(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】対象体の病変を治療するための治療ビームを変換する変換装置
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
A61N5/10 K
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503847
(86)(22)【出願日】2022-06-23
(85)【翻訳文提出日】2024-01-19
(86)【国際出願番号】 KR2022008935
(87)【国際公開番号】W WO2023003189
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】10-2021-0096045
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514039912
【氏名又は名称】ナショナル キャンサー センター
(71)【出願人】
【識別番号】524027190
【氏名又は名称】ラファラード・インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】507175175
【氏名又は名称】インダストリー-アカデミック コーポレーション ファウンデーション,ヨンセイ ユニバーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】512250119
【氏名又は名称】サムスン ライフ パブリック ウェルフェア ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【氏名又は名称】崔 允辰
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・キョン・イム
(72)【発明者】
【氏名】ミョン・ス・キム
(72)【発明者】
【氏名】キョン・ユン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ド・ヒョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】サン・ス・キム
(72)【発明者】
【氏名】ハク・ス・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・フィ・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】セ・ビョン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ドン・ホ・シン
(72)【発明者】
【氏名】ジュ・ヨン・キム
(72)【発明者】
【氏名】テ・ヒョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ソン・ホ・ムン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン-グン・ス
(72)【発明者】
【氏名】ホジン・キム
(72)【発明者】
【氏名】クァンヒョン・ジュ
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC05
4C082AE01
4C082AG23
4C082AG34
4C082AR02
(57)【要約】
本発明は、対象体の病変を治療するための治療ビームを変換させる変換装置に関し、前記治療ビームが入射され、複数のスリットが形成されているコリメータ部と、前記コリメータ部を通過した前記治療ビームを散乱させる散乱部とを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象体の病変を治療するための治療ビームを変換させる変換装置であって、
前記治療ビームが入射され、複数のスリットが形成されているコリメータ部と、
前記コリメータ部を通過した前記治療ビームを散乱させる散乱部とを含む変換装置。
【請求項2】
前記治療ビームは荷電粒子ビームを含む、請求項1に記載の変換装置。
【請求項3】
前記荷電粒子ビームは、陽子ビーム、ヘリウムイオンビーム及び炭素イオンビームのいずれか1つを含む、請求項2に記載の変換装置。
【請求項4】
前記各スリットは長く延長され、
前記複数のスリットは並んで形成され、
前記スリットにより前記治療ビームは空間的に分割される、請求項2に記載の変換装置。
【請求項5】
治療ビームは、前記複数のスリットに異なる入射角で入射し、
前記各スリットの延長方向は、当該入射角に対応するように形成されている、請求項4に記載の変換装置。
【請求項6】
前記複数のスリットのうち最も短いスリットの前記治療ビームの進行方向への延長長さは、前記治療ビームの最大浸透深さの1.5倍ないし10倍である、請求項1に記載の変換装置。
【請求項7】
前記コリメータ部は、前記治療ビームの進行方向に沿って配置された第1コリメータ部と第2コリメータ部を含む、請求項6に記載の変換装置。
【請求項8】
前記コリメータ部は、黄銅及びタングステンのいずれか1つを含んで構成される、請求項2に記載の変換装置。
【請求項9】
前記コリメータ部は、前記病変に向かって凹んだ形態である、請求項2に記載の変換装置。
【請求項10】
前記散乱部は散乱程度が異なり、使用者により選択可能な複数個が備えられる、請求項2に記載の変換装置。
【請求項11】
前記散乱部は、
第1散乱部と、
前記第1散乱部と前記病変との間に位置する第2散乱部とを含み、
前記第1散乱部及び前記第2散乱部は、それぞれ散乱程度が異なる複数の散乱部を含む、請求項10に記載の変換装置。
【請求項12】
前記散乱部を経た前記治療ビームは前記病変に照射され、
前記治療ビームは、前記病変において無分割状態に切り替えられる、請求項2に記載の変換装置。
【請求項13】
前記散乱部は金属板を含む、請求項2に記載の変換装置。
【請求項14】
前記金属板の金属は密度が10g/cm
3ないし25g/cm
3である、請求項13に記載の変換装置。
【請求項15】
前記金属板の金属は鉛、ビスマス及びタングステンのいずれか1つを含む、請求項14に記載の変換装置。
【請求項16】
前記治療ビームは、前記コリメータ部及び前記散乱部を通過しながら治療用空間分割放射線に変換され、
前記散乱部と前記病変との間に位置し、放射線の少なくとも一部を吸収する吸収部をさらに含む、請求項2に記載の変換装置。
【請求項17】
前記吸収部は、
密度が0.7g/cm
3ないし2g/cm
3である高分子及び
密度が2g/cm
3ないし6g/cm
3である金属のいずれか1つを含んでなる、請求項16に記載の変換装置。
【請求項18】
前記コリメータ部と前記吸収部との間の空気層の総厚さは調節可能であり、1cmないし8cmである、請求項16に記載の変換装置。
【請求項19】
前記吸収部と前記病変との間の間隔は調節可能である、請求項16に記載の変換装置。
【請求項20】
前記治療ビームを伝達する治療ビーム伝達装置と前記コリメータ部との間に位置し、前記治療ビームの前記対象体内の浸透深さを浅い深さに移動させ、脱着可能なレンジシフタをさらに含む請求項2に記載の変換装置。
【請求項21】
対象体の病変を治療するための治療ビームを変換させる変換装置であって、
入射される治療ビームのPVDRを増加させ、無分割状態から空間分割状態に切り替えるコリメータ部と、
前記コリメータ部を通過した前記治療ビームを散乱させる散乱部とを含む変換装置。
【請求項22】
前記コリメータ部には複数のスリットが形成され、
前記コリメータ部を通過した前記治療ビームは浸透深さに応じてPVDRが単調減少する、請求項21に記載の変換装置。
【請求項23】
前記散乱部を通過した前記治療ビームはPVDRが1.0ないし1.2に減少した状態で前記病変に照射される、請求項22に記載の変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象体の病変を治療するための治療ビームを変換する変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
脳腫瘍などの病変を治療するためには陽子ビームのような荷電粒子ビームが使われている。
【0003】
治療過程で陽子ビームの進行経路上に位置する患者の正常組織に多量の放射線が照射されて正常組織に影響を与える問題が発生することがある。例えば、脳腫瘍患者の陽子ビーム治療過程で陽子ビームにより毛髪損失が発生する可能性がある。
【0004】
毛髪損失は、特に小児脳腫瘍患者や女性患者の学校や社会生活などにおいて非常に否定的な影響を及ぼすため、生活の質を大きく低下させる問題になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、陽子ビームのような荷電粒子ビーム治療過程において、ビームが進行する経路上に位置した正常組織に対する影響が減少する治療ビーム変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記本発明の目的は、対象体の病変を治療するための治療ビームを変換させる変換装置において、前記治療ビームが入射され、複数のスリットが形成されているコリメータ部と、前記コリメータ部を通過した前記治療ビームを散乱させる散乱部とを含むことにより達成される。
【0007】
前記治療ビームは、荷電粒子ビームを含んでもよい。
【0008】
前記荷電粒子ビームは、陽子ビーム、ヘリウムイオンビーム及び炭素イオンビームのいずれか1つを含んでもよい。
【0009】
前記各スリットは長く延長され、前記複数のスリットは並んで形成され、前記スリットにより前記治療ビームは空間的に分割されてもよい。
【0010】
治療ビームは前記複数のスリットに相異なる入射角で入射され、前記各スリットの延長方向は該当入射角に対応するように形成されてもよい。
【0011】
前記複数のスリットのうち最も短いスリットの前記治療ビームの進行方向への延長長さは、前記治療ビームの最大浸透深さの1.5倍ないし10倍であってもよい。
【0012】
前記コリメータ部は、前記治療ビームの進行方向に沿って配置された第1コリメータ部と第2コリメータ部を含んでもよい。
【0013】
前記コリメータ部は、黄銅及びタングステンのいずれか1つを含んで形成されてもよい。
【0014】
前記コリメータ部は、前記病変に向かって凹んだ形態であってもよい。
【0015】
前記散乱部は、散乱程度が異なり、使用者により選択可能な複数個が設けられてもよい。
【0016】
前記散乱部は、第1散乱部と、前記第1散乱部と前記病変の間に位置する第2散乱部とを含み、前記第1散乱部及び前記第2散乱部は、それぞれ散乱程度が異なる複数の散乱部を含んでもよい。
【0017】
前記散乱部を経た前記治療ビームは前記病変に照射され、前記治療ビームは前記病変において無分割状態に切り替えられることができる。
【0018】
前記散乱部は金属板を含んでもよい。
【0019】
前記金属板の金属は密度が10g/cm3ないし25g/cm3であってもよい。
【0020】
前記金属板の金属は鉛、ビスマス及びタングステンのいずれか1つを含んでもよい。
【0021】
前記治療ビームは、前記コリメータ及び前記散乱部を通過しながら治療用空間分割放射線に変換され、前記散乱部と前記病変の間に位置し、前記放射線の少なくとも一部を吸収する吸収部をさらに含んでもよい。
【0022】
前記吸収部は、密度が0.7g/cm3ないし2g/cm3である高分子及び密度が2g/cm3ないし6g/cm3である金属のいずれか1つを含んで形成されてもよい。
【0023】
前記コリメータ部と前記吸収部との間の空気層の総厚さは調節可能であり、1cmないし8cmであってもよい。
【0024】
前記吸収部と前記病変との間の間隔は調節可能であってもよい。
【0025】
前記治療ビームを伝達する治療ビーム伝達装置と前記コリメータ部との間に位置し、前記治療ビームの前記対象体内の浸透深さを浅い深さに移動させて脱着可能なレンジシフタをさらに含んでもよい。
【0026】
前記本発明の目的は、対象体の病変を治療するための治療ビームを変換させる変換装置において、入射される治療ビームのPVDRを増加させ、無分割状態から空間分割状態に切り替えるコリメータ部と、前記コリメータ部を通過した前記治療ビームを散乱させる散乱部とを含むことにより達成できる。
【0027】
前記コリメータ部には複数のスリットが形成され、前記コリメータ部を通過した前記治療ビームは浸透深さに応じてPVDRが単調減少することができる。
【0028】
前記散乱部を通過した前記治療ビームは、PVDRが1.0ないし1.2に減少した状態で前記病変に照射されることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、陽子ビームのような荷電粒子ビーム治療過程において正常組織への影響が減少する治療ビーム変換装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1a】本発明の第1実施例による変換装置の使用形態を示した図である。
【
図1b】本発明の第1実施例による変換装置の使用形態を示した図である。
【
図1c】本発明の第1実施例による変換装置の使用形態を示した図である。
【
図2】本発明の第1実施例による変換装置の構成を示した図である。
【
図3】本発明の第1実施例による変換装置において陽子ビームの線量形態変化を示した図である。
【
図4】本発明の第1実施例による変換装置においてレンジシフタによる陽子ビームの浸透深さの変化を説明するための図である。
【
図5】本発明の第1実施例による変換装置においてコリメータ部の断面を示した図である。
【
図6】ビーム入射角-スリット延長方向による側面線量分布をシミュレーションしたものである。
【
図7】コリメータ部の厚さを異にする時、媒質の深さに応じるPVDRの変化を示すシミュレーションの結果である。
【
図8】散乱部の金属板の厚さを異にする時、媒質の深さに応じるPVDRの変化を示したシミュレーションの結果である。
【
図9】本発明の第1実施例による変換装置においてコリメータ部と吸収部との間の空気層の厚さを示した図である。
【
図10】本発明の第2実施例による変換装置においてコリメータ部の断面を示した図である。
【
図11】本発明の第3実施例による変換装置においてコリメータ部の形態を示した図である。
【
図12】本発明の第4実施例による変換装置において散乱部の形態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明をさらに詳しく説明する。
【0032】
添付の図面は、本発明の技術的思想をより具体的に説明するために図示した一例に過ぎないので、本発明の思想が添付の図面に限定されるものではない。添付の図面は説明のために各部分の厚さや長さなどが誇張して表現されていることもある。
【0033】
以下の実施例では、治療ビームとして陽子ビームを例示して説明するが、本発明の治療ビームは荷電粒子ビームの1つであり得る。荷電粒子ビームは陽子ビーム、ヘリウムイオンビーム及び炭素イオンビームのいずれか1つであってもよい。
【0034】
また、以下の実施例では、治療対象病変として脳に位置する腫瘍を例示して説明するが、本発明における治療対象病変の位置と病変の種類はこれに限定されない。
【0035】
図1a、
図1b及び
図1cは、本発明の第1実施例による変換装置の使用形態を示した図である。
【0036】
変換装置1は、生成された陽子ビームを患者に伝達する陽子ビーム伝達装置の末端に連結されて使用される。
【0037】
陽子ビーム伝達装置はガントリーに連結されて回転される。患者(対象体)は陽子ビーム伝達装置の延長線上に位置するベッドに横になり、陽子ビームは変換装置を経た後に患者の病変に照射される。
【0038】
病変位置などに応じて陽子ビーム伝達装置の具体的な形状は変更されてもよく、治療時の患者の姿勢も変更されてもよい。
【0039】
図2に示すように、変換装置1は、レンジシフタ10、コリメータ部20、散乱部30、吸収部40及び選択部50を含む。
【0040】
図2においては、各構成を収容するケース構成、各構成をケース内に支持する構成、外部から選択部50を調整する構成及び各構成間の距離を調節する構成などの図示は省略した。
【0041】
また、
図2においては、変換装置1を陽子ビーム伝達装置に結合させる構成は図示せず、結合構成は当業者が適切に選択してもよい。
【0042】
レンジシフタ10、コリメータ部20、散乱部30及び吸収部40は、陽子ビーム伝達装置と病変との間に順次配置され、陽子ビームはレンジシフタ10、コリメータ部20、散乱部30及び吸収部40を順次経た後に病変に照射される。
【0043】
変換装置1を経た陽子ビームは、患者の頭皮、頭蓋骨及び正常脳を経て、治療病変である腫瘍に照射される。
【0044】
陽子ビームの線量形態を患者の頭皮から腫瘍まで順次示すと、
図3のとおりである。
【0045】
陽子ビームから保護すべき頭皮に照射される陽子ビームは空間分割されている状態であり、PVDR(peak-valley dose ratio、側面線量比)は高い状態である。PVDRは、Dp(peakでの線量)/Dv(valleyでの線量)で計算できる。
【0046】
本発明において、「空間分割」とは空間的に周期的な線量分布が形成されることを意味する。空間分割は、陽子ビームのPVDRが1.1以上、1.2以上または1.5以上の状態であると見なすことができ、実質的には1.1ないし200、1.2ないし200または1.5ないし200であり得る。
【0047】
頭皮に入射される陽子ビームのPVDRは3.0ないし100であり得る。
【0048】
空間分割された陽子ビームが頭皮、頭蓋骨及び正常脳を経る過程で低線量領域がビームの進行経路上に形成されるため、正常組織が保護され、特に毛髪の損失が減少する。
【0049】
その後、陽子ビームが治療対象である病変に到達すると、ビームの空間分割が無分割状態に切り替えられて低線量領域は消え、PVDRは1に近づくようになる。均一になった線量を利用して病変を効果的に治療する。病変に照射される陽子ビームのPVDRは、1.0ないし1.1又は1.0ないし1.2であり得る。
【0050】
以上のように、本発明によれば、正常組織においては高い空間分割状態を維持し、腫瘍においては無分割状態になる。これにより、正常組織は最大限保護し、腫瘍は効果的に治療される。
【0051】
以下では、
図4ないし
図9を参照して本発明による変換装置を詳細に説明する。
【0052】
図4は、本発明の第1実施例による変換装置においてレンジシフタによる陽子ビームの浸透深さの変化を説明するための図であり、
図5は、本発明の第1実施例による変換装置においてコリメータ部の断面を示した図であり、
図6は、ビーム入射角-スリット延長方向に応じる側面線量分布をシミュレーションしたものであり、
図7は、コリメータ部の厚さを異にする時、媒質の深さに応じるPVDR変化を示したシミュレーション結果であり、
図8は、散乱部の金属板の厚さを異にする時、媒質の深さに応じるPVDRの変化を示したシミュレーションの結果であり、
図9は、本発明の第1実施例による変換装置においてコリメータ部と吸収部との間の空気層の厚さを示した図である。
【0053】
レンジシフタ(10、range shifter)は陽子ビーム伝達装置とコリメータ部20の間に位置する。レンジシフタ10は対象体内で陽子ビームの浸透深さを変更し、特に、
図4のように陽子ビームの患者内への浸透深さを浅い深さに移動させる。レンジシフタ10は密度が0.7g/cm
3ないし2g/cm
3である高分子材質で設けられてもよく、均一な厚さの板状であってもよい。レンジシフタ10は着脱可能に備えられてもよい。
【0054】
コリメータ部20は内部に多数のスリット21が形成されている。各スリット21は長く延長され、多数のスリット21は互いに並んで配置されている。
【0055】
コリメータ部20は、入射される陽子ビームを空間分割しながらPVDRを対象体内の進行距離に応じて単調減少させる。
【0056】
コリメータ部20の材質は黄銅またはタングステンからなってもよい。
【0057】
図5に示すように、コリメータ部20に入射される陽子ビームは、各スリット21に異なる入射角を有して入射されてもよい。各スリット21の延長方向は入射される陽子ビームの入射角に対応するように、すなわち、走査磁石により走査されて入射される陽子ビームに並んで設けられている。
【0058】
図6は、走査磁石により走査された161MeV陽子ビームが異なる2種類のコリメータ部に入射する時、ビーム入射角-スリット延長方向に応じる側面線量分布を対象体表面においてシミュレーションした結果である。
【0059】
本発明のように、入射角-スリット延長方向が並んでいる場合(defocusting slit)は皮膚での線量輪郭線が平らであり、病変においても線量分布が均一である。それに対して、入射角とスリット延長方向が一致せず、スリット間に互いに平行な場合(parallel slit)は、皮膚での線量輪郭線が平らではなく曲線になる。このような場合、病変においても線量分布が均一でなくなる。
【0060】
最も短いスリット21の延長長さ(d1)、すなわち、コリメータ部20の厚さは陽子ビームの最大浸透深さの1.5倍ないし10倍であってもよい。延長長さ(d1)が陽子ビームの最大浸透深さの1.5倍以下であると、PVDRの単調減少が難しい。延長長さ(d1)が陽子ビームの最大浸透深さの10倍以上であると、陽子ビームの損失が大きすぎて治療時間が非常に長くなり、コリメータの取り扱いが難しくなる。
【0061】
他の実施例においては、コリメーダの外側に行くほどスリット21の幅(d2)が増加してもよい。
【0062】
図7は、黄銅における最大浸透深さが4.52cmである200MeV陽子ビームに対してスリットの延長長さを5、7及び10cmに変更しながら媒質の深さに応じる側面線量比変化をモンテカルロシミュレーションにより計算した結果である。コリメータ部の材質は黄銅材質を仮定し、前記媒質は水で満たされていると仮定した。
【0063】
図7に示すように、最大浸透深さの約1.5倍である延長長さ7cmからPVDRがおおよそ単調減少することが確認できる。
【0064】
散乱部30は金属板で備えられてもよく、厚さが異なる複数の金属板で備えられてもよい。
【0065】
各散乱部30は選択部50に取り付けられている。選択部50には通過孔51が備えられ、コリメータ部20を通過して空間分割された陽子ビームは通過孔51に入射される。使用者は、複数の散乱部30のうち所望の散乱程度を有する散乱部30を通過孔51に位置させる。
【0066】
散乱部30の散乱程度は金属板の材質及び/又は厚さを調整して互いに異にする。金属板は、密度が10ないし25である金属で形成されてもよく、具体的には鉛、ビスマス及びタングステンのいずれかを含んでもよい。
【0067】
散乱部30は、腫瘍の深さに合わせて陽子ビームが無分割状態になるようにする。すなわち、散乱部30は、空間分割された陽子ビームのPVDRが1.2または1.1より低くなる深さを決定する。
【0068】
図8は、鉛散乱部の厚さに応じて深さ別に陽子ビームの側面線量比調節を示すモンテカルロシミュレーション計算結果を示した図である。
【0069】
シミュレーションで陽子ビームのエネルギーは161MeVであり、コリメータは黄銅で、幅は2.5mm、スリット幅は2.5mm、スリット間距離は5mm、スリット延長長さは10cmであった。媒質は水で満たされていると仮定した。
【0070】
図8に示すように、散乱部の鉛の厚さに応じてPVDRが1.1に到達する深さが変わることが確認できる。
【0071】
吸収部40は散乱部30と病変の間に位置し、陽子ビームがレンジシフタ10、コリメータ部20及び散乱部30などで生成されるか散乱された放射線を除去する。
【0072】
吸収部40は、密度が0.7g/cm3ないし2g/cm3である高分子または密度が2g/cm3ないし6g/cm3である金属のいずれか1つを含んで形成されてもよい。吸収部40に使用される金属はアルミニウムまたはチタンであってもよい。
【0073】
コリメータ部20と吸収部40との間の空気層の厚さの和は調節可能であり、1cmから8cmであってもよい。空気層の厚さは、
図9に示すように、コリメータ部20と散乱部30との間の距離(1)及び散乱部30と吸収部40との間の距離(2)の合計である。
【0074】
空気層の厚さを調節すると、腫瘍内部の線量均一度を調節することができる。もし、空気層の厚さを増加させると、腫瘍内部の線量均一度を向上させることができる。しかしながら、頭皮に照射される陽子ビームのPVDRは減少する。
【0075】
以上説明した変換装置1と病変間の距離は調節可能である。
【0076】
以下、本発明の第1実施例による変換装置を利用した患者の治療方法について説明する。
【0077】
まず、患者の病変位置及び状態などを把握して治療計画を立てる。
【0078】
治療計画には陽子ビームの最大エネルギー、照射位置及び治療時間を含み、変換装置1の選択及び配置位置なども含む。
【0079】
変換装置1は、陽子ビームが分割状態を維持して、病変位置において無分割状態になるように構成を選択する。散乱部30の選択が核心であり、散乱部30の選択にはレンジシフタ10の使用有無及び吸収部40と病変間の距離などを考慮する。
【0080】
所望の変換装置1を構成して陽子ビーム生成装置に結合させ、患者を配置させた後、陽子ビームを照射する。
【0081】
陽子ビームはレンジシフタ10を経て患者内の浸透深さが浅い深さに移動する。その後、コリメータ部20を通過しながら空間分割され、PVDRが進行につれて単調減少する。陽子ビームは散乱部30を通過しながら散乱されて無分割状態に切り替えられる深さが決定される。その後、陽子ビームは吸収部40を通過して散乱された放射線が除去された後、患者に入射される。
【0082】
陽子ビームは、患者の正常組織では分割状態及び1.2以上の高いPVDRを維持し、病変に到達すると、無分割状態及び1.2以下のPVDRを有するようになる。これにより、正常組織に対する陽子ビームの影響を減少させ、病変では陽子ビームによる効果的な治療が可能である。
【0083】
以下、
図10ないし
図12を参照して本発明の第2実施例ないし第4実施例を説明する。
【0084】
図10の第2実施例では、コリメータ部20が第1コリメータ20aと第2コリメータ20bで構成される。第1コリメータ20aと第2コリメータ20bの陽子ビームの入射方向に沿って配置されている。他の実施例においてコリメータ部20は3つ以上が備えられてもよく、異なる材質であってもよい。
【0085】
図11の第3実施例では、コリメータ部20が曲面形で備えられ、患者に向かって凹んだ形状を有している。
【0086】
図12の第4実施例では、散乱部30は、コリメータ部20に近く位置する第1散乱部30aとコリメータ部20に遠く位置する第2散乱部30bを含む。第1散乱部30aと第2散乱部30bは両方とも複数設けられている。使用者は第1散乱部30aと第2散乱部30bを組み合わせて多様な散乱程度を実現して陽子ビームが無分割状態に切り替えられる深さを調節することができる。
【0087】
例えば、第1散乱部30aの金属板が10mm、20mm、30mmで構成され、第2散乱部30bの金属板が3mm、5mm、7mmで構成される場合、使用者は組み合わせにより10mm、13mm、15mm、17mm、20mmなどの金属板の厚さを使用することができる。
【0088】
第1散乱部30aと第2散乱部30bは離隔されていてもよく、この場合、第4実施例での空気層の総厚さは第1散乱部30aと第2散乱部30bとの間の間隔を含む。
【0089】
前述の実施例は、本発明を説明するための例示であり、本発明がこれに限定されるものではない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、これから多様に変形して本発明を実施することが可能であるため、本発明の技術的保護範囲は添付の特許請求範囲により定められなければならない。
【国際調査報告】