(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】銀分散層の析出のための銀電解質
(51)【国際特許分類】
C25D 3/32 20060101AFI20240711BHJP
C25D 15/00 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C25D3/32
C25D15/00 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503744
(86)(22)【出願日】2022-07-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-19
(86)【国際出願番号】 EP2022070294
(87)【国際公開番号】W WO2023001868
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】102021118820.2
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513151152
【氏名又は名称】ウミコレ・ガルファノテフニック・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ・マンツ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・ペーテルス
【テーマコード(参考)】
4K023
【Fターム(参考)】
4K023AA24
4K023BA11
4K023CA09
4K023CB05
4K023CB09
4K023CB21
4K023DA03
4K023DA07
4K023DA08
(57)【要約】
本発明は、導電性基材上への銀のガルバニック析出のための銀電解質及び対応する方法を対象とする。銀電解質は、電解質の発泡を防止するのに役立つと同時に電析に悪影響を及ぼすことがない、特定の添加剤を特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材上への銀層のガルバニック析出のための水性銀電解質であって、
a)少なくとも1種の可溶性銀化合物、
b)20~200g/lの量の遊離シアン化物、
c)0.2~10g/lの量の少なくとも1種の光沢添加剤、
d)0.1~15ml/lの量の少なくとも1種の湿潤剤、
e)2~200g/lの量の少なくとも1種の固体成分、
を含み、
f)0.2~20g/lの量の少なくとも1種の消泡剤、を更に有する、水性銀電解質。
【請求項2】
前記消泡剤が、ポリアルキレングリコールの群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の電解質。
【請求項3】
前記消泡剤が、少なくとも200g/molの平均モル質量を有することを特徴とする、請求項2に記載の電解質。
【請求項4】
前記光沢添加剤が、アリールスルホン酸からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項5】
前記固体成分が、グラファイト、フッ化グラファイト、酸化グラファイト、ダイヤモンド、Al
2O
3被覆グラファイト、又はこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項6】
前記湿潤剤が、アルキルサルフェートの群から選択されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項7】
少なくとも0.1~500mg/lのSe又はTeアニオンの塩(セレン又はテルルに基づく)を更に含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項8】
導電性基材上への銀層のガルバニック析出のための方法であって、
請求項1~7のいずれか一項に記載の電解質に電気伝導性基材を浸漬し、前記電解質と接触しているアノードと、カソードとしての前記基材との間で、電流フローが確立されることを特徴とする、方法。
【請求項9】
前記電解質の温度が、20℃~90℃であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
電解中の電流密度が0.2~100A/dm
2であることを特徴とする、請求項8及び/又は9に記載の方法。
【請求項11】
電解中のpHが、8超の値に連続的に設定されることを特徴とする、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性基材上への銀のガルバニック析出のための銀電解質及び対応する方法を対象とする。銀電解質は、電解質の発泡を防止するのに役立つと同時に電析に悪影響を及ぼすことがない、特定の添加剤を特徴とする。
【背景技術】
【0002】
今日では、実質上全ての電気器具に電気接触が用いられている。これらの用途は、自動車産業用又は航空宇宙技術用の通信部門における、単純なプラグコネクタから、安全性に関係する洗練された接触のスイッチ切り替えの範囲に及ぶ。ここで、接触面は、良好な電気伝導率、長期安定性を伴う低接触抵抗、並びに、できる限り低い挿入力を伴う良好な耐腐食性及び耐摩耗性を有することが求められる。電気工学において、プラグ接点は多くの場合、金-コバルト、金-ニッケル、又は金-鉄からなる硬質金合金層でコーティングされる。これらの層は、摩耗に対する良好な耐性、良好なはんだ付け性、長期安定性を伴う低接触抵抗、及び良好な腐食耐性を有する。金の価格の上昇により、より安価な代替物が求められている。
【0003】
硬質金めっきに代わるものとして、銀によるコーティングが有利であることが証明されている。銀及び銀合金は中でも、電気工学において最も重要な接触材料であるが、これは、電気伝導率の高さ及び良好な耐酸化性の理由だけによるものではない。これらの銀層は、金フラッシュを有するパラジウム-ニッケルなどの、これまで使用されてきた硬質金層及び層の組み合わせと同様の層特性を有する。更に、銀の価格は他の貴金属、特に硬質金合金と比べて相対的に低い。
【0004】
基材の銀コーティングのため、及び接触面を作製するために、特殊な銀電解質が使用される。これらは、通常、シアン化物含有又はシアン化物不含の銀含有溶液であり、電気化学的、特にガルバニック的に表面を銀化するのに役立つ。この場合、銀電解質溶液は、多種多様な更なる添加剤、例えば、結晶粒微細化剤、分散剤、光沢剤(brightening agent)、又は固体成分を含有することができる。電気及び電子分野、特にプラグ及びプラグ及びスイッチ接点における用途には、導電率、接触抵抗及び摩擦係数が特に重要である。
【0005】
2つの銀コーティング表面が互いの上を移動する場合、この目的のために比較的高い力が必要であり、この力は、それぞれ加えられる垂直抗力及び表面の材料固有の摩擦係数に依存する。銀表面は、特にプラグ接点の場合に高い差し込み力及び引張力をもたらす比較的高い摩擦係数を有するので、銀表面を有する接点の欠点は、ここで明らかである。高い摩擦係数のために、銀表面の場合に摩耗が生じ、その結果として、可能なプラグサイクルの数が厳しく制限される。更に、銀表面が摩損しやすいという問題が生じる。しかしながら、2つの銀コーティング表面のシステムの可能な限り低い接触抵抗は特に有利である。
【0006】
接触面を作製するための様々なシアン化物含有銀電解質は、先行技術において既に認められている(西独国特許出願公開第2543082(A1)号、国際公開第9114808(A1)号、独国特許出願公開第10346206(A1)号、独国特許出願公開第102008030988(A1)号、独国特許出願公開第102015102453(A1)号、中国特許出願公開第105297095(A)号)。独国特許出願公開第102018005352(A1)号はまた、固体成分が乾燥潤滑剤として分散されている接触面を作製するためのシアン化物含有銀電解質を記載している。これらの固体は、できる限り高度に分散し、できる限り容易に分布するように銀層中に組み込まれることが意図されている。その目的は、固体成分を銀層中に均一に分散させることによって、銀層の可能な限り高い自己潤滑特性を確保することである(Arnet,R.et al,「Silberdispersionsschichten mit selbstschmierenden Eigenschaften」[Silver dispersion layers with self-lubricating properties],Galvanotechnik 2021,Vol.1,p.21 et seq.)。既知の銀電解質は、特に著しい電解質移動が使用される場合、例えば分散装置を使用する場合に発泡する傾向がある(電解質の総体積が約40%増加する)ことが問題である。しかしながら、使用に適した高い電流密度、したがって迅速な析出のためには、著しい電解質移動が必要である。これは、コーティングプロセスにおいて、とりわけ:
a)銀層への固体の均一な組み込みに、
b)プロセス容器から出る泡による電解質損失によって、及び
c)部品の伸張中及び持ち上げ中における泡の付着による部分表面に対するマーブリング効果によって、
悪影響を及ぼし、したがって不利な生成物又はプロセスの問題をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、銀の析出中にそのような電解質における泡形成を最大限に抑制し、同時に、銀分散層の均質な析出ができる限り悪影響を受けない可能性を特定することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
先行技術から明らかなこれら及び他の目的は、本発明の請求項1に記載の電解質の使用によって達成される。本発明による電解質に関する有利な実施形態は、請求項1に従属する従属請求項2~7に記載されている。請求項8~11は、その好ましい実施形態を含む方法に関する。
【0009】
導電性基材上への銀層のガルバニック析出のための水性銀電解質であって、以下の成分:
a)少なくとも1種の可溶性銀化合物、
b)20~200g/lの量の遊離シアン化物、
c)0.2~10g/lの量の少なくとも1種の光沢添加剤(luster additive)、
d)0.1~15ml/lの量の少なくとも1種の湿潤剤、
e)2~200g/lの量の少なくとも1種の固体成分、
を含み、
f)0.2~20g/lの量の少なくとも1種の消泡剤、を更に有する、水性銀電解質を提供することによって、
驚くべきことに、上記の目的を達成することは容易である。
【0010】
本発明による電解質からの銀層の析出中、固体成分の沈降を防止し、可能な限り高い電流密度を確保するために、電解質は絶えず移動し続けるべきである。泡形成は、消泡剤によって確実に防止される/大幅に低減される。対応する消泡剤の添加が、層組成(固体組み込み)及び接触抵抗などの銀層の所望の特性に著しい悪影響を及ぼさないこともまた驚くべきことである。
【0011】
原則的に、消泡効果を有し、所与の系において不活性である、当業者が利用可能な全ての化合物を消泡剤として使用することができる(http://de.wikipedia.org/w/index.php?title=Entsch%C3%A4umer&oldid=187879609)。例としては、ポリエーテル(BASF Pluriol(登録商標)E Series)、脂肪族アルコールアルコキシレート(BASF Degressal(登録商標)SD20)、リン酸エステル(BASF Degressal(登録商標)SD40)、又はアルキルポリグリコールエーテルカーボネート(CLARIANT COL(登録商標)100)からなる群からの消泡剤が挙げられる。ポリエーテルをベースとする消泡剤の使用が特に有利である。本文脈では、ポリアルキレングリコール、特にポリエチレングリコールの群から選択されるものが有利である(http://de.wikipedia.org/w/index.php?title=Polyethylenglycol&oldid=210432692)。これらは、異なる商品名、例えば、Pluriol(登録商標)Series E200~E9000で市販されており、数字の表記は物質の平均分子量に対応する。使用されるポリアルキレングリコール、特にポリエチレングリコールが、200g/molを超える、好ましくは少なくとも400g/molのより高い平均モル質量を有する場合、有利であることも証明されている。使用されるポリエチレングリコールの平均モル質量は、非常に好ましくは1000~9000g/mol、非常に特に好ましくは4000~8000g/molである。ポリマーの平均モル質量(http://de.wikipedia.org/w/index.php?title=Mittlere_molare_Masse&oldid=188125754)は、当業者に既知の方法によって決定される(http://www.chemgapedia.de/vsengine/vlu/vsc/de/ch/9/mac/charakterisierung/d3/gpc/gpc.vlu/Page/vsc/de/ch/9/mac/charakterisierung/d3/gpc/auswertung.vscml.html)。電解質における消泡剤の量は、当業者によって定義され得る。これは、0.2~20g/l、好ましくは1~10g/l、特に好ましくは1~5g/lの範囲である。
【0012】
本発明の文脈において、光沢添加剤とは、銀析出物の粒径をより小さい粒径にシフトさせる物質である。置換及び非置換単核アリールスルホン酸、並びにチオアルキルカルボン酸、チオカルバミドからなる群から選択される光沢添加剤が当該添加剤として有効であることが証明されている。本文脈では、アリールスルホン酸、例えばフェノールスルホン酸及びベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸が特に好ましい。しかしながら、特にチオ乳酸、チオバルビツール酸及び1-フェニル-1H-テトラゾール-5-チオンも有利であることが証明されている。固体析出に悪影響を及ぼさない化合物が有利である。光沢剤Bは、本発明による電解質において0.2~10g/l、好ましくは0.5~10g/l、特に好ましくは1.0~5g/lの濃度で使用される。ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸誘導体(例えば、アルデヒドとのナフタレンスルホン酸縮合生成物)又はこれらの混合物が本発明による電解質中に存在しない場合、特に極めて有利である。対照的に、アリール基がベンゼン環であるアリールスルホン酸、例えばベンゼンスルホン酸のNa又はK塩が極めて好ましい。アリール基は、任意選択で置換されていてもよい。特に、上で特定したポリエーテル系消泡剤、特にポリエチレングリコールエーテルに関連して、後者は、高い電流密度及び結果として生じる著しい電解質移動にもかかわらず、少量の泡しか生じさせず、したがって、固体成分を銀析出物中に良好に分散させることができる(実施例を参照)。
【0013】
本電解質は、固体成分を含有する。その機能は、先行技術において十分に認められている。本発明の意味において、「固体成分」とは、溶液中に存在しないが、電解質中に固体として存在する成分を意味する。特に、この点に関して独国特許出願公開第102018005352(A1)号で言及されているような固体成分を使用することができる。これらは、好ましくは、グラファイト、フッ化グラファイト、酸化グラファイト、被覆グラファイト、グラフェン、カーボンブラック、フラーレン、ダイヤモンド、Al2O3、立方晶窒化ホウ素、又はこれらの混合物、好ましくはグラファイト、フッ化グラファイト、酸化グラファイト、Al2O3被覆グラファイト、又はこれらの混合物、より好ましくはグラファイト、酸化グラファイト、又はこれらの混合物、更により好ましくはグラファイトからなる群から選択されるものである。物質の好適なコンディショニングの方法は、文献に十分に記載されており、本明細書に記載されている本発明に対して、たとえあったとしてもわずかな影響しか及ぼさない。固体成分は、電解質中に分散して、特に物理的に分散して存在する。これは、特に、撹拌機、分散装置(例えば、Ultraturrax(登録商標))又は分散ディスクなどの対応する装置によって達成される。使用される固体成分の量は、当業者によって、彼らの裁量に従って特定され得る。概して、本明細書での濃度は、2~200g/l、好ましくは20~150g/l、特に好ましくは80~130g/lである。固体成分の直径は、当業者によって、適用プロファイルに従って選択されなければならない。原則的に、平均粒子直径(http://de.wikipedia.org/w/index.php?title=Partikelgr%C3%B6%C3%9Fenverteilung&oldid=186369602)は、1~50μm、好ましくは2~20μm、特に好ましくは2~10μmである。この目的のために、平均粒子直径(Q3分布のd50)は、ISO 13320-1(出願日の最新版)に従って、Beckmann社製のTornado乾燥分散モジュールを用いて測定される。本発明の意味において、平均粒子径(d50)とは、固体成分の粒子の50%が特定の値よりも小さい直径を有することを示す。
【0014】
湿潤剤も電解質中に存在する。これらが選択される方法は、当業者に既知である。典型的には、イオン性及び非イオン性界面活性剤、例えば、ポリエチレングリコール付加物、脂肪族アルコールサルフェート(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、アルキルサルフェート、アルキルスルホネート、アリールスルホネート、アルキルアリールスルホネート、スルホン化ヒマシ油が湿潤剤として使用される(Kanani,N:Galvanotechnik;Hanser Verlag,Munich Vienna,2000;page 84 et seqq.も参照)。このように備えられた浴を使用して析出される銀コーティングは、概して、白色で光沢性乃至高光沢性である。湿潤剤は、孔のない層をもたらす。アルキルサルフェートをベースとする化合物が湿潤剤として好ましく使用される。これらは、C1~C25アルキル基を有する直鎖又は分岐鎖アルキルサルフェート、好ましくは、非置換又は任意選択で置換されていてもよいC2~C20アルキル基を有する直鎖又は分岐鎖アルキルサルフェートであり得る。湿潤剤は、好ましくは、非置換又は任意選択で置換されていてもよいC3~C15アルキル基を有する直鎖又は分岐鎖アルキルサルフェート、好ましくは、非置換又は任意選択で置換されていてもよいC3~C12アルキル基を有する直鎖又は分岐鎖アルキルサルフェートを含有する。湿潤剤はまた、それらの塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩の形態で存在することができる。非常に特に好ましくは、これに関連して、2-エチルヘキシルサルフェート-Na塩、ラウリルエーテルサルフェート-Na塩、モノアルキル硫酸ナトリウム、例えばテトラデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、エチルヘキシル硫酸ナトリウム、デシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、及びこれらの混合物からなる群から選択されるものが使用される。少なくとも1種の湿潤剤の含有量は、0.1~15ml/l、好ましくは0.2~10ml/l、より好ましくは0.5~7ml/l、更により好ましくは1~6ml/lである。
【0015】
任意選択で、Se又はTeを含む塩も電解質中に存在することができる。電解質に使用されるセレン又はテルル化合物は、当業者によって適宜選択され得る。好適なセレン及びテルル化合物は、セレン又はテルルがアニオンの形態で+4又は+6の酸化状態で存在するものである。セレン及びテルル化合物は、+4の酸化状態のセレン又はテルルが存在する電解質で有利に用いられる。セレン及びテルル化合物は、テルライト、セレナイト、亜テルル酸、亜セレン酸、テルル酸、セレン酸、セレノシアネート、テルロシアネート、並びにセレネート及びテルレートから選択されるのが特に好ましい。この場合、テルル化合物よりもセレン化合物の使用が一般に好ましい。セレン酸の塩の形態、例えば、亜セレン酸カリウムの形態で電解質にセレンを添加することが、非常に特に好ましい。セレノシアン酸カリウムとして添加することが極めて好ましい。電解質中のこれらの化合物の量は、当業者によって必要に応じて選択され得る。それは、セレン又はテルルに基づいて、0.1mg~500mg/l、好ましくは0.5mg~100mg、特に好ましくは0.5mg~10mg/lの範囲である。
【0016】
上記の原料に加えて、電解質はまた、一定量の遊離シアン化物を含有する。これは、好ましくは、シアン化水素酸の水溶性塩の形態で電解質に添加される。アルカリ塩が有利であり、シアン化カリウムが非常に特に好ましく使用される。電解質中の遊離シアン化物の量は、当業者に既知の値に従って設定することができる。概して、遊離シアン化物は、20~200g/l、好ましくは80~180g/l、特に好ましくは100~150g/l(各場合において、CNイオンに基づく)の濃度で電解質中に存在する。使用されるシアン化物塩は、導電性塩としても役立ち得る。
【0017】
電解質の別の必須成分は、溶解した形態で析出される銀である。これは、水溶性塩の形態で、当業者によって必要に応じて電解質に導入することができる。これらの銀としては、メタンスルホン酸銀、炭酸銀、リン酸銀、ピロリン酸銀、硝酸銀、酸化銀、乳酸銀、フッ化銀、臭化銀、塩化銀、ヨウ化銀、チオシアン酸銀、チオ硫酸銀、ヒダントイン銀、硫酸銀、シアン化銀及びアルカリシアン化銀からなる群からのものが可能である。本文脈では、シアン化銀カリウムが非常に特に有利である。銀塩は、2~200g/l、好ましくは10~100g/l、特に好ましくは20~50g/l(各場合において、Ag金属に基づく)である電解質中の出発濃度で使用される。
【0018】
好ましい実施形態において、更なるイオンが、電解質に溶解した形態で、低濃度で存在してもよいことに留意されたい。これらは、特に、純銀層(硬質銀として知られる)の析出と比較してより硬質の層をもたらすものである。これらは、Sb、Bi、In、Sn、W、Mo、Pb、As、Cu、Niからなる群から選択されるイオンである。これらは、概して、0.001~30g/l、好ましくは0.01~20g/l、特に好ましくは0.1~10g/l(各場合において、対応する金属に基づく)の濃度で添加される。
【0019】
本発明はまた、導電性基材上への銀層のガルバニック析出のための方法であって、本発明による電解質に電気伝導性基材を浸漬し、電解質と接触しているアノードと、カソードとしての基材との間で、電流フローが確立される、方法に関する。
【0020】
分散層の析出中に優勢な温度は、当業者によって所望に応じて選択され得るか、又は温度は、外部の影響(分散モジュールからの摩擦熱)によってそれ自体で確立される。これは、一方では、十分な析出速度及び使用可能な電流密度範囲に、また他方では、経済的な側面又は電解質の安定性に従うであろう。電解質の温度を10℃~70℃、好ましくは15℃~40℃、特に好ましくは20℃~30℃に設定することが有利である。
【0021】
原則的に、電解質のpHは、当業者によって必要に応じて調整され得る。しかしながら、この場合、当業者は、対応する層の析出に悪影響を及ぼし得る追加の物質の電解質への導入を可能な限り少なくするという側面に従うであろう。したがって、特に好ましい実施形態において、pHは、塩基を添加することによってのみ設定される。したがって、当業者の観点から、対応する用途に好適である全ての化合物を使用することができる。これは、好ましくは、アルカリ水酸化物、酸化物又はカーボネートを使用する。電解中、本発明による電解質は、好ましくは8超の塩基性pH範囲に設定される。最適な結果は、8~13、より好ましくは9~11の電解質のpHで達成することができる。原則的に、pHは、当業者によって必要に応じて調整され得る。しかしながら、この場合、当業者は、対応する層の析出に悪影響を及ぼし得る追加の物質の電解質への導入を可能な限り少なくするという側面に従うであろう。したがって、特に好ましい実施形態において、pHは、塩基を添加することによってのみ設定される。したがって、当業者の観点から、対応する用途に好適である全ての化合物を使用することができる。電解中に電解質のpHに関して変動が生じることがある。したがって、本方法の好ましい一実施形態において、当業者は電解中にpHを監視し、必要であれば、pHを設定値に調整するように進める。ここで進める方法は、当業者に既知である。
【0022】
本発明による電解質において析出プロセス中にカソードとアノードとの間で確立される電流密度は、当業者によって、析出の効率及び質に基づいて選択され得る。用途及びコーティングシステムの種類に応じて、電解質中の電流密度は、有利には0.2~100A/dm2に設定される。必要に応じて、例えば、コーティングセルの設計、流速、アノード又はカソードの関係などのシステムパラメータを調整することによって、電流密度を増加又は減少させることができる。0.2~50A/dm2の電流密度が有利であり、0.2~10A/dm2が好ましく、1~5A/dm2が非常に特に好ましい。
【0023】
直流電流の代わりに、パルス直流電流又は逆パルスめっきを印加することもできる。この場合、それにより、電流フローが一定の時間遮断されるか(パルスめっき)、又は電流フローが逆転する。銀グラファイト分散析出のための、電流遮断の形態のパルスめっき及び逆パルスめっきの使用は、文献に記載されている(Arnet,R.et al,「Silberdispersionsschichten mit selbstschmierenden Eigenschaften」,[Silver dispersion layers with self-lubricating properties],Galvanotechnik 2021,Vol.1,p.21 et seq.)。
【0024】
本発明による電解質及び本発明による方法は、好ましくは技術的用途、例えば、電気プラグ接続部及びプリント回路基板のための銀層のガルバニック析出のために使用することができる。技術的用途の場合、連続流システムにおけるコーティングも使用することができる。
【0025】
特に0.5~50A/dm2の範囲の電流密度を有する技術的用途の場合、典型的には0.1~100μmの範囲の層厚がラック方式で析出される。技術的用途の場合、最大200μm、又は更には500μm厚の層厚が、連続プラントにおいて析出されることもある。この目的において、電流密度は上記の範囲内である。
【0026】
電解質の使用時には、様々なアノードを用いることができる。可溶性又は不溶性アノードは、可溶性及び不溶性のアノードの組み合わせと同様に好適である。可溶性アノードを使用する場合、銀アノードを使用することが特に好ましい(独国特許出願公開第1228887号,Praktische Galvanotechnik,5th edition,Eugen G.Leuze Verlag,p.342 et seq.,1997)。
【0027】
好ましい不溶性アノードは、白金めっきチタン、グラファイト、ステンレス鋼、混合金属酸化物、ガラス状炭素アノード、及び特殊炭素材料(「ダイヤモンド状炭素」、DLC(diamond-like carbon))からなる群から選択される材料から作製されたアノード、又はこれらのアノードの組み合わせである。白金めっきチタン、又は混合金属酸化物でコーティングされたチタンの不溶性アノードが有利であり、混合金属酸化物は、好ましくは、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、及びこれらの混合物から選択される。イリジウム-ルテニウム混合酸化物、イリジウム-ルテニウム-チタン混合酸化物、又はイリジウム-タンタル混合酸化物から構成されるイリジウム-遷移金属混合酸化物アノードも、本発明の実施のために有利に使用される。更なる情報は、Cobley,A.J et al.(The use of insoluble anodes in acid sulphate copper electrodeposition solutions,Trans IMF,2001,79(3),pp.113 and 114)に見出すことができる。
【0028】
可能な電気伝導性基材は、酸性pH範囲の本発明による電解質でコーティングすることができる基材である。これらは、好ましくは貴金属含有基材であるか、又は更にはニッケル若しくは銅表面などの非貴金属基材である。好ましくは、本発明による銀層は、ニッケル若しくはニッケル合金層、又は銅若しくは銅合金層上に析出される。本明細書で有利に使用される好適な基材材料は、純銅、黄銅、青銅(例えばCuSn、CuSnZn)などの銅ベース材料、又はシリコン、ベリリウム、テルル、リンを含む合金などのプラグコネクタ用の特殊銅合金、又は鉄若しくはステンレス鋼などの鉄ベース材料、又はニッケル、又はNiP、NiW、NiBなどのニッケル合金、金又は銀である。基材材料はまた、ガルバニックコーティングされているか、又は他のコーティング技術を用いてコーティングされている多層系であってもよい。これは、例えば、ニッケルめっき又は銅めっきされ、続いて任意選択で、金めっきされたか、パラジウム前処理されたか、白金前処理されたか、又は銀前処理でコーティングされた鉄材料に関する。この場合、ニッケルめっき又は銅めっきの中間層もまた、対応する合金電解質(例えば、NiP、NiW、NiMo、NiCo、NiB、Cu、CuSn、CuSnZn、CuZnなど)から作製されてもよい。更なる基材材料は、導電性銀ラッカーで予めコーティング(電鋳)されたワックスコアであってもよい。
【0029】
「電解質浴」という用語は、本発明においては、対応する容器に入れられ、電解のために電流フロー下でアノード及びカソードと共に使用される水溶液を意味すると理解される。本発明の場合では、使用される固体成分のみがここでの例外を表している。
【0030】
本発明による電解質は水性である。添加された固体成分及び場合により不溶性の不均一消泡剤を除いて、電解質に使用される化合物は電解質に可溶性である。「可溶性」という用語は、作業温度で電解質に溶解する化合物を指す。この場合、作業温度は、電解析出が行われる温度である。本発明の文脈では、少なくとも1mg/lの物質が作業温度にて電解質に溶解する場合に、この物質は可溶性とみなされる。
【0031】
本発明による電解質は、長期安定性を有する。銀の析出のための記載された光沢添加剤と、消泡剤の使用とを組み合わせることによって、記載された用途に好適なコーティングを得ることができた。これらは、十分に低い接触抵抗を有し、更に、驚くほど高い表面の完全性を維持し、したがって、接触回路において、多くの差し込み及び摩擦プロセス後であっても低い接触抵抗を維持する。これは、利用可能な最新技術からは予想することができなかった。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[実施例]
電解質組成物水溶液A:
シアン化銀カリウムとして30g/l
シアン化カリウム130g/l
炭酸カリウム5g/l
セレノシアン酸カリウムとしてのSe 2mg/l
エチルヘキシルサルフェート4g/l
ベンゼンスルホン酸1g/l
2~4μmの平均粒子径(d50)を有するグラファイト粉末100g/l
電流密度1.5A/dm2
温度:25℃
アノード:可溶性純銀アノード
【0033】
【0034】
グラファイトの組み込みは、消泡成分の添加によって悪影響を受けない。
【0035】
電解質組成物水溶液B:
シアン化銀カリウムとして30g/l
シアン化カリウム130g/l
炭酸カリウム5g/l
セレノシアン酸カリウムとしてのSe 2mg/l
エチルヘキシルサルフェート5g/l
ベンゼンスルホン酸1g/l
2~4μmの平均粒子径(d50)を有するグラファイト粉末100g/l
電流密度1.5A/dm2
温度:25℃
アノード:可溶性純銀アノード
【0036】
【0037】
グラファイトの組み込みは、消泡成分の添加によって悪影響を受けない。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材上への銀層のガルバニック析出のための水性銀電解質であって、
a)少なくとも1種の可溶性銀化合物、
b)20~200g/lの量の遊離シアン化物、
c)0.2~10g/lの量の少なくとも1種の光沢添加剤、
d)0.1~15ml/lの量の少なくとも1種の湿潤剤、
e)2~200g/lの量の少なくとも1種の固体成分、
を含み、
f)0.2~20g/lの量の少なくとも1種の消泡剤、を更に有する、水性銀電解質。
【請求項2】
前記消泡剤が、ポリアルキレングリコールの群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の電解質。
【請求項3】
前記消泡剤が、少なくとも200g/molの平均モル質量を有することを特徴とする、請求項2に記載の電解質。
【請求項4】
前記光沢添加剤が、アリールスルホン酸からなる群から選択されることを特徴とする、請求項
1に記載の電解質。
【請求項5】
前記固体成分が、グラファイト、フッ化グラファイト、酸化グラファイト、ダイヤモンド、Al
2O
3被覆グラファイト、又はこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項
1に記載の電解質。
【請求項6】
前記湿潤剤が、アルキルサルフェートの群から選択されることを特徴とする、請求項
1に記載の電解質。
【請求項7】
少なくとも0.1~500mg/lのSe又はTeアニオンの塩(セレン又はテルルに基づく)を更に含むことを特徴とする、請求項
1に記載の電解質。
【請求項8】
導電性基材上への銀層のガルバニック析出のための方法であって、
請求項
1に記載の電解質に電気伝導性基材を浸漬し、前記電解質と接触しているアノードと、カソードとしての前記基材との間で、電流フローが確立されることを特徴とする、方法。
【請求項9】
前記電解質の温度が、20℃~90℃であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
電解中の電流密度が0.2~100A/dm
2であることを特徴とする、請求項
8に記載の方法。
【請求項11】
電解中のpHが、8超の値に連続的に設定されることを特徴とする、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記消泡剤が、ポリアルキレングリコールの群から選択され、
前記消泡剤が、少なくとも200g/molの平均モル質量を有することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記固体成分が、グラファイト、フッ化グラファイト、酸化グラファイト、ダイヤモンド、Al
2
O
3
被覆グラファイト、又はこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記消泡剤が、ポリアルキレングリコールの群から選択され、
前記消泡剤が、少なくとも200g/molの平均モル質量を有することを特徴とする、請求項5に記載の電解質。
【国際調査報告】