(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-19
(54)【発明の名称】リキッドバイオプシーにおける変異検出の方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20240711BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506585
(86)(22)【出願日】2022-08-02
(85)【翻訳文提出日】2024-02-19
(86)【国際出願番号】 EP2022071749
(87)【国際公開番号】W WO2023012186
(87)【国際公開日】2023-02-09
(32)【優先日】2021-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524042610
【氏名又は名称】オンコディーエヌエー
【氏名又は名称原語表記】ONCODNA
【住所又は居所原語表記】Avenue Louis Breguet 1, 6041 Gosselies BELGIUM
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】レーズ・ジャン・フランソワ
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR62
4B063QX02
(57)【要約】
患者のリキッドバイオプシーによって変異を検出する方法であって、方法は、リキッドバイオプシーによってDNA断片を採取するステップと、DNA断片のDNAライブラリを調製するステップと、DNAライブラリを配列決定するステップと、変異を有するDNA断片のDNAバリアント断片を同定するステップと、DNAバリアント断片の長さに基づいて、同定されたDNAバリアント断片を第1グループ及び第2グループに関連付けるステップと、第1グループと第2グループとにおけるDNAバリアント断片の存在に基づいて、変異が腫瘍性であるか健常であるかを検出するステップとを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者のリキッドバイオプシーによって変異を検出する方法であって、前記方法は、
前記リキッドバイオプシーによってDNA断片を採取するステップと、
DNA断片長を保持して、前記リキッドバイオプシーによる前記DNA断片のDNAライブラリを調製するステップと、
前記DNAライブラリを配列決定し、前記DNAライブラリの前記DNA断片の配列決定データを収集するステップであって、前記DNAライブラリの配列決定は、ターゲットパネルを用いるターゲットシーケンシングによって行われ、前記ターゲットパネルは、一般に腫瘍性であることが知られている複数の変異か、又は前記リキッドバイオプシー以前に採取された前記患者の試料から同定された複数の変異を定義する、ステップと、
前記配列決定のデータに基づいて、同じ変異を有する前記DNA断片のDNAバリアント断片を同定するステップと、
前記DNAバリアント断片が、第1中間長さ閾値よりも短い場合に、同定された前記DNAバリアント断片を第1グループに関連付けるステップであって、前記第1中間長さ閾値は、150bpから166bpの間にある、ステップと、
前記DNAバリアント断片が、第2中間長さ閾値よりも長い場合に、同定された前記DNAバリアント断片を第2グループに関連付けるステップであって、前記第2中間長さ閾値は、150bpから166bpの間にあり、好ましくは、前記第1中間長さ閾値と前記第2中間長さ閾値とは等しい、ステップと、
前記第1グループ及び前記第2グループにおける前記DNAバリアント断片の存在に基づいて、前記変異が腫瘍性であるか健常であるかを検出するステップであって、前記DNAバリアント断片が前記第2グループよりも前記第1グループにより多く存在する場合に、前記変異は腫瘍性であると検出される、ステップとを有する、
方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記第1グループと前記第2グループとにおける前記DNAバリアント断片の存在と、前記変異の変異頻度とに基づいて、前記変異が腫瘍性であるか健常であるかを、検出する、
方法。
【請求項3】
前記請求項のいずれか1つに記載の方法において、
前記DNAバリアント断片が前記第2グループよりも前記第1グループにおいてより多く存在し、且つ前記変異が頻度閾値未満の変異頻度を有する場合に、前記変異は腫瘍性であると検出し、前記頻度閾値は、2%から50%の間である、
方法。
【請求項4】
前記請求項のいずれか1つに記載の方法において、
前記DNAバリアント断片が、前記第2中間長さ閾値よりも長く、且つ上限長さ閾値よりも短い場合に、前記DNAバリアント断片は、前記第2グループに関連付けられる、
方法。
【請求項5】
前記請求項のいずれか1つに記載の方法において、
前記DNAライブラリは、一本鎖DNAライブラリ及び二本鎖DNAライブラリである、
方法。
【請求項6】
前記請求項のいずれか1つに記載の方法において、
前記第1グループ及び/又は前記第2グループからの変異の同定は、前記第1グループと前記第2グループとにおける前記変異の比較によって行われ、ここで
(i)前記変異が前記第2グループにのみ存在する場合に、前記変異は健康な変異として検出され、及び/又は
(ii)前記DNA変異のDNA変異頻度が前記頻度閾値よりも優れている場合に、前記変異は、健康な変異として検出され、及び/又は
(iii)前記変異が前記第1グループよりも前記第2グループにより多く存在する場合に、前記変異は、健康な変異として検出される、
方法。
【請求項7】
前記請求項のいずれか1つに記載の方法において、
前記リキッドバイオプシーは、(i)治療前の腫瘍を有する患者、(ii)治療中の腫瘍を有する患者、(iii)治療終了後の腫瘍を有する患者、(iv)腫瘍寛解段階にある患者、(v)腫瘍再発段階にある患者、のうちの少なくとも1つの段階にある患者に対して実施される、
方法。
【請求項8】
前記請求項のいずれか1つに記載の方法において、
前記ターゲットパネルにおいて定義される前記複数の変異のそれぞれの変異について、
前記配列決定のデータに基づいて、前記それぞれの変異を有する前記DNA断片のDNAバリアント断片を同定するステップと、
前記それぞれの変異の前記DNAバリアント断片が第1中間長さ閾値よりも短い場合に、前記それぞれの変異の同定された前記DNAバリアント断片を第1グループに関連付けるステップであって、前記第1中間長さ閾値は、150bpから166bpの間である、ステップと、
前記それぞれの変異の前記DNAバリアント断片が第2中間長さ閾値よりも長い場合に、前記それぞれの変異の同定された前記DNAバリアント断片を第2グループに関連付けるステップであって、前記第2中間長さ閾値は、150bpから166bpの間であり、好ましくは、前記第1中間長さ閾値と前記第2中間長さ閾値とは等しい、ステップと、
前記第1グループと前記第2グループとにおける前記それぞれの変異の前記DNAバリアント断片の存在に基づいて、前記それぞれの変異が腫瘍性であるか健常性であるかを検出するステップであって、前記DNAバリアント断片が前記第2グループよりも前記第1グループにより多く存在する場合に、前記それぞれの変異が腫瘍性であると検出するステップとを実施する、
方法。
【請求項9】
患者の腫瘍の個別化された変異プロファイルに適合する治療を同定し、追跡し、及び/又は適合させる方法であって、前記方法は、
前記患者の腫瘍試料からDNAを採取するステップと、
前記腫瘍試料から前記DNAの配列決定をするステップと、
前記配列決定から変異を同定するステップと、
同定された前記変異を標的とする特異的DNAプローブのパネルを設計するステップと、
前記請求項のいずれか1つに記載の方法を行うステップであって、前記患者の液体試料の前記DNA断片を設計された前記パネルで収集する、ステップと、
腫瘍性の及び/又は健常な変異の前記検出に基づいて、前記腫瘍の前記個別化された変異プロファイルを特性評価するステップとを有する、
方法。
【請求項10】
1つ前の請求項に記載の方法において、
前記液体試料は、腫瘍寛解段階にある前記患者から生じる、
方法。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の方法において、
前記治療を同定し、追跡し及び/又は適合させることは、前記腫瘍の前記個別化された変異プロファイルの前記特性評価に適合される、
方法。
【請求項12】
請求項9~請求項11のいずれか1つに記載の方法において、
前記患者の前記腫瘍の前記個別化された変異プロファイルの前記特性評価に適合する治療が、前記患者に適用される、
方法。
【請求項13】
請求項9~請求項12のいずれか1つに記載の方法において、
前記液体試料は、腫瘍寛解段階にある前記患者から生じる、
方法。
【請求項14】
請求項9~請求項13のいずれか1つに記載の方法に基づいて作成されたセラノスティックレポート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゲノムに関連した分析に関する。特に、循環セルフリーDNA(cfDNA)の発見は、侵襲的なサンプリング法に伴うリスクを伴わずに、リキッドバイオプシーによる遺伝物質を分析する機会を提供してきた。
【0002】
より具体的には、限定されないが、本開示は、患者のリキッドバイオプシーから変異を検出する方法、患者の腫瘍の変異プロファイルに適合する治療を同定し、追跡し、及び/又は適合させる方法、ならびに患者の腫瘍のセラノスティックレポートに言及する。
【背景技術】
【0003】
腫瘍、特に悪性腫瘍に由来する少量の循環腫瘍DNA(ctDNA)が、癌患者の血液中のcfDNAの中に見つかることがある。疾病を診断又はより適切に同定するために、血液からctDNAを検出するアッセイは、リキッドバイオプシーとして知られている。現在、リキッドバイオプシーにおける既存の癌診断方法にはいくつかの限界があり、特に初期の癌段階では、ctDNAは血液中のcfDNAに比べて非常に低いレベルで存在する。これにより、既存のほとんどの方法の感度は、ctDNAを初期の段階において検出できるほど高くないか、方法が非常に複雑であるため、臨床で使用することができない。
【0004】
さらに、腫瘍細胞のctDNA断片の平均長は、癌の影響を受けていない正常且つ健常な細胞のcfDNA断片よりも短いことが知られている。リキッドバイオプシーからの特定のctDNAを検出する感度を増加させる方法を提供する様々な文献が知られている。
【0005】
文献国際公開第2020/94775号は、セルフリー核酸含有試料からバリアント核酸を検出するためのコンピュータ実装方法を提供している。当該方法は、a)試料から得られた核酸断片の断片サイズを表すデータ、及び/又は試料から得られた核酸断片のコピー数中立からの偏差の尺度を表すデータを提供するステップと、b)コンピュータのプロセッサに、バリアント核酸を含むセルフリー核酸の複数の試料及びバリアント核酸を含まない複数の試料を含む訓練セットで訓練された分類アルゴリズムに従って、ステップa)からのデータを処理させるステップであって、分類アルゴリズムが、試料データを少なくとも2つのクラスのうちの1つに分類するように動作し、該少なくとも2つのクラスは、複数のセルフリー核酸断片サイズの特徴及び/又はコピー数中立からの偏差の特徴に基づいて、バリアント核酸を含む第1クラス及びバリアント核酸を含まない第2クラスを含む、ステップと、c)ステップb)からの試料の分類を出力し、よって試料がバリアント核酸を含むか否かを決定するか、又は試料がバリアント核酸を含む確率を決定するステップとを有する。
【0006】
文献米国特許出願公開第US20200294624号明細書(国際公開第2020/186024号)は、サイズ選択されたセルフリーDNA配列を用いて癌を分類するための、高感度で、高速で、且つ安価な方法を提供している。この文献に記載された方法によると、腫瘍由来cfDNAが少ない癌を含む、すべての癌タイプの癌試料中の癌由来cfDNA断片の分画を濃縮することができる。さらに、この方法論は、腫瘍分画が1%未満であっても、腫瘍分画が非常に低い癌(例えば、初期段階の癌及び低ctDNA癌)の分類を容易にする。この方法は、影響を受けた領域から試料を採取し、影響を受けていない領域から液体試料を採取することを提案している。2つの試料のDNA断片長のヒストグラムが作成される。2つのヒストグラムの比に基づいて、非腫瘍試料のcfDNAに対して腫瘍試料のcfDNA断片の濃度が高い順に断片サイズビンをランク付けする。そして、癌性であることが知られている特定のctDNAを、最高ランクの断片サイズビンに基づいて液体試料から検出することができる。
【0007】
文献欧州特許出願公開第3612964号明細書(国際公開第2018/195483号)には、被験試料から得られたcfDNA断片のサイズ及び配列を分析することにより、被験試料中の腫瘍に関連する遺伝子配列バリアントの存在又はコピー数を決定する方法が開示されている。この文献は、cfDNAのサイズ情報と配列情報とを効果的に組み合わせることにより、腫瘍関連バリアントを検出して癌を判定するための高い分析感度及び特異性を実現したリキッドバイオプシーのプロセスとシステムとを提供している。この文献によれば、この開示の一側面は、被験試料から得られたcfDNA断片のサイズ及び配列を分析することにより、被験試料中の腫瘍に関連する遺伝子配列バリアントの存在又はコピー数を決定する方法に関する。
【0008】
文献国際公開第2020/104670号には、被験者から得られた試料中のバリアントセルフリーDNA(cfDNA)を検出する方法が開示されており、試料の分析は、DNAの異なる断片サイズを分離するサイズ選択ステップを含む。
【0009】
これらの文献は、cfDNA断片とctDNA断片のサイズ及び配列情報の違いを利用して、腫瘍関連バリアントを検出し、癌を判定するための高い分析感度及び特異性を実現している。これにより、たとえ特定のバリアントDNAが低濃度しか存在しなかったとしても、液体試料中の特定のバリアントDNA(例えば、癌性であることが知られているもの)の存在を検出するための感度を増加させることができる。
【0010】
残念ながら、これらの文献にはその技術の利点が述べられているが、現在、患者のリキッドバイオプシーから採取したDNAに基づいて、変異が腫瘍性か健常かを検出でき、日常的な臨床現場で適用できるほどに十分に高い感度を持つ方法は存在しない。実際、これらの文献では、腫瘍に関連する遺伝子配列変異の存在を判定する方法が開発されている。しかしながら、リキッドバイオプシーから未知の変異を同定し、この未知の変異を腫瘍性か健常かを分類できる方法は存在しない。癌治療の有効性を向上させ、リキッドバイオプシー解析のコストを低減するためには、高感度でリキッドバイオプシーから変異を検出し、腫瘍に関連する遺伝子配列バリアントの存在を検出できることが重要であるだけでなく、癌治療を最も効率的な方法で適合させるために、変異が腫瘍性(腫瘍細胞に由来する)か健常(正常且つ健常な細胞に由来する)かを検出することも必要である。実際、同じ変異でも、腫瘍がある場合と健常な場合とでは、推奨される癌治療が異なる。
【発明の概要】
【0011】
したがって、患者のリキッドバイオプシーに基づいて、腫瘍性変異であるか健常変異であるかの同定を達成する方法が必要とされている。
【0012】
本発明によれば、独立請求項にしたがう、患者のリキッドバイオプシーから変異を検出する方法が提供される。
【0013】
従来の技術では、DNAバリアント断片のサイズは、特定の変異を検出するために感度を増加させるためのみに使用されていたが、本発明者らは、DNAバリアント断片のサイズが、変異が腫瘍性であるかどうかを検出するために使用できることを発見した。実際、本発明に係る方法は、両方の群のDNAバリアント断片を分析することにより、変異の存在を検出できるだけでなく、この変異が腫瘍性か健常かを検出することもできる。変異の腫瘍由来又は健常由来の検出が、患者の治療処置に対して異なる結果をもたらすために、患者の個別化癌治療を向上させることが実に求められている。さらに、本発明による方法は、教師なしでも機能するため、どのような変異でも、たとえ未知の変異であっても、腫瘍性又は健常として検出することができる。本発明による方法はまた、非常に高い感度でリキッドバイオプシーから変異を同定及び検出することができ、ディープシーケンシングに頼る必要性を防止し、これにより、方法のコストを低減し、臨床現場における方法の日常的な適用を可能にする。さらに、リキッドバイオプシーのDNA分析の多くの既知の方法は、その方法の感度を向上させるために、固有の分子識別子(UMI)の使用に頼っている。UMIは、次世代シーケンシングプロトコルのDNAライブラリ調製中にDNA断片に追加される短い配列である。これらのUMIはDNA断片を同定するための特異的なタグであり、配列決定前のPCR増幅の際に生じるエラーを減らすために使用される。本発明に係る方法は、第1グループ及び第2グループにおけるDNAバリアント断片の存在を分析するので、クローン性造血による偽陽性を自然に補完することができる。当分野の技術水準とは異なり、本発明は、そのDNA断片の2つのサイズグループにおける特定の変異の存在に基づくものであり、2つのサイズグループにおける異なる変異を混合するものではない。これは、特定の変異の存在を検出する感度をさらに増加させ、特定の変異が腫瘍性か健康かを検出する鍵となることがわかった。
【0014】
DNA断片は、リキッドバイオプシーによって採取されたDNAの断片である。好ましくは、DNA断片は、150bpから300bpの間のDNA配列長を有するが、本発明がこれらのサイズに限定されないことは明らかであり、この範囲外のDNA配列も本発明に使用することができる。DNA断片は、DNAバリアント断片及び/又はDNA野生型断片からなる。DNA野生型断片は、参照ゲノムの対応するDNA配列と同一のDNA配列を有する。好ましくは、参照ゲノムのDNA配列は、NCBIのhg19(例えば:grch37)のような公開データベースによって得られる。しかし、参照ゲノムは、患者の健常DNA試料に由来するゲノムでもあり得る。DNAバリアント断片は、参照ゲノムのDNA配列から少なくとも1つのバリアントを有するDNA断片を参照するか、又はそのような全DNA断片である、すなわち、DNAバリアント断片は、変異を有する。DNAバリアント断片は、異なる変異を区別せず、全DNA断片が任意の変異を持つことを指す。DNAバリアント断片は、DNAのある特定のバリエーション(特定のDNAバリアント)を有する全DNA断片を指す、言い換えると、同じ変異を有する全DNA断片である。「変異」という用語は、参照ゲノムの対応するDNA配列と比較したDNA断片のDNA配列における特定のバリアントを意味する。したがって、変異は、DNAのある部分のあるバリエーションを意味する。DNAバリアント断片の少なくとも一部は、全て同じ変異を示す。DNAバリアント断片は、DNAバリアント断片の異なる部分に異なる変異を持つことができる。同じ変異は、(全DNAバリアント断片が同じDNAバリアント配列の実現であるように)DNAバリアント(断片)の完全な配列を意味することもあれば、(DNAバリアント断片がDNAの当該サブ部分で同一であり、DNAの他の部分で異なり得るように)DNA配列が同じ変異を有するDNAのサブ部分のみを指すこともある。そのため、後者の実施形態では、2つの異なるサブ部分に2つの変異を持つDNAバリアント断片は、2つの異なる特定の変異とみなされる/同定され得る。つまり、リキッドバイオプシーにより採取された全変異のDNAバリアント断片の組み合わせが、DNAバリアント断片を形成する。好ましくは、変異は、一塩基多型、インデル、欠失、転座、コピー数バリアント、又はそれらの組み合わせを含むバリアントのグループに属する。
【0015】
本発明によれば、患者のリキッドバイオプシーによって変異を検出する方法が提供され、この方法は、
リキッドバイオプシーによってDNA断片を採取するステップと、
DNA断片長を保持して、リキッドバイオプシーによるDNA断片のDNAライブラリを調製するステップと、
DNAライブラリを配列決定し、DNAライブラリのDNA断片の配列決定データを収集するステップであって、DNAライブラリの配列決定は、ターゲットパネルを用いるターゲットシーケンシングによって行われ、ターゲットパネルは、一般に腫瘍性であることが知られている複数の変異か、又はリキッドバイオプシー以前に採取された患者の試料から同定された複数の変異を定義する、ステップと、
配列決定のデータに基づいて、同じ変異を有するDNA断片のDNAバリアント断片を同定するステップと、
DNAバリアント断片が、第1中間長さ閾値よりも短い場合に、同定されたDNAバリアント断片を第1グループに関連付けるステップであって、第1中間長さ閾値は、150bpから166bpの間にある、ステップと、
DNAバリアント断片が、第2中間長さ閾値よりも長い場合に、同定されたDNAバリアント断片を第2グループに関連付けるステップであって、第2中間長さ閾値は、150bpから166bpの間にあり、好ましくは、第1中間長さ閾値と第2中間長さ閾値とは等しい、ステップと、
第1グループ及び第2グループにおけるDNAバリアント断片の存在に基づいて、変異が腫瘍性であるか健常であるかを検出するステップであって、DNAバリアント断片が第2グループよりも第1グループにより多く存在する場合に、変異は腫瘍性であると検出される、ステップとを有する。
【0016】
本発明によれば、患者の腫瘍の個別化された変異プロファイルに適応する治療を同定し、追跡し、及び/又は適合させる方法を提供し、この方法は、
患者の腫瘍試料からDNAを採取するステップと、
腫瘍試料からDNAの配列決定をするステップと、
配列決定から変異を同定するステップと、
同定された変異を標的とする特異的DNAプローブのパネルを設計するステップと、
請求項のいずれか1つに記載の方法を実施するステップであって、患者の液体試料のDNA断片を設計されたパネルで収集する、ステップと、
腫瘍性の及び/又は健常な変異の検出に基づいて、腫瘍の個別化された変異プロファイルを特性評価するステップとを有する。
【0017】
本発明はまた、本発明に係る患者の腫瘍の個別化された変異プロファイルに適合させる治療を同定し、追跡し、及び/又は適合させる方法に基づいて作成された、患者の腫瘍のセラノスティックレポートに関する。
【0018】
本発明によれば、患者のリキッドバイオプシーからのDNAバリアントが、腫瘍性か健常かを検出することが実際に可能である。リキッドバイオプシーにより、患者の腫瘍の個別化された変異プロファイルを確信を持って確立するためには、より高い感度で変異を検出する必要があるだけでなく、変異が患者の腫瘍細胞に由来するのか、患者の正常で健常な細胞に由来するのかを検出できることも重要である。本発明によれば、患者の腫瘍の特性を取り入れた患者のセラノスティックレポートを作成することもできる。このようなレポートは、例えば臨床の場において、医師が患者の腫瘍に関する利用可能な情報にしたがって最善の医療判断を下すことができるようにするために非常に有用である。
【0019】
従属請求項は、他の有利な実施形態に言及している。
【0020】
好ましくは、変異が腫瘍性であるか健常であるかの検出は、第1グループ及び第2グループにおけるDNAバリアント断片の存在と、変異の変異頻度とに基づく。変異を有するDNAバリアント断片の長さ及びDNA変異頻度に基づいて、変異を健常である又は腫瘍性であるとしてクラスタリングすることは実に有用である。
【0021】
有利には、DNAバリアント断片が第2グループよりも第1グループにおいてより多く存在し、且つ変異が頻度閾値未満の変異頻度を有する場合、変異が腫瘍性であると検出され、頻度閾値は2%から50%の間である。
【0022】
好ましくは、DNAバリアント断片は、第2中間長さ閾値よりも長く、上限長さ閾値よりも短い場合、DNAバリアント断片は、第2グループに関連付けられる。実際、このような最初及び上限の長さの閾値は、健常DNAバリアントと腫瘍性DNAバリアントとを識別するために必要な、第1グループと第2グループとの適切なクラスタリングを可能にする。
【0023】
好ましくは、ターゲットシーケンシングは、二本鎖DNAプローブを用いたハイブリダイゼーションターゲットシーケンシングである。実際、本発明者らは、二本鎖DNAプローブを用いたハイブリダイゼーションステップが、ターゲットシーケンシングのための目的のDNAを捕捉するためにより効率的であり、目的のDNAの均一な捕捉を可能にし、したがって目的のDNAの均一な配列決定を可能にすることを見出した。
【0024】
有利には、DNAライブラリは一本鎖及び二本鎖のDNAライブラリである。実際、一本鎖DNAライブラリと二本鎖DNAライブラリとの両方が存在すると、正常で健常なDNA断片と比較して、腫瘍性DNA断片が濃縮され、腫瘍性DNAバリアント検出の感度が向上する。
【0025】
本発明によれば、腫瘍性DNA断片という用語は、腫瘍細胞及び/又は患者の腫瘍に由来するDNA断片を意味する。
【0026】
好ましくは、ターゲットシーケンシングは、患者の腫瘍で同定された変異を定義する個別化パネルを用いて行われる。好ましくは、ターゲットシーケンシングは、患者の腫瘍のDNAの少なくとも0.5Mb、好ましくは少なくとも0.8Mb、好ましくは少なくとも1Mbの全長を有するDNA配列のターゲットシーケンシングであり、当該全長を有するDNA配列は、患者の腫瘍のDNAの少なくとも0.5Mb、好ましくは少なくとも0.8Mb、好ましくは少なくとも1Mbの累積全長を有する一連の連続的及び/又は不連続的DNA配列であってもよい。配列決定されたDNA配列の全長は、読み取られた塩基対の累積数(読み取られた異なるDNA「ピース」についても累積される)を意味する。まず、患者の腫瘍に現れる変異が特定され、標的化/個別化パネルに定義されるため、本発明は個別化パネルで特に有利である。さらに、個別化パネルを用いて患者のリキッドバイオプシーから変異を検出する方法は、定義され、個別化された変異の存在を検出するだけでなく、腫瘍性変異と健常(又は非腫瘍性)変異とを区別することもできる。患者のリキッドバイオプシーから変異を検出する本発明の方法と、個別化パネルとの組み合わせは、癌サーベイランスのための非常に強力なツールである。その代わりに、又はそれに加えて、ターゲットシーケンシングは、患者の腫瘍タイプに頻繁に関連する既知のDNAバリアント、及び/又は患者の腫瘍型の治療に対する応答又は耐性に関連する既知のDNAバリアントを定義するターゲットパネルを用いて行うこともできる。
【0027】
有利には、本方法は、患者の腫瘍試料の配列決定を実施して、個別化又はターゲットパネルの変異を同定するステップを有する。好ましくは、第1グループからの変異及び/又は第2グループからの変異の同定は、第1グループ及び第2グループにおける変異の比較によって実施され、(i)変異が第2グループにのみ存在する場合、変異は、健常な変異として検出され、及び/又は(ii)DNA変異のDNA変異頻度が頻度閾値よりも優れている場合、変異は、健常な変異として検出され、及び/又は(iii)変異が第1グループよりも第2グループに多く存在する場合、変異は、健常な変異として検出される。実際、腫瘍性変異を検出する以外に、患者の腫瘍をよりよく定義するために、健常な変異を検出することも有利である。
【0028】
有利には、リキッドバイオプシーは、(i)治療前の腫瘍を有する患者、(ii)治療中の腫瘍を有する患者、(iii)治療終了後の腫瘍を有する患者、(iv)腫瘍寛解段階にある患者、(v)腫瘍再発段階にある患者のうちの少なくとも1つの段階にある患者に対して実施される。実際、患者の腫瘍の進化をよりよく追跡するため、及び/又は腫瘍治療の有効性をよりよく分析するために、リキッドバイオプシーから得られたDNA試料に対して本発明に係る方法を実施することが有用であり、ここで、リキッドバイオプシーは、患者の腫瘍進化の異なる段階、及び/又は患者の治療の異なる段階で実施される。特に、腫瘍の再発段階では、高い感度且つ低い偽陽性率で腫瘍の再発を検出できるため、この方法は特に有利である。
【0029】
好ましくは、ターゲットパネルにおいて定義された複数の変異のそれぞれの変異について、
配列決定のデータに基づいて、それぞれの変異を有するDNA断片のDNAバリアント断片を同定するステップと、
それぞれの変異のDNAバリアント断片が第1中間長さ閾値よりも短い場合に、それぞれの変異の同定されたDNAバリアント断片を第1グループに関連付けるステップであって、第1中間長さ閾値は、150bpから166bpの間である、ステップと、
それぞれの変異のDNAバリアント断片が第2中間長さ閾値よりも長い場合に、それぞれの変異の同定されたDNAバリアント断片を第2グループに関連付けるステップであって、第2中間長さ閾値は、150bpから166bpの間であり、好ましくは、第1中間長さ閾値と第2中間長さ閾値とは等しい、ステップと、
第1グループと第2グループとにおけるそれぞれの変異のDNAバリアント断片の存在に基づいて、それぞれの変異が腫瘍性であるか健常性であるかを検出するステップであって、DNAバリアント断片が第2グループよりも第1グループでより多く存在する場合に、それぞれの変異が腫瘍性であると検出するステップとを実施する。
【0030】
有利には、液体試料は、腫瘍寛解段階にある患者に由来する。実際、患者の腫瘍の再出現の可能性を非侵襲的に分析するために、腫瘍寛解段階にある患者で本発明による方法を実施することは有利である。
【0031】
好ましくは、治療を同定し、追跡し、及び/又は適合させることは、本発明に係る腫瘍の個別化された変異プロファイルの特性評価に適合される。実際、治療を同定し、追跡し、適合させることは、患者の腫瘍の個別化された変異プロファイルの特性評価に有益である。
【0032】
有利には、患者の腫瘍の個別化された変異プロファイルの特性評価に適合する治療が、当該患者に適用される。
【0033】
本発明の他の特徴、詳細及び利点は、非限定的に、添付図面を参照しながら以下に示す説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】特異的DNAプローブのターゲットパネルを設計する手順を説明するフローチャートである。
【
図2】本発明に係る患者のリキッドバイオプシーから変異を検出する方法と、本発明に係る患者の腫瘍の個別化された変異プロファイルに適合する治療を同定し、追跡し、及び/又は適合させる方法とを示す。
【
図3】DNAバリアント断片が、第1グループ又は第2グループの条件を満たす様子を示す。
【
図4】第1変異を有するDNAバリアント断片を第1グループと第2グループとにクラスタリングすることを示す模式図である。
【
図5】第2DNA変異を有するDNAバリアント断片を第1グループと第2グループとにクラスタリングすることを示す模式図である。
【
図6】変異が腫瘍性であるか健常であるかを同定するステップを説明するフローチャートである。
【
図7】リキッドバイオプシーが腫瘍の進化及び/又は患者の臨床治療の異なる段階で実施できることを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図面において、同じ参照番号は同じ又はアナログ要素に割り当てられている。
【0036】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の非限定的な説明から、また、図面及び実施例を参照することによって得られるであろう。
【0037】
図1は、患者の腫瘍試料のDNAのコレクションから、特異的DNAプローブのターゲットパネルを設計するための様々なステップを示している。
【0038】
最初のステップS1は、患者の腫瘍試料からDNAを採取することから構成されている。いくつかの実施態様では、患者の腫瘍試料は、ソリッドバイオプシーに由来する。いくつかの実施態様では、患者の腫瘍試料は、リキッドバイオプシーに由来する。患者の腫瘍試料からのDNAは、腫瘍からのDNA断片及び/又は腫瘍からのゲノムDNA、染色体DNAであり得る。
【0039】
ステップS2では、腫瘍試料からのDNAの配列決定を行う。好ましくは、当該DNAの配列決定は、患者の腫瘍試料からのDNAの少なくとも100000塩基対(bp)又は100キロbp(kb)、好ましくは少なくとも500kb、好ましくは少なくとも700kb、好ましくは少なくとも800kb、好ましくは少なくとも900kb、好ましくは少なくとも1000kb又は1メガ塩基(Mb)のターゲットシーケンシングである。好ましくは、DNAの配列決定は、患者の腫瘍試料からのDNAの10Mb未満、好ましくは5Mb未満、好ましくは3Mb未満のターゲットシーケンシングである。有利には、配列決定は、NextSeq500/550シーケンサー、又はイルミナもしくはMGIの任意のシーケンサーによって行われる。好ましくは、配列決定は、ペアエンドシーケンス「paired end sequencing」であるが、シングルエンドシーケンス「single end sequencing」であってもよい。
【0040】
次に、ステップS3において、腫瘍試料から変異を同定する。変異の同定は、腫瘍試料の配列決定DNAと参照ゲノムの対応するDNA配列との比較に基づいて同定される。
【0041】
次のステップS4は、同定された変異を標的とする特異的DNAプローブのターゲットパネルを設計することから構成されている。
【0042】
図2は、本発明に係る患者のリキッドバイオプシーから変異を検出する方法、及び患者の腫瘍の変異プロファイルに適合する治療を同定する方法の実施形態を開示する。ステップS11からステップS13は、どちらかというと方法の実験(laboratory)ステップを記述しているが、ステップ22からステップ27は、どちらかというとインシリコステップを記述している。しかし、ステップS11からS13のいくつかのステップをインシリコで実施すること、及び/又はステップ22から27の1つ以上のステップを非インシリコで実施することも可能である。
【0043】
ステップS11は、リキッドバイオプシーからDNA断片を採取することから構成される。
【0044】
次のステップS12は、DNA断片の長さを保持してDNA断片のDNAライブラリを調製することから構成される。有利には、DNAライブラリは、一本鎖及び/又は二本鎖DNA断片を有するDNA断片に基づいて調製される。好ましくは、DNAライブラリは、一本鎖及び二本鎖のDNA断片を有するDNA断片に基づいて調製される。
【0045】
次に、S13において、ターゲットパネルに基づいて、DNAライブラリが配列決定される。ターゲットパネルは、複数の変異を定義する。ターゲットパネルは、リキッドバイオプシー又は定義された変異を持つライブラリにおいてDNA断片をシーケンスすることができる。したがって、ターゲットパネルに基づき、DNAライブラリを配列決定した結果の配列決定データは、ターゲットパネルに定義された変異を有する全DNA断片を読み出し又は配列決定する(一方、定義された変異を示さないDNA断片は読み出し又は配列決定しない)。ターゲットパネルが変異を含まないDNA断片も配列決定するように、ターゲットパネルは、野生型DNAを定義することもできる。このようにして得られた配列決定データは、定義された変異(野生型DNAに属する可能性もある)を有する液体試料のDNA断片のDNA配列を含有する。好ましくは、ターゲットパネルは、患者の癌を標的としたパネル、すなわち、患者の試料に基づいて設計された患者専用パネルである。このような患者専用のターゲットパネルは、
図1で説明したように作成することができる。有利には、ターゲットシーケンシングは、(i)患者の腫瘍タイプに頻繁に関連する既知の変異、及び/又は(ii)患者の腫瘍タイプの治療に対する応答又は耐性に関連する既知の変異、及び/又は(iii)患者の腫瘍において同定された個別化された変異を有するDNAを濃縮するために実施される。しかし、ターゲットパネルは、患者専用でなくてもよい。ターゲットパネルは、例えば、特定の癌タイプを引き起こすことが知られている複数の変異を含むことができる、言い換えると、癌特異的パネルである。特定の癌タイプとは、例えば肺癌、乳癌、皮膚癌等である。ターゲットシーケンシングは、ハイブリダイゼーションターゲットシーケンシングである。
【0046】
配列決定するステップは、(デジタル)DNA配列決定データ(短い配列決定データ)を提供する。好ましくは、配列決定データは、各(配列決定された)DNA断片について、このDNA断片の配列情報を提供する。この配列情報は、好ましくは、(配列決定された)DNA断片のヌクレオチド配列を有する。
図4及び
図5は、配列決定データ30と配列決定されたDNA断片とを示している。図を簡単にするため、野生型DNA断片1、第1特定変異(灰色の四角で示す)を有する第1DNAバリアント断片1.1、1.2、及び第2特定変異(白色の丸で示す)を有する第2DNAバリアント断片1.1'、1.2'のみを示す。実施例は、本発明を限定するものではなく、配列決定データは、2つ以上の異なる変異のDNAバリアント断片を有し得る。
【0047】
ステップS22では、DNA配列決定データのDNA断片の中から、特定の変異を有するDNAバリアント断片を特定する。つまり、ステップS22では、DNA配列決定データ中の全DNA断片の中から、(特定の変異を有する)DNAバリアント断片を選択する。この選択は、好ましくはインシリコで実行される、言い換えると、デジタル配列決定データに基づいて実行される。したがって、後続のステップS23及びS24で言及されるDNAバリアント断片は、常に同じ特定の変異のDNAバリアント断片を指す。
図4の例では、第1DNAバリアント断片1.1、1.2のDNA断片が特定/選択される。
図5の例では、第2DNAバリアント断片1.1'、1.2'のDNA断片が特定/選択される。ステップS22の結果、DNAバリアント断片のセット、すなわち、同じ特定の変異に属するDNA断片のセットが得られる。
【0048】
ステップS23では、特定されたDNAバリアント断片を、DNAバリアント断片の長さに基づいて、第1グループ及び第2グループに関連付ける。第1グループのDNAバリアント断片は、第2グループのDNAバリアント断片よりも短く、少なくとも第1グループのDNAバリアント断片の大部分は、第2グループのDNAバリアント断片よりも短い。好ましくは、第1グループの全DNAバリアント断片は、第2グループ全DNAバリアント断片よりも短い。第1/第2グループのDNAバリアント断片は、第1/第2グループに関連するDNAバリアント断片を意味するものとする。ステップS23の結果、より短いDNAバリアント断片の第1セット/グループ10と、より長いDNAバリアント断片の第2セット/グループ20とが得られる。第1及び第2グループ10、20は、特定の変異のDNA断片のみを有する、すなわち、1つの(及び/又は同じ)変異のみを有する。好ましくは、第1中間長さ閾値よりも短いDNAバリアント断片1.1は、第1グループ10に関連付けられ、第2中間長さ閾値よりも長いDNAバリアント断片1.2は、第2グループ20に関連付けられる。最も好ましくは、第1中間長さ閾値と第2中間長さ閾値とは同じである、言い換えると、(共通の)中間長さ閾値は、
図3の例で示すようになる。しかし、第1中間長さ閾値と第2中間長さ閾値とは、異なっていてもよい。この場合、第1中間長さ閾値と第2中間長さ閾値とは、好ましくは5塩基対(bp)未満、好ましくは3bp未満で区別される。中間長さ閾値、第1中間長さ閾値及び/又は第2中間長さ閾値は、好ましくは167bp未満であり、好ましくは166bp未満であり、好ましくは165bp未満であり、好ましくは164bp未満であり、好ましくは163bp未満であり、好ましくは162bp未満であり、好ましくは161bp未満であり、及び/又は好ましくは150bpよりも大きく、好ましくは155bpよりも大きく、好ましくは157bpよりも大きく、好ましくは158bpよりも大きく、好ましくは159bpよりも大きい。好ましい実施形態では、中間長さ閾値は、160bpの長さである。DNA断片を第1グループ10又は第2グループ20に関連付ける追加の基準があってもよい。好ましくは、第2中間長さ閾値(又は中間長さ閾値)よりも長く、上限長さ閾値よりも短いDNAバリアント断片1.2は、第2グループ20に関連付けられる。上限長さ閾値は、(第2)中間長さ閾値よりも大きい。好ましくは、上限長さ閾値は、250bp未満であり、好ましくは200bp未満であり、好ましくは190bp未満であり、好ましくは185bp未満である。好ましい実施形態では、上限長さ閾値は180bpである。
【0049】
図3は、(特定された)DNAバリアント断片が、その長さに基づいて第1及び第2グループにどのように関連付けられるかを例示する図である。これは、特定されたDNAバリアント断片ごとに
図3の方法を行うことで実現される。したがって、
図2のステップS23は、各(特定された)DNAバリアント断片に対して、
図3に示す方法を実行することによって実現することができる。DNAバリアント断片が中間長さ閾値よりも小さい場合、DNAバリアント断片は第1グループ10の条件を満たす、及び/又は、ステップS32で第1グループ10に関連付けられる。DNAバリアント断片が中間長さ閾値よりも小さくないか、又は大きい場合、プロセスは、ステップS33に進み、DNAバリアント断片が上限長さ閾値よりも小さいかどうかがさらにチェックされる。この場合(つまり、DNAバリアント断片が中間長さ閾値と上限長さ閾値との間の長さを持つ場合)、ステップS34においてDNAバリアント断片を第2グループ20に関連付ける。なお、本手順と同様に、第1及び第2グループ10、20に同じDNAバリアント断片が対応付けられていれば、ステップS32~S34のステップ及びチェックの順序を任意に並べ替えることができる。つまり、
図4に示すように、短いDNAバリアント断片1.1は、第1グループ10に関連付けられ、長いDNAバリアント断片1.2は、第2グループ20に関連付けられる。
【0050】
ステップS22とS23の順序は、本発明にとって重要ではない。1つの変異に属するDNAバリアント断片のいずれかが最初に特定され、次にその長さに基づいて2つのグループ10、20に関連付けられるか、又は全DNA(バリアント)断片が最初にその長さに基づいて2つのグループ10、20に関連付けられ、次に1つの変異に属するDNAバリアント断片が第1及び第2グループ10,20中で特定される。なお、特定されたDNAバリアント断片が、第1グループ10及び/又は第2グループ20に関連付けられると記載する場合、特定ステップS22が関連付けステップS23の前に必ず実行されることを意味するものではない。
【0051】
ステップS24では、(DNAバリアント断片の)特定の変異が腫瘍性か健常かを検出する。この検出は、好ましくは、第1及び第2グループ10,20中の特定の変異のDNAバリアント断片の存在に基づく。好ましくは、特定の変異は、(特定の変異の)DNAバリアント断片が第2グループ20よりも第1グループ10に多く、好ましくは第2グループ20よりも統計的に有意に多く存在する場合、腫瘍性であると検出される。この検出は、好ましくは変異の頻度に基づく。この検出は、好ましくは、第1及び第2グループ10,20中の特定の変異のDNAバリアント断片の存在に基づき、変異頻度に基づく。好ましくは、特定の変異は、変異の変異頻度が頻度閾値未満であること、及び(特定の変異の)DNAバリアント断片が第2グループ20よりも第1グループ10に多く、好ましくは第2グループ20よりも統計的に有意に多く存在するという2つの条件を累積的に満たす場合に、腫瘍性であると検出される。統計的有意性は、例えばカイ二乗検定で検定できる。
【0052】
変異頻度は、しばしば対立遺伝子頻度又は遺伝子頻度とも呼ばれる。変異頻度は、リキッドバイオプシー及び/又はリキッドバイオプシーから取得された配列決定データにおける特定の変異の頻度に基づいて決定される。変異の変異頻度は、変異の存在と野生型DNAの存在との比率に基づいて決定することができる。好ましくは、これは、配列決定データ中のDNAバリアント断片数#Vと配列決定データ中のDNA断片数#Rとの比#V/#Rによって決定される。配列決定データ#RのDNA断片数は、リード数、すなわち、配列決定プロセスで読み取られた全DNA断片数に相当する。しかし、他の定義も可能である。例えば、変異頻度は、DNA断片の特定のサイズ範囲内で先に定義された対応比率、又は変異頻度を表す他の定義によっても定義され得る。頻度閾値は、好ましくは5%よりも大きく、好ましくは10%よりも大きく、好ましくは15%よりも大きく、好ましくは18%よりも大きい。頻度閾値は、好ましくは40%未満であり、好ましくは30%未満であり、好ましくは25%未満であり、好ましくは22%未満である。好ましい実施形態では、頻度閾値は20%である。
【0053】
好ましくは、変異は、腫瘍性変異に対する上記で定義された条件が満たされない場合、及び/又は変異の変異頻度が頻度閾値よりも大きい場合、及び/又はDNAバリアント断片が第1グループ10よりも第2グループ20に多い場合、健常又は非腫瘍性として検出される。しかし、この方法は、変異が腫瘍性かどうかだけを判定することも可能である。この場合、変異が腫瘍として検出されなかった際の検出は、変異が健常として検出された特許とみなされる。
【0054】
図6は、変異が腫瘍性又は健常性としてどのように検出されるかを説明する例示的なフローチャートである。
図6は、
図2のステップS24を実現するための方法例である。ステップS42では、変異の変異頻度が頻度閾値未満であるかどうかのチェックが行われる。S44では、変異頻度が頻度閾値未満でなければ、変異は健常であると検出される。変異頻度が頻度閾値未満の場合、S43において、DNAバリアント断片が第2グループ20よりも第1グループ10に多く存在するかどうかのチェックが実行される。変異を有するDNAバリアント断片が第2グループ20よりも第1グループ10に多く存在する場合には、ステップS45において変異が腫瘍性であると検出され、一方、変異を有するDNAバリアント断片が第2グループ20よりも第1グループ10に多く存在していない場合、及び/又は、第1グループ10よりも第2グループ20に多く存在する場合には、ステップS46において変異が健常であると検出される。
【0055】
本発明に係る方法は、1つの変異についてのみ適用することができる。この場合、方法はステップS24の後に終了するか、ステップS27に進む。好ましくは、本発明に係る方法は、複数の変異の各々について、DNAバリアントが健常であるか腫瘍性であるかが検出されるように、複数の変異について適用される。複数の変異のそれぞれは、ターゲットパネルに定義されている。この場合、複数の変異の各変異についてステップS22~S24を繰り返すことにより、S24において、複数の変異の各変異について、その変異が腫瘍性であるか健常であるかを判定することができる。複数の変異の全ての変異が処理された場合、方法はステップS26に進む。
図4は、DNA断片30のうち第1変異の第1DNAバリアント断片S22を特定し、第1DNAバリアント断片を第1グループ10及び第2グループS23に関連付けるステップを示す一方、
図5は、DNA断片30のうち第2変異の第2DNAバリアント断片S22を特定し、第2DNAバリアント断片を第1グループ10及び第2グループS23に関連付けるステップを示す。第1変異と第2変異とは異なる。
【0056】
ステップS26は任意であり、変異又は複数の変異の検出のステップS24の結果に基づいて、腫瘍を特性評価することからなる。腫瘍性及び/又は健常な変異の検出に基づいて腫瘍を特性評価することは、例えば、特定の腫瘍治療に対して感受性及び/又は耐性を有することが特に知られている腫瘍サブタイプを同定することを意味する。つまり、腫瘍の特性評価は、患者の腫瘍によく適合した特定の腫瘍治療の同定を可能にする。
【0057】
また、ステップS27は任意であり、ステップS26における腫瘍の特性評価に基づいて、又はステップS24の検出の結果(複数可)に基づいて、患者の腫瘍の個別化された変異プロファイルに適合する治療を同定し、追跡し及び/又は適合させることからなる。好ましくは、患者の腫瘍のセラノスティックレポートは、腫瘍の医療情報及び/又は配列決定データと、腫瘍性及び/又は健常である同定済みの変異のリストとを有し得る。腫瘍のセラノスティックレポートはまた、(i)腫瘍の特性評価に基づく治療に対する応答の可能性に関するデータ、(ii)臨床的利益に関連し得る、及び/又は臨床的利益に関連しない特性を有する治療のリスト、(iii)腫瘍の特性評価に関連付けられた臨床アッセイのリスト、及び/又は腫瘍の特性評価に関連する科学的刊行物のリストを含み得る。
【0058】
図7は、腫瘍の進化をモニターするために、患者に対してリキッドバイオプシーを実施できるさまざまな時点を示している。好ましくは、リキッドバイオプシーは、(i)治療前の腫瘍を有する患者2.1、(ii)治療中の腫瘍を有する患者2.2、(iii)治療終了後の腫瘍を有する患者2.3、(iv)腫瘍寛解段階にある患者2.4、(v)腫瘍再発段階にある患者2.4のうちの少なくとも1つの段階にある患者に対して実施される。好ましくは、リキッドバイオプシーは、腫瘍寛解段階にある患者から採取される。
本発明は、記載された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱することなくバリエーションを適用できることを理解されたい。
【国際調査報告】