(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】体外循環回路と患者の循環系の間における流体接続の途絶を特定するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
A61M 1/36 20060101AFI20240711BHJP
A61M 1/16 20060101ALN20240711BHJP
A61M 60/109 20210101ALN20240711BHJP
A61M 60/37 20210101ALN20240711BHJP
【FI】
A61M1/36 145
A61M1/16 111
A61M60/109
A61M60/37
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505061
(86)(22)【出願日】2022-07-27
(85)【翻訳文提出日】2024-03-21
(86)【国際出願番号】 US2022038514
(87)【国際公開番号】W WO2023009617
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507072829
【氏名又は名称】トランソニック システムズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100224775
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】クリヴィツキー,ニコライ エム
(72)【発明者】
【氏名】ガリヤノフ,グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】ドロスト,コルネリス ジェイ
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077DD05
4C077EE01
4C077HH03
4C077HH15
4C077JJ08
4C077JJ24
(57)【要約】
体外循環回路から患者の循環系への流れの途絶(例えば、静脈注射針の抜針又は アクセス-血液ライン間の分離)を、体外循環回路の流量データに基づいて特定するシステム及び方法。流量データに対する患者寄与分を、高調波として特定してこれを監視することにより、かかる途絶の発生を評価することができる。本システムは、体外循環回路の流量における非調波の変化(例えば、スパイク)を特定することができ、非調波の変化を単独で利用することにより、又はこれを特定した高調波と組み合わせて利用することにより、途絶の発生を評価することができる。本システムは、かかる途絶を特定するためのスパイクとして、血流量スパイクだけでなく、体外循環回路に流体接続された透析液流量のスパイクを利用することもできる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の循環系から患者の脱血部位を通って体外血液治療デバイスまで延び、患者の送血部位を通って前記患者の循環系に戻る体外循環回路を監視するための装置であって、
該体外循環回路は、
前記患者の脱血部位から前記血液治療デバイスまで延びる脱血ラインと、
前記血液治療デバイスから前記患者の送血部位まで延びる送血ラインと、
前記体外循環回路の少なくとも一部に血液を圧送するように構成されたポンプと、を備え、
前記装置は、
(a)前記体外循環回路の一部における流れの流量データを取得するように構成されたフローセンサと、
(b)前記フローセンサと通信する制御装置であって、
(i)前記流量データにおける非調波の変化に少なくとも一部基づいて、前記体外循環回路と前記患者の循環系の間の途絶を検出する
ように構成された制御装置と、
を備える装置。
【請求項2】
前記フローセンサが、前記流量データを前記送血ラインから取得する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記フローセンサが、前記血液治療デバイスに流体接続された透析液排出ラインの流れを感知するように構成された透析液排出フローセンサである、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記制御装置が、前記流量データにおける(i)前記非調波の変化が該非調波の増加であること、及び(ii)前記非調波の変化が該非調波の減少であること、の少なくとも一方に応じて前記途絶を検出するようにさらに構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記制御装置が、(i)前記非調波の変化が、第1の所定率より高い増加率を有する、血流量における非調波の増加であること、及び(ii)前記非調波の変化が、第2の所定率より大きい減少率を有する、透析液流量における非調波の減少であること、の少なくとも一方に応じて前記途絶を検出するようにさらに構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記制御装置が、(i)前記非調波の変化が、所定時間よりも長い時間にわたり流量の増加を維持する非調波の増加であること、及び(ii)前記非調波の変化が、第2の所定時間よりも長い時間にわたり透析液流量の減少を維持する透析液流量における非調波の減少であること、の少なくとも一方に応じて前記途絶を検出するようにさらに構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記制御装置が、所与の時間にわたる前記非調波の変化の曲線下面積に応じて前記途絶を検出するようにさらに構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記制御装置が、前記流量データにおける高調波を特定するように構成されるとともに、特定された前記非調波の変化及び特定された前記高調波に応じて前記途絶を検出するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記途絶が、静脈注射針の抜針及びアクセス-血液ライン間の分離のうちの一方である、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記制御装置が、前記途絶の検出に応答して前記ポンプを停止するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
体外循環回路の一部を通る流れの流量データを提供するフローセンサに接続された制御装置であって、提供された前記流量データの流量における非調波の変化に応じて、前記体外循環回路から患者の循環系への血流の途絶を特定するように構成された制御装置。
【請求項12】
前記非調波の変化が、前記血流の血流量の増加及び透析液流量の減少のうちの一方である、請求項11に記載の制御装置。
【請求項13】
前記制御装置が、前記非調波の変化が(i)第1の所定率より高い増加率を有する、血流量の増加であること、及び(ii)第2の所定率より大きい減少率を有する、透析液流量の減少であること、のうちの一方であることに応じて前記途絶を検出するようにさらに構成される、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
前記制御装置が、前記非調波の変化が(i)第1の所定時間よりも長い時間にわたり血流量の増加、及び(ii)第2の所定時間よりも長い時間にわたり透析液流量の減少、のうちの一方を維持していることに応じて前記途絶を検出するようにさらに構成される、請求項11に記載の装置。
【請求項15】
前記制御装置が、所与の時間にわたる前記流量における前記非調波の変化の曲線下面積に応じて前記途絶を検出するようにさらに構成される、請求項11に記載の装置。
【請求項16】
前記制御装置が、前記流量データにおける高調波を特定するようにさらに構成され、
前記高調波が、前記流量データに対する患者寄与分に対応するものである、請求項11に記載の制御装置。
【請求項17】
前記制御装置が、提供された前記流量データのスペクトル解析により患者寄与分を特定するようにさらに構成される、請求項11に記載の制御装置。
【請求項18】
前記途絶が、静脈注射針の抜針及びアクセス-血液ライン間の分離のうちの一方である、請求項11に記載の制御装置。
【請求項19】
(a)前記体外循環回路の流量における非調波の変化に応じて、体外循環回路の送血ラインと患者の循環系との接続の途絶を特定するステップ
を含む方法。
【請求項20】
前記体外循環回路の前記流量における前記非調波の変化が、フローセンサからの流量データにおいて特定され、
該フローセンサが、
(i)前記体外循環回路の血液治療デバイスを出る透析液流、及び
(ii)前記体外循環回路の脱血ライン及び前記体外循環回路の送血ラインのうちの少なくとも一方における血流
のうちの少なくとも一方の流量データを取得するように構成される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記体外循環回路の前記流量における前記非調波の変化が、フローセンサからの流量データにおいて特定され、
該フローセンサが、
(i)前記体外循環回路の血液治療デバイスを出る透析液流、及び
(ii)前記体外循環回路の送血ラインにおける血流
のうちの少なくとも一方の流量データを取得するように構成される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記方法が、前記流量データにおける高調波を特定するステップをさらに含み、
前記高調波が、前記流量データに対する患者寄与分に対応するものである、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記途絶が、静脈注射針の抜針及びアクセス-血液ライン間の分離のうちの一方である、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2021年7月28日を出願日とする米国特許出願第17/387391号(発明の名称「METHOD AND APPARATUS FOR IDENTIFYING DISRUPTION OF A FLUID CONNECTION BETWEEN AN EXTRACORPOREAL CIRCUIT AND A PATIENT CIRCULATORY SYSTEM」)の一部継続出願であり、この出願のすべての開示内容は、参照により本明細書に援用するものとする。
【0002】
連邦政府出資による研究開発に関する記載
該当なし。
【0003】
共同研究契約の当事者名
該当なし。
【0004】
配列表の参照
該当なし。
【0005】
発明者又は共同発明者による先行開示に関する記載
該当なし。
【技術分野】
【0006】
本開示は、体外循環回路と患者の循環系の間の流体接続の途絶を検出するための装置及び方法に関し、特に、体外循環回路における血液治療装置の血液ポンプより下流での途絶を検出するための装置及び方法に関する。かかる途絶としては、静脈注射針の抜針(VND)又はアクセス-血液ライン間の分離(ABLS)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、より特定的には、本開示は、体外循環回路、特に静脈ラインの流量データに対する患者寄与分の変化に応じて、体外循環回路の静脈ラインと患者の循環系の間の途絶を特定するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0007】
患者への流体の送達、患者を通る流体の送達、患者からの流体の送達、又はこれらのいずれかの組み合わせを伴う医療は、例えば、患者に挿入した1本の針、複数の針、又はカテーテルを介して患者に接続した体外システムと患者との間の送血を伴うものなど多岐に亘る。例えば、血液透析、血液濾過、血液透析濾過はいずれも、血液から老廃物、毒素、余分な水分を取り除く治療である。これらの治療を行う際には、患者を体外循環回路及び機器に接続し、圧送により血液を体外循環回路及び機器に通す。これにより、血液から老廃物、毒素、流体を取り除き、きれいになった血液が患者に戻される。
【0008】
これらの治療では、体外の機器との間で血液が行き来できるように、患者の血管系に針やカテーテルなどのアクセスデバイスが挿入される。そして、従来の血液透析、血液濾過、血液透析濾過の治療の場合、治療時間が数時間、数日、又さらには数週間かかる場合もあり、また、治療施設で行われるのが一般的であった。治療施設で治療を行う場合には、例えば、血液透析中などの患者を目視で監視して針が外れていないかを検出している。しかし、針が患者や医療スタッフからよく見えない位置にある場合(例えば、毛布がかかっている場合など)もあり、何らかの途絶が生じても、その検出が遅れ、適切な対応を適時に行うことができない恐れがあった。
【0009】
また、QOL(quality of life)が向上すること、罹病率と死亡率の低下が認められること、治療施設で治療を行う場合に比べてコストを抑えられることから、在宅血液透析などのセルフケアや在宅療法に対する関心が改めて高まっている。このような在宅療法は(血液透析、血液濾過、血液透析濾過のいずれの在宅療法でも)、日中、夕方、あるいは夜間でも行うことができる。見守りがない状況下や就寝中には、介護者の立ち会いがないため、接続が外れるリスクが高まり、患者自身も接続が外れたことに気づかない場合も起こり得る。
【0010】
しかし、透析は、従来は、患者に安全かつ効果的なケアを提供する責任を負った熟練の専門家チームが担ってきた複雑な処置である。最近では、患者が自宅で透析を自己管理することも可能になってきている。しかし、透析中に合併症を起こす恐れのある状況は、まだ数多く残されている。このような潜在的な問題の多くは、透析機に内蔵されたアラーム回路などの安全装置によって抑えられているが、針の脱落(針の位置ずれを含む)は、検出されないまま放置される場合や、検出が非常に遅れる場合があった。
【0011】
体外血液処理では、体外循環回路に誤作動が生じれば、患者の生命に関わる事態となる恐れがあるため、体外循環回路の誤作動のリスクを最小限に抑えることが重要である。例えば、患者又は患者アクセスから静脈注射針が外れる「静脈注射針の抜針(venous needle dislodgement:VND)」、又は治療に用いられている血液透析用血液ラインから、中心静脈カテーテル(central venous catheter:CVC)又は静脈瘻が外れる「アクセス-血液ライン間の分離(access-bloodline separation:ABLS)」などにより、もし、血液ポンプより下流の位置で体外循環回路が途絶するようなことがあれば、深刻な事態が生じかねない。かかる途絶により、数分以内に患者から血液が失われてしまう可能性があるのである。
【0012】
具体的には、例えば、針やカニューレが外れて、体外循環と患者との接続が正しく行われなくなったり、接続が絶たれたりすると、体外循環と静脈アクセスとの接続が妨げられる場合がある。このような場合、特に患者の血管系に対する静脈アクセスが外れた場合には、問題が生じる可能性がある。かかる静脈アクセスの脱落を遅滞なく検出できなければ、動脈アクセスを介した患者からの脱血は継続される一方で、体外血液治療後の血液が適切に患者に返血されない事態が生じる。例えば、一般的な血流量である300~400mL/分の場合、数分以内に重篤な状態に陥ってしまう。
【0013】
従来は、血液処理中の静脈注射針の抜針を、体外循環回路の血液ポンプより下流側に位置する圧力センサ(「静脈圧センサ(venous pressure sensor)」)からの圧力信号に基づいて検出する場合があった。しかし、体外循環回路内の圧力は、治療ごとに異なる場合があり、また、例えば、施術中の患者の動きによって変化するなど、治療中にも変化する可能性があるため、適切な閾値を設定するのが困難な場合があった。さらに、外れた体外循環回路がベッドシーツや施術中の患者の衣服に引っかかってしまうと、圧力計測値が十分に変化せず、潜在的に危険な状況であることを示す値とならない恐れもあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、体外循環回路と患者の循環系の間の流体接続の途絶を検出するための、特に、体外循環回路における血液治療装置の血液ポンプより下流での途絶(かかる途絶には、アクセス-血液ライン間の分離(ABLS)、静脈注射針の抜針(VND)、カテーテルへの接続の脱落が含まれるが、これらに限定されるものではない)を検出するための、改良されたシステム及び方法に対するニーズが存在している。
【課題を解決するための手段】
【0015】
概して、本開示は、患者の脱血部位から体外血液治療デバイスを通って患者の送血部位に戻るように延在する体外循環回路を監視するための装置を提供するものである。体外循環回路は、患者の脱血部位から血液治療デバイスまで延びる脱血ラインと、血液治療デバイスから患者の送血部位まで延びる送血ラインと、体外循環回路内に血液を圧送して、脱血ラインから、血液治療デバイスを通り、送血ラインを通って、患者の送血部位まで送るように動作可能なポンプと、を備える。また、本装置は、脱血ラインと送血ラインのうちの少なくとも一方における血流の流量データを取得するように構成されたフローセンサと、フローセンサと通信する制御装置とを備える。制御装置は、患者の生理現象に由来する、流量データに対する患者寄与分を、流量データにおいて特定し、特定された患者寄与分に少なくとも一部基づいて、体外循環回路の途絶を検出するように構成される。
【0016】
一構成では、本開示は、血管アクセスから体外血液治療デバイスを通って血管アクセスに戻るように延在する体外血液循環回路を監視するための監視装置を提供するものである。体外血液循環回路は、血管アクセスから血液治療デバイスまで延びる脱血ラインとしての動脈ラインと、血液治療デバイスから血管アクセスまで延びる送血ラインとしての静脈ラインと、体外血液循環回路内に血液を圧送して、動脈ラインから、血液治療デバイスを通り、静脈ラインを通って、血管アクセスまで送るように動作可能なポンプと、を備える。また、本監視装置は、静脈ラインにおける血流の流量データを取得するように構成されたフローセンサと、フローセンサと通信する制御装置とを備える。制御装置は、(i)下流の患者の生理現象に由来する、流量データに対する患者寄与分を、取得した流量データにおいて特定し、(ii)特定された患者寄与分に少なくとも一部基づいて、体外血液循環回路と患者の間の流れの途絶を検出するように構成される。またさらに、制御装置が、(i)取得した流量データに基づいて、静脈ラインの流量を求め、(ii)下流の患者の生理現象に由来する、流量への患者寄与分を、求めた流量において特定し、(iii)特定された患者寄与分に少なくとも一部基づいて、体外血液循環回路と患者の間の流れの途絶を検出することができることも開示する。
【0017】
また、本開示では、静脈(送血)ラインの流量データに加えて、又はその代わりに、動脈(脱血)ラインの流量データを取得することにより、途絶を特定することもできることも企図している。またこれに加えて、静脈ラインの流量データと動脈ラインの流量データを比較又は相関させることにより、及びそのような流量データの比較又は相関における変化から、途絶を特定することもできる。
【0018】
また、本開示では、制御装置が、体外循環回路の静脈(送血)ラインを通る流量データを感知するフローセンサに接続されるとともに、静脈ラインの流量データに対する患者寄与分の変化又は消失に応じて、フローセンサより下流の血流の途絶を特定するように構成されることも企図している。
【0019】
また、静脈ラインの流量データに対する患者寄与分の変化又は消失に応じて、体外循環回路の静脈(送血)ラインと患者の循環系との接続の途絶を特定するステップを含む方法も開示する。
【0020】
さらなる方法は、体外循環回路の静脈(送血)ラインの計測流量データにおける、下流の患者の生理機能に由来する患者寄与分を特定するステップと、血管アクセスの途絶を特定するために、患者寄与分を監視するステップとを含む。
【0021】
また、追加的な方法として、静脈(送血)ラインに流れをもたらすポンプを有する体外循環回路における、静脈ラインの流量データを計測するステップと、計測流量データにおける、静脈ラインに下流で接続されている循環系の生理的パラメータに対応する成分の変化に応じて、静脈ラインと循環系との間の途絶を特定するステップとを含む方法も提供される。
【0022】
また、本開示は、体外血液循環回路を備える体外血液治療装置を監視するための方法も含んでいる。体外血液循環回路は、患者動脈接続部を有する動脈血液ライン及び患者静脈接続部を有する静脈血液ラインと、体外血液循環回路内に血液を搬送するためのポンプとを有している。本方法は、体外血液循環回路の静脈血液ラインの血流量データを計測するステップと、計測した血流量データにおいて、下流の患者の生理的パラメータに呼応する患者寄与分を特定するステップと、計測した血流量データに対する患者寄与分の変化又は消失に応答して、体外循環回路と患者の循環系の間の流れの途絶の発生を判定するステップと、途絶の発生を判定するステップの後に、アラームユニットの作動、ポンプの停止、又はその両方を行うための制御信号を生成するステップとを含む。
【0023】
さらなる構成では、本開示は、患者の循環系から患者の脱血部位を通って体外血液治療デバイスまで延び、患者の送血部位を通って患者の循環系に戻る体外循環回路を監視するための装置を提供するものである。体外循環回路は、患者の脱血部位から血液治療デバイスまで延びる脱血ラインと、血液治療デバイスから患者の送血部位まで延びる送血ラインと、体外循環回路の少なくとも一部に血液を圧送するように構成されたポンプと、を備える。また、本装置は、体外循環回路の一部における血流の流量データを取得するように構成されたフローセンサと、フローセンサと通信する制御装置とを備える。制御装置は、脱血ライン及び送血ラインのうちの少なくとも一方の血流量における非調波の増加に少なくとも一部基づいて、体外循環回路と患者の循環系の間の途絶を検出するように構成される。
【0024】
また、本開示は、体外循環回路の送血ラインを通る血流の流量データを提供するフローセンサに接続された制御装置であって、提供された流量データの血流量における非調波の変化に応じて、体外循環回路から患者の循環系への血流の途絶を特定するように構成された制御装置も含む。
【0025】
また、追加的な方法として、体外循環回路の流量における非調波の増加に応じて、体外循環回路の送血ラインと患者の循環系との接続の途絶を特定するステップを含む方法も提供される。
【0026】
以下に、本開示の実施形態について説明するが、本開示は本説明に記載の実施形態に限定されるものではなく、本発明の基本原理から逸脱しない範囲で様々な変更が可能であることを理解されたい。したがって、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ特定されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】患者の循環系に接続するための代表的な体外循環回路とアクセスデバイスを示す模式図
【
図2】体外循環回路の静脈ラインの流量対時間グラフ
【
図3】体外循環回路の動脈ラインの流量対時間グラフ
【
図4】体外循環回路の静脈ラインの計測流量に対するスペクトル解析結果を示す周波数グラフ
【
図5】体外循環回路の動脈ラインの計測流量に対するスペクトル解析結果を示す周波数グラフ
【
図6】体外循環回路の動脈ライン及び静脈ラインの計測流量に対するスペクトル解析結果を示す周波数グラフ
【
図7】体外循環回路の静脈ラインの第2の流量対時間グラフ
【
図8】体外循環回路の動脈ラインの第2の流量対時間グラフ
【
図9】
図7に示す体外循環回路の静脈ラインの計測流量に対するスペクトル解析(FFT)結果を示す周波数グラフであって、患者の生理機能に由来する高調波が示されているグラフ
【
図10】
図8に示す体外循環回路の動脈ラインの計測流量に対するスペクトル解析(FFT)結果を示す周波数グラフ
【
図11】静脈注射針の抜針に伴って生じる、体外循環回路の静脈ラインの流量における非調波の変化(例えば、スパイク)が示されているグラフ
【
図13】体外循環回路と患者の循環系の間の途絶を特定する工程のフローチャート
【
図14】体外循環回路と患者の循環系の間の途絶を特定するための制御装置の構成を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1及び
図12を参照すると、患者の循環系30に体外循環回路(「EC回路」)(extracorporeal circuit:EC circuit)100を接続した状態が示されている。
【0029】
体外循環回路100は、患者の脱血部位110から、血液治療デバイス130を通って、患者の送血部位160に戻るように延在する。患者の脱血部位110は、患者の循環系30の一部とすることができるほか、患者の循環系30に接続された部分とすることができる。患者の送血部位160は、患者の循環系の一部とすることができるほか、患者の循環系に接続された部分とすることができる。また、体外循環回路は、患者の脱血部位から血液治療デバイスまで延びる脱血ライン120と、血液治療デバイスから患者の送血部位まで延びる送血ライン150と、ポンプ170とを備えている。ポンプ170は、体外循環回路内に血液を圧送して、脱血ラインから、血液治療デバイスを通り、送血ラインを通って、患者の送血部位まで送るように構成されている。フローセンサは、脱血ライン120と送血ライン150のうちの少なくとも一方から血流量データを取得するように構成されている。特定の構成では、フローセンサ126により脱血ライン120の流量データを取得し、フローセンサ156により送血ライン150の流量データを取得する。制御装置180は、フローセンサ126、156、及びポンプ170のうちの少なくとも1つに接続されている。
【0030】
一構成では、体外循環回路100は、透析を行う構成とされる。その場合、脱血ライン120は動脈ラインと呼ばれ、血液治療デバイス130は透析器を含み(ただしこれに限定されるものではない)、送血ライン150は静脈ラインと呼ばれる。本明細書では、血液は、アクセスデバイス200から動脈ライン120に進み、静脈ライン150でアクセスデバイスに戻るものとして説明を行う。なお、図中、体外循環回路100は、動脈フローセンサ126と静脈フローセンサ156を共に有するものとして示されているが、本開示のシステムは、動脈フローセンサを省略して実施することも、動脈フローセンサを使用して実施することもできることを理解されたい。
【0031】
一構成では、体外循環回路100は、
図1に示す透析器などの血液治療デバイス130の透析液側302に流体接続される。
図1において、当技術分野において公知の透析液回路310は、透析器への透析液流入ライン320と、透析器からの透析液排出ライン330と、ポンプ340と、これらに付随する制御機構、補給機構、及びバランス機構(これらの機構は、参照番号350を付して模式的に示す)とを備えている。また、これに加えて、透析液回路310は、透析液流入ライン320の流量を感知するように構成された透析液流入フローセンサ326と、透析液排出ライン330の流量を感知するように構成された透析液排出フローセンサ336とをさらに備えることができる。なお、透析液流入フローセンサ及び透析液排出フローセンサは、下記のフローセンサ126、156と同様とすることができる。
【0032】
透析用語を用いて説明すると、血液は、患者の脱血部位110から動脈ライン120(脱血ライン)に進み、静脈ライン150(送血ライン)を通って患者の送血部位160に戻る。また、透析用語では、動脈ラインの流量データを取得するフローセンサ126は、動脈フローセンサ126と呼ばれ、静脈ラインの流量データを取得するフローセンサ156は、静脈フローセンサ156と呼ばれる。
【0033】
なお、図中、システムは、動脈フローセンサ126と静脈フローセンサ156を共に有するものとして示されているが、本開示は、動脈フローセンサ126のみを使用して実施すること、静脈フローセンサ156のみを使用して実施すること、又は動脈フローセンサと静脈フローセンサの両方を使用して実施することができることを理解されたい。
【0034】
上述したように、一構成では、体外循環回路100は体外血液治療を行うように構成される。体外血液治療では、体外循環回路100は、血液治療デバイス130の一部とすることができ、体外循環回路100によって、患者から血液を取り出し、これを処理(例えば、治療)した後に、患者に再導入する。したがって、一構成では、体外循環回路は、血液治療デバイス130と併せて、透析液回路310及び血液側(動脈ライン120及び静脈ライン150を含む側)の両方を含む。
【0035】
体外血液治療としては、血液透析、血液透析濾過、血液濾過、血漿交換などが挙げられ、膜を介した拡散などによる血液からの毒素除去も含まれる。
【0036】
本明細書では、以下の用語を用いて説明を行う。「流量データ(flow rate data)」という用語は、流量の導出、評価、又は計算を行う際の基となることが可能な任意のデータ、及び流量の導出、評価、又は計算を行うための任意の代理(surrogate)データを指す。また、流量は、実際の血流量、計算上の血流量、又は予想流量、並びに、実際の血流量の任意の代理値とすることができることも企図されている。かかる代理値としては、流速や、血流又は流速に比例する値、血流又は流速に関連する値が挙げられるが、これらに限定されるものではない。流量データは、血流に関連する任意の信号又はデータ、特に、血流の脈動性、変動性、周波数依存性、又は振動成分若しくは振動特性に関連する任意の信号又はデータを包含するものである。流量データは、例えば、光信号、音響信号、電磁信号、温度信号、その他それを元に周波数解析を行うことが可能な信号などの任意の信号により示されるが、これらに限定されるものではない。したがって、流量データには、流量を表す任意の信号若しくはデータ、あるいは、流量、又は流量の脈動、変動、周波数変動、若しくは振動、又は流量内の脈動、変動、周波数変動、若しくは振動の判別又は感知を行う際の基となることが可能な任意の信号若しくデータ、あるいは、これらに対応する代理データが含まれる。例えば、血液中の生来の粒子や血液に導入した粒子などの血中マーカを代理データとして用いることができる。したがって、流量という用語は、血流又は透析液流それぞれ(特に、血流又は透析液流それぞれの脈動、変動、周波数変動、振動、又は特性若しくは性質)に対応する、又はそれの代理となる、又はそれを表すことができる任意の値又は計測値を包含することが意図されている。よって、「流量(flow rate)」という用語(「血流量(blood flow rate)」及び「透析液流量(dialysate flow rate)」を包含する用語)は、導管の断面積を通過する単位時間当たりの液体の体積を示す計測値である体積流量を包含するものであり、単位時間当たりの体積の単位(典型的にはミリリットル/分(mL/分)又はリットル/分(L/分))や、その任意の代理物で表すことができる。血流量や透析液流量などの流量は、フローセンサ126、156、326、336用として公知の各種システム及び方法のうちの任意のシステム及び方法により計測、計算を行うことができることを理解されたい。
【0037】
アクセスデバイス200は、ヒト(又は、動物)の循環系などの患者の循環系30に流体接続している。患者の循環系30は、血液と、心肺系を有する血管系と、心肺系を身体の各組織に接続する全身系と、心臓とを含む。具体的には、全身系は、血管系(動脈、静脈、毛細血管)を介して、患者の身体全体に血液を送っている。したがって、アクセスデバイス200は、患者の循環系30に流体接続することにより、体外循環回路100に対するアクセスを提供している。「アクセスデバイス(access device)」という用語は、患者の循環系30に対する任意のアクセスを包含する用語であり、カテーテル、針、シャント、自己血管動静脈瘻(AV native fistula)、人工血管動静脈瘻(AV-artificial graft)、並びに静脈カテーテル、又は他の血管埋植物を含むが、これらに限定されるものではない。アクセスデバイス200を介して体外循環回路100を患者につなぐ接続部としては、通常、カテーテル又はカニューレ又は針、例えば透析カニューレが用いられ、その場合、例えば、アクセスデバイス200を穿刺することにより流体連通が確立される。本明細書では、アクセスデバイス200は、患者の脱血部位110及び患者の送血部位160を包含している。したがって、アクセスデバイス200は、互いに別体の動脈アクセス及び静脈アクセスを含むほか、互いに近位又は隣接する動脈アクセス及び静脈アクセス、又は共通のシャント、ライン、若しくは移植片内にある動脈アクセス及び静脈アクセスを含む。
【0038】
「血液治療(blood treatment)」という用語は、透析を含むがこれに限定されない任意の血液処理を意味する。また、透析には、血液濾過、血液透析、血液透析濾過、又は持続的腎代替療法(Continuous Renal Replacement Therapy:CRRT)を含むがこれらに限定されない拡散療法などによる毒素除去が含まれる。血液治療デバイスは、血液治療を行うための任意のデバイスである。したがって、一構成では、血流と透析液流を隔てる半透膜を介して、溶質や水の移動が制御可能に生じるように、透析器などの血液治療デバイスを構成することができる。かかる移動プロセスには、拡散(透析)や対流(限外濾過)が含まれる。また、血液治療デバイスは、化学治療、電磁治療、熱的治療などの、他の多くの血液治療のうちのいずれかを行うものとすることもできる。
【0039】
血液という用語には、人工血液や天然血液を含む、処理済み又は未処理の血液、さらには血漿が含まれる。
【0040】
「途絶(disruption)」という用語は、体外循環回路100と患者の循環系30の間の流れに生じる任意の逸脱(diversion)、断絶(disconnection)、脱落(dislodgement)、又は遮断(interruption)を包含している。途絶は、ポンプ170より下流、血液治療デバイス130より下流、並びに体外循環回路100とアクセスデバイス200の間、又はアクセスデバイスと患者の循環系30(患者の脱血部位110及び患者の送血部位160を含む)の間で発生する可能性のある、例えば、静脈注射針の抜針又は抜けなどである。したがって、「途絶」という用語には、限定されるものではないが、患者又は患者アクセスから静脈注射針が外れる「静脈注射針の抜針(VND)」、又は治療に用いられている血液透析用血液ラインから、中心静脈カテーテル(CVC)又は静脈瘻が外れる「アクセス-血液ライン間の分離(ABLS)」が含まれる。
【0041】
「制御装置(controller)」という用語は、信号プロセッサ及びコンピュータを含むものであり、コンピュータには、プログラム組み込み済のデスクトップ型コンピュータ若しくはノート型コンピュータ、又はプロセッサ専用のコンピュータが含まれる。かかる制御装置には、本明細書に記載の計算又はその導出を実行することにより、本明細書に記載しているように流量の判別及び流量データの変換を行うプログラムを簡単に組み込むことができる。また、制御装置は、或る信号と別の信号との和、又は或る信号と別の信号の一部との和を求めるなどの予備的な信号調整を行うこともできる。
【0042】
「フローセンサ(flow sensor)」という用語は、流量データを表す信号の提供、又は、流量、流量の脈動、変動、周波数変化、若しくは振動、又は流量、流量の脈動、変動、周波数変化、若しくは振動の代理値の判別又は感知を行う際の基となることが可能なデータの提供を行う任意のセンサデバイスを包含する。
【0043】
或る位置より「上流(upstream)」という用語は、当該位置から離れる、血流とは反対の方向を指し、或る位置より「下流(downstream)」という用語は、当該位置から離れる、血流の方向を指す。「動脈ライン(arterial line)」又は動脈ライン側は、血液が患者の脱血部位110(例えば、アクセスデバイス200)から血液治療デバイス130へと流れる際に通過する体外循環回路100の部分である。「静脈ライン(venous line)」又は静脈ライン側は、血液が血液治療デバイス130から患者の送血部位160(例えば、アクセスデバイス200)へと流れる際に通過する体外循環回路100の部分である。
【0044】
概して、体外循環回路100を通る血液の循環は、ポンプ170により行われている。本開示は、血液治療デバイス130(体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenator:ECMO)など)により、患者の循環系30の静脈部分から血液を取り出して、患者の循環系の第2の静脈部分に処理済の血液(酸素加血)を送り戻す体外循環回路100を包含するものであり、さらには、患者の循環系の静脈部分又は動脈部分のうちのいずれかから血液を取り出して、取り出した血液を患者の循環系の静脈部分又は動脈部分のうちのいずれかに送り戻す構成を包含するものであり、これらの構成のうちの任意の構成において、途絶の検出を行うことができるものと理解される。
【0045】
また、本開示が、患者の複数の脱血部位110、複数の脱血ライン120、複数の血液治療デバイス130、複数のポンプ170、複数の送血ライン150、及び患者の複数の送血部位160、又はそれらの任意の組み合わせを有する体外循環回路100を包含することも企図されている。従って、本システムは、患者への送血ライン150を2本以上有することもできる。特定の種類の体外血液治療では、体外循環回路100が脱血用の動脈注射針と送血用の静脈注射針とを備え、動脈注射針及び静脈注射針がアクセスデバイス200に挿入されることが理解される。したがって、選択的な構成では、体外循環回路100は、アクセスデバイス200から血液を取り出し、取り出した血液をアクセスデバイス200に送り戻す構成となる。そして、血液が取り出された状態にある間、例えば、静脈ライン150を介してアクセスデバイス200に送り戻す前の、血液が透析器130を通過している間に、取り出された血液を治療することができる。
【0046】
一構成では、血液は、アクセスデバイス200からポンプ170を経て、透析器などの血液治療デバイス130を通過する。その後、血液は、血液治療デバイス130からアクセスデバイス200へと送られる。図示は省略するが、静脈ライン150は、血液治療デバイス130とアクセスデバイス200の間に、エアトラップ及びエア検出器を備えることができることが企図されている。
【0047】
また、体外循環回路100の構成や血液パラメータの計測方式によっては、体外循環回路100に物質を導入する部位としての導入ポートを、動脈ライン120が備える又は動脈ライン120に設けることもできる。
【0048】
静脈ライン150は、体外循環回路100の流れを、アクセスデバイス200を介するなどして循環系30に接続する。通常、静脈ライン150は、アクセスデバイス200への流体接続を提供する戻り(静脈)カニューレを備えている。
【0049】
静脈ライン150は、フローセンサ156を備えている。フローセンサ156は、流量特性又は流量パラメータを計測して流量データを生成し、流量データから流量、又は流れにおける任意の脈動、変動、周波数変化、又は振動成分、又は流れの周波数成分を判別することができる。したがって、フローセンサ156としては、体外循環回路100を通る指標の通過を感知するための流量センサ、超音波センサ、さらに又は希釈センサを挙げることができる。フローセンサ156は、流量データを取得する種々のセンサのうちの任意のセンサとすることができる。選択的な構成では、フローセンサ156(及びセンサ126)は、様々な血液特性を計測することができる。かかる血液特性としては、温度、ドップラー周波数、電気インピーダンス、光学特性、密度、超音波速度、グルコース濃度、酸素飽和度、又は他の血液物質(物理的、電気的、又は化学的な任意の血液特性)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これに代えて、選択された血液の特性や性質を計測するための追加のセンサ(図示せず)を、フローセンサ156に加えて設けることもできる。
【0050】
フローセンサ156についての説明で述べたように、動脈ライン120のフローセンサ126も、種々のセンサのうちの任意のセンサとすることができる。本明細書では、システムが2台のフローセンサ126、156を有するものとして説明しているが、これは精度向上のためのものであり、1台のフローセンサでも十分であることが理解される。さらに、ポンプの毎分運転回転数などのポンプの運転パラメータによって、ポンプ170から流れに与えられる脈動を特定することができるため、ポンプ寄与分を患者寄与分から区別することができることも企図されている。
【0051】
具体的には、動脈ライン120にフローセンサ126を設ける場合、フローセンサ126は、流量データを取得する種々のセンサのうちの任意のセンサとすることができる。フローセンサ126は、様々な血液特性を計測することができる。かかる血液特性としては、温度、ドップラー周波数、電気インピーダンス、光学特性、密度、超音波速度、グルコース濃度、酸素飽和度、又は血液物質(物理的、電気的、又は化学的な任意の血液特性)などの、血流量と、脈動、振動、変動、流量内の周波数変化又は流量の時間変動とに関連する、これらに対応する、又はこれらの裏付けとなる血液特性が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、フローセンサ126が血流量を計測できることも理解される。したがって、一構成では、本システムは、1台の血液特性センサと、1台の流量センサとを備えている。さらに、流量と血液パラメータ(特性)とを計測する複合センサを1台使用することもできる。
【0052】
また、フローセンサ126、156を体外循環回路100の外部に配置できることも理解される。すなわち、フローセンサ126、156は、遠隔位置に配置された上で、指標の導入以降に生じた血液中の変化、又は指標の導入に関する値を体外循環回路100において計測し、これを、拡散、電磁場、熱場などの手段により各センサに伝達又は伝送することができる。なお、フローセンサ326、336は、フローセンサ126、156について説明した実施態様のうちの任意のものとすることができることが企図されている。
【0053】
ポンプ170は、種々の型のポンプのうちの任意の型のポンプとすることができ、例えば、限定されるものではないが、蠕動ポンプ、ローラポンプ、インペラポンプ、又は遠心ポンプとすることができる。ポンプ170により、体外循環回路100を通る血流量が生成される。具体的な構成に応じて、体外循環回路100に所定の血流量を確立するためのポンプ170の制御は、ポンプ自体に対する直接制御で行うことができるほか、制御装置180を介した制御で行うこともできる。ポンプ170の位置は、体外循環回路100内の種々の位置のうちの任意の位置とすることができ、
図1に示す位置に限定されるものではない。一構成では、ポンプ170は市販のポンプであり、種々の流量のうちの任意の流量を提供するように設定又は調整することができる。この流量は、ユーザにより読み取られる、制御装置180に送信されて制御装置180により読み取られる、又はその両方が行われる。
【0054】
体外循環回路100を通る正常な(順方向の)血流は、アクセスデバイス200から動脈ライン120を通して血液を取り出す血流と、取り出した血液を(透析器130で血液を処理するために)体外循環回路に送る血流と、取り出した(又は、処理済の)血液を静脈ライン150を通してアクセスデバイス内に導入する血流とを含む。ポンプ170により、アクセスデバイス200から体外循環回路100を通ってアクセスデバイスに戻る血流を生成することができる。
【0055】
通常、制御装置180は、血液治療デバイス130と、ポンプ170と、フローセンサ156及びフローセンサ126(フローセンサ126を使用している場合)とに接続することができる。制御装置180は、パーソナルコンピュータのようなスタンドアロンデバイス、又は専用デバイスとすることができるほか、ポンプ170や血液治療デバイス130などの構成要素の1つに組み込むこともできる。なお、図中、制御装置180は、フローセンサ126、156と、ポンプ170と、血液治療デバイス130とに接続されているものとして示されているが、制御装置の接続先は、フローセンサのみ、センサ及びポンプ、又はフローセンサ、ポンプ及び血液治療デバイス130の任意の組み合わせとすることもできることを理解されたい。
【0056】
静脈ライン150の流量を含む、静脈ラインの流量データについては、概ねポンプ170に由来する周波数で脈動しているのみならず、静脈ラインの流量データの計測位置より下流にある患者の生理機能に呼応した成分も含んでいることが発見された。すなわち、静脈ライン150の流量データ、ひいては静脈ライン150の流量には、患者からの寄与が含まれており、取得した流量データに対する患者寄与分の少なくとも一部は、より下流にある患者内部の生理作用に伴うものである。かかる患者寄与分には、患者の循環系30の拍動に由来する成分と呼吸成分とが含まれると考えられる。体外循環回路100を通る流れはポンプ170により生じるものであり、また、患者の生理機能は、静脈ライン150より下流にあることから、静脈ラインの流量に患者からの寄与が含まれることは驚くべき発見であった。さらに、以下に述べるように、動脈ライン120の流量データも患者寄与分を含んでおり、取得した流量データに対する患者寄与分の少なくとも一部は、患者内部の生理作用に伴うものであることも発見されている。
【0057】
流量データに対する患者寄与は、患者の生理機能により生じ、アクセスデバイス200を介して伝播する。例えば、アクセスデバイスが動静脈(AV)シャントの場合は、針を通して伝播し、アクセスデバイスが循環系30に接続されたカテーテルの場合は、中心静脈(又は心臓)からの寄与を受ける。患者寄与分は、体外循環回路100における流量データ(血流量など)、特に動脈ライン120と静脈ライン150の両ラインにおける脈動流で観察できることが確認されている。動脈ライン120で観察される患者寄与分は、体外循環回路100の動脈アクセスから伝達されたものが主体であり、流量データを動脈ラインで取得できることに留意されたい。また、静脈ライン150から動脈ライン120へと上流に伝播するいかなる患者寄与分も、ポンプ170と、血液治療デバイス130(例えば、透析器)と、気泡トラップ(ある場合)とを通過して伝播する必要があり、これらを通過する度に、静脈アクセスから伝わる患者寄与分の発現が実質的に減衰する点にも留意されたい。すなわち、静脈ライン150に沿って上流に伝播する患者寄与分は、ポンプ170と、血液治療デバイス130と、気泡トラップ(ある場合)とを通過して動脈ライン120内まで伝播するにつれて実質的に減衰する。したがって、動脈ライン120から取得される流量データに含まれる患者寄与分の大半が、動脈ライン120を通して患者から下流に伝達されたものである。同様に、静脈ライン150で観察される患者寄与分の大半は、アクセスデバイス200から静脈ライン150に沿って上流に伝播した患者寄与分である。動脈ライン120に沿って下流に伝播するいかなる患者寄与分も、ポンプ170と、血液治療デバイス130と、気泡トラップ(ある場合)とを通過して静脈ライン150内まで伝播するにつれて実質的に減衰する。すなわち、動脈ライン120から静脈ライン150へ下流に伝播するいかなる患者寄与分も、ポンプ170、血液治療デバイス130(透析器)、及び気泡トラップ(ある場合)により実質的に減衰されるため、静脈ライン150の流量データに含まれる患者寄与分は、アクセスデバイス200(例えば、針、静脈カテーテル内腔など)から静脈ラインに沿って上流に伝播した患者寄与分が主体となる。そして、途絶又は断絶が動脈アクセスに発生した場合、ポンプ170がエア吸い込みを起こして、体外循環回路100を流れる血流が停止する。一方、途絶又は断絶が静脈ライン150に発生した場合、動脈ライン120の流れ、ひいては動脈ラインにおける患者寄与分はあまり変化せず、これにより、静脈ラインでの途絶の発生を示す信頼性の高い指標が得られる。
【0058】
制御装置180は、流量データに対する(例えば、静脈ライン150の血流量における)患者寄与分を特定して、流量データに対する患者寄与分を2つの異なる時点の間で比較する、若しくは、流量データ又は計測流量における患者寄与分の変化(例えば、患者寄与分の変化が所定レベルに達したこと、又は患者寄与分が失われたこと)を特定するようにプログラムされる。
【0059】
図2に示すように、静脈流は、患者の心拍数に相関する約68拍/分の周波数で脈動している。
【0060】
図3に示すように、ポンプ170が蠕動ポンプ型又はローラポンプ型の場合、動脈ライン120の流量は、ポンプ170により生じる流れの変動により脈動し、その影響を強く受ける。また、ポンプ170により発生する約48拍/分の脈動も、ポンプ170の毎分回転数から、又はポンプ170が血液治療デバイスに組み込まれている場合は血液治療デバイス130の毎分回転数から、特定又は既知とすることができる。
【0061】
そして、静脈ライン150の流量データのスペクトル解析を行うことにより、体外循環回路100の脈動流量に与えるポンプ170からのポンプ寄与分、患者寄与分を含む、流量に対する様々な寄与を特定できることが確認されている。一般に、計測流量などの流量データを解析することにより、全周波数帯域内の周波数ごとの入力信号の強度を特定することができるため、これにより、スペクトル成分、特に患者の生理機能に起因するスペクトル成分(患者寄与分)を個別に特定することが可能となる。この周波数領域(frequency domain)により、静脈ライン150における計測流量などの流量データにおける高調波成分の特定が可能となり、したがって、患者の脈拍数又は呼吸数に呼応する寄与などの患者寄与分を含む、脈動流量に対する寄与を個々に特定することが可能となる。
【0062】
概して、本開示は、流量データの成分、特に、流量データの周波数領域成分、の正確な定量化(区別)を十分に行うことのできる流量データを取得することを可能にするものである。例えば、流量における振動、変動、脈動又は周波数変化を個々にモデリングするのに十分なほど短い時間間隔で、かつこれらの発生が複数含まれるような十分な期間にわたり、時間の関数としての流量データを取得する。次に、制御装置180により、取得した信号が個々の振動成分の和で構成されているという仮説に基づいて、この流量データを分解する。したがって、制御装置180は、時間依存関数を、空間周波数又は時間周波数に依存する関数に分解し、分解された周波数に対する患者寄与分を特定することができる。
【0063】
一構成では、スペクトル解析は、離散フーリエ変換(Discrete Fourier Transform:DFT)、特に高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)により行うことができる。DFTは、時間領域(time domain)の関数を、一連の様々な周波数の正弦波に変換し、かかる正弦波の和で信号を再構成するものである。いわゆる周波数成分スペクトルは、信号(例えば、計測流量や、流波形又は流量データの脈動パターンなど)の周波数領域表現である。周波数解析は、静脈ライン150内の流れに関する流量データに対して別の視点を与えてくれるものである。周波数解析では、流量データ(つまり時間領域の流量)を観察するのではなく、時間データを一連の正弦波に分解する。FFTは、時間の関数を周波数の関数に変換する数学的手法として公知の手法である。市販のスペクトル解析器、又は制御装置180に組み込まれたソフトウェアアプリケーションにより、入力信号の計測信号強度パターンなどの流量データを、全周波数帯域内の周波数成分に変換する。
【0064】
図2の静脈流量データのFFT結果である
図4を参照すると、静脈ライン150の流量データから導出したポンプ周波数の第1次高調波が示されている。また、
図4には、静脈ライン150の流量データから導出した、体外循環回路100に接続された患者の心拍数の第1次高調波も示されており、これは、患者の脈拍に呼応すると考えられる患者寄与分があることを示している。
【0065】
図3の動脈流量データのFFT結果である
図5を参照すると、ポンプ170の第1次高調波と第2次高調波とが示されている。これらの高調波も、ポンプの毎分回転数などのポンプ170の運転パラメータから既知とする又は導出することができることが企図されている。心拍数の高調波が、動脈流量データでも観察されることにも留意されたい。ただし、静脈注射針の抜針などにより、静脈ライン150と患者の循環系30との間の流れに途絶が生じた場合でも、動脈ラインの動脈アクセスからは信号が伝播されるため、動脈ライン120の心拍数の高調波は依然として残る、又は存在することが理解される。
【0066】
動脈流量データと静脈流量データを重ね合わせた
図6を参照すると、動脈ライン120のフローセンサ126と静脈ライン150のフローセンサ156という2つのフローセンサのいずれにおいても、患者からの寄与(心拍数)とポンプ170からの寄与が観察されることが、FFTによるスペクトル解析によって裏付けられている。
【0067】
したがって、制御装置180は、静脈ライン150の計算流量又は計測流量などの流量データにスペクトル解析を適用することにより、流量データに対する少なくとも1つの患者寄与分を特定するように構成されている。その後、制御装置180は、特定した患者寄与分を監視することにより、患者寄与の変化(例えば、終了など)に反応して、アラーム通知又はポンプ制御を行うことができる。
【0068】
なお、本明細書では、取得した流量データを分解するためにフーリエ変換を行うものとして説明しているが、静脈ラインにおける患者寄与の有無を監視するために、他の信号解析法を利用して、体外循環回路(例えば、静脈ライン150)の流量データに対する患者からの寄与の有無、特に、患者の生理機能に由来する患者寄与の有無に関する情報を、流量データから抽出することもできることを理解されたい。
【0069】
図7を参照すると、脈動成分を含む、静脈ライン150の流量が示されている。
図8は、
図7に示す体外循環回路100の動脈ライン120の流量を示すグラフである。
図9は、
図7の流量データ(具体的には、流量)のスペクトル解析結果である。
図10では、ポンプ170由来の高調波が際立っており、支配的な高調波であることが示されている。
図9を参照すると、ポンプ170由来の高調波が支配的な高調波である一方、患者の生理現象に由来する高調波、すなわち患者寄与分、も特定することができる。すなわち、静脈ライン150の血流量において、下流の生理現象に由来する高調波が特定されている。従って、制御装置180は、所定量の患者寄与分の消失又は変化を監視することにより、体外循環回路100の静脈ライン150から血管デバイス200などの患者の送血部位への流れに途絶が生じたことを検出することができる。
【0070】
したがって、本システムは、アクセスデバイス200から、体外血液治療デバイス130(例えば、透析器)を通って、アクセスデバイスに戻るように延在する体外循環回路100を監視するように構成することができる。本構成において、体外循環回路は、アクセスデバイスから血液治療デバイスまで延びる動脈ライン120と、血液治療デバイスから血管アクセスまで延びる静脈ライン150と、ポンプ170とを備えており、ポンプ170は、アクセスデバイスから体外循環回路内に血液を圧送して、動脈ラインから、血液治療デバイスを通り、静脈ラインを通って、アクセスデバイスまで送るように体外循環回路に接続されている。また、本システムは、静脈ライン150の血流の流量データを取得するためのフローセンサ156と、フローセンサと通信する制御装置とを備えており、制御装置180は、流量データに基づいて、静脈ラインの流量を求めるステップと、スペクトル解析、特にFFTなどにより、求めた流量における、下流での患者の生理現象に由来する少なくとも1つの患者からの流量への寄与分を特定するステップと、特定された患者寄与分に少なくとも一部基づいて、ポンプ170より下流での体外血液循環回路の途絶を検出するステップとを行うように構成される。すなわち、制御装置180は、それまでは特定されていた、スペクトル解析結果に示されているような患者寄与が消失したことを特定するように構成することができる。このように患者寄与の消失をスペクトル解析結果から特定することにより、これを用いて、体外循環回路100からアクセスデバイス200(又は、循環系30)への流れに途絶が生じたことを特定し、アラーム通知、ポンプ170の停止、又はその両方を行うことができる。上述したように、かかる途絶としては、静脈注射針の抜針、アクセス-血液ライン間の分離を挙げることができる。
【0071】
制御装置180は、上述の変換を行うことにより、周波数成分の取得、さらには取得した周波数成分の比較(監視)を行うことができる。ただし、データ点が選択的に取得される構成も企図されているが、フーリエ解析を行うには連続的な波形が必要であるため、その場合には、制御装置180は、上述の変換に加えて、これらの離間したデータ点に予想モデル(例えば、限定されるものではないが、AIアルゴリズム)を適用して、例えば、予想波形パターンなどを生成することもでき、これにより、時間領域に変化が確認されると直ちに途絶を特定することもできることを理解されたい。したがって、制御装置180は、周波数領域、時間領域、又はその両方において、患者からの寄与の変化を特定することができる。さらに、制御装置180が、動脈ライン及び静脈ラインのいずれか一方又は双方から取得又は予想される流量データ(例えば、流波形パターン)と、次に取得又は予想されるパターン(例えば、次の心臓の拍動により現れるパターン)の間の相関関係の変化を特定できることも企図されている。
【0072】
制御装置180は、送血(静脈)ラインと脱血(動脈)ライン120の間の流量データを相関させることなどにより、送血(静脈)ライン150の流量データにおける(1つ以上の)患者の生理的パラメータの特定性を向上するように構成することができる。例えば、1つのフローセンサ156が送血(静脈)ライン150に動作可能に接続されて送血ライン流量データを生成し、第2のフローセンサ126が脱血(動脈)ライン120に動作可能に結合されて脱血ライン流量データを生成する構成とし、脱血ラインの流量データと送血ラインの流量データとの関係性から、少なくとも1つの患者の生理的パラメータ(患者からの寄与)又は患者の生理的パラメータの変化を特定するように、制御装置を構成する。一構成では、当該関係性は、脱血ラインの流量データと送血ラインの流量データの間の相関関係である。
【0073】
さらに、制御装置180が、血液治療デバイス130、ポンプ170、又はその両方から、血流又は毎分回転数設定などの情報を受信し、取得した流量データの変換(フーリエ)成分間の識別を行うことにより、ポンプ170により生成された流量データと、流量データに対する患者寄与(患者の心拍数など)により生成された流量データとを区別できることも理解される。
【0074】
制御装置180は、静脈ライン150を通る流れを感知するフローセンサ156に接続されることが企図されている。制御装置180は、体外循環回路100と患者の循環系30の間の途絶に伴う、体外循環回路100におけるフローセンサより下流の血流の変化を特定するように構成される。かかる静脈ライン150における流量データ(すなわち、流量)の変化は、フロー信号の周波数スペクトルにおいて検出される高調波の変化として示される、フロー信号に対する患者寄与分の変化として検出することができる。さらに、上述の途絶、特に、静脈注射針の抜針又はアクセス-血液ライン間の分離が、体外循環回路100の流量における非調波の変化、特に流量における非調波の増加であるスパイク状の変化(スパイク)を伴い得ることが確認されている。上述の途絶、特に、静脈注射針の抜針又はアクセス-血液ライン間の分離に伴う流量のスパイクは、静脈ライン150が大気圧に曝されること、血流に対する抵抗が変化すること、又はその両方の組み合わせに反応している可能性があると考えられる。すなわち、体外循環回路100の流量に一時的なスパイクが発生した場合、静脈ライン150が、静脈アクセスなどのアクセスデバイス200の圧力にではなく大気圧に曝されたことに反応したものである可能性がある。さらに、体外循環回路100内の流量の一時的なスパイクは、体外循環回路の途絶に伴い静脈ラインにおいて血流に対する抵抗が小さくなったことに反応したものである可能性もあることも企図されている。したがって、流量のスパイクが発生した場合、体外循環回路100の流れが曝される圧力の変化、静脈ライン150を通る血流に対する抵抗の低下、又はこれらの要因の組み合わせが原因である可能性がある。体外循環回路100内の流量にスパイクが発生した場合、通常、静脈フローセンサ156により感知される流量の増加(正方向のスパイク)と、透析液ライン流出フローセンサ336における流量の減少(負方向のスパイク)とを伴う。後者は、体外循環回路100内の流量にスパイクが生じている期間中も、透析器130の透析液側(dialyzer compartment)の総容積は一定であることによる。
【0075】
流れ抵抗の低下に少なくとも一部起因する流量のスパイクに関して、中心カテーテルと同様、静脈ライン150の静脈カテーテルの先端も、患者の循環系30の心臓の右心房に近接した位置に配置することができることに留意されたい。静脈ライン150が意図的に(例えば、静脈カテーテルに接続されたラインに沿って)切断されると、(カテーテル内腔からの)流れに対する抵抗が低下し、体外循環回路100において流量のスパイクが観察される。したがって、静脈ライン150の流量スパイクを検出するステップは、これに関連する体外循環回路100内の任意の血液治療デバイスの特定の寄与又は特性の検出に対応することができることが企図されている。
【0076】
図11を参照すると、血液透析チューブ一式と金具を用いて行った、静脈注射針の抜針のベンチシミュレーションが示されている。かかるベンチシミュレーションによる静脈ライン150の流量データには、非調波成分又は非調波の変化としての流量スパイクが含まれることが想定される。
図11における静脈ライン150の流量スパイクは、静脈注射針の抜針に伴うものである。すなわち、この流量データは、当該スパイク発生前後に計測される流量信号に対して特定される高調波の患者寄与の変化ではない、血流量における非調波の変化(例えば、増加)を含むと考えられる。通常、かかる流量のスパイク(非調波の変化)は、静脈注射針の抜針又はアクセス-血液ライン間の分離に伴うものと考えられる。よって、非調波パターンにスパイクが観察されているときに流量がスパイク前の平均流量に比べて増加したのは、外れた静脈注射針、断絶したカテーテルなどの、流量センサと患者の間で断絶した血液ラインの端部において圧力の変化が生じたためかもしれないと推定される。あるいは、非調波パターンにスパイクが観察されているときに流量がスパイク前の平均流量に比べて増加したのは、体外循環回路100内、特に断絶位置から遠位の静脈ライン150の流れに対する抵抗に変化が生じたため、又は圧力の変化と流れに対する抵抗の変化の組み合わせが生じたためかもしれないと推定することもできる。なお、圧力の変化が生じる状況と抵抗の変化が生じる状況というこれら2つの状況のいずれにおいても、変化が起きたタイミングで、計測流量に対する高調波の患者寄与分が消失するが、静脈注射針の抜針又はアクセス-血液ライン間の分離が発生したという結論は、かかる途絶事象の前に計測されていた流量に対する高調波の患者寄与分に変化が現れたことから下されたのではなく、計測流量に通常ならざるスパイクが発生し、それを起点に平均的な流量に対して一時的な非調波の変化が現れたことから下されている。
【0077】
図11に示す流量のスパイクは、静脈注射針の抜針に伴うものであるが、静脈ライン150における流量のスパイクのすべてが、静脈注射針の抜針やアクセス-血液ライン間の分離などの途絶に伴う又はかかる途絶を示すスパイクとは限らないことが企図されている。すなわち、静脈ライン150などの体外循環回路100における流量のスパイクは、静脈注射針の抜針やアクセス-血液ライン間の分離などの途絶に伴うスパイクではなく、患者の動きに伴うスパイク、又は電子ノイズや電磁ノイズなどの他の原因に伴うスパイクである場合もある。
【0078】
この問題に対処するため、一構成では、制御装置180は、静脈ライン150におけるフロースパイク(流量における非調波の変化)の大きさに閾値(すなわち、所定のレベル)を適用するように構成され、閾値(所定のレベル)より大きいフロースパイクが発生すると、体外血液循環回路100と患者の循環系30の間の流れに途絶(静脈注射針の抜針又はアクセス-血液ライン間の分離など)が生じた可能性があると判断する一方、閾値より小さいフロースパイクの場合、途絶の可能性があるとは判断しない構成とされる。フロースパイクの大きさと形状は、デバイスに強く依存すると考えられる。
図11に示すシミュレーションのような透析治療構成では、閾値を15mL/分~30mL/分とすることができることが企図されている。また、これに代えて、閾値を、所定時間における(又は、所与の時間内又は所与の時間未満の時間における)流量の変化率(%)とすることもできる。例えば、1秒未満又は数秒未満の間に少なくとも5%、又は10%以上の流量の変化が発生した場合に、そのフロースパイクの増加勾配をさらに検討する必要があると特定することができる。かかる検討は、当該フロースパイクが、体外血液循環回路100と患者の循環系30の間の途絶(アクセス-血液ライン間の分、静脈注射針の抜針など)に関連するかについての結論を下すために行われる。また、実際の患者の途絶データの取得には限界があることを考慮し、ベンチシミュレーションから途絶検出アルゴリズムを開発することができることが企図されている。
【0079】
図11を参照すると、(送血)静脈ライン150における流量のスパイク(流量における非調波の変化)が、比較的一定である静脈ラインにおける平均的な血流と比較して示されており、血流量の非常に急激な増加を観察することができる。この流量スパイクのピーク値は、ポンプにより静脈ライン150の流量に生成される脈動よりも大きく、また静脈ライン150の端部に位置する患者の心圧変動に由来するいかなる流量の変動よりも大きい。
【0080】
一般に、患者の動きにより発生した、又は電子ノイズや電磁ノイズなどの他の原因により発生した流量の増加(正方向)スパイクの場合、その前又は後に、減少(負方向)スパイクが伴う。これらは、急激な増加の後に、右下がりに傾斜して、実質的に以前の平均流量まで、あるいは以下に規定する割合(%)の範囲内まで降下する、
図11に示す逆(反転)鋸歯形状の血流量スパイクとは異なる。この流量増加の勾配は、フローセンサ156のローパス帯域幅によってほぼ決まる。流量スパイクは、体外循環回路100とアクセスデバイス200(又は患者の循環系30)の間の流体連通が遮断されたとき、特に、静脈ライン150の患者(例えば、アクセスデバイス)への接続が断たれたときに観察される、実質的に瞬間的な反応である。当該流量スパイクの右下がりの傾斜では、流量は概ね指数的に減衰して、スパイク前のレベル、又はスパイク前の流量の5%、又は10%、又は25%以内まで戻ると考えられる。したがって、フローセンサ156に接続された制御装置180は、平均的な流れのベースライン値を追跡し、フロースパイクの直後の、平均的な流れのベースライン値より上の「血流信号曲線下面積(area under the blood flow signal curve)」を積分により求めることによって、体外血液循環回路100と患者の循環系30の間の途絶により発生したスパイクを、患者の動きにより発生した、又は電子ノイズや電磁ノイズなどの他の原因により発生したフロースパイクから確実に区別することができる。
図11に示すデータを生成するために透析チューブ一式と金具を用いて設けた循環回路の場合、フロースパイク信号から鋸歯形状の減衰により以前のピーク流量レベルに戻るまでの時間は約7秒であり、この7秒間のフロー曲線スパイクの曲線下面積(積分値)は、約3.5mLの血液量に当たる。したがって、
図11に示すデータを生成するために透析チューブ一式と金具を用いて設けた循環回路の場合、例えば、最大7秒の積分時間幅と最大3.5mLの血液量の組などの、積分時間幅とこれに対応する曲線下面積の組をトリガ値として、血液量の積分結果に基づいて、体外血液循環回路100と患者の循環系30の間の途絶を確実に特定するように制御装置180を構成することができる。トリガ値は、最初の3秒間の積分値1mL、5秒間の積分値1.5mLなど、それぞれの血液治療デバイス及び付属チューブ一式に少なくとも一部依存する時間幅と体積の組とすることができることが企図されている。またこれに代えて、フロースパイクが閾値(又は、所定)レベルを上回っている時間(持続時間)を追跡するなど、追加的なパラメータを考慮してフロースパイクの評価を行うように制御装置180を構成することもできる。さらに、スパイク後の最初の1秒間又は数秒間の軌跡から、スパイクの指数的減衰の全体像を予測(推定)した上で、スパイクの曲線下面積全体を推定するように、制御装置180を構成することもできる。これにより、静脈注射針の抜針、アクセス-血液ライン間の分離、又は患者の健康に影響を及ぼすような他の途絶などの潜在的途絶に対して、比較的迅速に解析や応答を行うことが容易となる。流量スパイクから戻った後の血流量は、少なくとも部分的にはポンプ170の種類で決まると考えられる。
図11では、ポンプ170が定出力ローラポンプであるため、計測流量はスパイク開始前の計測値に近い値に戻る。ポンプ170が遠心ポンプである場合には、静脈注射針の抜針又はアクセス-血液ライン間の分離などの途絶が発生した後、途絶前よりも若干(例えば、所定割合(%)の範囲内だけ)高い流量に戻ると考えられる。スパイク後の流量の指数的減衰には、定流量ポンプ170とフローセンサの間の体外循環回路100などの構成要素の容積変化が関与していると考えられる。
【0081】
再び
図11を参照すると、スパイク及びその指数的減衰が生じている区間の曲線下面積は比較的小さく、約3.5mLに当たる。スパイクの最初の1秒間にフローセンサ156が感知した、平均的な流れを上回る血液量は、約0.7mL、すなわち約20滴分の血液に当たる。したがって、静脈注射針の抜針やアクセス-血液ライン間の分離などの途絶を検出するには、流れ応答帯域幅が5Hz又は10Hzである低ノイズ・高分解能のフローセンサが必要となる。なお、途絶が始まってから最初の1秒間(正方向のスパイクに続く最初の1秒間)に静脈ライン150の端部で漏出する血液の総量は、これを大幅に上回る、330mL/分×1/60=5.5mLにスパイク分の0.7mLを加えた量となることが確認されている。アクセス-血液ライン間の分離や静脈注射針の抜針などの途絶を監視する本手法は、フローセンサ156の高い流れ分解能とその流れ検出アルゴリズムを利用して、流れの変化を短時間で特定するものである。
【0082】
したがって、
図13に示すように、静脈ライン150の流量に、流量スパイクなどの非調波の変化が現れた場合、これが、体外血液循環回路100の途絶、特に静脈注射針の抜針又はアクセス-血液ライン間の分離に呼応したものである可能性があるため、かかる変化を利用して、ポンプ170からの血流を停止することができる。これにより、静脈ライン150に流量の非調波の増加又はスパイクが現れたことを利用して、体外血液循環回路100と患者の循環系30の間の途絶(特に、静脈注射針の抜針又はアクセス-血液ライン間の分離)を特定することが可能となる。
【0083】
具体的には、
図14を参照すると、体外循環回路(例えば、静脈ライン150)の平均流量などの流量を監視して、定期的に平均的な流れを更新するように、制御装置180を構成することができる。定期更新の周期は、10分の1秒から、1秒、2秒、3秒、5秒又はそれ以上までの範囲とすることができる。スパイクの検出は、時間の関数としての流量を平均流量と比較する(例えば、時間の関数としての最新流量から平均流量を減算する)ことにより行うことができる。現在の流量と平均流量の差に従って、スパイクを検出するか否かを判定することができる。流量スパイクが検出されなかった場合、制御装置180は、流量の監視と平均流量の更新を継続する。一方、スパイクが検出された場合、制御装置180は、スパイクの曲線下面積の計算、又は、既知の途絶に照らしたスパイクの形状特定を行うことができ、これにより、スパイクが、体外循環回路100と患者の循環系30の間の途絶(静脈注射針の抜針、アクセス-血液ライン間の分離など)に呼応したものか否かを判定することができる。
【0084】
静脈ライン150などの体外循環回路100に流量スパイクが現れたことを単独で利用することにより、又はこれを、流量データのスペクトル解析で特定した患者寄与(又は、流量データにおいて特定した患者寄与を示す高調波の少なくとも1つ)と組み合わせて利用することにより、体外循環回路100と患者の循環系30の間の途絶(特に、静脈注射針の抜針又はアクセス-血液ライン間の分離)をより確実に特定することができることが企図されている。
【0085】
したがって、体外循環回路の流量において特定した非調波、又はかかる流量データにおいて特定した患者寄与を示す高調波、又は非調波と患者寄与を示す高調波との組み合わせに基づいて、又はこれらのいずれかから、体外循環回路100と患者の循環系30の間の途絶、特に、静脈注射針の抜針又はアクセス-血液ライン間の分離を特定するように制御装置180を構成することができる。流量データにおける非調波の増加と患者寄与を示す高調波(の消失)を併用することにより、体外循環回路100と患者の循環系30の間の途絶、特に静脈注射針の抜針又はアクセス-血液ライン間の分離の誤判定率を低減することができると考えられる。
【0086】
さらに、体外循環回路100の流量の監視又は計測を、
図1に示す透析器などの血液治療デバイス130の透析液側302で行うことも企図されている。透析器130の血液側の圧力が上昇すると、透析器130の繊維内部の血液量が増加し、これを相殺するように、透析器130の筺体内部の透析器繊維を取り囲む透析液量が変化した結果、この透析液量が減少する。そのため、透析液流量から、体外循環回路100内の流量を特定できることが企図されている。逆に、透析器130内の流量に負方向のスパイクが生じると、透析器の繊維内部の液量が減少するため、この減少を相殺するように、透析器の筺体内部の透析器繊維を取り囲む透析液量が増加する。制御装置180は、透析器130に流入する透析液流量と透析器130から流出する透析液流量とを(例えば、透析液流入ライン320の流量を感知する透析液流入フローセンサ326と、透析液排出ライン330の流量を感知する透析液排出フローセンサ336とにより)同時に計測した結果から、減算により両計測値の差分を求めるステップと、透析液流にスパイクが記録されると、それ以降の所与の時間にわたって両計測値の差分を積分することにより透析液量の変化を導き出すステップとにより、透析液量の変化を監視することができる。さらに、透析液流入ライン320の透析液流は、ポンプ出口の圧力にほとんど依存しない出力流量を有するローラポンプなどのポンプ340によって生成されるものであるため、透析液流スパイクが透析液排出フローセンサ336により記録された時点以降の或る時間にわたって、透析液排出フローセンサ336が記録した透析器排出ライン流の変化を積分するだけという簡単なやり方で、透析器130の液量変化を計測できることも企図されている。透析液流量のスパイク及びそれに伴う液量変化の記録を単独で利用することにより、又はこれを、送血ライン150において特定した患者寄与を示す高調波、送血ライン150において特定した非調波、又はその両方と組み合わせて利用することにより、体外血液循環回路100と患者の循環系30との間の途絶(静脈注射針の抜針、アクセス-血液ライン間の分離など)を検出することができる。したがって、本開示は、血液治療デバイス130の透析液排出ライン330における透析液流の流量の非調波の減少に応じて、体外循環回路100の送血ラインと患者の循環系30との接続の途絶を特定することを企図している。制御装置180は、透析液排出フローセンサ336と、又はフローセンサ326及びフローセンサ336の双方と通信することができる。その場合、制御装置は、(i)少なくとも血液治療デバイス130から出る透析液の流量、又は血液治療デバイス130に出入りする透析液の流量における非調波の変化に少なくとも一部基づいて、体外循環回路100と患者の循環系30の間の途絶を検出するように構成される。
【0087】
上述したように、体外循環回路100は、血流と透析液流を隔てる半透膜を介して、溶質や水の移動が制御可能に生じるように構成された、透析器130などの血液治療回路とすることができるほか、体外式膜型人工肺(ECMO)などの体外生命維持装置とすることもできる。したがって、ECMO回路の場合、フローセンサ156は、送血ライン150の血流を感知して血流量スパイクを検出することができ、このスパイクを利用して、血流又は患者への返血の途絶を特定して、これに従い、体外循環回路100内のポンプ170の制御を行うことができる。
【0088】
従って、流量データは、流量のスパイク又は一時的増加などの非調波成分と、流量データにおける患者寄与分に由来する高調波成分とを含むことができ、制御装置180は、(i)流量における少なくとも1つの非調波成分、又は(ii)流量における少なくとも1つの高調波成分、又は(iii)流量における高調波成分と非調波成分の組合せ、に応じて、体外血液循環回路100の接続の途絶、特に、静脈注射針の抜針又はアクセス-血液ライン間の分離を特定するように構成される。
【0089】
選択的な構成では、体外循環回路100内、特に送血ライン150内の血流量における非調波の変化は、計測血流量又は局所的血流量の一時的な増加である。したがって、制御装置180は、最初の3秒間の積分値が少なくとも1mLであること、又は5秒間の積分値が少なくとも1.5mLであることなどの、それぞれの血液治療デバイス及び付属チューブ一式に少なくとも一部依存する体積と時間幅の組に対応する血流量の増加を特定するように構成することができ、これを利用して、体外血液循環回路100の途絶、特に静脈注射針の抜針又はアクセス-血液ライン間の分離を特定することができる。
【0090】
本システムは、体外循環回路100の静脈ライン150と患者の循環系30の間の(例えば、アクセスデバイス200などによる)途絶を特定するステップを含む方法を提供する。かかる途絶は、静脈ライン150及び透析器130うちの一方における圧力の変化、及び静脈ライン150及び透析器130うちの一方に関連する体積の段階的変化、又は静脈ライン150及び透析器130うちの一方と通る流量の変化を伴うものである。
【0091】
また、本システムは、体外循環回路100の静脈ライン150の計測流量における、下流の患者の生理機能に由来する少なくとも1つの患者寄与分を特定するステップと、体外循環回路100と循環系30の間の血管アクセスの途絶を特定するために、計測流量のスパイク発生に続く、患者寄与分の変化を監視するステップとを含むさらなる方法も提供する。監視するステップは、所定のレベル又は閾値に対する計測流量の変化率の監視、並びに計測流量における高調波として特定した波の有無の監視を含むことができる。
【0092】
本開示の方法は、静脈ライン150の流量を計測するステップと、静脈ラインに下流で接続されている循環系の生理的パラメータに対応する流量成分の変化に応じて、静脈ラインと患者の循環系30との接続の途絶を特定するステップとを含む。当該成分の変化は、静脈ライン150の計測流量のスペクトル解析結果においてこれに対応する変化が現れることにより検出することができる。したがって、当該成分の変化は、静脈ライン150の計測流量のスペクトル解析結果においてこれに対応する高調波の変化が現れることにより検出することができる。
【0093】
また、本開示の方法は、静脈ライン150の流量を計測するステップと、静脈ラインに下流で接続されている循環系のパラメータ(例えば、患者の平均血圧、心拍数、又は呼吸数など)に対応する流量成分の変化に応じて、静脈ラインと患者の循環系30との接続の途絶を特定するステップとをさらに含む。当該成分の変化は、静脈ライン150又は透析液ライン330の計測流量においてこれに対応する瞬間的変化が現れることにより検出することができる。したがって、当該成分の変化は、流量においてこれに対応する非調波スパイクの瞬間的変化が現れることにより検出することができ、計測流量において高調波パターンとして特定したパターンが消失することによりさらに検出することができる。
【0094】
したがって、一構成では、本開示は、体外循環回路100の体外血液治療デバイス130の監視を可能とするものである。体外循環回路は、患者動脈接続部を有する動脈ライン120及び患者静脈接続部を有する静脈ライン150と、透析器130、並びにこれに付属する、ポンプ340、透析液流入ライン320及び透析液排出ライン330を有する透析液回路310と、体外循環回路内に血液を搬送するためのポンプ170とを備えている。本方法は、体外循環回路100の静脈ライン150及び透析液排出ライン330のうちの少なくとも一方の流量を計測するステップと、計測流量において、下流の患者の生理的パラメータに呼応する少なくとも1つの患者寄与分を特定するステップと、計測流量に対する患者寄与分の変化に応答して、体外循環回路100と循環系30の間の流れの途絶の発生を判定するステップとを含む。患者寄与分の変化を特定するステップで行う計測流量のデータ解析は、平均的な流れ(平均流量)及び平均的な流れにおけるスパイクの計算と、平均的な流れにスパイクが発生した時点以降の所定時間にわたる平均的な流れにおける変化の積分により明らかにされる流量の計算と、下流の患者の生理機能に呼応する周波数を特定するためのスペクトル解析とを含むことができ、この特定により得られたフローパターンの変化を引き金に、アラーム通知又はポンプ170の停止を行うことができる。
【0095】
本開示は、体外循環回路100から患者の循環系30への流れに途絶が生じているかを判定する方法を提供するものである。かかる判定は、これに伴うスパイクを血液治療デバイス130からの透析液の流れにおいて特定することにより行われ、特に、当該スパイクが血液治療デバイスからの透析液の流れの減少に当たる場合に、より特定的には、血液治療デバイスからの透析液の流量のスパイクが、送血(静脈)ライン150の流量のスパイク、及び送血ラインの流れに対する患者寄与分の変化のうちの少なくとも1つを伴う場合に、途絶が生じていると判定される。したがって、本開示では、制御装置180は、透析液回路310内の透析液排出フローセンサ336に接続されるとともに、透析液流量のスパイク、特に透析液排出ライン330の透析液流量の減少スパイクに応じて途絶を特定するように構成されること、そして、静脈ライン150の流量の非調波、体外循環回路内の血流量の高調波、又はその両方を利用して途絶の特定又は確認を行うことができるように、制御装置を構成することができることが企図されている。
【0096】
本開示は、体外循環回路100から患者の循環系30への流れに途絶が生じているか、例えば、針又はカニューレが患者から外れたか、又は血液治療デバイス130の静脈注射針又は静脈カテーテル内腔との接続に切断などの途絶が生じているかなどを判定するシステム及び方法について記載するものである。すなわち、体外循環回路100から患者の循環系30への流れの途絶とは、ポンプ170より下流での体外循環回路内の流れの途絶を含むものである。例えば、かかる途絶としては、ポンプから静脈ライン150への流れの遮断、又は血液治療デバイス130から静脈ラインへの流れの遮断、並びに静脈ラインと患者アクセス間の遮断、又は患者アクセス200から循環系30への流れの遮断を挙げることができる。
【0097】
本システム及び方法の主な用途の1つが、患者から血液を取り出し、血液を治療し、治療した血液を患者に送り戻す血液治療である。上述したように、典型的な血液治療としては、血液透析(「HD」)システム、血液濾過(「HF」)システム、血液透析濾過(「HDF」)システム、持続的腎代替療法(「CRRT」)システムが挙げられ、いずれも、患者から血液を取り出し、血液を濾過した後に、患者に血液を送り戻すものである。ただし、本明細書に記載のアクセス断絶検出システム及び方法は、これらの血液治療に加えて、血液を患者から取り出し、酸素加してから患者に戻す心肺バイパス手術でも利用できることが理解される。さらに、本途絶検出法は、供給源から患者に薬剤を点滴する特定の種類の医薬送達システムなどの、単針システムでも利用することができる。またこれに加えて、本途絶検出法は、単針又は双針のアフェレシス療法などの、血液の分離や回収を行う(例えば、血小板、血漿、赤血球又は細胞亜集団を分離するための)システムで利用することもできる。
【0098】
したがって、本開示は、(a)体外循環回路100の送血ライン150の流量データにおける、下流の患者の生理機能に由来する患者寄与分を特定するステップと、(b)体外循環回路と患者の循環系30の間の流れの途絶を特定するために、患者寄与分を監視するステップとを含む方法を提供する。また、本方法は、途絶を特定すると警報又はアラームを発生させるステップをさらに含むこともできる。
【0099】
したがって、本開示は、(a)送血ライン150に流れをもたらすポンプ170を有する体外循環回路100における、送血ライン150の流れの流量データを取得するステップと、(b)流量データの非調波成分に応じて、体外循環回路と下流の患者の循環系30との接続の途絶を特定するステップとを含む方法を提供する。
【0100】
さらに、本開示は、体外循環回路100を備える体外血液治療装置を監視するための方法も提供する。体外循環回路は、患者動脈接続部を有する動脈ライン120及び患者静脈接続部を有する静脈ライン150と、体外循環回路内に血液を搬送するためのポンプ170とを有している。本方法は、(a)体外循環回路の静脈ラインの血流量データを感知するステップと、(b)感知した血流量データにおいて、下流の患者の生理的パラメータに呼応する患者寄与分を特定するステップと、(c)感知した血流量データに対する患者寄与分において特定された変化に応答して、体外循環回路と循環系30との接続の途絶を判定するステップとを含む。また、本方法は、途絶の発生を判定するステップの後に、アラームユニットの作動、ポンプ170の停止、又はその両方を行うための制御信号を生成するステップをさらに含むこともできる。
【0101】
以上、特に一実施形態を参照して、本開示を詳細に説明してきたが、本開示の趣旨及び範囲から逸脱しない範囲で変形及び変更を行うことができることが理解されるであろう。したがって、本明細書に開示の実施形態は、あらゆる点で例示的なものであり、限定を意図したものではない。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって示されるものであり、均等物の意味や範囲から逸脱しないすべての変更を本発明に包含することが意図されている。
【符号の説明】
【0102】
30 患者の循環系
100 体外循環回路、体外血液循環回路
110 患者の脱血部位
120 動脈ライン、脱血ライン
126 動脈フローセンサ
130 血液治療デバイス、透析器
150 静脈ライン、送血ライン
156 静脈フローセンサ
160 患者の送血部位
170 ポンプ
180 制御装置
200 アクセスデバイス、血管デバイス、患者アクセス
302 透析液側
310 透析液回路
320 透析液流入ライン
326 透析液流入フローセンサ
330 透析液排出ライン
336 透析液排出フローセンサ
340 ポンプ
【国際調査報告】