(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】ジカウイルスに対する免疫応答を誘導するための組換え抗原
(51)【国際特許分類】
C07K 14/08 20060101AFI20240711BHJP
A61K 39/145 20060101ALI20240711BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240711BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240711BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240711BHJP
C12N 15/40 20060101ALN20240711BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240711BHJP
【FI】
C07K14/08 ZNA
A61K39/145
A61P37/04
A61P31/14
A61K31/7088
C12N15/40
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504927
(86)(22)【出願日】2022-07-21
(85)【翻訳文提出日】2024-03-25
(86)【国際出願番号】 CU2022050008
(87)【国際公開番号】W WO2023006131
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】CU-2021-0063
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】304012895
【氏名又は名称】セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バルデス プラド、イリス
(72)【発明者】
【氏名】ギル ゴンザレス、ラザロ
(72)【発明者】
【氏名】ラソ バスケス、ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】エルミダ クルス、リセット
(72)【発明者】
【氏名】ギレン ニエト、ジェラルド、エンリケ
(72)【発明者】
【氏名】コバス アコスタ、カレム
(72)【発明者】
【氏名】ロメロ フェルナンデス、ヤレミス
(72)【発明者】
【氏名】ブルーノ ダルダー、アンディ、ヘスス
(72)【発明者】
【氏名】スザルテ ポルタル、イーディス
(72)【発明者】
【氏名】ペレス フエンテス、ユスレイディ、デ ラ カリダッド
【テーマコード(参考)】
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085BA55
4C085CC08
4C085DD61
4C085EE01
4C085EE03
4C085FF01
4C085GG04
4C086AA01
4C086AA02
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4C086NA13
4C086ZB09
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4C086ZC75
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA31
(57)【要約】
本発明は、ジカウイルスのカプシドタンパク質のアミノ酸2~104に対応するポリペプチド、またはカプシドタンパク質の前記領域と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをポリペプチド鎖内に含む組換えキメラ抗原に関する。本発明はまた、前記組換えキメラ抗原および薬学的に許容されるワクチンアジュバントを含むワクチン組成物に関する。本発明はさらに、ジカウイルスに対する免疫応答を誘導するための薬物を製造するための、ジカウイルスのカプシドタンパク質のアミノ酸2~104に対応するポリペプチド、または前記セグメントと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列をポリペプチド鎖内に含む組換えキメラ抗原の使用に関する。本発明はまた、ジカウイルスに対する免疫応答を誘導する方法であって、組換えキメラ抗原が投与される方法を開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカウイルスのカプシドタンパク質の2~104のアミノ酸に対応するポリペプチド、または前記ジカウイルスの前記カプシドタンパク質の当該領域とほぼ90%の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをポリペプチド鎖内に含む組換えキメラ抗原。
【請求項2】
加えて、エンベロープタンパク質のドメインIIIに対応するポリペプチド、またはジカウイルスのエンベロープタンパク質のこのドメインとほぼ90%の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む、請求項1に記載のキメラ抗原。
【請求項3】
加えて、ポリペプチド鎖のN末端に6つのヒスチジン残基のセグメントを含む、請求項1に記載のキメラ抗原。
【請求項4】
配列番号9または配列番号10として同定されるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のキメラ抗原。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の組換えキメラ抗原、および薬学的に承認されたワクチンアジュバントを含む、ワクチン組成物。
【請求項6】
前記アジュバントがアルミニウム塩である、請求項5に記載のワクチン組成物。
【請求項7】
前記抗原が、用量あたり10~150マイクログラム提供される、請求項5に記載のワクチン組成物。
【請求項8】
加えて、配列番号11として同定されるヌクレオチド配列を有する核酸を含む、請求項5に記載のワクチン組成物。
【請求項9】
ジカウイルスに対する免疫応答を誘導するための薬剤を製造するための、請求項1~4のいずれか一項に記載の組換えキメラ抗原の使用。
【請求項10】
ヒトにおいてジカウイルスに対する免疫応答を誘導する方法であって、薬学的に有効な量の請求項1~4のいずれか一項に記載の組換えキメラ抗原、および薬学的に承認されたアジュバントが投与される、方法。
【請求項11】
前記アジュバントがアルミニウム塩である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記組換えキメラ抗原の前記薬学的に有効な量が、用量あたり10~150マイクログラムの範囲内である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
加えて、配列番号11として同定されるヌクレオチド配列を有する核酸が、前記組換えキメラ抗原と組み合わせて投与される、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーおよび製薬産業の分野に関し、特に、ジカウイルスに対する組換えタンパク質抗原およびワクチン組成物を得ることに関する。
【背景技術】
【0002】
ジカウイルスは、フラビウイルス(Flaviviridae)科のフラビウイルス(Flavivirus)属に属し(Kuno&Chang,2007,Arch Virol,152:687-696)、これには、黄熱病ウイルス、日本脳炎ウイルス、西ナイルウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、およびデングウイルス等の他の病原体が含まれる。ジカウイルスは、熱帯および亜熱帯地域において豊富に存在する(Sharma&Lal,2017,Front Microbiol,8:110-)ヤブカ(Aedes)属の感染した蚊に刺されることによってヒトに伝染する(Kindhauser et al.,2016,Bull World Health Organ,94:675-686C参照)。ジカは、ポリタンパク質に翻訳されるポジティブ一本鎖RNAを有するエンベロープウイルスであり、当該ポリタンパク質は、翻訳前後に10個のタンパク質に切断される(Kuno&Chang,2007,Arch Virol,152:687-696):3つの構造タンパク質および7つの非構造タンパク質が、ウイルス複製、ウイルスアセンブリ、および免疫系の回避に関与する(Sirohi et al.,2016,Science,352:467-470)。構造タンパク質は、カプシドタンパク質(C)、エンベロープタンパク質(E)、および膜タンパク質(M)または膜前駆体タンパク質(PrM)である。非構造タンパク質は、NS1、NS2a、NS2b、NS3、NS4a、NS4b、およびNS5として知られている。
【0003】
これまでのところ、3回の大規模なジカウイルスのアウトブレイクがあった。最初のアウトブレイクは2007年にミクロネジア連邦州で発生し、約7,000人が感染したが、重篤な合併症はなかった(Duffy et al.,2009,N Engl J Med,360:2536-2543)。2013年、2回目の流行性アウトブレイクがフランス領ポリネシアで発生し、推定28,000人の住民がジカウイルス感染症に罹患した(Musso et al.,2014,Clin Microbiol Infect,20:O595-O596)。このアウトブレイクでは、ギラン・バレー症候群等の神経学的損傷症例の発生率の増大が初めて観察された(Cao-Lormeau et al.,2016,Lancet,387:1531-1539)。3回目のアウトブレイクは、2015年に、ブラジルにおいて、44万~130万症例のジカウイルス感染症が疑われた(Hennessey et al.,2016,MMWR Morb Mortal Wkly Rep,65:55-58)。当該アウトブレイクでは、神経学的損傷がある症例、具体的にはギラン・バレー症候群を患う人および小頭症を患う新生児の数が増大した(Schuler-Faccini et al.,2016,MMWR Morb Mortal Wkly Rep,65:59-62)。
【0004】
2016年に、世界保健機関(WHO)は、ジカウイルスによって引き起こされる疾患を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern)」と宣言した。2017年には、当該疾患の伝染が48か国において報告され、51万件の疑いのある症例および17万件を超える確認された症例が蓄積されたYun&Lee,2017,J Microbiol,55:204-219)。2019年の時点で、6つのWHO地域のうちの4つ(アフリカ、東南アジア、西太平洋、およびアメリカ)に分布する87か国が、感染した蚊の刺咬傷を介したジカウイルスの自然伝染を報告している。このウイルスについては、ベクター伝染に加えて、具体的には、性的伝染、妊娠中の母親から胎児への伝染、および輸血等の他の伝染経路の可能性がある(Frank et al.,2016,Euro Surveill,21)。
【0005】
感染後、臨床症状「デング熱様症候群」がヒトにおいて発症する。これは軽度または無症候性であり得、感染の約80%は無症候性である(Grossi-Soyster&LaBeaud,2017,Curr Opin Pediatr,29:102-106)。一般に、症候性症例は軽度であり、発疹、発熱状態、関節炎、関節痛、非化膿性結膜炎、および四肢の浮腫が挙げられ得る(Calvet et al.,2016,Curr Opin Infect Dis,29:459-466)。頭痛、筋肉痛、眼窩後痛、腰痛、リンパ節症、および嘔吐等の他の症状も起こり得る(Brasil et al.,2016,PLoS Negl Trop Dis,10:e0004636)。疾患は、多くの場合、軽度である。しかしながら、特に基礎疾患がある人々において、致命的な症例の報告がある(Arzuza-Ortega et al.,2016,Emerg Infect Dis,22:925-927)。
【0006】
初期のデータは、ジカウイルスに対する免疫応答が、他のフラビウイルス(Flavivirus)の免疫応答と類似していることを示しており、そこでは、Eタンパク質に対する中和抗体(Fernandez&Diamond,2017,Curr Opin Virol,23:59-67)が、感染に対する防御において、主要な要素を構成していた(Sapparapu et al.,2016,Nature,540:443-447)。Eタンパク質は、ビリオン表面上で最も曝露されており、宿主細胞中へのウイルスの融合および侵入に関与している(Larocca et al.,2016,Nature,536:474-478)。しかしながら、フラビウイルス(Flavivirus)間、とりわけデングウイルスとジカウイルス間の高レベルの交差反応性が、双方のウイルス感染を区別する抗体の役割を妨げている(Kostyuchenko et al.,2016,Nature,533:425-428)。
【0007】
これまでのところ、デングウイルスについて十分に実証されているように、ジカウイルスに対して生成された抗体が、感染の抗体依存性の増強の現象を介して、別の関連フラビウイルス(Flavivirus)へのウイルス感染を促進し得るかどうかは、不明である。また、ジカウイルスに対して生成された免疫応答が、その後のデングウイルス感染に影響を及ぼし得るかどうか、もしくはその逆、または一部の患者において観察されるギラン・バレー症候群等の神経学的損傷が、直接ウイルス感染、もしくは免疫応答の二次的影響の結果であるかどうかも、知られていない(Poland et al.,2018,Lancet Infect Dis,18:e211-e219)。
【0008】
一方、最近の研究は、ジカウイルス感染に対するT細胞応答の重要な役割を示している。ウイルスに免疫がある人々由来の末梢血単核細胞(PBMC)を用いて、細胞性免疫応答の主な標的が同定されてきた。当該応答は主に、構造タンパク質CおよびprM、ならびに非構造タンパク質NS2およびNS5に向けられる(Xu et al.,2016,PLoS Curr,8:Elong et al.,2017,Cell Host Microbe,21:35-46)。
【0009】
不活化ウイルスワクチン、弱毒化ワクチン、DNAおよびmRNAワクチン、ウイルスベクターベースのワクチン、ならびにサブユニットワクチンを含む、複数の抗原送達アプローチを用いる、ジカウイルスに対する40を超えるワクチン候補が、現在開発中である(Barouch et al.,2017,Immunity,46:176-182)。しかしながら、これらのアプローチのいくつかは、その高い製造コストおよび低い安全性プロファイル等の欠点があり、サブユニットワクチンへの道が切り開かれる。
【0010】
サブユニットワクチンの中には、Eタンパク質の80%(Liang et al.,2018,PLoS One,13:e0194860-;Qu et al.,2018,Antiviral Res,154:97-103)、およびEタンパク質のドメインIII(EDIII)(Qu et al.,2018,Antiviral Res,154:97-103)に基づくバリアントが存在する。具体的には、他のフラビウイルス(Flavivirus)について得られた結果に基づいて、EDIII領域が有望な免疫原として現れた(Beltramello et al.,2010,Cell Host Microbe,8:271-283)。組換えEDIII領域を用いたいくつかの研究が、マウスにおける体液性免疫応答および細胞性免疫応答の誘導、ならびにウイルスチャレンジに対する防御を示した(Yang et al.,2017,Sci Rep,7:7679-;Qu et al.,2018,Antiviral Res,154:97-103)。しかしながら、これらの戦略の全てが、よりヒトに近い動物モデルにおいて、これらの有望な結果を再現することができたわけではない。体液性免疫応答および細胞誘発性免疫応答を向上させるために、新規抗原、免疫系への提示の向上、または組換えサブユニットとアジュバントとの組合せを含む新規製剤が評価されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の要素に従えば、フラビウイルス(Flavivirus)に対する安全かつ有効な免疫応答を誘導することができる、ジカウイルスに対するサブユニットワクチンの開発は、依然として未解決の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ジカウイルスのカプシドタンパク質のアミノ酸2~104に対応するポリペプチド、または当該ウイルスのカプシドタンパク質のそのような領域と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをポリペプチド鎖内に含む組換えキメラ抗原を提供することによって、上述の課題を解決する。このようにして、本発明のキメラ抗原は、ウイルスに対する中和抗体の存在なしに、細胞性免疫応答を潜在的に誘導して、ウイルス量を減少させ、かつ保護を実現することができる領域を含有する。
【0013】
本発明の一実施形態において、キメラ抗原は、追加で、ジカウイルスEタンパク質のEDIIIドメインに対応するポリペプチド、またはジカウイルスエンベロープタンパク質のそのようなドメインと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。この場合、キメラ抗原は、中和抗体および細胞性免疫応答の双方を誘導することができる2つの潜在的保護領域を含む。これらの領域は、EDIIIドメイン由来の145アミノ酸およびウイルスカプシドタンパク質由来の103アミノ酸からなる。双方のウイルス領域は、ジカウイルスについて同定されていた2つの系統、アジア/アメリカ系統およびアフリカ系統を含む異なる単離株間で、高度の相同性を示す(Haddow et al.,2012,PLoS Negl Trop Dis,6:e1477-)。これらの領域は、本発明のキメラ抗原を、ジカウイルスの様々な株による感染から保護するのに有用な分子に変換する。
【0014】
本発明の一実施形態において、キメラ抗原は、追加で、そのポリペプチド鎖のN末端に6つのヒスチジン残基のセグメントを含む。特定の実施形態において、キメラ抗原は、配列番号9または配列番号10として同定されるアミノ酸配列を有する。
【0015】
本発明の目的は、そのポリペプチド鎖内に、a)ジカウイルスカプシドタンパク質のアミノ酸2~104に対応するポリペプチド、または当該ウイルスのカプシドタンパク質のそのような領域と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドと、b)薬学的に許容されるワクチンアジュバントとを含む組換えキメラ抗原を含むワクチン組成物である。本発明の一実施形態において、アジュバントはアルミニウム塩である。
【0016】
最初に、免疫を誘導するワクチン組成物の能力を、腹腔内経路によって免疫化された免疫適格マウス(BALB/c)における前臨床試験において評価した。当該研究では、ヒトにおける後の使用のための汎用性のために、ミョウバンをアジュバントとして用いた。加えて、ワクチン組成物を、免疫刺激デオキシリボ核酸(sDNA)鎖(本発明において配列番号11と呼ぶ)と組み合わせて試験した。これにより、非凝集バリアントよりも免疫系に効率的に提示される抗原の凝集体の形成に起因して、免疫エンハンサを含まない調製物と比較した場合に、免疫原性が増大する新しいワクチン組成物の生成が可能になった。
【0017】
したがって、本発明の一実施形態において、キメラ抗原に基づくワクチン組成物は加えて、配列番号11として同定されるヌクレオチド配列を有する核酸を含む。本発明の一実施形態において、ワクチン組成物では、キメラ抗原は、用量あたり10~150マイクログラムの範囲である。
【0018】
ウイルスカプシド領域を含むワクチン組成物は、免疫刺激性ssDNAの存在に起因して、可溶性形態および凝集形態の双方とも、免疫化マウスにおいて細胞性免疫応答を生成した。この免疫は、様々なウイルス株によるチャレンジ後の動物に、部分的な保護を与えた。
【0019】
ジカウイルスのEDIII領域およびウイルスカプシドタンパク質領域を含むキメラタンパク質を含むワクチン組成物の場合、免疫刺激性ssDNAと組み合わせた後の可溶性形態および凝集形態は双方とも、免疫化マウスにおいて体液性免疫応答および有効な細胞性免疫応答を生成することができた。この免疫は、様々なウイルス株によるチャレンジ後の動物に、保護を与えた。
【0020】
続いて、双方の分子の凝集バリアントを含むワクチン組成物を選択して、アジュバントとしてミョウバンも用いて、皮下接種したアカゲザル(Macaca mulatta)種の非ヒト霊長類において評価した。結果として、免疫化された動物において、ジカウイルスに対する中和抗体が生じ、そしてまた、3回の投与後に細胞性免疫応答が生じた。したがって、別の態様において、本発明は、ジカウイルスに対する免疫応答を誘導するための薬物を製造するための、上記の組換えキメラ抗原の使用を含む。
【0021】
また、本発明は、ポリペプチド鎖内に、ジカカプシドタンパク質のアミノ酸2~104に対応するポリペプチド、またはジカウイルスカプシドタンパク質のそのような領域と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドを、そして薬学的に許容されるアジュバントを含む、薬学的に有効な量の組換えキメラ抗原を投与したヒトにおいて、ジカウイルスに対する免疫応答を誘導する方法を提供する。
【0022】
本発明の一実施形態において、アジュバントはアルミニウム塩である。本発明の方法の一実施形態において、組換えキメラ抗原の薬学的に有効な量は、用量あたり10~150マイクログラムの範囲内である。特定の実施形態として、本発明の方法では、配列番号11として同定されるヌクレオチド配列を有する核酸が、加えて、組換えキメラ抗原と共に投与する。
【0023】
ジカウイルスのEDIII領域を用いるいくつかの研究は、マウスにおける体液性免疫応答および細胞性免疫応答の誘導、ならびにウイルスチャレンジに対する防御を示したが、これらの戦略は、霊長類において達成される良好な免疫原性結果を再現することができなかった。本発明は、ジカウイルスのサブユニットに基づいてワクチン候補を開発する試みと比較して、明らかな利点を有する。本発明のキメラ抗原は、これを含有するワクチン組成物により、非ヒト霊長類において細胞性応答および体液性応答の双方を誘導することが示された。一部には、ジカウイルスに対するこの有効な応答は、ウイルスカプシドタンパク質の103アミノ酸断片の包含、および抗原を免疫系に提示するより良好な方法に起因するものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A-1B】発現ベクターpET-28ACにおけるZC(A)およびZEC(B)タンパク質のコード領域のクローニング。
【
図2A-2D】SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)による分離、ならびにZECおよびZC組換え抗原のウエスタンブロット特性評価:(A)ZECタンパク質の12.5%SDS-PAGE;(B)ZECタンパク質のウエスタンブロット;(C)ZCタンパク質の12.5%SDS-PAGE、ならびに(D)ZCタンパク質のウエスタンブロット。
【
図3A-3C】ジカ免疫対象由来のポリクローナル抗体を用いた、ZCおよびZEC組換えタンパク質のELISAによる抗原特性評価。この図は、ヒト血清SH1およびSH2(A)、SH6およびSH7(B)、SH8およびSH9(C)の段階希釈液との、2つの組換えタンパク質の反応性を示す。
【
図4】組換えタンパク質またはジカウイルスによるインビトロ刺激後のジカ免疫のある人々由来のPBMCを用いたインターフェロンガンマ(IFNγ)ELISpot。10μgのZCまたはZEC組換えタンパク質をインビトロ刺激に用い、そして感染多重度(MOI)1または5を、ウイルスによるインビトロ刺激に用いた。結果を、2つの独立した実験からの、PBMC 100万個あたりのスポット形成単位(SFU)の平均±標準偏差として示す。破線は、アッセイの陽性限界(50SFU/100万細胞)を示す。
【
図5A-5B】ZCまたはZECタンパク質を含む組成物で免疫化したBALB/cマウスにおける体液性免疫応答を示す図である。(A)ELISAによって判定した抗体抗ジカウイルス。(B)インビトロウイルス中和試験によって測定した中和抗体。データを、平均±標準偏差として示す(n=10)。異なる文字は、群間の統計学的有意差を示す(p<0.01)。破線の水平線は、アッセイの陽性限界を示す。
【
図6】IFNγ ELISpotによって判定した、ZCまたはZECタンパク質で免疫化したBALB/cマウスにおける細胞媒介性免疫応答を示す図である。データは、脾臓細胞100万個あたりのSFUの平均±平均の標準誤差として示す(n=10)。異なる文字は、群間の統計学的有意差を示す(p<0.001)。破線の水平線は、アッセイの陽性限界を示す。
【
図7A-7B】ZCまたはZECタンパク質製剤で免疫化したBALB/cマウスにおける体液性免疫応答を示す図である。(A)ELISAによって測定したジカウイルス抗体。(B)インビトロウイルス中和試験によって判定した中和抗体。データを、平均±標準偏差として示す(n=10)。異なる文字は、群間の統計学的有意差を示す(p<0.01)。破線の水平線は、アッセイの陽性限界を示す。
【
図8】IFNγ ELISpotによって判定した、ZCまたはZECタンパク質で免疫化したBALB/cマウスにおける細胞媒介性免疫応答を示す図である。データは、脾臓細胞100万個あたりのSFUの平均±標準誤差として示す(n=10)。異なる文字は、群間の統計学的有意差を示す(p<0.01)。破線の水平線は、アッセイの陽性限界を示す。
【
図9A-9C】組換えタンパク質ZCまたはZECで免疫化して、ジカウイルスの様々な神経適合株でチャレンジしたBALB/cマウスの脳におけるウイルス血症。(A)キューバ人患者から単離した株(ZIK16株)によるウイルスチャレンジ後の保護アッセイ;(B)参照株MR766によるウイルスチャレンジ;(C)参照株Brazil ZKV2015によるウイルスチャレンジ後の保護アッセイ。データは、平均±平均の標準誤差として示す(n=10)。破線は、アッセイの検出限界を表す。異なる文字は、群間の統計学的有意差を示す(p<0.05)。
【
図10A-10B】組成物ZEC+DNAssまたはZC+DNAssで免疫化した非ヒト霊長類における体液性免疫応答の動態。(A)ELISAによって測定した抗組換えタンパク質抗体(ZCまたはZEC)。(B)ELISAによって測定したジカウイルスに対する抗体。矢印は、各用量の投与時間を示す。破線の水平線は、アッセイの陽性限界を示す。
【
図11】組成物ZEC+DNAssまたはZC+DNAssで免疫化した非ヒト霊長類における、IFNγ ELISpotによって判定した細胞媒介性免疫応答の動態。データは、PBMC100万個あたりのSFUの平均±平均の標準誤差として示す(n=4)。破線の水平線は、アッセイの陽性限界を示す。
【
図12】組成物ZC+DNAssまたはZEC+DNAssで免疫化して、感染性ジカウイルス(ZIK16株)でチャレンジした非ヒト霊長類におけるウイルス血症を示す図である。データを、平均±標準偏差として示す(n=4)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
例1.組換えタンパク質ZCおよびZECのクローニングおよび発現。
ベロ細胞を、症状があり、かつZIKV感染が確認されたボランティアの尿試料および血清試料により感染させて、疾患の症状の発症後3日目から7日目に収集した。6~7日のインキュベーション後、ベロ細胞による連続継代を行って、細胞変性効果(合胞体形成)が観察されたときに培養上清を収集した。7~8回の連続継代後、調製物をベロ細胞で滴定して、7×106PFU/mLのウイルス力価を得た。感染者の試料からのジカウイルスについての単離実験において、同様の結果が記載されている(Musso et al.,2015,J Clin Virol,68:53-55;Bonaldo et al.,2016,PLoS Negl TropDis,10:e0004816)。
【0026】
RNAを、感染したベロ細胞の培養上清から抽出して、ウイルスカプシドおよびエンベロープタンパク質をコードするDNA鎖の増幅のための逆転写反応における鋳型として用いた。プライマーとして、双方のウイルスタンパク質の近くの、側面に位置する保存領域に結合するオリゴヌクレオチドを用いた(表1に示す)。
【表1】
【0027】
DNA配列を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅してから、双方のPCR断片を配列決定して、他のジカウイルス単離株について以前に記載されたものと比較して、得られた領域の同一性を実証した。キューバ人患者の試料から単離したジカウイルスを、以降、ZIK16と呼んだ。その後、これらの領域を、以降のクローニング工程のための特定の制限部位を有する、ZCおよびEDIII領域に対応する領域の増幅用の鋳型として用いて、第2のPCRを行った(表2)。
【表2】
【0028】
双方の断片を、市販のベクターpGEMt中にクローニングして、大腸菌(Escherichia coli)細胞のコンピテントJM-109株に形質転換した。形質転換細胞を、50μg/mLの抗生物質アンピシリンを補充したルリア・ベルターニ(LB)培地中で37℃にて10時間増殖させた。これらの大腸菌(E.coli)の形質転換細胞を用いて、DNAプラスミドを得て精製した。中間構築物pGEMt-ZCおよびpGEMt-EDIIIを、それぞれ制限酵素BamHI/HindIIIまたはBamHIで消化して、ジカウイルスのウイルスカプシドおよびEDIII領域をコードするDNA断片を得た。
【0029】
次に、ウイルスカプシドに対応するDNAバンドを、pET-28AC発現ベクター中に挿入した。このベクターは、ファージT7プロモータ、およびN末端領域の6個のヒスチジン残基の尾部を含有する。結果として、pET-28AC-ZC構築物を有する4つの形質転換体(
図1A)が得られた。それらを配列決定して、ZCタンパク質のコード配列の同一性(配列番号9)を確認した。次いで、構築物pET-28AC-ZCの1つ(クローン2)を選択した。このクローンを、予めBamHI酵素で消化したEDIII DNAバンドの挿入のためにBamHI/CIP酵素で消化して、結果として生じる発現ベクターpET-28AC-ZECを得た。このベクターは、ウイルスカプシドタンパク質のN末端に融合したEDIIIドメインの領域を含む。結果として、pET-28AC-ZEC構築物の2つの形質転換体を選択した(
図1B)。ZECタンパク質のコード配列の同一性を、配列決定によって確認した。配列表において配列番号10と識別している。
【0030】
ZCおよびZECキメラ組換えタンパク質の発現を、プラスミドpET-28AC-ZC(クローン2)およびpET-28AC-ZEC(クローン23)でそれぞれ形質転換した大腸菌(E.coli)のBL-21(DE3)株において実行した。1mMのIPTGを加えて、PhageT7プロモータの誘導後に、組換えタンパク質の発現を実行した。細胞バイオマスをSDS-PAGEによって分析した。ZC(配列番号9)およびZEC(配列番号10)の過剰発現組換えタンパク質は、それぞれ12.8kDaおよび28.5kDaの分子量を有する。
【0031】
例2.組換えタンパク質ZCおよびZECの精製および抗原特性評価。
建築物pET-28AC-ZC(クローン2)およびpET-28AC-ZEC(クローン23)を用いた大腸菌(E.coli)のBL-21(DE3)株の形質転換から得た細胞バイオマスを、リン酸緩衝生理食塩水中に再懸濁させて、超音波の3パス後に溶解した。破壊後、双方の組換えタンパク質は、遠心分離によって得られた不溶性画分中にほとんど分配されていた。各バイオマスの不溶性画分から、組換えタンパク質を、カオトロピック剤として7M尿素を有するトリスバッファ中に可溶化して、SP Sepharose FFマトリックスを用いるイオン交換クロマトグラフィプロセスによって精製した。目的の各タンパク質を、バッファのイオン強度を増大させることによって得た。次いで、尿素を除去して、タンパク質を、10mMトリスバッファpH8.0中での6回の排除クロマトグラフィプロセスによって再度折り畳んだ。双方のクロマトグラフィプロセスの後に、ZCおよびZECタンパク質が、それぞれ85%および70%の純度で得られた(
図2Aおよび
図2C)。
【0032】
双方のタンパク質の抗原性の特性評価を、2つの異なる抗体源を用いるウエスタンブロットによって実行した(
図2Bおよび
図2D)。用いた抗体は、ウイルスに免疫がある人々由来のポリクローナル抗体、および6つのヒスチジン残基の尾部を認識するモノクローナル抗体(MAb抗His)であった。ZECタンパク質は、ジカウイルス感染に免疫がある人々由来のヒトポリクローナル抗体によって認識されることが確認された。同時に、このタンパク質は、ZECタンパク質のN末端領域に存在するエピトープを認識する抗His MAbにより免疫識別された。同様に、より小さいタンパク質バンドもまた、この抗体で免疫識別された。これは、ZECタンパク質の精製中に、C末端領域において分解が起こることを示している。
【0033】
組換えタンパク質ZCのウエスタンブロット特性評価では、ウイルス感染に免疫がある人々由来のヒトポリクローナル抗体による認識は観察されなかった。この理由は、ジカウイルスのカプシドタンパク質は、天然のウイルス粒子において曝露されないためである。しかしながら、組換え抗原のN末端領域に存在するエピトープを認識する抗His MAbによる認識が得られた。
【0034】
組換えタンパク質の一次構造の検証、およびZECキメラポリペプチド内のEDIII領域中へのジスルフィド結合の正確な形成のために、組換えタンパク質の分析を、質量分析によって実行した。各精製タンパク質に対応するバンドを、SDS存在下でポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離させて、ゲルから抽出してから、酵素トリプシンで消化した。表3は、双方の試料の消化後に得られたスペクトルの質量割当てをまとめたものである。一部のシグナルが、双方の調製物において検出された。この理由は、分子のC末端を共有するためである。この分析後、ZEC(配列番号10)およびZC(配列番号9)タンパク質配列のそれぞれ62.7%および41.7%を検証することができた。加えて、ZECキメラタンパク質において見出されるEDIII領域内のシステイン残基(Cys27およびCys58)間のジスルフィド結合の正確な形成が実証された。このジスルフィド結合は、EDIII領域の適切な高次構造に不可欠であり、タンパク質Eの天然の構造において提示される仕方と類似する(Sirohi et al.,2016,Science,352:467-470;Sirohi&Kuhn,2017,J Infect Dis,216:S935-S944)。驚くべきことに、システイン残基Cys27とCys58間のジスルフィド結合は、この領域がウイルスカプシドタンパク質に融合されて新規キメラタンパク質ZECを形成していた場合ですら、保存されていた。
【表3】
【0035】
加えて、双方の組換えタンパク質の抗原性の特性評価を、ヒト血清を用いるELISAによって実行した。アッセイでは、組換えタンパク質ZCまたはZECをプレート上に固定してから、ヒトポリクローナル抗体による認識を評価した。このアッセイのために、ジカウイルス感染に免疫がある6人のボランティア由来のヒト血清(SH)を用いた。これは、疾患の急性期(SH1、SH6、およびSH8)または回復期(SH2、SH7、およびSH9)の間に収集した。
図3において分かるように、ZCタンパク質について検出された低い反応性とは対照的に、ウイルスに免疫がある人々由来のポリクローナル抗体によるZECタンパク質の認識はより大きかった。この挙動は、試験した全ての血清試料について同様であり、これは、ZECキメラタンパク質内に含まれるEDIIIドメイン領域に起因する。この領域は、ウイルス粒子の表面上に曝露されている(Sirohi et al.,2016,Science,352:467-470;Sirohi&Kuhn,2017,J Infect Dis,216:S935-S944)。したがって、自然感染中に生成された抗体は、ZECタンパク質を認識する。対照的に、ウイルスカプシドタンパク質は、成熟ビリオン内にエンベロープされ、この領域に対する抗体は、ジカウイルス感染中に生成されない(Mukhopadhyay et al.,2005,Nat Rev Microbiol,3:13-22)。これは、カプシド領域のみを含有するキメラタンパク質ZCが、ジカウイルスに感染した人々の血清によって認識されなかった理由を説明する。
【0036】
また、組換えタンパク質ZCおよびZECを、IFNγ ELISpotアッセイを用いて、ジカウイルスに特異的なメモリT細胞を刺激する能力について評価した。このサイトカインは、種々のフラビウイルス(Flavivirus)に対する抗ウイルス活性を介した細胞性免疫応答のメディエータとして記載されている(Shresta et al.,2004,J Virol,78:2701-2710)。この実験のために、10μg/mLの組換えタンパク質ZCもしくはZEC、またはジカウイルスの調製物(MOI1および5)でインビトロ刺激した、ジカウイルスに免疫があるボランティア由来のPBMCを用いた。次に、刺激後に誘導された、抗ウイルスサイトカインIFNγを分泌可能なメモリT細胞の数を定量した。
【0037】
その評価の結果を、
図4に、2つの独立した実験由来の100万細胞あたりのSFUの平均±標準偏差として示す。このアッセイでは、組換えタンパク質ZCおよびZECによるインビトロ刺激後に、4名のボランティアのうち3名由来の試料において、ジカウイルス特異的IFNγ分泌細胞が検出された。同様に、ウイルス抗原による刺激の後に、分析した4名のボランティアのうち3名由来の試料において、ジカウイルスに特異的なIFNγ分泌細胞が検出された。まとめると、これらの結果は、ZCおよびZEC組換えキメラタンパク質が、ジカウイルスに特異的なメモリT細胞に対するエピトープを含むことを実証している。逆に、これらのタンパク質抗原は、ウイルス感染によって以前に生成された細胞性免疫応答を刺激することができる。
【0038】
例3.BALB/cマウスにおける組換えタンパク質ZCおよびZECの免疫原性および保護能力の評価。
組換えタンパク質ZCおよびZECの免疫原性の評価を、雌BALB/cマウスにおいて実行し、それぞれ10頭の動物の4つの群を用いた。研究に含めた群を、表4に示す。
【表4】
【0039】
動物の免疫化のために、組換えタンパク質ZCまたはZECを、分子量を考慮して用い、組換えタンパク質ZCを接種した群には10μgを投与し、タンパク質ZECを接種した群には20μgの組換えタンパク質を投与した。双方のタンパク質を、アジュバントとしての水酸化アルミニウム(ミョウバン)中に、1.44mg/mLの最終濃度にて製剤化した。全ての群を、0日目、15日目、そして45日目の3回用量の各免疫原で、腹腔内経路によって免疫化した。
【0040】
最後の投与の15日後、各群の動物から採血して、血清を体液性免疫応答の評価に用いた。
図5は、ELISAによって測定したジカウイルスに対する抗体、およびインビトロウイルス中和試験によって評価した中和抗体の体液性免疫応答を示す。
【0041】
ELISAのために、プレートをジカウイルス(ZIK16株)でコーティングしてから、血清試料をいくつかの希釈液でインキュベートし、次いで、市販の抗マウスIgGコンジュゲートの適切な希釈液を加えた。
図5Aにおいて見られるように、ZEC組換えタンパク質製剤で免疫化した群、およびウイルス対照群では、ジカウイルスに対する高力価の抗体が検出された。それらの間に統計学的に有意な差(p>0.05)はなかった。統計分析は、テューキーの多重比較検定を用いて実行した。プラセボおよび組換えタンパク質ZCを投与した群では、ウイルスに対する抗体は検出されず、検出されたレベルは、アッセイの陽性限界未満であった。
【0042】
抗体の機能性を、最後の投与の30日後に、インビトロでのプラーク減少ウイルス中和試験(PRNT)によって測定した。PRNTのために、動物血清の希釈液を、ジカウイルス調製物(ZIK16株)と混合した。インキュベーション期間後、混合物を用いて、24ウェルプレートのベロ細胞に感染させた。ゆえに、残りの中和されていないウイルスは、細胞に感染して、目に見えるプラークの形成を引き起こすことができた。
図5Bは、免疫化動物の血清中で推定したジカウイルスに対する中和抗体力価の平均±標準偏差を示す。中和力価は、プラーク数の50%の減少が達成される最大希釈と定義した。検出された抗体応答抗ジカウイルスと同様に、タンパク質ZEC製剤で免疫化した群およびウイルス対照群では、中和抗体が検出され、幾何平均力価(GMT)は1:200よりも大きく、それらの間に統計学的差異(p>0.05)はなかった。
【0043】
加えて、細胞性免疫応答の誘導を、異なる製剤で免疫化した動物における最後の免疫の30日後に研究で評価した。このアッセイのために、各群の10頭の動物の脾臓細胞を抽出して、脾臓細胞をジカウイルスでインビトロ刺激した後に、IFNγ分泌細胞の頻度を求めた。
図6は、各群における抗ウイルスサイトカインを分泌する細胞の数を示す。ZCおよびZEC組換えタンパク質製剤で免疫化した群では、脾臓細胞をジカウイルス(ZIK16株)でインビトロ刺激した後に、IFNγ分泌細胞が検出され、これらの群において、応答動物100%が得られた。ZCまたはZEC組換えタンパク質を投与した動物において検出されたIFNγ分泌細胞の値と、プラセボ群の動物において検出されたIFNγ分泌細胞の数との間に、統計学的に有意な差があった(p<0.05)。ウイルス対照群の動物では、抗ウイルスサイトカインを分泌する細胞の数は、組換えタンパク質で免疫化した動物において検出される、IFNγを分泌する細胞のレベルと比較して、高かった(p<0.05)。統計分析は、ANOVA検定およびテューキーの多重比較を用いて実行した。
【0044】
例4.組換えタンパク質ZCおよびZECからのヌクレオカプシド様粒子の凝集または形成。
フラビウイルスカプシドタンパク質は、ウイルス粒子アセンブリプロセス中に、ゲノムを取り囲んで保護するヌクレオカプシドを形成する(Duffy et al.,2009,N Engl J Med,360:2536-2543)。これらの構造的特徴を考慮して、組換えタンパク質ZCおよびZECを用いて、各組換えタンパク質を、免疫調節特性を有する一本鎖DNA(本明細書ではssDNAと呼ばれ、配列番号11として識別される)とインキュベートすることによって、インビトロ凝集プロセスまたはヌクレオカプシド様粒子(NSP)の形成を実行した。
【0045】
各分子の分子量に従って、タンパク質の、ssDNAとの異なる組合せを、凝集反応に用いた。その後、反応混合物を25℃にて30分間、続いて4℃にて4時間インキュベートしてから、反応混合物を10,000×gにて遠心分離して、上清をSDS-PAGEによって分析した。結果として、可溶性ZCまたはZEC組換えタンパク質は、凝集反応に用いたssDNA量に応じて、評価したいくつかの組合せで、不溶性高分子量凝集体を形成することができることが観察された。その後の研究のために、目的の組換えタンパク質の約50%の凝集になりやすい(favor)タンパク質:ssDNAの特定の比率を選択した。50%の凝集を達成するのに必要とされるssDNAの量は、その質量およびアミノ酸組成に従って、組換えタンパク質毎に異なった。
【0046】
例5.凝集したZCおよびZEC組換えタンパク質の組成物の免疫原性の評価。
組換え凝集タンパク質ZCおよびZECの免疫原性の評価のために、それぞれ30頭の動物を含む6つ群の雌BALB/cマウスを用いた。研究に含めた群を、表5に示す。
【表5】
【0047】
動物の免疫化のために、ssDNAとのインキュベーション後の可溶性凝集形態の組換えキメラタンパク質ZCまたはZECを用いた。同様に、各分子の分子量を考慮して、ZC組換えタンパク質を接種した群には10μgのタンパク質を投与し、ZECタンパク質を接種した群には20μgの組換えタンパク質を投与した。全ての製剤を、アジュバントとしてミョウバンを用いて、1.44mg/mLの最終濃度にて調製した。群に、0日目、15日目、そして45日目の製剤の3回用量を、腹腔内経路によって投与した。
【0048】
最後の投与から15日後、各群由来の10頭の動物から採血して、血清を用いて、ジカウイルスに対する抗体をELISAによって判定した。
図7に示すように、キメラタンパク質ZECを含有する製剤を投与した群では、ウイルスに対する高力価の抗体が検出された。これらの力価は、ウイルス対照群の動物において検出されたものと同様であった(p>0.05)。この結果は、ssDNAの存在に起因するZECキメラタンパク質の凝集が、ウイルスに対する抗体の生成に影響を及ぼさなかったことを示している。逆に、ZCおよびZC+ssDNA製剤で免疫化した動物では、ジカウイルスに対する抗体力価は検出されなかった(
図7A)。統計分析は、クラスカル・ウォリス検定、およびダン検定を用いる事後多重比較を用いて実行した。
【0049】
免疫化によって誘発された抗体の機能性を、PRNTによる最後の投与の30日後に分析した。
図7Bは、ジカウイルスに対する中和抗体力価の平均±標準偏差を示す。中和力価は、プラーク数の50%の減少が達成される最大希釈と定義する。図から分かるように、ZEC群およびZEC+ssDNA群の動物では、中和抗体が検出され、TPGは1:200よりも大きかった。これは、ジカウイルス調製物を投与した群において検出された力価と統計学的差異(p>0.05)がなかった。
【0050】
加えて、この免疫スキームでは、免疫化動物において細胞媒介性免疫応答を誘導するZCおよびZECタンパク質製剤の能力を評価した。そのために、最後の投与の30日後に、各群の10頭の動物から脾臓細胞を抽出して、脾臓細胞をジカウイルスでインビトロで刺激した後に、IFNγ分泌細胞の頻度を求めた。
図8は、各群における抗ウイルスサイトカインの分泌細胞の数を示す。図から分かるように、ZCおよびZEC組換えタンパク質製剤で免疫化した群では、動物の100%がIFNγ分泌細胞を有し、プラセボ群と比較して、有意差があった(p<0.01)。統計分析は、ANOVA検定およびテューキーの多重比較を用いて実行した。可溶性タンパク質製剤、およびssDNAを含む凝集製剤を投与した群の間で、分泌細胞数の差が観察された(p<0.01)。逆に、凝集タンパク質を有する製剤で免疫化した群の動物におけるIFNγ分泌細胞のレベルは、ジカウイルスを接種した群において検出されたものと同様であった(p>0.05)。
【0051】
例6.BALB/cマウスにおいて、凝集組換えタンパク質ZCおよびZEC製剤によって誘導された保護能力の評価。
凝集組換えタンパク質ZCおよびZECで免疫化したBALB/cマウスにおけるウイルスチャレンジに対する保護能力を評価した。保護を、神経適合株(neuroadapted strain)によるウイルスチャレンジ後の免疫化動物における脳ウイルス量を制御または減少させる能力として測定した。
【0052】
チャレンジ実験のために、最後の免疫化の1ヶ月後、群あたり10頭の動物に、ジカウイルスの3つの異なる神経適応株(ZIK16株、MR766株、およびBrazil ZKV2015株)の半数致死量(LD50)を頭蓋内接種した。ウイルスチャレンジの7日後、動物の脳を無菌条件下で抽出した。脳を細かく砕いて、これらの試料由来の上清を、ベロ細胞への感染後のウイルス量定量に用いた。
【0053】
異なるジカウイルス株を用いた3つの実験について、プラセボ製剤で免疫化した動物では、脳試料において10
4PFU/mlを超える高いウイルス量が観察された。これらの結果を
図9に示す。対照的に、組換えタンパク質ZC、ZC+ssDNA、およびZECを含む異なる調製物を接種した群の動物では、プラセボ群と比較して、ウイルス量の減少が観察され、用いたウイルス株に応じて、一部の群について統計学的に有意であった(
図9A~
図9C)。しかしながら、組換えタンパク質ZEC+ssDNAまたはジカウイルスの製剤を投与した動物は、プラセボ群の動物と比較して、3回のチャレンジ試験において一貫して、ウイルス量の有意な減少を達成した(p<0.001)(
図9A~
図9C)。統計分析は、ANOVA検定およびテューキーの多重比較を用いて実行した。
【0054】
例7.非ヒト霊長類におけるキメラタンパク質ZCおよびZECの免疫原性および保護能力の評価。
BALB/cマウスにおける前臨床研究の結果に基づいて、ssDNAと組み合わせてミョウバンでアジュバント化した組換えタンパク質ZCおよびZECを、ジカウイルス陰性非ヒト霊長類において評価した。加えて、組換えタンパク質およびアジュバントとしてのミョウバンの凝集プロセスに用いたものと同じ量のssDNAを投与したプラセボ群を含めた。4頭の動物を、スキームの各群に含めた。非ヒト霊長類を、それぞれ50μgまたは100μgの用量のZC+ssDNAまたはZEC+ssDNA凝集体製剤で3回免疫化した。製剤を2ヶ月毎に間隔を空けて(スケジュールの0、60、そして120日目に)皮下投与した。各投与時(0、60、および120日目)、そして各投与の30日後(スケジュールの30、90および150日目)に動物から血液試料を採取して、誘導された体液性免疫応答を評価した。
【0055】
図10Aは、ELISAによって測定した、抗体応答抗ZCまたはZEC組換えタンパク質の動態を示す。図から分かるように、ZC+ssDNAおよびZEC+ssDNA凝集体製剤で免疫化した非ヒト霊長類における抗組換えタンパク質抗体力価は、最初の投与の30日後に検出され始めて、その後の接種により増大する。プラセボ群の動物では、抗組換えタンパク質抗体は、評価したいずれの時点においても検出されなかった。
【0056】
ジカウイルスに対する抗体応答をELISAによって判定した。
図10Bは、検出された力価の動態を示す。ZECタンパク質+ssDNAの製剤で免疫化した非ヒト霊長類における抗ウイルス抗体応答は、2回目の投与の30日後に検出され、そして3回目の投与により増大した。対照的に、ZCタンパク質+ssDNAの製剤で免疫化した非ヒト霊長類では、抗ウイルス抗体は、マウスにおいて得られた以前の結果と同様に、評価したいずれの時点においても検出されなかった。この結果は、主に、ジカウイルスのカプシドタンパク質が天然のウイルス粒子内にエンベロープされているためである。同様に、プラセボ群では、抗ウイルス抗体力価は、評価したいずれの時点においても検出されなかった。
【0057】
一方、誘導された抗体の機能性を、ベロ細胞およびジカウイルス(ZIK16)におけるインビトロウイルス中和試験によって判定した。これらの測定結果を表6に示す。ジカウイルス抗体応答に従って、中和抗体力価は、2回目の投与の30日後に、凝集製剤ZEC+ssDNAで免疫化した群においてのみ検出された。これについて、3回目の投与後に追加免疫を行った。中和抗体は、ZEC+ssDNA製剤を投与した全ての動物において検出され(100%の血清転換率)、180日目(ウイルスチャレンジの時点)まで血清陽性のままであった。予想通り、ZC+ssDNA製剤で免疫化した非ヒト霊長類では、ウイルスチャレンジ前に評価したいずれの時点においても、中和抗体は検出されなかった。これは、この群において観察されたウイルスに対する抗体応答の不在と一致する。
【表6】
【0058】
研究において測定した別のパラメータは、細胞性免疫応答であった。これについて、研究の3つの時点:3回目の投与の日(120日目)、3回目の投与の1ヶ月後(150日目)、およびウイルスチャレンジの日(180日目)に免疫化した非ヒト霊長類から、PBMCを得た。次いで、PBMCをインビトロで培養して、ウイルス抗原(ZIK16株)で刺激してから、IFNγ分泌細胞数をELISpotアッセイによって求めた。
図11は、試験した各時点にて得られた値を示す。結果として、抗ウイルスサイトカイン分泌細胞が検出されなかった、プラセボ製剤を投与した動物とは異なり、ZCおよびZEC組換えタンパク質製剤で免疫した群の全ての非ヒト霊長類において、IFNγ分泌細胞が検出された。
【0059】
免疫化動物におけるジカウイルスに対する保護能力を評価するために、最後の免疫化の2ヶ月後(180日目)に、全ての動物を感染性ウイルス(ZIK16株、10
3UPF/mL)でチャレンジした。ジカのウイルス血症を、動物の血清を用いて、ベロ細胞における直接定量化によって判定した。
図12は、得られた結果を示しており、平均±SEMとして表した。図から分かるように、プラセボ製剤を投与した動物は、ウイルス血症を発症し、平均は9日であり、そしてウイルス量の平均は400PFU/mlであった。複合製剤ZC+ssDNAで免疫化した群の場合、霊長類の1頭が完全に保護され、残りの3頭の動物がウイルス血症を発症し、平均は6日であり、ウイルス量は、プラセボ群と比較して低かった(統計学的有意性あり)。対照的に、ZEC+ssDNA製剤で免疫化した動物は、ウイルス血症を発症せず、完全に保護された(ウイルス量<10 PFU)。一般に、キメラ抗原ZCおよびZECは、ssDNAおよびアジュバントとしてのミョウバンと組み合わせた後に、凝集形態で、非ヒト霊長類においてジカウイルス複製を制御することができる免疫応答を誘導した。
【配列表】
【国際調査報告】