(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】LacI系DNA結合転写調節因子の活性が弱化した微生物およびこれを用いたL-グルタミン酸の生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20240711BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240711BHJP
C12P 13/14 20060101ALI20240711BHJP
C12R 1/15 20060101ALN20240711BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12N15/31
C12P13/14
C12P13/14 A
C12P13/14 C
C12R1:15
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504255
(86)(22)【出願日】2022-07-25
(85)【翻訳文提出日】2024-01-23
(86)【国際出願番号】 KR2022010905
(87)【国際公開番号】W WO2023008862
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】10-2021-0098072
(32)【優先日】2021-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507406611
【氏名又は名称】シージェイ チェルジェダン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】クォン,ナラ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ア・ルム
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ギュヒョン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジン・ナム
(72)【発明者】
【氏名】ボン,ヒュン‐ジュ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE19
4B064CA19
4B064DA10
4B064DA16
4B065AA24X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA17
4B065CA46
(57)【要約】
本出願は、LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質の活性が弱化した微生物およびこれを用いたL-グルタミン酸の生産方法に関し、本出願のLacI系DNA結合転写調節因子タンパク質の活性が弱化したコリネバクテリウム属微生物は、L-グルタミン酸生産能が顕著に増加して、これを用いると、既存の微生物に比べて高収率でL-グルタミン酸の生産が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質の活性が弱化したコリネバクテリウム属微生物。
【請求項2】
前記LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質は、コリネバクテリウム属由来のものである、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
前記LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列に記載されたポリペプチドからなるものである、請求項1に記載の微生物。
【請求項4】
前記LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質は、配列番号4の塩基配列に記載されたポリヌクレオチドによってコードされるものである、請求項1に記載の微生物。
【請求項5】
前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカムである、請求項1に記載の微生物。
【請求項6】
前記コリネバクテリウム属微生物は、LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質の活性が弱化しない親菌株または野生型に比べてL-グルタミン酸生産能が増加した、請求項1に記載の微生物。
【請求項7】
LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質の活性が弱化したコリネバクテリウム属微生物を培地で培養する段階を含む、L-グルタミン酸の生産方法。
【請求項8】
前記培養による培地または微生物からL-グルタミン酸を回収する段階を追加的に含む、請求項7に記載のL-グルタミン酸の生産方法。
【請求項9】
前記LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質は、コリネバクテリウム属由来のものである、請求項7に記載のL-グルタミン酸の生産方法。
【請求項10】
前記LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列に記載されたポリペプチドからなるものである、請求項7に記載のL-グルタミン酸の生産方法。
【請求項11】
前記LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質は、配列番号4の塩基配列に記載されたポリヌクレオチドによってコードされるものである、請求項7に記載のL-グルタミン酸の生産方法。
【請求項12】
前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカムである、請求項7に記載のL-グルタミン酸の生産方法。
【請求項13】
前記コリネバクテリウム属微生物は、LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質の活性が弱化しない親菌株または野生型に比べてL-グルタミン酸生産能が増加した、請求項7に記載のL-グルタミン酸の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2021年7月26日付の大韓民国特許出願第10-2021-0098072号に基づく優先権の利益を主張し、当該大韓民国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本出願は、LacI系DNA結合転写調節因子の活性が弱化した微生物およびこれを用いたL-グルタミン酸の生産方法に関する。
【背景技術】
【0003】
L-アミノ酸およびその他の有用物質を生産するために、高効率生産微生物および発酵工程技術開発のための多様な研究が行われている。例えば、L-グルタミン酸の生合成に関与する酵素をコードする遺伝子の発現を増加させるか、または生合成に不要な遺伝子を除去するような目的物質特異的アプローチ方法が主に利用されている。
【0004】
ただし、L-グルタミン酸の需要増加により効果的なL-グルタミン酸の生産能増加のための研究が依然として必要なのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国公開特許第2011-0027840号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願の一つの目的は、LacI系DNA結合転写調節因子(LacI familyDNA-binding transcriptional regulator)の活性が弱化し、L-グルタミン酸生産能が向上したコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物を提供することである。
【0007】
本出願の他の一つの目的は、前記コリネバクテリウム属微生物を培地で培養する段階を含む、L-グルタミン酸の生産方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、これを具体的に説明する。一方、本出願で開示されたそれぞれの説明および実施形態はそれぞれの他の説明および実施形態にも適用可能である。つまり、本出願で開示された多様な要素のすべての組み合わせが本出願の範疇に属する。また、下記の具体的な記述によって本出願の範疇が制限されると見なされない。さらに、本明細書全体にわたって多数の論文および特許文献が参照され、その引用が表示されている。引用された論文および特許文献の開示内容はその全体として本明細書に参照により挿入されて、本発明の属する技術分野における水準および本発明の内容がより明確に説明される。
【0009】
本出願の一態様は、LacI系DNA結合転写調節因子(LacI family DNA-binding transcriptional regulator)の活性が弱化したコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物(または菌株、組換え細胞)を提供する。
【0010】
本出願において、前記LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質は、LacI系転写調節(LacI family transcriptional regulator)活性を有するタンパク質(例えば、LacI系転写調節因子:LacI family transcriptional regulator)であってよいし、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13869菌株、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032菌株、またはコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067菌株由来のものであってもよいが、これに制限されるわけではない。一例において、前記LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質は、コリネバクテリウムATCC13869菌株由来のもの(公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列を得ることができ、例えば、GenBank Accession No.WP_060564415.1であってもよい。)であってもよい。一例において、前記コリネバクテリウム・グルタミカム由来のLacI系DNA結合転写調節因子タンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列を有したり、含んだり、前記アミノ酸配列からなったり、または前記アミノ酸配列で必須として構成されて(essentially consisting of)もよい。具体的には、前記タンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列に記載されたポリペプチドからなるものであってもよい。
【0011】
一例において、前記LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質は、LacI系DNA結合転写調節因子遺伝子によってコードされるLacI系DNA結合転写調節因子の活性を有するポリペプチドであってもよいが、これに制限されない。一例において、前記LacI系DNA結合転写調節因子遺伝子は、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869菌株由来のものであってもよいし、具体的には、配列番号4の核酸配列(GenBank Accession No. Sequence ID:CP016335.1の核酸配列において1,421,016番目から1,422,125番目までの配列、例えば、BBD29_06680遺伝子)を含むものであってもよい。
【0012】
一例において、前記LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質は、配列番号3に記載されたアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.7%または99.9%以上の相同性または同一性を有するアミノ酸配列を含んだり、前記配列からなるものであってもよい。また、このような相同性または同一性を有し、LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質に相応する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換、保存的置換または付加されたアミノ酸配列を有する変異体も前記LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質に含まれる。例えば、前記アミノ酸配列のN-末端、C-末端、そして/または内部に本出願の変異体の機能を変更しない配列の追加または欠失、自然に発生しうる突然変異、サイレント突然変異(silent mutation)または保存的置換を有する場合である。
【0013】
前記「保存的置換(conservative substitution)」は、あるアミノ酸を類似の構造的および/または化学的性質を有する他のアミノ酸に置換させることを意味する。このようなアミノ酸置換は、一般に残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性および/または両親媒性(amphipathic nature)での類似性に基づいて発生しうる。通常、保存的置換は、タンパク質またはポリペプチドの活性にほとんど影響を与えなかったり、または影響を与えない。
【0014】
本出願において、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが「特定の核酸配列(塩基配列)またはアミノ酸配列を有する、含む、前記配列からなる、または前記配列で必須として構成される(essentially consisting of)」とは、前記ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが前記特定の核酸配列(塩基配列)またはアミノ酸配列を必須として含むことを意味することができ、前記ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの本来の機能および/または目的とする機能を維持する範囲で前記特定の核酸配列(塩基配列)またはアミノ酸配列に変異(欠失、置換、改変、および/または付加)が加えられた「実質的に同等の配列」を含む(または前記変異を排除しない)と解釈される。一例において、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが「特定の核酸配列(塩基配列)またはアミノ酸配列を有する、含む、前記配列からなる、または前記配列で必須として構成される」とは、前記ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが、(i)前記特定の核酸配列(塩基配列)またはアミノ酸配列を必須として含んだり、または(ii)前記特定の核酸配列(塩基配列)またはアミノ酸配列と70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上、または99.9%以上の相同性または同一性を有する核酸配列またはアミノ酸配列からなるか、これを必須として含み、本来の機能および/または目的とする機能を維持することを意味することができる。一例において、前記目的とする機能は、微生物のL-グルタミン酸生産能を増加(向上)させたり付与する機能を意味することができる。
【0015】
本出願において、「相同性(homology)」または「同一性(identity)」は、2つの与えられたアミノ酸配列または塩基配列相互間の類似性の程度を意味し、百分率で表される。用語、相同性および同一性は、時々、相互交換的に用いられる。
【0016】
保存された(conserved)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの配列相同性または同一性は、標準配列アルゴリズムによって決定され、使用されるプログラムによって確立されたデフォルトギャップペナルティが共に用いられる。実質的に、相同性を有したり(homologous)、または同一の(identical)配列は、一般に配列全体または一部分と中間または高いストリンジェントな条件(stringent conditions)でハイブリダイゼーションできる。ハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチドにおいて一般のコドンまたはコドン縮重性を考慮したコドンを含有するポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションも含まれることが自明である。
【0017】
任意の2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列が相同性、類似性または同一性を有するか否かは、例えば、Pearson et al(1988)[Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85]:2444におけるようなデフォルトパラメータを用いて「FASTA」プログラムのような公知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定される。あるいは、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite,Riceetal.,2000,Trends Genet.16:276-277)(バージョン5.0.0または後のバージョン)で行われるような、ニードルマン-ブンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(Needleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48:443-453)が使用されて決定されてもよい(GCGプログラムパッケージ(Devereux,J.,et al,Nucleic Acids Research12:387(1984))、BLASTP、BLASTN、FASTA(Atschul,[S.][F.,][ETAL,JMOLECBIOL215]:403(1990);Guide to Huge Computers,Martin J.Bishop,[ED.,]Academic Press,San Diego,1994、および[CARILLO ETA/.](1988)SIAM J Applied Math 48:1073を含む)。例えば、米国立生物工学情報データベースセンターのBLAST、またはClustalWを用いて相同性、類似性または同一性を決定することができる。
【0018】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの相同性、類似性または同一性は、例えば、Smith and Waterman,Adv.Appl.Math(1981)2:482に公知のように、例えば、Needleman et al.(1970),J Mol Biol.48:443のようなGAPコンピュータプログラムを用いて配列情報を比較することによって決定される。要約すれば、GAPプログラムは、2つの配列のうちより短い方での記号の全体数で、類似の配列された記号(つまり、ヌクレオチドまたはアミノ酸)の数を割った値で定義できる。GAPプログラムのためのデフォルトパラメータは、(1)2進法比較マトリクス(同一性のために1、そして非-同一性のために0の値を含む)およびSchwartz and Dayhoff,eds.,Atlas Of Protein Sequence And Structure,National Biomedical Research Foundation,pp.353-358(1979)によって開示されたように、Gribskov et al(1986)Nucl.Acids Res.14:6745の重み付けされた比較マトリクス(またはEDNAFULL(NCBINUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリクス);(2)各ギャップのための3.0のペナルティおよび各ギャップで各記号のための追加の0.10ペナルティ(またはギャップ開放ペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5);および(3)末端ギャップのための無ペナルティを含むことができる。
【0019】
本出願において、用語、「微生物(または、菌株)」は、野生型微生物や自然的または人為的に遺伝的改変が起きた微生物をすべて含み、外部遺伝子が挿入されたり、内在的遺伝子の活性が弱化するなどの原因によって特定の機序が弱化したり強化された微生物であって、目的とするポリペプチド、タンパク質または産物の生産のために遺伝的改変(modification)を含む微生物であってもよい。
【0020】
本出願において、用語、ポリペプチドの「弱化」は、内在的活性に比べて活性が減少したり、または活性がないことをすべて含む概念である。前記弱化は、不活性化(inactivation)、欠乏(deficiency)、ダウンレギュレーション(down-regulation)、減少(decrease)、低下(reduce)、減衰(attenuation)などの用語と互換可能に使用される。
【0021】
前記弱化は、前記ポリペプチド(またはタンパク質、例えば、LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質)をコードするポリヌクレオチドの変異などでポリペプチド自体の活性が本来微生物が有しているポリペプチドの活性に比べて減少または除去された場合、これをコードするポリヌクレオチドの遺伝子の発現阻害またはポリペプチドへの翻訳(translation)阻害などで細胞内で全体的なポリペプチドの活性レベルおよび/または濃度(発現量)が天然型菌株に比べて低い場合、前記ポリヌクレオチドの発現が全く行われない場合、および/またはポリヌクレオチドが発現してもポリペプチドの活性がない場合も含むことができる。前記「内在的活性」は、自然的または人為的要因による遺伝的変異で形質が変化する場合、形質変化前の親菌株、野生型または非改変微生物が本来有していた特定のポリペプチドの活性を意味する。これは「改変前活性」と互換可能に使用される。ポリペプチドの活性が内在的活性に比べて「不活性化、欠乏、減少、ダウンレギュレーション、低下、減衰」するというのは、形質変化前の親菌株または非改変微生物が本来有していた特定のポリペプチドの活性に比べて低くなったことを意味する。
【0022】
このようなポリペプチド(またはタンパク質、例えば、LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質)の活性の弱化は、当業界で知られた任意の方法によって行われるが、これに制限されるわけではなく、当該分野でよく知られた多様な方法の適用で達成できる(例えば、Nakashima N et al.,Bacterial cellular engineering by genome editing and gene silencing.Int J Mol Sci.2014;15(2):2773-2793,Sambrook et al.Molecular Cloning 2012等)。
【0023】
具体的には、ポリペプチド(またはタンパク質、例えば、LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質;以下、ポリペプチドと記載する)の弱化は、
1)ポリペプチドをコードする遺伝子全体または一部の欠失;
2)ポリペプチドをコードする遺伝子の発現が減少するように発現調節領域(または発現調節配列)の改変;
3)ポリペプチドの活性が除去または弱化するように前記ポリペプチドを構成するアミノ酸配列の改変(例えば、アミノ酸配列上の1以上のアミノ酸の削除/置換/付加);
4)ポリペプチドの活性が除去または弱化するように前記ポリペプチドをコードする遺伝子配列の改変(例えば、ポリペプチドの活性が除去または弱化するように改変されたポリペプチドをコードするように前記ポリペプチド遺伝子の核酸塩基配列上の1以上の核酸塩基の削除/置換/付加);
5)ポリペプチドをコードする遺伝子転写物の開始コドンまたは5’-UTR領域をコードする塩基配列の改変;
6)ポリペプチドをコードする前記遺伝子の転写物に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)の導入;
7)リボソーム(ribosome)の付着が不可能な二次構造物を形成させるためにポリペプチドをコードする遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前端にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列の付加;
8)ポリペプチドをコードする遺伝子配列のORF(オープンリーディングフレーム:open reading frame)の3’末端に逆方向に転写するプロモーターの付加(逆転写操作:Reverse transcription engineering、RTE);または、
9)前記1)~8)の中から選択された2以上の組み合わせであってもよいが、これに特に制限されるわけではない。
例えば、
【0024】
前記1)ポリペプチドをコードする前記遺伝子の一部または全体の欠損は、染色体内の内在的目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド全体の除去、一部のヌクレオチドが欠失したポリヌクレオチドへの入替またはマーカー遺伝子への入替であってもよい。
【0025】
また、前記2)発現調節領域(または発現調節配列)の改変は、欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはこれらの組み合わせで発現調節領域(または発現調節配列)上の変異発生、またはより弱い活性を有する配列への入替であってもよい。前記発現調節領域にはプロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、および転写と解読の終結を調節する配列を含むが、これに限定されるものではない。
【0026】
さらに、前記3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写物の開始コドンまたは5’-UTR領域をコードする塩基配列改変は、例えば、内在的開始コドンに比べてポリペプチド発現率がより低い他の開始コドンをコードする塩基配列に置換するものであってもよいが、これに制限されない。
【0027】
また、前記4)および5)のアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列の改変は、ポリペプチドの活性を弱化するように前記ポリペプチドのアミノ酸配列または前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはこれらの組み合わせで配列上の変異発生、またはより弱い活性を有するように改良されたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列または活性がないように改良されたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列への入替であってもよいが、これに限定されるものではない。例えば、ポリヌクレオチド配列内に変異を導入して終結コドン(stop codon)を形成させることによって、遺伝子の発現を阻害したり弱化させることができるが、これに制限されない。前記「終結コドン(stop codon)」は、mRNA上のコドン中にアミノ酸を指定せずにタンパク質の合成過程が終わったことを知らせるシグナルとして作用するコドンであり、一般に、UAA、UAG、UGAの3つが終結コドンとして使用できる。
【0028】
一例による微生物は、配列番号4の内在的遺伝子のORF(open reading frame)に配列内変異が導入されて終結コドンが形成されたものに入替(置換)されたものであってもよいし、例えば、LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質の310番目のアミノ酸(例えば、グルタミン、Gln、Q)対応コドンを終結コドンに置換させたものに入替(置換)されたものであってもよい。例えば、配列番号4の核酸配列において310番目のアミノ酸のグルタミンをコードするポリヌクレオチドは「CAG」に、これを終結コドンに置換するために「CAG」がそれぞれ「TAA」、「TAG」、または「TGA」に入替(置換)される変異が導入されたものであってもよい。一例において、前記終結コドンを生成するように変異が導入された核酸配列は、配列番号2の核酸配列(配列番号4の野生型ポリヌクレオチドの928番目のCがTに置換される;C928T)であってもよい。
【0029】
前記6)ポリペプチドをコードする前記遺伝子の転写物に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)の導入は、例えば、文献[Weintraub,H.et al.,Antisense-RNA as a molecular tool for genetic analysis、Reviews-Trends in Genetics,Vol.1(1)1986]を参照できる。
【0030】
前記7)リボソーム(ribosome)の付着が不可能な二次構造物を形成させるためにポリペプチドをコードする遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前端にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列の付加は、mRNA翻訳を不可能にしたり、速度を低下させるものであってもよい。
【0031】
前記8)ポリペプチドをコードする遺伝子配列のORF(open reading frame)の3’末端に逆方向に転写されるプロモーターの付加(Reverse transcription engineering、RTE)は、前記ポリペプチドをコードする遺伝子の転写物に相補的なアンチセンスヌクレオチドを作製して活性を弱化するものであってもよい。
【0032】
本出願において、用語、ポリペプチドの活性の「強化」は、ポリペプチドの活性が内在的活性に比べて増加することを意味する。前記強化は、活性化(activation)、アップレギュレーション(up-regulation)、過発現(over expression)、増加(increase)などの用語と互換可能に使用される。ここで、活性化、強化、アップレギュレーション、過発現、増加は、本来有していなかった活性を示すようになること、または内在的活性または改変前活性に比べて向上した活性を示すようになることをすべて含むことができる。前記「内在的活性」は、自然的または人為的要因による遺伝的変異で形質が変化する場合、形質変化前の親菌株または非改変微生物が本来有していた特定のポリペプチドの活性を意味する。これは「改変前活性」と互換可能に使用できる。ポリペプチドの活性が内在的活性に比べて「強化」、「アップレギュレーション」、「過発現」または「増加」するというのは、形質変化前の親菌株または非改変微生物が本来有していた特定のポリペプチドの活性および/または濃度(発現量)に比べて向上したことを意味する。
【0033】
前記強化は、外来のポリペプチドを導入するか、内在的なポリペプチドの活性および/または濃度(発現量)の強化により達成することができる。前記ポリペプチドの活性の強化の有無は、当該ポリペプチドの活性レベル、発現量または当該ポリペプチドから排出される産物の量の増加から確認できる。
【0034】
前記ポリペプチドの活性の強化は、当該分野でよく知られた多様な方法の適用が可能であり、目的ポリペプチドの活性を改変前微生物より強化させることができる限り、制限されない。具体的には、分子生物学の日常的方法である当業界の通常の技術者によく知られた遺伝子工学および/またはタンパク質工学を利用したものであってもよいが、これに制限されない(例えば、Sitnicka et al.Functional Analysis of Genes.Advances in Cell Biology.2010,Vol.2.1-16,Sambrook et al.Molecular Cloning 2012等)。
【0035】
具体的には、本出願のポリペプチドの強化は、
1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞内コピー数増加;
2)ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子発現調節領域を活性の強い配列に入替;
3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写物の開始コドンまたは5’-UTR領域をコードする塩基配列の改変;
4)ポリペプチドの活性が強化されるように前記ポリペプチドのアミノ酸配列の改変;
5)ポリペプチドの活性が強化されるように前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の改変(例えば、ポリペプチドの活性が強化されるように改変されたポリペプチドをコードするように前記ポリペプチド遺伝子のポリヌクレオチド配列の改変);
6)ポリペプチドの活性を示す外来ポリペプチドまたはこれをコードする外来ポリヌクレオチドの導入;
7)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのコドン最適化;
8)ポリペプチドの三次構造を分析して露出部位を選択して改変したり化学的に修飾;または
9)前記1)~8)の中から選択された2以上の組み合わせであってもよいが、これに特に制限されるわけではない。
【0036】
より具体的には、
前記1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞内コピー数増加は、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主とは無関係に複製されて機能できるベクターの宿主細胞内への導入によって達成されるものであってもよい。あるいは、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが宿主細胞内の染色体内に1コピーまたは2コピー以上の導入によって達成されるものであってもよい。前記染色体内への導入は、宿主細胞内の染色体内に前記ポリヌクレオチドを挿入させることができるベクターが宿主細胞内に導入されることによって行われるが、これに制限されない。
【0037】
前記2)ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子発現調節領域(または発現調節配列)を活性の強い配列に入替することは、例えば、前記発現調節領域の活性をより強化するように欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはこれらの組み合わせで配列上の変異発生、またはより強い活性を有する配列への入替であってもよい。前記発現調節領域は、特にこれに制限されないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、そして転写および解読の終結を調節する配列などを含むことができる。一例として、本来のプロモーターを強力なプロモーターに入替させるものであってもよいが、これに制限されない。
【0038】
公知の強力なプロモーターの例には、CJ1~CJ7プロモーター(米国登録特許US7662943B2)、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージPRプロモーター、PLプロモーター、tetプロモーター、gapAプロモーター、SPL7プロモーター、SPL13(sm3)プロモーター(米国登録特許US10584338B2)、O2プロモーター(米国登録特許US10273491B2)、tktプロモーター、yccAプロモーターなどがあるが、これらに制限されない。
【0039】
前記3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写物の開始コドンまたは5’-UTR領域をコードする塩基配列改変は、例えば、内在的開始コドンに比べてポリペプチド発現率がより高い他の開始コドンをコードする塩基配列に置換するものであってもよいが、これに制限されない。
【0040】
前記4)および5)のアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列の改変は、ポリペプチドの活性を強化するように前記ポリペプチドのアミノ酸配列または前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはこれらの組み合わせで配列上の変異発生、またはより強い活性を有するように改良されたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列または活性が増加するように改良されたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列への入替であってもよいが、これに限定されるものではない。前記入替は、具体的には、相同組換えによってポリヌクレオチドを染色体内に挿入することによって行われるが、これに制限されない。この時使用されるベクターは、染色体挿入の有無を確認するための選別マーカー(selection marker)を追加的に含むことができる。
【0041】
前記6)ポリペプチドの活性を示す外来ポリヌクレオチドの導入は、前記ポリペプチドと同一/類似の活性を示すポリペプチドをコードする外来ポリヌクレオチドの宿主細胞内導入であってもよい。前記外来ポリヌクレオチドは、前記ポリペプチドと同一/類似の活性を示す限り、その由来や配列に制限がない。前記導入に利用される方法は、公知の形質転換方法を当業者が適切に選択して行われ、宿主細胞内で前記導入されたポリヌクレオチドが発現することによって、ポリペプチドが生成されてその活性が増加できる。
【0042】
前記7)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのコドン最適化は、内在ポリヌクレオチドが宿主細胞内で転写または翻訳が増加するようにコドン最適化したものであるか、または外来ポリヌクレオチドが宿主細胞内で最適化した転写、翻訳が行われるようにそのコドンを最適化したものであってもよい。
【0043】
前記8)ポリペプチドの三次構造を分析して露出部位を選択して改変したり化学的に修飾することは、例えば、分析しようとするポリペプチドの配列情報を有するタンパク質の配列情報が保存されたデータベースと比較することによって、配列の類似性の程度に応じて鋳型タンパク質候補を決定し、これに基づいて構造を確認して、改変したり化学的に修飾する露出部位を選択して改変または修飾するものであってもよい。
【0044】
このようなポリペプチドの活性の強化は、相応するポリペプチドの活性または濃度発現量が野生型や改変前微生物菌株で発現したポリペプチドの活性または濃度を基準として増加するか、当該ポリペプチドから生産される産物の量が増加するものであってもよいが、これに制限されるわけではない。
【0045】
本出願の微生物においてポリヌクレオチドの一部または全体の改変(例えば、上記したタンパク質変異体をコードするための改変)は、(a)微生物内の染色体挿入用ベクターを用いた相同組換えまたは遺伝子はさみ(操作されたヌクレアーゼ:engineered nuclease,e.g.,CRISPR-Cas9)を用いたゲノム編集、および/または(b)紫外線および放射線などのような光および/または化学物質処理によって誘導されるが、これに制限されない。前記遺伝子の一部または全体の改変方法にはDNA組換え技術による方法が含まれてもよい。例えば、目的遺伝子と相同性があるヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列またはベクターを前記微生物に注入して相同組換え(homologous recombination)を起こすことによって、遺伝子の一部または全体の欠失がなされる。前記注入されるヌクレオチド配列またはベクターは、優性選別マーカーを含むことができるが、これに制限されるわけではない。
【0046】
一例において、前記ポリペプチド(またはタンパク質、例えば、LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質;以下、ポリペプチドと記載する)の弱化は、組換え方法によって引き起こされたものであってもよい。前記組換え方法は、相同組換え(homologous recombination)を含むことができる。前記相同組換え方法は、ポリペプチドをコードする遺伝子の一部の配列を含むベクターを前記微生物に形質転換し、選別マーカー産物の存在下で培養する場合、前記遺伝子の一部の配列と前記微生物内の内在的遺伝子と相同組換えを起こすことができる。
【0047】
本出願の微生物は、LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質またはこれをコードするポリヌクレオチドが不活性化または弱化した微生物;またはLacI系DNA結合転写調節因子タンパク質またはこれをコードするポリヌクレオチドが不活性化または弱化するようにベクターにより遺伝的に改変された微生物(例えば、組換え微生物)であってもよいが、これに制限されない。
【0048】
本出願の微生物(または菌株、組換え細胞)は、L-グルタミン酸生産能を有したり、L-グルタミン酸生産能(または生産量)が向上した微生物であってもよい。
【0049】
本出願の微生物は、自然にL-グルタミン酸生産能を有している微生物、またはL-グルタミン酸生産能がない親菌株にLacI系DNA結合転写調節因子タンパク質の活性が弱化および/またはL-グルタミン酸生産能が付与したり向上した微生物であってもよいが、これに制限されない。
【0050】
前記微生物(または菌株、組換え細胞)がL-グルタミン酸生産能(または生産量)が向上したり、L-グルタミン酸生産能を有するというのは、前記微生物(または菌株、組換え細胞)は非改変微生物、組換え前の細胞、親菌株、および/または野生型菌株よりL-グルタミン酸生産能が向上したり、L-グルタミン酸生産能がない非改変微生物、組換え前の細胞、親菌株および/または野生型菌株とは異なり、L-グルタミン酸生産能が与えられたことを意味することができる。
【0051】
一例によるLacI系DNA結合転写調節因子タンパク質の活性が弱化した微生物は、同種の非改変微生物と比較して、L-グルタミン酸生産能が向上(増加)したものであってもよい。本出願において、「非改変微生物」は、微生物に自然に発生しうる突然変異を含む菌株を除くのではなく、野生型菌株または天然型菌株自体であるか、自然的または人為的要因による遺伝的変異で形質が変化する前の菌株を意味することができる。例えば、前記非改変微生物は、一例により、LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質の活性が弱化しなかったり弱化する前の菌株(またはLacI系DNA結合転写調節因子タンパク質の活性の弱化を誘導する変異が導入されなかったり導入される前の菌株)を意味することができる。前記「非改変微生物」は、「改変前菌株」、「改変前微生物」、「非変異菌株」、「非改変菌株」、「非変異微生物」または「基準微生物」と互換可能に使用される。前記LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質の活性が弱化するというのは、前述した通りである。一例において、前記L-グルタミン酸生産能の増加の有無を比較する対象菌株である、非改変微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032菌株、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869菌株、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067菌株、コリネバクテリウム・グルタミカム野生型においてodhA遺伝子が欠失した菌株(例えば、ATCC13869△odhA菌株)、またはL-グルタミン酸生産NTG変異菌株として知られたコリネバクテリウム・グルタミカムBL2菌株(KFCC11074、韓国登録特許第10-0292299号)であってもよいが、これに制限されない。
【0052】
前記微生物(または菌株、組換え細胞)は、追加的にL-グルタミン酸の生産を増加させる変異を含むことができ、前記変異の位置および/または変異対象になる遺伝子および/またはタンパク質の種類は、L-グルタミン酸の生産を増加させるものであれば制限なく含まれる。前記組換え細胞は、形質転換が可能な細胞であれば制限なく使用可能である。
【0053】
一例として、前記生産能(または生産量)が向上した(増加した)微生物(または菌株、組換え細胞)は、変異前親菌株または非改変微生物に比べて、L-グルタミン酸生産能が約1%以上、約2.5%以上、約5%以上、約6%以上、約7%以上、約8%以上、約9%以上、約10%以上、約10.5%以上、約11%以上、約11.5%以上、約12%以上、約12.5%以上、約13%以上、約13.5%以上、約14%以上、約14.5%以上、約15%以上、約15.5%以上、約16%以上、約16.5%以上、約17%以上、約17.4%以上、約17.5%以上、約18%以上、約18.5%以上、約19%以上、約19.5%以上、約20%以上、約20.5%以上、約21%以上、約21.1%以上、約21.5%以上、約21.5%以上、約22%以上、約22.5%以上、約23%以上、約23.5%以上、約24%以上、約24.5%以上、約25%以上、約25.5%以上、約26%以上、約26.5%以上、約27%以上、約27.5%以上、約28%以上、約28.5%以上、約29%以上、約29.5%以上、約30%以上、約31%以上、約32%以上、約33%以上、約34%以上、または約35%以上(上限値は特別な制限はなく、例えば、約200%以下、約150%以下、約100%以下、約50%以下、約45%以下、約40%以下、または約35%以下であってもよい)増加したものであってもよいし、一例において、約17.2%以上、約21.4%以上、または約21.6%以上増加したものであってもよい。他の例において、前記生産能(または生産量)が増加した微生物(または菌株、組換え細胞)は、変異前親菌株または非改変微生物に比べて、L-グルタミン酸生産能(または生産量)が約1.1倍以上、約1.12倍以上、約1.13倍以上、1.15倍以上、1.16倍以上、1.17倍以上、1.18倍以上、1.19倍以上、約1.2倍以上、約1.21倍以上、約1.22倍以上、1.25倍以上、または約1.3倍以上(上限値は特別な制限はなく、例えば、約10倍以下、約5倍以下、約3倍以下、または約2倍以下であってもよい)増加したものであってもよいし、一例において、約1.172倍以上、約1.214倍以上、約1.216倍以上増加したものであってもよい。より具体的には、前記生産能(または生産量)が増加した組換え菌株は、変異前親菌株または非改変微生物に比べて、L-グルタミン酸生産能が約17.2%、約21.4%、または約21.6%(または約1.17倍、約1.21倍、または約1.22倍)増加したものであってもよいが、これに制限されない。前記用語「約(about)」は、±0.5、±0.4、±0.3、±0.2、±0.1などをすべて含む範囲で、約とは、用語の後に出る数値と同等または類似の範囲の数値をすべて含むが、これに制限されない。
【0054】
一例において、前記コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・クルディラクティス(Corynebacterium crudilactis)、コリネバクテリウム・デゼルティ(Corynebacterium deserti)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウム・スタチオニス(Corynebacterium stationis)、コリネバクテリウム・シングラレ(Corynebacterium singulare)、コリネバクテリウム・ハロトレランス(Corynebacterium halotolerans)、コリネバクテリウム・ストリアツム(Corynebacterium striatum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・ポルティソリ(Corynebacterium pollutisoli)、コリネバクテリウム・イミタンス(Corynebacterium imitans)、コリネバクテリウム・テスツディノリス(Corynebacterium testudinoris)、および/またはコリネバクテリウム・フラベセンス(Corynebacterium flavescens)であってもよい。
【0055】
他の一つの例として、本出願の組換え微生物は、L-グルタミン酸生合成経路内タンパク質の一部の活性が追加的に強化されたり、L-グルタミン酸分解経路内タンパク質の一部の活性が追加的に不活性化されてL-グルタミン酸生産能が強化された微生物であってもよい。
【0056】
具体的には、本出願の微生物は、OdhAタンパク質が追加的に不活性化されたり、odhA遺伝子が追加的に欠失した微生物であってもよい。より具体的には、本出願の微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869でOdhAタンパク質が不活性化されたコリネバクテリウム・グルタミカム、前記コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869でodhA遺伝子が欠失した微生物であってもよい。前記OdhAタンパク質は、NCBISequenceIDWP_060564343.1のアミノ酸配列(例えば、配列番号23のアミノ酸配列)を含むものであってもよい。前記OdhAタンパク質は、コリネバクテリウム・グルタミカム菌株由来の多機能性のオキソグルタル酸デカルボキシラーゼ:multifunctional oxoglutarate decarboxylase/オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ チアミンピロリン酸-結合サブユニット:oxoglutarate dehydrogenase thiamine pyrophosphate-binding subunit/ジヒドロリポイルリシン-残基 スクシニルトランスフェラーゼ サブユニット:dihydrolipoyllysine-residue succinyl transferase subunitの活性を有するタンパク質であってもよい。前記odhA遺伝子は、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869菌株に由来するものであってもよいし、具体的には、配列番号24の核酸配列(GenBank Accession No. Sequence ID:CP016335.1の核酸配列において1,276,170番目から1,279,787番目までの配列、例えば、BBD29_06050遺伝子)を含むものであってもよい。
【0057】
ただし、前記OdhAタンパク質の不活性化またはodhA遺伝子の欠失は一つの例であり、これに制限されず、本出願の微生物は、多様な公知のL-グルタミン酸生合成経路のタンパク質の活性が強化されたり、分解経路のタンパク質の活性が不活性化または弱化した微生物であってもよい。
【0058】
本出願のさらに他の一つの態様は、本出願の微生物を培地で培養する段階を含む、L-アミノ酸の生産方法を提供する。
【0059】
本出願のL-アミノ酸の生産方法は、本出願の微生物を培地で培養する段階を含むことができる。本出願の微生物については、前述した通りである。
【0060】
これとともに、本出願のL-アミノ酸は、L-グルタミン酸であってもよい。
【0061】
本出願において、「培養」は、本出願のコリネバクテリウム・グルタミカム菌株を適当に調節された環境条件で生育させることを意味する。本出願の培養過程は、当業界で知られた適当な培地と培養条件により行われる。このような培養過程は、選択される菌株に応じて当業者が容易に調整して使用可能である。具体的には、前記培養は、回分式、連続式および/または流加式であってもよいが、これに制限されるわけではない。
【0062】
本出願において、「培地」は、本出願のコリネバクテリウム・グルタミカム菌株を培養するために必要とする栄養物質を主成分として混合した物質を意味し、生存および発育に不可欠な水をはじめとして栄養物質および発育因子などを供給する。具体的には、本出願のコリネバクテリウム・グルタミカム菌株の培養に使用される培地およびその他の培養条件は、通常の微生物の培養に使用される培地であれば特別な制限なくいずれでも使用可能であるが、本出願のコリネバクテリウム・グルタミカム菌株を適当な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸および/またはビタミンなどを含む通常の培地内で、好気性条件下、温度、pHなどを調整しながら培養することができる。
【0063】
具体的には、コリネバクテリウム属菌株に対する培養培地は、文献[「Manual of Methods for General Bacteriology」 by the American Society for Bacteriology(Washington D.C.,USA,1981)]から確認できる。
【0064】
本出願において、前記炭素源としては、グルコース、サッカロース、ラクトース、フルクトース、スクロース、マルトースなどのような炭水化物;マンニトール、ソルビトールなどのような糖アルコール、ピルビン酸、乳酸、クエン酸などのような有機酸;グルタミン酸、メチオニン、リジンなどのようなアミノ酸などが含まれる。また、デンプン加水分解物、糖蜜、ブラックストラップ糖蜜、米糠、キャッサバ、サトウキビのかすおよびトウモロコシ浸漬液のような天然の有機栄養源を使用することができ、具体的には、グルコースおよび殺菌された前処理糖蜜(つまり、還元糖に転換された糖蜜)などのような炭水化物が使用可能であり、その他の適正量の炭素源を制限なく多様に用いることができる。これらの炭素源は、単独で使用されるか、2種以上が組み合わされて使用されてもよいし、これに限定されるものではない。
【0065】
前記窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのような無機窒素源;グルタミン酸、メチオニン、グルタミンなどのようなアミノ酸、ペプトン、NZ-アミン、肉類抽出物、酵母抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類またはその分解生成物、脱脂大豆ケーキまたはその分解生成物などのような有機窒素源が使用できる。これらの窒素源は、単独で使用されるか、2種以上が組み合わされて使用されてもよいし、これに限定されるものではない。
【0066】
前記リン源としては、リン酸第1カリウム、リン酸第2カリウム、またはこれに対応するソジウム-含有塩などが含まれる。無機化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、炭酸カルシウムなどが使用可能であり、その他、アミノ酸、ビタミンおよび/または適切な前駆体などが含まれる。これらの構成成分または前駆体は、培地に回分式または連続式で添加される。しかし、これに限定されるものではない。
【0067】
また、本出願のコリネバクテリウム属菌株の培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸、硫酸などのような化合物を培地に適切な方式で添加して、培地のpHを調整可能である。また、培養中には脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を用いて気泡の生成を抑制することができる。また、培地の好気状態を維持するために、培地内に酸素または酸素含有気体を注入するか、嫌気および非好気状態を維持するために、気体の注入なしに、あるいは窒素、水素または二酸化炭素ガスを注入することができ、これに限定されるものではない。
【0068】
本出願の培養において、培養温度は、20~45℃、具体的には25~40℃を維持することができ、約10~160時間培養することができるが、これに限定されるものではない。
【0069】
本出願の培養によって生産されたL-アミノ酸(例えば、L-グルタミン酸)は、培地中に分泌されたり、細胞内に残留することができる。
【0070】
本出願のL-アミノ酸の生産方法は、本出願の微生物(菌株)を用意する段階、前記微生物を培養するための培地を用意する段階、またはこれらの組み合わせ(順序に関係ない、in any order)を、例えば、前記培養する段階の前に、追加的に含むことができる。
【0071】
本出願のL-アミノ酸の生産方法は、前記培養による培地(培養が行われた培地)または微生物(コリネバクテリウム属菌株)からL-アミノ酸を回収する段階を追加的に含むことができる。前記回収する段階は、前記培養する段階の後に追加的に含まれる。
【0072】
前記回収は、本出願の微生物の培養方法、例えば、回分式、連続式または流加式培養方法などにより、当該技術分野で公知の好適な方法を用いて、目的とするL-アミノ酸を収集(collect)するものであってもよい。例えば、遠心分離、ろ過、結晶化タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、抽出、超音波破砕、限外ろ過、透析法、分子篩クロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、親和度クロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィー、HPLCまたはこれらの方法を組み合わせて使用可能であり、当該分野で公知の好適な方法を利用して培地または微生物から目的とするL-アミノ酸を回収することができる。
【0073】
また、本出願のL-アミノ酸の生産方法は、追加的に精製段階を含むことができる。前記精製は、当該技術分野で公知の好適な方法を用いて行うことができる。一例において、本出願のL-アミノ酸の生産方法が回収段階と精製段階をすべて含む場合、前記回収段階と精製段階は、順序に関係なく連続的または非連続的に行われるか、同時にまたは一つの段階で統合されて行われるが、これに制限されるわけではない。
【0074】
本出願のさらに他の一つの態様は、本出願の微生物;これを培養した培地;またはこれらの2以上の組み合わせを含むL-アミノ酸(例えば、L-グルタミン酸)生産用組成物を提供する。
【0075】
本出願の組成物は、アミノ酸生産用組成物に通常使用される任意の好適な賦形剤を追加的に含むことができ、このような賦形剤は、例えば、保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定化剤または等張化剤などであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0076】
本出願の組成物において、微生物(菌株)、培地およびL-アミノ酸などは、前記他の態様において記載した通りである。
【0077】
本出願のさらに他の一つの態様は、本出願の微生物;これを培養した培地;またはこれらの2以上の組み合わせのL-アミノ酸(例えば、L-グルタミン酸)の生産に使用するための用途を提供する。
【0078】
本出願のさらに他の一つの態様は、本出願の微生物;これを培養した培地;またはこれらの2以上の組み合わせのL-アミノ酸(例えば、L-グルタミン酸)生産用組成物の製造に使用するための用途を提供する。
【発明の効果】
【0079】
本出願のLacI系DNA結合転写調節因子(LacI family DNA-binding transcriptional regulator)の活性が弱化したコリネバクテリウム属微生物は、L-グルタミン酸生産能が顕著に増加して、これを用いると、既存の微生物に比べて高収率でL-グルタミン酸の生産が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0080】
以下、本出願を実施例によってより詳細に説明する。しかし、下記の実施例は本出願を例示するための好ましい実施態様に過ぎないものであり、よって、本出願の権利範囲をこれに限定するとは意図されない。一方、本明細書に記載されていない技術的な事項は本出願の技術分野または類似技術分野で熟練した通常の技術者であれば十分に理解し容易に実施できる。
【0081】
実施例1:微生物内LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質変異体発現のためのベクターの作製
【0082】
本実施例において、LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質のアミノ酸配列(配列番号3のアミノ酸配列)310番目位のグルタミン(Gln、Q)の対応コドンが終結コドン(stop codon(*))に置換された変異体(Q310*;配列番号1、309個の配列)がL-グルタミン酸の生産に与える影響を確認すべく、その発現菌株作製のためのベクターを下記のように作製した。
【0083】
野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869のgDNA(ゲノムDNA:genomicDNA)を鋳型として、配列番号5および6に記載される配列のプライマー対と配列番号7および8に記載される配列のプライマー対をそれぞれ用いて、それぞれPCRを行った。前記得られた2つの断片の混合物を鋳型として、配列番号5および配列番号8の配列のプライマー対を用いて、再びオーバーラッピング(over lapping)PCRを行って断片を得た。重合酵素はSolgTMPfu-XDNAポリメラーゼを用い、PCRは95℃で5分間変性後、95℃で30秒変性、55℃で30秒アニーリング、72℃で1分30秒重合を30回繰り返した後、72℃で5分間重合反応を行った。
【0084】
増幅された遺伝子断片とSmaI制限酵素で切断された染色体形質転換用ベクターpDCM2(大韓民国公開番号第10-2020-0136813号)をギブソン・アセンブリ(DG Gibson et al.,NATURE METHODS,VOL.6 NO.5,MAY 2009,NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix)方法を用いてクローニングし、この時、クローニングはギブソン・アセンブリ試薬と各遺伝子断片を計算されたモル数で混合後、50℃で1時間保存することによって行った。前記菌株をカナマイシン(25mg/l)が含まれているLB固体培地に塗抹した。目的とした遺伝子が挿入されたコロニーを選別した後、通常知られたプラスミド(ベクター)抽出法を用いてベクターを得た。前記ベクターはpDCM2-BBD29_06680(Q310*)と名付けた。本実施例で使用したプライマーの配列は下記表1に記載した。
【0085】
【0086】
実施例2:野生型コリネバクテリウム・グルタミカム由来L-グルタミン酸生産株の作製およびLacI系DNA結合転写調節因子タンパク質変異体の導入
【0087】
実施例2-1:野生型コリネバクテリウム・グルタミカム由来L-グルタミン酸生産能を有するコリネバクテリウム・グルタミカム菌株の作製
【0088】
コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869由来L-グルタミン酸生産能を有する菌株を作製するために、先行文献(Appl Environ Microbiol.2007 Feb;73(4):1308-19.Epub 2006 Dec 8.)に基づいて、odhA遺伝子(GenBank Accession No. WP_060564343.1、配列番号24)を欠失したコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869△odhA菌株を作製した。
【0089】
具体的には、odhA欠失のためにコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869染色体DNAを鋳型として、配列番号17および18のプライマー対および配列番号19および20のプライマー対をそれぞれ用いて、odhA遺伝子のアップストリーム領域とダウンストリーム領域をPCRの実施により得た。重合酵素はSolgTMPfu-XDNAポリメラーゼを用い、PCR増幅条件は95℃で5分間変性後、95℃で30秒変性、58℃で30秒アニーリング、72℃60秒重合を30回繰り返した後、72℃で5分間重合反応を行った。
【0090】
増幅されたodhAアップストリームとダウンストリーム領域、そしてSmaI制限酵素で切断された染色体形質転換用ベクターpDCM2をギブソン・アセンブリ方法を用いてクローニングすることによって組換えベクターを得て、pDCM2-△odhAと名付けた。クローニングはギブソン・アセンブリ試薬と各遺伝子断片を計算されたモル数で混合後、50℃に1時間保存することによって行った。
【0091】
作製されたpDCM2-△odhAベクターをコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869菌株にエレクトロポレーション法で形質転換後、二次交差過程を経て、染色体上でodhA遺伝子が欠失した菌株を得た。odhA遺伝子欠失の有無は配列番号21および22を用いたPCRとゲノムシーケンシングにより確認し、作製された菌株をATCC13869△odhAと名付けた。本実施例で使用したプライマーの配列は下記表2に記載した。
【0092】
【0093】
実施例2-2:LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質変異体導入菌株の作製
【0094】
前記実施例1で作製したベクターpDCM2-BBD29_06680(Q310*)を、前記実施例2-1で作製したATCC13869△odhAにエレクトロポレーション法で形質転換後、二次交差過程を経て、染色体上でBBD29_06680(Q310*)変異が導入された菌株を得た。BBD29_06680(Q310*)変異が導入された菌株は配列番号9および10を用いたPCRとゲノムシーケンシングにより確認し、作製された菌株をCA02-1626と名付けた。前記CA02-1626菌株はCorynebacterium glutamicumCA02-1626と名付けられ、ブダペスト条約下、2021年1月18日付で韓国微生物保存センター(Korean Culture of Microorganisms、KCCM)に寄託番号KCCM12930Pとして寄託された。
【0095】
本実施例で使用したプライマーの配列は下記表3に記載した。
【0096】
【0097】
実施例2-3:LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質変異体発現菌株のL-グルタミン酸生産能の比較
【0098】
前記2-2で作製された菌株を、ATCC13869△odhA菌株を対照群として、L-グルタミン酸生産能を確認しようとした。対照群およびCA02-1626菌株を以下の方法で培養した。
【0099】
種培地25mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃で20時間、200rpmで振盪培養した。その後、生産培地25mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、30℃で40時間、200rpmで振盪培養した。培養終了後、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてL-グルタミン酸の生産量を測定し、測定結果を下記表4に示した。
【0100】
<種培地>
ブドウ糖1%、肉汁0.5%、ポリペプトン1%、塩化ナトリウム0.25%、酵母エキス0.5%、尿素0.2%、pH7.2
【0101】
<生産培地>
原糖6%、炭酸カルシウム5%、硫酸アンモニウム2.25%、一リン酸カリウム0.1%、硫酸マグネシウム0.04%、硫酸鉄10mg/L、チアミン塩酸塩0.2mg/L、ビオチン50μg/L
【0102】
【0103】
前記表4に示されているように、対照群のATCC13869△odhA菌株に比べてBBD29_06680(Q310*)変異が導入されたCA02-1626菌株においてL-グルタミン酸の濃度が約21.6%増加することを確認した。
【0104】
実施例3:LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質欠失菌株の作製およびL-グルタミン酸生産能の測定
【0105】
実施例3-1:LacI系DNA結合転写調節因子遺伝子欠失ベクターの作製
【0106】
前記実施例においてLacI系DNA結合転写調節因子タンパク質の310番目のアミノ酸であるグルタミン(Gln、Q)の対応コドンを終結コドン(stop codon)に置換した時、L-グルタミン酸の生産能が向上することを確認した。そこで、本実施例では、LacI系DNA結合転写調節因子(BBD29_06680)遺伝子の欠失がL-グルタミン酸の生産に与える影響を確認しようとした。
【0107】
具体的には、BBD29_06680欠損のために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869のgDNA(genomic DNA)を鋳型として、配列番号11および12のプライマー対と配列番号13および14に記載される配列のプライマー対をそれぞれ用いて、BBD29_06680遺伝子のアップストリーム領域とダウンストリーム領域をPCRの実施により得た。重合酵素はSolgTMPfu-XDNAポリメラーゼを用い、PCR増幅条件は95℃で5分間変性後、95℃30秒変性、58℃30秒アニーリング、72℃60秒重合を30回繰り返した後、72℃で5分間重合反応を行った。増幅されたDNA断片をSmaI制限酵素で切断された染色体形質転換用ベクターpDCM2とギブソン・アセンブリ方法を用いてクローニングすることによって組換えベクターを得て、pDCM2-△BBD29_06680と名付けた。クローニングはギブソン・アセンブリ試薬と各遺伝子断片を計算されたモル数で混合後、50℃に1時間保存することによって行った。
【0108】
本実施例で使用したプライマーの配列は下記表5に記載した。
【0109】
【0110】
実施例3-2:LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質欠失菌株の作製
【0111】
前記実施例3-1で作製したベクターpDCM2-△BBD29_06680を、前記実施例2-1で作製したATCC13869△odhAにエレクトロポレーション法で形質転換した。二次交差過程を経て、染色体上でBBD29_06680遺伝子が欠失した菌株を得て、これは配列番号15および16のプライマー対を用いたPCRとゲノムシーケンシングにより確認した。選別された菌株はCA02-1627と名付けた。本実施例で使用したプライマーの配列は下記表6に記載した。
【0112】
【0113】
実施例3-3:LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質欠失菌株のL-グルタミン酸生産能の測定
【0114】
前記実施例2-1で作製されたATCC13869△odhA菌株を対照群として、CA02-1627菌株のL-グルタミン酸生産能を確認すべく、実施例2-3の発酵力価評価方法により評価を進行させ、培養終了後、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてL-グルタミン酸の生産量を測定し、測定結果を下記表7に示した。
【0115】
【0116】
前記表7に示されているように、対照群のATCC13869△odhA菌株に比べて、BBD29_06680遺伝子が欠失したCA02-1627でL-グルタミン酸の濃度が約21.4%増加することを確認した。
【0117】
実施例4:NTG変異株由来LacI系DNA結合転写調節因子タンパク質変異体が導入された菌株の作製およびL-グルタミン酸生産能の測定
【0118】
L-グルタミン酸生産能が増加したNTG(N-Methyl-N’-nitro-N-nitrosoguanidine;N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン)変異コリネバクテリウム属由来菌株においてもBBD29_06680(Q310*)変異体が同一の効果を示すかを確認するために、L-グルタミン酸生産NTG変異菌株として知られたコリネバクテリウム・グルタミカムBL2菌株(KFCC11074、韓国登録特許第10-0292299号)に前記変異体を導入した。
【0119】
実施例1で作製したpDCM2-BBD29_06680(Q310*)ベクターをKFCC11074菌株にエレクトロポレーション法で形質転換後、二次交差過程を経て、染色体上にBBD29_06680(Q310*)変異体が導入された菌株を選別した。これは配列番号9および10を用いたPCRとゲノムシーケンシングにより確認し、作製された菌株をCA02-1630と名付けた。
【0120】
作製したCA02-1630とコリネバクテリウム・グルタミカムKFCC11074菌株を対象に、以下の明示された方法で発酵力価実験を進行させた。
【0121】
種培地25mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃で20時間、200rpmで振盪培養した。その後、生産培地25mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、30℃で40時間、200rpmで振盪培養した。培養終了後、HPLCを用いた方法によりL-グルタミン酸の生産量を測定し、測定結果は下記表8に示した。
【0122】
<種培地>
ブドウ糖1%、肉汁0.5%、ポリペプトン1%、塩化ナトリウム0.25%、酵母エキス0.5%、尿素0.2%、pH7.2
【0123】
<生産培地>
原糖6%、炭酸カルシウム5%、硫酸アンモニウム2.25%、一リン酸カリウム0.1%、硫酸マグネシウム0.04%、硫酸鉄10mg/L、チアミン塩酸塩0.2mg/L、ビオチン500μg/L
【0124】
【0125】
前記表8に示されているように、CA02-1630菌株は、対照群のKFCC11074菌株に比べて、L-グルタミン酸の濃度が約17.2%増加することを確認した。
【0126】
以上の説明から、本出願の属する技術分野における当業者は本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。これに関連して、以上に述べた実施例はすべての面で例示的であり、限定的ではないと理解しなければならない。本出願の範囲は、上記の詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味および範囲、そしてその等価概念から導出されるすべての変更または変形された形態が本出願の範囲に含まれると解釈されなければならない。
【0127】
[受託番号]
寄託機関名:韓国微生物保存センター
受託番号:KCCM12930P
受託日付:20210118
【配列表】
【国際調査報告】