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特表2024-527197組換えCHO細胞、その構築方法、並びにそれを用いた検出システム及び方法
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  • 特表-組換えCHO細胞、その構築方法、並びにそれを用いた検出システム及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-23
(54)【発明の名称】組換えCHO細胞、その構築方法、並びにそれを用いた検出システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/16 20060101AFI20240716BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240716BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20240716BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240716BHJP
   C12N 15/86 20060101ALN20240716BHJP
   C12N 7/01 20060101ALN20240716BHJP
   C12N 7/02 20060101ALN20240716BHJP
   C07K 14/48 20060101ALN20240716BHJP
【FI】
C12N5/16 ZNA
C12Q1/02
C12N15/63 Z
C12N15/12
C12N15/86 Z
C12N7/01
C12N7/02
C07K14/48
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539313
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(85)【翻訳文提出日】2023-08-17
(86)【国際出願番号】 CN2021109763
(87)【国際公開番号】W WO2023004784
(87)【国際公開日】2023-02-02
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523237545
【氏名又は名称】チェンドゥ ユノヴェル バイオファーマ カンパニー リミテッド.
【氏名又は名称原語表記】CHENGDU UNOVEL BIOPHARMA CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.1, Floor 3, Building 1, No.366, North Section Of Hupan Road, Tianfu New District, China(Sichuan)Pilot Free Trade Zone, Chengdu, Sichuan,610000 China
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(72)【発明者】
【氏名】リ、ズシ
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ホン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、イン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA05
4B063QQ02
4B063QQ96
4B063QR72
4B063QR80
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BC01
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA21
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
組換えCHO細胞、その構築方法、組換えCHO細胞を含む検出システム及び組換えCHO細胞を用いた検出方法を提供する。組換えCHO細胞は、その細胞表面上にNGFを安定に発現し、ADCC効果の検出及びCDC効果の検出のための標的細胞として用いられ得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えCHO細胞であって、NGFが前記細胞の表面上に安定して発現される、組換えCHO細胞。
【請求項2】
前記NGFは、哺乳動物NGFである、請求項1に記載の組換えCHO細胞。
【請求項3】
前記NGFは、ヒトNGF、マウスNGF、ラットNGF、ウシNGF、ウマNGF又はブタNGFである、請求項1又は2に記載の組換えCHO細胞。
【請求項4】
前記NGFのアミノ酸配列は、配列番号1~配列番号3のいずれか1つに示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組換えCHO細胞。
【請求項5】
前記細胞のゲノムは、前記NGFの核酸配列と一体化される、請求項1~4のいずれか一項に記載の組換えCHO細胞。
【請求項6】
前記NGFの前記核酸配列は、配列番号4~配列番号6のいずれか1つに示される核酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組換えCHO細胞。
【請求項7】
前記細胞のゲノムは、連結されたNGF、ヒンジ領域及び膜貫通領域の核酸配列と一体化される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組換えCHO細胞。
【請求項8】
前記ヒンジ領域のアミノ酸配列は、3~100個のアミノ酸、好ましくは12~45個のアミノ酸を有する、請求項7に記載の組換えCHO細胞。
【請求項9】
前記膜貫通領域のアミノ酸配列は、10~60個のアミノ酸、好ましくは20~25個のアミノ酸を有する、請求項7又は8に記載の組換えCHO細胞。
【請求項10】
前記ヒンジ領域は、CD8ヒンジ領域又はヒトIgG1ヒンジ領域である、請求項7~9のいずれか一項に記載の組換えCHO細胞。
【請求項11】
前記CD8ヒンジ領域のアミノ酸配列は、配列番号7に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の組換えCHO細胞。
【請求項12】
前記CD8ヒンジ領域をコードする核酸配列は、配列番号9に示される核酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列を含む、請求項11に記載の組換えCHO細胞。
【請求項13】
前記ヒトIgG1ヒンジ領域のアミノ酸配列は、配列番号8に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の組換えCHO細胞。
【請求項14】
前記膜貫通領域は、CD8膜貫通領域、PGFRA膜貫通領域又はCD80膜貫通領域である、請求項7~13のいずれか一項に記載の組換えCHO細胞。
【請求項15】
前記CD8膜貫通領域のアミノ酸配列は、配列番号10に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項14に記載の組換えCHO細胞。
【請求項16】
前記CD8膜貫通領域をコードする核酸配列は、配列番号13に示される核酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列を含む、請求項15に記載の組換えCHO細胞。
【請求項17】
前記PGFRA膜貫通領域のアミノ酸配列は、配列番号11に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項14に記載の組換えCHO細胞。
【請求項18】
前記CD80膜貫通領域のアミノ酸配列は、配列番号12に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項14に記載の組換えCHO細胞。
【請求項19】
前記ヒンジ領域は、CD8ヒンジ領域であり、前記膜貫通領域は、CD8膜貫通領域、PGFRA膜貫通領域又はCD80膜貫通領域である、請求項7~18のいずれか一項に記載の組換えCHO細胞。
【請求項20】
前記ヒンジ領域は、ヒトIgG1ヒンジ領域であり、前記膜貫通領域は、CD8膜貫通領域、PGFRA膜貫通領域又はCD80膜貫通領域である、請求項7~18のいずれか一項に記載の組換えCHO細胞。
【請求項21】
前記連結されたNGF、ヒンジ領域及び膜貫通領域の前記核酸配列は、連結されたNGF、CD8ヒンジ領域及びCD8膜貫通領域の核酸配列である、請求項7~19のいずれか一項に記載の組換えCHO細胞。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか一項に記載の組換えCHO細胞の構築方法であって、
(1)連結されたNGF、ヒンジ領域及び膜貫通領域の核酸配列を発現ベクターにクローニングして、前記核酸配列を含む組換え発現ベクターを得ること;
(2)前記組換え発現ベクターをCHO細胞に導入して、前記組換えCHO細胞を得ることを
含む、方法。
【請求項23】
前記NGFは、哺乳動物NGFである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記NGFは、ヒトNGF、マウスNGF、ラットNGF、ウシNGF、ウマNGF又はブタNGFである、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記NGFのアミノ酸配列は、配列番号1~配列番号3のいずれか1つに示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項22~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記NGFの核酸配列は、配列番号4~配列番号6のいずれか1つに示される核酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列を含む、請求項22~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記ヒンジ領域のアミノ酸配列は、3~100個のアミノ酸、好ましくは12~45個のアミノ酸を有する、請求項22~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記膜貫通領域のアミノ酸配列は、10~60個のアミノ酸、好ましくは20~25個のアミノ酸を有する、請求項22~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記ヒンジ領域は、CD8ヒンジ領域又はヒトIgG1ヒンジ領域である、請求項22~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記CD8ヒンジ領域のアミノ酸配列は、配列番号7に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記CD8ヒンジ領域をコードする核酸配列は、配列番号9に示される核酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記ヒトIgG1ヒンジ領域のアミノ酸配列は、配列番号8に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記膜貫通領域は、CD8膜貫通領域、PGFRA膜貫通領域又はCD80膜貫通領域である、請求項22~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記CD8膜貫通領域のアミノ酸配列は、配列番号10に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記CD8膜貫通領域をコードする核酸配列は、配列番号13に示される核酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記PGFRA膜貫通領域のアミノ酸配列は、配列番号11に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記CD80膜貫通領域のアミノ酸配列は、配列番号12に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
前記ヒンジ領域は、CD8ヒンジ領域であり、前記膜貫通領域は、CD8膜貫通領域、PGFRA膜貫通領域又はCD80膜貫通領域である、請求項22~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記ヒンジ領域は、ヒトIgG1ヒンジ領域であり、前記膜貫通領域は、CD8膜貫通領域、PGFRA膜貫通領域又はCD80膜貫通領域である、請求項22~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記連結されたNGF、ヒンジ領域及び膜貫通領域の前記核酸配列は、連結されたNGF、CD8ヒンジ領域及びCD8膜貫通領域の核酸配列である、請求項22~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記発現ベクターは、レンチウイルス発現ベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ポックスウイルスベクター又は単純ヘルペスウイルスベクターである、請求項22~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記発現ベクターは、Lenti-CMV-puroレンチウイルス発現ベクター、pCDHシリーズのレンチウイルス発現ベクター、又はpLentiシリーズのレンチウイルス発現ベクターである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
工程(2)において、前記組換え発現ベクター及びウイルスパッケージングプラスミドが、パッケージング細胞にコトランスフェクトされ、培養後、前記核酸配列を含むウイルスが調製され、次いで、前記ウイルスが使用されて、前記CHO細胞がトランスフェクトされ、前記組換えCHO細胞が得られる、請求項22~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記ウイルスパッケージングプラスミドは、pMD2.G、psPAX2、Lenti-packaging Mix、pCMV-dR8.91、pCMV-dR8.74、pLP1、pLP2、又はpVSV-Gである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記パッケージング細胞は、293T細胞又は293FT細胞である、請求項43又は44に記載の方法。
【請求項46】
抗体のADCC効果の検出システムであって、
請求項1~21のいずれか一項に記載の組換えCHO細胞、及び
エフェクター細胞、
を含むシステム。
【請求項47】
前記エフェクター細胞は、エフェクターT細胞、NK細胞、食細胞、好酸球、好塩基球又は肥満細胞である、請求項46に記載のシステム。
【請求項48】
前記エフェクター細胞は、Jurkat-NFAT-ルシフェラーゼ-CD16細胞又はプライマリNK細胞である、請求項47に記載のシステム。
【請求項49】
前記エフェクター細胞の前記組換えCHO細胞に対するエフェクター-ターゲット数量比は、1:1~1:20である、請求項46~48のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項50】
前記システムは、ルシフェラーゼ基質をさらに含む、請求項46~49のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項51】
抗体のCDC効果の検出システムであって、
請求項1~21のいずれか一項に記載の組換えCHO細胞、及び
補体、
を含むシステム。
【請求項52】
前記補体は、補体タンパク質C1~C9を含む補体血清である、請求項51に記載のシステム。
【請求項53】
前記システムは、ルシフェラーゼ基質をさらに含む、請求項51又は52に記載のシステム。
【請求項54】
抗体のADCC効果又はCDC効果の検出における、請求項1~21のいずれか一項に記載の組換えCHO細胞の使用。
【請求項55】
抗体のADCC効果の検出方法であって、標的細胞としての請求項1~21のいずれか一項に記載の組換えCHO細胞を、検出される前記抗体及びエフェクター細胞と共に、共インキュベーションを行うことを含む、方法。
【請求項56】
前記エフェクター細胞の前記標的細胞に対するエフェクター-ターゲット数量比は、1:1~1:20である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記方法は、共インキュベーション後に、ルシフェラーゼ基質を前記システムに添加することをさらに含む、請求項55又は56に記載の方法。
【請求項58】
抗体のCDC効果の検出方法であって、標的細胞としての請求項1~21のいずれか一項に記載の組換えCHO細胞を、検出される前記抗体及び補体と共に、共インキュベーションを行うことを含む、方法。
【請求項59】
前記補体は、補体タンパク質C1~C9を含む補体血清である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記方法は、共インキュベーション後に、ルシフェラーゼ基質を前記システムに添加することをさらに含む、請求項58又は59に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、免疫効果検出の分野に属し、具体的には、組換えCHO細胞、組換えCHO細胞の構築方法、並びに該細胞を用いた抗体のADCC効果及びCDC効果を検出するための検出システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ADCC(抗体依存性細胞介在性細胞傷害)は、抗体がFabセグメントを介して標的細胞の表面上の抗原決定基に特異的に結合した後、そのFcセグメントが、FcγRを有するエフェクター細胞に結合し、エフェクター細胞の死滅活性を誘発して標的細胞を直接死滅させることを指す。ADCC効果は、身体の抗感染及び抗腫瘍のための重要な免疫機構である。ADCCに関与するエフェクター細胞としては、主に、ナチュラルキラー(NK)細胞、食細胞、好酸球、好塩基球及び肥満細胞(マスト細胞)などが挙げられる。
【0003】
CDC(補体依存性細胞傷害)は、補体が関与する細胞傷害効果、すなわち、複合体が形成されて、細胞膜の表面上の対応する抗原への特異的抗体の結合を介して補体の古典経路を活性化することを指す。補体タンパク質C1qは、最初に補体の古典経路を開始し、次いで補体タンパク質C2~C9が活性化されて膜攻撃複合体(MAC)を形成し、これが標的細胞に溶解効果を及ぼす。
【0004】
腫瘍免疫におけるADCC効果及びCDC効果の重要な役割を考慮して、抗腫瘍抗体の現在の開発において、多くの研究者は、抗体構造の特定の設計を通じて改善されたADCC効果及びCDC効果を得ることを期待している。しかしながら、他の種類の抗体の開発において、抗体媒介ADCC効果及びCDC効果は、必ずしも所望されない。
【0005】
神経成長因子(NGF)は、神経栄養因子の中で最も早く発見されたものであり、新皮質及び海馬の位置で産生され、2つのαサブユニット、1つのβサブユニット及び2つのγサブユニットからなり、中枢及び末梢ニューロンの成長、発達、分化及び成熟を促進し、神経系の正常な機能を維持し、損傷後の神経系への修復を促進することができる。現在、組換えNGFは、種々のニューロパチー及び神経損傷の処置において主に使用されている。
【0006】
チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)は、哺乳動物細胞の最も広く使用されている発現系の1つであり、良好な翻訳後プロセシング能力を有し、その結果、発現産物はその天然の構造及び活性を維持することができる。現在、CHOは、NGFを発現し、組換えNGFを細胞外に分泌するために使用されており、したがって、NGFは、大規模に製造されて、得られ得る(例えば、Xu L et al.,Expression,purification,and characterization of recombinant mouse nerve growth factor in Chinese hamster ovary cells.Protein Expr Purif,2014,104:41-49; Wang XY et al.,Characteristic element of matrix attachment region mediates vector attachment and enhances nerve growth factor expression in Chinese hamster ovary cells.Genet Mol Res,2015,14(3):9191-9199)。しかしながら、組換えCHO細胞の表面上のNGFの安定な発現に関する研究は、報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Xu,L.et.al.,Protein.Expr.Purif.,2014,104:41-49
【非特許文献2】Wang,X.Y.et.al.,Genet.Mol.Res.,2015,14(3):9191-9199
【非特許文献3】姜静ほか,中国生物工程雑誌,2006,26(2):8-12
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、抗NGF抗体のADCC効果及びCDC効果を正確に検出できるように、NGFを表面上に安定に発現する組換えCHO細胞を研究により開発し、これは、抗NGF抗体のADCC効果及びCDC効果を評価するために有効に利用できる標的細胞として用いられる。
【0009】
一態様では、本出願は、組換えCHO細胞であって、NGFが前記細胞の表面上に安定して発現される組換えCHO細胞に関する。
【0010】
別の態様では、本出願は、上記組換えCHO細胞の構築方法であって、
(1)連結されたNGF、ヒンジ領域及び膜貫通領域の核酸配列を発現ベクターにクローニングして、前記核酸配列を含む組換え発現ベクターを得ること;
(2)組換え発現ベクターをCHO細胞に導入して、上記組換えCHO細胞を得ることを含む、方法に関する。
【0011】
別の態様では、本出願は、抗体のADCC効果の検出システムであって、
上記組換えCHO細胞、及び
エフェクター細胞、を含むシステムに関する。
【0012】
別の態様では、本出願は、抗体のCDC効果の検出システムであって、
上記組換えCHO細胞、及び
補体、を含むシステムに関する。
【0013】
さらに別の態様では、本出願は、抗体のADCC効果又はCDC効果の検出における、上記組換えCHO細胞の使用に関する。
【0014】
さらに別の態様では、本出願は、抗体のADCC効果の検出方法であって、標的細胞としての上記組換えCHO細胞を、検出される抗体及びエフェクター細胞と共に、共インキュベーションを行うことを含む、方法に関する。
【0015】
さらに別の態様では、本出願は、抗体のCDC効果の検出方法であって、標的細胞としての上記の組換えCHO細胞を、検出される抗体及び補体と共に、共インキュベーションを行うことを含む、方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
従来の組換えNGF発現研究では、CHO細胞などの哺乳動物細胞が、NGFを発現して細胞外に分泌するための発現系として使用され、NGFが、その天然形態と同様の遊離形態で上清中に存在することが通常であった。加えて、一部の研究者はまた、原核生物系(例えば、大腸菌)を使用してNGFを発現させようと試みており、得られた発現産物は、不溶性封入体として存在する(Jiang Jing et al.,Comparison of Recombinant Human β-NGF from E.coli and CHO in Biochemical Characters,China Biotechnology,2006,26(2):8-12)。NGFが、膜貫通タンパク質ではなく遊離タンパク質として、細胞表面上に発現され得るかどうかについては、不確実性が極めて高い。したがって、CHO細胞の表面上のNGFの安定な発現に関しては、これまで当技術分野において関連する報告はなかった。本出願では、NGFの核酸配列を適切なヒンジ領域及び膜貫通領域の核酸配列と連結し、次いで、それをCHO細胞に導入することによって、組換えCHO細胞の表面上のNGFの安定な発現が達成され、それによって、NGFが培養液中に分泌されるのではなく細胞表面上に存在し、発現されたNGFの適切な翻訳後プロセシング(正しい折り畳み、グリコシル化などを含む)を可能にし、したがって、その天然の立体配座及び活性を維持する。このようにして得られた組換えCHO細胞は、細胞表面上にNGFを有しており、抗NGF抗体のADCC効果及びCDC効果を検出するための標的細胞として有効に利用できるため、抗NGF抗体のADCC効果及びCDC効果の検出に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】陽性対照抗体HAB20-6-2のSDS-PAGE検出の結果を示す。図1の結果によれば、実施例3で調製した陽性対照抗体HAB20-6-2の純度が90%を超えることが理解され得る。
図2】CHO-NGF組換え細胞のフローサイトメトリーによる同定の結果を示し、図2のAは、モックとしてのCHO-S細胞を、抗NGF陽性対照抗体HAB20-6-2と共にインキュベーションを行うことによって得られたフローサイトメトリー検出結果を示し、陽性率が2%である。図2のBは、実施例2で構築されたCHO-NGF細胞を、抗NGF陽性対照抗体HAB20-6-2と共にインキュベーションを行うことによって得られたフローサイトメトリー検出結果を示し、陽性率が82.67%である。
図3】ADCC効果検出の結果を示し、Aが、タネズマブ(4回検出)及び陽性対照抗体HAB20-6-2のADCC効果検出結果の重ね合わせグラフであり、Bが、陽性対照抗体HAB20-6-2の検出結果であり、Cが、タネズマブの1回目の検出結果であり、Dが、タネズマブの2回目の検出結果であり、Eが、タネズマブの3回目の検出結果であり、Fが、タネズマブの4回目の検出結果である。
図4】CDC効果検出の結果を示し、Aが、タネズマブ(4回検出)及び陽性対照抗体HAB20-6-2のCDC効果検出結果の重ね合わせグラフであり、Bが、陽性対照抗体HAB20-6-2の検出結果であり、Cが、タネズマブの1回目の検出結果であり、Dが、タネズマブの2回目の検出結果であり、Eが、タネズマブの3回目の検出結果であり、Fが、タネズマブの4回目の検出結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、特定の実施形態と組み合わせて本出願をさらに説明し、本出願の利点及び特徴が説明によってより明確になるであろう。しかしながら、これらの実施形態は単なる例示であり、本出願の範囲に対するいかなる限定も構成しない。本出願の技術的解決策の詳細及び形態に対して、その精神及び範囲から逸脱することなく修正又は置換がなされ得るが、そのような修正及び置換は本出願の保護範囲内にあることが当業者によって理解されるべきである。
【0019】
特に定義されない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有し、これは、例えば、Singleton et al.,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology第2版,J.Wiley&Sons(New York,NY 1994);Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Springs Harbor Press(Cold Springs Harbor,NY 1989);Davis et al.,Basic Methods in Molecular Biology,Elsevier Science Publishing Inc.,New York,USA(2012);Abbas et al.,Cellular and Molecular Immunology,Elsevier Science Health Science div(2009);He Wei et al.,Medical Immunology(第2版),People’s Medical Publishing House Co.,Ltd.,2010に見られ得る。
【0020】
特に記載されない限り、本明細書における「含む、包含する及び備える」という用語は、既に列挙されたものに加えて、他の不特定の要素、構成要素及び工程が含まれ得ることを意味するオープンエンド形式の表現である。
【0021】
特に記載されない限り、成分の量、測定値、又は反応条件を表すために本明細書で使用されるすべての数字は、すべての場合において「約」という用語によって修飾されていると理解されるべきである。パーセンテージに付けられる場合、「約」という用語は、例えば±1%、好ましくは±0.5%、より好ましくは±0.1%を表すことができる。
【0022】
文脈において特に明記されていない限り、単数形の用語は複数の指示対象を包含し、逆もまた同様である。同様に、文脈において特に明記されていない限り、「又は/若しくは」という単語は、「及び」を含むことを意図している。
【0023】
本明細書における配列間の同一性のパーセンテージ(相同性の程度)は、例えば、この目的のために一般的に使用されるワールド・ワイド・ウェブ(例えば、www.ncbi.nlm.nih.gov)における自由にアクセス可能なコンピュータプログラム(例えば、デフォルト設定でBLASTp又はBLASTn)を使用して2つの配列をアライメントすることによって決定することができる。
【0024】
特に記載されない限り、本明細書における「コドン最適化」という用語は、天然アミノ酸配列を維持しながら、宿主細胞における発現を改善するために、天然配列の少なくとも1つのコドンを宿主細胞においてより多く又は最も頻繁に使用されるコドンで置換することによって核酸配列を改変するプロセスを指す。様々な生物種が、特定のアミノ酸の特定のコドンを特異的に優先し、このコドン優先(異なる生物間のコドン使用の違い)は、典型的にはmRNAの翻訳効率に関連する。
【0025】
本発明において、「発現ベクター」とは、所望のコード配列、及び、特定の宿主生物において作動可能に連結されたコード配列を発現するのに必須の適切な核酸配列を含むベクターを指す。発現ベクターは、好ましくは1つ以上のマーカー遺伝子を含み得る。本発明の標的配列を発現させるために、例えば、複製起点、ポリアデニル化シグナル、プロモーター、エンハンサー、ターミネーターなどのいくつかの発現制御配列のうちのいずれか1つを、ベクターに使用することができる。
【0026】
最初のモノクローナル抗体薬物OKT3(ムロモナブ-CD3)が1986年に米国FDAによって承認されて以来、抗体薬物は、疾患処置の選択肢としてますます研究されている。これまでのところ、FDAは、数百の抗体薬物を承認している(https://www.nature.com/articles/d41573-021-00079-7)。抗体がヒト免疫系を活性化する機構は、非常に複雑であり、主に抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)及び補体依存性細胞傷害(CDC)を含む。
【0027】
一般に、NGF自体が遊離タンパク質であるので、NGFを発現することができるように構築して得られた組換え細胞は、発現されたNGFを細胞外に分泌することになり、その結果、NGFは、培養液中に、天然形態と実質的に等価な遊離形態で存在するため、一般的な構築によって得られたNGF発現組換え細胞は、ADCCの検出及びCDCの検出において使用される標的細胞として不適当になる。細胞表面上のNGFの発現については、不確実性が極めて高く、また、NGFが組換え細胞の表面上に発現される場合であっても、発現されたNGFが遊離NGFと同じ天然の立体配座及び活性を維持し得るかどうかもまた不明である。したがって、表面上にNGFを安定的に発現することができる組換えCHO細胞又は他の組換え細胞は、報告されていない。
【0028】
いくつかの実施形態では、本出願は、組換えCHO細胞であって、NGFが前記細胞の表面上に安定して発現される組換えCHO細胞に関する。
【0029】
NCBI、ENSMBL、又はUniProtデータベースで利用可能な配列、又は宿主細胞のコドン優先に従って既知の配列に対してコドン最適化を行うことによって得られた配列(CodonWなどの既存のソフトウェアを使用することができる)など、既知の配列の任意のNGFが本明細書で使用され得る。いくつかの好ましい実施形態では、NGFは、限定されないが、哺乳動物NGF、例えば、ヒトNGF、マウスNGF、ラットNGF、ウシNGF、ウマNGF、ブタNGFなどであり得る。NGFの例示的なアミノ酸配列及び核酸配列は、以下の記載:Katherine A.Fitzgerald et al.,The Cytokine FactsBook and Webfacts(第2版)、Academic Press,2001;Wei Ma et al.,Cloning and Sequencing of Matured Fragment of Human Never Growth Factor Gene,ACAD J XJ TU,15(1),2003:62-65;YA Barde et al.,The nerve growth factor family,Progress in Growth Factor Research,2,1990:237-248;Wiesmann,C.et al.,Nerve growth factor:structure and function.CMLS,Cell.Mol.Life Sci.,58,2001:748-759;Eric Adriaenssens et al.,Nerve Growth Factor Is a Potential Therapeutic Target in Breast Cancer,Cancer Res.,68(2),2008:January 15,2008:346-351;国際公開第2021120900号、国際公開第2021093134号、国際公開第2021091363号、国際公開第2019201133号、米国特許出願公開2021079053号明細書、国際公開第2010128398号、米国特許出願公開2014170137号明細書などに見出され得、これらの各々の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0030】
いくつかの好ましい実施形態では、NGFのアミノ酸配列は、配列番号1~配列番号3のいずれか1つに示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の(例えば、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の)配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【化1】
【化2】
【化3】
【0031】
いくつかの好ましい実施形態では、細胞のゲノムは、NGFの核酸配列と一体化される。
【0032】
いくつかの好ましい実施形態では、NGFの核酸配列は、配列番号4~配列番号6のいずれか1つに示される核酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の(例えば、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の)配列同一性を有する核酸配列を含む。
【化4】
【化5】
【化6】
【0033】
いくつかの好ましい実施形態では、細胞のゲノムは、連結されたNGF、ヒンジ領域及び膜貫通領域(「膜貫通ドメイン」としても知られる)の核酸配列と一体化される。
【0034】
さらに好ましい実施形態では、ヒンジ領域のアミノ酸配列は、3個以上のアミノ酸、10個以上のアミノ酸、20個以上のアミノ酸、30個以上のアミノ酸、40個以上のアミノ酸、50個以上のアミノ酸、又は、100個以下のアミノ酸、90個以下のアミノ酸、80個以下のアミノ酸、70個以下のアミノ酸、60個以下のアミノ酸、又は、上記の任意の2つの数値の範囲内のアミノ酸、例えば、3~100個のアミノ酸、10~90個のアミノ酸、10~80個のアミノ酸、10~70個のアミノ酸、10~60個のアミノ酸、10~50個のアミノ酸、及び12~45個のアミノ酸を有する。
【0035】
さらに好ましい実施形態では、膜貫通領域のアミノ酸配列は、10個以上のアミノ酸、20個以上のアミノ酸、30個以上のアミノ酸、又は、60個以下のアミノ酸、50個以下のアミノ酸、40個以下のアミノ酸、又は、上記の任意の2つの数値の範囲内のアミノ酸、例えば、10~60個のアミノ酸、10~50個のアミノ酸、10~40個のアミノ酸、10~30個のアミノ酸、15~30個のアミノ酸、20~30個のアミノ酸、及び20~25個のアミノ酸を有する。
【0036】
さらに好ましい実施形態では、ヒンジ領域は、CD8ヒンジ領域(例えば、CD8αヒンジ領域)又はヒトIgG1ヒンジ領域であり得る。
【0037】
さらに好ましい実施形態では、膜貫通領域は、CD8膜貫通領域、PGFRA膜貫通領域又はCD80膜貫通領域であり得る。
【0038】
いくつかの好ましい実施形態では、CD8ヒンジ領域のアミノ酸配列は、配列番号7に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の(例えば、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の)配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【化7】
【0039】
いくつかの好ましい実施形態では、ヒトIgG1ヒンジ領域のアミノ酸配列は、配列番号8に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の(例えば、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の)配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【化8】
【0040】
いくつかの好ましい実施形態では、CD8ヒンジ領域をコードする核酸配列は、配列番号9に示される核酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の(例えば、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の)配列同一性を有する核酸配列を含む。
【化9】
【0041】
いくつかの好ましい実施形態では、CD8膜貫通領域のアミノ酸配列は、配列番号10に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の(例えば、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の)配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【化10】
【0042】
いくつかの好ましい実施形態では、PGFRA膜貫通領域のアミノ酸配列は、配列番号11に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の(例えば、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の)配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【化11】
【0043】
いくつかの好ましい実施形態では、CD80膜貫通領域のアミノ酸配列は、配列番号12に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の(例えば、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の)配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【化12】
【0044】
いくつかの好ましい実施形態では、CD8膜貫通領域をコードする核酸配列は、配列番号13に示される核酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の(例えば、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の)配列同一性を有する核酸配列を含む。
【化13】
【0045】
いくつかの好ましい実施形態では、ヒンジ領域は、CD8ヒンジ領域であり、膜貫通領域は、CD8膜貫通領域、PGFRA膜貫通領域又はCD80膜貫通領域である。例えば、いくつかの例では、ヒンジ領域は、CD8ヒンジ領域であり、膜貫通領域は、CD8膜貫通領域である。または、例えば、ヒンジ領域は、CD8ヒンジ領域であり、膜貫通領域は、PGFRA膜貫通領域である。または、例えば、ヒンジ領域は、CD8ヒンジ領域であり、膜貫通領域は、CD80膜貫通領域である。
【0046】
いくつかの好ましい実施形態では、ヒンジ領域は、ヒトIgG1ヒンジ領域であり、膜貫通領域は、CD8膜貫通領域、PGFRA膜貫通領域又はCD80膜貫通領域である。例えば、いくつかの例では、ヒンジ領域は、ヒトIgG1ヒンジ領域であり、膜貫通領域は、CD8膜貫通領域である。または、例えば、ヒンジ領域は、ヒトIgG1ヒンジ領域であり、膜貫通領域は、PGFRA膜貫通領域である。または、例えば、ヒンジ領域は、ヒトIgG1ヒンジ領域であり、膜貫通領域は、CD80膜貫通領域である。
【0047】
いくつかの好ましい実施形態では、連結されたNGF、ヒンジ領域及び膜貫通領域の核酸配列は、連結されたNGF、CD8ヒンジ領域及びCD8膜貫通領域の核酸配列である。
【0048】
いくつかの実施形態では、本出願は、上記組換えCHO細胞の構築方法であって、
(1)連結されたNGF、ヒンジ領域及び膜貫通領域の核酸配列を発現ベクターにクローニングして、前記核酸配列を含む組換え発現ベクターを得ること;
(2)組換え発現ベクターをCHO細胞に導入して、上記組換えCHO細胞を得ることを含む、方法に関する。
【0049】
いくつかの好ましい実施形態において、NGFは、哺乳動物NGF、例えば、ヒトNGF、マウスNGF、ラットNGF、ウシNGF、ウマNGF、ブタNGFなどであり得るが、これらに限定されない。
【0050】
いくつかの好ましい実施形態では、NGFのアミノ酸配列は、配列番号1~配列番号3のいずれか1つに示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の(例えば、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の)配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0051】
いくつかの好ましい実施形態では、NGFの核酸配列は、配列番号4~配列番号6のいずれか1つに示される核酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の(例えば、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の)配列同一性を有する核酸配列を含む。
【0052】
さらに好ましい実施形態では、ヒンジ領域のアミノ酸配列は、3個以上のアミノ酸、10個以上のアミノ酸、20個以上のアミノ酸、30個以上のアミノ酸、40個以上のアミノ酸、50個以上のアミノ酸、又は、100個以下のアミノ酸、90個以下のアミノ酸、80個以下のアミノ酸、70個以下のアミノ酸、60個以下のアミノ酸、又は、上記の任意の2つの数値の範囲内のアミノ酸、例えば、3~100個のアミノ酸、10~100個のアミノ酸、10~90個のアミノ酸、10~80個のアミノ酸、10~70個のアミノ酸、10~60個のアミノ酸、10~50個のアミノ酸、及び12~45個のアミノ酸を有する。
【0053】
さらに好ましい実施形態では、膜貫通領域のアミノ酸配列は、10個以上のアミノ酸長、20個以上のアミノ酸、30個以上のアミノ酸、又は、60個以下のアミノ酸、50個以下のアミノ酸、40個以下のアミノ酸、又は、上記の任意の2つの数値の範囲内のアミノ酸、例えば、10~60個のアミノ酸、10~50個のアミノ酸、10~40個のアミノ酸、10~30個のアミノ酸、15~30個のアミノ酸、20~30個のアミノ酸、及び20~25個のアミノ酸を有する。
【0054】
いくつかの好ましい実施形態では、ヒンジ領域は、CD8ヒンジ領域(例えば、CD8αヒンジ領域)又はヒトIgG1ヒンジ領域であり得る。
【0055】
いくつかの好ましい実施形態では、膜貫通領域は、CD8膜貫通領域、PGFRA膜貫通領域又はCD80膜貫通領域であり得る。
【0056】
いくつかの好ましい実施形態では、CD8ヒンジ領域のアミノ酸配列は、配列番号7に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の(例えば、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の)配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの好ましい実施形態では、ヒトIgG1ヒンジ領域のアミノ酸配列は、配列番号8に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の(例えば、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の)配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0057】
いくつかの好ましい実施形態では、CD8ヒンジ領域をコードする核酸配列は、配列番号9に示される核酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の(例えば、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の)配列同一性を有する核酸配列を含む。
【0058】
いくつかの好ましい実施形態では、CD8膜貫通領域のアミノ酸配列は、配列番号10に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の(例えば、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の)配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの好ましい実施形態では、PGFRA膜貫通領域のアミノ酸配列は、配列番号11に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の(例えば、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の)配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの好ましい実施形態では、CD80膜貫通領域のアミノ酸配列は、配列番号12に示されるアミノ酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の(例えば、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の)配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0059】
いくつかの好ましい実施形態では、CD8膜貫通領域をコードする核酸配列は、配列番号13に示される核酸配列、又はそれに対し少なくとも80%の(例えば、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の)配列同一性を有する核酸配列を含む。
【0060】
いくつかの好ましい実施形態では、ヒンジ領域は、CD8ヒンジ領域であり、膜貫通領域は、CD8膜貫通領域、PGFRA膜貫通領域又はCD80膜貫通領域である。例えば、いくつかの例では、ヒンジ領域は、CD8ヒンジ領域であり、膜貫通領域は、CD8膜貫通領域である。または、例えば、ヒンジ領域は、CD8ヒンジ領域であり、膜貫通領域は、PGFRA膜貫通領域である。または、例えば、ヒンジ領域は、CD8ヒンジ領域であり、膜貫通領域は、CD80膜貫通領域である。
【0061】
いくつかの好ましい実施形態では、ヒンジ領域はヒトIgG1ヒンジ領域であり、膜貫通領域はCD8膜貫通領域、PGFRA膜貫通領域又はCD80膜貫通領域である。例えば、いくつかの例では、ヒンジ領域はヒトIgG1ヒンジ領域であり、膜貫通領域はCD8膜貫通領域である。または、例えば、ヒンジ領域はヒトIgG1ヒンジ領域であり、膜貫通領域はPGFRA膜貫通領域である。または、例えば、ヒンジ領域はヒトIgG1ヒンジ領域であり、膜貫通領域はCD80膜貫通領域である。
【0062】
いくつかの好ましい実施形態では、連結されたNGF、ヒンジ領域及び膜貫通領域の核酸配列は、連結されたNGF、CD8ヒンジ領域及びCD8膜貫通領域の核酸配列である。
【0063】
いくつかの好ましい実施形態では、発現ベクターは、限定されないが、レンチウイルス発現ベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ポックスウイルスベクター又は単純ヘルペスウイルスベクターであり得る。レンチウイルス発現ベクターの例として、レンチウイルス発現ベクターは、例えば、Lenti-CMV-puroレンチウイルス発現ベクター、pCDHシリーズのレンチウイルス発現ベクター、又はpLentiシリーズのレンチウイルス発現ベクターであり得るが、これらに限定されない。
【0064】
いくつかの好ましい実施形態では、工程(2)において、組換え発現ベクター及びウイルスパッケージングプラスミドが、パッケージング細胞にコトランスフェクトされる。培養後、核酸配列を含むウイルスが調製され、次いで、ウイルスが使用されてCHO細胞がトランスフェクトされ、組換えCHO細胞が得られる。
【0065】
さらに好ましい実施形態では、ウイルスパッケージングプラスミドは、pMD2.G、psPAX2、Lenti-packaging Mix、pCMV-dR8.91、pCMV-dR8.74、pLP1、pLP2、pVSV-Gなどであり得るが、これらに限定されない。
【0066】
さらに好ましい実施形態では、パッケージング細胞は、293T細胞、293FT細胞などであり得るが、これらに限定されない。
【0067】
特に記載されない限り、本明細書の細胞培養は、当技術分野における一般的な培養条件及び一般的な細胞培養用培地(例えば、1640培地、DMEM培地、MEM培地、F12培地など)を使用して行われ、これは、例えば、Lan Rong et al.,Cell Culture Technology,Chemical Industry Press Co.,Ltd.,2007;R.I.Fershney,Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique and Specialized Applications(第6版),John Wiley&Sons,Inc;2010;Liu Bin et al.,Cell Culture(第3版),World Publishing Corporation,2018に見出され得;その各々の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0068】
トランスフェクションは、標的外因性DNA(目的のドナーから抽出されるか又は直接合成される)を宿主細胞に導入するための当技術分野で公知の一般的に使用される手段のうちの1つである。ウイルス媒介性トランスフェクションは、当技術分野で一般的に使用されるトランスフェクション方法のうちの1つであり、所望の外因性遺伝子をパッケージングするウイルスを細胞に感染させて、目的の外因性遺伝子の細胞内への導入を可能にする方法を使用する。該方法は、最も高いトランスフェクション効率及び低い細胞傷害性などの利点を有する。
【0069】
いくつかの実施形態では、本出願は、抗体のADCC効果の検出システムであって、
上記組換えCHO細胞、及び
エフェクター細胞、を含むシステムに関する。
【0070】
本開示では、エフェクター細胞は、当技術分野で公知の任意の一般的なエフェクター細胞であり得る。一例として、いくつかの好ましい実施形態では、エフェクター細胞は、限定するものではないが、エフェクターT細胞、NK細胞、食細胞、好酸球、好塩基球及び肥満細胞、例えばJurkat-NFAT-ルシフェラーゼ-CD16細胞、プライマリNK細胞などを含むことができる。
【0071】
いくつかの好ましい実施形態では、エフェクター細胞の組換えCHO細胞に対するエフェクター-ターゲット数量比(E:T)は、1:1~1:20、例えば1:5であり得る。
【0072】
いくつかの好ましい実施形態では、本システムは、ルシフェラーゼ基質をさらに含む。典型的なルシフェラーゼとして、ホタルルシフェラーゼは、ATP、マグネシウムイオン及び酸素の存在下でルシフェリンのオキシルシフェリンへの酸化を触媒することができ、酸化プロセス中に生体蛍光を発する分子量約61kDaのタンパク質である。
【0073】
いくつかの実施形態では、本出願は、抗体のCDC効果の検出システムであって、
上記組換えCHO細胞、及び
補体、を含むシステムに関する。
【0074】
補体系としても知られる補体は、30を超える可溶性タンパク質及び膜結合タンパク質を含む、免疫応答及び炎症を媒介することができるヒト及び動物の血清又は組織液中に存在するタンパク質である。いくつかの好ましい実施形態では、補体は、補体タンパク質C1~C9を含む補体血清である。
【0075】
いくつかの好ましい実施形態では、本システムは、ルシフェラーゼ基質をさらに含む。
【0076】
いくつかの好ましい実施形態では、本出願は、抗体のADCC効果又はCDC効果の検出における、上記組換えCHO細胞の使用に関する。
【0077】
いくつかの好ましい実施形態では、本出願は、抗体のADCC効果の検出方法であって、標的細胞としての上記組換えCHO細胞を、検出される抗体及びエフェクター細胞と共に、共インキュベーションを行うことを含む、方法に関する。さらに好ましい実施形態では、エフェクター細胞の標的細胞に対するエフェクター-ターゲット数量比は、1:1~1:20、例えば1:5であり得る。いくつかの好ましい実施形態では、本方法は、共インキュベーション後に、ルシフェラーゼ基質を前記システムに添加することをさらに含む。
【0078】
いくつかの実施形態では、本出願は、抗体のCDC効果の検出方法であって、標的細胞としての上記組換えCHO細胞を、検出される抗体及び補体と共に、共インキュベーションを行うことを含む、方法に関する。さらに好ましい実施形態では、補体は、補体タンパク質C1~C9を含む補体血清である。いくつかの好ましい実施形態では、本方法は、共インキュベーション後に、ルシフェラーゼ基質を前記システムに添加することをさらに含む。
【実施例
【0079】
以下、実施例を通じて本出願が詳細に説明されるが、本出願の保護範囲をそれに限定することが意図されるものではない。当業者にとっては、本出願の趣旨及び範囲から逸脱することなく、以下の実施例の説明に基づいて様々な変更、修正、及び改良が行われ得、結果として得られる解決策は、依然として本出願の保護範囲内にある。
【0080】
遺伝子の設計、合成、及びクローニング、遺伝子断片の連結、発現ベクターの構築、配列の分析及び同定、組換え細胞の構築、並びに発現産生物の単離及び精製など、本出願に関与する操作ステップは、当技術分野で公知の技術(例えば、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGYの記載を参照)に従って行われ得ることが留意されるべきである。特に明記しない限り、実施例で使用される技術的手段は、当業者に周知の一般的な手段である。特に記載されない限り、以下の実施例で使用される試薬、材料及びデバイスは市販されている。
【0081】
以下の実施例で使用される主な試薬、消耗品及びデバイス並びにその供給源は、以下の表に示される。当業者は、同等の効果を有する任意の他の試薬、消耗品及びデバイスを使用することができる。
【表1】
【表2】
【0082】
(実施例1 NGF過剰発現レンチウイルスベクターの構築及びレンチウイルスの調製)
NGFの核酸配列が、ヒンジ領域及び膜貫通領域をコードする核酸配列と連結され、適切な発現ベクターに挿入されることにより、上記核酸配列の異種発現は、達成され得る。NGFに関しては、例えばヒトNGF、マウスNGF、ラットNGF、ウシNGF、ウマNGF、ブタNGFなどの哺乳動物由来のNGFが選択され得るか、また、NGF及びその核酸配列が、NCBI、ENSMBL又はUniProtなどの核酸配列及びタンパク質配列の一般に使用されるデータベースによって開示される公知の配列に基づいて合成され得た。
【0083】
ここでは、ヒトNGFが例に挙げられ、CD8ヒンジ領域及びCD8膜貫通領域が使用されてNGFと連結された。具体的には、ヒトNGFの全長配列が宿主細胞CHO-S細胞のコドン優先に従ってコドン最適化されて、CD8ヒンジ領域(そのアミノ酸配列は、配列番号7に示されたものであり、その核酸配列は、配列番号9に示されたものである)及びCD8膜貫通領域(そのアミノ酸配列は、配列番号10に示されたものであり、その核酸配列は、配列番号13に示されたものである)と連結された、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するNGF(対応する核酸配列は、配列番号4に示されたものである)を得た。遺伝子合成が連結後に行われ、合成した遺伝子断片のLenti-CMV-puroレンチウイルス発現ベクター(愛康得生物科技(蘇州)有限公司)にサブクローニングした。標的遺伝子過剰発現ベクターLenti-CMV-NGF-Full(CD8-TM)ベクターが調製され、配列が正しいことを確認するためにシーケンシングした後、エンドトキシン除去プラスミドが将来の使用のために調製された。
【0084】
次に、以下の工程によりレンチウイルスを調製した。
1. 15cm細胞培養皿が用意され、293T細胞(Jennio Biotech)が5×10細胞/皿で接種され、完全培地(10% FBSを添加した高グルコースDMEM培地)が添加され、37℃、5% COインキュベータ内で一晩培養した。
2. トランスフェクション試薬LVTransm、Lenti-CMV-NGF-Full(CD8-TM)発現ベクター及びレンチウイルスパッケージングプラスミドLenti-packaging Mixが冷蔵庫から取り出された。室温で解凍された後、ピペッターで上下にピペット操作されて完全に混合された。以下のプロセスによってトランスフェクション複合体が調製された。1×PBS又はHBSS緩衝液が取り出され、室温まで昇温させた。次いで、2mLのPBS又はHBSS緩衝液が採取され、6ウェルプレートのウェルに添加された。10μgのLenti-CMV-NGF-Full(CD8-TM)発現ベクター、30μLのLenti-packaging Mixがそれぞれ添加された。それがピペッターで上下にピペット操作されて十分に混合された後、50μLのLVTransmが添加された。直ちにピペッターを用いて上下にピペット操作されてよく混合された。室温で10~15分間放置した。
3. 上記のトランスフェクション複合体が、工程1で15cm細胞培養皿に滴下された。次いで、培養皿を静かに揺すってよく混合した。培養皿が37℃、5% COインキュベータ内に置かれて6~8時間培養された後、トランスフェクション試薬を含む培地を除去して新鮮な完全培地と交換し、培養皿がインキュベータ内に戻されて培養を継続した。
4. 連続して24時間培養した後、培養皿中のウイルスを含む培地の上清が50mL遠心管に収集された。約25mLの新鮮な完全培地が培養皿に再添加され、培養が24時間続けられた。
5. 培養皿中のウイルスを含む培地の上清が50mL遠心管に収集された。約25mLの新鮮な完全培地が培養皿に再添加され、培養が24時間続けられた。
6. 培養皿中のウイルスを含む培地の上清が収集され、以前に収集された2つの培地の上清と混合された。
7. 上記培地の上清が0.45μmのPESフィルタ膜で濾過された後、濾液が滅菌遠心管に移され、50,000×g、4℃で2時間遠心分離された。遠心分離後、遠心管の液体がバイオセーフティキャビネット内で慎重に吸引され、1mLのPBS緩衝液が添加されて沈殿物が再懸濁され、得られたLenti-CMV-NGF-Full(CD8-TM)過剰発現レンチウイルスが-80℃で保存された。
【0085】
(実施例2 組換えCHO細胞の構築)
実施例1で作製されたLenti-CMV-NGF-Full(CD8-TM)過剰発現レンチウイルスを用いて、細胞表面上にNGFを安定に発現し得る組換えCHO細胞(「CHO-NGF組換え細胞」又は「CHO-NGF細胞」としても知られる)が以下のプロセスで作製された:
1. CHO-S細胞が、液体窒素から蘇生され、CHOGrow CD1無血清培地を使用して、37℃、5% COインキュベータ内で培養された。細胞が連続して5回通過されて、対数増殖期とした。
2. 新しい6ウェルプレートが取り出され、対数増殖期の上記CHO-S細胞が、5×10細胞/ウェルの密度で、6ウェルプレートに接種され、3mLのCHOGrow CD1無血清培地が添加された。そして、MOI=5に従って、接種細胞数とウイルス力価とに基づいてウイルス必要量が、以下の計算式で計算された。
ウイルス量(mL)=(細胞数×MOI)/ウイルス力価
3. 実施例1で調製したLenti-CMV-NGF-Full(CD8-TM)過剰発現レンチウイルスが、上記式によって算出される量で6ウェルプレートに添加され、ピペッターで穏やかに混合された後、6ウェルプレートが遠心分離機に置かれ、室温下、800×gで1時間遠心分離された。
4. 遠心分離後、6ウェルプレートが取り出され、37℃、5% COインキュベータに置かれ、培養が24時間継続された。
5. 24時間の培養後、6ウェルプレート中の培養培地が、新鮮なCHOGrow CD1無血清培地と交換され、24時間連続培養された。
6. 6ウェルプレート中の培養培地が、8μg/mLのピューロマイシンを含むCHOGrow CD1無血清培地と交換され、非感染CHO-S細胞がすべて死滅化されるまで5日間連続培養された。
7. 残りの生細胞は、増殖培養が継続され、次いで細胞が回収されて、構築された組換えCHO細胞が得られた。
【0086】
(実施例3 組換えCHO細胞のフローサイトメトリー同定)
陽性対照抗体を用いて、実施例2で構築した組換えCHO細胞がフローサイトメトリーにより同定された。ここで、陽性対照抗体HAB20-6-2は、以下のプロセスに従って調製された。
1. ファイザーによって開発されたIgG2サブタイプの抗NGF抗体であるタネズマブから出発して、抗体タネズマブの配列情報に従って(その重鎖配列は、配列番号14に示されており、その軽鎖配列は、配列番号15に示されている)、抗体タネズマブのFcセグメントにおける定常領域配列が、ヒトIgG1サブタイプの定常領域配列によって置き換えられ(アミノ酸配列は、配列番号16に示されており、ヌクレオチド配列は、配列番号17に示されている)、残りは変化しないままとした。pcDNA3.1-hIgG1ベクター(愛康得生物科技(蘇州)有限公司製)を用いることにより、ヒトIgG1サブタイプ組換え抗体発現ベクターが構築され、冷蔵庫に保存され、将来の使用のために凍結された。
2. トランスフェクション試薬LVTransm及びヒトIgG1サブタイプ組換え抗体発現ベクターが冷蔵庫から取り出された。室温で解凍された後、両方ともピペッターで上下にピペット操作されて、それぞれよく混合された。1×PBS又はHBSS緩衝液が取り出され、室温まで昇温させた。次いで、2mLのPBS又はHBSS緩衝液が取り出されて、6ウェルプレートのウェルに加えられ、90μgのヒトIgG1サブタイプ組換え抗体発現ベクター(重鎖に対する軽鎖の比2:1)が添加されて、6ウェルプレートのウェルに加えられ、ピペッターで上下にピペット操作されてよく混合された後、270μLのLVTransmを加え、直ちにピペッターを用いて上下にピペット操作され、よく混合された。室温で10分間放置し、複合体を得た。
3. 上記で得られた複合体を50mLの293F細胞に添加し、穏やかに振盪され、よく混合された。細胞が37℃、5% COインキュベータに置かれ、130RPMで6~8時間培養され、次いで50mLの新鮮な293F培地が細胞に添加され、細胞がインキュベータに戻され、連続培養された。
4. 連続して7日間培養した後、培地の上清が遠心分離によって回収され、0.45μmのフィルタ膜で濾過され、次いで濾液が、滅菌遠心管に移され、プロテインAアフィニティカラムを用いて抗体が精製されて、陽性対照抗体HAB20-6-2が得られた。
5. タンパク質の純度をSDS-PAGEによって検出した。
【0087】
検出結果は、図1に示された。SDS-PAGE検出結果によれば、上記で調製した陽性対照抗体HAB20-6-2の純度は90%を超え、ADCC効果の検出に使用され得た。
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【0088】
上記で調製した陽性対照抗体HAB20-6-2に基づいて、組換えCHO細胞がフローサイトメトリーによって同定され得た。例えば、実施例2で構築された組換えCHO細胞(CHO-NGF細胞)は、以下のプロセスによって同定され得た。
(1)実施例2で構築したCHO-NGF細胞及びモックとして使用したCHO-S細胞が、37℃、5% CO インキュベータ内でCHOGrow CD1無血清培地を用いて培養され、細胞状態が対数増殖期に調整された。
(2)上記2種類の細胞の各々が6ウェルプレートの1ウェルにつき5×10個の細胞数で添加され、上記細胞を含む各ウェルに100μLの1×PBS緩衝液が添加されて、細胞が再懸濁され、次いで、その各々に1μgの陽性対照抗体HAB20-6-2が添加された。完全に混合された後、室温で45分間インキュベーションが行われ、一方で、陽性対照抗体を含まないウェルは陰性対照として設定された。
(3)室温にて800×gで5分間遠心分離されて、抗体を含む上清が除去され、細胞が1×PBS緩衝液で3回洗浄された。
(4)PE抗ヒトIgG Fc二次抗体(1:200の希釈)が添加され、よく混合されて、室温にて遮光下で30分間インキュベーションが行われた。
(5)室温にて800×gで5分間遠心分離されて、二次抗体を含む上清が除去され、細胞が1×PBS緩衝液で3回洗浄された。
(6)細胞は、フローサイトメトリーアッセイのために500μLの1×PBS緩衝液で再懸濁された。
【0089】
フローサイトメトリー同定結果が図2に示された。図2のフローサイトメトリー検出結果より、実施例2で構築したCHO-NGF細胞に対する陽性対照抗体の陽性率は82.67%であり、したがって、ADCC効果の検出のための標的細胞として用いられ得たことが理解され得る。
【0090】
(実施例4 ADCC効果の検出)
本実施例では、上記実施例2で構築された細胞表面上にヒトNGFを安定に発現するCHO-NGF組換え細胞が、標的細胞として用いられ、ルシフェラーゼが安定にトランスフェクトされたJurkat-NFAT-ルシフェラーゼ-CD16細胞株が、エフェクター細胞として用いられた。検出される試料又は陽性対照抗体のFabセグメントが標的細胞上の抗原に結合すると、検出対象の試料又は陽性対照抗体のFcセグメントが、エフェクター細胞Jurkat-NFAT-ルシフェラーゼ-CD16の表面上のCD16に結合し、細胞内NFAT関連シグナル伝達経路が活性化され、したがってルシフェラーゼ発現レベルが上昇した。ルシフェラーゼ活性の変化を検出することにより、検出される試料及び陽性対照抗体のADCC効果を評価した。
【0091】
検出される試料であるタネズマブは、ヒト神経成長因子を標的とし、CHO細胞発現系によって合成された、ファイザーによって開発された組換え抗NGFヒト化モノクローナル抗体であった。本実施例で使用されたタネズマブ及び陽性対照抗体HAB 20-6-2に関する関連情報が以下の表に示された。
【表3】
【0092】
ADCC効果の検出実験は、ADCCレポーターバイオアッセイを使用して行われ、実験工程は以下の通りであった。
1. Jurkat-NFAT-ルシフェラーゼ-CD16過剰発現細胞が、エフェクター細胞として使用され、実施例2で構築されたCHO-NGF細胞が、標的細胞として使用された。エフェクター細胞の数を2×10細胞/ウェルとし、標的細胞の数を1×10細胞/ウェルとする、エフェクター-ターゲット比1:5のADCC実験系(合計100μL)が確立され、その後の実験系と同様に96ウェルプレートに接種された。
2. タネズマブ及び陽性対照抗体HAB20-6-2が、最初にRPMI 1640培地で200μg/mLの濃度に希釈され、対応するストック液がそれぞれ得られ、次いで、9段階の連続希釈(200μg/mL、20μg/mL、2μg/mL、0.2μg/mL、0.02μg/mL、0.002μg/mL、0.0002μg/mL、0.00002μg/mL、0.000002μg/mL及び0μg/mL)で10倍の勾配希釈を行った(上記希釈により得られた各ストック液20μLが採取され、RPMI 1640培地180μLに添加され、順次勾配希釈を行った)。
3. 検出される試料であるタネズマブ及び上記希釈により得られた濃度勾配の異なる陽性対照抗体HAB20-6-2が上記実験系にそれぞれ添加され、100μLの上記の検出される試料及び陽性対照抗体(各ウェル内の終濃度は、それぞれ100μg/mL、10μg/mL、1μg/mL、0.1μg/mL、0.01μg/mL、0.001μg/mL、0.0001μg/mL、0.00001μg/mL、0.000001μg/mL、及び0μg/mLであった)が、各濃度につき2つのウェル(duplicate)を用いて各ウェルに接種された。37℃、5% COインキュベータ内で18時間共培養された後、20μLのOne-Glo試薬が添加され、室温で5分間反応後、ルシフェラーゼ活性の変化を検出することにより、抗体のADCC効果が評価された。ここで、タネズマブは、4回繰り返し検出された。
【0093】
本実施例では、実施例2で構築された細胞表面上にNGFを安定に発現するCHO-NGF組換え細胞が、標的細胞として用いられ、陽性対照抗体HAB20-6-2及びタネズマブがADCC効果を媒介する能力が、既存のエフェクター細胞を用いたレポーター遺伝子法により評価された。ADCC効果の検出結果は図3に示された。図3の検出結果によれば、陽性対照抗体HAB20-6-2は、Jurkat-NFAT-ルシフェラーゼ-CD16エフェクター細胞に有意なADCC効果を生じさせることができ、特定の用量範囲内で有意な用量効果関係があったことが理解され得る。しかし、Fcセグメントの定常領域配列のみが上記陽性対照抗体と異なるタネズマブについての4回の検出では、有意なADCC効果は検出されなかった。
【0094】
上記の実験条件下で、陽性対照抗体は、有意なADCC効果をもたらしたが、同じ可変領域を有するタネズマブ(該領域から、抗体タネズマブは、同じ抗原、すなわち、CHO-NGF組換え細胞によって発現されるNGFを認識し、該抗原に特異的に結合し得ることが予想され得る)は、有意なADCC効果をもたらさなかったことが理解され得る。したがって、本発明のCHO-NGF組換え細胞は、抗NGF抗体媒介ADCC効果をインビトロで検出するための標的細胞として効果的に使用され得ることにより、検出される抗体がエフェクター細胞にADCC効果を生じさせることができるかどうかを正確に検出することができた。
【0095】
(実施例5 CDC効果の検出)
本実施例では、実施例2で構築された細胞表面上にヒトNGFを安定に発現するCHO-NGF組換え細胞が標的細胞として用いられ、標的細胞、ヒト補体血清及び検出される試料又は陽性対照抗体の共インキュベーションを行った。検出される試料又は陽性対照抗体のFabセグメントが標的細胞上の抗原に結合すると、検出される試料又は陽性対照抗体のFcセグメントは、ヒト血清中の補体に結合し、CDC効果をもたらし、標的細胞を死滅させた。ATPは、生細胞の代謝の重要な指標であり、その含有量は、生細胞の数を直接反映していた。インキュベーションが完了した後、Cell Counting-Lite 3D発光試薬が反応系に添加された。試薬は、熱安定性ルシフェラーゼ及びその基質ルシフェリンを含み、反応系中の生細胞の溶解を促進してATPを放出することができた。ATPは、基質に対するルシフェラーゼの効果を促進し、基質の発光をもたらした。光度を検出することにより、検出システム内の生細胞の数が反映され得、CDC効果を介した標的細胞に対する検出される試料又は陽性対照抗体の溶解効果がさらに反映され得た。
【0096】
検出される試料であるタネズマブ及び陽性対照抗体HAB20-6-2に関する関連情報は実施例4と同様であった。CDC効果検出実験は、以下の工程に従って行った。
1. 実施例2で構築されたCHO-NGF細胞が、標的細胞として用いられ、その後の実験系として細胞が4×10細胞/ウェル(90μL)の量で96ウェルプレートに接種された。
2. 検出される試料であるタネズマブ及び陽性対照抗体HAB20-6-2が、最初にRPMI 1640培地で200μg/mLの濃度に希釈され、対応するストック液がそれぞれ得られ、次いで、9段階の連続希釈(200μg/mL、20μg/mL、2μg/mL、0.2μg/mL、0.02μg/mL、0.002μg/mL、0.0002μg/mL、0.00002μg/mL、0.000002μg/mL及び0μg/mL)で10倍の勾配希釈を行った(上記希釈により得られた各ストック液20μLが採取され、RPMI 1640培地180μLに添加されることにより、順次勾配希釈を行った)。
3. 上記の実験系に、上記希釈により得られた濃度勾配の異なる、検出される試料であるタネズマブ及び陽性対照抗体HAB20-6-2がそれぞれ添加され(各ウェル内の終濃度は、それぞれ100μg/mL、10μg/mL、1μg/mL、0.1μg/mL、0.01μg/mL、0.001μg/mL、0.0001μg/mL、0.00001μg/mL、0.000001μg/mL、及び0μg/mLであった)、各濃度につき2つのウェル(duplicate)を用いて10μLのヒト補体血清が同時に添加された。37℃、5% COインキュベータ内で18時間共培養された後、50μLのCellCounting-Lite 3D試薬が添加され、細胞ペレットが完全溶解のために2分間振盪され、室温で25分間置かれた後、多機能マイクロプレートリーダーを用いて発光値を検出した。抗体のCDC効果を、標的細胞の溶解を反映する発光値の変化を検出することによって評価した。ここで、タネズマブは4回繰り返し検出された。
4. 標的細胞溶解のパーセンテージ(溶解%)(RLU最大:モック細胞ウェルの蛍光強度;RLU試料:検出される試料又は陽性対照抗体を含むウェルの蛍光強度)の計算式は、以下の通りであった。
【数1】
【0097】
本実施例では、実施例2で構築された細胞表面上にNGFを安定に発現するCHO-NGF組換え細胞を標的細胞として用いて、陽性対照抗体HAB20-6-2及びタネズマブがCDC効果を媒介する能力が評価された。図4の検出結果によれば、陽性対照抗体HAB20-6-2は、CHO-NGF標的細胞に対して有意なCDC効果を生じさせることができ、特定の用量範囲内で有意な用量効果関係があったことが理解され得る。しかし、Fcセグメントの定常領域配列のみが上記陽性対照抗体と異なるタネズマブについての4回の検出では、有意なCDC効果は検出されなかった。
【0098】
上記実験条件下で、陽性対照抗体HAB20-6-2は、有意なCDC効果をもたらしたが、タネズマブ(これは、陽性対照抗体と同じ可変領域を有しており、抗体タネズマブもまた、CHO-NGF組換え細胞の表面上に発現されるNGFを認識して特異的に結合することができることが予想され得る)は、有意なCDC効果をもたらさなかったことが理解され得る。したがって、本発明のCHO-NGF組換え細胞は、抗NGF抗体媒介CDC効果をインビトロで検出するための標的細胞として効果的に使用され得て、検出される抗体が標的細胞に対してCDC効果をもたらし得るかどうかを正確に検出することができた。
【0099】
すべての特許、特許出願及び他の刊行物は、説明及び開示の目的で参照により本明細書に明示的に組み込まれる。これらの刊行物は、本出願の出願日前のそれらの開示のためにのみ提供される。日付に関するすべての記述又はこれらの文書の内容に関する表明は、本出願人が入手可能な情報に基づくものであり、これらの文書の日付又は内容の正確さを認めるものではない。さらに、いずれの国においても、本明細書におけるこれらの刊行物へのいかなる言及も、刊行物が当技術分野における共通知識の一部となるという認識を構成するものではない。
【0100】
当業者は、本出願の範囲が上述の様々な特定の実施形態及び実施例に限定されず、本出願の趣旨から逸脱することなく修正、置換、又は再構成することができ、それらはすべて本出願の保護範囲内にあることを理解するであろう。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】