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特表2024-527125腫瘍細胞の増殖を抑制する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の使用
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  • 特表-腫瘍細胞の増殖を抑制する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】腫瘍細胞の増殖を抑制する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20240711BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
A61K31/352
A61P35/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505646
(86)(22)【出願日】2022-04-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-30
(86)【国際出願番号】 CN2022087786
(87)【国際公開番号】W WO2023115766
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】202111578422.3
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505072650
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】孫崇徳
(72)【発明者】
【氏名】王岳
(72)【発明者】
【氏名】陳雲義
(72)【発明者】
【氏名】曹錦萍
(72)【発明者】
【氏名】李鮮
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、腫瘍細胞の増殖を抑制する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の使用に関し、薬剤調製の技術分野に属する。本発明は腫瘍細胞の増殖を抑制する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の使用を提供した。ケルセチンのオキシメチル修飾物質は、腫瘍細胞の増殖を抑制し、in vivoの移植腫瘍の増殖及び腫瘍細胞の遊走を抑制し、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導できる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍細胞の増殖を抑制する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の適用。
【請求項2】
in vivoの移植腫瘍の増殖を抑制する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の適用。
【請求項3】
腫瘍細胞の遊走を抑制する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の適用。
【請求項4】
腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の適用。
【請求項5】
前記ケルセチンのオキシメチル修飾物質には、ケルセチン-3-メチルエーテル及び/又はケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルが含まれることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の適用。
【請求項6】
前記腫瘍細胞には、骨肉腫、肝臓癌、乳癌、胃癌、子宮頸癌、肺癌、腸癌、神経膠腫、前立腺癌又は甲状腺癌の細胞が含まれることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の適用。
【請求項7】
ケルセチンのオキシメチル修飾物質を注射するステップを含むことを特徴とするケルセチンのオキシメチル修飾物質に基づく抗腫瘍方法。
【請求項8】
ケルセチンのオキシメチル修飾物質の添加量は12.5~400mg/Lであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ケルセチンのオキシメチル修飾物質には、ケルセチン-3-メチルエーテル及び/又はケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルが含まれることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記腫瘍細胞には、骨肉腫、肝臓癌、乳癌、胃癌、子宮頸癌、肺癌、腸癌、神経膠腫、前立腺癌又は甲状腺癌の細胞が含まれることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記抗腫瘍には、腫瘍細胞の増殖の抑制、in vivoの移植腫瘍の増殖の抑制、腫瘍細胞の遊走の抑制或は腫瘍細胞のアポトーシスの誘導が含まれることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2021年12月22日に中国専利局に提出された出願番号が202111578422.3であり、発明の名称が「腫瘍細胞の増殖を抑制する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の使用」の中国特許出願の優先権を主張し、その全ての内容は、参照により本出願に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、薬剤調製の技術分野に関し、特に、腫瘍細胞の増殖を抑制する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
癌は最も致死率の高い病気のひとつである。生活習慣の変化や発癌性物質にさらされるリスクの増加により、癌の発生は徐々に若年化し、より一般的になっている。癌に関連する危険因子には、不健康な食事、汚染物質への暴露、ストレス、炎症などがある。従来の放射線療法や化学療法は患者の生活の質を著しく低下させるが、新たに登場した標的療法は非常に高価であり、大規模な普及は現在のところ困難である。
【0004】
疫学研究では、天然物が豊富な果物や野菜の摂取が胃癌の発生を抑制するのに大きな効果があることが示されている。既存の臨床癌治療薬と比較して、天然由来の生理活性化合物は生物学的安全性が高く、生活の質への影響が少ない。したがって、抗癌効果や補助治療効果のある天然産物をスクリーニングすることが非常に必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は腫瘍細胞の増殖を抑制する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の使用を提供することを目的とする。ケルセチンのオキシメチル修飾物質は、腫瘍細胞の増殖を抑制し、in vivoの移植腫瘍の増殖及び腫瘍細胞の遊走を抑制し、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導できる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は腫瘍細胞の増殖を抑制する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の使用を提供した。
【0007】
本発明はまた、in vivoの移植腫瘍の増殖を抑制する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の使用を提供した。
【0008】
本発明はまた、腫瘍細胞の遊走を抑制する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の使用を提供した。
【0009】
本発明はまた、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導するための薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の使用を提供した。
【0010】
好ましくは、上記ケルセチンのオキシメチル修飾物質には、ケルセチン-3-メチルエーテル及び/又はケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルが含まれる。
【0011】
好ましくは、上記腫瘍細胞には、骨肉腫、肝臓癌、乳癌、胃癌、子宮頸癌、肺癌、腸癌、神経膠腫、前立腺癌又は甲状腺癌の細胞が含まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、腫瘍細胞の増殖を抑制する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の使用を提供する。本発明は、ケルセチンを特定の部位で修飾することにより、腫瘍細胞の増殖を抑制する物質の能力が著しく向上することを発見した。例えば、3位及び3,3’位でのメチル化の後、腫瘍細胞増殖に対する誘導体の半数抑制濃度は大幅に減少する。ケルセチンのオキシメチル修飾は、腫瘍細胞の増殖を抑制し、in vivoの移植腫瘍の増殖及び腫瘍細胞の遊走を抑制し、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導できる。試験結果は、ケルセチン-3-メチルエーテルが試験したすべての腫瘍細胞株に対して抑制効果を有し、その抑制効果がケルセチンと比較して2.4~3.6倍増加し、ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルの抑制効果は、ケルセチン-3-メチルエーテルと比較してさらに4.3~14.5倍増加し、その中でも、HepG2に対する抑制効果が最も強く、半数抑制濃度はわずか5.85mg/Lであることを示した。ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルは、15種類の癌細胞に対してin vitro増殖抑制効果があり、4種類の正常細胞に対して生物学的に安全であり、HepG2マウスの移植腫瘍のin vivoでの増殖を抑制する効果があり、HepG2細胞の遊走能力を抑制する効果があり、14種類の細胞に対して顕著なアポトーシス誘導効果があることを示した。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明により提供されるケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルの液相図である。
図2】本発明により提供されるケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルの質量スペクトルである。
図3】本発明により提供されるケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルの15種類の癌細胞と4種類の正常細胞に対するinvitroでの増殖抑制効果を比較した結果を示すグラフである。
図4】本発明により提供されるケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルのHepG2マウスの移植腫瘍に対するin vivoでの増殖を抑制する効果の結果を示す図である。ここで、Aは腫瘍体積、Bは腫瘍重量、Cは腫瘍写真、Dはマウス重量、Eは肝臓指数、Fは脾臓指数、Gは腎臓指数である。
図5】本発明により提供されるケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルによるHepG2細胞の遊走の抑制結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、腫瘍細胞の増殖を抑制する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の使用を提供する。本発明において、上記ケルセチンのオキシメチル修飾物質には、ケルセチン-3-メチルエーテル及び/又はケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルが含まれる。本発明において、上記腫瘍細胞には、骨肉腫、肝臓癌、乳癌、胃癌、子宮頸癌、肺癌、腸癌、神経膠腫、前立腺癌又は甲状腺癌の細胞が含まれる。本発明は、ケルセチンを特定の部位で修飾することにより、腫瘍細胞の増殖を抑制する物質の能力が著しく向上し、例えば、3位及び3,3’位でのメチル化の後、腫瘍細胞増殖に対する誘導体の半数抑制濃度は大幅に減少することを発見した。本発明において、上記ケルセチン、ケルセチン-3-メチルエーテル、ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルの供給源には特に制限はなく、当業者に周知の従来の市販品を使用できる。
【0015】
ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルは、一般的なフラボノールであるケルセチンの誘導体であり、本発明により、ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルが広範な腫瘍増殖抑制能を有することが判明した。ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテル、英語名:Quercetin3,3’-dimethyl ether、中文名:槲皮素3,3’-ジメチルエーテル、CAS:4382-17-6、構造を式Iに示し、液相図を図1に示し、質量スペクトルを図2に示した。ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルは、腫瘍の増殖を大幅に抑制する能力がある一方で、正常細胞に対する毒性が低く、腹腔内に注射しても安全である。
【0016】
【化1】
【0017】
本発明はまた、in vivoでの移植腫瘍の増殖を抑制する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の使用を提供した。本発明において上記ケルセチンのオキシメチル修飾物質には、ケルセチン-3-メチルエーテル及び/又はケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルが含まれる。本発明において上記腫瘍細胞には、骨肉腫、肝臓癌、乳癌、胃癌、子宮頸癌、肺癌、腸癌、神経膠腫、前立腺癌又は甲状腺癌の細胞が含まれる。
【0018】
本発明はまた、腫瘍細胞の遊走を抑制する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の使用を提供した。本発明において上記ケルセチンのオキシメチル修飾物質には、ケルセチン-3-メチルエーテル及び/又はケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルが含まれる。本発明において上記腫瘍細胞には、骨肉腫、肝臓癌、乳癌、胃癌、子宮頸癌、肺癌、腸癌、神経膠腫、前立腺癌又は甲状腺癌の細胞が含まれる。
【0019】
本発明はまた、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導するための薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の使用を提供した。本発明において上記ケルセチンのオキシメチル修飾物質には、ケルセチン-3-メチルエーテル及び/又はケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルが含まれる。本発明において上記腫瘍細胞には、骨肉腫、肝臓癌、乳癌、胃癌、子宮頸癌、肺癌、腸癌、神経膠腫、前立腺癌又は甲状腺癌の細胞が含まれる。
【0020】
本発明による腫瘍細胞の増殖を抑制する薬剤の調製におけるケルセチンのオキシメチル修飾物質の使用を、特定の実施例を参照して以下にさらに詳細に説明するが、本発明の技術的解決策には以下の実施例が含まれるが、これらに限定されない。
【0021】
実施例1
ケルセチン、ケルセチン-3-メチルエーテル及びケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルによるin vitro細胞増殖抑制の比較
方法:
骨肉腫細胞株143B、HOS、U2、肝癌細胞株HepG2、乳癌細胞株MDA-MB-231、T47D、胃癌細胞株AGS、BGC-823、SGC-7901、子宮頸癌細胞Hela、肺癌細胞A549、腸癌細胞Caco2、マウス神経膠腫細胞BV-2、ヒト前立腺癌細胞PC3、ヒト甲状腺癌BCPAP、ヒト正常肝臓細胞株L02、ヒト正常胃細胞株GES、ヒト臍帯静脈上皮細胞HUVEC及びヒト胎児肺線維芽細胞WI-38を湿式インキュベーター(37℃、5%CO)内で10%ウシ胎児血清及び1×HEPESを含むDMEM培地で培養した。細胞は対数増殖期にトリプシン-EDTAで継代した。一定密度の細胞(AGS、T47D、Caco2、BCPAP、GES、HUVECは1ウェルあたり1×10細胞、HepG2、MDA-MB-231、BGC-823、A549、PC3、L02は1ウェルあたり8×10細胞、143B、HOS、U2、SGC-7901、Hela、BV-2は1ウェルあたり5×10細胞、WI-38は1ウェルあたり3×10細胞)を96ウェルプレートに播種して24時間培養した後、処理した。新しい培地に交換した後、DMSOに溶解した培地に12.5~400mg/Lのケルセチン、ケルセチン-3-メチルエーテル及びケルセチン-3,3’-ジメチルエーテル(最終体積比0.1%、陽性対照としてDMSO)を添加した。48時間培養した後、完全培地は10%cck-8試薬を含む無血清培地と交換される。細胞を1時間培養した後、450nm及び620nmでの吸光度を測定した。各実験は独立して3回繰り返した。
【0022】
結果は表1に示すとおりである。
【0023】
【表1】
【0024】
表1に示すように、ケルセチンの3位と3,3’位をオキシメチル基で修飾した後、多様な腫瘍細胞の増殖を抑制する能力が大幅に向上し、半数抑制濃度が大幅に低下した。ケルセチンは、HepG2、MDA-MB-231、AGS、Hela及びBCPAPに対してのみ抑制効果を持っている。ケルセチン-3-メチルエーテルは、試験したすべての腫瘍細胞株に対して抑制効果があり、その抑制効果はケルセチンと比較して2.4~3.6倍増加した。ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルの抑制効果は、ケルセチン-3-メチルエーテルと比較してさらに4.3~14.5倍増加し、その中でもHepG2に対する抑制効果が最も強く、半数抑制濃度はわずか5.85mg/Lである。
【0025】
実施例2
ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルの15種類の癌細胞と4種類の正常細胞に対するin vitro増殖抑制効果の比較
方法:
骨肉腫細胞株143B、HOS、U2、肝癌細胞株HepG2、乳癌細胞株MDA-MB-231、T47D、胃癌細胞株AGS、BGC-823、SGC-7901、子宮頸癌細胞Hela、肺癌細胞A549、腸癌細胞Caco2、マウス神経膠腫細胞BV-2、ヒト前立腺癌細胞PC3、ヒト甲状腺癌BCPAP、ヒト正常肝臓細胞株L02、ヒト正常胃細胞株GES、ヒト臍帯静脈上皮細胞HUVEC及びヒト胎児肺線維芽細胞WI-38を湿式インキュベーター(37℃、5%CO)内で10%ウシ胎児血清及び1×HEPESを含むDMEM培地で培養した。細胞は対数増殖期にトリプシン-EDTAで継代した。一定密度の細胞(AGS、T47D、Caco2、BCPAP、GES、HUVECは1ウェルあたり1×10細胞、HepG2、MDA-MB-231、BGC-823、A549、PC3、L02は1ウェルあたり8×10細胞、143B、HOS、U2、SGC-7901、Hela、BV-2は1ウェルあたり5×10細胞、WI-38は1ウェルあたり3×10細胞)を96ウェルプレートに播種して24時間培養した後、処理した。新鮮培地に交換した後、DMSOに溶解した培地に12.5~400mg/Lのケルセチン、ケルセチン-3-メチルエーテル及びケルセチン-3,3’-ジメチルエーテル(最終体積比0.1%、陽性対照としてDMSO)を添加した。48時間の培養した後、完全培地は10%cck-8試薬を含む無血清培地と交換される。細胞を1時間培養した後、450nm及び620nmでの吸光度を測定した。各実験は独立して3回繰り返した。
【0026】
結果は図3に示すとおりである。ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルは多様な癌細胞に対して広範囲の抑制能力を示し、骨肉腫細胞の半数抑制濃度は143B:21.62mg/L、HOS:18.60mg/L、U2:49.47mg/L、肝癌HepG2細胞の半数抑制濃度は5.85mg/L、乳癌細胞の半数抑制濃度はMDA-MB-231:11.39mg/L、T47D:13.33mg/L、胃癌細胞の半数抑制濃度はSGC7901:28.38mg/L、BGC823:26.07mg/L、AGS:15.83mg/L、子宮頸癌Hela細胞の半数抑制濃度は11.13mg/L、肺癌細胞A549の半数抑制濃度は17.38mg/L、腸癌細胞Caco2の半数抑制濃度は21.39mg/L、マウス神経膠腫BV2の半数抑制濃度は21.12mg/L、ヒト前立腺癌細胞PC3の半数抑制濃度は31.29mg/L、ヒト甲状腺癌に対するBCPAPの半数抑制濃度は12.30mg/Lであった。
【0027】
同時に、本発明は、ヒト正常肝細胞L02、ヒト正常胃細胞GES、ヒト臍静脈上皮細胞HUVEC、及びヒト胎児肺線維芽細胞WI-38に対するケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルの半数抑制濃度は全て100mg/L以上であり、これは、ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルが、正常細胞に対して低い毒性を示しながら、癌細胞に対して選択的な増殖抑制効果を有することを示していることを発見した。
【0028】
実施例3
ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルのHepG2マウス移植腫瘍に対するin vivo増殖抑制効果
方法:
体重19~22gのBALB/cヌードマウス(5~6週齢)を中国科学院の上海実験動物センターから購入した。HepG2細胞を無血清DMEM培地に回収して細胞懸濁液を作製し、次いでその細胞懸濁液を各マウスの腋窩に約2.0×10個、マウス1匹につき1座ずつ注入した。マウスはすべて浙江大学実験動物センターで、23~25℃、湿度50~60%、12時間明期/12時間暗期サイクルで飼育された。腫瘍形成後、マウスをランダムに3つのグループに分け、各グループに7匹のマウスを割り当てた。モデルグループでは生理食塩水を腹腔内注射投与し、陽性薬物投与グループでは、テガフール(替吉奥)10mg/kgbw・dを腹腔内注射投与し、治療グループでは、ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルを50mg/kgbw・dを腹腔内注射した。腫瘍体積の変化に応じて、腫瘍形成後、1~2日間隔で腹腔内に注射し、腫瘍体積の測定とマウス体重の測定を行い、異なる治療グループ間の腫瘍体積に顕著な差が生じると、マウスを頸椎脱臼により屠殺し、腫瘍組織を慎重に剥がし、重量を測定し、次のように計算した:腫瘍形成率(%)=(治療グループの腫瘍形成マウスの数/腫瘍移植グループ腫瘍形成マウスの数)×100、腫瘍抑制率(%)=(対照グループの平均腫瘍重量g-治療グループの平均腫瘍重量g)/対照グループの平均腫瘍重量g×100。血清、肝臓、脾臓、腎臓を採取し、重量を測定した。
【0029】
結果は図4に示すとおりである。図4のAによると、初回投与から24日まで、合計10回の注射を行ったところ、対照グループと比較して24日目の腫瘍体積は有意な減少が観察され、対照グループは443.20±123.27mmであったのに対し、ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテル注射グループでは284.19±85.47mmであった。図4のBに示すように、腫瘍を剥がして重さを測ったところ、対照グループの腫瘍重量は407.00±134.91mgであったのに対し、ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテル注射グループの腫瘍重量は194.57±75.45mgであり、対照グループより52.19%低く、有意であった。図4のCは、対照グループと治療グループの腫瘍写真である。上記の結果は、ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルがin vivoでのHepG2移植腫瘍の増殖に対する抑制効果を有することを示している。
【0030】
同時に、ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルは生物学的安全性を示した。図4のDに示すように、対照グループと治療グループの体重には有意差はなかったが、陽性薬物グループのマウスは12日目に非常に顕著な体重減少が見られ、すべて死亡した。肝臓指数(図4のE)、脾臓指数(図4のF)、及び腎臓指数(図4のG)はすべて、ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルと対照グループの間に有意差がないことを示した。上記の結果は、ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルが生物学的安全性を持っていることを示している。
【0031】
実施例4
ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルのHepG2細胞の遊走能力に対する抑制
方法:
細胞密度5×10細胞/mLのHepG2細胞を6ウェルプレートに播種し(1ウェルあたり1mL)、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地を添加し、一晩培養して細胞の単層細胞を形成させた。200μLピペットガンの先端を使用して細胞の単層に「一」の形にスクラッチし、PBSで3回洗浄し、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地を加え、次に1mg/Lのケルセチン-3,3’-ジメチルエーテル溶液を添加し、DMSOを溶媒対照として使用して、24時間培養した。
【0032】
結果は図5に示すとおりである。図5によると、スクラッチ時の細胞間隙の例は、対照グループと治療グループで同じであり、1日間の培養後、治療グループの細胞間スペースはコントロールグループの細胞間スペースよりも有意に高かった。このことは、ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルがHepG2細胞の遊走能を抑制する作用があることを示している。
【0033】
実施例5
ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルの細胞の遊走能力に対する抑制
方法:
一定密度の細胞(AGS、T47D、Caco2、BCPAP、GES、HUVECは6×10細胞/mL、HepG2、MDA-MB-231、BGC-823、A549、PC3、L02は5×10細胞/mL、143B、HOS、U2、SGC-7901、Hela、BV-2は3×10細胞/mL、WI-38は1.8×10細胞/mL)を6ウェルプレート(1ウェルあたり1mL)に播種し、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地を添加し、一晩培養し、一晩培養して細胞の単層細胞を形成させた。200μLピペットガンの先端を使用して細胞の単層に「一」の形にスクラッチし、PBSで3回洗浄し、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地を加え、次に対応する用量のケルセチン-3,3’-ジメチルエーテル(骨肉腫細胞の用量は143B:4mg/L、HOS:4mg/L、U2:10mg/L、乳癌細胞の用量はMDA-MB-231:2mg/L、T47D:3mg/L、胃癌細胞の用量はSGC7901:6mg/L、BGC823:5mg/L、AGS:3mg/L、子宮頸癌Hela細胞の用量は2mg/L、肺の用量癌細胞A549は3mg/L、腸癌細胞Caco2の用量濃度は4mg/L、マウス神経膠腫BV2の用量濃度は4mg/L、ヒト前立腺癌細胞PC3の用量濃度は6mg/L、ヒト甲状腺癌BCPAPの用量濃度は2mg/L)溶液を加え、DMSOを溶媒対照として使用して、24時間培養した。顕微鏡でスクラッチ時の幅と測定時の幅を測定し、スクラッチ鎖率を計算し、スクラッチ率は、スクラッチ率=(スクラッチ時の幅-測定時の幅)/スクラッチ時の幅×100%であった。スクラッチ抑制率=(対照グループスクラッチ閉鎖率-治療グループスクラッチ閉鎖率)/対照グループスクラッチ閉鎖率×100%であった。
【0034】
結果は表2に示すように、ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルは14種類の細胞のスクラッチ閉鎖に対して有意な抑制能力を示した。骨肉腫細胞のスクラッチ閉鎖に対するの抑制率は143B:54.34%、HOS:57.60%、U2:70.46%であり、乳癌細胞の抑制率はMDA-MB-231:81.98%、T47D:64.12%であり、胃癌細胞の抑制率はSGC7901:72.02%、BGC823:73.67%、AGS:60.91%、子宮頸癌Hela細胞の抑制率は53.97%、肺癌細胞A549の抑制率は69.61%、腸癌細胞Caco2の抑制率は66.64%、マウス神経膠腫BV2の抑制率は75.22%、ヒト前立腺癌細胞PC3の抑制率は70.92%、ヒト甲状腺癌BCPAPの抑制率は64.66%であった。ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテル処理には、多様な腫瘍細胞の遊走を抑制する効果がある。
【0035】
【表2】
【0036】
実施例6
ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルの腫瘍細胞に対するアポトーシス促進効果
方法:
トリプシンは対数期にある腫瘍細胞を消化し、終結後に遠心分離により回収し、懸濁液を作り、細胞を計数し、一定濃度(AGS、T47D、Caco2、BCPAP、GES、HUVECは6×10細胞/mL、HepG2、MDA-MB-231、BGC-823、A549、PC3、L02は5×10細胞/mL、143B、HOS、U2、SGC-7901、Hela、BV-2は3×10細胞/mL、WI-38は1.8×10細胞/mL)に調整し、一定濃度の細胞を1ウェルあたり1mLの濃度で6ウェルプレートに移した。細胞培養インキュベーターに入れて12時間培養し、細胞を壁に接着させた。対応する用量のケルセチン-3,3’-ジメチルエーテル(骨肉腫細胞の用量は143B:4mg/L、HOS:4mg/L、U2:10mg/L、乳癌細胞の用量はMDA-MB-231:2mg/L、T47D:3mg/L、胃癌細胞の用量はSGC7901:6mg/L、BGC823:5mg/L、AGS:3mg/L、子宮頸癌Hela細胞の用量は2mg/L、肺の用量癌細胞A549は3mg/L、腸癌細胞Caco2の用量濃度は4mg/L、マウス神経膠腫BV2の用量濃度は4mg/L、ヒト前立腺癌細胞PC3の用量濃度は6mg/L、ヒト甲状腺癌BCPAPの用量濃度は2mg/L)溶液を加えた。DMSOを溶媒対照として使用して、24時間培養した。24時間の作用後、300g、4℃で5分間遠心分離して細胞を収集し、上清を廃棄し、細胞を予冷したPBSで2回洗浄し、毎回300g、4℃で5分間遠心分離した。1~5×10個の細胞を収集した。100μlの1×結合バッファー(Binding Buffer)を加えて細胞を再懸濁した。5μlのAnnexin V-FITCと5μlのPIを加え、軽く混ぜた。室温、暗所で10分間反応させた。400μlの1×Binding Bufferを加え、均一に混合し、サンプルは1時間以内にフローサイトメトリーで測定した。解析はフローサイトメーターの標準的な測定手順に従って実施し、励起波長は488nm、細胞数は20,000個で、結果は細胞周期フィッティングソフトウェアModFitを用いて解析した。解析時にはFL2-wとFL2-Aディスプレイを使用し、結合細胞を除去した。
【0037】
結果は表3に示すように、ケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルは15種類の細胞に対して顕著なアポトーシス誘導効果がある。
【0038】
【表3】
【0039】
前述の内容は、本発明の好ましい実施形態に過ぎず、当業者であれば、本発明の原理から逸脱することなく、いくつかの改良及び修正ができ、これらの改良及び装飾もまた、本発明の保護範囲とみなされるべきであることに留意されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-01-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗腫瘍薬剤であって、前記薬剤にはケルセチンのオキシメチル修飾物質が含まれることを特徴とする抗腫瘍薬剤。
【請求項2】
前記薬剤がin vivoの移植腫瘍の増殖を抑制できることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
前記薬剤が腫瘍細胞の遊走を抑制できることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
【請求項4】
前記薬剤が腫瘍細胞のアポトーシスを誘導できることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
【請求項5】
前記薬剤が腫瘍細胞の増殖を抑制できることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
【請求項6】
前記ケルセチンのオキシメチル修飾物質には、ケルセチン-3-メチルエーテル及び/又はケルセチン-3,3’-ジメチルエーテルが含まれることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項7】
前記腫瘍細胞には、骨肉腫、肝臓癌、乳癌、胃癌、子宮頸癌、肺癌、腸癌、神経膠腫、前立腺癌又は甲状腺癌の細胞が含まれることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の薬剤。
【国際調査報告】