(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】HER2ワクチン組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20240711BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20240711BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240711BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240711BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240711BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240711BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20240711BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61K39/39
A61P1/04
A61P35/00
A61K48/00
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504142
(86)(22)【出願日】2022-07-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-23
(86)【国際出願番号】 KR2022010597
(87)【国際公開番号】W WO2023008815
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】10-2021-0099411
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521548308
【氏名又は名称】アストン エスシーアイ. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ホン
(72)【発明者】
【氏名】パク ヒョ ヒョン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA661
4C084ZA662
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085AA03
4C085AA38
4C085BB23
4C085EE01
4C085EE06
4C085GG01
4C085GG05
(57)【要約】
本発明は、HER2-ICD DNAワクチン組成物に係り、本発明によるワクチン組成物は、HER2を発現するヒト胃癌細胞株移植動物モデルにおいて、深刻な副作用なしに、胃癌の成長を効果的に抑制することができるので、胃癌治療に有用に使用されうる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤学的に許容可能な担体、及び配列番号2、またはそれと80%以上の配列相同性を有するHER2-ICD領域を暗号化するヌクレオチド配列を含むプラスミドベクターを含む対象体において抗癌効果を誘導する、ワクチン組成物。
【請求項2】
前記ヌクレオチド配列は、配列番号3、またはそれと80%以上の配列相同性を有する、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項3】
前記対象体は、HER2タンパク質を発現する胃癌患者である、請求項1または2に記載のワクチン組成物。
【請求項4】
前記対象体は、ヒトである、請求項3に記載のワクチン組成物。
【請求項5】
前記対象体は、抗HER2治療用抗体が、前記ワクチン組成物と併用投与されない、請求項4に記載のワクチン組成物。
【請求項6】
前記ワクチン組成物は、さらには、アジュバントを含む、請求項1または2に記載のワクチン組成物。
【請求項7】
前記ワクチン組成物は、注射または接種によって投与される、請求項1または2に記載のワクチン組成物。
【請求項8】
前記組成物は、皮内注射によって投与される、請求項7に記載のワクチン組成物。
【請求項9】
請求項1または2に記載のワクチン組成物、及び説明書を含む、HER2を発現する胃癌治療用キット。
【請求項10】
前記キットは、抗HER2治療用抗体を含まない、請求項9に記載のHER2を発現する胃癌治療用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年07月28日付け韓国特許出願第10-2021-0099411号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、胃癌治療のためのHER2ワクチン組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
胃癌は、原則的に、胃に生ずる全ての癌を言う言葉であるが、主に、胃粘膜の腺細胞で発生する胃腺癌(adenocarcinoma)、胃の間質細胞で発生する間質性腫瘍(gastricintesrinal tumor)のような多様な形態で発生し、他の癌腫と同様に、食道、肺、肝臓を始めとする他器官に転移されうる。胃癌は、診断頻度が、世界で4番目に最も多く診断される癌であり、2002年に、93万件が診断された。高い発生率は、高い死亡率(1年当たり約80万件)を示し、肺癌の次に、世界で2番目で最も多くの癌死亡の原因である。この癌は、女性よりは男性において、さらに多く発生しながら、アジア国家と開発途上国とにおいてさらに多く発生する。
【0004】
胃癌に対する治療は、手術、化学療法、放射線療法や、同時抗癌化学放射線療法を含む。手術は、胃癌に対する一次治療である。治療目標の外科的な切除術の5年生存率は、2期患者において、30%ないし50%と示され、3期患者において、10%ないし25%と示される。ただし、外科的な切除術、及びそれによる化学治療などの抗癌療法は、体重減少のような患者の生きる上での質を落とすので、他方式の治療オプションが必要である。
【0005】
ワクチンは、身体が有害な成分及び疾病にかかった細胞を認知して破壊するように免疫系を訓練させることにより、疾患と争うことの一助となる。該ワクチンは、大きく見て、2種類型、予防ワクチン及び治療ワクチンに分けられうる。該予防ワクチンは、伝統的なワクチンの形態であり、健康者に、特定疾患の発達を予防させるように提供される一方、免疫療法とも呼ばれる治療ワクチンは、疾患があると診断された者に、疾患が成長して広がることを中断させることの一助となるか、あるいは予防策として提供される。該治療ワクチンの代表的な形態は、癌ワクチンである。
【0006】
癌ワクチンは、細胞毒性T細胞を活性化させ、活性化されたT細胞が、特定類型の抗原を発現する癌細胞を認知し、それに対抗して作用させるか、あるいは癌細胞表面に存在する抗原と結合する抗体の生産を誘導するようにデザインされる。該癌ワクチンの基本的な治療目標は、癌患者にすでに存在する癌組織の大きさを小さくしたり、癌患者の癌組織を、外科的手術または化学療法などで除去した後、癌再発を抑制したりするものである。
【0007】
これまでの数年間、癌の治療または再発を防ぐために、ワクチン研究が広範囲になされたが、前立腺癌ワクチンであるシプロイセル-T(sipuleucel-T(Provenge(商標)))を除いては、成功した事例がいまだ存在しない。そのような低い成功率については、特定類型の腫瘍細胞に、抗原が特異的に発現されても、各個人によっては、低いレベルで抗原を発現したり、転移性腫瘍の場合、最初発生腫瘍と転移性腫瘍との間に、抗原プロファイルが変化されたりし、腫瘍細胞の免疫回避メカニズムも、一部低い成功率の原因として説明されている。
【0008】
望ましいワクチン抗原は、腫瘍細胞において、排他的、または少なくとも増大されたレベルに発現されなければならない。HER2/neu(以下、「HER2」とする)は、EGFR(epidermal growth factor receptor)のファミリー(EGFR2)のうち一つであり、多くの癌腫において、EGFRの過発現が観察され、特に、全体胃癌患者の約20%において、HER2陽性進行性胃癌と診断されると知られている。
【0009】
HER2は、配列番号1のアミノ酸配列を有する細胞膜貫通タンパク質であり、タンパク質チロシンキナーゼ(protein tyrosine kinase)活性を有する細胞内ドメイン(ICD(intracellular domain)(HER2 aa 676~1255))、膜横断ドメイン(TM:transmembrane domain(HER2 aa 653~675))及び細胞外ドメイン(ECM(extracellular domain)(HER2 aa 22~652))によって構成されている。
【0010】
HER2ワクチンは、乳癌で相当に広範囲に研究されており、数個の免疫原性ペプチドが発掘されている。例えば、HER2タンパク質のアミノ酸369~377のペプチド(nelipepimut-S[NeuVax(商標)(HER2 aa 369~377)(E75(NP-S))])の場合、樹枝状細胞にローディングされた後、再注入されるような免疫治療を試みたが、進行された状態の乳癌を有する女性において、臨床的に有意な治療または保護の効果が報告されていない。その上、最近、大規模臨床3床において、無疾病生存率(DFS:disease free survival)において、偽薬群と違いがなく、臨床実験が中断されている。
【0011】
さらに1つのHER2ペプチドワクチンの例として、HER2-ICDペプチドワクチンであるAE37(LRMK-GVGSPYVSRLLGICL(LRMK-HER2 aa 776~790))、HER2-TMペプチドワクチンであるGP2(HER2 aa 654~662)が存在し、それらワクチンによって生存率が上昇するという効果が一部報告されている。また、HER2-ICD断片(以下、「HER2-ICD」とする)に対するワクチンが、HER2-ECD断片(以下、「HER2-ECD」とする)に対するワクチンに比べ、腫瘍の大きさを小さくするということが動物実験で報告され、HER2-ICD DNAワクチンを、乳癌患者に適用した事例がある。しかしながら、HER2-ICD DNAワクチンを、乳癌ではない胃癌に適用した結果は、報告されていない。
【0012】
従って、胃癌患者において、胃癌の治療または再発に対し、信頼し得る効果を提供するワクチンを生成するために、HER2-ICD DNAワクチンの免疫効果及び治療可能性を開発する必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】大韓民国登録特許10-1572474号(公告日:2015.11.30.)
【特許文献2】米国公開特許US2002/0193329(公開日:2002.12.19.)
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Breast Care 2016: 11, 116-121
【非特許文献2】Clin Cancer Res: 25 (14) July 15, 2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
それにより、本発明者らは、前述の問題を解決するために研究を行った結果、HER2-ICDを暗号化する核酸配列を含むプラスミドを含むDNAワクチン組成物が、ヒト胃癌細胞株移植腫瘍マウスモデルにおいて、腫瘍成長を効果的に抑制することができるということを確認し、本発明完成に至った。
【0016】
本発明は、HER2-ICDを暗号化する核酸配列を含むプラスミドを含むワクチン組成物(以下、「HER2-ICD DNAワクチン組成物」と言う)を提供することを目的とする。
【0017】
本発明は、前記HER2-ICD DNAワクチン組成物を含む胃癌治療用キットを提供するものである。
【0018】
本発明は、前記ワクチン組成物またはキットを対象体に投与し、胃癌の進行及び/または再発を抑制する方法を提供することを目的とする。
【0019】
本発明は、胃癌の治療のための医薬品の製造において、前記組成物またはキットの用途を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記目的を達成するために、本発明は、HER2-ICDを暗号化する核酸配列を含むプラスミドを含むDNAワクチン組成物を提供する。
【0021】
本発明の一具現例により、前記ワクチン組成物は、胃癌患者群に使用することができる。
【0022】
本発明の一具現例により、前記胃癌患者群は、HER2タンパク質を発現する患者群でもある。
【0023】
本発明の一具現例により、前記ワクチン組成物は、さらには、アジュバント(adjuvant)を含むものでもある。
【0024】
本発明の一具現例により、前記ワクチン組成物は、化学抗癌剤、標的抗癌剤及び免疫抗癌剤のうちから選択される1以上の抗癌剤と併用投与することができる。
【0025】
本発明の一具現例により、前記胃癌患者群は、ヒト患者群でもある。
【発明の効果】
【0026】
本発明によるワクチン組成物は、HER2-ICDを暗号化する核酸配列を含むプラスミドを含むワクチン組成物であり、胃癌動物モデルにおいて、効果的に腫瘍成長を抑制することができ、胃癌治療に有用に使用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】胃癌細胞株移植異種移植(xenograft)マウスモデルにおいて、HER2-ICD DNAワクチン(vaccine)、抗HER2治療用抗体(ハーセプチン(Herceptin))、並びに前記DNAワクチン及びハーセプチン(Herceptin)を併用投与(ワクチン(vaccine)+ハーセプチン(Herceptin))したとき、各個体別体重変化を示した図である。
【
図2】胃癌細胞株移植異種移植(xenograft)マウスモデルにおいて、HER2-ICD DNAワクチン(vaccine)、抗HER2治療用抗体(ハーセプチン(Herceptin))、並びに前記DNAワクチン及びハーセプチン(Herceptin)を併用投与(ワクチン(vaccine)+ハーセプチン(Herceptin))したとき、腫瘍成長抑制効果を示した図である。
【
図3】胃癌細胞株移植異種移植(xenograft)マウスモデルにおいて、HER2-ICD DNAワクチン(vaccine)、抗HER2治療用抗体(ハーセプチン(Herceptin))、並びに前記DNAワクチン及びハーセプチン(Herceptin)を併用投与(ワクチン(vaccine)+ハーセプチン(Herceptin))したとき、腫瘍成長抑制効果を示した図である。
【
図4】胃癌細胞株移植異種移植(xenograft)マウスモデルにおいて、HER2-ICD DNAワクチン(vaccine)、抗HER2治療用抗体(ハーセプチン(Herceptin))、並びに前記DNAワクチン及びハーセプチン(Herceptin)を併用投与(ワクチン(vaccine)+ハーセプチン(Herceptin))したとき、腫瘍成長抑制効果を示した図である。
【
図5】胃癌細胞株移植異種移植(xenograft)マウスモデルにおいて、HER2-ICD DNAワクチン(vaccine)、抗HER2治療用抗体(ハーセプチン(Herceptin))、並びに前記DNAワクチン及びハーセプチン(Herceptin)を併用投与(ワクチン(vaccine)+ハーセプチン(Herceptin))したとき、脾臓の変化を示した図である。
【
図6】胃癌細胞株移植異種移植(xenograft)マウスモデルにおいて、HER2-ICD DNAワクチン(vaccine)、抗HER2治療用抗体(ハーセプチン(Herceptin))、並びに前記DNAワクチン及びハーセプチン(Herceptin)を併用投与(ワクチン(vaccine)+ハーセプチン(Herceptin))したとき、脾臓の変化を示した図である。
【
図7】胃癌細胞株移植異種移植(xenograft)マウスモデルにおいて、HER2-ICD DNAワクチン(vaccine)、抗HER2治療用抗体(ハーセプチン(Herceptin))、並びに前記DNAワクチン及びハーセプチン(Herceptin)を併用投与(ワクチン(vaccine)+ハーセプチン(Herceptin))したとき、脾臓の変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0029】
本開示内容の特定特性を記述して請求するにおいて、以下の用語は、異なって指定されない限り、以下に記述された定義によって使用されるのである。
【0030】
本願において、ある態様が「~を含む」という用語と共に記述されても、「~で構成されている」、及び/または「本質的に~によって構成されている」という観点で記述された他の類似態様も提供されるということが理解されなければならない。
【0031】
用語「治療する」は、癌患者に、本発明のワクチン組成物を接種した後、癌患者を、放射線または物理的方法などで検査したとき、腫瘍成長を防いだり低減させたりする結果、または結果の徴候を意味するだけではなく、癌患者に対する手術または抗癌剤投与によって癌組織を除去した後、該患者に、本発明のワクチン組成物を接種した後、放射線または物理的方法などで検査したとき、癌再発(recurrence/relapse)を防いだ結果、または結果の徴候を意味する。
【0032】
用語「抗癌効果」は、本発明のワクチン組成物が、癌患者である接種対象に投与されたとき、腫瘍成長を防いだり低減させたりする効果を意味するだけではなく、該癌患者に対する手術または抗癌剤投与を行って癌組織を除去した後、本発明のワクチン組成物を、前記癌患者に投与したとき、癌の再発または成長を防ぐ効果を意味する。
【0033】
用語「保護免疫」は、対象体が、HER2-ICD抗原に対して免疫反応を開始し、対象体の免疫系が同一抗原を発現する細胞を標的化して破壊することができ、該対象体において、癌進行または癌再発を低減させることを意味する。本発明において、該保護免疫は、腫瘍成長が抑制される抗癌効果とも表現される。
【0034】
用語「抗HER2治療用抗体」は、HER2受容体を標的にし、HER2を発現する腫瘍細胞の増殖を防ぐことにより、癌を治療することができる単一クローン抗体を意味するものであり、トラスツズマブ(ハーセプチン(商標))及びそのバイオミラーなどが含まれるが、それらに制限されるものではない。
【0035】
用語「ブースター」は、保護免疫を、増進、延長または維持させ、調節T細胞によって媒介される「T細胞反応の下向き調節」を克服するために患者に投与される一定用量の免疫源を言う。
【0036】
用語「薬剤学的に許容される」は、組成、剤形、安全性などにつき、薬理学的/毒性学的な観点から、患者に許容される物質を意味し、「薬剤学的に許容される担体」は、活性成分の生物学的活性の効果を妨害しない媒質を言い、投与時、対象体に無毒性である。
【0037】
用語「患者」または「対象体」とは、本発明のワクチン組成物の投与により、疾患が予防されたり治療されたりしうる病態、例えば、胃癌を患っていたり治療されたりしているか、あるいはそのような病態にかかりやすい、生きている有機体を称し、ヒトと動物とをいずれも含む。該対象体としては、哺乳動物(例えば、マウス、猿、馬、牛、豚、犬、猫など)を含むが、それらに限定されるものではなく、望ましくは、ヒトである。また、本発明における「患者」または「対象体」は、区分されずに、胃癌患者、またはHER2を発現する胃癌患者を含む。
【0038】
用語「投与すること」とは、本発明が属する技術分野において公知された多様な方法、及び伝達システムのうち任意のものを使用し、ワクチン組成物を対象体に導入することを称する。例示的投与経路は、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、脊髄、またはその他非経口投与経路、例えば、注射または注入による投与経路を含む。本発明の明細書に使用された「投与」とは、一般的に、注射による皮内(intradermal)投与方式を意味し、静脈内、筋肉内、動脈内、脊髄腔内またはリンパ内への注射及び注入を含むが、それらに限定されるのではない。その他非経口経路としては、局所、上皮または粘膜への投与経路、例えば、鼻内、膣、直腸または舌下の経路を含む。本明細書においては、対象体にワクチンを投与する行為である「ワクチン投与(vaccine injection)」、「処置(treatment)」及び「接種(vaccination)」は、区分されずに使用される。
【0039】
本発明で用語「HER2を発現する」は、癌組織内のHER2遺伝子またはタンパク質を発現することを意味する。前記HER2遺伝子または前記タンパク質の発現様相は、高発現及び低発現を区分するものではない。
【0040】
本発明において、用語「免疫抗癌剤」は、癌自体を攻撃する既存抗癌剤とは異なり、免疫体系を刺激することにより、免疫細胞が選択的に、癌細胞のみを攻撃するように誘導する治療薬剤であり、該癌細胞が獲得した免疫抑制または免疫回避メカニズムを克服するために、免疫体系の腫瘍認知能または破壊能を回復または強化させるメカニズムの抗癌剤である。前記免疫抗癌剤は、免疫チェックポイント抑制剤(immune checkpoint inhibitor)、免疫細胞治療剤及び免疫ウイルス治療剤を含むが、それらに制限されるものではない。
【0041】
本発明において、用語「免疫チェックポイント抑制剤」は、一部癌細胞が、体内免疫細胞であるT細胞の免疫チェックポイントを活用しながら、免疫を回避する場合、T細胞抑制に関与する免疫チェックポイントタンパク質(immune checkpoint protein)の活性化を遮断し、T細胞を活性化させ、癌細胞を攻撃する作用を行わせる免疫抗癌剤の一種であり、CTLA-4抑制剤、PD-1抑制剤、PD-L1抑制剤、LAG-3抑制剤、TIM-3抑制剤、TIGIT抑制剤及びVISTA抑制剤を含むが、それらに制限されるものではない。また、前記免疫チェックポイント抑制剤は、拮抗剤であり、拮抗剤抗体または小分子化合物でもある。
【0042】
本明細書に開示された組成物は、DNAワクチンに製造される。本発明の一部実施例において、DNAワクチンは、プローモーター(promoter)、適切な転写及び翻訳の制御要素、及び本発明の1またはそれ以上のポリペプチドを暗号化する核酸配列を有するプラスミドを含む。一部実施例において、前記プラスミドは、さらには、増強(enhance)配列、例えば、発現レベル、細胞内標的化などを増強する配列を含むものでもある。
【0043】
本発明の一部実施例においては、DNAワクチンは、本発明のHER2-ICDを暗号化する核酸配列を含むプラスミドベクターを含む。一部実施例において、前記プラスミドは、pUMVC3(従来の名称は、「pNGVL3」であるので、2つの名称は、混用して使用されうる)プラスミドである。前記HER2-ICDを暗号化する核酸配列は、配列番号3の核酸配列と、100%相同性を有するか、あるいはそうではない場合、99%以上、95%以上、90%以上、85%以上、80%以上の相同性を有しうる。ただし、前記特定数値に限定された相同性を有する場合、ワクチン接種によるHER2-ICDに対する免疫原性は、100%相同性を有する配列と、同一であるか、あるいは均等な効果を有する。
【0044】
本発明の一部実施例において、HER2タンパク質を発現するヒト胃癌細胞株であるNCI-N87細胞株を、胸腺欠損ヌード(athymic nude)マウスに移植し、異種移植(xenograft)胃癌マウスモデルを作った後、対照群(control)、HER2-ICD DNAワクチン処理群(vaccine)、抗HER2治療用抗体処理群であるハーセプチン(Herceptin)処理群(ハーセプチン(Herceptin))、及びHER2-ICD DNAワクチン+ハーセプチン(Herceptin)併用処理群(ワクチン(vaccine)+ハーセプチン(Herceptin))の4群に分けて薬物を処理した。
【0045】
3種類薬物処理群において、いずれも対照群に比べ、腫瘍成長が抑制される結果を示し(薬物処理後31日目まで)、「HER2-ICD DNAワクチン」の単独投与群の腫瘍成長抑制効果が最もすぐれており、結果として、ハーセプチン(Herceptin)単独はもとより、ハーセプチン(Herceptin)と「HER2-ICD DNAワクチン」とが併用投与された試験群に比べても、さらに優勢な結果を示している。
【0046】
HER2発現進行性胃癌において、抗HER2治療用抗体を利用したHER2直接治療法(HER2-direct targeting therapy)、または抗HER2治療用抗体と、化学療法(5-フルオロウラシル(5-FU:5-fluorouracil)+シスプラチン(cisplatin)またはカペシタビン(capecitabine)+オキサリプラチン(oxaliplatin))の併用療法が一般的な治療法であることを勘案すれば、本発明のHER2-ICD DNAワクチン単独投与が、ハーセプチン(Herceptin)投与に比べ、さらに優勢な腫瘍成長抑制効果を示すという点は、HER2発現胃癌治療において、新たな可能性を提示すると見ることができる。
【0047】
特に、本発明のHER2-ICD DNAワクチンは、すでにNCT00436254 phase 1臨床研究において、安全性を確認されているので、本発明のDNAワクチン治療法は、既存治療法に比べ、患者負担を減らすことができる治療法として適用されうるであろう。
【0048】
本発明の一部実施例において、DNAワクチンは、ワクチンの効力を強化したり、免疫システムを刺激したり、免疫抑制を低減させたりするような、生成された免疫反応を調節する免疫調節分子(immunomodulatory molecules)を、さらに暗号化することができる。
【0049】
本発明において、ワクチン組成物は、胃癌の成長または再発に対し、治療効果を誘導し、かつ/あるいは維持することが目的であるので、本発明においては、HER2-ICDに対する細胞毒性T細胞反応を、誘導し、かつ/あるいは維持するのに適する任意のスケジュールでもって、本発明のワクチン組成物を患者に投与することができる。例えば、一次接種として、本明細書で記述されて例示されるようなワクチン組成物を、一定スケジュールでもって患者に投与した後、保護免疫を誘導し、かつ/あるいは維持するために、ブースターを投与することができる。
【0050】
本発明の一部実施例において、ワクチン組成物は、1ヵ月当たり1回、2回、またはそれ以上の回数でもって患者に投与されうる。ブースターは、接種スケジュールを終えた後、一定間隔で、例えば、1ヵ月間隔で、単数または複数回投与され、6ヵ月以上の期間をもって、単数または複数回投与されうる。本発明の一部実施例において、一次接種として、毎月1回ずつ3回HER2-ICDワクチンを投与することができ、6ヵ月または1年後、さらなるブースターを接種することができる。
【0051】
このとき、ブースターは、一次接種時に使用されたワクチン組成物と同一の用量及び構成でもあり、用量及び/または構成が変更されるものでもある。
【0052】
本発明の明細書に記載されたワクチン組成物は、HER2-ICDを暗号化するDNAを含むプラスミド以外に、薬学的に許容される賦形剤(excipient)、担体、希釈剤、バッファ(buffer)、安定剤(stabilizer)、保存剤、アジュバント(adjuvant)、または本発明が属する技術分野に周知のその他物質を含むものでもある。そのような物質は、非毒性であり、有効成分の薬学的活性を妨害するものではない。薬剤学的担体または希釈剤は、例えば、水溶液でもある。本発明のワクチン組成物に含まれるものでもある担体、または他の物質は、投与経路(例えば、経口、静脈、皮膚または皮下、鼻、筋肉、皮内及び腹腔への投与)により、異なるように選択されうる。
【0053】
本発明のワクチン組成物は、1またはそれ以上の「薬剤学的に許容される担体」を含むものでもある。それらは、典型的に、タンパク質、糖類(saccharides)、ポリ乳酸(polylactic acids)、ポリグリコール酸(polyglycolic acids)、重合体(polymeric)アミノ酸、アミノ酸共重合体、ショ糖(sucrose)、トレハロース(trehalose)などが属する。そのような担体は、本発明が属する技術分野に周知されている。ワクチン組成物は、また水、食塩水、グリセロールのような希釈剤を含むものでもある。また、湿潤剤または乳化剤、pHバッファ物質のような補助物質が存在しうる。無菌発熱源がないリン酸塩バッファ生理食塩水(PBS)、トロメタミン(トリス)が代表的な担体である。
【0054】
本発明の一態様は、有効成分として、1またはそれ以上のプラスミドDNAを含む前述のようなワクチン組成物、またはキットに係わるものである。本発明のキットは、本発明のワクチン組成物、及びワクチン組成物の使用方法などが記載された説明書などを含む。
【0055】
本発明のワクチン組成物またはキットは、対象に、免疫反応を誘導するか、あるいは治療、ワクチン接種(vaccinating)または免疫療法を提供する方法に使用するためのものでもあり、該ワクチン組成物は、ワクチンまたは免疫治療組成物でもある。そのような治療またはワクチン接種は、対象体に、本発明のワクチン組成物を投与することを含む。前記ワクチン組成物は、定められたスケジュールでもって対象体に投与されうる。
【0056】
本発明のワクチン組成物またはキットは、対象体において、胃癌治療用として使用されうる。前記対象体は、ヒトでもあり、前記胃癌は、HER2タンパク質を発現する胃癌でもある。
【0057】
本発明のワクチン組成物は、凍結乾燥されるか、あるいは水性形態(aqueous form)のものでもあり、例えば、水溶液または懸濁液でもある。そのような類型の液体製剤(liquid formulations)は、組成物が、水性媒質(aqueous medium)において再構成(reconstitution)される必要なしに包装された形態でもって直接投与されうるので、注射に理想的である。該ワクチン組成物は、バイアル(vials)でもって提供されうるか、あるいは事前に充填された注射器でもって提供されうる。該注射器は、針と共に、あるいは針なしに供給されうる。該注射器は、単一用量を含む一方、バイアルは、単一用量、または多数の(multiple)用量を含むものでもある。また、本発明のワクチン組成物は、マイクロニードルを利用して投与されうる。
【0058】
また、本発明のワクチン組成物は、遅延放出溶媒(vehicle)またはデポ(depot)製剤に剤形化されうる。そのような長期間作用剤形は、接種または移植(例えば、皮下または筋肉内)によるか、あるいは注射によって投与されうる。従って、例えば、ワクチン組成物は、適する重合体性物質、疎水性物質(例えば、許容されるオイル中のエマルジョン)またはイオン交換樹脂と共に、あるいは難溶性誘導体(例えば、難溶性塩)として剤形化されうる。リポソーム及びエマルジョンは、担体として使用されるのに適する伝達溶媒(vehicle)として広く知られた例である。
【0059】
本発明のワクチン組成物は、多数の投与フォーマット(multiple dose format)に包装されるとき、抗菌剤(antimicrobial)を含むものでもある。該抗菌剤としては、2-フェノキシエタノール(2-phenoxyethanol)またはパラベン(parabens)(メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン)などのうちから選択されうる。任意の保存剤は、望ましくは、低いレベルで存在する。該保存剤は、外因性によって添加され、かつ/あるいは組成物を形成するために混合されるバルク抗原の成分でもある。
【0060】
本発明のワクチン組成物は、説明書などを含むキット形態で提供されうる。
【0061】
また、本発明のキットは、本発明のワクチン組成物及び説明書などを含むが、抗HER2治療用抗体を含まないのである。
【0062】
本発明のワクチン組成物は、組成物の免疫原性を増大させるために、1またはそれ以上のアジュバントを含むものでもある。
【0063】
本発明において、前記組成物は、抗癌補助剤を追加して含むものでもあり、さらに望ましくは、前記抗癌補助剤は、STING(stimulator of interferon gene)アゴニストでもあるが、それに制限されるものではない。
【0064】
前記適するアジュバントは、水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウムのようなアルミウム塩を含むが、カルシウム、鉄または亜鉛の塩でもあるか、アシル化チロシンまたはアシル化糖の不溶性懸濁液でもあるか、あるいは陽イオン的または陰イオン的に誘導された糖類などのうちから選択されうるが、それらに制限されるものではない。また、該アジュバントには、免疫調節剤として使用されるサイトカインが含まれるものでもある。
【0065】
前記免疫調節剤として使用するのに適するサイトカインは、インターロイキン(interleukin)(例えば、IL-1、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-12など)、大食細胞コロニー刺激因子(M-CS:macrophage colony stimulating factor)、腫瘍懐死因子(TNF:tumor necrosis factor)、顆粒球大食細胞コロニー刺激因子(GM-CSF:granulocyte-macrophage colony stimulating factor)などのうちから選択されうるが、それらに制限されるものではない。
【0066】
本発明のワクチン組成物は、化学抗癌剤、標的抗癌剤及び免疫抗癌剤のうちから選択される1以上の抗癌剤と併用投与されうる。本発明のワクチン組成物と併用投与されうる化学抗癌剤、標的抗癌剤及び免疫抗癌剤のうちから選択される1以上の抗癌剤は、相互同時、または時間差を置いて順次に投与され、適切な時間及び周期によって選択されうる。
【0067】
本発明において、化学抗癌剤は、細胞毒性抗癌剤、化学薬物抗癌剤とも呼ばれる。前記化学抗癌剤は、例えば、ゲムシタビン(gemcitabine)(ゲムシタビン注射)、シタラビン(cytarabine)、カルボプラチン(carboplatin)(パラプラチン)、シスプラチン(cisplatin)(プラチノール、プラチノール-AQ)、クリゾチニブ(crizotinib)(ザーコリ)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)(シロキサン、ネオサール)、ドセタキセル(docetaxel)(タキソテール)、ドキソルビシン(doxorubicin)(アドリアマイシン)、エトポシド(etoposide)(ベプシド)、フルオロウラシル(5-FU:5-fluorouracil)、イリノテカン(irinotecan)(カンプトサール)、リポソームカプセル化されたドキソルビシン(ドキシル)、メトトレキセート(methotrexate)(ポレックス、メキセート、アメトプテリン)、パクリタキセル(paclitaxel)(タキソール、アブラキサン)、トポテカン(topotecan)(ハイカムチン)、トラベクチジン(trabectedin)(ヨンデリス)、ビンクリスチン(vincristine)(オンコビン、ビンカサールPFS)、ビンブラスチン(vinbrastine)(ベルバン)、カペシタビン(capecitabine)またはオキサリプラチン(oxaliplatin)などがあるが、それらに制限されるものではない。
【0068】
本発明において、標的抗癌剤は、トラメチニブ(trametinib)、ベムラフェニブ(vemurafenib)、アルペリシブ(alpelisib)、ダクトリシブ(dactolisib)、ゲフィチニブ(gefitinib)、エルロチニブ(erlotinib)、ラパチニブ(lapatinib)、スニチニブ(sunitinib)、ソラフェニブ(sorafenib)、クリゾチニブ(crizotinib)、ダブラフェニブ(dabrafenib)、トラスツズマブ(trastuzumab)、セツキシマブ(cetuximab)、ベバシズマブ(bevacizumab)、パニツムマブ(panitumumab)、イピリムマブ(ipilimumab)、ペルツズマブ(pertuzumab)、トファシチニブ(tofacitinib)、イマチニブ(imatinib)、ボルテゾミブ(bortezomib)、オファツムマブ(ofatumumab)及びアレムツズマブ(alemtuzumab)からなる群のうちから選択される1以上の標的治療剤でもあるが、それらに制限されるものではない。
【0069】
前記標的抗癌剤は、抗体・薬物結合物質(ADC:antibody-drug conjugate)である次世代標的抗癌剤を含む。
【0070】
本発明において、前記免疫抗癌剤は、CTLA-4(cytotoxic tlymphocyte-associated protein 4)、PD-1(programmed cell death protein 1)、PD-L1(programmed death ligand 1)、LAG3(lymphocyte activation gene-3)、TIM-3(T-cell immunoglobulin and mucin-domain containing-3)、TIGIT(T-cell immunoreceptor with IG and ITIM domain)及びVISTA(V domain Ig suppressor of T cell activation)によって構成された群のうちから選択されたいずれか一つに係わる免疫チェックポイント抑制剤でもあるが、それらに制限されるものではない。
【0071】
本発明の一部実施例においては、HER2-ICD DNAワクチン組成物の投与は、他の癌治療剤による治療と同時に進められうる。前記癌治療剤は、標準に使用されるフルオロウラシル、ドキソルビシン、パクリタキセルのような抗癌剤が使用されうるが、それら制限されるものではない。
【0072】
異なって示されない限り、本明細書、及び特許請求の範囲に使用された全ての数は、言及されているにせよ、言及されていないにせよ、全ての場合、用語「約」によって修飾されうることが理解されなければならない。また、本明細書、及び特許請求の範囲に使用された精密な数値は、本開示内容のさらなる実施例を形成するものであると理解されなければならない。実施例に開示された数値の正確性を保証するために努力を傾けた。しかしながら、測定された全ての数値は、内在的に、それぞれの測定技法で実測された標準偏差から生成された特定誤差値を含むものでもある。
【0073】
以下、実施例を介し、本発明についてさらに詳細に説明する。それら実施例は、単に本発明についてさらに具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨により、本発明の範囲が、それら実施例によって制限されるものではないということは、当業界において通常の知識を有する者において自明であろう。
【実施例】
【0074】
HER2-ICD DNAワクチンの抗腫瘍効能を、HER2-ICD DNAワクチン単独投与下、またはハーセプチン(Herceptin)(抗HER2抗体)との併用投与下で測定した。無胸腺(athymic)マウスに、HER2タンパク質を発現するヒト由来胃癌細胞株であるNCI-N87(ATCCCRL-2855)が移植された異種移植(xenograft)マウスモデルを胃癌動物モデルの例として使用した。
【0075】
全ての動物試験は、五松尖端医療産業振興財団実験動物センター実験動物運営委員会(KBIO-IACUC)の承認下で倫理的に実施された(KBIO-IACUC-2020-120)。
【0076】
異種移植(xenograft)胃癌マウスモデル構築
無胸腺ヌード(athymic-nude)マウス(athymic-NCr-nu系統)は、16~18gの体重を有する5週齢のマウスをコアテック(Coretech)から購入した後、最小1週間順応させた。
【0077】
ヒト由来胃癌細胞株であるNCI-N87細胞株は、個体当たり5X106cellsを200μlのPBSに懸濁し、マウス右側の肩甲部と胸壁との間の腋窩部位皮下に注入させた。
【0078】
HER2-ICD DNAワクチンの抗腫瘍効果を分析するために、NCI-N87細胞が移植されたマウスにおいて、細胞移植後11日目に、腫瘍サイズが150mm3に逹したマウス24匹(腫瘍サイズ平均150.5±16.4mm3)を選別し、各群当たり6匹ずつ割り当てた。
【0079】
ワクチン製剤
HER2-ICDを遺伝暗号化するDNA塩基配列(SEQIDNO:3)でもって、pNGVL3(pUMVC3)プラスミドベクターに挿入し、DNAシークエンシングで確認した。
【0080】
プラスミドDNAワクチンであるpNGVL3-hICDは、GMP条件下において、増幅されて定量化され、バイアル(vial)に製造された。単一用量バイアルには、安定化緩衝液(1.2ml)として、トロメタミン(tromethamine)/EDTAに懸濁されたプラスミドDNA(pNGVL3-HER2ICD)が含まれている。該バイアルは、微生物、無菌及び安定性のテストを経て、米国薬典標準により、MCB(master cell bank)を利用し、VGXI社(米国)で生産され、-20℃で保管された。
【0081】
それぞれのマウスには、前記ワクチン製剤をPBSに希釈し、最終5mg/kg(100μg/20g/150μl)用量で投与した。ハーセプチン(Herceptin)(Roche)は、40μg/20g/100μlの用量で、生理食塩水に溶解して投与した。
【0082】
薬物投与及び投与日程
HER2-ICD DNAワクチンは、皮内(intradermal)に投与し、ハーセプチン(Herceptin)は腹腔内に投与した。
【0083】
HER2-ICD DNAワクチンは、すでにNCI-N87細胞を移植し、腫瘍発生が確認されたマウスに、0,7,14日目に、総3回皮内に投与し、ハーセプチン(Herceptin)は、0,7,14,21,28日目に、総5回腹腔投与した。
【0084】
対照群としては、PBSを投与した。
【0085】
観察及び検査項目
全てのマウスは、1日1回一般症状を観察した。
【0086】
試験期間中、総14回(0,3,5,7,10,12,14,17,19,21,24,26,28,31日目)体重を測定し、投与開始日の体重(100%)を基準に、31日目までの体重変化を観察した。
【0087】
腫瘍サイズ及び腫瘍成長抑制率は、癌細胞移植8日目から32日目まで総8回(8,11,15,18,22,25,30,32日目)、個体別にノギス(vernier caliper)を利用し、3方向を測定し、腫瘍サイズを算出し、癌細胞移植11日目に、腫瘍サイズが全体平均150mm3になる時点から(0日目)31日目まで、総14回(0,3,5,7,10,12,14,17,19,21,24,26,28,31日目)、個体別に腫瘍サイズを算出した後、各試験群の対照群と比較し、腫瘍成長変化率を算定した。
【0088】
剖検及び検査項目
試験最終日に、マウスに対し、麻酔剤(Zoletil50 50mg/kg、Rompun 10mg/kg混合)を、筋肉注射でもって麻酔誘導状態で放血させた後、安楽死を誘導し、腫瘍、脾臓を摘出し、重さを測定し、写真撮影した。
【0089】
HER2-ICD DNAワクチンの抗腫瘍効果の分析
本試験期間において、全ての試験群において、死亡した動物はなく、試験物質の単独投与及び併用投与において、異常症状は、観察されなかった。
【0090】
本試験期間において、体重変化を観察した結果、対照群(PBS処理群)対比で、ハーセプチン(Herceptin)処理群、及びHER2-ICD DNAワクチン+ハーセプチン(Herceptin)処理群(以下、「ワクチン+ハーセプチン(Herceptin)処理群」とする)において、体重減少傾向が示され、5日目からは、全ての試験群において、最終日(31日目)まで、漸次的な体重減少傾向が示されたが、統計的有意性は、なかった。最終日、基準体重は、対照群94.4±5.8%、HER2 ICD DNAワクチン処理群(以下、「ワクチン処理群」とする)97.0±5.2%、ハーセプチン(Herceptin)処理群92.8±7.7%、ワクチン+ハーセプチン(Herceptin)処理群96.9±3.6%とそれぞれ観察された(
図1)。
【0091】
腫瘍成長のサイズ変化率を測定した結果、対照群と比較し、ワクチン投与群、ハーセプチン(Herceptin)投与群、及びワクチン+ハーセプチン(Herceptin)投与群のいずれにおいても、試験3日目から最終日まで、腫瘍成長抑制が持続的に観察され、特に、ワクチン処理群は、一部期間(7,12,21,26日目)において、統計的有意性が認められる腫瘍成長抑制効果を示した(p<0.05)(
図2)。各マウスにおいて摘出された腫瘍は、
図3に示した。
【0092】
従って、HER2-ICDワクチンは、前記異種移植(xenograft)胃癌マウス動物モデルにおいて、保護免疫反応を誘導し、腫瘍成長を抑制するということを知ることができる。
【0093】
腫瘍重量を測定した結果、対照群と比較し、ワクチン処理群とワクチン+ハーセプチン(Herceptin)処理群途において、腫瘍重量減少が観察されたが、腫瘍重量減少において、統計的有意性は、示されていない(
図4)。
【0094】
脾臓の肉眼観察及び重量測定結果、対照群と比較し、ワクチン処理群、及びワクチン+ハーセプチン(Herceptin)処理群の脾臓が大きくなったと観察され(
図5)、脾臓重量は、対照群と比較し、ワクチン処理群、ハーセプチン(Herceptin)処理群、ワクチン+ハーセプチン(Herceptin)処理群において、絶対重量、相対重量のいずれもが高く示され、特に、ワクチン+ハーセプチン(Herceptin)処理群において、最も高く観察されたが、統計的有意性は、確認されていない(
図6、
図7)。
【0095】
以上の結果を総合するとき、NCI-N87胃癌細胞を移植した動物に、HER2-ICD DNAワクチン単独投与、またはHER2-ICD DNAワクチン及びハーセプチン(Herceptin)併用投与による異常症状は、示されていない。
【0096】
また、前記NCI-N87胃癌細胞を移植した動物における抗腫瘍効果分析において、ハーセプチン(Herceptin)を単独で投与するときより、HER2-ICD DNAワクチン投与、並びにHER2-ICD DNAワクチン及びハーセプチン(Herceptin)併用投与において、腫瘍の成長が抑制される抗腫瘍効果を示し、特に、HER2-ICD DNAワクチンを単独で投与した場合、ハーセプチン(Herceptin)単独投与、HER2-ICD DNAワクチン及びハーセプチン(Herceptin)併用投与に比べ、さらにすぐれた傾向のある抗腫瘍効果を示した。従って、本発明は、HER2タンパク質発現胃癌治療において、HER2-ICD DNAワクチン単独使用が、効果的に胃癌を治療することができるという可能性を提示する。
【配列表フリーテキスト】
【0097】
配列番号1(HER2遺伝子のアミノ酸全長配列)
配列番号2(HER2-ICDアミノ酸配列)
配列番号3(HER2-ICDヌクレオチド配列)
【配列表】
【国際調査報告】