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特表2024-526885抗菌性カテーテルロック溶液としての使用のための16%クエン酸ナトリウム溶液
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  • 特表-抗菌性カテーテルロック溶液としての使用のための16%クエン酸ナトリウム溶液 図1
  • 特表-抗菌性カテーテルロック溶液としての使用のための16%クエン酸ナトリウム溶液 図2A
  • 特表-抗菌性カテーテルロック溶液としての使用のための16%クエン酸ナトリウム溶液 図2B
  • 特表-抗菌性カテーテルロック溶液としての使用のための16%クエン酸ナトリウム溶液 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】抗菌性カテーテルロック溶液としての使用のための16%クエン酸ナトリウム溶液
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/16 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
A61M25/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503555
(86)(22)【出願日】2022-07-18
(85)【翻訳文提出日】2024-03-01
(86)【国際出願番号】 US2022037424
(87)【国際公開番号】W WO2023003792
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】63/223,191
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】595117091
【氏名又は名称】ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴィロリオ,クリスチャン
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA01
4C267GG02
4C267HH08
(57)【要約】
抗凝固および抗菌特性を有するカテーテルロック溶液であって、クエン酸塩を含むカテーテルロック溶液が本明細書で提供される。クエン酸塩は、クエン酸三ナトリウムであってよく、カテーテルロック溶液は、カテーテルロック溶液のpHを調整するための希釈された酸をさらに含むことができる。一構成では、ロック溶液は、15.5%~16.5% w/vのクエン酸塩、注射用水および任意選択的に酸である。カテーテルロック溶液のpHは、6.4~7.5であり得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
約15.5% w/v~約16.5% w/vのクエン酸塩と、
注射用水と、任意選択的に、
酸と、
を含む抗菌性カテーテルロック溶液であって、
前記カテーテルロック溶液のpHが約6.4~約7.5であり、
前記カテーテルロック溶液が、抗凝固剤または抗菌活性を有する任意の追加の成分を含まない、抗菌性カテーテルロック溶液。
【請求項2】
前記クエン酸塩がクエン酸ナトリウム塩である、請求項1に記載の抗菌性カテーテルロック溶液。
【請求項3】
前記クエン酸塩がクエン酸三ナトリウムである、請求項1に記載の抗菌性カテーテルロック溶液。
【請求項4】
前記カテーテルロック溶液が酸をさらに含む、請求項1に記載の抗菌性カテーテルロック溶液。
【請求項5】
前記酸が希釈された酸である、請求項4に記載の抗菌性カテーテルロック溶液。
【請求項6】
前記希釈された酸が希塩酸(HCl)である、請求項5に記載の抗菌性カテーテルロック溶液。
【請求項7】
前記カテーテルロック溶液が、約0.1%~約0.7% v/vの量で前記酸を含む、請求項6に記載の抗菌性カテーテルロック溶液。
【請求項8】
前記クエン酸塩がクエン酸三ナトリウム二水和物を含む、請求項1に記載の抗菌性カテーテルロック溶液。
【請求項9】
前記カテーテルロック溶液が、約16% w/vのクエン酸三ナトリウム、注射用水(WFI)、および約0.7% v/vの10% HClを含む、請求項1に記載の抗菌性カテーテルロック溶液。
【請求項10】
前記カテーテルロック溶液が賦形剤を含まない、請求項1に記載の抗菌性カテーテルロック溶液。
【請求項11】
前記カテーテルロック溶液が、パラベン、アルコール、グリセロール、ポリエチレングリコール、クエン酸、および/またはポリソルベートを含まない、請求項1に記載の抗菌性カテーテルロック溶液。
【請求項12】
クエン酸塩を注射用水(WFI)に溶解し、任意選択的に、前記カテーテルロック溶液のpHが約6.4~約7.5になるまで酸を添加することからなる、請求項1に記載の抗菌性カテーテルロック溶液の製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載の抗菌性カテーテルロック溶液を収容するシリンジを備えるプレフィルドシリンジ。
【請求項14】
その中を貫通する管腔を画定するチューブを備えるカテーテルであって、前記管腔の少なくとも一部分に請求項1に記載の抗菌性カテーテルロック溶液が注入される、カテーテル。
【請求項15】
カテーテル内の凝固および細菌活性を阻害する方法であって、
その中を貫通する管腔を画定するチューブを備えるカテーテルを提供することと、
請求項1に記載の抗菌性カテーテルロック溶液を前記カテーテルの前記管腔の少なくとも一部分に注入することと、を含む方法。
【請求項16】
約15.5% w/v~約16.5% w/vのクエン酸三ナトリウムと、
注射用水(WFI)と、
約0.0% v/v~約0.7% v/vの10% HClと、
からなる抗菌性カテーテルロック溶液であって、
前記カテーテルロック溶液が約6.4~約7.5のpHを有する、抗菌性カテーテルロック溶液。
【請求項17】
約16% w/vのクエン酸三ナトリウムと、
注射用水(WFI)と、
約0.7% v/vの10% HClと、
からなる抗菌性カテーテルロック溶液であって、
前記カテーテルロック溶液が約7のpHを有する、抗菌性カテーテルロック溶液。
【請求項18】
前記10% HClが0.11% v/vの量で含まれる、請求項17に記載の抗菌性カテーテルロック溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年7月19日に出願された「16% Sodium Citrate Solution for Use as an Antimicrobial Catheter Lock Solution」と題する米国仮出願第63/223,191号の優先権を主張し、その全開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、血液および凝血塊を実質的に含まない状態でのカテーテルの維持に関する。より詳細には、本発明は、逆流を防止し、カテーテル管腔の開存性を維持するためのクエン酸塩溶液の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
カテーテル、特に静脈内(IV)カテーテルは、薬剤などの流体を患者に注入するため、または血液などの流体を患者から引き出すために使用され得る。カテーテルは、患者の体内に注射されるまたは患者の体内から除去される流体または薬剤を収容する管腔またはリザーバを含むことができる。特定の構成では、注射ポートにカテーテルを設けることができる。
【0004】
カテーテルに関連する合併症としては、血栓症、感染症および凝血が挙げられる。カテーテルの閉塞は、管腔内またはカテーテルの先端でのフィブリンシースの形成に関連する血栓性合併症のためにしばしば起こる。フィブリンシースの形成は、カテーテル管腔の内部への細菌の付着を可能にし、カテーテル関連感染の部位となるおそれがある。
【0005】
凝血および血栓形成に関連する問題を低減するために、連続使用の間に血管内アクセスカテーテルを「ロック」することが一般的である。ロックは、典型的には、最初にカテーテルを生理食塩水で洗浄して、カテーテル管腔から血液および他の物質を除去することを含む。カテーテルを洗い流した後、生理食塩水を置換して管腔を満たすために、抗凝固剤溶液、典型的にはヘパリンを注入する。ヘパリンロック溶液は、血液が管腔に入るのを防ぎ、管腔内の凝血および血栓形成を能動的に阻害する。
【0006】
ヘパリンロック溶液は、各使用の直後にカテーテル管腔に注入され、カテーテルが再び利用されるまでカテーテル内に残される。ヘパリンが患者の体内に導入されないように、次の使用の前にヘパリンロック溶液をカテーテルから抜き取らなければならない。いくつかの例では、ヘパリンロック溶液は、カテーテル管腔当たり最大10000単位のヘパリンを含む。この量のヘパリンを患者に注入すると、過剰な出血をもたらすおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のヘパリンロック溶液を使用しても、カテーテル内の血液の凝固により、使用間でカテーテルが閉塞される可能性がある。不十分な量のヘパリンがカテーテル管腔内に注入されたため、ヘパリンロック溶液が管腔から拡散されるか、または残留血液が管腔内に残っているため、カテーテル内に血液が存在する可能性がある。これは、付随する開存性の喪失およびカテーテル管腔を通る流れの減少を伴う血栓の形成をもたらし得る。
【0008】
カテーテルの使用の間に追加の適用を必要とせずに、持続性の作用および安全性の向上を提供することができるカテーテルロック溶液が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本明細書では、クエン酸塩を含むカテーテルロック溶液が提供される。複数の態様では、クエン酸塩はクエン酸ナトリウム塩である。さらなる態様では、クエン酸塩はクエン酸三ナトリウムである。
【0010】
複数の態様では、カテーテルロック溶液は酸をさらに含む。複数の態様では、酸は希釈された酸である。いくつかの態様では、希釈された酸は、希塩酸(HCl)である。
【0011】
複数の態様では、カテーテルロック溶液は、クエン酸塩を約15.5%~16.5% w/vの量で含む。
【0012】
複数の態様では、ロック溶液は、約0%~約0.7% v/vの量の酸を含む。
【0013】
特定の態様では、カテーテルロック溶液は、16% w/vのクエン酸三ナトリウム、注射用水(WFI)、およびロック溶液のpHを約6.4~約7.5に維持するのに十分な量の10% HClを含む。
【0014】
特定の態様では、カテーテルロック溶液は、抗凝固剤または抗菌活性を有する任意の追加の成分を含まない。
【0015】
カテーテルロック溶液を作製する方法も本明細書で提供される。この方法は、クエン酸塩、好ましくはクエン酸三ナトリウムをWFIに溶解する工程と、カテーテルロック溶液のpHが約6.4~約7.5になるまで、希釈された酸、好ましくは10% HClを添加する工程とを含む。
【0016】
クエン酸三ナトリウム、注射用水(WFI)および10% HClのみを含むカテーテルロック溶液も本明細書で提供される。
【0017】
複数の態様では、カテーテルロック溶液は、約15.5%~約16.5% w/vのクエン酸三ナトリウム、WFI、およびロック溶液のpHを約6.4~約7.5に維持するのに十分な量の10% HClのみを含む。
【0018】
カテーテルロック溶液を作製する方法も本明細書で提供される。この方法は、クエン酸三ナトリウムをWFIに溶解するステップと、カテーテルロック溶液のpHが約6.4~約7.5になるまで10% HClを添加する工程のみを含む。
【0019】
約16% w/vのクエン酸三ナトリウム、注射用水(WFI)、およびロック溶液のpHを約7に維持するのに十分な量の10% HClのみを含むカテーテルロック溶液も本明細書で提供される。
【0020】
本明細書に記載のカテーテルロック溶液を収容するシリンジを含むプレフィルドシリンジも本明細書で提供される。
【0021】
本明細書では、その中を貫通する管腔を画定するチューブを含むカテーテルも提供され、管腔の少なくとも一部分には、本明細書に記載のカテーテルロック溶液が注入される。
【0022】
カテーテル内の凝固および細菌活性を阻害する方法であって、その中を貫通する管腔を画定するチューブを含むカテーテルを提供する工程と、本明細書に記載のカテーテルロック溶液を管腔の少なくとも一部分に注入する工程とを含む方法も本明細書で提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本明細書に記載のロック溶液の一態様によるカテーテルロック溶液を含むプレフィルドシリンジの長手方向断面である。
【0024】
図2A】多数の微生物株に対するクエン酸ナトリウムの最小発育阻止濃度(MIC)を示す表である。
図2B】多数の微生物株に対するクエン酸ナトリウムの最小発育阻止濃度(MIC)を示す表である。
【0025】
図3】様々な濃度のクエン酸ナトリウムに曝露されたグラム陽性黄色ブドウ球菌の増殖阻害時間枠を示す表である。
【0026】
図4】様々な濃度のクエン酸ナトリウムに曝露されたグラム陰性緑膿菌の増殖阻害時間枠を示す表である。
【0027】
図5】様々な濃度のクエン酸ナトリウムに曝露した真菌カンジダ・アルビカンスの増殖阻害時間枠を示す表である。
【0028】
図6】様々な時点にわたる凝固に対する4%クエン酸ナトリウムの効果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下の説明は、当業者が本発明を実施するために企図される記載された態様を作成および使用することを可能にするために提供される。しかしながら、様々な修正形態、均等物、変形形態、および代替形態は、当業者には容易に明らかであろう。そのような修正形態、変形形態、均等物、および代替形態のいずれかおよびすべては、本発明の精神および範囲内に入ることが意図されている。
【0030】
本明細書において、クエン酸塩、溶媒および希釈された酸を含むカテーテルロック溶液が提供される。本明細書に記載のロック溶液は、カテーテルの開存性を提供し、抗凝固および抗生物質活性を示す。理論に拘束されることを望むものではないが、クエン酸塩は、血液中のカルシウム(Ca2+)をキレートすることによって抗凝固剤として作用すると考えられる。そのような金属イオンは、様々な凝固カスケードの適切な機能のために必要であり、例えばCa2+、凝固第V因子血小板、第VII因子血小板、第IX因子~第IXa因子および/または第XI因子~第XIa因子の場合に必要である。カルシウム(Ca2+)をキレートすることにより、カスケードが遮断され、凝固が阻害される。抗菌活性に関して、また理論に束縛されることを望まないが、クエン酸塩は、細菌および真菌の増殖および生存に必要な特定の酵素の機能に必要なCa2+、マグネシウム(Mg2+)、亜鉛(Zn2+)および/または銅(Cu2+)をキレートすると考えられる。クエン酸塩などのキレート剤は、様々な程度で上述の元素のプールに結合する。
【0031】
本明細書に記載のロック溶液およびプレフィルドシリンジはまた、埋め込まれたカテーテルへのシリンジ誘発性の血液の逆流を最小限に抑える。本明細書に記載のロック溶液は、ヘパリン誘発性血小板減少症、全身性出血合併症、およびアッセイ干渉などのヘパリンの使用に関連する有害事象を回避することができるという点で、典型的なヘパリン系ロックに勝る顕著な利点を提供する。さらに、クエン酸塩に基づくロックは、ヘパリン系溶液に勝る著しい費用および時間の節約を提供する。本明細書に記載のロック溶液は、製造時から少なくとも2年などの安定した貯蔵寿命に関する利点も提供する。さらに、プレフィルドシリンジの使用は、時間を節約し、製品およびその送達の無菌性、したがって安全性を改善し、手動充填中に起こり得る汚染の可能性を排除する。
【0032】
本明細書で使用される場合、「ロック溶液」または「ロッキング溶液」という用語は、典型的には追加の処理または保全のために、溶液の相当部分が管腔にアクセスまたは再アクセスすることが所望または要求されるまで管腔内に残存させる意図を有して、カテーテルの管腔に注射または他の方法で注入される溶液を指す。追加の処理は、例えば、カテーテルの管腔への流体の注入またはカテーテルの管腔からの流体の抜き取りを含み得る。ロック溶液をカテーテル内に配置して短期または長期の保護を提供することができる。好ましくは、ロック溶液は、約1週間まで、複数の態様では約1ヶ月まで継続する所望の期間、管腔に留まることができる。しかしながら、ロック溶液は、カテーテルの通常の手入れまたは滅菌維持中など、毎日変更されてもよい。ロック溶液をカテーテル管腔から吸引し、カテーテル内の新しいカテーテルロック溶液でカテーテルを所望の期間ロックすることによって、カテーテルを交換または再生することができる。本明細書に記載のロック溶液の使用は、カテーテルの寿命を延長し、ロック溶液の必要な交換の間隔を長期化し、および/または患者の感染を防止することができる。
【0033】
本明細書で使用される場合、「カテーテル」という用語は、身体の一部に挿入されるか、または身体もしくは他の生物学的培養物と連通して提供されて流体を送達するか、またはそこから流体を除去することができる管腔を画定するチューブを指す。複数の態様では、本明細書に記載のカテーテルロック溶液は、ソフトカテーテルまたはハードカテーテルなどのカテーテルにおいて抗凝固活性(凝固を阻害する)および抗菌活性を提供するために使用され得る。
【0034】
本明細書中で使用される場合、「抗凝固活性」という用語は、血液凝固の阻害または防止のことを指す。
【0035】
本明細書で使用される場合、「抗菌活性」という用語は、好気性および嫌気性グラム陽性およびグラム陰性細菌、波動性細菌、スピロヘータ、芽胞、芽胞形成微生物、酵母、真菌、カビ、ウイルス、好気性生物、嫌気性生物、およびマイコバクテリアなどの望ましくない微生物の増殖、成長、または繁殖の破壊、阻害、または防止を指す。限定するものではないが、本明細書に記載のカテーテルロック溶液は、グラム陽性菌、例えば黄色ブドウ球菌 ATCC 33591、表皮ブドウ球菌 ATCC 12228、およびエンテロコッカス・フェカリス ATCC 29212、グラム陰性菌、例えば緑膿菌 ATCC 27853、大腸菌 ATCC 25922、および肺炎桿菌 ATCC 13883、ならびに真菌、例えばカンジダ・アルビカンス ATCC 10231、およびカンジダ・アウリス AR#00383に対して、最大24時間またはそれ以上の抗菌活性を有することができる。
【0036】
本明細書に記載のカテーテルロック溶液は、身体の特定の部分に配置されたカテーテルの細菌活性および凝固を阻害して、例えば、尿路カテーテル法のように膀胱からの尿の排出、流体蓄積の排出、静脈内流体、薬剤、または出生前栄養の投与、血管形成術、血管造影法、バルーン中隔切開術、および動脈または静脈内の血圧の直接測定を可能にするために使用することができる。本明細書に記載のカテーテルロック溶液は、任意のカテーテルの細菌活性および凝固を阻害するために使用することができるが、カテーテルロック溶液は、例えば、静脈内に埋め込まれた別個の吸引カテーテルおよび戻りカテーテルに依存して血液の体外治療を可能にする血液透析および血液ろ過のために使用されるカテーテルの細菌活性および凝固を阻害するために使用することができ、または腹膜内に埋め込まれて透析液の導入および回収を可能にする単一のカテーテルに依存して、in situ透析を可能にする腹膜透析のために使用されてもよい。
【0037】
カテーテルの管腔内の凝固を防止することにより、本明細書に記載のクエン酸塩ロック溶液は、カテーテル内の開存性を維持する。本明細書で使用される場合、「開存性」という用語は、カテーテルの開口していること、すなわち、例えばカテーテルの管腔内の凝血塊またはフィブリンシースによって、カテーテルが閉塞されていないことを指す。
【0038】
ロック溶液は、上述したように、クエン酸塩を含む。本明細書で使用される場合、「クエン酸塩」という用語は、クエン酸の塩を指す。クエン酸は、式Cを有するトリカルボン酸であり、弱酸と考えられる。本明細書に記載のロック溶液において使用するのに適したクエン酸塩の例は、ナトリウム塩およびカリウム塩である。複数の態様では、クエン酸塩は、クエン酸一ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、またはクエン酸三ナトリウムである。特定の態様では、クエン酸塩はクエン酸三ナトリウムである。いくつかの態様では、クエン酸三ナトリウムは、溶媒に溶解することができるクエン酸三ナトリウムの粉末形態であるクエン酸三ナトリウム二水和物である。
【0039】
上述のように、クエン酸三ナトリウムは、血液中のCa2+イオンなどの金属イオンをキレートして凝固カスケードを中断させることにより、抗凝固剤として機能すると考えられている。ロック溶液として、クエン酸三ナトリウムは、カテーテル開存性を維持するために2つの方法で作用する。第1に、ロック溶液の物理的存在は、患者からカテーテル管腔への血液の逆流を防止し、管腔の凝血または閉塞のリスクを低減する。第2に、血液がカテーテル管腔に逆流する程度まで、凝固カスケードを中断させることによって、クエン酸三ナトリウムは、カテーテル管腔内およびカテーテル先端での凝血を防止する。
【0040】
ロック溶液は、クエン酸塩が溶解した溶媒を含む。溶媒は、任意の生体適合性溶媒であり得る。複数の態様では、溶媒は注射用水(WFI)である。複数の態様では、クエン酸塩は、約15.5%~約16.5%の体積当たり重量(w/v)(その間のすべての部分範囲および値を含む)の体積当たり質量濃度で溶媒に含まれる。本明細書で使用される場合、「約(about)」という用語は、値の±10%の差のことをいう。複数の態様では、ロック溶液は、約16%の体積当たり質量(w/v)のクエン酸三ナトリウム二水和物をWFI中に溶解することによって作成される。非限定的な実施形態または態様では、ロック溶液は、約16.5%以下のクエン酸三ナトリウムおよび約15.5%以上のクエン酸三ナトリウムを含む。
【0041】
クエン酸塩の低濃度(例えば、4% w/v)のロック溶液、ならびに高濃度(例えば、30% w/vおよび46.7% w/v)のロック溶液が知られている。約16% w/vのクエン酸塩を含むロック溶液は、強力な抗菌効果の利益を有する一方で、全体的な抗凝固を引き起こし得る低カルシウム血症などのはるかに高濃度のクエン酸塩に関連する潜在的な有害事象を低減および/または排除する。さらに、本明細書に記載のクエン酸塩の濃度は、抗菌特性を有さないヘパリンを使用する必要性を軽減および/または排除することができ、その使用はヘパリン誘発性血小板減少症および全身ヘパリン化/全身性抗凝固をもたらし得る。
【0042】
ロック溶液はまた、溶液のpHを調整するため希釈された酸を含んでもよい。希釈された酸は、任意の生体適合性有機酸または無機酸であってよい。複数の態様では、希釈された酸は10%塩酸(HCl)である。複数の態様では、ロック溶液は、約0~約0.7% v/vの希釈された酸を含み、それらの間のすべての部分範囲および値を含む。複数の態様では、ロック溶液は、約0%~約0.7% v/vの量の10%HClを含む。複数の態様では、ロック溶液は、態様HClにおいて、約0.11% v/vの酸を含む。非限定的な実施形態または態様において、ロック溶液は、ロック溶液のpHを約6.4~約7.5の範囲に維持するのに十分な量の酸、任意選択的に希釈された酸、任意選択的に10% HClを含む。当業者は、約6.4~約7.5のロック溶液の好ましいpHを達成するように希釈された酸の量を調整できることを理解するであろう。
【0043】
本明細書に記載のロック溶液の特定の態様では、溶液は、WFI中に約15.5%~約16.5% w/vのクエン酸三ナトリウムを含み、ロック溶液は、約6.4~約7.5、いくつかの態様では、約6.54~約7.25のpHを有し、それらの間のすべての部分範囲を含む。いくつかの態様では、プレフィルドシリンジの調製中にシリンジに送達されるときのロック溶液のpHは、約6.57~約7.16であり、それらの間のすべての部分範囲を含む。いくつかの態様では、プレフィルドシリンジの調製中にシリンジに送達されるときのロック溶液のpHは、約6.87である。
【0044】
複数の態様では、約0~約0.7% v/vの10% HCl、任意選択的に0.11% v/vがロック溶液に含まれる。いくつかの態様では、ロック溶液は、WFI中の約16% w/vのクエン酸三ナトリウム二水和物、および約6.9のpHを有するロック溶液を提供するために十分に希釈された(例えば、10%)HClを含む。いくつかの態様では、ロック溶液は、WFI中の約16% w/vのクエン酸三ナトリウムおよびpH 7のロック溶液を提供するために0.11% v/vの希釈された(例えば、10%)HClを含む。さらなる態様では、ロック溶液は、クエン酸三ナトリウム、WFI、および任意選択的に、必要なpHを提供するためHClを含み、追加の抗凝固剤または抗菌添加剤を含まない。複数の態様では、カテーテルロック溶液は賦形剤を含まない。いくつかの態様では、カテーテルロック溶液は、アルコール、グリセロール、ポリエチレングリコール、クエン酸、および/またはポリソルベートを含まない。複数の態様では、カテーテルロック溶液は、クエン酸塩、WFI、および任意選択的にHCl以外の任意の成分を含まない。
【0045】
また、本明細書では、上述のロック溶液を収容する注入装置も提供される。複数の態様では、注入装置は、上述のロック溶液を含むプレフィルドシリンジである。複数の態様では、プレフィルドシリンジは、遠位端、近位端、およびそれらの間にリザーバを画定するバレルを含む。プレフィルドシリンジは、近位端にあるプランジャと、カテーテル、他の無針コネクタ、Y部位などに接続するように構成された遠位端にあるコネクタとを含む。複数の態様では、プレフィルドシリンジの遠位端のコネクタは、雄型または雌型ルアーコネクタである。図1を参照すると、上述のように、カテーテルロック溶液20を収容するプレフィルドシリンジ10が示されている。プレフィルドシリンジ10は、バレル12と、プランジャロッド14と、ストッパ16と、ルアー連結部18とを含む。いくつかの態様では、プレフィルドシリンジ10はポリプロピレンで形成される。特定の態様では、バレル12、プランジャロッド14、および先端キャップ(図示せず)のうちの1つまたは複数は、ポリプロピレンで形成される。複数の態様では、プレフィルドシリンジ10のストッパ16はエラストマーストッパである。
【0046】
複数の態様では、プレフィルドシリンジ10は、本明細書に記載のロック溶液での洗浄の終了時にカテーテル内への血液の逆流の事例を低減または防止するように設計または構成される。複数の態様では、プレフィルドシリンジ10は、プランジャロッド14が典型的なプランジャロッドよりも短く、ロック溶液20の注入後のストッパ16の圧縮が実質的にまたは完全に防止されるように構成される。他の態様では、ストッパ16は、ストッパのノーズがルアー18に隣接するバレルの遠位端と接触し、開口部を閉鎖し、真空、したがってカテーテル内への血液の逆流を防止するように設計または構成される。
【0047】
本明細書では、上述のロック溶液をカテーテル管腔に注入する工程を含むカテーテルをロックする方法も提供される。複数の態様では、方法は、ロック溶液を注入する前にカテーテル管腔を洗浄する工程をさらに含む。
【0048】
複数の態様では、方法は、内部表面および外部表面を有するカテーテルを提供する工程と、内部表面の少なくとも一部分にカテーテルロック溶液を注入する工程とを含む。好ましくは、ロック溶液は、内部表面が実質的に充填されるように内部表面に注入される。本明細書に記載のカテーテルロック溶液で充填することができるカテーテルの内部表面の非限定的な例には、管腔、関連する管、プランジャ、キャップ、および拡張セットが含まれる。本明細書に記載のカテーテルロック溶液で被覆または充填することができる他の装置には、血管アクセス装置の内部管腔、ならびに無針アクセス装置の内部管腔が含まれる。ロック溶液は、例えば、限定されないが、本明細書に記載のプレフィルドシリンジを使用して、浸漬、噴霧、または注入など、当業者に周知の任意の従来の方法によって注入することができる。
【0049】
上述のロック溶液がカテーテルの内部表面に注入されると、カテーテルの内部容積/空間、ならびに任意の取り付けられたアクセス装置の任意の隣接する表面または管腔を充填または実質的に充填するのに十分な量のロック溶液を注入することができる。あるいは、カテーテルを充填するのに必要な流体の量よりも少ない容積を内部表面に注入することができる。例えば、十分な量のロック溶液をカテーテルに注入して、例えば、それらの間のすべての部分範囲およびパーセンテージを含む、カテーテルの内部容積の80%~250%を充填することができる。さらに別の態様では、カテーテルの内部容積よりも大きい量を注入することができる。例えば、カテーテルの内部容積よりも大きい量のロック溶液を管腔に注入することができる。ヘパリン系ロック溶液とは異なり、このオーバーフローは、患者の凝血系に悪影響を及ぼすことなく利用することができる。ロック溶液は、それらの間のすべての部分範囲および値を含む、1~1000回にわたりカテーテル内に注入または洗浄されてもよい。
【0050】
上述のカテーテルのロック方法は、ロック溶液が注入または導入されるカテーテルの管腔への患者からの血液の逆流を防止するのに有効である。さらに、ロック溶液は、凝血塊形成の発生を低減または防止し、カテーテル開存性を維持する。
【0051】
本明細書では、上述のカテーテルロック溶液を作製する方法も提供される。カテーテルロック溶液は、抗凝固および抗菌活性を提供するために、上記の成分を室温で簡単に混合して調製することができる。他の態様では、溶液をバルクで調製し、シリンジに充填して、分配および必要になるまで保存することができるプレフィルドシリンジを調製する。
【0052】
また、本明細書では、患者内に挿入する前に上述のカテーテルロック溶液で予め充填される管腔を画定するチューブを含むカテーテルが提供される。
【実施例
【0053】
実施例1
様々な微生物の試料に対してクエン酸ナトリウムを用いて、それらの微生物に対するクエン酸ナトリウム(pH6.4~7.5)の最小発育阻止濃度(MIC)を決定するためインビトロ試験を実施した。本明細書で使用される場合、「MIC」は、細菌の増殖を目に見えて阻害する最低濃度のクエン酸ナトリウム(% w/v)を意味する。「Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically」、第11版、Clinical and Laboratory Standards Institute(2018)、「Methods for Determining Bactericidal Activity of Antimicrobial Agents’ Approved Guideline」、第12巻、第9号、Clinical and Laboratory Standards Institute(1999)、および「Development of In Vitro Susceptibility Testing Criteria and Quality Control Parameters;Approved Guideline-Second Edition」、第21巻、第7号、Clinical and Laboratory Standards Institute(2001)に記載されているように試験を行った。
【0054】
MICの測定のために、クエン酸ナトリウムを再構成し、脱イオン水中で様々な作業用ストック濃度(8%、10%、12%、14%、16%、20%、24%、および28%)に希釈し、丸底96ウェル微量希釈プレートに移した。グラム陽性菌、グラム陰性菌および酵母の3つの株はそれぞれ、American Tissue Type Collection(ATCC)またはCenters for Disease Control Antibiotic Resistant(CDC AR)Isolate Bankから入手された。培養物をトリプチケースソイ寒天培地(TSA、細菌用)またはサブローデキストロース寒天培地(SDA、酵母用)上で増殖させ、クエン酸ナトリウムへの曝露中に約5×10 CFU/mLの最終細胞密度までミューラーヒントン寒天培地に懸濁した。35±2℃で24±2時間(細菌)または44±4時間(酵母)インキュベートした後、微量希釈プレートを増殖の存在または阻害について目視で検査した。試験を複製し、結果を図2Aおよび図2Bに示す。
【0055】
理解されるように、MICが示されており、したがって、例えば4%クエン酸ナトリウムが所与の微生物に対するMICである場合、16%が少なくとも同程度に有効であるため、より高い濃度の試験は不要であると考えられた。評価した各細菌について3つ(3)の反復実験を行い、真菌について2つ(2)の異なる増殖培地を使用して、評価した各真菌について4つ(4)の反復実験を行った。反復回数は、前述の微生物についてクエン酸ナトリウム水溶液のMICを同定する際の信頼性を確実にする。図2Aおよび図2Bに示すように、16% w/vのクエン酸ナトリウムは、グラム陰性菌およびグラム陽性菌ならびに酵母の急増および増殖を防ぐ。
【0056】
実施例2
黄色ブドウ球菌(グラム陽性菌)(図3)、緑膿菌(グラム陰性菌)(図4)、および酵母、C.アルビカンス(図5)に対して様々な濃度のクエン酸ナトリウムを用いてインビトロ試験を行った。「Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically」、第11版、Clinical and Laboratory Standards Institute(2018)、「Methods for Determining Bactericidal Activity of Antimicrobial Agents’ Approved Guideline」、第12巻、第9号、Clinical and Laboratory Standards Institute(1999)、および「Development of In Vitro Susceptibility Testing Criteria and Quality Control Parameters;Approved Guideline-Second Edition」、第21巻、第7号、Clinical and Laboratory Standards Institute(2001)に記載されているように試験を行った。簡潔には、クエン酸三ナトリウム塩を精製水を使用して配合し、必要に応じて塩酸でpHを調整して、6.4~7.5のpHを有する組成物を得た。図3に関して、データは、24時間にわたり、6%(w/v)、8%(w/v)および10%(w/v)のクエン酸ナトリウムの濃度で、黄色ブドウ球菌が増殖せず、実際に細菌数の減少が見られることを示す。したがって、16%(w/v)のクエン酸三ナトリウム/クエン酸ナトリウムは、黄色ブドウ球菌および類似のグラム陽性菌の増殖を最大24時間防止すると予想される。データは、細菌がクエン酸ナトリウム水溶液に曝される時間が長くなるほど、細菌数が減少する可能性があることを示唆している。これにより、24時間を超えて増殖阻害およびおそらくは根絶が起こり得ると予想される。
【0057】
図4に関して、データは、24時間にわたり、10%(w/v)、12%(w/v)および14%(w/v)のクエン酸ナトリウムの濃度で、緑膿菌は増殖せず、実際に細菌数の減少が見られることを示す。したがって、16%(w/v)のクエン酸三ナトリウム/クエン酸ナトリウムは、緑膿菌および類似のグラム陰性菌の増殖を最大の24時間防止すると予想される。データは、細菌がクエン酸ナトリウム水溶液に曝される時間が長くなるほど、細菌数が減少する可能性があることを示唆している。これにより、24時間を超えて増殖阻害およびおそらくは根絶が起こり得ると予想される。
【0058】
図5に関して、データは、2%(w/v)、4%(w/v)および6%(w/v)のクエン酸ナトリウムの濃度で、24時間にわたってC.アルビカンスが増殖しないことを示す。したがって、16%(w/v)のクエン酸三ナトリウム/クエン酸ナトリウムは、C.アルビカンスおよび類似の酵母の増殖を最大24時間防止すると予想される。
【0059】
実施例3
4%のクエン酸ナトリウムロック溶液の抗凝固効果を、2年間にわたってヒト全血液を使用して活性化凝固時間(ACT)としてインビトロで測定した。全血液に対する4%のクエン酸ナトリウムロック溶液の抗凝固有効性を、止血中に血液試料で生じる機械的変化を監視することにより、凝血塊形成の開始を計算することができる、Sonoclot(登録商標)Coagulation&Platelet Function Analyzer(Sienco Inc.,Boulder CO)を使用して判定した。機構は、血液試料内を上下に移動する管状プローブである。試料が様々な凝血段階を進むにつれて、電子回路(トランスデューサ)が抵抗の増加を検出する。これにより、マイクロコンピュータによって処理される一連の電子信号が生成される。出力は、血液が最初に導入されたときよりも粘性である凝血塊形成の総時間である。
【0060】
図6に示されるデータは、凝血塊形成に必要な時間が対照(溶液および生理食塩水なし)と比較してより長いので、4%(w/v)のクエン酸ナトリウム三ナトリウムが抗凝固効果を有することを実証している。したがって、16%(w/v)のクエン酸ナトリウム三ナトリウムでは、カルシウムをキレートし、それによって凝固カスケードを延長するために利用可能なクエン酸塩の濃度および量がより高いため、より大きな効果が予想される。
【0061】
本発明を上記の詳細な説明に関して説明してきたが、当業者は、本発明の精神の範囲内で変更を行うことができることを理解するであろう。したがって、上記は限定と見なされるべきではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって定義される。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】