(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】様々な血清型のストレプトコッカス・スイスに対して保護するためのワクチン
(51)【国際特許分類】
A61K 39/02 20060101AFI20240711BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240711BHJP
C12N 9/52 20060101ALN20240711BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20240711BHJP
【FI】
A61K39/02
A61P31/04
C12N9/52 ZNA
C12N1/20 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506499
(86)(22)【出願日】2022-06-29
(85)【翻訳文提出日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 EP2022067890
(87)【国際公開番号】W WO2023011810
(87)【国際公開日】2023-02-09
(32)【優先日】2021-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510000976
【氏名又は名称】インターベット インターナショナル ベー. フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100216839
【氏名又は名称】大石 敏幸
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ジェイコブス,アントニウス・アーノルドゥス・クリスチャン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
【Fターム(参考)】
4B065AA49X
4B065CA45
4C085AA03
4C085BA14
4C085BB22
4C085CC07
4C085EE03
(57)【要約】
本発明は、ストレプトコッカス・スイス血清型(7)のIgMプロテアーゼ抗原と、ストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型(9)、配列型(16)と、薬学的に許容され得る担体とを組み合わせて含むワクチンに関する。本発明は、ストレプトコッカス・スイスによる病原性感染症に対してブタを保護するための方法において使用するための、ストレプトコッカス・スイス血清型(7)のIgMプロテアーゼ抗原及びストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型(9)、配列型(16)の組み合わせ、並びにストレプトコッカス・スイス血清型(7)のIgMプロテアーゼ抗原及びストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型(9)、配列型(16)をブタに投与することによって、ストレプトコッカス・スイスによる病原性感染症に対してブタを保護するための方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレプトコッカス・スイス血清型7のIgMプロテアーゼ抗原と、ストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型9、配列型16と、薬学的に許容され得る担体とを組み合わせて含むワクチン。
【請求項2】
ストレプトコッカス・スイス血清型7の前記IgMプロテアーゼ抗原が、ストレプトコッカス・スイス血清型7細菌の対応する天然に存在するIgMプロテアーゼと少なくとも90%の配列同一性を有する完全なIgMプロテアーゼ抗原であることを特徴とする、請求項1に記載のワクチン。
【請求項3】
ストレプトコッカス・スイス血清型7の前記IgMプロテアーゼ抗原が、ストレプトコッカス・スイス血清型7細菌の対応する天然に存在するIgMプロテアーゼと少なくとも95%の配列同一性を有する完全なIgMプロテアーゼ抗原であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のワクチン。
【請求項4】
ストレプトコッカス・スイス血清型7の前記IgMプロテアーゼ抗原が、そのアミノ酸配列中に4つ未満の反復を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のワクチン。
【請求項5】
ストレプトコッカス・スイス血清型7の前記IgMプロテアーゼ抗原が、そのアミノ酸配列中に3つ未満の反復を含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載のワクチン。
【請求項6】
ストレプトコッカス・スイス血清型7の前記IgMプロテアーゼ抗原が、そのアミノ酸配列中に2つの反復を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載のワクチン。
【請求項7】
ストレプトコッカス・スイス血清型7の前記IgMプロテアーゼ抗原が、配列型29のものであることを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載のワクチン。
【請求項8】
ストレプトコッカス・スイス血清型7の前記IgMプロテアーゼ抗原及び前記ストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型9、配列型16以外の他のストレプトコッカス・スイス抗原を含まないか、又は多くてもストレプトコッカス・スイス血清型1のIgMプロテアーゼ抗原を含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載のワクチン。
【請求項9】
ストレプトコッカス・スイスによる病原性感染症に対してブタを保護するための方法において使用するための、ストレプトコッカス・スイス血清型7のIgMプロテアーゼ抗原及びストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型9、配列型16の組み合わせ。
【請求項10】
前記保護が、血清型1、2、7及び9のいずれかのストレプトコッカス・スイスによる病原性感染症に対するものであることを特徴とする、請求項9に記載の使用のための組み合わせ。
【請求項11】
前記方法が、ストレプトコッカス・スイス血清型7の前記IgMプロテアーゼ抗原及び前記ストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型9、配列型16を最大35日齢の前記ブタに投与することを含むことを特徴とする、請求項9及び10のいずれかに記載の使用のための組み合わせ。
【請求項12】
前記方法が、雌ブタの初乳の摂取を通じてブタを保護するために、前記雌ブタにストレプトコッカス・スイス血清型7の前記IgMプロテアーゼ抗原及び前記ストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型9、配列型16を投与することを含むことを特徴とする、請求項9及び10のいずれかに記載の使用のための組み合わせ。
【請求項13】
ストレプトコッカス・スイス血清型7の前記IgMプロテアーゼ抗原及び前記ストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型9、配列型16が、前記ブタが前記初乳を摂取する前に前記雌ブタに2回投与されることを特徴とする、請求項12に記載の使用のための組み合わせ。
【請求項14】
ストレプトコッカス・スイスによる病原性感染症に対してブタを保護するためのワクチンを製造するための、ストレプトコッカス・スイス血清型7のIgMプロテアーゼ抗原及びストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型9、配列型16の使用。
【請求項15】
ストレプトコッカス・スイス血清型7のIgMプロテアーゼ抗原及びストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型9、配列型16をブタに投与することによって、ストレプトコッカス・スイスによる病原性感染症から前記ブタを保護するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の一般的な分野
本発明は、様々な血清型、特に最も蔓延している血清型1、2、7及び9のストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)細菌による病原性感染症に対するブタの保護に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ストレプトコッカス・スイス(S.スイス)は、ブタにおける伝染性細菌疾患の主要な病原因子の1つである。この病原体は、髄膜炎、関節炎、心膜炎、多発性漿膜炎、敗血症、肺炎及び突然死を含む様々な臨床症候群を引き起こし得る。S.スイスは、当初にはランスフィールド群R、S、R/S又はTとして定義されたグラム陽性の通性嫌気性球菌である。後に、細胞壁内に位置する型特異的莢膜多糖抗原に基づく新しい分類系が提案された。これにより、35の血清型を含む系が得られ(Rasmussen and Andresen,1998,“16S rDNA sequence variations of some Streptococcus suis serotypes”,Int.J.Syst.Bacteriol.48,1063-1065)、そのうち血清型1、2、7及び9が現在、特にヨーロッパで最も蔓延している。しかしながら、莢膜血清型は病原性の優れたマーカーではないことが認識されている。そこで、S.スイス感染の疫学及び血清型決定アプローチの生物学的関連性の理解を助ける代替的な系、すなわち、Kingらによって、the Journal of Clinical Microbiology,Oct.2002,p.3671-3680(Development of a Multilocus Sequence Typing Scheme for the pig pathogen Streptococcus suis:Identification of virulent clones and potential capsular serotype exchange)”に記載されているような、いわゆる多座位配列タイピング(MLST)が開発された。その研究では、92の配列型が同定され、そのうち、それぞれ複数の配列型を含有する、ST複合体ST1、ST27及びST87が集団において支配的である。Kingらの論文を参照しており、任意のストレプトコッカス・スイス株の配列型の容易な同定を可能にする、University of Oxford(Jolley et al.Wellcome Open Res 2018,3:124(Wellcome Trustが資金を拠出するサイト)に掲載されているStreptococcus suis MLSTウェブサイト(https://pubmlst.org/ssuis/)も参照されたい。
【0003】
ブタの群れにおけるストレプトコッカス・スイスの制御は困難であるようである。ストレプトコッカス・スイスは、ブタの共生かつ日和見病原体である。明らかに、感染症の発生のたびに、免疫系の引き金が引かれるわけではない。これに次いで、ストレプトコッカス・スイスは、十分に莢膜に包まれた病原体であり、宿主免疫系を回避するために豊富な病原性因子を使用する。これらの特徴が相まって、この重要な病原体と戦うための有効なワクチンの開発する上での障害となってきた。数年前に概説論文が発表されており、この論文は、ストレプトコッカス・スイスに対する既存のワクチン及び試験的ワクチンを概説している(Mariela Segura:“Streptococcus suis vaccines:candidate antigens and progress,in Expert Review of Vaccines,Volume 14,2015,Issue 12,pages 1587-1608)。この総説では、臨床現場情報及び実験データが編纂され、比較されており、本明細書で以下に概説されるようなストレプトコッカス・スイスに対するワクチン開発の状況の概要を説明する。
【0004】
現在市販されているワクチンは、主に全細胞型バクテリンである。しかしながら、現場報告には、疾患の制御及び管理の困難さが記載されており、とりわけ異種防御が極めて不十分であるため、特に、バクテリンワクチンを使用した際の「ワクチンの不成功」が一般的である。保菌ブタが主要な感染源であり、垂直伝播及び水平伝播の両方が群れの中での疾患の拡散に関与している。離乳及び輸送などのストレスの多い条件下で保菌動物を疾患に罹患しやすい動物と混合することによって、通常、臨床疾患がもたらされる。メディケィテッド早期離乳及び早期離乳・分離飼育の実践は、ストレプトコッカス・スイス感染を排除しない。したがって、疾患を予防するための効果的な制御手段は、予防的/感染伝播予防的処置(可能な場合)及びワクチン接種に依存する。現在、現場での免疫化の取り組みは、市販のバクテリン又は自家バクテリンの使用に重点を置いている。これらのワクチン戦略は、仔ブタ又は雌ブタのいずれかに適用されてきた。離乳以降、離乳及び一般的なその後の輸送に伴うストレスのために、仔ブタはストレプトコッカス・スイス感染症により罹患しやすい。したがって、仔ブタへの受動免疫を試み、伝達するために、及びこれらのストレスの多い環境下で生後早期にストレプトコッカス・スイスに対する保護を与えるために、雌ブタでの分娩前免疫化がしばしば使用される。さらに、雌ブタへのワクチン接種は、費用及び人手があまりかからないため、仔ブタへのワクチン接種に代わる経済的な方法である。しかしながら、入手できる結果は、バクテリンによる雌ブタのワクチン接種も議論の的となっていることを示しているようである。多くの事例で、ワクチン接種された雌ブタは、出産前に2回ワクチン接種された場合でさえ、ワクチン接種に対する応答が不十分であるか又は全く応答せず、その結果、同腹仔に移行する母子免疫が低くなる。また、母子免疫が十分なレベルで移行されたとしても、多くの事例で、移行抗体は、4~7週齢の最も重要な期間では低すぎて保護を与えることができない。
【0005】
仔ブタでは、自家バクテリンが、特にヨーロッパにおいて現場で頻繁に使用されている。自家バクテリンは、臨床上の問題を有する飼育場で単離された毒性株から調製され、同じ飼育場に適用される。自家バクテリンの欠点の1つは、ワクチンの安全性データが不足しており、重度の有害反応が起こり得ることである。(1匹又は2匹のブタ又はサンプルのみを使用することによる)サンプリングエラーの結果、最近の大流行に関連する株又は血清型の同定に失敗することがあり得る。この失敗は、蔓延している群れにおいて特に問題となり得る。最後に、自家バクテリンの最も重要な問題は、それらの実際の有効性が十分に研究されていないことである。自家ワクチンの適用は経験的であるので、これらのワクチンを用いて得られた結果が一貫せず、しばしば期待外れに終わることは驚くべきことではない。
【0006】
他の実験的ワクチンも当技術分野において記載されている。Kai-Jen Hsuehらは、バクテリン+サブユニットが仔ブタに防御免疫を付与するための雌ブタのワクチン接種の成功の基礎となり得ることを示す(“Immunization with Streptococcus suis bacterin plus recombinant Sao protein in sows conveys passive immunity to their piglets”,in:BMC Veterinary Research,BMC series-open,inclusive and trusted,13:15,7 January 2017)。
【0007】
弱毒生ワクチンも、当技術分野において想定されている。ストレプトコッカス・スイス血清型2の莢膜に包まれていない同質遺伝子型変異体は、無毒性であることが明確に示されている。それにもかかわらず、莢膜に包まれていない血清型2変異体に基づく生ワクチン製剤は、死亡に対して部分的な保護のみを誘導し、野生型株で攻撃されたブタにおいて臨床徴候の発生を予防することができなかった(Wisselink HJ,Stockhofe-Zurwieden N,Hilgers LA,et al.“Assessment of protective efficacy of live and killed vaccines based on a non-encapsulated mutant of Streptococcus suis serotype 2.” in:Vet Microbiol.2002,84:155-168.)。
【0008】
過去数年の間に、抗原性又は免疫原性のストレプトコッカス・スイス分子の広範なリストが報告されており、これらのほとんどは、感染したブタ若しくはヒトからの回復期血清及び/又は実験室で産生された免疫血清のいずれかを用いた免疫プロテオミクスを通じて発見された。国際公開第2015/181356号(IDT Biologika GmbH)は、IgMプロテアーゼ抗原(全タンパク質又は完全タンパク質の約35%に相当するに過ぎない高度に保存されたMac-1ドメインのいずれか)が、バクテリンを含有する予備刺激ワクチン接種と組み合わされてもよい、IgMプロテアーゼ抗原の2用量を投与するワクチン接種スキームにおいて、仔ブタに防御免疫応答を誘発することができることを示した。’356特許出願では、IgMプロテアーゼ抗原は、すべてではないにしてもほとんどのストレプトコッカス・スイス血清型、特に最も蔓延している血清型1、2、7及び9全体にわたって高度に保存されているという事実のために、IgMプロテアーゼ抗原を使用して、ストレプトコッカス・スイス血清型、特に血清型1、2、7及び9の間で、広範な交差防御に到達することができることが示唆されている。
【0009】
国際公開第2017/005913号(Intervacc AB)は、IgMプロテアーゼが様々なストレプトコッカス・スイス血清型全体にわたって高度に保存されているという事実、したがって、この抗原を使用して到達することができる予想される広範な保護を確認している。
【0010】
近年、他の血清型から保護するためのIgMプロテアーゼ抗原、特に血清型2のIgMプロテアーゼ抗原の使用に関する特許出願が公開された。これらの出願は、IgMプロテアーゼ抗原の交差防御性を確認する。
【0011】
特に、国際公開第2020/094762号は、血清型14による攻撃に対する血清型2のIgMプロテアーゼ抗原の使用を記載している。極めて十分な保護を得ることができるようである。
【0012】
国際公開第2019/115741号では、IgMプロテアーゼ抗原は、血清型9のストレプトコッカス・スイスによる病原性感染症から保護するのに有効であることが示されている。しかしながら、保護はさほど高くなく、せいぜい一般的なバクテリンワクチンで得ることができるレベル、すなわち人工的な攻撃実験での死亡及び陽性血液単離の約50%の低下であるようである(実際には、多くはあまり激しくない攻撃を受けて、保護がより高いレベルとなることが排除されない)。一見すると、このやや期待外れの保護は、RieckmannらによってVaccine,3(2019)100046(“Vaccination with the immunoglobulin M-degrading enzyme of Streptococcus suis,IdeSsuis,leads to protection against a highly virulent serotype 9 strain”)で報告されている、また人工的な攻撃実験における血清型9のストレプトコッカス・スイスによる感染症に対するIgMプロテアーゼ抗原によって得られる高いレベルの保護、及び国際公開第2020/094762号に示されているような血清型14のストレプトコッカス・スイスに対する保護とは相容れないように見える。当該技術に基づいて、一般的な血清型9の細菌に対する比較的低いレベルの保護を理解することはできない。
【0013】
少なくともいくらかの保護が予想されるが、当技術分野では、IgMプロテアーゼ血清型2の、血清型1及び7のストレプトコッカス・スイスによる攻撃に対する保護について利用可能なデータは存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2015/181356号
【特許文献2】国際公開第2017/005913号
【特許文献3】国際公開第2020/094762号
【特許文献4】国際公開第2019/115741号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Rasmussen and Andresen,1998,“16S rDNA sequence variations of some Streptococcus suis serotypes”,Int.J.Syst.Bacteriol.48,1063-1065
【非特許文献2】King et al. the Journal of Clinical Microbiology,Oct.2002,p.3671-3680(Development of a Multilocus Sequence Typing Scheme for the pig pathogen Streptococcus suis:Identification of virulent clones and potential capsular serotype exchange)
【非特許文献3】Jolley et al.Wellcome Open Res 2018,3:124
【非特許文献4】Mariela Segura:“Streptococcus suis vaccines:candidate antigens and progress,in Expert Review of Vaccines,Volume 14,2015,Issue 12,pages 1587-1608
【非特許文献5】Kai-Jen Hsueh et al.“Immunization with Streptococcus suis bacterin plus recombinant Sao protein in sows conveys passive immunity to their piglets”,in:BMC Veterinary Research,BMC series-open,inclusive and trusted,13:15,7 January 2017
【非特許文献6】Wisselink HJ,Stockhofe-Zurwieden N,Hilgers LA,et al.“Assessment of protective efficacy of live and killed vaccines based on a non-encapsulated mutant of Streptococcus suis serotype 2.” in:Vet Microbiol.2002,84:155-168
【非特許文献7】Rieckmann et al.Vaccine,3(2019)100046(“Vaccination with the immunoglobulin M-degrading enzyme of Streptococcus suis,IdeSsuis,leads to protection against a highly virulent serotype 9 strain”)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
発明の目的
本発明の目的は、ストレプトコッカス・スイスに対して、特に血清型1、2、7及び9を含む様々な血清型のストレプトコッカス・スイスに対してブタの(交差)防御を提供するための改善されたワクチンを見出すことである。好ましくは、ワクチンは、これらの4つの血清型より少ない血清型に由来する抗原を含むが、少なくともこれらの4つの血清型のすべてに対して、少なくとも現場に存在するこれらの血清型の代表的な株に対して、なお十分な保護を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の目的を満たすために、ストレプトコッカス・スイス血清型7のIgMプロテアーゼ抗原、ストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型9、配列型16、及び薬学的に許容され得る担体を組み合わせて含むワクチンが考案された。
【0018】
本発明は、2つの予想外の発見に基づいていた。第1に、血清型2のIgMプロテアーゼによって与えられる異種防御は、特にIgMプロテアーゼが異なる血清型のストレプトコッカス・スイスの間で高度に保存されているので、先行技術の教示に基づいて予想されるほど良好ではないようであった。特に、最もよく理解されるように、Mac-1ドメインは、今日知られているすべてのストレプトコッカス・スイス血清型において非常に高い同一性レベルで存在する。それでも、血清型2攻撃に対する血清型のIgMプロテアーゼ抗原によって与えられる同種防御は優れているが、ストレプトコッカス血清型1及び7に対する保護はなお著しく改善され得る。別の予想外の発見は、今度は、血清型7のIgMプロテアーゼ抗原によって与えられる異種防御は、特に血清型1及び2に対して極めて良好であることであった。特に、血清型2に対して与えられる異種防御のレベルが、血清型7に対して血清型2によって与えられる異種防御よりも著しく優れているという事実は全く予想外である。
【0019】
さらなる極めて想外の発見は、血清型2の、又は実際には任意の血清型のIgMプロテアーゼ抗原が、最も蔓延している型のストレプトコッカス血清型9、すなわちストレプトコッカス血清型9、配列型16に対してほとんど十分な保護を提供しないことであった(ある程度の保護は与えられるが、そのレベルは商業的に成功したワクチンとしては十分ではない)。一見すると、この発見は、Rieckmannに報告されている結果とは相容れないように見える。しかしながら、詳細に検討すると、Rieckmann研究では、血清型9、配列型94のストレプトコッカス・スイス株が使用されているようである。国際公開第2019/115741号では、示されていないが、配列型16のストレプトコッカス・スイス株が使用されている。これは、Kingら(上記参照)によって記載されたように、使用した攻撃株の型を多座位配列タイピングに従って決定することによって後に見出された。明らかに、後者の型(血清型9、配列型16のS.スイス)に対して、IgMプロテアーゼ抗原は実質的により低いレベルで保護を提供する。この理由は完全には明らかではないが、多くの国、特にオランダなどのヨーロッパ諸国では、配列型16のストレプトコッカス・スイスが、ストレプトコッカス・スイス血清型9細菌の最も蔓延している(最大約95%の)病原性型であるので(Willemse et al.Scientific Reports,2019,9:15429,“Clonal expansion of a virulent Streptococcus suis serotype 9 lineage distinguishable from carriage subpopulations”)、極めて不利である。このように、IgMプロテアーゼは血清型にわたって保護を生じ得るが、特にストレプトコッカス・スイス血清型9、配列型16に関して、有効な保護に間隙が存在することが見出された。
【0020】
上記発見のすべてを認識した後で初めて、現場で血清型1、2、7及び9のストレプトコッカス・スイスに対して(したがって、最も蔓延している株型に対して)十分に保護する改良されたワクチン、本ワクチンを考案することができたと結論付けることができた。血清型7のIgMプロテアーゼ抗原を使用すると、当技術分野で使用される血清型2のIgMプロテアーゼによって得られるよりも優れたレベルで、血清型1、2及び7に対して十分な保護を得ることができることが見出された。また、血清型9、配列型16に対する保護の間隙は、血清型9、配列型16のストレプトコッカス・スイスバクテリンを使用して、ストレプトコッカス・スイス血清型9、配列型16による病原性感染症に対してブタを保護することによって閉じることができることが見出された。組み合わせ中に存在するIgMプロテアーゼは、それ自体は血清型9、配列型16のストレプトコッカス・スイスに対して十分な保護を与えるのに適していないが、バクテリンの保護を改善さえし得る。
【0021】
本発明では、2つの異なる血清型(7及び9)の2つのストレプトコッカス・スイス抗原のみを使用することによって、最も蔓延しているストレプトコッカス・スイス細菌に対する十分な保護を得ることができ、血清型2細菌のIgMプロテアーゼを使用した際のストレプトコッカス・スイス細菌に対する保護における間隙又は欠点を閉じることができる。本発明は、重要な代表として配列型16を含む血清型9のストレプトコッカス・スイスに対して可能な限り最良の保護に到達することを可能にするだけでなく、すべての蔓延している血清型、特に血清型1、2、7及び9にわたって極めて広くかつ高いレベルの保護に到達するための方法に到達することも可能にする。
【0022】
本発明は、ストレプトコッカス・スイスによる病原性感染症に対してブタを保護する方法において使用するための、ストレプトコッカス・スイス血清型7のIgMプロテアーゼ抗原と、ストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型9、配列型16との組み合わせにも関する。
【0023】
これに続いて、本発明は、ストレプトコッカス・スイスによる病原性感染症に対してブタを保護するためのワクチンを製造するための、ストレプトコッカス・スイス血清型7のIgMプロテアーゼ抗原及びストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型9、配列型16の使用、並びにストレプトコッカス・スイス血清型7のIgMプロテアーゼ抗原及びストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型9、配列型16をブタに投与することによって、ストレプトコッカス・スイスによう病原性感染症に対してブタを保護するための方法に関する。
【0024】
定義
ストレプトコッカス・スイスのIgMプロテアーゼ抗原は、ブタIgMを特異的に分解する酵素(ブタIgG又はブタIgAを分解しない;Seele at al,Journal of Bacteriology,2013、195 930-940;及びVaccine 33:2207-2212;5 May 2015)、IdeSsuisと表記されるタンパク質、又はその免疫原性部分(典型的には、完全長酵素の少なくとも約30~35%の長さを有する)である。完全な酵素は、約1000~1150アミノ酸に相当する約100~125kDaの重量を有し、サイズはS.スイスの血清型に依存する。国際公開第2015/181356号には、ストレプトコッカス・スイスのIgMプロテアーゼ抗原に相当するいくつかの配列、すなわち、SEQ ID NO:1(本出願にも組み込まれる)、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7及びSEQ ID NO:5が与えられており、後者は完全長酵素の免疫原性部分(Mac-1ドメインとして表される、すなわちSED ID NO:7のアミノ酸80~414)である。完全長酵素の免疫原性部分の他の例は、国際公開第2017/005913号に与えられている。IgMプロテアーゼの特定の例は、国際公開第2015/1818356号のSEQ ID NO:1によるプロテアーゼ、又は重複する領域において少なくとも90%、又はさらには91、92、93、94、95、96、97、98、99%、最大100%の配列同一性を有するタンパク質である。アミノ酸配列の同一性は、初期設定パラメータでblastpアルゴリズムを使用してBLASTプログラムで確立され得る。様々な血清型のストレプトコッカス・スイスのIgMプロテアーゼは、75%より高い配列同一性を有すると予想され、特に、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、90、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99%、最大100%であると予想される。例えば抗原の組換え産生系において収量を最適化するように作製された人工タンパク質は、必要とされる免疫原性機能を維持しながら、完全な酵素と比較して85%、80%、75%、70%、65、60、55又はさらには50%などのより低いアミノ酸配列同一性をもたらし得、本発明の意味においてストレプトコッカス・スイスのIgMプロテアーゼ抗原であると理解される。
【0025】
ストレプトコッカス・スイスの完全なIgMプロテアーゼ抗原は、少なくともMac-1ドメイン、構造的機能と関連する領域、CNV領域を含み、細胞接着領域を含んでもよい抗原である(ストレプトコッカス・スイスのゲノムにおけるこれらの領域の同定については実施例1を参照のこと)。いずれにしても、天然に存在する(野生型)分泌型酵素にはシグナルペプチドは欠けていると考えられ、細胞接着領域はプロテアーゼとしての機能に必須ではないと考えられるので、これは完全なIgMプロテアーゼ抗原とみなすことができる。
【0026】
ワクチンは、対象への適用に適した構成であり、典型的には薬学的に許容され得る担体と組み合わされて、免疫学的有効量で(すなわち、標的対象の免疫系を十分に刺激して、野生型微生物の攻撃の負の作用を少なくとも低減することができる)1つ又は複数の抗原を含み、対象に投与したときに、感染症を処置するために、すなわち感染症又はその感染症から生じる任意の疾患若しくは障害を予防し、改善し、又は治癒することを助けるために免疫応答を誘導する。
【0027】
ゲノム又は対応するアミノ酸配列中のリピートは、生物のゲノム又は対応するアミノ酸配列中で1回又は複数回繰り返されているコピー(正確に同じであるか又は高度に類似している、例えばホモログ)である。リピートは、ゲノムの区画が繰り返されるコピー数多型という現象の一部である。典型的には、リピートの数は、同じ生物の異なる株間で変動する。コピー数多型は、構造的多型の一種である。コピー数多型は、典型的にはかなりの数の塩基対、例えば、10~130アミノ酸に相当する30~400塩基対の間のどこかに影響を及ぼす重複事象の一種である。
【0028】
微生物による病原性感染症に対する保護は、防御免疫に到達すること、すなわち、例えば、実際の感染症又は病原体による病原性感染症に起因する1つ若しくは複数の臨床徴候を予防又は軽減するために、その微生物による病原性感染症又はその感染症から生じる障害を予防し、改善し、又は治癒するのを助けることと同じである。
【0029】
バクテリンは、ワクチンとして使用するための死菌の懸濁液である。
【0030】
抗原の組み合わせとは、1つのワクチン製剤中で別個の抗原を一緒にすることによって、又は別個の製剤の同時投与のために別個の抗原製剤を使用することによって、1つのワクチン接種戦略においてこれらの(個別に異なる)抗原を一緒に使用することである。
【0031】
混合ワクチン(すなわち、抗原の組み合わせを含むワクチン)は、同時に異なる抗原を含む1つの(単一の)製剤である。これらの異なる抗原は、抗原が最終的に同じ製剤になる限り、いわゆる即時使用型混合ワクチンを提供するために工場において混合され得、又は投与直前若しくは投与中に混合され得る(例えば、別個の抗原のための2つの別個のチャンバを有する装置を使用して、これらのチャンバの内容物は、投与のための装置を使用する際に混合される)。
【0032】
ブタ(pig)は、イノシシ科(Suidae)に属する任意の動物である。
【0033】
薬学的に許容され得る担体は、生体適合性媒体、すなわち、投与後に、処置された対象に著しい有害反応を誘発せず、その担体を含む組成物の投与後に対象の免疫系に抗原を提示することができる媒体である。このような薬学的に許容され得る担体は、例えば、水及び/若しくは任意の他の生体適合性溶媒を含有する液体、又は免疫刺激剤(アジュバントとも呼ばれる)を含んでもよい、(糖及び/又はタンパク質をベースとする)凍結乾燥ワクチンを得るために一般的に使用されるような固体担体であり得る。対応するワクチンの意図される用途又は要求される特性に応じて、安定剤、粘度調整剤又は他の成分などの他の物質が添加されてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0034】
発明のさらなる態様
本発明によるワクチンのさらなる態様では、ストレプトコッカス・スイス血清型7のIgMプロテアーゼ抗原は、ストレプトコッカス・スイス血清型7細菌の対応する天然に存在する(すなわち野生型の)IgMプロテアーゼと少なくとも90%の配列同一性を有する完全なIgMプロテアーゼ抗原である。当技術分野から、IgMプロテアーゼのMac-1ドメインのみ(約35%)が保護を提供するのに十分であることが知られているが、完全な抗原がより効果的な免疫応答を提供すると考えられている。特に、天然に存在するIgMプロテアーゼと90%又はそれを上回る、例えば91、92、93、94、95、96、97、98、99若しくはさらには100%の配列同一性が、十分な同種及び異種防御に達するために好ましい。
【0035】
本発明によるワクチンのなおさらなる態様では、ストレプトコッカス・スイス血清型7のIgMプロテアーゼ抗原は、そのアミノ酸配列中に4つ未満のリピートを含む。ストレプトコッカス・スイスのゲノムの構造分析は、この細菌のゲノムが、ゲノムの区画が繰り返されるコピー数多型(CNV)の現象を起こしやすいことを明らかにする。特に、リピートは、加水分解酵素活性を有する既知のタンパク質配列と類似性を有する。血清型2のIgMプロテアーゼは、血清型2が4つのリピートを含むという点で、より良好な異種防御を提供するもの(血清型1及び7など)とは主に異なることが見出された。したがって、リピートの数が4未満、又はさらには3未満、例えば2などであれば、可能な限り最良の(異種)防御に到達することが有利であると考えられる。
【0036】
最も好ましいのは、2つのリピートを含む配列型29のストレプトコッカス・スイス血清型7のIgMプロテアーゼ抗原である。
【0037】
ワクチンは、例えば血清型2のIgMプロテアーゼなどの追加のストレプトコッカス・スイス抗原を含み得るが、ワクチンは、ストレプトコッカス・スイス血清型7のIgMプロテアーゼ抗原及びストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型9、配列型16以外の他のストレプトコッカス・スイス抗原を含まないか、又は多くてもストレプトコッカス・スイス血清型1のIgMプロテアーゼ抗原を含むことが十分であることが見出された。より多くの抗原は、より高い原価及びより高い抗原負荷によるより高いリスク副作用を意味する。
【0038】
ストレプトコッカス・スイスに対して保護する上での使用のための組み合わせのさらなる態様において、保護は、血清型1、2、7及び9のいずれかのストレプトコッカス・スイスによる病原性感染症に対するものである。
【0039】
本発明による使用のための組み合わせのさらなる態様において、前記方法は、ストレプトコッカス・スイス血清型7のIgMプロテアーゼ抗原及びストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型9、配列型16を最大35日齢のブタに投与することを含む。
【0040】
別の態様では、前記方法は、雌ブタの初乳の摂取を通じてブタ(通常は仔ブタ)を保護するために、ストレプトコッカス・スイス血清型7のIgMプロテアーゼ抗原及びストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型9、配列型16をこの雌ブタに投与することを含む。仔ブタがワクチン接種された雌ブタから初乳を摂取すると、IgMプロテアーゼ(国際公開第2019/193078号を参照)が、仔ブタに対して十分かつ長期の保護を与えることが知られている。また、バクテリンによって与えられる保護は、初乳を介して仔ブタに移行されることが一般的に知られている。
【0041】
一態様において、ストレプトコッカス・スイス血清型7のIgMプロテアーゼ抗原及びストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型9、配列型16は、仔ブタが前記初乳を摂取する前に雌ブタに2回投与されている。
【0042】
ここで、以下の具体例を用いて本発明をさらに説明する。
【0043】
[実施例]
実施例1 ストレプトコッカス・スイスのゲノムの構造分析。
【0044】
実施例2は、血清型1に対するIgMプロテアーゼ血清型2の交差防御について調べる。
【0045】
実施例3は、血清型7に対するIgMプロテアーゼ血清型2の交差防御について調べる。
【0046】
実施例4は、血清型9、配列型16に対するIgMプロテアーゼ血清型2の交差防御について調べる。
【0047】
実施例5は、血清型1及び7のIgMプロテアーゼによって与えられる、血清型1による攻撃に対する保護について調べる。
【0048】
実施例6は、血清型1及び7のIgMプロテアーゼによって与えられる、血清型2による攻撃に対する保護について調べる。
【0049】
実施例7は、血清型1及び7のIgMプロテアーゼによって与えられる、血清型7による攻撃に対する保護について調べる。
【0050】
実施例8は、血清型9、配列型16による攻撃に対するバクテリンによって与えられる保護について調べる。
【0051】
[実施例1]
本実施例では、IgMプロテアーゼをコードするゲノムの部分がどのような構造になっているかを示すために、ストレプトコッカス・スイスのゲノム、すなわちIgMプロテアーゼをコードする部分の分析が提供される。このために、本発明者らは、国際公開第2015/181356号から既知であり、その特許出願においてSEQ ID NO:1として公開されている血清型2のストレプトコッカス・スイス細菌のゲノムを使用する。この配列は、本特許の配列表においてもSEQ ID NO:1として含まれている。タンパク質アノテーション(PDBSum及びInterPro)に加えてNeedleman-Wunschアラインメント(Needleman et al 1970,Laskowski et al 1997,Apweiler et al 2000参照;初期設定)を使用する配列類似性検索は、その中に5つの領域を同定することができるIgMプロテアーゼゲノムの構造を明らかにする。
【0052】
領域1(Met1~Thr34):位置1からのシグナル配列;
領域2(Val35~Glu426):予測される加水分解酵素活性を有するMac-1ドメイン;
領域3(Thr427~Pro687):構造的機能(例えば、適切な折り畳みに関与する)及び基質結合に関連する領域。
領域4(Thr688~Ser919):加水分解酵素活性を有する既知のタンパク質配列と類似性を有する4つのリピート(1*{Thr688~Ser744}、2*{Thr745~Ser801}、3*{Thr802~Ser858}、4*{Thr859~Ser919})からなる領域;
領域5(Thr920~Lys1141):細胞壁アンカー機能を示す予測される膜貫通領域を含有する。
【0053】
他の血清型のストレプトコッカス・スイス細菌の構造は概ね同じであるが、血清型9、配列型16については、実質的な差異が存在する(ここで以下に示されている):
-シグナルペプチドは、ストレプトコッカス・スイス株の間で高度に保存されている;
-Mac-1ドメインは常に存在し、血清型9、配列型16株を含むすべての既知の株の間で高度に保存されている;
-構造的機能に関連する領域3は常に存在し、同じく高度に保存されているが、血清型9、配列型16の長さの約半分に過ぎない;
-CNV領域に関しては、リピートは異なる血清型間で極めて類似しているが、数は変動し、典型的には2~6である。血清型9、配列型16は、他の血清型のリピートと比較してはるかにより短い、完全に異なる型の12のリピートを有し(すなわち、約60に対して12AA)、3つの大幅に異なるリピートに細分することができる;
-細胞接着領域も異なる血清型間で高度に保存されているが、血清型9、配列型16の株の領域とのアミノ酸配列同一性は実質的に存在しない。
【0054】
手短に言えば、ほとんどの血清型及び配列型の間で、ゲノムは概ね同じ構造であり、最も顕著な相違はCNV領域におけるリピートの数である。血清型9、配列型16のゲノムのIgMプロテアーゼ部分は、Mac-1ドメインに関する限り高度に類似しているが、残りの部分については大幅に異なる。
【0055】
[実施例2]
研究の目的
先行技術から、ストレプトコッカス・スイス血清型2の完全なIgMプロテアーゼ(SEQ ID NO:1)は、同種攻撃に対して優れた保護を提供することが知られている。また、血清型9及び14に対するいくらかの交差防御が当技術分野から公知である。本実施例では、血清型1攻撃に対する、この抗原による実際の保護のレベルを評価する。このために、細菌の一般的な種類であり、現場におけるこの血清型の優れた代表物である配列型13の株を使用した。
【0056】
研究デザイン
まず、血清型1細菌による攻撃に対する保護を評価するために、利用可能な唯一の攻撃モデルは、3週齢の仔ブタが攻撃を受けるモデルである。これは、有効な免疫応答を発達させるための時間が短すぎると予想されるので、IgMプロテアーゼ抗原によって誘導される保護効果を評価するために、仔ブタ自体にワクチン接種することができないことを意味する。したがって、ワクチンによって与えられる保護を評価するために、誘導された抗体が初乳の摂取を介して仔ブタに移行するように、分娩前に雌ブタにワクチン接種する。IgMプロテアーゼ抗原がワクチン接種された動物自体に保護を提供する場合、IgMプロテアーゼ抗原は、ワクチン接種された雌ブタの子孫にも優れた保護を与えることが当技術分野(米国特許第10,751,403号)から知られている。換言すれば、この(間接的な)攻撃モデルに見られる保護は、当然のことながら、ワクチン接種された雌ブタの初乳の摂取を介して仔ブタに与えられる保護に次いで、ワクチン接種された動物自体に与えられる保護を示す。
【0057】
本研究のために、10匹の妊娠中の雌ブタを使用し、それぞれ5匹の雌ブタからなる2つの群に分けた。予想される出産の6週間及び2週間前に、水中油型アジュバント(μDiluvac Forte、MSD Animal Health)中に80μg/用量で血清型2の組換えrIdeSsuis IgMプロテアーゼ抗原を含むサブユニットワクチン(Seele et al:Vaccine 33:2207-2212;5 May 2015,par.2.2.)を1つの群にワクチン接種し、1つの群を非ワクチン接種対照群として残した。出産後、3週齢で、ワクチン接種された雌ブタからの10匹の仔ブタ及び対照雌ブタからの10匹の仔ブタを攻撃のために選択した(各群は雌ブタあたり2匹の仔ブタを含んだ)。カテーテルを使用して、10mlの攻撃接種材料(5.0×1010CFU/mlを目標とする)で仔ブタ(2×10、ワクチン接種及び対照)を気管内攻撃するか、又は(それが不可能であれば)代替として経気管注射を使用することによって攻撃した。攻撃後、うつ病、運動障害及び/又は神経学的徴候などのS.スイス感染の臨床徴候について仔ブタを毎日観察し、0(徴候なし)から重篤な症例に対する3までの定型的なスコアリングシステムを使用してスコアを付けた。人道的な終点に達した動物を安楽死させた。ワクチン接種の前及び後の定期的な時間(10匹の雌ブタ)並びに攻撃の直前(20匹の仔ブタ)に、抗体決定のために血清血液を採取した。攻撃の前及び後の定期的な時間に(20匹の仔ブタ)、攻撃株の再単離のためにヘパリン血液を採取した。研究の終了時(すなわち、攻撃の11日後)に、生存しているすべての仔ブタを安楽死させた。
【0058】
結果
いずれのワクチンも許容され得ない部位(すなわち、局所)又は全身反応を誘発せず、したがって安全と考えることができた。安楽死前の期間の攻撃後のデータを表1に示す。
【表1】
【0059】
結論
血清型2のIgMプロテアーゼは、血清型1のストレプトコッカス・スイス細菌による攻撃に対する保護を与えない。
【0060】
[実施例3]
研究の目的
本実施例では、血清型7攻撃に対する、実施例2において使用されたのと同じ抗原(血清型2のIgMプロテアーゼ)による実際の保護のレベルを評価する。このために、細菌の一般的な種類であり、現場におけるこの血清型を代表する配列型29の株を使用した。
【0061】
研究デザイン
血清型1と同様に、血清型7細菌による攻撃に対する保護を評価するために、利用可能な唯一の攻撃モデルは、3.5週齢の仔ブタが攻撃を受けるモデルである。したがって、本研究においても、誘導された抗体が初乳の摂取を介して仔ブタに移行するように、分娩前に雌ブタにワクチン接種する。
【0062】
本研究のために、10匹の妊娠中の雌ブタを使用し、それぞれ5匹の雌ブタからなる2つの群に分けた。予想される出産の6週間及び2週間前に、水中油型アジュバント(μDiluvac Forte、MSD Animal Health)中に80μg/用量で血清型2の組換えrIdeSsuis IgMプロテアーゼ抗原を含むサブユニットワクチン(Seele et al:Vaccine 33:2207-2212;5 May 2015,par.2.2.)を1つの群にワクチン接種し、1つの群を非ワクチン接種対照群として残した。出産後、3.5週齢で、ワクチン接種された雌ブタからの10匹の仔ブタ及び対照雌ブタからの10匹の仔ブタを攻撃のために選択した(各群は雌ブタあたり2匹の仔ブタを含んだ)。仔ブタ(2×10、ワクチン接種及び対照)を10 mlの攻撃接種材料(1.0×109CFU/mlを目標とする)で気管内攻撃した。攻撃後、うつ病、運動障害及び/又は神経学的徴候などのS.スイス感染の臨床徴候について仔ブタを毎日観察し、0(徴候なし)から重篤な症例に対する3までの定型的なスコアリングシステムを使用してスコアを付けた。人道的な終点に達した動物を安楽死させた。ワクチン接種の前及び後の定期的な時間(10匹の雌ブタ)並びに攻撃の直前(20匹の仔ブタ)に、抗体決定のために血清血液を採取した。攻撃の前及び後の定期的な時間に(20匹の仔ブタ)、攻撃株の再単離のためにヘパリン血液を採取した。研究の終了時(すなわち、攻撃の11日後)に、生存しているすべての仔ブタを安楽死させた。
【0063】
結果
いずれのワクチンも許容され得ない部位又は全身反応を誘発せず、したがって安全と考えることができた。安楽死前の期間の攻撃後のデータを表2に示す。
【表2】
【0064】
結論
血清型2のIgMプロテアーゼは、血清型7のストレプトコッカス・スイス細菌による攻撃に対する保護を与えない。
【0065】
[実施例4]
研究の目的
本研究の目的は、血清型9攻撃、特に血清型9、配列型16の細菌による攻撃に対する、実施例2及び3において使用したのと同じ抗原(すなわち、血清型2のIgMプロテアーゼ)による実際の保護のレベルを試験することであった。
【0066】
研究デザイン
24匹の3週齢の血清陰性SPF仔ブタを使用した。それぞれ10匹の仔ブタの2つの群(異なる同腹仔にわたって均等に分配)に仔ブタを割り当てた。群1は、実施例2及び3に記載されているように、3週齢及び5週齢で筋肉内に2回ワクチン接種され、群2は、ワクチン接種していない攻撃対照群として残した。7週齢で、本明細書で上記されているS.スイス血清型9の毒性培養物で、ブタを気管内攻撃した。攻撃後、10日の間、うつ病、運動障害及び/又は神経学的徴候などのS.スイス感染の臨床徴候についてブタを毎日観察した。特定の臨床徴候(すなわち、運動又は神経学的)徴候を示した後に、人道的終点に達した動物を剖検せずに安楽死させた。特定の臨床徴候を示さずに人道的終点に到達した動物を安楽死させ、細菌学的検査を含む剖検を行ってS.スイス感染を確認した。攻撃の前及び後の定期的な時間に、攻撃株の再単離のためにヘパリン血液を採取した。最初のワクチン接種の日(5週齢)に、ブタは血清型2由来のIgMプロテアーゼに対して血清陰性であった。
【0067】
結果
いずれのワクチンも許容され得ない部位又は全身反応を誘発せず、したがって安全と考えることができた。安楽死前の期間の攻撃後のデータを表3に示す。
【表3】
【0068】
結論
血清型2のIgMプロテアーゼは、血清型9、配列型16のストレプトコッカス・スイス細菌による攻撃に対する保護を与えない。
【0069】
[実施例5]
研究の目的
本実施例では、血清型1及び血清型7ストレプトコッカス・スイス株のIgMプロテアーゼ抗原について、血清型1攻撃に対する保護を評価する。このために、実施例2、3及び4において使用されたように、すなわち当技術分野で記載されているように大腸菌発現系を使用して(Seeleら、上記参照)、血清型2のIgMプロテアーゼに対応する抗原を作製した。血清型7のIgMプロテアーゼ抗原に使用された配列は添付のSEQ ID NO:2に示されているのに対して、血清型1のIgMプロテアーゼ抗原に使用された配列は添付のSEQ ID NO:3に示されている。両配列は、Mac-1領域の隣にCNV領域を含み、この領域に2つのリピートを有する。攻撃株は実施例2において使用されたものと同じであった。
【0070】
研究デザイン
研究デザインは実施例2及び3のものと同じであったが、攻撃のための各事例において、3.5週齢の仔ブタを使用し、10匹の仔ブタの群を使用した。血清型のそれぞれについての攻撃は、実施例2及び3における攻撃に対応した。群1には血清型1のIgMプロテアーゼをワクチン接種し、群2には血清型7のIgMプロテアーゼをワクチン接種し、群3を攻撃対照として残した。
【0071】
結果
いずれのワクチンも許容され得ない部位又は全身反応を誘発せず、したがって安全と考えることができた。安楽死前の期間の攻撃後のデータを表4に示す。
【表4】
【0072】
結論
データから、血清型1のIgMプロテアーゼ並びに血清型7のIgMプロテアーゼは、血清型1株による毒性のある攻撃に対して保護すると結論付けることができる。血清型1抗原によって与えられる同種防御は、血清型7抗原によって与えられる異種防御よりもわずかに良好であるようである。
【0073】
[実施例6]
研究の目的
本実施例では、血清型1及び血清型7ストレプトコッカス・スイス株のIgMプロテアーゼ抗原について、血清型2攻撃に対する保護を評価する。このために、実施例5と同じ抗原を使用した。攻撃株は、現場の株を代表する血清型2、配列型1株であった。
【0074】
研究デザイン
研究デザインは、実施例4のものと概ね同じであった。30匹の3週齢の仔ブタを使用した。それぞれ10匹の仔ブタの3つの群(異なる同腹仔にわたって均等に分配)に仔ブタを割り当てた。群1及び群2には、3週齢及び5週齢でそれぞれのサブユニットワクチンを2回筋肉内にワクチン接種したが、群3はワクチン接種しないままとした。7週齢で、S.スイス血清型2株の毒性培養物で、ブタを気管内攻撃した。攻撃後の11日の間、うつ病、運動障害及び/又は神経学的徴候などのS.スイス感染の臨床徴候についてブタを毎日観察した。人道的終点(HEP)に達した動物を安楽死させた。攻撃の直前、攻撃の2日後、及び該当する場合、HEPの日(安楽死の直前)に、攻撃株の再単離のためにヘパリン血液を採取した。
【0075】
最初のワクチン接種の日に、仔ブタは血清陰性であったか、又は特異的IgM抗体ELISAにおいて極めて低い力価を有していた。ワクチン接種後、群1及び2はIgMプロテアーゼに対して良好な抗体応答を示したのに対して、対照は極めて低いレベルのままであった。
【0076】
結果
いずれのワクチンも許容され得ない部位又は全身反応を誘発せず、したがって安全と考えることができた。安楽死前の期間の攻撃後のデータを表5に示す。群1中の1匹の動物は、ストレプトコッカス・スイス特有でない理由のために攻撃後に安楽死させなければならなかった。
【表5】
【0077】
結論
データから、血清型1のIgMプロテアーゼ並びに血清型7のIgMプロテアーゼは、血清型2株による毒性のある攻撃に対して保護すると結論付けることができる。
【0078】
[実施例7]
研究の目的
本実施例では、血清型1及び血清型7ストレプトコッカス・スイス株のIgMプロテアーゼ抗原について、血清型7攻撃に対する保護を評価する。このために、実施例5及び6と同じ抗原を使用した。攻撃株は、現場の株を代表する血清型7、配列型29株であった。
【0079】
研究デザイン
研究デザインは、(攻撃株を除いて)実施例5のものと同じであった。血清型のそれぞれについての攻撃は、実施例2及び3における攻撃に対応した。群1には血清型1のIgMプロテアーゼをワクチン接種し、群2には血清型7のIgMプロテアーゼをワクチン接種し、群3を攻撃対照として残した。
【0080】
結果
いずれのワクチンも許容され得ない部位又は全身反応を誘発せず、したがって安全と考えることができた。安楽死前の期間の攻撃後のデータを表6に示す。
【表6】
【0081】
結論
攻撃は以前の研究におけるようにより低い毒性であるように見えたが、データから、血清型1のIgMプロテアーゼ並びに血清型7のIgMプロテアーゼは、血清型7株による毒性のある攻撃に対して保護すると結論付けることができる。
【0082】
[実施例8]
研究の目的
本研究の目的は、血清型9攻撃、特に現場に広がっている株を代表する血清型9、配列型16の細菌による攻撃に対する感染防御抗原を見出すことであった。評価された選択肢は、バクテリン単独及び当技術分野においてバクテリンの有効性を改善すると理解されているIgMプロテアーゼと組み合わせたバクテリンであった(Seele et al,Journal of Bacteriology,p.930-940 March 2013,Volume 195 Number 5,“Identification of a Novel Host-Specific IgM Protease in Streptococcus suis”を参照;国際公開第2015/181356号で確認された)。
【0083】
研究デザイン
研究デザインは実施例4で使用されたものと同じであったが、非SPF仔ブタを使用し、それぞれ12匹の仔ブタの3つの群(異なる同腹仔にわたって均等に分配)に割り当てた。群1には、血清型9、配列型16の不活化されたストレプトコッカス・スイス細菌を2×109細胞のレベルで含有するバクテリンワクチンを3週齢及び5週齢で2回筋肉内にワクチン接種した。群2はさらに、実施例2のIgMプロテアーゼを80μg/用量で含有した。両ワクチンは、他の実施例で使用された水中油型アジュバント中に製剤化された。群3は、ワクチン接種されていない攻撃対照群として残した。7週齢で、本明細書で上記されているS.スイス血清型9の毒性培養物で、ブタを気管内攻撃した。攻撃後、10日の間、うつ病、運動障害及び/又は神経学的徴候などのS.スイス感染の臨床徴候についてブタを毎日観察した。特定の臨床徴候(すなわち、運動又は神経学的)徴候を示した後に、人道的終点に達した動物を剖検せずに安楽死させた。特定の臨床徴候を示さずに人道的終点に到達した動物を安楽死させ、細菌学的検査を含む剖検を行ってS.スイス感染を確認した。攻撃の前及び後の定期的な時間に、攻撃株の再単離のためにヘパリン血液を採取した。最初のワクチン接種の日(5週齢)に、ブタは血清型2由来のIgMプロテアーゼに対して血清陰性であった。
【0084】
結果
いずれのワクチンも許容され得ない部位(sitel)又は全身反応を誘発せず、したがって安全と考えることができた。安楽死前の期間の攻撃後のデータを表7に示す。群2中の1匹の動物は、ストレプトコッカス・スイス特有でない理由のために攻撃後に安楽死させなければならなかった。
【表7】
【0085】
結論
血清型9、配列型16のストレプトコッカス・スイスの毒性のある攻撃に対する保護は、その血清型のバクテリン、及びIgMプロテアーゼと組み合わせたバクテリンによって提供され得る。2つの種類の抗原は悪い方向に干渉せず、先行技術に基づいて予想されたものと一致する。
【0086】
上記実施例に基づいて、組み合わされたワクチン接種戦略において、ストレプトコッカス・スイス血清型7又は1のIgMプロテアーゼ抗原を、ストレプトコッカス・スイスバクテリン血清型9、配列型16と組み合わせることによって、本発明の目的を満たすことができる。また、血清型1及び7攻撃の両方に対するより優れた保護に到達するために必要であれば、2つのIgMプロテアーゼ抗原は、組み合わされ得ることも考えられる。また、血清型2と比較したときに、CNV領域が血清型1及び7のIgMプロテアーゼ分子との間で差がある場所であり、血清型1及び7のIgMプロテアーゼはそれぞれ2つのリピートを有するのに対して、血清型2は4つのリピートを有するので、交差防御のレベルは、IgMプロテアーゼのCNV領域におけるリピートの数と関係していると考えるのが合理的である。交差防御の差の理由は明白(cleat)ではないが、より少ない数のリピートが、より良いレベルの交差防御に到達するために有利であるように見受けられる。
【配列表】
【国際調査報告】