレオチドの望ましい発現レベルに応じて、1種のアクチベーターについて1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、またはそれ以上の結合部位、例えば、GAL4結合部位を含んでもよい。実施例に記載のように、一部の態様において、ウイルスベクターを含む感染性粒子が産生されたら、3’LTRおよび5’LTRは同じ配列を含む。
【0080】
プロモーターはまた細胞特異的プロモーターまたは組織特異的プロモーターでもよい。細胞特異的プロモーターまたは組織特異的プロモーターを使用した時に、ウイルス複製は主として特定の細胞または組織に起こるが、特定の細胞または組織にだけ起こるわけではない。例えば、ウイルス複製は、標的化された細胞または組織の少なくとも90%、95%、または99%において起こってもよい。しかしながら、組織特異的プロモーターは、これらが概ねサイレントな組織において検出可能な量のバックグラウンドまたは基礎活性を有する場合があることが理解される。プロモーターが標的組織において選択的に活性化される程度は、選択性の比(標的組織における活性/対照組織における活性)で表すことができる。この点について、本発明の実施において有用な組織特異的プロモーターは、典型的には、約5より大きな選択性の比を有する。好ましくは、選択性の比は約15より大きい。
【0081】
組織特異的プロモーターの例には、肝臓特異的プロモーター(例えば、APOA2、SERPINA1、CYP3A4、MIR122)、膵臓特異的プロモーター(例えば、インシュリン、インシュリン受容体基質2、脾臓および十二指腸のホメオボックス1(pancreatic and duodenal homeobox 1)、アリスタレス様ホメオボックス3、および膵臓ポリペプチド)、心臓特異的プロモーター(例えば、ミオシン,重鎖6(myosin, heavy chain 6)、ミオシン,軽鎖2(myosin, light chain 2)、トロポニンI型3、ナトリウム利尿ペプチド前駆体A、溶質輸送体ファミリー8(solute carrier family 8)、中枢神経系プロモーター(例えば、グリア線維酸性タンパク質、インターネキシンニューロン中間フィラメントタンパク質、ネスチン、ミエリン関連オリゴデンドロサイト塩基性タンパク質、ミエリン塩基性タンパク質、チロシンヒドロキシラーゼ、およびフォークヘッドボックスA2)、皮膚特異的プロモーター(例えば、フィラグリン、ケラチン14、およびトランスグルタミナーゼ3)、多能性プロモーターおよび胚の胚葉プロモーター(例えば、POUクラス5ホメオボックス1、Nanogホメオボックス、ネスチン、およびマイクロRNA 122)が含まれるが、これに限定されない。一部の態様において、組織特異的プロモーターは、例えば、新生細胞に対する細胞特異的または組織特異的なプロモーターおよびエンハンサー(例えば、腫瘍細胞特異的エンハンサーおよびプロモーター)ならびに誘導性プロモーター(例えば、テトラサイクリン)を含み、レトロウイルスゲノムのLTRのU3領域にある。
【0082】
一部の態様において、第1のおよび/または第2のレトロウイルスは、ペイロードポリヌクレオチド配列に機能的に連結されたペイロードプロモーターを含む異種発現カセットをさらに含む。一部の態様において、RDVはRRVと比較してより大きなインサートを含むことができるので、RDVは、ペイロードポリヌクレオチドに機能的に連結されたペイロードプロモーターを含む異種発現カセット配列を含む。本明細書において提供されるシステムにおいて、欠損ウイルスは、約8~約10kbと大きなインサートを含んでもよく、複製コンピテントウイルスは、約1.3kb~1.5kbと大きなインサートを含んでもよい。一部の態様において、ペイロードポリヌクレオチド配列は、アンチセンス分子、リボザイム、治療用タンパク質、イムノモジュレーター、抗体、酵素、プロドラッグアクチベーター、または細胞傷害性タンパク質をコードする。関心対象の他のタンパク質には、Casアクチベータータンパク質、Cas phi、免疫調節性タンパク質(例えば、CD40L、4-1BBL、OX40L、GITRL、IL-15、IL-12、scFv(抗PD1、抗lag3、抗Tim3など)、FLT3L、GMCSF、またはVEGF-C)、合成イムノモジュレーター(BiTEs、表面T細胞エンゲージャー(surface T cell engager)など)、自殺遺伝子(例えば、γ-CD、NAO、およびチミジンキナーゼ)、ならびに合成シグナル伝達分子が含まれるが、これに限定されない。例えば、SynNotchも発現させることができる。
【0083】
一部の態様において、プロドラッグアクチベーターは、自殺遺伝子、例えば、チミジンキナーゼ、シチジンデアミナーゼ、またはプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)によってコードされる。イムノモジュレーターを送達するのに使用することができるシステムの一例を図15に示した。この例では、IL-15は複製コンピテントウイルスベクターによってコードされ、イムノモジュレーターは複製欠損ウイルスベクターによってコードされる。本明細書に記載のウイルスベクターシステムはまた、どの宿主または標的細胞のゲノムを編集するのにも使用することができる。
【0084】
CRISPR/Casシステムの一部としてガイドRNAおよびガイド付遺伝子編集ヌクレアーゼ(例えば、Cas9)を送達するのに使用することができるシステムの一例を図15に示した。この例では、ガイドRNAはシステムの複製コンピテントウイルスベクター(例えば、複製コンピテントレトロウイルスベクター)によってコードされ、Cas9はシステムの複製欠損ウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルスベクター)によってコードされる。一部の態様において、細胞のゲノムにある複数の部位を標的化するために複数のgRNAが使用される。例えば、それぞれのgRNAを、個々のプロモーター(例えば、U6、H1)の制御下でコードすることによって複数のガイドRNAを発現させることができる。これらのgRNA発現カセットをRDVおよび/またはRRVに組み込むことができる。
【0085】
別の方法を使用して、個々のベクター内でgRNA配列を多重化することができる。これらには、異なる配列(例えば、プレcrRNAのプロセシングに必要な直列反復配列、HDVリボザイムなどの自己切断配列、Csy4認識部位、tRNA)が隣接するcrRNAまたはgRNAアレイの作製が含まれるが、これに限定されない。次いで、これらのgRNA/crRNAアレイは内因性(RNaseIII、RNaseP、RNaseZ)または外因性(Csy4)タンパク質によってプロセシングされ、これにより複数の遺伝子座の同時編集が可能になる。例えば、Feng and Yang,「Efficient expression of multiple guide RNAs for CRISPR/Cas Genome Editing」, aBIOTECH 1: 123-134 (2020))を参照されたい。
【0086】
一部の態様では、RDV/RRV発現の連続した、協調された調節のために複数のgRNA配置を使用できるだろう。例えば、RDVの中にCas9コード配列と一緒に含まれるgRNA配列を使用して、転写リプレッサータンパク質をコードする内因性遺伝子をノックアウトすることができ、そのコグネイト結合部位配列をRRV 3’LTRプロモーターに組み込むことができるかもしれない(従って、5’LTRまでコピーできるかもしれない)。従って、RDVのおかげで、最初に標的細胞に既にあったリプレッサータンパク質がノックアウトされた時だけ、どんなRRVも(例えば、隣接する細胞から発現された後に)同じ標的細胞に導入でき、次いで、それ自体で発現し、それによって、重複感染抵抗性を軽減できるだろう、すなわち、転写抑制を軽減することにより重複感染抵抗性を軽減できるだろう。
【0087】
「CRISPR/Cas」システムとは、外来核酸に対して防御するための広範なクラスの細菌システムを指す。CRISPR/Casシステムは広範囲の真正細菌および古細菌の生物において見出される。CRISPR/CasシステムにはI型、II型、およびIII型サブタイプが含まれる。野生型II型CRISPR/Casシステムでは、外来核酸を認識および切断するためにガイドおよび活性化RNAと複合体を形成する、RNAによって媒介されるヌクレアーゼ、例えば、Cas9を利用する。ガイドRNAと活性化RNAの両方の活性を有するガイドRNAも当技術分野において公知である。場合によっては、このような二重活性ガイドRNAはシングルガイドRNA(sgRNA)と呼ばれる。
【0088】
Cas9ホモログは、以下の分類学的グループ:放線菌門(Actinobacteria)、アクウィフェクス門(Aqmficae)、バクテロイデス門-緑色硫黄細菌門(Bacteroidetes-Chlorobi)、クラミジア-ベルコミクロビウム門(Chlamydiae-Verrucomicrobia)、クルロフレキシ(Chlroflexi)、シアノバクテリア(Cyanobacteria)、ファーミキューテス門(Firmicutes)、プロテオバクテリア(Proteobacteria)、スピロヘータ門(Spirochaetes)、およびテルモトガ門(Thermotogae)の細菌を含むが、これに限定されない多種多様な真正細菌において見出される。例示的なCas9タンパク質は化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9タンパク質である。さらなるCas9タンパク質およびそのホモログは、例えば、Chylinksi, et al., RNA Biol. 2013 May 1; 10(5): 726-737 ; Nat. Rev. Microbiol. 2011 June; 9(6): 467-477; Hou, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Sep 24;110(39):15644-9; Sampson et al., Nature. 2013 May 9;497(7448):254-7;およびJinek, et al., Science. 2012 Aug 17;337(6096):816-21に記載されている。宿主細胞における効率的な活性または向上した安定性のために、本明細書において提供される任意のCas9ヌクレアーゼのバリアントを最適化することができる。従って、操作されたCas9ヌクレアーゼも意図される。例えば、Slaymaker et al.,「Rationally engineered Cas9 nucleases with improved specificity」, Science 351 (6268): 84-88 (2016))を参照されたい。
【0089】
本明細書で使用する「Cas9」という用語は、RNAによって媒介されるヌクレアーゼ(例えば、細菌起源もしくは古細菌起源の、またはそれに由来する)を指す。例示的なRNAによって媒介されるヌクレアーゼには、前述のCas9タンパク質およびそのホモログが含まれる。他のRNAによって媒介されるヌクレアーゼには、Cpf1(例えば、Zetsche et al., Cell, Volume 163, Issue 3, p759-771, 22 October 2015を参照されたい)およびそのホモログが含まれる。本明細書で使用する「リボ核タンパク質」複合体という用語などは、標的化されたヌクレアーゼ、例えば、Cas9と、crRNA(例えば、ガイドRNAまたはシングルガイドRNA)、Cas9タンパク質とトランス活性化crRNA(tracrRNA)、Cas9タンパク質とガイドRNAとの間の複合体、またはその組み合わせ(例えば、Cas9タンパク質、tracrRNA、およびcrRNAガイドRNAを含有する複合体)を指す。本明細書に記載の任意の態様において、Cas9ヌクレアーゼはCpf1ヌクレアーゼまたは他の任意のガイド付ヌクレアーゼで置換できると理解される。
【0090】
一部の態様において、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、触媒作用が損なわれた(catalytically impaired)ヌクレアーゼである。全体を通して用いられる「触媒作用が損なわれた」とは、DNAの一方の鎖または両方の鎖を切断するCRISPR関連エンドヌクレアーゼ酵素活性の減少を指す。触媒作用が損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼの例には、触媒作用が損なわれたCas9、触媒作用が損なわれたCpf1、および触媒作用が損なわれたC2c2が含まれるが、これに限定されない、場合によっては、触媒作用が損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼは、触媒作用が損なわれたCas9、例えば、DNAの一方の鎖だけを切断する、またはDNAの一方の鎖にだけ切れ目を入れる、Cas9 D10Aである。場合によっては、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、エンドヌクレアーゼが二本鎖DNA分子の両鎖を切断できない、すなわち、二本鎖切断を作ることができない、触媒作用が損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼでもよい。改変には、ヌクレアーゼ活性またはヌクレアーゼドメインを不活性化するための1つまたは複数のアミノ酸の変更が含まれるが、これに限定されない。例えば、化膿性連鎖球菌に由来するCas9に、Cas9ヌクレアーゼ活性を低減または不活性化するようにD10Aおよび/またはH840A変異を起こすことができるが、それに限定されるわけではない。他の改変には、ヌクレアーゼ活性を示す配列がCas9から無くなるように、Cas9のヌクレアーゼドメインの全てまたは一部を除去することが含まれる。従って、触媒作用が損なわれたCas9は、ヌクレアーゼ活性を低減するように改変されたポリペプチド配列を含んでもよく、ヌクレアーゼ活性を低減するための1つまたは複数のポリペプチド配列の除去を含んでもよい。ヌクレアーゼ活性が不活性化されていても、触媒作用が損なわれたCas9はDNAに結合する能力を保持している。従って、触媒作用が損なわれたCas9は、DNA結合に必要とされる1つまたは複数のポリペプチド配列を含むが、改変されたヌクレアーゼ配列を含むか、またはヌクレアーゼ活性を担うヌクレアーゼ配列を欠く。他の部位特異的ヌクレアーゼ、例えば、Cpf1またはC2c2におけるヌクレアーゼ活性を低減するために同様の改変を加えることができると理解される。一部の例では、Cas9タンパク質は、RuvCヌクレアーゼドメインおよび/またはHNHヌクレアーゼドメインのポリペプチド配列を欠いており、かつDNA結合機能を保持している、S.ピオゲネス(S.pyogenes)に由来する完全長Cas9配列である。他の例において、Cas9タンパク質配列は、RuvCヌクレアーゼドメインおよび/またはHNHヌクレアーゼドメインを欠くCas9ポリペプチド配列に対して少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、または99%の同一性を有し、DNA結合機能を保持している。本明細書に記載の任意の触媒作用が損なわれたRNAガイド付きヌクレアーゼを使用して遺伝子の転写を阻害することができる。一部の態様において、1つまたは複数のgRNAによって標的化される遺伝子の転写抑制または転写活性化のためにdCas9が転写リプレッサーまたは転写アクチベーターと融合される。
【0091】
一部の態様において、ウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクターは、1つまたは複数のペイロードポリヌクレオチド配列を挿入するためのクローニング部位を含むIRESを含有する。従って、望ましいポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチド配列がIRESに機能的に連結されてよい。IRESに機能的に連結され得るポリヌクレオチド配列の一例には緑色蛍光タンパク質(GFP)または選択マーカー遺伝子が含まれる。ベクターが存在するかどうかアッセイするために、従って、感染と組込みを確認するためにマーカー遺伝子が利用される。代表的な選択遺伝子は、抗生物質および他の毒性物質、例えば、ヒスチジノール、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、ネオマイシン、メトトレキセートに対して耐性を付与するタンパク質、および当技術分野において公知の他のレポーター遺伝子をコードする。IRESに連結され得る他のポリヌクレオチド配列には、例えば、治療用タンパク質、プロドラッグアクチベーター、酵素、抗体、および細胞傷害性タンパク質からなる群より選択されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列が含まれる。一部の態様において、プロドラッグアクチベーターは、チミジンキナーゼ、シチジンデアミナーゼ、またはプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)である。
【0092】
一部の態様において、ウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクターの成分は、マルチシストロン配列、例えば、バイシストロン配列として発現させようとする2以上の核酸の間に1つまたは複数の自己切断ペプチドを含めることによりマルチシストロンで発現される。自己切断ペプチドの例には、自己切断ウイルス2Aペプチド、例えば、ブタテッショウウイルス-1(P2A)ペプチド、トセア・アシグナ(Thosea asigna)ウイルス(T2A)ペプチド、ウマ鼻炎A(equine rhinitis A)ウイルス(E2A)ペプチド、または口蹄疫ウイルス(F2A)ペプチドが含まれるが、これに限定されない。自己切断2Aペプチドは1つの構築物から複数の遺伝子産物を発現させるのを可能にする(例えば、Chng et al.「Cleavage efficient 2A peptides for high level monoclonal antibody expression in CHO cells」, MAbs 7(2): 403-412 (2015)を参照されたい)。一部の態様において、核酸構築物は2以上の自己切断ペプチドを含む。一部の態様において、2以上の自己切断ペプチドは全て同じである。他の態様において、2以上の自己切断ペプチドの少なくとも1つは異なる。
【0093】
核酸ベクターまたはウイルス粒子のいずれかとしての、本明細書に記載の任意のシステムの第1のおよび/または第2のウイルスは、薬学的組成物として処方することができる。一部の態様において、薬学的組成物は担体をさらに含んでもよい。担体という用語は、化合物または組成物と組み合わされた時に、意図された用途または目的で、その化合物または組成物の調製、保管、投与、送達、有効性、選択性、または他の任意の特徴を助けるか、または容易にする、化合物、組成物、物質、または構造を意味する。例えば、担体は、活性成分のあらゆる分解を最小限にし、対象におけるあらゆる有害な副作用を最小限にするように選択することができる。前記組成物は、薬学的に許容される担体と組み合わせて、治療的有効量の本明細書に記載の1種または複数種のレトロウイルスを含み、それに加えて、他の薬用薬剤、薬学的薬剤、担体、または希釈剤を含んでもよい。薬学的に許容されるとは、許容できない生物学的作用を引き起こすことなく、または含まれている薬学的組成物の他の成分と有害に相互作用することなく、選択された薬剤と共に個体に投与することができる、生物学的にも望ましくないことはない、またはその他の点でも望ましくないことはない材料を意味する。このような薬学的に許容される担体には、食塩水、緩衝食塩水、人工脳脊髄液、デキストロース、および水を含むが、これに限定されない無菌の生体適合性の薬学的担体が含まれる。
【0094】
レトロウイルスシステムを作製する方法
(a)第1の適切な宿主細胞に、本明細書に記載の任意のウイルスシステムの第1のウイルスベクターをトランスフェクトする工程;(b)第2の適切な宿主細胞に、本明細書に記載の任意のウイルスシステムの第2のウイルスベクターをトランスフェクトする工程;ならびに(c)第1のおよび第2のウイルスを回収する工程を含む、組換えウイルスシステムを作製するための方法が本明細書において提供される。一部の態様において、第1のおよび第2のウイルスは同じ適切な宿主細胞にトランスフェクトされる。一部の態様において、第1のおよび第2のウイルスはレトロウイルスである。
【0095】
方法
治療目的で、診断目的で、およびセラノスティック目的でインビボで導入遺伝子を腫瘍に効率的に送達するために、本明細書において提供される任意の協調的に調節されるウイルスベクターシステムを使用する方法も提供される。一部の態様において、ある特定の条件下(例えば、多量の腫瘍浸潤T細胞の存在下)でしか発現しない導入遺伝子を導入することによって本明細書に記載の任意のシステムを診断目的に使用することができる。これらの導入遺伝子は非侵襲的に検出可能なシグナル(例えば、蛍光タンパク質発現)を提供できるかもしれない。セラノスティック状況では、腫瘍微小環境における特異的変化(例えば、骨髄性細胞浸潤の増加)を感知して治療用遺伝子(例えば、骨髄毒性遺伝子)を発現するようにウイルスシステムを構築できるかもしれない。
【0096】
標的細胞に複製ウイルスシステムを形質導入するための方法であって、標的細胞を、本明細書において提供される任意のウイルスシステムの第1のおよび第2のウイルスと接触させる工程を含む、方法が本明細書において提供される。一部の態様において、ウイルスシステムはレトロウイルスシステムであり、第1のおよび第2のウイルスはレトロウイルスである。標的細胞にトランスフェクトするための任意の方法において、トランスフェクトされた細胞においてウイルス粒子(例えば、組換えレトロウイルスポリヌクレオチドまたは組換えレトロウイルスポリヌクレオチドを含むウイルス粒子)を産生することができるウイルスDNAを細胞に送達することができる。一部の態様において、細胞を、本明細書において提供される任意のウイルスシステムの第1のおよび第2のウイルス粒子に感染させる。一部の態様において、細胞は哺乳動物細胞である。本明細書において提供される任意の方法において、細胞はインビトロで接触させてもよく、エクスビボで接触させてもよく、インビボで接触させてもよい。
【0097】
その必要がある対象において疾患を処置するための方法であって、治療的有効量の本明細書において提供される任意のシステムまたは薬学的組成物を対象に投与する工程を含む、方法も提供される。一部の方法において、細胞が対象から取り出され、本明細書に記載の任意の組換えウイルスシステムを用いてエクスビボで改変され、改変後に患者に投与される。一部の方法において、改変された細胞は患者への投与前に拡張される。
【0098】
本明細書において提供される任意の方法において、対象は、疾患、例えば、細胞増殖性障害と診断された対象でもよい。本明細書において提供される任意の処置方法において、システムの第1のおよび第2のウイルスは、対象に、同時にまたは連続して投与される。本明細書において提供される任意の処置方法を使用して、本明細書に記載の任意のペイロードポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを対象に送達することができる。前記ポリペプチドは、治療用タンパク質、プロドラッグアクチベーター、酵素、抗体、および細胞傷害性タンパク質からなる群より選択することができる。一部の態様において、プロドラッグアクチベーターは、チミジンキナーゼ、シチジンデアミナーゼ、またはプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)である。プロドラッグアクチベーターが用いられる場合、アクチベーターが発現された時に無毒のプロドラッグが毒性薬物、すなわち、細胞死滅薬物に変換されるように、無毒のプロドラッグを対象に投与することができる。
【0099】
一部の方法において、ウイルスシステムは、(a)(i)第1のアクチベーターをコードする核酸に機能的に連結された第1の調節エレメントをコードし、かつ(ii)第1のレトロウイルスが複製欠損レトロウイルス(RDV)になるように、複製に必要とされる少なくとも1種のウイルスタンパク質のコード配列を欠く、第1のレトロウイルス;および(b)第1のレトロウイルスにおいて欠いている、ウイルス複製に必要な1種または複数種のウイルスタンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドを含む核酸を含む、第2のレトロウイルスを含む、組換えレトロウイルスシステムであって、第1のアクチベーターが、第1のポリヌクレオチドおよび/またはそのコードされるウイルスタンパク質の発現を活性化する時にだけ、第1のポリヌクレオチドが発現される、組換えレトロウイルスシステムである。
【0100】
一部の態様において、第2のレトロウイルスは、ウイルス複製に必要なウイルスタンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドに機能的に連結された第2の調節エレメントを含み、第1のアクチベーターは第2の調節エレメント、例えば、プロモーターに結合することにより第1のポリヌクレオチドの転写を活性化する。
【0101】
一部の態様において、第2のレトロウイルスは複製欠損レトロウイルス(RDV)であり、かつ第2のアクチベーターをコードする核酸に機能的に連結された第3の調節エレメントをコードし、第1のレトロウイルスは、ウイルス複製に必要なウイルスタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドを含む核酸を含み、第2のアクチベーターが第2のポリヌクレオチドの発現を活性化する時だけ第2のポリヌクレオチドが発現され、かつ第1のおよび第2のアクチベーターが発現された時だけ第1のおよび第2のレトロウイルスが複製できる。一部の態様において、第1のレトロウイルスは、ウイルス複製に必要なウイルスタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドに機能的に連結された第4の調節エレメントを含み、第1のアクチベーターは第4の調節エレメントに結合することにより第2のポリヌクレオチドの転写を活性化する。
【0102】
一部の態様において、第1のおよび/または第2のレトロウイルスは、ペイロードポリヌクレオチド配列に機能的に連結されたペイロードプロモーターを含む異種発現カセットをさらに含む。一部の態様において、ペイロードポリヌクレオチド配列は、アンチセンス分子、リボザイム、治療用タンパク質、イムノモジュレーター、抗体、酵素、プロドラッグアクチベーター、または細胞傷害性タンパク質をコードする。関心対象の他のタンパク質には、Casタンパク質、Casアクチベータータンパク質、Cas phi、免疫調節性タンパク質(例えば、CD40L、4-1BBL、OX40L、GITRL、IL-15、IL-12、scFv(抗PD1、抗lag3、抗Tim3など)、FLT3L、GMCSF、またはVEGF-C)、合成イムノモジュレーター(BiTEs、表面T細胞エンゲージャーなど)、自殺遺伝子(例えば、γ-CD、NAO、およびチミジンキナーゼ)、ならびに合成シグナル伝達分子が含まれるが、これに限定されない。例えば、SynNotchも発現させることができる。
【0103】
一部の態様において、プロドラッグアクチベーターは自殺遺伝子、例えば、チミジンキナーゼ、シチジンデアミナーゼ、またはプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)によってコードされる。
【0104】
「処置する」とは、緩和;寛解;症状の軽減もしくは患者の疾患状態に対する忍容性の増加;変性もしくは低下の速度の減速;再発の予防、または変性の最終地点の衰弱性低下などの任意の客観的パラメータまたは主観的パラメータを含む疾患、状態、または障害の処置または回復または予防における成功の任意のしるしを指す。例えば、癌を処置するための方法は、対照と比較して対象における癌の1つまたは複数の症状が10%軽減すれば処置だとみなされる。従って、軽減は、天然レベルまたは対照レベルと比較して10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、または10%~100%の任意のパーセントの軽減でもよい。処置は、必ず、障害または障害の症状の治癒または完全な消失を指すとは限らないと理解される。
【0105】
本明細書において提供される任意の方法を使用して、細胞増殖性障害を処置することができる。「細胞増殖性障害」という用語は、異常な数の細胞を特徴とする状態を指す。この状態は、肥大性の細胞増殖(組織内で細胞集団を異常増殖させる連続的な細胞増殖)と、発育不全の細胞増殖(組織内での細胞の欠乏もしくは欠損)を両方とも含んでもよく、身体の一領域への細胞の過度の流入もしくは遊走を含んでもよい。細胞集団は、必ず、形質転換細胞、腫瘍形成性細胞、または悪性細胞であるとは限らず、正常細胞も含む場合がある。
【0106】
場合によっては、前記細胞増殖性障害は癌である。本明細書で使用する癌とは、異常細胞の急速な、かつ制御されていない増殖を特徴とする疾患である。癌細胞は、局所的に、または血流およびリンパシステムを通って身体の他の部分に伝播することができる。癌は固形腫瘍でもよい。一部の態様において、癌は、血液癌(blood cancer)または血液癌(hematological cancer)、例えば、白血病(例えば、急性白血病;急性リンパ性白血病;急性骨髄性白血病、例えば、骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病、赤白血病(erythroleukemia leukemias)、および骨髄異形成症候群;慢性骨髄性(顆粒球性)白血病;慢性リンパ性白血病;毛様細胞性白血病)、真性赤血球増加症、またはリンパ腫(例えば、ホジキン病または非ホジキン病リンパ腫(例えば、びまん性未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)陰性、大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL);びまん性未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)陽性、大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL);未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)陽性、ALK+未分化大細胞リンパ腫(ALCL)、急性骨髄性リンパ腫(AML)))、多発性骨髄腫(例えば、くすぶり型骨髄腫、非分泌型骨髄腫、骨硬化性骨髄腫、形質細胞性白血病、孤立性形質細胞腫、および髄外性形質細胞腫)、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、意味未確定の単クローン性高ガンマグロブリン血症、良性単クローン性高ガンマグロブリン血症、ならびに重鎖病である。固形腫瘍には、例として、骨および結合組織の肉腫(例えば、骨肉腫(bone sarcoma)、骨肉腫(osteosarcoma)、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性巨細胞腫瘍、骨の線維肉腫、脊索腫、骨膜性肉腫、軟部組織肉腫、血管肉腫(angiosarcoma)(血管肉腫(hemangiosarcoma))、線維肉腫、カポジ肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、リンパ管肉腫、神経鞘腫、横紋筋肉腫、滑膜肉腫)、脳腫瘍(例えば、神経膠腫、膠芽腫、星状細胞腫、脳幹神経膠腫、上衣腫、乏突起神経膠腫、非グリア腫瘍、聴神経鞘腫、頭蓋咽頭腫、髄芽細胞腫、髄膜腫、松果体細胞腫、松果体芽細胞腫、原発性脳リンパ腫)、乳癌(例えば、腺癌、小葉(小細胞)癌、腺管内癌、髄様乳癌、粘液性乳癌、管状乳癌、乳頭状乳癌、パジェット病、および炎症性乳癌)、副腎癌(例えば、クロム親和細胞腫および副腎皮質癌)、甲状腺癌(例えば、乳頭状または濾胞性甲状腺癌、甲状腺髄様癌および未分化甲状腺癌)、膵臓癌(例えば、インスリノーマ、ガストリノーマ、グルカゴノーマ、ビポーマ、ソマトスタチン分泌腫瘍、およびカルチノイドまたは島細胞腫瘍)、下垂体癌(例えば、クッシング病、プロラクチン分泌腫瘍、末端肥大症、および尿崩症)、眼癌(例えば、眼の黒色腫、例えば、虹彩の黒色腫、脈絡膜の黒色腫、および毛様体の黒色腫、ならびに網膜芽細胞腫)、腟癌(例えば、扁平上皮癌、腺癌、および黒色腫)、外陰部癌(例えば、扁平上皮癌、黒色腫、腺癌、基底細胞癌、肉腫、およびパジェット病)、子宮頚癌(例えば、扁平上皮癌および腺癌)、子宮癌(例えば、子宮内膜癌および子宮肉腫)、卵巣癌(例えば、卵巣上皮癌、境界悪性腫瘍、生殖細胞腫瘍、および間質腫瘍)、食道癌(例えば、扁平上皮癌、腺癌、腺様嚢胞癌、粘表皮癌、腺扁平上皮癌、肉腫、黒色腫、形質細胞腫、いぼ状癌、および燕麦細胞(小細胞)癌)、胃癌(例えば、腺癌、カビ状(fungating)(ポリープ状)、潰瘍化、表在拡大型、散在拡大型(diffusely spreading)、悪性リンパ腫、脂肪肉腫、線維肉腫、および癌肉腫)、結腸癌、直腸癌、肝臓癌(例えば、肝細胞癌および肝芽腫)、胆嚢癌(例えば、腺癌)、胆管癌(乳頭状、結節性、およびびまん性)、肺癌(例えば、非小細胞肺癌、扁平上皮癌(類表皮癌)、腺癌、大細胞癌および小細胞肺癌)、精巣癌(例えば、胚腫瘍、セミノーマ、未分化、古典的(正形)、精母細胞性、非セミノーマ、胚性癌腫、テラトーマ癌、絨毛癌(卵黄嚢腫瘍))、前立腺癌(例えば、腺癌、平滑筋肉腫、および横紋筋肉腫)、陰茎癌、口腔癌(例えば、扁平上皮癌)、基底癌、唾液腺癌(例えば、腺癌、粘表皮癌、および腺様嚢胞癌)、鼻咽頭癌(例えば、扁平上皮癌およびいぼ状癌)、皮膚癌(例えば、基底細胞癌、扁平上皮癌および黒色腫、表在拡大型黒色腫、結節性黒色腫、悪性黒子黒色腫、末端部黒子黒色腫)、腎臓癌(例えば、腎細胞癌、腺癌、副腎腫、線維肉腫、移行上皮癌(腎盂および/または尿管)、ウィルムス腫瘍)、膀胱癌(例えば、移行上皮癌、扁平細胞癌、腺癌、および癌肉腫)が含まれる。さらに、癌には、粘液肉腫、骨原性肉腫、内皮肉腫(endotheliosarcoma)、リンパ管内皮肉腫(lymphangio endothelio sarcoma)、中皮腫、滑膜腫、血管芽腫、上皮癌、嚢胞腺癌、気管支原性癌、汗腺癌、皮脂腺癌腫、乳頭状癌、および乳頭状腺癌が含まれる。
【0107】
全体を通して用いられる「細胞増殖性障害」という用語は、関節リウマチおよび免疫系細胞の不適切な増殖によって特徴付けられることが多い他の自己免疫障害も含む。
【0108】
全体を通して用いられる対象は、脊椎動物、より具体的には哺乳動物(例えば、ヒト、ウマ、ネコ、イヌ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、マウス、ウサギ、ラット、およびモルモット)でもよい。この用語は特定の年齢または性別を意味しない。従って、成人、新生児、および小児対象が、男性でも女性でも、対象として含まれることが意図される。本明細書で使用する患者または対象は同義に用いられることがあり、障害を有するか、または障害を発症するリスクがある対象を指す場合がある。患者または対象という用語はヒトおよび獣医学的対象を含む。本明細書において提供される任意の方法において、対象は、癌、感染症、または自己免疫疾患と診断された対象でもよい。
【0109】
本明細書において提供されるどの方法も、第2の治療剤を対象に投与する工程をさらに含んでもよい。第2の治療剤は、化学療法剤、アジュバント、免疫調節性薬剤、ワクチン、腫瘍抗原、またはその組み合わせからなる群より選択することができる。場合によっては、第2の治療剤は、レトロウイルスシステムによってコードされるプロドラッグアクチベーターによって毒性薬物に変換することができるプロドラッグである。第2の治療剤が、治療用ポリペプチドをコードする核酸配列である場合には、第2の治療剤はウイルス手段で送達されてもよく、非ウイルス手段で送達されてもよい。
【0110】
代表的な化学療法剤には、アムサクリン、ブレオマイシン、ブスルファン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロランブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロファラビン、クリサンタスパーゼ、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エトポシド、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシカルバミド、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン、ロイコボリン、リポソームドキソルビシン、リポソームダウノルビシン、ロムスチン、メルファラン、メルカプトプリン、メスナ、メトトレキセート、マイトマイシン、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、ペントスタチン、プロカルバジン、ラルチトレキセド、サトラプラチン、ストレプトゾシン、テガフール-ウラシル、テモゾロミド、テニポシド、チオテパ、チオグアニン、トポテカン、トレオスルファン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、またはその組み合わせが含まれるが、これに限定されない。代表的なアポトーシス促進剤には、フルダラビンタウロスポリン(fludarabinetaurosporine)、シクロヘキシミド、アクチノマイシンD、ラクトシルセラミド、15d-PGJ(2)、およびその組み合わせが含まれるが、これに限定されない。
【0111】
本明細書に記載のウイルスベクターの1つまたは複数と第2の治療剤を含む組み合わせ、例えば、組成物は同時に(例えば、混合物として)、別々であるが同時に(例えば、別々の静脈内ラインを通って同じ対象に入る)、または連続して(例えば、組成物または薬剤の一つが最初に与えられ、その後に二番目が与えられる)投与できると理解される。本明細書において提供されるどの方法も放射線療法または外科手術をさらに含んでよい。
【0112】
本明細書で使用する「治療有効量」または「有効量」という用語は、対象に投与される時に、単独で、またはさらなる薬剤と組み合わせて、一用量によって、または複数の用量の過程を通じて疾患または障害を処置するのに有効な組成物の量を指す。適切な用量は、使用される特定の組成物またはシステム、および他の治療剤と同時に使用されるかどうかを含む様々な要因に左右されることがある。対象に投与される用量に影響を及ぼす他の要因には、例えば、疾患のタイプまたは重篤度が含まれる。例えば、膵臓癌を有する対象は、脳癌を有する対象とは異なる投与量の投与を必要とする場合がある。
【0113】
本明細書に記載の化合物(例えば、化学療法剤もしくはイムノモジュレーター)またはその薬学的に許容される塩もしくはプロドラッグの有効量は当業者によって決定することができ、哺乳動物の場合は1日あたり約0.5~約200mg/kg体重の活性化合物の例示的な投与量を含み、この投与量は単一用量で投与されてもよく、1日1~4回など個別の分割量の形で投与されてもよい。または、投与量は、1日あたり約0.5~約150mg/kg体重の活性化合物、1日あたり約0.5~100mg/kg体重の活性化合物、1日あたり約0.5~約75mg/kg体重の活性化合物、1日あたり約0.5~約50mg/kg体重の活性化合物、1日あたり約0.5~約25mg/kg体重の活性化合物、1日あたり約1~約20mg/kg体重の活性化合物、1日あたり約1~約10mg/kg体重の活性化合物、1日あたり約20mg/kg体重の活性化合物、1日あたり約10mg/kg体重の活性化合物、または1日あたり約mg/kg体重の活性化合物でもよい。投与量に影響を及ぼす他の要因には、例えば、対象に同時に影響を及ぼしている、または以前に影響を及ぼした他の医学的障害、対象の全身の健康状態、対象の遺伝的素因、食事、投与時間、排出速度、薬物組み合わせ、および対象に投与される他の任意のさらなる治療剤が含まれ得る。任意の特定の対象に対する特定の投与量および処置レジメンも、治療を行っている医療従事者の判断に左右されることも理解されるはずである。
【0114】
ウイルスベクター(すなわち、組換えベクタープラスミド、組換えベクタービリオン、感染性ウイルス粒子、または組換えベクター粒子)を投与する時に、任意の本明細書に記載のウイルスベクターの有効量は変化し、実験および/または臨床試験を通じて当業者によって決定することができる。例えば、インビボ注射の場合、有効な用量は約106~約1015個の組換えベクターまたは組換えベクタービリオンであり得る。例えば、約106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、1014、1015個の組換えベクターもしくは組換えベクタービリオン(例えば、ウイルス粒子)またはこれらの量の間にある任意の量を投与することができる。別の例では、約106~約107、約106~約108、約106~約109、約106~約1010、約106~約1011、約106~約1012、約106~約1013、または約106~約1014個の組換えベクターまたは組換えベクタービリオンが投与される。本明細書に記載の任意の投与方法の有効な用量をインビトロまたは動物モデル試験システムに由来する用量反応曲線から外挿することができる。
【0115】
本明細書で使用する、投与する、または投与とは、物質(例えば、本明細書に記載のレトロウイルスシステム)が体外に存在するときに、物質を、例えば、粘膜送達、皮内送達、静脈内送達、腫瘍内送達、筋肉内送達、直腸内送達、経口送達、皮下送達、および/または本明細書に記載の、もしくは当技術分野において公知の他の任意の物理的送達法によって対象に導入する、注射する、または別のやり方で物理的に送達する行為を指す。疾患またはその症状が処置されている時には、物質の投与は、典型的に、疾患またはその症状の発生後に行われる。疾患またはその症状が予防されている時には、物質の投与は、典型的に、その疾患または症状の発生前に行われる。
【0116】
組換えウイルスシステム、例えば、レトロウイルスシステムは、経口、非経口、粘膜内、静脈内、腫瘍内、腹腔内、脳室内、筋肉内、皮下、頭蓋内、腔内、または経皮を含む、いくつかの投与経路のいずれかを介して投与される。投与は、例えば、局部投与、局所注入、注射によって成し遂げられてもよく、移植によって成し遂げられてもよい。
【0117】
開示された方法および組成物のために使用することができる、開示された方法および組成物と一緒に使用することができる、開示された方法および組成物のための調製中に使用することができる、または開示された方法および組成物の産物である、材料、組成物、および成分が開示される。これらの材料および他の材料が本明細書において開示され、これらの材料の組み合わせ、サブセット、相互作用、グループなどが開示された時には、それぞれの様々な個別の、および集合的な組み合わせ、ならびにこれらの化合物の順列の特定の言及が明示的に開示されていないことがあるが、それぞれが本明細書において明確に意図され、説明されていると理解される。例えば、方法が開示および議論され、方法中の分子を含む多数の分子に対して加えることができる多数の変更が議論されていれば、それと反対に明確に示されていない限り、方法のありとあらゆる組み合わせおよび順列ならびに考えられる変更が明確に意図される。同様に、これらの任意のサブセットまたは組み合わせも明確に意図および開示される。この考えは、開示された組成物を使用する方法における工程を含むが、これに限定されない、この開示の全ての局面に当てはまる。従って、実施することができる様々な追加工程があれば、開示された方法の任意の特定の方法工程または方法工程の組み合わせと共に、これらの追加工程のそれぞれを実施することができ、このようなそれぞれの組み合わせまたは組み合わせのサブセットが明確に意図され、開示されているとみなされなければならないと理解される。
【0118】
本明細書において引用された刊行物およびそれらが引用された資料は、その全体が参照により本明細書に明確に組み入れられる。
【0119】
例示的な態様
本発明の例示的な態様は以下を含む:
1. (a)(i)第1のアクチベーターをコードする核酸に機能的に連結された第1の調節エレメントをコードし、かつ(ii)第1のウイルスが複製欠損ウイルスになるように、複製に必要とされる少なくとも1種のウイルスタンパク質のコード配列を欠く、第1のウイルスと、(b)第1のウイルスにおいて欠いている、ウイルス複製に必要な1種または複数種のウイルスタンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドを含む核酸を含み、第1のアクチベーターが第1のポリヌクレオチドおよび/またはそのコードされるウイルスタンパク質の発現を活性化する時だけ第1のポリヌクレオチドが発現される、第2のウイルスとを含む、組換えウイルスシステム。
2. 第1のおよび第2のウイルスがレトロウイルスまたはアデノウイルスである、態様1記載の組換えウイルスシステム。
3. アクチベーターが、第1のポリヌクレオチドの転写または翻訳を増加させることにより発現を活性化する、態様1または2記載の組換えウイルスシステム。
4. 第2のウイルスが、ウイルス複製に必要なウイルスタンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドに機能的に連結された第2の調節エレメントを含み、第1のアクチベーターが、第2の調節エレメントに結合することにより第1のポリヌクレオチドの転写を活性化する、態様1~3のいずれか一つに記載の組換えウイルスシステム。
5. アクチベーターが第2の調節エレメントに結合して転写を活性化し、第2の調節エレメントがプロモーター、エンハンサー、またはリプレッサー結合配列である、態様1~4のいずれか一つに記載の組換えウイルスシステム。
6. 第1のアクチベーターがデリプレッサーであり、デリプレッサーが第1のポリヌクレオチドおよび/またはウイルスタンパク質の発現を抑制解除することにより発現を活性化する時にだけ、第2のレトロウイルスによってコードされる第1のポリヌクレオチド配列が発現される、態様1記載の組換えウイルスシステム。
7. 抑制解除が転写レベルまたは翻訳レベルで起こる、態様6記載の組換えウイルスシステム。
8. 第1の調節エレメントおよび/または第2の調節エレメントが、プロモーター、エンハンサー、プロモーター/エンハンサーの組み合わせ、内部リボソーム進入部位、エピジェネティック制御因子、および翻訳制御因子からなる群より選択される、態様1~7のいずれか一つに記載の組換えウイルスシステム。
9. プロモーターが、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターである、態様8記載の組換えウイルスシステム。
10. 第2のウイルスが、ウイルス複製に必要な全てのウイルスタンパク質をコードする複製ウイルスである、態様1~9のいずれか一つに記載の組換えウイルスシステム。
11. 第1のおよび/または第2のウイルスが、ペイロードポリヌクレオチド配列に機能的に連結されたペイロードプロモーターを含む異種発現カセットをさらに含む、態様1~10のいずれか一つに記載の組換えウイルスシステム。
12. 複製に必要とされるウイルスタンパク質が、gag、env、pol、rev、およびtatからなる群より選択される、態様1~11のいずれか一つに記載の組換えウイルスシステム。
13. レトロウイルスが、レンチウイルス、マウス白血病ウイルス(MLV)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、フォーミーウイルスからなる群より選択される、態様2~12のいずれか一つに記載の組換えウイルスシステム。
14. ペイロードポリヌクレオチドが、治療用タンパク質、プロドラッグアクチベーター、細胞傷害性タンパク質、およびレポータータンパク質からなる群より選択されるポリペプチドをコードする、態様11~13のいずれか一つに記載の組換えウイルスシステム。
15. プロドラッグアクチベーターが、チミジンキナーゼ、シチジンデアミナーゼ、またはプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)である、態様14記載の組換えウイルスシステム。
16. 第1のアクチベーターが、HIV-1トランスアクチベータータンパク質(Tat)、HIV-1 Rev、Gal4-VP16、GAL4FF、GAL4-VP64、およびVP16-E2、およびテトラサイクリントランスアクチベータータンパク質からなる群より選択される、態様1~15のいずれか一つに記載の組換えウイルスシステム。
17. 第2のウイルスが複製欠損ウイルスであり、第2のアクチベーターをコードする核酸に機能的に連結された第3の調節エレメントをコードし、第1のウイルスが、ウイルス複製に必要なウイルスタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドを含む核酸を含み、第2のアクチベーターが第2のポリヌクレオチドの発現を活性化する時だけ第2のポリヌクレオチドが発現され、かつ第1のおよび第2のアクチベーターが発現された時だけ第1のおよび第2のウイルスが複製できる、態様1または2記載の組換えウイルスシステム。
18. 第1のウイルスが、ウイルス複製に必要なウイルスタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドに機能的に連結された第4の調節エレメントを含み、第1のアクチベーターが、第4の調節エレメントに結合することにより第2のポリヌクレオチドの転写を活性化する、態様17記載の組換えウイルスシステム。
19. 第3の調節エレメントまたは第4の調節エレメントが、プロモーター、エンハンサー、プロモーター/エンハンサーの組み合わせ、内部リボソーム進入部位、エピジェネティック制御因子、および翻訳制御因子からなる群より選択される、態様17または18記載の組換えウイルスシステム。
20. プロモーターが、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターである、態様19記載の組換えウイルスシステム。
21. 第1のもしくは第2のウイルスまたはその両方が、ペイロードポリヌクレオチドに機能的に連結されたペイロードプロモーターを含む異種発現カセットを含む、態様18~20のいずれか一つに記載の組換えウイルスシステム。
22. ペイロードポリヌクレオチドが、治療用タンパク質、プロドラッグアクチベーター、細胞傷害性タンパク質、およびレポータータンパク質からなる群より選択されるポリペプチドをコードする、態様21記載の組換えウイルスシステム。
23. 複製に必要とされるウイルスタンパク質が、gag、env、pol、rev、およびtatからなる群より選択される、態様17~22のいずれか一つに記載の組換えウイルスシステム。
24. レトロウイルスが、レンチウイルス、マウス白血病ウイルス(MLV)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、およびフォーミーウイルスからなる群より選択される、態様17~23のいずれか一つに記載の組換えウイルスシステム。
25. ペイロードポリヌクレオチドが、治療用タンパク質、プロドラッグアクチベーター、細胞傷害性タンパク質、およびレポータータンパク質からなる群より選択されるポリペプチドをコードする、態様17~24のいずれか一つに記載の組換えウイルスシステム。
26. プロドラッグアクチベーターが、チミジンキナーゼ、シチジンデアミナーゼ、またはプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)である、態様25記載の組換えウイルスシステム。
27. 第3の調節エレメントまたは第4の調節エレメントが、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、および組織特異的プロモーターからなる群より選択される、態様17~26のいずれか一つに記載の組換えウイルスシステム。
28. アクチベーターが、HIV-1トランスアクチベータータンパク質(Tat)、HIV-1 Rev、Gal4-VP16、およびVP16-E2、およびテトラサイクリントランスアクチベータータンパク質からなる群より選択される、態様17~27のいずれか一つに記載の組換えウイルスシステム。
29. アクチベーターが、HIV-1トランスアクチベータータンパク質(Tat)、HIV-1 Rev、Gal4-VP16、およびVP16-E2、およびテトラサイクリントランスアクチベータータンパク質からなる群より選択される、態様17~28のいずれか一つに記載の組換えウイルスシステム。
30. 第1のおよび/または第2のベクターの1つまたは複数のLTR(例えば、3’LTRおよび/または5’LTR)が欠失を含む、任意で、LTRのU3領域に欠失を含む、態様17~29のいずれか一つに記載の組換えウイルスシステム。
31. 第1のおよび/または第2のベクターの1つまたは複数のLTRが挿入を含み、任意で、挿入がプロモーター(例えば、CMVプロモーター)であり、任意で、挿入が、アクチベーターの1つまたは複数の結合部位であり、任意で、結合部位がGAL4結合部位である、態様17~30のいずれか一つに記載の組換えウイルスシステム。
32.(a)第1の適切な宿主細胞に、態様1~31のいずれか一つに記載の第1のウイルスベクターをトランスフェクトする工程;(b)第2の適切な宿主細胞に、態様1~31のいずれか一つに記載の第2のウイルスベクターをトランスフェクトする工程;ならびに(c)第1のおよび第2のレトロウイルスを回収する工程を含む、組換えウイルスシステムを作製するための方法。
33. 標的細胞に複製ウイルスシステムをトランスフェクトするための方法であって、標的細胞を、態様1~31のいずれか一つに記載の第1のおよび第2のウイルスと接触させる工程を含む、方法。
34. 細胞が哺乳動物細胞である。態様33記載の方法。
35. 細胞をインビトロ、エクスビボ、またはインビボで接触させる、態様32~34のいずれか一つに記載の方法。
36. (a)態様1~31のいずれか一つに記載のシステムの第1のウイルスおよび/または第2のウイルスと、(b)薬学的担体とを含む、薬学的組成物。
37. その必要がある対象において疾患を処置する方法であって、態様1~31のいずれか一つに記載のシステムまたは態様36記載の薬学的組成物を対象に投与する工程を含む、方法。
38. 疾患が細胞増殖性障害である、態様37記載の方法。
39. 細胞増殖性障害が、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、精巣癌、腎臓癌、尿路癌、口腔癌、頭頚部癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、結腸直腸癌、皮膚癌、黒色腫、肉腫、リンパ腫、白血病、および、膠芽腫、未分化星状細胞腫、乏突起神経膠腫、髄芽細胞腫を含む脳癌からなる群より選択される、態様38記載の方法。
40. 癌が膠芽腫である、態様39記載の方法。
41. 第1のまたは第2のポリヌクレオチドがプロドラッグアクチベーターをコードし、前記方法が、プロドラッグアクチベーターが発現された時にプロドラッグアクチベーターがプロドラッグを毒性薬物に変換するようにプロドラッグを対象に投与する工程をさらに含む、態様37~40のいずれか一つに記載の方法。
42. 第1のおよび/または第2のウイルスベクターがプラスミドとして、または感染性レトロウイルス粒子として対象に投与される、態様37~41のいずれか一つに記載の方法。
43. 対象が哺乳動物である、態様37~42のいずれか一つに記載の方法。
44. 対象がヒトである、態様43記載の方法。
45. 投与が全身投与、局部投与、または局所投与である、態様37~44のいずれか一つに記載の方法。
46. システムの第1のおよび第2のウイルスが、対象に、同時にまたは連続して投与される、態様37~45のいずれか一つに記載の方法。
【実施例
【0120】
実施例I
pLXlX-GAL4、pAC3-最小、およびpAC3-最大プラスミドの構築
ギブソンアセンブルクローニングを利用して、GALFFFのコドンと安定性が最適化された遺伝子配列(すなわち、VP16の一部と融合したGALを含むGAL4/VP16融合タンパク質)をpLXSN(Takara Bio Inc., Shiga, Japan)に入れ、その後に内部リボソーム進入部位を入れた(図1)。ギブソンアセンブリクローニングを用いてpAC3-最小およびpAC3-最大も作製した。これらのプラスミドでは、トランスフェクション時に初回の遺伝子発現を動かすためにMMLV 5’LTRのU3領域がCMVプロモーターと交換されている。天然プロモーター機能を破壊するために天然MMLV 3’LTRのU3に欠失を生じさせた。逆転写プロセス中に、プロウイルスDNAの中で3’LTRのU3領域は5’LTRのU3領域に置き換えられる。これにより、5’末端および3’末端に同一の改変されたLTR配列を有する感染性ベクターが生じる。pAC3-最小(図2)は天然エンハンサー配列に欠失を含んだ。pAC3-最大(図3)は、このエンハンサー配列とウイルスCCAATボックスに欠失を含んだ。欠失配列をGAL4結合部位と交換した。Strawberry蛍光タンパク質およびエメラルド蛍光タンパク質を、それぞれ、ウイルス構築物のP2Aの下流に、または内部リボソーム進入部位の下流に入れた。
【0121】
pLXIX TatおよびpAC3-TINプラスミドの構築
ギブソンアセンブリを利用して、HIV-1 Tat配列のコドンと安定性が最適化された遺伝子配列をpLXSN(Takara Bio Inc.)に入れ、その後に内部リボソーム進入部位を入れた(図4)。MMLV 3’LTRを、pHRプラスミド(Addgene)に由来するHIV-1 U3、R、およびU5配列と交換することによってpAC3-TINを作製した(図5)。5’LTR天然MMLV R配列もHIV-1 R配列と交換した。
【0122】
細胞株および培養
安定したgag-pol発現を伴うヒト胚腎臓293T細胞(Takara, Incから購入したRetro-X細胞)を、10%胎児ウシ血清と1X Gibco GlutaMAX(Gibco, Inc.)を加えたダルベッコ変法イーグル培地-栄養分混合物の中で培養した。マウス膠芽腫SB28(Hideho Okada博士, University of California San Francisco, San Francisco, CAによって提供された)を、10%胎児ウシ血清、Gibco GlutaMAX(Gibco, Inc., Waltham, MA)、非必須アミノ酸(Gibco, Inc.)、ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸(Gibco, Inc.)、ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco, Inc.)、および0.1%β-メルカプトエタノールを加えたRPMI1640培地の中で培養した。
【0123】
ウイルス産生および濃縮
Retro-Xプロデューサー細胞の一過的トランスフェクションによってウイルスを産生した。Fugene HD(Promega)と10マイクログラムのウイルスプラスミドDNAおよびVSV-Gエンベロープ含有プラスミドDNAを利用したリバーストランスフェクションを行った。最初のトランスフェクションの約36~48時間後にウイルス含有上清を収集した。インビボ研究のために、リン酸緩衝溶液(PBS)に対する緩衝液交換(Bioland Scientific LLC.)を伴うカラムベースのレトロウイルス精製を用いてウイルスを濃縮した。形質導入単位/mL(TU/mL)の単位で機能的ウイルス力価をフローサイトメトリーによって求めた。
【0124】
インビトロウイルス複製および安定性
手短に述べると、特定の感染多重度(MOI)をインビボでSB28腫瘍細胞に添加し、ある期間にわたって複製させた。蛍光タンパク質導入遺伝子に対するフローサイトメトリーによって形質導入レベルを定期的に測定した。ウイルス伝播を阻害するアジドチミジンを対照群に利用した。インビトロウイルス伝播実験には、通常、0.3のMOIを利用した。
【0125】
マウス
8~12週齢のC57BL/6マウスをJackson Laboratoriesから購入し、カリフォルニア大学サンフランシスコ校において飼育した。
【0126】
動物試験
インビボ実験のためにSB28マウス膠芽腫腫瘍細胞を使用した。全ての細胞が、生物発光イメージングができるようにルシフェラーゼを安定して発現し、フローサイトメトリーによって腫瘍細胞を特定できるようにLSSmOrangeも安定して発現した。0日目に10,000個の腫瘍細胞を頭蓋内に移植した。細胞を、定位フレーム(stereotactic frame)を用いてブレグマから以下の座標:前後(AP)、0mm:中外側(ML)、1.9mm;および背腹側(DV)、3.0mmに移植した。腫瘍移植後4日目に、マウスに5x103TUのpLXIX-GAL4-EMDとpAC-最小StrawberryまたはpLXIX-GAL4-EMDとpAC-最大Strawberryを注射した。合計4%同時感染細胞と96%非感染腫瘍細胞まで、予め形質導入した同時感染陽性細胞と非感染腫瘍細胞の混合を用いたプレミックス実験も行った。
【0127】
ウイルス伝播の分析
腫瘍注射後、4日目、15日目、および18日目の時点でマウスを屠殺した。分析中に15日目と18日目の時点を組み合わせた。脳腫瘍を切り刻み、37Cで振盪しながら処理のためにコラゲナーゼIV型(Thermo Fisher Scientific #17104019)とデオキシリボヌクレアーゼI(Worthington Biochemical Corporation)の溶液に入れた。次いで、腫瘍を70umフィルターで濾過し、アンモニウム-クロライド-カリウム(ACK)溶解緩衝液(Lonza)を用いて赤血球を溶解した。次いで、フローサイトメトリー分析を行った。取得を、Attune NxT Flow Cytometer(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)によって行った。フローサイトメトリー結果の分析をFlowJoソフトウェアを用いて行った。
【0128】
結果
GAL4結合部位の最小挿入および最大挿入は複製レトロウイルスの複製およびウイルス導入遺伝子の発現を異なって改変する
ウイルス複製と発現を異なって改変するように3’MMLV LTRのU3に挿入/欠失を生じさせて、GAL4/VP16発現に対して異なる量の依存性をもつ2種の複製ウイルス(RRV)を得た。pAC3-Strawberryベクター用の例示的な非改変3’MMLV LTR配列を図6(SEQ ID NO:1)に示した。天然MMLV 3’LTRのU3に欠失を生じさせて天然プロモーター機能を破壊することによって、この3’MMLV LTR配列を改変した。pAC3-最小(図2)は天然エンハンサー配列に欠失を含んだ。pAC3-最大(図3)は、このエンハンサー配列とウイルスCCAATボックスに欠失を含んだ。図7および図8に示したように、欠失された配列をGAL4結合部位と交換した。図7および図8は、本明細書に記載の、最小欠失ベクターおよび最大欠失ベクターにおいてそれぞれ用いられる、3’MMLV LTR配列であるSEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:3を、それぞれ示す。ベクター中のGAL4結合部位の数を変えることにより、本明細書に記載のシステムのバイナリーベクターのウイルス複製と発現を調整することができる。SB28腫瘍細胞に適用すると、RRVと最小欠失(pAC-最小-Strawberry)を保有するstrawberry導入遺伝子はロバストな発現を示したが、培養中に9日にわたってウイルスは複製されなかった(図9A)。RRVと最大欠失(pAC-最大-Strawberry)は、同様に行った実験において発現を全く示さなかった。SB28腫瘍細胞においてGAL4/VP16を安定発現させるとpAC-最小-Strawberryウイルスの複製が可能になった(図9B)。
【0129】
GAL4/VP16を保有する欠損レトロウイルスをインビトロ添加すると、GAL4結合部位の最小挿入および最大挿入を伴う複製レトロウイルスの発現および複製が可能になる
GAL4/VP16が同時に発現しなければpAC-最小-StrawberryとpAC-最大-Strawberryにおいて複製が起こらないことを確認した後に、GAL4がウイルス複製を可能にする能力を評価する実験を行った。最初に、pAC-最小-StrawberryとpLXIX-GAL4-EMDを1個のウイルスにつき0.3のMOIでSB28細胞に添加した。次いで、ウイルス伝播を一定間隔の時点でEMDとStrawberryに対するフローサイトメトリーによってモニタリングした。pAC-最小-Strawberry単独とは対照的に、pLXIX-GAL4-EMDとpAC-最小-Strawberryを一緒にSB28膠芽腫腫瘍細胞に添加することにより、ロバストなウイルス複製と両ウイルスの伝播が可能になった(図10A)。さらに、同時感染細胞はStrawberry発現のより多い発現を証明した。このことはバイナリー複製システムの相乗的な性質を強調している(図10B)。次いで、pAC-最大-Strawberryを用いて同様の実験を行った。同様に、pLXIX-GAL4-EMDとpAC-最大-Strawberryを一緒にSB28膠芽腫腫瘍細胞に添加することにより、二重陽性細胞の極めて高いパーセントまでロバストなウイルス複製と両ウイルスの伝播が可能になった(図10C)。
【0130】
最小バイナリーシステムと最大バイナリーシステムのインビボ評価によりロバストな同時感染と複製が証明される
最小バイナリーシステムと最大バイナリーシステムのインビトロ実験が両方とも成功した後に、2つのシステムを頭蓋内マウス腫瘍において試験した。1つの実験セットでは、プレミックスした腫瘍(4%同時感染細胞と96%非感染腫瘍)を移植することによりシステムを評価した。プレミックス実験は、ロバストな複製と、同時感染した腫瘍細胞集団の拡大を証明した(図11A~D)。このシステムに挑戦するために、低ウイルス力価のウイルス注射を用いて行った同様のインビボ実験からでも、良好な複製と、かなりの同時感染腫瘍細胞集団が証明された(図12A~C)。ウイルス注射の4日後に蛍光タンパク質発現は検出されなかった。このことはシステムのロバストな伝播と複製能力をさらに証明している。
【0131】
実施例II
遺伝子編集のための調節されたレトロウイルスベクター
下記のように、Cas9をコードする欠損ウイルスと、関心対象の遺伝子に対するコグネイトガイドRNA(gRNA)をコードする複製コンピテントウイルスを含むベクターシステムを使用して細胞のゲノムを編集することができる。このシステムは、機能的gRNAが腫瘍細胞に存在する時に、機能的gRNAに対する任意の遺伝子をノックアウトするのに使用され得る。
【0132】
プラスミドの構築
ギブソンアセンブリクローニングを利用して、pRubiG-T2A-Cas9(Williams et al., Sci Rep 2016, 6, 25611, doi:10.1038/srep2561)(Addgene plasmid #75348; http://n2t.net/addgene:75348; RRID:Addgene_75348)に由来するEGFP-T2A-Cas9をpLXIX-GAL4(前記)のP2A配列のすぐ下流に配置して、Gal4とCas9を発現する複製欠損レトロウイルス(pLXIX-Gal4-P2A-EGFP-T2A-Cas9)を作り出した(図16)。これにより感染細胞においてCas9とEGFPが両方とも発現され、そのため容易な特定と検出が可能になる。
【0133】
gRNAベクター
ヒトβ2-ミクログロブリン遺伝子標的配列を用いて、以下に示すように2つの60マーオリゴヌクレオチドに挿入することによりsgRNAスペーサー配列を作製した(配列は5’→3’であり、太字で示した領域は互いの逆相補鎖である)。
【0134】
2つのオリゴをアニールし、Phusion flashポリメラーゼ(NEB)を用いて100bp二本鎖DNA断片となるように伸長した。gRNAクローニングベクター(Addgene plasmid #41824; http://n2t.net/addgene:41824; RRID:Addgene_41824)をAflIIを用いて直線化し、100bp DNA断片を、ギブソンアセンブリ(Mali et al., Science 2013, 339, 823-826, doi: 10.1126/science.1232033)を用いて組み込んだ。結果として生じたウイルスはU6-B2MsgRNAウイルス(図17A)であった。このベクターは、ギブソンアセンブリを用いて最小(図17Bおよび図18A)ならびに最大欠失RRVベクター(図17Cおよび図18B)のNotI部位にU6-B2MsgRNA発現カセットを挿入するためのテンプレートとして役立った。
【0135】
細胞株および培養
ヒト胚腎臓293T細胞(ATCC)を、10%胎児ウシ血清と1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Corning, Inc.)を加えたダルベッコ変法イーグル培地-栄養分混合物中で培養した。U87EGFRvIII細胞を、10%胎児ウシ血清、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Corning, Inc.)を加えたDMEM培地中で培養した。
【0136】
ウイルス産生および濃縮
ウイルスプラスミドDMA、pHIT60パッケージングプラスミド、VSV-Gエンベロープを含有するプラスミドDNAによる293T細胞の一過的リン酸カルシウムコトランスフェクションによって複製欠損(Cas9をコードするベクター)を産生した。
【0137】
ウイルスプラスミドDNAと、GAL4遺伝子を含有するプラスミドDNAによる293T細胞の一過的リン酸カルシウムコトランスフェクションによって最小(すなわち、小さな欠失)欠失ベクターと最大(すなわち、大きな欠失)欠失ベクターを生成した。最初のトランスフェクションの約36~48時間後にウイルス含有上清を収集した。インビボ研究のために、ウイルスをRetroX concentrator(Takara)を用いて製造業者のプロトコールに従って濃縮し、PBSに再懸濁した。形質導入単位/mL(TU/mL)の単位で機能的ウイルス力価をフローサイトメトリーによって求めた。
【0138】
インビトロウイルス複製およびβ2-ミクログロブリンノックダウンの評価
簡潔に述べると、特定の感染多重度(MOI)をインビトロでU87EGFRvIII腫瘍細胞に添加し、ある期間にわたって複製させた。蛍光タンパク質導入遺伝子に対するフローサイトメトリーによって形質導入レベルを定期的に測定した。インビトロウイルス伝播実験には、通常、0.01~0.1のMOIを利用した。B2Mノックダウンを形質導入細胞の細胞表面染色によって評価した。簡単に述べると、細胞を収集し、染色用緩衝液(0.2%BSAを加えたPBS)で2回洗浄した。100μlにつき1x106個までの細胞をFACSチューブに分注した。5μlのAPC結合抗ヒトβ2-ミクログロブリン抗体(Biolegend)またはアイソタイプ対照(IgG1κ,Biolegend)を添加し、撹拌しながら細胞を4℃で30分間インキュベートした。細胞を、0.2%BSAを含有するPBSで2回洗浄し、4%PFAで15分間固定し、もう2回洗浄し、FACS分析のために300μlの染色用緩衝液に再懸濁した。
【0139】
U87vIII細胞におけるレトロウイルス複製およびβ2-ミクログロブリンノックダウン
pAC-最小(すなわち、小さな欠失)-strawberry-U6-B2MsgRNAベクターとpLXIX-GAL4-EGFP-CAS9を、それぞれ、0.01および0.1の感染多重度(moi)でU87vIII細胞に添加した。次いで、ウイルス伝播を一定間隔の時点でEMDとstrawberryに対するフローサイトメトリーによってモニタリングした。pLXIX-GAL4-EGFP-CAS9単独とは対照的に、pAC-最小-strawberry-U6-B2MsgRNAを添加するとウイルス複製と両ウイルスの伝播が可能になった(図19)。pAC-最小-strawberry-U6-B2MsgRNAとpLXIX-GAL4-EGFP-CAS9を両方とも与えた細胞では、β2-ミクログロブリンノックダウンも細胞表面抗体染色によって評価した。形質導入の20日目までに同時導入(すなわち、GFP陽性strawberry陽性の)細胞の50%までがAPC/β2M陽性を示さなかった(図20)。
【0140】
pAC最大(すなわち、大きな欠失)-strawberry-U6-B2MsgRNAベクターとpLXIX-GAL4-EGFP-CAS9を用いて、これらのベクターを、それぞれ、0.01と0.1の感染多重度(moi)でU87vIII細胞に添加することにより同様の実験を行うことができる。ウイルス伝播は一定間隔の時点でEMDとstrawberryに対するフローサイトメトリーによってモニタリングすることができる。pLXIX-GAL4-EGFP-CAS9単独とは対照的に、pAC-最大-strawberry-U6-B2MsgRNAを添加するとウイルス複製と両ウイルスの伝播が可能になると予想される。pAC-最大-strawberry-U6-B2MsgRNAとpLXIX-GAL4-EGFP-CAS9を両方とも与えた細胞では、β2-ミクログロブリンノックダウンも細胞表面抗体染色によって評価することができる。pAC-最大-strawberry-U6-B2MsgRNAとpLXIX-GAL4-EGFP-CAS9に感染させると85%超の同時感染細胞が生じると予想される。前記のように、細胞集団全体および同時導入集団における細胞表面B2M発現の分析によって、U87vIIIの50%超においてB2Mがノックダウンされるはずである。
【0141】
膠芽腫動物モデルにおける腫瘍成長の阻害
ヒト腫瘍特異的EGFR欠失バリアント、EGFRvIII標的配列を用いて、以下に示すように2つの60マーオリゴヌクレオチドに挿入することによりsgRNAスペーサー配列を作製する(配列は5’→3’であり、太字で示した領域は互いの逆相補鎖である)。
【0142】
これらのオリゴを使用して、前述したように最小欠失U6-EGFRvIIIgRNAベクターおよび最大欠失U6-EGFRvIIIgRNAベクターを作製するためのテンプレートとして使用するU6-EGFRvIIIgRNA発現ベクターを作製する。
【0143】
EGFRvIIIgRNAとstrawberry蛍光マーカー遺伝子を両方とも保有する、これらの最小欠失ベクターまたは最大欠失ベクターをpLXIX-GAL4-EGFP-CAS9と一緒に特定の感染多重度でインビトロでU87vIII細胞に同時投与する。伝播と同時形質導入のレベルを本明細書に記載のように評価し、EGFRvIII発現に対する効果も評価する。同時導入されたU87EGFRvIII細胞は、これらのベクターの以前の繰り返しで見られたものと同様の伝播と同時形質導入のレベルを示すと予想される。EGFRvIII細胞表面発現を検出するためのフローサイトメトリーを用いて、または細胞溶解産物中にあるEGFRvIIIタンパク質レベルをアッセイするためのウエスタンブロットによって同時形質導入すると、EGFRvIII発現が著しく低減することも予想される。
【0144】
ホタルルシフェラーゼ遺伝子にとって安定している、1e5個のU87vIIIヒト神経膠腫細胞を無胸腺ヌードマウスに定位注射によって外科的に移植する。EGFRvIIIgRNAとstrawberry蛍光マーカー遺伝子を両方とも保有する最小欠失ベクターまたは最大欠失ベクターをpLXIX-GAL4-EGFP-CAS9と一緒に腫瘍内定位注射によって同時投与する。これらのベクターは伝播される。腫瘍成長を腫瘍の生物発光イメージングによって1週間間隔でモニタリングする。未処置の対照動物と比較してCRISPR/CAS9処置動物では時間とともに生物発光シグナルが低減すると予想される。このことは著しい腫瘍成長阻害を示している。
【0145】
実施例III
方法
pLXIX-GAL4-IMおよびpAC3-GAL4BS-RLIの構築
ギブソンアセンブルクローニングを利用して、以下の遺伝子:IL-7、FLT3L、4-1BBLのコドンと安定性が最適化された遺伝子配列をpLXIX-GAL4プラスミドに入れてpLXIX-GAL4-IMを作製した(図21A)。IL-15スーパーアゴニストRLIをpAC-最大-Strawberryベクターに同様にクローニングして(Strawberryを交換する)、pAC3-GAL4BS-RLI(GAL4BS-IL-15とも呼ばれる)を作製した(図21B)。
【0146】
細胞株および培養
安定したgag-pol発現を伴うヒト胚腎臓293T(Takara, Incから購入したRetro-X細胞)を、10%胎児ウシ血清と1X Gibco GlutaMAX(Gibco, Inc.)を加えたダルベッコ変法イーグル培地-栄養分混合物の中で培養した。マウス膠芽腫SB28(Hideho Okada博士, University of California San Francisco, San Francisco, CAによって寛大に提供された)を、10%胎児ウシ血清、Gibco GlutaMAX(Gibco, Inc.)、非必須アミノ酸(Gibco, Inc.)、ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸(Gibco, Inc,)、ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco, Inc.)、および0.1%β-メルカプトエタノールを加えたRPM11640培地の中で培養した。
【0147】
ウイルス産生および濃縮
Retro-Xプロデューサー細胞の一過的トランスフェクションによってウイルスを産生した。Fugene HD(Promega)と10マイクログラムのウイルスプラスミドDNAおよびVSV-Gエンベロープ含有プラスミドDNAを利用したリバーストランスフェクションを行った。最初のトランスフェクションの約36~48時間後にウイルス含有上清を収集した。インビボ研究のために、ウイルスをカラムベースのレトロウイルス精製とリン酸緩衝溶液(PBS)に対する緩衝液交換(Bioland Scientific LLC.)を用いて濃縮した。形質導入単位/mL(TU/mL)の単位で機能的ウイルス力価をフローサイトメトリーによって求めた。
【0148】
治療用導入遺伝子のインビトロ発現
プラスミドpLXIX-GAL4-IMとpAC3-GAL4BS-RLIを0.3のMOIで培養中のSB28細胞に添加した。感染させて96時間後に、細胞培養上清を収集し、RL1、IL-7、およびFLT3Lのレベルを評価するために酵素結合免疫測定法(ELISA)を行った。ウイルス感染細胞上での4-1BBL発現を確かめるために、抗4-1BBL抗体を用いたフローサイトメトリーを同様に行った。
【0149】
マウス
8~12週齢のC57BL/6マウスをJackson Laboratoriesから購入し、カリフォルニア大学サンフランシスコ校において飼育した。
【0150】
動物試験-ウイルス伝播
インビボ実験のためにSB28マウス膠芽腫腫瘍細胞を使用した。全ての細胞が、生物発光イメージングができるようにルシフェラーゼを安定して発現し、フローサイトメトリーによって腫瘍細胞を特定できるようにLSSmOrangeも安定して発現した。0日目に10,000個の腫瘍細胞を頭蓋内に移植した。細胞を、定位フレームを用いてブレグマから以下の座標:前後(AP)、0mm:中外側(ML)、1.9mm;および背腹側(DV)、3.0mmに移植した。腫瘍移植後4日目に、マウスに5x103TUのpLXIX-GAL4-EMDとpAC-最小StrawberryまたはpLXIX-GAL4-EMDおよびpAC-最大Strawberryを注射した。合計4%同時感染細胞と96%非感染腫瘍細胞まで、予め形質導入した同時感染陽性細胞と非感染腫瘍細胞の混合を用いたプレミックス実験も行った。
【0151】
動物試験-治療試験
上記と同様に、ウイルスにより発現した免疫遺伝子の治療効力を試験するインビボ実験のためにSB28マウス膠芽腫腫瘍細胞を使用した。全てのSB28細胞が、生物発光イメージングを可能にするルシフェラーゼを安定して発現した。0日目に10,000個の腫瘍細胞を頭蓋内に移植した。細胞を、定位フレームを用いてブレグマから以下の座標:前後(AP)、0mm:中外側(ML)、1.9mm;および背腹側(DV)、3.0mmに移植した。腫瘍移植後4日目に、マウスに2.5x106TUのpLXIX-GAL4-IMおよびpAC3-GAL4BS-RLIを注射した。次いで、生物発光イメージングを隔週でモニタリングした。マウス生存率も記録した。エンドポイントを>15%の体重減少または神経学的症状の発症とみなした。
【0152】
ウイルス伝播の分析
腫瘍注射後4日目、15日目、および18日目の時点でマウスを屠殺した。分析中に15日目および18日目の時点を組み合わせた。脳腫瘍を切り刻み、37Cで振盪しながら処理のためにコラゲナーゼIV型(Thermo Fisher Scientific #17104019)とデオキシリボヌクレアーゼI(Worthington Biochemical Corporation)の溶液に入れた。次いで、腫瘍を70umフィルターで濾過し、アンモニウム-クロライド-カリウム(ACK)溶解緩衝液(Lonza)を用いて赤血球を溶解した。次いで、フローサイトメトリー分析を行った。取得を、Attune NxT Flow Cytometer(Thermo Fisher Scientific)によって行った。フローサイトメトリー結果の分析をFlowJoソフトウェアを用いて行った。
【0153】
免疫変化の分析
エンドポイントで、または腫瘍注射後14日目の時点でマウスを屠殺した。以下の組織:脾臓、骨髄、血液、および脳腫瘍を収集した。脳腫瘍を切り刻み、37Cで振盪しながら処理のためにコラゲナーゼIV型(Thermo Fisher Scientific #17104019)とデオキシリボヌクレアーゼI(Worthington Biochemical Corporation)の溶液に入れた。次いで、腫瘍を70umフィルターで濾過し、アンモニウム-クロライド-カリウム(ACK)溶解緩衝液(Lonza)を用いて赤血球を溶解した。脾臓を40umフィルターに通して粉々にし、次いで、ACK溶解に供した。骨髄を40umフィルターで濾過し、次いで、同様にACK溶解に供した。次いで、フローサイトメトリー分析と染色を行った。手短に述べると、最初に、細胞を、2%ウシ血清アルブミンを含むPBSに溶解したマウスFcブロックに曝露した。Fcブロック後に細胞を洗浄し、次いで、PBSに溶解したZombie Aqua fixable viability dye(BioLegend # 423101)で染色した。次いで、細胞を再洗浄し、次いで、2%ウシ血清アルブミンを含むPBS中で表面マーカーを染色した。表面マーカー染色後に、eBioscience(商標)Foxp3/Transcription Factor Staining Buffer Set(Thermo Fisher Scientific # 00-5523-00)を用いて細胞の細胞内マーカーを染色した。取得を、Attune NxT Flow Cytometer(Thermo Fisher Scientific)によって行った。フローサイトメトリー結果の分析をFlowJoソフトウェアを用いて行った。
【0154】
結果
GAL4結合部位の最小挿入および最大挿入は複製レトロウイルスの複製とウイルス導入遺伝子の発現を異なって改変する
前記のように、ウイルス複製と発現を異なって改変するように3’MMLV LTRのU3に挿入/欠失を生じさせて、GAL4/VP16発現に対して異なる量の依存性をもつ2種の複製ウイルス(RRV)を得た。SB28腫瘍細胞に適用すると、RRVと最小欠失を保有するstrawberry導入遺伝子(pAC-最小-Strawberry)はロバストな発現を示したが、培養中に9日にわたってウイルスは複製されなかった(図9A)。RRVと最大欠失(pAC-最大-Strawberry)は、同様に行った実験において発現を全く示さなかった。SB28腫瘍細胞においてGAL4/VP16を安定発現させるとpAC-最小-Strawberryウイルスの複製が可能になった(図9B)。
【0155】
GAL4/VP16を保有する欠損レトロウイルスをインビトロ添加すると、GAL4結合部位の最小挿入および最大挿入を伴う複製レトロウイルスの発現と複製が可能になる
GAL4/VP16が同時に発現しなければpAC-最小-StrawberryとpAC-最大-Strawberryにおいて複製が起こらないことを確認した後に、次いで、本発明者らは、GAL4がウイルス複製を可能にする能力を評価する実験を行った。最初に、本発明者らは、pAC-最小StrawberryとpLXIX-GAL4-EMDを1個のウイルスにつき0.3のMOIでSB28細胞に添加した。次いで、本発明者らは、ウイルス伝播を一定間隔の時点でEMDとStrawberryに対するフローサイトメトリーによってモニタリングした。pAC-最小-Strawberry単独とは対照的に、pLXIX-GAL4-EMDとpAC-最小-Strawberryを一緒にSB28膠芽腫腫瘍細胞に添加することにより、ロバストなウイルス複製と両ウイルスの伝播が可能になった(図10A)。さらに、同時感染細胞はStrawberry発現のより多い発現を証明した。このことはバイナリー複製システムの相乗的な性質を強調している(図10B)。次いで、pAC-最大-Strawberryを用いて同様の実験を行った。同様に、pLXIX-GAL4-EMDとpAC-最大-Strawberryを一緒にSB28膠芽腫腫瘍細胞に添加すると、二重陽性細胞の極めて高いパーセントまでロバストなウイルス複製と両ウイルスの伝播が可能になった(図1OC)。
【0156】
最小バイナリーシステムおよび最大バイナリーシステムのインビボ評価によってロバストな同時感染と複製が証明される
最小バイナリーシステムと最大バイナリーシステムのインビトロ実験が両方とも成功した後に、次いで、本発明者らは頭蓋内マウス腫瘍において2つのシステムを試験しようと試みた。1つの実験セットでは、プレミックスした腫瘍(4%同時感染細胞および96%非感染腫瘍)を移植することによりシステムを評価した。プレミックス実験は、ロバストな複製と、同時感染した腫瘍細胞集団の拡大を証明した(図11A~11D)。このシステムに挑戦するために、低ウイルス力価のウイルス注射を用いて行った同様のインビボ実験からでも、良好な複製と、かなりの同時感染腫瘍細胞集団が証明された(図12A~C)。ウイルス注射の4日後に蛍光タンパク質発現は検出されなかった。このことはシステムのロバストな伝播と複製能力をさらに証明している。
【0157】
バイナリー-IM形質導入はインビトロでIL-7、FLT3L、および4-1BBLの発現を引き起こす
T75プレートの中の10mL培地中にある100%のバイナリー-IM(pLXIX-GAL4-IMおよびpAC3-GAL4BS-RLI)感染SB28がIL-7、RLI、およびFLT3Lを75ng/mLまたは0.09pg/細胞/48時間の濃度で効率的に分泌する(図22)。さらに、全ての感染細胞が4-1BBLを発現した。
【0158】
バイナリー-IM処置は膠芽腫の2種の低免疫原性マウスモデルにおいて腫瘍成長を減少させ、生存率を増加させる
SB28マウスGBMモデルおよびTu2449マウスGBMモデルにおいてバイナリー-IM(pLXIX-GAL4-IMおよびpAC3-GAL4BS-RLI)で処置すると、バイオルミネセンスと生存(すなわち、BLIシグナル)によって測定した時に腫瘍成長が低減する(図23Aおよび図23B)。バイナリー-IMで処置すると、処置したSB28およびTu2449において移植細胞を完全に根絶する(図23Aおよび図23B)。
【0159】
バイナリー-IM処置はSB28処置マウスにおいてリンパ球と樹状細胞の腫瘍浸潤を増加させる
バイナリー-IM SB28処置マウスの後のフローサイトメトリー分析から、対照マウスと比べて腫瘍免疫微小環境システムが著しく変化したことが明らかになった。バイナリー-IMで処置すると、14日の時点で、CD3+免疫細胞浸潤(3.0%対20.0%、p=0.001)およびCD8 T細胞浸潤(0.8%対8.0%、p=0.01)を含むリンパ球の腫瘍浸潤が増加した(バイナリー-IM(すなわち、pLXIX-GAL4-IMとpAC3-GAL4BS-RLIを用いた処置)は、それぞれの細胞タイプについての3つのカラムの各組における中央のカラムである(左:PBS対照、中央:バイナリー-IM;右:空のRRV))。Treg(CD3+、CD4+、CD25+、FOXP3+)浸潤に有意差はなかった(図24)。形質細胞様樹状細胞(pDC)浸潤も14日目の時点で同様に増加した(3.0%対15.0%、p=0.001)。
【0160】
例示的な3’LTRおよび/または5’LTR配列
野生型(非改変)MMLV LTR配列(SEQ ID NO:1)
【0161】
最小欠失MMLV LTR配列(SEQ ID NO:2)
【0162】
最大欠失MMLV LTR配列(SEQ ID NO:3)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C
図11D
図12A
図12B
図12C
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図19
図20
図21A
図21B
図22
図23A
図23B
図24
【配列表】
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【国際調査報告】