(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】多糖を含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/737 20060101AFI20240711BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240711BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240711BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20240711BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20240711BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240711BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240711BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240711BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240711BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240711BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240711BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240711BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20240711BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240711BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240711BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
A61K31/737
A61P35/00
A61K45/00
A61K9/107
A61K9/51
A61K47/18
A61K47/42
A61K47/36
A61K47/10
A61K47/26
A61K47/34
A61K47/32
A61K47/44
A61K47/12
A61K47/24
A61K47/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505210
(86)(22)【出願日】2022-07-27
(85)【翻訳文提出日】2024-03-21
(86)【国際出願番号】 CN2022108377
(87)【国際公開番号】W WO2023006003
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524033629
【氏名又は名称】ハン,ミエン-チエ
(71)【出願人】
【識別番号】524035173
【氏名又は名称】エバー シュプリーム バイオ テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン,チー-シェン
(72)【発明者】
【氏名】ジェン,ロン-ビン
(72)【発明者】
【氏名】シュー,ウォエイ-チャーン
(72)【発明者】
【氏名】ホアン,ボ-ジエ
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ミエン-チエ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076AA65
4C076AA95
4C076DD09
4C076DD41
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4C086MA22
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4C086NA05
4C086NA13
4C086ZB26
(57)【要約】
複合体を含む医薬組成物であって、複合体が多糖シェル及び疎水性コアを含む、医薬組成物。多糖シェルは両親媒性を有し、油-水界面を安定化してエマルション及びナノ沈殿ベースのナノ粒子を形成する。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖シェル及び疎水性コアを含む複合体であって、多糖シェルが硫酸化多糖及び硫酸化多糖に親和性を有する補完体を含み、疎水性コアが疎水性分子を含む、複合体。
【請求項2】
硫酸化多糖がフコイダンである、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
フコイダンのピーク分子量が10~200kDaの範囲であり、純度が約60%~約99%の範囲であり、及び/又は硫酸塩含有量が約15%~約40%の範囲である、請求項2に記載の複合体。
【請求項4】
補完体が、正電荷を持つ官能基を有する分子、疎水性ドメインを有する分子、アミン含有リガンドを有する分子、カルボン酸基を有する分子、及び酸素受容体を有する分子からなる群より選択される、請求項1に記載の複合体。
【請求項5】
硫酸化多糖中の負電荷の補完体中の正電荷に対する比が約1:0.05~約1:3の範囲である、請求項1に記載の複合体。
【請求項6】
補完体が水素結合により硫酸化多糖に結合する、請求項1に記載の複合体。
【請求項7】
補完体が、リシン又はその重合/共重合分子、アルギニン又はその重合/共重合分子、ヒスチジン又はその重合/共重合分子、及びグルタミン又はその重合/共重合分子、ゼイン、キトサン、プロタミン、ポリエチレンイミン、アミンポリエチレングリコール(PEG)、アミン末端ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、及びポリ(イプシロン-カプロラクトン)(PCL)、酸化デキストラン、ポリエチレングリコール(PEG)、化学修飾PEG、ポリデキストロース、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ポリ酢酸ビニル、Pluronic(登録商標)F68、Pluronic(登録商標)F123、Pluronic(登録商標)F127、ポリビニルアルコール、アルギン酸プロピレングリコール、及びp-セレクチン又はその修飾体からなる群より選択される、請求項1に記載の複合体。
【請求項8】
硫酸化多糖の、補完体に対するモル比が約1:0.005~約1:100の範囲である、請求項1に記載の複合体。
【請求項9】
疎水性コアが脂質、油、疎水性ポリマー、又はポリペプチドである、請求項1に記載の複合体。
【請求項10】
疎水性コアが、植物油、ラブラファック、大豆油、ヒマシ油、オリーブ油、ニオイクロタネソウ油、ニンニク油、エキウム油、綿実油、落花生油、ゴマ油、アニス油、シナモン油、ヤシ油、トウモロコシ油、PEG-60水添ヒマシ油、ポリオキシル35ヒマシ油、トリステアリン、ホスフェート脂質、卵リン脂質、ステアリン酸、レシチン、コレステロール、水添大豆ホスファチジルコリン、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホリルエタノールアミン(DSPE)、DSPE-PEG、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)、1,2-ジミリストイルrac-グリセロ-3(DMG)-PEG、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)、及びポリ-L-ロイシンからなる群より選択される、請求項9に記載の複合体。
【請求項11】
フコイダン、PLGA、及びリシンを含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項12】
フコイダンとPLGAとの間のモル比が約1:3~約1:25であり、及び/又はフコイダンとリシンとの間のモル比が約1:40~約1:160である、請求項11に記載の複合体。
【請求項13】
フコイダン、PLGA、リシン、及び大豆油を含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項14】
フコイダンとPLGAとの間のモル比が約1:3~約1:25であり、フコイダンとリシンとの間のモル比が約1:40~約1:160であり、及び/又はフコイダンと大豆油との間のモル比が約1:6~約1:26である、請求項13に記載の複合体。
【請求項15】
請求項1に記載の複合体及び治療薬を含む医薬組成物。
【請求項16】
医薬組成物がエマルション又はナノ沈殿したナノ粒子の形態である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
治療薬が複合体に封入されている、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
複合体の治療薬についての装填能力が約1%~約30%の範囲である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項19】
そのような治療を必要とする対象において疾患を治療するための薬剤の製造における、請求項15に記載の医薬組成物の使用。
【請求項20】
治療薬が抗がん剤であり、疾患が乳がん、リンパ腫、肺がん、膀胱がん、卵巣がん、及び膵臓がんからなる群より選択される、請求項19に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖の応用の分野に関する。特に、本発明は、多糖を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フコイダンは、抗菌活性、抗ウイルス活性、抗腫瘍活性、抗凝固活性、及び抗酸化活性を含む多数の生物活性を有する硫酸化多糖である。フコイダンはまた、p-セレクチンに対して高い親和性を示し、p-セレクチンを過剰発現した部位、例えば腫瘍又は不安定なアテローム性動脈硬化プラークに対して、治療化合物の標的化送達の可能性がある。しかしながら、投与後のフコイダンの保持時間は極めて短く、目的の部位での純粋な化合物の蓄積について障害がある。従って、フコイダンが生物活性を有するとしても、上述した蓄積の障害のために、その治療能力は限定される。
【0003】
設計された薬物送達システム(DDS)は、望ましい組織/器官での治療薬の標的化送達及び/又は放出制御のための技術である。多糖、例えばフコイダンは、他の反対の電荷を持つ分子との複合体の形成を可能にする。高分子電解質の複合体の形成は、フコイダンをベースとした粒子を得るために最も一般的に用いられる手法である。フコイダンと複合体を形成するために最も一般的に用いられる材料の1つは、キトサンである。正電荷を持つキトサンは、フコイダンと相互作用して自己集合又は多層のDDSを形成することができる。他の方法は、コアセルベーション、イオン架橋、自己集合、及び噴霧乾燥である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フコイダンをベースとした粒子が合成される場合があるとしても、フコイダンはエマルション又はナノ沈殿したナノ構造の水-油界面を安定化するために好ましい材料ではない。フコイダンの側鎖のほとんどは硫酸塩基で置換されているため、多糖構造は極めて親水性であり、水-油界面を安定化する両親媒性を欠いている。乳化及びナノ沈殿が医薬品業界において最も環境効率が良く成熟した技術であることを考慮すると、これらの問題を克服する技術を開発することが重要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様では、本発明は、多糖シェル及び疎水性コアを含む複合体であって、多糖シェルが硫酸化多糖及び硫酸化多糖に親和性を有する補完体を含み、疎水性コアが疎水性分子を含み、複合体が両親媒性を有して表面張力を低減し、特に多糖シェルと疎水性コアとの間の、水-油界面を安定化する、複合体を提供する。
【0006】
一態様では、本発明は、本明細書に記載された複合体を含む医薬組成物を提供する。
【0007】
一実施形態では、医薬組成物はエマルションをベースとしたナノ粒子である。1つの更なる実施形態では、ナノ粒子はナノ沈殿したナノ構造である。
【0008】
本発明の一部の実施形態では、硫酸化多糖はフコイダンである。
【0009】
本発明の一部の実施形態では、複合体はp-セレクチン又はその修飾体に対して親和性を有する。
【0010】
一実施形態では、本発明で用いたフコイダンのピーク分子量は10~200kDaの範囲である。フコイダンの具体的な実施形態としては、これらに限定されないが、ブラダーラック(Fucus vesiculosus)、オキナワモズク、オキナワモズク(Cladosiphon okamuranus Tokida)、アスコフィルムノドスム(Ascophyllum nodosum)、ヒバマタ(Fucus evanescens)、フクスセラノイデス(Fucus ceranoides)、フクスディスティクス(Fucus distichus)、フクスセラトゥス(Fucus serratus)、フクススピラリス(Fucus spiralis)、アスコフィルムマッカイ(Ascophyllum mackaii)、ペルベチアカナリクラタ(Pelvetia canaliculata)、エゾイシゲ(Silvetia babingtonii)、及びワカメ(Undaria pinnatifida)に由来するフコイダンを含む。
【0011】
一実施形態では、本発明で用いたフコイダンの純度は約60%~約99%、約65%~約95%、約70%~約90%、約75%~約85%、又は約70%~約80%の範囲である。
【0012】
一実施形態では、本発明で用いたフコイダンの硫酸塩含有量は約15%~約40%、約18%~約38%、約20%~約35%、約22%~約32%、又は約25%~約30%の範囲である。
【0013】
本発明の一部の実施形態では、本明細書に記載された補完体は正電荷を持つ官能基を有する。本発明の一部の実施形態では、補完体は正電荷を持つアミノ酸である。正電荷を持つアミノ酸の例は、これらに限定されないが、リシン又はその重合/共重合分子、アルギニン又はその重合/共重合分子、ヒスチジン又はその重合/共重合分子、及びグルタミン又はその重合/共重合分子を含む。本発明の一部の実施形態では、正電荷を持つ官能基を有する補完体は疎水性ドメインを更に含む。正電荷を持つ官能基及び疎水性ドメインを有する補完体の例は、これらに限定されないが、ゼイン、キトサン、プロタミン、又はポリエチレンイミンを含む。
【0014】
本発明の一部の実施形態では、硫酸化多糖の、正電荷を持つ官能基を有する補完体に対するモル比は約1:0.005~約1:200、約1:0.01~約1:180、約1:0.02~約1:160、約1:0.03~約1:140、約1:0.04~約1:120、約1:0.05~約1:100、約1:0.06~約1:80、約1:0.07~約1:60、約1:0.08~約1:50、約1:0.09~約1:20、約1:0.1~約1:10、約1:0.2~約1:8、約1:0.3~約1:7、約1:0.4~約1:6、約1:0.5~約1:5、約1:0.6~約1:6、約1:0.7~約1:5、約1:0.8~約1:4、約1:0.9~約1:3、又は約1:1~約1:2の範囲である。
【0015】
本発明の一部の実施形態では、電気的に安定な複合体を形成するために、硫酸化多糖中の負電荷の補完体中の正電荷に対する比は約1:0.05~約1:3、約1:0.06~約1:2.5、約1:0.07~約1:2、約1:0.08~約1:15、約1:0.09~約1:1、約1:0.1~約1:0.95、約1:0.2~約1:0.9、約1:0.3~約1:85、約1:0.4~約1:0.8、約1:0.5~約1:0.7、又は約1:0.6~約1:0.65の範囲である。
【0016】
本発明の一部の実施形態では、補完体は水素結合により硫酸化多糖に結合する。本発明の一部の実施形態では、補完体はアミン含有リガンド、カルボン酸基、又は酸素受容体を含む。水素結合により硫酸化多糖に結合する補完体の例は、これらに限定されないが、酸化デキストラン、ポリエチレングリコール(PEG)、化学修飾PEG、ポリデキストロース、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、PLURONIC(登録商標)F68、PLURONIC(登録商標)F123、PLURONIC(登録商標)F127、ポリビニルアルコール、及びアルギン酸プロピレングリコールを含む。化学修飾PEGの例は、これらに限定されないが、NH2-PEG又はCOOH-PEGを含む。
【0017】
本発明の一部の実施形態では、硫酸化多糖の、水素結合により硫酸化多糖に結合する補完体に対するモル比は約1:0.01~約1:100、約1:0.01~約1:90、約1:0.02~約1:80、約1:0.03~約1:70、約1:0.04~約1:60、約1:0.05~約1:50、約1:0.06~約1:40、約1:0.07~約1:30、約1:0.08~約1:20、約1:0.09~約1:10、約1:0.1~約1:9、約1:0.2~約1:8、約1:0.3~約1:7、約1:0.4~約1:6、約1:0.5~約1:5、約1:0.6~約1:6、約1:0.7~約1:5、約1:0.8~約1:4、約1:0.9~約1:3、又は約1:1~約1:2の範囲である。
【0018】
本発明の一部の実施形態では、本明細書に記載された補完体はp-セレクチン又はその修飾体である。
【0019】
本発明の一部の実施形態では、硫酸化多糖の、p-セレクチンとしての補完体に対するモル比は約1:0.1~約1:100、約1:0.5~約1:95、約1:1~約1:90、約1:5~約1:85、約1:10~約1:80、約1:15~約1:75、約1:20~約1:70、約1:25~約1:65、約1:30~約1:60、約1:35~約1:55、約1:40~約1:50の範囲である。
【0020】
本明細書に記載されたように、疎水性コアは含む。本発明の一部の実施形態では、疎水性コアは脂質、油、疎水性ポリマー、又はポリペプチドである。本発明の一実施形態では、疎水性コアは医薬組成物中に治療薬とともに共封入される。油の例は、これらに限定されないが、植物油、ラブラファック(labrafac)、大豆油、ヒマシ油、オリーブ油、ニオイクロタネソウ(Nigella sativa)油、ニンニク油、エキウム油、綿実油、落花生油、ゴマ油、アニス油、シナモン油、ヤシ油、トウモロコシ油、PEG-60水添ヒマシ油、及びポリオキシル35ヒマシ油を含む。
【0021】
一部の実施形態では、疎水性コアは1つ以上の種類の脂質を含む。脂質の例は、これらに限定されないが、非イオン性/イオン性の脂質、例えばトリステアリン、ホスフェート脂質、卵リン脂質、ステアリン酸、レシチン、コレステロール、水添大豆ホスファチジルコリン、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホリルエタノールアミン(DSPE)、DSPE-PEG、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)、及び1,2-ジミリストイルrac-グリセロ-3(DMG)-PEGを含む。
【0022】
一部の実施形態では、疎水性コアは1つ以上の種類の疎水性ポリマーを含む。疎水性ポリマーの例は、これらに限定されないが、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)を含む。
【0023】
一部の実施形態では、本明細書に記載された疎水性コアは複数種の材料を含む。本発明の一部の実施形態では、疎水性コアは脂質及び疎水性ポリマーを含む。
【0024】
一部の実施形態では、本明細書に記載された多糖シェルは複数種の補完体を含む。多糖シェルの例は、これらに限定されないが、フコイダン、PVA、及びリシンを含む複合体を含む。例えば、10mgのフコイダンに基づき、PVAの重量は約0.01mg~約2mg、0.05mg~約1.95mg、0.10mg~約1.90mg、0.15mg~約1.85mg、0.2mg~約1.8mg、0.25mg~約1.75mg、0.30mg~約1.70mg、0.35mg~約1.75mg、0.40mg~約1.70mg、0.45mg~約1.65mg、0.45mg~約1.65mg、0.50mg~約1.60mg、0.55mg~約1.55mg、0.60mg~約1.50mg、0.65mg~約1.55mg、0.70mg~約1.50mg、0.75mg~約1.45mg、0.80mg~約1.4mg、0.85mg~約1.35mg、0.9mg~約1.3mg、0.95mg~約1.25mg、1.0mg~約1.20mg、又は1.05mg~約1.15mgの範囲である。例えば、10mgのフコイダンに基づき、リシンの重量は約0.3mg~約5mg、約0.35mg~約4.95mg、約0.40mg~約4.90mg、約0.45mg~約4.85mg、約0.5mg~約4.8mg、約0.55mg~約4.75mg、約0.6mg~約4.7mg、約0.65mg~約4.65mg、約0.70mg~約4.60mg、約0.70mg~約4.55mg、約0.75mg~約4.5mg、約0.80mg~約4.45mg、約0.85mg~約4.40mg、約0.90mg~約4.45mg、約0.95mg~約4.50mg、約1.0mg~約4.45mg、約1.5mg~約4.4mg、約2.0mg~約4.3mg、約2.5mg~約4mg、又は約3.0mg~約4mgの範囲である。
【0025】
本発明の一実施形態では、複合体はフコイダン、PLGA、及びリシンを含む。本発明の一部の実施形態では、フコイダンとPLGAとの間のモル比は約1:3~約1:25、約1:4~約1:24、約1:5~約1:23、約1:6~約1:22、約1:7~約1:21、約1:8~約1:20、約1:9~約1:19、約1:10~約1:18、約1:11~約1:17、約1:12~約1:16、約1:13~約1:17、約1:14~約1:16、又は約1:15である。本発明の一部の実施形態では、フコイダンとリシンの間のモル比は約1:40~約1:160、約1:50~約1:150、約1:60~約1:140、約1:70~約1:130、約1:80~約1:120、約1:90~約1:110、又は約1:100~約1:105である。本発明の一部の実施形態では、フコイダン、PLGA、及びリシンを含む複合体は更に大豆油を含む。本発明の一部の実施形態では、フコイダンと大豆油との間のモル比は約1:6~約1:26、約1:7~約1:25、約1:8~約1:24、約1:9~約1:23、約1:10~約1:22、約1:11~約1:21、約1:12~約1:20、約1:13~約1:19、約1:14~約1:18、約1:15~約1:17、又は約1:16である。
【0026】
一部の実施形態では、医薬組成物は治療薬を更に含む。本発明の一実施形態では、治療薬は複合体に封入されている。治療薬の例は、これらに限定されないが、抗がん剤、抗炎症薬、脳卒中薬物療法のための薬、免疫調節薬、核酸分子、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗凝固薬、又は抗酸化薬を含む。
【0027】
抗がん剤の例は、これらに限定されないが、ブレオマイシン、シスプラチン、カルボプラチン、シタラビン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、イリノテカン、リュープロレリン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、トポテカン、ビノレルビン、又はビンブラスチンを含む。
【0028】
抗炎症薬の例は、これらに限定されないが、イブプロフェン、ナプロキセンナトリウム、ジクロフェナクカリウム、セレコキシブ、スリンダク、オキサプロジン、ピロキシカム、又はインドメタシンを含む。
【0029】
脳卒中薬物療法のための薬の例は、これらに限定されないが、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、ワルファリン、クロピドグレル、アスピリン、アトルバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、又はシンバスタチンを含む。
【0030】
免疫調節薬の例は、これらに限定されないが、サイトカイン、サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミド、又はイミキモドを含む。
【0031】
核酸の例は、これらに限定されないが、プラスミドDNA、メッセンジャーRNA(mRNA)、RNAインヒビター(RNAi)、低分子干渉RNA(siRNA)、アプタマー、又はマイクロRNAを含む。本発明の一部の実施形態では、核酸はプラスミドDNA、siRNA、又はアプタマーである。
【0032】
本発明の一部の実施形態では、複合体の治療薬についての装填能力は約1%~約30%、約2%~約28%、約3%~約26%、約4%~約24%、約6%~約22%、約8%~約20%、約10%~約18%、約12%~約16%、約12%~約15%、又は約12%~約14%の範囲である。
【0033】
本発明の一部の実施形態では、医薬組成物は、腫瘍微小環境内においてCD62P(p-セレクチン)を標的とする能力を示し、CD62P陽性のがんの種類、例えば乳がん、リンパ腫、肺がん、膀胱がん、卵巣がん、及び膵臓がんにおいて封入された治療薬の治療効果を改善する。
【0034】
本発明はまた、対象に本明細書に記載された医薬組成物を投与する工程を含む、そのような治療を必要とする対象において疾患を治療する方法を提供する。
【0035】
本発明はまた、そのような治療を必要とする対象において疾患を治療するための薬剤の製造における、本明細書に記載された医薬組成物の使用を提供する。
【0036】
本発明の一部の実施形態では、治療薬は抗がん剤であり、疾患は乳がん、リンパ腫、肺がん、膀胱がん、卵巣がん、及び膵臓がんからなる群より選択される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】実施例1のフコイダン、リシン、及びPLGA並びにドセタキセルを含む医薬組成物の粒径を示す図である。
【
図2】フコイダン、リシン、PLGA、及びドセタキセルを含む実施例3の医薬組成物のコロイド安定性を示す図である。
【
図3A】実施例1に記載のフコイダンをベースとしたDDSが、4T1-3を有するマウスの生存率の中央値を引き延ばすことを示す図である。
【
図3B】実施例1に記載のフコイダンをベースとしたDDSが、SKOV-3を有するマウスの生存率の中央値を引き延ばすことを示す図である。
【
図4】フコイダン、リシン、大豆油、PLGA、及びドセタキセルを含む実施例4の医薬組成物の粒径を示す図である。
【
図5】フコイダン、リシン、大豆油、PLGA、及びドセタキセルを含む実施例4の医薬組成物の安定性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
別段の規定がなければ、本明細書で用いられる全ての科学用語又は専門用語は、本発明が属する分野の当業者に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと同様又は同等のあらゆる方法及び材料が、本発明を実施するために当業者に理解され、用いられうる。
【0039】
別段の指示がなければ、明細書及び請求項で用いられる成分の量、反応条件等を表す全ての数は、用語「約」によっていかなる場合も修飾されることが理解される。従って、反対の指示がなければ、本発明の明細書及び請求項に示された数値パラメーターは概算であり、本発明により得ようとされる望ましい特性に応じて変化しうる。
【0040】
本明細書で用いられる専門用語は、特定の実施形態について記載することを目的とするものに過ぎず、限定することを意図されない。本明細書で用いられるように、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、内容が明らかに別のことを示さない限り、「少なくとも1つ」を含む複数形を含むことを意図される。用語「含む(comprises)」及び/若しくは「含む(comprising)」、又は「含む(includes)」及び/若しくは「含む(including)」は、本明細書で用いられる場合、規定された特徴、領域、整数、工程、操作、要素、及び/若しくは成分の存在を規定するが、1つ以上の他の特徴、領域、整数、工程、操作、要素、成分、及び/若しくはそれらの群の存在又は追加を除外しないことが更に理解される。
【0041】
本明細書で用いられる場合、「約」は、規定された値を含めたものであり、対象になっている測定及び特定の量の測定に関連する誤差(即ち、測定系の限界)を考慮して、当業者により決定された特定の値の偏差の許容可能な範囲内を意味する。例えば、「約」は、規定された値の1以上の標準偏差内、又は±30%、20%、10%、若しくは5%以内を意味しうる。
【0042】
本発明で用いられる場合、用語「医薬組成物」は、哺乳動物が罹患している特定の疾患又は病状を予防、治療、又は除去するために哺乳動物、例えばヒトに投与される、治療薬を含む混合物を意味する。
【0043】
本明細書で用いられる場合、用語「複合体」は、異なる物理的又は化学的特性を有する2つ以上の材料を含む材料を言い、ここで、複合体は、複合体を構成する個々の材料とは異なる特性を有し、個々の材料は、複合体の最終的な構造において互いに巨視的に又は微視的に分離され、区別可能である。
【0044】
本明細書で用いられる場合、用語「両親媒性」は、疎水性部位及び親水性部位の両方を有する1つの物質の特性を言う。例えば、媒体が水の場合、両親媒性を有する物質はミセル粒子を形成し、その粒子を観察することができる。本発明の一部の実施形態では、両親媒性を有する分子は表面張力を低減して水-油界面を安定化することができる。
【0045】
本明細書で用いられる場合、用語「親和性」は、2つの分子間の結合相互作用の強さを言う。通常、結合親和性は、分子とその結合パートナーとの間の非共有結合性相互作用の合計の強さを言う。
【0046】
本明細書で用いられる場合、用語「装填能力」は、医薬組成物全体に対する医薬組成物に装填した治療薬の比を言う。
【0047】
本明細書で用いられる場合、用語「治療する」又は「治療」は、そのような用語が適用される障害、疾患、若しくは状態、又はそのような障害、疾患、若しくは状態の1つ以上の症状を覆し、軽減し、その進行を抑制し、又は改善することを意味する。
【0048】
本発明で用いられる場合、用語「治療薬」は、哺乳動物、例えばヒトへの投与に適切な治療効果又は薬理効果を有するあらゆる化合物、物質、薬物、薬物成分又は活性成分を意味する。
【0049】
本明細書で用いられる場合、用語「対象」は、開示された組成物で治療される可能性のあるあらゆる哺乳動物を言う。対象は脊椎動物、例えば哺乳動物でありうる。一部の実施形態では、対象は、例えば、ヒト、霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、げっ歯動物、例えばラット又はマウス等である。典型的には、対象はヒトでありうる。対象は症状を示しても示さなくてもよい。本用語は特定の年齢又は性別を意味しない。従って、雄であろうと雌であろうと、成体及び生まれたばかりの対象に及ぶことが意図される。対象は、対照となる対象又は試験対象を含みうる。
【0050】
本明細書で用いられる場合、用語「治療を必要とする」は、対象が治療を必要とする、又は対象が介護者から治療により利益を得るという、介護者(例えば、ヒトの場合は医師、看護師、ナースプラクティショナー、又は個人、非ヒト哺乳動物を含む動物の場合は獣医師)によりなされる判断を言う。この判断は、介護者の専門知識の領域である様々な因子に基づいてなされるが、本発明の化合物により治療可能な状態の結果として対象が病気である又は病気になるという認識を含む。
【0051】
本明細書で用いられる場合、「多糖」は、天然に存在する完全長の多糖分子、完全長の多糖分子の加水分解生成物(単糖種、オリゴ糖種及び多糖種を含む)のあらゆる組み合わせの混合物、完全長の多糖分子若しくはその加水分解生成物のあらゆる化学修飾若しくは官能化した誘導体、又はそれらのあらゆる組み合わせを言うことができる。多糖は直鎖状であっても分岐状であってもよく、単一の化学種であっても関連する化学種(例えば、同じ基本単糖単位を有するが繰り返し数の異なる分子)の混合物であってもよい。本明細書で用いられる場合、「硫酸化多糖」は、少なくとも1つの単糖が硫酸塩基で置換されている多糖を言う。一実施形態では、硫酸化多糖は、少なくとも1つの糖環が硫酸塩基で置換されている多糖である。
【0052】
硫酸化多糖であるフコイダンは、複数の生物学的効果を有する。フコイダンはまた、高い生体適合性を有する。従って、フコイダンは、薬物送達を改善するためのDDSの構成要素として用いられている。しかしながら、フコイダンは両親媒性を欠いており、そのため水中油型(O/W)又は油中水型(W/O)の界面を安定化するためには好ましくない界面活性剤となっている。フコイダンの構造は主にα-フコース残基を含み、一方でこのバイオポリマーの負電荷は、C-2位及びC-4位、並びに時としてC-3位で主に置換された硫酸塩基の存在に由来する。フコイダンの分子構造の化学修飾は、両親媒性の改善を実証している。しかしながら、ひとたび分子構造が変化すると、生物学的機能、例えばp-セレクチン標的化及び免疫調節効果は損なわれる。従って、フコイダンを用いてその生物学的機能を損なうことなく油-水界面を安定化する新たな戦略が緊急に必要とされる。本発明の一部の実施形態では、フコイダンは化学修飾されない。
【0053】
本発明の一部の実施形態では、フコイダンは、ブラダーラック、オキナワモズク、オキナワモズク、アスコフィルムノドスム、ヒバマタ、フクスセラノイデス、フクスディスティクス、フクスセラトゥス、フクススピラリス、アスコフィルムマッカイ、ペルベチアカナリクラタ、エゾイシゲ、及びワカメにより生成され、有機体の培養物から精製又は部分的に精製されうる。本発明の一部の実施形態では、フコイダンのピーク分子量は10kDa~200kDa、20kDa~180kDa、30kDa~160kDa、40kDa~140kDa、50kDa~120kDa、60kDa~100kDa、80kDa~90kDaの範囲である。
【0054】
フコイダンの純度は変動しうる。一実施形態では、フコイダンの純度は約60%~約99%、約65%~約95%、約70%~約90%、約75%~約85%、又は約70%~約80%の範囲である。
【0055】
理論に縛られることは望まないが、硫酸化多糖の硫酸塩含有量が本発明による複合体において役割を果たしうると考えられる。一実施形態では、フコイダンの硫酸塩含有量は約15%~約40%、約18%~約38%、約20%~約35%、約22%~約32%、又は約25%~約30%の範囲である。
【0056】
従って、本発明は、多糖シェル及び疎水性コアを含む複合体を含む医薬組成物であって、多糖シェルが硫酸化多糖及び硫酸化多糖に親和性を有する補完体を含み、疎水性コアが1つ又は複数の疎水性分子を含む、医薬組成物を提供する。
【0057】
本発明はまた、対象に本明細書に記載された医薬組成物を投与する工程を含む、そのような治療を必要とする対象において疾患を治療する方法を提供する。
【0058】
本明細書で用いられる補完体は、硫酸化多糖、例えばフコイダンに対して高い親和性を有し、本明細書に記載された複合体を形成することのできる物質を言う。硫酸化多糖と補完体との間の複合体の形成は、硫酸化多糖の生理学的特性を調節することができ、それにより更に油-水界面を安定化する能力を複合体に与える。更に、硫酸化多糖と補完体との間の複合体の形成は、硫酸化多糖の分子構造を変化させず、それにより理論上は硫酸化多糖の生物学的機能を損なわない。よって、本戦略は、均一なサイズ分布の安定的な薬物送達システムを形成する可能性を示し、一方で抗菌活性、抗ウイルス活性、抗腫瘍活性、抗凝固活性、抗酸化活性、及びp-セレクチン標的化能を含むフコイダンの生物学的機能を保持するか又は強化しさえする。従って、本来の治療特性を促進することにより、硫酸化多糖をベースとした薬物送達システムは、薬物を患部に送達し、更に治療効果を強める能力を有する。
【0059】
補完体を用いることにより、複合体は油-水界面を安定化することができる。従って、医薬組成物は、エマルションをベースとした又はナノ沈殿したナノ粒子であることができる。
【0060】
本明細書に開示された補完体は、硫酸化多糖に対して物理的、化学的、又は生物学的に補完的であり、補完体は、生物学的効果を損なうことなく界面を安定化するために硫酸化多糖と複合体を形成することができる。補完体と複合体を形成することにより、硫酸化多糖をベースとしたDDSを単純な乳化プロセスにより形成し、改善した安定性及びより広範な適用を得ることができる。
【0061】
補完体は、物理的、化学的、又は生物学的な相互作用力により硫酸化多糖に対して高い親和性を示す、小分子、タンパク質、ポリマー、又はそれらの組み合わせの形態でありうる。一態様では、補完体はまた、疎水性ドメインを有する。従って、補完体が一定範囲の比、及び一定の規定されたpH値で硫酸化多糖と混合された場合、複合体の形成は、両親媒性の能力を与えて界面を安定化する。従って、補完体は、親水性の硫酸化多糖を単独で用いることの弱点を補うことができる。エマルション又はナノ沈殿の処理において、異なる相の溶液を混合して均一な溶液にするには、通常、せん断応力が存在することに注意する。補完体及び硫酸化多糖とのその相互作用力は、せん断応力より高い必要があり、それにより硫酸化多糖-補完体の複合体の形成は、乳化時にそれらを互いに引き裂くことなく界面の安定化を促進することができる。
【0062】
補完体の例は、これらに限定されないが、物理的補完体、化学的補完体、又は生物学的補完体を含む。
【0063】
物理的補完体において適用される物理的な力の例は、これらに限定されないが、静電相互作用又は疎水性相互作用を含む。
【0064】
硫酸化多糖は硫酸塩を含むことで、強い負電荷を持つ分子となる。正電荷及び任意に疎水性ドメインを含む塩基性の補完体は、硫酸化多糖と相互作用して複合体を形成するための好ましい選択肢である。リシン、アルギニン、ヒスチジン、グルタミン、及びそれらの重合/共重合分子を含む正電荷を持つアミノ酸は、静電力により硫酸化多糖と複合体を形成してO/W界面及びW/O界面を安定化し、乳化後により小さい粒径を与えることができる。正電荷を持つ官能基を疎水性ドメインとともに含む、ゼイン、キトサン、プロタミン、ポリエチレンイミン(PEI)、アミンポリエチレングリコール(PEG)、アミン末端ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、及びポリ(イプシロン-カプロラクトン)(PCL)並びに他の材料/分子もまた、硫酸化多糖のための補完体としての役割を果たし、複合体を形成して粒子界面を安定化することができる。
【0065】
本発明の一部の実施形態では、O/W界面及びW/O界面を安定化して安定な製剤となることのできるフコイダンとリシンとの間のモル比の範囲は約1:10~約1:160であり、フコイダンとアルギニンとの間のモル比の範囲は約1:0.005~約1:5であり、フコイダンとヒスチジンとの間のモル比の範囲は約1:0.005~約1:5であり、フコイダンとグルタミンとの間のモル比の範囲は約1:0.005~約1:5であり、フコイダンとゼインとの間のモル比の範囲は約1:0.002~約1:10であり、フコイダンとキトサンとの間のモル比の範囲は約1:0.05~約1:50であり、フコイダンとプロタミンとの間のモル比の範囲は約1:0.02~約1:100であり、フコイダンとポリエチレンイミンとの間のモル比の範囲は約1:0.01~約1:100である。
【0066】
本発明の一部の実施形態では、硫酸化多糖中の負電荷と補完体中の正電荷の比は約1:0.05~約1:3である。
【0067】
本発明の一実施形態では、水素結合は化学的補完体に適用される。硫酸化多糖には豊富に水酸基が存在し、同時に2つの種類の水素結合を形成する、水素結合の供与体部位及び受容体部位の両方を有する。従って、硫酸化多糖と、水素結合の供与体部位及び受容体部位を含む多種多様な材料/分子との間では、水素結合が容易に形成することができる。例えば、硫酸化多糖は、アミン含有リガンド/分子(即ち、水素供与体)とともにO-H・・・:Nを形成することができる。硫酸化多糖はまた、受容体原子、例えばカルボン酸及び酸素受容体を含む他の分子とともにO-H・・・:Oを形成することができる。水素結合は比較的弱く、従って、硫酸化多糖が、一定の比で水素結合の供与体若しくは受容体又はそれらの組み合わせとともに複合体を形成し、分子間の十分な力を生む場合のみ、化学的補完体は硫酸化多糖に付着し、水-油界面の安定化に寄与することができることは留意される。水素供与体又は水素受容体を有する分子、例えば酸化デキストラン、ポリエチレングリコール(PEG)、化学修飾PEG、ポリデキストロース、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、Pluronic(登録商標)F68、Pluronic(登録商標)F123、Pluronic(登録商標)F127、ポリビニルアルコール、及びアルギン酸プロピレングリコールは、フコイダンと複合体を形成してO/W界面及びW/O界面を安定化する可能性がある。
【0068】
生物学的補完体について、フコイダンは、ヒトのSELP遺伝子によりエンコードされる1型膜貫通タンパクであるP-セレクチン又はその修飾体のリガンドであることが知られている。タンパク質としてのp-セレクチンは、その構造に疎水性ドメインを有する。フコイダンとp-セレクチンとの間には高い親和性が存在し、従って、それらの複合体の形成は、油-水界面を安定化する両親媒性材料となりうる。同様に、フコイダンは、セレクチンに対していくらかの親和性を有するため、それらの間の生物学的相互作用が複合体を形成し、油-水界面を安定化することができると予測される。P-セレクチンは、更に化学修飾して、疎水性側鎖の部分を増加させるか又は官能基を与えることができる。P-セレクチンの修飾は、フコイダンとのより強力な相互作用をもたらし、標的リガンド又は標的分子の固定のための架橋点を提供する。フコイダンとP-セレクチン、又はフコイダンと化学修飾したP-セレクチンの複合体の形成は、O/W界面及びW/O界面を安定化する可能性がある。
【0069】
上述した材料/分子を用いて硫酸化多糖との複合体を形成することができ、界面の安定化において更なる効果又は相乗効果までもが得られ、調節可能な大きさ及び構造を有するナノ粒子/マイクロ粒子が形成される。
【0070】
例えば、異なる種類の補完体としてPVA及びリシンを用い、同時にフコイダンとの複合体を形成した。乳化後、形成したナノ粒子は、より小さい大きさ(即ち、よりぎっしり詰まった)、より均一なサイズ分布、及びより高い水性コロイド安定性を示した。従って、異なる種類の補完体を一定の比で硫酸化多糖と組み合わせて、O/W界面及びW/O界面を安定化して必要な粒子径を形成する能力を最適化するために組成物を形成することができる。O/W界面及びW/O界面の安定化を得ることのできる硫酸化多糖と異なる種類の補完体との重量比は、補完体の種類及び数、並びにそれらの相対組成によって変化する。例えば、硫酸化多糖のPVA及びリシンとの複合体の形成は、O/W界面及びW/O界面を安定化することができる。例えば、10mgのフコイダンに基づき、PVAの重量は約0.01mg~約2mgの範囲である。例えば、10mgのフコイダンに基づき、リシンの重量は約0.3mg~約5mgの範囲である。
【0071】
本発明の一実施形態では、複合体はフコイダン、PLGA、及びリシンを含む。本発明の一部の実施形態では、フコイダンとPLGAとの間のモル比は約1:3~約1:25、特に約1:3.04~約1:22.8である。本発明の一部の実施形態では、フコイダンとリシンとの間のモル比は約1:40~約1:160、特に約1:38.94~約1:160である。本発明の一部の実施形態では、フコイダン、PLGA、及びリシンを含む複合体は更に大豆油を含む。本発明の一部の実施形態では、フコイダンと大豆油との間のモル比は約1:6~約1:26、特に約1:6.49~約1:26である。
【0072】
本明細書に記載されたように、疎水性コアは治療薬を含む。本発明の一部の実施形態では、疎水性コアは脂質又は疎水性ポリマーである。理論に縛られることは望まないが、組成物への脂質の添加により、エマルションが、向上した表面特性、改善した薬物送達、及び望ましい細胞/組織への向上した細胞取り込みを示すと考えられる。
【0073】
本発明の一部の実施形態では、疎水性コアは油を含む。本発明の一実施形態では、疎水性コアは医薬組成物中に治療薬とともに共封入される。理論に縛られることは望まないが、組成物への油の添加により、治療薬をより高い効率で装填することができると考えられる。油の例は、これらに限定されないが、植物油、ラブラファック、大豆油、ヒマシ油、オリーブ油、ニオイクロタネソウ油、ニンニク油、エキウム油、綿実油、落花生油、ゴマ油、アニス油、シナモン油、ヤシ油、トウモロコシ油、PEG-60水添ヒマシ油、及びポリオキシル35ヒマシ油を含む。
【0074】
一部の実施形態では、疎水性コアは1つ以上の種類の脂質を含む。脂質の例は、これらに限定されないが、非イオン性/イオン性の脂質、例えばトリステアリン、ホスフェート脂質、卵リン脂質、ステアリン酸、レシチン、コレステロール、水添大豆ホスファチジルコリン、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホリルエタノールアミン(DSPE)、DSPE-PEG、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)、及び1,2-ジミリストイルrac-グリセロ-3(DMG)-PEGを含む。
【0075】
一部の実施形態では、疎水性コアは1つ以上の種類の疎水性ポリマー又はポリペプチドを含む。疎水性ポリマーの例は、これらに限定されないが、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)及びポリ-L-ロイシンを含む。
【0076】
一部の実施形態では、本明細書に記載された疎水性コアは複数種の材料を含む。本発明の一部の実施形態では、疎水性コアは脂質及び疎水性ポリマーを含む。
【0077】
硫酸化多糖をベースとしたDDSは、薬物を運び、それらの薬物動態挙動を変化させ、薬物の生体内分布を改善し、更に治療効果を改善することができる。従って、本明細書に記載された医薬組成物は、1つ以上の治療薬を更に含む。本発明の一実施形態では、治療薬は複合体に封入されている。フコイダン-補完体製剤に組み込むことのできる治療薬の例は、抗がん剤(例えばブレオマイシン、シスプラチン、カルボプラチン、シタラビン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、イリノテカン、リュープロレリン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、トポテカン、ビノレルビン、ビンブラスチン)、抗炎症薬(例えばイブプロフェン、ナプロキセンナトリウム、ジクロフェナクカリウム、セレコキシブ、スリンダク、オキサプロジン、ピロキシカム、インドメタシン)、脳卒中薬物療法のための薬(例えば組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、ワルファリン、クロピドグレル、アスピリン、アトルバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン)、免疫調節薬(例えばサイトカイン、サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミド、及びイミキモド)、メッセンジャーRNA(mRNA)、RNAインヒビター(RNAi)、又はマイクロRNAを含む。
【0078】
本発明を実施する際に当業者を助けるために下記の実施例が提供される。
【実施例】
【0079】
[実施例1]
静電補完体を含む多糖シェルを含む複合体
【0080】
静電補完体を含む多糖シェル及び疎水性PLGAコアを有するエマルションの粒径を、動的光散乱(DLS)を用いて分析し、表1に示した。
【0081】
【0082】
リシン、アルギニン、ヒスチジン、グルタミン、及びそれらの重合分子を含む正電荷を持つアミノ酸は、静電力により硫酸化多糖と複合体を形成してO/W界面及びW/O界面を安定化し、乳化後により小さい粒径を与えることが示された。
【0083】
更に、エマルション又はナノ沈殿を形成するのに適切なフコイダンのリシン分子に対する比を表2に示す。
【0084】
【0085】
[実施例2]
異なる種類の補完体を含む多糖シェルを含む複合体
【0086】
異なる種類の補完体を含む多糖シェル及び疎水性PLGAコアを有するエマルションの粒径を、動的光散乱(DLS)を用いて分析し、表3に示した。
【0087】
【0088】
[実施例3]
複合体及び治療薬を含む医薬組成物
【0089】
フコイダン、及びPLGAを含む疎水性コアに対するO/W界面を安定化するリシンを含む多糖シェルを含む複合体は、フコイダンをベースとしたDDSにドセタキセルを封入することができる。ドセタキセルの装填能力は約15%~約50%に達しうる。DLSを用いてエマルションの粒径を分析し、
図1に示した。
【0090】
実施例1に記載のフコイダンをベースとしたDDSは、少なくとも2週間、室温で沈殿することなくコロイド状で存在することができた。DLSを用いて安定性を観察し、結果を
図2に示す。
【0091】
実施例1に記載のフコイダンをベースとしたDDSは、トリプルネガティブ乳がん細胞株(MDA-MB-231及び4T1)及び膵臓がん細胞株(CFPAC-1)において、非製剤化DTXと比較してより強力な細胞毒性を示した。IC50の結果を表4に示す。
【0092】
【0093】
実施例1に記載のフコイダンをベースとしたDDSは、同種の4T1を有するトリプルネガティブ乳がん動物モデル及びSKOV3卵巣がん動物モデルにおいて改善した治療効果を示し、
図3A及び3Bに示すようにドセタキセルと比較した場合に生存率の中央値を引き延ばした。
【0094】
[実施例4]
複合体及び治療薬を含む医薬組成物
【0095】
フコイダン、並びにPLGA及び大豆油を含む疎水性コアに対するO/W界面を安定化するリシンを含む多糖シェルを含む複合体は、フコイダンをベースとしたDDSにドセタキセルを封入することができる。ドセタキセルの装填能力は約15%~約45%に達しうる。DLSを用いてエマルションの粒径を分析し、
図4に示した。
【0096】
フコイダンをベースとしたDDSは、少なくとも2週間、室温で沈殿することなくコロイド状で存在することができた。DLSを用いて安定性を観察し、結果を
図5に示す。
【0097】
フコイダンをベースとしたDDSは、トリプルネガティブ乳がん細胞株(MDA-MB-231及び4T1)、膵臓がん細胞株(CFPAC-1及びBxPC3)及び卵巣がん細胞株(SKOV3)において、非製剤化DTXと比較してより強力な細胞毒性を示した。IC50の結果を表5に示す。
【0098】
【0099】
本発明の例となる実施形態の上述した記載は、解説及び説明する目的のためのみに示されており、網羅的であること又は本発明を開示された正確な形態に限定することを意図されない。上記の教示に照らして、多くの改変及び変形が可能である。
【国際調査報告】