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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】バイオ製品を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20240711BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240711BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240711BHJP
   C07K 1/16 20060101ALN20240711BHJP
【FI】
C12P21/02 C
C12M1/00 A
C12P21/08
C07K1/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505052
(86)(22)【出願日】2022-07-21
(85)【翻訳文提出日】2024-01-26
(86)【国際出願番号】 EP2022070502
(87)【国際公開番号】W WO2023006576
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】21187983.8
(32)【優先日】2021-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508053186
【氏名又は名称】ザルトリウス ステディム バイオテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Sartorius Stedim Biotech GmbH
【住所又は居所原語表記】August-Spindler-Str.11, D-37079 Goettingen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マーティン サバルス
(72)【発明者】
【氏名】マークス カンプマン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA23
4B029AA27
4B029BB11
4B029BB15
4B064AG01
4B064AG02
4B064AG13
4B064AG15
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE03
4B064CE10
4B064DA01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA01
4H045DA30
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA15
4H045GA21
(57)【要約】
本発明は、バイオプロセス設備(1)を使用してバイオ製品を製造する方法であって、バイオプロセス設備(1)は、電子プロセス制御装置(2)とバイオプロセスユニット(3)とを有しており、バイオプロセスユニット(3)は、容器(4)と、遠心分離機(6)を備えた清澄化ユニット(5)と、クロマトグラフ(10)を備えたクロマトグラフィユニット(8)とを有しており、容器(4)から得られた細胞ブロスは、清澄化ユニット(5)とクロマトグラフィユニット(8)とを通して順次、液体流(9)において導かれ、遠心分離機(6)を備えた清澄化ユニット(5)は、充填ステップ、洗浄ステップ、および排出ステップなどの遠心分離ステップを含む遠心分離サイクルで操作され、クロマトグラフ(10)を備えたクロマトグラフィユニット(8)は、平衡化ステップ、充填ステップ、洗浄ステップ、溶出ステップ、および再生ステップなどのクロマトグラフィステップを含むクロマトグラフィサイクルで操作される、方法に関する。清澄化ユニット(5)を出る液体流区分とクロマトグラフィユニット(8)を出る液体流区分との間での粒子減少が、粒子濃度において10%未満であり、遠心分離サイクルに割り当てられたステップの実行と、クロマトグラフィサイクルに割り当てられたステップの実行とを、電子プロセス制御装置(2)によって、割り当てられた同期ストラテジ(14)に基づく同期ルーチン(13)で、少なくとも部分的に互いに同期させることが提案される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオプロセス設備(1)を使用してバイオ製品を製造する方法であって、前記バイオプロセス設備(1)は、電子プロセス制御装置(2)とバイオプロセスユニット(3)とを有しており、前記バイオプロセスユニット(3)は、容器(4)と、遠心分離機(6)を備えた清澄化ユニット(5)と、クロマトグラフ(10)を備えたクロマトグラフィユニット(8)とを有しており、前記容器(4)から得られた細胞ブロスは、前記清澄化ユニット(5)と前記クロマトグラフィユニット(8)とを通して順次、液体流(9)において導かれ、前記遠心分離機(6)を備えた前記清澄化ユニット(5)は、充填ステップ、洗浄ステップ、および排出ステップなどの遠心分離ステップを含む遠心分離サイクルで操作され、前記クロマトグラフ(10)を備えた前記クロマトグラフィユニット(8)は、平衡化ステップ、充填ステップ、洗浄ステップ、溶出ステップ、および再生ステップなどのクロマトグラフィステップを含むクロマトグラフィサイクルで操作される、方法において、
前記清澄化ユニット(5)を出る液体流区分と前記クロマトグラフィユニット(8)を出る液体流区分との間での粒子減少が、粒子濃度において10%未満であり、前記遠心分離サイクルに割り当てられた前記ステップの実行と、前記クロマトグラフィサイクルに割り当てられた前記ステップの実行とを、前記電子プロセス制御装置(2)によって、割り当てられた同期ストラテジ(14)に基づく同期ルーチン(13)で、少なくとも部分的に互いに同期させることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記クロマトグラフィユニット(8)は、前記清澄化ユニット(5)を出る前記液体流区分を濾過されていない状態で受け取る、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記クロマトグラフィユニット(8)は、前記遠心分離機(6)の出口に直接接続された供給入口部を有している、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記液体流(9)は、少なくとも一時的に連続的である、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの同期ルーチン(13)のために、前記同期ストラテジ(14)は、時間的同期を表し、前記時間的同期にしたがって、少なくとも1つの遠心分離サイクルが、少なくとも1つのクロマトグラフィサイクルに対して所定の時間的関係でとどまる、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記時間的同期にしたがって、同期させるべき前記サイクルを、同時に開始および/または終了させるか、または所定の遅延を伴って開始および/または終了させる、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記時間的同期にしたがって、同期させるべき前記サイクルのうちの一方を、それぞれ他方のサイクルの開始または終了に依存して開始させる、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの同期ルーチン(13)のために、前記同期ストラテジ(14)は、好ましくは時間的同期を表すことに加えて付加的に、液体的同期を表し、前記液体的同期にしたがって、少なくとも1つの遠心分離サイクルで、前記クロマトグラフィユニット(8)に液体が移送される、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つの同期ルーチン(13)のために、前記同期ストラテジ(14)にしたがって、前記遠心分離サイクルの前記充填ステップを、前記クロマトグラフィサイクルの前記充填ステップに同期させる、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの同期ルーチン(13)のために、前記同期ストラテジ(14)にしたがって、前記遠心分離サイクルの前記洗浄ステップを、前記クロマトグラフィサイクルの前記充填ステップおよび/または洗浄ステップに同期させる、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの同期ルーチン(13)のために、前記同期ストラテジ(14)にしたがって、前記遠心分離サイクルの前記排出ステップを、前記クロマトグラフィサイクルの前記平衡化ステップ、前記洗浄ステップ、前記溶出ステップ、および/または前記再生ステップのいずれか1つに同期させる、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記バイオプロセスユニット(3)によって確立された第1の培養環境(A)から、前記遠心分離機(6)へと前記細胞ブロスが移送され、前記遠心分離機(6)の後退運転において、排出される細胞の少なくとも一部は、後続の細胞培養および/または生物生産のために、前記第1の培養環境(A)とは異なる別個の第2の培養環境(B)内へと移送される、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記クロマトグラフィユニット(8)は固定相を有しており、前記固定相は、好ましくは球状のビーズから成り、前記ビーズは、直径が少なくとも250μmの、さらに好ましくは直径が少なくとも350μmのサイズを有している、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記クロマトグラフィユニット(8)は固定相を有しており、前記固定相は、少なくとも1つの膜、好ましくは複数の積層された膜、またはモノリスから成り、前記固定相は複数の細孔を有する、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記バイオプロセスユニット(3)は、10μm~100μm、好ましくは20~40μmの粒径に対応するように設計されている、請求項1から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
電子プロセス制御装置(2)とバイオプロセスユニット(3)とを備えたバイオプロセス設備(1)であって、前記バイオプロセスユニット(3)は、容器(4)と、遠心分離機(6)を備えた清澄化ユニット(5)と、クロマトグラフ(10)を備えたクロマトグラフィユニット(8)とを有しており、前記容器(4)から得られた細胞ブロスは、前記清澄化ユニット(5)と前記クロマトグラフィユニット(8)とを通して順次、液体流(9)において導かれ、前記遠心分離機(6)を備えた前記清澄化ユニット(5)は、充填ステップ、洗浄ステップ、および排出ステップなどの遠心分離ステップを含む遠心分離サイクルで操作され、前記クロマトグラフ(10)を備えた前記クロマトグラフィユニット(8)は、平衡化ステップ、充填ステップ、洗浄ステップ、溶出ステップ、および再生ステップなどのクロマトグラフィステップを含むクロマトグラフィサイクルで操作される、バイオプロセス設備(1)において、
前記清澄化ユニットを出る液体流区分と前記クロマトグラフィユニット(8)を出る液体流区分との間での粒子減少が、粒子濃度において10%未満であり、前記遠心分離サイクルに割り当てられた前記ステップの実行と、前記クロマトグラフィサイクルに割り当てられた前記ステップの実行とを、前記電子プロセス制御装置(2)によって、割り当てられた同期ストラテジ(14)に基づく同期ルーチン(13)で、少なくとも部分的に互いに同期させることを特徴とする、バイオプロセス設備(1)。
【請求項17】
前記電子プロセス制御装置(2)は、請求項1から15までのいずれか1項記載の方法を、前記清澄化ユニット(5)、特に前記遠心分離機(6)、および/または前記クロマトグラフィユニット(8)、特に前記クロマトグラフ(10)を制御することによって実施するように設計されている、請求項16記載のバイオプロセス設備。
【請求項18】
請求項16または17記載のバイオプロセス設備(1)の電子プロセス制御装置であって、前記電子プロセス制御装置(2)は、請求項1から15までのいずれか1項記載の方法を、前記清澄化ユニット(5)、特に前記遠心分離機(6)、および/または前記クロマトグラフィユニット(8)、特に前記クロマトグラフ(10)を制御することによって実施するように設計されていることを特徴とする、電子プロセス制御装置。
【請求項19】
前記電子プロセス制御装置(2)は、請求項1から15記載の方法を実現するためのデータ処理システム(18)を備えている、請求項18記載の電子プロセス制御装置。
【請求項20】
請求項18または19記載の電子プロセス制御装置(2)のためのコンピュータプログラム製品。
【請求項21】
請求項20記載のコンピュータプログラム製品が、好ましくは不揮発性に記憶されている、コンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部に記載の、バイオプロセス設備を使用してバイオ製品を製造するための方法、請求項15記載の、前記方法を実施するための電子プロセス制御装置、請求項17記載の、電子プロセス制御装置のためのコンピュータプログラム製品、請求項18記載の、コンピュータプログラム製品が記憶されているコンピュータ可読記憶媒体、および請求項19記載の、電子プロセス制御装置を備えたバイオプロセス設備に関する。
【背景技術】
【0002】
「バイオプロセス」という用語は、ここでは、あらゆる種類のバイオテクノロジプロセス、特にバイオ医薬品プロセスを表している。このようなバイオプロセスの一例は、所定の条件下で微生物または哺乳類細胞を培養するためのバイオリアクタの使用であり、その際、細胞ブロスは、バイオリアクタから下流工程に移送される。
【0003】
「バイオ製品」という用語は、ここでは、このようなバイオプロセスで製造されたあらゆる種類の化合物を表している。このようなバイオ製品の例は、タンパク質、特に抗体、成長因子またはホルモン、代謝物質または任意の他の分子、ならびに細胞またはそれらの成分である。
【0004】
バイオ製品を製造するための本方法は、バイオテクノロジの様々な分野に適用することができる。この分野における高い効率は、バイオ医薬品などのバイオ製品の需要が高まることによって促進されてきた。この意味での効率とは、使用される構成要素の費用対効果だけでなく、これに関連するプロセスの制御性にも関する。本方法は、バイオプロセスの制御性および時間効率性を最適化するための、バイオプロセスの細胞ブロスの清澄化と、そのバイオ製品の精製との間の最適な相互作用によるものである。
【0005】
一方では、クロマトグラフは、最適な精製結果のために、高い圧力かつ一定の圧力を発生させ、維持しなければならない。他方では、クロマトグラフは一般に、固体粒子によって閉塞されやすく、このことはクロマトグラフの性能に悪影響を及ぼし、精製結果を損なうことにつながる。したがって、クロマトグラフのすぐ上流にフィルタを設置して、クロマトグラフの閉塞を防止することが一般的である。しかしながら、流体は、圧力差によってフィルタの上流の高圧側からフィルタの下流の低圧側へと流れる。フィルタ自体がこの圧力降下の原因であり、フィルタ抵抗とも呼ばれる。この圧力降下は、流体が管を通って流れる際に、流れ抵抗によって生じる摩擦力が流体に作用した場合に生じる(DIN ISO 11057:2012-05 Emissionen aus stationaeren Quellen; Pruefverfahren fuer die die Charakterisierung des Filtrationsverhaltens abreinigbarer Filtermedien (ISO 11057:2011); Beuth Verlag, Berlin. p. 9.)。このフィルタ抵抗は減衰効果をもたらし、流体流および流体圧力の伝達を遅らせる。流体流に対する抵抗の主な決定因子は、それぞれの管路を通る流体速度および流体粘度である。圧力降下は、配管網内部の摩擦剪断力に比例して増加する。これらの摩擦剪断力は、フィルタなどの介在する構成要素の数に応じて増加する。
【0006】
過剰サイズの粒子および/または粒子凝集体は、特に濾液が流体流の方向に引かれる静的濾過が使用される場合に濾過ケーク(保持液)を形成し、フィルタ格子を閉塞することがある。場合によっては、このような閉塞は、目詰まりとして知られているように、流体相がフィルタを横切るのを妨げることすらある(Sparks, Trevor; Chase, George (2015). Filters and Filtration Handbook(6th ed.))。その結果、閉塞させる可能性のある固体粒子および/または粒子凝集体の濃度は、フィルタ格子上の蓄積によって経時的に増加する。その結果、フィルタ抵抗は、時間と共に継続的に増加する。このような圧力の変化は、処理時間、クロマトグラフ性能および耐用期間を損なうことにつながることがわかった。さらに、流体圧のあらゆる変化が、クロマトグラフの固定相に対する不均一な操作要求につながり、これにより、再現性が制限された不均一な分離結果がもたらされる。最後に、圧力変動は、センサデータ取得の乱れにつながるおそれがあり、ひいてはクロマトグラフの分析結果および品質管理を損なうことがある。
【0007】
代替的に、動的濾過を使用することができ、この場合、濾液は、流体の流れの方向に対して直交方向に引かれる。これにより、濾過ケークの形成を少なくとも制限するせん断応力が生じる。静的濾過に関しては、駆動力は、フィルタの高圧側と低圧側との間の圧力差、いわゆる膜間差圧(Handbook of Membrane Separations, Edited by Anil K.Pabby, Syed S.H.Rizvi, Ana aria Sastre, CRC Press)でもある。しかしながら、接線流濾過またはクロスフロー濾過のような動的濾過であっても、フィルタの閉塞を完全に防止することはできない。動的濾過中に生じる別の問題は、プロセス中に、濾液の継続的な濃縮によって引き起こされる濾液粘度の上昇のために、膜間差圧が低下する可能性があることである。したがって、濾過効率が低下し、大規模なプロセスでは時間がかかるおそれがある。さらなる欠点は、供給流の搬送の際に導入されたエネルギーの大部分が未透過物を介して失われるので、接線流濾過のエネルギー効率が低いことである(Rautenbach, Robert: Membranverfahren Grundlagen der Modul- und Anlagenauslegung, Springer-Verlag, 1997)。
【0008】
増大するフィルタ抵抗を相殺する1つの可能な方法は、流体流を増大させることであろう。しかしながら、バイオ製品のために細胞を使用するバイオプロセスでは、細胞を損傷し、ひいてはプロセスの全体的な生産性を低下させるおそれのあるせん断力の増加のために、流体流を任意に増加させることができない。
【0009】
本発明の出発点である、バイオ製品を製造するための既知の方法(国際公開第02/086135号)は、電子プロセス制御装置と、容器を備えたバイオプロセスユニットと、遠心分離機を備えた清澄化ユニットと、クロマトグラフを備えたクロマトグラフィユニットとを有するバイオプロセス設備を利用している。バイオ製品を製造するためのこの方法では、バイオプロセスユニットから細胞ブロスを得て、この細胞ブロスは、バイオプロセスユニットからの細胞の少なくとも一部を清澄化するために清澄化ユニットを通して導かれる。清澄化完了後、得られた生成物を含有する上清液をフィルタに通し、さらに固体粒子を除去することで、クロマトグラフィユニットの耐用期間を延長できる可能性がある。最後に、上清液を、バイオ製品を精製するためのクロマトグラフィユニットに通過させることができる。結果として、プロセス時間、プロセスの柔軟性、および機械的設定ならびにプロセス全体の制御可能性における調節可能性の観点で限定的な効率の組み合わせが生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、可能な限り僅かな労力でバイオプロセスの効率および再現性を向上させる、バイオ製品を製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題は、請求項1の上位概念部分に記載の特徴を有する、バイオ製品を製造するための方法において、請求項1の特徴部に記載の特徴によって解決される。
【0012】
本発明の根底にある普遍的な概念は、清澄化ユニットとクロマトグラフィユニットとの直接的な接続に基づいており、この接続では、固液分離が殆ど行われず、好ましくは、介在する固液分離ユニット、特に濾過ユニットは設けられておらず、これにより両ユニットの同期が可能となっている。
【0013】
「固液分離」という用語は、ここでは、溶液に混合された固体または液体の化学物質を分離するために、これらの化学物質の様々な物理的および化学的特性を使用するプロセスを指す。
【0014】
上記のことは、バイオプロセス設備の清澄化ユニットとクロマトグラフィユニットとの間に介在する固液分離ユニットを除去することによって促進される。したがって、フィルタによって引き起こされる崩壊的な圧力降下を実質的に回避することができ、これによって一定で遅延のない流体流および/または流体圧の基礎が与えられる。興味深いことに、これによって清澄化ユニットとクロマトグラフィユニットとを同期させることができ、それによって、介在する固液分離ユニットの不在を相殺することさえできることが見出された。第1に、これによって待機時間および処理時間が削減され、したがって、少ない労力でバイオプロセス効率の向上がもたらされる。第2に、制御性および時間効率を高め、これは、コスト効率のみならず、プロセス全体の単純化されたより効率的な制御も可能にする。
【0015】
しかしながら、上述の固液分離ユニットを単に除外するだけでは不十分であることが判明した。なぜならば、さらなる措置が行われない場合、これは動作中にクロマトグラフィカラムの閉塞を引き起こすおそれがあるからである。したがって、クロマトグラフィユニットが、ほとんどの固体粒子を通過させることができ、これによりこれらの固体粒子がクロマトグラフィカラムの閉塞をもたらすことがないようにすることが提案される。
【0016】
詳細には、清澄化ユニットを出る液体流区分とクロマトグラフィユニットを出る液体流区分との間での粒子減少が、粒子濃度において10%未満、好ましくは5%未満であり、遠心分離サイクルに割り当てられたステップの実行と、クロマトグラフィサイクルに割り当てられたステップの実行とを、電子プロセス制御装置によって、割り当てられた同期ストラテジに基づく同期ルーチンで、少なくとも部分的に互いに同期させることが提案される。
【0017】
「粒子減少」の用語は、培地内の細胞のような、懸濁液内の固体粒子の濃度のあらゆる低下に関する。
【0018】
請求項2から4までは、清澄化ユニットとクロマトグラフィユニットとの間の接続の好ましい実施形態に関する。これらの手段は、流体流ならびに流体圧力伝達を減衰させるかつ/または時間的に遅延させる、フィルタなどの介在された任意の構成要素によって引き起こされる崩壊的な圧力降下の上述した問題を解決し、清澄化ユニットとクロマトグラフィユニットとの同期のための基礎を成す。さらに、何ら介在する構成要素を含まない、これらのユニット間の直接的な接続により、基本的には、清澄化ユニットによる、特に遠心分離機による、クロマトグラフィユニットの制御が可能となる。
【0019】
請求項5から8までの好ましい実施形態は、各同期ストラテジの選択に関する柔軟性を向上させることができる様々な同期オプションに関する。
【0020】
請求項9から11までには、同期させるべき各ステップに関する特に好ましい実施形態が特定されている。これらの特定により、清澄化ユニットとクロマトグラフィユニットとの最適な同期が可能となる。これは、バッファおよび/または洗浄液を、含まれる両ユニットによって併用することができるので、特に有利である。これにより、冗長性が最小限になり、バッファまたは培養液などの資源が節約される。別の重要な利点は、生成物を含有した上清液を、最初に遠心分離機にガイドしてから、液体的同期にしたがってクロマトグラフィユニットにガイドすることができ、この場合、この上清液は、クロマトグラフに直接充填されることにある。同様の形式で、洗浄バッファを、両洗浄ステップのために使用することができる。これは、一方では、細胞を新鮮なバッファまたは成長培養液によってすすぐために行われてよく、他方では、クロマトグラフから固体粒子を洗い出すために行われてよい。新鮮なバッファは、細胞を健康な状態に保つのに役立ち、一方で、固体粒子の洗い出しにより、クロマトグラフィユニットの耐用期間が長くなる。さらに、固体粒子の洗い出しにより、上述した蓄積する粒子の問題が解決され、さもないと、蓄積する粒子は、時間と共に望ましくない圧力降下を増加させることになる。
【0021】
請求項12による好ましい実施形態は、第1の培養環境と第2の培養環境との間に存在し得る相違点に関し、このような実施形態により、第1および第2の培養環境の各実体の選択、液体特性、および/または培養環境条件に関する柔軟性を向上させることができる。これは、細胞の必要条件を調整し、これにより後続のバイオ製品のために細胞を再利用できるようにするために特に有利である。
【0022】
請求項13から15までは、クロマトグラフィユニットおよびバイオプロセス設備の好ましい実施形態に関する。これらの措置により、固体粒子および/または固体粒子凝集体によるクロマトグラフィカラムの閉塞のリスクが最小限となり、クロマトグラフィ分離技術の種類に関する柔軟性が与えられる。
【0023】
請求項16の第2の独立した教示によれば、提案された電子プロセス制御装置(請求項17)を備えたバイオプロセス設備全体がそれ自体として特許請求される。提案された方法に関するすべての説明は、提案されたバイオプロセス設備に完全に適用可能である。
【0024】
請求項18による第3の独立した教示は、電子プロセス制御装置に関する。電子プロセス制御装置は、先行する請求項のいずれか1項記載の提案された方法を実施するように設計されている。請求項19によれば、電子プロセス制御装置は、提案された方法、特に同期ルーチンを実現するためのデータ処理システムを備えている。第1の教示に関するすべての説明は、この第3の教示に完全に適用可能である。
【0025】
等しい重要性を有する請求項20記載の別の教示によれば、提案されたデータ処理システムのためのコンピュータプログラム製品がそれ自体として特許請求される。コンピュータプログラム製品は、提案された方法を実現するために、特に、上述したルーチンを実現するために構成されている。この場合も、提案された方法に関するすべての説明は、提案されたコンピュータプログラム製品に完全に適用可能である。
【0026】
同様に等しい重要性を有する請求項21記載の別の教示によれば、コンピュータプログラム製品が記憶されているコンピュータ可読記憶媒体がそれ自体として特許請求される。この場合も、提案された方法に関するすべての説明は、提案された可読記憶媒体に完全に適用可能である。
【0027】
以下に、本発明の実施形態を、図面について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】提案された方法を実行可能である、提案されたバイオプロセス設備の好ましい実施形態を示す概略図である。
図2図1により提案された方法の作動原理を示すフローチャートである。
図3】同期されるべきステップのそれぞれの開始および/または終了に関する好ましい同期オプションを示す概略図である。
図4】提案された方法により同期されるべき各ステップに関する様々な好ましい同期オプションを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
バイオプロセス設備1を使用してバイオ製品を製造するための提案による方法は、好ましくは、細胞培養および/または生物生産用の細胞ブロスの形態の液体を処理するバイオプロセスの上流工程および下流工程に割り当てられる。
【0030】
「液体」という用語は、広義に理解されたい。液体には、それ自体純粋な液体だけでなく、エマルジョンおよび懸濁液、例えば、少なくとも2種の異なる液体の不均一混合物または固体粒子と液体との不均一混合物も含まれる。
【0031】
「細胞ブロス」という用語は、培地中の細胞および/または細胞破片の懸濁液を意味し、培養培地および培養培地中で培養される各生物の全体を表す。したがって、「細胞ブロス供給源」という用語は、細胞ブロスを製造および/または貯蔵することができる任意の製造された装置またはシステムを意味する。
【0032】
「上流工程」という用語には、細胞バンク、接種材料(シードトレイン)の開発、培地開発、成長動態の最適化および培養プロセス自体、ならびに対応するプロセス内制御に関連するすべてのステップが含まれる。細胞の収穫は、上流工程の一部および下流工程の一部の両方として見なすことができる。
【0033】
「下流工程」という用語には、動物または植物組織または細胞ブロスなどの天然源からの生合成製品、特にバイオ医薬品の回収および精製に関連するすべてのステップが含まれ、回収可能な成分の再利用ならびに廃棄物の適切な処理および処分も含まれる。
【0034】
一般に、細胞の培養は、現在、バイオ医薬品、特にタンパク質、例えばヒトインスリン、成長因子、ホルモン、ワクチンまたは抗体、抗体誘導体などの生産に利用されている。生成物はまた、非バイオ医薬品であってもよく、例えば、食品加工用の酵素、洗濯洗剤の酵素、生分解性プラスチック、またはバイオ燃料であってもよい。本発明の焦点は、細胞によって上清液中に分泌されるバイオ医薬品生成物、例えば、抗体またはエキソソームに関する。付加的にまたは代替的に、生成物は、細胞自体であってもよく、特に、癌の治療のための幹細胞またはCAR-T細胞などの免疫細胞を含む哺乳類細胞であってよい。
【0035】
図1図4に示されるように、すべての実施形態によれば、バイオプロセス設備1を使用してバイオ製品を製造するための提案による方法は、少なくとも1つの電子プロセス制御装置2とバイオプロセスユニット3とを利用する。バイオプロセスユニット3は、培養培地と細胞とを含む細胞ブロスのための少なくとも1つの容器4を備えた細胞ブロス供給源を有している。ここでは好ましくは、少なくとも1つの容器4は、バイオリアクタとして設計されている(図1)。
【0036】
「培養培地」という用語は、好ましくは微生物のまたは真核性の、バイオプロセスに使用される細胞が、それぞれの生物または細胞によって必要とされる栄養素を供給する特別に設計された成長培地中で成長することを意味する。様々な培地が存在するが、少なくとも炭素源、窒素源、水、塩および微量栄養素が必ず含まれる。
【0037】
この文脈における「バイオリアクタ」という用語は、少なくとも1つのパラメータの監視および制御を可能にすることによって生物学的活性環境を支援する、任意の製造された装置またはシステムを意味する。
【0038】
好ましい実施形態によれば、バイオプロセスユニット3は、受動的な容器として設計されてよい第2の容器を付加的に有している。
【0039】
「受動的な容器」とは、供給ラインを有さない、かつ/またはこの受動的な容器内の少なくとも1つのパラメータを監視することができる電子プロセス制御装置を有さない容器を意味する。これに対して、「能動的な容器」とは、供給ラインを有している、かつ/または電子プロセス制御装置を有している、したがって、この能動的な容器内の少なくとも1つのパラメータを監視するかつ/または制御することができる、バイオリアクタのような容器を意味する。
【0040】
図1によると、バイオプロセスユニット3は、細胞ブロスを遠心分離するための遠心分離機6を備えた清澄化ユニット5を含む。
【0041】
「遠心分離」は、遠心力によって人工的に形成された重力場において粒子を沈殿させることを意味する用語であり、大きな加速力によって分離時間の著しい短縮が達成される。
【0042】
ここでは好ましくは、遠心分離機6は、連続遠心分離プロセスを行うための流動床遠心分離機として設計されている。遠心分離機6の好ましい設定は、欧州特許出願公開第2485846号明細書に記載されており、その内容は、参照によって本明細書に援用される。
【0043】
遠心分離機6はロータを有しており、このロータは、好ましくは電動のモータによって、遠心分離機ロータ軸を中心として回転されてよい。遠心分離機の回転速度および液体ポンピング速度は、遠心分離機6内に細胞または細胞破片などの粒子の流動床を確立することを目的として、電子プロセス制御装置2によって調節可能である。粒子に対する遠心力が逆向きの流体力と等しく、したがって粒子に加わる力が正味ゼロの場合に、流動床が達成される。
【0044】
図2によると、少なくとも1つの容器4から得られた細胞ブロスは、清澄化ユニット5を通って導かれる。遠心分離機6を含む清澄化ユニット5は、充填ステップ、洗浄ステップおよび排出ステップなどの遠心分離ステップを含む遠心分離サイクルにおいて操作される。
【0045】
遠心分離機6は、細胞分離および/または細胞洗浄のために前進運転で動作することができる。「前進運転」とは、遠心分離機6で可能な2つの流体流れ方向のうちの1つを意味し、培地および細胞のような、液体と固体粒子との分離につながる動作を表す。このような「前進運転」により、一方では、バッファ/培養液容器7からもたらされるバッファ、好ましくはPBSバッファ、または培養液、好ましくは培養培地、さらに好ましくは濃縮培養液による、分離された細胞の洗浄が可能となり、かつ/または、他方では、細胞ブロスの清澄化が可能となる。ここでの目的は、バイオマスと見なされる固体粒子、例えば細胞、細胞破片などから、液体上清を清澄化することである。この前進運転で得られる生成物は、目的とする生成物、例えば、組換えタンパク質、特に抗体を含む細胞ブロスの上清液である。
【0046】
「濃縮培養液」という用語は、より高濃度のビタミン、成長因子、炭素源、窒素源および/またはアミノ酸濃度等を含み、好ましくは、各生物が、最適化された栄養素濃度によってその最大成長速度で成長することを可能にする培養液を表す。必要とするビタミンのすべてを生成することはできない微生物のために、成長因子および微量栄養素が培地中に含まれる。鉄、亜鉛、銅、マンガン、モリブデンおよびコバルトなどの微量元素を含む無機栄養素は、通常、未精製の炭素および窒素源には存在するが、精製された炭素および窒素源を使用する場合には添加する必要があり得る。
【0047】
充填ステップとは、遠心分離機6の前進運転において、各遠心分離チャンバに、バイオプロセスユニット3から得られた遠心分離すべき細胞ブロスを充填するステップを指す。
【0048】
洗浄ステップとは、遠心分離機6の前進運転において、バッファ/培養液容器7からのバッファまたは培養液で、各遠心分離チャンバを洗浄するステップを指す。この洗浄ステップは、好ましくは、細胞への新鮮な栄養素の供給に役立つ。
【0049】
代替的に、遠心分離機6は、後退運転で動作することができる。「後退運転」とは、遠心分離機6で可能な2つの流体流れ方向のうちの第2のものを意味し、分離された固体粒子、好ましくは細胞の排出につながる動作を表す。後退運転で得られる生成物は、細胞ブロス中の細胞である。
【0050】
つまり、排出ステップは、遠心分離機6に割り当てられたステップを意味し、このステップでは、後退運転において、遠心分離チャンバから、固体粒子、好ましくは細胞が排出される。この排出ステップは、とりわけ、後続のバイオプロセスにおける細胞の再利用のために、細胞を容器4に戻す役割を果たすことができる。
【0051】
図2からわかるように、バイオプロセスユニット3から得られた細胞ブロスは、清澄化ユニット5を通して、続いてクロマトグラフィユニット8を通して順次、液体流9において導かれる。クロマトグラフィユニット8はさらに、少なくとも1つのクロマトグラフ10、少なくとも1つのバッファ容器11、および少なくとも1つの溶出容器12を有している。クロマトグラフ10を含むクロマトグラフィユニット8は、平衡化ステップ、充填ステップ、洗浄ステップ、溶出ステップおよび再生ステップなどのクロマトグラフィステップを含むクロマトグラフィサイクルで操作されている。
【0052】
平衡化ステップは、システムが平衡状態に入るステップを言う。クロマトグラフィユニット8の場合、これは、各クロマトグラフ10に、後続のバイオ生成物の精製に使用すべきそれぞれのバッファを、その全容積がそれぞれのバッファによって占められるまで充填することを指す。
【0053】
充填ステップは、遠心分離機6から得られた生成物を含む上清液を各クロマトグラフ10に充填するステップを指し、これによりクロマトグラフ10にこの生成物を結合させ、クロマトグラフィユニット8による後続の精製工程でバイオ生成物を精製する。
【0054】
洗浄ステップとは、バッファ容器11からのバッファまたは培養液で、クロマトグラフ10を洗浄するステップを言う。この洗浄ステップは、典型的には、非特異的に結合した化合物を除去するためにクロマトグラフ10をフラッシングするために行われる。
【0055】
溶出ステップは、例えば、水またはイミダゾールなどの溶媒で洗浄することによって、ある材料を別の材料から抽出するステップを言う。本明細書では、溶出ステップは、pH勾配および/または導電率勾配を有する水溶液を使用した、各クロマトグラフ10からのバイオ生成物の抽出を指す。
【0056】
再生ステップは、材料または系を回復するステップを言う。この特定の文脈において、再生ステップは、例えばNaOH溶液による、クロマトグラフ10の再平衡化および/またはクリーニングを指す。
【0057】
特に本発明にとって特に重要であるのは、清澄化ユニット5を出る液体流区分とクロマトグラフィユニット8を出る液体流区分との間の粒子減少が、粒子濃度において10%未満、好ましくは5%未満、さらに好ましくは2%未満であることである。これゆえに、液体流9における残留粒子の減少は、清澄化ユニット5を出る液体流区分とクロマトグラフィユニット8を出る液体流区分との間で10%未満となる。好ましい実施形態では、クロマトグラフィユニット8が閉塞を起こしにくい傾向にあることによって、粒子および/または粒子凝集物に対処することができる、クロマトグラフィユニット8の特別な構成が含まれる。また、好ましくは、クロマトグラフィユニット8は、固体粒子および/または粒子凝集体の洗い流しのために設定されている。
【0058】
本発明によれば、遠心分離ステップの実行およびクロマトグラフィステップの実行を、少なくとも部分的に互いに同期させる。これは、電子プロセス制御装置2によって制御され、同期ルーチン13で編成される。これらの同期ルーチン13は、割り当てられた同期ストラテジ14に基づいている。
【0059】
「同期」という用語は、システムを同時に動作させるための事象の双方向の時間的調整を意味する。
【0060】
図1および図2による実施形態では、ここでは好ましくは、クロマトグラフィユニット8は、清澄化ユニット5を出る液体流区分を濾過されていない状態で受け取る。
【0061】
「濾過されていない」という用語は、ここでは、清澄化ユニット5を出る液体流区分とクロマトグラフィユニット8を出る液体流区分との間で、10%を超える、好ましくは5%を超える、さらに好ましくは2%を超える固体粒子減少につながるいかなる種類の分離工程も行われないことを意味する。例示的な分離プロセスは、濾過、特にデッドエンド濾過またはクロスフロー濾過、遠心分離または逆浸透である。
【0062】
好ましい実施形態では、クロマトグラフィユニット8は、遠心分離機6の出口に直接接続された供給入口部を有している。この実施形態によれば、図1および図2に見ることができるように、遠心分離機6とクロマトグラフィユニット8との間に、付加的な装置を介在させる必要はない。
【0063】
別の好ましい実施形態では、液体流9は、少なくとも一時的に連続的である。したがって、クロマトグラフィユニット8、特にクロマトグラフ10は、清澄化ユニット5を、特に遠心分離機6を制御することによって制御することができる。
【0064】
「連続的」とは、ここでは、清澄化ユニット5を通過し最終的にクロマトグラフィユニット8を通過する、バイオプロセスユニット3からの液体流9が、停止、遅延されることなく、少なくとも一時的に1つの連続した流れであることを意味する。
【0065】
別の好ましい実施形態によれば、図3に見ることができるように、少なくとも1つの同期ルーチン13のために、同期ストラテジ14は、時間的同期を表す。時間的同期により、少なくとも1つの遠心分離ステップが、少なくとも1つのクロマトグラフィステップに対して所定の時間的関係でとどまる。
【0066】
「時間的同期」という用語は、ここでは、各遠心分離ステップと各クロマトグラフィステップとの間の所定の時間的関係にしたがった、事象の双方向の調整を意味する。
【0067】
別の実施形態では、時間的同期にしたがって、図3に見ることができるように、同期させるべきステップが同時に開始される(図3a)。付加的にまたは代替的に、同期させるべきステップを、同時に終了させる(図3b)。さらに別の実施形態では、同期させるべきステップを、同時に開始および/または終了させるか、または所定の遅延を伴って開始および/または終了させる(図3c)。同期させるべきステップは、任意の遠心分離ステップまたは任意のクロマトグラフィステップであってよい。
【0068】
「所定の」という用語は、ここでは、事前に、好ましくは使用者によってそれを定義することができることを意味する。
【0069】
特に好ましい実施形態によれば、時間的同期にしたがって、同期させるべきステップのうちの一方が、それぞれ他方のステップの開始に依存して開始される。代替的には、同期させるべきステップのうちの一方が、それぞれ他方のステップの終了に依存して開始される(図3d)。
【0070】
好ましくは、図4によれば、少なくとも1つの同期ルーチン13のために、同期ストラテジ14は、液体的同期を表す。これは、好ましくは時間的同期に加えて行われる。液体的同期にしたがって、少なくとも1つの遠心分離ステップで、液体がクロマトグラフィユニット8に移送される。
【0071】
「液体的同期」という用語は、ここでは、各遠心分離ステップと各クロマトグラフィステップとの間の所定の液体的関係にしたがった、事象の双方向の調整を意味する。「液体的」とは好ましくは、関係する成分間の流体的な接続を意味する。例としては、清澄化ユニット5、特に遠心分離機6を通過する液体を、クロマトグラフィユニット8、特にクロマトグラフ10に直接導いて、両ユニット5,8のために1つの液体を併用することができる。これは、別個の液体ライン15または同じ液体ラインを使用することによって達成することができる。液体は、上清液、バッファ、成長培地等であってよい。
【0072】
図4による別の特に好ましい実施形態では、少なくとも1つの同期ルーチン13のために、同期ストラテジ14にしたがって、遠心分離サイクルの充填ステップを、クロマトグラフィサイクルの充填ステップに同期させる。特に注目すべきは、前進運転における遠心分離の結果として生じる、遠心分離機6から出ていく生成物含有上清液を、液体的同期にしたがって、クロマトグラフ10上に直接、充填することができることである。
【0073】
図4による別の特に好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの同期ルーチン13のために、同期ストラテジ14にしたがって、遠心分離サイクルの洗浄ステップを、クロマトグラフィサイクルの充填ステップに同期させる。好ましくは、同期ストラテジ14は、液体的同期を表している。これは、死体積が考慮されるので、特に重要である。これにより、可能な限り多量の生成物含有上清液がクロマトグラフ10に充填される。
【0074】
付加的にまたは代替的に、遠心分離サイクルの洗浄ステップを、クロマトグラフィサイクルの洗浄ステップに同期させる。特に重要であるのは、遠心分離サイクルの洗浄ステップに使用され、遠心分離機6から出ていく液体を、非特異的に結合した化合物および固体粒子の洗い流しのために設定された、クロマトグラフィサイクルの洗浄ステップを実現するためにクロマトグラフ10に直接導くことができることである。好ましくは、同期ストラテジ14は、液体的同期を表している。したがって、同じ液体を、遠心分離サイクルの洗浄ステップ、およびクロマトグラフィサイクルの洗浄ステップの両方のために使用することができる。液体は、一方では遠心分離機6内のバイオ生成物産生細胞と、他方ではクロマトグラフ10の固定相と(生体)適合性のあるあらゆるバッファまたは培養液等であってよい。特に好ましくは、少なくとも1種の液体は、遠心分離サイクルおよびクロマトグラフィサイクルの両方に使用される併用液体である。
【0075】
図4による別の実施形態では、少なくとも1つの同期ルーチン13のために、同期ストラテジ14にしたがって、遠心分離サイクルの排出ステップを、クロマトグラフィサイクルの平衡化ステップ、洗浄ステップ、溶出ステップ、および/または再生ステップのいずれか1つに同期させる。ここでは好ましくは、同期ストラテジは時間的同期を表している。
【0076】
ここでは好ましくは、図1および図2によれば、バイオプロセスユニット3によって確立された第1の培養環境Aから遠心分離機6へと細胞ブロスが移送される。遠心分離機6の後退運転では、排出される細胞の少なくとも一部が、別個の第2の培養環境B内へと移送される。培養環境Bは、第1の培養環境Aとは異なり、後続の細胞培養および/または生物生産のために確立される。
【0077】
付加的にまたは代替的に、第2の培養環境Bは、液体特性、例えば、培地の選択、特に、とりわけ最適な炭素源濃度、最適な窒素源濃度、最適なアミノ酸濃度および/または最適な成長因子濃度を含む濃縮培地の選択、かつ/またはバイオプロセスで使用される液体体積に関して、第1の培養環境Aとは異なる。
【0078】
さらに付加的にまたは代替的に、第2の培養環境Bは、ガス濃度、特に酸素および/または二酸化炭素濃度の選択、ならびに/またはpHの選択、ならびに/または温度の選択などの培養環境条件に関して第1の培養環境Aとは異なる。例示的なアミノ酸源は、0.5%~2%の濃度のペプトンまたはトリプトンであり得る。例示的な炭素源は、0.1%~3%の濃度のグルコースまたはスクロースであり得る。
【0079】
培養培地を交換した後、好ましくは完全に交換した後、第2の培養環境Bが第1の培養環境Aであることも好ましい。これらの実施形態では、図1および図2によれば、排出された細胞を、培養培地および/または細胞が少なくとも部分的に除去された後に、細胞培養および/または生物生産のために細胞を再利用するために移送することができる。よって、消費された培養培地と新規の培養培地および/または細胞との逆混合を個別に制御することができる。
【0080】
好ましくは、新規の液体に対する消費された液体の、結果として生じる比率は、個別に調節可能である。付加的にまたは代替的に、第2の培養環境Bは、好ましくは、細胞の成長および/または生物生産に有利である培養環境条件を提供する。「細胞の成長および/または生物生産に有利である」という用語は、細胞の生存力および/または細胞の生産性を反映する少なくとも1つのパラメータの増強および支援を意味し、このパラメータには、成長速度、生存率(すなわち、生細胞のパーセンテージ)、生産性、酸素吸収速度および/またはバイオマス生産速度が含まれるが、これらに限定されない。
【0081】
別の好ましい実施形態では、第2の培養環境Bは容器4によって提供することができ、この容器4は、第2の培養環境Bを確立するために、調製段階で無細胞および/または無液体の状態にされる。好ましい実施形態では、準備段階には、細胞培養および/または生物生産のための条件を確立するための少なくとも1つのワークフローステップが含まれる。
【0082】
上記のワークフローステップは、培地、好ましくは濃縮培地を有する容器を(完全に)空にする、クリーニングする、メンテナンスする、滅菌する、交換するおよび/または充填する、培地調製のグループのうちの少なくとも1つであってよい。「培地調整」とは、バイオプロセスで使用される培地を構成する行為、特に特定の成分比の計算および培地の実際の製造を説明している。
【0083】
好ましい実施形態では、ワークフローステップは、容器4を、少なくとも部分的に、好ましくは完全に空にするステップであってよい。別の例では、容器4は、少なくとも部分的に、好ましくは完全にクリーニングされなければならない。さらなる例では、ワークフローステップは、最適なバイオプロセスを保証するための、容器4のメンテナンスであってよく、または容器4が、もしくは特にバイオプロセスユニット3の任意の容器が、使い捨て機器として設計されている場合には特に、容器4の交換であってよい。別の可能なワークフローステップは、上述したように、容器4への培地の、特に濃縮培地の充填であってよい。この手順のために、最初に、培地が容器に充填される必要がある。任意の培養培地、好ましくは、より高い栄養濃度などを有する任意の濃縮培地を使用することができる。さらに好ましくは、これらの培地は、細胞培養および/または生物生産のための制限因子を構成しない。ここでは好ましくは、単なる例としてだが、4Cell(登録商標)CHO Media、NutriStem(登録商標)hPSC XF Medium、RoosterNourish(商標)-MSC、Gibco Cell Culture Medium、DMEM、IMDM等を、選択されるバイオプロセスに応じて使用することができる。さらに好ましくは、最適な細胞成長および増殖速度、健康な生理学、形態学および/または適切な遺伝子発現をもたらす培地が使用される。
【0084】
好ましくは、第2の培養環境Bは、それぞれの培養環境A、Bを確立する構造実体に関して、第1の培養環境Aとは異なる。これらの実施形態では、第2の培養環境Bは、第1の容器4とは別個の第2の容器によって提供される。これにより、第1の容器4から第2の容器への細胞の移送が可能となる。好ましくは、提案されたバイオプロセス設備1の運転が開始されるとき、第2の容器は、第1の容器4の細胞ブロスを含まない。第2の培養環境Bを確立する実体は、例えば、貯蔵容器または第2のバイオリアクタなどの第2の容器であってよい。
【0085】
図1に示されたように、清澄化セットアップ5は、好ましくは、廃棄物容器として設計された廃棄物レセプタクル16を有している。ここでは好ましくは、遠心分離機6の後退運転時に、液体は、好ましくは排出液体中の固体粒子は、さらに好ましくは排出液体中の細胞は、電子プロセス制御装置2によって制御されて第2の培養環境Bまたは廃棄物レセプタクル21に移される。
【0086】
クロマトグラフィユニット8は固定相を含み、固定相は好ましくはビーズから成る。これらの、好ましくは球状のビーズは、直径が少なくとも250μm、さらに好ましくは直径が少なくとも350μmのサイズを有している。
【0087】
別の好ましい実施形態によれば、固定相は、少なくとも1つの膜、好ましくは複数の積層された膜、またはモノリスからなる。この実施形態によれば、少なくとも1つの膜およびモノリスは、複数の細孔を有している。これらの細孔は、20μm超、好ましくは40μm超の細孔径を有している。
【0088】
したがって、固定相のこれらの実施形態では、20μmまでのサイズ、好ましくは40μmまでのサイズを有する粒子が固定相の細孔に侵入し、場合によっては細孔を閉塞しないようになる。固定相の材料としては、アガロース、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、セルロース、酢酸セルロース、シリコーン、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、フェニル等が好ましい。
【0089】
クロマトグラフィユニット8の固定相に関するこれらの実施形態を、アフィニティークロマトグラフィ、特にプロテインAアフィニティークロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ(IEX)、例えば陰イオン交換クロマトグラフィ(AEX)または陽イオン交換クロマトグラフィ(CEX)、疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC)、サイズ排除式クロマトグラフィ(SEC)または他の任意のタイプのクロマトグラフィ技術に使用することが特に好ましい。さらに、これらのクロマトグラフィ技術は、軸流または半径流で操作されてよく、かつシミュレートされた移動床クロマトグラフィと付加的に組み合わせて、複数の並列クロマトグラフィサイクルを可能にすることができる。したがって、クロマトグラフィユニットは少なくとも1つのクロマトグラフを備える。少なくとも1つのこのクロマトグラフは、少なくとも1つのクロマトグラフィカラム、好ましくは複数のクロマトグラフィカラムを備える。
【0090】
別の特に好ましい実施形態では、バイオプロセスユニット3は、10μm~100μm、好ましくは15μm~80μm、さらに好ましくは20~60μmの粒径に対応するように設計されている。その結果、直径20μmまでのサイズを有する固体粒子、特に細胞を、クロマトグラフィユニット8、特にクロマトグラフ10のいかなる閉塞も引き起こすことなく、バイオプロセスユニット3を、好ましくはクロマトグラフィユニット8を通して導くことができる。
【0091】
好ましくは、バイオプロセスユニット3の少なくとも1つの構成要素、好ましくは容器4、清澄化ユニット5、特に遠心分離機6、および/またはクロマトグラフィユニット8のうちの少なくとも1つの構成要素、さらに好ましくはバイオプロセスユニット3のすべての構成要素が、使い捨て構成要素として設計されている。
【0092】
別の独立した教示によれば、電子プロセス制御装置2およびバイオプロセスユニット3を有するバイオプロセス装置1自体が特許請求される。バイオプロセスユニット3は、少なくとも1つの容器4、遠心分離機6を備えた清澄化ユニット5、およびクロマトグラフ10を備えたクロマトグラフィユニット8を有している。容器4から得られた細胞ブロスは、まず、清澄化ユニット5を通して導かれる。次いで、細胞ブロスは、クロマトグラフィユニット8を通して導かれる。両ユニット5,8の通過は、液体流9において順次に行われる。遠心分離機6を備えた清澄化ユニット5は、充填ステップ、洗浄ステップおよび排出ステップなどの遠心分離ステップを含む遠心分離サイクルにおいて操作される。他方で、クロマトグラフ10を備えたクロマトグラフィユニット8は、平衡化ステップ、充填ステップ、洗浄ステップ、溶出ステップおよび再生ステップなどのクロマトグラフィステップを含むクロマトグラフィサイクルで操作される。
【0093】
重要であるのは、清澄化ユニット5を出る液体流区分とクロマトグラフィユニット8を出る液体流区分との間での粒子減少が、粒子濃度において10%未満、好ましくは5%未満、さらに好ましくは2%未満であることであって、かつ遠心分離サイクルに割り当てられたステップの実行と、クロマトグラフィサイクルに割り当てられたステップの実行とを、電子プロセス制御装置2によって、割り当てられた同期ストラテジ14に基づく同期ルーチン13で、少なくとも部分的に互いに同期させることである。
【0094】
電子プロセス制御装置2は、好ましくは、提案された方法を、バイオプロセスユニット3、遠心分離機6を備えた清澄化ユニット5および/またはクロマトグラフ10を備えたクロマトグラフィユニット8を制御することによって実施するように設計されている。電子プロセス制御装置2は、バイオプロセス設備1の構成要素の全部または少なくとも大部分を制御する中央ユニットとして実現されてよい。電子プロセス制御装置2はまた、複数の分散ユニットを有する分散構造で実現されてもよい。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの電子プロセス制御装置2は、1つ以上のバルブ17(図1)の開閉を、直接にまたはモータを介してのいずれかでロータの回転速度を、かつ/またはバイオリアクタなどの容器4からの流体および/または粒子の流れ方向および/または速度を指示する。
【0095】
このような電子プロセス制御装置2は、例えば、少なくとも1つのデジタル制御ユニット(DCU)、および/またはそれ自体ローカルプロセッサユニットおよびローカルデータストレージを備える少なくとも1つのマルチ発酵槽制御システム(MFCS)を備えている。MFCSはさらに、中央プロセス管理システムを提供し、デジタル制御ユニットに要求をディスパッチする。付加的にまたは代替的に、このような電子プロセス制御装置2は、好ましくは、コンピュータおよび/またはサーバおよび/またはスマートフォン等を含む。ここでは好ましくは、電子プロセス制御装置2は、個別に調節可能かつ/またはプログラム可能かつ/またはソフトウェアを実行することができる少なくとも1つのマイクロプロセッサを有している。上述したすべての説明は、この教示に完全に適用可能である。
【0096】
別の独立した教示によれば、バイオプロセス設備1の電子プロセス制御装置自体が特許請求される。再び、上述したすべての説明が参照される。
【0097】
重要であるのは、電子プロセス制御装置2が、提案された方法を、清澄化ユニット5、特に遠心分離機6および/またはクロマトグラフィユニット8、特にクロマトグラフ10を制御することによって実施するように設計されていることである。
【0098】
好ましくは、電子プロセス制御装置2は、上述した方法の実現のためにデータ処理システム18を備えており、好ましくはローカルデータストレージおよびローカルプロセッサユニットを備えている。
【0099】
最後に、独立した教示は、コンピュータプログラム製品が、好ましくは不揮発性に記憶されている、電子プロセス制御装置2用のコンピュータプログラム製品およびコンピュータ可読記憶媒体に関する。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】