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特表2024-527187揮発性有機化合物に基づくプローブ、並びに病理学的状態の診断及び予後診断のためのその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-22
(54)【発明の名称】揮発性有機化合物に基づくプローブ、並びに病理学的状態の診断及び予後診断のためのその使用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20240712BHJP
【FI】
G01N33/50 T
G01N33/50 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579402
(86)(22)【出願日】2022-06-22
(85)【翻訳文提出日】2024-02-02
(86)【国際出願番号】 EP2022066960
(87)【国際公開番号】W WO2022268855
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】2106631
(32)【優先日】2021-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(31)【優先権主張番号】2202352
(32)【優先日】2022-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504007888
【氏名又は名称】センター ナショナル デ ラ レシェルシェ サイエンティフィーク
(71)【出願人】
【識別番号】510256920
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ドゥ ポワティエ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE POITIERS
(71)【出願人】
【識別番号】518154594
【氏名又は名称】サントル オスピタリエ ユニヴェルシテル ドゥ ポワティエ
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE DE POITIERS
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポワノ,ポリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】パポー,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ランジュ,ジュスタン
(72)【発明者】
【氏名】ジャゴ,ファビオラ
(72)【発明者】
【氏名】ブロシュース,エステル
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045DA30
2G045DA36
2G045FA33
2G045FA40
(57)【要約】
本発明は、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド(又はエチル-β-D-グルクロニドプローブ)と、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシド(又はエチル-β-D-ガラクトピラノシドプローブ)とのいずれか、又はエチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-α-マンノピラノシド(若しくはエチル-β-D-グルクロニドプローブ)を、診断剤及び/又は予後診断剤としての使用のために含む組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド(又はエチル-β-D-グルクロニドプローブ)と、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシド(又はエチル-β-D-ガラクトピラノシドプローブ)と、のいずれか、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-α-マンノピラノシド(又はエチル-α-マンノピラノシドプローブ)を、診断剤及び/又は予後診断剤としての使用のために含む、組成物。
【請求項2】
組成物の使用であって、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド(又はエチル-β-D-グルクロニドプローブ)と、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシド(又はエチル-β-D-ガラクトピラノシドプローブ)と、のいずれか、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-α-マンノピラノシド(又はエチル-α-マンノピラノシド)を、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択される病理学的状態のエキソビボでの診断及び/又は予後診断のための薬剤として含む組成物の使用。
【請求項3】
前記病理学的状態が、癌、細菌及びウイルス感染、院内感染、自己免疫疾患、呼吸器炎症、慢性炎症、神経変性疾患、並びに慢性加齢性障害からなる群から選択される、請求項1又は2のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項4】
対象における病理学的状態を診断するための方法であって、前記病理学的状態が、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択され、
前記方法が、
a)前記対象の生体試料中に、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド(若しくはエチル-β-D-グルクロニドプローブ)と、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシド(若しくはエチル-β-D-ガラクトピラノシドプローブ)と、のいずれか、
又はエチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-α-マンノピラノシド(若しくはエチル-α-マンノピラノシドプローブ)を含む組成物を添加する工程と、
b)気相中に放出された標識エタノールの量を測定する工程と、
c)工程b)で得られた値を対応する標準対照値と比較する工程と、
d)そこから、前記対象が前記病理学的状態に罹患しているかどうかを推定する工程と、を含む、方法。
【請求項5】
対象における病理学的状態の治療的又は予防的処置の有効性を追跡するための方法であって、前記病理学的状態が、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択され、
前記方法が、
a)前記処置中の時点tにおける前記対象の生体試料に、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド(若しくはエチル-β-D-グルクロニドプローブ)と、エチル部分が少なく
とも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシド(又はエチル-β-D-ガラクトピラノシドプローブ)と、のいずれか、
又はエチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-α-マンノピラノシド(若しくはエチル-α-マンノピラノシドプローブ)
を含む組成物を添加する工程と、
b)気相中に放出された標識エタノールの量を測定する工程と、
c)工程b)で得られた値を、対応する標準対照値及び/又は処置の開始前若しくは時点tより前の前記処置中の時点t’で得られた対応する値と比較する工程と、
d)そこから前記処置が有効であるかどうかを推定する工程と、
e)任意選択的に、工程a)~d)を繰り返す工程と、を含む方法。
【請求項6】
対象における病理学的状態の経過を追跡するための方法であって、前記病理学的状態が、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択され、
前記方法が、
a)前記対象の生体試料中に、時点t1において、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド(若しくはエチル-β-D-グルクロニドプローブ)と、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシド(又はエチル-β-D-ガラクトピラノシドプローブ)と、のいずれか、
又はエチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-α-マンノピラノシド(若しくはエチル-α-マンノピラノシドプローブ)を含む組成物を添加する工程と、
b)時点t1における試料について、気相中に放出された標識エタノールの量を測定する工程と、
c)前記対象の生体試料に、時点t1から時間的に離れた時点t2において、工程a)で定義された前記組成物を添加する工程と、
d)時点t2における試料について、気相中に放出された標識エタノールの量を測定する工程と、
e)時点t1及びt2においてそれぞれ工程b)及びd)で得られた値を比較する工程と、
f)そこから、前記病理学的状態が良好に変化するかどうかを推定する工程と、
g)任意選択的に、工程a)~f)を繰り返す工程と、を含む方法。
【請求項7】
病理学的状態に罹患している対象を、ある重症度の前記病理学的状態に罹患している対象のカテゴリC-1に、又は別の重症度の前記病理学的状態に罹患している対象のカテゴリC-2に分類するための方法であって、前記病理学的状態が、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患及び急性感染からなる群から選択され、
前記方法は、
a)前記対象の生体試料中に、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド(若しくはエチル-β-D-グルクロニドプローブ)と、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシド(若しくはエチル-β-D-ガラクトピラノシドプローブ)と、のいずれか、
又はエチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-α-マンノピラノシド(若しくはエチル-α-マンノピラノシドプローブ)を含む組成物を添加する工程と、
b)気相中に放出された標識エタノールの量を測定する工程と、
c)工程b)で得られた値を対応する標準対照値と比較する工程と、
d)そこから、前記対象が前記カテゴリC1に属するか前記カテゴリC2に属するかを推定する工程と、を含む方法。
【請求項8】
前記生体試料が、血漿、血液、組織、唾液、尿、脳脊髄液試料、及び生検からなる群から選択される、請求項4~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択される病理学的状態の診断のためのキットであって、
前記キットが、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド(若しくはエチル-β-D-グルクロニドプローブ)と、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシド(又はエチル-β-D-ガラクトピラノシドプローブ)と、のいずれか、
又はエチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-α-マンノピラノシド(若しくはエチル-α-マンノピラノシドプローブ)を含む組成物を備える、キット。
【請求項10】
生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択される病理学的状態の診断のための、請求項9に記載のキットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物に基づくプローブ、これらのプローブを含む組成物、並びに病理学的状態の診断及び予後診断のためのそれらの使用に関する。本発明はまた、当該プローブの使用によりこれらの病理学的状態を診断するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
早期の、正確な、信頼できる診断は、病理学的状態にかかわらず、患者の回復を確実にするための鍵の1つである。現在まで、患者の診断は、個体が特定の症状を有する場合の個体の臨床検査から、又は国のスクリーニングプログラムへの参加からのいずれかの結果であった。次に、その患者は、イメージング分析を含む医療プロトコルに入るが、このプロトコルは、1)低アクセス性、2)特異性、3)高コスト、及び4)感度の点で改善可能なままである。
【0003】
生物系によって産生される揮発性有機化合物(VOC)の研究分野である「ボラトロミクス」は、リアルタイムの代謝プロセスを調査することを可能にする振興の科学分野である。個人の呼吸、発汗、尿、又は糞便中に存在する多くの内因性VOCは、様々な疾患の潜在的なマーカーである可能性があり、カスタマイズされた治療の状況において患者の診断及び分類の両方を可能にする。しかしながら、「ボラトロミクス」の臨床使用は、流体又は生物学的ガス中のVOCのサンプリング及び分析についての高い個人間変動及び研究室間の相違のために制限されたままである。
【0004】
最近、医療又は生物学的目的のためのバイオセンサが開発されており、これらは蛍光、電気化学、又は発光による検出に基づいている。しかしながら、これらのバイオセンサは放射性元素を含有するという欠点を有する。
【0005】
したがって、生体分子に由来し、放射性元素を含まないプローブに基づく、診断のための単純かつ高感度な手段が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、診断される対象にプローブを投与した後、疾患を早期にかつ確実に診断するために、1つ(複数)の病理学的状態(複数可)の特異的酵素をマッピングするようにプログラムされた酵素感受性プローブを含む組成物を提供することである。
【0007】
本発明はまた、対象の診断のための組成物を提供することを目的とし、治療の過程で対象を非常に定期的に追跡することを可能にし、それによって、最も有効なプロトコルの選択に関して医療関係者が意思決定するのを助ける。
【0008】
本発明の別の目的は、悪性の病理学的状態の処置を改善することができるようにするために、簡単で、安価で、非常に高感度で、痛みのない、多数が利用可能な診断方法を提供することである。
【0009】
本発明の目的は、内因性マーカーを追跡する場合に遭遇する個体間変動を大幅に低減することを可能にする診断用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド(若しくはエチル-β-D-グルクロニドプローブ)、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-N-アセチルグルコサミド(若しくはエチル-N-アセチルグルコサミドプローブ)、及び
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシド(若しくはエチル-β-D-ガラクトピラノシドプローブ)を、
診断剤及び/又は予後診断剤としての使用のために含む組成物に関する。
【0011】
したがって、本発明は、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド(又はエチル-β-D-グルクロニドプローブ)と、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシド(又はエチル-β-D-ガラクトピラノシドプローブ)と、のいずれか、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-α-マンノピラノシド(又はエチル-α-マンノピラノシドプローブ)を、診断剤及び/又は予後診断剤としての使用のために含む組成物に関する。
【0012】
本発明はまた、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド(又はエチル-β-D-グルクロニドプローブ)、及び
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシド(又はエチル-β-D-ガラクトピラノシドプローブ)を、
診断剤及び/又は予後診断剤としての使用のために含む組成物(C1)に関する。
【0013】
本発明はまた、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-α-マンノピラノシド(又はエチル-α-マンノピラノシドプローブ)を、
診断剤及び/又は予後診断剤としての使用のために含む組成物(C2)に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】プローブD-エチル-β-D-グルクロニドの存在下でのβ-グルクロニダーゼの検出のための較正直線及び分析方法GC-MSMSの性能を示す(LOD、LOQ、及びR)。
図2】パラ-ニトロフェノールグルクロニドの存在下でのβ-グルクロニダーゼの検出についての較正直線及びUV検出法の性能を示す(LOD、LOQ、及びR)。
図3】プローブD-エチル-β-D-グルクロニドを添加した後の患者の血漿のヘッドスペース中に放出されたエタノール-D検出の速度論を示す。
図4】プローブD-エチル-β-D-グルクロニドを添加した後の異なるサイズの腫瘍を有する患者の血漿のヘッドスペースに放出されたエタノール-D検出の速度論を示す。
図5】マウス組織試料のヘッドスペースにおけるエタノール-Dの検出を、添加したプローブDs-エチル--β-D-グルクロニド(10-9M)の濃度の関数として示す。
図6】標的酵素の存在下での各プローブの加水分解後に放出されたエタノール-D及びエタノール-13C-Dの量を示す。β-グルクロニダーゼ(酵素1)とD-エチル-β-D-グルクロニド(プローブ1)。N-アセチル-グルコサミニダーゼ(酵素2)と13C-D-エチル-N-アセチルグルコサミン(プローブ2)。
図7】パートナー酵素の存在下での各プローブの加水分解後に放出されたエタノール-D及びエタノール-13C-Dの量を示す。N-アセチル-グルコサミニダーゼ(酵素2)とD-エチル-β-D-グルクロニド(プローブ1)。β-グルクロニダーゼ(酵素1)と13C-D-エチル-N-アセチルグルコサミン(プローブ2)。
図8】2つのプローブが酵素の一方又は他方の存在下に置かれた場合に放出されたエタノール-D及びエタノール-13C-Dの量を示す。酵素β-グルクロニダーゼ(酵素1)とD-エチル-β-D-グルクロニド(プローブ1)及び13C-D-エチル-N-アセチルグルコサミン(プローブ2)。N-アセチル-グルコサミニダーゼ(酵素2)と、D-エチル-β-D-グルクロニド(プローブ1)及び13C-D-エチル-N-アセチルグルコサミン(プローブ2)。
図9図9aは、β-グルクロニダーゼを標的とするD-エチル-β-D-グルクロニドの加水分解後に放出されたエタノール-Dの量を示す(n=4人の健常な患者、n=3人の乳癌患者、n=3人の肺癌患者)。図9bは、α-L-フコシダーゼを標的とするD-エチル-1-α-L-フコピラノシドの加水分解後に放出されたエタノール-D4の量を示す(n=2人の健常患者、n=1人の乳癌患者、n=1人の肺癌患者)。図9cは、N-アセチル-グルコサミニダーゼを標的とする13CD-エチル-N-アセチルグルコサミンの加水分解後に放出されたエタノール-13CDの量を示す(n=4の健常患者、n=3の乳癌患者、n=3の肺癌患者)。図9dは、β-D-ガラクトシダーゼを標的とするD2-エチル-β-D-ガラクトピラノシドの加水分解後に放出されたエタノール-D2の量を示す(n=4人の健常な患者、n=3人の乳癌患者、n=3人の肺癌患者)。
図10図10aは、10pg.kg-1のD-エチル-β-D-グルクロニドの注射後に動物によって吐き出されたエタノール-Dの量を示す。図10bは、100pg.kg-1のD4-エチル-1-α-L-フコピラノシドの注射後に動物によって吐き出されたエタノール-D4の量を示す。図10cは、10pg.kg-113CD-エチル-N-アセチルグルコサミンの注射後に動物によって吐き出されたエタノール-13CDの量を示す。図10dは、1pg.kg-1のD-エチル-β-D-ガラクトピラノシドの注射後に動物によって吐き出されたエタノール-Dの量を示す。
図11】プローブD-エチル-α-マンノピラノシド(10M)の存在下でのα-マンノシダーゼの活性(U.L-1)に依存するエタノール-Dのシグナル強度を有する較正直線、及びこの酵素の検出のためのVOCプローブ概念の性能(LOD及びR)を示す。直線を3つの異なる速度論点(反応の2、4、及び7時間後)についてプロットした。各点を二連で実行した。図11aは、2時間~2時間30分の速度論点に対応し、図11bは、4時間~4時間30分の速度論点に対応し、図11cは、7時間~7時間30分の速度論点に対応する。
図12】プローブD-エチル-β-D-ガラクトピラノシド(10M)の存在下でのβ-ガラクトシダーゼの活性(U.L-1)に依存するエタノール-D2のシグナル強度を有する較正直線、及びこの酵素の検出のためのVOCプローブ概念の性能(LOD及びR)を示す。直線を3つの異なる速度論点(反応の2、4、及び7時間後)についてプロットした。各点を二連で実行した。図12aは、2時間~2時間30分の速度論点に対応し、図12bは、4時間~4時間30分の速度論点に対応し、図12cは、7時間~7時間30分の速度論点に対応する。
図13】プローブ13C-D-エチル-N-アセチルグルコサミド(10M)の存在下でのN-アセチル-グルコサミニダーゼの活性(U.L-1)に依存するエタノール-13CDのシグナル強度を有する較正直線、及びこの酵素の検出のためのVOCプローブ概念の性能(LOD及びR)を示す。直線を3つの異なる速度論点(反応の2、4、及び7時間後)についてプロットした。各点を二連で実行した。図13aは、2時間~2時間30分の速度論点に対応し、図13bは、4時間~4時間30分の速度論点に対応し、図13cは、7時間~7時間30分の速度論点に対応する。
図14図14aは、10-7MのD-エチル-β-D-グルクロニドの存在下で生検材料上で検出されたエタノール-Dの量を示す。図14bは、10-4MのD-エチル-1-α-L-フコピラノシドの存在下で生検材料上で検出されたエタノール-Dの量を示す。図14cは、10-8Mの13CD-エチル-N-アセチルグルコサミンの存在下で生検材料上で検出されたエタノール-13CDの量を示す。図14dは、10-6MのD-エチル-β-D-ガラクトピラノシドの存在下で生検材料上で検出されたエタノール-Dの量を示す。
図15】VOC(n=7人の健常な患者)に基づくプローブの加水分解の速度論に関する。実線=ブランク;点線=処置前に室温で30分間保存した血液試料の応答の平均:健常-T0;破線=処置前に4℃で5時間保存した血液試料の応答の平均:健常-T2)。図15aは、β-グルクロニダーゼを標的とするD-エチル-β-D-グルクロニドの加水分解後に放出されたエタノール-Dの量を示す。図15bは、α-L-フコシダーゼを標的とするD-エチル-1-α-L-フコピラノシドの加水分解後に放出されたエタノール-Dの量を示す。図15cは、N-アセチルグルコサミニダーゼを標的とする13CD-エチル-N-アセチルグルコサミンの加水分解後に放出されたエタノール-13CDの量を示す。図15dは、β-D-ガラクトシダーゼを標的とするD-エチル-β-D-ガラクトピラノシドの加水分解後に放出されたエタノール-Dの量を示す。図15eは、α-マンノシダーゼを標的とするD-エチル-α-マンノピラノシドの加水分解後に放出されたエタノール-Dの量を示す。図15fは、α-D-グルコシダーゼを標的とするD4-エチル-α-D-グルクロニドの加水分解後に放出されたエタノール-D4の量を示す。
図16】SARS-COV-2感染中のVOCに基づくプローブの予後診断効率に関する(n=10のわずかに症状のある患者:A群、n=10の強い症状のある患者:B群、n=10の集中治療に参加した強い症状のある患者:C群)。図16aは、β-グルクロニダーゼを標的とするD-エチル-β-D-グルクロニドの加水分解後に放出されたエタノール-Dの量を示す。図16bは、α-L-フコシダーゼを標的とするD-エチル-1-α-L-フコピラノシドの加水分解後に放出されたエタノール-Dの量を示す。図16cは、N-アセチルグルコサミニダーゼを標的とする13CD-エチル-N-アセチルグルコサミンの加水分解後に放出されたエタノール-13CDの量を示す。図16dは、β-D-ガラクトシダーゼを標的とするD-エチル-β-D-ガラクトピラノシドの加水分解後に放出されたエタノール-Dの量を示す。図16eは、α-マンノシダーゼを標的とするD-エチル-α-マンノピラノシドの加水分解後に放出されたエタノール-Dの量を示す。図16fは、α-D-グルコシダーゼを標的とするD4-エチル-α-D-グルクロニドの加水分解後に放出されたエタノール-D4の量を示す。
図17-1】SARS-COV-2感染中にVOCに基づくプローブを介して検出された酵素マーカーの活性の進行に関する(n=10人の軽度に症状のある患者:A群、n=10人の重度に症状のある患者:B群、n=10人の集中治療に参加した重度に症状のある患者:C群)。図17aは、β-グルクロニダーゼを標的とするD-エチル-β-D-グルクロニドの加水分解後に放出されたエタノール-Dの量を示す。図17bは、α-L-フコシダーゼを標的とするD-エチル-1-α-L-フコピラノシドの加水分解後に放出されたエタノール-D4の量を示す。図17cは、N-アセチルグルコサミニダーゼを標的とする13CD-エチル-N-アセチルグルコサミンの加水分解後に放出されたエタノール-13CDの量を示す。図17dは、β-D-ガラクトシダーゼを標的とするD-エチル-β-D-ガラクトピラノシドの加水分解後に放出されたエタノール-Dの量を示す。図17eは、α-マンノシダーゼを標的とするD-エチル-α-マンノピラノシドの加水分解後に放出されたエタノール-Dの量を示す。図17fは、α-D-グルコシダーゼを標的とするD4-エチル-α-D-グルクロニドの加水分解後に放出されたエタノール-D4の量を示す。
図17-2】SARS-COV-2感染中にVOCに基づくプローブを介して検出された酵素マーカーの活性の進行に関する(n=10人の軽度に症状のある患者:A群、n=10人の重度に症状のある患者:B群、n=10人の集中治療に参加した重度に症状のある患者:C群)。図17aは、β-グルクロニダーゼを標的とするD-エチル-β-D-グルクロニドの加水分解後に放出されたエタノール-Dの量を示す。図17bは、α-L-フコシダーゼを標的とするD-エチル-1-α-L-フコピラノシドの加水分解後に放出されたエタノール-D4の量を示す。図17cは、N-アセチルグルコサミニダーゼを標的とする13CD-エチル-N-アセチルグルコサミンの加水分解後に放出されたエタノール-13CDの量を示す。図17dは、β-D-ガラクトシダーゼを標的とするD-エチル-β-D-ガラクトピラノシドの加水分解後に放出されたエタノール-Dの量を示す。図17eは、α-マンノシダーゼを標的とするD-エチル-α-マンノピラノシドの加水分解後に放出されたエタノール-Dの量を示す。図17fは、α-D-グルコシダーゼを標的とするD4-エチル-α-D-グルクロニドの加水分解後に放出されたエタノール-D4の量を示す。
図18】プローブD-エチル-1-α-L-フコピラノシド(10-3M)の存在下でのα-フコシダーゼの活性(U.L-1)に依存するエタノール-D4のシグナル強度を有する較正直線、及びこの酵素の検出のためのVOCプローブ概念の性能(LOD及びR)を示す。直線を3つの異なる速度論点(反応の2、4、及び7時間後)についてプロットした。各点を二連で実行した。図18aは、速度論点2時間~2時間30分に対応し、図18bは、速度論点4時間~4時間30分に対応し、図18cは、速度論点7時間~7時間30分に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による組成物又はカクテル
【0016】
したがって、上記組成物は、病理学的状態の診断又は予後診断のための薬剤としての使用を意図したいくつかの化合物又はプローブを含む。この組成物は、以後、「カクテル」又は「プローブカクテル」という用語でも呼ばれる。したがって、この組成物は、以下に説明するように、病理学的状態を診断又は予測するために使用される。したがって、本発明による組成物として、例えば、上述の組成物C1又はC2を挙げることができる。
【0017】
上述したように、本発明に従って使用される組成物は、例えば、少なくとも2つのプローブ、特に、少なくとも3つのプローブ、すなわちエチル-β-D-グルクロニドプローブ、エチル-N-アセチルグルコサミド及びエチル-β-D-ガラクトピラノシドを含み、これらのプローブ(又は化合物)の各々は、エチル部分に少なくとも1つの非放射性同位体を含む。
【0018】
上述したように、「カクテル1」とも呼ばれる、本発明に従って使用される組成物C1は、少なくとも2つのプローブ、すなわちエチル-β-D-グルクロニド及びエチル-β-D-ガラクトピラノシドプローブを含み、これらのプローブ(又は化合物)の各々は、エチル部分に少なくとも1つの非放射性同位体を含む。一実施形態によれば、この組成物は、例えば、エチル-N-アセチルグルコサミドプローブを含む。
【0019】
本発明に従って使用される別の組成物、すなわち「カクテル2」とも呼ばれる組成物C2は、少なくともエチル-α-マンノピラノシドプローブを、好ましくは少なくとも1種の他のプローブ、例えば、エチル-α-D-グルコピラノシドプローブ又はエチル-1-α-L-フコピラノシドプローブと組み合わせて含む。
【0020】
エチル-β-D-グルクロニドは、以下の式に対応し、
【0021】
【化1】

β-グルクロニダーゼ酵素を標的とする。
【0022】
エチル-N-アセチルグルコサミドは、以下の式に対応し、
【0023】
【化2】

酵素N-アセチルグルコサミニダーゼを標的とする。
【0024】
エチル-β-D-ガラクトピラノシドは、以下の式に対応し、
【0025】
【化3】

β-ガラクトシダーゼ酵素を標的とする。
【0026】
上記で説明したように、本発明による組成物のプローブは、エチル部分に少なくとも1つの非放射性同位体を含む。非放射性同位体としては、例えば、重水素(D)、炭素-13(13C)、又は酸素18(18O)を挙げることができる。したがって、これらのプローブは、エチル部分の少なくとも1個の水素及び/又は炭素及び/又は酸素原子が同位体で置換されている上記式に対応する化合物から誘導される化合物である。したがって、本発明に従って使用されるプローブのエチル部分は、1つ以上の位置(D、13C、又は18O)において1つ以上の非放射性同位体で標識される。
【0027】
一実施形態によれば、エチル部分が本発明による組成物中に存在する少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-β-D-グルクロニドは、以下の式(1)に対応するプローブD-エチル-β-D-グルクロニドであり、
【0028】
【化4】

このプローブは酵素β-グルクロニダーゼを標的とする。
【0029】
一実施形態によれば、エチル部分が本発明による組成物中に存在する少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-N-アセチルグルコサミドは、以下の式(2)に対応するプローブ13C-D-エチル-N-アセチルグルコサミドであり、
【0030】
【化5】

このプローブは、酵素N-アセチル-グルコサミニダーゼを標的とする。
【0031】
一実施形態によれば、エチル部分が本発明による組成物中に存在する少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-β-D-ガラクトピラノシドは、以下の式(3)に対応するプローブD-エチル-β-D-ガラクトピラノシドであり、
【0032】
【化6】

このプローブは酵素β-ガラクトシダーゼを標的とする。
【0033】
エチル-1-α-L-フコピラノシドは、以下の式に対応し、
【0034】
【化7】

酵素α-L-フコシダーゼを標的とする。
【0035】
エチル-グルコピラノシドは、以下の式に対応し、
【0036】
【化8】

酵素α-又はβ-グルコシダーゼを標的とする。
【0037】
エチル-マンノピラノシドは、以下の式に対応し、
【0038】
【化9】

酵素α-マンノシダーゼ又はβ-マンノシダーゼを標的とする。
【0039】
エチル-α-D-グルコピラノシドは、以下の式に対応し、
【0040】
【化10】

酵素α-グルコシダーゼを標的とする。
【0041】
エチル-α-マンノピラノシドは、以下の式に対応し、
【0042】
【化11】

及び酵素α-マンノシダーゼを標的とする。
【0043】
一実施形態によれば、エチル部分が本発明による組成物中に存在する少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-1-α-L-フコピラノシドは、以下の式(4)に対応するプローブD-エチル-1-α-L-フコピラノシドであり、
【0044】
【化12】

このプローブは、酵素α-L-フコシダーゼを標的とする。
【0045】
一実施形態によれば、エチル部分が本発明による組成物中に存在する少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-グルコピラノシドは、以下の式(5)に対応するプローブD-エチル-グルコピラノシドである。
【0046】
【化13】
【0047】
一実施形態によれば、エチル部分が本発明による組成物中に存在する少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-マンノピラノシドは、以下の式(6)に対応するプローブD-エチル-マンノピラノシドである。
【0048】
【化14】
【0049】
全てのプローブは、エタノール-D2、エタノール-D3、エタノール-D4、エタノール-D5、エタノール-13C-D5、エタノール-13C2-D5、エタノール-13C、又はエタノール-13C2であるエタノール同位体を用いてランダムに合成することができる。
【0050】
したがって、本発明は、内因性VOCの従来の研究から離れて、1つ以上の安定同位体で標識されたVOCを構造中に含むマルチモーダルプローブのエキソビボでの使用に基づく。これらの相互作用プローブは、これらの媒体に特異的な酵素の活性を介して、損傷組織において選択的に加水分解される。このようにして放出されたVOCは、次に、損傷した組織の代謝に特徴的な外因性マーカーとなり、以下に説明するように、確立された詳細なプロトコルに従って生体試料中でエキソビボで検出される。
【0051】
腫瘍酵素マーカーであるβ-グルクロニダーゼを標的とする概念の第1の証拠は、インビボで様々なタイプの固形腫瘍を検出し、化学療法中のそれらの進展をモニタリングするための重水素標識エタノールプローブの使用の関連性を示した。しかしながら、臨床研究の状況では、単一酵素の標的化は、有意な数の偽陽性及び偽陰性をもたらし得る。
【0052】
したがって、本発明は、誤った診断のリスクを低減し、関連する治療の有効性を予測するために、それぞれが1つ以上の病理学的状態に特異的な酵素マーカーを標的とする相互作用プローブのカクテルの使用に基づく。活性化されたプローブに依存して、このストラテジーは、病理学的状態(例えば、固形腫瘍、炎症性症候群、細菌感染、ウイルス感染)の性質、その位置、その攻撃性、その発達段階、及び処置に対するその応答についての情報を提供する。
【0053】
したがって、本発明の文脈において、グリコシダーゼ酵素を標的とするVOCを有するプローブが使用される。これらの酵素は、損傷組織(例えば、腫瘍又は感染性微小環境)において発現されるが、健常な細胞によっては発現/分泌されないか、又はほとんど発現/分泌されない。
【0054】
加水分解後、これらのプローブは、標識エタノール分子を放出する。
【0055】
更に、本発明によるVOCベースのプローブは、これまでにない感度を提供する。例として、β-グルクロニダーゼを標的とするプローブを用いて得られた最初の結果は、この酵素が5×1013M未満の濃度で血漿中に検出され得ることを示す。最近開発された蛍光バイオセンサは、この同じ酵素について5×10-9MのLODを有した。
【0056】
一実施形態によれば、上記組成物、特に組成物C1又は「カクテル1」は、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-1-α-L-フコピラノシド、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-β-D-グルコピラノシド、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-マンノピラノシド、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの他の標識化合物を更に含む。
【0057】
一実施形態によれば、上記組成物、特に組成物C1又は「カクテル1」は、エチル-N-アセチルグルコサミドを更に含む。
【0058】
一実施形態によれば、本発明の組成物は、少なくとも上記プローブ(1)、(2)、及び(3)を、上で定義したプローブ(4)、(5)、及び/又は(6)のうちの少なくとも1つと組み合わせて含む。
【0059】
一実施形態によれば、本発明の組成物C1は、少なくとも上記プローブ(1)及び(3
)を、上で定義したプローブ(2)、(4)、(5)、及び/又は(6)のうちの少なくとも1つと組み合わせて含む。
【0060】
一実施形態によれば、本発明の組成物C2は、少なくとも上記プローブ(6)を、上で定義されたプローブ(4)及び/又は(5)の少なくとも1つと組み合わせて含む。
【0061】
一実施形態によれば、組成物C1は、少なくとも、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-β-D-グルクロニドと、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-N-アセチルグルコサミドと、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-β-D-ガラクトピラノシドと、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-1-α-L-フコピラノシドと、を含む。
【0062】
したがって、本発明によるこのカクテルC1-1は、好ましくは、β-グルクロニダーゼを標的とするエチル-β-d-グルクロニド、N-アセチルグルコサミニダーゼを標的とするエチル-N-アセチルグルコサミド、β-ガラクトシダーゼを標的とするエチル-β-D-ガラクトピラノシド、及びα-L-フコシダーゼを標的とするエチル-1-α-L-フコピラノシドを含み、これらのプローブのそれぞれは、それらのエチル部分における少なくとも1つの非放射性同位体の存在によって、上記で説明したように修飾されている。
【0063】
一実施形態によれば、組成物C1は、少なくとも、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-β-D-グルクロニドと、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-β-D-ガラクトピラノシドと、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-α-D-グルコピラノシドと、を含む。
【0064】
したがって、本発明によるこのカクテルC1-2は、好ましくは、β-グルクロニダーゼを標的とするエチル-β-d-グルクロニド、β-ガラクトシダーゼを標的とするエチル-β-D-ガラクトピラノシド、及びα-グルコシダーゼを標的とするエチル-α-D-グルコピラノシドを含み、これらのプローブの各々は、それらのエチル部分における少なくとも1つの非放射性同位体の存在によって、上記で説明したように修飾されている。
【0065】
一実施形態によれば、組成物C2は、少なくとも、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-α-D-グルコピラノシドと、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-α-マンノピラノシドと、を含む。
【0066】
したがって、本発明によるこのカクテルC2-1は、好ましくは、α-グルコシダーゼを標的とするエチル-α-D-グルコピラノシド及びα-マンノシダーゼを標的とするエチル-α-マンノピラノシドを含み、これらのプローブの各々は、それらのエチル部分における少なくとも1つの非放射性同位体の存在によって、上記で説明したように修飾されている。
【0067】
一実施形態によれば、組成物C2は、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-1-α-L-フコピラノシドと、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-α-マンノピラノシドと、を含む。
【0068】
したがって、本発明によるこのカクテルC2-2は、好ましくは、エチル-1-α-L-フコピラノシド標的化α-L-フコシダーゼ及びエチル-α-マンノピラノシド標的化α-マンノシダーゼを含み、これらのプローブの各々は、それらのエチル部分における少なくとも1つの非放射性同位体の存在によって、上記で説明したように修飾されている。
【0069】
一実施形態によれば、組成物は、少なくとも、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-β-D-グルクロニドと、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-N-アセチルグルコサミドと、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-β-D-ガラクトピラノシドと、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-1-α-L-フコピラノシドと、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-グルコピラノシドと、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル-マンノピラノシドと、を含む。
【0070】
したがって、本発明によるカクテルは、好ましくは、β-グルクロニダーゼを標的とするエチル-β-d-グルクロニドと、N-アセチルグルコサミニダーゼを標的とするエチル-N-アセチルグルコサミドと、β-ガラクトシダーゼを標的とするエチル-β-D-ガラクトピラノシドと、α-L-フコシダーゼを標的とするエチル-1-α-L-フコピラノシドと、α-グルコシダーゼ又はβ-グルコシダーゼを標的とするエチル-グルコピラノシドと、α-マンノシダーゼ又はβ-マンノシダーゼを標的とするエチル-マンノピラノシドと、を含み、これらのプローブの各々は、それらのエチル部分における少なくとも1つの非放射性同位体の存在によって、上記で説明したように修飾されている。
【0071】
一実施形態によれば、本発明による組成物は、式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)及び(6)に対応する上記プローブを含む。
【0072】
本発明による組成物又はカクテルの使用
【0073】
本発明はまた、上記で定義した組成物、すなわち、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-N-アセチルグルコサミド、及び
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシドを含む組成物の、
生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択される病理学的状態のエキソビボでの診断及び/又は予後診断のための薬剤としての使用に関する。
【0074】
本発明はまた、上で定義した組成物、すなわち、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド(若しくはエチル-β-D-グルクロニドプローブ)と、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシド(若しくはエチル-β-D-ガラクトピラノシドプローブ)と、のいずれか、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-α-マンノピラノシド(又はエチル-α-マンノピラノシド)を含む組成物の、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択される病理学的状態のエキソビボでの診断及び/又は予後診断のための薬剤としての使用に関する。
【0075】
本発明はまた、上で定義した組成物、すなわち、組成物C1又はC2の、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択される病理学的状態のエキソビボでの診断及び/又は予後診断のための薬剤としての使用に関する。
【0076】
以下に説明するように、本発明による組成物、及び上で定義した組成物、特に組成物C1又はC2は、上記プローブを含み、対象(ヒト又は動物)のエキソビボでの診断及び/
又は予後診断のために使用される。これらの組成物は、特に、病理学的状態の進行、重症度、及び進展に従って対象又は患者を分類するためだけでなく、例えば、対象又は患者の所与の集団のスクリーニングキャンペーンの状況において、病理学的状態を、おそらくは早期に診断するためにも意図され得る。
【0077】
一実施形態によれば、上記の病理学的状態のエキソビボでの診断及び/又は予後診断のための薬剤として使用される組成物は、上で定義された通りであり、特にプローブ(1)、(2)、及び(3)を含む。
【0078】
一実施形態によれば、上記の病理学的状態のエキソビボでの診断及び/又は予後診断のための薬剤として使用される組成物は、組成物C1又はC2である。
【0079】
一実施形態によれば、上述の病理学的状態のエキソビボでの診断及び/又は予後診断のための薬剤として使用される組成物は、上述のプローブ(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、及び(6)を含む。
【0080】
病理学的状態
【0081】
上記のように、本発明によるプローブのカクテルによって診断及び/又は予測することができる病理学的状態は、生物の病変又は感染に応答した炎症反応、慢性炎症性疾患、及び急性感染を含む病理学的状態である。これらの病理学的状態の中で、特に、炎症性疾患、細菌感染、又は自己免疫疾患を挙げることができる。
【0082】
「生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態」という用語は、特に癌、肺ARDS及び線維症、又はパーキンソン病を指す。
【0083】
「慢性炎症性疾患」という用語は、特に、クローン病、湿疹、並びに自己免疫疾患、例えば1型糖尿病、白斑、多発性硬化症、又は関節リウマチを指す。
【0084】
「急性感染」という用語は、特に、ウイルス感染(呼吸器合胞体、SARS-COV、HIV、単純ヘルペスウイルス、及び全ての振興ウイルス)、及び細菌感染(大腸菌(Escherichia Coli)、ブドウ球菌(Staphylococcus)、シュードモナス(Pseudomonas)、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes))を指す。
【0085】
炎症性疾病とも呼ばれる炎症性疾患は、免疫系の異常反応から生じる任意の疾患であり得る。
【0086】
炎症性疾患は、自己炎症性疾患、自己免疫疾患、又は原因不明の炎症状態であり得る。
【0087】
炎症性疾患は、免疫系機能不全による組織攻撃によって定義される。よって、中でも、アテローム性動脈硬化症、リウマチ性関節炎、肺炎、慢性炎症性腸疾患、敗血症、重症敗血症、敗血症性ショック、又は癌が言及され得る。
【0088】
したがって、炎症疾患は、好ましくは、アテローム性動脈硬化症、リウマチ性関節炎、肺炎、慢性炎症性腸疾患、敗血症、重症敗血症、敗血症性ショック、癌、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0089】
アテローム性動脈硬化症(動脈硬化症とも呼ばれる)は、動脈に影響を及ぼす疾患であり、動脈の内壁上のアテローム性プラークの出現によって特徴付けられる。
【0090】
関節リウマチ(又はRA)は、散発的に現れる慢性関節炎症を特徴とする結合組織の全身性疾患である。
【0091】
肺炎症は、特に、炎症性肺疾患及び/又は肺アレルギーを含む。
【0092】
炎症性肺疾患は、特に、急性肺障害(ALI、「中等度ARDS」とも呼ばれる)、急性呼吸窮迫症候群(又はARDS)、及び輸血関連急性肺障害(又はTRALI)を含む。
【0093】
呼吸器アレルギーとも呼ばれる肺アレルギーは、急性期(喘息とも呼ばれる)と慢性期とが交互に起こる疾患である。
【0094】
慢性炎症性腸疾患(又はIBD)は、クローン病及び潰瘍性結腸炎から選択することができる。
【0095】
感染に応答した過剰な炎症反応は、敗血症、並びにその最も重篤な形態である重症敗血症及び敗血症性ショックを引き起こす。
【0096】
癌細胞は炎症を引き起こし、隣接する細胞に侵入して、近くの細胞の増殖につながる環境を作り出す。したがって、癌腫瘍は少しずつ成長する。具体的には、癌細胞は、炎症を利用して進行する。
【0097】
一実施形態によれば、上記病理学的状態は、癌、細菌及びウイルス感染、院内感染、自己免疫疾患、呼吸器炎症、慢性炎症、神経変性疾患、並びに慢性加齢性障害からなる群から選択される。
【0098】
本発明によれば、癌の中でも、例えば肺癌(肺、気管支、及び鼻咽頭)、婦人科癌(乳房、卵巣、子宮)、及び胃腸癌(肝臓、腸、結腸、膵臓)などの固形癌腫瘍を挙げることができる。
【0099】
好ましくは、癌は、乳癌、肺癌、膵臓癌、卵巣癌、子宮癌、上咽頭癌、腸癌、結腸癌、膀胱癌、及び脳癌からなる群から選択される。
【0100】
細菌及びウイルス感染として、例えば、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、大腸菌(Escherichia coli)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、アシネトバクター・バウマニ及び緑膿菌(Acinetobacter baumannii and Pseudomonas aeruginosa)、サルモネラ菌(Salmonella)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、クラミジア(Chlamydia)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)、SARS-COV、HIV、合胞体ウイルス、単純疱疹ウイルス、及び全ての新興ウイルスによる感染を挙げることができる。
【0101】
院内感染としては、例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、大腸菌(Escherichia coli)、及びプロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)による感染を挙げることができる。
【0102】
自己免疫疾患としては、例えば、1型糖尿病、白斑、多発性硬化症又は関節リウマチを挙げることができる。
【0103】
呼吸器炎症としては、例えば肺線維症、特に、急性低酸素血症性呼吸不全又は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を挙げることができる。
【0104】
慢性炎症としては、例えば、クローン病を挙げることができる。
【0105】
神経変性疾患としては、例えば、アルツハイマー病又はパーキンソン病を挙げることができる。
【0106】
慢性加齢性障害としては、例えば、2型糖尿病、変形性関節症、及び骨粗鬆症を挙げることができる。
【0107】
本発明はまた、癌の診断及び/又は予後診断のための薬剤として使用するための、特にプローブ(1)、(2)、及び(3)、又は組成物C1若しくはC2を含む上記組成物に関する。
【0108】
本発明はまた、癌の診断及び/又は予後診断のための薬剤として使用するための、プローブ(1)、(2)、(3)、及び(4)を含む上記で定義された組成物に関する。
【0109】
本発明はまた、癌の診断及び/又は予後診断のための薬剤として使用するための、プローブ(1)、(2)、(3)、(4)、及び(6)を含む上記で定義された組成物に関する。
【0110】
本発明はまた、癌の診断及び/又は予後診断のための薬剤として使用するための、上で定義した組成物C1又はC2に関する。
【0111】
本発明はまた、ウイルス及び細菌感染並びに変形性関節症又は糖尿病などの慢性炎症性疾患の診断及び/又は予後診断のための薬剤として使用するための、プローブ(1)、(2)、(3)、及び(5)を含む上記で定義された組成物に関する。
【0112】
本発明はまた、ウイルス及び細菌感染並びに変形性関節症又は糖尿病などの慢性炎症性疾患の診断及び/又は予後診断のための薬剤として使用するための、上で定義した組成物C1又はC2に関する。
【0113】
病理学的状態を診断するための方法
【0114】
本発明はまた、対象における病理学的状態を診断するための方法であって、当該病理学的状態が、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択され、
当該方法が、
a)当該対象の生体試料中に、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-N-アセチルグルコサミド、及び
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシドを含む組成物を添加する工程と、
b)気相中に放出された標識エタノールの量を測定する工程と、
c)工程b)で得られた値を対応する標準対照値と比較する工程と、
d)そこから、対象が当該病理学的状態に罹患しているかどうかを推定する工程と、を含む方法に関する。
【0115】
上記診断方法は、好ましくはエキソビボ法である。
【0116】
本発明はまた、対象における病理学的状態を診断するための方法であって、当該病理学的状態が、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択され、
当該方法が、
a)当該対象の生体試料中に、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド(若しくはエチル-β-D-グルクロニドプローブ)と、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシド(又はエチル-β-D-ガラクトピラノシドプローブ)と、のいずれか、
又はエチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-α-マンノピラノシド(若しくはエチル-α-マンノピラノシドプローブ)を含む組成物を添加する工程と、
b)気相中に放出された標識エタノールの量を測定する工程と、
c)工程b)で得られた値を対応する標準対照値と比較する工程と、
d)そこから、当該対象が当該病理学的状態に罹患しているかどうかを推定する工程と、を含む。
【0117】
本発明はまた、対象における病理学的状態を診断するための方法であって、当該病理学的状態が、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択され、
当該方法が、
a)当該対象の生体試料に、上で定義された組成物C1又はC2を添加する工程と、
b)気相中に放出された標識エタノールの量を測定する工程と、
c)工程b)で得られた値を対応する標準対照値と比較する工程と、
d)そこから、対象が当該病理学的状態に罹患しているかどうかを推定する工程と、を含む方法に関する。
【0118】
一実施形態によれば、工程a)~d)は、一方が組成物C1であり、他方が組成物C2である、同じ対象の2つの同一試料に対して並行して実行することができる。
【0119】
一実施形態によれば、上記診断方法は、癌の診断のための、特にプローブ(1)、(2)、及び(3)を含む上記組成物の実施を含む。
【0120】
一実施形態によれば、上記診断方法は、癌の診断のための、プローブ(1)、(2)、(3)、及び(4)を含む上記組成物の実施を含む。
【0121】
一実施形態によれば、上記診断方法は、癌の診断のための、プローブ(1)、(2)、(3)、(4)、及び(6)を含む上記組成物の実施を含む。
【0122】
一実施形態によれば、上記診断方法は、癌の診断のための上記組成物C1又はC2の実施を含む。
【0123】
一実施形態によれば、上記診断方法は、ウイルス及び細菌感染並びに変形性関節症又は糖尿病などの慢性炎症性疾患の診断のための、プローブ(1)、(2)、(3)、及び(5)を含む上記組成物の実施を含む。
【0124】
一実施形態によれば、上記診断方法は、ウイルス及び細菌感染並びに変形性関節症又は糖尿病などの慢性炎症性疾患の診断のための、上記組成物C1又はC2の実施を含む。
【0125】
対象
【0126】
一実施形態によれば、対象はヒト又は動物である。
【0127】
対象は、好ましくは哺乳動物、例えばヒト対象又は非ヒト哺乳動物、例えばネコ、イヌ、サル、ウサギ、マウス、若しくはラットである。
【0128】
ヒト対象は、乳児、小児、青年、成人、又は高齢者などの任意の年齢の男性又は女性であってもよい。
【0129】
対象は、好ましくは、上で定義した病理学的状態、特に炎症性疾患に罹患しているか、又は罹患するリスクがある対象である。
【0130】
炎症性疾患に罹患するリスクのある対象は、例えば、炎症性疾患の家族歴を有する対象、少なくとも1つの炎症性疾患に既に罹患している対象、遺伝的危険因子、代謝因子、及び/又は生活様式因子を有する対象、並びに/又は炎症性疾患の前兆であり得る少なくとも1つの症状を有する対象である。
【0131】
生体試料
【0132】
生体試料は、好ましくは、上記で定義した対象から得られる。生体試料は、好ましくは、当該対象の血漿、血液、組織、唾液、尿、脳脊髄液試料、及び生検からなる群から選択される。
【0133】
工程a)は、対象から得られた生体試料を、本発明による組成物、特に上記で定義されたプローブのカクテルと接触させることからなる。この接触は、当業者に周知の任意の手段によって、本発明の組成物(又はプローブのカクテル)を当該生体試料に添加することによって実行される。
【0134】
例えば、組成物は、当該試料、例えば、血漿又は血液試料を含有する容器に添加される。
【0135】
生体試料への本発明の組成物の添加は、生体試料中で直接、又は生体試料の処理後に実行することができる。
【0136】
一実施形態によれば、生体試料、好ましくは流体については1mLの体積、組織については数百グラムの体積の生体試料は、当該組成物の添加後、上記方法の測定工程b)に対応する分析まで-20℃で維持される。分析前に解凍すべきではない。
【0137】
一実施形態によれば、対象から得られた生体試料は、生体試料中の固形腫瘍のマーカー酵素を検出するために使用される、例えば酢酸緩衝液(特にpH5.5、0.1mol/L、酢酸ナトリウム及び酢酸の混合物を含有する)などの緩衝液にも添加される。
【0138】
一実施形態によれば、対象から得られた生体試料は、プロテアーゼ阻害剤(例えば、Complete、EDTAフリープロテアーゼ阻害剤カクテル、Roche)にも添加される。例として、生体試料中の固体腫瘍マーカー酵素を検出するために、7×の濃度でUP水を用いて調製されたプロテアーゼ阻害剤が、1×の最終濃度で使用される。
【0139】
したがって、この工程a)の前に、生体試料を処理する工程があってもよい。
【0140】
ここで「生体試料を処理する」とは、例えば、遠心分離、凍結及び解凍サイクル、並びに緩衝液中での懸濁からなる群から選択される少なくとも1つの処理工程を意味する。
【0141】
一実施形態によれば、本発明の組成物は、好ましくは10-3mol/L~10-7mol/Lの濃度で、特に上記で定義された緩衝溶液に上述のプローブを添加することによって調製される。好ましくは、プローブを10μL~200μLの体積で添加して、25μL~300μLの総試料体積(10μL~250μLの緩衝液、10μL~250μLの生体液又は5mg~5000mgの組織、及び1μL~35μLの1×プロテアーゼ阻害剤を含む総体積)を得る。
【0142】
一実施形態によれば、試料全体(すなわち、生体試料、プローブ、並びに任意選択的に緩衝溶液及びプロテアーゼ阻害剤を含む)を、例えばインサートを有する気密プラグを備えた2μLバイアルなどの気密封止された不活性材料のバイアルに挿入する。
【0143】
例えば、血漿試料からの腫瘍の診断のために、プローブ(1~4)は、5.10mol/Lの濃度で上記緩衝液中で事前に調製され、10μLの体積で添加されて、100μLの総試料体積(62μLの緩衝液、25μLの生体液、及び3μLのプロテアーゼ阻害剤を含む総体積)を得る。試料全体を、例えば、インサート付き密封プラグを備えた2μLバイアルに挿入する。
【0144】
工程b)は、気相中に放出された標識エタノールの量を測定することからなる。標識エタノールは、上記プローブから放出されたエタノールであり、したがって、上記で定義した標識エチル部分を含有する。
【0145】
一実施形態によれば、この測定工程は、本発明の組成物の添加に対応する工程a)の0~8時間後に含まれる少なくとも3つの速度論点で実行される。速度論点は、同一条件下で調製された同じ試料について、時点tで実行された測定に対応する。3つの速度論点を得るために、3つの同一の生体試料を上記で説明したように調製し、その中に、上で定義した本発明によるプローブのカクテルを同一条件下で添加し、次いで、本発明による測定工程b)を、経時的に間隔を空けた3つの別個の時点t1、t2、及びt3で実行する。
【0146】
したがって、例えば、工程a)の2時間後に測定を行い、工程a)の4時間後に別の測定を行い、工程a)の7時間後に最後の測定を行う。これらの速度論点は、同じ生体試料と本発明による同じ組成物とを含有する3つの別々のフラスコ中で測定を行うことによって得られる。次いで、少なくとも二重に生成されたこれらの速度論点は、以下に説明するように、診断に関する結論工程に有用な酵素曲線を得ることを可能にする。
【0147】
少なくとも1つの非放射性同位体を含むエチル部分の存在下で生体試料と共にプローブを配置した後、この生体試料が当該プローブによって標的とされる酵素のうちの少なくとも1つを含有する場合、プローブは、加水分解により酵素によって切断され、これは、上記で説明したように当該プローブから-O-Et部分を放出し、したがって、少なくとも1つの非放射性同位体を含むエタノールガスの放出をもたらす。
【0148】
例えば、上記プローブ(1)は、CD3-CD2-OHの形態の標識エタノールの放出を可能にし、上記プローブ(2)は、CD13CD-OHの形態の標識エタノールの放出を可能にし、上記プローブ(3)は、CH3-CD2-OHの形態の標識エタノールの放出を可能にし、上記プローブ(4)は、CD3-CHD-OHの形態の標識エタノールの放出を可能にし、上記プローブ(5)は、CD3-13CD2-OHの形態の標識エタノールの放出を可能にし、そして上記プローブ(6)は、13CD3-CD2-OHの形態の標識エタノールの放出を可能にする。
【0149】
上記で説明したように、本発明の組成物のプローブは、これらの媒体に特異的な酵素の活性を介して損傷組織において選択的に加水分解される。このようにして放出された標識エタノールは、損傷組織の代謝に特徴的な外因性マーカーとなり、生体試料中でエキソビボで検出される。生体試料が健常な対象のものである場合、この試料は標的酵素を含有せず、したがって組成物のプローブは加水分解されず、したがって標識エタノールの放出は得られず、よって測定することができない。
【0150】
一実施形態によれば、生体試料はバイアル又はフラスコなどの容器内にあり、工程a)の文脈において、組成物が当該容器に加えられ、次いで当該容器が密封される。
【0151】
一実施形態によれば、容器は、気相中に放出されたエタノールの量を測定する工程b)の実施前に、例えばボルテックスで撹拌される。
【0152】
工程b)の間に気相中に放出されたエタノールの量の測定は、例えば固相微量抽出(SPME)などの、気相中で標識されたエタノールの量又は濃度を測定するための任意の測定方法又は当業者に周知の方法によって実行することができる。一実施形態によれば、工程b)は、EI源を備えた三連四重極に連結されたガスクロマトグラフィー(GC)測定(GC-TQMS)、又は高分解能質量分析器に連結されたガスクロマトグラフィー(GC-QTOFMS)、又は人工鼻を含む。
【0153】
放出された標識エタノールの量を測定する工程b)の後、このようにして得られた値を対応する標準対照値と比較する。
【0154】
工程c)では、工程b)で得られた結果を対応する標準対照値と比較する。
【0155】
工程b)で得られる結果は、本発明の組成物を生体試料に添加した後に気相中に放出された標識エタノールの量、濃度、及び/又は割合である。
【0156】
「対応する標準対照値」という表現における「対応する」という用語は、標識エタノールについて生体試料中で測定された量、濃度、及び/又は割合が、エタノールの量、濃度、及び/又は割合の標準対照値と比較されることを意味する。
【0157】
生体試料中で測定されるのがエタノールの量である場合、標準対照値は量である。
【0158】
生体試料において測定されるのがエタノールの濃度である場合、標準対照値は濃度である。
【0159】
生体試料において測定されるのがエタノールの割合である場合、標準対照値は割合である。
【0160】
参照値とも呼ばれる標準対照値は、例えば、(上記の工程a)及びb)を実施した後に)健常対象由来の試料において測定されたエタノールの量、濃度、若しくは割合の平均、最大閾値及び/又は最小閾値、又はブランク試料、すなわち、本発明の組成物が添加されているが標的酵素を含有していない試料において測定されたエタノールの量、濃度、若しくは割合の平均、最大閾値及び/又は最小閾値であり得る。
【0161】
健常な対象の試料又はブランク試料において測定される値は、生体試料について使用される測定方法と同様の測定方法を使用して実行される。
【0162】
2つの測定方法は、同じ試料に対して実行され、それらが同一又は類似の結果を与える場合、類似している。この点において、変動係数(CV)の計算は、本方法の信頼性の重要な尺度であり、CV<20%であれば許容可能である。
【0163】
最小閾値及び最大閾値は、参照区間を定義する。参照区間は、一般に、参照集団において得られる値の95%を含むように定義される。
【0164】
健常な対象又は個体とは、良好な全般的健常状態を有する対象又は個体を意味し、特に、上で定義した病理学的状態に罹患していない対象又は個体を意味する。
【0165】
エタノールの標準対照値は、健常な個体由来の試料において測定されたエタノールの量、濃度、又は割合の平均、最大閾値、及び/又は最小閾値であり得、試料は、本発明によるプローブ組成物又はカクテルに添加されている。
【0166】
標準対照値は、例えば、10人の健常な対象からの試料において得られた値の平均に対応し得る。
【0167】
次いで、対象は、上記で説明されるように測定されたエタノール値が、上記で説明されるような速度論点の全てにわたる健常な対象についての値の平均に対する標準偏差に含まれる場合に、健常であると考えられる。
【0168】
工程d)において、対象が上記病理学的状態に罹患しているか否かが推定される。
【0169】
特に、測定された標識エタノールの測定量の量、濃度、及び/又は割合が、対応する標準対照値よりも(特に、最大閾値よりも、又は設定値よりも)大きい場合、そこから、上記で定義されたプローブによって標的とされる少なくとも1つの酵素の存在、したがって、対象が上記で定義された病理学的状態に罹患していることが推定される。
【0170】
標的酵素を病理学的状態のマーカーとみなすために、罹患対象の値の標準偏差は、(上記で説明したように)速度論点の少なくとも1つにおいて健常対象の値の標準偏差と重ね合わせるべきではない。
【0171】
次いで、対象は、その測定されたエタノール値が、速度論点のうちの少なくとも1つにおける罹患対象についての測定値の平均に対する標準偏差内に含まれる場合、罹患しているとみなされる。この値は、速度論点の少なくとも1つで健常な対象について測定された値の平均よりも少なくとも1.3倍大きいはずである。
【0172】
一実施形態によれば、工程d)の終わりに、対象が上記病理学的状態に罹患していると結論付けられた場合、例えば、当該病理学的状態を治療することを意図した薬学的に許容される量の化合物又は組成物を当該対象に投与することによって、当該対象を処置する工程からなる追加の工程を実施することができる。
【0173】
本発明はまた、対象における病理学的状態を診断するための方法であって、当該病理学的状態が、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択され、
当該方法が、
a)当該対象の血液試料中に、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド(若しくはエチル-β-D-グルクロニドプローブ)と、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシド(若しく
はエチル-β-D-ガラクトピラノシドプローブ)と、のいずれか、
又はエチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-α-マンノピラノシド(若しくはエチル-α-マンノピラノシドプローブ)を含む組成物を添加する工程と、
b)気相中に放出された標識エタノールの量を測定する工程と、
c)工程b)で得られた値を対応する標準対照値と比較する工程と、
d)そこから、対象が当該病理学的状態に罹患しているかどうかを推定する工程と、を含む方法に関する。
【0174】
一実施形態によれば、工程a)は、対象の血液試料に、組成物C1-2又はC2-2を添加することからなる。
【0175】
一実施形態によれば、工程a)は、対象の第1の血液試料に組成物C1-2を添加し、同じ対象の第2の血液試料に組成物C2-2を添加することからなる。
【0176】
病理学的状態の治療的又は予防的処置の有効性をモニタリングするための方法
【0177】
本発明は、対象における病理学的状態の治療的又は予防的処置の有効性を追跡するための方法であって、当該病理学的状態が、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択され、
当該方法が、
a)当該処置中の時点tにおける当該対象の生体試料に、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-N-アセチルグルコサミド、及び
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシド
を含む組成物を添加する工程と、
b)気相中に放出された標識エタノールの量を測定する工程と
c)工程b)で得られた値を、対応する標準対照値及び/又は処置の開始前又は時点tより前の処置中の時点t’で得られた対応する値と比較する工程と、
d)そこから処置が有効であるかどうかを推定する工程と、
e)任意選択的に、工程a)~d)を繰り返す工程と、を含む方法に関する。
【0178】
本発明は、対象における病理学的状態の治療的又は予防的処置の有効性を追跡するための方法であって、当該病理学的状態が、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択され、
当該方法が、
a)当該処置中の時点tにおける当該対象の生体試料に、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド(若しくはエチル-β-D-グルクロニドプローブ)と、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシド(又はエチル-β-D-ガラクトピラノシドプローブ)と、のいずれか、
又はエチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-α-マンノピラノシド(若しくはエチル-α-マンノピラノシドプローブ)
を含む組成物を添加する工程と、
b)気相中に放出された標識エタノールの量を測定する工程と
c)工程b)で得られた値を、対応する標準対照値及び/又は処置の開始前又は時点tより前の処置中の時点t’で得られた対応する値と比較する工程と、
d)そこから処置が有効であるかどうかを推定する工程と、
e)任意選択的に、工程a)~d)を繰り返す工程と、を含む方法に関する。
【0179】
病理学的状態は、特に、「病理学的状態」のセクションにおいて上で定義された通りである。好ましくは、病理学的状態は炎症性疾患であり、優先的には癌である。
【0180】
生体試料は、特に「生体試料」のセクションにおいて上で定義されたような対象由来の試料である。好ましくは、生体試料は、血液、血漿、又は生検試料である。
【0181】
対象は、特に、「対象」のセクションにおいて上で定義された通りである。
【0182】
治療的又は予防的処置は、上記の病理学的状態の治療的又は予防的処置及び/又は上で定義した炎症の治療的又は予防的処置を含み得る。
【0183】
生物の病変若しくは感染に応答した炎症反応、慢性炎症性疾患、又は急性感染を伴う病理学的状態の治療的又は予防的処置は、例えば、これらの病理学的状態について当業者に周知の治療的又は予防的処置である。
【0184】
病理学的状態の治療的又は予防的処置は、例えば、悪性組織の外科的除去、化学療法、免疫調節剤、三剤療法、適切な抗生物質処置、又は呼吸補助の投与を含み得る。
【0185】
工程a)及びb)の特徴は、一般に、「診断方法」のセクションにおいて定義される工程a)及びb)について定義される通りである。
【0186】
上記で定義された処置の効率をモニタリングするための方法において、工程b)は、処置中の時点tにおける当該対象の生体試料中の標識エタノールの量、濃度、及び/又は割合を測定することを含む。
【0187】
換言すれば、測定は、時点tで実行される試料からの生体試料において実行される。
【0188】
工程c)では、工程b)で得られた結果を、対応する標準対照値及び/又は当該処置の開始前又は時点tより前の処置中の時点t’で得られた対応する値と比較する。
【0189】
「当該処置の開始前に得られた対応する値」という用語は、当該対象の生体試料において測定された標識エタノールの量、濃度、及び/又は割合を意味すると理解され、当該試料は処置の開始前に採取されたものである。
【0190】
「時点tより前の処置中の時点で得られる対応する値」という用語は、当該対象の生体試料中の対応する標識エタノールの量、濃度、及び/又は割合を意味すると理解され、当該試料は、処置の開始後であるが時点tより前に採取されたものである。
【0191】
工程d)では、そこから処置が有効であるかどうかが推定される。
【0192】
処置は、例えば、標識エタノールの測定量が減少又は消失する場合に有効である。
【0193】
例えば、処置は、時点tで測定されたその量、濃度、及び/又は割合が、当該処置の開始前又は時点tより前の処置中の時点t’で得られた対応する値未満である場合に有効である。
【0194】
例えば、時点tで測定された標識エタノールの量、濃度、及び/又は割合が、当該処置
の開始前又は時点tより前の処置中の時点t’で得られた対応する値よりも大きい場合、処置は無効である。
【0195】
処置が無効である場合、本方法は、新しい処置又は補完的処置の投与を含み得る。
【0196】
本方法は、特に処置が有効であるか否かにかかわらず、工程a)~d)が繰り返される工程e)を含み得る。
【0197】
工程a)~d)は、1回、2回、3回、又は少なくとも3回繰り返すことができる。
【0198】
工程a)~d)は、例えば、対象が回復するか、又は病理学的状態が安定するまで繰り返すことができる。
【0199】
2回の繰り返しの間の期間は、例えば、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも4ヶ月、少なくとも5ヶ月、6ヶ月、又は少なくとも6ヶ月、例えば1年であってもよい。
【0200】
治療的又は予防的処置の有効性をモニタリングするための方法は、新たな処置又は補完的処置が開始されるたびに実行することができる。
【0201】
対象は、工程b)に従って測定されたエタノール値が、全ての速度論点にわたる健常な対象の平均に対する標準偏差に含まれる場合に、(診断方法に関する段落において上で説明したように)回復したと考えられる。
【0202】
病理学的状態の進展をモニタリングするための方法
【0203】
本発明はまた、対象における病理学的状態の経過を追跡する方法であって、当該病理学的状態が、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択される方法であって、
当該方法が、
a)当該対象の生体試料中に、時点t1において、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-N-アセチルグルコサミド、及び
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシドを含む組成物を添加する工程と、
b)時点t1における試料について、気相中に放出された標識エタノールの量を測定する工程と、
c)当該対象の生体試料に、時点t1から時間的に離れた時点t2において、工程a)で定義された当該組成物を添加する工程と、
d)当該時点t2における試料について、気相中に放出された標識エタノールの量を測定する工程と、
e)時点t1及びt2においてそれぞれ工程b)及びd)で得られた値を比較する工程と、
f)そこから、病理学的状態が有利に変化するかどうかを推定する工程と、
g)任意選択的に、工程a)~f)を繰り返す工程と、を含む方法に関する。
【0204】
本発明はまた、対象における病理学的状態の経過を追跡する方法であって、当該病理学的状態が、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患
、及び急性感染からなる群から選択される方法であって、
当該方法が、
a)当該対象の生体試料中に、時点t1において、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド(若しくはエチル-β-D-グルクロニドプローブ)と、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシド(又はエチル-β-D-ガラクトピラノシドプローブ)と、のいずれか、
又はエチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-α-マンノピラノシド(若しくはエチル-α-マンノピラノシドプローブ)を含む組成物を添加する工程と、
b)時点t1における試料について、気相中に放出された標識エタノールの量を測定する工程と、
c)当該対象の生体試料に、時点t1から時間的に離れた時点t2において、工程a)で定義された当該組成物を添加する工程と、
d)当該時点t2における試料について、気相中に放出された標識エタノールの量を測定する工程と、
e)時点t1及びt2においてそれぞれ工程b)及びd)で得られた値を比較する工程と、
f)そこから、病理学的状態が有利に変化するかどうかを推定する工程と、
g)任意選択的に、工程a)~f)を繰り返す工程と、を含む方法に関する。
【0205】
病理学的状態は、特に、「病理学的状態」のセクションにおいて上で定義された通りである。好ましくは、病理学的状態は炎症性疾患であり、優先的には癌である。
【0206】
生体試料は、特に「生体試料」のセクションにおいて上で定義されたような対象由来の試料である。好ましくは、生体試料は、血液、血漿、又は生検試料である。
【0207】
対象は、特に、「対象」のセクションにおいて上で定義された通りである。
【0208】
工程a)~d)の特徴は、一般に、「診断方法」のセクションにおいて定義される工程a)及びb)について定義される通りである。
【0209】
上で定義された病理学的状態の経過をモニタリングするための方法において、工程b)及びd)は、時間的に離れた2つの時点t1及びt2において、対象の生体試料中の標識エタノールの量、濃度、及び/又は割合を測定することからなる。
【0210】
換言すれば、測定は、時点t1で実行された試料に由来する生体試料、並びに時点t2で採取された試料に由来する生体試料において実行され、時点t1は時点t2の前である。
【0211】
t1とt2との間の時間間隔は、例えば、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも4ヶ月、少なくとも5ヶ月、6ヶ月、又は少なくとも6ヶ月、例えば1年である。
【0212】
工程e)では、工程a)で得られた結果が、時点t1及び時点t2で互いに比較される。
【0213】
工程f)では、そこから、病理学的状態が良好に進行しているか否かが推定される。
【0214】
例えば、放出されたエタノールの量が時点t1とt2との間で減少する場合、病理学的
状態は良好に進展する。
【0215】
例えば、放出されたエタノールの量が時点t1とt2との間で等しいか又は増加する場合、病理学的状態は良好に進行していない。
【0216】
疾患の進行は、(診断方法に関する段落において上で説明したように)試料について測定されたエタノール値が、全ての速度論点にわたる健常な対象についての値の平均に対する標準偏差に含まれる場合に、非常に好ましいと考えられる。
【0217】
疾患の進行は、試料について測定されたエタノール値が、(診断方法に関する段落において上で説明したように)全ての速度論点にわたる罹患対象についての値の平均と比較して、標準偏差内に含まれるか、又は標準偏差より大きい場合、非常に好ましくないとみなされる。この値は、速度論点の少なくとも1つで健常な対象について測定された値の平均よりも少なくとも1.3倍大きい。
【0218】
本方法は、特に病理学的状態が良好に進行しているか否かにかかわらず、工程a)~f)が繰り返される工程g)を含んでもよい。
【0219】
工程a)~f)は、1回、2回、3回、又は少なくとも3回繰り返すことができる。
【0220】
工程a)~f)は、例えば、対象が回復するか、又は病理学的状態が安定するまで繰り返すことができる。
【0221】
工程a)~d)は、規則的又は不規則な時間間隔で繰り返すことができる。
【0222】
2回の繰り返しの間の期間は、例えば、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも4ヶ月、少なくとも5ヶ月、6ヶ月、又は少なくとも6ヶ月、例えば1年であってもよい。
【0223】
病理学的状態に罹患しているか又は罹患するリスクがある対象を分類する方法
【0224】
本発明はまた、病理学的状態に罹患している対象を、ある重症度の当該病理学的状態に罹患している対象のカテゴリC-1に、又は別の重症度の当該病理学的状態に罹患している対象のカテゴリC-2に分類するための方法であって、当該病理学的状態が、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択される、方法に関する。
【0225】
当該方法が、
a)当該対象の生体試料中に、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-N-アセチルグルコサミド、及び
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシドを含む組成物を添加する工程と、
b)気相中に放出された標識エタノールの量を測定する工程と、
c)工程b)で得られた値を対応する標準対照値と比較する工程と、
d)そこから、対象がカテゴリC-1に属するかカテゴリC-2に属するかを推定する工程と、を含む方法に関する。
【0226】
本発明はまた、病理学的状態に罹患している対象を、ある重症度の当該病理学的状態に罹患している対象のカテゴリC-1に、又は別の重症度の当該病理学的状態に罹患している対象のカテゴリC-2に分類するための方法であって、当該病理学的状態が、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患及び急性感染からなる群から選択され、
当該方法が、
a)当該対象の生体試料中に、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド(若しくはエチル-β-D-グルクロニドプローブ)と、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシド(又はエチル-β-D-ガラクトピラノシドプローブ)と、のいずれか、
又はエチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-α-マンノピラノシド(若しくはエチル-α-マンノピラノシドプローブ)を含む組成物を添加する工程と、
b)気相中に放出された標識エタノールの量を測定する工程と
c)工程b)で得られた値を対応する標準対照値と比較する工程と、
d)そこから、対象がカテゴリC-1に属するかカテゴリC-2に属するかを推定する工程と、を含む方法に関する。
【0227】
病理学的状態は、特に、「病理学的状態」のセクションにおいて上で定義された通りである。好ましくは、病理学的状態は炎症性疾患であり、優先的には癌である。
【0228】
生体試料は、特に「生体試料」のセクションにおいて上で定義されたような対象由来の試料である。好ましくは、生体試料は、血液、血漿、又は生検試料である。
【0229】
対象は、特に、「対象」のセクションにおいて上で定義された通りである。
【0230】
工程a)~c)の特徴は、一般に、「診断方法」のセクションにおいて定義される工程a)及びb)について定義される通りである。
【0231】
診断のためのキット及び使用
【0232】
本発明はまた、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択される病理学的状態の診断のためのキットであって、
キットが、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-N-アセチルグルコサミド、及び
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシドを含む組成物を含む、キットに関する。
【0233】
本発明はまた、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択される病理学的状態の診断のためのキットであって、
キットが、
エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-グルクロニド(若しくはエチル-β-D-グルクロニドプローブ)と、エチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-β-D-ガラクトピラノシド(又はエ
チル-β-D-ガラクトピラノシドプローブ)と、のいずれか、
又はエチル部分が少なくとも1つの非放射性同位体を含む少なくともエチル-α-マンノピラノシド(若しくはエチル-α-マンノピラノシドプローブ)を含む組成物を備える、キットに関する。
【0234】
本発明はまた、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択される病理学的状態の診断のためのキットであって、当該キットが、上で定義した組成物C1又はC2を含む、キットに関する。
【0235】
本発明はまた、生物の病変又は感染に応答した炎症反応を伴う病理学的状態、慢性炎症性疾患、及び急性感染からなる群から選択される病理学的状態の診断のための上記キットの使用に関する。
【実施例
【0236】
実施例1:血液試料中の腫瘍酵素マーカーを検出するためのプロトコルの最適化;カクテルのプローブを用いた検証
【0237】
エキソビボ試験は、本発明のプローブが、単純な患者の血液試料から最も広範な固形癌を診断するのに適切であることを実証することを目的として実行された。
【0238】
この予備試験は、β-グルクロニダーゼを標的とし、加水分解後に標識VOCであるエタノール-Dを放出する、カクテルのプローブの1つであるプローブD-エチル-β-D-グルクロニド(上記で定義したプローブ(1))を用いて行った。
【0239】
血漿試料中の酵素を検出するために、このマトリックス内のβ-グルクロニダーゼの加水分解のための最適条件を研究した。健常な患者から採取した血漿試料を使用して、全ての条件を最適化した。E.coliのβ-グルクロニダーゼを酵素モデルとして用いた。使用した緩衝液(実験1)、反応体積(実験2)、試料に添加する最適プローブ濃度(実験3)、酵素の活性に対する血漿の凍結/解凍の影響(実験4)、及び最後に酵素の活性に対する血漿プロテアーゼの影響(実験5)などの異なるパラメータを試験した。これらの実験の全てを表1に要約する。
【0240】
【表1】
【0241】
この実験計画に従って、以下に説明するように、最適なプラズマプローブ加水分解条件を決定した。
【0242】
よって、4~5mLの血液の試料が、担当医との最初の診察時に患者から採取される。
【0243】
血漿(約2μL)を抽出し、分析まで-20℃で保存する。25μLの血漿のアリコートをサンプリングし、インサート付きの2μLバイアルに挿入する。この生体試料を、50μLの酢酸緩衝溶液(pH5)、プロテアーゼ阻害剤(1X)、及び25μLのプローブD-エチル-β-D-グルクロニドに2.10Mで添加する。密閉及びバイアルのボルテックスへの撹拌後、30分間、試料の上方の気相のSPME(Car/PDMSの半極性相のSPME、長さ1cm、厚さ75μm、24gaニードル:Supelco)を、反応の2時間後、4時間後、及び7時間後に実行する。各速度論点はバイアル反応を必要とし、二連で行う。次いで、SPME繊維上に捕捉されたVOCをGC-TQMSによって分析する。エタノール同位体(よってエタノール-Dを含む)のGC-TMS検出は、E1源(TSQ 9000、Thermo Fisher Scientific)を備えた三連四重極に連結されたガスクロマトグラフィーを用いて実行される。システムをソフトウェアTSQ9000によって制御し、結果をXcaliburソフトウェア(Thermo Fisher Scientific)で分析する。分析条件を表2に要約する。
【0244】
【表2】
【0245】
各対照測定について、エタノールの同位体が存在しないことを、VOCプローブを用いて各試験に使用した全てのバイアルにおいて確認しなければならない。よって、VOCの10分間のSPME試料を実験開始前に実行し、次いでGC-TQMSによって分析する。全てのいわゆる「追跡された外因性VOC汚染」バイアルは使用されない。
【0246】
SRM(選択反応モニタリング)モードで検出するためには、標識された各VOCの遷移を予め最適化しておかなければならない。エタノール-Dの後には遷移51>33及び51>49が続き、これは分析を妨害し得る非標識エタノールの遷移(遷移46>31及び46>45)とは異なる。
【0247】
次いで、プローブD-エチル-β-D-グルクロニドの存在下での血漿マトリックス中のモデル酵素(大腸菌のβ-グルクロニダーゼ;液体溶液50%グリセロール、140U.mL-1;Sigma Aldrich)の検出限界(LOD)を判定した。このために、内因性β-グルクロニダーゼの活性が検出できなかった血漿試料を、1.1011~1.10-13mol.L-1の範囲の酵素濃度に添加した。放出されたエタノール-Dの量を、プローブを添加する前、次いで30℃での反応の2.5、4.5、及び7.5時間後にモニタリングした。図1は、反応の7.5時間の後のβ-グルクロニダーゼ検出を可能にする較正直線を示す。
【0248】
プローブによる酵素の検出限界は、1.1013mol.L-1(シグナル対ノイズ比9)~5×1013mol.L-1(シグナル対ノイズ比37)であり、これは、1.10-18molに等しい検出可能な酵素の最小量をもたらす。このLODは、この同じ酵素の参照検出方法に従って得られた閾値よりも100倍低い(Liら,2018,Biotechnology Letters,40,11 1-118;Xiaoら,2020,RSC Advances,10,22966)。この方法は、パラ-ニトロフェノールグルクロニドの加水分解に対応する。酢酸緩衝液(pH>10)中で行い、続いてパラ-ニトロフェノールの400nmでのUV検出を行った(図2)。
【0249】
最後に、文献と比較して、本発明によるアプローチは、パラ-ニトロフェノールグルクロニドのような蛍光プローブを含むごく最近の戦略よりも100~1000倍感度が高いことが証明されている(Huoら,2018,Sensors and Actuators B:Chemical,262,508-515;Guoら,2019,Sensors and Actuators B:Chemical,295,1-6)。これ
はまた、最も感度の高いプロテオーム分析よりも10倍感度が高い(Selevsekら,2011、Proteomics,11,1135~1147)。
【0250】
β-グルクロニダーゼを検出するための戦略を最適化し、分析方法と組み合わせたVOCプローブの性能を評価した後、血漿試料に関する臨床試験を行った。関連する臨床プロトコルは、CIC(PU/PH R.Robert,INSERM 1402,CHU Poitiers)によって確立された後、CHU Poitiers病院の倫理委員会の評価を受けた。
【0251】
血液試料は、腫瘍学的サービスに関連する介護者によって採取され、次いで収集され、CICで前処理された。この試験は、乳癌に罹患している11人の患者及び肺癌に罹患している11人の患者から採取された血漿の試料を含んだ。これらの患者は診断されたが、サンプリング時にはまだ処置を受けていなかった。それらの応答を、4人の健常な患者の血漿から得られた応答と比較した。その結果を、プローブが添加されたが酵素が存在しない実験ブランクと比較した(図3)。
【0252】
プローブを添加した後、癌患者の試料上に放出されたエタノール-Dの量は、ブランク及び健常な患者の血漿と比較して有意に高かった。したがって、この検査は、健常な患者を癌患者から識別することを可能にする。
【0253】
患者の血漿中に存在する酵素の量は、腫瘍のサイズと正の相関がないようである(図4)。このため、これらの生理病理学的パラメータと血漿酵素の活性との間の相関を確認するために、癌の攻撃性又はその進展段階などの他の因子を研究することができる。
【0254】
更に、患者の臨床データ及び生物学的データによれば、本発明者らの戦略により、患者において予想外に発見されたものなど、センチメートル未満のサイズの腫瘍を検出することが可能になったことが実証されている(菱形の曲線、図4)。そのような結果は、イメージングがこの診断を確認することができなかったとしても、腫瘍を検出するためのVOCプローブの感度を実証する。
【0255】
実施例2:組織試料(生検)中の腫瘍酵素マーカーを検出するためのプロトコルの最適化;カクテルのプローブを用いた検証
【0256】
ここで、目的は、腫瘍細胞の細胞外環境において標的酵素を検出することを可能にするプロトコルを開発することであるが、それらは、健常な細胞の環境において存在しないか、又は限定された活性を有するべきである。
【0257】
このプロトコルは、最初に、カクテル、D-エチル-β-D-グルクロニドの対応するプローブでβ-グルクロニダーゼを検出するために開発された。
【0258】
まず、細胞外培地に存在する酵素のみを検出するために、組織に添加されるプローブ濃度を決定する必要がある。
【0259】
したがって、腫瘍生検及び健常生検を漸減濃度のD-エチル-β-D-グルクロニドの存在下に置く試験を実行した。保持されたプローブ濃度は、健常組織の応答が得られなかったが、酵素応答が癌組織で観察された濃度に対応していた。
【0260】
この研究に関連して、マウスモデルで採取された2つの腫瘍生検を研究した(MDA-MB-231:ヒト乳癌細胞;KB:ヒト鼻咽腔癌細胞)。2つのマウス肝生検を健常な組織として使用した。10-7、10-6、10-4、及び10-2Mのプローブ溶液を
、PBS緩衝液(137mMのNaCl、2.7mMのKCI、10mMのNaHPO、1.8mMのKHPO、pH7.4)中で調製した。
【0261】
生検を500μLのPBSですすぎ、次いで、2mLのインサートを有するバイアルに入れた。297μLの体積のPBSをバイアルに添加した。エタノール-Dが検出されないことを確実にするために、バイアルのヘッドスペースに存在する揮発性分子を30分間捕捉した。次いで、10、10、10、又は10Mの3μLのプローブを添加した(バイアル中の最終プローブ濃度10、10、10、又は10M)。気密閉鎖及びボルテックス撹拌後、揮発性化合物をSPME繊維(Car/PDMS、Supelco)上で30分間予備濃縮し、次いでGC-TQMSによって分析した(分析条件は表2に記載)。
【0262】
各対照測定について、エタノールの同位体が存在しないことを、試験に使用した全てのバイアルにおいて確認しなければならない。よって、VOCの10分間のSPME試料を実験開始前に実行し、次いでGC-TQMSによって分析する。全てのいわゆる「追跡された外因性VOC汚染」バイアルは使用されない。
【0263】
腫瘍生検についての有意な標準偏差にもかかわらず、10-4M未満のプローブ濃度が、健常組織を癌性組織から識別することを可能にすることが明らかに思われる(図5)。実際、エタノール-Dにおける応答は、10-9、10、及び10Mに等しいプローブ濃度について健常な組織で検出されなかったが、これらの濃度では、この同位体の放出が癌組織について検出された。このような結果が示唆するように、これらの濃度では、プローブは、受動的に細胞に浸透せず、したがって、腫瘍細胞及び健常な細胞のリソソームβ-グルクロニダーゼによって加水分解されなかった。一方、プローブは、癌組織の細胞外マトリックスに存在するβ-グルクロニダーゼによって実際に加水分解された。したがって、カクテルに属する各プローブについて培地に添加される用量を最適化した後、標的酵素の活性を組織生検に直接マッピングすることが可能である。
【0264】
実施例3:本発明による4つのVOCベースのプローブのカクテルを用いた予備試験
【0265】
N-アセチル-グルコサミニダーゼを標的とする第2のプローブである13C-D-エチル-N-アセチルグルコサミン(上記で定義したプローブ(2))を試験した。このプローブの加水分解後に放出されたエタノールを、D-エチル-β-D-グルクロニドの加水分解後に放出されたエタノールと区別するために、GC-MS/MS(SRMモード)を使用する標的化分析方法を開発し、同位体13C-Dの遷移を最適化した(エタノール-13C-Dの遷移:52>34及び52>50)。
【0266】
次いで、エタノール及びエタノール-Dの存在下でのこの化合物の検出性能を検証した。次いで、エタノール及びエタノール-Dの存在下では、エタノール-13C-Dの検出の特異性及び感度は全く変化しないことが実証された。次いで、エタノール-D及びエタノール-13C-Dの検出範囲を、生体試料について開発されたSPMEサンプリング条件下で実行した(30℃で30分間のサンプリング)。2つの同位体は、溶液中に混合物として存在した。得られた検出限界は、それぞれ、1.10M及び5.10Mである。したがって、SPME-GC-TQMS法は、それらの質量断片化に従って2つの同位体の明確な区別を可能にする。
【0267】
次に、D-エチル-β-D-グルクロニド及び13C-D-エチル-N-アセチルグルコサミンのそれぞれの酵素(β-グルクロニダーゼ及びN-アセチルグルコサミニダーゼ)に対する親和性を評価するために実験研究を行った。このために、これらの酵素の各々の加水分解の有効性を、それらのそれぞれのプローブの存在下で(図6)、次いでそ
のパートナーの基質プローブの存在下で(図7)研究した。第1の場合、各酵素がそれ自体のプローブを加水分解しており、したがって標識エタノールシグナルを生成する(図6)。他方の場合、エタノールシグナルは検出されず、β-グルクロニダーゼが13C-D-エチル-N-アセチルグルコサミンを加水分解しないこと、及び逆に、N-アセチルグルコサミニダーゼがD-エチル-β-D-グルクロニドを加水分解しないことを実証した(図7)。2つの基質の存在下で、各酵素は、それに特異的なプローブについてのみシグナルを与える(図8)。
【0268】
この試験は、それぞれのプローブに対する2つの酵素の特異性を実証する。
【0269】
β-D-ガラクトシダーゼ及びα-L-フコシダーゼをそれぞれ標的とする2つの更なるプローブ、D-エチル-β-D-ガラクトピラノシド(プローブ(3))及びD-エチル-1-α-L-フコピラノシド(プローブ(4))を研究し、したがってカクテル中のプローブの数を4とした。これら4つのプローブの加水分解後に放出されたエタノールから4つの同位体を区別するために、各同位体のMRM遷移を再最適化した(表3)。次いで、4つの同位体間の相互作用応答がないことを、各同位体のシグナル強度を測定することによって確認した(単独で又は混合物として研究した場合、等モル濃度で行う)。
【0270】
【表3】
【0271】
このように4つのプローブ(D-エチル-β-D-グルクロニド、13C-D-エチル-N-アセチルグルコサミン、D-エチル-β-D-ガラクトピラノシド、及びD-エチル-1-α-L-フコピラノシド)からなるカクテルは、異なる型の固形腫瘍又は癌患者の血液循環において同定された酵素を標的とする。
【0272】
このカクテルの診断効力を検証するために、乳癌に罹患している4人の患者及び肺癌に罹患している3人の患者から採取した血漿の試料について試験した。これらの患者は診断されたが、サンプリングの時点で、彼らの病理学的状態に適した処置をまだ受けていなかった。
【0273】
(上記プロトコルに従って)4つのプローブを添加した後、患者の試料上に放出されたエタノールの4つの同位体の量を経時的に測定した。各同位体の応答を、カクテルを4人の健常な患者の血漿に添加したときに得られた応答と比較した。実験ブランクも毎日分析した。これらのブランクは、カクテルが添加された陰性対照に対応するが、4つの酵素の
いずれもそこに存在しなかった(図9)。
【0274】
3つのプローブ(D-エチル-β-D-グルクロニド、D-エチル-1-α-L-フコピラノシド、13C-D-エチル-N-アセチルグルコサミン)は、健常な患者と癌患者との間の明確な識別を可能にする。したがって、この結果は、ここで標的とされた3つの酵素が気管支肺腫瘍及び乳房腫瘍で分泌されることを示唆する。したがって、それらは患者の血液循環中に見出され、いくらかの活性を維持している(それらが変性されていないか、又はあまり変性されていないことを示唆する)。
【0275】
他方、プローブD-エチル-β-D-ガラクトピラノシドは、健常な患者を癌患者から識別することを可能にしない。このプローブによって標的化される酵素、β-D-ガラクトシダーゼは、罹患患者の血漿中で活性であるようには見えない。根底にある仮定は、酵素が腫瘍微小環境に存在しない(腫瘍細胞又は免疫細胞によって分泌されない)こと、又は存在する場合、変性後に不活性化されることである。
【0276】
最後に、これらの同じ血漿試料を、β-D-グルクロニダーゼを標的とする参照方法で試験した(パラ-ニトロフェノールの存在下でのUV検出;プロトコルは5頁に記載)。このプロトコルによれば、グルクロン酸化プローブを用いたプロトコルとは対照的に、いずれの試料においても酵素は検出されなかった。そのようなシグナルの欠如は、現在の標準と比較したVOCに基づくプローブの感度を実証する。
【0277】
次いで、この4つのプローブのカクテルをインビボで試験して、(1)健常な動物を罹患動物から区別する効力、及び腫瘍の微小環境における1つ以上の標的酵素の存在をリアルタイムで実証した。
【0278】
この試験に関連して、腫瘍異種移植片を有するマウスモデル(鼻咽頭KBの腫瘍細胞;n=6)による4つの同位体の排出量を、カクテルの静脈内注射後に健常な動物(n=6)によって吐き出されたものと比較した。
【0279】
注入される4つのプローブの濃度は、健常な動物において最小のエタノール応答を誘導する各プローブの量を決定する目的を有する正確な実験計画に従って事前に決定した(シグナルは低レベル又はゼロ基底レベルにさえ達する)。これに関連して、健常な動物に漸増用量の4種のプローブを投与した(0.5μg.kg.kg-1、100μg.kg-1)。次いで、動物を密封ケージに1時間入れた。次いで、動物の呼気中に存在する各エタノール同位体の量を、SPME試料、次いでGC-TQMS分析によって30分間測定した。
【0280】
最適な注射用量は、各プローブについて異なることが証明された(すなわち、1μg.kg-1のD-エチル-β-D-ガラクトピラノシド、10μg.kg-1のD-エチル-β-D-グルクロニド、及び13C-D-エチル-N-アセチルグルコサミン、最後に100μg.kg-1のD-エチル-1-α-L-フコピラノシドである)。この結果は、各プローブの浸透/代謝の変動性、又は4つの標的酵素の活性の変動性を表す。
【0281】
いったん静脈内用量が設定されたら、異種移植片の移植の12日後及び次いで15日後に、カクテルを健常なマウス及び罹患マウスに注射した。動物によって吐き出されたエタノール同位体の量を、カクテルの注射の1時間後に測定した(図10)。2匹のマウス(健常及び罹患)に対する陰性対照を実行した。この対照は、カクテルを受けなかったマウスの周囲の空気中のエタノールの4つの同位体の量を測定することからなった。エタノール-D、エタノール-D4、及びエタノール-13CDは検出されなかった。一方、エタノール-D2の特異的遷移は重要なシグナルを与え、これはマウスの環境における干
渉化合物の存在を意味する。したがって、健常なマウスによって吐き出されたエタノール-D2の量を、このバックグラウンドノイズから差し引いた。
【0282】
注目すべきことに、疾患動物は、このカクテルを用いて腫瘍を移植した12日後(動物において腫瘍移植を有するための最小期間)から健常な動物と識別することができた(4つの同位体のうち3つの同位体の排出量は、罹患動物について有意に大きかった)。
【0283】
3日後、腫瘍の体積は更に増加したが、4つのプローブは、KB腫瘍の微小環境において有意に活性化され、動物によって吐き出された空気中へのエタノールの4つの同位体の有意な放出をもたらした。したがって、罹患動物を健常な動物から明確に識別することができた。
【0284】
D2-エチル-β-d-ガラクトピラノシドプローブは、乳癌又は肺癌患者から健常な患者を区別することを可能にしないが、ここでは鼻咽頭腫瘍の微小環境において活性化されることに留意されたい。したがって、このプローブは、腫瘍をそれらの位置によって識別することを可能にする。
【0285】
実施例4:3つの標的酵素の検出限界
【0286】
モデルβ-グルクロニダーゼの検出限界(LOD)(大腸菌のβ-グルクロニダーゼ;液体溶液50%グリセロール、140U.mL-1;Sigma Aldrich)は、濃度5.10Mになるように添加したプローブD-エチル-β-D-グルクロニドの存在下で血漿マトリックス中で測定した。結果は、最初の出願で提示された。
【0287】
検出限界を、3つの更なる酵素:α-マンノシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、N-アセチルグルコサミニダーゼについて決定した。したがって、「VOCシグナル=f(U.L-1活性)」タイプの較正直線を、これらの酵素の各々について実行する。
【0288】
このために、市販の酵素を使用し(硫酸アンモニウム溶液中のタチナタマメ(Canavalia ensiformis)のα-マンノシダーゼ59.5U/mL-1、Sigma Aldrich;ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)のβ-ガラクトシダーゼ、固体、13.4U.mg-1、Sigma Aldrich;硫酸アンモニウムの液体溶液中のウシ腎臓N-アセチルグルコサミニダーゼ34.9U.mL-1の、Sigma Aldrich;TRIS-HCI溶液中のキサントモナス属α-L-フコシダーゼ0.1U.mL-1)、それらのそれぞれの活性を、試験試料中の10-3Mの濃度のD-エチル-α-マンノピラノシドプローブ、試験試料中の10-4Mの濃度のD2-エチル-β-d-ガラクトピラノシド、試験試料中の10-3Mの濃度の13C-D-エチル-N-アセチルグルコサミド、及び試験試料中の10-3Mの濃度のD-エチル-1-α-L-フコピラノシドによって測定した。
【0289】
これらの3つの酵素のそれぞれの較正直線を確立するために、漸増濃度の酵素の溶液を酢酸緩衝液(pH5)中で調製し、次いでインサートを有する2mLバイアルに挿入した(バイアル中の最終体積100μL)。10μLの容量のプローブを添加して、試験試料中のD-エチル-α-マンノピラノシド、D-エチル-β-d-ガラクトピラノシド、13C-D-エチル-N-アセチルグルコサミド又はD-エチル-1-α-L-フコピラノシドの当該濃度を得た。
【0290】
密閉し、バイアルのボルテックスに対して撹拌した後、30分間、試料の上方の気相のSPME(Car/PDMSの半極性相のSPME、長さ1cm、厚さ75μm、24gaニードル付き;Supelco)を、反応の2時間後、4時間後、及び7時間後に実行
する。各速度論点はバイアル反応を必要とし、二連で行う。次いで、SPME繊維上に捕捉されたVOCをGC-TQMSによって分析する。エタノール同位体(したがって、エタノール-D、エタノール-D2、エタノール-13CD、及びエタノール-D4を含む)のGC-TMS検出は、E1源(TSQ 9000、Thermo Fisher
Scientific)を備えた三連四重極に連結されたガスクロマトグラフィーを用いて実行される。システムをソフトウェアTSQ9000によって制御し、結果をXcaliburソフトウェア(Thermo Fisher Scientific)で分析した。分析条件を表1及び表2にまとめる。
【0291】
【表4】
【0292】
【表5】
【0293】
反応(30分のサンプリング)の2、4、及び7時間後のα-マンノシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、及びN-アセチル-グルコサミニダーゼの較正直線を図11、12、13及び18に示す。
【0294】
各酵素の検出限界は、1,47.10-3~0.345U.L-1であり、これは、本明細書中で使用される市販の酵素について1013mol以下の検出可能な酵素の最小量
をもたらす。
【0295】
これらのLODは、蛍光プローブで得られた閾値よりも200~100,000倍低い(DOI:10.1021/acs.analchem.9b04806;10.1021/acs.analchem.9b03639;10.1039/c9tb00175a;10.1021/acscentsci.0c01189;10.1039/C8CC10311A)。
【0296】
実施例5:癌生検に対する酵素活性の研究
【0297】
4つのプローブ(D-エチル-β-D-グルクロニド、13C-D-エチル-N-アセチルグルコサミン、D-エチル-β-D-ガラクトピラノシド、及びD-エチル-1-α-L-フコピラノシド)からなる第1のカクテルを使用して、健常な動物を罹患動物から区別するためのその有効性、及び腫瘍微小環境における1つ以上の標的酵素の存在をリアルタイムで実証した。得られた結果は、4つのプローブがKB腫瘍(ヒト頚部腫瘍)の微小環境において有意に活性化され、動物によって吐き出された空気中のエタノールの4つの同位体の有意な放出をもたらすことを実証した。したがって、罹患した動物は、腫瘍移植片の移植後わずか15日で、健常な動物から明確に識別することができた(上記実施例の結果を参照)。
【0298】
これらの酵素活性を標的とする抗癌剤は、このタイプの癌を処置するのに真に有益であり得る。
【0299】
この仮説に従って、別の固形腫瘍表現型(腫瘍MDA-MB-231:ヒト乳癌細胞)が、この同じプローブカクテルを用いて研究され、目的は、これらの同じ活性を標的とする対応する抗癌剤を合成するために有意な酵素活性を同定し、最終的にその治療有効性を検証することであった。
【0300】
上述したように、インビボ試験は実行することが困難であるため、本発明者らは、エクスビボ研究を組織に対して直接行った。
【0301】
したがって、上記の生検に関するプロトコルに従って、腫瘍及び健常生検(腎臓)を、それぞれβ-グルクロニダーゼ、N-アセチルグルコサミニダーゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、及びα-1-フコシダーゼを標的とする対応する4つの酵素の細胞外活性を実証するために、4つのプローブD-エチル-β-D-グルクロニド、13C-D-エチル-N-アセチルグルコサミン、D-エチル-β-D-ガラクトピラノシド、及びD-エチル-1-α-L-フコピラノシドからなるカクテルの存在下に置いた。
【0302】
事前に、組織に添加される各プローブの濃度を、細胞外培地中に存在する酵素のみを検出するために最適化した(注:これらの4つのグリコシダーゼは、細胞が癌性であるか健常であるかにかかわらず、細胞のリソソーム内にも存在する)。更に、測定によって、エタノールの同位体が存在しないことが、試験した全ての組織にわたって確認された。
【0303】
したがって、上記のプロトコルに従って、健常な生検材料(健常な全臓器)を、漸増濃度の各プローブの存在下に置いた。このために、生検を500μLの酢酸緩衝液(pH5)で2回すすぎ、次いで2μLのインサートと共にバイアルに入れた。270μLの体積の酢酸緩衝液を各バイアルに添加し、次いで、10~10Mの範囲の各プローブの濃度が得られるようにカクテルを添加した。各プローブについて濃度を選択した(図14)。したがって、その濃度は、対応するエタノール同位体シグナルが、健常な組織(全体又は切片;図14)において小さいか、又は存在さえしない濃度に対応する。
【0304】
次いで、癌性組織(全体又は切断)をこれらの条件下で試験した。
【0305】
その結果は、上記4つの酵素が乳腺腫瘍の環境において検出されたことを実証する(図14)。一方、N-アセチルグルコサミニダーゼは、腫瘍の微小環境において他のものよりも高い活性を有するようである。次いで、この酵素を標的化する薬剤を合成し、次いで、マウスモデルにおいてインビボで試験した。得られた結果は、この抗癌剤の顕著な有効性を実証した。
【0306】
実施例6:疾患の診断及び予後診断のためのカクテル:SARS-COV-2感染の研究
【0307】
最初の出願において提示された予備的結果によれば、VOCに基づくプローブは、例えば炎症(癌など)及び感染(SARS-COV-2ウイルス感染など)などの病理学的状態の進展を診断、予測、及びモニタリングすることを可能にし得る。最初の適用を例示するために、SARS-COV-2感染の予後診断トレーサーとしてのVOCプローブの関連性を実証することを目的とするエキソビボ研究を行った。このために、SARS-COV-2に感染した30人の患者からの血液試料を、それぞれが異なる解糖活性を標的とするVOCに基づく6つのプローブを用いて試験した。
【0308】
事前に、20~30歳の7人の健常なボランティアの血液試料中に存在する酵素活性を、別個のプローブの2つのカクテルによって試験した(表6)。この研究は、(1)カクテルの最終組成を設定すること、(2)有意な同位体応答を得るために血液試料に添加するプローブの濃度を定義して、この応答が対応するプローブの自発的加水分解に関連しないことを知ること、(3)最適な速度論点を定義すること、(4)健常な血漿試料中のエタノールの同位体の応答範囲を知ること、を目的とした。
【0309】
更に、試料を室温で数時間保持すること(病院の状況で起こり得る作用)がここで標的とされる酵素活性に及ぼす潜在的な影響を試験するために、患者当たり2つの試料を実行した。したがって、第1の試料を血漿に変換し、次いで血液サンプリング後1時間で凍結した。第2の試料を4℃で5時間保存した後、処理し、次いで凍結した。試料は全て、分析まで-20℃で保存した。
【0310】
【表6】
【0311】
上記の血漿プロトコルに従って、プローブを使用して、これらの試料中の6つの酵素活性を検出した。要約すると、25μLの血漿のアリコートをサンプリングし、インサートを有する2mLバイアルに挿入する。この生体試料に、61.4μLの緩衝液(pH5)、3.6μLのプロテアーゼ阻害剤(1×)、及び10μLの一方又は他方のカクテルを添加した。密閉し、バイアルのボルテックスに対して撹拌した後、30分間、試料の上方の気相のSPME(Car/PDMSの半極性相のSPME、長さ1cm、厚さ75μm、24gaニードル付き;Supelco)を、反応の2時間後、4時間後、及び7時間後に実行する。各速度論点はバイアル反応を必要とし、二連で行った。次いで、SPME繊維上に捕捉されたVOCを、表4及び5に定義されるパラメータに従ってGC-TQMSによって分析する。ブランクカクテル(血漿を含まない酢酸緩衝液中のカクテル)及び血漿ブランク(カクテルを含まない酢酸緩衝液を含む血漿)を毎日分析した。
【0312】
次いで、得られた結果(図15)は、これらの酵素の各々について非常に明確な活性レベルを示した。例として、N-アセチルグルコサミニダーゼは、β-D-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、α-マンノシダーゼ又はα-グルコシダーゼと比較して非常に高レベルの活性を有する一方、α-L-フコシダーゼは中程度の活性を有する。したがって、エタノールの様々な同位体間の検出干渉を制限するために、カクテルの組成を検討しなければならなかった。残りの研究に使用したカクテルの組成を表6に示す。
【0313】
得られたデータはまた、バックグラウンドノイズから出現した同位体の各々についてのシグナルを得るために7時間の速度論が必要であることを実証することを可能にした。7時間を超えると、試料内変動性の増加及びプローブの自発的加水分解が実証され、これにより、7時間を超えて反応を維持することができなかった(実行した試験、データは本明細書に示さない)。
【0314】
最後に、血液試料を周囲温度で維持することは、ここで標的とされる活性に有意な影響を及ぼさなかった(図15)。
【0315】
【表7】
【0316】
次いで、SARS-COV-2に感染した患者の血液試料を、これらの3つのプローブカクテルを用いて反応の7時間後について試験した。各試料中の2つの濃度のプローブを試験するために完全な実験計画を作成した(濃度は上記の表6に定義されている)。ここでの目的は、各プローブについて、患者の3つのグループを明確に区別することを可能にする濃度を決定することであった。
【0317】
この研究に関連して、3群の患者を研究した。第1の群は、39~74歳の10人の弱い症候性患者からなっていた(群A)。第2の群は、年齢46~70歳の10人の高い症候性の入院患者からなっていた(B群)。最後の群は、50~72歳の集中治療で入院した10人の高い症候性の患者からなっていた(C群)。これらの患者は全て、診断の8日後に試料を採取した。
【0318】
血漿試料中のプローブの応答を、いわゆる「ブランク」試料におけるそれらの応答及び酢酸緩衝液単独に添加されたプローブに対応する応答と比較した。
【0319】
結果は、プローブのセットの最大濃度が、3つのグループ間のより良好な区別を可能にすることを実証する(プローブD-エチル-β-D-グルクロニドを含み、それにもかかわらず、これは、緩衝溶液中に配置された場合に顕著な自発的加水分解を受ける。図16)。したがって、プローブは、血漿試料を試験する必要がある場合に、これらの濃度で使用される。
【0320】
更に、結果は、陽性COVID試験の8日後から、N-アセチルグルコサミニダーゼ及びα-マンノシダーゼが、高い症候性を有し、集中治療に入れられた患者においてより大きな活性を有することを実証する。これら2つの酵素は、感染後8日目から検出可能なSARS-COV-2感染の好ましくない予後診断マーカーであるようである。それらの濃度は、その後の日数を有意に減少させるが、それにもかかわらず、重篤な症状を発症した患者において高いままであり、これらの酵素をSARS-COV-2感染マーカーとする。更に、2つの他の酵素マーカー、β-グルクロニダーゼ及びα-グルコシダーゼは、集中治療を受けた患者において感染の数週間後、次の職務に入るようである。それらのそれぞれの活性は、感染の6ヶ月後に顕著になる。したがって、これらの2つのマーカーは、集中治療を受けた患者によって発症した慢性感染後炎症(ARDS)のマーカーとなるであろう。これらのマーカーを長期間追跡することにより、炎症が後退したことを検証することが可能になる。
【0321】
β-D-ガラクトシダーゼ及びα-L-フコシダーゼは、感染患者を区別することを可能にしない。しかしながら、これらの2つの酵素が固形腫瘍マーカーであることを考慮すると、それらは、癌に罹患している患者を感染に罹患している患者から区別することを可能にするはずである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17-1】
図17-2】
図18
【国際調査報告】