IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エレメント シックス テクノロジーズ リミテッドの特許一覧

特表2024-526907電子ゼーマン分裂を利用するデバイス
<>
  • 特表-電子ゼーマン分裂を利用するデバイス 図1
  • 特表-電子ゼーマン分裂を利用するデバイス 図2
  • 特表-電子ゼーマン分裂を利用するデバイス 図3
  • 特表-電子ゼーマン分裂を利用するデバイス 図4
  • 特表-電子ゼーマン分裂を利用するデバイス 図5
  • 特表-電子ゼーマン分裂を利用するデバイス 図6
  • 特表-電子ゼーマン分裂を利用するデバイス 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】電子ゼーマン分裂を利用するデバイス
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/20 20060101AFI20240711BHJP
   G01R 33/032 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
G01R33/20 101
G01R33/032
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503662
(86)(22)【出願日】2022-07-18
(85)【翻訳文提出日】2024-01-19
(86)【国際出願番号】 EP2022069980
(87)【国際公開番号】W WO2023001728
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】2110314.8
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514233369
【氏名又は名称】エレメント シックス テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】エドモンズ アンドリュー マーク
(72)【発明者】
【氏名】マーカム マシュー リー
(72)【発明者】
【氏名】コラード ピエール-オリヴィエ フランソワ マーク
【テーマコード(参考)】
2G017
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AB05
2G017AC04
2G017AC09
2G017AD11
2G017BA15
(57)【要約】
電子ゼーマン分裂効果を利用するデバイスが、少なくとも1つのスピン欠陥を含む固体材料を含む。デバイスは、バイアス磁場を発生させるように構成された磁場発生器と、バイアス磁場に対する温度変化の影響を補償する補償システムとをさらに含む。補償は、磁場発生器の温度及び温度変化のいずれかを測定するように構成された温度センサと、測定された温度又は測定された温度変化が変化した結果としてバイアス磁場の変化を決定するように構成されたコンピュータ装置とを含む。コンピュータ装置は、決定されたバイアス磁場の変化を使用して所定のバイアス磁場値を調整し、この値を補償システムへの入力として使用してバイアス磁場に対する温度変化の影響を補償するようにさらに構成される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ゼーマン分裂効果を利用するデバイスであって、
少なくとも1つのスピン欠陥を含む固体材料と、
バイアス磁場を発生させるように構成された磁場発生器と、
前記バイアス磁場に対する温度変化の影響を補償する補償システムと、
を備え、前記補償は、前記磁場発生器の温度及び温度変化のいずれかを測定するように構成された温度センサと、前記測定された温度又は前記測定された温度変化が変化した結果としての前記バイアス磁場の変化を決定するように構成されたコンピュータ装置とを含み、前記コンピュータ装置は、前記決定されたバイアス磁場の変化を使用して所定のバイアス磁場値を調整し、前記値を前記補償システムへの入力として使用して前記バイアス磁場に対する温度変化の影響を補償するようにさらに構成される、
ことを特徴とするデバイス。
【請求項2】
前記固体材料は、ダイヤモンド材料及び炭化ケイ素のいずれかから選択される、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記固体材料はダイヤモンド材料であり、前記ダイヤモンド材料は、ナノ結晶、バルクダイヤモンド試料、又は異なる特性を有するダイヤモンド領域を含む複合ダイヤモンド試料のいずれかから選択される、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記スピン欠陥は、負に帯電した窒素空孔中心、シリコン空孔中心、ニッケル関連欠陥、クロム関連欠陥、スズ空孔中心及びゲルマニウム空孔中心のいずれかから選択される、
請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記固体材料は温度センサであり、前記固体材料は前記磁場発生器と熱平衡状態にあり、前記温度変化は前記スピン欠陥のゼロ磁場分裂値のドリフトによって決定される、
請求項1から4のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記固体材料と前記磁場発生器との間に配置されて前記固体材料及び前記磁場発生器の両方に接触する中間材料をさらに備え、前記中間材料は、前記固体材料と前記磁場発生器との間で熱を伝えるように選択される、
請求項1から4のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記デバイスは磁力計であり、
前記固体材料は、前記少なくとも1つのスピン欠陥に近接する検知面を含み、
前記磁力計は、前記スピン欠陥の電子スピンに相関する出力光放射又は光電流を検出するように構成された検出器をさらに含む、
請求項1から6のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項8】
光放射を生成するように構成された光源をさらに備える、
請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
RF放射を生成するように構成されたRF源をさらに含む、
請求項7又は8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記デバイスは、磁力計、メーザ、及びRFセンサ又はスペクトルアナライザのうちのいずれか1つから選択される、
請求項1から6のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項11】
電子ゼーマン分裂効果を利用するデバイスの使用方法であって、
少なくとも1つのスピン欠陥を含む固体材料を含むデバイスを準備することと、
磁場発生器を使用してバイアス磁場を発生させることと、
前記バイアス磁場に対する温度変化の影響を補償するように構成された補償システムを使用することと、
を含み、前記補償は、前記磁場発生器の温度及び温度変化のいずれかを測定する温度センサを含み、前記補償システムは、前記測定された温度又は前記測定された温度変化が変化した結果としての前記バイアス磁場の変化を決定するように構成されたコンピュータ装置をさらに含み、前記コンピュータ装置は、前記決定されたバイアス磁場の変化を使用して所定のバイアス磁場値を調整し、前記値を前記補償システムへの入力として使用して前記バイアス磁場に対する温度変化の影響を補償するようにさらに構成される、
ことを特徴とする方法。
【請求項12】
前記固体材料は、ダイヤモンド材料及び炭化ケイ素のいずれかから選択される、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記固体材料を使用して前記温度を測定することをさらに含み、前記固体材料は前記磁場発生器と熱平衡状態にあり、前記温度変化は前記スピン欠陥のゼロ磁場分裂値のドリフトによって決定される、
請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記固体材料と前記磁場発生器との間に配置されて前記固体材料及び前記磁場発生器に熱的に接触する中間材料を準備することをさらに含み、前記中間材料は、前記固体材料と前記磁場発生器との間で熱を伝えるように選択される、
請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ゼーマン効果を利用するデバイス、特にダイヤモンド材料を含むデバイスの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
磁力計などのセンサデバイスは、結晶格子にスピン欠陥を組み込んだ単結晶ダイヤモンドセンサを使用して形成することができる。スピン欠陥の例には、窒素空孔(NV)中心(nitrogen-vacancy(NV)centre)がある。国際公開第2009/073736号及び米国特許出願公開第2010/0315079号に例示的な磁力計が記載されている。
【0003】
スピンベースの磁場センサの原理にとって重要な側面は、欠陥中の不対電子の磁気双極子モーメントと磁場との間の相互作用を表す電子ゼーマン効果である。電子スピン(S)が1であるダイヤモンド中のNV中心などの欠陥では、基底状態スピンレベル(MS±1)のエネルギーに、欠陥の<111>対称軸に沿って投影された磁場に一次に比例する分裂が生じる。このエネルギーの分裂は、欠陥を緑色光で光学的に励起しながら、適用されるRF周波数を掃引して、NVに関連する発光の度合いを検出すること(光検出磁気共鳴、又はODMRモダリティ)、又は発生した光電流を測定すること(光検出磁気共鳴、又はPDMR)によって測定することができる。このエネルギー分裂の知識を使用して磁場を決定することができる。
【0004】
通常、磁力計は、バイアス磁石を使用して固定された既知の磁場を印加する。このバイアス磁場は、使用される正確な手法に応じて異なる役割を果たす。
【0005】
マイクロ波周波数波(microwave-frequency waves)の静的又は時変的適用を利用する(実装1と呼ばれる)実装では、バイアス磁場(Bbias)が、2つのΔMS±1遷移(ΔMS±1 transitions)と、NV中心が占有できる(最大)4つの対称関連サイト(symmetry-related site)(4つの許容される<111>軸)に関連する(最大)4対の線とを周波数的に分離する役割を果たす。このようにして、共鳴線(resonance lines)が周波数的に十分に分離されることにより、図1に示すように(18,29)度(球面極θ、φ表記)の角度に沿って磁場が配向する(最大)8組の共鳴線に個別に対処できるようになり、[111]は(54.7,45)度として定義される。全ての共鳴線を観察するには、Bbiasの配向を、各対称<111>軸に対して異なる角度を成すように選択しなければならない。その後、これらの周波数的位置を測定することにより、その絶対位置又は分離距離を使用して、ダイヤモンドに入射する総ベクトル磁場(Btotal)を抽出することができる。後者の場合、NV中心のゼロ磁場パラメータの変化に起因して線の位置ずれを生じさせるダイヤモンドの温度変化問題は否定される。その後、Bunknown=Btotal-Bbiasを介して関心磁場を抽出することができ、Bbiasは、磁場の設計によって既知であり、或いは遮蔽容器に入れられたセンサ自体が磁場を測定することによって決定することができる。この実装におけるBbiasの典型的な値は~1~10mTである。
【0006】
ダイヤモンド内のNV中心を使用する磁場センサのための(実装2と呼ばれる)別の手法はマイクロ波付与の必要性を排除し(「RFフリー」技術)、この手法はいくつかの用途、とりわけ極低温度で測定を行うことに関心がある用途において有利である。この理由は、RFを適用すると熱が発生するからである。この場合、NV中心の発光出力を低下させる三重項基底状態(triplet ground state)のレベルアンチクロッシング(level anti-crossing)を利用するために、Bbias=102.4mTの正確なバイアス磁場が必要となる。この時、(Bunknownの変化によるものと想定される)磁場の変化は発光を高める。
【0007】
電子ゼーマン相互作用及び既知の静磁場の適用は、固体材料中の他のスピン欠陥検出モダリティ/使用例にとっても重要である。例えば、国際公開第2016/066532号に記載されるように、ダイヤモンド中のNVは、ダイヤモンドプレート全体にわたって磁場勾配が設定されるRFスペクトルアナライザとしても証明されている。発光を(Bを変化させることに対応する)ダイヤモンド試料全体にわたる位置の関数として測定することにより、ダイヤモンド試料に入射するRF周波数のスペクトルを分解することができる。
【0008】
また、ダイヤモンドは、(米国特許出願公開第20170077665号A1に記載されている)NV中心及びゼーマン相互作用を利用するMASERとしても証明されている。この場合、共振器と組み合わせた制御された磁場を使用して、発生したマイクロ波の放射周波数を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2009/073736号
【特許文献2】米国特許出願公開第2010/0315079号明細書
【特許文献3】国際公開第2016/066532号
【特許文献4】米国特許出願公開第2017/0077665号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Kim及びDoose著、「NdFeB永久磁石の温度補償(Temperature compensation of NdFeB permanent magnets)」、Proceedings of the 1997 Particle Accelerator conference
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
NV中心は、磁気測定に使用する場合には、磁場を測定するための「校正不要」な手段であると説明されてきた。しかしながら、上記の説明からは、NV中心が測定するのはBtotalであり、BunkownはBtotalからBbiasを減算することによって測定されるため、どちらの場合にもBbiasが既知であって安定していなければならないと理解することができる。
【0012】
このような設定でBbiasを提供するには、高い流束密度/重量を理由にしばしばネオジム(NeFeB)で形成される1つ/2つ以上の永久磁石を利用することが典型的である。永久磁石の利用は、サイズ及び設定の単純さ、並びに短期的安定性によって電磁コイルの使用よりも好ましいと考えられる。電磁コイルによる安定したBbiasの生成には安定した電流源が必要である。
【0013】
ダイヤモンドの温度変化を考慮する必要があると理解されてきた。しかしながら、温度変化及びそのBbiasに与える影響の問題はこれまで考慮されてこなかった分野である。周囲温度が変化すると、永久磁石はその磁場の対応する可逆的変化を示す。
【0014】
実装1を検討すると、NeFeB磁石は、消磁温度(demagnetisation temperature)(例えば-130℃~80℃)未満の温度で~0.12%/℃の磁場変化を示す。Bbiasの値を1mTとすると、0.1℃の温度変化でBbiasが120nT変化することになる。例えばナビゲーション又はディナイドGPS(denied-GPS)用途のための、一定期間にわたってBtotalを測定するNVベースのダイヤモンドセンサでは、これに従ってBunknownが誤って測定される。センサを定期的に遮蔽ボックス(shielded box)に入れることによる「ゼロ化(zeroing)」手順の繰り返しは、多くの用途にとって望ましくなく、実用的でもない。
【0015】
実装2で説明したいくつかのRFフリー用途では、設定のおかげで温度安定性が実装1よりも良好であることができる。例えば、RFフリー用途は、制御された低温測定のためにクライオスタット(cryostat)内で使用することができる。しかしながら、温度制御が行われない状況では、必要とされる磁場が高くなるため、Bbiasの不安定性に対する影響がさらに深刻になる可能性があり、この場合、0.1℃のシフトによってBbiasが>0.012mTだけ変化する。
【0016】
従って、ダイヤモンド中のNV中心を使用する、長期にわたって安定してドリフトを伴わない磁場センサを生産するには、安定したバイアス磁場も必要であり、或いは温度変化に伴うBbiasの影響を独立した形で補償/測定しなければならないことが明らかである。この問題の解決策を提供することが目的である。
【0017】
上述した他のセンシングモダリティ/用途では、安定した印加磁場も重要である。例えば、RFスペクトルアナライザの場合には、印加磁場勾配の安定性がマイクロ波周波数の測定精度に影響し、MASERの場合には、静磁場が放出マイクロ波の効率性及び安定性に影響する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
第1の態様によれば、電子ゼーマン分裂効果を利用するデバイスが提供される。デバイスは、少なくとも1つのスピン欠陥を含む固体材料を含む。デバイスは、バイアス磁場を発生させるように構成された磁場発生器と、バイアス磁場に対する温度変化の影響を補償する補償システムとをさらに含む。これにより、温度変化がバイアス磁場に影響を与える場合でも、補償によってデバイスが依然として正確な読み取り値を示すことが確実になる。補償システムは、磁場発生器の温度及び温度変化のいずれかを測定するように構成された温度センサを含む。補償システムは、測定された温度又は測定された温度変化が変化した結果としてのバイアス磁場の変化を決定するように構成されたコンピュータ装置をさらに含み、コンピュータ装置は、決定されたバイアス磁場の変化を使用して所定のバイアス磁場値を調整し、この値を補償システムへの入力として使用してバイアス磁場に対する温度変化の影響を補償するようにさらに構成される。この補償は、バイアス磁場発生器のいずれかのパラメータを直接変更するのではなく、計算値を使用してバイアス磁場の変化を考慮するものにすぎない。
【0019】
固体材料の例としては、ダイヤモンド材料及び炭化ケイ素などが挙げられる。
【0020】
固体材料がダイヤモンド材料である例では、ダイヤモンド材料を、ナノ結晶、バルクダイヤモンド試料、又は異なる特性を有するダイヤモンド領域を含む複合ダイヤモンド試料のいずれかから選択することができる。
【0021】
オプションとして、スピン欠陥は、負に帯電した窒素空孔中心、シリコン空孔中心、ニッケル関連欠陥、クロム関連欠陥、スズ空孔中心及びゲルマニウム空孔中心のいずれかから選択される。
【0022】
任意の実施形態では、固体材料が温度センサであり、固体材料が磁場発生器と熱平衡状態にあり、温度変化がスピン欠陥のゼロ磁場分裂値のドリフトによって決定される。
【0023】
任意の実施形態では、デバイスが、固体材料と磁場発生器の間に配置されてこれらの両方に接触する中間材料を含み、中間材料は、固体材料と磁場発生器との間で熱を伝えるように選択される。
【0024】
オプションとして、デバイスは磁力計である。この場合、固体材料は、少なくとも1つのスピン欠陥に近接する検知面を含み、磁力計は、スピン欠陥の電子スピンに相関する出力光放射又は光電流を検出するように構成された検出器をさらに含む。デバイスは、光放射を生成するように構成された光源及びRF放射を生成するように構成されたRF源のいずれかをさらに含むことができる。
【0025】
オプションとして、デバイスは、磁力計、メーザ(maser)、及びRFセンサのうちのいずれかから選択される。
【0026】
第2の態様によれば、電子ゼーマン分裂効果を利用するデバイスの使用方法が提供される。方法は、少なくとも1つのスピン欠陥を含む固体材料を含むデバイスを準備することを含む。磁場発生器を使用してバイアス磁場を発生させる。バイアス磁場に対する温度変化の影響を補償するように構成された補償システムを使用する。補償は、磁場発生器の温度及び温度変化のいずれかを測定する温度センサを含み、補償システムは、測定された温度又は測定された温度変化が変化した結果としてのバイアス磁場の変化を決定するように構成されたコンピュータ装置をさらに含み、コンピュータ装置は、決定されたバイアス磁場の変化を使用して所定のバイアス磁場値を調整し、この値を補償システムへの入力として使用してバイアス磁場に対する温度変化の影響を補償するようにさらに構成される。
【0027】
オプションとして、固体材料は、ダイヤモンド材料及び炭化ケイ素のいずれかから選択される。
【0028】
固体材料自体を使用して温度を測定し、固体材料は磁場発生器と熱平衡状態にあり、温度変化はスピン欠陥のゼロ磁場分裂値のドリフトによって決定される。
【0029】
任意に、固体材料と磁場発生器との間に中間材料が配置されてこれらに熱的に接触し、中間材料は、固体材料と磁場発生器との間で熱を伝えるように選択される。
【0030】
以下、添付図面を参照しながら非限定的な実施形態を一例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】バイアス磁場に対する共鳴線の位置を示す図である。
図2】磁束シャントを使用する例示的なセンサデバイスの概略的ブロック図である。
図3】温度センサを使用する例示的なセンサデバイスの概略的ブロック図である。
図4】温度センサとしてダイヤモンドを使用する例示的なセンサデバイスの概略的ブロック図である。
図5】温度センサとしてダイヤモンドを使用するセンサデバイスを校正するための例示的なステップを示すフロー図である。
図6】センサデバイスを使用するための例示的なステップを示すフロー図である。
図7】ODMRからの例示的な明瞭かつ分解可能な共鳴線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明者らは、Bunknownを取得する際に温度変化に起因するBbiasの変動が確実に考慮されるように、磁場に対する温度変化の影響を補償する補償システムを提供した。
【0033】
以下の説明では、3つの例示的なタイプの補償システムを提示しており、センサデバイスは、これらの例示的な補償システムのうちの1つ、いずれか2つ、又は3つ全てを利用することができる。また、電子ゼーマン分裂のためにダイヤモンドを使用するデバイスについても後述するが、これは例示にすぎず、当業者であれば、電子ゼーマン分裂効果を利用するデバイスは、炭化ケイ素などの他のタイプの材料を使用することもできると理解するであろう。
【0034】
本発明の範囲外ではあるが、第1のタイプの補償システムでは、磁束シャントを使用する補償スキームの実装が必要である。事実上、Bbiasの変動は別の磁場によって補償される。
【0035】
第2のタイプの補償システムでは、永久バイアス磁石の温度(又は温度変化)の正確な測定を定期的に行い、公称値からの温度の変化を予想される磁場の変化にマッピングし、これに応じてBbiasの値を変更することが必要である。
【0036】
第3のタイプの補償システムは第2のタイプの補償システムの変形形態であり、ダイヤモンド自体が(単複の)永久バイアス磁石と熱平衡になるように構成され、ダイヤモンドの温度、従ってバイアス磁石の温度が、ダイヤモンド自体のスピン欠陥を使用して測定される。熱平衡は、例えばダイヤモンドセンサを永久バイアス磁石と熱的に接触させることによって達成することができる。
【0037】
以下の説明では、ダイヤモンド中のNV-スピン欠陥を参照するが、SiV中心、又はスピン偏極(spin polarisation)及びスピン読み出し(spin readout)の好適な特性を示す他のいずれかの欠陥などの他のスピン欠陥を使用することもできると理解されるであろう。
【0038】
例示的なものにすぎず本発明の範囲外である第1のタイプの補償システムを例にとると、(単複の)バイアス磁石が、主磁性材料の温度係数とは逆の温度係数を有する磁気的に柔らかい材料の添加によって「シャント」される。Kim及びDoose著、「NdFeB永久磁石の温度補償(Temperature compensation of NdFeB permanent magnets)」、Proceedings of the 1997 Particle Accelerator conferenceに基本的概念が記載されている。この事例では、磁束シャントが、荷電ビーム蓄積リング(charged-beam storage rings)、並びに加速度計、トルク計及びジャイロスコープの形成などの用途のために提供されている。このようなシステムは、ダイヤモンド結晶格子内のNV中心を使用する磁気測定に使用することもできる。
【0039】
Kim及びDooseの文献に記載されるように、「低温ではシャント透磁率が高まることで、シャントが磁石のエアギャップからより多くの磁束を搬出又は分流できるようになる。高温では逆の条件が存在し、シャントの透磁率が低下して、分流するエアギャップ磁束が減少する。温度感度を高めるには、シャント材料が周囲温度に近いキュリー点を有するべきである。キュリー合金(30~32%Ni-Fe)及びモンテル合金(67%Ni-Cu-Fe)で形成されたシャント材料は、100℃未満の比較的低いキュリー温度を有する。」
【0040】
ダイヤモンド磁気測定の用途では、温度に伴うBbiasの変動を補償するために、これらの又は各バイアス磁石に補償ストリップを取り付けることができる。
【0041】
このような手法を使用して、NeFeBベースの永久磁石について0.002%/℃の温度係数を達成できることが証明されており、このことはNVベースのB磁場センサにとって極めて有利となる。このことは、(Bbias=1mTと仮定した)0.1℃の温度変化の場合にBbiasのシフトがわずか2nTであることに対応する。このようにして、このようなセンサは、温度によって誘発されるBtotalのドリフトを除去するために再校正動作を必要とすることなく長期にわたって動作することができる。
【0042】
図2は、第1のタイプの補償システムによる、磁束シャントを使用する例示的なセンサデバイス1の概略的ブロック図である。なお、このセンサデバイスは例示にすぎず、本発明の範囲外である。検知面に近接して配置された少なくとも1つのスピン欠陥を含むダイヤモンドセンサ2が提供される。ダイヤモンドセンサ2に近接して、バイアス磁石3の形態の磁場発生器が配置される。バイアス磁石に近接して、又はバイアス磁石と同位置に、シャント材料4も配置される。1又は2以上のスピン欠陥からの光放射又は光電流を検出する検出器5が設けられる。
【0043】
次に、第2のタイプの補償システムを参照すると、このシステムは、永久バイアス磁石の温度(又は温度変化)の正確な測定を定期的に行い、公称値からの温度変化を予想される磁場の変化にマッピングし、これに応じてBbiasを変更することを必要とする。なお、このシステムは、第1のタイプの補償システムとは別に又は同時に使用することができる。
【0044】
本明細書の図3を参照すると、センサデバイス6が、検知面に近接して配置された少なくとも1つのスピン欠陥を含むダイヤモンドセンサ2を含む。十分に特性化された温度係数を有するバイアス磁石7が設けられる。磁石7の温度を正確に測定する温度センサ8も設けられる。
【0045】
コンピュータ装置9は、温度センサ8からの温度データを受け取るデータ入力デバイス10を含む。プロセッサ11は、温度センサによって測定された温度の変化に応じてBbiasの変化を計算する(又はルックアップテーブル12にアクセスする)。温度の変化とBbiasの変化との間の関係を使用することによって計算が実行される。
【0046】
このようにして、温度によって誘発されたシフトを補償するために、システムのBbias値(従って、Btotal値)を定期的に調整することができる。
【0047】
磁石に取り付けることができる安価な低ノイズ温度センサが入手可能である。温度の変化をBbiasの変化にマッピングするには温度の変化さえ測定できればよいので、正確な温度の絶対精度は重要でない。測定の再現性を0.01℃と仮定し、最適化されたNeFeB構成での0.002%/℃の高い温度安定性と組み合わせれば、0.2nTのバイアス磁場の変化が検出可能であり、これを補償できるはずである。このようにして、定期的な温度測定により、NVベースのセンサによって測定されるBtotalの長期ドリフトをこのレベルまで抑えることができる。
【0048】
次に図4を参照すると、第3のタイプの補償システムでは、磁石7の温度の測定が、NV欠陥自体を使用してダイヤモンド2の温度を測定することによって実行される。通常、ダイヤモンド2は(単複の)バイアス磁石7から独立しており、NV発光を励起するために使用されるレーザー/LED(及び潜在的に付与されるRF)によって局所的に加熱することができる。従って、第2のタイプの補償システムでは、磁石7の温度を直接測定することを提案した。しかしながら、第3のタイプの補償システムでは、センサデバイス13を、例えばダイヤモンド2及び磁石7がこれらの間に良好な熱的接触を有することによって互いに熱平衡状態にあるように構成することができると考えられる。任意に、熱接触は、熱を伝えながらもB磁場磁束に影響を与えない中間材料14を使用することによって最大化される。このようにして、NV中心のゼロ磁場分裂値(zero-field splitting value)のドリフトをモニタし、(単複の)永久磁石の温度係数が十分に特性化されている場合には、測定温度を使用してBbiasを補正することができる。
【0049】
一例として、このようなシステムを校正するために、図5に以下の構成中の例示的なステップを示す。
S1.図3に示すように、間に良好な熱接触14を有するダイヤモンド2及びバイアス磁石7のアセンブリを準備する。
S2.アセンブリを磁気的に遮蔽されたボックス内に配置する。
S3.温度を制御可能に変化させながら、センサによって記録されるBの測定を行う。このようにして、温度変化のみに起因するバイアス磁場の変化を決定することができる。ダイヤモンド2は磁気的に遮蔽されたボックス内に存在するので、測定されるBの変化はBbiasの変化のみに起因することが分かる。この校正手順は、ダイヤモンドとバイアス磁場磁石とが熱平衡状態にある場合にのみ必要とされる。
S4.(ダイヤモンド中のNV中心によって測定された)温度変化とBbiasとの間の校正マップを作成する。校正マップは、ルックアップテーブル12又はデータベースに記憶することができ、プロセッサ11が動作中にこれらにアクセスして、温度の変化に伴ってBtotalを補正することができる。
【0050】
センサデバイスの使用時には、図6に示すような以下の例示的なステップを行うことができる。
S5.少なくとも1つのスピン欠陥を含む固体材料を含むデバイスを準備する。
S6.磁場発生器を使用してバイアス磁場を発生させる。
S7.バイアス磁場に対する温度変化の影響を補償するように構成された補償システムを準備する。上述したように、この補償システムは、温度測定に基づいてバイアス磁場の値を補償し、磁束シャントと組み合わせて使用することができる。
【0051】
一例として、磁場発生器は、非温度安定化NeFeB磁石(non-temperature-stabilised NeFeB magnet)から成ることができる。この磁石は、NV含有ダイヤモンドの4つの<111>NV軸の各々に対して異なる配向を成す方向に沿った磁場を有するように構成され、磁場は、(ベクトルセンシングモダリティに必要な)8つの共鳴線全てを分解するのに十分な強度である。この例では、([111]が(54.7,45)°として定められる)球面極角度検知(spherical-polar angular sense)において指定される、(18,29)°の角度に沿った約6mTの磁場強度を有するセンサが構築されている。図7に、結果として得られたODMR、及び明瞭な共鳴線がどのように明確に分解されるかを示す。図1には、共鳴線の分裂がバイアス磁場強度の関数としてこの固定角でどのように変化するかを示す。この図には、共鳴線の幅が有限であって(コヒーレンス時間に逆相関して)N超微細分裂が加わるため、共鳴線が明確に分解されるには、印加されるバイアス磁場が実際には>2mTでなければならないことを示す。温度の変化によってバイアス磁場が変動する場合、この変動は、測定温度に基づく計算によって補償され、或いは測定温度の変化がバイアス磁場の変化を補償することができる。その後、補償されたバイアス磁場はさらなる計算に使用される。
【0052】
以上、実施形態を参照しながら、添付の特許請求の範囲に定められる本発明を図示し説明した。しかしながら、当業者であれば、添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の範囲から逸脱することなく、形態及び詳細を様々に変更することができると理解するであろう。
【0053】
さらに、上記の説明では磁力計に焦点を当てているが、バイアス磁場に対する温度変化の影響を補償する補償システムからは、メーザなどの他の用途も恩恵を受けることができる。
【0054】
ダイヤモンドベースの室温メーザは、十分な磁場(>102.5mT)を印加した場合にNV-欠陥のMS=-1状態がMS=0状態を下回るという事実を利用する。光波長(例えば、532nm)の照射を付与すると、NV-欠陥がMS=0に高まり、この時点で反転分布(population inversion)が生じる。NV含有ダイヤモンドなどの固体材料が(磁場及びマイクロ波波長のために最適化された)キャビティに含まれる場合には、誘導放出によってコヒーレントなマイクロ波源を生成することができる。
【0055】
上述したように、温度の変動は印加磁場の変動を引き起こし、MS=-1状態とMS=0状態との間でエネルギーギャップを変化させ、従って放射波長を変化させる。いくつかの状況では、メーザが置かれた環境の温度が変化することがある(例えば、宇宙ベースの応用)。これによって印加磁場の強度が変化することにより、放射波長が変化する可能性がある。従って、このような状況では、放射波長に対する温度変化の影響を知ること、或いはこれらの変動を補償する補償システムを使用することが有用である。
【符号の説明】
【0056】
2 ダイヤモンドセンサ
5 検出器
6 センサデバイス
7 バイアス磁石
8 温度センサ
9 コンピュータ装置
10 データ入力装置
11 プロセッサ
12 ルックアップテーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2024-01-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ゼーマン分裂効果を利用するデバイスであって、
少なくとも1つのスピン欠陥を含む固体材料と、
バイアス磁場を発生させるように構成された磁場発生器と、
前記バイアス磁場に対する温度変化の影響を補償する補償システムと、
を備え、前記補償システムは、前記磁場発生器の温度及び温度変化のいずれかを測定するように構成された温度センサと、前記測定された温度又は前記測定された温度変化が変化した結果としての前記バイアス磁場の変化を決定するように構成されたコンピュータ装置とを含み、前記コンピュータ装置は、前記決定されたバイアス磁場の変化を使用して所定のバイアス磁場値を調整し、前記値を前記補償システムへの入力として使用して前記バイアス磁場に対する温度変化の影響を補償するようにさらに構成される、
ことを特徴とするデバイス。
【請求項2】
前記固体材料は、ダイヤモンド材料及び炭化ケイ素のいずれかから選択される、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記固体材料はダイヤモンド材料であり、前記ダイヤモンド材料は、ナノ結晶、バルクダイヤモンド試料、又は異なる特性を有するダイヤモンド領域を含む複合ダイヤモンド試料のいずれかから選択される、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記スピン欠陥は、負に帯電した窒素空孔中心、シリコン空孔中心、ニッケル関連欠陥、クロム関連欠陥、スズ空孔中心及びゲルマニウム空孔中心のいずれかから選択される、
請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記固体材料は温度センサであり、前記固体材料は前記磁場発生器と熱平衡状態にあり、前記温度変化は前記スピン欠陥のゼロ磁場分裂値のドリフトによって決定される、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記固体材料と前記磁場発生器との間に配置されて前記固体材料及び前記磁場発生器の両方に接触する中間材料をさらに備え、前記中間材料は、前記固体材料と前記磁場発生器との間で熱を伝えるように選択される、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記デバイスは磁力計であり、
前記固体材料は、前記少なくとも1つのスピン欠陥に近接する検知面を含み、
前記磁力計は、前記スピン欠陥の電子スピンに相関する出力光放射又は光電流を検出するように構成された検出器をさらに含む、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
光放射を生成するように構成された光源をさらに備える、
請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
RF放射を生成するように構成されたRF源をさらに含む、
請求項7又は8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記デバイスは、磁力計、メーザ、及びRFセンサ又はスペクトルアナライザのうちのいずれか1つから選択される、
請求項1から6のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項11】
電子ゼーマン分裂効果を利用するデバイスの使用方法であって、
少なくとも1つのスピン欠陥を含む固体材料を含むデバイスを準備することと、
磁場発生器を使用してバイアス磁場を発生させることと、
前記バイアス磁場に対する温度変化の影響を補償するように構成された補償システムを使用することと、
を含み、前記補償は、前記磁場発生器の温度及び温度変化のいずれかを測定する温度センサを含み、前記補償システムは、前記測定された温度又は前記測定された温度変化が変化した結果としての前記バイアス磁場の変化を決定するように構成されたコンピュータ装置をさらに含み、前記コンピュータ装置は、前記決定されたバイアス磁場の変化を使用して所定のバイアス磁場値を調整し、前記値を前記補償システムへの入力として使用して前記バイアス磁場に対する温度変化の影響を補償するようにさらに構成される、
ことを特徴とする方法。
【請求項12】
前記固体材料は、ダイヤモンド材料及び炭化ケイ素のいずれかから選択される、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記固体材料を使用して前記温度を測定することをさらに含み、前記固体材料は前記磁場発生器と熱平衡状態にあり、前記温度変化は前記スピン欠陥のゼロ磁場分裂値のドリフトによって決定される、
請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記固体材料と前記磁場発生器との間に配置されて前記固体材料及び前記磁場発生器に熱的に接触する中間材料を準備することをさらに含み、前記中間材料は、前記固体材料と前記磁場発生器との間で熱を伝えるように選択される、
請求項13に記載の方法。
【国際調査報告】