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特表2024-527193カゼインタンパク質を産生するための組換え宿主細胞及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-22
(54)【発明の名称】カゼインタンパク質を産生するための組換え宿主細胞及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20240712BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240712BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240712BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240712BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240712BHJP
   C12N 15/90 20060101ALN20240712BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20240712BHJP
【FI】
C12N1/19 ZNA
C12N1/15
C12N1/21
C12P21/02 C
C12N15/12
C12N15/90 102Z
C12N15/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024504154
(86)(22)【出願日】2022-07-25
(85)【翻訳文提出日】2024-03-15
(86)【国際出願番号】 EP2022070775
(87)【国際公開番号】W WO2023002061
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】21187364.1
(32)【優先日】2021-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511265718
【氏名又は名称】レッドバイオテック・アーゲー
【氏名又は名称原語表記】REDBIOTEC AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ドローズ,スアン
(72)【発明者】
【氏名】ビュールマン,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】タンバスコ・スチュダート,マリーナ
(72)【発明者】
【氏名】シャウブ,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ヨーン,コリンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ロスフェルド,マリー-エステル
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA10
4B065AA01X
4B065AA58X
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA77X
4B065AA77Y
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA03
4B065CA24
4B065CA41
(57)【要約】
本発明は、カゼインを産生するように遺伝子工学操作された組換え宿主細胞及びカゼインを産生する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのカゼインタンパク質を発現するように遺伝子工学操作された組換え宿主細胞であって、該カゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドは、宿主細胞ゲノムに組み込まれているか又はエピソームに維持され、異種分泌シグナル及びプロモーターに連結され、転写終結配列が続き、ここでの該組換え宿主細胞はさらに
i)キナーゼ、好ましくは配列番号23、40、41若しくは42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は100%)の配列同一率を有している、及び/又は、EC:2.7.11.1セリン/トレオニンプロテインキナーゼ活性を有している該キナーゼを同時発現するように工学操作され、好ましくは該キナーゼは、配列番号23(hFAM20cキナーゼ)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している;及び/又は
ii)1つ以上のプロテアーゼ(例えばEC:3.4.23.X酵素活性を有するアスパラギン酸エンドペプチダーゼ、ここでのXは、1~52からなる群より選択される)、好ましくは配列番号39、43、44、45、46、47、48、49、50、51、及び52からなる群より選択されるか又は配列番号39、43、44、45、46、47、48、49、50、51、若しくは52に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している1つ以上の該プロテアーゼの産生及び/又は機能を該宿主細胞において完全に又は部分的に欠損させる、少なくとも1つの(例えば2つ又は3つの)プロテアーゼ欠損を含んでいる、自然に発生した又は遺伝子工学操作された該宿主細胞であり;さらに好ましくは、該プロテアーゼは、アスパラギン酸プロテアーゼであり、最も好ましくは該アスパラギン酸プロテアーゼは、pfam00026アスパラギン酸プロテアーゼであり、さらに最も好ましくは該宿主細胞は、KLLA0D01507g遺伝子座(例えばUniProtアクセッション番号:Q6CSF3又は配列番号39を有している)の欠失を含んでいるクルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)宿主細胞であり;
好ましくは、a)前記の少なくとも1つのカゼインタンパク質は、配列番号13、14若しくは19のアミノ酸配列、又は配列番号13、14若しくは19に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有する、κ-カゼイン(カゼイン-κ)であり;及び/又は
b)前記の少なくとも1つのカゼインタンパク質は、配列番号9、10若しくは18のアミノ酸配列、又は配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有する、β-カゼイン(カゼイン-β)であり;
場合により、ここでの宿主細胞は、少なくとも2つ、少なくとも3つ、又は少なくとも4つの異なるカゼインタンパク質を産生(例えば同時発現)するように遺伝子工学操作されている、組換え宿主細胞。
【請求項2】
ポリヌクレオチドによってコードされるカゼインタンパク質が、配列番号1、2若しくは17のアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5若しくは6のアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、配列番号9、10若しくは18のアミノ酸配列を有しているカゼインβ、又は配列番号13、14若しくは19のアミノ酸配列を有しているカゼインκに対して、少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であり、好ましくはここでの宿主細胞は、配列番号1、2若しくは17に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5若しくは6に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、及び/又は、配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号13、14若しくは19に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκを同時発現するように遺伝子工学操作されている、請求項1記載の組換え宿主細胞。
【請求項3】
カゼインのセリン又はトレオニンをコードしているヌクレオチドの1つ以上が、グルタミン酸又はアスパラギン酸をコードしているヌクレオチドで置換されている、請求項1又は2記載の組換え宿主細胞。
【請求項4】
カゼインをコードしているポリヌクレオチドが、配列番号3、4、7、8、11、12、15、16、又は20~22からなる群より選択されるヌクレオチド配列を有する、請求項1~3のいずれか一項記載の組換え宿主細胞。
【請求項5】
前記異種分泌シグナルが、カゼイン分泌シグナルではない、請求項1~4のいずれか一項記載の組換え宿主細胞。
【請求項6】
前記宿主細胞が、生物、例えば細菌、酵母、又は糸状菌であり、場合により該生物は、好ましくは大腸菌(Escherichia coli)及び枯草菌(Bacillus subtilis)からなる群より選択される細菌、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)、アスペルギルス・バデンシス(Aspergillus vadensis)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、及びアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)からなる群より選択される糸状菌、又は好ましくはクルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、ピキア(Pichia)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、テトラヒメナ(Tetrahymena)属、ヤロウィア(Yarrowia)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、ブラストボトリ(Blastobotrys)属、カンジダ(Candida)属、ザイゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、及びデバリオマイセス(Debaryomyces)属の群から選択される酵母細胞であり、好ましくは該宿主細胞は、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyceslactis)又はピキア・パストリス(Pichia pastoris)である、請求項1~5のいずれか一項記載の組換え宿主細胞。
【請求項7】
前記宿主細胞が酵母細胞であり、前記異種分泌シグナルが、配列番号24を有しているpOst1-aMF、配列番号25若しくは26を有しているaMF、又は配列番号27を有しているキラータンパク質、又は配列番号31、32、33、34、35若しくは36の配列を有している分泌シグナルからなる群より選択される、請求項6記載の組換え宿主細胞。
【請求項8】
前記宿主細胞が、クルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリスであり、好ましくは該プロモーターが、配列番号28又は配列番号37又は配列番号53、54、55若しくは56である、請求項6又は7記載の組換え宿主細胞。
【請求項9】
前記キナーゼが、配列番号23(hFAM20cキナーゼ)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有しているか、又は配列番号42(ウシカゼインキナーゼI)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している、請求項1~8のいずれか一項記載の組換え宿主細胞。
【請求項10】
自然に発生又は遺伝子工学操作された前記宿主細胞は、配列番号39、43、44、45、46、47、48、49、50、51及び52からなる群より選択される1つ以上のプロテアーゼの産生及び/又は機能を該宿主細胞において完全に又は部分的に欠損させる、少なくとも1つ(例えば2つ又は3つ)のプロテアーゼ欠損を含み、該プロテアーゼは、EC:3.4.23.X酵素活性を有しているアスパラギン酸エンドペプチダーゼであり、ここでのXは、1~52からなる群より選択される、請求項1~9のいずれか一項記載の組換え宿主細胞。
【請求項11】
a.前記宿主細胞が、クルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリスであり;
b.前記異種分泌シグナルが、配列番号24を有しているpOst1-aMF、又は配列番号25、26、27、31~36からなる群より選択される分泌シグナルであり;そして
c.該宿主細胞は、配列番号1、2若しくは17に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5若しくは6に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、及び/又は、配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号13、14若しくは19に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκを同時発現するように遺伝子工学操作されている、請求項1~10のいずれか一項記載の組換え宿主生物。
【請求項12】
少なくとも1つの関心対象のカゼインタンパク質を製造するための請求項1~11のいずれか一項記載の組換え宿主細胞の使用であって、好ましくは前記の少なくとも1つの関心対象のタンパク質は、κ-カゼイン及び/又はβ-カゼインである、使用。
【請求項13】
a.請求項1~12のいずれか一項記載の組換え宿主細胞において、分泌シグナルに連結された、配列番号1、2、5、6、9、10、13又は14に対して70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有する、少なくとも1つのカゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドを発現させる工程、
b.培養培地中への少なくとも1つのカゼインタンパク質の分泌を可能とするに十分な条件下で、培養培地中で該宿主細胞を培養する工程
を含み、場合により、ここでは:
c.工程(a)のカゼインタンパク質は、配列番号1、2、5、6、9、10、13若しくは14のいずれか1つに対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有している少なくとも1つの第二のカゼインタンパク質と同時発現している、及び/又は、配列番号23、40、41若しくは42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているキナーゼと同時発現し、好ましくは該キナーゼは、配列番号23(hFAM20cキナーゼ)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有しているか、又は配列番号42(ウシカゼインキナーゼI)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している、
少なくとも1つの関心対象のカゼインタンパク質を産生する方法であって、好ましくは前記の少なくとも1つの関心対象のタンパク質は、κ-カゼイン及び/又はβ-カゼインである、方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法によって産生されるか、又は配列番号2、6、10若しくは14のアミノ酸配列を有しているカゼインタンパク質。
【請求項15】
請求項14記載の1つ以上(例えばいくつかの)カゼインタンパク質を含んでいるミセル。
【請求項16】
請求項14記載のカゼインタンパク質又は請求項15記載のミセルを含んでいる組成物。
【請求項17】
a.配列番号1、2、5、6、9、10、13、又は14に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)のアミノ酸同一率を有している少なくとも1つの(例えば少なくとも2つの)カゼインタンパク質及びキナーゼをコードしているポリヌクレオチドを、宿主細胞ゲノムに組み込む工程、ここでの該キナーゼは、配列番号23、40、41若しくは42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している、及び/又はEC:2.7.11.1セリン/トレオニンプロテインキナーゼ活性を有しており、好ましくは該キナーゼは、配列番号23(hFAM20cキナーゼ)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有しているか、又は配列番号42(ウシカゼインキナーゼI)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有し;ここでのポリヌクレオチドは、配列番号24を有している異種分泌シグナルpOst1-aMF又は配列番号25、26、27、31~36からなる群より選択される分泌シグナルに;及び配列番号28、37、53、54、55若しくは56を有しているプロモーターに連結され、ここでのポリヌクレオチドは、配列番号1、2若しくは17に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5若しくは6に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、及び/又は、配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号13、14若しくは19に対して70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκをコードしている、
b.場合により、少なくとも1つの(例えば少なくとも2つの)カゼインタンパク質及びキナーゼを該宿主細胞において同時発現させる工程、ここでの該キナーゼは、配列番号23、40、41若しくは42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している、及び/又はEC:2.7.11.1セリン/トレオニンプロテインキナーゼ活性を有しており、好ましくは該キナーゼは、配列番号23(hFAM20cキナーゼ)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有しているか、又は配列番号42(ウシカゼインキナーゼI)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している、そして
c.カゼインタンパク質の分泌を可能とする培養培地中で該宿主細胞を培養する工程を含む、
組換えクルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリス宿主細胞からのカゼインの分泌を増加させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年7月23日に欧州特許庁に出願された欧州特許出願第21187364号の優先権を主張し、その全内容は、全ての目的のために本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列表
本出願は、コンピューターで解読可能な形式の配列表を含み、これは参照により本明細書に組み入れられる。
【0003】
発明の分野
本発明は、少なくとも1つのカゼインタンパク質を発現するように遺伝子工学操作された組換え宿主細胞又は生物、及び、組換え宿主細胞又は生物を使用してカゼインを産生する方法に関する。
【0004】
背景
カゼインは、関連性のあるリン酸化タンパク質(αS1、αS2、β、κ)の一ファミリーである。これらのタンパク質は、一般的に哺乳動物の乳汁中に見られ、牛乳中にはタンパク質の約80%に、ヒトの母乳中にはタンパク質の20%~60%に含まれている。ヒツジ及びバッファローの乳汁は、他の種類の乳汁よりもより高いカゼイン含量を有し、ヒトの母乳は、特に低いカゼイン含量を有している。牛乳は、4つの特殊なカゼイン、αS1-カゼイン、αS2-カゼイン、β-カゼイン、及びκ-カゼインを有することが知られている。
【0005】
カゼインは、チーズの主成分から、食品添加物としての用途まで、幅広い用途を有する。最も一般的な形態のカゼインは、カゼイン酸ナトリウムである。乳汁中でカゼインは相分離を受けて、コロイド状のカゼインミセルを形成する。食品源として、カゼインは、アミノ酸、炭水化物、及び2つの必須元素であるカルシウムとリンを供給する。
【0006】
カゼインは、多数のプロリンアミノ酸を含有し、これはタンパク質の一般的な二次構造モチーフの形成を妨害する。結果として、それは比較的僅かな三次構造を有する。それは比較的疎水性である。それは乳汁中にカゼインミセルとして見られ、これは親水性部分が表面にあり、それらは球状であるという意味で、界面活性剤型のミセルとほんの僅かな類似しか示さない。しかしながら、界面活性剤ミセルとは際立って対照的に、カゼインミセルの内部は高度に水和している。ミセル中のカゼインは、カルシウムイオン及び疎水性相互作用によってまとまっている。
【0007】
カゼインなどの乳汁タンパク質の組換え産生法は、例えば国際公開公報第2016/029193号から公知であるが、しかしながら、これらの方法は一般的には、限界がある。現在までに、乳汁タンパク質ミセルの低い収量範囲及び発現(これはどちらも、ウシを使わない乳汁及びその製品の分野における重要なパラメーターである)などの発現の限界を克服することのできる理想的なシステムは全くない。
【0008】
したがって、カゼインを産生するための改善された宿主生物及び方法を提供することが依然として必要である。
【0009】
要約
本発明は、この必要性に取り組み、少なくとも1つのカゼインタンパク質を発現するように遺伝子工学操作された組換え宿主細胞又は生物を提供し、ここで、カゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドは、宿主細胞ゲノムに組み込まれているか、又はエピソームに維持され、異種分泌シグナルに及びプロモーターに連結され、転写終結配列が続く。特に、宿主細胞又は生物は、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、又は少なくとも4つの異なるカゼインタンパク質を産生するように遺伝子工学操作され得る。
【0010】
1つの態様では、本発明は、少なくとも1つのカゼインタンパク質を発現するように遺伝子工学操作された組換え宿主細胞に関し、好ましくは前記の少なくとも1つのカゼインタンパク質は、配列番号13、14若しくは19のアミノ酸配列又は配列番号13、14若しく19に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκであり、ここでのカゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドは、宿主細胞ゲノムに組み込まれているか又はエピソームに維持され、異種分泌シグナルに及びプロモーターに連結され、転写終結配列が続き、ここでの該組換え宿主細胞はさらに、(i)キナーゼ、好ましくは配列番号23、40、41若しくは42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は100%)の配列同一率を有している該キナーゼを同時発現するように遺伝子工学操作され;及び/又は、(ii)1つ以上のプロテアーゼ、好ましくは配列番号39、43、44、45、46、47、48、49、50、51及び52からなる群より選択される1つ以上の該プロテアーゼの産生及び/又は機能を該宿主細胞において完全に又は部分的に欠損させる少なくとも1つの(例えば2つ又は3つの)プロテアーゼ欠損を含んでいる該宿主細胞であり;さらに好ましくは、該プロテアーゼはアスパラギン酸プロテアーゼであり、最も好ましくは該アスパラギン酸プロテアーゼは、pfam00026アスパラギン酸プロテアーゼであり、さらに最も好ましくは該宿主細胞は、KLLA0D01507g遺伝子座(例えばここでのKLLA0D01507g遺伝子座はUniProtアクセッション番号:Q6CSF3又は配列番号39を有している)の欠失を含んでいるクルイベロマイセス・ラクティス宿主細胞である。別の態様では、本発明は、少なくとも1つのカゼインタンパク質を発現するように遺伝子工学操作された組換え宿主細胞に関し、ここでのカゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドは、宿主細胞ゲノムに組み込まれているか又はエピソームに維持され、異種分泌シグナル及びプロモーターに連結され、転写終結配列が続き、ここでの該組換え宿主細胞はさらに、(i)キナーゼ、好ましくは配列番号23、40、41又は42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は100%)の配列同一率を有している、及び/又は、EC:2.7.11.1セリン/トレオニンプロテインキナーゼ活性を有している該キナーゼを同時発現するように工学操作され、好ましくは該キナーゼは、配列番号23(hFAM20cキナーゼ)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有し;及び/又は(ii)1つ以上のプロテアーゼ(例えばEC:3.4.23.X酵素活性を有するアスパラギン酸エンドペプチダーゼ、ここでのXは、1~52からなる群より選択される)、好ましくは配列番号39、43、44、45、46、47、48、49、50、51、及び52からなる群より選択されるか又は配列番号39、43、44、45、46、47、48、49、50、51、又は52に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している1つ以上の該プロテアーゼの産生及び/又は機能を該宿主細胞において完全に又は部分的に欠損させる、少なくとも1つの(例えば2つ又は3つの)プロテアーゼ欠損を含んでいる自然に発生した又は遺伝子工学操作された該宿主細胞であり;さらに好ましくは、該プロテアーゼは、アスパラギン酸プロテアーゼであり、最も好ましくは該アスパラギン酸プロテアーゼは、pfam00026アスパラギン酸プロテアーゼであり、さらに最も好ましくは該宿主細胞は、KLLA0D01507g遺伝子座(例えばUniProtアクセッション番号:Q6CSF3又は配列番号39を有している)の欠失を含んでいるクルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)宿主細胞であり;好ましくは:a)前記の少なくとも1つのカゼインタンパク質は、配列番号13、14若しくは19のアミノ酸配列、又は配列番号13、14若しくは19に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有する、κ-カゼイン(カゼイン-κ)であり;及び/又は(b)前記の少なくとも1つのカゼインタンパク質は、配列番号9、10若しくは18のアミノ酸配列、又は配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有する、β-カゼイン(カゼイン-β)であり;場合により、ここでの宿主細胞は、少なくとも2つ、少なくとも3つ、又は少なくとも4つの異なるカゼインタンパク質を産生(例えば同時発現)するように遺伝子工学操作されている。
【0011】
ポリヌクレオチドによってコードされるカゼインタンパク質は、配列番号1若しくは17のアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5のアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、配列番号9若しくは18のアミノ酸配列を有しているカゼインβ、又は配列番号13若しくは19のアミノ酸配列を有しているカゼインκに対して、少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一である、任意の哺乳動物カゼインタンパク質、好ましくはウシ又はヒトカゼインタンパク質であり得る。該ポリヌクレオチドは、図1に示されるような、配列番号4、7、11、15、20、21又は22のそれぞれのヌクレオチド配列を有し得る。ウシカゼインに対する他の哺乳動物のカゼインの配列同一率は、以下に見ることができる:
【0012】
【表1】
【0013】
1つの態様では、組換え宿主細胞又は生物は、配列番号1若しくは17に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号4に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、及び/又は配列番号9若しくは21に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号13若しくは19に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκを同時発現するように遺伝子工学操作されている。
【0014】
場合により、哺乳動物カゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドは改変されていてもよく、ここではカゼインのセリン又はトレオニンをコードしている1つ以上のヌクレオチドは、グルタミン酸又はアスパラギンをコードしているヌクレオチドで置換されている。このようなカゼインタンパク質は、リン酸化模倣体カゼインタンパク質と呼ばれ、図2のアラインメントで下線の引かれた位置は、このような修飾に適格であろう。これらのタンパク質では、配列番号23で示されているようなhFAM20cキナーゼとの同時発現は、必要ではない。したがって、カゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドは、配列番号4、8、12若しくは16に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるポリヌクレオチドによってコードされた、配列番号2、6、10若しくは14からなる群より選択される配列を有しているポリヌクレオチドに対して70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であり得る。
【0015】
本発明の脈絡では、組換え宿主細胞又は生物は、細菌、酵母細胞、又は糸状菌であり得る。好ましい細菌は、大腸菌(Escherichia coli)及び枯草菌(Bacillus subtilis)であり、好ましい真菌は、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)、アスペルギルス・バデンシス(Aspergillus vadensis)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、及びアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)であり、好ましい酵母細胞は、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、ピキア(Pichia)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、テトラヒメナ(Tetrahymena)属、ヤロウィア(Yarrowia)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、ブラストボトリ(Blastobotrys)属、カンジダ(Candida)属、ザイゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、及びデバリオマイセス(Debaryomyces)属の群から選択され、最も好ましくは該宿主細胞は、クルイベロマイセス・ラクティス(K.lactis)又はピキア・パストリス(P.pastoris)である。
【0016】
いくつかの実施態様では、組換え宿主細胞又は生物に導入された異種分泌シグナルは、カゼイン分泌シグナルではない。好ましくは、該異種分泌シグナルは、配列番号24を有しているpOst1-aMF、配列番号25若しくは26を有しているaMF、又は配列番号27を有しているキラータンパク質、又は配列番号24、25、26、27、31~36からなる群より選択される分泌シグナルからなる群より選択される。
【0017】
宿主細胞がクルイベロマイセス・ラクティスである場合、好ましいプロモーターは、配列番号28、53~56、PDC1、KlADH3、トリコデルマ・リーセイのCBH1又はLAC4からなる群より選択される構成性又は誘導性プロモーターである。宿主細胞がピキア・パストリスである場合、該プロモーターは、AOX1、GAP1、G1、DAS、FLD1、LRA3、THI11、TEF1又はGCW14からなる群より選択される構成性又は誘導性プロモーターであり得る。
【0018】
1つの特定の態様では、組換え宿主細胞は、クルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリスであり、異種分泌シグナルは、配列番号24を有しているpOst1-aMF、又は配列番号25、26、27、31~36からなる群より選択される分泌シグナルであり;該宿主細胞は、配列番号1、2若しくは17に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5若しくは6に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、及び/又は配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号13、14若しくは19に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκを同時発現するように遺伝子工学操作されている。
【0019】
カゼインがリン酸化模倣体ではない場合、例えばカゼインが、配列番号1、4、8、12若しくは17~19に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有する場合、少なくとも1つのカゼインタンパク質は、ウシ若しくはヒトカゼインキナーゼI(例えば配列番号42を有しているウシカゼインキナーゼ)若しくはII(例えば配列番号40)、又は配列番号23に対して少なくとも70%の配列同一率を有しているFAM20cキナーゼなどのキナーゼと同時発現されていてもよい。
【0020】
本発明はまた、少なくとも1つの関心対象のタンパク質を製造するための上記の組換え宿主生物の使用、並びに関心対象のカゼインタンパク質を産生する方法にも関する。
【0021】
具体的には、本発明は、
a.請求項1~15のいずれか一項記載の組換え宿主生物において、分泌シグナルに連結された配列番号1、2、5、6、9、10、13又は14に対して70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有している少なくとも1つのカゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドを発現させる工程;及び
b.培養培地中への少なくとも1つのカゼインタンパク質の分泌を可能とするに十分な条件下で、培養培地中で宿主生物を培養する工程を含む、少なくとも1つの関心対象のカゼインタンパク質を産生する新規な方法に関する。
【0022】
別の態様では、本発明は、
a.本明細書で何処かに記載されているような組換え宿主生物において、分泌シグナルに連結された、配列番号1、2、5、6、9、10、13又は14に対して70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有している少なくとも1つのカゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドを発現させる工程;及び
b.培養培地中への少なくとも1つのカゼインタンパク質の分泌を可能とするに十分な条件下で、培養培地中で宿主生物を培養する工程を含む、少なくとも1つの関心対象のカゼインタンパク質を産生する新規な方法に関する。
【0023】
1つの態様では、工程(a)のカゼインタンパク質は、配列番号1、2、5、6、9、10、13若しくは14のいずれか1つに対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有している少なくとも1つの第二の異なるカゼインタンパク質と同時発現され、及び/又は、配列番号23に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているFAM20cキナーゼと同時発現される。
【0024】
本発明はまた、上記の方法によって産生されたカゼインタンパク質、特に配列番号2、6、10、又は14のアミノ酸配列を有しているカゼインタンパク質にも関する。また、このようなカゼインを含んでいるミセル、及びこのようなカゼイン又はミセルを含んでいる食品などの組成物も包含される。
【0025】
さらに、本発明は、
(i)配列番号1、2、5、6、9、10、13又は14に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)のアミノ酸同一率を有している少なくとも1つの(例えば少なくとも2つの)カゼインタンパク質、及び配列番号23に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)のアミノ酸同一率を有している1つのFam20cキナーゼをコードしているポリヌクレオチドを、宿主細胞ゲノムに組み込む工程(ここでのポリヌクレオチドは、配列番号24を有している異種分泌シグナルpOst1-aMFに、及び配列番号28又は56を有しているプロモーターに連結され、ここでのポリヌクレオチドは、配列番号1、2若しくは17に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5若しくは6に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、及び/又は、配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号13、14若しくは19に対して70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκをコードしている)、
(ii)場合により、少なくとも1つの(例えば少なくとも2つの)カゼインタンパク質、及び配列番号23に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有している1つのFam20cキナーゼを該宿主細胞において同時発現させる工程、及び
(iii)カゼインタンパク質の分泌を可能とする培養培地中で該宿主細胞を培養する工程
を含む、組換えクルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリス宿主細胞からのカゼインの分泌を増加させる方法を提供する。
【0026】
さらなる態様では、本発明は、
(i)配列番号1、2、5、6、9、10、13、又は14に対して少なくとも70%のアミノ酸同一率を有している少なくとも1つの(例えば少なくとも2つの)カゼインタンパク質及びキナーゼ、好ましくは配列番号23、40、41若しくは42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している該キナーゼをコードしているポリヌクレオチドを、宿主細胞ゲノムに組み込む工程(ここでのポリヌクレオチドは、配列番号24を有している異種分泌シグナルpOst1-aMF、及び配列番号27を有しているプロモーターに連結され、ここでのポリヌクレオチドは、配列番号1、2若しくは17に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5若しくは6に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、及び/又は、配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号13、14若しくは19に対して70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκをコードしている)、
(ii)場合により、少なくとも1つの(例えば少なくとも2つの)カゼインタンパク質及び(i)で定義されているような該キナーゼを宿主細胞において同時発現させる工程、及び
(iii)カゼインタンパク質の分泌を可能とする培養培地中で宿主細胞を培養する工程
を含む、組換えクルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリス宿主細胞からのカゼインの分泌を増加させる方法を提供する。
【0027】
別の態様では、本発明は、
i)配列番号1、2、5、6、9、10、13、又は14に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)のアミノ酸同一率を有している少なくとも1つの(例えば少なくとも2つの)カゼインタンパク質及びキナーゼ(ここでの該キナーゼは、配列番号23、40、41若しくは42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している、及び/又は、EC:2.7.11.1セリン/トレオニンプロテインキナーゼ活性を有している)をコードしているポリヌクレオチドを、宿主細胞ゲノムに組み込む工程(好ましくは、該キナーゼは、配列番号23(hFAM20cキナーゼ)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有しているか、又は配列番号42(ウシカゼインキナーゼI)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有し;ここでの該ポリヌクレオチドは、配列番号24を有している異種分泌シグナルpOst1-aMF、又は配列番号25、26、27、31~36からなる群より選択される分泌シグナルに;及び配列番号28、37、53、54、55若しくは56を有しているプロモーターに連結され、ここでのポリヌクレオチドは、配列番号1、2若しくは17に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5若しくは6に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、及び/又は、配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号13、14若しくは19に対して70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκをコードしている)、
ii)場合により、少なくとも1つの(例えば少なくとも2つの)カゼインタンパク質及びキナーゼ(ここでの該キナーゼは、配列番号23、40、41若しくは42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している、及び/又は、EC:2.7.11.1セリン/トレオニンプロテインキナーゼ活性を有している)を該宿主細胞において同時発現させる工程(好ましくは該キナーゼは、配列番号23(hFAM20cキナーゼ)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有しているか、又は配列番号42(ウシカゼインキナーゼI)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している)、そして
iii)カゼインタンパク質の分泌を可能とする培養培地中で該宿主細胞を培養する工程
を含む、組換えクルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリス宿主細胞からのカゼインの分泌を増加させる方法を提供する。
【0028】
1つの具体的な態様では、組換えクルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリス宿主細胞からのカゼインの分泌を増加させる方法は、
a.少なくとも1つの(例えば少なくとも2つの)カゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドを宿主細胞ゲノムに組み込む工程(ここでのポリヌクレオチドは、配列番号24を有している異種分泌シグナルpOst1-aMFに及びプロモーターに連結され、ここでのポリヌクレオチドは、配列番号2に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号6に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、及び/又は、配列番号10に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号14に対して70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκをコードしている)、
b.宿主細胞において少なくとも1つの(例えば少なくとも2つの)カゼインタンパク質を同時発現させる工程、及び
c.カゼインタンパク質の分泌を可能とする培養培地中で宿主細胞を培養する工程
含む。
【0029】
詳細な説明
上記のように、本発明は、いくつかの異なるアプローチを個々に又は組み合わせて使用した、カゼインの発現のための、新規な組換え細胞及び生物並びに方法を提供する。具体的には、1つのアプローチは、特殊な異種分泌シグナル又はプロモーターを適用して、収量及び/又は分泌を増強させる。第二の選択肢は、配列番号2、5、10及び14などの、それらのアミノ酸組成において変化を有する、リン酸化模倣体カゼインの提供である。第三のアプローチは、1つ又はいくつかの異なるカゼインとカゼインκなどの、異なるカゼインの同時発現である。これらのアプローチは、いくつかの利点を有する。第一に、野生型カゼイン分泌シグナルではない異種分泌シグナルの使用は、分泌を改善させる。
【0030】
第二に、カゼインのいくつかのアミノ酸組成の変化は、リン酸化工程を回避し、それ故、配列番号23を有しているFAM20cなどのキナーゼを同時発現する必要性は回避される。本発明のキナーゼは、配列番号23、40、41若しくは42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有し得、及び/又は、EC.2.7.11.1セリン/トレオニンプロテインキナーゼ活性を有し得る。本発明のキナーゼの非限定的な例としては、配列番号23、40、41、又は42が挙げられる。
【0031】
さらに、カゼイン収量は、プロテアーゼの欠損した株/宿主において改善する。したがって、1つ以上のプロテアーゼ(例えば、EC:3.4.23.X酵素活性を有しているアスパラギン酸エンドペプチダーゼ、ここでのXは1~52からなる群より選択される)、好ましくは配列番号39、43、44、45、46、47、48、49、50、51及び52からなる群より選択されるか、又は配列番号配列番号39、43、44、45、46、47、48、49、50、51若しくは52に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している1つ以上の該プロテアーゼの産生及び/又は機能を該宿主細胞において完全に又は部分的に欠損させる、少なくとも1つ(例えば2つ又は3つ)のプロテアーゼ欠損を含んでいる、自然に発生又は遺伝子工学操作された宿主細胞(さらに、好ましくは該プロテアーゼはアスパラギン酸プロテアーゼであり、最も好ましくは該アスパラギン酸プロテアーゼは、pfam00026アスパラギン酸プロテアーゼであり、さらに最も好ましくは該宿主細胞は、KLLA0D01507g遺伝子座(例えばUniProtアクセッション番号:Q6CSF3又は配列番号39を有している)の欠失を含んでいるクルイベロマイセス・ラクティス宿主細胞である)は、未修飾の親株/宿主と比較してカゼインのより良好な収量を生じることができる。
【0032】
最後に、カゼインを発現させるための組換えアプローチの使用は、それらの収量を高め、それらの正しい折り畳みを促進する。該タンパク質の同時発現は以下のシナリオを促進し、ここでは1つのタンパク質は、他に対するシャペロンとして機能し、それ故、正しい折り畳み及びカゼインのミセルをもたらすことが可能である。
【0033】
出願の脈絡における「宿主生物」という用語は、細菌、酵母、及び糸状菌からなる群より選択される生物である。好ましい細菌は、大腸菌及び枯草菌であり、好ましい真菌は、トリコデルマ・リーセイ、アスペルギルス・バデンシス、アスペルギルス・オリゼー、及びアスペルギルス・ニガーであり、好ましい酵母細胞は、クルイベロマイセス属、ピキア属、サッカロマイセス属、テトラヒメナ属、ヤロウィア属、ハンゼヌラ属、ブラストボトリ属、カンジダ属、ザイゴサッカロマイセス属、及びデバリオマイセス属の群から選択され、最も好ましくは該宿主生物は、クルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリスである。
【0034】
「宿主細胞」という用語は、上記の宿主生物並びに細胞培養液に由来する細胞、例えばウシ哺乳動物上皮細胞を含み得る(Sakamoto et al., 2005, Monzani et al., 2011)。
【0035】
本明細書において使用する「遺伝子工学操作された」という用語は、発現ベクター内でエピソームに維持されているか又は宿主生物のゲノム内に組み込まれているかのいずれかである、外来性で非天然の核酸配列を含み、並びに/あるいはさらに、1つ以上の内因性配列(例えば核酸)内の1つ以上の位置に人工的に(例えば組換えで)導入された改変又は修飾、例えば置換、挿入及び/又は欠失、並びに/あるいは、関心対象のタンパク質(例えば本明細書に記載のようなプロテアーゼ)の発現レベル、産生及び/又は機能に影響を及ぼす、他の改変(群)又は修飾(群)を、例えば遺伝子サイレンシング法によって、例えばRNA干渉(RNAi)、CRISPR及び/又はsiRNAなどによって含み得る、生物に関し得る。置換は、ある位置を占めているアミノ酸又は核酸を、異なるアミノ酸又は核酸を用いて置換することを意味し;欠失は、ある位置(群)を占めているアミノ酸(群)又は核酸(群)を除去することを意味し;そして、挿入は、ある位置を占めているアミノ酸又は核酸の隣に及び直後に、アミノ酸(群)又は核酸(群)を付加することを意味する。
【0036】
本明細書において同義語として使用される「天然に」又は「天然に存在する」という用語は、野生型宿主細胞を指し得る。
【0037】
本明細書において使用する「完全に欠損している」という用語は、1つ以上のプロテアーゼの産生及び/又は機能を100%欠失(例えばノックアウト又は欠失)している、例えば、EC:3.4.23.X酵素活性を有する1つ以上のアスパラギン酸エンドペプチダーゼの産生及び/又は機能を100%欠失している宿主細胞を指し得、ここでのXは、1~52からなる群より選択される。
【0038】
本明細書において使用する「部分的に欠損している」という用語は、未修飾/工学操作されていない親株/宿主と比較して、1つ以上のプロテアーゼの産生及び/又は機能の100%未満(例えばノックダウン、例えば90%、85%、80%、75%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、5%、又はそれ未満など)、例えば、未修飾/工学操作されていない親株/宿主と比較して、例えば、EC:3.4.23.X酵素活性(ここでのXは、1~52からなる群より選択される)を有している1つ以上のアスパラギン酸エンドペプチダーゼの100%未満の産生及び/又は機能を有する、宿主細胞を指し得る。例えば、例えばRNA干渉、CRISPR、又はsiRNA技術を使用した、突然変異誘発及び/又は遺伝子サイレンシングを使用して、関心対象の遺伝子/タンパク質(例えば、本明細書に記載のようなプロテアーゼ)の発現を約50%~80%低減させることができる。
【0039】
本発明の脈絡において、「カゼインタンパク質」は、天然の哺乳動物カゼインタンパク質に対して、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は完全に同一なタンパク質を指す。好ましいカゼインタンパク質は、ウシ又はヒトのカゼインタンパク質である。本発明の脈絡において、好ましい天然カゼインタンパク質は、配列番号1(ウシαS1)、配列番号5(ウシαS2)、配列番号9(ウシβ)、配列番号13(ウシκ)、配列番号17(ヒトαS1)、配列番号18(ヒトβ)、又は配列番号19(ヒトκ)、又は図1及び2で示されるカゼインタンパク質のいずれかに対して少なくとも70%の同一率を有しているものである。
【0040】
「配列同一率」又は「同一率%」は、標準化アルゴリズムを使用してアラインさせた少なくとも2つのポリペプチド配列間の残基の一致率を指す。このようなアルゴリズムは、標準化された再現可能な方法で、比較される配列にギャップを挿入し、これにより、2つの配列間のアラインメントを最適化し、それ故、より意味のある2つの配列の比較を成し遂げる。本発明の目的のために、2つのアミノ酸配列間の配列同一率は、NCBI BLASTプログラムバージョン2.3.0(2016年1月13日)を使用して決定される(Altschul et al., Nucleic Acids Res. (1997) 25:3389-3402)。2つのアミノ酸配列の配列同一率は、以下のパラメーターで設定されたblastpを用いて決定され得る:マトリックス:BLOSUM62、ワードサイズ3;期待値:10;ギャップコスト:エグジステンス=11、エクステンション=1;組成調整:条件付組成スコアマトリックス調整。図2から分かるように、様々な種に由来するカゼインタンパク質は高度に保存され、よって、ウシ(配列番号1、4、8、12)又はヒト(配列番号20~22)のカゼインに基づいた70%の同一率は、他の哺乳動物カゼインタンパク質も含む。
【0041】
「ポリヌクレオチド」は、鎖内で共有結合しているヌクレオチドモノマーのポリマーを含んでいる分子を指す。本発明の脈絡では、ポリヌクレオチドは、DNA(デオキシリボ核酸)鎖である。該用語は、本明細書において、特定の長さの分子を指すものではなく、それ故、本明細書では「DNA」という用語の同義語として使用される。本発明の脈絡において、カゼインをコードしているポリヌクレオチドは、宿主の生物のために最適化されていてもよい。例えば、配列番号3、4、7、8、11、12、15及び16として示されるヌクレオチド配列は、酵母宿主細胞、特にピキア・パストリスにおける発現のために最適化されたコドンである。
【0042】
「ポリペプチド」は、ペプチド結合によって互いに連結されたアミノ酸のポリマーを含んでいる分子を指す。該用語は、本明細書において特定の長さの分子を指すことを意味せず、それ故、「タンパク質」という用語の同義語として使用される。本明細書において使用する場合、「ポリペプチド」又は「タンパク質」という用語はまた、発現カセット若しくはベクターによって発現されるか、又は本発明の宿主細胞から単離され得る、「関心対象のポリペプチド」又は「関心対象のタンパク質」も含む。ポリペプチドはアミノ酸配列を含み、したがって、時に、アミノ酸配列を含んでいるポリペプチドは、本明細書において、「ポリペプチド配列を含んでいるポリペプチド」と称される。したがって、本明細書において「ポリペプチド配列」という用語は、「アミノ酸配列」という用語の同義語として使用される。「アミノ酸」すなわち「aa」という用語は、天然に存在するアミノ酸を指す。天然に存在するアミノ酸は、遺伝子コードによってコードされるものである。
【0043】
「宿主ゲノムに組み込まれている」及び「エピソームに維持されている」という用語は、ポリヌクレオチドを宿主細胞に含める公知の方法を指す。本発明の脈絡において、カゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドは、異種分泌シグナルに連結されている。
【0044】
本発明の「異種分泌シグナル」(「シグナル配列」、「リーダー配列」又は「シグナルペプチド」の同義語として使用される)は、宿主生物ゲノムに含まれる天然分泌シグナルではない。好ましい実施態様では、該分泌シグナルは、天然カゼイン分泌シグナルではないが、配列番号24を有しているpOst1-AMF分泌シグナル(J. J. Barrero, J. C. Casler, F. Valero, P. Ferrer, and B. S. Glick, “An improved secretion signal enhances the secretion of model proteins from Pichia pastoris,” Microb Cell Fact, vol. 17, no. 1, p. 161, Oct. 2018, doi: 10.1186/s12934-018-1009-5.に由来)、配列番号25若しくは26を有しているAMF分泌シグナル、及び以下に示される配列番号27を有しているキラー分泌シグナルから選択される。
【0045】
「アスパラギン酸プロテアーゼ(群)」すなわち(AP(群))又は「pfam00026アスパラギン酸プロテアーゼ(群)」という用語は同義語として使用され得るが、これは酸性プロテアーゼ(群)([intenz:3.4.23.-], https://enzyme.expasy.org/EC/3.4.23.-)を指し得、これは脊椎動物、真菌、植物、レトロウイルス、及びいくつかの植物ウイルスに存在することが知られている幅広く分布しているタンパク質分解酵素ファミリーである。APは、ペプチド結合を加水分解するためにアスパラギン酸ダイアドを使用する。
【0046】
真核細胞に見られるAPは、2つの非対称ローブ(「2葉(bilobed)」)から構成されるα/βモノマーである。各ローブは、特徴的なモチーフAsp-Thr/Ser-Gly内に位置する触媒性アスパラギン酸残基を活性部位に提供する。N末端及びC末端ドメインは、2回回転軸に構造的に関連しているが、活性部位の近傍を除いて、ほんの僅かな配列相同性しか有さない。このことは、古代の複製事象によって進化した酵素を示唆する。該酵素は、P1位及びP1’位の両方において疎水性残基を有する少なくとも6残基長を有する、ペプチド内の結合を特異的に切断する。活性部位は、2つのローブによって形成された溝に位置し、伸びたループが間隙の上に突き出して、11残基のフラップを形成し、これが活性部位内の基質及び阻害剤を囲む。特異性は、触媒のアスパラギン酸を囲む最近傍の疎水性残基によって、及びフラップ内の3つの残基によって決定される。酵素は大半が、不活性なプロ酵素として細胞から分泌され、これは酸性pHで自己触媒的に活性化される。真核細胞のAPは、クランAAのペプチダーゼファミリーA1を形成する。
【0047】
分泌シグナル(シグナル配列):
配列番号24pOst1-AMF
【化1】
【0048】
配列番号25_aMF、クルイベロマイセス・ラクティスの分泌シグナル(DNA)
【化2】
【0049】
配列番号26_aMFプレ配列、ピキア・パストリスの分泌シグナル(DNA)
【化3】
【0050】
配列番号27_キラータンパク質、サッカロマイセス・セレビシエの分泌シグナル(DNA)
【化4】
【0051】
配列番号31_α-アミラーゼのシグナル配列
【化5】
【0052】
配列番号32_グルコアミラーゼのシグナル配列
【化6】
【0053】
配列番号33_血清アルブミンのシグナル配列
【化7】
【0054】
配列番号34 イヌリナーゼのプレ配列
【化8】
【0055】
配列番号35 インベルターゼのシグナル配列
【化9】
【0056】
配列番号36 リゾチームのシグナル配列
【化10】
【0057】
本発明の脈絡において、前記プロモーターは、宿主生物においてポリヌクレオチドの翻訳を可能とする、任意のプロモーターであり得る。宿主細胞がクルイベロマイセス・ラクティスである場合、好ましいプロモーターは、配列番号27、PDC1、KIADH3、トリコデルマ・リーセイのCBH1又はLac4からなる群より選択される、構成性又は誘導性プロモーターである。該宿主細胞がピキア・パストリスである場合、該プロモーターは、Aox1、GAB、G1、DAS、FLD1、LRA3、THI11、TEF1又はGCW14からなる群より選択される構成性又は誘導性プロモーターであり得る。
【0058】
ピキア・パストリスについて、適切なプロモーターは、ADH3、pGAP、G1、又は最も好ましくは以下に示される配列を有しているpAOX1である。
【0059】
配列番号37 pAOX1
【化11】
【0060】
クルイベロマイセス・ラクティスについて、適切なプロモーターは、p350、pLAC4、又はPDC1、最も好ましくは以下の配列を有しているp350である。
【0061】
配列番号28_p350
【化12】
【0062】
転写終結因子は、宿主生物において転写を終結させることが知られている任意の転写終結因子であり得る。ピキア・パストリスについて、適切な転写終結因子は、CYC1tt又はAOX1ttである。クルイベロマイセス・ラクティスについて、適切な転写終結因子はpLAC4ttである。
【0063】
本発明の脈絡において、前記宿主生物は、2、3又は4つの異なるカゼインタンパク質を発現するように遺伝子工学操作されていてもよい。これらのカゼインタンパク質は、同じ生物に由来する天然カゼインタンパク質であっても、又は異なる生物に由来するものであってもよい。さらに、該カゼインタンパク質は、リン酸化模倣体であってもよく、ここでいくつかのセリン(S)又はトレオニン(T)残基は、グルタミン酸(E)又はアスパラギン(N)で置換されている。例えば、該カゼインタンパク質は、配列番号4、8、12又は16をそれぞれ有しているヌクレオチド配列によってコードされる、配列番号2、6、10又は14として示されるアミノ酸配列を有し得る。
【0064】
配列番号13、14又は19などのκカゼインをコードしているポリヌクレオチドを、α又はβカゼインをコードしているポリヌクレオチドと組み合わせることが特に好ましい。好ましい構築物は、以下の表1及び2に見られ得る。
【0065】
さらに、前記カゼインタンパク質がリン酸化模倣体ではない場合、該カゼインタンパク質は、配列番号23に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有し、カゼインタンパク質をリン酸化することのできる、hFAM20cなどのキナーゼと同時発現されてもよい。
【0066】
本発明の脈絡における「同時発現」という用語は、少なくとも2つのポリヌクレオチドが、少なくとも1つ、2つ又はそれ以上の発現カセットを使用して発現されることを意味する。場合によっては、少なくとも2つのポリヌクレオチドが、少なくとも1つのオープンリーディングフレームを有する1つの発現カセット上に存在する。
【0067】
本明細書において使用する「宿主細胞は、少なくとも2つ、少なくとも3つ、又は少なくとも4つの異なるカゼインタンパク質を産生するように遺伝子工学操作されている」という用語は、例えば複数の発現カセットから発現される(例えば2、3又は4つの発現カセットから発現される2、3、又は4つのκ-カゼイン)同じ種類の様々なカゼインタンパク質(例えばαS1、aS2、β又はκカゼイン)の同時発現、又は同じ種類のカゼインタンパク質のポリシストロン性発現(例えばポリシストロン性RNAから発現される2、3又は4つのκ-カゼイン)、及び例えば複数の発現カセットから発現される(例えば、αS1、αS2、β及び/又はκカゼインは、2、3又は4つの発現カセットから発現される)異なる種類の様々なカゼインタンパク質(例えばαS1、αS2、β及びκカゼイン)の同時発現、又は同じ種類のカゼインタンパク質のポリシストロン性発現(例えばポリシストロン性RNAから発現されるαS1、αS2、β及び/又はκカゼイン)を含む、少なくとも2つ、少なくとも3つ、又は少なくとも4つの異なるカゼインタンパク質を同時発現するように工学操作されている宿主細胞を指し得る。
【0068】
トリコデルマ・リーセイ、アスペルギルス・バデンシス及びアスペルギルス・ニガーなどの宿主生物では、少なくとも1つのカゼインは、アスペルギルス・ニデュランス(A.nidulans)gpdAプロモーター及びtrpC転写終結因子の制御下で、βカゼインに連結されたaMF分泌シグナル(例えば配列番号26又は27)並びに他の分泌シグナル(例えば配列番号31~36、又はglaA又はCBH2の分泌シグナル)、及びκカゼインに連結されたpOst1-aMF分泌シグナル(例えば配列番号24)又は他の分泌シグナル(glaA又はCBH2の分泌シグナル)と共に発現され得る。配列番号23に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有し、カゼインタンパク質をリン酸化することができるhFAM20cなどのキナーゼは、分泌シグナルを伴うことなく、アスペルギルス・ニデュランスのgpdAプロモーター及びtrpC転写終結因子を伴い、カゼインと同時発現された。
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
本発明の実施例では、前記宿主生物は、実施例に記載のようなクルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリスのいずれかである。
【0072】
組換え宿主生物の使用及びカゼインタンパク質を産生する方法
本発明はまた、少なくとも1つの関心対象のカゼインタンパク質を産生するための、組換え宿主細胞又は生物の使用に関する。
【0073】
具体的には、本発明は、
a.請求項1~15のいずれか一項に記載の組換え宿主生物において、分泌シグナルに連結された配列番号1、2、5、6、9、10、13又は14に対して70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有している少なくとも1つのカゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドを発現させる工程;及び
b.培養培地中に少なくとも1つのカゼインタンパク質の分泌を可能とするに十分な条件下で、培養培地中で宿主細胞又は生物を培養する工程
を含む、少なくとも1つの関心対象のカゼインタンパク質を産生する新規方法に関する。
【0074】
1つの態様では、工程(a)のカゼインタンパク質は、配列番号1、2、5、6、9、10、13若しくは14のいずれか1つに対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有している少なくとも1つの第二の異なるカゼインタンパク質と同時発現される、及び/又は、配列番号23に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているFAM20cキナーゼと同時発現される。
【0075】
本発明はまた、上記の方法によって産生されるカゼインタンパク質、具体的には、配列番号2、6、10、又は14のアミノ酸配列を有しているカゼインタンパク質にも関する。また、このようなカゼインを含んでいるミセル、及びこのようなカゼイン又はミセルを含んでいる食品などの組成物も包含される。
【0076】
さらに、本発明は、
(i)配列番号1、2、5、6、9、10、13又は14に対して少なくとも70%のアミノ酸同一率を有している少なくとも2つのカゼインタンパク質、及び配列番号23に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)のアミノ酸同一率を有している1つのFam20cキナーゼをコードしているポリヌクレオチドを宿主細胞ゲノムに組み込む工程(ここでのポリヌクレオチドは、配列番号24を有している異種分泌シグナルpOst1-aMF、及び配列番号28、37又は53~56を有しているプロモーターに連結され、ここでのポリヌクレオチドは、配列番号1、2若しくは17に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαS1、配列番号5若しくは6に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαS2、及び/又は配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号13、14若しくは19に対して70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκをコードしている)、
(ii)場合により、宿主細胞において、少なくとも2つのカゼインタンパク質、及び配列番号23に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有している1つのFam20cキナーゼを同時発現させる工程、及び
(iii)カゼインタンパク質の分泌を可能とする培養培地中で宿主細胞を培養する工程
を含む、組換えクルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリス宿主細胞からのカゼインの分泌法を提供する。
【0077】
1つの特定の態様では、組換えクルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリス宿主細胞からのカゼインの分泌を増加させる方法は、
a.少なくとも2つのカゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドを宿主細胞ゲノムに組み込む工程(ここでの、ポリヌクレオチドは、配列番号24を有している異種分泌シグナルpOst1-aMF及びプロモーターに連結され、ここでのポリヌクレオチドは、配列番号2に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαS1、配列番号6に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαS2、及び/又は配列番号10に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号14に対して70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκをコードしている)、
b.該宿主細胞において少なくとも2つのカゼインタンパク質を同時発現させる工程、及び
c.カゼインタンパク質の分泌を可能とする培養培地中で該宿主細胞を培養する工程
を含む。
【0078】
実施例は、クルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリスのための本発明の方法を記載する。公知の方法は、大腸菌又は糸状菌などの他の宿主細胞のためにも使用することができる。
【0079】
本明細書において使用する単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、内容からそうではないと明記されていない限り、複数の対象物も含むことが注記されなければならない。したがって、例えば、「1つの発現カセット」への言及は、本明細書に開示された1つ以上の発現カセットを含み、「その方法」への言及は、本明細書に記載の方法のために修飾又は置き換えることのできる、当業者には公知である等価な工程及び方法への言及も含む。
【0080】
本明細書及び以下の特許請求の範囲の全体を通して、内容からその他のものが必要とされない限り、「含む(comprise)」という単語、並びに「含む(comprises)」及び「含んでいる」などの変化形は、記載の整数若しくは工程、又は整数若しくは工程の群の包含を意味すると理解されるが、任意の他の整数若しくは工程、又は整数若しくは工程の群の除外を意味するものではないと理解されるだろう。本明細書において使用する「含んでいる」という用語は、「含有している」という用語で置き換えることができるか、又は時には本明細書において使用する場合には「有している」という用語で置き換えることができる。
【0081】
本明細書において使用する場合の「からなる」は、特許請求の範囲の要素に明記されていない任意の要素、工程、又は成分を除外する。本明細書において使用する「実質的にからなる」は、特許請求の範囲の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない、材料又は工程を除外しない。本明細書において各々の場合において、「含んでいる」、「本質的にからなる」及び「からなる」という用語のいずれも、他の2つの用語のいずれかと置き換えてもよい。
【0082】
本明細書において使用する「約」又は「およそ」という用語は、所与の数値又は範囲の20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内を意味する。それはまた、具体的な数字を含み、例えば約20は20を含む。
【0083】
本明細書においてそうでないと定義されない限り、本発明に関連して使用される科学用語及び技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するだろう。さらに、内容からそれ以外が必要とされない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含む。本発明の方法及び技術は一般的には、当技術分野において周知である従来の方法に従って実施される。一般的には、本明細書に記載の生化学、酵素学、分子細胞生物学、微生物学、遺伝子学、並びにタンパク質及び核酸化学、並びにハイブリダイゼーションの技術に関連して使用される命名法は、当技術分野において周知であり一般的に使用されているものである。
【0084】
本発明の方法及び技術は一般的には、特記されない限り、当技術分野において周知である従来の方法に従って、並びに、本明細書全体を通して引用及び考察されている様々な一般的な及びより専門的な参考文献に記載のように実施される。例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N. Y. (2001); Ausubel et al.、Current Protocols in Molecular Biology, J, Greene Publishing Associates (1992年、及び2002年までの補刊); Handbook of Biochemistry: Section A Proteins, Vol I 1976 CRC Press; Handbook of Biochemistry: Section A Proteins, Vol II 1976 CRC Press参照。本明細書に記載の分子細胞生物学、タンパク質生化学、酵素学、並びに医薬及び製薬化学に関連して使用される命名法、並びにその実験手順及び技術は、当技術分野において周知であり一般的に使用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0085】
図1-1】本発明のウシカゼインタンパク質のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列。
図1-2】本発明のウシカゼインタンパク質のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列。
図1-3】本発明のウシカゼインタンパク質のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列。
図1-4】本発明のウシカゼインタンパク質のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列。
図1-5】本発明のウシカゼインタンパク質のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列。
図2-1】存在し得るリン酸化模倣体部位に下線を引いている、様々な種に由来するカゼインのアラインメント。
図2-2】存在し得るリン酸化模倣体部位に下線を引いている、様々な種に由来するカゼインのアラインメント。
図2-3】存在し得るリン酸化模倣体部位に下線を引いている、様々な種に由来するカゼインのアラインメント。
図2-4】存在し得るリン酸化模倣体部位に下線を引いている、様々な種に由来するカゼインのアラインメント。
図3】1コピーのpOst1-aMF-κカゼインのゲノムへの挿入及びマルチコピーのaMF-κカゼインの挿入(2つ以上)を有するクルイベロマイセス・ラクティス株のSDS-PAGE分析。
図4】1コピーのpOst1-aMF-κカゼインのゲノムへの挿入及びマルチコピーのaMF-κカゼインの挿入(2つ以上)を有するクルイベロマイセス・ラクティス株のウェスタンブロット分析。
図5】配列表。
図6】プロテアーゼ欠損クルイベロマイセス・ラクティス株は、野生型クルイベロマイセス・ラクティス株と比較して少なくとも20倍多いκカゼインを産生する。各々の示された株に由来する類似した細胞数の培養上清に由来する試料を、SDS-PAGE及び抗κカゼイン抗体を用いた免疫検出(例えばウェスタンブロット)によって分析した。yRBT003は、野生型クルイベロマイセス・ラクティスである。
図7】κカゼインの収量における、様々な推定pfam00026アスパラギン酸プロテアーゼの欠失の効果。免疫検出分析(例えばウェスタンブロット)は、KLLA0D01507gの欠失を有するyRBT225株が、他の推定pfam00026アスパラギン酸プロテアーゼの欠失を有する株と比較して、最も高いκカゼイン収量を有することを示す。
図8】hFAM20cを伴い又は伴わずに、κカゼインがゲノムに組み込まれたクルイベロマイセス・ラクティス株の免疫検出分析(例えばウェスタンブロット)。κカゼインと同時発現されたhFAM20cを有する、yRBT225は、hFAm20cの同時発現を有さない、yRBT343と比較して2倍増加したκカゼインシグナルを示した。
図9A】質量分析による組換え産生されたκカゼインのリン酸化分析。A.κカゼインの配列、黄色での強調は、同定されたペプチド(54%の網羅率)であり、緑色はリン酸化によって修飾されたセリンである。B.同定されたペプチドのリスト、その同定確率スコア及び発見された修飾を伴い、青色での強調はリン酸化されている可能性のあるペプチドである。C.SCQAQPTTMARペプチド(配列番号38)のMS2フラグメンテーションのスペクトル。D.SCQAQPTTMARペプチド(配列番号38)のフラグメンテーションイオン表。
図9B】質量分析による組換え産生されたκカゼインのリン酸化分析。A.κカゼインの配列、黄色での強調は、同定されたペプチド(54%の網羅率)であり、緑色はリン酸化によって修飾されたセリンである。B.同定されたペプチドのリスト、その同定確率スコア及び発見された修飾を伴い、青色での強調はリン酸化されている可能性のあるペプチドである。C.SCQAQPTTMARペプチド(配列番号38)のMS2フラグメンテーションのスペクトル。D.SCQAQPTTMARペプチド(配列番号38)のフラグメンテーションイオン表。
図9C】質量分析による組換え産生されたκカゼインのリン酸化分析。A.κカゼインの配列、黄色での強調は、同定されたペプチド(54%の網羅率)であり、緑色はリン酸化によって修飾されたセリンである。B.同定されたペプチドのリスト、その同定確率スコア及び発見された修飾を伴い、青色での強調はリン酸化されている可能性のあるペプチドである。C.SCQAQPTTMARペプチド(配列番号38)のMS2フラグメンテーションのスペクトル。D.SCQAQPTTMARペプチド(配列番号38)のフラグメンテーションイオン表。
図9D】質量分析による組換え産生されたκカゼインのリン酸化分析。A.κカゼインの配列、黄色での強調は、同定されたペプチド(54%の網羅率)であり、緑色はリン酸化によって修飾されたセリンである。B.同定されたペプチドのリスト、その同定確率スコア及び発見された修飾を伴い、青色での強調はリン酸化されている可能性のあるペプチドである。C.SCQAQPTTMARペプチド(配列番号38)のMS2フラグメンテーションのスペクトル。D.SCQAQPTTMARペプチド(配列番号38)のフラグメンテーションイオン表。
図10】構成性TEF1プロモーターから発現されたκカゼイン。pTEF1-pOst1-aMF-κを有しているKLLA0D01507g欠失株の様々なクローンの免疫検出分析(例えばウェスタンブロット)。
図11】組換え産生されたβカゼインのホスファターゼによる処理。λホスファターゼは、hFAM20cと同時発現されたβ-カゼインのバンドシフトを誘導した。
図12】κカゼインの収量の増加が、KLLA0D01507gΔ及びpep4Δ二重プロテアーゼの欠失を有するyRBT387株において、ガラクトースによる誘導から24時間後に観察されたことを示す、ウェスタンブロット。
図13】実施例4及び5に関連した配列表。
【0086】
発明の項目
以下の項目はさらに本発明を特徴付ける:
1.少なくとも1つのカゼインタンパク質を発現するように遺伝子工学操作された組換え宿主細胞(ここでのカゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドは、宿主細胞ゲノムに組み込まれているか又はエピソームに維持され、異種分泌シグナル及びプロモーターに連結され、転写終結配列が続く)。
【0087】
2.前記宿主細胞は、少なくとも2つ、少なくとも3つ、又は少なくとも4つの異なるカゼインタンパク質を産生するように遺伝子工学操作されている、項目1の組換え宿主細胞。
【0088】
3.ポリヌクレオチドによってコードされるカゼインタンパク質は、配列番号1、2若しくは17のアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5若しくは6のアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、配列番号9、10若しくは18のアミノ酸配列を有しているカゼインβ、又は配列番号13、14若しくは19のアミノ酸配列を有しているカゼインκに対して少なくとも70%同一である、項目1又は2の組換え宿主細胞。
【0089】
4.前記宿主細胞は、配列番号1、2若しくは17に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5若しくは6に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、及び/又は配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号13、14若しくは19に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκを同時発現するように遺伝子工学操作されている、項目1~3のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0090】
5.前記カゼインのセリン又はトレオニンをコードしている1つ以上のヌクレオチドは、グルタミン酸又はアスパラギン酸をコードしているヌクレオチドで置換されている、項目1~4のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0091】
6.前記カゼインをコードしているポリヌクレオチドは、配列番号3、4、7、8、11、12、15、16、又は20~22からなる群より選択されるヌクレオチド配列を有する、項目1~5のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0092】
7.前記異種分泌シグナルは、カゼイン分泌シグナルではない、項目1~6のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0093】
8.前記宿主細胞は、生物、例えば細菌、酵母、又は糸状菌である、項目1~7のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0094】
9.前記生物は、好ましくは大腸菌及び枯草菌からなる群より選択される細菌、トリコデルマ・リーセイ、アスペルギルス・バデンシス、アスペルギルス・オリゼー、及びアスペルギルス・ニガーからなる群より選択される糸状菌、又は好ましくはクルイベロマイセス属、ピキア属、サッカロマイセス属、テトラヒメナ属、ヤロウィア属、ハンゼヌラ属、ブラストボトリ(Blastobotrys)属、カンジダ属、ザイゴサッカロマイセス属(Zygosaccharomyces)、及びデバリオマイセス(Debaryomyces)属の群から選択される酵母細胞であり、好ましくは該宿主細胞は、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyceslactis)又はピキア・パストリス(Pichia pastoris)である、項目8の組換え宿主細胞。
【0095】
10.前記宿主細胞は酵母細胞であり、前記異種分泌シグナルは、配列番号24を有しているpOst1-aMF、配列番号25若しくは26を有しているaMF、又は配列番号27を有しているキラータンパク質からなる群より選択される、項目9の組換え宿主細胞。
【0096】
11.前記宿主細胞は、クルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリスであり、好ましくは前記プロモーターは配列番号28又は配列番号37である、項目9又は10の組換え宿主細胞。
【0097】
12.a.前記宿主細胞はクルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリスであり;
b.前記異種分泌シグナルは、配列番号24を有しているpOst1-aMFであり;そして
c.該宿主細胞は、配列番号1、2若しくは17に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5若しくは6に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、及び/又は配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号13、14若しくは19に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκを同時発現するように遺伝子工学操作されている、項目9~11のいずれか一項の組換え宿主生物。
【0098】
13.少なくとも1つのカゼインタンパク質は、配列番号23に対して少なくとも70%の配列同一率を有しているFAM20cキナーゼと同時発現される、項目9~12のいずれか一項の組換え宿主生物。
【0099】
14.少なくとも1つのカゼインタンパク質を発現するように遺伝子工学操作された組換え宿主細胞であって、好ましくは前記の少なくとも1つのカゼインタンパク質は、配列番号13、14若しくは19のアミノ酸配列、又は配列番号13、14若しくは19に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκであり、ここでのカゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドは、宿主細胞ゲノムに組み込まれているか、又はエピソームに維持され、異種分泌シグナル及びプロモーターに連結され、転写終結配列が続き、ここでの該組換え宿主細胞はさらに:
i)キナーゼ(例えばセリン/トレオニンプロテインキナーゼ)、好ましくは配列番号23、40、41、若しくは42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している、及び/又は、EC:2.7.11.1(例えばhttps://enzyme.expasy.org/EC/2.7.11.1)を有している該キナーゼを同時発現するように遺伝子工学操作され;及び/又は
ii)1つ以上のプロテアーゼ、好ましくは配列番号39、43、44、45、46、47、48、49、50、51及び52からなる群より選択される、又は配列番号39、43、44、45、46、47、48、49、50、51若しくは52に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している1つ以上の該プロテアーゼの産生及び/又は機能(例えば、EC3.4.23.X酵素活性を有しているアスパラギン酸エンドペプチダーゼ、ここでのXは1~52から選択される(例えば、https://enzyme.expasy.org/EC/3.4.23.-))を該宿主細胞において完全に又は部分的に欠損させる、少なくとも1つの(例えば2つ又は3つの)プロテアーゼ欠損を含んでいる該宿主細胞であり;さらに好ましくは、該プロテアーゼはアスパラギン酸プロテアーゼであり(例えばEC3.4.23.Xを有しているアスパラギン酸エンドペプチダーゼ、ここでのXは1~52から選択される(例えばhttps://enzyme.expasy.org/EC/3.4.23.-))、最も好ましくは該アスパラギン酸プロテアーゼはpfam00026アスパラギン酸プロテアーゼであり(例えばhttps://pfam.xfam.org/family/PF00026)、さらに最も好ましくは該宿主細胞は、KLLA0D01507g遺伝子座(例えばUniProtアクセッション番号:Q6CSF3又は配列番号39を有している)の欠失を含んでいるクルイベロマイセス・ラクティス宿主細胞であり;
場合により、ここでの宿主細胞は、少なくとも2つ、少なくとも3つ、又は少なくとも4つの異なるカゼインタンパク質を産生するように遺伝子工学操作されている、
組換え宿主細胞。
【0100】
15.前記カゼインをコードしているポリヌクレオチドは、配列番号3、4、7、8、11、12、15、16、又は20~22からなる群より選択されるヌクレオチド配列を有する、項目1~14のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0101】
16.前記異種分泌シグナルは、カゼイン分泌シグナルではない、項目1~15のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0102】
17.前記宿主細胞は、生物、例えば細菌、酵母又は糸状菌であり、場合により該生物は、好ましくは大腸菌及び枯草菌からなる群より選択される細菌、トリコデルマ・リーセイ、アスペルギルス・バデンシス、アスペルギルス・オリゼー、及びアスペルギルス・ニガーからなる群より選択される糸状菌、又は好ましくはクルイベロマイセス属、ピキア属、サッカロマイセス属、テトラヒメナ属、ヤロウィア属、ハンゼヌラ属、ブラストボトリ属、カンジダ属、ザイゴサッカロマイセス属、及びデバリオマイセス属の群から選択される酵母細胞であり、好ましくは該宿主細胞は、クルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリスである、項目1~16のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0103】
18.前記宿主細胞は酵母細胞であり、前記異種分泌シグナルは、配列番号24を有しているpOst1-aMF、配列番号25若しくは26を有しているaMF、又は配列番号27を有しているキラータンパク質からなる群より選択される、項目1~17のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0104】
19.前記宿主細胞は、クルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリスであり、好ましくは前記プロモーターは配列番号28若しくは配列番号37又は配列番号53、54、55若しくは56である、項目1~18のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0105】
20.前記キナーゼは、配列番号23(hFAM20cキナーゼ)に対して少なくとも70%の配列同一率を有している、項目1~19のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0106】
21.前記宿主細胞は、配列番号39、43、44、45、46、47、48、49、50、51及び52からなる群より選択される1つ以上のプロテアーゼの産生及び/又は機能を該宿主細胞において完全に又は部分的に欠損させる、少なくとも1つ(例えば2つ又は3つ)のプロテアーゼ欠損を含んでいる、項目1~20のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0107】
22.配列番号1~56からなる群より選択される1つ以上の配列を含んでいる、及び/又は本明細書に示された任意の表(例えば本明細書の表1又は2又は3)に示されているような株/構築物のリストから選択された、項目1~21のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0108】
23.少なくとも1つのカゼインタンパク質を発現するように遺伝子工学操作された組換え宿主細胞であって、ここでのカゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドは、宿主細胞ゲノムに組み込まれているか、又はエピソームに維持され、そして異種分泌シグナル及びプロモーターに連結され、転写終結配列が続き、ここでの該組換え宿主細胞はさらに:
i)キナーゼ、好ましくは配列番号23、40、41若しくは42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は100%)の配列同一率を有している、及び/又は、EC:2.7.11.1セリン/トレオニンプロテインキナーゼ活性を有している該キナーゼを同時発現するように遺伝子工学操作され、好ましくは該キナーゼは、配列番号23(hFAM20cキナーゼ)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有し;及び/又は
ii)1つ以上のプロテアーゼ(例えばEC:3.4.23.X酵素活性を有するアスパラギン酸エンドペプチダーゼ、ここでのXは、1~52からなる群より選択される)、好ましくは配列番号39、43、44、45、46、47、48、49、50、51、及び52からなる群より選択されるか又は配列番号39、43、44、45、46、47、48、49、50、51、若しくは52に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している1つ以上の該プロテアーゼの産生及び/又は機能を該宿主細胞において完全に又は部分的に欠損させる、少なくとも1つの(例えば2つ又は3つの)プロテアーゼ欠損を含んでいる、自然に発生した又は遺伝子工学操作された該宿主細胞であり;さらに好ましくは、該プロテアーゼは、アスパラギン酸プロテアーゼであり、最も好ましくは該アスパラギン酸プロテアーゼは、pfam00026アスパラギン酸プロテアーゼであり、さらに最も好ましくは該宿主細胞は、KLLA0D01507g遺伝子座(例えばUniProtアクセッション番号:Q6CSF3又は配列番号39を有している)の欠失を含んでいるクルイベロマイセス・ラクティス宿主細胞であり;
好ましくは、a)前記の少なくとも1つのカゼインタンパク質は、配列番号13、14若しくは19のアミノ酸配列、又は配列番号13、14若しくは19に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有する、κ-カゼイン(カゼイン-κ)であり;及び/又は
b)前記の少なくとも1つのカゼインタンパク質は、配列番号9、10若しくは18のアミノ酸配列、又は配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有する、β-カゼイン(カゼイン-β)であり;
場合により、ここでの該宿主細胞は、少なくとも2つ、少なくとも3つ、又は少なくとも4つの異なるカゼインタンパク質を産生(例えば同時発現)するように遺伝子工学操作されている。
【0109】
24.ポリヌクレオチドによってコードされるカゼインタンパク質は、配列番号1、2若しくは17のアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5若しくは6のアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、配列番号9、10若しくは18のアミノ酸配列を有しているカゼインβ、又は配列番号13、14若しくは19のアミノ酸配列を有しているカゼインκに対して、少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であり、好ましくはここでの宿主細胞は、配列番号1、2若しくは17に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5若しくは6に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、及び/又は、配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号13、14若しくは19に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκを同時発現するように遺伝子工学操作されている、項目1~23のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0110】
25.前記カゼインのセリン又はトレオニンをコードしている1つ以上のヌクレオチドは、グルタミン酸又はアスパラギン酸をコードしているヌクレオチドで置換されている、項目1~24のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0111】
26.前記カゼインをコードしているポリヌクレオチドは、配列番号3、4、7、8、11、12、15、16、又は20~22からなる群より選択されるヌクレオチド配列を有する、項目1~25のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0112】
27.前記異種分泌シグナルは、カゼイン分泌シグナルではない、項目1~26のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0113】
28.前記宿主細胞は、生物、例えば細菌、酵母、又は糸状菌であり、場合により該生物は、好ましくは大腸菌及び枯草菌からなる群より選択される細菌、トリコデルマ・リーセイ、アスペルギルス・バデンシス、アスペルギルス・オリゼー、及びアスペルギルス・ニガーからなる群より選択される糸状菌、又は好ましくはクルイベロマイセス属、ピキア属、サッカロマイセス属、テトラヒメナ属、ヤロウィア属、ハンゼヌラ属、ブラストボトリ属、カンジダ属、ザイゴサッカロマイセス属、及びデバリオマイセス属の群から選択される酵母細胞であり、好ましくは該宿主細胞は、クルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリスである、項目1~27のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0114】
29.前記宿主細胞は酵母細胞であり、前記異種分泌シグナルは、配列番号24を有しているpOst1-aMF、配列番号25若しくは26を有しているaMF、又は配列番号27を有しているキラータンパク質、又は配列番号31、32、33、34、35若しくは36を有している分泌シグナルからなる群より選択される、項目1~28のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0115】
30.前記宿主細胞は、クルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリスであり、好ましくは該プロモーターは、配列番号28又は配列番号37又は配列番号53、54、55若しくは56である、項目1~29のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0116】
31.前記キナーゼは、配列番号23(hFAM20cキナーゼ)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有しているか、又は配列番号42(ウシカゼインキナーゼI)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している、項目1~30のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0117】
32.自然に発生した又は遺伝子工学操作された前記宿主細胞は、配列番号39、43、44、45、46、47、48、49、50、51及び52からなる群より選択される1つ以上のプロテアーゼの産生及び/又は機能を該宿主細胞において完全に又は部分的に欠損させる少なくとも1つの(例えば2つ又は3つの)プロテアーゼ欠損を含み、ここでの該プロテアーゼは、EC:3.4.23.X酵素活性を有しているアスパラギン酸エンドペプチダーゼであり、ここでのXは1~52からなる群より選択される、項目1~31のいずれか一項の組換え宿主細胞。
【0118】
33.a.前記宿主細胞は、クルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリスであり;
b.前記異種分泌シグナルは、配列番号24を有しているpOst1-aMF、又は配列番号25、26、27、31~36からなる群より選択される分泌シグナルであり;そして
c.該宿主細胞は、配列番号1、2若しくは17に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5若しくは6に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、及び/又は、配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号13、14若しくは19に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκを同時発現するように遺伝子工学操作されている、項目1~32のいずれか一項の組換え宿主生物。
【0119】
34.少なくとも1つの関心対象のカゼインタンパク質を製造するための項目1~33のいずれか一項の組換え宿主細胞の使用であって、好ましくは前記の少なくとも1つの関心対象のタンパク質はκ-カゼイン及び/又はβ-カゼインである、使用。
【0120】
35.少なくとも1つの関心対象のカゼインタンパク質を製造するための項目1~34のいずれか一項の組換え宿主細胞の使用であって、好ましくは前記の少なくとも1つの関心対象のタンパク質はκ-カゼインである、使用。
【0121】
36.a.項目1~35のいずれか一項記載の組換え宿主細胞において、分泌シグナルに連結された、配列番号1、2、5、6、9、10、13又は14に対して70%同一であるアミノ酸配列を有する、少なくとも1つのカゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドを発現させる工程、
b.培養培地中への少なくとも1つのカゼインタンパク質の分泌を可能とするに十分な条件下で、培養培地中で該宿主細胞を培養する工程
を含み、場合により、ここでは:
c.工程(a)のカゼインタンパク質は、配列番号1、2、5、6、9、10、13若しくは14のいずれか1つに対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有している少なくとも1つの第二のカゼインタンパク質と同時発現している、及び/又は、配列番号23、40、41若しくは42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているキナーゼを同時発現している、
少なくとも1つの関心対象のカゼインタンパク質を産生する方法であって、好ましくは前記の少なくとも1つの関心対象のタンパク質は、κ-カゼインである、方法。
【0122】
37.a.項目1~36のいずれか一項記載の組換え宿主細胞において、分泌シグナルに連結された、配列番号1、2、5、6、9、10、13又は14に対して70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有する、少なくとも1つのカゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドを発現させる工程;
b.培養培地中への少なくとも1つのカゼインタンパク質の分泌を可能とするに十分な条件下で、培養培地中で該宿主細胞を培養する工程
を含み、場合により、ここでは:
c.工程(a)のカゼインタンパク質は、配列番号1、2、5、6、9、10、13若しくは14のいずれか1つに対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有している少なくとも1つの第二のカゼインタンパク質を同時発現している、及び/又は、配列番号23、40、41若しくは42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率であるアミノ酸配列を有しているキナーゼを同時発現しており、好ましくは該キナーゼは、配列番号23(hFAM20cキナーゼ)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有しているか、又は配列番号42(ウシカゼインキナーゼI)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している、
少なくとも1つの関心対象のカゼインタンパク質を産生する方法であって、好ましくは前記の少なくとも1つの関心対象のタンパク質はκ-カゼイン及び/又はβ-カゼインである、方法。
【0123】
38.少なくとも1つの関心対象のカゼインタンパク質を製造するための、項目1~37のいずれか一項の組換え宿主細胞の使用。
【0124】
39.a.項目1~15のいずれか一項記載の組換え宿主細胞において、分泌シグナルに連結された、配列番号1、2、5、6、9、10、13又は14に対して70%同一であるアミノ酸配列を有する、少なくとも1つのカゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドを発現させる工程;
b.培養培地中への少なくとも1つのカゼインタンパク質の分泌を可能とするに十分な条件下で、培養培地中で該宿主細胞を培養する工程
を含む、少なくとも1つの関心対象のカゼインタンパク質を産生する方法。
【0125】
40.工程(a)のカゼインタンパク質は、配列番号1、2、5、6、9、10、13若しくは14のいずれか1つに対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有している少なくとも1つの第二のカゼインタンパク質と同時発現される、及び/又は、配列番号23に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているFAM20cキナーゼと同時発現される、項目39の方法。
【0126】
41.項目1~40のいずれか一項の方法によって産生されるカゼインタンパク質。
【0127】
42.配列番号2、6、10又は14のアミノ酸配列を有しているカゼインタンパク質。
【0128】
43.項目1~42のいずれか一項記載の1つ又はいくつか又はそれ以上のカゼインタンパク質を含んでいるミセル。
【0129】
44.項目1~43のいずれか一項のカゼインタンパク質又は項目1~43のいずれか一項のミセルを含んでいる組成物。
【0130】
45.a.配列番号1、2、5、6、9、10、13、又は14に対して少なくとも70%のアミノ酸同一率を有している少なくとも2つのカゼインタンパク質、及び配列番号23に対して少なくとも70%のアミノ酸同一率を有している1つのFam20cキナーゼをコードしているポリヌクレオチドを、宿主細胞ゲノムに組み込む工程(ここでのポリヌクレオチドは、配列番号24を有している異種分泌シグナルpOst1-aMF、及び配列番号28、37、又は53~56を有しているプロモーターに連結され、ここでのポリヌクレオチドは、配列番号1、2若しくは17に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαS1、配列番号5若しくは6に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαS2、及び/又は、配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号13、14若しくは19に対して70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκをコードしている)、
b.場合により、少なくとも2つのカゼインタンパク質、及び配列番号23に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有している1つのFam20cキナーゼを該宿主細胞において同時発現させる工程、そして
c.カゼインタンパク質の分泌を可能とする培養培地中で該宿主細胞を培養する工程、
を含む、組換えクルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリス宿主細胞からのカゼインの分泌を増加させる方法。
【0131】
46.a.少なくとも2つのカゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドを宿主細胞ゲノムに組み込む工程(ここでのポリヌクレオチドは、配列番号24を有している異種分泌シグナルpOst1-aMF及びプロモーターに連結され、ここでのポリヌクレオチドは、配列番号2に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαS1、配列番号6に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαS2、及び/又は、配列番号10に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号14に対して70%同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκをコードしている)、
b.宿主細胞(例えば本発明に記載の)において少なくとも2つのカゼインタンパク質を同時発現させる工程、及び
c.カゼインタンパク質の分泌を可能とする培養培地中で該宿主細胞を培養する工程
を含む、組換えクルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリス宿主細胞からのカゼインの分泌を増加させる方法。
【0132】
47.a.配列番号1、2、5、6、9、10、13、又は14に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)のアミノ酸同一率を有している少なくとも2つのカゼインタンパク質及びキナーゼ(ここでの該キナーゼは、配列番号23、40、41若しくは42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している、及び/又はEC:2.7.11.1セリン/トレオニンプロテインキナーゼ活性を有している)をコードしているポリヌクレオチドを、宿主細胞ゲノムに組み込む工程(好ましくは、該キナーゼは、配列番号23(hFAM20cキナーゼ)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有しているか、又は配列番号42(ウシカゼインキナーゼI)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有し;ここでのポリヌクレオチドは、配列番号24を有している異種分泌シグナルpOst1-aMF、又は配列番号25、26、27、31~36からなる群より選択される分泌シグナルに;及び配列番号28、37、53、54、55若しくは56を有しているプロモーターに連結され、ここでのポリヌクレオチドは、配列番号1、2若しくは17に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5若しくは6に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、及び/又は、配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号13、14若しくは19に対して70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκをコードしている)、
b.場合により、少なくとも2つのカゼインタンパク質及びキナーゼ(配列番号23、40、41若しくは42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している、及び/又は、EC:2.7.11.1セリン/トレオニンプロテインキナーゼ活性を有し、好ましくは配列番号23(hFAM20cキナーゼ)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有しているか、又は配列番号42(ウシカゼインキナーゼI)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している該キナーゼ)を該宿主細胞において同時発現させる工程、そして
c.カゼインタンパク質の分泌を可能とする培養培地中で該宿主細胞を培養する工程、
を含む、組換えクルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリス宿主細胞からのカゼインの分泌を増加させる方法。
【0133】
実施例
以下の実施例は、本発明を説明するが、本発明の範囲を限定すると捉えられるべきではない。
【0134】
実施例1:組換えクルイベロマイセス・ラクティスの産生
酵母株:NEB(E1000S)由来のクルイベロマイセス・ラクティス
【表4】
【0135】
【表5】
【0136】
ベクターの構築、酵母の形質転換並びに発現試験は、製造業者の説明書に従って実施される。
【0137】
ピキアに類似したクルイベロマイセス・ラクティスの同時発現戦略は、野生型カゼイン(群)の(同時)発現の場合を除いて、分泌シグナルを伴わないhFAM20cキナーゼは、カゼインと同じゲノム遺伝子座に組み込まれる。キナーゼの発現は誘導性である。
【0138】
ありとあらゆるカゼイン(野生型又はリン酸化模倣体)が、pKLAC2ベクターにクローニングされるだろう。それ故、1つ1つのカゼインは、それ自体のpLAC4プロモーター(配列番号56)を有し、これは誘導性発現及び相同的組換えに必要とされる。同時発現は、複数の鎖状化pKLAC2ベクターの同時形質転換によって達成されるだろう。複数のカゼインが、相同的組換えによってゲノムLAC4遺伝子座に組み込まれるだろう。ピキア同時発現系と比較して、2Aペプチドリンカーは、クルイベロマイセス・ラクティスにおいて必要とされない。
【0139】
1.1.クルイベロマイセス・ラクティスの電気穿孔
SANCHEZ et al. 1993(M. Sanchez, F. J. Iglesias, C. Santamaria及びA. Dominguez, “Transformation of Kluyveromyces lactis by Electroporation,” Appl Environ Microbiol, vol. 59, no. 7, pp. 2087-2092, Jul. 1993)及びWesolowski-Louvel 2011(Wesolowski-Louvel, “An efficient method to optimize Kluyveromyces lactis gene targeting,” FEMS Yeast Res, vol. 11, no. 6, pp. 509-513, Sep. 2011)から適応させる。
【0140】
・クルイベロマイセス・ラクティスの一晩の前培養液を、50mLのYPDで0.2の吸光度(600nm)となるまで希釈し、0.8~1.0の吸光度となるまで増殖させた。
・2.細胞を4℃で3000g、5分間でペレット化し、その後、等容量の氷冷蒸留水で洗浄した。
・3.ペレット化した細胞を、2mLの前処理緩衝液中に再度懸濁した:25mMのジチオトレイトール及び20mMのHEPES(pH8.0)を含有しているYPD。
・4.30℃で30分間インキュベートする。
・5.細胞を再度ペレット化し、10mLの氷冷電気穿孔用緩衝液で洗浄する:10mMのトリス-HCl(pH7.5)、270mMのショ糖、1mMのMgCl
・6.100μLのそれぞれの氷冷電気穿孔用緩衝液中にペレットを再度懸濁する。
・7.50μLのエレクトロコンピテント細胞を、カラムで精製したSacII消化pKLAC2ベクター(群)(各々1.0μg)+1μLのサケ精子一本鎖DNAと混合する。
・8.電気穿孔法計画:2mmのキュベット、1.0Kvの測定:5.6~6.0ミリ秒。
・9.パルス後、1mLの冷YPDを細胞に加え、懸濁液を培養チューブに戻し、氷上に5分間保持し、その後、30℃でインキュベートする。
・10.1時間後に30℃で回収した後、50μLから300μLの各々の形質転換回収培養液をYCB+5mMのアセトアミドプレート上に蒔く。
・11.直径1~2mmのコロニーが出現するまで、30℃で3~5日間プレートをインキュベートする。(注記:クルイベロマイセス・ラクティスは、選択培地上での形質転換されていない細胞の最小限の増殖を可能とするであろう弱活性の天然のアセトアミドを含有しているので、陰性クローンのバックグラウンドが存在するだろう)。
・12.その後、YCB+5mMのアセトアミドプレートのコロニーを、YCB+5mMのアセトアミドプレート上に再度画線塗付して、1つのコロニーを単離し、その後、ゲノムへの組み込みの確認のために酵母コロニーPCRを行なった。
【0141】
1.2 ゲノムへの組み込みを確認するためのクルイベロマイセス・ラクティスのコロニーPCR
1つのコロニーを10μLの滅菌水に溶解し、1μLのクルイベロマイセス・ラクティス細胞懸濁液を、PCR鋳型溶液として使用した。残りの細胞を使用して、マスタープレート、並びにグリセロールストック及び発現試験のための液体培養液を作成した。
【0142】
関心対象の遺伝子の増幅を、キットに含まれるプライマー、又はカゼイン遺伝子特異的プライマーのいずれかを用いて実施する。
【0143】
実施例2:組換えピキア・パストリスの産生
ピキア株:サーモフィッシャー社製のピキアPink(PichiaPink)(A11150)
【0144】
【表6】
【0145】
同時発現の組合せ:
【表7】
【0146】
ベクターの構築、酵母の形質転換、並びに発現試験は、公知のプロトコールに従って実施されるだろう。
【0147】
野生型カゼイン(群)の(同時)発現を達成するために、hFAM20cキナーゼを、GAP1遺伝子座に組み込むことにより、構成性発現を達成した。その後、1つの野生型カゼイン(天然シグナルペプチドを含まない)又は2Aペプチドリンカー(群)を有する複数の野生型カゼインを、pPINK-HCベクターにクローニングする。2Aリンカー(群)と共に1つのカゼイン又は複数のカゼインを発現している鎖状化ベクターを、続いて、誘導性分泌のために、AOX1遺伝子座に組み込むことができる。分泌プロセスを最適化するために、様々な分泌シグナルが試験されるだろう。
【0148】
pOSt1-aMF
配列番号24
【化13】
【0149】
リンカー2Aペプチド配列
配列番号29/30
T2A_1
【化14】

T2A_2
【化15】
【0150】
誘導性分泌カゼイン突然変異体(群)の場合、1つの突然変異体カゼイン(天然シグナルペプチドを含まない)又は複数の突然変異体カゼインを、2Aペプチドリンカー(群)と共に、誘導性分泌のためにAOX1遺伝子座に組み込むことができる。分泌プロセスを最適化するために、様々な分泌シグナルが試験されるだろう。
【0151】
2.1 ピキアの電気穿孔
・50mlのピキア株(X-33、GS115、又はピキアPINK)培養液を、YPD中で30℃で良好な通気の下で、0.2の吸光度から1~2の吸光度(600nm)となるまで増殖させた。
・その後、培養液に、1mlの1.0MのNa+HEPES(pH8.0)及び1mlの1.0Mのジチオトレイトールを補充し、インキュベーションを、30℃でさらに15分間続けた。
・該細胞を、冷却した50mlのファルコンチューブに移し、4000gで4℃で3分間遠心分離にかけ、50mlの氷冷二回蒸留水に再度懸濁した。この水での洗浄工程を繰り返し、その後、20mlの冷1.0Mのソルビトールでの洗浄を行なった。最後に、該細胞を、200μlの冷1.0Mのソルビトールに再度懸濁した。80μlのアリコートの酵母細胞を、5μlの低塩溶液中、0.1~1μgのDNAと混合した。この混合物を冷却した電気穿孔用キュベット(0.2cmのギャップ)に移し、1.5kV、25μF、200オーム(時定数5ミリ秒)に設定されたバイオラッド社のGene Pulserを用いてパルスをかけた。
・細胞懸濁液を、キュベットへの1mlの冷YPDS培地(YPD+1.0Mのソルビトール)を用いて直ちに希釈し、ピペッティングによって混合した。
・キュベット中の細胞を24℃~30℃で少なくとも2時間(12時間まで)振盪することなくインキュベートした。
・最後に、該細胞を、適切な選択プレート(これは1.0Mのソルビトールで補充されていてもよい)上に広げ、プレートを30℃で2~3日間、コロニーが出現するまでインキュベートした。
【0152】
2.2 ゲノムへの組み込みを確認するためのピキアコロニーPCR
1つのコロニーを10μLの滅菌水に溶解し、1μLのクルイベロマイセス・ラクティス細胞懸濁液を、PCR鋳型溶液として使用した。残りの細胞を使用して、マスタープレート、並びにグリセロールストック及び発現試験のための液体培養液を作成した。
【0153】
pPINKプラスミドの組み込まれたピキアPINK株
関心対象の遺伝子の増幅が、キットに含まれる3’CYC1逆方向プライマーと対を形成した、5’AOX1正方向プライマー(pPink-HC、pPink―LC及びpPinkα-HC)又はα因子正方向プライマー(pPinkα-HCのみ)のいずれかを用いて実施される。
【0154】
pGAPプラスミドの組み込まれたX-33株
関心対象の遺伝子の増幅は、pGAP正方向プライマー及びAOX1転写終結因子逆方向プライマーのいずれかを使用して実施される。
【0155】
pPINKプラスミドの組み込まれたX-33株
関心対象の遺伝子の増幅は、pAOX1正方向プライマー及びAOX1転写終結因子逆方向プライマーを使用して実施される。
【0156】
実施例3:κカゼイン発現
配列番号16のアミノ酸をコードしている核酸のpOst1-aMF-κカゼインのゲノムへの1回の挿入、又はaMF-κカゼインの複数回の挿入を有する、クルイベロマイセス・ラクティス株を、YPD培地中で増殖させ、その後、誘導培地、すなわち、2%のガラクトースの補充されたYP培地中で0.2の吸光度(600nm)となるまで希釈した。培養液を、72時間、120又は240rpmで、バッフル付き又はバッフルの付いていない振盪フラスコ中でインキュベートした。ガラクトースのフィーディングを、16時間、24時間、40時間及び48時間の培養時間後に加えた。培養上清を収集し、SDS-PAGEによって分析し、その後、抗κカゼインウェスタンブロットを実施した。κカゼインのシグナルを、乳汁標準物質との比較によって定量した。
【0157】
結果
・グリコシル化
ウェスタンブロット分析(図4)により、pOst1-pOst1-aMF-κカゼイン構築物から発現及び分泌されたκカゼインが、aMF-κカゼイン構築物からのものよりもゆっくりと移動することが判明した。これは、前者の構築物におけるより高いレベル又は一様ではないグリコシル化パターンの結果であり得る。
・培養条件
培養条件の点では、20℃のインキュベーション温度(30℃より良好、データは示されていない)、240rpmの振盪速度、及びバッフル付振盪フラスコの使用の組合せが最善の結果を与えるようであった。
・収量及びクローンのばらつき
最善の培養条件下で、異なるクローンに由来するpOst1-aMF―κカゼインの収量を、以下の表に列挙する。
【0158】
【表8】
【0159】
SDS-PAGE分析(図3)に示されているように、aMF-κカゼインCl.1試料は、他の全ての試料と比較して、ローディングされたタンパク質の全量の半分しか有さなかった。同じ量の全タンパク質が負荷されていれば、このクローンは、aMF-κカゼインCl.3と比較してより高いκ突然変異体の収量を有する可能性がある。
【0160】
分析されたクローンにおけるpOst1-aMF及びaMF分泌シグナルから産生されたκカゼインの量は、同じ範囲内にあり、すなわち約0.25g/Lである。重要なことには、pOst1-aMF-κカゼイン組換え生物は、1つのコピーの挿入を有するが、aMF-κ組換え生物は複数のコピー(2つ以上)の挿入を有する。したがって、本発明者らは、複数のコピーのpOst1-aMF-κカゼイン組換え生物と複数のコピーのaMF-κ組換え生物を比較した場合、本発明者らは、前者の構築物からより良好な収量を有するであろうと推測する。
【0161】
aMF-κカゼインCl.1とCl.3の間に示されたクローンのばらつきは、挿入コピー数の差の結果である可能性がある。
【0162】
実施例4:κ及びβカゼインの発現
1.κカゼインの発現
1.1 方法
1.1.1 細胞培養
ガラクトース誘導性構築物がゲノムに挿入されたクルイベロマイセス・ラクティス株を、YPD培地中で増殖させ、その後、誘導培地、すなわち、2%のガラクトースの補充された緩衝化されたYP培地中で0.4の吸光度となるまで希釈した。培養液を、25℃でバッフル付の振盪フラスコ中で240rmでインキュベートし、16時間及び20時間誘導した後にガラクトース含有フィードをフィードした。培養上清を収集し、SDS-PAGEによって分析し、その後、抗κカゼインの免疫検出を行なった。
【0163】
構成性プロモーターにより駆動される構築物がゲノムに挿入されたクルイベロマイセス・ラクティス株をYPD培地中で増殖させ、その後、緩衝化YPD培地で20分の1まで希釈した。培養液を、240rpmで25℃でインキュベートし、24時間の培養時間後に、グルコース含有フィードをフィードした。培養上清を収集し、SDS-PAGEによって分析し、その後、抗κカゼインの免疫検出を行なった。
【0164】
1.1.2 質量分析
yRBT225培養上清を、SDS-PAGE上で分離し、κカゼイン候補のバンドを切り出し、トリプシン及びGluCによるゲル内タンパク質消化にかけた。得られたペプチドを、Q-Exactive質量分析計に連結したnanoAcquityUPLCカラムに注入した。取得された質量分析データを、PEAKS Studio(バイオインフォマティック・ソルーションズ社)に移入し、データを、UniProt酵母プロテオーム及び予想される配列を含有しているデータベースを検索した。
【0165】
1.2 結果:
プロテアーゼ欠損株におけるκカゼイン収量の改善:
免疫検出分析(図6)により、κカゼインが、クルイベロマイセス・ラクティス野生型GG799バックグラウンド(yRBT067及びyRBT065)及びKLLA0D01507gの欠失を有する株(yRB-κ225)の両方における、ゲノムに組み込まれたpLAC4-pOst1-aMF-κ構築物から発現及び分泌されたことが判明した。顕著には、その野生型バックグラウンドの親株と比較して、yRBT225において分泌されたκカゼインは少なくとも20倍増加している。この株において増加したκカゼインの収量は、KLLA0D01507gによりコードされる推定pfam00026アスパルギン酸プロテアーゼ(配列番号39)の欠失に起因する可能性が高い。
【0166】
κカゼインの収量に対する、他の推定pfam00026アスパルギン酸プロテアーゼの欠失の効果も調べられた。図7は、Klyps1p(yRBT217)及びBar1p(yRBT232)などの他の推定pfam00026アスパラギン酸プロテアーゼの欠失を有する株と比較して、KLLA0D01507gの欠失を有する株(yRBT225)の方が、優れたκカゼイン収量を示す。
【0167】
hFAM20cキナーゼは、κカゼインの収量を改善する:
翻訳後修飾(PTM)はκカゼインの機能に重要であるので、本発明者らは、カゼインを特異的にリン酸化するhFAM20cとκカゼインを同時発現させた。興味深いことには、yRBT225におけるhFAM20cとκカゼインの同時発現により、hFAM20cの同時発現されていない株(yRBT343)と比較して、κカゼインの2倍の増加がもたらされた(図8)。
【0168】
κカゼインのリン酸化:
hFAM20cと同時発現させたκカゼインのリン酸化を確認するために、yRBT225株に由来するκカゼインを質量分析によって分析した。少なくとも1つのペプチドが、セリン上でリン酸化されていると同定された(図9B)。
【0169】
ゴルジ関連分泌経路キナーゼである、細胞外セリン/トレオニンキナーゼhFAM20cとは別に、他のキナーゼ、特にセリン/トレオニンプロテインキナーゼもまた、ウシ及びシゾサッカロマイセス・ポンベ(S.pombe)のカゼインキナーゼ2などのカゼインをリン酸化すると報告されている。
【0170】
構成性プロモーターによって駆動されるκカゼインの発現:
κカゼインは、構成性TEF1プロモーターから組換え産生された(図10)。本発明によって、hFAM20cがpTEF1により駆動されるκカゼインと同時発現される場合には、さらにより良好な収量を示すと考えられる。
【0171】
2.βカゼインの発現
2.1 方法
2.1.1 細胞培養及びホスファターゼによる処理
吸光度(80nm)で化学組成の規定された培地中で、0時間目及び24時間目に3%メタノールによって誘導された、24℃及び250rpmで48時間培養されたyRBT227の上清を、アセトンで沈降させた。沈降したペレットを水に再度懸濁し、3つの試料に分割した。最初の試料は、さらに処理しなかった。λホスファターゼ緩衝液を第二の試料に加え、37℃で30分間放置した。λホスファターゼ緩衝液及びλホスファターゼを、第三の試料に加え、37℃で30分間放置した。その後、試料を、SDS-PAGE上にローディングし、その後、ポリクローナル抗βカゼイン抗体を用いて免疫検出した。
【0172】
2.2 結果
hFAM20cを同時発現しているyRBT227に由来するβカゼインに対するホスファターゼの処理は、免疫検出分析においてバンドシフトを示し(図11)、このことは、βカゼインのリン酸化を示す。λホスファターゼによる処理前及び処理後のβカゼインを質量分析にかけ、実体を確認した(データは示されていない)。
【0173】
3.本発明の株のリスト
【表9】
【0174】
4.本発明の例示的な配列
4.1 本発明の例示的なキナーゼ
・CSNK2A1_ウシ(B. taurus)(カゼインキナーゼIIサブユニットα)配列番号40
【化16】
【0175】
・CSK2A_シゾサッカロマイセス・ポンベ(カゼインキナーゼII触媒サブユニットα)配列番号41
【化17】
【0176】
・CSNK1A1_ウシ(B. taurus)(カゼインキナーゼI)、配列番号42
【化18】
【0177】
4.2 本発明の例示的なプロテアーゼ
・Yps1p_クルイベロマイセス・ラクティス、配列番号43
【化19】
【0178】
・Yps1p_ピキア・パストリス、配列番号44
【化20】
【0179】
・Yps7p_クルイベロマイセス・ラクティス、配列番号45
【化21】
【0180】
・Yps7p_ピキア・パストリス、配列番号46
【化22】
【0181】
・KLLA0D01507g_クルイベロマイセス・ラクティス、配列番号47
【化23】
【0182】
・Bar1p_クルイベロマイセス・ラクティス、配列番号48
【化24】
【0183】
・Prb1_ピキア・パストリス、配列番号49
【化25】
【0184】
・Prb1_クルイベロマイセス・ラクティス、配列番号50
【化26】
【0185】
・Pep4_ピキア・パストリス、配列番号51
【化27】
【0186】
・Pep4_クルイベロマイセス・ラクティス、配列番号52
【化28】
【0187】
4.2 本発明の例示的な構成性又は誘導性プロモーター:
・pTEF1_クルイベロマイセス・ラクティス、配列番号53
【化29】
【0188】
・pPGK1_クルイベロマイセス・ラクティス、配列番号54
【化30】
【0189】
・pGAP1_クルイベロマイセス・ラクティス、配列番号55
【化31】
【0190】
・pLAC4_クルイベロマイセス・ラクティス、配列番号56
【化32】
【0191】
結論:
以下の実験結果は、とりわけ少なくとも以下の点において、特許請求の範囲を支持する:
-プロテアーゼの欠失と、少なくとも1つのカゼインとのhFAM20cキナーゼの同時発現の組合せは、カゼインの分泌を改善する;及び/又は
-少なくとも1つのカゼインとのhFAM20cキナーゼの同時発現により、カゼインタンパク質、例えばκカゼインのリン酸化が起こり、これは、質量分析による少なくとも1つのリン酸化部位で同定され、並びに、βカゼインの酵素的脱リン酸化により、免疫検出時のバンドシフトがもたらされる。
【0192】
実施例5:κカゼインの発現
追加のプロテアーゼの欠失(群)がさらに、κカゼイン及びhFAM20cを同時発現している、KLLA0D01507gの欠失した親株yRBT225において、κカゼインの収量を改善し得るかどうかを探索するために、3つの異なるプロテアーゼ(Bar1p、Prb1p及びPep4p)をそれぞれyRBT225において欠失させた。
【0193】
1.1 方法
Bar1、Prb1及びPep4をコードしている遺伝子を、それぞれ、標準的な手順を使用して、親yRBT225株において欠失させることにより、二重欠失株を作成した。カゼインを発現しているクルイベロマイセス・ラクティス株を標準的な手順に従って培養した。
【0194】
1.2 結果
κカゼインの収量は、二重プロテアーゼ欠失株においてさらに改善された(図12)。κカゼインの収量の定量が、二重プロテアーゼ欠失株yRBT387において実施された。親株と比較した収量の増加は19%であった。
【0195】
2.本発明の株のリスト
【表10】
【0196】
3.例示的な誘導性プロモーター:
・pLAC4_クルイベロマイセス・ラクティス(配列番号56)
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図10
図11
図12
図13
【配列表】
2024527193000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2023-09-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのカゼインタンパク質を発現するように遺伝子工学操作された組換え宿主細胞であって、該カゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドは、宿主細胞ゲノムに組み込まれているか又はエピソームに維持され、異種分泌シグナル及びプロモーターに連結され、転写終結配列が続き、ここでの該組換え宿主細胞はさらに
i)キナーゼ、好ましくは配列番号23、40、41若しくは42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は100%)の配列同一率を有している、及び/又は、EC:2.7.11.1セリン/トレオニンプロテインキナーゼ活性を有している該キナーゼを同時発現するように工学操作され、好ましくは該キナーゼは、配列番号23(hFAM20cキナーゼ)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している
ましくは、a)前記の少なくとも1つのカゼインタンパク質は、配列番号13、14若しくは19のアミノ酸配列、又は配列番号13、14若しくは19に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有する、κ-カゼイン(カゼイン-κ)であり;及び/又は
b)前記の少なくとも1つのカゼインタンパク質は、配列番号9、10若しくは18のアミノ酸配列、又は配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有する、β-カゼイン(カゼイン-β)であり;
場合により、ここでの宿主細胞は、少なくとも2つ、少なくとも3つ、又は少なくとも4つの異なるカゼインタンパク質を産生(例えば同時発現)するように遺伝子工学操作されている、組換え宿主細胞。
【請求項2】
ii)前記宿主細胞は、1つ以上のプロテアーゼ(例えばEC:3.4.23.X酵素活性を有するアスパラギン酸エンドペプチダーゼ、ここでのXは、1~52からなる群より選択される)、好ましくは配列番号39、43、44、45、46、47、48、49、50、51、及び52からなる群より選択されるか又は配列番号39、43、44、45、46、47、48、49、50、51、若しくは52に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している1つ以上の該プロテアーゼの産生及び/又は機能を該宿主細胞において完全に又は部分的に欠損させる、少なくとも1つの(例えば2つ又は3つの)プロテアーゼ欠損を含んでいる、自然に発生した又は遺伝子工学操作された該宿主細胞であり;さらに好ましくは、該プロテアーゼは、アスパラギン酸プロテアーゼであり、最も好ましくは該アスパラギン酸プロテアーゼは、pfam00026アスパラギン酸プロテアーゼであり、さらに最も好ましくは該宿主細胞は、KLLA0D01507g遺伝子座(例えばUniProtアクセッション番号:Q6CSF3又は配列番号39を有している)の欠失を含んでいるクルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)宿主細胞である、請求項1記載の組換え宿主細胞。
【請求項3】
ポリヌクレオチドによってコードされるカゼインタンパク質が、配列番号1、2若しくは17のアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5若しくは6のアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、配列番号9、10若しくは18のアミノ酸配列を有しているカゼインβ、又は配列番号13、14若しくは19のアミノ酸配列を有しているカゼインκに対して、少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であり、好ましくはここでの宿主細胞は、配列番号1、2若しくは17に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5若しくは6に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、及び/又は、配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号13、14若しくは19に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκを同時発現するように遺伝子工学操作されている、請求項1又は2記載の組換え宿主細胞。
【請求項4】
カゼインのセリン又はトレオニンをコードしているヌクレオチドの1つ以上が、グルタミン酸又はアスパラギン酸をコードしているヌクレオチドで置換されている、請求項1~3のいずれか一項記載の組換え宿主細胞。
【請求項5】
カゼインをコードしているポリヌクレオチドが、配列番号3、4、7、8、11、12、15、16、又は20~22からなる群より選択されるヌクレオチド配列を有する、請求項1~のいずれか一項記載の組換え宿主細胞。
【請求項6】
前記異種分泌シグナルが、カゼイン分泌シグナルではない、請求項1~のいずれか一項記載の組換え宿主細胞。
【請求項7】
前記宿主細胞が、生物、例えば細菌、酵母、又は糸状菌であり、場合により該生物は、好ましくは大腸菌(Escherichia coli)及び枯草菌(Bacillus subtilis)からなる群より選択される細菌、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)、アスペルギルス・バデンシス(Aspergillus vadensis)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、及びアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)からなる群より選択される糸状菌、又は好ましくはクルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、ピキア(Pichia)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、テトラヒメナ(Tetrahymena)属、ヤロウィア(Yarrowia)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、ブラストボトリ(Blastobotrys)属、カンジダ(Candida)属、ザイゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、及びデバリオマイセス(Debaryomyces)属の群から選択される酵母細胞であり、好ましくは該宿主細胞は、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyceslactis)又はピキア・パストリス(Pichia pastoris)である、請求項1~のいずれか一項記載の組換え宿主細胞。
【請求項8】
前記宿主細胞が酵母細胞であり、前記異種分泌シグナルが、配列番号24を有しているpOst1-aMF、配列番号25若しくは26を有しているaMF、又は配列番号27を有しているキラータンパク質、又は配列番号31、32、33、34、35若しくは36の配列を有している分泌シグナルからなる群より選択される、請求項記載の組換え宿主細胞。
【請求項9】
前記宿主細胞が、クルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリスであり、好ましくは該プロモーターが、配列番号28又は配列番号37又は配列番号53、54、55若しくは56である、請求項又は記載の組換え宿主細胞。
【請求項10】
前記キナーゼが、配列番号23(hFAM20cキナーゼ)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有しているか、又は配列番号42(ウシカゼインキナーゼI)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している、請求項1~のいずれか一項記載の組換え宿主細胞。
【請求項11】
自然に発生又は遺伝子工学操作された前記宿主細胞は、配列番号39、43、44、45、46、47、48、49、50、51及び52からなる群より選択される1つ以上のプロテアーゼの産生及び/又は機能を該宿主細胞において完全に又は部分的に欠損させる、少なくとも1つ(例えば2つ又は3つ)のプロテアーゼ欠損を含み、該プロテアーゼは、EC:3.4.23.X酵素活性を有しているアスパラギン酸エンドペプチダーゼであり、ここでのXは、1~52からなる群より選択される、請求項1~10のいずれか一項記載の組換え宿主細胞。
【請求項12】
a.前記宿主細胞が、クルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリスであり;
b.前記異種分泌シグナルが、配列番号24を有しているpOst1-aMF、又は配列番号25、26、27、31~36からなる群より選択される分泌シグナルであり;そして
c.該宿主細胞は、配列番号1、2若しくは17に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5若しくは6に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、及び/又は、配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号13、14若しくは19に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκを同時発現するように遺伝子工学操作されている、請求項1~11のいずれか一項記載の組換え宿主生物。
【請求項13】
少なくとも1つの関心対象のカゼインタンパク質を製造するための請求項1~11のいずれか一項記載の組換え宿主細胞の使用であって、好ましくは前記の少なくとも1つの関心対象のタンパク質は、κ-カゼイン及び/又はβ-カゼインである、使用。
【請求項14】
a.請求項1~13のいずれか一項記載の組換え宿主細胞において、分泌シグナルに連結された、配列番号1、2、5、6、9、10、13又は14に対して70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有する、少なくとも1つのカゼインタンパク質をコードしているポリヌクレオチドを発現させる工程、
b.培養培地中への少なくとも1つのカゼインタンパク質の分泌を可能とするに十分な条件下で、培養培地中で該宿主細胞を培養する工程
を含み、場合により、ここでは:
c.工程(a)のカゼインタンパク質は、配列番号1、2、5、6、9、10、13若しくは14のいずれか1つに対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有している少なくとも1つの第二のカゼインタンパク質と同時発現している、及び、配列番号23、40、41若しくは42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているキナーゼと同時発現し、好ましくは該キナーゼは、配列番号23(hFAM20cキナーゼ)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有しているか、又は配列番号42(ウシカゼインキナーゼI)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している、
少なくとも1つの関心対象のカゼインタンパク質を産生する方法であって、好ましくは前記の少なくとも1つの関心対象のタンパク質は、κ-カゼイン及び/又はβ-カゼインである、方法。
【請求項15】
a.配列番号1、2、5、6、9、10、13、又は14に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)のアミノ酸同一率を有している少なくとも1つの(例えば少なくとも2つの)カゼインタンパク質及びキナーゼをコードしているポリヌクレオチドを、宿主細胞ゲノムに組み込む工程、ここでの該キナーゼは、配列番号23、40、41若しくは42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している、及び/又はEC:2.7.11.1セリン/トレオニンプロテインキナーゼ活性を有しており、好ましくは該キナーゼは、配列番号23(hFAM20cキナーゼ)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有しているか、又は配列番号42(ウシカゼインキナーゼI)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有し;ここでのポリヌクレオチドは、配列番号24を有している異種分泌シグナルpOst1-aMF又は配列番号25、26、27、31~36からなる群より選択される分泌シグナルに;及び配列番号28、37、53、54、55若しくは56を有しているプロモーターに連結され、ここでのポリヌクレオチドは、配列番号1、2若しくは17に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs1、配列番号5若しくは6に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインαs2、及び/又は、配列番号9、10若しくは18に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインβと組み合わせて、配列番号13、14若しくは19に対して70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)同一であるアミノ酸配列を有しているカゼインκをコードしている、
.少なくとも1つの(例えば少なくとも2つの)カゼインタンパク質及びキナーゼを該宿主細胞において同時発現させる工程、ここでの該キナーゼは、配列番号23、40、41若しくは42に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している、及び/又はEC:2.7.11.1セリン/トレオニンプロテインキナーゼ活性を有しており、好ましくは該キナーゼは、配列番号23(hFAM20cキナーゼ)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有しているか、又は配列番号42(ウシカゼインキナーゼI)に対して少なくとも70%(例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%)の配列同一率を有している、そして
c.カゼインタンパク質の分泌を可能とする培養培地中で該宿主細胞を培養する工程を含む、
組換えクルイベロマイセス・ラクティス又はピキア・パストリス宿主細胞からのカゼインの分泌を増加させる方法。
【国際調査報告】