(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】サブマイクロメートル領域の表面特性を記録するため又は表面構造を修正するための測定プローブを加工するための方法、及び測定プローブ
(51)【国際特許分類】
G01Q 70/18 20100101AFI20240711BHJP
【FI】
G01Q70/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503639
(86)(22)【出願日】2022-07-20
(85)【翻訳文提出日】2024-03-12
(86)【国際出願番号】 EP2022070414
(87)【国際公開番号】W WO2023001920
(87)【国際公開日】2023-01-26
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591157202
【氏名又は名称】ヘルムホルツ-ツェントルム ベルリン フュア マテリアリエン ウント エナギー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Helmholtz-Zentrum Berlin fuer Materialien und Energie GmbH
【住所又は居所原語表記】Hahn-Meitner-Platz 1,D-14109 Berlin,Germany
(71)【出願人】
【識別番号】500449363
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト ツール フェルデルンク デル ヴィッセンシャフテン エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】クレイ,クリストファー セイジ
(72)【発明者】
【氏名】ムンツ,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ロルダン クエンヤ,ベアトリス
(57)【要約】
本発明は、サブマイクロメートル領域における表面特性の検出又は表面構造の修正を目的とする測定プローブを加工するための方法に関する。この方法は、以下の工程を含む。第1に、光ビーム又は電子ビームによって重合可能な分子を含有する前駆物質と;少なくとも1つの支持体と、前記支持体と反対側に上端部を有する先端部とを備える測定プローブと;前駆物質の重合に少なくとも必要なエネルギー入力を満たす波長及び強度を備える光ビーム又は電子ビームを放出するための光源又は電子源と;光源又は電子源の可変の配置のための手段と;制御ファイルと;電子データ処理システムと、を提供する工程であって、ここで前記制御ファイルは、前記測定プローブの表面の少なくとも一部分を記述し、かつ前記光源又は電子源の位置の変化を制御する役割を果たす。次の工程では、前記測定プローブを前記前駆物質でカバーし、前記測定プローブを光ビーム又は電子ビームのビーム路に配置する工程であって、ここで前記前駆物質は、前記測定プローブの先端部を除外して、互いが接触し、かつ制御ファイルで指定される複数の位置で、光ビーム又は電子ビームに露光される。次いで、前記前駆物質の未露光領域を、水又は溶剤浴、あるいは制御された空気流又はガス流によって除去する工程であって、必要に応じて、露光によって重合した領域を最終的に現像する。本発明はまた、本発明の方法を用いて製造される測定プローブも含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブマイクロメートル領域において表面特性を検出するため又は表面構造を修正するための測定プローブを加工するための方法であって、少なくとも以下の工程:
光ビーム又は電子ビームによって重合することが可能な分子を含有する前駆物質;
少なくとも1つの支持体と、支持体の反対側に上端部を有する先端部とを備える、測定プローブ;
前駆物質の重合に必要とされる最小のエネルギー入力を満たす波長及び強度を有する光ビーム又は電子ビームを放出するための光源又は電子源;
光源又は電子源の可変の配置のための手段;
制御ファイル及び電子データ処理システムであり、制御ファイルは測定プローブの表面の少なくとも一部分を記載し、かつ光源又は電子源の位置の変化を制御する役割を果たす、前記制御ファイル及び電子データ処理システム;
を提供する工程;
測定プローブを前駆物質で被覆して、かつ光ビーム又は電子ビームのビーム路内に測定プローブを配置する工程;
測定プローブの先端部を除外して、制御ファイルにて指定される複数の接触位置で光ビーム又は電子ビームにより前駆物質を露光する工程、及びその後に
水槽若しくは溶媒槽、又は制御される空気流若しくはガス流を使用して、前駆物質の未露光領域を除去する工程、
を含む、前記方法。
【請求項2】
測定プローブは、少なくとも先端部とばね梁とを備える、カンチレバーの形態で提供されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
測定プローブの先端部はワイヤーから形成され、かつ支持体はワイヤーを取り囲むプラットフォームを形成することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
提供される測定プローブの先端部は、少なくとも支持体と反対側の端部において伝導性であり、かつ測定プローブは、先端部に適用される電流又は電圧をタップするために装着されていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前駆物質は添加剤の混合物中で混合され、添加剤はポリマーに、電気伝導性、磁化性、機械的高安定性若しくは剛性、熱高安定性、又は透明性及び反射性などの光学特性、又は(電気)触媒活性又は電気化学的センサー技術への適合性の特性のうちの少なくとも1つを付与するのに適していることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前駆物質の添加剤はナノスケールの充填剤の形態であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
先端部の伝導性部分は、ドープシリコン、アルミニウム、金、イリジウム、銅、白金、銀、銅、タングステン、窒化チタン、炭化タングステン、又はドープダイヤモンドからなる群からの材料から少なくとも部分的に形成されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前駆物質は、光重合性樹脂として、アクリレート、エポキシ樹脂、フルオロカーボン、フェノール樹脂、アミド、エステル、イミド、スチレン、(ポリ)スルフィド、ウレタン、ビニル、シリコーン、キシリレン(パリレンを含む)、UV硬化性ジメチルシロキサン、及びカルバメート/メタクリレートの化合物類の群のうちの少なくとも1つを含有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
光ビーム又は電子ビームによる前駆物質の混合物の露光は、制御ファイルにおいて指定される複数の接触位置にて、かつ測定プローブの先端部が除外されて実施され、制御ファイルにおいて特定される位置は、特にマイクロ流体用の流路状の空洞が形成されるように、連続領域において測定プローブの表面から部分的に間隔をあけて配置されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前駆物質は、二光子重合としてレーザービームにより重合されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
サブマイクロメートル領域の表面特性を検出するため、又は表面構造を修正するための測定プローブであって、少なくとも支持体と先端部とを備え、
測定プローブは、光重合によって光ビーム又は電子ビームにより重合可能な前駆物質から形成されるポリマーにより、先端部の一部分を除外して、少なくとも部分的にコーティングされていることを特徴とする、前記測定プローブ。
【請求項12】
ポリマーは、前駆物質として、光重合可能な樹脂である、アクリレート、エポキシ樹脂、フルオロカーボン、フェノール樹脂、アミド、エステル、イミド、スチレン、(ポリ)スルフィド、ウレタン、ビニル、シリコーン、キシリレン(パリレンを含む)、UV硬化性ジメチルシロキサン、及びカルバメート/メタクリレートの群からの樹脂の光重合生成物として形成されていることを特徴とする、請求項10に記載の測定プローブ。
【請求項13】
マイクロ流体用の流路状の空洞は、光重合によって光ビーム又は電子ビームによって重合可能な前駆物質から形成されるポリマーによって、測定プローブ上に形成されていることを特徴とする、請求項10又は11に記載の測定プローブ。
【請求項14】
測定プローブは、カンチレバーとしてもたらされ、かつカンチレバーには電流又は電圧をタップする手段として導体路が設けられ、その幅はカンチレバーのばね梁の全幅よりも狭いことを特徴とする、請求項10に記載の測定プローブ。
【請求項15】
先端部の上端部は除外されて、カンチレバーの先端側表面のみがコーティングされ、カンチレバーのエッジ面はコーティングされていないことを特徴とする、請求項11に記載の測定プローブ。
【請求項16】
測定プローブには、電気伝導性ポリマーから形成される少なくとも1つの導体路が設けられ、かつここで、光ビーム又は電子ビームによって重合することが可能な前駆物質から形成されており、かつ電気伝導性添加剤が添加されている電気伝導性ポリマーは、光重合によって形成されていることを特徴とする、請求項10に記載の測定プローブ。
【請求項17】
測定プローブは、光ビーム又は電子ビームによって重合することが可能な前駆物質から光重合によって形成され、かつ電気伝導性添加剤が添加されている電気伝導性ポリマーにより少なくとも先端側表面においてコーティングされており、この伝導性層は、光ビーム又は電子ビームによって重合することが可能な前駆物質から光重合によって形成され、かつ少なくとも1つの添加剤が添加されているポリマーにより少なくとも部分的にかつ先端部の部分を除外して順次的にコーティングされていることを特徴とする、請求項16に記載の測定プローブ。
【請求項18】
予め堆積される電気伝導性ポリマーの下層上の連続層として設計されていない機能化されたポリマー中の金又は銀のナノ粒子は、測定プローブに振動分光法での使用、特にラマン分光法での使用に適合性をもたらすことを特徴とする、請求項17に記載の測定プローブ。
【請求項19】
先端部はワイヤーで形成され、かつ支持部はワイヤーを取り囲むプラットフォームを形成することを特徴とする、請求項10に記載の測定プローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面特性を検出するため、又は表面構造を修正するための測定プローブを、特に例えば走査型プローブ顕微鏡で与えられるようなサブマイクロメートル領域の分解能で、加工するための方法、及び本発明の方法による測定プローブに関し、この測定プローブは、例えば、凝縮物質の表面の電気的特性、化学的特性、光電気化学的特性、及び触媒的特性を特性評価するため、又は特に固体表面におけるそれらの局所的修正に使用される。
【背景技術】
【0002】
例えば、原子間力顕微鏡(atomic force microscopy:AFM)、走査型トンネル顕微鏡(scanning tunneling microscopy:STM)、走査型電気化学顕微鏡(scanning electrochemical microscopy:SECM)を含む走査型プローブ顕微鏡(scanning probe microscopy:SPM)などにおいて、特にサブマイクロメートル領域における表面特性を検出するために、請求項1に記載の種類の測定プローブが使用される。それらは主に、ばね梁(Federbalken)からなり、ばね梁はそれに配置される先端部を有して片側で支持されることが可能であり、先端部はばね梁の自由端近く(つまり支持部の反対側)に位置する。いわゆる先端部は、主に円錐形又は角錐形の本体から形成され、ばね梁の表面と一致する底面上に高さを有し、ばね梁への取り付け部の反対側に位置する上端部を有する。ばね梁と先端部とは一体型、すなわちモノリシックに製造することもでき、又は複数の部品、通常、すなわちばね梁と先端部の2つで構成することもできる。ばね梁と先端部との全体をカンチレバーと呼び、より特にAFMカンチレバー(AFMばね梁)とも呼ぶ。しかしながら、本発明が対象とする測定プローブは、カンチレバー上に配置されないが、別の支持体に配置される先端部を有するもの、又は先端部が支持体自体から機械加工されるものであることも可能である。
【0003】
I.W.Rangelowの論文1(Scanning proximity probes for nanoscience and nanofabrication,Microelectronic Engineering,Vol.83,2006,1449-1455)で示されるとおり、表面特性を高分解能、高感度、及び定量的な記録のためには、測定プローブの特性及び特殊な用途向けの修正が極めて重要である。SPMを用いた凝縮物質(固体及び液体)の電気的特性の特性評価の大部分は、AFM法についてはR.A.Oliverによる論文2(Advances in AFM for the electrical characterization of semiconductors,Rep.Prog.Phys.,Vol.71,2008,076501(37pp))で記載されるとおり、大気中又は真空中で行われる。AFM及びSTMを用いた、液体中の固体表面の電気的、電気化学的、及び触媒的な特性、並びに光電気的、光電気化学的、及び光触媒的な特性の特性評価は、生物学、医学、又は化学の分野での応用において特に興味深い。この例は、P.L.T.M.Frederixらによる論文3(Assessment of insulated conductive cantilevers for biology and electrochemistry,Nanotechnology,Vol.16(2005)997-1005)に示される。後者の応用分野では、適切な測定プローブの設計及び製造に特別な要求が課される。
【0004】
固液界面の特性評価に加え、測定プローブ、特にカンチレバーは、例えばマイクロ/ナノリソグラフィなどの表面の操作にも使用される。カンチレバーの先端部は、例えば、指定された表面構造を作成するために表面から個々の原子を移動又は除去するために使用される。これは、先端部と試料との接触において電気化学的相互作用をもたらすことを条件に、引っ掻き又は彫り込みによって、又は例えば電圧を印加することによって、純粋に機械的に実現することができる。しかしながら、カンチレバーは、A.Meisterらの論文4(FluidFM:Combining atomic force microscopy and nanofluidics in a universal liquid delivery system for single cell applications and beyond,Nano Letters,Vol.9,No.6,2009,2501-2507)に記載されるとおり、リソグラフィープロセスを実行するためのマイクロ流体流路などの特別な追加の構成要素を備えることもできる。
【0005】
液中も含めた固体表面の電気的、化学的、及び/又は(光)電気化学的、及び(光)触媒的な特性を特性評価するためのAFM及びSTMの使用は、触媒、電池、及び太陽光発電の研究、並びに電気化学センサーの表面の開発において特に興味深い。この用途では、使用される測定プローブは少なくとも先端部が電気伝導性でなければならず、かつ先端部により検出されるべき電圧又は電流をタップする電圧タップ/電流伝導のための適切な手段を備えていなければならない。最も単純なケースでは、カンチレバー全体(つまり先端部及びばね梁を備えるもの)が、適切な材料を使用することで伝導性を持つように設計される。リーク電流の発生を最小限に抑え、あるいはさらになくすために、ひいては伝導性先端部の空間分解能を向上させるだけでなく、測定感度と精度とを向上させるために、これらは先端部の末端までの領域で電気的に絶縁されている。このような電気的絶縁性を有する測定プローブの製造については、従来からいくつかの方法が提案されている。
【0006】
C.Kranzらの論文5(Integrating an ultramicroelectrode in an AFM cantilever:Combined technology for enhanced information,Analytical Chemistry,Vol.73,No.11,2001,2491-2500)では、窒化ケイ素製のカンチレバー(ばね梁及び先端部)の形態の測定プローブは、第1にRFスパッタ蒸着によりクロムによりコーティングされ、次に金によりコーティングされる方法が示される。したがって、この伝導性コーティングは、プラズマ化学気相成長法(plasma-enhanced chemical vapor deposition:PECVD)を用いて適用される窒化ケイ素の電気絶縁性コーティングにより提供される。3種のコーティングはすべてカンチレバーの先端部にも適用されている。カンチレバーの先端部の導電率を調整するために、その後に、集束イオンビーム(focused ion beam:FIB)を使用して数段階に分けてカンチレバーをトリミングする。このカンチレバーの製造プロセスの詳細な記載については、EP1 290 431 B1にも開示されている。
【0007】
I.V.Pobelovらによる論文6(Electrochemical current-sensing atomic force microscopy in conductive solutions,Nanotechnology,Vol.24,2013,115501 1-10)では、市販のカンチレバーに第1にTi/Au/Tiの層列を設け(スパッタ蒸着)、次に窒化ケイ素の層を設け、その後にクロムの最終層を設ける(PECVDによる)同様のアプローチが開示されている。ここでも先端部はコーティングされ、次いで集束イオンビームで露出させ、最後にウェットエッチングが施される。
【0008】
米国特許第2020/124636号A1には、2つの特別な特徴を持つ液中測定用カンチレバーが記載されている。最初に、電気的接続のためにリボンケーブルに接続されるカンチレバーを搭載するチップが解決アプローチに組み込まれる。リボンケーブルはまた、カンチレバーを扱うためのハンドルとしても設計されている。次に、Gorhamのプロセスを用いて、先端部を含むカンチレバーのポリマーであるパリレンCによる絶縁コーティングが記載される。Gorhamのプロセスでは、第1に出発ダイマーが熱分解チャンバーに通され、そこでモノマーに分解された後、冷却された基材に衝突し、その表面で重合が起こる。このプロセスは真空中で行われ、常にコーティング対象の物体全体に影響を及ぼす。特許明細書米国特許第2020/124636号A1ではおそらく説明されていないが、それ故、カンチレバーの先端部の上端部も該プロセス後にコーティングされ、その後、先端部の頂点と試料表面との間の電気伝導性接触を可能にするために、アブレーション法(レーザーアブレーション又はイオンビームカッティングなど)を用いてコーティングを除去しなければならない。Gorhamのプロセスは、B.J.Kim及びE.Mengによる論文7(Micromachining of Parylene C for bioMEMS,Polymer Advanced Technologies,Vol.27,2016,pp.564-576)に記載されている。
【0009】
代替としては、K.Yumらの論文8(Individidual Nanotube-Based Needle Nanoprobes for Electrochemical Studies in Picoliter Microenvironments,ACS Nano,Vol.1(5),2007,pp.440-448)に記載されているとおりに製造されるプローブを使用することである。ここでは、尖った金属ワイヤーの先端部にナノチューブが取り付けられている。その後、両者を金でコーティングし(スパッタ蒸着)、次いで電解重合によってポリマーの電気絶縁層でコーティングする。最後に、集束イオンビーム切断を用いてこの先端部を露出させる。
【0010】
固体又は液体の表面の電気的特性及び/又は電気化学的特性の特性評価のため、あるいはリソグラフィーなどの表面操作のための測定プローブの従来から知られている製造プロセスは、いくつかの工程からなるコーティングプロセスと、それに続く侵襲的な手順による測定プローブの先端の露出プロセスとを共通して有している。先端を露出させるプロセスは、品質が損なわれる高いリスクを伴い、さらにカンチレバーの先端部の頂点を失うリスクさえある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第2020/124636号A1
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】I.W.Rangelowの論文1(Scanning proximity probes for nanoscience and nanofabrication,Microelectronic Engineering,Vol.83,2006,1449-1455
【非特許文献2】R.A.Oliverの論文2(Advances in AFM for the electrical characterization of semiconductors,Rep.Prog.Phys.,Vol.71,2008,076501(37pp))
【非特許文献3】P.L.T.M.Frederixらによる論文3(Assessment of insulated conductive cantilevers for biology and electrochemistry,Nanotechnology,Vol.16(2005)997-1005)
【非特許文献4】A.Meisterらの論文4(FluidFM:Combining atomic force microscopy and nanofluidics in a universal liquid delivery system for single cell applications and beyond,Nano Letters,Vol.9,No.6,2009,2501-2507)
【非特許文献5】C.Kranzらの論文5(Integrating an ultramicroelectrode in an AFM cantilever:Combined technology for enhanced information,Analytical Chemistry,Vol.73,No.11,2001,2491-2500)
【非特許文献6】I.V.Pobelovらによる論文6(Electrochemical current-sensing atomic force microscopy in conductive solutions,Nanotechnology,Vol.24,2013,115501 1-10)
【非特許文献7】B.J.Kim及びE.Mengによる論文7(Micromachining of Parylene C for bioMEMS,Polymer Advanced Technologies,Vol.27,2016,pp.564-576)
【非特許文献8】K.Yumらの論文8(Individidual Nanotube-Based Needle Nanoprobes for Electrochemical Studies in Picoliter Microenvironments,ACS Nano,Vol.1(5),2007,pp.440-448)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
説明
本発明の課題は、従来技術から知られている方法の代替として、サブマイクロメートル領域における表面特性の検出又は表面構造の修正のための測定プローブを加工するための方法を提供することであり、この方法はまた、測定プローブの先端部により穏やかな、かつさらに簡略化及び差別化された機能化を可能にする。さらに、本発明の課題は、簡略化された様式で製造でき、差別化された様式で機能化できる測定プローブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この問題は、請求項1及び11の特徴によって解決される。有利な実施形態は従属請求項の主題である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の方法に従って加工されたカンチレバー形状の測定プローブの斜視図である。
【
図2】本発明の方法に従って加工された、導体路を有するカンチレバーの形態の測定プローブの斜視図である。
【
図3】本発明の方法に従って加工された、カンチレバーの形態で導体路及び追加の伝導性表面を有する測定プローブの概略図である。a)先端部の反対側のカンチレバー側の斜視図、及びb)カンチレバーの先端側の斜視図。
【
図4】本発明の方法に従って加工されたカンチレバーの形態の測定プローブの2つの断面(CS#1、CS#2)を含む概略図であり、カンチレバーの先端側表面に沿った2つのマイクロ流体流路、及びコーティングの上端部のエッジまでの先端シース(Spitzenmantels)の2つの側表面を含む。
【
図5】本発明の方法に従って加工された先端部及び支持体を有する測定プローブの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
サブマイクロメートル領域における表面特性の検出又は表面構造の修正のための測定プローブを加工するための本発明の方法は、少なくとも以下の工程を有する。
【0017】
第1の工程では、手順を実行するために必要な供給源、前駆物質、及び加工対象の測定プローブが提供される。提供の順序は、手順の実施に不可欠なものではなく、すなわち任意的なものである。
【0018】
詳細には、少なくとも以下のものが提供される。
【0019】
少なくとも1つの先端部と支持体とを備える測定プローブが提供され、先端部は支持体の反対側にある上端部を有する。測定プローブは、サブマイクロメートル領域の表面特性の検出又は表面構造の修正に適している。このために必要とされる設計は、当業者には十分に知られており、例えば本公開に記載される論文1~10及び12に見出すことができる。
【0020】
本発明の方法の一実施形態において、提供される測定プローブは、いわゆるカンチレバーであり、すなわち、先端部と支持体としてのばね梁とからなり、これはモノリシックに製造することも、又は複数の部品から構成することも可能である。
【0021】
カンチレバーは、走査型プローブ顕微鏡又はリソグラフィーのシステムで使用されるいずれのカンチレバーとすることができる。カンチレバーの長さは通常10μm~900μmであり、ばね梁に沿った長手方向に延在している。本発明の方法で使用するのに適したカンチレバーは、市販のものを購入するか、又はMEMS技術及び微細加工技術の適切な製造プロセス、例えばシリコンウェハーの異方性化学エッチング及び光ビーム又は電子ビームのリソグラフィーなどによって製造することができる。
【0022】
別の実施形態によれば、提供されるカンチレバーは、表面又は液体中の電流又は電圧を検出するように設計されており、ひいては表面の電気的、化学的、又は(光)電気化学的、及び(光)触媒的な特性を検出するように設計されている。この実施形態では、少なくとも先端部は、少なくとも部分的に、かつ少なくともその上端部において伝導性材料から形成されている。先端部に適用される電流又は電圧は、カンチレバーによってタップ可能である必要があり、つまり、導体路又はケーブルなど、電流を伝導/電圧をタップするための手段を提供する必要がある。最も簡略化したケースでは、カンチレバー全体は(先端部及びばね梁)伝導性材料で作られている。
【0023】
前述の実施形態のカンチレバーの電気伝導性部品が作られる材料は、最大102オーム・cmのオーダーの比抵抗を有する。この特性を満たし、かつカンチレバーの製造に有利に使用される材料は、一実施形態に対応するように、ドープシリコン、アルミニウム、金、銅、白金、銀、又はドープダイヤモンドからなる群からの材料である。あるいは、非伝導性又は弱伝導性の材料で作られるカンチレバーに、例えばドープダイヤモンド、金属(アルミニウム、金、イリジウム、白金、銀、銅、又はタングステンなど)、及びそれらの合金、又は窒化チタン(TiN)又は炭化タングステン(WC/W2C)などの金属化合物などの伝導性コーティングを設けることができる。
【0024】
本発明の方法のさらなる実施形態において、提供される測定プローブは、先端部と支持体とから形成され、先端部はワイヤーから形成され、支持体はワイヤーを備えるマイクロメートルスケールのプラットフォームから形成される。プラットフォームは、ワイヤーの長手方向軸がプラットフォームの平面に対して垂直になるようなリング状又は円盤状とすることができる。プラットフォームは電気絶縁材料でできており、(光)電気化学的に不活性である。プラットフォームと、尖った端部とは反対側のワイヤーの端部との間の領域では、例えば適切なポリマー分子を含有する溶液に部分的に浸漬するなど、従来のプロセスを使用して電気絶縁を生成することができる。マイクロメータースケールのプラットフォームを提供するために、例えばイオンビーム(集束イオンビーム(FIB)ミリング)又は化学エッチングなどによってワイヤー表面に制御されたミリングを施すことによって、ワイヤー上に配置される円盤の代わりに、一種の基部を製造することもできる。
【0025】
さらに、前駆物質として光ビーム又は電子ビームによって少なくとも重合可能な分子を含有する前駆物質が出発生成物として提供される。
【0026】
この前駆物質は、光線によって重合できるということに関して光重合性である。電磁放射線を照射することによって、このような前駆物質は物理化学的な変換を受ける(これは架橋度又は重合度が増加することを意味する)。重合性分子に加えて、このような前駆物質の混合物には光重合開始剤及び充填剤もまた含有される。物理化学的プロセスを活性化するためには、前駆物質の混合物のいわゆる露光しきい値超過という点で重合分子又は光重合開始剤によって決定される光子のエネルギー又は波長及び強度を必要とする。基礎となる物理化学的メカニズム及び材料要件、並びに必要な光重合開始剤、充填剤などは複雑かつ多様であり、例えばJ.V.CrivelloとE.Reichmanisの論文9(Photopolymer materials and processes for advanced technologies,Chemistry of Materials,Vol.26,2014,533-548)に記載されている。以下において、前駆物質の混合物について言及する場合、どの添加剤、特に光開始剤が重合に必要であり、どれが可能であるかについては、それぞれの場合について明示的には述べられていない。主な基質及び光開始剤に加えて、前駆物質の配合はまた、例えば、X.Zhangらによる論文10(Acrylate-based photosensitive resin for stereolithographic three-dimensional printing,J.Appl.Polym.Sci.2019,47487)に記載されているとおり、反応性希釈剤及び架橋活性添加剤を含有することもできる。当業者は従来技術を参照することが本明細書にて言及される。
【0027】
前駆物質は、電子ビームのエネルギー入力を介して重合する分子によっても与えられ得る。この場合、重合は電離放射線によって生成される開始剤の効果によって引き起こされる。開始剤はフリーラジカル及び電子ビームによって発生するラジカルイオンであり、それによるイオン対の形成も重要である。電磁波による重合の場合の開始剤と同様に、反応をサポートするために容易に分解する添加剤を加えることもできる。しかしながら、これは、電子ビームの電離作用とそれに伴うフリーラジカルの発生により通常は不要である。
【0028】
前駆物質による測定プローブのコーティングは、本方法の次の工程において、前駆物質又は前駆物質の混合物の液体製剤に浸漬するか、又はそれで被覆するか、又は噴霧、散布、印刷(インク印刷)、又はその他の適切な方法によって実施する。コーティングは、測定プローブの配置(さらなる工程)の後にのみ実施してもよい。提供される測定プローブは、前駆物質の混合物で少なくとも部分的にコーティングされる。
【0029】
特定の用途に適した前駆物質の選択は、それでコーティングされる測定プローブに対する特別な必要条件に依存する。本方法による測定プローブの必要条件としては、重合後に電気絶縁性である本方法の前駆物質の混合物を選択することが有利である。この電気的絶縁性には、リーク電流を最小化、あるいはさらになくし、表面の特性評価時の空間分解能を向上させるだけでなく、測定の感度と精度とを高めるために、先端部の上端部を除いて、先端部の絶縁性を必要とする。108Ω・cm以上の比抵抗を持つ材料はすべて、本発明の意味で電気絶縁性があるとみなされる。適切な前駆物質又は前駆物質の混合物を選択するためのさらなる基本的な基準は、重合又は架橋反応の過程における収縮挙動と、温度及び周囲の媒質など、及びここではまた特に広いpH範囲に関する周囲条件に応じて得られるポリマーの構造安定性である。
【0030】
また、例えばZ.SekkatとS.Kawataによる論文11b(下記参照)に記載されているとおり、光誘起物質輸送のための前駆物質の追加的な使用も本発明に利用可能である。
【0031】
前駆物質による測定プローブのコーティングは、少なくとも、重合によって形成されるポリマーの層厚が少なくとも10nmを確保する層厚で実施される。
【0032】
次の実施形態では、前駆物質の混合物は、光重合性樹脂として、以下の化合物類からなる群から選択されるものを含むことが有利である:アクリレート、エポキシ樹脂、フルオロカーボン、フェノール樹脂、アミド、エステル、イミド、スチレン、(ポリ)スルフィド、ウレタン、ビニル、シリコーン、キシリレン(パリレンを含む)、UV硬化性ジメチルシロキサン、及びカルバメート/メタクリレートベースの化合物。アクリレートの中でも、特に多官能アクリレートモノマーを挙げるべきであり、例えば「ペンタエリスリトールテトラアクリレート」及び「ペンタエリスリトールトリアクリレート」などが挙げられる。エポキシ樹脂の例としては、基の官能性が8のビスフェノール-A-ノボラックがある。
【0033】
一実施形態に同様に対応するように、測定プローブの意図される用途に応じて、重合生成物としての電気絶縁性ポリマーの代わりに、1つ又は複数の分子成分と、場合によってはナノ粒子などのナノスケール又はマイクロスケールの充填剤とを含む前駆物質の混合物を、測定用プローブのコーティングに選択することもでき、一実施形態によれば、このような添加剤は、電気伝導性、磁化性、機械的高安定性若しくは剛性、熱高安定性、又は透明性若しくは反射性などの光学的特性、又は(電気)触媒活性、又は光電気化学センシングを含む電気化学センシングの適性のうちのいずれかの特性を生成物に付与する。金又は銀などのナノ粒子を加えることで、適切な条件下で表面プラズモン、特に局在表面プラズモンポラリトン(localized surface plasmon polariton:LSPP)又は伝播表面プラズモンポラリトン(propagating surface plasmon polariton:PSPP)の形成を可能にする金属ナノ構造を持つポリマーを製造することもできる。このように機能化されたポリマーは、本方法による測定プローブに、振動分光法に対する機能性、特にラマン分光法、特に表面増強ラマン分光法(surface enhanced Raman spectroscopy:SERS)、及びプラズモン増強触媒作用に対する機能性を与える。測定プローブがこのような優れた前駆物質の混合物を用いて、しかも選択される位置にてコーティングされる場合、例えばプロセスの重合工程における導体路などの形成が可能になる。記載の機能化ポリマーによる測定プローブのコーティングは、予め蒸着された伝導性ポリマー上にて実施しなければならない場合もある。機能化ポリマーによる測定プローブのコーティングは、電気伝導性ポリマーの先に蒸着された下層上に連続層として蒸着されない場合もある。数平方ナノメートルからマイクロメートルサイズのこの種の機能化領域は、高い表面積対体積比を持つ二次元細孔構造を提供し、例えば液相からの分子の吸着及び相互作用の可能性が高まるために、特に液体中のセンサーに有利である。絶縁性、電気伝導性、pH安定性、あるいは様々なポリマーなど、様々な機能性ポリマーを交互にコーティングし、層列を形成することも可能である。
【0034】
前駆物質の重合は、光ビーム源又は電子ビーム源により放出される光ビーム又は電子ビームによって行われ、この光ビーム源又は電子ビーム源は必ず提供する必要がある。
【0035】
本発明の意味での光とは、紫外域から赤外域までの波長域の電磁放射であり、100nm~10μmに相当する。特に光重合には、波長800nmのチタンサファイアフェムト秒レーザーなどのレーザーが用いられる。N.Tsutsumiらによる論文11a(Influence of baking conditions on 3D microstructures by direct laser writing in negative photoresist SU-8 via two-photon polymerization,Journal of Laser Applications,Vol.29,2017,042010)及びZ.Sekkat及びS.Kawataによる論文11b(Laser nanofabrication in photoresists and azopolymers,Laser & Photonics Review,Vol.8(1),2014,pp.1-26)では、使用できる可能な光源とレーザーとに関する詳細かつ包括的な情報を提供している。
【0036】
少なくとも1種の光重合性樹脂を含む対応する前駆物質の光重合には、選択される前駆物質又は前駆物質の混合物中に存在する光重合開始剤の感光性分子の光重合に十分な光子エネルギー(波長)及び光強度(流束量)を有する光源が提供される。レンズ、レンズシステム、コリメータ、コリメートマスク、ミラー、チョッパ、フィルタなど、光源からの光ビームをガイド(加工対象の測定プローブとの位置合わせ)及び成形(ビーム断面、強度など)のための手段は、光源の提供に含まれる。
【0037】
光源は、例えばレーザー又は発光ダイオードであり得る。有利な様式では、上記の記載のとおり、光源はレーザーである。
【0038】
電子ビームにより対応する前駆物質を重合させるためには、電子顕微鏡で利用可能であるような、加速電圧200kV以上を可能にする電子源が提供される必要がある。
【0039】
前駆物質又は前駆物質の混合物の重合を1カ所以上で行い、ひいては少なくとも2次元に広がる重合生成物のコヒーレント領域を生成するためには、測定プローブと光ビーム又は電子ビームとを互いに対して並進(移動)させる必要があり、かつ必要であれば旋回(測定プローブの重心を中心に回転)させることも必要である。これは、大半の場合、光源又は電子源の可変の配置のための手段を用いて光ビーム若しくは電子ビームを移動させることにより達成され、この手段は提供される必要がある。可変の配置は、光ビーム若しくは電子ビーム又はそれらの光源の並進及び/又は傾斜の形態をとる。可変の配置のための手段は、有利には、マイクロ範囲及びナノ範囲のステップ(目盛り)を実行できるモーター又はアクチュエーターからなる。最小のステップサイズにより、2次元又は3次元の形状で製造される細部に対しての可能な解像度又は細かさが決定される。測定プローブが配置される試料テーブルの変位又は傾斜はより複雑であるが、光ビーム又は電子ビームを変位/傾斜させるための手段と同じ手段でもこれが可能であり、ただし、2次元又は3次元(2D又は3D)での加工を確実にするために、液体前駆物質の混合物が流れ出ることがないことを条件とする。光ビーム又は電子ビームの位置を測定プローブに対して変更できることが不可欠である。
【0040】
第2の工程では、光源又は電子源により放出される光ビーム又は電子ビームのビーム路に、加工される測定プローブを配置する必要がある。測定プローブの先端部に印刷する場合、その先端部は入射ビームの方向を向かせる。また、光ビーム又は電子ビームの焦点に対して特定の位置に配置する必要がある場合もある。後者は、光源としてレーザーを使用する場合に特に重要である。焦点の位置は、前駆物質分子の層で重合が起こる深さに影響を与えるように使用することができ、重合生成物としてポリマーを構造化するために使用することができる。
【0041】
第3の工程では、制御ファイル及び電子データ処理システムが提供され、これには、測定プローブに入射するビームの並進と傾斜、及び必要に応じて焦点の位置の変更を制御するための制御ファイルが提供される。この目的のために、制御ファイルにて電子ファイルとして絶対位置を持つデジタルモデルとして利用できるように、測定プローブの表面の少なくとも一部分は制御ファイルに記録される。制御ファイルは、入射する光ビーム又は電子ビームに対して測定プローブを移動したり、場合によっては傾けたりするために使用され、その逆も同様であり、並進及び傾斜の手段のコンピュータ制御の基礎として機能する。制御ファイルは、実際の対象物(この場合は測定プローブ)の光学顕微鏡又は電子顕微鏡のイメージングを使用して作成する必要がある。光重合を目的としたレーザーに加え、この目的のために、さらなる光学イメージングシステム又は外部の電子顕微鏡イメージングシステムを設ける必要があり得る。測定プローブの成形及びその配置に関して標準化されたプロセスでは、事前に一度取得した制御ファイルを再利用することができ、それにより、第3の工程はまた、前の2つの工程に先行させることができ、かつ制御ファイル自体のみを提供する必要があるようになる。
【0042】
次の工程では、測定プローブに適用される前駆物質(前駆物質の混合物中に存在することもある)が、いくつかの接触位置で露光される。接触位置は、光ビーム又は電子ビームの焦点(フォーカス)の大きさと、結果として生じる重合領域からもたらされ、ここで、並進又は旋回は、そのような量だけ行われるか、又は重合領域が重なるように焦点が配置され、それにより2D又は3Dの連続した重合領域がもたらされる。電子データ処理システムによる制御によって、すなわち制御ファイルに基づいて、前駆物質は特定の経路に沿って露光され、ポリマーコーティングが層ごとに形成される(スライシング)。一般的に、各層は順番にライン(ハッチング)で構成されている。この軌道は、予め制御ファイルが読み込まれる電子データ処理システム上の制御ソフトウェアによって決定される。本発明の方法は、位置選択的方法として扱われ、ここで製品の所定の所望の形状に応じて、前駆物質が提供される体積の選択される領域のみが露光される。
【0043】
制御ファイルによって特定される別のパラメータは、測定プローブの表面に関する光ビーム又は電子ビームの焦点の位置である。一実施形態にも同様に対応するように、表面から焦点をシフトすることによって、前駆物質の重合は、重合した生成物(ポリマー)と測定プローブの表面との間、又はポリマー自体に空洞及び流路が形成されるような方法で行うことができ、例えばマイクロ流体流路及びリザーバーとして使用することができ、かつ例えば特に底部層と上部層との間に少なくとも1つの構造化層を埋め込むことによって示すことができる。重合生成物(ポリマー)の表面もこのように構造化することができる。本発明の方法に従って流路のような空洞を構造化することにより、1つの流路のみを提供する測定プローブ用のマイクロ流体に加えて、複数の流路及び場合によってはリザーバーを示すこともでき、これらは場合によっては互いに対応することもできるため、その結果、例えば、液体環境における測定又は反応のラボ・オン・ア・チップ(a lab-on-a-chip)の実現の一環として、測定プローブ上で溶液をin situで混合することができる。
【0044】
本発明によれば、一実施形態に対応するように、カンチレバーの形態の測定プローブのコーティングは、支持体(カンチレバーの場合、ばね梁によって与えられる)の少なくとも一部分、特にその先端側表面上で実施される。支持体又はカンチレバーの側面全体をコーティングする必要はない。しかし、支持体又はカンチレバーの側表面及び反対面を含む表面全体を絶縁コーティングすることもできる。重合は常に先端部の上端部を除外して行われる。しかし、コーティングは先端部の側面/シェル表面(複数可)の一部にも適用される。先端部の凹部(除外部)は、少なくとも5ナノメートルであり、先端部の垂直方向(高さ)の最大50%であり、すなわち先端部の高さが10マイクロメートルの場合は最大5マイクロメートルである。特に有利な方法では、先端部の頂点は最大1マイクロメートルの半径を有する半球の表面によって近似的に記述できると仮定すると、先端部の最上端の周囲の凹部領域は、7μm2以下である。
【0045】
前駆物質又は前駆物質の混合物の露光は、特に、一実施形態の場合と同様に、いわゆる二光子吸収に基づく二光子重合として実施される。これは、分子又は原子が2つの光子を同時に吸収し、次いでエネルギー的に励起状態になることを含む。二光子重合(2PPとも略される)により、特に深さ方向、すなわち照射方向に沿って、より高い解像度を達成することができる。S.MaruoとS.Kawataによる論文12(Two-photon-absorbed photopolymerization for three-dimensional microfabrication,Proceedings IEEE The Tenth Annual International Workshop on Micro Electro Mechanical Systems.An Investigation of Micro Structures,Sensors,Actuators,Machines and Robots,1997,pp.169-174)では二光子重合についてより詳しく説明している。二光子重合はレーザーを光源として使用して実施される。
【0046】
露光領域はまた、熱処理などのさらなる現像工程によって仕上げることができる。これは例えば、架橋度を高め、又は機械的特性又はその他の物理的特性を向上させる役割を果たす。
【0047】
露光工程の後、前駆物質又は前駆物質の混合物の未露光領域は、さらなる工程で除去される。このさらなる工程は、水又は適切な溶媒で洗浄するか、又は浸漬することで穏やかに実施される。前駆物質によっては、空気流又は不活性ガス流による除去もこの目的に使用できる。さらに、例えば、測定プローブを適切な現像液に浸すことによって、露光された領域を現像することもできる。
【0048】
請求項11によれば、第1の実施形態において、本発明の方法は、サブマイクロメートル領域の表面特性を検出するため、又は表面構造を修正するための、本発明による測定プローブを提供し、この測定プローブは、少なくとも1つの支持体と、その上に配置される先端部とを備える。支持体と先端部とは一体型でも、又は(複数の)部品で構成されていてもよい。
【0049】
電気伝導性の測定プローブは、光重合により光ビーム又は電子ビームによって重合可能な前駆物質から生成物として形成されるポリマーにより、少なくとも部分的に、かつ支持体と反対側の先端部の上部に凹部を有するようにコーティングされていることを特徴とする。この層厚は少なくとも10nmである。有利な様式では、ポリマーは電気絶縁性(すなわち、比抵抗が108Ω・cm以上を有する)であるため、それにより、測定プローブは、表面又は液体の電気的/電気化学的/触媒的/電気触媒的な特性の検出に使用できるようになる。先端部の凹部は、少なくとも5ナノメートルであり、かつ先端部の垂直方向の延び(高さ)の最大50%であり、すなわち先端部の高さが10マイクロメートルの場合は、これは最大5マイクロメートルである。特に有利な様式では、先端部の頂点が最大1マイクロメートルの半径を有する半球の表面によって近似的に記述できると仮定すると、先端部の最上端の周囲の凹部領域は、7μm2以下である。
【0050】
ポリマーは、特に、一実施形態にも同様に対応するように、前駆物質として光重合可能な樹脂:アクリレート、エポキシ樹脂、フルオロカーボン、フェノール樹脂、アミド、エステル、イミド、スチレン、(ポリ)スルフィド、ウレタン、ビニル、シリコーン、キシリレン(パリレンを含む)、UV硬化性ジメチルシロキサン及びカルバメート/メタクリレートの群からの樹脂の光重合生成物である。
【0051】
特別な実施形態では、測定プローブはカンチレバーの形態であり、カンチレバーの全幅よりも狭い幅の導体路により電流又は電圧をタップする手段が設けられている。
【0052】
ここで、導体路は、カンチレバーの先端側に完全に沿うか、又はカンチレバーの反対側(ここでは、背面側として扱う)に部分的に沿うかのいずれかで走ることが可能であり、一般に、例えば原子間力顕微鏡で使用される検出システムなどの光学部品のレーザービームの反射面として機能するか、又は、カンチレバーの先端側とその背面側とを接続するエッジ面の1つとして機能する。
【0053】
特に、光反射率の低下を避けるために、カンチレバーの適用において反射面として機能する背面側を非コーティングで提供することが有利になり得る。一般的に、使用中の先端部の静止位置からの先端部のたわみに対する高い検出感度を確保するために、反射面はカンチレバーの自由端近傍に配置される。
【0054】
本発明による測定プローブのさらなる特別な実施形態では、先端部の上端部は除外して、カンチレバーの先端側表面のみが測定プローブとしてコーティングされ、一方で、カンチレバーのエッジ面はコーティングされないままであり、したがって、例えば、導体路を装着するために利用可能である。
【0055】
可能な一実施形態はまた、本発明による測定プローブの特別なバージョンを含み、この場合、カンチレバーは、それを支持するチップを備え、このチップは、光ビーム又は電子ビームによって重合されるポリマーで部分的にコーティングされ、それによって、電気絶縁コーティングは、ケーブル、端子又は導体路により電気的に接触するための電気回路又は電圧源との接続を確立する表面には存在しない。
【0056】
本発明による測定プローブの次の可能な実施形態では、電気伝導性ポリマーから形成される導体路を備え、ここで伝導性ポリマーは光ビーム又は電子ビームによって重合される前駆物質から形成される。前記ポリマーは、前駆物質の混合物から得られる添加剤によって電気伝導性をなす。このようにして形成された測定プローブもまた、次いで本発明の方法における加工のために提供される。
【0057】
本発明の方法はまた、先端側表面を電気伝導性ポリマーで、先端部を含めて最初に完全にコーティングし、次いで順次的に、先端を除いて本発明の方法に従ってポリマーでコーティングされる、測定プローブを形成するために使用することもできる。特に、このコーティングは、一実施形態に対応するように、前駆物質中の分子状又は粒子状の添加剤が、電気伝導性、磁化性、機械的高安定性若しくは剛性、熱高安定性、又は透明性及び反射性などの光学的特性、又は電気触媒活性及び触媒活性、又は電気化学及び光電気化学センサー技術への適合性のいずれかの特性を製品に与えるポリマーを用いて生成される。
【0058】
一実施形態にも同様に対応するように、電気伝導性ポリマーの先に堆積した下層上に非連続層として設計される機能化ポリマー中にナノ粒子、例えば金又は銀が存在する場合、測定プローブは振動分光法、特にラマン分光法での使用に適している。
【0059】
一実施形態では、測定プローブはマイクロ流体用の流路状の空洞を備え、この空洞は光重合によって光ビーム又は電子ビームで重合可能な前駆物質から形成されるポリマーによって側壁が設けられる。
【0060】
本発明による測定プローブは、先端部がワイヤーから形成され、かつ支持体がワイヤーを取り囲む円盤から形成される測定プローブによって提供することができる。ワイヤーは、有利には円筒形又は円錐形であり、試料表面を走査する役割を果たす鋭い先端部が上端に設けられている。本発明の方法による電気絶縁性ポリマーによるコーティングは、先端部の上端部は除外して、プラットフォームと先端部の上端部との間の領域に存在する。プラットフォームは、ワイヤーの長手方向軸がプラットフォームに対して垂直になるように、リング又は円盤の形状を有することができる。プラットフォームは電気絶縁材料で作られ、かつ電気化学的に不活性でなければならない。プラットフォームと、尖った端部とは反対側のワイヤーの端部との間の領域では、適切なポリマー分子を含有する溶液に部分的に浸漬するなど、従来の方法を用いて電気絶縁を行うことができる。マイクロメータースケールのプラットフォームを提供するために、ワイヤー上に配置される円盤の代わりに、例えばイオンビーム(集束イオンビーム(FIB)ミリング)又は化学エッチングなどによってワイヤー表面に制御されたミリングを施すことによって、一種の基部を製造することもできる。
【0061】
本発明の方法によって、サブマイクロメートル領域の表面特性を検出するため、又は表面構造を修正するための測定プローブは、従来技術に比べて少ない工程数で、かつ特に簡略化された方法で加工することができ、その結果、特殊な用途、例えば表面の電気的、化学的、又は(光)電気化学的及び(光)触媒的な特性の検出に使用することができる。したがって、本発明による測定プローブは、先端部の形成に関して、より高い品質、コスト効率に優れた製造、及び柔軟性を特徴とする。
【0062】
作業工程の削減とそれに伴う時間の節約に加えて、本発明の方法は、先端部の頂点(先端部の上端部)のより高い品質をもたらし、これは、必要とされる露出(先端頂部に残留物が残り、又はさらには望ましくない修正及び必要に応じて導体コーティングをもたらす)を、先端の頂点(最上部)領域がコーティングから除外されたままの非侵襲的で緩やかなプロセスに置き換えるためである。
【0063】
さらに、本発明によるプロセスは、重合によって製造されるコーティングを分子状又は粒子状の添加剤で機能化し、かつ例えば空洞を形成することによって、さらに構造化する可能性を提供し、ひいては高い品質の先端部を備えるコスト効率の良い測定プローブを幅広く提供する。
【0064】
少なくとも2つ以上の測定プローブが同時に加工される本発明の方法では、測定プローブの製造におけるスループットの向上も達成できる。
【実施例】
【0065】
図1は、本発明の方法を用いて加工された測定プローブの第1の実施例を概略的に示しており、この場合はカンチレバー1の形態である。カンチレバー1は、ばね梁2と先端部3とからなり、この例では、10
-2オーム・cmのオーダーの比抵抗を持つドープシリコンで作られている。ばね梁2は、先端部3もまた配置される側面に層厚10nmのポリマー5でコーティングされている。このコーティングはまた、先端部3の下部も覆っているが、上端部4は覆っていないため、先端部4の上端部(頂点)が露出している。前記ポリマーは電気的に非伝導性であり、抵抗率は約10
8Ω・cm以上である。実施形態の例では、前記ポリマーは、本発明の方法に従って、ネガ型フォトレジストSU-8(Microchem社、ウェストボロー、マサチューセッツ州、米国)をベースとし、粘度調整用の適当な溶媒とプロピレンカーボネートに溶解した光重合開始剤トリアリールスルホニウム塩とを混合した前駆物質の混合物から出発して、二光子重合により重合させる。
【0066】
本発明の方法の第1の実施例は以下のとおりである。
【0067】
第1の実施例では、本発明の方法によるコーティングは、Ptコーティングにより電気伝導性であるカンチレバー1に適用される。ばね梁2の長さは約225μm、幅は27.5μm、厚さは3μmである。本明細書によれば、角錐形の先端部の高さは15μm、先端部の頂点(先端の上端部)の曲率半径は30nmである。
【0068】
実施形態の例では、本発明によるプロセスは二光子重合(two-photon polymerization:2PP)として実施される。カンチレバー1は、いわゆる3Dプリンターを使用してコーティングされる。3Dプリンターは、レーザーの形態で光ビームを放出するための光源、及び光ビーム又はレーザービームの可変の配置のための手段を提供する。測定プローブは、3Dプリンター内のレーザービームの焦点に配置される。実施形態の例では、コーティングされるカンチレバー1は、液体前駆物質の混合物で覆われ、この液体前駆物質の混合物は、レーザーの焦点の領域で適切にパルス化される赤外レーザービームが照射される際に重合し、その結果、重合によって液相から固相へと局所的に変化する。通常、レーザーの光学系の前端であるレンズは、レーザーの光学系の最前のレンズ表面と液体前駆物質の混合物との間にメニスカスが形成されるように、液体前駆物質の混合物中に浸漬される(浸漬)。
【0069】
印刷される構造物の3Dモデルは、電子データ処理システムを使用して制御ファイルとして作成され、次いでソフトウェアを使用して層ごとに表示される(スライシング)。各層は、レーザーの焦点の軌跡を決定するために、ラインごとに順番に構築され(ハッチング)、これによりこの軌跡に沿って形成されるポリマーの構造を、重合によって下から上へと体系的に構築する。したがって、いわゆる書き込みプロセスは、カンチレバー1の先端側表面から始まり、その後、先端部3の高さ軸に沿って層ごとに移動する。書き込みプロセスの前に、カンチレバー1を平らな基板(試料ホルダーテーブル)に取り付け、座標における表面位置は、光学系を使って制御ファイルに読み込まれる。これには、特に先端部3の領域で、サブマイクロメートル領域の精度が必要である。スライシング及びハッチングの距離、並びに書き込み速度は、特に最も微細な部品、つまりこの場合は先端部3の領域で、要求される細部のレベルが達成されるように選択される。この例では、スライシング及びハッチングの距離は100nmであり、書き込み速度は1mm/sである。任意に、総書き込み時間を現実的なレベルに制限するために、より大きな部品を、対応するより大きなスライシング距離及びハッチング距離及びより高速で書き込むことができる。
【0070】
図2は、本発明による測定プローブのさらなる実施例を示す。測定プローブは、カンチレバーを搭載するチップ2の表面及び先端側表面に沿った導体路6を備えるカンチレバー1からなる。電気絶縁性カバー層5は、先端側のカンチレバー表面全体とAFM先端部の側方表面にわたって延びており、先端部の頂点4周辺の比較的小さな領域は除外されている。先端部の頂点は導体路6に電気的に接続されている。
【0071】
図3は、本発明による測定プローブの第3の実施例を示す。測定プローブは、反射体側表面、前方エッジ面7、先端部近傍の先端側表面8及び先端部表面全体に沿って導体路9を備えるカンチレバー1からなる。電気絶縁性カバー層5は、カンチレバー表面全体と先端部外周面とにわたって延びるが、先端部の頂点4周辺の比較的小さな領域は除外される。電気絶縁性カバー層10は、カンチレバーの反射体側表面全体にわたって延びる。先端部の頂点は、伝導性表面7及び8を介して、並びにカンチレバーからカンチレバーを支持するチップ2を介して続く導体路9を介して電気的に接続される。
【0072】
第4の実施形態を
図4に示す。本発明による測定プローブは、先端側表面と先端シースの2つの側表面に沿って2つのマイクロ流体流路21を備えるカンチレバー1からなる。マイクロ流体流路21は、カンチレバーからカンチレバーを搭載するチップ2上をさらに延び、任意にリザーバーなどのさらなるマイクロ流体部品を接続することもできる。マイクロ流体流路21は、特に電気絶縁性で、かつカンチレバーの表面全体と先端部3の側方表面にわたって延びるカバー層5に埋め込まれており、これによって先端部の頂部4の周囲の比較的小さな領域は除外されている。マイクロ流体流路21が組み込まれたこれらの表面は、外側がカバー層20で密閉されている。
【0073】
さらなる実施形態の例を
図5に示す。本発明による測定プローブは、一方の前端に円錐形の先端部11を備え、これは、先端部の頂点14付近の領域を除いて電気絶縁性コーティングが施されている。環状又は円盤状のプラットフォーム16の間の領域では、特に頂点を覆わないように、本発明の方法を用いてコーティング13が生成される。円盤状のプラットフォームの下の領域では、コーティング15が従来のプロセスを用いてワイヤー表面12上に生成される。プラットフォーム自体もまた電気的に絶縁されている。しかしながら、これもまた本発明の方法を用いて電気絶縁性ポリマーにより部分的にコーティングすることができる。
【国際調査報告】