(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-24
(54)【発明の名称】鋼部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20240717BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240717BHJP
C22C 38/38 20060101ALN20240717BHJP
【FI】
C21D9/46 G
C21D9/46 P
C21D9/46 T
C22C38/00 301S
C22C38/00 302Z
C22C38/38
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575409
(86)(22)【出願日】2021-07-16
(85)【翻訳文提出日】2024-02-02
(86)【国際出願番号】 IB2021056448
(87)【国際公開番号】W WO2023285867
(87)【国際公開日】2023-01-19
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フォート,ピエリック
(72)【発明者】
【氏名】ナドラー,オード
(72)【発明者】
【氏名】ジュウ,カンイン
(72)【発明者】
【氏名】ペルラド,アストリッド
(72)【発明者】
【氏名】ソレ,ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ケーゲル,フレデリク
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA28
4K037EB05
4K037EB09
4K037EB12
4K037FA02
4K037FE01
4K037FE02
4K037FE03
4K037FF01
4K037FF02
4K037FG01
4K037FJ04
4K037FJ05
4K037FL01
4K037FL02
4K037JA06
(57)【要約】
本発明は、鋼部品の製造方法であって、以下の連続工程、重量パーセントで以下、C:0.05~0.25%、Mn:3.5~8%、Si:0.1~2%、Al:0.01~3%、S≦0.010%、P≦0.020%、N≦0.008%を含み、任意選択で、重量パーセントで以下の元素、Cr:0~0.5%、Mo:0~0.25%の1種以上を含み、組成の残余は鉄及び製錬から生じる不可避的不純物である組成を有し、表面分率において、10%~50%の間の残留オーステナイト、50%以上のフェライト、ベイナイト及び焼戻しマルテンサイトの合計、5%未満のフレッシュマルテンサイト、2%未満の炭化物、及び厳密に0.4%を超かつ厳密に0.7%未満での、オーステナイト中の炭素[C]A含有率を含む微細組織を有する鋼板を提供する工程、該鋼板を所定の形状に切断し、鋼ブランクを得る工程、鋼ブランクを(Md30-150℃)~(Md30-50℃)である温度Twarmまで加熱する工程、熱処理鋼ブランクを該Twarm温度で打ち抜き又は剪断し、成形して鋼部品を得る工程、を含む、鋼部品の製造方法を取り扱う。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼部品の製造方法であって、以下の連続工程、
- 重量パーセントで以下、
C:0.05~0.25%
Mn:3.5~8%
Si:0.1~2%
Al:0.01~3%
S≦0.010%
P≦0.020%
N≦0.008%
を含み、任意選択で、重量パーセントで以下の元素、
Cr:0~0.5%
Mo:0~0.25%
の1種以上を含み、組成の残余は鉄及び製錬から生じる不可避的不純物である組成を有し、表面分率において、
- 10%~50%の残留オーステナイト、
- 50%以上のフェライト、ベイナイト及び焼戻しマルテンサイトの合計、
- 5%未満のフレッシュマルテンサイト
- 2%未満の炭化物
- 厳密に0.4重量%超かつ厳密に0.7重量%未満の、オーステナイト中の炭素[C]
A含有率を含む微細組織を有し、
窒素%N、ケイ素%Si、マンガン%Mn、クロム%Cr、ニッケル%Ni、銅%Cu、モリブデン%Mo、及びオーステナイト中の炭素[C]
Aの重量パーセントは、Md30が200℃~350℃であるようなものであり、Md30は以下のように規定される鋼板を提供する工程、
Md30(℃)=551-462
*([C]
A+%N)-9.2
*%Si-8.1
*%Mn-13.7
*%Cr-29
*(%Ni+%Cu)-18.5
*(%Mo)
- 該鋼板を所定の形状に切断して鋼ブランクを得る工程、
- 該鋼ブランクを(Md30-150℃)~(Md30-50℃)である温度T
warmまで加熱し、熱処理鋼ブランクを得る工程、
- 該T
warm温度で該熱処理鋼ブランクを打ち抜き又は剪断する工程、
- 熱処理鋼ブランクを該T
warm温度で成形して鋼部品を得る工程
を含む、鋼部品の製造方法。
【請求項2】
前記鋼板が、以下の連続工程、
- 請求項1に記載の組成を有する鋼スラブを熱間圧延して熱間圧延鋼板を得る工程、
- 該熱間圧延鋼板を200℃~700℃である巻き取り温度T
coilで巻き取る工程、
- 該熱間圧延鋼板を500~680℃である焼鈍温度T
HBAまで焼鈍して熱間圧延焼鈍鋼板を得る工程、
- 該熱間圧延焼鈍鋼板を冷間圧延して冷間圧延鋼板を得る工程、
- 該冷間圧延鋼板を680℃以上かつ温度T
1未満の温度T
soakまで加熱し、ここで、T
1はその温度より上では冷却後に5%を超えるマルテンサイトが形成される温度であり、冷間圧延鋼板を該均熱温度T
soakで500秒未満の均熱時間t
soakの間維持して熱処理鋼板を得る工程、
- 該熱処理鋼板を室温まで冷却する工程
によって提供される、請求項1に記載の鋼部品の製造方法。
【請求項3】
前記鋼板が、以下の連続工程、
- 請求項1に記載の組成を有する鋼スラブを熱間圧延して熱間圧延鋼板を得る工程、
- 200℃~700℃の間である巻き取り温度T
coilで該熱間圧延鋼板を巻き取る工程、
- 該熱間圧延鋼板を500~680℃である焼鈍温度T
HBAまで焼鈍して熱間圧延焼鈍鋼板を得る工程、
- 該熱間圧延焼鈍鋼板を冷間圧延して冷間圧延鋼板を得る工程、
- 該冷間圧延鋼板を780℃以上の温度T
soakまで加熱し、該均熱温度T
soakで500秒未満の均熱時間t
soakの間冷間圧延鋼板を維持して熱処理鋼板を得る工程、
- 20℃及び(Ms-50℃)である温度T
Qまで該熱処理鋼板を冷却し、150℃~550℃である分配温度T
Pまで該熱処理鋼板を加熱し、該分配温度T
Pで1秒~1800秒である分配時間t
Pの間鋼板を維持する工程、
- 該熱処理鋼板を室温まで冷却する工程
によって提供される、請求項1に記載の鋼部品の製造方法。
【請求項4】
前記鋼板が、以下の連続工程、
- 請求項1に記載の組成を有する鋼スラブを熱間圧延して熱間圧延鋼板を得る工程、
- 該熱間圧延鋼板を200℃~700℃である巻き取り温度T
coilで巻き取る工程、
- 該熱間圧延鋼板を室温まで冷却する工程
によって提供される、請求項1に記載の鋼部品の製造方法。
【請求項5】
前記T
warm温度が50℃~250℃である、請求項1に記載の鋼部品の製造方法。
【請求項6】
前記T
warmでの熱処理鋼の穴広げ率HER
Twarm及び20℃での鋼の穴広げ率HER
20℃は、以下の通り、
(HER
Twarm-HER
20℃)/HER
20℃≧50%
である、請求項1~5のいずれか一項に記載の鋼部品の製造方法。
【請求項7】
20℃での鋼の伸びElが10%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の鋼部品の製造方法。
【請求項8】
鋼のHER
20℃が10%以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の鋼部品の製造方法。
【請求項9】
熱処理鋼のHER
150℃が25%以上である、請求項1~8のいずれか一項に記載の鋼部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温間加工時の穴広げ率が高い鋼板から鋼部品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体構造部材及び車体パネルの部品等の各種物品を製造するために、DP(二相)鋼又はTRIP(変態誘起塑性)鋼から作製された板を用いることが知られている。
【0003】
TRIP鋼のカットエッジの強度は、残留オーステナイトの安定性に大きく依存する。実際、不安定なオーステナイトは、部品が切断されるときにマルテンサイトに不安定化し得、したがって損傷の開始の潜在的な部位になる。この影響を制限するために、改善された降伏強度及び引張強さ、良好な延性及び成形性、より具体的には良好な伸びフランジ性を有する鋼部品を得るために、新しい高強度鋼及び方法が製鋼産業によって継続的に開発されている。
【0004】
WO2017131052号には、温間加工性に優れ、かつ温間加工後の残留延性を有する温間加工性高強度鋼板が開示されている。この焼鈍鋼板の150℃の温度における伸びは27%より高い。このような特性を達成するためには、オーステナイト中の炭素含有率を0.4重量%未満に制御しなければならず、これは特に制約的である。実際、残留オーステナイト中のこの低い炭素レベルを確保するために、焼鈍鋼板の冷却は、2つのステップで制御及び実行されなければならず、すなわち、500℃まで50℃/秒の平均冷却速度で1回冷却し、この温度で保持工程、例えば亜鉛めっきし、Msから室温まで10℃/秒以上の平均冷却速度で1回冷却する。また、鋼部品の製造の重要な特徴である伸びフランジ性に関する情報は与えられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、上記の問題を解決し、温間加工中に25%以上の高い穴広げ率を有する鋼から鋼部品を得るための、従来の方法の経路上で容易に加工可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、請求項1に記載の方法を提供することによって達成される。方法はまた、請求項2~9のいずれかの特徴を含むことができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、「温間切断」という用語は、鋼ブランクが打ち抜き又は剪断される前に加熱される工程の部分を指す。
【0009】
以下、「室温」という用語は、20℃の温度を指す。
【0010】
次に、本発明による鋼の組成について説明し、含有率を重量パーセントで表す。
【0011】
以下では、Ae1は、それより下ではオーステナイトが完全に不安定になる平衡変態温度を指し、Ae3は、それより上ではオーステナイトが完全に安定になる平衡変態温度を指し、Msは、マルテンサイト開始温度、すなわち、冷却時にオーステナイトがマルテンサイトに変態し始める温度を指す。これらの温度は、対応する元素の重量パーセントに基づく式から計算することができる。
Ae1=670+15*%Si-13*%Mn+18*%Al
Ae3=890-20*√%C+20*%Si-30*%Mn+130*%Al
Ms=560-(30*%Mn+13*%Si-15*%Al+12*%Mo)-600*(1-exp(-0.96*%C))
【0012】
本発明によれば、炭素含有率は0.05%~0.25%である。0.25%超の炭素では、オーステナイト中の炭素の量は目標値より高く、温間切断の有益な効果を消滅させる。また、鋼板の溶接性が低下するおそれがある。炭素含有率が0.05%未満であると、室温で充分な伸びが得られるほど残留オーステナイト分率が安定化しない。本発明の好ましい実施形態では、炭素含有率は0.05%~0.2%である。より好ましくは、炭素含有率は0.1%~0.2%である。
【0013】
マンガン含有率は、オーステナイトの安定化とともに充分な伸びを得るために3.5%~8%である。8%超の添加では、中心部偏析のリスクは、鋼板及び鋼部品の延性を損なうまで増加する。3.5%未満では、最終組織は、不充分な残留オーステナイト分率を含み、その結果、所望の延性が達成されない。好ましくは、マンガン含有率は3.5%~7%である。より好ましくは、マンガン含有率は3.5%~5%である。
【0014】
本発明によれば、ケイ素含有率は、充分な量の残留オーステナイトを安定化させるために0.1%~2%である。2%を超えると、酸化ケイ素が表面に生じ、鋼の被覆性を損なう。本発明の好ましい実施形態では、ケイ素含有率は0.3%~1.5%である。
【0015】
本発明によれば、アルミニウムは、精錬中に液相中の鋼を脱酸し、焼鈍工程のウィンドウを増大させるのに非常に有効な元素であるため、アルミニウム含有率は0.01%~3%である。アルミニウム含有率は、内包物の発生を回避し、酸化の問題を回避するために、最大3%まで加えることができる。
【0016】
任意選択で、いくつかの元素を本発明による鋼の組成に添加することができる。
【0017】
クロムは、任意選択で0.5%まで添加することができる。0.5%を超えると飽和効果が認められ、クロムの添加は無用かつ高価である。
【0018】
モリブデンは、靭性を高めるために0.25%まで任意選択で添加することができる。0.25%を超えると、モリブデンの添加は費用がかかり、必要とされる特性を考慮すると効果的でない。
【0019】
鋼の組成の残余は、鉄及び製錬から生じる不純物である。この点において、P、S及びNは、少なくとも不可避的不純物である残留元素と考えられる。これらの含有率は、Sについては0.010%以下、Pについては0.020%以下、Nについては0.008%以下である。
【0020】
次に、本発明による鋼板の微細組織について説明する。鋼板は、表面分率で、10%~50%の残留オーステナイトと、50%以上のフェライト、ベイナイト及び焼戻しマルテンサイトの合計と、5%未満のフレッシュマルテンサイトと、2%未満の炭化物と、オーステナイト中の炭素[C]A含有率が厳密に0.4%超及び厳密に0.7%未満からなり、窒素%N、ケイ素%Si、マンガン%Mn、クロム%Cr、ニッケル%Ni、銅%Cu、モリブデン%Mo及びオーステナイト中の炭素[C]Aの重量パーセントは、Md30が200℃~350℃であるようなものであり、Md30は以下のように規定される微細組織を有する。
Md30(℃)=551-462*([C]A+%N)-9.2*%Si-8.1*%Mn-13.7*%Cr-29*(%Ni+%Cu)-18.5*(%Mo)
【0021】
鋼板の微細組織は、室温で鋼の高い延性を確保するために、10%~50%の残留オーステナイトを含む。
【0022】
オーステナイト中の炭素含有率は厳密に0.4%より高く、オーステナイトの安定性、室温での10%より高い伸びを保証し、鋼部品が目標の穴広げ率に達することができることを確保する。0.7%を超えると、オーステナイトが安定化しすぎ、鋼ブランクの温間切断は穴広げ率に影響を及ぼさない。この炭素含有率は、温間切断の前にXRD回折で測定される。
【0023】
鋼板の微細組織は、50%以上のフェライト、ベイナイト及び焼戻しマルテンサイトの合計を含む。フェライトは、鋼板の均熱中に形成される。
【0024】
本発明の好ましい実施形態では、提供される鋼板は、冷却及び分配工程を受ける冷間圧延鋼板であって、焼戻しマルテンサイトは、冷間圧延鋼板の分配時に形成される。提供される鋼板が熱間圧延鋼板である本発明の好ましい実施形態では、焼戻しマルテンサイトは自己焼戻しマルテンサイトであり、これは熱間圧延鋼板のMsを超える冷却中に形成される。
【0025】
フェライト、ベイナイト及び焼戻しマルテンサイト分率の合計が50%未満であると、室温で伸びが10%に達しない。
【0026】
鋼板の微細組織は、5%未満のフレッシュマルテンサイトを含む。5%を超えると、フレッシュマルテンサイトは鋼板の靭性を低下させる。鋼板の室温までの冷却中にフレッシュマルテンサイトが形成される。
【0027】
また、本発明の鋼板の微細組織は、2%未満の炭化物を含む。
【0028】
窒素%N、ケイ素%Si、マンガン%Mn、クロム%Cr、ニッケル%Ni、銅%Cu、モリブデン%Mo及びオーステナイト中の炭素[C]Aの重量パーセントは、Md30が200℃~350℃であるようなものである。このMd30温度は、残留オーステナイトの50%が30%の変形後にマルテンサイトに変換される温度に相当する。
【0029】
本発明による鋼部品は、任意の適切な製造方法によって製造することができ、当業者はそれを規定することができる。しかし、以下のステップを含む本発明による方法を使用することが好ましい。
【0030】
上記の組成及び微細組織を有する鋼板を提供し、所定の形状に切断して鋼ブランクを得る。
【0031】
次いで、鋼ブランクを(Md30-150℃)~(Md30-50℃)である温度Twarmまで加熱して熱処理鋼ブランクを得、該Twarm温度で打ち抜き又は剪断した後、該Twarm温度で成形して鋼部品を得る。(Md30-50℃)を超えると、オーステナイトが安定すぎて穴広げ率の向上が得られない。(Md30-150℃)未満では、オーステナイトはマルテンサイト中で不安定化し、損傷の開始の潜在的部位となり、低い穴広げ率をもたらす。
【0032】
本発明の好ましい実施形態では、鋼部品を製造するために提供される鋼板は、以下の連続工程によって製造される。
【0033】
上記組成の鋼スラブを熱間圧延して熱間圧延鋼板を得る。次いで、熱間圧延鋼板は、200℃~700℃である温度Tcoilで巻き取られる。巻き取り後、板を酸洗して酸化を除去することができる。
【0034】
次いで、熱間圧延鋼板を、500℃~680℃である焼鈍温度THBAまで焼鈍して、熱間圧延焼鈍鋼板を得る。この焼鈍は、炭化物又はオーステナイト中の炭素及びマンガン濃度のおかげで、最終焼鈍後に鋼軟化及びオーステナイトの安定性をもたらす。
【0035】
次いで、熱間圧延焼鈍鋼板を冷間圧延して冷間圧延鋼板を得る。冷間圧延圧下率は、好ましくは20%~80%の間である。20%未満では、その後の熱処理の際の再結晶が好ましくないため、鋼板の延性が損なわれるおそれがある。80%を超えると、冷間圧延中にエッジクラッキングのリスクがある。
【0036】
次いで、冷間圧延鋼板は、680℃以上かつ温度T1未満の温度Tsoakまで加熱され、T1は、その上では冷却後に5%超のマルテンサイトが形成される温度であり、微細な残留オーステナイト粒径、その結果として高い強度及び延性を維持するために、500秒未満の均熱時間tsoakの間、該均熱温度Tsoakに維持される。
【0037】
次いで、熱処理鋼板を室温まで冷却して、上記の微細組織を有する鋼板を得る。
【0038】
本発明の他の好ましい実施形態では、鋼部品を製造するために提供される鋼板は、以下の連続工程によって製造される。
【0039】
上記組成の鋼スラブを熱間圧延して熱間圧延鋼板を得る。次いで、熱間圧延鋼板は、200℃~700℃である温度Tcoilで巻き取られる。巻き取り後、板を酸洗して酸化を除去することができる。
【0040】
次いで、熱間圧延鋼板を、500℃~680℃である焼鈍温度THBAまで焼鈍して、熱間圧延焼鈍鋼板を得る。この焼鈍は、鋼軟化をもたらし、炭化物又はオーステナイト中の高い炭素及びマンガン濃度のおかげで最終焼鈍中にオーステナイトを安定化するのに役立つ。
【0041】
次いで、熱間圧延焼鈍鋼板を冷間圧延して冷間圧延鋼板を得る。冷間圧延圧下率は、好ましくは20%~80%の間である。20%未満では、その後の熱処理の際の再結晶が好ましくないため、鋼板の延性が損なわれるおそれがある。80%を超えると、冷間圧延中にエッジクラッキングのリスクがある。
【0042】
次いで、冷間圧延鋼板は、780℃以上の温度Tsoakまで加熱され、微細な残留オーステナイト粒径、したがって高い延性を維持するために、500秒未満の均熱時間tsoakの間、該均熱温度Tsoakに維持される。
【0043】
次いで、熱処理鋼板は、20℃~(Ms-50℃)である温度TQまで冷却され、150℃~550℃である分配温度TPまで加熱され、1秒~1800秒である分配時間tPの間、該分配温度TPに維持される。次いで、熱処理鋼板を室温まで冷却して、上記の微細組織を有する鋼板を得る。
【0044】
他の好ましい実施形態では、鋼部品を製造するために提供される鋼板は、以下の連続工程によって製造される。
【0045】
上記組成の鋼スラブを熱間圧延して熱間圧延鋼板を得る。次いで、熱間圧延鋼板は、室温まで冷却する前に、200℃~700℃である温度Tcoilで巻き取られる。
【0046】
本発明によれば、Twarmに加熱された熱処理鋼の穴広げ率HERTwarm、及び20℃における鋼の穴広げ率HER20℃は、(HERTwarm-HER20℃)/HER20℃が50%以上であるようなものである。
【0047】
好ましくは、150℃のTwarmまで加熱された熱処理鋼の穴広げ率HER150℃、及び20℃における鋼の穴広げ率HER20℃は、(HER150℃-HER20℃)/HER20℃が50%以上であるようなものである。
【0048】
HERはISO 16630に従って測定される。
【0049】
本発明によれば、鋼は、室温で10%以上の伸びElを有する。Elは、ISO規格ISO 6892-1に従って測定される。
【0050】
本発明の好ましい実施形態では、鋼は10%以上のHER20℃を有する。本発明の他の好ましい実施形態では、熱処理鋼は、25%以上のHER150℃を有する。
【実施例】
【0051】
表1に組成がまとめられている3つのグレードを半製品に鋳造し、鋼板に加工した。
【0052】
<表1-組成>
試験した組成を以下の表にまとめ、元素含有率を重量パーセントで表す。
【0053】
【0054】
<表2-鋼板の工程のパラメータ>
鋳造された鋼半製品を1200℃で再加熱し、熱間圧延し、次いで450℃で巻き取った。次いで、熱間圧延鋼板を、500℃~680℃である温度THBAまで加熱し、保持時間tHBAの間該温度に維持する。次いで、熱間圧延熱処理鋼板を、50%の圧下率で冷間圧延し、その後、均熱温度Tsoakまで加熱し、保持時間tsoakの間、該温度に維持する。試行3及び4では、熱処理鋼板をMs-50℃未満まで焼き入れした後、分配温度TPまで加熱し、保持時間tPの間該TP温度に維持する。
【0055】
次いで、鋼板を室温まで冷却する。以下の熱処理鋼板を得るための具体的な条件を適用した。
【0056】
【0057】
鋼板を分析し、対応する微細組織を表3にまとめる。
【0058】
<表3-鋼板の微細組織>
鋼板の微細組織を決定した。
【0059】
【0060】
[C]Aは、重量パーセントでのオーステナイト中の炭素の量に対応する。これはX線回折で測定する。
【0061】
微細組織中の相の表面分率は、以下の方法によって決定する。すなわち、試料を鋼板から切断し、研磨し、それ自体既知の試薬でエッチングして、微細組織を暴露する。その後、切片を5000倍を超える倍率で二次電子モードで、走査型電子顕微鏡、例えば、電界放出銃を備えた電子顕微鏡(「FEG-SEM」)で検査する。
【0062】
フェライトの表面分率の決定は、Nital又はPicral/Nital試薬エッチング後のSEM観察により行う。
【0063】
残留オーステナイトの体積分率の決定は、X線回折によって行う。
【0064】
マルテンサイトの種類の決定は、走査型電子顕微鏡によって行い、定量化することができる。
【0065】
炭化物のパーセンテージは、電界放出銃を備えた走査型電子顕微鏡(FEG-SEM)及び15000倍を超える倍率での画像解析によって調べた板の断面により決定する。
【0066】
次いで、鋼板を切断して、鋼ブランクを得た。鋼ブランクを室温(20℃)で分析し、対応する機械的特性を表4にまとめる。
【0067】
次いで、鋼ブランクを150℃の温度Twarmまで再加熱した後、該Twarm温度で打ち抜き又は剪断した。
【0068】
熱処理鋼ブランクを分析し、対応する機械的特性を表4にまとめる。
【0069】
<表4-鋼ブランクの機械的特性>
【0070】
【0071】
試行1~3では、組成及び製造条件は本発明に対応する。したがって、所望の特性が得られる。鋼ブランクの温間切断の効果は、特に、HER20℃の室温での穴広げ率と比較して、150℃での穴広げ率HER150℃の増加によって強調される。
【0072】
試行4では、鋼板の炭素含有率は高すぎ、オーステナイト中の炭素含有率が高くなる。このことは、オーステナイトが安定化し、穴広げ率に対する温間切断の効果を消滅させることを意味する。
【0073】
試験5では、鋼を試行1及び2と比較してより高い温度で焼鈍する。したがって、多量のオーステナイトが、内部の低い炭素含有率で形成され、したがって、試行1及び2におけるよりも安定性が低い。したがって、このオーステナイトは、冷却及び温間切断中にフレッシュマルテンサイトに変態する。この量のフレッシュマルテンサイトは、室温で10%未満の鋼部品の伸びをもたらす。
【国際調査報告】