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▶ チャンスー チア タイ フェンハイ ファーマシューティカル カンパニー リミテッドの特許一覧

特表2024-526912虚血性脳損傷関連疾患を治療する化合物
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  • 特表-虚血性脳損傷関連疾患を治療する化合物 図1
  • 特表-虚血性脳損傷関連疾患を治療する化合物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】虚血性脳損傷関連疾患を治療する化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/88 20060101AFI20240711BHJP
   A61K 31/341 20060101ALI20240711BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240711BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C07D307/88 CSP
A61K31/341
A61P25/00
A61P9/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503689
(86)(22)【出願日】2022-07-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-19
(86)【国際出願番号】 CN2022106618
(87)【国際公開番号】W WO2023001164
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】202110829381.4
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520468276
【氏名又は名称】チャンスー チア タイ フェンハイ ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU CHIA TAI FENGHAI PHARMACEUTICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.266 Nanxiang West Road, Dafeng District, Yancheng, Jiangsu, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チュー ヨンチアン
(72)【発明者】
【氏名】リウ チア
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジア
(72)【発明者】
【氏名】チェン チー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ヤン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086BA05
4C086GA15
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA36
(57)【要約】
本発明は、虚血性脳損傷関連疾患を治療する化合物を開示し、上記化合物の構造は下記式(II)で示され、本発明に記載の化合物は、生物学的利用能がより高く、ラット血漿及び脳組織における分布濃度がより高く、虚血性脳損傷に良好な効果を有する。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(II):
【化1】
の構造を有する化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
式(I):
【化2】
の構造を有する化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
以下の単位胞パラメータ:
【表1】
を有することを特徴とする式(I)の化合物の単結晶。
【請求項4】
医薬組成物であって、請求項1に記載の式(II)の構造を有する化合物又はその薬学的に許容される塩、請求項2に記載の式(I)の構造を有する化合物又はその薬学的に許容される塩、或いは請求項3に記載の単結晶、及び1種又は複数種の薬学的に許容される担体を含む、
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の式(II)の構造を有する化合物又はその薬学的に許容される塩、請求項2に記載の式(I)の構造を有する化合物又はその薬学的に許容される塩、請求項3に記載の単結晶、或いは請求項4に記載の組成物の、虚血性脳損傷関連疾患を治療及び/又は予防するための薬物の製造における使用。
【請求項6】
前記虚血性脳損傷関連疾患は、虚血性脳卒中、血管性認知症、脳虚血後炎症、痙攣、虚血性脳神経損傷又は壊死を含む、
ことを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項7】
式(II)の化合物及び式(I)の化合物を合成する方法であって、前記式(I)で示される化合物が、好ましくは、下記式のようにの製造される、方法。
【化3】
【請求項8】
請求項2に記載の式(I)の化合物を石油エーテルに溶解してろ過した後、ろ液をピンホール膜で覆い、通風環境に置いて室温で溶媒を緩やかに蒸発させることにより、請求項3に記載の単結晶を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗脳虚血、抗虚血後炎症及び抗痙攣作用を有し、虚血性脳卒中患者における神経機能障害を改善できる化合物、医薬組成物、並びに虚血性脳神経損傷及び壊死関連疾患を治療するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白質は中枢神経系の重要な構成要素であり、神経線維が集積した場所である。白質病変(WML)は、通常、血流減少や血中酸素供給不足によって引き起こされる。脳血液供給障害(不足)により、脳組織代謝の需要を満たすことが困難になり、従って一連の症状をもたらす。臨床では、眩暈、頭痛、四肢しびれ、又は一過性の意識喪失が見られ、重篤な者は、脳機能に不可逆的な損傷を引き起こし、死に至る場合もある。脳虚血関連疾患は、一過性脳虚血発作(TIA)、虚血性脳卒中(脳梗塞)、もやもや病、慢性脳供血不足などがあり、患者の認知機能低下及び血管性認知症の原因の1つでもある。
【0003】
現在、脳虚血による疾患を治療するための薬物は多数あるが、真に有効な者は数多くない。従来の薬物ニモジピンは、脳虚血に対して予防効果を有するが、治療効果は確実ではない。セロリ種子揮発油から抽出した3-n-ブチルフタリド(NBP)は、2005年に中国で、軽・中等度急性虚血性脳卒中の治療に使用されると承認されたが、現在の作用機序はまだ不明であり、且つ臨床使用過程において肝機能異常及び消化管反応などの副作用を引き起こす可能性がある。
【0004】
脳虚血は、異なる程度の脳神経損傷及び壊死を引き起こし、人体の対応するシステム機能障害を引き起こし、患者の生存品質を大幅に低下させ、現在は依然として、より優れた治療効果を有し、抗脳虚血、抗虚血後炎症及び抗痙攣作用を有し、虚血性脳卒中患者における神経機能障害を改善でき、且つ記憶障害を改善し、神経細胞及び血液脳関門を保護できるなどの作用を有する、他の化合物を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、虚血性脳神経損傷及び壊死関連疾患を治療するための、抗脳虚血、抗虚血後炎症及び抗痙攣作用を有し、虚血性脳卒中患者における神経機能障害を改善できる新規化合物を提供する。
【0006】
本発明は、以下の構造を有する式(II)の化合物、又はその薬学的に許容される塩を提供する。
【化1】
【0007】
本発明はまた、以下の構造を有する式(I)の化合物、又はその薬学的に許容される塩を提供する。
【化2】
【0008】
本発明は更に、本発明の式(II)の化合物又はその薬学的に許容される塩、及び1種又は複数種の薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0009】
本発明は更に、本発明の式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩、及び1種又は複数種の薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0010】
本発明は更に、本発明の式(II)の化合物又はその薬学的に許容される塩の、虚血性脳損傷関連疾患を治療及び/又は予防するための薬物の製造における使用を提供する。
【0011】
本発明は更に、本発明の式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩の、虚血性脳損傷関連疾患を治療及び/又は予防するための薬物の製造における使用を提供する。
【0012】
本発明は更に、本発明に記載の組成物の、虚血性脳損傷関連疾患を治療及び/又は予防するための薬物の製造における使用を提供する。
【0013】
本発明に記載の虚血性脳損傷関連疾患は、虚血性脳卒中、血管性認知症、脳虚血後炎症、痙攣、虚血性脳神経損傷又は壊死などを含むが、これらに限定されない。
【0014】
本発明は更に、本発明の式(II)の化合物及び式(I)の化合物を合成するための方法を提供する。
【0015】
一具体的な実例において、本発明は更に、式(I)で示される化合物の製造方法を提供する。
【0016】
【化3】
【0017】
本発明は更に、以下の単位胞パラメータを有する、本発明に記載の式(I)の化合物の単結晶を提供する。
【表1】
【0018】
一具体的な実例において、式(I)の化合物の単結晶の非対称単位は図2で示される。
【0019】
本発明は更に、本発明に記載の式(I)の化合物を石油エーテルに溶解してろ過した後、ろ液をピンホール膜で覆い、通風環境に置いて室温で溶媒を緩やかに蒸発させることにより、上記単結晶を製造する方法を提供する。
【0020】
本発明に記載の化合物は、生物学的利用能がより高く、ラット血漿及び脳組織における分布濃度がより高く、虚血性脳損傷に良好な効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(Z)-3-(1-ヒドロキシブテニル)ベンゾフラン-2(3H)-オン単結晶の顕微鏡写真である。
図2】(Z)-3-(1-ヒドロキシブテニル)ベンゾフラン-2(3H)-オン単結晶の非対称単位である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、具体的な実施例を結合して、当分野における一般的技術知識及び通常の手段に基づき、本発明を更に説明する。以下の実施例は、本発明の好適な実施形態の一部に過ぎず、本発明を限定するものと解釈されるべきではなく、当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、若干の改変を加えることができ、それらも本発明の保護範囲にあると解釈されるべきである。
【0023】
実施例1
(Z)-3-(1-ヒドロキシブテニル)ベンゾフラン-2(3H)-オンの合成
【化4】
【0024】
3-ベンゾフラノン(5.0g、37.3mmol、1.0eq.)をジクロロメタン(50mL)に溶解し、5℃まで降温し、カリウムtert-ブトキシド(6g、53.5mmol、1.4eq.)を緩やかに加え、0.5h反応させた後、塩化n-ブチリル(8g、75.0mmol、2.0eq.)を緩やかに加え、1h反応させ、水(50mL)を加えて抽出し、有機相を取って0.1Nの塩酸で酸性(pH<2)に洗浄し、有機相を無水硫酸ナトリウム(5g)で0.5h乾燥させ、ろ過し、濃縮して油状物を得、その後、高圧分取クロマトグラフィーを使用して分取精製し、精製後の溶液を凍結乾燥させ、白色固体の式(I)の化合物((Z)-3-(1-ヒドロキシブテニル)ベンゾフラン-2(3H)-オン(2.5g、32.9%)を得た。
H NMR(CDCl,400MHz):δ12.02(s,1H),7.35-7.33(d,1H),7.28-7.17(m,3H),2.76-2.73(m,2H),1.90-1.80(m,2H),1.12-1.08(m,3H)。
1H NMR(CDCl+DO,400MHz):δ7.34-7.32(d,1H),7.28-7.16(m,3H),2.76-2.72(m,2H),1.89-1.80(m,2H),1.12-1.08(m,3H)。
【0025】
実施例2
(Z)-3-(1-ヒドロキシブテニル)ベンゾフラン-2(3H)-オン単結晶の製造
20mg(0.098mmol)の実施例3で製造された(Z)-3-(1-ヒドロキシブテニル)ベンゾフラン-2(3H)-オンを石油エーテル(0.4mL)に溶解し、ろ過した後、ろ液をピンホール膜で覆い、ヒュームフードに置き、室温で溶媒を緩やかに蒸発させ、24h後に(Z)-3-(1-ヒドロキシブテニル)ベンゾフラン-2(3H)-オン単結晶(図1)を得た。
【0026】
(Z)-3-(1-ヒドロキシブテニル)ベンゾフラン-2(3H)-オン単結晶のX線データは、MoターゲットKα線(λ=0.71073Å)を光源とするBruker D8 Venture回折計で収集された。データ収集過程において、結晶は296Kに維持された。単結晶の構造解析はOlex2ソフトウェアにおいて行われ、SHELXTプログラムのIntrinsic Phasing方法を使用して初期構造を計算し、そしてSHELXLプログラムの最小二乗法により構造精密化を行った。(Z)-3-(1-ヒドロキシブテニル)ベンゾフラン-2(3H)-オンの結晶学的データ及び構造精密化パラメータは表1で示され、(Z)-3-(1-ヒドロキシブテニル)ベンゾフラン-2(3H)-オン単結晶の非対称単位は図2で示された。
【0027】
【表2】
【0028】
生物学的測定:
本発明の化合物Iが虚血性神経機能障害を改善する作用を有することは、以下の測定により証明された。また、測定結果により、本発明の化合物Iは経口投与後に良好な生物学的利用能及び薬効を有することが示された。
【0029】
試験1:ラット薬物動態試験
SD雄性ラット(体重180~260g)に、化合物Iを1.0mg/kgの用量で尾静脈注射及び10.0mg/kgの用量で経口投与し、各群に3匹の動物であった。投与溶媒は、5%DMSO+5%ポリオキシエチレンヒマシ油(Cremophor EL)の生理食塩水溶液であった。投与前に約12時間禁食させ、投与後4h自由に摂取させ、水を禁じない。投与前及び投与後5、15、30min、1、2、4、6、8、24hに、眼窩から約0.2mL採血し、EDTA-K2抗凝固EPチューブに置いて氷浴し、4℃で、3500rpmで10分間低速遠心分離して血漿を分離し、分析するまで-20℃で保存した。液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析の併用法(LC-MS/MS)を使用して、化合物Iの血漿における濃度の定量分析を行った。試料分析結果は、WinNonlinソフトウェアを使用して薬物動態パラメータを計算した。
【0030】
表2のデータにより、経口投与後に、ブチルフタリド文献(王寧寧、李月、李暁紅、姜明燕、RP-HPLC法によるラット血漿における3-n-ブチルフタリドの含有量及びその薬物動態学の測定、中国新薬と臨床雑誌、2012年12月、第31巻第12期、743~747ページ)に報告されている値と比較して、化合物Iのラット体内における排除時間がより長く、生物学的利用能がより高いことが分かった(生物学的利用能が100%を超えた原因は、非線形薬物動態であると推測された)。
【0031】
【表3】
【0032】
試験2:ラット脳組織分布試験
雄性SDラット(体重200~270g)に、化合物I、ブチルフタリド(NBP)をそれぞれ20mg/kgの用量で経口投与した。投与後0.5、1、4、24hに、動物の血漿及び脳組織サンプルを採取した。血漿の採取:EDTA-K2含有EPチューブで全血を0.2mL収集し、3500gで10分間遠心分離した後、上層血漿を収集して-20℃で保存した。脳組織の採取:動物の安楽死後に適量の脳組織を秤取り、脳組織:80%メタノール水(w/v)=1:4に従って均質化した。液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析の併用法(LC-MS/MS)を使用して、化合物の血漿及び脳組織サンプルにおける濃度の定量分析を行った。
【0033】
表3のデータにより、経口投与後に、本発明の化合物Iのラット血漿及び脳組織における分布濃度がより高いことが分かった。
【0034】
【表4】
【0035】
試験3:化合物のラット脳卒中モデルにおける薬効学的研究:単回治療投与
ラット脳虚血再灌流に対する化合物のニューロン保護効果を評価するために、糸栓子法を使用してSDラット中大脳動脈閉塞(MCAO)モデルを構築した。SDラット(240~270g)を3.0%イソフルランで麻酔誘導した後、手術を行い、そして右側総頸動脈(CCA)、外頸動脈(ECA)及び内頸動脈(ICA)を分離露出させた。ECAを結紮し、ICAを一旦クランプし、そしてCCAの近位端、遠位端にそれぞれ糸通しし、遠位端で締め付け、近位端で解けやすい結び目を作って必要に備え、両糸の間に小さな切り口をはさみ、CCAの切り口から4-0番糸栓子を挿入し、更に緩やかに内頸動脈へ軽く押し込め、ICAの動脈クリップに当てると一旦止まり、結紮糸を更に締め付けた後、ICAの血流を遮断していた動脈クリップを外し、その直後に糸栓子をICAへ押し込めて頭蓋内まで入れた。総頸動脈分岐から約18mm程度の深さまで糸栓子を挿入した場合、軽い抵抗感があり、即ち糸栓子の先端が既に前大脳動脈(ACA)に入り、糸栓子の側壁が既に中大脳動脈の開口を閉塞した時に、挿入を止め、そして時間を記録した。CCA上の動脈クリップを除去し、活動性出血がないことを観察した後、切り口を閉じた。虚血ラットを室温に置いて体温を37℃に維持し、120min後に誘導麻酔し、麻酔を維持する状態で緩やかに糸栓子を軽く引き、その先端を外頸動脈内に戻すことで、中大脳動脈再灌流を実現した。動物は再灌流の直後(10min以内)に1回投与し、モデル対照群、化合物I静脈群(30mg/kg)及び化合物I経口投与群(60mg/kg)の合計3群をそれぞれ設けた。動物を虚血再灌流後24hに安楽死させ、そして脳を速やかに摘出し、凍結後に切片化し、TTC染色を行った。正常組織は染色後ローズ色になり、梗塞組織は白色になった。ラット脳虚血損傷の程度を評価するために、梗塞組織の全脳重量に対する百分率を梗塞範囲(Infarction Area%)とした。
【0036】
術後1日のTTC染色分析により、モデル対照群の動物の脳梗塞範囲は21.63±5.66%であった。化合物I静脈群、化合物I経口投与群の動物の脳梗塞範囲は、それぞれ13.61±3.66%及び14.88±5.11%であり、これにより、本発明に記載の化合物I静脈群及び経口投与群は、何れも動物の脳梗塞範囲を著しく低減できることが分かり(P=0.0025及びP=0.0389)、同時に、化合物I静脈群及び化合物I経口投与群の動物の脳梗塞抑制率は、それぞれ37.1%及び31.2%であった。以上の結果から、化合物Iはラットの脳梗塞に対する改善効果が高いことが示され、具体的には表4で示された。
【0037】
【表5】
【0038】
試験4:化合物のラット脳卒中中長期モデルに対する薬効学的研究
糸栓子法を使用してSDラット中大脳動脈閉塞(MCAO)モデルを構築し、28日間連続で被験薬物介入を行い、一般観察、神経行動学スコアにより、被験薬物に対して脳卒中の薬効学的評価を行った。
【0039】
SDラット(240~280g)を3.0%イソフルランで麻酔誘導した後、手術を行い、そして右側総頸動脈(CCA)、外頸動脈(ECA)及び内頸動脈(ICA)を分離露出させた。ECAを結紮し、ICAを一旦クランプし、そしてCCAの近位端、遠位端にそれぞれ糸通しし、遠位端で締め付け、近位端で解けやすい結び目を作って必要に備え、両糸の間に小さな切り口をはさみ、CCAの切り口から4-0番糸栓子を挿入し、更に緩やかに内頸動脈へ軽く押し込め、ICAの動脈クリップに当てると一旦止まり、結紮糸を更に締め付けた後、ICAの血流を遮断していた動脈クリップを外し、その直後に糸栓子をICAへ押し込めて頭蓋内まで入れた。総頸動脈分岐から約18mm程度の深さまで糸栓子を挿入した場合、軽い抵抗感があり、即ち糸栓子の先端が既に前大脳動脈(ACA)に入り、糸栓子の側壁が既に中大脳動脈の開口を閉塞した時に、挿入を止め、そして時間を記録した。CCA上の動脈クリップを除去し、活動性出血がないことを観察した後、切り口を閉じた。虚血ラットを室温に置いて体温を37℃に維持し、120min後に誘導麻酔し、麻酔を維持する状態で緩やかに糸栓子を軽く引き、その先端を外頸動脈内に戻すことで、中大脳動脈再灌流を実現した。動物は再灌流の直後(10min以内)に投与し、その後、毎日1回、28日間連続で、手術当日はD1(Day0)と定義された。偽手術群、モデル対照群、ブチルフタリド(NBP)投与群(60mg/kg、p.o.、q.d)、化合物I低用量経口投与群(6mg/kg、p.o.、q.d)、化合物I高用量経口投与群(20mg/kg、p.o.、q.d)の合計5群をそれぞれ設けた。投与の間、全ての動物に対して、グリッド試験(D7、D14、D21、及びD28の合計4回)、新規物体認識試験(D26は新規物体認識適応、D27は検出)を行い、D28に投与終了後、群における全ての生存動物を安楽死させた後、脳を速やかに摘出し、そして病理学的分析を行った。
【0040】
(1)グリッド試験の結果により、手術後1週間、モデル対照群の動物の踏み外し頻度は7.24±3.59回であり、NBP治療群、化合物I低、高用量群の踏み外し頻度は、それぞれ7.37±3.03回、5.33±2.33回、及び4.23±1.44回であり、そのうち、化合物I高用量群の動物の踏み外し頻度は、モデル対照群と比較して顕著に低下しており(P=0.0172)、手術後2~3週間、モデル群の動物は運動機能が徐々に回復していたため、踏み外し頻度が徐々に低下しており、化合物I高用量群の踏み外し頻度は、モデル対照群と比較して顕著な差はなかったが、依然として低下の傾向があり、モデル構築後4週間、モデル動物の踏み外し頻度は、偽手術群の動物のレベルまで低下したことが示された。以上の結果から、化合物Iは脳卒中動物の行動機能障害に対して改善効果を有することが示された(詳細は表5参照)。
【0041】
【表6】
【0042】
(2)治療の最終日に新規物体認識試験を行い、各群の動物の新規物体に対する認知指数(NRI)を計算した。モデル対照群の動物の新規物体認知指数は54.81±21.94%であり、旧物体認知指数(FRI)と顕著な差がなく、NBP治療群、化合物I低及び高用量群の動物のNRIは、それぞれ70.97±22.57%、70.98±22.60%及び71.66±17.06%であり、そのうち、NBP治療群、化合物I低用量群及び高用量群の新規/旧物体認知指数は、何れも顕著な差があり(P=0.0074、P=0.0212及びP=0.0009)、同時に、化合物I低用量群及び高用量群の新規物体認知指数は、偽手術群の動物の新規物体認知指数(66.51±10.80%)と同等であり、以上の結果から、化合物Iは脳卒中動物の認知障害を顕著に改善することが示された(詳細は表6参照)。
【0043】
【表7】
【0044】
(3)病理学的検査:1)修復範囲:修復領域範囲>30%の試料を回復状況良好とし、≦30%の試料を回復不良とした。モデル対照群の回復良好な動物の割合は17.6%であり、NBP治療群、化合物I低用量群及び高用量群の修復領域>30%の割合は、それぞれ21.4%、33.3%及び75.0%であり、化合物I高用量群の回復状況が最も良好で、モデル対照群と比較して顕著な差があり(Chi-square、P=0.0080)、以上の結果から、化合物Iは梗塞区域の修復に対して促進作用を有することが示され(詳細は表7参照)、2)梗塞修復領域の充満血管数:梗塞修復領域の赤血球を含む血管数≦10個及び>10個の2つの標準を設定した。偽手術群の全ての動物における充満状態の血管数は何れも10個より多く、割合は100%であり、モデル対照群の動物における梗塞修復領域の赤血球を含む血管数≦10個及び>10個の動物数は、それぞれ10匹及び7匹であり、赤血球を含む血管数>10個の動物数の割合は41.2%であり、NBP治療群における梗死修復領域の赤血球を含む血管数≦及び>10個の動物数は、それぞれ1匹及び14匹であり、赤血球を含む血管数>10個の動物数の割合は93.3%であり、モデル対照群の動物と比較して統計学的意義(Chi-square、P=0.0028)を有し、化合物I低用量群及び高用量群における梗塞修復領域の赤血球を含む血管数≦及び>10個の動物数は、それぞれ0/12匹、1/12匹であり、赤血球を含む血管数>10個の動物数はモデル対照群より顕著に高かった(Chi-square、P=0.0012、P=0.0076)。次に、化合物I低用量群及び高用量群の動物における修復領域の赤血球を含む血管>10個の試料の割合は、それぞれ100%、92.3%であり、各治療群は何れも90%以上であり、以上の結果から、化合物Iは28日間連続の治療において脳卒中動物の脳梗塞修復領域の血管充満度を顕著に高めることが示された(詳細は表8参照)。
【0045】
【表8】
【0046】
【表9】
図1
図2
【国際調査報告】