(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】電極およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/02 20060101AFI20240711BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20240711BHJP
A61B 5/263 20210101ALI20240711BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20240711BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20240711BHJP
H01G 11/24 20130101ALI20240711BHJP
【FI】
H01M4/02 Z
H01M4/04 Z
A61B5/263
H01G11/30
H01G11/86
H01G11/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503647
(86)(22)【出願日】2022-07-14
(85)【翻訳文提出日】2024-01-19
(86)【国際出願番号】 JP2022027741
(87)【国際公開番号】W WO2023002915
(87)【国際公開日】2023-01-26
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(71)【出願人】
【識別番号】500429103
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ペンシルバニア
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100136777
【氏名又は名称】山田 純子
(72)【発明者】
【氏名】藤脇 未伽
(72)【発明者】
【氏名】部田 武志
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 宏介
(72)【発明者】
【氏名】マーフィー,ブレンダン ビー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィターレ,フラヴィア
【テーマコード(参考)】
4C127
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
4C127AA01
4C127AA06
4C127LL22
5E078BA18
5E078BA62
5E078BB21
5E078FA12
5H050AA12
5H050BA15
5H050BA17
5H050HA01
5H050HA04
(57)【要約】
1つまたは複数の層を含み、π電子共役系化合物が付着した層状材料の粒子を含む導電性膜を含み、前記1つまたは複数の層が、以下の式:MmXn(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、nは、1以上4以下であり、mは、nより大きく、5以下である)で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、前記π電子共役系化合物は、芳香環、複素芳香環、共役ジエン単位、アリル基、およびビニル基のうちの1以上を有する、電極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の層を含み、π電子共役系化合物が付着した層状材料の粒子を含む導電性膜を含み、
前記1つまたは複数の層が、以下の式:
M
mX
n
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記π電子共役系化合物は、芳香環、複素芳香環、共役ジエン単位、アリル基、およびビニル基のうちの1以上を有する、電極。
【請求項2】
前記π電子共役系化合物は、アスコルビン酸、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、カテキンおよびカテキン誘導体からなる群より選択される1種以上の化合物である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子は、π電子共役系化合物で被覆されている請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
前記層状材料の粒子の合計量に対する前記π電子共役系化合物の合計量の割合は、0.001質量%以上、10質量%以下である、請求項1~3のいずれかに記載の電極。
【請求項5】
前記π電子共役系化合物が付着した層状材料の粒子の、前記層状材料の粒子の厚みは1nm以上、30μm以下であり、かつ
前記π電子共役系化合物が付着した層状材料の粒子の、前記π電子共役系化合物の厚みは1nm以上、1μm以下である、請求項1~4のいずれかに記載の電極。
【請求項6】
前記層状材料の粒子の数平均フェレー径は3μm以上である、請求項1~5のいずれかに記載の電極。
【請求項7】
生体信号センシング電極として用いられる、請求項1~6のいずれかに記載の電極。
【請求項8】
(a)以下の式:
M
mAX
n
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される、導電性膜の前駆体を準備し、
(b)エッチング液を用いて、前記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去し、
(c)前記(b)により得られた第1中間体を、水で洗浄し、
(d)前記(c)により得られた第2中間体と、第2中間体の層間挿入用化合物とを混合することを含む、インターカレーションを行い、
(e)前記(d)により得られた第3中間体を液体中で撹拌し、
(f)層状材料の粒子を得るために、前記(e)により得られた第4中間体を水で洗浄し、
(g)前記(f)により得られた前記層状材料の粒子と、芳香環、複素芳香環、共役ジエン単位、アリル基、およびビニル基のうちの1以上を有するπ電子共役系化合物とを混合して、π電子共役系化合物が付着した層状材料の粒子を形成し、
(h)π電子共役系化合物が付着した層状材料の粒子を基材上に供給して導電性膜を形成すること
を含む、電極の製造方法。
【請求項9】
前記π電子共役系化合物は、アスコルビン酸、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、カテキンおよびカテキン誘導体からなる群より選択される1種以上の化合物である、請求項8に記載の電極の製造方法。
【請求項10】
前記π電子共役系化合物で被覆された層状材料の粒子を形成する請求項8または9に記載の電極の製造方法。
【請求項11】
前記エッチング液は、フッ酸とリン酸の少なくとも一つを含む、請求項8~10のいずれかに記載の電極の製造方法。
【請求項12】
前記π電子共役系化合物が付着した層状材料の粒子は、前記π電子共役系化合物をモル濃度で0.001M以上、5M以下含む溶液と、前記層状材料の粒子を固形分濃度で10mg/mL以上、250mg/mL以下含むスラリーとを、混合することによって形成する、請求項8~11のいずれかに記載の電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性を有する新規材料としてMXeneが注目されている。MXeneは、いわゆる二次元材料の1種であり、後述するように、1つまたは複数の層の形態を有する層状材料である。一般的に、MXeneは、かかる層状材料の粒子(粉末、フレーク、ナノシート等を含み得る)の形態を有する。
【0003】
現在、種々の電気デバイスへのMXeneの応用に向けて様々な研究がなされている。例えば特許文献1には、電気デバイスとして、MXeneを含む接触材料を有し、Auよりも低いインピーダンスを示す電極が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、MXeneは、導電率が経時的に(例えば数日~1か月程度で)低下しうるため、高い導電率などの優れた電極特性を、長期的に維持することが求められている。本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、優れた電極特性を長期的に維持できる電極とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの要旨によれば、
1つまたは複数の層を含み、π電子共役系化合物が付着した層状材料の粒子を含む導電性膜を含み、
前記1つまたは複数の層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記π電子共役系化合物は、芳香環、複素芳香環、共役ジエン単位、アリル基、およびビニル基のうちの1以上を有する、電極が提供される。
【0007】
本発明のもう1つの要旨によれば、
(a)以下の式:
MmAXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される、導電性膜の前駆体を準備し、
(b)エッチング液を用いて、前記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去し、
(c)前記(b)により得られた第1中間体を、水で洗浄し、
(d)前記(c)により得られた第2中間体と、第2中間体の層間挿入用化合物とを混合することを含む、インターカレーションを行い、
(e)前記(d)により得られた第3中間体を液体中で撹拌し、
(f)層状材料の粒子を得るために、前記(e)により得られた第4中間体を水で洗浄し、
(g)前記(f)により得られた前記層状材料の粒子と、芳香環、複素芳香環、共役ジエン単位、アリル基、およびビニル基のうちの1以上を有するπ電子共役系化合物とを混合して、π電子共役系化合物が付着した層状材料の粒子を形成し、
(h)π電子共役系化合物が付着した層状材料の粒子を基材上に供給して導電性膜を形成すること
を含む、電極の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電極は、1つまたは複数の層を含み、規定のπ電子共役系化合物が付着した所定の層状材料(本明細書において「MXene」とも言う)の粒子を含んでおり、これにより、MXeneを含み、安定した電極特性を長期的に維持できる電極が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の電極の導電性膜に利用可能な層状材料であるMXeneを示す概略模式断面図であって、(a)は単層MXeneを示し、(b)は多層(例示的に二層)MXeneを示す。
【
図2】本実施形態の電極の一実施形態について、作用効果を説明するための模式断面図である。
【
図3】本実施形態の電極の一実施形態について、作用効果を説明するための別の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1:電極)
以下、本発明の1つの実施形態における電極について詳述するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本実施形態における電極は、
1つまたは複数の層を含み、π電子共役系化合物が付着した層状材料の粒子を含む導電性膜を含み、
前記1つまたは複数の層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記π電子共役系化合物は、芳香環、複素芳香環、共役ジエン単位、アリル基、およびビニル基のうちの1以上を有する。上記電極は、上記導電性膜を有することで、安定した電極特性を長期的に維持できる。例えば、電極特性として例えば低インピーダンスを確保することができる。より具体的に例えば、生体環境下において、電極の初期インピーダンスの増大を抑制し、かつインピーダンスの経時的な増大も抑制することができる。
【0012】
上記層状材料は、層状化合物として理解され得、「MmXnTs」とも表され、sは任意の数であり、従来、sに代えてxまたはzが使用されることもある。代表的には、nは、1、2、3または4であり得るが、これに限定されない。
【0013】
MXeneの上記式中、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、Ti、V、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0014】
MXeneは、上記の式:MmXnが、以下のように表現されるものが知られている。
Sc2C、Ti2C、Ti2N、Zr2C、Zr2N、Hf2C、Hf2N、V2C、V2N、Nb2C、Ta2C、Cr2C、Cr2N、Mo2C、Mo1.3C、Cr1.3C、(Ti,V)2C、(Ti,Nb)2C、W2C、W1.3C、Mo2N、Nb1.3C、Mo1.3Y0.6C(上記式中、「1.3」および「0.6」は、それぞれ約1.3(=4/3)および約0.6(=2/3)を意味する。)、
Ti3C2、Ti3N2、Ti3(CN)、Zr3C2、(Ti,V)3C2、(Ti2Nb)C2、(Ti2Ta)C2、(Ti2Mn)C2、Hf3C2、(Hf2V)C2、(Hf2Mn)C2、(V2Ti)C2、(Cr2Ti)C2、(Cr2V)C2、(Cr2Nb)C2、(Cr2Ta)C2、(Mo2Sc)C2、(Mo2Ti)C2、(Mo2Zr)C2、(Mo2Hf)C2、(Mo2V)C2、(Mo2Nb)C2、(Mo2Ta)C2、(W2Ti)C2、(W2Zr)C2、(W2Hf)C2、
Ti4N3、V4C3、Nb4C3、Ta4C3、(Ti,Nb)4C3、(Nb,Zr)4C3、(Ti2Nb2)C3、(Ti2Ta2)C3、(V2Ti2)C3、(V2Nb2)C3、(V2Ta2)C3、(Nb2Ta2)C3、(Cr2Ti2)C3、(Cr2V2)C3、(Cr2Nb2)C3、(Cr2Ta2)C3、(Mo2Ti2)C3、(Mo2Zr2)C3、(Mo2Hf2)C3、(Mo2V2)C3、(Mo2Nb2)C3、(Mo2Ta2)C3、(W2Ti2)C3、(W2Zr2)C3、(W2Hf2)C3、(Mo2.7V1.3)C3(上記式中、「2.7」および「1.3」は、それぞれ約2.7(=8/3)および約1.3(=4/3)を意味する。)
【0015】
代表的には、上記の式において、Mがチタンまたはバナジウムであり、Xが炭素原子または窒素原子であり得る。例えば、MXeneの前駆体であるMAX相は、Ti3AlC2であり、MXeneは、Ti3C2Tsである(換言すれば、MがTiであり、XがCであり、nが2であり、mが3である)。
【0016】
なお、本実施形態において、MXeneは、残留するA原子を比較的少量、例えば元のA原子に対して10質量%以下で含んでいてもよい。A原子の残留量は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下であり得る。しかしながら、A原子の残留量は、10質量%を超えていたとしても、電極の用途や使用条件によっては問題がない場合もあり得る。
【0017】
以下では、本実施形態に係る電極における導電性膜を構成する層状材料の粒子(「MXene粒子」ともいう)について
図1を用いて説明する。
図1では、π電子共役系化合物を付着させるための、層状材料の粒子について説明するため、π電子共役系化合物については図示していない。
【0018】
本実施形態の導電性膜を構成する層状材料の粒子は、
図1(a)に模式的に例示する1つの層のMXene10a(単層MXene)を含む集合物である。MXene10aは、より詳細には、M
mX
nで表される層本体(M
mX
n層)1aと、層本体1aの表面(より詳細には、各層にて互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T3a、5aとを有するMXene層7aである。よって、MXene層7aは、「M
mX
nT
s」とも表され、sは任意の数である。
【0019】
本実施形態に係る層状材料の粒子は、1つの層と共に複数の層を含みうる。複数の層のMXene(多層MXene)として、
図1(b)に模式的に示す通り、2つの層のMXene10bが挙げられるが、これらの例に限定されない。
図1(b)中の、1b、3b、5b、7bは、前述の
図1(a)の1a、3a、5a、7aと同じである。多層MXeneの、隣接する2つのMXene層(例えば7aと7b)は、必ずしも完全に離間していなくてもよく、部分的に接触していてもよい。前記MXene10aは、上記多層MXene10bが個々に分離されて1つの層で存在するものであり、分離されていない多層MXene10bが、残存し、上記単層MXene10aと多層MXene10bの混合物である場合がある。上記多層MXeneを含む場合であっても、多層MXeneは、層間剥離処理を経て得られた、層数の少ないMXeneであることが好ましい。前記「層数が少ない」とは、例えばMXeneの積層数が10層以下であることをいう。以下、この「層数の少ない多層MXene」を「少層MXene」ということがある。少層MXeneの積層方向の厚みは、10nm以下であることが好ましい。また、単層MXeneと少層MXeneを併せて「単層・少層MXene」ということがある。
【0020】
本実施形態に係る層状材料の粒子として、単層・少層MXeneを多く含むことが好ましい。単層・少層MXeneを多く含むことによって、MXeneの比表面積を多層MXeneよりも大きくすることができ、その結果、後述する実施例に示す通り、電極特性の経時劣化を更に抑制することができる。例えば本実施形態に係る層状材料の粒子は、MXeneの積層数が10層以下かつ厚みが好ましくは10nm以下である、単層・少層MXeneが、全MXeneに占める割合で、80体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましく、更に好ましくは95体積%以上である。また、単層MXeneの体積が、少層MXeneの体積よりも多いことがより好ましい。これらのMXeneの真密度は、存在形態により大きく変動はしないため、単層MXeneの質量が、少層MXeneの質量よりも多いことがより好ましいともいえる。これらの関係にある場合、比表面積を更に増大させることができ、電極特性の経時劣化をより更に抑制することができる。最も好ましくは、本実施形態に係る層状材料の粒子が単層MXeneのみで形成されていることである。
【0021】
本実施形態を限定するものではないが、MXeneの各層(上記のMXene層7a、7bに相当する)の厚さは、例え1nm以上、30μm以下とすることができ、例えば1nm以上、5nm以下、更には1nm以上、3nm以下としてもよい(主に、各層に含まれるM原子層の数により異なり得る)。含まれうる多層MXeneの、個々の積層体について、層間距離(または空隙寸法、
図1(b)中にΔdにて示す)は、例えば0.8nm以上、10nm以下、特に0.8nm以上、5nm以下、より特に約1nmであり、層の総数は、2以上、20,000以下でありうる。
【0022】
本実施形態の電極において、前記導電性膜に含まれる、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子はπ電子共役系化合物(「犠牲酸化剤」ともいう)が付着している。
図2は、本実施形態の電極の一実施形態として、基材31を有し、かつ生体組織30を被検体とした場合の模式断面図である。生体組織30における測定対象は、例えば人体等の皮膚の他、皮膚下にある、血管、筋肉、脳、その他の臓器等が挙げられる。上記測定対象に、電極を直接接触させて測定してもよいし、例えば皮膚下にある測定対象を、皮膚に電極を接触させて間接的に測定してもよい。
図2は、導電性膜32が、π電子共役系化合物付着粒子33、すなわち、π電子共役系化合物35が付着した層状材料の粒子(MXene粒子)34で構成されている場合の模式断面図である。また、
図3は、π電子共役系化合物35が付着した層状材料の粒子(MXene粒子)34の1つを拡大した図である。
図2および
図3では、層状材料の粒子(MXene粒子)34の断面の全周がπ電子共役系化合物35で覆われているが、これに限定されず、層状材料の粒子(MXene粒子)34の少なくとも一部にπ電子共役系化合物35が付着していればよい。また、
図3において、導電性膜32を構成する層状材料の粒子(MXene粒子)34のπ電子と、π電子共役系化合物35のπ電子による接合36は、作用効果の説明のために誇張して示したものであって、本来、層状材料の粒子(MXene粒子)34とπ電子共役系化合物35の間に、
図3の接合36により形成された隙間は形成されず、層状材料の粒子(MXene粒子)34とπ電子共役系化合物35は実質接している。
【0023】
この
図2および
図3に示す通り、層状材料の粒子(MXene粒子)にπ電子共役系化合物が付着することによって、MXene粒子34の特に酸化サイト(主にエッジ)37が被覆されて酸化が防止され、更に、MXene粒子34とπ電子共役系化合物35の間でのπ電子による接合により、導電路を確保でき、更には、π電子共役系化合物が、外部からの水、酸素等と反応、すなわち犠牲酸化されることにより、上記外部からの水、酸素等によるMXeneの酸化が防止される。その結果、高い導電率の維持、初期インピーダンスの増大の抑制とインピーダンスの経時的な増大の抑制等の優れた電極特性を実現できる。生体組織30、例えば人体の皮膚と、電極38とは、前記
図2の通り直接接触する他、生体組織30と電極38との間に、図示していないがイオンを透過可能なゲル、多孔膜を含むフィルムが存在していてもよい。
【0024】
本実施形態に係るπ電子共役系化合物は、芳香環、複素芳香環、共役ジエン単位、アリル基、およびビニル基のうちの1以上を有する。π電子共役系化合物は、好ましくはアスコルビン酸、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、カテキンおよびカテキン誘導体からなる群より選択される1種以上の化合物である。これらの化合物は、本実施形態に係るMXene粒子のほぼ1つずつに付着することができ、かついずれも犠牲酸化され、かつ前記MXene粒子とπ電子による接合を形成する化合物である。
【0025】
前記カテキン誘導体として、カテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレート、ガロカテキン、ガロカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート等が挙げられる。前記化合物として、液体中でのMXene粒子の凝集を抑制し、本実施形態に係る導電性膜を容易に形成する観点から、例えば金属イオンの存在によりMXene粒子の電荷バランスが崩れやすいアスコルビン酸塩、エリソルビン酸塩の使用は好ましくなく、プロトンを有するアスコルビン酸、プロトンを有するエリソルビン酸を用いることが好ましい。π電子共役系化合物は、より好ましくはアスコルビン酸(L-アスコルビン酸)である。
【0026】
上記π電子共役系化合物による効果を十分発揮させるには、前記層状材料の粒子の合計量に対する前記π電子共役系化合物の合計量の割合は0.001質量%以上、10質量%以下の範囲であることが好ましい。前記割合は、例えば更に0.01質量%以上、更に0.1質量%以上とすることができる。また導電性膜が本来有する導電性を十分発揮させる観点からは、前記割合を5質量%以下とすることが好ましい。
【0027】
前記π電子共役系化合物に付着した層状材料の粒子の前記層状材料の粒子の厚みは1nm以上、30μm以下であることが好ましく、かつ前記π電子共役系化合物が付着した層状材料の粒子の前記π電子共役系化合物の厚みは1nm以上、1μm以下であることが好ましい。
【0028】
前記層状材料の粒子は、その表面が完全に前記π電子共役系化合物によって覆われていなくてもよく、前記層状材料の粒子の表面の、好ましくは20面積%以上、より好ましくは50面積%以上、更に好ましくは80面積%以上に、前記π電子共役系化合物が付着しているのがよい。前記1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子は、π電子共役系化合物で被覆されていることが好ましく、例えば、前記割合で被覆されていることが好ましい。
【0029】
本実施形態に係る導電性膜に含まれる層状材料の粒子の数平均フェレー径は3μm以上であることが好ましい。層状材料の粒子の形状が、前述の通り平面を有しており、その平面領域が大きいほど、層状材料の粒子の、酸化サイトとなりやすい端面(エッジ)の数が相対的に低減し、また、塗膜全体としての面内配向性が改善されることを期待できる。その結果、π電子共役系化合物も付着しやすくなり、MXene粒子とπ電子共役系化合物とのπ接合が多く形成されやすく、導電率が高くなり、例えば、インピーダンスの経時的な増大などの電極特性の経時劣化をより抑制できる。本明細書では、上記層状材料の粒子の平面部分のサイズを、上記数平均フェレー径で規定する。前記数平均フェレー径は、より好ましくは4μm以上である。なお数平均フェレー径は、優れた電極特性を長期にわたり維持する観点からは大きいほど好ましいが、製造の効率等を考慮すると、前記数平均フェレー径の上限はおおよそ50μm程度となる。フェレー径の測定は、MXene粒子を作成した段階、すなわちMXeneスラリーを用いてフェレー径を測定する方法、または、π電子共役系化合物の付着したMXene粒子からπ電子共役系化合物を除去し、MXene粒子のフェレー径を測定する方法が挙げられる。上記数平均フェレー径は、後述する実施例に示す通りSEM(走査型電子顕微鏡)またはAFM(原子間力顕微鏡)を用いて求めることができる。
【0030】
本実施形態の電極は、π電子共役系化合物が付着した1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む導電性膜を含んでいればよく、具体的な形態まで限定されない。電極は、固体状態のものから、フレキシブル性のある軟質状態のものまで挙げられる。電極における層状材料の粒子の厚みとπ電子共役系化合物の厚みは、例えばマイクロメーターでの測定、走査型電子顕微鏡(SEM)、マイクロスコープ、またはレーザー顕微鏡などの方法による断面観察により測定することができる。
【0031】
本実施形態の電極の特性の一つとして、インピーダンスが挙げられる。初期インピーダンスは小さいほど好ましく、後述の実施例に示す測定条件によれば、例えば10Hzでは80kΩ・cm2以下、1kHzでは10kΩ・cm2以下の範囲内でより小さいことが好ましい。
【0032】
本実施形態の電極において、前記導電性膜は、測定対象物と直接接するように外気にさらされていてもよいし、または、他の積層物として、イオンを透過可能なゲル、または、多孔膜を含むフィルムなどが形成されていてもよい。前記多孔膜は、微細な孔を多数有し、孔の径よりも小さいサイズのイオンや分子を選択的に透過する膜でありうる。これら他の積層物の材質は、特に限定されず、有機材料、無機材料、またはその混合物で形成されうる。例えば、有機材料として親水性ポリマー等のポリマー、無機材料としてセラミックス、またはこれらの組み合わせたものが挙げられる。これら他の積層物の膜厚は、例えば0.1μm以上300μm以下とすることができる。前記多孔膜は、例えば、平均孔径が1nm以上1μm以下でありうる。前記多孔膜は、孔形状別に、例えば、凝集粒子状多孔膜、網目状多孔膜、繊維状多孔膜、孤立および/または連通した管孔を複数有する多孔膜、ハニカム構造の多孔膜等が挙げられる。
【0033】
本実施形態の電極が基材を有する場合、前記導電性膜と基材は直接接触することが挙げられる。基材の材質は特に問わない。基材は導電材料で形成されていることが挙げられる。導電材料として、金属材料である金、銀、銅、白金、ニッケル、チタン、スズ、鉄、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、タングステン、モリブデンと、導電性高分子とのうちの、少なくとも1つの材料が挙げられる。基材は、本実施形態に係る導電性膜との接触面に、本実施形態に係る導電性膜とは別の、例えば金属膜などの導電性を有する膜を有していてもよい。または、前記基材は、有機材料で形成されていてもよい。前記有機材料として、例えばフレキシブル有機材料が挙げられ、例えば、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)、PETフィルム、ポリイミドフィルム等が挙げられる。
【0034】
(電極の用途)
本実施形態の電極は、任意の適切な用途に利用され得る。例えば、任意の適切な電気デバイスにおける電極や電磁シールド(EMIシールド)など、高い導電率を維持すること(初期導電率の低下を低減し、酸化を防止すること)が要求されるような用途に利用され得る。
【0035】
電極は、特に限定されないが、例えばキャパシタ用電極、バッテリ用電極、生体信号センシング電極、センサ用電極、アンテナ用電極などであり得る。本実施形態の導電性膜を使用することにより、より小さい容積(装置占有体積)でも、大容量のキャパシタおよびバッテリ、低インピーダンスの生体信号センシング電極、高感度のセンサおよびアンテナを得ることができる。
【0036】
キャパシタは、電気化学キャパシタであり得る。電気化学キャパシタは、電極(電極活物質)と電解液中のイオン(電解質イオン)との間での物理化学反応に起因して発現する容量を利用したキャパシタであり、電気エネルギーを蓄えるデバイス(蓄電デバイス)として使用可能である。バッテリは、繰り返し充放電可能な化学電池であり得る。バッテリは、例えばリチウムイオンバッテリ、マグネシウムイオンバッテリ、リチウム硫黄バッテリ、ナトリウムイオンバッテリなどであり得るが、これらに限定されない。
【0037】
生体信号センシング電極は、生体信号を取得するための電極である。生体信号センシング電極は、例えばEEG(脳波)、ECG(心電図)、EMG(筋電図)、EIT(電気インピーダンストモグラフィ)を測定するための電極であり得るが、これらに限定されない。
【0038】
センサ用電極は、目的の物質、状態、異常等を検知するための電極である。センサは、例えばガスセンサ、バイオセンサ(生体起源の分子認識機構を利用した化学センサ)などであり得るが、これらに限定されない。
【0039】
アンテナ用電極は、空間に電磁波を放射する、および/または、空間中の電磁波を受信するための電極である。
【0040】
本実施形態の電極は、好ましくは、前記π電子共役系化合物膜が被検体との接触面に備えられた生体信号センシング電極として用いられる。
【0041】
(実施形態2:電極の製造方法)
以下、本発明の実施形態における電極の製造方法について詳述するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0042】
本実施形態の電極の製造方法は、
(a)以下の式:
MmAXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される、導電性膜の前駆体を準備し、
(b)エッチング液を用いて、前記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去し、
(c)前記(b)により得られた第1中間体を、水で洗浄し、
(d)前記(c)により得られた第2中間体と、第2中間体の層間挿入用化合物とを混合することを含む、インターカレーションを行い、
(e)前記(d)により得られた第3中間体を液体中で撹拌し、
(f)層状材料の粒子を得るために、前記(e)により得られた第4中間体を水で洗浄し、
(g)前記(f)により得られた前記層状材料の粒子と、芳香環、複素芳香環、共役ジエン単位、アリル基、およびビニル基のうちの1以上を有するπ電子共役系化合物とを混合して、π電子共役系化合物が付着した層状材料の粒子を形成し、
(h)π電子共役系化合物が付着した層状材料の粒子を基材上に供給して導電性膜を形成することを含む。この製造方法により、優れた電極特性を長期的に維持できる電極を製造することができる。
【0043】
以下、上記製造方法の各工程について詳述する。
・工程(a)
まず、所定の前駆体を準備する。本実施形態において使用可能な所定の前駆体は、MXeneの前駆体であるMAX相であり、
以下の式:
MmAXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される。
【0044】
上記M、X、nおよびmは、MXeneで説明した通りである。Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、通常はA族元素、代表的にはIIIA族およびIVA族であり、より詳細にはAl、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、SおよびCdからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、好ましくはAlである。
【0045】
MAX相は、MmXnで表される2つの層(各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)の間に、A原子により構成される層が位置した結晶構造を有する。MAX相は、代表的にm=n+1の場合、n+1層のM原子の層の各間にX原子の層が1層ずつ配置され(これらを合わせて「MmXn層」とも称する)、n+1番目のM原子の層の次の層としてA原子の層(「A原子層」)が配置された繰り返し単位を有するが、これに限定されない。
【0046】
上記MAX相は、既知の方法で製造することができる。例えばTiC粉末、Ti粉末およびAl粉末を、ボールミルで混合し、得られた混合粉末をAr雰囲気下で焼成し、焼成体(ブロック状のMAX相)を得る。その後、得られた焼成体をエンドミルで粉砕して次工程用の粉末状MAX相を得ることができる。
【0047】
・工程(b)
エッチング液を用いて、前記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去する、エッチングを行う。エッチング液は、例えばHF、H3PO4、HCl、HIおよびH2SO4のうちの1種以上を含みうる。エッチング液は、HF(フッ酸)とH3PO4(リン酸)の少なくとも一つを含むことが好ましい。例えばエッチング液に含まれるHClとLiFを系中で反応させてHFを発生させる、いわゆるMILD法でエッチングを行うことも可能であるが、好ましくは、HF(フッ酸)を含むエッチング液でエッチングする、いわゆるACID法か、リン酸を含むエッチング液でエッチングすることが好ましい。これらの方法によれば、前記MILD法よりも、数平均フェレー径が好ましくは3μm以上の平面領域の大きいフレーク状の層状材料の粒子(MXene粒子)を容易に得られるため好ましい。エッチングのその他の条件は、特に限定されず、既知の条件を採用することができる。エッチング液として、上記酸と溶媒として例えば純水との混合液を用いることが挙げられる。上記エッチング液として、HF濃度が1.5M以上、H3PO4濃度が5.5M以上、HCl濃度が6.0M以上、H3PO4濃度が5.5M以上、HI濃度が5.0M以上、およびH2SO4濃度が5.0M以上からなる群より選択される少なくとも1つを満たすエッチング液を用いることができる。前記A原子のエッチングでは、A原子と共に、場合によりM原子の一部も選択的にエッチングされうる。上記エッチングにより得られたエッチング処理物として例えばスラリーが挙げられる。
【0048】
・工程(c)
前記エッチングにより得られたエッチング処理物(第1中間体)を、水洗浄する。水洗浄を行うことによって、上記エッチングで用いた酸等を十分に除去できる。エッチング処理物と混合させる水の量や洗浄方法は特に限定されない。例えば水を加えて撹拌、遠心分離等を行うことが挙げられる。撹拌方法として、ハンドシェイク、オートマチックシェイカー、シェアミキサー、ポットミルなどを用いた撹拌が挙げられる。撹拌速度、撹拌時間等の撹拌の程度は、処理対象物の量や濃度等に応じて調整すればよい。前記水での洗浄は1回以上行えばよい。好ましくは水での洗浄を複数回行う。例えば具体的に、(i)(エッチング処理物または下記(iii)で得られた残りの沈殿物に)水を加えて撹拌、(ii)撹拌物を遠心分離する、(iii)遠心分離後に上澄み液を廃棄し、残りの沈殿物を回収する、の工程(i)~(iii)を2回以上、例えば15回以下の範囲内で行うことが挙げられる。
【0049】
・工程(d)
前記水洗浄により得られた処理物(第2中間体)と、該第2中間体の層間挿入用化合物と混合して、インターカレーションを行う。
【0050】
第2中間体の層間挿入用化合物は、第2中間体の層間に挿入でき、次工程である工程(e)のデラミネーションで各層に分離できる化合物であれば、具体的な種類は問わない。前記層間挿入用化合物として、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物が好ましい。より好ましくはLi含有化合物である。Li含有化合物として、Liイオンと陽イオンが結合したイオン性化合物を用いることができる。例えばLiイオンの、ヨウ化物、塩化物およびフッ化物等を含むハロゲン化物、リン酸塩、硫酸塩を含む硫化物塩、硝酸塩、酢酸塩、カルボン酸塩が挙げられる。
【0051】
インターカレーション用配合物に占める、前記層間挿入用化合物の含有率は、0.001質量%以上とすることが好ましい。上記含有率は、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上である。一方、溶液中の分散性の観点からは、前記層間挿入用化合物の含有率を、10質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは1質量%以下である。
【0052】
インターカレーションの具体的な方法は特に限定されず、例えば、上記MXeneの水分媒体クレイに対して、前記層間挿入用化合物を混合し、撹拌を行ってもよいし、静置してもよい。例えば室温で撹拌することが挙げられる。上記撹拌の方法は、例えば、スターラー等の撹拌子を用いる方法、撹拌翼を用いる方法、ミキサーを用いる方法、及び遠心装置を用いる方法等が挙げられる。撹拌時間は、電極の製造規模に応じて設定することができ、例えば12~24時間の間で設定することが挙げられる。
【0053】
・工程(e)
工程(d)のインターカレーションにより得られた処理物(第3中間体)を、例えば水などの液体中で撹拌することを含む、デラミネーションを行う。このデラミネーションにより、MXeneの単層・少層化を図ることができる。デラミネーションの条件は特に限定されず、既知の方法で行うことができる。例えば撹拌方法として、ハンドシェイク、オートマチックシェイカーなどを用いた撹拌が挙げられる。撹拌速度、撹拌時間等の撹拌の程度は、処理対象となる処理物の量や濃度等に応じて調整すればよい。例えば、上記インターカレーション後のスラリーを、遠心分離して上澄み液を廃棄した後に、残りの沈殿物に純水添加し、次いで、例えばハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーによる撹拌を行って層分離を行うことが挙げられる。
【0054】
本実施形態の製造方法では、デラミネーションとして超音波処理を行わない。前述の通り、超音波処理を行わないため粒子破壊が生じ難く、その結果、層状材料の粒子として、粒子の層に平行な平面、すなわち2次元面が大きく、数平均フェレー径の大きい単層・少層MXeneを得ることができる。
【0055】
・工程(f)
デラミネーションして得られた処理物(第4中間体)を、水で洗浄して、層状材料の粒子を得る。水の量や洗浄方法は特に限定されない。例えば水を加えて撹拌、遠心分離等を行うことが挙げられる。撹拌方法として、ハンドシェイク、オートマチックシェイカー、シェアミキサー、ポットミルなどを用いた撹拌が挙げられる。撹拌速度、撹拌時間等の撹拌の程度は、処理対象物の量や濃度等に応じて調整すればよい。前記水での洗浄は1回以上行えばよい。好ましくは水での洗浄を複数回行う。例えば具体的に、(i)水を加えて撹拌、(ii)撹拌物を遠心分離する、(iii)遠心分離後に上澄み液を回収する、の工程(i)~(iii)を2回以上、例えば10回以下の範囲内で行い、MXene含有上澄み液を得ることが挙げられる。その後、上記MXene含有上澄み液を遠心分離して、MXene含有クレイを得ることが挙げられる。
【0056】
・工程(g)
前記(f)により得られた前記層状材料の粒子とπ電子共役系化合物を混合して、π電子共役系化合物が付着した層状材料の粒子(π電子共役系化合物付着粒子)を形成する。前記π電子共役系化合物は、前述の電極の説明で述べた化合物を用いることができる。前記混合の方法は特に限定されない。例えばπ電子共役系化合物を含む溶液と、層状材料の粒子を含む水分散体を用意し、これらを混合することが挙げられる。前記π電子共役系化合物を含む溶液は、π電子共役系化合物のモル濃度が0.001M以上、5M以下である溶液であることが好ましい。また、前記層状材料の粒子を含む水分散体は、層状材料の粒子の固形分濃度が10mg/mL以上、250mg/mL以下である層状材料粒子含有スラリーであることが好ましい。これらを混合することで、π電子共役系化合物が付着した層状材料の粒子を容易に形成することができる。混合の方法は特に限定されず、手振り、またはマグネチックスターラー、メカニカルスターラー、ホモミキサー、ホモジナイザー等の機器による撹拌が挙げられる。撹拌の速度と時間は、処理量等に応じて適宜決定すればよい。混合後は、例えば実施例に示す通り3時間程度放置して、層状材料の粒子にπ電子共役系化合物を十分付着させることができる。その後、遠心分離、ろ過等により、形成されたπ電子共役系化合物付着粒子を回収することが挙げられる。前記混合とその後の放置は室温で行うことができる。混合後の放置は、好ましくは0℃以上、10℃以下、例えば好ましくは冷蔵庫で保存するのがよい。
【0057】
・工程(h)
π電子共役系化合物が付着した層状材料の粒子を基材上に供給して導電性膜を形成する。π電子共役系化合物が付着した層状材料の粒子を基材上に供給する方法は限定されず、塗布、浸漬、ろ過等が挙げられる。塗布の方法としては、例えば、π電子共役系化合物付着粒子を含むスラリーを、基材(例えば基板)に塗布する場合、塗布方法は限定されない。例えば、1流体ノズル、2流体ノズル、エアブラシ等のノズルを用いて、スプレー塗布を行うスプレーコート、テーブルコーター、コンマコーター、バーコーターを用いたスリットコート、スクリーン印刷、メタルマスク印刷、スピンコート、浸漬、刷毛、滴下による塗布方法が挙げられる。
【0058】
上記塗布および乾燥は、所望の厚みの導電性膜が得られるまで、必要に応じて複数回繰り返し行ってもよい。乾燥および硬化は、例えば、常圧オーブンあるいは真空オーブンを用いて400度以下の温度で行ってもよい。
【0059】
前述の通り、本実施形態に係る電極は、基板を有していてもよいし、有していなくてもよい。基板を有する電極の場合、前述した材質の基板を用いることができる。例えばフレキシブル有機材料基板を用いる場合、後述する実施例に示す通り、塗布前にプラズマ処理を行い、表面の親水性を向上させておく前処理を行ってもよい。基板を有しない電極の場合、この工程で用いる基板とは、導電性膜の形成のための基板であればよく、材質は問わない。例えば、吸引ろ過により導電性膜を形成する場合、例えばメンブランフィルター等の様なポリマーフィルムが基板となりうる。
【0060】
以上、本発明の実施形態における電極およびその製造方法について詳述したが、種々の改変が可能である。なお、本実施形態に係る電極は、上述の実施形態における製造方法とは異なる方法によって製造されてもよく、また、本実施形態に係る電極の製造方法は、上述の実施形態に係る電極を提供するもののみに限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0061】
[実施例1]
実施例1では、インピーダンスの経時変化を、π電子共役系化合物としてアスコルビン酸を付着させたMXene粒子で形成した導電性膜(アスコルビン酸付着MXene膜)と、π電子共役系化合物の付着していないMXene粒子(MXene粒子のみ)で形成した導電性膜(アスコルビン酸非付着MXene膜)で比較する実験を行った。
【0062】
(層状材料の粒子(MXene粒子)の調製)
MXeneは、下記に示す方法(MAXのエッチング方法としてACID法を使用)で作製した。詳細は次の通りである。
【0063】
(MAXのエッチング方法としてACID法を使用した、MXene粒子の作製)
(1)前駆体(MAX)の準備
TiC粉末、Ti粉末およびAl粉末(いずれも株式会社高純度化学研究所製)を2:1:1のモル比で、ジルコニアボールを入れたボールミルに投入して24時間混合した。得られた混合粉末をAr雰囲気下にて1350℃で2時間焼成した。これにより得られた焼成体(ブロック状MAX)をエンドミルで最大寸法40μm以下まで粉砕した。これにより、前駆体(粉末状MAX)としてTi3AlC2粒子を得た。
【0064】
(2)前駆体のエッチング
上記方法で調製したTi3AlC2粒子(粉末)を用い、下記エッチング条件(ACID法)でエッチングを行って、Ti3AlC2粉末に由来する固体成分を含む固液混合物(スラリー)を得た。
(エッチング条件)
・前駆体:Ti3AlC2(目開き45μmふるい通し)
・エッチング液組成:49%HF 6mL、
H2O 18mL
HCl(12M) 36mL
・前駆体投入量:3.0g
・エッチング容器:100mLアイボーイ
・エッチング温度:35℃
・エッチング時間:24h
・スターラー回転数:400rpm
(3)エッチング後の洗浄
上記スラリーを2分割して、50mL遠沈管2本にそれぞれ挿入し、遠心分離機を用いて3500Gの条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄した。各遠沈管に純水40mLを追加し、再度3500Gで遠心分離を行って上澄み液を分離除去する操作を11回繰り返した。最終遠心分離後に、上澄み液を廃棄し、Ti3C2Ts-水分媒体クレイを得た。
(4)Liインターカレーション
上記方法で調製したTi3C2Ts-水分媒体クレイに対し、下記Liインターカレーションの条件の通り、Li含有化合物としてLiClを用い、20℃以上25℃以下で12時間撹拌して、Liインターカレーションを行った。Liインターカレーションの詳細な条件は以下の通りである。
(Liインターカレーションの条件)
・Ti3C2Ts-水分媒体クレイ(洗浄後MXene):固形分0.75g
・LiCl:0.75g
・インターカレーション容器:100mLアイボーイ
・温度:20℃以上25℃以下(室温)
・時間:10h
・スターラー回転数:800rpm
(5)デラミネーション
Liインターカレーションを行って得られたスラリーを、50mL遠沈管に投入し、遠心分離機を用いて3500Gの条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄した。次いで、(i)残りの沈殿物に純水40mLを追加してからシェーカーで15分間撹拌後に、(ii)3500Gで遠心分離し、(iii)上澄み液を単層・少層MXene含有液として回収した。この(i)~(iii)の操作を、合計4回繰り返して、単層・少層MXene含有上澄み液を得た。さらに、この上澄み液を、遠心分離機を用いて4300G、2時間の条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄し、単層・少層MXene含有クレイを得た。
【0065】
(電極試料の形成)
アスコルビン酸を純水に溶解して濃度が10mMの水溶液を得た。また、上記単層・少層MXene含有クレイに純水を加え、固形分濃度が10mg/mL以下のMXene水分散体スラリーを得た。上記アスコルビン酸の水溶液と、MXene水分散体スラリーとを混合して得られた混合物を、手振りで5分間撹拌し、その後3時間放置した。その後、アスコルビン酸付着MXeneを溶液から分離するため、遠心分離を行った。遠心分離後は、上澄み液を分離除去し、残存したアスコルビン酸付着MXeneスラリーを3回洗浄し、次いで得られたアスコルビン酸付着MXeneスラリーをDI水中に再分散させた。あらかじめプラズマ処理を行って基板表面の親水性を向上させたフレキシブル有機材料基板(ポリイミドフィルム、サイズ:直径10cmの円形)に、アスコルビン酸付着MXeneスラリーをスプレーコートした。その後、オーブンで乾燥させて、フレキシブル有機材料基板上にアスコルビン酸付着MXene膜の形成された電極試料を得た。
【0066】
(層状材料の粒子の合計量に対するπ電子共役系化合物の合計量の割合の測定)
前記電極試料から、アスコルビン酸付着MXene膜を削り取り、TG-DTA(メーカー:株式会社日立ハイテクサイエンス製の熱分析装置(装置名:STA7300)を用いて、重量減少量を計量した。そして計量結果から、層状材料の粒子の合計量に対するπ電子共役系化合物の合計量の割合を求めたところ、0.05質量%以上、5質量%以下の範囲内であった。
【0067】
(インピーダンスの初期値および変化率の測定)
上記電極試料のインピーダンスを、Gamry Reference 600 Potentiostat/Galvanostat/ZRAを用いて3極式にて測定を行った。参照極には、Natus製Diposable adhesive electrodesを、対極にはConmed製ECG電極を用いた。過電圧は瞬時値で10mVとした。周波数10Hzと1kHzにおける値を記録した。前腕の内側の皮膚上に電極を設置して測定を行った。固定は、伸縮性バンドなどで固定を行った。測定前には、電極を貼る部分を、消毒用エタノールをしみこませたコットンでふき取って乾燥させたのち、PBS(製品名:1X PBS、pH7.4、メーカー:Quality Biological)をしみこませたコットンでふき、余剰のPBSを乾いたコットンで軽く除去した。
【0068】
参照値を求めるため、前記アスコルビン酸付着MXene膜の代わりに、アスコルビン酸非付着MXene膜も用意し、同様の測定を行った。そして、アスコルビン酸非付着MXene膜の初期インピーダンス(0日目)を1.00とし、このアスコルビン酸非付着MXene膜の初期インピーダンスに対する、各インピーダンス測定値の割合を、インピーダンス変化率として求め、インピーダンスの経時変化を評価した。アスコルビン酸非付着MXene膜とアスコルビン酸付着MXene膜の初期インピーダンスを表1に示す。表1において、アスコルビン酸付着MXene膜の測定値には、アスコルビン酸非付着MXene膜の初期インピーダンスに対する、インピーダンス変化率もカッコ書きで示す。また、インピーダンスの経時変化として、4日間の装着で1日経過ごとにインピーダンスを測定した結果を、10Hzの場合は表2、1kHzの場合は表3にそれぞれ示す。表2および表3において、カッコ書きの数値は、アスコルビン酸付着MXene膜の初期インピーダンスに対する各インピーダンスの変化率である。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
表1に示す通り、アスコルビン酸付着MXene膜はアスコルビン酸非付着MXene膜と比較して初期インピーダンスの増大を10%以下に抑えられている。また表2、表3から、アスコルビン酸非付着MXene膜の場合は、3日経過後(4日目)のインピーダンスが、10Hzでは初期インピーダンスの30倍以上、1kHzでは初期インピーダンスの16倍以上となっている。これに対して、アスコルビン酸付着MXene膜のインピーダンスは、10Hzでは20倍程度、1kHzでは15倍程度を保っている。特に、アスコルビン酸非付着MXene膜とアスコルビン酸付着MXene膜のそれぞれの初期インピーダンスを1.00としたときの変化率は、10Hzの場合、アスコルビン酸非付着MXene膜では4日目(3経過日)でインピーダンスが約33倍まで増大したのに対し、アスコルビン酸付着MXene膜では約20倍であり、-30%低減できた。
【0073】
上記結果から、アスコルビン酸付着MXene膜は酸化が抑制されていると考えられる。また、アスコルビン酸の付着により上記効果を得られた理由について次の通り考えられる。すなわち、アスコルビン酸は酸性溶液中ではビニル性カルボン酸のように振る舞い、二重結合のπ電子がヒドロキシ基とカルボニル基の間に伝わることにより安定な共役塩基O-を有する。つまり、弱酸性を示すMXene水分散体中では、そのO-基がMXeneの酸化サイトである正の電荷を帯びるMXeneシートのエッジやMXeneシートの炭素欠陥に強く吸着している。そのため、空気中の酸素などからMXene自体を保護する役割を果たしていると考えられる。また、アスコルビン酸は炭素二重結合も有し、π電子を多く有するため、MXeneの金属原子とアスコルビン酸のπ電子とが相互作用し、導電性を高めるπ接合と呼ばれる現象が起こったと考えられる。加えて、アスコルビン酸が還元剤として犠牲酸化することで、外部からの水、酸素等によるMXene粒子の酸化を防ぐことができると考えられる。
【0074】
[実施例2]
実施例2では、層状材料の粒子の形状がインピーダンスの経時変化に及ぼす影響について検討した。
【0075】
実施例1と同様にして水分散体Mxeneクレイ(10mM)を用意した。この単層・少層MXene含有クレイ(10mM)に純水を加えて、固形分濃度が10mg/mL以下のMXene水分散体スラリー(ACID法)を得た。
【0076】
上記MXene水分媒体クレイ(ACID法)とは別に、下記に示す方法(MAXのエッチング方法としてMILD法を使用)でMXene水分媒体クレイを用意した。
【0077】
(MAXのエッチング方法としてMILD法を使用した、MXene粒子の作製)
(1)前駆体(MAX)の準備
TiC粉末、Ti粉末およびAl粉末(いずれも株式会社高純度化学研究所製)を2:1:1のモル比で、ジルコニアボールを入れたボールミルに投入して24時間混合した。得られた混合粉末をAr雰囲気下にて1350℃で2時間焼成した。これにより得られた焼成体(ブロック状MAX)をエンドミルで最大寸法40μm以下まで粉砕した。これにより、前駆体(粉末状MAX)としてTi3AlC2粒子を得た。
(2)前駆体のエッチング
上記方法で調製したTi3AlC2粒子(粉末)を用い、下記エッチング条件でエッチングを行って、Ti3AlC2粉末に由来する固体成分を含む固液混合物(スラリー)を得た。
(エッチング条件)
・前駆体:Ti3AlC2(目開き45μmふるい通し)
・エッチング液組成:LiF 3.0g
H2O 7.5mL
HCl(12M) 22.5mL
・前駆体投入量:3.0g
・エッチング容器:100mLアイボーイ
・エッチング温度:35℃
・エッチング時間:72h
・スターラー回転数:400rpm
(3)エッチング後の洗浄
上記スラリーを2分割して、50mL遠沈管2本にそれぞれ挿入し、遠心分離機を用いて3500Gの条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄した。各遠沈管に純水40mLを追加し、再度3500Gで遠心分離を行って上澄み液を分離除去する操作を11回繰り返した。最終遠心分離後に、上澄み液を廃棄し、Ti3C2Ts-水分媒体クレイを得た。
(4)デラミネーション
Ti3C2Ts-水分媒体クレイに純水40mLを追加してからシェーカーで15分間撹拌後に、(ii)3500Gで遠心分離し、(iii)上澄み液を単層・少層MXene含有液として回収した。この(i)~(iii)の操作を、合計4回繰り返して、単層・少層MXene含有上澄み液を得た。さらに、この上澄み液を、遠心分離機を用いて4300G、2時間の条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄し、単層・少層MXene含有クレイを得た。
【0078】
10mMの上記単層・少層MXene含有クレイ(MILD法)に純水を加えて、固形分濃度が10mg/mL以下のMXene水分散体スラリー(MILD法)を調製した。
【0079】
上記MXene水分散体スラリー(ACID法)と上記MXene水分散体スラリー(MILD法)のそれぞれを、スライドガラス上にスプレーコートし、乾燥させて、単層・少層MXene膜(ACID法)と単層・少層MXene膜(MILD法)を作製した。
【0080】
(各MXene薄膜の初期インピーダンスの測定)
上記各単層・少層MXene膜で形成された電極を用い、室温大気中にて、初期インピーダンスと、2週間放置後のインピーダンスを測定した。その他のインピーダンス測定条件は次の通りとした。即ち、Gamry Reference 600 Potentiostat/Galvanostat/ZRAを用いて、飽和Ag/AgCl参照電極(シグマ・アルドリッチ;3 M塩化カリウム)と炭素対極電極を用いた標準三電極系での測定を行った。電気化学インピーダンススペクトロスコピー(EIS)は0.1~105Hz、駆動電圧10mV(ピーク間振幅、正弦波)の範囲で実施した。10Hzおよび1kHzのインピーダンスを評価した。
【0081】
(各MXene薄膜を構成する層状材料の粒子の数平均フェレー径の測定)
MAXのエッチングを、ACID法で行って得られた層状材料の粒子と、MILD法で行って得られた層状材料の粒子のどちらも、数平均フェレー径の測定は、アスコルビン酸付着MXene膜からアスコルビン酸を除去して行った。詳細には、アスコルビン酸付着MXene膜を純水中で超音波洗浄を実施して、アスコルビン酸が付着していないMXeneフレークを純水中に分散させた。そのMXeneフレークを分散させた純水を、Si基板上に任意の量を滴下した。そして室温で8時間静置し、水分を除去することでMXeneフレークを担持したSi基板を得た。そして、Si基板上に担持されたMXeneフレークを、株式会社日立ハイテクノロジーズ製の走査型電子顕微鏡(製品名S-4800)を用いて、倍率2000倍で撮影して得られた写真を目視で観察し確認した。数平均のフェレー径は、前記写真から50個以上の粒子を任意に抽出し、各粒子のFeret(フェレー)定方向接線径を求め、さらに上記個数の平均値を、数平均フェレー径として求めた。
【0082】
上記数平均フェレー径を算出した結果、MAXのエッチングをMILD法で行った場合、3.00μm未満であり、MAXのエッチングをACID法で行った場合、3.00μm以上であった。
【0083】
なお、MAXのエッチングを、実施例1に示したACID法の代わりに下記のリン酸エッチングにより行った場合でも、数平均フェレー径が3.00μm以上のMXeneを得られ、インピーダンス増大抑制効果が得られると考えられる。
【0084】
(MAXのリン酸エッチングを含む方法)
〔試料の調製〕
以下に詳述する、(1)前駆体(MAX)の準備、(2)前駆体のエッチング、(3)洗浄、(4)インターカレーションおよび(5)デラミネーションの5つの工程を順に実施して、MXene粒子を作製した。
(1)前駆体(MAX)の準備
TiC粉末、Ti粉末およびAl粉末(いずれも株式会社高純度化学研究所製)を2:1:1のモル比で、ジルコニアボールを入れたボールミルに投入して24時間混合した。得られた混合粉末をAr雰囲気下にて1350℃で2時間焼成した。これにより得られた焼成体(ブロック)をエンドミルで最大寸法40μm以下まで粉砕した。これにより、前駆体(MAX)としてTi3AlC2粒子を得た。
(2)前駆体のエッチング
上記方法で調製したTi3AlC2粒子(粉末)を用い、下記エッチング条件でエッチングを行って、Ti3AlC2粉末に由来する固体成分を含む固液混合物(スラリー)を得た。
(エッチング条件)
・前駆体:Ti3AlC2(目開き45μmふるい通し)
・エッチング液組成:HF濃度が1.5M以上でありH3PO4濃度が5.5M以上である水溶液
・前駆体投入量:3.0g
・エッチング容器:100mLアイボーイ
・エッチング温度:35℃
・エッチング時間:24h
・スターラー回転数:400rpm
(3)洗浄
上記スラリーを2分割して、50mL遠沈管2本にそれぞれ挿入し、遠心分離機を用いて3500Gの条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄した。(i)各遠沈管において、遠心分離により沈降したクレイに純水40mLを追加し、混合してスラリー化させ、
(ii)再度3500Gで遠心分離を行って、上澄み液を分離除去する工程を、11回繰り返した。そして最終遠心分離後に、上澄み液を廃棄し、残りの沈殿物としてTi3C2Ts-水分媒体クレイを得た。
(4)インターカレーション
上記方法で調製したTi3C2Ts-水分媒体クレイに対し、Li3PO4、H3PO4および純水を加え、20℃以上25℃以下で15時間撹拌して、Liインターカレーションを行った。Liインターカレーションの詳細な条件は以下の通りである。
(Liインターカレーションの条件)
・Ti3C2Ts-水分媒体クレイ(洗浄後MXene):固形分0.75g
・Li3PO4:0.68g
・85質量%H3PO4:3.1mL
・H2O:31.9mL
・インターカレーション容器:100mLアイボーイ
・温度:20℃以上25℃以下(室温)
・時間:15h
・スターラー回転数:800rpm
(5)デラミネーション
Liインターカレーション後のスラリーを、50mL遠沈管に投入し、遠心分離機を用いて3500Gの条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄した。次いで、上澄みを除いた残りの沈殿物に純水40mLを追加してからシェーカーで15分間撹拌後に、3500Gで遠心分離し、上澄み液を、単層・少層MXene含有液として回収する操作を、4回繰り返して、単層・少層MXene含有試料を得た。
【0085】
上記数平均フェレー径別に、10Hzと1kHzでの初期インピーダンスを測定した結果を表4に示す。なお、表4におけるカッコ内の変化率は、フェレー径が、3.00μm未満から3.00μm以上に大きくなったことによる、初期インピーダンスの低減比率をマイナスの値で示している。更に、大気中に2週間放置した場合のインピーダンスの経時変化を、数平均フェレー径が3.00μm未満と3.00μm以上のそれぞれについて、10Hzの場合を表5、1kHzの場合を表6に示す。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
表5に示したように数平均フェレー径が3.00μm以上を有するMXeneを適用することで、初期インピーダンスが約-10%~-5%低減可能であることがわかる。これは、ACID法で作製した場合、1枚のMXeneシートの大きいことから、面内導電率の向上が寄与していると考えられる。また、表6に示したように、2週間経過後のインピーダンスも、数平均フェレー径が3.00μm以上を有することで増大が緩やかになっていることがわかる。これは、数平均フェレー径が3.00μm以上を有することで単位面積当たりの酸化サイト(エッジ数)の低減による効果であると考えられる。2週間経過後のインピーダンス変化率の比率より、この抑止効果はおよそインピーダンス増大率を-25%低減させる程度であるといえる。
【0090】
また、前述の表1および表2に示したMXeneは、エッチングをACID法で行って得たものであり、粒子の数平均フェレー径が3μm以上である。表1および表2から、数平均フェレー径の大きいMXene粒子を用い、かつアスコルビン酸がMXene粒子に付着することによって、インピーダンス変化率を十分に抑制できることがわかる。
【0091】
これらの結果から次のことがいえる。MXene粒子(層状材料の粒子)においてπ接合はMXene粒子のX-Y面内でのみ形成可能であるため、フェレー径の大きい粒子はπ接合がより多く形成されていると考えられる。このπ接合がより多く形成しやすいフェレー径の大きい、好ましくは、数平均フェレー径3μm以上の層状材料の粒子(MXene粒子)を用いて導電性膜を形成することによって、実施例1で述べたアスコルビン酸がMXene粒子に付着することによる効果に加え、MXene膜としての面内の配向性が向上し、付着するアスコルビン酸とのπ接合の形成が容易となり、インピーダンスの増大抑制効果がより顕著になった、との追加の効果が得られたといえる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本実施形態に係る電極は、任意の適切な用途に利用され得、例えば生体信号センシング電極等として好ましく使用され得る。
【0093】
本出願は、2021年7月19日に米国特許商標庁に出願された米国仮特許出願第63/223,292号を基礎とし、その優先権を主張するものであって、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【符号の説明】
【0094】
1a、1b 層本体(MmXn層)
3a、5a、3b、5b 修飾または終端T
7a、7b MXene層
10a、10b、34 MXene粒子(層状材料の粒子)
30 生体組織
31 基材
32 導電性膜
33 π電子共役系化合物付着粒子
35 π電子共役系化合物
36 MXene粒子のπ電子とπ電子共役系化合物のπ電子による接合
37 MXene粒子のエッジ
38 電極
【国際調査報告】