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特表2024-527137BOGの再液化およびLNGタンクの中へのリサイクルのための方法及び装置
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  • 特表-BOGの再液化およびLNGタンクの中へのリサイクルのための方法及び装置 図1
  • 特表-BOGの再液化およびLNGタンクの中へのリサイクルのための方法及び装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】BOGの再液化およびLNGタンクの中へのリサイクルのための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/00 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
F17C13/00 302A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506489
(86)(22)【出願日】2022-08-02
(85)【翻訳文提出日】2024-03-13
(86)【国際出願番号】 EP2022071610
(87)【国際公開番号】W WO2023012132
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】21189168.4
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592229502
【氏名又は名称】ブルクハルト コンプレッション アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100116322
【弁理士】
【氏名又は名称】桑垣 衛
(72)【発明者】
【氏名】ファレー、エイドリアン ルーツィ
(72)【発明者】
【氏名】シュロート、ローマン
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA06
3E172AB04
3E172BA04
3E172BD01
3E172DA90
3E172EB02
3E172HA04
3E172HA12
(57)【要約】
ボイルオフガス(BOG)を再液化して液化天然ガス(LNG)タンクの中に戻すための方法及び装置であって、前記方法は、LNGタンク(3)のヘッドスペースからBOG(F2)を回収する工程と、第1の圧縮段(70a)においてBOGを絶対圧0.8MPaと絶対圧1.8MPaとの間の第1の圧力p1まで圧縮して、前記ガスの第1の部分を取り出す工程と、最終圧縮段(70b)における工程からのガスの第2の部分を絶対圧12.0MPa以上の第2の圧力p2までさらに圧縮する工程と、さらに圧縮されたガスの少なくとも一部分を-20℃と-100℃との間の第1の温度T1まで冷却する工程と、工程からのガスを絶対圧0.8MPaと絶対圧2.0MPaとの間の第3の圧力p3まで膨張させる工程と、気相を第1の圧縮段から取り出されたガスの第1の部分と組み合わせるため、および液相をLNGタンク(3)の中に戻すために、工程からのガスを液相と気相とに分離する工程とを備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイルオフガス(BOG)を液化天然ガス(LNG)タンクに再液化して戻すための方法であって、
a)LNGタンク(3)のヘッドスペースからBOG(F2)を回収する工程と、
b)前記BOGを第1の圧縮段(70a)において絶対圧0.8MPaと絶対圧1.8MPaとの間の第1の圧力pまで圧縮し、このガスの第1の部分を取り出す工程と、
c)工程b)からの前記ガスの第2の部分を、最終圧縮段(70b)において、絶対圧12.0MPa以上、好ましくは絶対圧12.0MPa~40.0MPa、特に好ましくは絶対圧15.0MPa~30.0MPaの第2の圧力pまでさらに圧縮する工程と、
d)工程c)からのさらに圧縮された前記ガスの少なくとも一部を-20℃と-100℃との間の第1の温度Tまで冷却する工程と、
e)工程d)からの前記ガスを絶対圧0.8MPaと絶対圧2.0MPaとの間の第3の圧力pまで膨張させる工程と、
f)工程e)からの前記ガスを、液相と気相とに分離して、
)前記気相を、工程c)からの前記ガスの取り出された前記第1の部分と組み合わせる工程と、
)前記液相を前記LNGタンク(3)に戻す工程と、を備える方法。
【請求項2】
工程f)において、前記液相は、前記LNGタンク(3)に戻される前に、
--140℃と-161℃との間の温度Tまで冷却され、好ましくは前記LNGタンク(3)の前記ヘッドスペースからの冷却用BOG(F2)との熱交換によって冷却される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程d)における前記冷却は、少なくとも部分的には前記LNGタンク(3)の前記ヘッドスペースからの冷却用BOG(F2)との熱交換によって実行される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程d)における前記冷却は、少なくとも部分的には工程f)からの前記気相との熱交換によって実行される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程d)において、工程c)からのさらに圧縮された前記ガスの一部分は、高圧ガスインジェクションエンジン(2)のための供給ラインに対し供給される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程f)において、前記圧力pは、所定の範囲内の値を有するように監視及び制御される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程f)において、前記LNGタンクに戻る量を前記値に応じて調整するために、前記液相の体積が監視される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ボイルオフガス(BOG)を液化天然ガス(LNG)タンクに再液化して戻すための装置であって、
-冷却用流体、好ましくはLNGタンク(3)からのBOGを通過させるためのラインと、冷却対象の圧縮ガスを通過させる、好ましくは向流により通過させるためのラインとを備える第1の熱交換器(20)と、
-多段圧縮機(10)であって、少なくとも第1の圧縮段(70a)と、最終圧縮段(70b)と、を備え、前記第1の圧縮段(70a)は、前記LNGタンク(3)からのBOG(F2)を絶対圧0.8MPaと絶対圧1.8MPaとの間の第1の圧力pまで圧縮するように構成されており、前記最終圧縮段(70b)は、予備圧縮されたBOGを絶対圧12.0MPa以上、好ましくは絶対圧12.0MPa~40.0MPa、特に好ましくは絶対圧15.0MPa~30.0MPaの第2の圧力pまで圧縮するように構成されている、多段圧縮機(10)と、
-前記第1の圧縮段(70a)の下流に流体連通状態で配置されるとともに、さらに下流において低圧ガスインジェクションエンジン(4)、ガス燃焼ユニット、又はその両方のための供給ラインに通じている分岐ライン(6)と、
-戻りライン(8)と、
-圧縮ガスを第2の圧力pから第3の圧力pまで膨張させるように構成されている第1の膨張ユニット(30)であって、pは絶対圧0.8MPaと絶対圧2.0MPaとの間、好ましくは絶対圧1.0MPaと絶対圧1.8MPaとの間である、第1の膨張ユニット(30)と、
-圧力pにおいて前記LNGタンク(3)に戻すために液化ガス部分を分離するとともに、バイパスライン(9)にガス状部分を供給するように構成されている気液分離器(40)であって、前記バイパスライン(9)は、前記分岐ライン(6)に通じている気液分離器(40)と、を備え、
前記多段圧縮機(10)は、上流において、前記LNGタンク(3)のヘッドスペースに流体連通状態で接続されており、冷却用BOGを通過させるために、好ましくは前記熱交換器(20)の前記ラインを介して前記LNGタンク(3)の前記ヘッドスペースに流体連通状態で接続されており、前記多段圧縮機は、下流において、冷却対象の圧縮ガスを通過させるために前記戻りライン(8)を介して、流体連通状態で前記第1の熱交換器(20)の前記ラインに接続されており、さらに下流において、前記第1の膨張ユニット(30)に接続されており、さらになお下流において、前記気液分離器(40)に接続されている、装置。
【請求項9】
-冷却用流体、好ましくはLNGタンク(3)からのBOGを通過させるためのライン(5)と、冷却対象の圧縮ガスを通過させる、好ましくは向流により通過させるためのラインとを有する第2の熱交換器(21)をさらに備え、
前記第2の熱交換器(21)において、冷却対象の圧縮ガスを通過させるための前記ライン(5)は、前記気液分離器(40)の液体出口と、前記LNGタンク(3)との間に流体連通状態で配置されており、好ましくは、冷却用流体を通過させるための前記ラインは、前記LNGタンク(3)の前記ヘッドスペースと、冷却用流体を通過させるための前記第1の熱交換器の前記ラインとの間に流体連通状態で配置されている、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
-冷却用ラインが前記バイパスライン(9)の一部であり、冷却対象のラインが前記戻りライン(8)の一部である、第3の熱交換器(22)をさらに備える、請求項8又は9に記載の装置。
【請求項11】
-圧縮ガスを第3の圧力pから大気圧まで膨張させるように構成されている第2の膨張ユニット(31)をさらに備え、
前記第2の膨張ユニット(31)は、前記気液分離器(40)の液体出口と、前記LNGタンク(3)との間において、好ましくは冷却対象の圧縮ガスを通過させるための前記第2の熱交換器(21)の前記ライン(5)と、前記LNGタンク(3)との間において流体連通するように構成されている、請求項8~10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
高圧ガスインジェクションエンジン(2)に前記LNGタンク(3)中に貯蔵されているガスを供給するための燃料ガス供給システムの一部であり、
-前記多段圧縮機(10)の前記第2の圧縮段(70a)の下流に流体連通状態で配置され、さらに下流において、高圧ガスインジェクションエンジン(2)のための供給ラインに通じている出口(7)をさらに備え、
前記圧縮ガスは、その量が前記高圧ガスインジェクションエンジン(2)の燃料要求量を超えている限り、前記戻りライン(8)に対し供給されることが可能である、請求項8~11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記気液分離器(40)は、前記気液分離器における圧力を測定するための圧力センサと、測定された前記圧力に応じて前記気液分離器(40)のガス出口と前記バイパスライン(9)との間に配置されている弁(80)を作動させるためのコントローラと、を備える、請求項8~12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記気液分離器(40)は、レベルセンサと、測定された前記レベルに応じて前記気液分離器(40)の液体出口と前記LNGタンク(3)との間に配置されている弁(80)を作動させるためのコントローラと、を備える、請求項8~13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
船舶、特に高圧ガスインジェクションエンジン(2)によって推進される船舶における、請求項8~14のいずれか一項に記載の装置の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化天然ガス(LNG)タンクからのボイルオフガス(BOG)を再液化する技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液化天然ガス(LNG)などの液化ガスの消費量が世界的に急激に増加している。天然ガスを極低温まで冷却することによって生成されるLNGは、体積が小さいので、貯蔵および輸送に非常に適している。さらに、LNGのような液化ガスは汚染物質が少ないので、例えば、重質原油よりも規制要件に適合する。
【0003】
LNGは、メタンを主成分とする天然ガスを約-163℃まで冷却して得られる無色透明の液体である。しかしながら、天然ガスは常圧下において-163℃の極低温で液化されるので、LNGは温度が少し上昇すると、容易に気化し得る。LNG貯蔵タンクでは、したがって、LNGが連続的に自然気化してボイルオフガス(BOG)が生成される。
【0004】
BOGの形成は、貯蔵されているLNGの損失を意味し、したがって、例えばLNGタンカーにおける輸送効率を低下させる。貯蔵タンク中にBOGが溜まると、貯蔵タンク中の圧力が上昇してタンクが破損し得るというリスクもある。
【0005】
このような問題を解決するために、BOGを再液化してLNG貯蔵タンクに戻す方法、BOGをエネルギー源として内燃機関(船舶用エンジンなど)に供給する方法、及びそれらの組み合わせが提案されている。例えば、特許文献1では、LNGタンクからDFDEエンジン、X-DFエンジン又はME-GI船舶用エンジンにBOGを供給することが提案されている。同時に、部分再液化システム(Partial Reliquefaction System、PRS)において、圧縮BOGを再液化するための冷媒としてBOGを使用することが計画されている。
【0006】
しかしながら、このシステムは、再液化サイクル中にガス混合物中に窒素が蓄積するという欠点を有する。天然ガスは、メタンを主成分とするガス混合物であるが、多くの場合、また、エタン、プロパン、ブタン及び他の炭化水素も含有する。他の副成分は、硫化水素、窒素及び二酸化炭素が含まれる場合がある。窒素は、典型的には、天然ガス中に約1%~15%の割合において含有されている。窒素の沸点は-196℃であり、-161℃において気相に移行するメタンの沸点よりも著しく低い。したがって、Nは一般的なBOG再液化システムではほとんど再液化することができないので、混合物におけるその割合は時間とともに増加する。天然ガスの品質は低下する。加えて、圧縮システムの容量の相当な部分が、増加したN含有量によって使い果たされ、システムの効率が著しく低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2019/0351988号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、係る従来技術の欠点を克服することである。特に、本発明の目的は、連続したサイクルにわたってNの蓄積が低減又は防止される、BOGの部分再液化のための方法又は部分再液化システム(PRS)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、請求項1の特徴を有する方法及び請求項8の特徴を有する装置によって解決される。
特に、該目的は、ボイルオフガス(BOG)を液化天然ガス(LNG)タンクに再液化して戻すための方法によって解決され、該方法は、
a)LNGタンクのヘッドスペースからBOG(F2)を回収する工程と、
b)前記BOGを第1の圧縮段において絶対圧0.8MPaと絶対圧1.8MPaとの間の第1の圧力pまで圧縮し、このガスの第1の部分を取り出す工程と、
c)工程b)からの前記ガスの第2の部分を、最終圧縮段において、絶対圧12.0MPa以上、好ましくは絶対圧12.0MPa~40.0MPa、特に好ましくは絶対圧15.0MPa~30.0MPaの第2の圧力pまでさらに圧縮する工程と、
d)工程c)からのさらに圧縮された前記ガスの少なくとも一部を-20℃と-100℃との間の第1の温度Tまで冷却する工程と、
e)工程d)からの前記ガスを絶対圧0.8MPaと絶対圧2.0MPaとの間の第3の圧力pまで膨張させる工程と、
f)工程e)からの前記ガスを、液相と気相とに分離して、
)前記気相を、工程c)からの前記ガスの取り出された前記第1の部分と組み合わせる工程と、
)前記液相を前記LNGタンクに戻す工程と、を備える。
【0010】
そうした方法は、システムから窒素を除去するのに特に良好であり、窒素富化ガスを有用な目的のために使用することが可能であることが分かった。工程f)において、窒素はほぼ完全に気相であり得る。気相を、第1の圧縮段においてpまで圧縮されたBOGと組み合わせる場合(工程c)、それは、低圧ガスインジェクションエンジンを確実に動作させるために使用されることが可能である。
【0011】
本方法はさらに、フラッシュガスが再び圧縮される代わりに、再液化システムPRSから概ね抜き取られるという利点を有する。これにより、従来のシステムと比較して、第1の圧縮段に対する負荷が低減される。これによって、サイズをより小さくすることが可能である、及び/又はより効率的に動作することが可能である。全体として、エネルギー消費が低減される。
【0012】
最終圧縮段における工程b)からのガスの第2の部分の第2の圧力pまでのさらなる圧縮、続く冷却(工程d))及び等エンタルピー膨張(工程e))は、ジュール-トムソン効果を一部使用して、ガスを効率的に再液化するのに役立つ。第2の圧力pでは、比較的高い圧力が目標とされ、その結果、Tまでの通常の水冷の後、対応して低いエンタルピーを有する約35℃-45℃における高圧縮ガスが得られる。ガスのさらなる冷却工程及び等エンタルピー膨張e)によって、圧縮ガスを、最初にTの温度にし、圧力pまでの膨張を伴ってさらに低い温度にすることが可能である、すなわち相分離に有利な状態にすることが可能である。
【0013】
上記の方法において、工程d)における冷却は、少なくとも部分的にはLNGタンクのヘッドスペースからの冷却用BOG(F2)との熱交換(好ましくは間接熱交換)によって行われることが好ましい。対応する冷媒(典型的にはN)を有する別個の冷却回路を用いて、記載された方法の1つ以上の冷却工程を実行することが可能である。しかしながら、これは費用がかかり、エネルギー集約的である。対照的に、LNGの沸点よりわずかに高い温度の冷却剤は、BOGとしてシステム中に既に存在している。
【0014】
好ましい実施形態では、サブ工程f)において、液相は、LNGタンクに戻される前に、-140℃と-161℃との間の温度Tまで冷却される。これにより、新たなBOGの形成が低減される。好ましくは、この冷却は、LNGタンクからのBOGに対する向流による熱交換によって達成される。このようにして、既存の冷却能力が最適に利用される。LNGタンクへの液相の供給前又は供給時、再液化ガスは、最終的に絶対圧0.1MPaの周囲圧力まで膨張される。
【0015】
上記のように、工程f)と、工程d)との両方において、LNGタンクのヘッドスペースからの冷却用BOGとの熱交換(好ましくは間接熱交換)によって冷却が行われる場合、LNGタンクから直接取り出された特に冷たいBOGがサブ工程f)における冷却に使用され、次いでBOGがわずかに高い温度における工程d)での冷却に使用されると好都合である。
【0016】
特に好ましい実施形態では、工程d)における冷却は、少なくとも部分的には工程f)からの前記気相との熱交換によって実行される。相分離の後、気相は圧力p及び典型的には約-80℃の温度を有する。気相は低圧ガスインジェクションエンジンにおいて使用することが意図されているので、そうした低温及び多くの場合そうした高圧は必要とされない。従って、気相を冷却プロセスにおいて冷媒として使用することが可能である。冷却剤として使用する前に工程f)からの気相をさらに膨張させることによって、ジュール-トムソン効果を使用して温度をさらに下げることが可能である。
【0017】
工程f)からの気相及びLNGタンクのヘッドスペースからのBOGが両方とも工程d)において冷却剤として使用される場合が特に好ましいが、工程f)からの気相は、より温かい圧縮ガスを予備冷却するために使用され、一方、LNGタンクからのBOGは、既に予備冷却された圧縮ガスを冷却するために使用される。そうした配置では、pまで圧縮され、典型的には100℃をはるかに超える温度において存在するガスは、最初に水冷によって約35℃-45℃まで冷却され、次いで、工程f)からの気相との熱交換において約25℃~-15℃の中間温度まで冷却され、さらに下流においてLNGタンクからの冷却用BOGとの熱交換によって-20℃と-100℃との間の温度Tまで冷却される。この一連の熱交換工程を通して、BOG及び圧縮ガスの既存の冷却能力が、システムにおいて利用可能な冷却能力の使用を最適化するために使用される。
【0018】
工程d)において、工程c)からのさらに圧縮された前記ガスの一部分が、高圧ガスインジェクションエンジン(2)のための供給ラインに対し供給されることが好ましい。この実施形態では、圧力pにおける高圧縮ガスは、高圧ガスインジェクションエンジンを駆動するために使用されることが可能でもあり、その代わりに再液化されることが可能でもある。天然ガスは、大気汚染物質の排出を比較的低いレベルに維持するために、特に液化ガスタンカーにおいて選択される燃料である。ガスインジェクションエンジン又はPRSに対し供給される量の調整能力によって、気候条件及び気象条件ならびに高圧ガスインジェクションエンジンの燃料要求量が柔軟に考慮されることが可能になる。
【0019】
好ましい実施形態において、工程f)において、前記圧力pは、所定の範囲内の値を有するように、監視及び制御される。これは、圧力センサによって達成することが可能である。測定値によって、気液分離器における条件を最適化することが可能になり、必要であれば、LNG送達速度を調整することが可能になる。それに加えて、又はそれに代えて、工程f)において、前記LNGタンクに戻る量を前記値に応じて調整するために、前記液相の体積が監視されることが可能である。
【0020】
本発明のさらなる態様は、ボイルオフガス(BOG)を液化天然ガス(LNG)タンクに再液化して戻すための装置であって、
-冷却用流体(好ましくはLNGタンクからのBOG)を通過させるためのラインと、冷却対象の圧縮ガスを通過させる、好ましくは向流により通過させるためのラインとを備える第1の熱交換器と、
-多段圧縮機であって、少なくとも第1の圧縮段と、最終圧縮段と、を備え、前記第1の圧縮段は、前記LNGタンクからのBOG(F2)を絶対圧0.8MPaと絶対圧1.8MPaとの間の第1の圧力pまで圧縮するように構成されており、前記最終圧縮段は、予備圧縮されたBOGを絶対圧12.0MPa以上、好ましくは絶対圧12.0MPa~40.0MPa、特に好ましくは絶対圧15.0MPa~30.0MPaの第2の圧力pまで圧縮するように構成されている、多段圧縮機(10)と、
-前記第1の圧縮段の下流に流体連通状態で配置されるとともに、さらに下流において低圧ガスインジェクションエンジン、ガス燃焼ユニット、又はその両方のための供給ラインに通じている分岐ライン(6)と、
-戻りラインと、
-圧縮ガスを第2の圧力pから第3の圧力pまで膨張させるように構成されている第1の膨張ユニットであって、pは絶対圧0.8MPaと絶対圧2.0MPaとの間、好ましくは絶対圧1.0MPaと絶対圧1.8MPaとの間である、第1の膨張ユニットと、
-圧力pにおいて前記LNGタンク(3)に戻すために液化ガス部分を分離するとともに、バイパスラインにガス状部分を供給するように構成されている気液分離器であって、前記バイパスラインは、前記分岐ラインに通じている気液分離器と、を備え、
前記多段圧縮機は、上流において、前記LNGタンクのヘッドスペースに流体連通状態で接続されており、冷却用BOGを通過させるために、好ましくは前記熱交換器の前記ラインを介して前記LNGタンクの前記ヘッドスペースに流体連通状態で接続されており、前記多段圧縮機は、下流において、冷却対象の圧縮ガスを通過させるために前記戻りラインを介して、流体連通状態で前記第1の熱交換器の前記ラインに接続されており、さらに下流において、前記第1の膨張ユニットに接続されており、さらになお下流において、前記気液分離器に接続されており、前記第1の熱交換器は、特に、前記第2の圧力pまでさらに圧縮された前記BOGの少なくとも一部分を、-20℃と-100℃との間の第1の温度Tまで冷却するように構成されている、装置に関する。
【0021】
そうした装置は、本発明による方法を実行することが可能である。天然ガス中に存在する窒素は、気液分離器の気相中に蓄積し、システムから除去され、燃料混合物として有用な目的に供される。バイパスラインを介して、気相を、第1の圧縮段においてpまで圧縮されたBOGと組み合わせることが可能であり、したがって、低圧ガスインジェクションエンジンへの燃料の確実な供給を保証する。一般に、本発明による装置によって、再液化サイクルからのフラッシュガスを、それを繰り返し圧縮する代わりにシステムから除去することが可能になり、これにより、多段圧縮システム(特に第1の圧縮段)の負荷が軽減され、より小さな設計が可能になる。
【0022】
第1の圧縮段は、各々が水冷を伴う1つ以上のピストン圧縮機を備えることが可能である。同じことがより高い各圧縮段に適用される。最終圧縮段の後に水冷を行うことも好ましい。このようにして、高圧縮LNGを圧力p及び約35℃-45℃の温度において提供することが可能であり、これは再液化システムPRSにおける処理によく適している。
【0023】
供給ラインを通して燃料が供給される低圧ガスインジェクションエンジンは、典型的には、絶対圧約0.6MPa~1.8MPaの圧力、好ましくは絶対圧約0.6MPaの圧力におけるガスを使用する。分岐ラインにおける圧力pは、この目標圧力よりも高い可能性があるので、分岐ラインと供給ラインとの間にスロットル弁を設けてガスの圧力を解放することが可能である。
【0024】
膨張ユニットは、膨張弁又はエキスパンダとすることが可能である。膨張中、ジュール-トムソン効果を用いて、再液化対象のガスの温度をさらに低下させる。気液分離器中の圧力pは、分岐ライン中の圧力pよりも高くすることが可能であるので、また、バイパスラインは、膨張ユニットを有することが可能でもある。
【0025】
好ましい実施形態では、上述の装置は、冷却用流体(好ましくはLNGタンクからのBOG)を通過させるためのラインと、冷却対象の圧縮ガスを(好ましくは向流により)通過させるためのラインとを有する第2の熱交換器を備え、前記第2の熱交換器において、冷却対象の圧縮ガスを通過させるための前記ラインは、前記気液分離器と前記LNGタンクとの間に流体連通状態で配置されており、好ましくは、冷却用流体を通過させるための前記ラインは、前記LNGタンクのヘッドスペースと前記第1の熱交換器との間に流体連通状態で配置されている。第2の熱交換器を用いて、特に冷たいBOGを、流出直後に再液化されたガスを冷却するために使用することが可能であり、一方、わずかに暖まったBOGは、水冷システムの下流であり、気液分離器の上流の冷却段階において冷却剤として使用される。PRSの異なるセクションにおいて冷却剤としてのBOGの目標とされた使用によって、全体的な再液化率が増加する。
【0026】
前記装置は、冷却用ラインが前記バイパスラインの一部であり、冷却対象のラインが前記戻りラインの一部である第3の熱交換器を備えることが好ましい。これは、圧力p及び約-82℃の温度を有する気液分離器において分離された気相が、最初に冷媒として使用され、低圧ガスインジェクションエンジン用の燃料として下流で使用されることが可能であることを意味する。さらなる膨張ユニットを、気液分離器のガス出口と第3の熱交換器との間に配置することが可能である。冷却剤として使用する前に工程f)からの気相をさらに膨張させることによって、ジュール-トムソン効果を使用して温度をさらに低下させることが可能である。
【0027】
前記装置が、圧縮ガスを第3の圧力pから大気圧まで膨張させるように構成されている第2の膨張ユニットをさらに備え、前記第2の膨張ユニットは、前記気液分離器の液体出口と前記LNGタンクとの間において、好ましくは、冷却対象の圧縮ガスを通過させるための前記第2の熱交換器の導管と前記LNGタンクとの間において流体連通状態で配置されていることが好ましい。
【0028】
気液分離器の後、液相は典型的には圧力pおよび約-110℃の温度である。第2の熱交換器において約-155℃まで冷却した後、再液化ガスを、さらなる膨張ユニットにおいて、例えば大気圧まで再び膨張させることが可能であり、特に天然ガスの沸点付近の低温を達成することが可能である。
【0029】
前記装置は、高圧ガスインジェクションエンジンに前記LNGタンク中に貯蔵されているガスを供給するための燃料ガス供給システムの一部であることが可能であり、前記多段圧縮機の前記第2の圧縮段の下流に流体連通状態で配置され、さらに下流において高圧ガスインジェクションエンジンのための供給ラインに通じている出口をさらに備え、前記圧縮ガスは、その量が前記高圧ガスインジェクションエンジンの燃料要求量を超えている限り、前記戻りラインに対し(特に前記出口から)供給されることが可能である。
【0030】
この実施形態では、圧力pにおける高圧縮ガスは、高圧ガスインジェクションエンジンを駆動するために使用されるか、PRSにおいて再液化されることが可能である。また、例えば、輸送車両を駆動するために天然ガスを使用することも可能である。天然ガスは、大気汚染物質の排出を比較的低いレベルに維持するために、特に液化ガスタンカーにおいて選択される燃料である。ガスインジェクションエンジン又はPRSに対し供給される量の調整能力によって、気候条件及び気象条件ならびに高圧ガスインジェクションエンジンの燃料要求量に柔軟に応答することが可能になる。
【0031】
本発明の一態様は、上述の装置に関し、前記気液分離器は、前記気液分離器における圧力を測定するための圧力センサと、測定された前記圧力に応じて前記気液分離器のガス出口と前記バイパスラインとの間に配置されている弁を作動させるためのコントローラと、を有する。上述した装置は、前記気液分離器がレベルセンサと、測定された前記レベルに応じて前記気液分離器の液体出口と前記LNGタンクとの間に配置されている弁を作動させるための制御ユニットと、を有するように設計されることが可能である。気液分離器における圧力および液体レベルは、対応する制御システムによって弁を介して調節されることが可能である。
【0032】
本発明はさらに、船舶(特に高圧ガスインジェクションエンジンによって推進される船舶)における上述の装置の使用に関する。船舶上において利用可能な空間が限られていることを考慮すると、効率の向上及びLNGからのN成分の連続的な抜出のために、多段圧縮機の圧縮段をより小さくすることが可能である場合、特に有用である。
【0033】
本発明は、図面によってさらに説明される。図面は例示を目的としたものであり、限定として理解されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明による装置の概略図。
図2】本発明による方法を示す概略モリエル線図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、ボイルオフガス(BOG)を液化天然ガス(LNG)タンクに再液化して戻すための装置の概略図である。BOG(F2)は、約-161℃においてLNGタンク3から取り出され、最初に第2の熱交換器21に対し供給され、そこで冷却用流体として、冷却対象の再液化ガスに対して向流によりライン5を通過する。さらに下流において、BOGは、第1の熱交換器20(すなわち冷却流体を通過させるためのライン)に、冷却対象の圧縮ガスに対して向流により供給される。こうして約30℃の温度まで加熱されたBOGは、次いで、多段圧縮機10に対し供給され、第1の圧縮段70aにおいて圧縮される。好ましくは、第1の圧縮段は、各々が続く水冷を伴う並列又は直列に接続された1つ又は2つのピストン圧縮機71,72を有する。第1の圧縮段70aは、BOGを例えば絶対圧1.2MPaの第1の圧力pまで圧縮するように設定されている。第1の圧縮段70aの後には、分岐ライン6が流体連通状態で下流に配置されており、分岐ライン6はさらに下流において低圧ガスインジェクションエンジン4のための供給ラインに通じている。ガスを、分岐ライン6上に配置されている弁によって、ガスインジェクションエンジン4によって必要とされる圧力(例えば絶対圧0.6MPa)まで減圧することが可能である。該図は、多段圧縮機構成10が、最終圧縮段70bでもある第2の圧縮段を有することを示す。最終圧縮段70bは、予備圧縮されたBOGを絶対圧約30.0MPaの第2の圧力pまで圧縮するように構成されている。これは、各々が続く水冷を伴う3つのピストン圧縮機73,74,75によって達成される。しかしながら、また、異なる数又は異なるタイプの圧縮機を使用することが可能でもあり、それらを並列又は直列に接続することが可能である。
【0036】
多段圧縮機構成10の下流には、一方では、流体連通している出口7が配置されており、出口7は、高圧ガスインジェクションエンジン2のための供給ラインに通じている。他方では、戻りライン8が配置されており、その内容物は、さらに下流において、第1の熱交換器20を使用して、とりわけ約-70℃の温度まで間接的に冷却される。その結果、圧縮ガスは、その量が高圧ガスインジェクションエンジン2の燃料要求量を超える場合、戻りライン8に対し供給されることが可能である。第1の熱交換器20のさらに下流には、第1の膨張ユニット30が接続されており、第1の膨張ユニット30は、圧縮されるとともに冷却されたガスを圧力pから絶対圧約1.5MPaの第3の圧力pまで等エンタルピー膨張させるように設定されており、それによって温度がさらに約-110℃まで低下する。
【0037】
気液分離器40は、膨張ユニット30の下流に接続され、圧力pにおいてLNGタンク3に戻すために液化ガス部分を分離するとともに、バイパスライン9にガス状部分を供給するように設定され、バイパスライン9は分岐ライン6に通じている。図1から分かるように、例示的な装置は第3の熱交換器22を備え、その冷却用ラインはバイパスライン9の一部であり、冷却対象のラインは戻りライン8の一部であり、戻りライン8の一部は第1の熱交換器20の上流の戻りラインの一セクションに対応する。示されている実施形態に基づき、最後の圧縮段70bからの高圧縮され水冷されたBOGは、第一に気液分離器からの気相との間接熱交換において冷却され、次いで、膨張及び相分離が起こる前にLNGタンクからのBOGとの間接熱交換においてさらに冷却される。
【0038】
液相は、気液分離器40を出て、第2の熱交換器21において、LNGタンクから冷却用流体ジャケット5に直接供給されたBOGを使用して、単に約-155℃の温度Tまでさらに間接的に冷却される。最後に、液体は、膨張ユニット31において大気圧まで膨張され、LNGタンクに戻される。
【0039】
弁80及び31,50はそれぞれ、気液分離器40における圧力及び液体レベルを制御する働きをする。それらを、気液分離器において測定された圧力及び/又はレベルに応じて作動することが可能である。随意で、気液分離器における充填レベルを制御するために、気液分離器40の出口と、冷却対象の流体の通過のための第2の熱交換器21のラインとの間に弁を配置することが可能でもある。
【0040】
図2は、本発明による方法を示すための概略モリエル線図を示す。x軸はシステムのエンタルピーを示し、y軸はガスの圧力である。特定の温度は、等温線T、T及びT(点線)として示されており、沸騰カーブ(Siedekurve;沸騰線)及び露線(Taulinie;露点線)も同様に示されている。エンタルピー、温度及び/又は圧力の変化に関連する方法の工程は破線で示されている。
【0041】
工程a)において、BOGは、LNGタンクのヘッドスペースから回収され、周囲温度によって、また、1つ以上の熱交換器において冷却剤としてBOGを使用することによっても、温度Tまで加熱される。工程bにおいて、BOGは、第1の圧縮段において絶対圧0.8MPaと絶対圧1.8MPaとの間の第1の圧力pまで圧縮され(この場合では、続く水冷を伴う2つの圧縮動作を含む)、このガスの第1の部分が取り出される(図示せず)。工程c)において、ガスは、最終圧縮段において高圧pまでさらに圧縮される(この場合では、最終圧縮段は、各々が続く水冷を伴う3つの圧縮動作から成る)。これに続いて、工程d)において、工程c)からのさらなる圧縮ガスの少なくとも一部が、最初に水冷によってTまで、次いで-20℃と-100℃との間の第1の温度Tまで冷却される。工程e)では、絶対圧0.8Mpaと絶対圧2.0MPaとの間の第3の圧力pに至る等エンタルピー膨張が生じる。工程f)では、続いて、工程b)からのガスの取り出された第1の部分と、気相とを組み合わせる(サブ工程f)とともに、液相をLNGタンク3に戻す(サブ工程f)ために、ガスを液相と気相とに分離する。
【0042】
図2は、サブ工程f)において、液相が、周囲圧力にあるLNGタンクに戻される前に、天然ガスの沸点をわずかにだけ上回る温度Tまでさらに冷却されることを示し、これは、図1の第2の熱交換器21における冷却に対応する。サブ工程f)において、気相は、第1の圧縮段b)からの予備圧縮されたBOGと組み合わせる前に、例えば、図1の熱交換器22における冷媒としてのその使用に対応する、冷却対象の圧縮ガスとの間接熱交換において、さらに膨張及び/又は再加熱されることが可能であることが理解することが可能でもある。
図1
図2
【国際調査報告】