(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】内側安定化人工膝関節
(51)【国際特許分類】
A61F 2/38 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
A61F2/38
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504872
(86)(22)【出願日】2022-07-20
(85)【翻訳文提出日】2024-03-21
(86)【国際出願番号】 EP2022070351
(87)【国際公開番号】W WO2023006545
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】102021119663.9
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502154016
【氏名又は名称】アエスキュラップ アーゲー
【住所又は居所原語表記】Am Aesculap-Platz, 78532 Tuttlingen Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベルナ リヒテル
(72)【発明者】
【氏名】ブリギッテ オルターマン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス グラップ
(72)【発明者】
【氏名】レイチェル ラン
(72)【発明者】
【氏名】アレクシス バウオックス
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン ブランク
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA07
4C097BB01
4C097BB09
4C097CC01
4C097CC03
4C097CC16
4C097CC18
(57)【要約】
後十字靭帯の温存または切断を伴う人工膝関節全置換術のための内側安定化人工膝関節100は、大腿骨の遠位端に固定されるように構成された大腿骨部品(50)上に遠位方向に向けて設けられる大腿骨ベアリング面(55)と、脛骨の近位端に固定されるように構成された脛骨部品(10)上に近位方向に向けて設けられる脛骨ベアリング面(15)とを備える。大腿骨ベアリング面(55)は、凸状の内側大腿骨顆ベアリング面と、凸状の外側大腿骨顆ベアリング面とを有している。脛骨ベアリング面(15)は、凹状の内側ベアリングシェルおよび凹状の外側ベアリングシェルを有するとともに、内側ベアリングシェル(21)に大腿骨ベアリング面(55)の固定内側ピボットを設けることなく、大腿骨ベアリング面(55)を受け入れ、かつ、スライド可能なスライドベアリングのために構成されている。これにより、内側ベアリングシェルおよび外側ベアリングシェルは、互いに対して非対称な脛骨ベアリング面(15)を形成し、内側大腿骨顆ベアリング面および外側大腿骨顆ベアリング面は、互いに対して非対称または準対称の大腿骨ベアリング面(55)を形成する。よって、内側大腿骨顆ベアリング面(51)と外側大腿骨顆ベアリング面(52)は、少なくともそれぞれの前方大腿骨顆半径(R3)において一致す。よって、非対称な脛骨ベアリング面(15)は、外周近位の隆起輪郭を形成し、隆起輪郭は、少なくとも1つの前方隆起点(H-ant)を有する前方隆起輪郭部分と、少なくとも1つの後方隆起点(H-post)を有する後方隆起輪郭部分とを有しており、前方隆起点(H-ant)は、少なくとも1つの矢状面に関して、後方隆起点(H-post)に対して近位側に隆起しており、内側ベアリングシェル(21)における前方隆起輪郭部分の前方内側隆起輪郭部分は、前方内側頂点(P)として近位側に最も高い前方隆起点(H-ant)を形成する。さらに、これに対応するインレーが提案される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
後十字靭帯の温存または切断を伴う人工膝関節全置換術のための内側安定化人工膝関節(100)であって、
大腿骨の遠位端に固定されるように構成された大腿骨部品(50)上に遠位方向に向けて設けられる大腿骨ベアリング面(55)と、
脛骨の近位端に固定されるように構成された脛骨部品(10)上に近位方向に向けて設けられる脛骨ベアリング面(15)であって、特に、前記脛骨部品(10)の近位側に配置され、および/または配置可能なインレー(20)の近位側表面として形成されている、前記脛骨ベアリング面(15)と、
を備え、
前記大腿骨ベアリング面(55)は、凸状の内側大腿骨顆ベアリング面(51)と、凸状の外側大腿骨顆ベアリング面(52)と、を有しており、
前記脛骨ベアリング面(15)は、凹状の内側ベアリングシェル(21)と、凹状の外側ベアリングシェル(22)と、を有するとともに、前記内側ベアリングシェル(21)に前記大腿骨ベアリング面(55)の固定内側ピボットを設けることなく、前記大腿骨ベアリング面(55)を受け入れ、かつ、スライド可能なスライドベアリングのために構成されており、
前記内側ベアリングシェル(21)および前記外側ベアリングシェル(22)は、互いに対して非対称な脛骨ベアリング面(15)を形成し、
前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)および前記外側大腿骨顆ベアリング面(52)は、互いに対して非対称または準対称の大腿骨ベアリング面(55)を形成し、
前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)と前記外側大腿骨顆ベアリング面(52)は、少なくともそれぞれの前方大腿骨顆半径(R3)において一致し、
非対称な前記脛骨ベアリング面(15)は、外周近位の隆起輪郭を形成し、
前記隆起輪郭は、少なくとも1つの前方隆起点(H-ant)を有する前方隆起輪郭部分と、少なくとも1つの後方隆起点(H-post)を有する後方隆起輪郭部分と、を有し、
前記前方隆起点(H-ant)は、少なくとも1つの矢状面に関して、前記後方隆起点(H-post)に対して近位側に隆起しており、
前記内側ベアリングシェル(21)における前記前方隆起輪郭部分の前方内側隆起輪郭部分は、前方内側頂点(P)として近位側に最も高い前方隆起点(H-ant)を形成する、
人工膝関節(100)。
【請求項2】
前記前方隆起点(H-ant)は、矢状面に対して、凹状の前記内側ベアリングシェルおよび/または前記外側ベアリングシェル(21,22)における近位側で最も低いベアリング低点(T)について前方ベアリング高さを形成し、
前記後方隆起点(H-post)は、矢状面に関して、凹状の前記内側ベアリングシェルおよび/または前記外側ベアリングシェル(21,22)における近位側で最も低いベアリング低点(T)について後方ベアリング高さ(h)を形成し、
前記前方ベアリング高さは、前記後方ベアリング高さ(h)よりも大きく、
より好ましくは、最大の前記前方ベアリング高さは、前方内側頂点(P)において形成される、
請求項1に記載の人工膝関節(100)。
【請求項3】
内側矢状面で見たときに、前記前方ベアリング高さを有する前記前方隆起点(H-ant)から前記内側ベアリングシェル(21)内の近位側で最も低い前記ベアリング低点(T)にまたがるピッチ三角形は、近位側で最も低い前記ベアリング低点(T)において内側ピッチ角(β-med)を形成し、
前記内側ピッチ角(β-med)は12°~32°、より好ましくは17~27°、特に22°である、
請求項2に記載の人工膝関節(100)。
【請求項4】
前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)の最も遠位側の点は、前記脛骨ベアリング面(15)の前記内側ベアリングシェル(21)と屈曲角0°で接触する内側伸展ベアリング面接触点を形成し、
前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)の前縁に関連する角度区分として矢状面に対する屈曲角度が約0°のとき、前記内側伸展ベアリング面接触点は、50°~70°、より好ましくは58°~62°、特に60°で配置され、および/または
前記内側ベアリングシェル(21)の前縁に関連する角度区分として矢状面に対する屈曲角度が約0°のとき、前記内側伸展ベアリング面接触点は、55°~75°、より好ましくは63°~67°、特に65°で配置される、
請求項1から3のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
【請求項5】
凹状の前記内側ベアリングシェル(21)は、内側矢状面に関して、
前方内側脛骨ベアリング面半径(R1-med/ant)を形成する第1半径を有する少なくとも一つの前面部分と、
前記第1半径とは異なるとともに、好ましくは前記第1半径よりも小さい、後内側脛骨ベアリング面半径(R2-med/post)を形成する第2半径(R2-med/post)を有する少なくとも一つの後面部分と、 を形成し、
特に、
前記前方内側脛骨ベアリング面半径(R1-med/ant)は、前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)の前面部分の第3の半径として指定される前記前方大腿骨顆半径(R3)と一致、特に同一に形成され、好ましくは、患者の大腿骨サイズクラスに従って予め決定され、および/または、
前記後内側脛骨ベアリング面半径(R2-med/post)は、前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)の後面部分の第4半径として形成される後側大腿骨顆半径(R4)と一致、特に同一に形成され、好ましくは、患者の大腿骨サイズクラスに応じて予め決定される、
請求項1から4のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
【請求項6】
凹状の前記外側ベアリングシェル(22)は、外側矢状面に関して、
前方外側脛骨ベアリング面半径(R5-lat/ant)を形成する第5半径を有する少なくとも一つの前面部分と、
前記第5半径とは異なる、好ましくは、前記第5半径より大きい、後方外側脛骨ベアリング面半径(R6-lat/post)を形成する第6半径を有する少なくとも一つの後面部分と
を形成し、
特に、
前記前方外側脛骨ベアリング面半径(R5-lat/ant)は、前記前方大腿骨顆半径(R3)と一致、特に同一に形成され、および/または
前記後方外側脛骨ベアリング面半径(R6-lat/post)は、前記後方大腿骨顆半径(R4)より大きく形成され、好ましくは少なくとも110%大きく、特に80mm以上である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
【請求項7】
前記内側ベアリングシェル(21)には、前記後方隆起点(H-post)から遠位側に向かって斜めに延びる、周辺材料削減のための後方-内側フェーズ部(60)が設けられており、
前記後方-内側フェーズ部は、矢状面に投影したとき、横断面に対して後方フェーズ角(δ)をなしており、
前記後方-内側フェーズ部(60)が、30°~40°、より好ましくは33°~37°、特に約35°の後方フェーズ角(δ)で面取りされている、
請求項1から6のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
【請求項8】
前記外側ベアリングシェル(22)には、前記後方隆起点(H-post)において遠位側に向かって斜めに延びる、周辺材料削減のための後方-外側フェーズ部(70)が設けられており、
前記後方-外側フェーズ部は、矢状面に投影したとき、横断面に対して後方フェーズ角(δ)をなしており、
前記後方-外側フェーズ部(70)が、5°~15°、より好ましくは8°~12°、特に約10°の後フェーズ角(δ)で形成され、および/または、10~14mm、より好ましくは11.2~12.8mm、特に約12mmの後側湾曲半径(r)で丸みを帯びている、
請求項1から7のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
【請求項9】
前記脛骨ベアリング面(15)は、前記内側ベアリングシェル(21)と前記外側ベアリングシェル(22)との間の中央に設けられ、凹状の外側ボディ輪郭を有する前方の膝蓋骨突起部(25)を形成し、特に、前記膝蓋骨突起部(25)は、非対称に形成され、および/または、患者について予め決定された膝蓋骨サイズクラスおよび/または代表的な集団に関する膝蓋骨サイズ分布について統計学的に予め決定された50パーセンタイル値に一致するように形成される、
請求項1から8のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
【請求項10】
前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)と前記外側大腿骨顆ベアリング面(52)が、その間に配置された矢状面に対して本質的に軸対称な大腿骨ベアリング面(55)を形成する、請求項1から9のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
【請求項11】
前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)が、少なくとも遠位内側表面部分において、特に自然の大腿骨内側顆半径をエミュレートするための、内側大腿骨顆ベアリング面半径を一定のまま有しており、
前記外側大腿骨顆ベアリング面(52)は、少なくとも外側内側表面部分において、特に自然の外側大腿骨顆半径をエミュレートするための、別の外側大腿骨顆ベアリング面半径を一定のまま有しており、
前記内側大腿骨顆ベアリング面半径および前記外側大腿骨顆ベアリング面半径は、互いにわずかに、すなわち最大で0.8~1.2、好ましくは0.9~1.1、特に0.95~1.05の比率係数だけ異なっている、
請求項1から10のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
【請求項12】
前記脛骨ベアリング面(15)が、複数の接触点によって形成されるガイド曲率線(a、b、c)に沿って、前記大腿骨ベアリング面(55)を受け入れ、かつ、スライド可能なスライドベアリングのために構成されており、前記人工膝関節(100)の屈曲の間、好ましくは標準体重75kgの負荷の下で、屈曲角度が0°から約90°までとなるように構成されており、
マイナス0mm~マイナス11mmの幅の大腿骨ロールバックが実行され、
前記大腿骨ロールバックの好ましい態様は、前方に正の座標軸に関連する場合、30°でマイナス1.5mm以下、および/または60°でマイナス6mm以下、および/または約90°でマイナス11mm以下である、
請求項1から11のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
【請求項13】
前記脛骨ベアリング面(15)は、歩行サイクル、特に0~15~0~60°の屈曲角度での移動、好ましくは75kgの標準体重を有する歩行時の荷重の下での人工膝関節(100)の屈曲の間に、前記大腿骨ベアリング面(55)を受け入れ、かつスライド可能なスライドベアリングのために構成されており、
大腿骨内側顆の、デルタ1mm~4mm、好ましくは本質的に2mmの内側への移動が行われ、
大腿骨外側顆のデルタ6mm~11mm、好ましくは本質的に9mmの外側への移動が行われ、
屈曲角度0~15~0~60°の歩行サイクルの下で、好ましくは75kgの標準体重を有する歩行時の荷重の下で人工膝関節(100)を屈曲させる好ましい態様では、
前記大腿骨内側顆の、前方0mmから最大2mmへの移動、および後方2mmから0mmへの再度の移動が行われ、
前記大腿骨外側顆の前方に5.5mm、後方に9mm、さらに前方に3.5mmの移動が行われる、
請求項1から12のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)の前記脛骨部品(10)の近位側に配置され、特に前記脛骨部品(10)と一体的に形成されるおよび/または配置可能なインレー(20)であって、
前記インレー(20)の近位側表面は、凹状の内側ベアリングシェル(21)と、凹状の外側ベアリングシェル(22)を有する前記脛骨ベアリング面(15)を形成し、
前記脛骨ベアリング面は、前記内側ベアリングシェル(21)に前記大腿骨ベアリング面(55)の固定内側ピボットを設けることなく、凸状の内側大腿骨顆ベアリング面(51)と、凸状の外側大腿骨顆ベアリング面(52)と、を有する前記大腿骨ベアリング面(55)を受入れ、かつ、スライド可能なスライドベアリングのために構成され、
前記内側ベアリングシェル(21)および前記外側ベアリングシェル(22)は、互いに対して非対称な脛骨ベアリング面(15)を形成し、
前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)と前記外側大腿骨顆ベアリング面(52)は、特に、内側大腿骨顆ベアリング面と外側大腿骨顆ベアリング面との間に配置された矢状面に関して、互いに対して非対称な、大腿骨ベアリング面(55)を形成し、
前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)と前記外側大腿骨顆ベアリング面(5)は、少なくともそれぞれの前方大腿骨顆半径(R3)において一致し、
非対称な前記脛骨ベアリング面(15)は、外周近位の隆起輪郭を形成し、
前記隆起輪郭は、少なくとも1つの前方隆起点(H-ant)を有する前方隆起輪郭部分と、少なくとも1つの後方隆起点(H-post)を有する後方隆起輪郭部分と、を有し、
前記前方隆起点(H-ant)は、少なくとも1つの矢状面に関して、前記後方隆起点(H-post)に対して近位側に隆起しており、
前記内側ベアリングシェル(21)における前記前方隆起輪郭部分の前方内側隆起輪郭部分は、前方内側頂点(P)として近位側に最も高い前方隆起点(H-ant)を形成する、
インレー(20)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内側安定化人工膝関節に関する。さらに、これに対応するインレーが提案されている。本開示は、摩耗または損傷した膝関節の完全な置換を行う人工膝関節全置換術(略して「TKA」)または全置換型人工膝関節(略して「膝TEP」)の技術分野に属している。本開示における内側安定化人工膝関節の適用分野には、後十字靭帯(Lat./engl.または略して「PCL」)が存在する場合と、後十字靭帯が存在しない場合と、が含まれる。
【0002】
本開示の本質的な目的は、患者の膝が健常であったときに慣れ親しんでいた自然な動作とほぼ同様の動作を行うことができる人工膝関節を提供することにある。膝の解剖学的構造に関して、上部脚としての大腿骨または大腿部の骨は下部脚としての脛骨または脛部の骨に、高度に単純化された見方をするとペンナイフ状のヒンジ関節である膝によって連結されていることが知られている。これにより、「屈曲」または「膝の屈曲」という用語は一般に、矢状面または(いずれかの脚を通る)矢状断面で見たときの大腿骨と脛骨との間の(膝の)屈曲角度を指す。
【背景技術】
【0003】
今日、人工膝関節全置換術を受ける患者の若年化が進んでおり、スポーツ活動を続けたいという要望が存在する。しかし、現在の技術水準においては、既知の人工膝関節内挿術の不安定さ、不十分な可動性、および膝の前方(または前部)の痛みがたびたび生じる問題として患者側より指摘されている。その潜在的原因は様々である。まず、特に中等度の屈曲範囲、特に屈曲角度(弧)が20°~60°の範囲(屈曲)における安定性の不足が挙げられる。さらに、深く屈曲する範囲での人工膝関節の運動能力が不十分であることも背景にある。さらに、理想的には人工膝関節の内側と外側で異なる可動性が欠如していることも一因となり得る。
【0004】
健康な膝の自然な動作、すなわち自然な運動学的動作は、例えばM.A.R.フリーマンとV.ピンスケロワの両科学者によって、磁気共鳴画像法を用いて詳細に研究されてきた。詳しくは、明記的な引用により本明細書の一部として含まれる彼らの科学論文“The movement of the knee studied by magnetic resonance imaging”(Clin.Orthop.Relat.Res. 2003;(410) 35-43)を参照されたい。特に、当該文献には自然な膝関節の屈曲時の脛骨の内側および外側の接触部位の概略図が記載されている(
図12参照)。従って、自然な膝関節の活動は、主に屈曲角度が10°~120°の(屈曲)、さらには最大約135度の(屈曲)、例外的に極端なケースでも屈曲角度が165度までの場合に行われる。大腿骨の(対をなす)顆(または関節突起または関節軟骨)の自然関節面(またはそれぞれの関節面)は、矢状断面においてこの屈曲角度(円弧)にわたって円形であり、それによってその中心の周りを回転する。
【0005】
自然な大腿骨内側顆(または身体の中心を向いている顆)は、前後軸方向(または前後方向)には動かない。したがって、自然な膝において、整形学的にいわゆる「ロールバック」と呼ばれる後方へのオフセットは、内側部では生じない。自然な大腿骨外側顆(または身体の中心から外側に向いている顆)は「ロールバック」する傾向があり、これが自然な運動学では屈曲に伴う脛骨内旋の引き金となる。脚が自然に伸びている状態、すなわち0°(すなわち完全伸展)から最大10°~30°までの間の屈曲角度(弧)が本質的に伸展している状態では、脛骨の回旋は屈曲と連動している。自然な関節面は、内側により大きな半径を有する大腿骨前方(または前方側)の平面または大腿骨斜面を備えている。これは、上方に傾斜した脛骨平面または脛骨平面との間に関節を形成する。外側方では、大腿骨顆は前角(外側半月板の前角)上を前方に向かって転がる。患者依存的に120°を超える屈曲を能動的および/または受動的に達成することができる。内側方では、大腿骨は後角(外側半月板の後角)の上を転がる。外側方では、大腿骨と後角が後脛骨の上を滑る。健康な膝関節では、屈曲角度(アーク)が30°~90°(屈曲)の間で、内側半月板と外側半月板、および大腿骨外側顆の後方移動が生じる。そのため、大腿骨内側顆はほとんど静止しているか、わずかに前方へ移動する。
【0006】
要約すると、上記で詳しく説明した自然膝関節の運動学的動作は、膝関節の運動中における大腿骨の脛骨上の運動量が、外側よりも内側の方がはるかに少ないことを意味する。この状況は、専門用語では「内側ピボット」(“medial pivot”)という。“medial pivot”)という。大腿骨の回転軸は脛骨の内側に位置する。
【0007】
この知識に基づいて、近年においては大腿骨の内側ピボットがほぼ固定された人工膝関節が開発されており、これは「内側ピボット設計」(内側ピボット構造)として知られている。この種の動作は、このような人工膝関節の関節形成のために、大腿骨顆対の非対称に形成された大腿骨ベアリング面と、非対称に形成された脛骨ベアリング面との組み合わせによって、当該技術分野において達成される。これにより、非対称に形成された脛骨ベアリング面は、通常、大腿骨ベアリング面の表面またはそれぞれ摺動面として機能するために、遠位脛骨部分に強固に連結された、いわゆる「インレー」(またはインサート、半月板部分)の形態で配置される。こうして、全体として非対称な形状の脛骨部が形成される。
【0008】
例えば、EP 2 323 594 B1には、このような人工膝関節が開示されており、この人工膝関節は、膝の自然な運動学をエミュレートするために、非対称に形成された凹状の脛骨ベアリング面を有する一体型脛骨部品と、同様に非対称に形成された顆状の大腿骨ベアリング面を有する一体型大腿骨部品とから構成されている。よって、この公報に開示される人工膝関節は、要約すれば、膝の屈曲の増大に応じて非対称な大腿骨ベアリング面が後方に向かって変位することにより、脛骨部品に対する大腿骨部品の外旋軸を中心とする回転および屈曲角度を中心とする回転が所定の範囲内で生じるような、「内側ピボット設計」(内側ピボット構造)に従って設計される。同時に、非対称脛骨ベアリング面と非対称大腿骨ベアリング面との接触が維持される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、現状での解決策にはいくつかの欠点がある。まず、固定式の内側ピボットは、すべての活動において生理的に適切とは限らない。さらに、膝は屈曲した状態よりも伸展した状態(すなわち0°から数度の屈曲)の方が安定性を必要とすることが考慮されていない。もう一つの欠点は、これらの設計では、内側がボールソケットまたはそれぞれボールアンドソケットジョイントになっているのに対し、外側がより平面的に形成された支持部になっていることである。これは、大腿骨ベアリング面が、脛骨ベアリング面、特にインレーと(ほぼ)完全に一致するか、またはそれぞれ曲線適合していることを意味する。従って、大腿骨は、屈曲またはそれぞれ屈曲角度(円弧)の少なくとも優勢な部分またはそれぞれ一部、場合によっては完全な部分に関して、内側側でのみ回転する。したがって、ピボットまたはそれぞれの回転の中心は、すべての動作またはそれぞれ動作の軌道において、安定して維持される。したがって、「内側ピボット設計」(内側ピボット構造)は、大多数の患者、特に若い患者にとって、日常生活を送るには制約が多すぎると考えられる。機能的な問題のほかに、中期的には、過負荷による滑走面の劣化のリスクも存在している。
【0010】
非対称に形成された大腿骨ベアリング面と非対称に形成された脛骨ベアリング面とが、組合せの2つの構成要素として協働し、したがって、互いによく一致しなければならない、あるいは、互いに適切な形状(特に寸法)で構成しなければならないという点から、さらに多くの不利な点が生じる。
【0011】
第一に、内側ピボット設計は、患者の脛骨、または少なくともそれに対応して一致する脛骨ベアリング面(特にインレー)と、患者の大腿骨、または少なくともそれに対応して一致する大腿骨ベアリング面との間のサイズの差に関する適合性の問題を生じさせる。外科医にとって重要なことは、患者の個々の状況またはそれぞれの患者のための適応に最適に対応できることである。この点について、ほとんどの場合、患者の大腿骨と脛骨とが比較して異なるサイズを有しており、例えば、大きな大腿骨のサイズ(スケール7)が小さな脛骨(スケール5)に合わせられることがある。しかしながら、内側ピボット設計は、脛骨ベアリング面(特にインレー)と大腿骨ベアリング面との間の高い一致性、または内側への高い形状適合性を前提としている。したがって、内側ピボット設計による人工膝関節の適合性は、脛骨のサイズと大腿骨のサイズが異なる患者の上述の状況に関してかなり制限される。
【0012】
さらに不利なことに、外科医は、標準的な大腿骨部品または標準的な大腿骨ベアリング面を、好ましくは十字靭帯を温存する方法で、内側ピボット脛骨部品またはそれぞれ内側ピボット脛骨ベアリング面(特に内側ピボットインレー)とともに使用することができない。その逆の場合も然りであり、内側ピボット大腿骨部品またはそれぞれ内側ピボット大腿骨ベアリング面を、標準脛骨部品またはそれぞれ標準脛骨ベアリング面、特に標準インレーとともに、好ましくは十字靭帯温存方法で使用することはできない。これは、残念なことに、外科医がケースバイケースで、すなわち、患者の個々の状況に応じて、または患者の症例に応じて両方の概念を使用できるようにしたい場合、患者に適した双方の設計、またはそれぞれの組み合わせまたは対の在庫を準備しておかなければならない。すなわち、大腿骨部品、または大腿骨部品と脛骨部品、または脛骨部品を、一方では内側ピボット設計に従って、他方では標準設計に従って、それぞれ、在庫準備しておかなければならないという結果をもたらす。このため、在庫の保管に必要なスペースが非常に大きくなり、治療する外科医や病院の保管コストが増大する。
【0013】
同様に、内側ピボット設計による人工膝関節の別の欠点は、手術中またはそれぞれ術中に生じる可能性がある。すなわち、人工膝関節が移植されるとすぐに、実際の状況において、靭帯、腱、軟部組織の機械的影響により、必要な、またはそれぞれ所望の目標安定度が達成されず、過剰な安定性または不安定性のいずれかが決定づけられる場合が生じる。したがって、外科医は、膝を切開した状態で目標の安定度を達成するために、大腿骨部品または脛骨部品のいずれかを後から修正できなければならない。例えば、安定性が大きすぎることが判明した場合、外科医は、最初に埋め込まれた内側ピボット脛骨ベアリング面、特に内側ピボットインレーを、標準脛骨ベアリング面、特に標準インレーに変更するか、または交換する措置を取りたいと思うことがある。しかし、このことはこの場合、非対称に形成された内側ピボット大腿骨ベアリング面がもはや適合しないことを意味するので、外科医は、内側ピボット大腿骨部品を標準大腿骨部品またはそれぞれ標準大腿骨ベアリング面に追加的に変更する必要も生じ得る。従って、手術手順が外科医と患者の双方にとって不利な方向に延長される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第一の態様において、これらの点は本開示により、内側安定化人工膝関節に関する請求項1の特徴によって解決される。それにより、上述した欠点が克服される。
【0015】
後十字靭帯の温存または切断を伴う人工膝関節全置換術のための内側安定化人工膝関節は、大腿骨の遠位端に固定するように構成された大腿骨部品上に遠位方向に向けて設けられる大腿骨ベアリング面と、脛骨の近位端に固定するように構成された脛骨部分に近位方向に向けて設けられる脛骨ベアリング面とを有している。特に、この構成により、脛骨ベアリング面は、脛骨部品に近位側に配置され、および/または配置可能なインレーの近位側表面として形成されてもよい。これにより、大腿骨ベアリング面は、凸状の内側大腿骨顆ベアリング面と、凸状の外側大腿骨顆ベアリング面とを有する。これにより、脛骨ベアリング面は、凹状の内側ベアリングシェルおよび凹状の外側ベアリングシェルを有し、内側ベアリングシェルに大腿骨ベアリング面の固定内側ピボット(点)を設けることなく、大腿骨ベアリング面を受け入れ、かつ、スライド可能なスライドベアリングのために構成される。これにより、本開示によれば、内側ベアリングシェルおよび外側ベアリングシェルは、互いに対して非対称な脛骨ベアリング面を形成する。累積的に、内側大腿骨顆ベアリング面および外側大腿骨顆ベアリング面は、互いに対して非対称または準対称の大腿骨ベアリング面を形成する。これにより、内側大腿骨顆ベアリング面と外側大腿骨顆ベアリング面は、少なくともそれぞれの前方大腿骨顆半径において一致する。それにより、非対称な脛骨ベアリング面は、外周近位の隆起輪郭を形成する。それにより、隆起輪郭は、少なくとも1つの前方隆起点を有する前方隆起輪郭部分と、少なくとも1つの後方隆起点を有する後方隆起輪郭部分とを有する。それにより、前方隆起点は、少なくとも1つの矢状面に関して、後方隆起点に対して近位側に隆起している。それにより、内側ベアリングシェルにおける前方隆起輪郭部分の前方内側隆起輪郭部分は、前方内側頂点として近位側に最も高い前方隆起点を形成する。
【0016】
「非対称」という用語は、本開示によれば、非対称に形成された(大腿骨)ベアリング面を意味する。特に、これは、準対称的な、さらに好ましくは、概ね対称的な(大腿骨)ベアリング面を意味する。これにより、当業者は、内側大腿骨顆ベアリング面と外側大腿骨顆ベアリング面との比較は、スライド可能なスライドベアリングの中央凸状接触面に基づいて行われることを理解する。換言すれば、大腿骨ベアリング面の周縁部、オフセンター部分、または非中心周辺領域、あるいは大腿骨ベアリング面周辺の特定の設計は、対称性の程度についての評価に全く寄与しないか、従属的役割を果たすのみである。また、本事例では、生産に関連した公差の逸脱を評価するものではない。
【0017】
一般に、当業者は、内側ベアリング面またはベアリングシェルと、外側ベアリング面またはベアリングシェルとの比較における非対称性とは、運動学的動作に関して、それぞれの(曲率)半径および/または案内線に関して著しい偏差を有する異なる設計を意味することを理解する。
【0018】
言い換えれば、「対称」という用語は、絶対的な意味や詭弁的な意味で解釈されるべきではなく、技術的な判断、あるいはそれぞれスライドベアリングの機能、特に運動学的影響を考慮して解釈されるべきである。したがって、大腿骨顆部ベアリング面の全体的な外観を、外側と内側とを比較して考慮しなければならない。「非対称」という用語により、(曲率)半径および/または案内線のわずかなずれを有する好ましい実施形態も構成される。内側大腿骨顆ベアリング面と外側大腿骨顆ベアリング面との比較において、「非対称な大腿骨ベアリング面」という用語は、(曲率)半径のわずかな偏差のみが、患者における両大腿骨顆(内側対外側)の自然なまたはそれぞれ解剖学的な差異をエミュレートまたはそれぞれ考慮するために役立つという点で、このような好ましい実施形態を含むことを意図している。
【0019】
しかしながら、特に、「非対称な大腿骨ベアリング面」という特徴は、「内側ピボット設計」(内側ピボット構造)として知られている、大腿骨の固定された内側ピボットを有する内側に(高度に)固定化した従来公知の人工膝関節の設計を除外することを意図している。はじめに説明したように、後者の設計は、大腿骨顆対の非対称に形成された大腿骨ベアリング面と非対称の脛骨ベアリング面との組み合わせに関する。特に、技術水準上の区別として、脛骨ベアリング面の(球状の)内側ベアリングシェル上に(球状の)内側大腿骨顆ベアリング面のスライドベアリングとして内側ボールアンドソケット関節を形成するための、非対称に形成された大腿骨ベアリング面を有するこのような従来公知の実施形態は、「非対称大腿骨ベアリング面」という前述の特徴に該当しない。
【0020】
本開示による人工膝関節の脛骨ベアリング面の非対称設計は、第一に、対称的な脛骨側摺動面と比較して、より高い、したがって改善された、脛骨ベアリング面に対する大腿骨ベアリング面の一致性またはフォームフィットによる、内側方における望ましい安定化という効果を奏する。特に、本開示による人工膝関節は、人工膝関節の運動コースの安定性を向上させるよう内側方向に改善された適合性と同時に、より活動的な、さらにはスポーティーな動作を包括的にサポートする外側方向の高い運動自由度の最適化を可能にする。まとめると、この結果、多くの症例、あるいは多くの患者グループにおいて、あらゆる基準から見て、全体的な運動学的特性がほぼ最適化され、可動性が改善される。
【0021】
本開示による解決手段およびそこから得られる技術的効果は、スライド可能なスライドベアリングを形成するための特定の形状設計の特定の組み合わせにおける脛骨ベアリング面と大腿骨ベアリング面との相互作用から生じる。本開示の基礎となる技術的解決手段のアイデアは、(人工)膝関節の動作を目的として、非対称、好ましくは本質的に対称な大腿骨ベアリング面と、スライド可能なスライドベアリングを形成するように構成された非対称な脛骨ベアリング面との組み合わせに基づいている。
【0022】
したがって、脛骨ベアリング面が、近位側に向かう向きで脛骨部品に設けられるか、脛骨部品に連結されるか、あるいは脛骨部品に(一体的に)形成されるか、という具体的な態様は、特段重要ではない。したがって、本開示の要旨において、脛骨部における脛骨ベアリング面の配置に関する点は、あまり考慮されないままであってもよい。好ましくは、人工膝関節は、脛骨ベアリング面の固定支持部を有するような設計であってもよい。あるいは、好ましくは、人工膝関節は、脛骨ベアリング面の可動支持部を有するような設計であってもよい。
【0023】
したがって、一方では、脛骨ベアリング面が脛骨部品の近位(上)面として、または脛骨部品上に形成される実施形態が好ましい。
【0024】
他方、このような実施形態は、脛骨ベアリング面が、好ましくは、例えばポリエチレンのような熱可塑性プラスチックまたはデュロプラストで作られた、別個に成形されたインレー(またはメニスカスのような人工膝関節部品)の近位(上)面として形成されることが好適であってもよい。すなわち、別個のインレーに基づくこの好ましい実施形態では、これにより、人工膝関節の大腿骨部品と脛骨部品との間(または、大腿骨部品と複数の脛骨部品との間)にポリエチレンのスライド面が提供される。この好ましい実施形態は、人工膝関節のスライド面として機能するインレーが、半月板を有する自然の関節腔に取って代わるという効果を奏する。
【0025】
脛骨部におけるインレーの配置に関する設計の変形も同様に考えられるが、好ましくは、インレーは、脛骨部品において浮動的に支持されるか、可動的に連結されるか、または例えばネジ止め、圧入などの固定方法で連結されるか、固定された態様で使用可能である。
【0026】
特に、本開示の第一の効果は、本開示による人工膝関節の動作に関する考察から生じる。従って、本開示による人工膝関節によって、導入の方法で説明した健康な膝の自然な動作を可能な限りエミュレートすることができる。それによって、自然な動作は、特に、膝の内側と外側との間の非対称な動きによって特徴付けられる。本開示によれば、伸展した膝またはわずかに屈曲しただけの膝の場合、0°(すなわち完全伸展時)から数角度度までの間の本質的に伸展した屈曲角度(円弧)に対応して要求される高い安定性が、具体的には内側および外側に依存せずに達成される。さらに、本開示による膝内反は、中屈曲の範囲、特に20°~40°の間の屈曲角度(弧)(屈曲)において、依然として高い内側安定性を維持する。それにより、有利な前方外側安定性も獲得する。同時に、本開示による人工膝関節は、有利な態様において、後方外側安定性をわずかに低下させることができ、その結果、大腿骨外側顆ベアリング面は、いわゆる「ロールバック」、すなわち、後方へのオフセット、または、回転の可能性を同時に伴うロールバックを許容される。これにより、人工膝関節の安定性が維持されると同時に、動的動作の自由度を大幅に向上させることができる。最後に、本開示によれば、高屈曲位では、自然な動作をエミュレートするために、後内側安定性はわずかに低下するだけであり、これと同時に後方外側安定性は大きく低下する。その結果、大腿骨または大腿骨頚部骨の大きな回転が可能になると同時に、内側方での「ロールバック」が低くなり、それに関連して外側側で高くなることが達成される。
【0027】
所望の自然な運動学的エミュレーションに関する第2の効果として、本開示による人工膝関節の脛骨ベアリング面の非対称設計により、内側と外側の運動学的自由度の有利な分離が可能になることが挙げられる。
【0028】
第3の効果は、本開示による人工膝関節により、外科医にとっての複雑さが軽減される点、および診療所における保管在庫の保管が軽減される点に関する。内側大腿骨顆ベアリング面と外側大腿骨顆ベアリング面とが、その間に配置された矢状面に関して非対称、本質的に対称、特に軸対称である大腿骨ベアリング面を形成するという事実のために、大腿骨部品は、罹患した膝側とは無関係に、すなわち、左膝と右膝の両方に使用することができる。これにより、診療所側で在庫として保管すべき、または手術で区別すべき人工関節部品の数が半分になり、在庫保管または手術計画の複雑さとコストが有利に減少する。いずれにせよ、患者の様々な状況に外科的に対応できるようにするために、製造者側でも診療所側でも、大腿骨部品および脛骨部品またはインレーについて、人工膝関節製品ラインナップとして複数のサイズまたは厚さを用意しておく必要がある。したがって、本開示による人工膝関節は、外科医にとっての複雑さを軽減できるともに、費用対効果の高い解決手段となる。
【0029】
第4の効果として、本開示は、統合側で必要とされるサイズ範囲にわたって、人工膝関節のラインナップに関して有利な互換性を提供できることに言及したい。解剖学的構造の多様性により、異なるサイズの脛骨部品(または脛骨ベアリング面)は、異なる大腿骨部品(または大腿骨ベアリング面)と協働しなければならない。症例によって要求されるサイズの範囲にわたって要求される適合性は、多大な技術的課題を提示するものである。はじめに述べたように、(内側)ボールアンドソケット関節を形成するための単一の半径を有する従来公知の設計の場合、要求される互換性が特に問題となる。この点において、単一半径を有する先行技術の場合、内側方における大腿骨ベアリング面と脛骨ベアリング面との間の構造的一致性が高いために、サイズの適合性がかなり制限され、この問題はさらに増幅される。ここで、本開示による人工膝関節、特に上述の好ましい実施形態は、技術的に有利な解決手段を提供する。この点において、大腿骨の顆ベアリング面が互いに対称であり、サイズごとに複数の半径で形成され得るため、そのような制限はない。このように、本開示によれば、アンカー構造は、より小さなサイズに合わせてより小さな半径で設計することができるので、骨損失の増大が回避される。
【0030】
第5の効果として、本開示は、後十字靭帯の温存および切断の両方において、本開示による膝関節内人工関節の移植または人工膝関節全置換術を可能にすることに言及すべきである。従って、外科医にとって、広い適応範囲と異なる症例への柔軟なアプローチが可能になる。第一の症例は、内側靭帯と外側靭帯、および場合によっては後十字靭帯が十分に安定しており、本開示による人工膝関節の埋め込みが成功した後、靭帯が理想的に温存され、膝の曲げ伸ばし(伸展)および回転(回旋)といった膝の動きを連続的に調整できる患者における状態に関する。さらなる症例は、本開示による人工膝関節置換術の前に、外科医が変形性関節症によって損傷している可能性のある後十字靭帯を除去する患者の状態に関する。
【0031】
さらに、以下に述べるように、本開示によるさらに2つの効果がもたらされる。
【0032】
本開示によれば、人工膝関節の非対称脛骨ベアリング面は、外周近位隆起輪郭を画定するか、または形成する。これにより、隆起輪郭は、少なくとも1つの前方隆起点を有するか、または、複数の前方隆起点が配置される前方隆起輪郭部分を有する。隆起輪郭はさらに、少なくとも1つの後方隆起点を有するか、または複数の後方隆起点が位置する後方隆起輪郭部分を有する。それにより、前方隆起点は、矢状面に投影されたときに、少なくとも1つの矢状面に関して、または、後方隆起点に対して近位側に隆起している。好ましくは、前方隆起輪郭部分は、後方隆起輪郭部分に対して近位側に、特に完全に隆起していてもよい。前方隆起輪郭部分全体が、後方隆起輪郭部分全体に対して近位側に(または患者が直立している場合には上方に)隆起しているので、前方隆起輪郭部分は、脛骨部品、特にインレーの後方から自由に見ることができる。このことは、特に、前方安定化のさらなる改善に有利に役立つ。
【0033】
さらに本開示によれば、内側ベアリングシェルにおける前方内側上昇輪郭部分は、前方内側頂点として最も近位側に隆起した前方隆起点を形成する。換言すれば、脛骨ベアリング面は、それによって、前側において、内側ベアリングシェルの(包絡)表面部分が特に高くなるように(または、近位側に向かって高くなるように)その高さ形状の一部が設計されており、少なくともこれが、前方内側頂点としての(近位に)最も高くなった前方隆起点で頂点となるように、または、そのような前方隆起点まで隆起するようになっている。従って、内側大腿骨顆ベアリング面は、特に人工膝関節の前側において、脛骨ベアリング面の対応する内側ベアリングシェルによって(摺動可能に)取り囲まれて支持され、従って、動作に沿って案内されるか、または安定化される。結果として、動作に関して生じる上記効果が増強される。
【0034】
全体として、本開示によれば、内側安定化のために、脛骨部品、特にインレーの非対称に形成された脛骨ベアリング面と、大腿骨の顆ベアリング面が(本質的に)両側に同一に形成された(準)対称な大腿骨ベアリング面との組み合わせは、様々な個々の、部分的には相反する技術的目標の達成における良好なバランスを提供する。特に、一方では、安定性および「可動域」(すなわち、例えば、スポーツやアジア流ライフスタイルのための可動域)の点で高い運動学的要求を有する患者であっても、本開示による膝関節内人工関節の移植が行われた後、または、人工膝関節全置換術が行われた後、本来の運動学的挙動または、同さという本質的な技術的目標が果たされる。また、他方では、外科医または臨床処置のための効率の向上および複雑性の低減というさらなる技術的目標も、本開示によれば非常にサポートされる。
【0035】
本開示が、内側ベアリングシェルにおける大腿骨ベアリング面の固定された内側ピボット点を有しない技術的解決手段に関する限り、「内側ピボット設計」(内側ピボット構造)の分野における技術の現状を紹介するために述べた基本的な欠点を克服するものである。
【0036】
現在、位置と方向の解剖学的呼称に使用される用語は、専門用語または解剖学用語として使用されている。従って、位置と方向の呼称には、近位(ラテン語でproximus「最も近い」;(外科医ではなく)患者の体の中心に向かって(配置される、あるいは整列される))、および、これとは反対の遠位(ラテン語でdistare「遠くなる」)が使用される。
【0037】
さらに、現在、膝関節または、人工膝関節に関して、位置および方向の呼称である内側(ラテン語でmedium「中央」;中央平面に向かって)は、内側、または、膝の内側にある(配置されている、または、それに向かって整列している)ことを意味する。これに対して、外側(ラテン語でlatus「側方」;中央平面から離れ、側方に向かって]という位置および方向指定は、外側、膝の外側にある(配置されている、または、、それに向かって整列している)ことを意味する。
【0038】
位置と方向の呼称である前方 [ラテン語でante “in front of”]は、前(al)、前に横たわるという意味であり、現在ではventral [腹部に関して前側に向かって]に相当する。自然な膝では、膝蓋(ラテン語でpatella)はこのように前方にある。これに対して、位置と方向の呼称である 後方(ラテン語のpost「後ろ」)は、後方、つまり後ろにあることを意味し、現在ではdorsal(背中側、または背中に向かって)に相当する。
【0039】
互いに直交する3つの解剖学的空間軸または方向は、以下のように指定される。縦軸は、高さ方向[上側、上<->下側、下]、特に直立した患者の場合、頭頂部から足の裏まで、ここでは好ましくは膝を通って垂直に伸びる。さらに、矢状軸(ラテン語で.sagitta「矢印」;前側、前<->後側、後]は、特に直立した患者の正面図において、奥行き方向に延びている。さらに、横軸[内側、内側<->外側、外側、例えば右<->左]は、幅方向に、特に患者が直立している正面図において延びる。
【0040】
解剖学用語でいう前部面とは、矢状面および横断面に対して垂直または直交する面を指す。矢状面とは、特に大腿骨または脛骨を右半分と左半分(膝)に分割する平面を指す。横断面とは、縦軸、特に脛骨の縦軸に垂直な面(直立した患者においては水平面)である。
【0041】
顆形面とは、大腿骨部品の遠位端に位置し、解剖学的な大腿骨顆の形状、または自然な大腿骨顆の形状を模倣した(表面)部位を指す。
【0042】
脛骨ベアリング面(の隣接する曲線部分)と大腿骨ベアリング面(の隣接する曲線部分)との間の、本開示による2つの曲線間の(曲線)適合性(または、一致性)について専門用語は、(断面平面、特に内側および/または中央および/または外側矢状面に投影されたとき)、接触点における対応する半径が、本質的に、あるいは公称的に対応するか、あるいは互いに等しいことを意味する。この点において、適合性は、大腿骨ベアリング面に対する脛骨ベアリング面の(の曲線部の)間のベアリング形態の適合性の尺度に関する。
【0043】
一方、(曲線の)適合性の欠如は、反対語としての弛緩性、すなわち、高い軸受すきままたは低い軸受形状適合性の意味での弛緩性をもたらす。言い換えれば、弛緩性は、脛骨のベアリング面と大腿骨のベアリング面の(の隣接する曲線部分)間の(曲線)適合性の欠如によって生じ得る、変位、オフセット、および/または(角度)回転、および/または運動学的自由度に対する尺度である。
【0044】
大腿骨の外旋という専門用語は、脛骨部の内側ベアリングシェルに位置し、脛骨部の長手方向軸に平行な外旋軸を中心とする大腿骨の回転を指す。
【0045】
従属請求項は、本開示の好ましいさらなる実施形態を示す。
【0046】
好ましくは、代替的または累積的に、前方隆起点は、少なくとも1つの矢状面に対して、または、矢状面に投影されたときに、前方ベアリング高さを形成または規定することができる。それにより、前方ベアリング高さは、(対応する)凹状の内側ベアリングシェルおよび/または外側ベアリングシェルにおける近位側で最も低いベアリング低点に関連する。それにより、後方隆起点は、少なくとも1つの矢状面に関して、または矢状面に投影されたときに、後方ベアリング高さを形成するか、またはそのような高さを規定する。それにより、後方ベアリング高さは、同様に、前方ベアリング高さと同様に、(対応する)凹状の内側および/または外側ベアリングシェルにおける近位側で最も低いベアリング低点に関連する。この好ましい実施形態では、前方ベアリング高さは後方ベアリング高さよりも大きい。さらに好ましくは、最大の前方ベアリング高さは、前方内側頂点で形成される。また、この好ましい実施形態では、運動学に関して上述した効果がさらに強化される。特に、前方内側安定化がさらに最適化される。
【0047】
好ましくは、代替的に、または累積的に、人工膝関節の内側ベアリングシェルは、内側矢状面で見たときに、ピッチ三角形が、前方ベアリング高さを有する前方隆起点から内側ベアリングシェル内の近位側最低ベアリング低点にまたがるような形状であってもよい。これにより、ピッチ三角形は、近位側で最も低いベアリング低点に位置する内側ピッチ角を形成する。特に、内側ピッチ角は12度~32度、より好ましくは17度~27度、特に約22度である。内側ピッチ角のこの好ましい値範囲または値は、人工膝関節の前方内側安定化に関して最適を提供する。
【0048】
好ましくは、代替的にまたは累積的に、本開示による人工膝関節の大腿骨ベアリング面に関して、内側大腿骨顆ベアリング面および外側大腿骨顆ベアリング面は、本質的に、顆形状に形成されてもよい。その結果、大腿骨部品の形状が特に最適化される。
【0049】
好ましくは、代替的にまたは累積的に、内側大腿骨顆ベアリング面と外側大腿骨顆ベアリング面の後方(屈曲)部分はそれぞれ、一定の後方半径を備えるとともに0~95度の範囲内の屈曲角度(arc)を有していてもよい。この好ましい実施形態では、上述した効果がさらに拡大される。
【0050】
好ましくは、代替的に、または累積的に、大腿骨内側顆ベアリング面の最遠位(または、最遠位に配置された)点は、脚が伸展しているとき、または、約0°の屈曲角(すなわち伸展)にあるときに、脛骨ベアリング面の内側ベアリングシェルと接触する内側伸展ベアリング面接触点を形成する。特に、内側伸展ベアリング面は、脛骨ベアリング面の内側ベアリングシェルと接触する。特に、内側伸展ベアリング面接触点は、脚が伸展した状態、または屈曲角度約0°(すなわち伸展)の状態において、内側大腿骨顆ベアリング面の前縁に関連する角度区分としての矢状面に対して、50~70°、より好ましくは58~62度、特に約60°に配置されてもよい。代替的に、または累積的に、特に内側脛骨ベアリング面の前縁に関連する角度区分として矢状面に対する屈曲角度が約0°のとき、内側伸展ベアリング面接触点は、55度~75度、より好ましくは63度~67度、特に約65度に配置されてもよい。また、この好ましい実施形態では、動作に関して上述した効果がさらに強化される。
【0051】
さらに好ましくは、内側伸展ベアリング面接触点は、凹状の内側および/または外側ベアリングシェルの近位側最深部ベアリング低点と一致してもよい。
これらの特徴はすべて、内側安定化を促進する。
【0052】
全体として、上述の本開示の好ましい実施形態は、内旋の考慮に関し、有利に内側を安定化させる方法で、より後方に配置された延長ベアリング面接触点を提供するとともに、内側ベアリングシェルに関して、より大きい前半径と、相対的により小さい後半径とをもたらす。
【0053】
好ましくは、代替的にまたは累積的に、凹状の内側ベアリングシェルは、内側矢状面に関して、前方内側脛骨ベアリング面半径を形成あるいは規定する第1の半径を有する少なくとも1つの前面部分と、後内側脛骨ベアリング面半径を形成あるいは規定する、第1の半径とは異なる第2の半径、好ましくは、第1の半径より小さい第2の半径を有する少なくとも1つの後面部分とを形成あるいは規定することができる。これにより、運動学的および運動性がさらに最適化される。
【0054】
特に、前方内側脛骨ベアリング面半径は、それによって、前方大腿骨顆半径と一致、特に同一に形成され得る。それにより、前方大腿骨顆半径は、内側大腿骨顆ベアリング面の前部分の第3の半径として形成あるいは規定される。前方大腿骨顆半径または第3半径は、患者の大腿骨サイズクラスに応じて予め決められていることがさらに好ましい。これにより、整合性および可動性の観点から、さらに最適化された運動性を得ることができる。さらに、このことは、人工膝関節ラインナップの臨床的サイズ管理の最適化に役立つ。
【0055】
代替的にまたは累積的に、後内側脛骨ベアリング面半径は、後方大腿骨顆半径と一致、特に同一に形成され得る。これにより、後方大腿骨顆半径は、内側大腿骨顆ベアリング面の後面部分の第4の半径として形成あるいは規定される。後方大腿骨顆半径または第4半径は、患者の大腿骨サイズクラスに応じて予め決定されることがさらに好ましい。従って、内側で必要とされる十分な安定性だけでなく、積極的な整合性に関して効果が達成される。さらに、このことは、人工膝関節ラインナップの臨床的サイズ管理の最適化にさらに役立つ。
【0056】
好ましくは、代替的にまたは累積的に、凹状の外側ベアリングシェルは、外側矢状面に関して、前方外側脛骨ベアリング面半径を形成あるいは規定する第5半径を有する少なくとも1つの前面部分と、後方外側脛骨ベアリング面半径を形成あるいは規定する第5半径とは異なる、好ましくは、第5半径より大きな第6半径を有する少なくとも1つの後面部分と、を形成あるいは規定してもよい。これによっても、有利な運動学的効果を得ることができる。
【0057】
特に、前方外側脛骨ベアリング面半径または第5半径は、(上記で定義した)前方大腿骨顆半径または第3半径と一致、特に同一に形成することができる。
【0058】
代替的にまたは累積的に、後方外側脛骨ベアリング面半径または第6半径は、(上記で規定された)後方大腿骨顆半径または第4半径よりも特に大きくてもよい。それにより、後方外側脛骨ベアリング面半径は、後方大腿骨顆半径よりも少なくとも110%大きい大きさであることがさらに好ましい場合がある。特に、後方外側脛骨ベアリング面半径は、80mmの半径に等しいか、またはそれよりも大きい。
【0059】
特に内側の、後脛骨ベアリング面半径を後方大腿骨顆半径のサイズに合わせることが好ましいことから、(近位側に向かって)より隆起した後方隆起輪郭部分(または、高い後方リップ)が得られる。これは、特に内側について、確かに良好な安定性を得られる。しかしながら、膝の深い屈曲を伴う(より運動的な)活動を行う場合、患者は高度な屈曲を行う必要がある。そのため、大腿骨の(やや内側および特に外側の)ロールバックと回旋が必要となる。後方リップが高い場合、特に内側で高い屈曲が生じた際に骨とインレーが衝突し、痛みや動きの制限につながることがある。
【0060】
上述した問題を解決するために、好ましくは内側ベアリングシェルにおいて、(上記で規定した)後方隆起点から遠位側に向かって斜めに延びる後方内側フェーズ部を、代替的または累積的に設けてもよい。これは、(内側ベアリングシェルの外包表面から)周辺材料を削減する役割を果たす。これにより、矢状面に投影したとき、後方内側フェーズ部は、横断面に対して後方フェーズ角をとる。特に、後方内側フェーズ部は、30°~40°、より好ましくは33度~37度、特に約35度の後方フェーズ角で面取りされるか、または面取りされてもよい。従って、骨と後方内側隆起輪郭部分(または、内側ベアリングシェルの後側リップの近位端)との間で高屈曲時に生じる衝突が有利に回避される。特に、この特徴は、アジア流ライフスタイルの患者や、高屈曲を伴うスポーツを行う患者の要求に応えることができる。従って、良好な安定性を維持しながら、この後方内側点における骨の摩耗や痛みを事前に回避することができる。
【0061】
好ましくは、代替的または累積的に、後方隆起点で遠位側に向かって斜めに延びる後方外側フェーズ部を外側ベアリングシェルに設けてもよい。後方内側フェーズ部と同様に、これは、(側方ベアリングシェルの外包表面から)周辺材料を削減する役割を果たす。これにより、矢状面に投影した場合、後方外側フェーズ部は、横断面に対して後方フェーズ角をとる。特に、後方外側フェーズ部は、5~15度、より好ましくは8~12度、特に約10°の後方フェーズ角をとり得る。代替的に、または累積的に、後方外側フェーズ部は、10~14mm、より好ましくは11.2~12.8mm、特に約12mmの後方外側曲率半径で丸められていてもよい。これによっても、骨の摩耗や痛みを有利に防止することができる。
【0062】
好ましくは、代替的に、または累積的に、脛骨ベアリング面は、内側ベアリングシェルと外側ベアリングシェルとの間の中央に設けられ、(本質的に)凹状の外側ボディ輪郭を有する、前方膝蓋骨突起部または膝蓋骨(腱)カットアウトを形成することができる。特に、膝蓋骨の膨らみは、患者に対して予め設定された膝蓋骨(腱)のサイズクラスに合わせて形成することができる。代替的に、または累積的に、膝蓋骨の膨らみは、代表的な、特に部位固有の母集団に関する膝蓋骨(腱)のサイズ分布について、統計的に人体計測的に予め決められた50パーセンタイル値に対応してもよい。これは、膝蓋骨(腱)に解剖学的機能または運動学的機能を果たすための改善された可動域を提供する役割を果たす。
【0063】
特に、膝蓋骨突起部は非対称に形成することができる。これは、内側ベアリングシェルにおいて、外側ベアリングシェルよりも近位側により隆起する隆起輪郭部分の形成を可能にする役割を果たす。この点において、膝蓋骨突起部は、脛骨ベアリングシェルの中央領域において、前方内側頂点に向かって前方隆起輪郭部分の急な隆起を形成するために、非対称に形成される。
【0064】
好ましくは、代替的にまたは累積的に、内側大腿骨顆ベアリング面及び外側大腿骨顆ベアリング面は、その間に配置された矢状面に対して本質的に軸対称である大腿骨ベアリング面を形成することができる。これにより、上記で詳述した5つの効果グループのすべてを奏することができる。
【0065】
好ましくは、代替的にまたは累積的に、内側大腿骨顆ベアリング面は、少なくとも遠位内側表面部分において、特に自然な内側大腿骨顆半径をエミュレートするための内側大腿骨顆ベアリング面半径を、一定のまま(または一定の態様で)有することができる。これにより、外側大腿骨顆ベアリング面は、少なくとも外側-内側表面部分において、特に自然の外側大腿骨顆半径をエミュレートするための別の外側大腿骨顆ベアリング面半径を、一定のまま(または、一定の態様で)有している。これにより、内側大腿骨顆ベアリング面半径と外側大腿骨顆ベアリング面半径とは、互いにわずかに、すなわち最大で0.8~1.2、好ましくは0.9~1.1、特に0.95~1.05の比率係数だけ異なっていてもよい。したがって、本開示によれば、患者の解剖学的状況へのさらに改善された適合が可能となる。
【0066】
好ましくは、代替的にまたは累積的に、脛骨ベアリング面は、複数の接触点によって形成されるガイド曲率線に沿って大腿骨ベアリング面を受け入れ、かうスライド可能なスライドベアリングのために構成されてもよく、これにより、人工膝関節の屈曲角度30°から約90°までの屈曲の間に、(実生活において(例えば、手術前および/または患者への移植後の関節において)および/または仮想的に(例えば、3D有限要素法を用いてコンピュータモデルにおいてシミュレート可能な))以下の(代替的かつ特に累積的な)運動学的(サブ)基準に基づいて定量化可能な特定の動作がトリガされ、または展開される。
【0067】
(i)さらに、特に内側ベアリングシェルに配置された脛骨部の長手方向軸に平行な外旋軸を中心とする大腿骨部の外旋が、それによって好ましくは効果的に行われる。
(ii)さらに好ましくは、それによって大腿骨のロールバックが実現される。さらに好ましくは、大腿骨のロールバックは、30°でマイナス1.5mm以下、および/または、60°でマイナス6mm以下、および/または、約90°の屈曲角度でマイナス11mm以下であってよい(この点において、ロール-フロント軸、すなわち前方向に正の座標軸に関連する場合、負の範囲の値である)。従って、これは、好ましくは、大腿骨のロールバックの量の値が、30°では1.5mm以上、および/または、60°では6mm以上、および/または、約90°の屈曲角度では11mm以上であってもよいことを意味する。
(iii)さらに好ましくは、大腿骨の動きは、(いずれにせよ最小限の)ロールフロントから、約10°~20°、特に約14度の屈曲角度の反転範囲において、ロールバック(量がさらに増加する方向)に変化する。
(iv)さらに好ましくは、(反転範囲に達するまで)屈曲角約10~20°、特に約14度において、大腿骨のロールフロントは、2mm以下であってもよい。屈曲角度が10~20°、特に約14度のとき(すなわち、低屈曲または早期屈曲のとき)、大腿骨のロールフロントは、2mm以下、特に約0.5mm以下であってもよい。
【0068】
上述したすべての代替的または累積的な独立した特徴は、運動学的動作のさらなる最適化に具体的に貢献することができる。特に、患者の個々の症例、または特定の病名、診断、ニーズなどを有する患者グループによっては、単一の(サブ)特徴、またはいくつかの(サブ)特徴、またはすべての(サブ)特徴を組み合わせて、または相乗的に使用することが好ましい場合もあれば、そうでない場合もある。
【0069】
好ましくは、代替的または累積的に、脛骨ベアリング面は、大腿骨ベアリング面を受け入れてスライド可能なスライドベアリングのために構成することができ、これにより、人工膝関節の屈曲角度30°から約90°までの屈曲の間に、以下の(代替的かつ特に累積的な)運動学的(サブ)基準に基づいて(実生活において、および/または仮想的に(例えば、コンピュータモデルにおいてシミュレーション可能な))定量化可能な特定の動作が行われる:
デルタ1mm~4mmの内側後方への移動
デルタ8mm~11mmの側方後方への移動
【0070】
この結果、安定した立脚相と自由なスイング相が得られるという効果が得られる。
【0071】
本開示の第2の態様として、本開示による人工膝関節用に構成された対応するインレーが提案される。それにより、上記で既に説明したように、インレーは、人工膝関節の脛骨部品の近位側に配置され、特に脛骨部品と一体的に形成され、および/または配置可能である。それにより、インレーの近位側表面は、凹状の内側ベアリングシェルおよび凹状の外側ベアリングシェルを有する脛骨ベアリング面を形成する。脛骨ベアリング面は、内側ベアリングシェルに大腿骨ベアリング面の固定内側ピボットを有することなく、凸状の内側大腿骨顆ベアリング面および凸状の外側大腿骨顆ベアリング面を有する大腿骨ベアリング面の受入れ、かつ、スライド可能なスライドベアリングのために構成される。これにより、内側ベアリングシェルと外側ベアリングシェルは、互いに対して非対称な脛骨ベアリング面を形成し、内側大腿骨顆ベアリング面と外側大腿骨顆ベアリング面は、互いに対して非対称な大腿骨ベアリング面を形成する。特に、非対称な大腿骨ベアリング面は、内側大腿骨顆ベアリング面と外側大腿骨顆ベアリング面との間に配置された矢状面に関して、または中央に配置された矢状面に関して、軸対称大腿骨ベアリング面として形成され得る。それにより、内側大腿骨顆ベアリング面と外側大腿骨顆ベアリング面は、少なくとも前方大腿骨顆半径において一致する。それにより、非対称脛骨ベアリング面は、外周近位の隆起輪郭を形成する。それにより、隆起輪郭は、少なくとも1つの前方隆起点を有する前方隆起輪郭部分と、少なくとも1つの後方隆起点を有する後方隆起輪郭部分とを有する。それにより、前方隆起点は、少なくとも1つの矢状面に関して、後方隆起点に対して近位側に隆起している。それにより、内側ベアリングシェルにおける前方隆起輪郭部分の前方-内側隆起輪郭部分は、前方-内側頂点として近位側に最も高い前方隆起点を形成する。
【0072】
このことは、特に、本開示による人工膝関節用に構成されたインレーの別個の製造(例えば、非金属加工、射出成形など)に関して、および工場または臨床工程における物流材料のフローに関して効果を奏する。
【0073】
以下では、本開示の有利な実施形態について、添付図を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【
図1】
図1は、人工膝関節全置換術のための人工膝関節の概略斜視図であり、特に、大腿骨ベアリング面を有する、大腿骨に遠位固定するように構成された大腿骨部品と、脛骨ベアリング面を有する、脛骨に近位固定するように構成された脛骨部品とが、その下方または遠位側に配置された全体配置を示す。
【
図2】
図2は、本開示による好ましい実施形態による内側安定化人工膝関節のインレーの上面斜視図であり、特に内側ベアリングシェルおよび外側ベアリングシェルの説明のために、脛骨ベアリング面が近位側を向いている(または、脛骨の上面または、脛骨部品の上面を向いている)として、後方外側からインレ―を見た図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る人工膝関節内インレーを前方内側から見た斜視図(
図2の上面図に対して空間を約180°回転した図)である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る人工膝関節のインレーを示す前面図である。
【
図5】
図5は、特に内側断面、中央断面、および外側断面(特に本質的に矢状面)のの位置の説明のための、実施形態による人工膝関節のインレーの後面図(
図4の図に対して空間を約180°回転させた図)である。
【
図6】
図6は、特に、脛骨ベアリング面としてのインレーと大腿骨ベアリング面との間の接触点の軌跡として形成されるのガイド曲率線の3つの変形例を説明するための、インレー上(または脛骨部の上側)に遠位側へ向かう視線方向で近位側から見た、実施形態による人工膝関節のインレーの上面図である。
【
図7】
図7は、
図5を参照して、特に内側ベアリングシェルの脛骨側湾曲線を前後方向に説明するための、実施形態に係る人工膝関節内インレーの内側断面の断面図である。
【
図8】
図8は、
図5を参照して、特に外側ベアリングシェルの前後方向の曲率線を説明するための、実施形態による人工膝関節のインレーの外側断面の断面図である。
【
図9】
図9は、本開示による人工膝関節の実施形態による大腿骨部品を後方から見た第1の(少し)斜視図であり、特に、大腿骨内側顆ベアリング面と大腿骨外側顆ベアリング面とが対称に形成された大腿骨ベアリング面を説明するための図である。
【
図10】
図10は、実施形態による大腿骨部品を斜め遠位方向から見た第2の斜視図であり、遠位方向に向けて(または大腿骨部品の下側に対して)大腿骨ベアリング面上を見る方向で見た図である。
【
図11a】
図11a~
図11cは、
図5を参照して、内側断面、中央断面および外側断面に関する、実施形態による人工膝関節の断面図であり、特に、伸展した人工膝関節において(すなわち、屈曲角度が約0°の状態において)、後-前方向に沿って、インレーの脛骨側湾曲線と大腿骨部品の大腿骨側湾曲線との一致を説明するための図である。
【
図11b】
図11a~
図11cは、
図5を参照して、内側断面、中央断面および外側断面に関する、実施形態による人工膝関節の断面図であり、特に、伸展した人工膝関節において(すなわち、屈曲角度が約0°の状態において)、後-前方向に沿って、インレーの脛骨側湾曲線と大腿骨部品の大腿骨側湾曲線との一致を説明するための図である。
【
図11c】
図11a~
図11cは、
図5を参照して、内側断面、中央断面および外側断面に関する、実施形態による人工膝関節の断面図であり、特に、伸展した人工膝関節において(すなわち、屈曲角度が約0°の状態において)、後-前方向に沿って、インレーの脛骨側湾曲線と大腿骨部品の大腿骨側湾曲線との一致を説明するための図である。
【
図12a】
図12a~
図12dは従来技術を示す
図13a~13dに対応しており、実施形態における人工膝関節の(特に準対称の大腿骨ベアリング面、とりわけ好ましい多半径設計の脛骨側湾曲線に対する)屈折角度が約0°(屈曲角度が約0°の状態)、約30°、約60°、または約90°の屈折において前後方向に沿ったそれぞれの断面図を示す図である。
【
図12b】
図12a~
図12dは従来技術を示す
図13a~13dに対応しており、実施形態における人工膝関節の(特に準対称の大腿骨ベアリング面、とりわけ好ましい多半径設計の脛骨側湾曲線に対する)屈折角度が約0°(屈曲角度が約0°の状態)、約30°、約60°、または約90°の屈折において前後方向に沿ったそれぞれの断面図を示す図である。
【
図12c】
図12a~
図12dは従来技術を示す
図13a~13dに対応しており、実施形態における人工膝関節の(特に準対称の大腿骨ベアリング面、とりわけ好ましい多半径設計の脛骨側湾曲線に対する)屈折角度が約0°(屈曲角度が約0°の状態)、約30°、約60°、または約90°の屈折において前後方向に沿ったそれぞれの断面図を示す図である。
【
図12d】
図12a~
図12dは従来技術を示す
図13a~13dに対応しており、実施形態における人工膝関節の(特に準対称の大腿骨ベアリング面、とりわけ好ましい多半径設計の脛骨側湾曲線に対する)屈折角度が約0°(屈曲角度が約0°の状態)、約30°、約60°、または約90°の屈折において前後方向に沿ったそれぞれの断面図を示す図である。
【
図13a】
図13a~
図13dは、(特に、非対称な大腿骨ベアリング面および一定の半径を有する脛骨側湾曲線に関して)従来から知られている内側安定化人工膝関節または内側ピボット設計の動作展開の説明のための従来技術における膝関節内人工関節の断面図であり、前後方向に沿って、約0°(角度ゼロ度、伸張時)、約30°、約60°、約90°の4つの屈曲角について示す図である。
【
図13b】
図13a~
図13dは、(特に、非対称な大腿骨ベアリング面および一定の半径を有する脛骨側湾曲線に関して)従来から知られている内側安定化人工膝関節または内側ピボット設計の動作展開の説明のための従来技術における膝関節内人工関節の断面図であり、前後方向に沿って、約0°(角度ゼロ度、伸張時)、約30°、約60°、約90°の4つの屈曲角について示す図である。
【
図13c】
図13a~
図13dは、(特に、非対称な大腿骨ベアリング面および一定の半径を有する脛骨側湾曲線に関して)従来から知られている内側安定化人工膝関節または内側ピボット設計の動作展開の説明のための従来技術における膝関節内人工関節の断面図であり、前後方向に沿って、約0°(角度ゼロ度、伸張時)、約30°、約60°、約90°の4つの屈曲角について示す図である。
【
図13d】
図13a~
図13dは、(特に、非対称な大腿骨ベアリング面および一定の半径を有する脛骨側湾曲線に関して)従来から知られている内側安定化人工膝関節または内側ピボット設計の動作展開の説明のための従来技術における膝関節内人工関節の断面図であり、前後方向に沿って、約0°(角度ゼロ度、伸張時)、約30°、約60°、約90°の4つの屈曲角について示す図である。
【
図14】
図14は、スライドベアリングの関節形成に対する脛骨ベアリング面および大腿骨ベアリング面の異なる形状設計の影響を説明するための、すなわち、本開示による膝関節内人工関節のさらに好ましい実施形態と、従来技術による3つの既知の膝関節内人工関節(または、、3つの製造業者から市販されている製品)との比較のための、4本の運動学的特性線を有する特性図であり、約0°から約90°の範囲における大腿骨の「ロールバック」の依存性を示しており、屈曲角0°から約90°までの範囲における大腿骨の「ロールバック」のの依存性を、運動学的有限要素シミュレーションによって求めたものである。
【発明を実施するための形態】
【0075】
図1は、人工膝関節全置換術のための全体的な配置を説明するための、本開示による人工膝関節100を後方外側から見た概略斜視図である。
【0076】
本開示による人工膝関節100の近位(上部)部分としての大腿骨部品50(または、大腿上部または大腿骨部)は、好ましくは、大腿骨ベアリング面を形成するための2つの顆ハーフシェルを備えることができる。大腿骨部品50を単体で示した
図9および
図10を参照すると、大腿骨ベアリング面は、凸状の内側大腿骨顆ベアリング面51および凸状の外側大腿骨顆ベアリング面52を有することがわかる。これにより、外側大腿骨顆ベアリング面52は、(本質的に)内側大腿骨顆ベアリング面51と同じか、または、内側大腿骨顆ベアリング面51に対して対称に形成される。
【0077】
図1に概略的に示すように、大腿骨部品100は、損傷した関節面の除去後に、外科医によって大腿骨の遠位端(顆または関節軟骨の位置)に配置されるように構成されている。例えば、大腿骨部品100は、例示のためにのみ示された2つの関節ピン(
図1の図では垂直に盛り上がっている)を用いて、大腿骨の近位端に対向して固定することができる。
【0078】
図1はまた、大腿骨部品を摺動変位可能に、または摺動ベアリング可能に取り付ける脛骨部品10の遠位側(
図1の図では下側)における人工膝関節100の固定を例示している。したがって、脛骨部10には、例としてのみ図示した短いシャフト30があり、このシャフト30は、遠位側に向かって下腿骨に固定することができる。好ましくは、シャフト30または、脛骨部10の遠位側アンカー構造は、金属合金および/またはセラミック、および/または、好ましくは熱可塑性および/またはジュロプラスチック、ポリマー、例えば、ポリエチレン(「オールポリ」脛骨部)および/または高性能ポリマー(例えば:PEEK)で形成されていてもよい。
【0079】
本開示による人工膝関節100の遠位(下側)部分としての脛骨部品10(または、脛骨、下腿または脛骨部)は、好ましくは、平坦な円板または、プラトー状の支持構造体の態様で形成され得る。脛骨部10は、脛骨ベアリング面として、天然の脛骨の関節面を置換するために、大腿骨部10に対する対向側ベアリング部品として設けられる。
【0080】
特に、(以下の
図2~
図8を参照して)脛骨ベアリング面11は、脛骨部10に近接配置および/または配置可能なインレー20の近位面として形成することができる。これについては、本開示の好ましい実施形態によるインレー20の関連図を参照して以下に詳細に説明する。
【0081】
図2から
図8は、本開示による実施形態による内側安定化人工膝関節100のインレー20の異なる図を示す。したがって、
図2および
図3は、後方外側視点(
図2)または前方内側視点(
図3)から見た斜視図である。近位側を向いた(すなわち、患者が直立した状態で、
図1の脛骨の上側または脛骨部品10の)脛骨ベアリング面11を見る方向において、本質的に凹状の内側ベアリングシェル21および本質的に凹状の外側ベアリングシェル22が見て取れる。対応する凸状の内側大腿骨顆ベアリング面51および凸状の外側大腿骨顆ベアリング面52(
図9および
図10参照)は、これらに摺動可能に軸受支持することができる。これにより、内側ベアリングシェル21と外側ベアリングシェル22とは、横軸に沿って並んで配置される。
【0082】
脛骨ベアリング面15の内側領域を画定する内側ベアリングシェル21と、脛骨ベアリング面15の外側領域を画定する外側ベアリングシェル22は、それらの間に脛骨ベアリング面15の中央領域を取り囲む(
図5において、内側、中央または外側の矢状断面面の指定を参照)。これにより、脛骨ベアリング面15は中央領域で狭くなっている。さらに、脛骨ベアリング面は、わずかなU字形状、または腎臓皿形状に形成され、その形状の開口部は後方に向いている。
【0083】
中央領域は、膝蓋骨(腱)の空間的な移動のための空間を形成するための前方膝蓋骨突起部25(
図2、3および6)として機能する突起部またはカットアウト、湾曲部へと前方に移行する。この目的のために、脛骨ベアリング面15を取り囲む(近位)隆起輪郭は、前中心に(本質的に)凹んで形成される。これにより、膝蓋骨突起部25は、凹状の曲率の大きさに関して、個人および/または典型的な膝蓋骨(腱)の所定の曲率半径に対応する。特に
図6の上面図から分かるように、膝蓋骨突起部25は非対称に形成されている。これにより、内側ベアリングシェル21の方が外側ベアリングシェル22よりも近位側に盛り上がった隆起輪郭部分の形成が可能となる。この点で、膝蓋骨突起部は、脛骨ベアリングシェル15の中央領域において、前方内側頂点Pに向かう前方隆起輪郭部分の急な隆起を形成するために、非対称に形成されている。
【0084】
特に
図2および
図3の斜視図形式からさらに分かるように、内側ベアリングシェル21および外側ベアリングシェルは、(立体的に)それらの三次元包絡線輪郭に関して、特にそれらの近位高さ輪郭(外側の円周方向に連続的に描かれた胴縁として認識可能)に関して異なる形状である。したがって、内側ベアリングシェル21は、全体的に近位側(または上方側)に向かってより顕著な形状を有する。この点で、内側ベアリングシェル21は、その前側で、または、前方内側頂点Pで頂点となるように前側リップを形成するための前方内側隆起輪郭部分で隆起しており、それにより、前方内側頂点Pは、近位側に向かって最も隆起した(または、横断面に対して最も高い)少なくとも1つの点と一致する。この好ましい形状により、スライドベアリング案内は、外側よりも内側でより顕著になる。
【0085】
したがって、内側ベアリングシェル21および外側ベアリングシェル22は、互いに対して非対称な脛骨ベアリング面15を形成する。特に、この非対称性は、それらの間(即ち中心)に広がる矢状面に関係するか、または形成される。
【0086】
インレー20の背面図(後方から)を示す
図5の参照符号から特に分かるように、内側ベアリングシェル21および外側ベアリングシェル22を有する非対称脛骨ベアリング面15を外側で取り囲む近位隆起輪郭を示している。隆起輪郭の前方隆起輪郭部分(
図5の後方輪郭線)には、複数の前方隆起点H-antが存在する。隆起輪郭の後側隆起輪郭部分(
図5の前側輪郭線)上には、複数の後側隆起点H-postが存在する。
図5に示すように、全ての前方隆起点H-antは、全ての後方隆起点H-postに対して、近位側に隆起しているか、または高くなっている。特に、これは内側矢状面、中央矢状面、および外側矢状面に対して正であり、それらの断面を破線で示す。対応する断面図は、
図7と
図11a(内側断面)、
図11b(中央断面)、および
図8と
図11c(外側断面)に示されている。換言すれば、前方隆起輪郭部分全体は、後方隆起輪郭部分全体に対して近位側に(向かって)隆起している。言い換えれば、後方隆起輪郭部分全体は、前方隆起輪郭部分全体に対して遠位側に(向かって)低くなっている。このことは、
図4に示す実施形態による膝関節内反器具100のインレー20の正面図において、後方隆起輪郭部分全体への視界が前方隆起輪郭部分の背後に隠れたままであるという事実にも反映されている。それにより、前方内側頂点Pは、前方隆起輪郭部分上の少なくとも1つの近位に最も高くなった(または、横断面に対して最も高くなった)隆起点H-antを形成する。
【0087】
特に、
図6は、インレー20の上面図であって、近位側の視点からインレー上(または、脛骨部の上側)の遠位側に向かう視線方向で見た図であり、ガイド曲率線の3つの独立した好ましい実施形態または、変形例a、b、cを説明するものである。これにより、(スライドベアリングの)ガイド曲率線として、脛骨ベアリング面15を形成するインレー20の(表面)領域と大腿骨ベアリング面55との間の接触点の軌跡を描く1本の線が指定される。変形例bは、第2のガイド曲率線a(わずかに湾曲している)および第3のガイド曲率線c(ほぼ直線)の変形例と比較して、最も強い曲率半径で顕著な第1のガイド曲率線(より湾曲している)を示す。第1のガイド曲率線bは、本開示にしたがって行われる運動学的なスライドベアリングまたはガイドを表し、このガイド曲率線bでは、後方に向かう軌道が中心に向かってより強い屈曲となる。内側の第1のガイド曲率線bに関して、対応する軌道は、内側ベアリングシェル21の中央領域から後方に向かう道筋に沿って、中央または外側に向かう方向により強い屈曲を受ける。
【0088】
先に述べたように、内側方では多かれ少なかれ固定的になる傾向があるが、外側方では後方または後方への回避運動が作用する。従って、内側ベアリングシェル21と外側ベアリングシェル22との間の距離Aのインレー(
図5参照)は固定されているので、外側接触点は、インレー20の中央領域に向かって後方およびわずかに内側に移動するか、または、側方に向かって回転する。
【0089】
特にそのガイド曲率線は、(特許請求の範囲に記載された技術的特徴に対する累積的特徴または代替的特徴の意味において)脛骨ベアリング面19の中心から76~78mm、特に約77mmの曲率半径で円形に描かれる最適な軌道を(少なくとも後方軌道断面において)描くことが見出されている。前述の特に好ましい曲率半径は、より大きいまたはより小さい曲率半径と比較して、本開示による人工膝関節の可動性を最適化し、その摩耗を最小化することができる。さらに、これによって外側一致が補償される。さらなる効果は、膝のロールバックが可能になることである(
図14を参照)。さらに、膝の回転運動(回旋)能力は、スライドベアリングの最大適合性と同時に、肯定的な意味で重要である。
【0090】
図7または8は、
図5を参照して、インレー20の内側断面の矢状断面図またはインレー20の外側断面の矢状断面図を示している。
図7から、内側ベアリングシェル21の(脛骨側の)後前方向の湾曲線を見ることができる。一方、
図8からは、外側ベアリングシェル22の後前方向の曲率線が見える。
【0091】
図7では、前方ベアリング高さhまたは後方ベアリング高さhが、類似の方法で、すなわち、上方(近位)ベアリングシェル端部としての前方隆起点H-antまたは後方隆起点H-postから測定したときの内側ベアリングシェル21の深さ(または外側ベアリングシェル22の深さ)として、どのように定義されるのかが理解される。
【0092】
図7の内側矢状面内にある後方隆起点H-post(
図5参照)は、後方ベアリング高さhを形成し、それにより、後方ベアリング高さは、凹状の内側ベアリングシェル21内の近位側で最も低い(すなわち、近位側で最も高さの低い)ベアリング低点Tに関連している。
図7の内側矢状面に位置する前方隆起点H-ant(
図5参照)は、前方ベアリング高さh(参照符号なし)を形成する。これにより、前方ベアリング高さは、既に後方ベアリング高さhと同様に、ベアリング低点Tに関連している。前方隆起輪郭部分、特に内側ベアリングシェル21の前方隆起輪郭部分が、後方隆起輪郭部分よりも高く(より近位に)描かれているという、
図4および
図5を参照して既に述べた特徴によれば、前方ベアリング高さは、後方ベアリング高さhよりも大きいことがわかる。また、最大前方ベアリング高さは前方内側頂点Pにおいて形成される(
図5を参照)。
【0093】
その内側矢状面について
図7で見たように、内側ベアリングシェル21において、前方ベアリング高さは、前方隆起点H-antから(ピッチ三角形の頂点として)近位側で最も低いベアリング低点Tまでピッチ三角形状にまたがる。これにより、ピッチ三角は、ベアリング低点に配置された内側ピッチ角β-medを形成する。
図7に示された内側ピッチ角β-medは、約22度である。このように、人工膝関節における所望の内側前方安定化が最適にさらにサポートされる。
【0094】
図7(内側矢状面)で見ると、内側ベアリングシェル21は、前方内側脛骨ベアリング面半径R1-med/antを第1の半径として凹状に湾曲した第1の前方表面部分を有する。さらに、内側ベアリングシェル21は、後内側脛骨ベアリング面半径R2-med/postを第2の半径としてこれとは異なる凹状に湾曲した後面部を有する。これにより、後内側脛骨ベアリング面半径R2-med/postは、前方内側脛骨ベアリング面半径R1-med/antよりも小さくなっている。
【0095】
前方内側脛骨ベアリング面半径R1-med/antは、大腿骨部品の前方大腿骨顆半径R3に対応する(
図11a参照)。これにより、前方大腿骨顆半径R3は、好ましくは、特定の大腿骨サイズクラスに従った自然な大腿骨顆または代表的な大腿骨顆の大腿骨半径に従って選択することができる。
【0096】
後方内側脛骨ベアリング面半径R2-med/antは、大腿骨部品の後方大腿骨顆半径R4に対応する(
図11a参照)。これにより、後方大腿骨顆半径R4は、好ましくは、特定の大腿骨サイズクラスに従った自然な大腿骨顆または代表的な大腿骨顆の大腿骨半径に従って選択することができる。
【0097】
図8(外側矢状面)に示すように、外側ベアリングシェル22は、前方外側脛骨ベアリング面半径R5-lat/antを第5半径として凹状に湾曲した前面部を有する。さらに、外側ベアリングシェル22は、後方外側脛骨ベアリング面半径R6-lat/postを第6半径としてこれとは異なる凹状に湾曲した後面部を有する。これにより、後方外側脛骨ベアリング面半径R6-lat/postは、前方外側脛骨ベアリング面半径R5-lat/antよりも大きい。
【0098】
前方外側脛骨ベアリング面半径R5-lat/antは、前方大腿骨顆半径R3に対応する(
図11c参照)。
【0099】
後方外側脛骨ベアリング面半径R6-lat/postは、本開示によれば、後方外側に縮小した一致を形成するために、後方大腿骨顆半径R4(
図11c参照)に比べて大きく形成される。この目的のために、脛骨ベアリング面半径R6-lat/postは80mmである。
【0100】
図7がさらに示すように、後方隆起点H-postから遠位側に向かって斜めに延びる後方内側相60が内側ベアリングシェル21に設けられている。この後方内側フェーズ部60は、強い屈曲時に後方内側において生じる可能性のある骨と内側ベアリングシェル21との衝突を緩和するために、内側ベアリングシェル21からの周辺材料削減の役割を果たす。
図7のシートの矢状面において、内側後方フェーズ部60は、横断面(例えば、インレー20の平坦な底板)に対して後方フェーズ角δをなしている。後方内側フェーズ部60は、約35度の後方フェーズ角δで面取りされている。
【0101】
図8がさらに示すように、後方隆起点H-postで遠位側に向かって斜めに延びる後方外側フェーズ部70が外側ベアリングシェル22にある。後方内側フェーズ部60がそうであったように、後方外側フェーズ部70もまた、周辺材料削減のために有用である。
図8紙面上の矢状面において、後方外側フェーズ部70は横断面に対して後方フェーズ角δをなしている。これにより、後方フェーズ角δは約10°を測定する。さらに、後方外側フェーズ部70は、約12mmの後方外側曲率半径rで丸みを帯びている。この点について、後方外側フェーズ部70は、後方外側脛骨ベアリング面半径R6-lat/postを有する後表面部分の一致部分を短縮し、これはラインベアリング部分sと呼ばれる。ラインベアリング部分sは、インレー20の前胴縁から測定して、矢状軸に沿ってインレー20の明示的な幅の90%である。
【0102】
図9および10は、本開示による人工膝関節の実施形態による大腿骨部品50の第1および第2の斜視図である。
図9は、後方から見た視点である。
図10は、斜め遠位方向から見たときの
図9に対して空間内で回転させた斜視図であり、遠位方向に向けて、または大腿骨部品50の下側に対して配向された大腿骨ベアリング面上への視線方向に沿っている。
図9および10から明らかなように、
図1に関連して既に説明したように、内側大腿骨顆ベアリング面51および外側大腿骨顆ベアリング面52は、大腿骨ベアリング面の2つの(本質的に)同一形状の領域として、後者を対称に形成している。
【0103】
特に
図9からさらに分かるように、丸みを帯びた三角形状の大腿骨部品50の前方キャップ状部分の形状は、非対称性、特に矢状面に関して軸対称の大腿骨ベアリング面の特徴の評価には無関係である。この点について、大腿骨ベアリング面として機能する大腿骨内側顆ベアリング面51と大腿骨外側顆ベアリング面52の比較を考慮に入れなければならない。言い換えれば、これらの表面領域は、(正屈曲時に)摺動可能なスライドベアリングを形成するために設けられた脛骨ベアリング表面との(機能的に意図された)接触領域を形成する大腿骨ベアリング表面として関連する。接触ゾーンまたは一致性に関する詳細については、後述する
図11a~11cを参照されたい。
【0104】
図11a~11cは、実施形態による膝関節内反の、後-前方向(すなわち矢状面において、
図11では左側が後方)に沿った断面図である。すなわち、
図5に描かれた断面線を参照すると、これらは内側断面(
図11a)、中央断面(
図11b)、および外側断面(
図11c)に関するものである。これにより、伸展した膝関節内反(すなわち、屈曲角度がほぼ0°の状態)の状況が示されている。
【0105】
ここに示した3つの断面は、インレー20に支持された大腿骨部品50からの摺動可能なスライドベアリングの形成に関して関連している。したがって、(内側断面については
図7を参照して上述し、外側断面については
図8を参照して上述したように)インレー20の脛骨側の曲率線と大腿骨部品50の大腿骨側の曲率線との高い一致性が明らかとなっている。
【0106】
図11a(内側矢状面)が示すように、内側大腿骨顆ベアリング面51は、前方大腿骨顆半径R3を第3半径として凸状に湾曲した前面部を有する。矢状面の反対側では、内側大腿骨顆ベアリング面51は、後側大腿骨顆半径R4を第4半径として凸状に湾曲した後面部を有する。
【0107】
図11a~11cにおいて、大腿骨部品50は、前方大腿骨顆半径R3および後方大腿骨顆半径R4が、これらが患者の特定の大腿骨サイズクラスに適合するように予め決定されるような好ましい態様で形成されている。従って、前方大腿骨顆半径R3は、特定の大腿骨サイズクラスによる自然なまたは代表的な大腿骨顆の前方大腿骨半径に対応し、後方大腿骨顆半径R4は、特定の大腿骨サイズクラスによる後方大腿骨半径に対応する。
【0108】
図11aに示す伸展位置(屈曲角度0°)では、
図7を参照して詳述したように、インレー20の内側ベアリングシェル21と、内側ベアリングシェル21上に摺動自在に支持されている大腿骨部品50との、特にクリアランス嵌合による高い適合性が示されている。
【0109】
図11aに示す伸展位置(屈曲角度0°)では、
図7を参照して詳述したように、インレー20の内側ベアリングシェル21と、内側ベアリングシェル21上に摺動自在に支持されている大腿骨部品50との、特にクリアランス嵌合による高い適合性が示されている。
図11c(外側矢状面)が示すように、外側大腿骨顆ベアリング面52は、前側または後側の表面部分を有し、この表面部分は、大腿骨ベアリング面の対称性により、大腿骨のサイズクラスに応じて、前側大腿骨顆半径R3(第3半径)または後側大腿骨顆半径R4(第4半径)で凸状に湾曲している。これにより、外側大腿骨顆ベアリング面52は、
図8を参照して詳細に説明したインレー20の外側ベアリングシェル22により摺動可能に支持される。図示された伸展位置(屈曲角度0°)から、(特に前方の)一致が見られる。
【0110】
本開示の
図12a~12dは、従来の状態を示す
図13a~13dとは対照的に、実施形態による人工膝関節100の、前後方向に沿った断面図を示す。これにより、人工膝関節100は、大腿骨部品50(
図8および
図9参照)と相互作用するインレー20(
図2~7参照)を含む。連続する図面から、膝関節屈曲時の運動学的動作に関し、0°(
図12a)の伸展脚から約30°(
図12b)の中屈曲まで、60°(
図12c)まで、そして膝を垂直に曲げた状態に対応する約90°(
図12d)までの屈曲角度という、約0°から始まる4つの屈曲角度について見ることができる。
図12a~12dはこのように、特に準対称的な大腿骨ベアリング面の効果に関して、さらに脛骨側湾曲線の特に好ましい複数の半径設計に係る変形例に関し、本開示による動作展開を示している。
図12b~12dのシーケンスでは、本開示による可動域Bが両矢印で示されている。このことから、このようなものが、膝関節内反膝関節100の矢状幅の大部分にわたって積極的に存在することが分かる。さらに、約90°屈曲時の可動域Bがさらに増大するという意味で、特に高い柔軟性が見られる。さらに、約90°屈曲時の可動域Bがさらに増大するという意味で、特に高い柔軟性が見られる。ここに示した運動学的特性は、アスレチックな動作をサポートするものである。
【0111】
図13a~13dは、上述した
図12a~12dに類似して、当技術分野の現状に従った人工膝関節の対応するの断面図を示す。従って、
図13のa~dは、従来から知られている内側で安定した人工膝関節の、または内側ピボット設計の、従来の動作展開を示している。両矢印で指定された可動域Bから、約30°(
図13b)、約60°(
図13c)、または約90°(
図13d)の寸法であることがわかる(
図13b)。90°(
図13d)の屈曲角度は、当技術分野ではわずかに、あるいは狭く制限されている。これにより、従来の狭い可動範囲は、非対称な大腿骨ベアリング面および一定の半径を有する脛骨側湾曲線を有する内側ピボット設計によるものである。
【0112】
図14は、のスライドベアリングの関節形成に対する脛骨ベアリング面および大腿骨ベアリング面の異なる形状設計の影響を比較説明するための4本の運動学的特性線による特性図である。特性線図では、屈曲角αが大腿骨のロールバックΔに及ぼす影響が示されている。これにより、大腿骨のロールバックΔは、これが後方への動きに関連する場合は負の値(負の値範囲)の形で示されている。言い換えれば、特性線図における大腿骨ロールバックの正のy値は、逆にロールフロントの動きを示す。これにより、それぞれの特性線は、有限要素計算に基づく運動学的シミュレーション法を用いて、屈曲角約0°から約90°の範囲で等しく決定される。これにより、後十字靭帯のない状態をそれぞれシミュレーションした。
【0113】
一方では、本開示による人工膝関節のさらに好ましい実施形態が、連続的に描かれた特性線によって示されている。他方では、3つの製造業者から市販されている製品に関連する、従来技術から知られている異なる人工膝関節の3つの特性線が比較されている。
【0114】
図14は、屈曲角約30°または約45°まで正のy値を示す限りにおいて、これまで知られていた3つの人工膝関節では、いずれも、初期屈曲において異なる高いレベルのロールフロントの動きが作用していることを示している。よって、
図14の3つの破線特徴線は、既知の人工膝関節である「PFC Sigma」(J&J社製造)、「Columbus」(Aesculap社製造)、「Attune」(Depuy社製造)をこの順番で示している。これまで知られていた3種類の人工膝関節では、屈曲角度を上記の値よりさらに大きくして初めて自然なスポーツ動作をエミュレートするために望まれるロールバック(負の値)が実現される。
【0115】
対照的に、本開示によるさらに好ましい実施形態では、連続的に描かれた特性線は、これが著しく有利な態様で従来技術とは異なることを証明している。したがって、後十字靭帯がない状況であっても、注目すべき初期屈曲におけるロールフロントの発生(値の正の範囲)が最小であり、また、さらに屈曲していくにつれて非常に良好な(直線的な)ロールバックが示されている。
【0116】
図14の特性図にプロットされているように、さらに好ましい実施形態の人工膝関節では、大腿骨のロールバックが生じる。大腿骨のロールバック(ロールフロント軸、すなわち前方向に正の座標軸に関連するため、負の範囲の値として認識可能)は、約90°の屈曲角度において、30°でマイナス1.5mm以下、60°でマイナス6mm以下、マイナス11mm以下である。従って、これは、大腿骨のロールバックの量値が、好ましくは、30°で1.5mm以上、および/または、60°で6mm以上、および/または、約90°の屈曲角度で11mm以上であることを意味する。
【0117】
さらに、さらなる好ましい実施形態の開示による特性線から、屈曲角度約14°の反転範囲において、大腿骨の動きが(いずれにせよ最小の)ロールフロントからロールバックに変化することがわかる(その量値はさらに増加する)。屈曲角度が約14°で反転域に達するまでは、すなわち、低屈曲または早期屈曲では、大腿骨のロールフロントは約0.5mm以下である。
【0118】
図14の特性図からのこれらの結果は、初期屈曲における安定性を確保するために完全な一致が必要でないことを確認するものである。そして、本開示に従って、完全な一致から逸脱することによって、これが、さらなる屈曲における所望の大腿骨のロールバックに悪影響を及ぼさないか、または、抑制することが有利に達成され得る。
【符号の説明】
【0119】
10 脛骨部品
15 脛骨ベアリング面
20 インレー
21 内側ベアリングシェル
22 外側ベアリングシェル
25 膝蓋骨突起部
50 大腿骨部品
51 内側大腿骨顆ベアリング面
52 外側大腿骨顆ベアリング面
55 大腿骨ベアリング面
60 後方内側フェーズ部
70 後方外側フェーズ部
100 人工膝関節
B 可動域
H-ant 前方隆起点
H-post 後方隆起点
P 前方内側頂点
R1-med/ant 前方内側脛骨ベアリング面半径(第1半径)
R2-med/post 後方内側脛骨ベアリング面半径(第2半径)
R3 前方大腿骨顆半径(第3半径)
R4 後方大腿骨顆半径(第4半径)
R5-lat/ant 前方外側脛骨ベアリング面半径(第5半径)
R6-lat/post 後方外側脛骨ベアリング面半径(第6半径)
T ベアリング低点
a 第2ガイド曲率線
b 第1ガイド曲率線
c 第3ガイド曲率線
h ベアリング高さ
r 曲率半径
s ラインベアリング部分
β-med 内側ピッチ角
δ 後方フェーズ角
【手続補正書】
【提出日】2024-04-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
後十字靭帯の温存または切断を伴う人工膝関節全置換術のための内側安定化人工膝関
節であって、
大腿骨の遠位端に固定されるように構成された大腿骨部
品上に遠位方向に向けて設けられる大腿骨ベアリング
面と、
脛骨の近位端に固定されるように構成された脛骨部
品上に近位方向に向けて設けられる脛骨ベアリング
面と、
を備え、
前記大腿骨ベアリング
面は、凸状の内側大腿骨顆ベアリング
面と、凸状の外側大腿骨顆ベアリング
面と、を有しており、
前記脛骨ベアリング
面は、凹状の内側ベアリングシェ
ルと、凹状の外側ベアリングシェ
ルと、を有するとともに、前記内側ベアリングシェ
ルに前記大腿骨ベアリング
面の固定内側ピボットを設けることなく、前記大腿骨ベアリング
面を受け入れ、かつ、スライド可能なスライドベアリングのために構成されており、
前記内側ベアリングシェ
ルおよび前記外側ベアリングシェ
ルは、互いに対して非対称な脛骨ベアリング
面を形成し、
前記内側大腿骨顆ベアリング
面および前記外側大腿骨顆ベアリング
面は、互いに対して非対称または準対称の大腿骨ベアリング
面を形成し、
前記内側大腿骨顆ベアリング
面と前記外側大腿骨顆ベアリング
面は、少なくともそれぞれの前方大腿骨顆半
径において一致し、
非対称な前記脛骨ベアリング
面は、外周近位の隆起輪郭を形成し、
前記隆起輪郭は、少なくとも1つの前方隆起
点を有する前方隆起輪郭部分と、少なくとも1つの後方隆起
点を有する後方隆起輪郭部分と、を有し、
前記前方隆起
点は、少なくとも1つの矢状面に関して、前記後方隆起
点に対して近位側に隆起しており、
前記内側ベアリングシェ
ルにおける前記前方隆起輪郭部分の前方内側隆起輪郭部分は、前方内側頂
点として近位側に最も高い前方隆起
点を形成する、
人工膝関
節。
【請求項2】
前記前方隆起
点は、矢状面に対して、凹状の前記内側ベアリングシェルおよび/または前記外側ベアリングシェ
ルにおける近位側で最も低いベアリング低
点について前方ベアリング高さを形成し、
前記後方隆起
点は、矢状面に関して、凹状の前記内側ベアリングシェルおよび/または前記外側ベアリングシェ
ルにおける近位側で最も低いベアリング低
点について後方ベアリング高
さを形成し、
前記前方ベアリング高さは、前記後方ベアリング高
さよりも大き
い、請求項1に記載の人工膝関
節。
【請求項3】
内側矢状面で見たときに、前記前方ベアリング高さを有する前記前方隆起
点から前記内側ベアリングシェ
ル内の近位側で最も低い前記ベアリング低
点にまたがるピッチ三角形は、近位側で最も低い前記ベアリング低
点において内側ピッチ
角を形成し、
前記内側ピッチ
角は12°~32
°である、請求項2に記載の人工膝関
節。
【請求項4】
前記内側大腿骨顆ベアリング
面の最も遠位側の点は、前記脛骨ベアリング
面の前記内側ベアリングシェ
ルと屈曲角0°で接触する内側伸展ベアリング面接触点を形成し、
前記内側大腿骨顆ベアリング
面の前縁に関連する角度区分として矢状面に対する屈曲角度が約0°のとき、前記内側伸展ベアリング面接触点は、50°~70
°で配置され、および/または
前記内側ベアリングシェ
ルの前縁に関連する角度区分として矢状面に対する屈曲角度が約0°のとき、前記内側伸展ベアリング面接触点は、55°~75
°で配置される、請求項
1に記載の人工膝関
節。
【請求項5】
凹状の前記内側ベアリングシェ
ルは、内側矢状面に関して、
前方内側脛骨ベアリング面半
径を形成する第1半径を有する少なくとも一つの前面部分と、
前記第1半径とは異なるとともに
、後内側脛骨ベアリング面半
径を形成する第2半
径を有する少なくとも一つの後面部分と、
を形成
する、請求項
1に記載の人工膝関
節。
【請求項6】
凹状の前記外側ベアリングシェ
ルは、外側矢状面に関して、
前方外側脛骨ベアリング面半
径を形成する第5半径を有する少なくとも一つの前面部分と、
前記第5半径とは異な
る後方外側脛骨ベアリング面半
径を形成する第6半径を有する少なくとも一つの後面部分と
を形成
する、請求項
1に記載の人工膝関
節。
【請求項7】
前記内側ベアリングシェ
ルには、前記後方隆起
点から遠位側に向かって斜めに延びる、周辺材料削減のための後方-内側フェーズ
部が設けられており、
前記後方-内側フェーズ部は、矢状面に投影したとき、横断面に対して後方フェーズ
角をなしており、
前記後方-内側フェーズ
部が、30°~40
°の後方フェーズ
角で面取りされている、請求項
1に記載の人工膝関
節。
【請求項8】
前記外側ベアリングシェ
ルには、前記後方隆起
点において遠位側に向かって斜めに延びる、周辺材料削減のための後方-外側フェーズ
部が設けられており、
前記後方-外側フェーズ部は、矢状面に投影したとき、横断面に対して後方フェーズ
角をなしており、
前記後方-外側フェーズ
部が、5°~15
°の後フェーズ
角で形成され、および/または、10~14m
mの後側湾曲半
径で丸みを帯びている、請求項
1に記載の人工膝関
節。
【請求項9】
前記脛骨ベアリング
面は、前記内側ベアリングシェ
ルと前記外側ベアリングシェ
ルとの間の中央に設けられ、凹状の外側ボディ輪郭を有する前方の膝蓋骨突起
部を形成
する、請求項
1に記載の人工膝関
節。
【請求項10】
前記内側大腿骨顆ベアリング
面と前記外側大腿骨顆ベアリング
面が、その間に配置された矢状面に対し
て軸対称な大腿骨ベアリング
面を形成する、請求項
1に記載の人工膝関
節。
【請求項11】
前記内側大腿骨顆ベアリング
面が、少なくとも遠位内側表面部分において
、内側大腿骨顆ベアリング面半径を一定のまま有しており、
前記外側大腿骨顆ベアリング
面は、少なくとも外側内側表面部分において
、別の外側大腿骨顆ベアリング面半径を一定のまま有しており、
前記内側大腿骨顆ベアリング面半径および前記外側大腿骨顆ベアリング面半径は、互いにわずかに、すなわち最大で0.8~1.
2の比率係数だけ異なっている、請求項
1に記載の人工膝関
節。
【請求項12】
前記脛骨ベアリング
面が、複数の接触点によって形成されるガイド曲率
線に沿って、前記大腿骨ベアリング
面を受け入れ、かつ、スライド可能なスライドベアリングのために構成されており、前記人工膝関
節の屈曲の間
、屈曲角度が0°から約90°までとなるように構成されており、
マイナス0mm~マイナス11mmの幅の大腿骨ロールバックが実行され
る、請求項
1に記載の人工膝関
節。
【請求項13】
前記脛骨ベアリング
面は、歩行サイク
ルの下での人工膝関
節の屈曲の間に、前記大腿骨ベアリング
面を受け入れ、かつスライド可能なスライドベアリングのために構成されており、
大腿骨内側顆の、デルタ1mm~4m
mの内側への移動が行われ、
大腿骨外側顆のデルタ6mm~11m
mの外側への移動が行われ
る、請求項
1に記載の人工膝関
節。
【請求項14】
請求項
1に記載の人工膝関
節の前記脛骨部
品の近位側に配置され
、および/または配置可能なインレ
ーであって、
前記インレ
ーの近位側表面は、凹状の内側ベアリングシェ
ルと、凹状の外側ベアリングシェ
ルを有する前記脛骨ベアリング
面を形成し、
前記脛骨ベアリング面は、前記内側ベアリングシェ
ルに前記大腿骨ベアリング
面の固定内側ピボットを設けることなく、凸状の内側大腿骨顆ベアリング
面と、凸状の外側大腿骨顆ベアリング
面と、を有する前記大腿骨ベアリング
面を受入れ、かつ、スライド可能なスライドベアリングのために構成され、
前記内側ベアリングシェ
ルおよび前記外側ベアリングシェ
ルは、互いに対して非対称な脛骨ベアリング
面を形成し、
前記内側大腿骨顆ベアリング
面と前記外側大腿骨顆ベアリング
面は、互いに対して非対称な、大腿骨ベアリング
面を形成し、
前記内側大腿骨顆ベアリング
面と前記外側大腿骨顆ベアリング
面は、少なくともそれぞれの前方大腿骨顆半
径において一致し、
非対称な前記脛骨ベアリング
面は、外周近位の隆起輪郭を形成し、
前記隆起輪郭は、少なくとも1つの前方隆起
点を有する前方隆起輪郭部分と、少なくとも1つの後方隆起
点を有する後方隆起輪郭部分と、を有し、
前記前方隆起
点は、少なくとも1つの矢状面に関して、前記後方隆起
点に対して近位側に隆起しており、
前記内側ベアリングシェ
ルにおける前記前方隆起輪郭部分の前方内側隆起輪郭部分は、前方内側頂
点として近位側に最も高い前方隆起
点を形成する、
インレ
ー。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0118
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0118】
図14の特性図からのこれらの結果は、初期屈曲における安定性を確保するために完全な一致が必要でないことを確認するものである。そして、本開示に従って、完全な一致から逸脱することによって、これが、さらなる屈曲における所望の大腿骨のロールバックに悪影響を及ぼさないか、または、抑制することが有利に達成され得る。
以下、本明細書で開示する技術の特徴を列挙する。
(項目1)
後十字靭帯の温存または切断を伴う人工膝関節全置換術のための内側安定化人工膝関節(100)であって、
大腿骨の遠位端に固定されるように構成された大腿骨部品(50)上に遠位方向に向けて設けられる大腿骨ベアリング面(55)と、
脛骨の近位端に固定されるように構成された脛骨部品(10)上に近位方向に向けて設けられる脛骨ベアリング面(15)であって、特に、前記脛骨部品(10)の近位側に配置され、および/または配置可能なインレー(20)の近位側表面として形成されている、前記脛骨ベアリング面(15)と、
を備え、
前記大腿骨ベアリング面(55)は、凸状の内側大腿骨顆ベアリング面(51)と、凸状の外側大腿骨顆ベアリング面(52)と、を有しており、
前記脛骨ベアリング面(15)は、凹状の内側ベアリングシェル(21)と、凹状の外側ベアリングシェル(22)と、を有するとともに、前記内側ベアリングシェル(21)に前記大腿骨ベアリング面(55)の固定内側ピボットを設けることなく、前記大腿骨ベアリング面(55)を受け入れ、かつ、スライド可能なスライドベアリングのために構成されており、
前記内側ベアリングシェル(21)および前記外側ベアリングシェル(22)は、互いに対して非対称な脛骨ベアリング面(15)を形成し、
前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)および前記外側大腿骨顆ベアリング面(52)は、互いに対して非対称または準対称の大腿骨ベアリング面(55)を形成し、
前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)と前記外側大腿骨顆ベアリング面(52)は、少なくともそれぞれの前方大腿骨顆半径(R3)において一致し、
非対称な前記脛骨ベアリング面(15)は、外周近位の隆起輪郭を形成し、
前記隆起輪郭は、少なくとも1つの前方隆起点(H-ant)を有する前方隆起輪郭部分と、少なくとも1つの後方隆起点(H-post)を有する後方隆起輪郭部分と、を有し、
前記前方隆起点(H-ant)は、少なくとも1つの矢状面に関して、前記後方隆起点(H-post)に対して近位側に隆起しており、
前記内側ベアリングシェル(21)における前記前方隆起輪郭部分の前方内側隆起輪郭部分は、前方内側頂点(P)として近位側に最も高い前方隆起点(H-ant)を形成する、
人工膝関節(100)。
(項目2)
前記前方隆起点(H-ant)は、矢状面に対して、凹状の前記内側ベアリングシェルおよび/または前記外側ベアリングシェル(21,22)における近位側で最も低いベアリング低点(T)について前方ベアリング高さを形成し、
前記後方隆起点(H-post)は、矢状面に関して、凹状の前記内側ベアリングシェルおよび/または前記外側ベアリングシェル(21,22)における近位側で最も低いベアリング低点(T)について後方ベアリング高さ(h)を形成し、
前記前方ベアリング高さは、前記後方ベアリング高さ(h)よりも大きく、
より好ましくは、最大の前記前方ベアリング高さは、前方内側頂点(P)において形成される、
項目1に記載の人工膝関節(100)。
(項目3)
内側矢状面で見たときに、前記前方ベアリング高さを有する前記前方隆起点(H-ant)から前記内側ベアリングシェル(21)内の近位側で最も低い前記ベアリング低点(T)にまたがるピッチ三角形は、近位側で最も低い前記ベアリング低点(T)において内側ピッチ角(β-med)を形成し、
前記内側ピッチ角(β-med)は12°~32°、より好ましくは17~27°、特に22°である、
項目2に記載の人工膝関節(100)。
(項目4)
前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)の最も遠位側の点は、前記脛骨ベアリング面(15)の前記内側ベアリングシェル(21)と屈曲角0°で接触する内側伸展ベアリング面接触点を形成し、
前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)の前縁に関連する角度区分として矢状面に対する屈曲角度が約0°のとき、前記内側伸展ベアリング面接触点は、50°~70°、より好ましくは58°~62°、特に60°で配置され、および/または
前記内側ベアリングシェル(21)の前縁に関連する角度区分として矢状面に対する屈曲角度が約0°のとき、前記内側伸展ベアリング面接触点は、55°~75°、より好ましくは63°~67°、特に65°で配置される、
項目1から3のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
(項目5)
凹状の前記内側ベアリングシェル(21)は、内側矢状面に関して、
前方内側脛骨ベアリング面半径(R1-med/ant)を形成する第1半径を有する少なくとも一つの前面部分と、
前記第1半径とは異なるとともに、好ましくは前記第1半径よりも小さい、後内側脛骨ベアリング面半径(R2-med/post)を形成する第2半径(R2-med/post)を有する少なくとも一つの後面部分と、 を形成し、
特に、
前記前方内側脛骨ベアリング面半径(R1-med/ant)は、前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)の前面部分の第3の半径として指定される前記前方大腿骨顆半径(R3)と一致、特に同一に形成され、好ましくは、患者の大腿骨サイズクラスに従って予め決定され、および/または、
前記後内側脛骨ベアリング面半径(R2-med/post)は、前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)の後面部分の第4半径として形成される後側大腿骨顆半径(R4)と一致、特に同一に形成され、好ましくは、患者の大腿骨サイズクラスに応じて予め決定される、
項目1から4のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
(項目6)
凹状の前記外側ベアリングシェル(22)は、外側矢状面に関して、
前方外側脛骨ベアリング面半径(R5-lat/ant)を形成する第5半径を有する少なくとも一つの前面部分と、
前記第5半径とは異なる、好ましくは、前記第5半径より大きい、後方外側脛骨ベアリング面半径(R6-lat/post)を形成する第6半径を有する少なくとも一つの後面部分と
を形成し、
特に、
前記前方外側脛骨ベアリング面半径(R5-lat/ant)は、前記前方大腿骨顆半径(R3)と一致、特に同一に形成され、および/または
前記後方外側脛骨ベアリング面半径(R6-lat/post)は、前記後方大腿骨顆半径(R4)より大きく形成され、好ましくは少なくとも110%大きく、特に80mm以上である、
項目1から5のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
(項目7)
前記内側ベアリングシェル(21)には、前記後方隆起点(H-post)から遠位側に向かって斜めに延びる、周辺材料削減のための後方-内側フェーズ部(60)が設けられており、
前記後方-内側フェーズ部は、矢状面に投影したとき、横断面に対して後方フェーズ角(δ)をなしており、
前記後方-内側フェーズ部(60)が、30°~40°、より好ましくは33°~37°、特に約35°の後方フェーズ角(δ)で面取りされている、
項目1から6のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
(項目8)
前記外側ベアリングシェル(22)には、前記後方隆起点(H-post)において遠位側に向かって斜めに延びる、周辺材料削減のための後方-外側フェーズ部(70)が設けられており、
前記後方-外側フェーズ部は、矢状面に投影したとき、横断面に対して後方フェーズ角(δ)をなしており、
前記後方-外側フェーズ部(70)が、5°~15°、より好ましくは8°~12°、特に約10°の後フェーズ角(δ)で形成され、および/または、10~14mm、より好ましくは11.2~12.8mm、特に約12mmの後側湾曲半径(r)で丸みを帯びている、
項目1から7のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
(項目9)
前記脛骨ベアリング面(15)は、前記内側ベアリングシェル(21)と前記外側ベアリングシェル(22)との間の中央に設けられ、凹状の外側ボディ輪郭を有する前方の膝蓋骨突起部(25)を形成し、特に、前記膝蓋骨突起部(25)は、非対称に形成され、および/または、患者について予め決定された膝蓋骨サイズクラスおよび/または代表的な集団に関する膝蓋骨サイズ分布について統計学的に予め決定された50パーセンタイル値に一致するように形成される、
項目1から8のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
(項目10)
前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)と前記外側大腿骨顆ベアリング面(52)が、その間に配置された矢状面に対して本質的に軸対称な大腿骨ベアリング面(55)を形成する、項目1から9のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
(項目11)
前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)が、少なくとも遠位内側表面部分において、特に自然の大腿骨内側顆半径をエミュレートするための、内側大腿骨顆ベアリング面半径を一定のまま有しており、
前記外側大腿骨顆ベアリング面(52)は、少なくとも外側内側表面部分において、特に自然の外側大腿骨顆半径をエミュレートするための、別の外側大腿骨顆ベアリング面半径を一定のまま有しており、
前記内側大腿骨顆ベアリング面半径および前記外側大腿骨顆ベアリング面半径は、互いにわずかに、すなわち最大で0.8~1.2、好ましくは0.9~1.1、特に0.95~1.05の比率係数だけ異なっている、
項目1から10のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
(項目12)
前記脛骨ベアリング面(15)が、複数の接触点によって形成されるガイド曲率線(a、b、c)に沿って、前記大腿骨ベアリング面(55)を受け入れ、かつ、スライド可能なスライドベアリングのために構成されており、前記人工膝関節(100)の屈曲の間、好ましくは標準体重75kgの負荷の下で、屈曲角度が0°から約90°までとなるように構成されており、
マイナス0mm~マイナス11mmの幅の大腿骨ロールバックが実行され、
前記大腿骨ロールバックの好ましい態様は、前方に正の座標軸に関連する場合、30°でマイナス1.5mm以下、および/または60°でマイナス6mm以下、および/または約90°でマイナス11mm以下である、
項目1から11のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
(項目13)
前記脛骨ベアリング面(15)は、歩行サイクル、特に0~15~0~60°の屈曲角度での移動、好ましくは75kgの標準体重を有する歩行時の荷重の下での人工膝関節(100)の屈曲の間に、前記大腿骨ベアリング面(55)を受け入れ、かつスライド可能なスライドベアリングのために構成されており、
大腿骨内側顆の、デルタ1mm~4mm、好ましくは本質的に2mmの内側への移動が行われ、
大腿骨外側顆のデルタ6mm~11mm、好ましくは本質的に9mmの外側への移動が行われ、
屈曲角度0~15~0~60°の歩行サイクルの下で、好ましくは75kgの標準体重を有する歩行時の荷重の下で人工膝関節(100)を屈曲させる好ましい態様では、
前記大腿骨内側顆の、前方0mmから最大2mmへの移動、および後方2mmから0mmへの再度の移動が行われ、
前記大腿骨外側顆の前方に5.5mm、後方に9mm、さらに前方に3.5mmの移動が行われる、
項目1から12のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)。
(項目14)
項目1から13のいずれか一項に記載の人工膝関節(100)の前記脛骨部品(10)の近位側に配置され、特に前記脛骨部品(10)と一体的に形成されるおよび/または配置可能なインレー(20)であって、
前記インレー(20)の近位側表面は、凹状の内側ベアリングシェル(21)と、凹状の外側ベアリングシェル(22)を有する前記脛骨ベアリング面(15)を形成し、
前記脛骨ベアリング面は、前記内側ベアリングシェル(21)に前記大腿骨ベアリング面(55)の固定内側ピボットを設けることなく、凸状の内側大腿骨顆ベアリング面(51)と、凸状の外側大腿骨顆ベアリング面(52)と、を有する前記大腿骨ベアリング面(55)を受入れ、かつ、スライド可能なスライドベアリングのために構成され、
前記内側ベアリングシェル(21)および前記外側ベアリングシェル(22)は、互いに対して非対称な脛骨ベアリング面(15)を形成し、
前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)と前記外側大腿骨顆ベアリング面(52)は、特に、内側大腿骨顆ベアリング面と外側大腿骨顆ベアリング面との間に配置された矢状面に関して、互いに対して非対称な、大腿骨ベアリング面(55)を形成し、
前記内側大腿骨顆ベアリング面(51)と前記外側大腿骨顆ベアリング面(5)は、少なくともそれぞれの前方大腿骨顆半径(R3)において一致し、
非対称な前記脛骨ベアリング面(15)は、外周近位の隆起輪郭を形成し、
前記隆起輪郭は、少なくとも1つの前方隆起点(H-ant)を有する前方隆起輪郭部分と、少なくとも1つの後方隆起点(H-post)を有する後方隆起輪郭部分と、を有し、
前記前方隆起点(H-ant)は、少なくとも1つの矢状面に関して、前記後方隆起点(H-post)に対して近位側に隆起しており、
前記内側ベアリングシェル(21)における前記前方隆起輪郭部分の前方内側隆起輪郭部分は、前方内側頂点(P)として近位側に最も高い前方隆起点(H-ant)を形成する、
インレー(20)。
【国際調査報告】