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特表2024-526899再利用性を有する動的架橋靭性接着剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】再利用性を有する動的架橋靭性接着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 11/04 20060101AFI20240711BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20240711BHJP
   C09J 125/04 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C09J11/04
C09J201/00
C09J125/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503609
(86)(22)【出願日】2022-07-19
(85)【翻訳文提出日】2024-03-15
(86)【国際出願番号】 US2022037545
(87)【国際公開番号】W WO2023003845
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】63/223,606
(32)【優先日】2021-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521556587
【氏名又は名称】ユーティー-バテル・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 智宣
(72)【発明者】
【氏名】ラーマン,アニスル
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040GA05
4J040HA116
4J040HA306
4J040HD39
4J040JB02
4J040KA16
4J040MA04
4J040MA05
4J040MA10
(57)【要約】
(i)ポリマー;(ii)ポリマー内部に埋め込まれた固体粒子;及び(iii)ポリマーと固体粒子との間を架橋する複数のボロン酸エステル連結部を含む、架橋接着剤組成物であって、ボロン酸エステル連結部が、式(I)
を有しており、ポリマー及び粒子が、ボロン酸エステル連結基を介して互いに連結されており、架橋接着剤組成物が、面に結合する能力、並びに表面から熱的に剥離及び再結合するさらなる能力を有する、架橋接着剤組成物。第1及び第2の面を一緒に結合する方法であって、第1の面に上記の架橋接着剤組成物を配置するステップ、及び第1の面の架橋接着剤組成物上に第2の面を圧縮するステップを含む、方法も、本明細書に記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ポリマー、
(ii)ポリマー内部に埋め込まれた固体粒子、及び
(iii)ポリマーと固体粒子との間を架橋する複数のボロン酸エステル連結部
を含む、架橋接着剤組成物であって、ボロン酸エステル連結部が式
【化1】
を有しており、ポリマー及び粒子が、ボロン酸エステル連結部を介して互いに連結されており、架橋接着剤組成物が面を結合する能力を有する、架橋接着剤組成物。
【請求項2】
面を熱的に剥離して、これを再結合するさらなる能力を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ポリマーが熱可塑性ポリマーである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
ポリマーがエラストマーポリマーである、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
ポリマーが、ボロン酸エステル連結部のホウ素原子に結合しており、粒子が、ボロン酸エステル連結部の酸素原子に結合している、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
ポリマーが、ボロン酸エステル連結部に結合した芳香族基を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
ポリマーが、ポリスチレン又はそのコポリマーである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
固体粒子が1~100nmのサイズを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
固体粒子が1~100ミクロンのサイズを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
固体粒子が、金属酸化物組成物を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
金属酸化物組成物が、シリカ、アルミナ、イットリア、ジルコニア及びチタニアからなる群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
固体粒子が有機組成物を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
有機組成物が、天然ポリマー及び合成ポリマーから選択される、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
第1及び第2の面を一緒に結合する方法であって、第1の面に架橋接着剤組成物を配置するステップ、及び第1の面の架橋接着剤組成物上に第2の面を圧縮するステップを含み、架橋接着剤組成物が、以下:
(i)ポリマー
(ii)ポリマー内部に埋め込まれた固体粒子、及び
(iii)ポリマーと固体粒子との間を架橋する複数のボロン酸エステル連結部
を含み、ボロン酸エステル連結部が、式
【化2】
を有しており、ポリマー及び粒子が、ボロン酸エステル連結部を介して互いに連結されている、方法。
【請求項15】
圧縮するステップが高温圧縮するステップである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
第1及び第2の面の少なくとも一方が金属表面である、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
第1及び第2の面の少なくとも一方がガラス又はセラミック表面である、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項18】
続いてのステップで、第1及び第2の面が熱的に剥離される、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
ポリマーが熱可塑性ポリマーである、請求項14~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
ポリマーがエラストマーポリマーである、請求項14~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
ポリマーが、ボロン酸エステル連結部のホウ素原子に結合しており、粒子が、ボロン酸エステル連結部の酸素原子に結合している、請求項14~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
ポリマーが、ボロン酸エステル連結部に結合した芳香族基を含有する、請求項14~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
ポリマーが、ポリスチレン又はそのコポリマーである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
固体粒子が金属酸化物組成物を有する、請求項14~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
固体粒子が有機組成物を有する、請求項14~23のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その内容の全体が参照により本明細書に組み込まれている、2021年7月20日出願の米国仮出願第63/223,606号の利益を主張する。
【0002】
連邦政府資金による研究開発の記載
本発明は、米国エネルギー省によって助成された、主契約番号DE-AC05-00OR22725下、政府支援によりなされたものである。政府は本発明におけるある一定の権利を有する。
【0003】
本発明は一般に、接着剤組成物、及び接着剤の使用によって物体を結合する方法に関する。本発明は、より詳細には、ボロン酸エステル連結部を含有する動的架橋接着剤であって、ボロン酸エステル連結部が動的共有結合特性をもたらす、動的架橋接着剤に関する。
【背景技術】
【0004】
エポキシド、ポリウレタン及びアクリルを含めた、構造的用途のための耐荷重性接着剤は、通常、強力な接着をもたらすが、その脆さは、多くの場合、望ましくない凝集破壊をもたらす。例えば、エポキシベースの高強度接着剤が幅広く使用されているが、接着剤の剥離の仕事量は小さいために、非常に脆い傾向がある。対照的に、テープ上の接着剤などの延性接着剤は、一般に、接着力のレベルは低いが、軟質マトリックスを介して機械的応力を散逸させることができ、これによって、突然の結合破壊が防止される。延性接着剤は、構造的用途への使用を制限する、低弾性率材料から作製される。強度及び延性は、一般に、矛盾する、又は相互に相容れないので、強力な接着及び延性接着の両方の特徴を有する靭性接着剤は非常に希であり、得るのは困難である。強度と延性の両方を併せ持つ接着剤の生成は、依然として、かなりの難題である。このような特性の組合せを含む靭性接着剤は、高度な剥離力に耐えることができるので、それらを開発することは重要である。靭性接着剤の長期持続性の高い耐荷重能力は、電子産業、建築業界及び自動車産業などのいくつかの産業において接着破壊を最小化すると同時に、デバイス及びシステムのエネルギー効率的な操作を実現する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さらに、現在、入手可能な接着剤の大部分は、永久接着剤であり、単回使用向けに設計されている。永久接着剤は、基材から取り除くのは困難であり、再利用性をもたらさない。したがって、最終的に、永久接着剤は、焼却される、又は環境に放出され、これらは、環境に有害となる恐れがある。したがって、除去及び再利用することができる、高強度接着剤に対するさらなる需要が未だ満たされていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本開示は、再加工性及び再利用性と共に、靭性、並外れた強度及び延性を付与する、動的共有結合性相互作用を有する新規架橋接着剤を提供する。本開示は、より詳細には、ボロン酸エステルの動的共有結合をポリマーに組み込むことにより生成される可逆的/再利用可能な靭性接着剤であって、ポリマーが、ボロン酸エステル連結部を介して動的架橋によって様々な充填材及び基材と可逆的に結合する、ジブロック、トリブロック又はランダムコポリマーの汎用熱可塑性エラストマーであり得る、靭性接着剤を対象とする。後に以下でさらに議論される通り、分光測定及び密度汎関数理論の計算により、ボロン酸エステルとシリカナノ粒子、アルミニウム、鋼及びガラスなどの様々なヒドロキシ末端表面との多目的な動的共有結合が明らかになる。設計された多相材料は、再結合能と共に並外れて高い接着強度及び剥離仕事量、並びに優れた機械的、熱的及び化学的耐性を示す。
【0007】
一態様において、本開示は、正確に又は少なくとも以下の構成成分:(i)ポリマー;(ii)ポリマー内部に埋め込まれた固体粒子;及び(iii)ポリマーと固体粒子との間を架橋する複数のボロン酸エステル連結部を含有する架橋接着剤組成物であって、ボロン酸エステル連結部が、式
【0008】
【化1】
を有しており、ポリマー及び粒子が、ボロン酸エステル連結部を介して互いに連結されており、架橋接着剤組成物が、面を結合する能力を有する、架橋接着剤組成物を対象とする。
【0009】
一部の実施形態において、ボロン酸エステル連結部はまた、同一ポリマーの別の部分間に架橋している。一部の実施形態において、第2のポリマーが組成物に含まれ、ボロン酸エステル連結部はまた、ポリマーと他のポリマーとの間に架橋していてもよい。一部の実施形態において、架橋剤は、ポリマーと固体粒子との間、又はポリマーと別のポリマーとの間、又は同一ポリマーの別の部分間に架橋するように組成物中に含まれ、ボロン酸エステル連結部はまた、ポリマーと架橋剤との間、及び/又はポリマーと別のポリマーとの間、及び/又は同一ポリマーの別の部分間に架橋していてもよい。本組成物において、ポリマーは、ボロン酸エステル連結部のホウ素原子若しくは酸素原子に結合していてもよく、及び/又は存在する場合、別(第2)のポリマーは、ボロン酸エステル連結部のホウ素原子若しくは酸素原子に結合していてもよく、及び/又は固体粒子は、ボロン酸エステル連結部のホウ素原子若しくは酸素原子に結合していてもよく、及び/又は存在する場合、架橋剤は、ボロン酸エステル連結部のホウ素原子若しくは酸素原子に結合していてもよい。
【0010】
別の態様において、本開示は、第1の面に架橋接着剤組成物を配置し、第1の面の架橋接着剤組成物上に第2の面を圧縮することによって、第1及び第2の面を一緒に接合する方法であって、架橋接着剤組成物が、上記の組成物のいずれかとすることができる、方法を対象とする。第1及び第2の面は、例えば、金属、ガラス又はセラミックの表面から独立して選択されてもよい。一部の実施形態において、圧縮は、高温圧縮である。一部の実施形態において、圧縮は、溶液キャスト法、次いで、高温圧縮などの圧縮を含む。一部の実施形態において、続いてのステップで、第1及び第2の面が、熱的に剥離されて、次に、再結合される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ポリマーマトリックスとシリカナノ粒子(SiNP)とのボロン酸エステル動的共有結合の概略図である。概略図は、動的に架橋されたナノコンポジット(SiNP S-Bpinコンポジットと表される)を有する基材の接合及び重ねせん断接着試験を示す図である。グラフは、強いが脆い接着剤(J-B Weldなどの市販接着剤、赤色曲線)、延性があるが弱い接着剤(SEBS、オレンジ色曲線)、及び靭性接着剤(本検討、緑色曲線)に関する代表的な力対延伸曲線である。J-B Weld(エポキシ)は、広く使用されている強力な接着剤であるが、その脆い性質により、剥離の仕事量は小さい(赤色曲線)。SEBSは広く使用されている感圧接着剤であるが、性質は非常に柔らかい(オレンジ色曲線)。一方、SiNP S-Bpinコンポジット(本検討)は、非常に高い剥離仕事量を伴う非常に強力で強靭な接着挙動を示す(緑色曲線)。シリカとポリマーマトリックスとの間の動的共有結合性B-O結合により、一層強力で強靭な接着剤が作製される。
図2A】汎用ポリマーに由来する靭性接着剤の設計を示す図である。S-Bpin及びSiNPに由来する架橋SiNP S-Bpinコンポジットの合成を図示しており、S-Bpinは、汎用ポリマーSEBSから調製された。
図2B】汎用ポリマーに由来する靭性接着剤の設計を示す図である。フェニルボロン酸ピナコールエステル及びSiNPに由来するB-O結合の形成を確認するためのモデル化合物の合成を示す図である。
図2C】汎用ポリマーに由来する靭性接着剤の設計を示す図である。シリケート表面とポリマーマトリックスとの間に共有結合が形成し得ることを裏付ける、DFT計算の結果を示す図である(二座結合幾何形状が図示されている)。
図2D】汎用ポリマーに由来する靭性接着剤の設計を示す図である。SiNP上のヒドロキシ基とS-Bpinのボロン酸エステル基との間の動的ボロン酸エステル交換架橋反応を概略的に示す図である。これにより、再処理可能な材料が得られる。
図3A-3B】SEBS、S-Bpin及び様々なSiNP S-Bpinコンポジットの機械特性を示す図である。図3Aは、引張試験により測定された引張応力-ひずみ曲線を示すグラフである。図3Bは、引張応力-ひずみ曲線下面積から測定された靭性を示すグラフである。エラーバーはすべて、少なくとも三連での標準誤差を表す。
図3C-3D】SEBS、S-Bpin及び様々なSiNP S-Bpinコンポジットの機械特性を示す図である。図3Cは、DMAによって測定された温度の関数として、せん断貯蔵弾性率を示すグラフである。図3Dは、230~260℃の温度範囲における10重量%のSiNP S-Bpinコンポジットの応力緩和を示すグラフである。エラーバーはすべて、少なくとも三連での標準誤差を表す。
図3E-3F】SEBS、S-Bpin及び様々なSiNP S-Bpinコンポジットの機械特性を示す図である。図3Eは、この検討において記載されるコンポジットのポリマー再加工性を示す概略図である。図3Fは、再処理後の10重量%のSiNP搭載試料の引張応力及びひずみ特性を示すグラフである。エラーバーはすべて、少なくとも三連での標準誤差を表す。
図4A-4B】重ねせん断接着試験を示す図である。図4Aは、アルミニウム基材を使用した重ねせん断強度に対するアニーリング時間及び温度の影響を示すグラフである。図4Bは、アルミニウム基材上の重ねせん断強度に対するシリカナノ粒子搭載量の影響を示すグラフである。エラーバーはすべて、少なくとも三連での標準誤差を表す。
図4C】重ねせん断接着試験を示す図である。耐荷重能の写真(左)、及び2枚のアルミニウム板の接着接合部を示す挿入画像、及び接着試験後の重ね接合部の凝集破壊及び接着破壊を示す写真(右)を含む。エラーバーはすべて、少なくとも三連での標準誤差を表す。
図4D-4F】重ねせん断接着試験を示す図である。図4Dは、アルミニウム基材上での剥離の仕事量及び重ねせん断接着強度を示す、20重量%のSiNPコンポジットに関する力対延伸曲線を示すグラフである。図4Eは、アルミニウム基材上のSEBS、S-Bpin、様々なシリカ搭載ナノコンポジット及びJ-B Weld(市販のエポキシベースの接着剤)の剥離の仕事量を示すグラフである。図4Fは、鋼基材上の重ねせん断強度に対するシリカナノ粒子搭載量の影響を示すグラフである。エラーバーはすべて、少なくとも三連での標準誤差を表す。
図5A-5D】ガラス基材上における重ねせん断接着力、接着剤の再利用性、及び他の接着剤との比較を示す図である。図5Aは、コンポジット溶液を使用したガラス表面への重ねせん断接着力を示すグラフであり、アスタリスク()は、接着力がはるかに高い可能性があるが、ガラス基材の破壊により測定可能でない可能性があることを示す。図5Bは、ガラスに対して設定された重ねせん断接着力を示す図である。接着結合の破壊ではなくむしろ、ガラスの破壊を示している。図5Cは、コンポジットフィルムの重ねせん断接着試験のグラフである。図5Dは、(3mm×3mm)9mmの小さな接着断面積を有するコンポジットフィルムを使用したガラス表面に対する重ねせん断接着力を示すグラフ、及び重ねせん断接着設定を示す挿入画像である。エラーバーはすべて、少なくとも三連での標準誤差を表す。
図5E-5G】ガラス基材上における重ねせん断接着力、接着剤の再利用性、及び他の接着剤との比較を示す図である。図5Eは、様々な基材上での20重量%のSiNP S-Bpin試料の接着性能を比較するグラフである。図5Fは、(12mm×12mm)144mmの接着断面積を有するAl表面に対する20重量%のSiNP S-Bpin溶液の再結合能力試験の結果を示すグラフである。図5Gは、接着断面積(6mm×6mm)36mmを有するAl表面に対する20重量%のSiNP S-Bpinコンポジットフィルムに関する再結合能力試験の結果を示すグラフである。エラーバーはすべて、少なくとも三連での標準誤差を表す。
図5H-5J】ガラス基材上における重ねせん断接着力、接着剤の再利用性、及び他の接着剤との比較を示す図である。図5Hは、文献において報告されている動的共有結合ベースの接着剤の重ねせん断接着力を比較するグラフである。図5Iは、95℃におけるAl及び鋼表面に対する20重量%のSiNP S-Bpinコンポジット溶液及び乾燥フィルムの接着性能を示すグラフである。図5Jは、接着プロセスの提案される機構を概略的に示す図である。エラーバーはすべて、少なくとも三連での標準誤差を表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1の態様において、本開示は、正確に又は少なくとも以下の構成成分:(i)ポリマー(これは、別のポリマーも存在する場合、「第1のポリマー」であり得る);(ii)ポリマー内部に埋め込まれた固体粒子(これは、別の組の固体粒子も存在する場合、「第1の組の固体粒子」であり得る);及び(iii)ポリマーと固体粒子との間を架橋する複数のボロン酸エステル連結部を含有する架橋接着剤組成物であって、ボロン酸エステル連結部が、式
【0013】
【化2】
を有しており、ポリマー及び粒子が、ボロン酸エステル連結部を介して互いに連結されており、架橋接着剤組成物が面を結合する能力を有する、架橋接着剤組成物を対象とする。とりわけ、ボロン酸エステル連結部が様々な面と動的共有結合を形成する能力のために、本接着剤組成物は、面同士の間に並外れた強力な結合を形成する能力だけではなく、熱的に剥離する能力も有しており、同一面又は別の面を再結合するために再使用され得る。以下においてさらに議論される通り、本組成物は、以下の追加の構成成分:第2又は第3のポリマーであってもよい別のポリマー;同一ポリマーの部分間(及び/又は、存在する場合、第2又は第3のポリマーの部分間)、又はポリマーと粒子との間、又は第1のポリマーと第2のポリマーとの間を架橋する架橋剤;第1の組の粒子とは組成が異なる第2の組の固体粒子であって、ボロン酸エステル連結部を介してポリマーと架橋されていてもよい、又は架橋されていなくてもよい、第2の組の固体粒子のいずれかを含んでもよく、又は含まなくてもよい。
【0014】
第1、第2又は第3のポリマーであり得るポリマー(構成成分(i))は、例えば、当分野の熱可塑性ポリマー又は熱硬化性ポリマーのいずれかを含めた、幅広い様々なポリマーのいずれかであり得、これらのいずれも、エラストマー又は非エラストマーであってもよい。ポリマーはまた、ホモポリマー又はコポリマーであってもよく、コポリマーは、例えば、ブロックコポリマー、交互コポリマー、ランダムコポリマー又は分岐コポリマーであってもよく、二成分系、三成分系、四成分系又はそれより多い成分系レベルのコポリマーであってもよい。より特定の実施形態において、ポリマーは、ジブロックコポリマー、トリブロックコポリマー、テトラブロックコポリマー又はそれより多いブロックコポリマーであってもよい。ポリマーは、より詳細には、例えば、付加ポリマー(例えば、ビニル付加又はポリウレタン)又は縮合ポリマー(例えば、ポリエステル又はポリアミド)であってもよい。本接着剤組成物において、ポリマーは、ボロン酸エステル連結部のホウ素原子又は酸素原子に結合している(例えば、その主鎖又はペンダント基による)。実施形態の第1の組において、ポリマーは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン(PB)若しくはポリブタジエン(PBD)ブロック(すなわち、セグメント)を含有するコポリマーであること、又はPE、PP、PB若しくはPBDのホモポリマーであることによるなどの、エチレン、プロピレン又はブチレン単位を含有する。実施形態の第2の組において、ポリマーは、ポリスチレン(PS)、ポリチオフェン(PT)、ポリ(ビニルピリジン)、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン若しくはポリアニリンブロックを含有するコポリマーであること、又は上記のいずれかのホモポリマーであることによるなどの、スチレン、チオフェン、ビニルピリジン、フェニレン、フェニレンビニレン又はアニリン単位などの、1つ以上の芳香族単位を含有する。一部の実施形態において、ポリマーは、より詳細には、ポリスチレン又はそのコポリマーであってもよい。より特定の実施形態において、ポリマーは、ポリスチレン-b-(ポリ-アルキレン)-b-ポリスチレン構造を有するトリブロックコポリマーであり、アルキレンセグメントは、例えば、エチレン、プロピレン若しくはブチレンセグメント、又はそれらのコポリマーセグメント(例えば、エチレン-co-ブチレン、エチレン-co-プロピレン又はプロピレン-co-ブチレン)であり得る。実施形態の第3の組では、ポリマーは、1つ以上の芳香族含有単位(又はブロック)と組み合わせた、1つ以上のエチレン、プロピレン又はブチレン単位(又はブロック)を含有する。芳香族ポリマー又はそのセグメントの場合、芳香族基は、ボロン酸エステル連結部に結合していてもよい。
【0015】
一部の実施形態において、上記のポリマーのいずれかであってもよいポリマーは、架橋されていてもよい。周知の通り、ポリマーは、通常、架橋剤により、少なくとも2つの異なるポリマーの位置を相互連結することによって架橋されてもよい。一実施形態において、ポリマーは、ボロン酸エステル連結部を介して、すなわちポリマーと固体粒子とを連結するボロン酸エステル連結部に加えて、架橋されていてもよい。通常、ポリマーがボロン酸エステル連結部によって架橋されるために、有機架橋剤は、ボロン酸エステル連結部同士を連結する。典型的な架橋過程では、ポリマーは、ボロン酸エステル部(例えば、ボロン酸ピナコールエステル基)のホウ素に結合し、次いで、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール又はポリエチレングリコールなどのヒドロキシ含有架橋剤と反応してもよい。ボロン酸エステル基と固体粒子との架橋も望ましいので、ポリマー上のボロン酸エステル基の総数未満が、架橋に関与すべきである。代替的に、ポリマーは、ヒドロキシ含有ポリマー(例えば、ポリビニルアルコール)であってもよく、これは、ジボロン酸エステル架橋剤と反応され得る。ヒドロキシ含有ポリマーは、ポリマーの架橋前又は架橋後(又はポリマーを架橋することなく)に、ボロン酸エステル官能化固体粒子と反応させてもよい。ポリマーは、固体粒子との架橋前又は架橋後に架橋されてもよい。代替的に、ポリマーは、ボロン酸エステル基以外の官能基間で架橋されてもよい。例えば、ポリマーは、アミン(NH)基により官能化されてもよく、この基は、当分野において既知のアミン反応性架橋剤(例えば、ジカルボキシ、ジアルデヒド又はジアルキルハロゲン化物架橋剤)のいずれかによって架橋されてもよい。
【0016】
別の組の固体粒子も存在する場合、「第1の組の固体粒子」であり得る固体粒子(構成成分(ii))は、ポリマー内部に埋め込まれる。すなわち、ポリマーは、固体粒子が全体に分散されているマトリックスとして機能する。固体粒子は、無機及び有機組成物を含めた、実質的に任意の組成物を有することができ、ただし、固体粒子は、少なくとも100℃、200℃又はこれより高い、高温でも依然として固体であり、好ましくは水溶性ではないことを条件とする。固体粒子は、ポリマーと架橋するため、ボロン酸エステル基と反応することができる表面官能基(通常、ヒドロキシ基)を有するべきであるか、又は固体粒子は、(ヒドロキシ基などの、ボロン酸エステル-反応性基を含有するポリマーと反応するための)ボロン酸エステル基により表面官能化が可能であるべきである。固体粒子は、球体、繊維、板又は多面体の形状を含めた、任意の形状を有してもよい。
【0017】
一組の実施形態において、固体粒子は、金属酸化物又は金属硫化物の組成物などの無機組成物を有する。周知の通り、金属酸化物又は金属硫化物の組成物を有する粒子は、通常、表面ヒドロキシ基又はチオール基を含み、これらの基は、本発明の目的のため、ボロン酸エステル官能化ポリマーと反応させて、固体粒子とポリマーとを架橋することができる。用語「金属」とは、本明細書において使用する場合、典型族、アルカリ、アルカリ土類、遷移金属及びランタニド元素から選択される、任意の元素を指すことができる。したがって、金属酸化物又は金属硫化物は、典型族金属酸化物若しくは硫化物、アルカリ金属酸化物若しくは硫化物、アルカリ土類金属酸化物若しくは硫化物、遷移金属酸化物若しくは硫化物、又はランタニド金属酸化物若しくは硫化物とすることができる。典型族金属酸化物組成物のいくつかの例には、SiO(すなわち、シリカ、例えば、ガラス又はセラミック)、B、Al(アルミナ)、Ga、SnO、SnO、PbO、PbO、Sb、Sb及びBiが含まれる。アルカリ金属酸化物のいくつかの例には、LiO、NaO、KO及びRbOが含まれる。アルカリ土類金属酸化物の組成物のいくつかの例には、BeO、MgO、CaO及びSrOが含まれる。遷移金属酸化物の組成物のいくつかの例には、Sc、TiO(チタニア)、Cr、Fe、Fe、FeO、Co、Ni、CuO、CuO、ZnO、Y(イットリア)、ZrO(ジルコニア)、NbO、Nb、RuO、PdO、AgO、CdO、HfO、Ta、WO及びPtOが含まれる。ランタニド金属酸化物組成物のいくつかの例には、La、Ce及びCeOが含まれる。一部の実施形態において、混合金属酸化物(上記の金属酸化物のいずれかの混合組成物)が、階層的に一括りにされる。一部の実施形態において、上記の金属酸化物(又は金属酸化物のすべて)のいずれか1種以上のクラス又は指定されるタイプのものは、階層的な集合から除外される。類似金属硫化物組成物は、上に列挙した例示的な金属酸化物の組成物のいずれかにおいて、酸化物(O)の硫化物(S)による置換によって誘導され得る(例えば、SiS、LiS又はCaS)。一部の実施形態において、上記の無機組成物のいずれか1種以上が除外される。
【0018】
別の組の実施形態において、固体粒子は、有機組成物を有する。有機組成物は、例えば、天然ポリマー又は合成ポリマーであってもよい。天然ポリマー(バイオポリマー)の一部の例には、セルロース(例えば、セルロース繊維)、ヘミセルロース、キチン及びキトサンが含まれる。合成ポリマーの一部の例には、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル、ポリビニピロリジノン(polyvinypyrrolidinone)、ポリアクリルアミド、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリシロキサン、ポリアミド、ポリエステル(例えば、PLA及び/又はPGA)及びそれらのコポリマーが含まれる。有機組成物はまた、炭素元素であってもよい。炭素元素を含有する、又はこれからなる粒子には、カーボンナノチューブ(例えば、単層、二層又は多層)、バックミンスターフラーレン、カーボンブラック及び炭素繊維が含まれる。一般に官能化されていない有機組成物から構成される粒子(例えば、PE、PP、PS又は炭素元素)は、粒子がボロン酸エステル連結部との結合に関与することが可能な、ある程度のレベルの官能基により修飾されている必要がある(例えば、ヒドロキシ官能化PE、PP又はPS)。一部の実施形態において、上記の有機組成物のいずれか1種以上が除外される。
【0019】
粒子は、任意の好適なサイズ、通常、最大で100ミクロン又はそれ未満を有することができる。様々な実施形態において、固体粒子は、正確に若しくは約、例えば、0.001、0.005、0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、1、2、5、10、20、50若しくは100ミクロンの平均サイズ又は実質的に一様なサイズ、又は上記の値のいずれかの2つによって境界が設けられた範囲内、例えば、0.001~100ミクロン(ここで、0.001ミクロン=1nm)、0.01~100ミクロン、0.01~10ミクロン、1~100nm若しくは1~100ミクロンの平均サイズ又は実質的に一様なサイズを有しており、用語「約」は、一般に、表示値からの±10%、±5%又は±1%以下を示す。一部の実施形態において、粒子の少なくとも80%、85%、90%、95%、98%又は99%は、上に提示されている例示的な値のいずれか2つによって境界が設けられた任意の範囲内のサイズを有する。例えば、粒子の少なくとも90%は、0.005~10ミクロン、0.01~10ミクロン、0.1~10ミクロン、0.005~1ミクロン、0.01~1ミクロン、0.1~1ミクロン、0.005~0.1ミクロン、0.005~0.05ミクロンの範囲内のサイズを有することができるか、又は粒子の少なくとも95%若しくはそれ超が、0.1~20ミクロン、0.005~10ミクロン、0.005~0.1ミクロン、0.005~0.05ミクロン、0.01~10ミクロン、0.1~5ミクロン、0.1~1ミクロン、1~100ミクロン又は1~100nmの範囲内のサイズを有することができる。一部の実施形態において、粒子の100%が、所望のサイズ範囲を有するサイズを有する。3つの寸法が同じではない粒子(例えば、板又は繊維)の場合、粒子サイズは、最長寸法を指すことができる。上記の無機又は有機組成物のいずれかを有することができる、上記の固体粒子のいずれも、上記の通り、粒子形状及びサイズ、又はそれらの部分範囲のいずれかを有することができる。
【0020】
固体粒子は、通常、接着剤組成物の少なくとも0.1重量%の量で存在する。様々な実施形態において、固体粒子は、正確に又は約、例えば、0.1、0.2、0.5、1、2、3、4、5、10、15、20、25、30若しくは40重量%の量、又は上記の値のいずれか2つによって境界が設けられた範囲内の量(例えば、0.1~40重量%、0.1~30重量%、0.1~20重量%、0.1~10重量%、0.1~5重量%、1~40重量%、1~30重量%、1~20重量%、1~10重量%又は1~5重量%)で存在する。上記の無機又は有機組成物のいずれかを有することができる、上記の固体粒子のいずれも、上に提示した量のいずれか、又はそれらの部分範囲で接着剤組成物中に存在することができ、やはり上記の通り、粒子形状及びサイズ、又はそれらの部分範囲のいずれかをさらに有することができる。
【0021】
複数のボロン酸エステル連結部(構成成分(iii))は、ポリマーと固体粒子との間を架橋し、ボロン酸エステル連結部は、式
【0022】
【化3】
を有する。
【0023】
一部の実施形態において、ポリマーは、ボロン酸エステル連結部のホウ素原子に直接、又は間接的に(架橋剤を介する)結合している一方、固体粒子は、ボロン酸エステル連結部の酸素原子に直接又は間接的に(架橋剤を介する)結合している。他の実施形態において、ポリマーは、ボロン酸エステル連結部の酸素原子に直接、又は間接的に(架橋剤を介する)結合している一方、固体粒子は、ボロン酸エステル連結部のホウ素原子に直接又は間接的に(架橋剤を介する)結合している。接着剤組成物において、1つ又は2つの追加のポリマー(すなわち、第2又は第3のポリマー)は、接着剤組成物に含まれてもよく、この場合、追加のポリマーは、架橋に関与しなくてもよく、又は第1のポリマー及び/若しくは固体粒子との架橋(例えば、ボロン酸エステル連結部による)に関与してもよい。接着剤組成物において、1つ又は2つの追加の架橋剤(すなわち、ボロン酸エステル連結部以外、又はボロン酸エステル連結部に結合している)が存在してもよい、及びポリマー又は追加のポリマーを架橋するよう機能してもよい、又はポリマーと1つ以上の追加のポリマーとの間を架橋するよう機能してもよい。
【0024】
別の態様において、本開示は、上記の接着剤組成物を生成する方法を対象とする。最初に、ボロン酸エステル化されたポリマーが、既知の方法によって、ビス(ピナコラト)ジボロン(BPin)との反応によって生成され得る。典型的な過程において、溶液中のボロン酸エステル化ポリマーは、ヒドロキシ含有粒子と混合されて均一混合物を形成し、この混合物が面に塗布されて、その面と別の面とを結合することができる。代替的に、ヒドロキシ含有ポリマーは、4-ビニルボロン酸を含有するビニル付加ポリマーから作製される粒子などの、ボロン酸エステル化粒子と混合されて、接着剤組成物を形成することができる。溶媒が除去されて、固体形態で面に塗布され得る、固体接着剤をもたらすことができる。
【0025】
別の態様において、本開示は、上記の接着剤組成物のいずれかの使用によって、第1の面及び第2の面を一緒に結合する方法を対象とする。本方法において、架橋接着剤組成物は、第1の面に塗布され(例えば、溶液状接着剤又は乾式接着剤)、次いで、第1の面の架橋接着剤組成物に第2の面を圧縮する。圧縮は、通常、少なくとも100、150若しくは200℃、又はこれらより高い温度を使用する、室温又は高温(高温圧縮)におけるものであってもよい。結合される面は、表面上のヒドロキシ基と接着剤組成物中のボロン酸エステルの酸素基との間に動的(流動)共有結合を可能にする、あるレベルのヒドロキシ官能基を好ましくは含有する。結合過程において、固体粒子又はポリマーに結合したボロン酸エステルの酸素原子は、表面のヒドロキシ基との流動共有結合に関与し得る。第1及び第2の面の一方又はどちらも、金属表面、ガラス表面又はセラミック表面であってもよい。金属表面は、例えば、アルミニウム、鋼若しくは銅、又はそれらの合金であってもよい。セラミック表面は、ガラス以外の、当分野における金属酸化物組成物のいずれかを有してもよい。表面はまた、プラスチック又はポリマーであってもよい。表面が、所望の濃度のヒドロキシ基を含有しない、又はそれより少ないヒドロキシ基しか含有しない状況において、その表面は、酸素プラズマ、又は化学的前処理、すなわちエッチングなどの酸素化前処理を最初に受けてもよい。本接着剤組成物は、例えば少なくとも5、6、7、8、9又は10MPa、又はこれらを超える並外れて強力な接着力を示し得る。本接着剤組成物はまた、例えば、少なくとも500、600、700又は800N/m又はこれらより高い、並外れて高い剥離仕事量を示し得る。本接着剤組成物の動的共有結合能のために、結合面は、続いてのステップで、熱的に剥離され得る。剥離された後に、この表面は、続いて再結合されてもよく、又は剥離後の接着剤組成物は、この表面から除去されてもよく、他の表面を結合するために再使用されてもよい。
【0026】
実施例は、例示目的のため、及び本発明のある特定の実施形態を説明するために以下に記載される。しかし、本発明の範囲は、本明細書において記載されている実施例によって決して限定されるものではない。
【実施例
【0027】
全体
以下の実験において、ボロン酸エステルの動的共有結合性官能基が、汎用トリブロック熱可塑性エラストマー、ポリスチレン-b-ポリ(エチレン-コブチレン)-b-ポリスチレン(SEBS)に添加され、これによって、非修飾ケイ素ナノ粒子(SiNP)との動的共有結合連結部が可能となる。トリブロックコポリマー中のボロン酸エステル基は、ヒドロキシル基SiNPと反応して、動的に架橋された(強化された)ナノコンポジットをもたらす。このような動的共有結合により、その機械的ロバスト性を維持すると同時に、このような架橋コンポジット材料を複数回、再処理することが可能となる。SEBS上の動的ボロン酸エステル基はまた、接着するため、基材表面の様々な酸化物界面と共有結合を形成することができる。さらに、SEBS中の軟質なエチレンブチレン(EB)ブロックは機械力を散逸させて、架橋されたナノコンポジット構造体は、機械的なロバスト性をもたらす一方、ボロン酸エステルの動的結合は、様々な基材及びSiNPと共有結合能及び再結合能をもたらす。
【0028】
SiNP充填剤を用いる、SEBS構造体と連結した動的ホウ素エステル官能化により、著しく強力かつ靭性の接着剤(例えば、図1中の緑色曲線)をもたらし、耐荷重性の靭性接着剤の調製の直接的手法であることが明らかになる。このような多用途接着剤は、乾燥状態と溶液状態の両方において使用することができ、様々な表面に塗布され得る。この検討における知見は、動的ポリマーの別の使用に関する洞察をもたらし、自動車、航空宇宙及び建設産業向けを含めた、多数の用途向けの非常に優れた靭性接着剤を提供することによって、多数の機会を切り開く。
【0029】
SiNP上のヒドロキシ基とSEBS上のボロン酸エステル基との間の動的共有結合性架橋は、優れたレベルの再加工性、機械的ロバスト性及び再結合能を実現する。20重量%のSiNPを搭載したコンポジットは、アルミニウム基材上において、9.38±1.39MPaの非常に強力な接着力、及び733.96±71.58Nm-1の剥離仕事量を示し、これは、多数の既存の市販接着剤より勝る。さらに、大部分の構造用接着剤は、恒久的に架橋される単回使用向け接着剤である一方、現在記載されている接着剤は、動的結合が存在するために、再加工性を示し、これによって、様々な面への結合及び再結合を可能にする。さらに、本明細書に記載されているSEBSボロン酸エステルベースの接着剤は、約100℃のSEBSの実用幅(service window)を、幅広い操作温度範囲を必要とする多数の用途にとって重要な、-30~100℃から-30~200℃まで拡大する。
【0030】
ボロン酸エステル化SEBS(S-Bpin)の合成
S-Bpinは、文献手順(A.D.Mohantyら、Macromolecules、48、7085~7095、2015)に従うことによって合成した。手短に、SEBS(5.00g、14.24mmolのスチレン単位)、BPin(12.65g、49.8mmol、3.5当量)、[IrCl(COD)](0.502g、BPinの量に対して1.5mol%)、dtbpy(0.401g、BPinの量に対して3mol%)、無水THF(50mL)及び磁気撹拌子を100mLの火炎乾燥済み丸底フラスコに入れて、アルゴンを30分間、パージした。反応フラスコをアルゴン雰囲気下で密封し、75℃に予め加熱した油浴中に入れた。この反応を24時間後に停止し、室温まで冷却した。この溶液をクロロホルム(25mL)により希釈し、メタノールに入れて沈殿させ、得られた白色ポリマーを採取し、真空下、室温において乾燥した。触媒及び他の未反応低分子を完全に除去するため、溶解及び沈殿方法をさらに2回、繰り返した。スチレン単位の官能化の程度は、SEBS-メチレンとボロン酸エステルのメチルの重なる共鳴(0.9~1.5ppm)の増大した積分比に対する、ポリマー主鎖の1,2-ブチレン単位(0.78~0.88ppm)中のメチル基の相対強度に基づく、H NMRから計算した。
【0031】
SiNP S-Bpinコンポジット及びその架橋フィルムの合成
S-Bpin(1.0g)は、撹拌子を備えるオーブン乾燥済みバイアル中、無水THF(12mL)に溶解した。0.45μm細孔サイズのフィルターを使用して、溶液をろ過し、非溶解物質を取り除いた。連続撹拌しながら、メチルイソブチルケトン(MIBK)溶媒中のシリカナノ粒子の溶液をS-Bpin溶液に加えた。室温において1時間、撹拌した後、溶媒を真空下において乾燥し、剛性固体として架橋コンポジットが得られた。コンポジット生成物を真空下、120℃においてさらに一晩、乾燥し、残留溶媒を除去した。このような部分的に硬化したコンポジットを215℃において3時間、一定の圧力で高温圧縮し、ゆっくりとした冷却後、完全に硬化したコンポジットフィルムを作製した。
【0032】
ホウ素化ポリスチレン及びSiNPを含有するコンポジットの合成
S-Bpinの合成の同じ手順に従うことによって、ホウ素化ポリスチレンを合成した。H NMRは、ホウ素化ポリスチレン生成物が形成したことを実証した。上記の手順に従い、ホウ素化ポリスチレン及びSiNPからナノコンポジットも調製した。
【0033】
溶媒耐性検討
SiNP S-Bpinコンポジットの溶媒耐性分析を行った。完全に架橋したコンポジットフィルム(15mg)を、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン(DCM)、クロロホルム(CDCl)、ジメチルホルムアミド(DMF)及び脱イオン水などの様々な溶媒(1mL)に7日間、さらし、それらの溶解度を室温においてモニタリングした。溶媒に7日間浸漬した後に、コンポジットフィルムを、THF、DCM及びCDClにある程度、膨潤させたが、完全には溶解しなかった。とりわけ、これらのコンポジットフィルムは、7日後に無視できる程度の量の水しか吸収しなかったので、水中及びDMFにおいて非常に安定であることが判明した。水安定性をTGA及びFTIRによってさらに確認し、これによって、上記のコンポジットフィルムは、その化学組成を変えなかったことが明らかになった。
【0034】
重ねせん断接着力
Al及び鋼の場合の重ねせん断接着力測定を、2mm分-1のクロスヘッド速度率において、5kNロードセルを装備した、MTS Alliance RT/5引張フレーム中、ASTM D1002法(ASTM D 1002-10)の修正バージョンに従い行った。溶液状接着剤の場合、シリンジを使用して、SiNP S-Bpinコンポジット溶液(200μL)を基材表面に広げ、室温において1分間、乾燥した。接着物を単一重ねせん断構成で重ねた(12mm×12mm)。重ねせん断試験体を高真空下、120℃において一晩、硬化し、一定圧(約0.096MPa)下、215℃において2時間、高温圧縮することによって完全に硬化させた。試験を行う前に、試料を室温まで冷却した。乾式接着剤(溶融接着剤)の場合、完全に硬化したSiNP S-Bpinコンポジットフィルムを(3mm×3mm)9mm又は(6mm×6mm)36mmの面積を有する小片に裁断し、2つの重なる基材の間に置いた。これらの重ねた基材を215℃において加熱プレス器に置き、一定圧力下、2時間、圧縮した。室温において冷却した後、重ねせん断強度を測定し、5つの試験体の結果の平均値を標準偏差のエラ―バーと共に報告した。市販接着剤試料を製造業者の使用説明書に従って調製した。高温での接着剤性能を、95℃において、Al及び鋼に対して行った。重ねせん断試験体を高温において制御した系の元で加熱し、温度が95℃において安定化すると、重ねせん断試験を施した。ガラス基材の場合、重ねせん断接着力測定を、2mm分-1のクロスヘッド速度率において、2kNのロードセルを装備した、MTS Alliance RT/5引張フレームにおいて行った。同様の手順の後、重ねせん断接着試験をガラス基材に対して行った。
【0035】
重ねせん断接着力は、以下の式によって提示される通り、重ねせん断試験から得られた接着接合部の最大の力(N)を接着剤の重なり面積(mm)によって除算したものとして定義される:
【0036】
【数1】
【0037】
剥離の仕事量は、力対延伸曲線下面積の積分値として定義される。積分値は、市販のソフトウェアを使用して行われる。
【0038】
密度汎関数理論(DFT)計算
シリカ、アルミナ及び酸化鉄のヒドロキシル化表面は、化学結合が、寄与の一次エネルギーである場合、Si-O-H、Al-O-H及びFe-O-H基との化学的相互作用を理解するための適切なモデルであるので、DFT計算を利用して、上記の表面に結合しているホウ素エステルを調べた。
【0039】
界面の動的結合を組み込む多相材料の合成
30mol%スチレンを含むSEBSトリブロックコポリマー(118kg/mol)を芳香族C-Hホウ素化を介して修飾して、動的ボロン酸エステル官能基を組み込み、ホウ素化されたSEBSトリブロックコポリマー(S-Bpin)(図2A)を得た。S-Bpin変換の成功は、H NMR及びフーリエ変換赤外分光法(FTIR)スペクトルにおいて立証された。H NMRスペクトルにおけるスチレンの芳香族C-Hプロトンは、6.0~7.8ppmの領域に3本のブロードなピークに分かれ、芳香族の官能化に成功したことを示している一方、ピナコールボロン酸エステル(Bpin)メチルプロトンは、SEBS主鎖メチレンピークと重なった。芳香族環官能化の程度は、SEBS-メチレン及びBpinメチルの共鳴の重なり(0.9~1.5ppm)の増大した積分比に対して、ポリマー鎖の1,2-ブチレン単位(0.78~0.88ppm)中のメチル基の相対強度に基づいて、S-Bpin及びSEBSのH NMRスペクトルから計算した。H NMRスペクトルは、スチレンブロック上の芳香族環の合計で95mol%がBpinによって官能化されていることを示している。FTIRスペクトルにおけるB-O結合の非対称及び対称伸縮に関する、1350cm-1及び1123cm-1における明瞭なシグナルの存在により、ホウ素化が成功したことがさらに裏付けられた。同様に、接着特性に対するトリブロック構築物の影響を調査するため、ポリスチレンホモポリマーもまた、芳香族C-Hホウ素化を介して修飾した。
【0040】
S-BpinをSiNPとのバイオミメティック多相コンポジット(SiNP S-Bpinコンポジットと表される)を、様々な量のSiNP(サイズ約14nm)及びS-Bpinを使用して調製し、ここで、SiNPは動的架橋剤として作用した(図2A)。S-Bpin及び様々な重量パーセント(重量%)のSiNPからなるテトラヒドロフラン(THF)溶液を室温において混合し、減圧下、120℃で乾燥させて、部分架橋ネットワークを得た。続いて、完全に硬化したSiNP S-Bpinコンポジットフィルムを、約0.38MPaの圧力下で3時間、215℃で高温圧縮することによって調製した。SiNPのヒドロキシル基とS-Bpinのホウ素ピナコールエステル基との間の架橋反応(化学反応)をFTIRスペクトルによって確認し、ここで、幅広いシグナルが、B-O結合と重なるSi-O結合に対応する、1114cm-1に現れた。5~20重量%のSiNP搭載量を含む、得られた濁りのないS-BpinのTHF溶液により、SiNPとS-Bpinポリマーとの良好な混和性が示される。対照的に、THF中のSEBS溶液に、任意の搭載量でSiNPを添加したものは、濁りのある溶液を示した。SiNPとポリマーマトリックスとの間の相互作用のために、最大で20重量%のSiNP搭載量は、高い分散性を維持した。SiNPの高分散液は、透過型電子顕微鏡(TEM)画像によっても確認される。20重量%を超えるSiNP搭載量を有するSiNP S-Bpinコンポジット溶液は、濁りのある溶液を形成し、これは、SiNPの凝集、又は過剰のシリカとポリマーマトリックスとの間のマクロ相分離を示している。架橋SiNP S-Bpinコンポジットの場合、マイクロ相分離が維持され、これは、10重量%のSiNP S-BpinのSAXSプロファイルにおける、強力な一次散乱ピーク(d層間隔は、約30nm)の存在によって立証された。SiNPとS-Bpinポリマーのボロン酸エステル基との間の反応を確認するため、慣用的なシリカ修飾反応条件に従い、1つの低分子モデル化合物をフェニルボロン酸ピナコールエステル及びSiNPから合成した(T.Zhuら、ACS Macro Lett.、9、1255~1260、2020)。図2Bに示されている通り、フェニルボロン酸ピナコールエステルを、THF中、70℃においてSiNPにより処理して、フェニルボロン酸により修飾されたSiNPを形成した。H NMRスペクトルによって、フェニルボロン酸ピナコールエステルに由来するピナコール中の4つのメチル基に関する1.3ppmのピークの消失が示され、変換が成功したことが示される。TGA曲線におけるSiNP表面の重量増加により、ボロン酸エステルのエステル交換反応がやはり確認された。
【0041】
SiNP上のヒドロキシル基とS-Bpin上のボロン酸エステル基との間の反応の実現可能性及びエネルギー論をさらに理解するため、DFT計算を行った。DFT計算は、単座形式又は二座形式のどちらか一方により、ホウ素エステル部分とシリカ表面のヒドロキシル基との間に、共有結合形成が起こり得ることを示す(図2C)。この結合の間に、1つ以上のSi-O-H部分は、Si-O-Bに変換され、この場合、単座結合は、二座結合よりも低いエネルギー状態にある。ホウ素エステルとシリカ末端の単座結合エネルギーは、約70kJ/molと推定した。結合エネルギーは、水素結合(4~13kJ/mol)などの典型的な二次相互作用よりもかなり高いが、C-C共有結合(約356kJ/mol)よりも低い(J.M.Bergら、Biochemistry、W.H.Freeman、NY、2002)。ホウ素エステルとシリカ表面との高い結合エネルギーにより、SiNPによるS-Bpin架橋は、SiNP上の隣接ヒドロキシル基とのこのB-O結合交換の能力により、共有結合により架橋したコンポジットネットワークと同様に挙動することができ、再加工を可能にすることを示唆する(図2D)。
【0042】
SiNP S-Bpinコンポジットの架橋性質を、溶媒耐性検討を介して実証した。手短に述べると、コンポジットフィルムを、室温において、ジクロロメタン(DCM)、クロロホルム(CHCl)、THF、ジメチルホルムアミド(DMF)及びDI水などの様々な溶媒に7日間、さらし、溶解度をモニタリングした。SiNP S-Bpinコンポジットの架橋試料は、いかなる溶媒にも溶解しなかったが、DCM、CHCl及びTHFにおいてある程度の膨潤が観察された。対照的に、非架橋S-Bpinは、数分以内にTHFに容易に溶解した。S-Bpinは、水中に浸漬して7日後に、約2.2重量%の無視できる水しか吸収しなかったので、S-Bpinはまた、高い加水分解安定性があることも示したことが留意されるべきである。局所疎水性ポリマー鎖によってボロン酸エステル基の埋め込まれた性質のために、水の存在を伴うボロン酸エステル結合の安定性を確認する、熱重量分析(TGA)曲線及びFTIRスペクトルにおいて、大きな変化は観察されず、このことは、他によっても観察されている(O.R.Cromwellら、J.Am.Chem.Soc.、137、6492~6495、2015)。
【0043】
動的架橋多相コンポジットの機械特性
SEBSの機械特性は、応力-ひずみ曲線(図3A)において観察される通り、SiNPによる修飾及びその後の架橋の後に、顕著に改善された。SiNP S-Bpinナノコンポジットの引張応力-ひずみ曲線に明確な降伏点が存在することは、その後のひずみ硬化を伴う弾性から塑性への転移を示す。SEBSコポリマーと比べると、架橋ナノコンポジットは、引張強さ及びヤング率がかなり一層高く、破断点伸びがわずかに減少したことを示した。SiNPは強化剤としてだけでなく、シリケート表面とポリマーマトリックス間のB-O結合形成により、動的共有結合性架橋剤としても作用する。SiNPの搭載量がより多くなると、機械強度を強化する架橋密度が向上する一方、ポリマー鎖の移動性が制限されると、破断点伸びの低下をもたらす。10重量%のSiNP S-Bpinの引張強さ及び靭性は、それぞれ40MPa及び91.5MJm-3に到達し、これは、SEBS(25MPa及び56.5MJm-3)のほぼ2倍の引張強さ及び靭性である。20重量%のSiNP S-Bpinの引張強さ及び靭性は、32MPa及び62.6MJm-3となった一方、30重量%の場合、26MPa及び40.01MJm-3を示した(図3B)。機械特性は、恐らく、未反応SiNPの凝集により、20重量%を超えるSiNP搭載量の場合、低下した。ヤング率もまた、SiNP搭載量と共に、顕著に向上した。例えば、SiNPを20重量%搭載したコンポジットの場合、SEBSのヤング率は14.5MPaから368MPaに向上した。
【0044】
ボロン酸エステルベースの架橋は、幅広い操作温度範囲を必要とする多数の用途にとって重要な、SEBSの実用幅を顕著に拡大する。動的機械分析(DMA)データ(図3C)は、ポリスチレンブロックのガラス転移温度(T)がSEBSにおいて約90℃から修飾SEBSにおいて約200℃まで大幅にシフトしていることを明確に示す一方、EBブロックの場合、Tの最小限の変化が観察された(-40から-30℃まで)。架橋SiNP S-BpinコンポジットのTは、恐らく、ポリスチレン鎖の移動性を妨害する、一層高度な架橋ネットワークの形成により、SiNP搭載量の増加と共に、さらにわずかに増大することを示す。例えば、20重量%のSiNPを搭載したコンポジットにおけるポリスチレンブロックのTは、5重量%のSiNP S-Bpinの場合、約204℃のTであることに比べて、211℃である。-30~200℃のゴム状平坦領域の範囲において、SiNPの搭載量に伴って貯蔵弾性率も向上する。図3Cに示されている通り、20重量%のSiNP S-Bpinコンポジットは、室温において、SEBS(126MPa)及びS-Bpin(221MPa)よりも高い貯蔵弾性率(553MPa)を示す。SiNP S-Bpin試料のDMA曲線(図3C)もまた、第2のT後に、第2の平坦領域を示し、シリカとポリマーマトリックスとの間に強力な動的共有結合性架橋が形成していることを示す。
【0045】
10重量%の架橋SiNP S-Bpin(図3D)及び20重量%のSiNP S-Bpinコンポジットにおけるボロン酸エステル交換の動的挙動が、2%の一定ひずみにおいて経時的に、高温(230~260℃)での応力減衰をモニタリングすることによる応力緩和実験において実証された。ボロン酸エステルのエステル交換の動的交換が、より高い温度において加速されるので、架橋SiNP S-Bpinコンポジットは、時間と共に実質的な応力減衰を示し、その応力緩和速度は、Tを超える温度と共に増加した(図3D)(Y. Chenら、ACS Appl.Mater.Interfaces、10、24224~24231、2018)。SiNP含有率がより高いと、架橋密度が向上し、トポロジーの再配置が妨害されるので、SiNPがより少ないコンポジットは、SiNPをより多く搭載した試料と比較すると、はるかに速い緩和を示した(Z.Wangら、Macromolecules、53、956~964、2020)。10重量%及び20重量%のSiNP S-Bpinの特徴的な緩和時間(τ)を、正規化後の緩和弾性率の1/e(37%)において求めた。250℃(35秒)における、10重量%のSiNP S-Bpinの緩和時間(τ)は、20重量%のSiNP S-Bpinの緩和時間(300秒)よりも8倍を超えて速く、これは、より多いSiNPが、より高度な架橋ネットワークを形成することを示唆しており、これによって、鎖の移動性が制限されて、結合の入れ替わりが妨害される。10重量%及び20重量%のSiNP S-Bpinの応力緩和の見かけの活性化エネルギー(E)は、緩和時間対温度プロットの近似曲線から得られる、150~170kJmol-1の範囲にある。この見かけ活性化エネルギーは、以前の研究(例えば、Y.Chenら、前記)において報告されたものより比較的高く、これは高分子量ブロックコポリマーマトリックスからの高密度架橋マイクロ相分離されたドメイン及び反応性会合性官能基の拡散の制限のためであり得る。
【0046】
ボロン酸エステル架橋ナノコンポジット試料は、B-O結合が切断及び再形成されるので、又はT超においてネットワークを再配列することによって、高温において簡単に再処理され得る。ポリマー(外側ブロック)のTは、約200~212℃であるので、ポリマー鎖の移動性及び再処理のためのネットワーク適応性を可能にするため、約215℃のTを超える高い温度が必要である。図3Eに概略的に示されている通り、コンポジットフィルムを小片に切断し、215℃及び約0.38MPaの圧力において2時間、再処理した。再加工性の有効性は、(図3F)に示される通り、引張応力及びひずみを含めた、再処理後の試料の機械特性を測定することによって評価した。再処理後の試料は、3回目のサイクル後の引張強さ及び破断点伸びがわずかに低下したことを示し、これは試料が野外条件において、高温で再処理されるので、熱酸化による可能性がある。TGA曲線は、高温での熱分解に対して高い安定性を示しており、FTIRスペクトルによって証明される通り、再処理時に化学組成は顕著に変化しなかった。架橋ナノコンポジット試料の再処理サイクルを3回、実施すると、シリケート表面とポリマーマトリックスとの間にB-O結合交換の動的性質があることが裏付けられる。再処理可能な架橋ポリマー材料として、これらのSiNP S-Bpinコンポジットを使用することができ、再使用可能な接着剤及び部品などの次世代サステイナブルハイブリッド材料として働くことができる。
【0047】
靭性接着剤の挙動
S-BpinはSiNP上のヒドロキシル基と動的共有結合を形成することができるので、本明細書において、S-Bpinは、ヒドロキシル末端表面と強力な接着力を示すと仮説を立てた。DFT計算を利用して、S-Bpinのホウ素エステル部分とヒドロキシル末端アルミニウム、鋼及びガラス表面との間の共有結合を調べた。一般に、ガラス表面は、Si-O-H基により終端されている一方、アルミニウム及び鋼金属は、それぞれ、Al-O-H及びFe-O-Hの酸化層で終端する。DFT計算により、共有結合が、単座形式又は二座形式のいずれかを介して、これらの表面すべてに見出されるヒドロキシル基と形成することができ、二座状態は、エネルギー的にそれほど有利ではなく、二座の幾何形状を形成するために、一層高い温度が必要であることが示される。S-BpinとSi-O-H、Al-O-H及びFe-O-Hとの単座結合は、72kJ/mol、16kJ/mol及び17kJ/molの結合エネルギーを有すると計算された。最終的な結合には、単座結合と二座結合の混合物が含まれる可能性があるが、いずれか一方のタイプの結合によって支配的となり得る。DFTの結果によれば、S-Bpinポリマーは、ヒドロキシ末端表面との強力な接着挙動を示すはずであり、ガラスへのより高い接着力は、一層強い結合エネルギー又はより多くのヒドロキシルへの接近が理由であるかのどちらか一方によるものと考えるのが妥当とすることができる。S-Bpinの接着特性を実験的に検討するため、ASTM D1002の修正版に従って、最初に重なり部の表面積(12mm×12mm)144mmを有するアルミニウム(Al)表面に対して重ねせん断接着試験を実施した。S-Bpinは、4MPaの重ねせん断強度を示したが、Al基材上のSEBSの重ねせん断強度は、2.5MPaであった。SEBSは、ホットメルト感圧接着剤として広く使用されており、DFT計算によって予測される通り、S-Bpinの接着力の改善は、S-Bpinは、SEBSと比べてAlと一層強い相互作用を有することを示す。Al上のS-Bpinの場合、結合強度は改善されたが、接合部に凝集破壊が観察された。SiNPを添加すると、物理的相互作用(例えば、水素結合又はファンデルワールス相互作用)及び動的共有結合性架橋の組合せによって、問題が軽減されて、S-Bpinの凝集力が改善される。
【0048】
10重量%のSiNP S-Bpinコンポジットの接着力を、硬化時間、加工温度及び接着剤の量の影響を理解するために、最初にAl表面を使用して検討した。濃度100mg/mLを有するTHF溶液中のSiNP S-Bpinコンポジットを、Al表面の上部に直接、置き、次に別のAl表面をその上に置き、1分間一緒に保持し、真空下、120℃において4時間、乾燥させて、続いて重ねせん断強度を測定した。調製したままの10重量%のSiNP S-Bpinの接着強度は、約2.5MPaであった。この硬化条件において、SiNP S-Bpinコンポジットは、完全に硬化されておらず、基材上のヒドロキシルとの有効なホウ素エステル結合はもたらされず、むしろポリマー鎖が移動して容易にずれる。最適な硬化時間及び温度を探索するため、10重量%のSiNP S-Bpinコンポジットを、150℃(T未満)及び215℃(T超)という2つの温度に対して、約0.096MPaの接触圧力下、異なる硬化時間を用いて試験した(図4A)。硬化温度が150℃の場合、硬化時間が長いほど、重ねせん断強度が向上した。対照的に、重ねせん断強度は、215℃において、2時間の硬化後に最大接着値に達し、2時間を超える硬化の場合、低下した。215℃において、ポリマー鎖は再配列し、2時間時に、最適硬化に到達し、動的ネットワーク適応性及び良好な表面の濡れ性を増強する化学的相互作用(動的B-O結合)及び物理的相互作用(水素結合又はファンデルワールス相互作用)を活性化することにより、一層強力な接着力がもたらされる。Tを超える温度はまた、動的結合の交換を可能にし、ヒドロキシ末端表面と共により優れた接着層が生成する。2時間を超える硬化は、材料を脆くして、接着強度が低下する恐れがある、過剰架橋又は部分酸化(わずかな色調変化から観察される)をもたらすことがある。一層優れた接着特性を得るために必要なコンポジット溶液の最少量も検討した。最大接着力は、10重量%のSiNP S-Bpinコンポジットの場合、濃度100mg/mLのコンポジット溶液200~300uLの場合に得られた。したがって、その後の接着試験はすべて、144mmの面積上に100mg/mLの溶液を200uL使用して行い、215℃において2時間、硬化させた。
【0049】
様々なSiNP搭載量を有するSiNP S-BpinコンポジットのAl表面上の重ねせん断接着力は、延性及び強度のバランスに良好に対応しており、すなわち、接着特性は、向上した機械特性(例えば、弾性率など)と良好に相関する。重ねせん断強度は、SiNP搭載量が0~20重量%に増加するにつれて、4MPaから10.4MPaまで向上したが、SiNP搭載量が20重量%を超えると低下し、上記のことは、ポリマーの強延性接着特性を達成するための最適な架橋密度であることを示している(図4B)。接着破壊をもたらす10及び20重量%の試料の強い凝集性において観察される通り、SiNPを増量すると、材料の全体的な機械的強度及び凝集力が向上する機械弾性率が改善される(図4C)。SiNPの搭載量が20%を超えると、延性及び凝集力の低下は、接着特性の低下をもたらす。動作条件における弾性率は、接着剤の重ねせん断強度に重要な役割を果たす(例えば、J.Y.Chungら、H.Adhes.、81、1119~1145、2005)。動作条件におけるより高い弾性率は、重ねせん断強度の向上に一般に寄与する。例えば、重ねせん断強度は、5重量%のSiNP S-Bpinにおいて5.8MPaから、10重量%のSiNP S-Bpinにおいて7.9MPaまで向上し、それに対応して、ヤング率も249.5MPaから288MPaまで向上する。さらに、20重量%の試料は、室温において非常に高い貯蔵弾性率(553MPa)及びヤング率(368MPa)を示し、高温(215℃超)では、より強力な接着結合に有利となる低い弾性率を示した。20重量%のSiNP S-Bpin試料は、より高い機械的弾性率を示すだけではなく、接着力及び凝集力の最適なバランスも実現し、この場合、図4Cに示されている通り、同時に起こる接着破壊及び凝集破壊は、通常、最も高い接着強度に相当する。20重量%のSiNP SEBSの重ねせん断接着力も測定し、20重量%のSiNP S-Bpinと比べた、表面化学結合の相対寄与を検討した。20重量%のSiNP S-Bpinの重ねせん断接着力は、20重量%のSiNP SEBSの重ねせん断接着力よりもほぼ3倍高く(図4B)、これは、ヒドロキシ末端表面との動的B-O結合の形成による強い寄与であることを明確に示す。
【0050】
これらのSiNP S-Bpinコンポジット接着剤の卓越した靭性は、力-延伸曲線において観察され、S-Bpin及びすべてのSiNP S-Bpinに関する曲線は、急激な上昇を示しており、その後、破壊するまで徐々に力が増加しており、このことは、延性、塑性挙動の存在を示唆するものである。このようなタイプの延性接着剤の挙動は、市販の接着剤において、これまで達成され得なかった。力-延伸曲線下の積分面積は、剥離の仕事量又は接着の仕事量として、すなわち接着接合部を破壊するために必要なエネルギーとして定義される(図4D)。すべてのSiNP S-Bpinコンポジットに関する剥離の仕事量を計算し、SEBS、20重量%のSiNP SEBS及びS-Bpinと比較した(図4E)。20重量%のSiNP S-Bpinの剥離の仕事量は、733.96±71.58Nm-1であり、SEBSの剥離の仕事量(157.25Nm-1)よりもほぼ5倍高く、20重量%のSiNP SEBSの剥離の仕事量(211Nm-1)及び市販のJ-B Weldエポキシベースの接着剤の剥離の仕事量(226.4Nm-1)よりも3倍を超えて高い(図4E)。既存の市販接着剤の大部分は脆く、それらに、剥離の仕事量に関する一層低い値を与える。SiNPのS-Bpinへの組み込みにより、延伸性、剥離の仕事量及び接着剤の全体的な靭性を失うことなく、弾性率の向上がもたらされる。SEBSの修飾及びSiNPのS-Bpinへの導入は、ヒドロキシル末端表面と強力な動的B-O共有結合を形成することができるので、靭性、接着強度及び剥離の仕事量の増大は、SEBSの修飾及びSiNPのS-Bpinへの導入後にしか達成されなかった。さらに、トリブロックコポリマーのEBブロックは、機械的応力を分散させて、突然の破損を防ぐ。対照的に、ボロン酸エステル官能化ポリスチレンホモポリマーはあまりにも脆く、したがって、接着力を測定することができず、これはまた、靭性接着剤をもたらすためのトリブロックコポリマー構造の重要性も示している。これらの強靭なSiNP S-Bpinコンポジット接着剤は、機械的応力を接合部全体に分散して、突然の破壊を予防することができるので、構造的用途に適用され得る。これらの靭性接着剤は、長期持続性の高い耐荷重能を実現し、多くの用途において、接着剤の早すぎる接着破壊を防止する。
【0051】
SiNP S-Bpinコンポジットは、様々な表面に対して多用途の接着力を示す。鋼表面上の重ねせん断接着試験の結果は、Al表面の結果と同様の傾向を示した(図4F)。力対延伸曲線から分かる通り、20重量%のSiNP S-Bpinコンポジットは、鋼表面において、強靭な接着性能を示し、重ねせん断接着力及び剥離の仕事量は、それぞれ、10MPa及び1103Nm-1に到達した。ガラス表面の場合、最初に、重ねせん断接着試験を、215℃において2時間、硬化させた後に、50μLのコンポジット溶液を使用して、(14mm×6mm)84mmの接着接合部を用いて行った。重ねせん断結果(図5A)は、S-Bpin及びSiNP S-Bpinコンポジット試料が、ガラス表面に非常に強力な接着力を有することを示しており、これはDFTによって計算された強力な結合と一致する。
【0052】
5重量%を超えるSiNP搭載量を有するナノコンポジットは、毎回、ガラス基材を破壊する、強すぎる接着力を示したが、接着剤の結合は無傷のままであった(図5B)。この問題を解決するために、接着接合部を破壊するために必要な力を低下させる、より小さな面積の接着剤を使用した。最近、粘着性ポリマーフィルムを利用して、ガラス基材上の非常に小さな面積に関する接着を試験しており(E.Cudjoeら、ACS Appl.Mater.Interfaces、10、30723~30731、2018)、接着剤溶液の場合、より小さな接着面積を制御するのが困難であるため、この方法を本明細書において使用した。重ねせん断接着力は、約25~30μmの一定のフィルム厚さを有する、(6mm×6mm)36mm及び(3mm×3mm)9mmのコンポジットフィルムを使用して測定した。SiNP S-Bpinコンポジットフィルムを2枚のガラスシートの間に置き(図5C)、一定圧力(1.38MPa)を用いて、215℃において2時間、高温圧縮した。9mmの接着済み試料は、接着破壊を示した一方、36mmの結合面積は、依然としてガラス側の破損(構造破壊)をもたらした。SiNP S-Bpinコンポジットは、ガラス基材上で著しく強力な結合を示し、SiNP搭載量が増加するにつれて、接着強度の増大が達成された。Al及び鋼の表面と同様に、20重量%のSiNP試料の場合、最大重ねせん断接着力が得られ、これは、前例のない値である39.6±3.2MPaの値に相当した(図5D)。ガラスの接着強度を金属の接着強度と比較するために、9mmのより小さな面積を有する20重量%のSiNP S-Bpinコンポジット乾式接着剤フィルムの接着挙動を、同じ手順によって、Al及び鋼表面に対して測定した。Al表面及び鋼表面上の重ねせん断強度は、それぞれ、25.01MPa及び28.54MPaであり、これは、ガラス表面上の接着力(39.6MPa)よりも10MPaを超えて低い(図5E)。とりわけ、36mm及び9mmの異なる接着表面積の重ねせん断接着強度には、わずかな違いを示す。ガラス上での並外れた強力な接着力は、ホウ素エステルとの共有結合を引き起こすヒドロキシル基の存在、及びポリマーナノコンポジットのヒドロキシル基とガラス表面との間にさらなる水素結合が形成される可能性によるものである。ガラス表面は、所与の面積あたりのヒドロキシル基の密度が一層高く、より強力な接着をもたらす。さらに、ガラスの表面エネルギーは金属よりも高く、このため、濡れ性の向上、及び一層高い接着強度をもたらすことができる。
【0053】
従来の構造用接着剤は、非可逆的な接着力を有する単回使用向け接着剤であり、剥離する際に、強力な接着剤の残留物がやはり残る。ここで、SiNP S-Bpinコンポジットベースの接着剤は、ボロン酸エステルベースの動的共有結合の存在により、完全に剥離した後でさえも再接合され得る。動的B-O結合により、再結合が可能になり、エネルギー又は機械的応力を散逸する一助となる。これは、開発された接着剤の重要な側面であり、なぜなら、エポキシ及びシアノアクリレートベースの瞬間接着剤などの従来の接着剤は、永久に架橋された物質から作製されるので再結合することができないためである。再結合能は、室温において重ね接合部を破壊し、215℃において、Al表面に再結合するという順序の繰り返しによって検討した。図5F及び5Gに示されている通り、20重量%のSiNP S-Bpinコンポジット試料(溶液及び乾燥体)は、3回目の再結合サイクル後でさえも、重ねせん断接着力の有利な保持を示した。
【0054】
【表1】
【0055】
実際の用途向けのバイオミメティック多相コンポジットベースの接着剤の有効性を評価するため、それらの接着強度を、広く使用されている市販の接着剤(表1)及び最近報告された動的ポリマーベースの接着剤(図5H)と比較した。典型的な溶融接着剤SEBSに加え、Loctite super glue(シアノアクリレートエチル)、J-B Weld(エポキシ)、Gorilla Glue(ポリウレタン)、Elmer’s Glue(ポリ酢酸ビニル)を含む、4種の異なるタイプの代表的な接着剤の重ねせん断接着力を、(12mm×12mm)144mmの接着面積を有するAl、鋼及びガラスの表面に対して試験し、この場合、2種の基材を、製造業者の推奨手順に従い、室温(23℃)において接合した。表1に示される接着結果により、SiNP S-Bpinコンポジットベースの接着剤が、市販の接着剤、及び動的共有結合を有する報告されている大部分の接着剤と比べて、かなり一層大きな接着強度を示すことが実証される(図5H)。特に、20重量%のSiNP S-Bpinコンポジットをベースとする乾式接着剤の接着特性は、これら4つの市販接着剤を大幅に上回り、Al(8.66MPa)及び鋼(11.4MPa)表面(図5I及び表1)に対して、95℃において、非常に強力な重ねせん断接着力をやはり維持しており、これは、Al表面では1.73MPa及び鋼表面では2.04MPaとなる、代表的な熱硬化性接着剤であるJ-B Weldの重ねせん断接着力よりも約5倍高い。とりわけ、SEBS及びElmerの接着剤を含めた他の市販接着剤は、95℃におけるそれらの重ねせん断接着強度が弱すぎて測定不可であったので、95℃では測定することができなかった。SiNP S-Bpinコンポジットの高温での高い接着強度は、高温における強力な結合の維持を必要とする、多数の用途に展開することができる。
【0056】
多相コンポジットの再結合能力を備える非常に強力かつ靭性の接着剤は、この検討に使用したバイオミメティック戦略の大きな可能性を示す。図5Jは、SiNP S-Bpinコンポジット接着剤に関する接着の考えられる機構を概略的に提案している。この機構は、ヒドロキシ末端基材と接着剤との間のムール貝模倣動的化学結合(B-O結合)及び物理結合(H結合又はファンデルワールス相互作用)によって機能し得る。このような動的物理的及び化学的結合により、巨視的及び微視的スケールにおける表面接触が促進され、これによって、接着強度の向上がもたらされる。さらに、トリブロック構造体と連結した、マトリックス内及び基材表面との動的共有結合性相互作用の存在を含めた真珠層疑似多相コンポジット構造体は、このような強力かつ強靭な接着を実現した。市販接着剤と比較して、S-Bpinコンポジットの接着強度が高いことはまた、接着材料の新しい設計として動的可逆結合を有するバイオミメティック多相コンポジットの有効性を示唆する。
【0057】
様々な充填剤との適応性
この検討は、S-Bpin上のボロン酸エステルが、様々な充填剤の表面上のヒドロキシ基と容易に架橋され得ることを実証した。したがって、この概念は、SiNPを超えて適用可能であるはずである。S-Bpin又はボロン酸エステル官能化ポリマーの可能性を一般に、さらに実証するため、表面にヒドロキシル基を有する他の充填剤をS-Bpinに配合した。3Mガラスビーズ(直径20~40μm)、ガラス繊維(直径11~14μm)、セルロース微結晶(20μmのサイズ)及びセルロースマイクロ繊維(中サイズ)を含む、数μmサイズの充填剤2.5重量%及び5重量%を、S-Bpinの100mg/mLのTHF溶液に分散させることにより、4つのタイプのS-Bpinベースのコンポジットを合成した。一層多量の搭載量の充填剤を完全に分散させることができないため、これらのコンポジットを製造するために、限定量の充填剤を配合した。SiNPと同様に、これらの充填剤もヒドロキシル基を有するので、これらの充填剤はまた、ホウ素のエステル交換反応を介して、S-Bpinと共有結合性架橋を形成する可能性が高い。これらの充填剤を含むコンポジットはまた、S-Bpinの引張強さに比べ、破断点伸びのわずかな低下を伴って、かなり一層高い引張強さを示した。最適化条件に従い、コンポジットフィルムと溶液の両方を使用して、Al基材における重ねせん断接着力を測定した。重ねせん断接着力の結果により、すべての充填剤が、Al表面における強力な接着特性(例えば、5~20MPa)を示す一方、その値は、恐らく、マイクロメートルスケールの充填剤を含むコンポジットよりもSiNP試料の方が良好な分散性及び大きな表面積であるため、SiNPの値より小さかったことが示される。
【0058】
結論
本開示は、再加工性を有する並外れて強靭な接着剤を調製するためのバイオミメティック多相設計戦略を実証した。汎用熱可塑性エラストマーであるSEBSに、動的ボロン酸エステルベースの官能基を組み込むと、多様な充填剤及び基材の表面にヒドロキシル基と動的に交換可能な共有結合が形成され、これは、DFT計算によってさらに裏付けられた。SiNPとS-Bpinマトリックスとの間の動的相互作用により、トリブロックコポリマーネットワークが強化され、再利用性を維持しながら、引張強さ、靭性及び温度実用範囲が大幅に強化された。様々な酸化物表面におけるヒドロキシル基との明らかにされた動的相互作用と連携した、それらの機械的ロバスト性は、接着強度、靭性及び剥離エネルギーの増強をもたらした。とりわけ、20重量%のSiNP S-Bpinコンポジットは、凝集力と接着力との間のバランスを実現し、Al、鋼及びガラス表面との著しく強力な接着力と剥離の仕事量を示す。SiNP充填剤を用いる、SEBS構造体と連結した動的ホウ素エステル官能化により、著しく強力かつ靭性の接着剤(例えば、図1中のデータ)をもたらし、これは、耐荷重性の靭性接着剤の調製の直接的手法をもたらす。この検討における室温及び高温の両方における、前例のない強靭な接着特性は、多数の既存の市販接着剤の特性を凌ぐ。
【0059】
現在、本発明の好ましい実施形態と考えられるものを示し、説明してきたが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲内に留まる様々な変更及び修正を行うことができる。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A-3B】
図3C-3D】
図3E-3F】
図4A-4B】
図4C
図4D-4F】
図5A-5D】
図5E-5G】
図5H-5J】
【国際調査報告】