(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】以前の免疫から逃れるように進化する変異体を含むウイルス感染症を治療するための複数のウイルスエピトープに対するCD3+CD8+細胞を開発するための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20240711BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240711BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240711BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240711BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C12N5/0783 ZNA
A61K35/17
A61P31/12
A61P31/14
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505312
(86)(22)【出願日】2022-07-29
(85)【翻訳文提出日】2024-01-29
(86)【国際出願番号】 US2022038749
(87)【国際公開番号】W WO2023009770
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523218441
【氏名又は名称】テヴォジェン バイオ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】サアディ, ライアン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AC20
4B065BA24
4B065BA30
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4B065CA44
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB331
4C084ZB332
4C087AA01
4C087AA02
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4C087BB37
4C087DA31
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB33
(57)【要約】
本明細書では、出現したウイルス株に対するペプチド特異的細胞傷害性T細胞(CTL)を調製する方法が開示される。この方法は、以前のCTLが感作されたウイルスの以前の株に特異的な初期ペプチド組成物を提供することであって、以前のCTLが、ウイルスの以前の株に対する効力と比較して、出現したウイルス株に対する効力が低下している、ことと、初期ペプチド組成物中の、ウイルスの以前の株に対する免疫優性ペプチドを同定することと、初期ペプチド組成物中の免疫優性ペプチドの割合を減少させて、免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物を得ることと、免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物で単核細胞を感作し、それによって出現したウイルス株に対するペプチド特異的CTLの増殖を生じさせることとを含む。ウイルスはSARS-COV2(COVID-19)であることができ、出現した株はデルタまたはオミクロンBA.2.75であることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出現したウイルス株に対するペプチド特異的細胞傷害性T細胞(CTL)を調製する方法であって、
a.以前のCTLが感作された前記ウイルスの以前の株に特異的な初期ペプチド組成物を提供することであって、前記以前のCTLが、前記ウイルスの以前の株に対する効力と比較して、前記出現したウイルス株に対する効力が低下している、前記提供することと、
b.前記初期ペプチド組成物中の、前記ウイルスの以前の株に対する免疫優性ペプチドを同定することと、
c.前記初期ペプチド組成物中の前記免疫優性ペプチドの割合を減少させて、免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物を得ることと、
d.前記免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物で単核細胞を感作し、それによって前記出現したウイルス株に対するペプチド特異的CTLの増殖を生じさせることとを含む、前記方法。
【請求項2】
前記免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物中の前記免疫優性ペプチドの割合が少なくとも30%であるか、または前記初期ペプチド組成物中の前記免疫優性ペプチドの割合未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記免疫優性ペプチドが、前記免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物中に本質的に存在しない、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ウイルスがSARS-CoV-2(COVID-19)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記出現した株がデルタまたはオミクロンBA.2.75である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記初期ペプチド組成物は、HLA-A1対立遺伝子に対して拘束される1つ以上のペプチドを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記初期ペプチド組成物は、HLA-A2対立遺伝子に対して拘束される1つ以上のペプチドを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記初期ペプチド組成物は、HLA-B7対立遺伝子に対して拘束される1つ以上のペプチドを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記初期ペプチド組成物は、HLA-B40対立遺伝子に対して拘束される1つ以上のペプチドを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記初期ペプチド組成物は、HLA-Cw7対立遺伝子に対して拘束される1つ以上のペプチドを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記初期ペプチド組成物は、HLA-A1、-A2、-B7、-B40、-Cw7対立遺伝子のいずれか1つ以上に結合するペプチドの組み合わせを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
出現したウイルス株を治療する方法であって、治療を必要とする対象に、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法に従って調製された有効量のペプチド特異的CTLを投与することを含む、前記方法。
【請求項13】
前記ペプチド特異的CTLの調製の対象となるウイルスがCOVID-19である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記出現した株がデルタまたはオミクロンBA.2.75である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
更に、
前記CTLを投与する前に、1種以上の前投薬を投与することを含む、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
更に、
前記CTLの投与前、投与と同時、または投与後に1種以上の抗ウイルス製剤を投与することを含む、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法に従って調製されるペプチド特異的CTLを含む医薬組成物。
【請求項18】
前記ペプチド特異的CTLの調製の対象となるウイルスがCOVID-19である、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記出現した株がデルタまたはオミクロンBA.2.75である、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物中の前記免疫優性ペプチドの割合が少なくとも30%であるか、または前記初期ペプチド組成物中の前記免疫優性ペプチドの割合未満である、請求項17~19のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記免疫優性ペプチドが、前記免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物中に本質的に存在しない、請求項20に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年7月30日に出願された米国仮特許出願第63/227,690号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
感染症は、20世紀の終わりまで、早死と身体障害という世界最大の負担の原因となっていたが、その後、その区別は非感染性疾患に移った。感染症の中で、ウイルス感染は、パンデミックの脅威が出現する可能性を秘めた世界的な主要な健康問題である。
【0003】
SARS-CoV-2(COVID-19)により、世界中で400万人以上が死亡した。ワクチン接種により死亡率は減少したが、活動性感染症に対する治癒的療法の必要性は依然として残っている。ワクチン接種後の免疫の持続期間とこのウイルスによる変異進化の速さに関する不確実性は、予防策だけに頼るのは賢明ではないことを示唆している。
【0004】
体液性免疫及び細胞性免疫は、標的エピトープを除去した変異株の出現に対して選択圧を与える。免疫優性エピトープの除去は、新たに出現する株に対して最も強力な利点を提供し、その結果、免疫優性エピトープは、新たに出現する変異体における亜優性エピトープと比較して優先的に除去されると予想される。SARS-CoV-2に対する免疫学的治療は、新しい配列情報が利用可能になるにつれて継続的に再評価される必要がある。
【0005】
SARS-CoV-2は2019年後半以来、世界の保健コミュニティの注目を集めているが、免疫優性エピトープの除去及び新しい変異体の出現は、ヒト及び他の動物種における多くのウイルス感染症に存在する現象である。
【0006】
したがって、感染性ウイルスの新たに出現する変異体から人間や動物の健康をよりよく守るために、多くのウイルスに対する免疫学的治療を再評価する技術が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、出現したウイルス株に対するペプチド特異的細胞傷害性T細胞(CTL)を調製する方法に関する。
【0008】
この方法は、以前のCTLが感作されたウイルスの以前の株に特異的な初期ペプチド組成物を提供することを含むことができ、ここで、以前のCTLは、ウイルスの以前の株に対する効力と比較して、出現したウイルス株に対する効力が低下している。
【0009】
いくつかの実施形態では、以前のCTLは、以前の株と比べて出現した株では免疫優性ペプチド標的が失われているため、出現したウイルス株に対する効力が低下する可能性がある。
【0010】
この方法は、初期ペプチド組成物中の、ウイルスの以前の株に対する免疫優性ペプチドを同定することを含むことができる。
【0011】
この方法は、初期ペプチド組成物中の免疫優性ペプチドの割合を減少させて、免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物を得ることを含むことができる。いくつかの実施形態では、免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物中の免疫優性ペプチドの割合は少なくとも30%であるか、または初期ペプチド組成物中の免疫優性ペプチドの割合未満であり得る。いくつかの実施形態では、免疫優性ペプチドは、免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物中に本質的に存在しない可能性がある。
【0012】
この方法は、免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物で単核細胞を感作し、それによって出現したウイルス株に対するペプチド特異的CTLの増殖を生じさせることを含むことができる。
【0013】
この方法は、任意のウイルスの任意の出現した株に対するペプチド特異的CTLを調製するために使用することができる。いくつかの実施形態では、ウイルスはSARS-CoV-2(COVID-19)であり得る。いくつかの実施形態では、出現した株は、デルタまたはオミクロンBA.2.75であり得る。
【0014】
この方法は、任意のHLA対立遺伝子に対して拘束される初期ペプチド組成物と共に使用することができる。いくつかの実施形態では、初期ペプチド組成物は、HLA-A1対立遺伝子に対して拘束される1つ以上のペプチドを含むことができる。いくつかの実施形態では、初期ペプチド組成物は、HLA-A2対立遺伝子に対して拘束される1つ以上のペプチドを含むことができる。いくつかの実施形態では、初期ペプチド組成物は、HLA-B7対立遺伝子に対して拘束される1つ以上のペプチドを含むことができる。いくつかの実施形態では、初期ペプチド組成物は、HLA-B40対立遺伝子に対して拘束される1つ以上のペプチドを含むことができる。いくつかの実施形態では、初期ペプチド組成物は、HLA-Cw7対立遺伝子に対して拘束される1つ以上のペプチドを含むことができる。いくつかの実施形態では、初期ペプチド組成物は、HLA-A1、A2、B7、B40、Cw7対立遺伝子のいずれか1つ以上に結合するペプチドの組み合わせを含むことができる。
【0015】
本開示はまた、出現したウイルス株を治療する方法にも関する。この方法は、治療を必要とする対象に、本明細書に記載の方法に従って調製された有効量のペプチド特異的CTLを投与することを含むことができる。いくつかの実施形態では、治療方法において、ペプチド特異的CTLの調製の対象となるウイルスは、COVID-19であり得る。いくつかの実施形態では、治療方法において、出現した株は、デルタまたはオミクロンBA.2.75であり得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、治療方法は、CTLを投与する前に1種以上の前投薬を投与することを更に含むことができる。
【0017】
いくつかの実施形態では、治療方法は、CTLの投与前、投与と同時、または投与後に1種以上の抗ウイルス製剤を投与することを更に含むことができる。
【0018】
本開示はまた、本明細書に記載の方法に従って調製されるペプチド特異的CTLを含む医薬組成物にも関する。いくつかの実施形態では、医薬組成物において、ペプチド特異的CTLの調製の対象となるウイルスは、COVID-19であり得る。いくつかの実施形態では、医薬組成物において、出現した株は、デルタまたはオミクロンBA.2.75であり得る。
【0019】
いくつかの実施形態では、医薬組成物において、免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物中の免疫優性ペプチドの割合は少なくとも30%であるか、または初期ペプチド組成物中の免疫優性ペプチドの割合未満であり得る。いくつかの実施形態では、医薬組成物において、免疫優性ペプチドは、免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物中に本質的に存在しない可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】実施例1に記載されるように、HLA拘束性にCOVID-19遺伝子/ORF産物に由来するペプチドを認識するCD8+CTLを含む組成物についての四量体染色アッセイの結果を示す図である。
【0021】
【
図1B】実施例1に記載の、HLA拘束性にCOVID-19遺伝子/ORF産物に由来するペプチドを認識するCD8+CTLを含む組成物についての細胞毒性アッセイの結果を示す図である。
【0022】
【
図2A】実施例1に記載されるように、HLA-A*02:01に結合する7つのペプチドを含む組成物について、2人のドナーからのアフェレーシス産物から生成されたCTLの四量体染色アッセイによって測定した免疫優性の円グラフを示す図である。
【0023】
【
図2B】実施例1に記載されるように、HLA-A*01:01に結合する8つのペプチドを含む組成物について、1人のドナーからのアフェレーシス産物から生成されたCTLの四量体染色アッセイによって測定した免疫優性の円グラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示は、出現したウイルス株に感染した対象の免疫学的治療に使用できるペプチド特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の調製に関する。CTLは、以前のCTLが感作されたウイルスの以前の株に特異的な初期ペプチド組成物を提供することであって、以前のCTLが、ウイルスの以前の株に対する効力と比較して、出現したウイルス株に対する効力が低下している、ことと、初期ペプチド組成物中の、ウイルスの以前の株に対する免疫優性ペプチドを同定することと、初期ペプチド組成物中の免疫優性ペプチドの割合を減少させて、免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物を得ることと、免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物で単核細胞を感作し、それによって出現したウイルス株に対するペプチド特異的CTLの増殖を生じさせることとによって調製することができる。
【0025】
本開示で引用されるすべての出版物及び特許は、その全体が参照により組み込まれる。参照により組み込まれる資料が本明細書と矛盾するかまたは一致しない場合、本明細書はそのような資料に優先する。本明細書におけるいかなる参考文献の引用も、そのような参考文献が本開示に対する先行技術であることを認めるものではない。値の範囲が表現される場合、その範囲内の任意の特定の値を使用する実施形態が含まれる。更に、範囲内に記載された値への言及には、その範囲内のあらゆる値が含まれる。すべての範囲は端点を含み、結合可能である。先行詞「約」を使用して値が近似値として表現される場合、その特定の値が別の実施形態を形成することが理解されるであろう。特定の数値への言及には、文脈上明らかに別段の指示がない限り、少なくともその特定の値が含まれる。「または」の使用は、その使用の特定の文脈で別段の指示がない限り、「及び/または」を意味する。
【0026】
本明細書及び特許請求の範囲全体にわたって説明の態様に関連する様々な用語が使用されている。このような用語には、別段の指示がない限り、当該技術分野における通常の意味が与えられるものとする。他の具体的に定義された用語は、本明細書で提供される定義と一致するように解釈されるべきである。本明細書に記載または参照される技術及び手順は、一般に十分に理解されており、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 4th ed.(2012) Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NYに記載されている広く利用されている分子クローニング方法などの従来の方法を使用して当業者によって一般的に使用されている。必要に応じて、市販のキット及び試薬の使用を伴う手順は、特に断りのない限り、一般に製造業者が定めたプロトコール及び条件に従って実施される。
【0027】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数形を含む。「含む(include)」、「など(such as)」などの用語は、特に明記しない限り、制限なく包含を意味するものとする。
【0028】
別段の指示がない限り、一連の要素または範囲に先行する「少なくとも」、「未満」、及び「約」という用語または同様の用語は、その一連または範囲内のすべての要素を指すものと理解されるべきである。当業者であれば、本明細書に記載の本発明の特定の実施形態に対する多くの同等物を認識するか、または日常的な実験のみを用いて確認することができる。そのような同等物は、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図される。
【0029】
本明細書で使用される「対象」という用語は、任意の動物、例えば、ヒト、ヒト以外の霊長類、げっ歯類、一般にペットとして飼われる哺乳動物(例えば、とりわけイヌ及びネコ)、家畜(例えば、とりわけウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ、及びラクダ)などを含むがこれらに限定されない任意の哺乳動物を指す。いくつかの実施形態では、哺乳動物はマウスである。いくつかの実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0030】
本明細書では、方法のさらなる説明及び方法実施のためのガイダンスが提供される。
【0031】
ウイルス及び株
多くのウイルスは、人間または動物の健康に負担をかけ、また、それらの以前の株に対して発達した体液性免疫及び細胞性免疫を回避するために、以前の株のエピトープとは十分に異なるエピトープを持つ新しい株が頻繁に出現する。このようなウイルスの例としては、SARS-CoV-2(COVID-19)、インフルエンザ、パラインフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、メタニューモウイルス、B型肝炎ウイルス(HBV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)、BKウイルス(BKV)、ジョン・カニンガムウイルス(JCV)、ヒトヘルペスウイルス(HHV)、及びアデノウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
いくつかの実施形態では、ウイルスはSARS-CoV-2(COVID-19)であり得る。
【0033】
本明細書で使用される場合、以前の株は、以前にCTLによる免疫学的治療を受けたウイルスの株である。具体的には、初期ペプチド組成物は以前の株に由来し、以前のCTLは初期ペプチド組成物に対して感作され、以前のCTLは以前の株による哺乳動物の感染の治療において効力を有していた。
【0034】
本明細書で使用される場合、出現した株は、以前の株とは異なるウイルスの株であり、ここで、以前のCTLは、ウイルスの以前の株に対する効力と比較して、出現したウイルス株に対する効力が低下している。
【0035】
いくつかの実施形態では、ウイルスがCOVID-19である場合、出現した株は、デルタまたはオミクロンBA.2.75であり得る。
【0036】
初期ペプチド組成物及び以前のCTL
この方法は、以前のCTLが感作されたウイルスの以前の株に特異的な初期ペプチド組成物を提供することを含むことができ、ここで、以前のCTLは、ウイルスの以前の株に対する効力と比較して、出現したウイルス株に対する効力が低下している。
【0037】
初期ペプチド組成物は、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約1~約5、約1~約10、約1~約15、約1~約20、約2~約5、約2~約10、約2~約15、約2~約20、約5~約10、約5~約15、約5~約20、約10~約20、または約15~約20個のペプチドを含むことができる。初期ペプチド組成物の特定のペプチドは、各ウイルス及び各以前の株ごとに異なる。本出願に記載されるペプチドのいずれのリストも、単なる例示であり、限定的なものではない。なぜなら、そのようなリストは網羅的ではなく、固定されておらず、動的で制限のないリストとして継続するからである。
【0038】
ペプチドは、目的のHLA拘束性エレメントに結合するものから選択することができる。目的のHLA拘束性エレメントは、ヒトのすべての有核細胞で発現される3つの古典的なHLA-I遺伝子、すなわちHLA-A、HLA-B、及びHLA-Cから選択され得る。HLA-I分子は、細胞内タンパク質に由来するペプチドを提示する。細胞内抗原提示経路には、プロテアソームによるサイトゾル内のウイルスタンパク質の切断、小胞体(ER)内腔への移行、ER常駐アミノペプチダーゼによるトリミング、HLAへの負荷、及び細胞表面での提示が関与している可能性がある。HLA-II遺伝子(HLA-DR、HLA-DP、及びHLA-DQ)は、樹状細胞、B細胞、マクロファージなど、抗原提示に特化した細胞のサブセットでのみ構成的に発現されるが、例えばサイトカイン刺激に応答して、さらなる細胞型においても発現が誘導され得る。HLA-II分子は、エンドサイトーシス及び食作用を介して細胞に取り込まれる細胞外タンパク質に由来するペプチドと、オートファジーを介してHLA-IIプロセシング経路にアクセスする細胞内タンパク質とを提示する。
【0039】
HLA-I分子は典型的には、長さが8~12アミノ酸(aa)のペプチドに結合する。HLA-1ペプチド結合裂溝はN末端とC末端の両方で閉じており、最適な長さの好みは約9量体のペプチドの結合に偏っていることがよくある。ほとんどのHLA-I対立遺伝子では、長さの好みは対立遺伝子間で異なる。所与のHLA対立遺伝子に対する高親和性リガンドは、通常、アンカー位置(HLA-Iの場合は通常、2番目(P2)と最後(PΩ)、HLA-IIの場合は-P1、P4、P6、及びP9)に比較的厳密な選択性を有する共通のアミノ酸モチーフを共有し、対応するHLA結合ポケットの残基と特異的相互作用を形成する。HLA遺伝子座はヒトゲノムの中で最も多型であり、現在までに数万の対立遺伝子が報告されている。ペプチド接触残基が異なるHLA変異体は、それらが提示するペプチドのレパートリーが異なる。集団におけるHLA対立遺伝子の多様性は、多様な病原体、例えば、急速に変異するウイルス、新たに出現したウイルス及びウイルス株などに対する防御のための重要な進化的メカニズムである。HLA対立遺伝子は、ウイルス感染の重症度及び転帰に関連している可能性がある。例えば、HLA-C*15:02対立遺伝子はSARS-CoV-1に対する防御と関連しており、HLA-B57は抗レトロウイルス療法がない場合の効率的なHIV-1制御及び長期非進行性感染症と高度に関連している。
【0040】
初期ペプチド組成物のペプチドは、任意のウイルスに由来し得る。ペプチドは、経験的に、バイオインフォマティクス技術によって、または公的に入手可能な供給源から見つけることができる。例えば、免疫エピトープデータベース及び分析リソース(IEDB)中で、広範囲のウイルスについてT細胞エピトープが同定、収集、及び報告されている。
【0041】
いくつかの実施形態では、初期ペプチド組成物は、HLA-A1対立遺伝子に対して拘束される1つ以上のペプチドを含むことができる。
【0042】
追加的にまたは代替的に、いくつかの実施形態では、初期ペプチド組成物は、HLA-A2対立遺伝子に対して拘束される1つ以上のペプチドを含むことができる。
【0043】
代替的にまたは追加的に、いくつかの実施形態では、初期ペプチド組成物は、HLA-B7対立遺伝子に対して拘束される1つ以上のペプチドを含むことができる。
【0044】
追加的にまたは代替的に、いくつかの実施形態では、初期ペプチド組成物は、HLA-B40対立遺伝子に対して拘束される1つ以上のペプチドを含むことができる。
【0045】
代替的にまたは追加的に、いくつかの実施形態では、初期ペプチド組成物は、HLA-Cw7対立遺伝子に対して拘束される1つ以上のペプチドを含むことができる。
【0046】
明らかなように、いくつかの実施形態では、初期ペプチド組成物はペプチドの組み合わせを含むことができ、各ペプチドはHLA-A1、-A2、-B7、-B40、または-Cw7対立遺伝子のいずれか1つ以上に結合する。
【0047】
免疫優性ペプチドの同定
この方法はまた、初期ペプチド組成物中の、ウイルスの以前の株に対する免疫優性ペプチドを同定することを含むことができる。例えば、同定は、四量体アッセイ、インターフェロン産生アッセイ、細胞毒性アッセイ、または個々のペプチドに対して特異性を有するT細胞をT細胞集団内で見つけることができる他の既知の技術によって実施することができる。
【0048】
以前のCTLを含むT細胞集団に対して初期ペプチド組成物中の各ペプチドを個別にアッセイした後、1つ以上の条件に基づいて免疫優性ペプチド(複数可)を同定することができる。四量体アッセイ、インターフェロン産生アッセイ、細胞毒性アッセイ、または他のアッセイにおいて最高スコアを有するペプチドは、免疫優性ペプチドとして同定することができる。このアプローチは、最高スコアが、約50%、約49%、約48%、約47%、約46%、約45%、約44%、約43%、約42%、約41%、約40%、約39%、約38%、約37%、約36%、約35%、約34%、約33%、約32%、約31%、約30%、約29%、約28%、約27%、約26%、約25%、約24%、約23%、約22%、約21%、約20%、約19%、約18%、約17%、約16%、約15%、約14%、約13%、約12%、約11%、または約10%などの閾値レベルよりも大きいことを要求することによって修正することができる。この修正されたアプローチでは、すべてのペプチドの中で最高スコアが閾値レベルを下回っている場合、初期ペプチド組成物には免疫優性ペプチドがないとみなされる可能性がある。
【0049】
別のアプローチでは、閾値レベルを超える任意のスコアは、ペプチドを免疫優性ペプチドとして同定するのに十分であるとみなすことができる。このアプローチでは、初期ペプチド組成物は、0、1、2、またはそれ以上の免疫優性ペプチドを有するとみなされる可能性がある。
【0050】
望ましくは、初期ペプチド組成物に対して感作された以前のCTLがウイルスの以前の株に対する効力と比較して、出現したウイルス株に対する効力が低下していることが判明していることを考慮すると、初期ペプチド組成物中の免疫優性ペプチドを同定するための条件は、少なくとも1つのペプチドが免疫優性ペプチドとして同定されるように選択されるべきである。理論に束縛されるものではないが、以前のCTLは、出現した株で失われた免疫優性ペプチドの不均衡な認識により、効力が低下した可能性がある。したがって、初期ペプチド組成物の修飾が必要である。
【0051】
初期ペプチド組成物中の2つ以上のペプチドが免疫優性であると同定された場合、以下のさらなる工程を、免疫優性ペプチドの1つ、一部、またはすべてに対して行うことができる。
【0052】
ペプチド組成物中の免疫優性ペプチドの割合の減少
この方法はまた、初期ペプチド組成物中の免疫優性ペプチドの割合を減少させて、免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物を得ることを含むことができる。
【0053】
減少は、初期ペプチド組成物からペプチド分子を除去すること、または初期ペプチド組成物に含まれる同じペプチドの割合が制御された組成物を生成することを含むことができる。
【0054】
免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物中の免疫優性ペプチドの割合は任意の所望のレベル、例えば、約50%以下、約49%以下、約48%以下、約47%以下、約46%以下、約45%以下、約44%以下、約43%以下、約42%以下、約41%以下、約40%以下、約39%以下、約38%以下、約37%以下、約36%以下、約35%以下、約34%以下、約33%以下、約32%以下、約31%以下、約30%以下、約29%以下、約28%以下、約27%以下、約26%以下、約25%以下、約24%以下、約23%以下、約22%以下、約21%以下、約20%以下、約19%以下、約18%以下、約17%以下、約16%以下、約15%以下、約14%以下、約13%以下、約12%以下、約11%以下、約10%以下、約9%以下、約8%以下、約7%以下、約6%以下、約5%以下、約4%以下、約3%以下、約2%以下、若しくは約1%、または初期ペプチド組成物中の免疫優性ペプチドの割合未満に減少させることができる。
【0055】
いくつかの実施形態では、免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物中の免疫優性ペプチドの割合は、少なくとも30%または初期ペプチド組成物中の免疫優性ペプチドの割合未満に減少させることができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、免疫優性ペプチドは、免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物中に本質的に存在しなくてもよい(すなわち、存在するとしても、初期ペプチド組成物中の免疫優性ペプチドを同定するために使用されるのと同じアッセイでは検出できないレベルで存在する)。
【0057】
出現したウイルス株に対するペプチド特異的CTLの産生
この方法はまた、免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物で単核細胞を感作し、それによって出現したウイルス株に対するペプチド特異的CTLの増殖を生じさせることを含むことができる。
【0058】
1つの例示的なアプローチでは、リンパ球(単核細胞の一種)は、3回のインビトロ刺激-増殖サイクルを受けて、本明細書に記載の治療方法で使用される最終CTL産物を産生する。これら3つの刺激-増殖サイクルのそれぞれは、全体的な産生プロセスにおいて目的が異なるため、それぞれが異なる手順に従う。任意選択で、4回目の再刺激を行ってもよい。4回目の再刺激は、(1)放出基準を満たすにはわずかに及ばない産物に対して、追加ラウンドの刺激と増殖により産物がこれらの基準を満たすことが可能になると予想される場合、または、(2)追加の細胞増殖が望まれ、かつ追加ラウンドの刺激と増殖が、そのバッチから得られる治療用量の数を大幅に増加させる可能性があると考えられる場合に実施することができる。このような任意の4回目の再刺激は、3回目の刺激と同じプロセスに従って実施することができる。
【0059】
いくつかの実施形態では、健康なボランティアドナーからの単核細胞を水簸によってリンパ球画分及び単球画分に分離することができる。リンパ球は、免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物で刺激することができる。ウイルス由来産物を使用する必要はない。
【0060】
1回目の刺激では、収集された単球のサブセットを処理して、樹状細胞への成熟を誘導することができる。樹状細胞を、1つ以上のウイルス特異的ペプチドでパルスし、リンパ球と7日間共培養することができる。2回目と3回目の刺激では、単球を使用してペプチドを提示することができ、また、刺激されたリンパ球を7~12日間増殖/拡張させることができる。2番目の刺激はまた、濃縮工程を含むことができ、この工程は、ペプチド特異的CTLの選択に役立ち(パルスペプチドを認識するT細胞が接着単球層に優先的に接着するため)、ドナーからの他の非特異的な「傍観者」リンパ球または他の免疫細胞の含有量を減少させる。3回目の刺激でも単球及びペプチドを使用することができるが、この選択工程を繰り返す必要はない。
【0061】
本明細書に記載の手順のほとんどは、10%非働化AB血清を含むRPMI-1640中で実施することができる。培地中のAB血清の量は、約9%、約8%、約7%、約6%、約5%、約4%、約3%、約2%、または約1%に減少し得る。無血清培地及び自己血漿を代替として使用してもよい。これは「完全培地」またはCMと呼ばれる。当業者によって決定されるように、約10%以下の濃度のプール血清または自己血清または血漿を含むAIM Vまたは他の無血清培地調製物単独、より低い濃度のプール血清または自己血清または血漿を有するかまたは有しない血清代替物を含むRPMI-1640など、任意の適切な培地を使用することができる。
【0062】
いくつかの実施形態では、初期インビトロ感作と呼ばれる1回目の刺激では、リンパ球を、個々のペプチドとしてではなくプールとして免疫優性ペプチド希釈ペプチド組成物を用いて刺激することができる。
【0063】
初期インビトロ感作では、樹状細胞を抗原提示細胞として使用することができる。これらの細胞は水簸した単球から調製することができる。新鮮な単球または新たに解凍した単球は、プラスチックに接着させることによって濃縮することができる。適切な数の単球を培地に再懸濁し、その後細胞を組織培養プレートに移すことができる。次に、細胞を適切な時間(例えば、少なくとも60分、少なくとも90分、少なくとも120分)インキュベートして、単球を培養プレートに接着させることができる。インキュベーション後、上清を培養プレートから除去することができる。次に、接着細胞をGM-CSF及びIL-4とともに適切な時間(例えば、24時間)培養し、その時点で成熟サイトカイン(例えば、TNF-α、IL-1 β、IL-6、及び/またはプロスタグランジンE2)を添加することができる。更に24時間培養した後、樹状細胞が剥離し、培地の吸引及び遠心分離によって採取できる状態になる。成熟サイトカインにおける培養期間は、必要に応じて、24時間を超えて、約30時間、約36時間、約42時間、または最大約48時間まで延長することができる。
【0064】
採取後、樹状細胞をペプチド(例えば、それぞれ2μg/ml)で適切な時間(例えば、約60、75、90、または120分間)パルスし、その後組織培養フラスコ(例えば、75cm2)内の培地(例えば、CM)中でリンパ球と共培養することができる。培養物中のリンパ球と樹状細胞の比は、約15:1、約16:1、約17:1、約18:1、約19:1、約20:1、約21:1、約22:1、約23:1、約24:1、または約25:1であり得る。次に、リンパ球(例えば、合計80×106、100×106、120×106)を各フラスコに添加することができる。これは、CTL培養プロセスの0日目と考えることができる。この刺激後、培養物を7日間そのままにしておくことができる。
【0065】
2回目の刺激では、ウイルス特異的CTLの濃縮とそれに続く増殖が起こる。最初の感作から7日後に、濃縮工程の一部としてCTLを再刺激することができ、この工程は、ペプチド特異的CTLの選択に役立ち、ドナーからの他の非特異的な「傍観者」リンパ球または他の免疫細胞の含有量を減少させる。濃縮は、最初の感作に使用されたペプチドでパルスされた単球層へのペプチド特異的CTLの優先的な接着に基づくことができる。適切なHLA対立遺伝子によって提示されるペプチドのいずれかを認識するCTLは、穏やかに洗い流すことができる「傍観者」リンパ球とは対照的に、免疫学的シナプスの形成を通じて単球+ペプチド層に優先的に接着する。一部の「傍観者」リンパ球は非特異的に接着する場合があるが、これにより通常、出発物質と比較してペプチド特異的CTLが約10倍以上濃縮される。この濃縮工程を実施するために、単球(例えば、10x106)を組織培養プレートに添加することができる。ペプチドを添加し(例えば、それぞれ最終濃度2μg/mlで)、単球と共にインキュベートすることができる(例えば、約90分間)。次に、リンパ球(例えば、約60×106、約70×106、約80×106、約90×106、約100×106、約110×106、または約120×106、典型的には、75cm2組織培養フラスコのうちの1つの内容物)をウェルに添加することができる。「傍観者」リンパ球は、適切な時間(例えば、約5、約7.5、約10、または約12分)後にPBSで穏やかに洗浄することによってウェルから除去することができる。接着リンパ球をペプチドパルス単球と一晩接触させて、活性化/再刺激プロセスを完了させることができる。翌日、リンパ球を単球層から除去することができる。除去された接着リンパ球を、組換えヒトIL-2(例えば、50U/mlの濃度)を含む培地の組織培養フラスコに移すことができる。IL-2を経時的に添加することができる(例えば、48時間ごとに50U/ml)。フラスコの色がよりオレンジ色/黄色に変化した場合は、培地を交換することができる。2回目の刺激後、細胞を合計7日間培養することができる。この2回目の刺激の一部として単球層の濃縮が望ましく、従来の方法に勝る利点を提供することができる。理論に束縛されることを望まないが、単球層の濃縮は、全T細胞中で本発明以前には達成されていなかった有意に高い純度レベルの原因であると考えられる。
【0066】
3回目の刺激を行ってウイルスペプチド特異的CTLを更に増殖させることができる。2回目の刺激の一部として実施される濃縮工程は、3回目の刺激の一部として繰り返す必要はない。ただし、ウイルス-ペプチド反応性リンパ球のパーセンテージの評価(細胞内サイトカインアッセイまたは四量体アッセイで測定した)が、計画された3回目の刺激から1日以内に特定の限界(例えば、約12~18%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%または約18%)を下回った場合、3回目の刺激の通常の手順の代わりに2回目の刺激の手順を繰り返すことができる。CTL産生プロセス全体のうち、濃縮工程は最も多くの操作を含み、汚染が最も入り込みやすいポイントとなる可能性があるため、可能な限りこの工程を複数回繰り返すことを避けることが望ましい場合がある。濃縮工程を繰り返さなくても、3回目の刺激後にウイルスペプチド特異的CTLのパーセンテージが更に濃縮されることが予想される。これは、刺激された細胞はIL-2含有培地中で増殖するが、刺激されていない「傍観者」細胞は増殖せず、そして時間の経過とともに、刺激されていない「傍観者」細胞が培養中に死滅し、より濃縮された産物が得られるという事実を反映している。2回目の刺激からの濃縮工程が繰り返され得る場合について上記の閾値を設定することにより、それが頻繁に繰り返されず、製造プロセスに不可欠な場合にのみ繰り返されることが予想される。
【0067】
組織培養フラスコ内で7日間培養した後(CTL刺激/培養全体の14日目)、細胞を計数し、G-Rexフラスコ内の単球及びペプチドで再刺激することができる。リンパ球:単球の比は、約4:1~約5:1、約4:1、約4.1:1、約4.2:1、約4.3:1、約4.4:1、約4.5:1、約4.6:1、約4.7:1、約4.8:1、約4.9:1、または約5:1であり得る。各ペプチドを約2μg/mlの濃度で再度添加することができる。この二次再刺激のために、リンパ球(例えば、15x106)を各G-Rex10フラスコに添加することができる。感作は、IL-2(例えば、50U/ml)を含む培地(例えば、40mlの完全培地)中で行うことができる。
【0068】
3回目の刺激後、CTLを再度培養することができる(例えば、7日間)。培地とIL-2の交換は、培地の色の変化がいつ観察されるかに応じて3~4日ごとに行うことができる。
【0069】
この21日間の刺激及び増殖期間の終了後、CTLが必要な基準を満たしているか否かを評価することができ、満たしている場合には、凍結保存のために(例えば、その後24時間以内に)採取することができる。任意選択で、状況によっては、3回目の刺激のガイドラインに従って4回目の刺激を実施することができる。これは通常、生成されるCTLの用量数を増やすためにさらなる細胞増殖が望ましいと考えられる場合、または産物が放出基準をわずかに下回っており、追加ラウンドの刺激と増殖により産物がすべての基準を満たすことが可能になると考えられる場合に実施される。再刺激工程は6~10日間隔(例えば、6日、7日、8日、9日、10日間隔)で実施することができるが、これらの工程は必要に応じて、この典型的な7日間隔よりも最大1日早くまたは遅く行うことができる。
【0070】
3つのインビトロ刺激-増殖サイクルの完了後、産物を適切な細胞含有量、機能、生存率、及び無菌性についてスクリーニングすることができる。
【0071】
適切な細胞含有量とは、細胞内サイトカイン(ICC)染色または四量体結合に基づいて細胞の少なくとも20%(例えば、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または約100%)がウイルスペプチドに応答し、産物中のナイーブT細胞、単球、及びNK細胞の含有量が約2.5%未満(例えば、約2.4%、約2.3%、約2.2%、約2.1%、約2.0%、約1.9%、約1.8%、約1.7%、約1.6%、約1.5%、約1.4%、約1.3%、約1.2%、約1.1%、約1.0%、約0.9%、約0.8%、約0.7%、約0.6%、約0.5%、約0.4%、約0.3%、約0.2%、または約0.1%)であり得ることを意味する。
【0072】
機能は、約40:1のエフェクター:標的比での、ペプチドパルス標的に対するCTLの約40%の細胞溶解活性に基づくことができる。
【0073】
生存率は70%を超えるべきであり、例えば、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または約99%の生存率が適切であり得る。
【0074】
無菌性は、日常的な培養や真菌培養、並びにマイコプラズマ及びエンドトキシンのアッセイを通じて評価することができる。CTLは、任意の所望の濃度、例えば1ミリリットル当たり約2×106の濃度で冷凍バッグ内に凍結保存し、本明細書に開示される方法で後で使用するために保存することができる。
【0075】
出現したウイルス株をペプチド特異的CTLで治療する方法
この方法は更に、上記のように調製された有効量のペプチド特異的CTLを対象に投与することを含むことができる。
【0076】
いくつかの実施形態では、この方法は、治療を必要とする対象に、有効量のペプチド特異的CTLを静脈内注入によって投与することを含むことができる。ペプチド特異的CTLは、対象への静脈内送達によって、例えば、中心ライン、ミッドライン、または末梢IVを介した投与によって投与することができる。
【0077】
いくつかの実施形態では、ペプチド特異的CTLの投与前に、対象は完全なHLAタイピングを受け、その後、適切なCTLで治療され得る。
【0078】
いくつかの実施形態では、ペプチド特異的CTLの投与前に、対象は、高分解能PCR SSP補給により、迅速かつ低分解能のヒト白血球抗原(HLA)タイピングについて血液検査を受け、治療に適切な可能性のあるHLA抗原(HLA-A1、-A2、-B7、-B40、-Cw7)を有するか否かを判定することができる。高分解能補給は、対象がHLA-A*01:01、-A*02:01、-B*07:02、-B*40:01、-C*07:02であり、したがって1つ以上の対立遺伝子のCTLと一致するという証拠を提供することができる。
【0079】
ペプチド特異的CTLの投与前に、前投薬を投与することができる。いくつかの実施形態では、対象は、ジフェンヒドラミン及びアセトアミノフェンなどの前投薬を受けることができる。ジフェンヒドラミンの用量は、約15、約20、約25、または約30mgであり得る。アセトアミノフェンの用量は、約500、約550、約600、約650、約700、または約750mgであり得る。
【0080】
対象はまた、ペプチド特異的CTLの投与前、投与と同時、または投与後に、1種以上の抗ウイルス製剤(例えば、レムデシビルまたは他の標準治療医薬品を含む製剤)で治療することもできる。
【0081】
ペプチド特異的CTLの有効量は体重に基づき、約1×105総細胞/kg~約3×106総細胞/kgであり得る。約1×105総細胞/kg、約2×105総細胞/kg、約3×105総細胞/kg、約4×105総細胞/kg、約5×105総細胞/kg、約6×105総細胞/kg、約7×105総細胞/kg、約8×105総細胞/kg、約9×105総細胞/kg、約1×106総細胞/kg、約2×106総細胞/kg、約3×106総細胞/kg、約4×106総細胞/kg、約5×106総細胞/kg、約6×106総細胞/kg、約7×106総細胞/kg、約8×106総細胞/kg、または約9×106総細胞/kgの用量を投与することができる。いくつかの実施形態では、用量は、総量の代わりにウイルス反応性細胞の数によって測定することができる。例えば、有効量は、約1×105ウイルス反応性細胞/kg~約3×106ウイルス反応性細胞/kgであり得る。約1×105ウイルス反応性細胞/kg、約2×105ウイルス反応性細胞/kg、約3×105ウイルス反応性細胞/kg、約4×105ウイルス反応性細胞/kg、約5×105ウイルス反応性細胞/kg、約6×105ウイルス反応性細胞/kg、約7×105ウイルス反応性細胞/kg、約8×105ウイルス反応性細胞/kg、約9×105ウイルス反応性細胞/kg、約1×106ウイルス反応性細胞/kg、約2×106ウイルス反応性細胞/kg、約3×106ウイルス反応性細胞/kg、約4×106ウイルス反応性細胞/kg、約5×106ウイルス反応性細胞/kg、約6×106ウイルス反応性細胞/kg、約7×106ウイルス反応性細胞/kg、約8×106ウイルス反応性細胞/kg、または約9×106ウイルス反応性細胞/kgの用量を投与することができる。いくつかの実施形態では、有効量は実際の体重に基づくことができる。実際の体重が理想体重よりも高い特定の実施形態では、用量は、補正体重(理想体重+実際の体重と理想体重との差の40%)に基づくことができる。身長に対する理想体重は、BJ Devine(1974)の公式から計算することができる:男性:50.0kg+5フィート以上1インチあたり2.3kg、女性:45.5kg+5フィート以上1インチあたり2.3kg。
【0082】
ペプチド特異的CTLを含む有効量の医薬組成物は、それを必要とする個体、例えば、ウイルス感染症に罹患している個体、ウイルス様疾患に罹患している個体、ウイルス様症状を経験している個体、または出現したウイルス株による感染のリスクがある個体に投与することができる。有効量とは、所望の治療効果または予防効果を達成するのに十分な量、例えば、ウイルス感染、ウイルス様疾患、またはウイルス様症状を軽減し、罹患期間を短縮し、ウイルス力価を低下させ、感染した個体がウイルス様症状を経験する日数を減少させ、ウイルス関連サイトカイン放出症候群を発症する対象の数を減少させ、及び/またはウイルス感染の発生率若しくは割合を減少させるのに十分な量である。当業者である臨床医は、例えば、個体の年齢、感受性、耐性及び全体的な健康状態に基づいて、適切な用量及び必要に応じて抗薬剤を決定することができる。ペプチド特異的CTLは、示されるように単回用量または複数回用量で投与することができる。
【0083】
CTLの静脈内送達(例えば、末梢ライン、中心ライン、またはミッドラインを介した注入)にかかる時間は10分未満であり得る。いくつかの実施形態では、CTLを注入する時間は、約10分、約9分、約8分、約7分、約6分、約5分、約4分、約3分、約2分、または約1分であり得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、この方法は、ウイルス感染の疑いがある個体、ウイルス感染が確認された個体、またはウイルス感染のリスクがある個体に有効量の医薬組成物を投与することを含むことができる。この方法は、ウイルス様疾患を患う個体に有効量の医薬組成物を投与することを含むことができる。
【0085】
医薬組成物は、対象の血液への投与を目的とすることができ、また、静脈内などの任意の適切な形態で投与することができる。
【0086】
いくつかの実施形態では、この方法は、ウイルス感染症を患っている疑いのある個体、またはウイルス感染症を患うリスクのある個体に有効量の本発明の医薬組成物を投与することを含むことができる。例えば、いくつかの実施形態では、個体は、COVID-19に感染している疑いがある可能性があり、及び/またはCOVID-19の1つ以上の症状を有する可能性がある。COVID-19の症状はよく知られており、発熱、咳、息切れなどがある。COVID-19のその他の症状には、呼吸困難、胸部の持続的な痛みまたは圧迫感、錯乱、意識障害、唇または顔の青みなどがある。
【0087】
いくつかの実施形態では、この方法は感染症を治療するためのものである可能性があり、治療を必要とする個体に有効量の本発明の医薬組成物を投与することを含む。他の実施形態では、この方法は感染予防のためのものである可能性があり、出現したウイルス株による感染のリスクがある個体に有効量の本発明の医薬組成物を投与することを含む。他の実施形態では、この方法は、感染の広がりを低減するためのものである可能性があり、出現したウイルス株に感染した個体、または出現したウイルス株による感染のリスクがある個体に、本明細書に記載の有効量の医薬組成物を投与することを含む。
【0088】
所望の治療効果を提供する適切な投与間隔は、病気(例えば、感染症)の重症度、対象の全体的な健康状態、医薬組成物に対する対象の耐性、及び他の考慮事項に基づいて決定することができる。これら及びその他の考慮事項に基づいて、臨床医は適切な投与間隔を決定することができる。一般に、医薬組成物は1回投与することができるが、必要に応じて1~4日ごとに、または週に1回投与することができる。
【0089】
投与後、ウイルス診断、CTL持続性、内因性CTLの形成、及び出現したウイルス株に対する抗体反応について、対象の血液及び/または鼻若しくは鼻咽頭ぬぐい液検体を検査することによって、治療の成功を判定することができる。治療に対する反応は、例えば、注入後約4日、約7日、約14日、約28日、約2ヶ月、約3ヶ月、及び約6ヶ月後に試験することができる。
【0090】
いくつかの実施形態では、ウイルスはCOVID-19であり得る。いくつかのさらなる実施形態では、COVID-19の出現した株は、デルタまたはオミクロンBA.2.75であり得る。
【0091】
医薬組成物
医薬組成物は、本明細書に開示される方法に従って調製されたペプチド特異的CTLを含むことができる。
【0092】
医薬組成物は、例えば、末梢IV、中心ライン、またはミッドラインカテーテルを介した注入によってそれを必要とする個体に静脈内送達するために製剤化することができる。医薬組成物はまた、凍結保存されたCTLの送達に適した1種以上の担体または賦形剤、例えばDMSOなどを含むこともできる。
【0093】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、特異的HLA-A1対立遺伝子に結合するペプチドに対して感作された特異的CTLを含む。
【0094】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、特異的HLA-A2対立遺伝子に結合するペプチドに対して感作された特異的CTLを含む。
【0095】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、特異的HLA-B7対立遺伝子に結合するペプチドに対して感作された特異的CTLを含む。
【0096】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、特異的HLA-B40対立遺伝子に結合するペプチドに対して感作された特異的CTLを含む。
【0097】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、特異的HLA-Cw7対立遺伝子に結合するペプチドに対して感作された特異的CTLを含む。
【0098】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、HLA-A1、-A2、-B7、-B40、及び-Cw7対立遺伝子のいずれか1つまたは組み合わせに結合する1つ以上のペプチドに対して感作された特異的CTLを含む。別の実施形態では、医薬組成物は、対立遺伝子の組み合わせに結合するペプチドの組み合わせに対して感作された特異的CTL(例えば、半用量の-A2 CTLと半用量の-B7 CTLを組み合わせたもの)を含む。
【0099】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、DMSO、RPMI-1640、アルブミン、またはそれらの組み合わせ中に凍結保存されたCTLを含む。
【0100】
必要に応じて、本明細書に記載の医薬組成物はまた、1種以上の追加の抗ウイルス剤(レムデシビルなど)を含むこともできる。
【0101】
医薬組成物は、静脈内投与などの所望の経路による投与に適した任意の形態とすることができる。
【0102】
いくつかの実施形態では、ペプチド特異的CTLの調製の対象とするウイルスはCOVID-19であり、出現した株はデルタまたはオミクロンBA.2.75であり得る。
【0103】
同等物
本明細書に記載される本発明の方法の他の適切な修正及び改変は明らかであり、本開示または実施形態の範囲から逸脱することなく、適切な同等物を使用して行うことができることは、当業者には容易に明らかであろう。ここまで、特定の組成物及び方法を詳細に説明してきたが、それらは、以下の実施例を参照することによってより明確に理解されるであろう。これらの実施例は、説明のためにのみ紹介されており、限定を意図するものではない。
【実施例】
【0104】
以下は、本発明の方法及び組成物の実施例である。本明細書に提供される一般的な説明を考慮すれば、様々な他の実施形態を実施することができることが理解される。
【0105】
実施例1.COVID-19のデルタ変異体におけるCD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の免疫優性HLA-A*01:01拘束性エピトープの喪失:免疫回避の例及び免疫学的治療への影響
TVGN-489は、HLA拘束性にCOVID-19遺伝子/ORF産物に由来するペプチドを認識する、高度に濃縮された非常に強力なCD8+CTLからなる臨床グレードの製品である。COVID-19感染症から回復した個体からのアフェレーシス産物からCTLを生成した。特定のHLAクラスI対立遺伝子に結合することが予測または実証されたCOVID-19ゲノムによってコードされる少数のペプチドでパルスしたこれらのドナーからのAPCを使用してリンパ球を連続的にプライミングし、選択した。得られた産物は、典型的には95%を超えるCD3+/CD8+であり、四量体染色による陽性率が60%を超え、典型的には3:1のエフェクター対標的比でペプチドパルス標的の溶解率が60%を超えるという強力な細胞溶解活性を示した(
図1A及び
図1Bを参照)。
【0106】
優性標的エピトープを失う免疫学的圧力を考慮して、初期のSARS-CoV-2株のゲノム配列に由来するペプチド(これらの初期株に感染したドナーからCTLを生成するために使用することに成功した)が、より最近に進化したデルタ変異体にまだ存在しているか否かを評価した。
【0107】
7つのペプチドを使用して、世界中で最も一般的な対立遺伝子であるHLA-A*02:01によって拘束されるCTL産物を生成した。これらのペプチドは、スパイク(S)タンパク質及びヌクレオカプシド(N)タンパク質、並びにORF3a及びORF1abに由来した。全体的な細胞毒性及び四量体染色に対する7つのペプチドの寄与は2%~18%の範囲であり、これらのペプチドの1つによる明らかな免疫優性はなかった(表1及び表2)。これらの配列は初期のウイルス株で同定されたが、NIHデータベースに存在する120を超えるデルタ変異体配列の97.5~100%に存在し続けた。
【0108】
四量体アッセイを使用して、T細胞集団内のウイルスペプチド特異的CD8+T細胞(この例では、COVID-19のプレデルタ株に対して感作されたCD8+T細胞)を定量した。
【0109】
ウイルス特異的CTLの機能分析を、ウイルスペプチドパルス標的に対するCTL細胞毒性に応じて測定した。エフェクター細胞を2μg/mLのウイルスペプチドでパルスし、37℃で適切な時間インキュベートした。ウイルスペプチドとのインキュベーション後、培地を吸引し、エフェクター細胞を温かいPBSですすぎ、新鮮な完全培地と交換した。エフェクター細胞を30:1、10:1、3:1、及び1:1の比率で播種したウェルにCTLを滴定した(非ウイルスペプチドパルスエフェクター細胞条件を対照として保持した)。細胞毒性を、溶解を受けた細胞からの放射性トレーサー(51Cr)の放出に応じて測定した(すべての細胞が化学的に溶解された対照と比較)。CTL媒介細胞毒性は、通常、E:T比30:1~3:1で80%を超えることが観察された。細胞毒性は、1:1のエフェクター対標的比で約60%であった。
【0110】
HLA-A*01:01については、マトリックス(M)タンパク質に由来する8つのペプチド、並びにORF1ab及びORF3aを利用してCTLを生成した。8つのペプチドのうち7つは、HLA-A*02:01ペプチドで見られたものと同様の結合を示した(1%~18%)(表3)。しかし、HLA-A*02:01とは対照的に、観察された四量体結合の半分の原因である免疫優性ペプチド(TTDPSFLGRY、ORF1ab 1637-1646、配列番号1)が注目された(表3、ペプチド3)。ORF1abのこの領域はデルタ変異体で変異しており、NIHデータベースのデルタゲノム配列のほぼ93%からこの免疫優性エピトープが失われていた。残りの亜優性ペプチドはすべて、配列の100%に保存されていた。
【0111】
ペプチド3に関する同様の結果が、オミクロン変異体BA.2.75でも見られた(データは示されていない)。
【0112】
デルタ症例数の増加を考慮すると、デルタ変異体ではなくウイルスの初期株を認識する細胞の増殖を促進することを避けるために、SARS-CoV-2特異的CD8+CTLを刺激するために使用されるHLA-A*01:01ペプチドプールからこのペプチドを除去することが不可欠となる。TTDPSFLGRY(配列番号1)の非存在下で生成された残りのCTLは、COVID-19の初期の原型株だけでなく、デルタも根絶することができるはずである。
【0113】
TTDPSFLGRY(配列番号1)の非存在下で生成されたCTLの、オミクロン変異体BA.2.75に対する効力についても、同様の予想が成り立つ。
【0114】
SARS-CoV-2のような突然変異の頻度が高いウイルスでは、免疫優性エピトープの喪失は驚くべきことではない。これは、HLA-A24の場合のデルタ変異体について記載されているものと同様の免疫回避の例を提供する。これらのデータは、ウイルスが進化し続けるにつれて免疫優性エピトープが優先的に除去されるという仮説と一致している。それらは更に、COVID-19の新たに出現する変異体を認識し、効果的に治療し続けることができることを確実にするために、ウイルス配列を監視し、CTLの産生を調整する必要性を示している。
【表1】
【表2】
【表3】
【0115】
実施例2.免疫優性HLA-A*01:01拘束性エピトープの希釈
実施例1で使用した8つのHLA-A*01:01ペプチドを含む組成物を、ペプチド8を除外することによって修飾した。ペプチド8は、四量体染色アッセイ結果によって決定されるように、無視できるほどの免疫原性を有し、バックグラウンドと本質的に同じであった。実施例1に基づいて、ペプチド3を免疫優性ペプチドとして同定した。
【0116】
6つのサンプルを調製し、各サンプルは同じ濃度の6つのペプチド、すなわち、ペプチド1~2及び4~7、並びに実施例1の組成物中のペプチド3濃度(2μg/ml)のパーセンテージとして表される様々な濃度のペプチド3を含んだ。したがって、0%ペプチド3を含むサンプルには6つのペプチドが含まれ、6.25%~100%のペプチド3を含むすべてのサンプルには7つのペプチドが含まれていた。
【0117】
表4に示すように、0%ペプチド3を含むサンプルでは64.1%の四量体染色が得られた。ペプチド3の四量体染色値0.3%はバックグラウンド染色を反映しており、0%ペプチド3を含むサンプルと一致した。
【0118】
100%ペプチド3(通常の濃度、約2μg/ml)では、総四量体染色は0%サンプルの場合とほぼ同じ(66.8%~64.1%)であったが、今回はペプチド3が25.7%を占めた。他のペプチドは抑制されるため、合計は同様のままであった。
【0119】
ペプチド3の4段階の50%希釈にわたって、四量体染色の範囲は74.3%~83.1%であった。ペプチド3による総四量体染色への寄与は一般に、サンプルに占めるペプチド3の割合が減少するにつれて減少した。
【0120】
結論として、表4に示す四量体染色の結果は、ペプチド組成物の望ましいレベルの効力を維持しながら、ペプチド組成物中の免疫優性ペプチドの割合を低減することができることを示す。
【表4】
【配列表】
【国際調査報告】