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特表2024-526892真空リークディテクタの測定信号の評価
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】真空リークディテクタの測定信号の評価
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/00 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
G01R31/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503577
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(85)【翻訳文提出日】2024-03-08
(86)【国際出願番号】 EP2022069491
(87)【国際公開番号】W WO2023006413
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】102021119302.8
(32)【優先日】2021-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500469855
【氏名又は名称】インフィコン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Inficon GmbH
【住所又は居所原語表記】Bonner Strasse 498, D-50968 Koeln, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100225026
【弁理士】
【氏名又は名称】古後 亜紀
(74)【代理人】
【識別番号】100230248
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 圭二
(72)【発明者】
【氏名】デッカー・シルヴィオ
【テーマコード(参考)】
2G036
【Fターム(参考)】
2G036AA23
2G036BA05
2G036BA46
(57)【要約】
【課題】真空リークディテクタの測定信号を評価する方法を提供する。
【解決手段】
【数1】
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
【数1】
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記差分が閾値を上回った場合に、前記被試験体にリークがあることが検知されたと判断することを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、前記差分が0以上閾値以下である場合に、前記被試験体が密であると判断することを特徴とする、方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法において、前記差分が0未満である場合に、例えばシステム時定数が正確でない等の誤差があると判断することを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか一項に記載の方法において、前記閾値が、前記測定信号のバックグラウンド信号の値のr倍であるとし、rが、0を超える有理数、好ましくは5以上及び/又は10以下の有理数であることを特徴とする、方法。
【請求項6】
【数2】
【請求項7】
【数3】
【請求項8】
【数4】
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法において、前記第2の定数C2が、オイラー数eのn乗根を含み、好ましくはeのn乗根の逆数を含むことを特徴とする、方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法において、前記第2の定数C2が係数Fで乗算され、Fが、1未満の有理数であり、好ましくは0.9~0.999であることを特徴とする、方法。
【請求項11】
【数5】
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法において、前記システム時定数τがテストリークを用いて決定され、前記テストリークが、前記真空リークディテクタの内蔵のテストリークまたは前記試験チャンバ(12)と接続されることが可能な外部のテストリークであり得ることを特徴とする、方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の方法において、前記真空リークディテクタの真空時定数が、前記システム時定数τとして、前記試験チャンバ(12)および前記試験チャンバ(12)を前記ガス検出器(14)と接続する配管ラインの容積、ならびに前記真空ポンプ(16)の吸込容量から算出されることを特徴とする、方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法において、前記システム時定数τが、テストリークの電源をオフにした、停止させた又は前記真空リークディテクタから取り外した時間から、前記測定信号が所定値に減衰するまでの経過時間から決定されるか、あるいは、テストリークの電源をオンにした、起動させた又は前記真空リークディテクタに追加した時間から、前記測定信号が所定値に上昇するまでの経過時間から決定されることを特徴とする、方法。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の方法において、前記所定の時間は、前記測定信号が前記テストリークの測定信号の定常時の1/e倍に該当する時間に相当することを特徴とする、方法。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の方法を実行する真空リークディテクタであって、
真空ポンプ(16)と、
前記真空ポンプ(16)と接続された試験チャンバ(12)と、
前記試験チャンバ(12)と接続されたガス検出器(14)と、
を備える、真空リークディテクタにおいて、さらに、
前記ガス検出器(14)の測定信号を評価する評価部(22)であって、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成された、評価部(22)、
を備えることを特徴とする、真空リークディテクタ。
【請求項17】
請求項16に記載の真空リークディテクタにおいて、前記評価部(22)は、処理手順が記憶されたメモリを含むことを特徴とする、真空リークディテクタ。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載の真空リークディテクタにおいて、前記評価部(22)が、前記方法を自動的に実行するように構成されたマイクロコントローラを含むことを特徴とする、真空リークディテクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空リークディテクタの測定信号を評価する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空リークディテクタは、被試験体のリークを検知するのに用いられる。この目的のために、真空リークディテクタは、被試験体を入れる試験チャンバ、該試験チャンバに接続されて該試験チャンバの真空排気を行う真空ポンプ、および該試験チャンバに接続されて該試験チャンバから引き込んだガスを分析するように構成されているガス検出器を備える。具体的に述べると、ガス検出器は、被試験体内部に存在した試験ガスが、被試験体のリークから試験チャンバに入り、試験チャンバからガス検出器へと供給されたものを、検出するように構成されている。
【0003】
使用する試験ガス(大抵の場合、ヘリウム)に対する真空リークディテクタの吸込容量は、使用する真空ポンプ、ならびに試験チャンバへの接続部の断面積および長さ(すなわち、試験チャンバとガス検出器との間のガス導通路の体積)で決まる。試験ガスのこの実効吸込容量により、被試験体の容積に対する真空リークディテクタのシステム時定数が決まる。システム時定数とは、ガスセンサがガス成分に反応することによる測定信号のシステム関連上昇の時間、あるいは、ガスセンサにガス成分が存在しなくなることによる測定信号のシステム関連降下の時間のことである。このとき、ガスセンサでのガス成分とは、典型的に、リークから漏出してリーク検知の検出対象となる試験ガスの成分である。一般的に言って、システム時定数は、試験ガスをリークに吹き付けるか又はリークを開いた際、あるいは、リークへの吹付けを止めるか又はリークを閉じた際の、測定信号が1/eの割合まで降下するまでの経過時間、あるいは、測定信号が(1-1/e)の割合に上昇するまでの経過時間であると見なされる。単純的には、真空リークディテクタの真空時定数(被試験体又は試験チャンバの容積を真空リークディテクタの実効吸込容量で割ったもの)がシステム時定数と見なされる場合もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸込容量は、ポンプの大型化または容積もしくは断面積の増加により向上させることができ、これにより、能力/性能および応答時間が向上する。しかしながら、ポンプの容積、断面積および寸法は、自由に増やすことができない。しかも、容積を大きくすると、リーク信号の振幅が低下し、リーク検知がより困難になる。
【0005】
本発明の目的の一つは、応答時間を短くし、信号評価を向上させることのできる方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る方法は、請求項1の構成によって定まる。本発明にかかる装置は、請求項16の構成によって定まる。
【0007】
本発明の方法では、まず、真空リークディテクタのシステム時定数τが決定される。システム時定数τは、ガス検出器でのガスの状態変化に関するシステムの応答時間を表す。つまり、システム時定数τは、被試験体のリークからのガス成分の漏出を検知したことによる測定信号のシステム関連上昇の時間、および/または、ガスのリークからのガス成分が検出されなくなったことによる前記測定信号のシステム関連降下の時間に相当する。最も簡単な場合において、システム時定数τは、例えば、前記測定信号が最初の信号の1/e(式中、eはオイラー数である。)の割合まで減衰するまでの経過時間に相当する。
【0008】
前記システム時定数の決定後は、被試験体を試験チャンバ内に入れて、該試験チャンバを真空ポンプで真空排気することにより、実際のリーク検知が行われる。試験チャンバから引き込まれたガスの、現時間tの測定信号I(t)が、ガス検出器によって生成される。現時間tは、例えば、新たな測定又は新たな一連の測定の始点であり得る。一連の測定では、測定が一定間隔t0で行われ得る。
【0009】
【数1】
【0010】
【数2】
【0011】
【数3】
【0012】
本発明では、このようにして算出された差分、すなわち、例えばI(t+t0)-C2×I(t+t0)等に基づき、被試験体にリークがあるか否かが判断される。例えば、この差分が極めて大きい場合には、それまでに存在していなかった追加のガス成分をガス検出器が検出していることになるため、リークを示唆していると判断され得るのに対し、差分が極めて小さい場合には、検出器での条件が変わっていないこと、すなわち、被試験体が密であることを示唆していることになり得る。この目的のために、前記差分は、例えば閾値等と比較され得る。このように、知識とシステム時定数を利用することで、リークテストやリーク検知を高速化させることが可能となる。
【0013】
好ましくは、前記測定信号予測と時間t+t0で実際に計測された測定信号との差分に、当該差分を実際のリーク量と合うように数値的に調節するための定数C1が乗算される。C1および/またはC2は、実数である。好ましくは、C2が0~1であり、C1が1を超える。
【0014】
【数4】
【0015】
例えば、漏洩しているガスの分圧を計測する(例えば、ヘリウムを漏洩ガスとする)場合のように、漏洩しているガスの存在によって測定信号が上昇する場合には、前記差分が所定の閾値を上回ることで、リークが存在していると判断され得る。この閾値は、0であってもよい。漏洩しているガスの存在によって測定信号が降下する場合には、前記差分が所定の閾値(例えば、0)未満となった場合に、被試験体にリークが存在していると判断され得る。
【0016】
好ましくは、前記差分を閾値と比較する際には、該差分がa)その閾値を上回っているか、かつ/あるいは、b)ゼロからその閾値までの範囲内であるか、かつ/あるいは、c)ゼロ未満(すなわち、負)なのかが確認され得る。a)の場合には、被試験体にリークがあると判断され得る。b)の場合には、被試験体にリークがないと判断され得る。c)の場合には、例えばシステム時定数が正確でない等の誤差が生じていると判断され得る。
【0017】
前記閾値は、例えばシステム時定数経過後の測定信号のバックグラウンドノイズ等のバックグラウンド信号を考慮に入れる役割を果たし得る。バックグラウンド信号は、信号のノイズおよび/またはオフセット信号に起因したものであり得る。オフセット信号は、例えば、リーク検知システムの壁から内的に放出されたガス成分に由来するものであり得る。前記閾値は、例えば、所定の期間で平均化したバックグラウンドノイズ又はバックグラウンド信号の値の5~10倍に設定され得る。
【0018】
差分と閾値との比較時には、前記測定信号の一時的な外れ値を無視するために、該差分を所定の期間で平均化したものを使用するのがさらに有利である。
【0019】
システム時定数τは、テストリーク(例えば、吹付けリーク等)を用いて決定されてもよいし、試験チャンバの容積と真空ポンプの吸込容量から算出されてもよい。
【0020】
システム時定数τは、リークを接続した際又は切り離した際(すなわち、リークを吹き付けた際又はリークの吹付けを終えた際)の、測定信号(すなわち、計測されるリーク量信号)の上昇又は降下の速度から決定される。
【0021】
このとき、システム時定数τは、計測される信号が例えばテストリーク等で生じたか又は計測された測定信号の1/eに降下するまでの経過時間から直接決定され得る。システム時定数τは、計測されるリーク量信号がテストリークの測定信号の(1-1/e)倍に上昇するまでの経過時間から直接決定され得る
【0022】
これに代えて又はこれに加えて、システム時定数τは、式:τ=t/Ln(I(t=0))-In(I(t=t))(式中、I(t=0)は、テストリークの停止時、取外し時又は電源オフ時の測定信号であり、I(t=t)は、テストリーク停止後の任意の時間tでの測定信号である。)によって決定されてもよい。このとき、前記システム時定数は、上記式のI(t=0)を、テストリークの起動前とテストリークの停止時点との測定信号の差分として得られる測定信号とし、I(t=t)を、テストリークを開く前とテストリークの停止から時間t後との測定信号の差分とすることによって決定されてもよい。
【0023】
基本的な思想は、信号を実質的に高速化することである。本システムのシステム時定数は、技術的に測定可能な一定の値であって、適切なテストリークを起動または停止させてリーク検出器で測定することが可能である。時間挙動が判明することで、試験ガスの吹付けが目下行われていない状態の任意の時点で信号がどのように振る舞うことになるのかを予測することができる。この様子は、次の関係式で数学的に記述することが可能である:
【0024】
【数5】
【0025】
【数6】
【0026】
【数7】
【0027】
1)適切な手法(内蔵のテストリーク、外部のテストリーク、吹付けリーク、容積と吸込容量の入力)により、リーク量測定のシステム時定数を求める。
2)任意で、前記システム時定数に合わせてリーク量信号をフィルタリングする。
3)上記の式を用いて、前記信号を高速化する。
4)任意で、所望のシステム時定数(ブースト係数)を試験ガスの吹付け時間に合わせて調節するか、あるいは、システム時定数の設定に合わせて吹付け時間を調節する。
結果:
次式のように信号が変換される:
【0028】
【数8】
【0029】
(式中、I(t)は、時間tでのリーク量信号であり、I(t-τ/n)は、時間t-τ/nでのリーク量信号であり、Fは、リーク量抑制係数(0.9…0.999)であり、nは、ブースト係数(実際の吸込容量に比べた仮想的な吸込容量の大きさ)であり、τは、例えば実効吸込容量及び容積等から得られ得る(システムが事前に計測しておく必要がある)システム時定数である。)
【0030】
結果として、測定信号が高速化する。システムのシステム時定数は、例えば内蔵のテストリーク等を用いて事前に求めておく必要がある。
【0031】
(アプローチおよび基本的な思想)
真空リークディテクタでは、実効吸込容量とチャンバの容積との関係により、システム時定数、すなわち、信号が上昇又は降下し得る最大速度が決まる。物理的に述べると、信号の上昇や降下を高速化することはできず、例えば表面のガス放出や浸透、考慮していない体積空間に対する真空排気等が原因となって低速化するだけである。低速になる影響を全て無視すると、信号の挙動は、単純なe関数で常に記述することができる。
【0032】
上昇する信号の場合には、次のような関数になる:
【0033】
【数9】
【0034】
降下する信号の場合には、次のようになる:
【0035】
【数10】
【0036】
指数関数になるので、信号I(t)を用いて、I(t)に起こり得る最大の変化を(微分で)いつでも求めることができる。起こり得る最大の微分(上昇又は降下)は、前記リーク量信号からいつでも明らかになる。
【0037】
基本的な思想として、前記信号は、該信号内の任意の点であたかも降下中であるかの如く扱う。つまり、物理的に起こり得る最大の変化を、前記信号から常時差し引く。e関数になるので、システム時定数の単位で記述するのが妥当である。
【0038】
【数11】
【0039】
【数12】
【0040】
【数13】
【0041】
指数関数の性質から、上記式は、大幅に簡素化することができる:
【0042】
【数14】
【0043】
これにより、この新たな信号が様々な条件下でどのように振る舞うのかを検証することが可能となる。
【0044】
(上昇する信号の場合)
【数15】
【0045】
つまり、得られる結果は、理想的には、振幅が減少した時間非依存の信号となる。時間非依存性は、時間tの信号と時間t-τの信号がいずれもちょうど信号の立上りエッジにある場合に常時達成される。それよりも前の信号は、指数関数的に上昇している。これは何を意味するのか。ヘリウムの吹付けを行った際に、所定の時間(τ/n)が経つと、目標の振幅に既に到達していることになる。信号は未だ上昇中であるが、フィルタリング後の信号は、既に最終値を出力している。最終値に略到達させるには、通常、2つのシステム時定数が必要になる。n=1の値は、実効システム時定数をいわば半分にする。すなわち、吸込容量が2倍になる。ただし、仮想的な吸込容量であると捉えるのが望ましい。また、1を大幅に超える値が用いられてもよい。このようにして、本フィルタによれば、真空リークディテクタの仮想的な吸込容量を200l/秒にすることが容易に可能となる。nが増加するにつれて、測定信号はさらに小さくなる:
【0046】
【数16】
【0047】
【数17】
【0048】
(降下する信号の場合)
【数18】
【0049】
基本的に、予想される信号を差し引くと、得られる結果はゼロになる。ただし、信号がゼロになるのは、時間tの信号と時間t-τ/nの信号がいずれも常時立下りエッジにある場合だけである。ヘリウムの吹付けを行った場合に信号が確認可能となるのは、ほぼぴったり時間τ/nのあいだとなる。
【0050】
当然ながら、ゼロの値は、リークディテクタにとって全く有用でない。システム時定数τの決定に僅かでも誤差があれば、リーク量が負になって、リークで吸込みが生じていることになり得る。パラメータFを用いた若干の増倍による補正を施し、小量ながら確認可能なリーク量信号とするのが理想的である:
【0051】
【数19】
【0052】
F=0.9により、表示されるリーク量が1桁小さくなり、F=0.99により、リーク量が2桁小さくなる。
【0053】
(安定している信号の場合)
【数20】
【0054】
【数21】
【0055】
(本フィルタのまとめ)
負のリーク量の値を避け、かつ、正確なリーク量を表示したい場合には、次のようにして信号をフィルタリング済み信号に変換する:
【0056】
【数22】
【0057】
(式中、I(t)は、時間tでのリーク量信号であり、I(t-τ/n)は、時間t-τ/nでのリーク量信号であり、Fは、リーク量抑制係数(0.9…0.999)であり、nは、ブースト係数(実際の吸込容量に比べた仮想的な吸込容量の大きさ)であり、τは、例えば実効吸込容量及び容積等から得られ得る(システムが事前に計測しておく必要がある)システム時定数である。)
【0058】
(特性)
本フィルタは、基本的に、吹付けリークの信号(つまり、実効吸込容量及び容積によって変わる全ての信号)を高速化させるように構成されている。
【0059】
【数23】
【0060】
(前提条件)
本フィルタは、システム時定数が十分に高い精度で分かっていることを前提とする。未知のシステムでこれを達成するには、計測を行うしかない。これは、内蔵又は外部のテストリークを具備した真空リークディテクタによって可能である。この目的のために、テストリークを開いて、少なくとも信号が十分に安定するまで待たなければならない。当然ながら、テストリークは、チャンバと接続される必要がある。そして、テストリークの電源をオフにし、その減衰時間(例えば、最初の信号の1/eの割合になるまでの時間)を計測することで、システム時定数を決定することができる。当然ながら、容積が大きく、実効吸込容量が小さい場合には、最大で1分かかる場合もある。一方で、それにより、ユーザは、システム時定数に関する情報、つまり、必要なリーク吹付け時間に関する情報も得られる。測定時間が著しく短時間であることから、システム時定数の決定に費やした時間は、数回の測定点で直ぐに補償される。
【0061】
(ノイズ)
フィルタリング済みの信号には、リークディテクタの元々の信号よりも大幅にノイズが現れる。これは、少なくとも2つの信号値がその都度必要になるとともに、nが増加するにつれて有用な信号がなおいっそう小さくなるからである。ただし、容積が大きく且つ吹付け時間が短い場合の信号は小さくなるので、リークディテクタのリーク量の表示度数は極めて小さいものである必要がある。しかしながら、本フィルタであれば、これについての補償も行われる。したがって、バックグラウンドノイズが大きなものであっても、それほどまでの阻害影響にならないと言える。
【0062】
以下では、図面を参照しながら、実施形態について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1】第1の実施形態で得られる信号経路の図である。
図2】真空リークディテクタの概略図である。
図3】システムのシステム時定数を決定する様子を示す図である。
図4】システム時定数を決定する様子を示す他の図である。
図5】システム時定数を決定する様子を示すさらに他の図である。
図6】フィルタリングの一例を示し、高速化信号およびシステム時定数を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
【数24】
【0065】
図2は、試験チャンバ12、ガス検出器14および真空ポンプ16から構成された真空リークディテクタの概略図であり、ガス検出器14は、ガス導通路18によって試験チャンバ12とガス導通可能に接続されている。前記試験チャンバは、試験ガスで満たされた被試験体20を収容する。ガス検出器14は、該ガス検出器で生成された電子的な測定信号を受信して処理する評価部22と電子的に接続されている。
【0066】
別の実施形態では、50lのバレルを具備したUL1000を使用した。制御可能なテストリークとして、リンプバルブ(Limpventil)をTI4-6と共に使用した。本フィルタへのデータ入力については、リーク量信号を固定フィルタと組み合わせることにより、フィルタリング時間の違いによる影響を避けるとともにノイズ増幅を計測できるようにした。
【0067】
前記リンプバルブを開閉して様々な試験を実施し、様々な高速化段階の信号を調べた。具体的には、信号の降下や信号の上昇や、本フィルタによるリーク量予測の整合性の是非や違いの程度についての疑問を調べた。本フィルタの調査範囲は、1×10-3~1×10-9mbar×l/秒であった。
【0068】
1)本フィルタは上手く機能する。
2)信号は、係数32で実質的に高速化させることが可能であり、これにより、一般的なリークディテクタでは1000l/秒近くの仮想的な吸込容量を可能にすることができる。
3)内蔵のテストリークにより、本フィルタに必要なシステム時定数を決定することが可能であるが、これには15~20秒かかる。
4)入力信号と比較して、高速化信号は、ノイズが係数(1.4)倍に増加しており、これは、理論的な仮説と合致している。
5)ただし、(システム時定数に対して短い)短期間の吹付けパルスの場合、ノイズの係数(1.4)倍の増加は、高速化係数が高過ぎないことを前提とする。ノイズは、吹付け時間と比例する。
8)リーク量予測は良好であり、本フィルタは信号負荷の過多/不足が極めて少ない。
9)実際のシステム時定数に合わせて入力信号を平滑化することにより、システム時定数を大きく悪化させることなくノイズが大幅に改善される。
10)50lの容積の場合、大きなリークの後の吹付けの待機時間を約1分間に短縮することができる。
【0069】
図3は、リーク検知システムのシステム時定数を決定する一例の図であり、対数測定信号の上昇又は降下を計測対象としている。
【0070】
図4は、システム時定数を直接決定する一例の図であり、測定信号が1/eの割合に降下するまでの経過時間を計測対象としている。
【0071】
図5は、システム時定数を直接決定する一例の図であり、測定信号が(1-1/e)の割合に上昇するまでの経過時間を計測対象としている。
【0072】
【数25】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】