(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】若年性左心低形成症候群の治療における間葉系幹細胞の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20240711BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P9/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504874
(86)(22)【出願日】2022-07-26
(85)【翻訳文提出日】2024-03-19
(86)【国際出願番号】 US2022038370
(87)【国際公開番号】W WO2023009537
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518274272
【氏名又は名称】ロングエバーオン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ハレ, ジョシュア エム.
(72)【発明者】
【氏名】カウシャル, サンジェイ
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA36
(57)【要約】
本開示は、治療を必要とする患者において左心低形成症候群を治療する方法を提供し、本方法は、治療有効量の間葉系幹細胞の投与を含む。本方法は、間葉系幹細胞の投与後に、心臓の健康及び機能に関連する様々なバイオマーカーを測定し、治療の効果、及び治療効果を得るために間葉系幹細胞を更に投与する必要があるかどうかの両方を判断することを更に含み得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療が必要な患者において若年性左心低形成症候群を治療する方法であって、治療有効量の同種間葉系幹細胞を治療が必要な患者に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記治療有効量が、約20×10
6~約100×10
6個の同種間葉系幹細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記治療有効量の同種間葉系幹細胞を投与した後の前記患者の右室重量の変化を測定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
投与後の前記患者の右室重量の変化が、約0.1%~約10%の右室重量の増加である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記治療有効量の同種間葉系幹細胞を投与した後の前記患者の右室駆出率の変化を測定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
投与後の前記患者の右室駆出率の変化が、約0.1%~約10%の右室駆出率の低下である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記治療有効量の同種間葉系幹細胞を投与した後の前記患者の右室収縮末期容量の変化を測定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
投与後の前記患者の右室収縮末期容量の変化が、約0.1%~約10%の右室収縮末期容量の増加である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記治療有効量の同種間葉系幹細胞を投与した後の前記患者の右室拡張末期容量の変化を測定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
投与後の前記患者の右室拡張末期容量の変化が、約0.1%~約10%の右室拡張末期容量の増加である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記治療有効量の同種間葉系幹細胞を投与した後の前記患者の一回拍出量の変化を測定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記治療有効量の同種間葉系幹細胞を投与した後の前記患者の年齢に対する身長のZスコアの変化を測定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記治療有効量の同種間葉系幹細胞を投与した後の前記患者の年齢に対する体重のZスコアの変化を測定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記治療有効量の同種間葉系幹細胞を投与した後の前記患者の収縮期血圧の変化を測定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記治療有効量の同種間葉系幹細胞を投与した後の前記患者の拡張期血圧の変化を測定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記治療有効量の同種間葉系幹細胞を投与した後の前記患者の心拍数の変化を測定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記治療有効量の同種間葉系幹細胞が、治療を必要とする患者に心筋内注射によって投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記治療有効量の同種間葉系幹細胞が、治療を必要とする患者に単回投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
治療を必要とする患者が1歳~15歳である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記同種ヒト間葉系幹細胞が骨髄及び/又は脂肪組織由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記治療有効量の同種間葉系幹細胞を投与した後の前記患者の三尖弁逆流率の変化を測定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記治療有効量の同種間葉系幹細胞を投与した後の前記患者の三尖弁逆流の正味大動脈順流量の変化を測定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記治療有効量の同種間葉系幹細胞を投与した後の前記患者の生存率を測定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2021年7月26日に出願された米国仮特許出願第63/203,519号の利益を主張するものであり、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、若年性左心低形成症候群(HLHS)の治療における間葉系幹細胞組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
左心低形成症候群(HLHS)は、左心室(LV)の構成要素が、LVが全身循環を支えることができない程度に多様に未発達であるまれな心先天性欠損症である(Ohye,R.G.ら、「Comparison of shunt types in the Norwood procedure for single-ventricle lesions」、New England Journal of Medicine、(2010)362(21)、1980-1992)。HLHS患者が生存している唯一の理由は、新生児の肺動脈(PA)と大動脈の間に動脈管開存症(PDA)が存在し、右室(右心室、RV)が全身循環を支えているためである。しかしながら、管は出生後数日で自然に閉鎖し、この管に依存した全身循環がない場合、HLHS児は早期の外科的介入なしには生存できない(BARRONら、「HYPOPLASTIC LEFT HEART SYNDROME」、THE LANCET、(2009)374(9689)、551-564)。未発達のLVに加えて、HLHSは、低形成の大動脈及び大動脈弓、並びに僧帽弁閉鎖症又は狭窄症を含む、様々な解剖学的欠損を示す。これらの異常の程度により、HLHSは様々な重症度の範囲で存在する可能性がある。
【0004】
HLHSの心臓では、脱酸素された血液が右心房(RA)に戻るが、これは正常な心臓で見られる血流と同様である。しかし、肺静脈から左心房(LA)に流入した酸素を含んだ血液は、LVで排出されるのではなく、心房中隔の欠陥(卵円孔開存)を経由してRAに流入し、脱酸素された血液と混ざり合ってチアノーゼ状態を引き起こす。このRV内の混合血液は、その後PAに進み、2つの方向に分かれる。この混合血液の一部は、酸素化のために肺に流れ込むが、これは正常な心臓で見られる血流と同様である。残りの血流はPDAを通って大動脈に入り、全身循環が可能になる。しかし、介入がなければ、管は閉鎖し、心臓の右側はもはや循環を支えることができなくなり、全身循環を支える左心の不全が現れ、それにより回避することができない致命的な結果がもたらされる(Barronら、2009;Ohyeら、2010)。
【0005】
現在、HLHSの診断は、ほとんどの場合、出生前に心エコー画像法を使用して正常な「四腔」心臓がないことを観察することで行われている。HLHSに関連する染色体異常や遺伝子異常はあるが、遺伝的要因は多様で不均一である(Rychik,J.「Hypoplastic left heart syndrome: from in-utero diagnosis to school age」、Seminars in Fetal and Neonatal Medicineで発表された論文(2005))。
【0006】
HLHS児は体重及び身長が正常で生まれるが、出生後の症候群の発現と、必要な開胸再建手術による著しい代謝ストレスにより、成長の困難さが明らかになる(Kelleher、Laussen、Teixeira-Pinto、及びDuggan、「Growth and correlates of nutritional status among infants with hypoplastic left heart syndrome(HLHS)after stage 1 Norwood procedure」、Nutrition、(2006)22(3)、237-244)。体の成長は、年齢及び性別で調整したZスコアで測定し、これは一般集団の平均値より上か下かの標準偏差である。Zスコア0は50パーセンタイルに相当し、正の加算はより高いパーセンタイルに、逆はその逆となる。Kelleherらによると、第II期手術のための入院時、HLHS児の約60%が年齢に対する体重のパーセンタイルが5位以下(年齢に対する体重のZスコアが-1.65未満)であり、一方で約40%が年齢に対する身長のパーセンタイルが5位以下(年齢に対する身長のZスコアが-1.65未満)であった。在院日数の長さ、ICU在院日数の長さ、再入院回数の多さは、体の成長不良と独立して相関していた(Kelleherら、2006)。
【0007】
上述したように、HLHS患者では、LVの構成要素が多様に未発達であることが生命を脅かす状態となっている。HLHSは、外科的介入がない場合、出生後まもなく致死的となり、新生児心臓死亡率全体の25%~40%を占める(Barronら、2009)。
【0008】
HLHS固有のチアノーゼ状態はまた、未発達の大動脈とともに冠動脈不全を引き起こし、これは有害な心疾患の主な原因である。更に、再建手術後でさえもHLHSの単心室状態は、RVが唯一の全身ポンプ室として機能するため、RVに異常な負荷状態を引き起こす。その結果、心臓管理が可能であるにもかかわらず、有害なリモデリングを引き起こす可能性がある。潜在的な徴候は、拡張(心室の拡大)、心筋肥大(心臓壁の肥厚)、及び線維化(瘢痕組織に置き換わる心臓細胞の死)であり、これらは最終的に心不全につながる可能性がある(Wehmanら、「Mesenchymal stem cells preserve neonatal right ventricular function in a porcine model of pressure overload」、Am J Physiol Heart Circ Physiol、(2016)310(11)、H1816-1826.doi:10.1152/ajpheart.00955.2015)。心不全は心臓移植の必要性及び/又は死につながる可能性がある。
【0009】
HLHS管理の選択肢としては、再建手術、心臓移植、及び緩和ケア(心のこもったケアとも呼ばれる)が挙げられる。これらの選択肢は一刻を争うものであり、HLHS児の親は意思決定時に大きなストレスを受ける(Toebbe、Yehle、Kirkpatrick、及びCoddington、「Hypoplastic left heart syndrome:parent support for early decision making」、Journal of pediatric nursing、(2013)28(4)、383-392)。
【0010】
再建手術を受けたHLHS児の1年生存率は20%~60%であり(Siffel、Riehle-Colarusso、Oster、及びCorrea、「Survival of Children With Hypoplastic Left Heart Syndrome」、Pediatrics、(2015)136(4)、e864-870.doi:10.1542/peds.2014-1427)、これらの手順は数回の追跡検査入院及び追加の外科的介入を必要とする。生存者は、身体能力が制限され、認知障害のリスクが増加し、その他の長期合併症を有することになる(Kon、Ackerson、及びLo、「How pediatricians counsel parents when no best-choice management exists: lessons to be learned from hypoplastic left heart syndrome」、Archives of pediatrics&adolescent medicine、(2004)158(5)、436-441)。再建手術を選択した場合では、術後の臨床結果が思わしくない場合、心臓移植を求めることが最後の終末期の選択肢となる。それにもかかわらず、手術又は移植を受けた患者全体の1年生存率は約40%であり(Konら、2004)、これは重大且つ壊滅的な死亡率であり、転帰を改善するための新たな治療戦略が求められている。
【0011】
再建手術の技術的進歩により、各段階的手術後の生存率は過去数十年で向上している。しかしながら、特に第I期(Norwood)及び第I期と第II期との間には、依然として手術死亡率が著しい(Siffelら、2015)。Morrisらは、1999~2007年のテキサス州出生時欠損登録から、HLHS児463人における新生児死亡率(生後28日目まで)が26%であったと報告している(Morrisら、「Prenatal diagnosis,birth location,surgical center,and neonatal mortality in infants with hypoplastic left heart syndrome」、Circulation、(2014)129(3)、285-292)。Norwood手術後の院内死亡率は、1984~1988年代の40.4%から、2009~2014年では15.7%まで低下したことが示された(Mascioら、「Thirty years and 1663 consecutive Norwood procedures:has survival plateaued?」、J Thorac Cardiovasc Surg、(2019)158(1)、220-229)。HLHSの1年生存率は20%から最大74%の範囲であると推定されている(Ohyeら、2010;Siffelら、2015)。2018年の研究では、HLHSの出生前診断か出生後診断かにかかわらず、1年生存率は約60%であることが示された(Alabdulgader、「Survival analysis: prenatal vs.postnatal diagnosis of HLHS」、J Invasive Noninvasive Cardiol、(2018)1、8-12)。同様に、SonらもNorwood手術後1年の時点で、死亡又は移植からの回避が60%弱であることを実証した(Sonら、「Prognostic value of serial echocardiography in hypoplastic left heart syndrome」、Circulation:Cardiovascular Imaging、(2018)11(7)、e006983)。SVR試験では、6年無移植生存率は60%と報告されている。そのため、転帰の改善は見られるものの、HLHS患者の死亡率は依然として悲惨である。
【0012】
新生児、乳児、及び小児を合わせると、HLHSによる罹患率と死亡率の重荷を背負うことになる。最も進んだ標準治療の選択肢を用いても、若年齢での死亡率は著しく、15歳までに60%に達する(Mahle、Spray、Wernovsky、Gaynor、及びClark III、「Survival after reconstructive surgery for hypoplastic left heart syndrome: a 15-year experience from a single institution」、Circulation、(2000)102(suppl_3)、Iii-136-Iii-141)。したがって、HLHSの現在の見通し及び長期的転帰を改善するためには、無移植生存率及び生活の質を向上させる新規の治療選択肢が切実に必要とされている。
【発明の概要】
【0013】
[概要]
以下の開示は、HLHSの治療方法を含み、該方法は、HLHSの治療を必要とする対象に間葉系幹細胞(MSC)の組成物を投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】臨床試験期間中の各患者の右室重量の変化を示した図である。データを患者の体表面積(BSA)に応じて指数化した。
【
図2】臨床試験期間中の各患者の右室駆出率の変化を示した図である。
【
図3】臨床試験期間中の各患者の右室収縮末期容量の変化を示した図である。データは患者のBSAを指標とした。
【
図4】臨床試験期間中の各患者の右室拡張末期容量の変化を示した図である。データは患者のBSAを指標とした。
【
図5】臨床試験期間中の各患者の一回拍出量の変化を示した図である。データは患者のBSAを指標とした。
【
図6】臨床試験期間中の各患者の年齢に対する身長のZスコアの変化を示した図である。
【
図7】臨床試験期間中の各患者の年齢に対する体重のZスコアの変化を示した図である。
【
図8】臨床試験期間中の各患者の収縮期血圧の変化を示した図である。
【
図9】臨床試験期間中の各患者の拡張期血圧の変化を示した図である。
【
図10】臨床試験期間中の各患者の心拍数の変化を示した図である。
【
図11】臨床試験期間中の選択された患者の三尖弁逆流率の変化を示した図である。
【
図12】臨床試験期間中の選択された患者の三尖弁逆流の正味大動脈順流量の変化を示した図である。
【
図13】臨床試験期間中の各患者の三尖弁逆流の変化を示した図である。
【
図14】HLHSの治療のためにLomecel-B(商標)細胞を投与された患者と、HLHSの治療のためにSonらによって実施された臨床試験を受けた患者との間の治療後生存率の比較を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[詳細な説明]
MSCは、免疫に優れ、傷害及び炎症部位に移動することができる多能性細胞である(Klyushnenkovaら、「Growth and correlates of nutritional status among infants with hypoplastic left heart syndrome(HLHS)after stage 1 Norwood procedure」、Nutrition、(2006)22(3)、237-244;Le Blancら、「Mesenchymal stem cells for treatment of steroid-resistant, severe, acute graft-versus-host disease:a phase II study」、Lancet、(2008)371(9624)、1579-1586.doi:10.1016/S0140-6736(08)60690-X)。MSCの正確な作用機序はまだ完全には解明されていないが、宿主細胞との複雑な連携が関与しているようである(Hatzistergosら、「Bone marrow mesenchymal stem cells stimulate cardiac stem cell proliferation and differentiation」、Circ Res、(2010)107(7)、913-922;A.R.Williamsら、「Enhanced effect of combining human cardiac stem cells and bone marrow mesenchymal stem cells to reduce infarct size and to restore cardiac function after myocardial infarction」、Circulation、(2013)127(2)、213-223、doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.112.131110 2013;A.R.Williamsら、「Intramyocardial stem cell injection in patients with ischemic cardiomyopathy: functional recovery and reverse remodeling」、Circ Res、(2011)108(7)、792-796、doi:10.1161/CIRCRESAHA.111.242610)。MSCは、その血管新生促進特性及び抗炎症特性により、心血管疾患における臨床的有用性の可能性を示している(Caoら、「S-nitrosoglutathione reductase-dependent PPARgamma denitrosylation participates in MSC-derived adipogenesis and osteogenesis」、J Clin Invest、(2015)125(4)、1679-1691、doi:10.1172/jci73780;Hatzistergosら;A.R.Williams及びHare,J.M.、「Mesenchymal stem cells:biology,pathophysiology,translational findings,and therapeutic implications for cardiac disease」、Circ Res、(2011)109(8)、923-940、doi:10.1161/CIRCRESAHA.111.243147)。
【0016】
MSCは、内因性幹細胞のリクルートメント、増殖、及び分化を刺激し、アポトーシス及び線維化を抑制し、血管新生を刺激する多くの生理活性分子を分泌する。MSCはまた、細胞間相互作用を通じて宿主幹細胞のニッチを制御することもできる。したがって、MSCは固有の修復及び再生機構を強化することができる。前臨床試験では、MSCが新組織の形成を通じて直接的に、パラクリン効果を通じて間接的に心臓の回復及び再生を促進することが示されている(Malliaras、Kreke、及びMarban、「The stuttering progress of cell therapy for heart disease」、Clin Pharmacol Ther、(2011)90(4)、532-541、doi:10.1038/clpt.2011.175;Rosen、Myerburg、Francis、Cole、及びMarban、「Translating stem cell research to cardiac disease therapies:pitfalls and prospects for improvement」、J Am Coll Cardiol、(2014)64(9)、922-937、doi:10.1016/j.jacc.2014.06.1175)。
【0017】
したがって、驚くべきことに、本発明者らは、MSCを含む組成物の使用がHLHSの症状と闘うことができることを発見した。HLHSの症状に苦しむ患者を、MSCを含む組成物で治療すると、被験者の心臓の形態及び機能が改善することが発見された。上記の発見は驚くべきものである。なぜなら、MSCのヒト体内での滞留時間が短いことによってMSCはあまり機能しないと予想されていたため、MSCをHLHSの治療に使用することに対する当業者の一般的な懸念があるからである。
【0018】
上記の驚くべき発見を受けて、本開示の1つの目的は、HLHSの症状を緩和し、及び/又はHLHSの進行を治療するために、治療を必要とする被験者に治療量のMSCを投与することを含む、HLHSの治療又は緩和方法を提供することである。本明細書に開示された治療方法の有効性は、心臓の健康及び機能に関連するバイオマーカーの変化を測定することによって決定することができる。これらのバイオマーカーは、MSCの投与及び/又は治療後の患者の右室重量、右室駆出率、右室収縮末期容量、右室拡張末期容量、一回拍出量、年齢に対する身長のZスコア、年齢に対する体重のZスコア、収縮期血圧、拡張期血圧、心拍数、又はそれらの組み合わせの変化とすることができる。したがって、本明細書に開示された治療方法は、患者へのMSCの投与前及び/又は投与後に、上記のバイオマーカーのいずれかを測定することを含むことができる。これらのバイオマーカーを測定することで、治療の効果、及び治療効果を得るために間葉系幹細胞を更に投与する必要があるかどうかを判断することができる。
【0019】
本明細書で使用される場合、「治療効果」という用語には、MSC投与後の患者の心臓の機能又は健康の改善が含まれるが、これらに限定されない。
【0020】
本明細書で使用される場合、「患者」という用語には、ヒト、及び野生動物、飼育動物、家畜動物などのヒト以外の脊椎動物が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、この用語は18歳未満の若年のヒトを指す。いくつかの実施形態では、ヒト患者はHLHSの症状を示す。
【0021】
いくつかの実施形態では、治療方法は、MSC投与後の患者の右室重量の変化を測定することを含む。例示的な実施形態では、MSCの投与後、患者の右室重量は、0.1%~10%、0.5%~10%、1.0%~10%、3%~10%、5%~10%、7%~10%、0%超~10%以下、10%~50%、20%~50%、30%~50%、又は50%超の範囲で増加する。他の例示的な実施形態では、MSC投与後の患者の右室重量の変化は、治療を必要とする患者にMSCを投与する前の重量とは異なる重量に到達し維持された後、重量が0.1%~10%、0.1%~5%、又は0.1%~1%を超えて低下しない安定した重量まで増加する。
【0022】
他の実施形態では、治療方法は、MSC投与後の患者の右室駆出率の変化を測定することを含む。例示的な実施形態では、MSCの投与後、患者の右室駆出率は、0.1%~10%、0.5%~10%、1.0%~10%、3%~10%、1%~5%、1%~3%、0%超~5%以下、10%~50%、20%~50%、30%~50%、又は50%超の範囲で低下する。他の例示的な実施形態では、MSC投与後の患者の右室駆出率の変化は、治療を必要とする患者にMSCを投与する前の駆出率とは異なる駆出率に到達し維持された後、右室駆出率が0.1%~10%、0.1%~5%、又は0.1%~1%を超えて増加しない安定したレベルまで低下する。
【0023】
いくつかの実施形態では、治療方法は、MSC投与後の患者の右室収縮末期容量の変化を測定することを含む。例示的な実施形態では、MSCの投与後、患者の右室収縮末期容量は、0.1%~10%、0.5%~10%、1.0%~10%、3%~10%、5%~10%、7%~10%、0%超~10%以下、10%~50%、20%~50%、30%~50%、又は50%超の範囲で増加する。他の例示的な実施形態では、MSC投与後の患者の右室収縮末期容量の変化は、治療を必要とする患者にMSCを投与する前の容量とは異なる容量に到達し維持された後、容量が0.1%~10%、0.1%~5%、又は0.1%~1%を超えて低下しない安定した容量まで増加する。
【0024】
他の実施形態では、治療方法は、MSC投与後の患者の右室拡張末期容量の変化を測定することを含む。例示的な実施形態では、MSCの投与後、患者の右室拡張末期容量は、0.1%~10%、0.5%~10%、1.0%~10%、3%~10%、5%~10%、7%~10%、0%超~10%以下、10%~50%、20%~50%、30%~50%、又は50%超の範囲で増加する。他の例示的な実施形態では、MSC投与後の患者の右室拡張末期容量の変化は、治療を必要とする患者にMSCを投与する前の容量とは異なる容量に到達し維持された後、重量が0.1%~10%、0.1%~5%、又は0.1%~1%を超えて低下しない安定した容量まで増加する。
【0025】
いくつかの実施形態では、治療方法は、MSC投与後の患者の一回拍出量の変化を測定することを含む。例示的な実施形態では、MSCの投与後、患者の一回拍出量は、0.1%~10%、0.5%~10%、1.0%~10%、3%~10%、1%~5%、1%~3%、0%超~5%以下、10%~50%、20%~50%、30%~50%、又は50%超の範囲で低下する。他の例示的な実施形態では、MSC投与後の患者の一回拍出量の変化は、治療を必要とする患者にMSCを投与する前の量とは異なる量に到達し維持された後、一回拍出量が0.1%~10%、0.1%~5%、又は0.1%~1%を超えて増加しない安定したレベルまで低下する。
【0026】
いくつかの実施形態では、治療方法は、MSC投与後の患者の年齢に対する身長のZスコアの変化を測定することを含む。例示的な実施形態では、MSCの投与後、患者の年齢に対する身長のZスコアは、0.1%~10%、0.5%~10%、1.0%~10%、3%~10%、5%~10%、7%~10%、0%超~10%以下、10%~50%、20%~50%、30%~50%、又は50%超の範囲で増加する。他の例示的な実施形態では、MSC投与後の患者の年齢に対する身長のZスコアの変化は、治療を必要とする患者にMSCを投与する前のZスコアとは異なるZスコアに到達し維持された後、Zスコアが0.1%~10%、0.1%~5%、又は0.1%~1%を超えて低下しない安定したレベルまで増加する。
【0027】
いくつかの実施形態では、治療方法は、MSC投与後の患者の年齢に対する体重のZスコアの変化を測定することを含む。例示的な実施形態では、MSCの投与後、患者の年齢に対する体重のZスコアは、0.1%~10%、0.5%~10%、1.0%~10%、3%~10%、5%~10%、7%~10%、0%超~10%以下、10%~50%、20%~50%、30%~50%、又は50%超の範囲で増加する。他の例示的な実施形態では、MSC投与後の患者の年齢に対する体重のZスコアの変化は、治療を必要とする患者にMSCを投与する前のZスコアとは異なるZスコアに到達し維持された後、Zスコアが0.1%~10%、0.1%~5%、又は0.1%~1%を超えて低下しない安定したレベルまで増加する。
【0028】
いくつかの実施形態では、治療方法は、MSC投与後の患者の収縮期血圧の変化を測定することを含む。例示的な実施形態では、MSCの投与後、患者の収縮期血圧は、0.1%~10%、0.5%~10%、1.0%~10%、3%~10%、5%~10%、7%~10%、0%超~10%以下、10%~50%、20%~50%、30%~50%、又は50%超の範囲で増加する。他の例示的な実施形態では、MSC投与後の患者の収縮期血圧の変化は、治療を必要とする患者にMSCを投与する前の圧力とは異なる圧力に到達し維持された後、圧力が0.1%~10%、0.1%~5%、又は0.1%~1%を超えて低下しない安定した圧力まで上昇する。
【0029】
いくつかの実施形態では、治療方法は、MSC投与後の患者の拡張期血圧の変化を測定することを含む。例示的な実施形態では、MSCの投与後、患者の拡張期血圧は、0.1%~10%、0.5%~10%、1.0%~10%、3%~10%、5%~10%、7%~10%、0%超~10%以下、10%~50%、20%~50%、30%~50%、又は50%超の範囲で変化する。他の例示的な実施形態では、MSC投与後の患者の拡張期血圧の変化は、治療を必要とする患者にMSCを投与する前の圧力とは異なる圧力に到達し維持された後、圧力が0.1%~10%、0.1%~5%、又は0.1%~1%を超えて変化しない安定した圧力まで変化する。
【0030】
いくつかの実施形態では、治療方法は、MSC投与後の患者の心拍数の変化を測定することを含む。例示的な実施形態では、MSCの投与後、患者の心拍数は、0.1%~10%、0.5%~10%、1.0%~10%、3%~10%、5%~10%、7%~10%、0%超~10%以下、10%~50%、20%~50%、30%~50%、又は50%超の範囲で変化する。他の例示的な実施形態では、MSC投与後の患者の心拍数の変化は、一度治療を必要とする患者にMSCを投与する前の心拍数とは異なる心拍数に到達し維持されたら、心拍数が0.1%~10%、0.1%~5%、又は0.1%~1%を超えて変化しない安定した心拍数まで変化する。
【0031】
いくつかの実施形態では、治療方法は、MSC投与後の患者の三尖弁逆流の変化を測定することを含む。例示的な実施形態では、患者の三尖弁逆流は、重度の状態から中等度又は軽度の状態に改善される。
【0032】
他の実施形態では、治療方法は、MSC投与後の患者の三尖弁逆流率の変化を測定することを含む。例示的な実施形態では、MSCの投与後、患者の三尖弁逆流率は、0.1%~10%、0.5%~10%、1.0%~10%、3%~10%、5%~10%、7%~10%、0%超~10%以下、10%~50%、20%~50%、30%~50%、又は50%超の範囲で低下する。他の例示的な実施形態では、MSC投与後の患者の三尖弁逆流率の変化は、治療を必要とする患者にMSCを投与する前の割合とは異なる割合に到達し維持された後、割合が0.1%~10%、0.1%~5%、又は0.1%~1%を超えて低下しない安定した割合に減少する。
【0033】
他の実施形態では、治療方法は、MSC投与後の患者の三尖弁逆流の正味大動脈順流量の変化を測定することを含む。例示的な実施形態では、MSCの投与後、患者の三尖弁逆流の正味大動脈順流量は、0.1%~10%、0.5%~10%、1.0%~10%、3%~10%、5%~10%、7%~10%、0%超~10%以下、10%~50%、20%~50%、30%~50%、又は50%超の範囲で増加する。他の例示的な実施形態では、MSC投与後の患者の三尖弁逆流の正味大動脈順流量の変化は、治療を必要とする患者にMSCを投与する前の正味大動脈順流量とは異なる正味大動脈順流量に到達し維持された後、正味大動脈順流量が0.1%~10%、0.1%~5%、又は0.1%~1%を超えて増加しない安定した正味大動脈順流量まで増加する。
【0034】
他の実施形態では、治療方法は、MSC投与後の患者の生存率を測定することを含む。例示的な実施形態では、MSCの投与後、患者の生存率は、0.1%~10%、0.5%~10%、1.0%~10%、3%~10%、5%~10%、7%~10%、0%超~10%以下、10%~50%、20%~50%、30%~50%、又は50%超の範囲で増加した。
【0035】
本発明の実施形態で使用される間葉系幹細胞組成物としては、骨髄及び/若しくは脂肪組織由来の単離された同種ヒト間葉系幹細胞、又は以下の米国特許出願公開である米国特許出願公開第20190038742号、米国特許出願公開第20190290698号、及び米国特許出願公開第20200129558号に報告されているLOMECEL-B(商標)細胞(同種ヒト間葉系幹細胞のLongeveron製剤)を挙げることができ、これらの出願は全て参照により本明細書に組み込まれる。
【0036】
本明細書で使用される場合、「同種」という用語は、同じ動物種であるが、「レシピエント宿主」となる動物と1つ又は複数の遺伝子座において遺伝的に異なる細胞を指す。これは通常、ある動物から、同一でない他の同種の動物に移植される細胞に適用される。
【0037】
例示的な実施形態では、MSCは、治療有効量の約1×106、2×106、5×106、10×106、20×106、30×106、40×106、50×106、60×106、70×106、80×106、90×106、100×106、110×106、120×106、130×106、140×106、150×106、160×106、170×106、180×106、190×106、200×106、300×106、400×106、500×106若しくは10×107個又は20×106~100×106個の間の任意の量のMSCで投与される。
【0038】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」とは、心機能の改善を促すMSCの量を意味する。このような改善は、右室重量が大きくなること、又は拡張末期/収縮末期容量が大きくなることによって特徴づけられる。患者への投与量及び投与回数(例えば、単回投与又は複数回投与)は、投与経路、患者の状態及び特性(性別、年齢、体重、健康状態、体格)、症状の程度、同時治療、治療の頻度及び所望の効果など、様々な要因によって異なる。
【0039】
例示的な実施形態では、患者は1~15歳、3~15歳、3~10歳、5~10歳、又は5~15歳である。いくつかの実施形態では、患者は1歳未満である。
【0040】
他の例示的な実施形態では、治療方法は、本明細書に開示されるバイオマーカーの変化を、投与直後、投与1カ月後、投与2カ月後、投与6カ月後、投与9カ月後、又は投与開始から投与12カ月後までの任意の時期に測定することを更に含む。
【0041】
例示的な実施形態では、MSCは単回投与として投与される。別の実施形態では、MSCは複数回投与、例えば2回以上投与される。他の実施形態では、MSCは少なくとも年毎に投与される。
【0042】
他の例示的な実施形態では、MSCの投与は、MSCの単離された集団の初回投与から少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、若しくは18カ月後などに繰り返されるか、又はMSCの初回投与から2~4、2~6、2~8、2~10、3~4、3~6、3~8、3~10、4~6、4~8、4~10、6~8、6~10、6~12、若しくは12~18カ月後の間で繰り返される。
【実施例】
【0043】
実施例1
この実施例は、若年性HLHSの治療に間葉系幹細胞の使用を含む第I相臨床試験に基づいている。この第I相試験は、「左心低形成症候群に対する第II期手術中に投与されたLongeveron間葉系幹細胞(LMSC)(ELPIS第I相試験)」と題された非盲検試験であった。目的は、登録基準を満たした連続10例の患者において、第II期再建手術中にHLHS患者へのLomecel-B(商標)製剤の心筋内注入の安全性及び実現可能性を評価することであった(Kaushalら、「Study design and rationale for ELPIS:A phase I/IIb randomized pilot study of allogeneic human mesenchymal stem cell injection in patients with hypoplastic left heart syndrome」、American heart journal、(2017)192、48-56、doi:https://doi.org/10.1016/j.ahj.2017.06.009)。
【0044】
本試験では、第II期手術を必要とするHLHS患者10人を登録した。主な除外基準は、拘束型心房中隔又は完全型心房中隔、有意な冠動脈洞の存在、手術前に機械的循環補助を必要とする患者、及び抗不整脈治療を必要とする不整脈の徴候であった。第II期手術のために患者に心肺バイパスを使用した後、Lomecel-B(商標)製剤を、手術が完了し、心肺バイパスから離脱する前に、27ゲージの注射針を使用して心筋内注射により2.5×106細胞/kg体重で投与した。第II期再建手術の前にベースライン評価を行い、術後6カ月及び12カ月に追跡調査を行い、安全性及びMRIによる心機能を含む暫定的な臨床転帰を評価した。
【0045】
臨床試験中、以下の主要評価項目(安全性)及び副次的評価項目(有効性)を測定及びモニタリングした。
【0046】
主要評価項目には、以下が含まれる。
以下を含む、治療後1年を通じた主な心臓有害事象の発生率:
強心療法による介入を必要とする持続性/症候性心室頻拍;
心不全の悪化;
心筋梗塞;
心タンポナーデに対する予定外の心臓血管手術;及び
死亡;並びに
治療後初めての1カ月間の感染症。
【0047】
副次的評価項目には、以下が含まれる。
以下のベースラインからの変化:
右室機能;
右室拡張末期容量;
右室収縮末期容量;
右室収縮末期径;
連続心エコー図及びMRIで測定した三尖弁逆流。
体の成長(体重、身長、頭囲)の変化;並びに
以下を含む共存症の評価:
心血管疾患;
移植の必要性;
再入院;
心血管死亡率;及び
あらゆる原因による死亡率。
【0048】
患者集団
表1は、研究対象集団のデモグラフィクス及びベースラインの特徴をまとめたものである。第II期再建術を受けた10人の患者が、Lomecel-B(商標)製剤による治療に成功した。このコホートには男性7人及び女性3人が含まれ、全員が非ヒスパニック系で、7人が白人、3人がアフリカ系アメリカ人であり、第II期手術時の平均月齢は4.89±0.85カ月であった。全ての患者で、手術中にLomecel-B(商標)製剤の注射が行われた第II期手術が成功した。平均在院日数は11.7±9.58日であった。全ての患者で、第I期(Norwood)でRV-PAシャントを用いた。MRIで測定された心臓パラメータを含むその他のベースラインの特徴を表1に示す。
【0049】
【0050】
各患者の球形度を以下の式を使用して求めた:球形度=RV長(D)/(RVD SAX A/P)。
【0051】
安全性所見
Lomecel-B(商標)製剤の心筋内注射は忍容性が高く、主要有害心イベント(MACE)はなく、感染症、又は治験薬での治療に関連すると考えられるその他の有害事象は報告されなかった。
【0052】
有効性所見
以下のデータを平均値±SDで示す。データは複数の拠点から収集した。統計解析は、GraphPad Prism v9.2を使用して行った。多重比較には、混合効果モデルを用いた一元配置分散分析を使用し、ボンフェローニ補正を行った。<0.05のαを統計的に有意とした。
【0053】
各患者のBSAは、Haycock式(BSA=0.024265・h0.3964・w0.5378、h=患者の身長(cm)、w=患者の体重(kg))を使用して決定した。
【0054】
臨床試験の有効性は、患者にLomecel-B(商標)細胞を投与した後、副次的評価項目のいずれかに有意な変化があったかどうかを判定することで評価した。これらの副次的評価項目は、心エコー図及び磁気共鳴画像法(MRI)を使用して測定した。表2は、全治療群(前述のLongeveron試験と4例の追加患者を含む)に関する副次的評価項目MRIデータを含み、データはBSAを指標としている。表3は、Lomecel-B(商標)製剤治療群のみに関する副次評価項目MRIデータを含み、データはBSAを指標としている。各*はベースラインと比較してp<0.05を示す。各**はベースラインと比較してp<0.01を示す。各***はベースラインと比較してp<0.001を示す。
【0055】
【0056】
【0057】
図1は、臨床試験期間中の各患者の右室重量の変化を示した図である。測定は臨床試験開始時、投与6カ月後、投与12カ月後に行った。
図1内に示したデータは、患者のBSAに従って指数化した。表4は、Lomecel-B(商標)細胞投与後の各患者の右室重量の変化を決定するために使用したMRIデータを含む。
【0058】
【0059】
図2は、臨床試験期間中の各患者の右室駆出率の変化を示した図である。測定は臨床試験開始時、投与6カ月後、投与12カ月後に行った。表5は、Lomecel-B(商標)細胞投与後の各患者の右室駆出率の変化を決定するために使用したMRIデータを含む。
【0060】
【0061】
図3は、臨床試験期間中の各患者の右室収縮末期容量の変化を示した図である。測定は臨床試験開始時、投与6カ月後、投与12カ月後に行った。
図3内に示したデータは、患者のBSAを指標とした。表6は、Lomecel-B(商標)細胞投与後の各患者の右室収縮末期容量の変化を決定するために使用したMRIデータを含む。
【0062】
【0063】
図4は、臨床試験期間中の各患者の右室拡張末期容量の変化を示した図である。測定は臨床試験開始時、投与6カ月後、投与12カ月後に行った。
図4内に示したデータは、患者のBSAを指標とした。表7は、Lomecel-B(商標)細胞投与後の各患者の右室拡張末期容量の変化を決定するために使用したMRIデータを含む。
【0064】
【表7】
図5は、臨床試験期間中の各患者の一回拍出量の変化を示した図である。測定は臨床試験開始時、投与6カ月後、投与12カ月後に行った。
図5内に示したデータは、患者のBSAを指標とした。表8は、Lomecel-B(商標)細胞投与後の各患者の一回拍出量の変化を決定するために使用したMRIデータを含む。
【0065】
【0066】
右室重量及び右室容量の変化を調査することに加えて、全ての患者について体の成長も調査した。各患者の体の成長は、年齢及び身長/体重で調整したZスコアで測定し、これは一般集団の平均値より上か下かの標準偏差である。Zスコア0は50パーセンタイルに相当し、正の加算はより高いパーセンタイルに、逆はその逆となる。
図6は、臨床試験開始時、投与6カ月後、及び投与12カ月後の各患者の年齢に対する身長のZスコアの変化を示した図である。
図7は、臨床試験開始時、投与6カ月後、及び投与12カ月後の各患者の年齢に対する体重のZスコアの変化を示した図である。表9は、Lomecel-B(商標)細胞投与後の各患者の年齢に対する身長のZスコアの変化を決定するために使用したデータを含む。表10は、Lomecel-B(商標)細胞投与後の各患者の年齢に対する体重のZスコアの変化を決定するために使用したデータを含む。
【0067】
【0068】
【0069】
各患者の血圧及び心拍数も臨床試験中に調査した。各患者について、臨床試験開始時、投与24週後、及び投与48週後に血圧及び心拍数の両方を測定した。
図8は、投与後の各患者の収縮期血圧の変化を示した図である。
図9は、投与後の各患者の拡張期血圧の変化を示した図である。
図10は、投与後の各患者の心拍数の変化を示した図である。表11は、Lomecel-B(商標)細胞投与後の各患者の収縮期血圧の変化を決定するために使用したデータを含む。表12は、Lomecel-B(商標)細胞投与後の各患者の拡張期血圧の変化を決定するために使用したデータを含む。表13は、Lomecel-B(商標)細胞投与後の各患者の心拍数の変化を決定するために使用したデータを含む。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
各患者の三尖弁逆流も臨床試験中に調査した。
図11は、臨床試験開始時、投与6カ月後、及び投与12カ月後の選択された患者の三尖弁逆流率の変化を示した図である。
図12は、臨床試験開始時、投与6カ月後、及び投与12カ月後の選択された患者の三尖弁逆流の正味大動脈順流量の変化を示した図である。
図13は、臨床試験開始時、投与6カ月後、及び投与12カ月後の各患者の三尖弁逆流の変化を示した図である。表14は、Lomecel-B(商標)細胞投与後の選択された各患者の三尖弁逆流率の変化を決定するために使用したデータを含む。表15は、Lomecel-B(商標)細胞投与後の選択された各患者の三尖弁逆流の正味大動脈順流量の変化を決定するために使用したデータを含む。表16は、Lomecel-B(商標)細胞投与後の各患者の三尖弁逆流の変化を決定するために使用したデータを含む。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
投与後の各患者の平均生存率も測定し、過去のHLHS臨床試験、特にSonらによって実施された臨床試験に登録された患者の生存率と比較した(Sonら、「Prognostic value of serial echocardiography in hypoplastic left heart syndrome」、Circulation:Cardiovascular Imaging、(2018)11(7)、e006983)。
図14は、この比較を示した図である。
【0078】
試験所見
Lomecel-B(商標)製剤の心筋内注射は忍容性が高く、主要有害心イベント(MACE)はなく、感染症、又は治験薬での治療に関連すると考えられるその他の有害事象は報告されなかった。この試験で得られた有効性の結果は、患者の生存率の改善及びRV機能の持続を含んでいた。
【0079】
要約すると、HLHS患者のLomecel-B(商標)による治療は安全であり、Lomecel-B(商標)を使用しない第II期手術(ヒストリカルコントロール)よりも高い無移植生存率と、GLSによって測定されたRV収縮力の維持を示す、有望な臨床転帰を示した。これらの臨床所見は、Lomecel-B(商標)製剤がHLHSを治療し、死亡率及び心臓移植の必要性を減少させる可能性を示している。
【国際調査報告】