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特表2024-527250膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石及びその製造方法並びに応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-24
(54)【発明の名称】膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石及びその製造方法並びに応用
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20240717BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20240717BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20240717BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20240717BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20240717BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
H01F1/057
B32B9/00 A
B22F3/24 102Z
C23C26/00 A
H01F7/02
H01F41/02 G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023576226
(86)(22)【出願日】2022-06-13
(85)【翻訳文提出日】2023-12-11
(86)【国際出願番号】 CN2022098424
(87)【国際公開番号】W WO2022258069
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】202110657206.1
(32)【優先日】2021-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522310502
【氏名又は名称】烟台正海磁性材料股▲フン▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】523304098
【氏名又は名称】南通正海磁材有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】李志強
(72)【発明者】
【氏名】于永江
(72)【発明者】
【氏名】周彬
(72)【発明者】
【氏名】宿雲▲ティン▼
(72)【発明者】
【氏名】李▲ウェン▼
【テーマコード(参考)】
4F100
4K018
4K044
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4F100AB01A
4F100AB03A
4F100AB31A
4F100AD00B
4F100AK01B
4F100AK25B
4F100AK52B
4F100BA02
4F100CC00B
4F100EH46B
4F100GB51
4F100JB09B
4F100JG06A
4F100YY00B
4K018AA27
4K018BA18
4K018DA11
4K018FA21
4K018KA45
4K044AA02
4K044AB10
4K044BA21
4K044BB01
4K044BC02
4K044BC11
4K044CA04
4K044CA53
5E040AA04
5E040BC05
5E040BD01
5E040CA01
5E040HB14
5E040NN18
5E062CD04
5E062CG01
5E062CG07
(57)【要約】
本発明は、膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石及び製造方法並びに応用を開示し、前記磁石は、ネオジム鉄ボロン系焼結磁石及びネオジム鉄ボロン系焼結磁石の表面に塗布された膨張可能なコーティングを含む。本発明は、従来のエポキシ樹脂接着コーティング磁石にポッティング樹脂接着剤を塗布する代わりに、膨張可能なコーティングが塗布されたネオジム鉄ボロン系焼結磁石を用いることにより、膨張可能なコーティングが塗布された磁石を磁性鋼溝内に挿入し、コーティング自体の不可逆膨張を利用して磁性鋼溝に磁石を固定することができる。同時に、本発明の膨張可能なコーティングを使用することにより、モーターの組み立て時間を大幅に短縮すると共に、モーターの組み立て精度を向上させる。且つ、本発明の膨張可能なコーティングが塗布された焼結磁石は、優れた抗高温、抗老化、耐食性及び高い結合力などの優れた特性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石であって、
前記磁石は、ネオジム鉄ボロン系焼結磁石及びネオジム鉄ボロン系焼結磁石の表面に塗布された膨張可能なコーティングを含み、
好ましくは、前記膨張可能なコーティングの厚さは50~300μm、好ましくは80~150μmであり、
好ましくは、前記膨張可能なコーティングは60~100℃で軟化され、
好ましくは、圧力がない状態で、前記膨張可能なコーティングの厚さの膨張率は200~400%、好ましくは300~400%であり、
好ましくは、前記膨張可能なコーティングは、膨張後にコーティングがハニカム状を呈し、好ましくは、前記膨張可能なコーティングは、膨張後に基本的に図1に示される形態を有する、
ことを特徴とする膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石。
【請求項2】
前記膨張可能なコーティングには、少なくとも水溶性樹脂及び発泡剤が含まれ、
好ましくは、前記水溶性樹脂は、水溶性アクリル樹脂、水性エポキシ樹脂及び水性ウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種であり、
好ましくは、前記膨張可能なコーティングにおいて、前記水溶性樹脂の固形分含有量は30~50%である、
ことを特徴とする請求項1に記載の膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石。
【請求項3】
前記発泡剤は熱可塑性膨張微小球であり、
好ましくは、前記熱可塑性膨張微小球の直径は5~30μm、好ましくは5~20μmであり、
好ましくは、前記膨張可能なコーティングが膨張後、膨張微小球の面積は膨張コーティングの断面積の60~90%を占め、
好ましくは、前記熱可塑性膨張微小球の平均直径は10~15μmであり、
好ましくは、前記熱可塑性膨張微小球の膨張温度は110~210℃であり、
好ましくは、前記熱可塑性膨張微小球の最高耐熱温度は145~235℃である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石。
【請求項4】
前記膨張可能なコーティングは、少なくとも水溶性樹脂及び発泡剤の組成を含む膨張可能な塗料を塗布して製造され、
好ましくは、前記膨張可能な塗料における水溶性樹脂の重量百分率は45~65%、例えば50~60%であり、
好ましくは、前記膨張可能な塗料における発泡剤の重量百分率は10~30%、例えば15~25%である、
ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石。
【請求項5】
前記膨張可能な塗料には、任意選択的にラポナイトが更に含まれ、
好ましくは、前記ラポナイトの重量百分率は0.1~0.5%、また例えば0.2~0.4%であり、
好ましくは、前記膨張可能な塗料には、任意選択的にジプロピレングリコールブチルエーテルが更に含まれ、
好ましくは、前記ジプロピレングリコールブチルエーテルの重量百分率は0.5~3%、また例えば0.8~2.5%であり、
好ましくは、前記膨張可能な塗料には、任意選択的にプロピレングリコールが更に含まれ、
好ましくは、前記プロピレングリコールの重量百分率は1~3%、また例えば1.5~2.5%であり、
好ましくは、前記膨張可能な塗料には、任意選択的にアクリル増粘剤が更に含まれ、
好ましくは、前記アクリル増粘剤の重量百分率は0.2~0.8%、また例えば0.3~0.6%であり、
好ましくは、前記膨張可能な塗料には、任意選択的に分散剤が更に含まれ、
好ましくは、前記分散剤の重量百分率は0.1~0.5%、また例えば0.2~0.4%であり、
好ましくは、前記分散剤は、エチレングリコール、オレイン酸ナトリウム、カルボキシレートなどであり、
好ましくは、前記膨張可能なコーティングには、任意選択的にレベリング剤が更に含まれ、
好ましくは、前記レベリング剤の重量百分率は0.1~0.5%、また例えば0.2~0.4%であり、
好ましくは、前記レベリング剤は、シリコーンオイル、有機シロキサンなどであり、
好ましくは、前記膨張可能な塗料には水が更に含まれ、
好ましくは、前記膨張可能な塗料における各組成の重量百分率の和は100%である、
ことを特徴とする請求項4に記載の膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石。
【請求項6】
前記膨張可能なコーティングは、水溶性樹脂45~65%、発泡剤10~30%、ラポナイト0.1~0.5%、ジプロピレングリコールブチルエーテル0.5~3%、プロピレングリコール1~3%、アクリル増粘剤0.2~0.8%、分散剤0.1~0.5%、レベリング剤0.1~0.5%といった重量百分率の組成を含む膨張可能な塗料を塗布して製造され、
好ましくは、前記ネオジム鉄ボロン系焼結磁石は、主相Nd2Fe14B、Ndリッチ相及びBリッチ相からなる、
ことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石。
【請求項7】
膨張可能な焼結磁石の製造方法であって、
前記製造方法は、前記各組成を含む膨張可能な塗料をネオジム鉄ボロン系焼結磁石の表面に塗布し、予備硬化処理を経て前記膨張可能な焼結磁石を製造することを含み、
好ましくは、前記ネオジム鉄ボロン系焼結磁石に膨張可能な塗料を塗布する前、表面前処理のステップを更に含み、
好ましくは、前記表面前処理は、ネオジム鉄ボロン系焼結磁石の表面に対する化学的、超音波で油除去、酸洗い、水洗いのプロセスを含み、
好ましくは、前記油除去プロセスに使用される油除去液は塩基と界面活性剤との複合溶液であり、
好ましくは、前記塩基は水酸化ナトリウム又は炭酸ナトリウムであり、その濃度は10~20g/Lであり、
好ましくは、前記界面活性剤はドデシルスルホン酸ナトリウム又はドデシル硫酸ナトリウムであり、その濃度は2~6g/Lであり、
好ましくは、前記油除去液の温度は30~70℃、前記油除去の時間は1~20minであり、
好ましくは、前記酸洗いに使用される酸は硝酸又はクエン酸水溶液であってもよく、
好ましくは、前記酸洗いに使用される酸液の濃度は5~30wt%、前記酸洗いの時間は5~30sであり、
好ましくは、前記塗布方法は、スプレー、印刷、浸漬、塗抹などを含むが、これらに限定されず、好ましくはスプレーであり、
好ましくは、前記塗布の厚さは50~300μm、好ましい厚さは80~150μm、例示的には50μm、80μm、110μm、150μm、180μm、200μm、250μm、300μmである、
ことを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の膨張可能な焼結磁石の製造方法。
【請求項8】
モーターローターにおける、請求項1~6の何れか一項に記載の膨張可能な焼結磁石及び/又は請求項7に記載の製造方法により製造される膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石の応用。
【請求項9】
請求項1~6の何れか一項に記載の膨張可能な焼結磁石及び/又は請求項7に記載の製造方法により製造される膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石を含む、
ことを特徴とするモーターローターワーク。
【請求項10】
請求項1~6の何れか一項に記載の膨張可能な焼結磁石及び/又は請求項7に記載の製造方法により製造される膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石を磁性鋼溝に組み立て、加熱膨張処理を経て、前記モーターローターワークを製造することを含み、
好ましくは、前記加熱膨張処理は二段階昇温法を採用し、第1膨張段階の膨張温度は110~160℃、第1膨張段階の昇温速度は5~15℃/minであり、
好ましくは、前記加熱膨張処理の第2膨張段階の膨張温度は180~210℃、第2膨張段階の昇温速度は30~60℃/minである、
ことを特徴とする請求項9に記載のモーターローターワークの組み立て方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2021年6月11日に中国国家知識産権局に提出された、特許出願番号が202110657206.1、発明名称が「膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石及びその製造方法並びに応用」である先行出願の優先権を主張する。上記先行出願は全体として援用により本願に組み込まれている。
【0002】
本発明は、磁性材料表面保護の技術分野に関し、具体的には膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石及び製造方法並びに応用に関する。
【背景技術】
【0003】
ネオジム鉄ボロン系焼結磁石は、優れた残留磁気、保磁力及び磁気エネルギー積を有することから、現代「磁気キング」と呼ばれる。従って、エネルギー、交通、機械、医療、IT、家電などの産業に広く適用されており、特に、新エネルギーの開発及び利用に伴い、ネオジム鉄ボロン系焼結磁石の需要及び適用が拡大している。ネオジム鉄ボロン系焼結磁石の出現は、永久磁石モーターの発展を大幅に促進し、従来のフェライト磁石又はサマリウムコバルト磁石をモーターステーター又はローターに使用する製品は、ネオジム鉄ボロン系焼結永久磁石を代替として使うことを図り、モーターの軽量化、パワー係数の向上及び出力パワーの増加を図っている。しかし、焼結ネオジム鉄ボロンは、主相Nd2Fe14B、Ndリッチ相及びBリッチ相からなり、そのうち、金属Nd元素の化学的活性が最も強く、湿潤、高温及び電気化学的環境において非常に腐食されやすいため、ネオジム鉄ボロン系焼結磁石の応用分野の更なる拡張を著しく制限する。
【0004】
現在、電気機械産業は、表面保護のために、厚さが15~30μmの電気泳動エポキシ樹脂コーティングを一般的に使用しており、当該コーティングは、基材との結合力が強く、また、耐酸性、耐塩基性などの優れた利点を有する。しかし、モーターの組み立てプロセスにおいて、ポッティング樹脂接着剤を使用して組み立てる必要があり、即ち、磁石を磁性鋼溝内に挿入し、更に樹脂接着剤を注入すると共に、加熱硬化させて磁石を磁性鋼溝内に固定する。従って、モーターの組み立てプロセスにおいて、樹脂接着剤の流動性、接着性、熱伝導性、耐油性、環境保護性などの要因を考慮する必要があるだけではなく、同時に、樹脂接着剤の加熱硬化に比較的時間が掛かるため、モーターの組み立てにおける接着力の要件を満たすために、通常、24 h以上の加熱硬化が必要である。また、エポキシ樹脂接着コーティングは、優れた性能を有するが、当該コーティングの硬度が比較的小さく、耐摩耗性が極めて悪く、梱包輸送及びモーター組み立ての時に破損しやすく、且つエポキシ樹脂接着コーティングが陰極保護コーティングであるため、一旦コーティングが破損すると、磁石が激しく腐食される。従って、如何に磁石を磁性鋼溝内に固定し、そしてコーティングの硬度及び耐摩耗性を高めることは、当該技術分野において解決すべき技術問題である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記技術問題を改善するために、本発明は、ネオジム鉄ボロン系焼結磁石及びネオジム鉄ボロン系焼結磁石の表面に塗布された膨張可能なコーティングを含む、膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石を提供する。
【0006】
本発明の実施形態によれば、上記膨張可能なコーティングの厚さは50~300 μm、好ましくは80~150 μm、例示的には50 μm、80 μm、110 μm、150 μm、180 μm、200 μm、250 μm、300 μmである。
【0007】
本発明の実施形態によれば、上記膨張可能なコーティングは60~100℃で軟化され、例示的には60℃、70℃、80℃、90℃、100℃で軟化される。
【0008】
本発明の実施形態によれば、圧力がない状態で、上記膨張可能なコーティングの厚さの膨張率は200~400%、好ましくは300~400%、例示的には200%、220%、250%、280%、300%、350%、400%である。
【0009】
本発明の膨張可能なコーティングは165~210℃の加熱で、膨張可能なコーティング内部の有機樹脂が架橋されて、固定成形を実現する。
【0010】
本発明の実施形態によれば、上記膨張可能なコーティングは、膨張後にコーティングがハニカム状を呈する。好ましくは、上記膨張可能なコーティングは、膨張後に基本的に図1に示される形態を有する。
【0011】
本発明において、膨張率=自由状態におけるコーティング膨張後の厚さ/膨張可能なコーティング膨張前の厚さである。
【0012】
本発明の実施形態によれば、上記膨張可能なコーティングにおいて、少なくとも水溶性樹脂及び発泡剤が含まれる。
【0013】
好ましくは、上記水溶性樹脂は、水溶性アクリル樹脂、水性エポキシ樹脂及び水性ウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種である。好ましくは、水溶性アクリル樹脂から選ばれる。
【0014】
本発明の実施形態によれば、上記膨張可能なコーティングにおいて、上記水溶性樹脂の固形分含有量は30~50%、例示的には30%、35%、40%、50%である。
【0015】
好ましくは、上記発泡剤は熱可塑性膨張微小球であり、好ましくは、上記熱可塑性膨張微小球の直径は5~30 μm、好ましくは5~20 μm、例示的には5 μm、8 μm、10 μm、12 μm、15 μm、18 μm、20 μm、25 μm、30 μmである。
【0016】
本発明の実施形態によれば、上記膨張可能なコーティングが膨張後、膨張微小球の面積は、膨張コーティングの断面積の60~90%を占め、例示的には60%、70%、80%、90%である。
【0017】
本発明の実施形態によれば、110~210℃(例示的には110℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃)において、上記膨張可能なコーティング内部の膨張微小球は、段階的に膨張する。
【0018】
好ましくは、上記熱可塑性膨張微小球の平均直径は10~15 μm、例示的には10 μm、12 μm、15 μmである。
【0019】
好ましくは、上記熱可塑性膨張微小球の膨張温度は110~210℃、例示的には110℃、120℃、150℃、160℃、170℃、180℃、200℃である。
【0020】
好ましくは、上記熱可塑性膨張微小球の最高耐熱温度は145~235℃、例示的には145℃、160℃、180℃、200℃、215℃、235℃である。
【0021】
本発明の実施形態によれば、上記膨張可能なコーティングは、少なくとも水溶性樹脂及び発泡剤の組成を含む膨張可能な塗料を塗布して製造される。
【0022】
本発明の実施形態によれば、上記膨張可能な塗料における水溶性樹脂の重量百分率は45~65%、例えば50~60%である。
【0023】
本発明の実施形態によれば、上記膨張可能な塗料における発泡剤の重量百分率は10~30%、例えば15~25%である。
【0024】
本発明の実施形態によれば、上記膨張可能な塗料には、任意選択的にラポナイトが更に含まれる。例えば、上記ラポナイトの重量百分率は0.1~0.5%、また例えば0.2~0.4%である。
【0025】
本発明の実施形態によれば、上記膨張可能な塗料には、任意選択的にジプロピレングリコールブチルエーテルが更に含まれる。例えば、上記ジプロピレングリコールブチルエーテルの重量百分率は0.5~3%、また例えば0.8~2.5%である。
【0026】
本発明の実施形態によれば、上記膨張可能な塗料には、任意選択的にプロピレングリコールが更に含まれる。例えば、上記プロピレングリコールの重量百分率は1~3%、また例えば1.5~2.5%である。
【0027】
本発明の実施形態によれば、上記膨張可能な塗料には、任意選択的にアクリル増粘剤が更に含まれる。例えば、上記アクリル増粘剤の重量百分率は0.2~0.8%、また例えば0.3~0.6%である。
【0028】
本発明の実施形態によれば、上記膨張可能な塗料には、任意選択的に分散剤が更に含まれる。例えば、上記分散剤の重量百分率は0.1~0.5%、また例えば0.2~0.4%である。
好ましくは、上記分散剤は、エチレングリコール、オレイン酸ナトリウム、カルボキシレートなどである。
【0029】
本発明の実施形態によれば、上記膨張可能なコーティングには、任意選択的にレベリング剤が更に含まれる。例えば、上記レベリング剤の重量百分率は0.1~0.5%、また例えば0.2~0.4%である。
【0030】
好ましくは、上記レベリング剤は、シリコーンオイル、有機シロキサンなどである。
本発明の実施形態によれば、上記膨張可能な塗料には水が更に含まれる。
本発明の実施形態によれば、上記膨張可能な塗料における各組成の重量百分率の和は100%である。
【0031】
本発明の実施形態によれば、上記膨張可能な塗料の製造方法は、上記各組成を混合し、上記膨張可能な塗料を得ることを含む。
【0032】
好ましくは、上記膨張可能な塗料の製造方法は、混合後の各組成を水に分散し、分散液を得ることを更に含む。更に、上記分散液を撹拌して均一に混合することを更に含む。
本発明において、選別装置により膨張微小球を選別して、粒径範囲が5~30 μmの膨張微小球を選び出し、そして水溶性樹脂と混合し、常温で30~60 min撹拌する。
【0033】
本発明の実施形態によれば、上記膨張可能なコーティングは、水溶性樹脂45~65%、発泡剤10~30%、ラポナイト0.1~0.5%、ジプロピレングリコールブチルエーテル0.5~3%、プロピレングリコール1~3%、アクリル増粘剤0.2~0.8%、分散剤0.1~0.5%、レベリング剤0.1~0.5%といった重量百分率の組成を含む膨張可能な塗料を塗布して製造される。
【0034】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、加熱膨張プロセスにおいて、膨張率を300~400%の範囲内に制御する必要があり、膨張率が200%より小さい場合、磁石と磁性鋼溝との間の隙間が密に充填できず、一方、膨張率が400%より大きい場合、コーティング内部の架橋が破壊され、押付力が不十分となることを見出した。且つ、膨張率は、コーティングにおける微小球の含有量、粒径、膨張温度、膨張時間、コーティングの厚さなどの条件に関わり、本発明は、膨張可能なコーティングにおける各組成の原料の使用量及び膨張条件を最適化することによって、膨張倍率を適切な範囲内に制御して、更に優れた接着押付力を有するネオジム鉄ボロン系焼結磁石を製造することができる。
【0035】
本発明の実施形態によれば、上記ネオジム鉄ボロン系焼結磁石は、主相Nd2Fe14B、Ndリッチ相及びBリッチ相からなる。
【0036】
本発明は、上記膨張可能な焼結磁石の製造方法であって、上記各組成の膨張可能な塗料をネオジム鉄ボロン系焼結磁石の表面に塗布し、予備硬化処理を経て上記膨張可能な焼結磁石を製造することを含む、製造方法を更に提供する。
【0037】
本発明の実施形態によれば、上記ネオジム鉄ボロン系焼結磁石に膨張可能な塗料を塗布する前、表面前処理のステップを更に含む。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、上記表面前処理は、ネオジム鉄ボロン系焼結磁石の表面に対する化学的、超音波で油除去、酸洗い、水洗いのプロセスを含む。
好ましくは、上記油除去プロセスに使用される油除去液は塩基と界面活性剤との複合溶液である。
【0039】
好ましくは、上記塩基は水酸化ナトリウム又は炭酸ナトリウムであり、その濃度は10~20 g/L、例示的には10 g/L、15 g/L、20 g/Lである。
【0040】
好ましくは、上記界面活性剤はドデシルスルホン酸ナトリウム又はドデシル硫酸ナトリウムであり、その濃度は2~6 g/L、例示的には2 g/L、3 g/L、4 g/L、5 g/L、6 g/Lである。
【0041】
好ましくは、上記油除去液の温度は30~70℃、例示的には30℃、40℃、50℃、60℃、70℃である。更に、上記油除去の時間は1~20 min、例示的には1 min、5 min、10 min、15 min、20 minである。
【0042】
好ましくは、上記酸洗いに使用される酸は硝酸又はクエン酸水溶液であってもよい。
【0043】
好ましくは、上記酸洗いに使用される酸液濃度は5~30 wt%、例示的には5 wt%、10 wt%、15 wt%、20 wt%、25 wt%、30 wt%である。更に、上記酸洗いの時間は5~30 s、例示的には5 s、10 s、15 s、20 s、25 s、30 sである。
【0044】
好ましくは、上記水洗いは、純水を用いた超音波で水洗いを含む。更に、上記水洗いの時間は20~120 s、例示的には20 s、30 s、50 s、80 s、100 s、120 sである。
【0045】
本発明の実施形態によれば、上記塗布方法は、スプレー、印刷、浸漬、塗抹などを含むが、これらに限定されない。好ましくはスプレーである。
【0046】
本発明の実施形態によれば、上記塗布の厚さは50~300 μm、好ましい厚さは80~150 μm、例示的には50 μm、80 μm、110 μm、150 μm、180 μm、200 μm、250 μm、300 μmである。
【0047】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、膨張可能なコーティングの塗布厚さが薄すぎると、組み立てプロセスにおいて膨張力が不十分であるため、所定の押付力に達成することができないことを見出した。しかし、膨張可能なコーティングの塗布厚さが厚すぎると、コーティングの表面に脱落、亀裂が生じやすくなる。且つ、膨張可能なコーティングの塗布厚さは磁性鋼溝の予備寸法に関わり、予備寸法が大きいほど、必要なコーティング厚さは厚くなる。発明者らは、驚くべきことに、コーティングが膨張した後、磁性鋼溝内におけるコーティングの膨張圧縮率が35~65%の間で最も効果が高く、この際に磁石と磁性鋼溝との接着力が最も高く、磁性鋼溝内における磁石の押付力が最も大きいことを見出した。
【0048】
膨張圧縮率m=(H1-H0)/(H2-H0
そのうち、H0は膨張可能なコーティングの塗布厚さ、H1は磁性鋼溝内における膨張可能なコーティングの膨張後の厚さ、H2は自然状態における膨張可能なコーティングの膨張後の厚さである。
【0049】
本発明の実施形態によれば、上記予備硬化処理は、コーティングを常温の条件(15~35℃)で自然乾燥させることであってもよく、中低温(35~90℃)の焼成条件で乾燥して完全なコーティングを形成することであってもよい。
【0050】
本発明は、モーターローターにおける、上記膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石の応用を更に提供する。
【0051】
本発明は、上記膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石を含むモーターローターワークを更に提供する。
【0052】
本発明は、上記膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石を磁性鋼溝内に組み立て、加熱膨張処理を経て、上記モーターローターワークを製造することを含む、上記モーターローターワークの組み立て方法を更に提供する。
【0053】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、膨張コーティングの最終的な使用性能が膨張組み立てプロセスにおける膨張温度、昇温速度、保温時間に関わり、膨張温度が膨張コーティングの最終構造に直接に影響を与えることを見出した。
【0054】
本発明の実施形態によれば、上記加熱膨張処理は二段階昇温法を採用し、第1膨張段階の膨張温度は110~160℃、例示的には110℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃である。更に、第1膨張段階の昇温速度は5~15℃/min、例示的には5℃/min、10℃/min、15℃/minである。
【0055】
第1膨張段階の膨張温度が110℃より低い場合、大量の微小球が膨張できず、必要な膨張倍率に達することができない。しかし、第1膨張段階の膨張温度が160℃より高い場合、微小球が急速に膨張するが、コーティングにおける微小球の粒径のサイズが異なるため、粒径の小さい微小球が急速に膨張して破裂し、コーティングが早期に崩壊し、従って相応する支持力が得られない。且つ、第1膨張段階の昇温速度を5~15℃/minに制御する場合、膨張コーティングを均一に膨張させることができ、膨張微小球は昇温プロセスにおいて体内の液化炭化水素が十分に気化し、コーティングを緩やか且つ均一に膨張させることができる。
【0056】
本発明の実施形態によれば、上記加熱膨張処理の第2膨張段階の膨張温度は180~210℃、例示的には180℃、190℃、200℃、210℃である。更に、第2膨張段階の昇温速度は30~60℃/min、例示的には30℃/min、40℃/min、50℃/min、60℃/minである。コーティングが均一に膨張した後、昇温を加速して、コーティングにおける熱可塑性樹脂を急速に硬化させる。
【0057】
本発明の熱可塑性膨張微小球は、熱可塑性樹脂外殻及びその中に包まれた推進剤からなり、推進剤の70%以上がイソオクタンからなる。推進剤は、イソオクタン以外に、ブタン、ペンタン、ヘプタンなどの他の適切な沸点範囲内の液体から選ばれてもよい。加熱膨張プロセスにおいて、膨張微小球内の液態推進剤が沸点に達した後、推進剤が蒸発して微小球の内圧を上昇させ、推進剤の体積変化を起こし、熱により柔軟になった外殻を変形して膨張させると同時に、外殻を軟化して微小球の膨張を制限する。膨張開始時の温度をTstar、最大膨張度に達する時の温度をTmaxとし、温度がTmaxを超えると、推進剤は熱可塑性樹脂外殻を通して微小球が破裂し始める程度まで放出される。
【0058】
第1膨張段階において、コーティングにおける高沸点溶剤が揮発し、粒径<10 μm、肉厚<3 μmの膨張微小球の外殻を溶解し、外殻壁を薄くし、最大膨張温度に達していない時に破裂する。膨張コーティングにおける>60%の微小球が破裂し、破裂後、微小球中の推進剤が放出され、微小球が膨張を加速せずに空隙構造を形成し、微小球の外壁の熱可塑性樹脂がコーティング中の水溶性樹脂と架橋して網目構造を形成して、磁石の磁性鋼溝内における接着力を増加させる。
【0059】
第2膨張段階において、コーティングにおける粒径>10 μmの膨張微小球は膨張し続けるが、この場合、コーティングにおける高沸点溶剤は既に揮発しており、膨張微小球の外殻の破裂を加速させない。この場合、第2膨張段階の最大膨張温度は、粒径>10 μmの微小球の最大膨張温度より低く、推進剤の放出速度は緩やかになる。
【0060】
本発明の膨張微小球は、放出剤がイソオクタンを70%以上含むため、膨張プロセス中のイソオクタンの放出量を検測することにより、コーティングの膨張速度を制御し、コーティングにおける60%以上の微小球を破裂させ、更に水溶性樹脂と架橋して網目構造を形成することができる。
【0061】
本発明は、収集したガスを検測して、膨張プロセス中のイソオクタンのガス放出量を決定することにより、膨張微小球の破裂の比率を制御することができる。検測方法は以下の通りである:
膨張コーティングで塗布された磁石(規格は35.5 mm×16.5 mm×5.5 mm)を取り、密封されたサンプル瓶内に設置し、膨張組み立てプロセス中の膨張プロセス条件と同じ加熱温度及び昇温速度で加熱し、加熱終了後、60℃まで自然冷却し、窒素ガスを用いてサンプル瓶内のガスを気相カラム内にパージして検測し、その時のイソオクタン含有量w1を記録し、
サンプル瓶内の磁石を継続的に昇温し、膨張微小球の最大膨張温度Tmaxより高い温度(240℃)で3 h加熱し、膨張コーティングにおける微小球を完全に破裂させ、微小球におけるイソオクタンを完全に放出させ、その時のイソオクタン含有量w2を記録する。
【0062】
イソオクタンの放出量から、微小球の破裂比率q=w1/(w1+w2)を計算する。
【0063】
発明者らは、大量の実験を重ねた結果、驚くべきことに、微小球の破裂比率qが60~85%の範囲内にある場合、膨張コーティングが何れも優れた支持効果を示し、使用環境において、膨張磁石が何れも比較的高い押付力を有し、且つコーティングの接着性が最も高いことを見出した。
【0064】
膨張コーティングはまず軟化プロセスを経て、コーティング内の膨張微小球が熱により体積が増大し、膨張コーティング全体の厚さが増加し、モーター組立品の内壁に押圧力を生じ、同時に膨張コーティング内の熱溶融性樹脂が軟化後に一定の接着力を生じ、焼結磁石をモーター組立品に固定して組み立てプロセスを完了する。
【発明の効果】
【0065】
(1)本発明は、従来のエポキシ樹脂接着コーティング磁石にポッティング樹脂接着剤を塗布する代わりに、膨張可能なコーティングが塗布されたネオジム鉄ボロン系焼結磁石を用いることにより、膨張可能なコーティングが塗布された磁石を磁性鋼溝内に挿入し、コーティング自体の不可逆膨張を利用して磁性鋼溝に磁石を固定することができる。同時に、本発明の膨張可能なコーティングを使用することにより、モーターの組み立て時間を大幅に短縮すると共に、モーターの組み立て精度を向上させる。且つ、本発明の膨張可能なコーティングが塗布された焼結磁石は、優れた抗高温、抗老化、耐食性及び高い結合力などの優れた特性を有する。
【0066】
(2)本発明は、従来のポッティング樹脂の代わりに、特別に配合した環境に優しい水性膨張塗料を利用するため、溶剤型バインダーによるVOC放出及び環境問題を減らすことができる。
【0067】
(3)本発明は、膨張可能なコーティングにおける膨張微小球の含有量を10~30%に制御することにより、熱により膨張した後、水溶性樹脂が膨張微小球と互いに架橋してハニカム状の多孔質構造を形成し、そのうち空孔率が60~90%に達し、常温での組立品における接着押付力が1000 N/cm2より大きい。
【0068】
(4)本発明で製造された膨張コーティングは、常温(25℃)の条件で硬度が三菱鉛筆H以上に達し、耐摩耗性が高く、輸送プロセスにおいてコーティング表面が破壊されにくい。且つ、本発明の膨張コーティングを10%の塩酸、10%の水酸化ナトリウム溶液に24 h以上浸漬しても、当該コーティングは、軟化、溶解、脱落などの欠陥がないため、比較的高い耐酸性と耐塩基性を示している。同時に、コーティングを170℃のエンジンオイルに500 h以上浸漬しても、コーティングは依然として、軟化、膨れ、脱落などの問題がないため、比較的高い耐熱油性を示している。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1】実施例1で製造された膨張可能なコーティング膨張後の電子顕微鏡写真(300倍拡大)である。
図2】実施例5で製造された膨張可能なコーティング(サンプル5)膨張後の電子顕微鏡写真(250倍拡大)である。
図3】実施例6で製造された膨張可能なコーティング(サンプル6)膨張後の電子顕微鏡写真(250倍拡大)である。
図4】実施例10で製造された膨張可能なコーティング(サンプル10)膨張後の電子顕微鏡写真(500倍拡大)である。
【発明を実施するための形態】
【0070】
以下、具体的な実施例に合わせて、本発明の技術案を更に詳しく説明する。下記の実施例は、単に本発明を例示的に説明し解釈するものであり、本発明の請求範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことを理解すべきである。本発明の上記内容に基づいて実現される技術は、何れも本発明による請求範囲内に含まれる。
【0071】
特に説明のない限り、下記の実施例に使用される原料及び試薬は何れも市販品であり、又は既知の方法によって製造することができる。
〔実施例1〕
本実施例において、規格35.5 mm×16.5 mm×5.5 mmのネオジム鉄ボロン系焼結磁石(未着磁)を用い、組み立てられたモーターローターを備えた磁性鋼溝の寸法は36 mm×17 mm×6 mmであった。
【0072】
磁石の表面前処理:水酸化ナトリウム濃度15 g/L、ドデシルスルホン酸ナトリウム濃度3 g/Lの複合油除去液を用いて、60℃でネオジム鉄ボロン系焼結磁石に対して油除去の時間を2 minとするように油除去を行い、次に25 wt%のクエン酸水溶液を用いて15 s酸洗いし、最後にネオジム鉄ボロン系焼結磁石を脱イオン水で2 min超音波で洗浄した。
【0073】
膨張可能な塗料の製造:水溶性アクリル樹脂55%、水30%、発泡剤10%、ラポナイト0.2%、ジプロピレングリコールブチルエーテル1.5%、プロピレングリコール2%、アクリル増粘剤0.5%、エチレングリコール0.4%、ポリジメチルシロキサン0.4%(重量百分率で計算する)といった組成で膨張可能な塗料を製造し、発泡剤は、平均直径が13 μmである熱可塑性膨張微小球を選用した。
【0074】
塗布処理:圧縮空気スプレーにより、スプレー速度120 mm/s、塗布厚さ110 μm、ノズルとワークとの距離15 cm、スプレーガンとワークとの角度25°、スプレーガンのアルゴンガス圧力0.6 MPaで磁石の表面に上記膨張可能な塗料を塗布した。
【0075】
予備硬化処理:膨張可能な塗料を塗布した磁石の表面を50℃に加熱し、予備硬化処理を行い、厚さ110 μmのコーティングを得た。
【0076】
コーティング膨張:圧力がない状態で、膨張コーティングを塗布した磁石を高温乾燥箱に入れ、二段階加熱を用いて、まず120℃に加熱し、5 min保温し、次に170℃に急速に昇温し、3 min保温した。そのうち、第1段階加熱の昇温速度は5℃/min、第2段階加熱の昇温速度は50℃/minであった。温度の上昇に伴って、膨張微小球殻内のガス圧力が増加し、その熱可塑性外殻が軟化し、微小球の膨張体積が顕著に増加し、この時に膨張コーティング内部の樹脂が軟化し、膨張コーティングの厚さが膨張微小球体積の増大に伴って増加した。図1に示し、図から分かるように、微小球が均一に膨張し、微小球壁と樹脂が互いに架橋して安定的な支持構造を形成した。膨張コーティングは水溶性アクリル樹脂及び膨張微小球からなる。膨張コーティングの厚さは、予備硬化処理後の110 μmから394 μmに膨張し、膨張率が358%に達した。且つ、膨張後、膨張コーティングはハニカム状を呈し、膨張微小球断面積が膨張コーティング断面積の82%を占めた。(本発明において、一断面における膨張コーティング断面積に占める膨張微小球断面積の比率は、まず膨張後コーティング断面の走査型電子顕微鏡写真を取り、次に画像により当該断面における隙間を認識し、隙間面積の総和を計算し、隙間面積を膨張コーティング断面積に占める膨張微小球の断面積の比率とするように計算された)。
【0077】
膨張コーティングを塗布した磁石をモーターローターの磁性鋼溝内に組み立て、高温乾燥箱に入れ、二段階加熱を用いて、まず120℃に加熱し、5 min保温し、次に170℃に急速に昇温し、3 min保温した。そのうち、第1段階加熱の昇温速度は5℃/min、第2段階加熱の昇温速度は50℃/minであった。(磁石を磁性鋼溝内に組み立て、膨張コーティングは熱により膨張し、磁性鋼溝の内壁に押圧を生じ、磁性鋼溝と磁石の隙間を満たし、同時にコーティング内部の樹脂と膨張微小球が架橋してハニカム状のコーティング構造を形成した。磁性鋼溝内壁に制限されるため、膨張プロセスにおいてコーティングが最大限まで膨張できず、それにより膨張後にハニカム状の構造が圧縮され、皺状になった。)加熱終了後、モーターローターを自然条件で冷却し、環境温度の変化により膨張微小球の体積が増加し、且つ変化が不可逆であり、コーティング体積が増加するため、磁石と磁性鋼溝内壁との隙間が満たされて、磁石を磁性鋼内部に密着固定し、その時に得られた磁石製品はサンプル1と命名された。
【0078】
当該状態において、磁石の常温での接着押付力及び高温での接着押付力を検測し、常温(25℃)での接着押付力は1200 N/cm2、高温(170℃)での接着押付力は530 N/cm2であった。
〔実施例2~5〕
表面前処理方法、膨張可能な塗料、塗布処理プロセスは実施例1と同じであり、膨張コーティング厚さ110 μmの磁石を磁性鋼溝内に挿入し、異なる第1膨張温度、第2膨張段階の膨張温度、昇温速度、膨張時間を用いて、最適な組み立てプロセス条件を得て、結果を下記の表1に示した。
【0079】
【表1】
【0080】
表1の結果から分かるように、常温での押付力、高温での押付力は膨張温度及び昇温速度に相関しており、最適化により最適な組み立てプロセス条件を得ることができた。
【0081】
同時に、イソオクタンの放出量を検測することにより、微小球の破裂率を推算すると、微小球の破裂率が60~85%の間であり、破裂した微小球が樹脂コーティングと互いに架橋し、得られたコーティングが安定的な構造を有し、磁石と磁性鋼溝との隙間を安定的に支持できることが分かった。
【0082】
図1はサンプル1の膨張後のコーティング状態であり、図から分かるように、微小球が均一に膨張し、微小球壁と樹脂が互いに架橋して、安定的な支持構造を形成した。
【0083】
図2はサンプル5の膨張後のコーティング状態であり、図から分かるように、微小球の破裂が多く、且つ微小球間の融着による隙間が大きいため、高温状態におけるコーティングの接着力が比較的低かった。
〔実施例6〕
本実施例において、規格35.5 mm×16.5 mm×5.5 mmのネオジム鉄ボロン系焼結磁石(未着磁)を用い、組み立てられたモーターローターを備えた磁性鋼溝の寸法は36 mm×17 mm×6 mmであった。
【0084】
実施例1と同じの表面前処理により、水酸化ナトリウム濃度15 g/L、ドデシルスルホン酸ナトリウム濃度3 g/Lの複合油除去液を用いて、60℃でネオジム鉄ボロン系焼結磁石に対して油除去の時間を2 minとするように油除去を行い、次に25 wt%のクエン酸水溶液を用いて15 s酸洗いし、最後にネオジム鉄ボロン系焼結磁石を脱イオン水で2 min超音波で洗浄した。
【0085】
50%のエポキシ樹脂粉末、20%の硬化剤、10%のエラストマー樹脂、20%の熱可塑性膨張微小球からなる、AKZO-Nobel社製の膨張可能な粉末塗料を選用した。圧縮空気スプレーにより、スプレー速度60 mm/s、塗布厚さ110 μm、ノズルとワークとの距離10 cm、スプレーガンとワークとの角度25°、スプレーガンのアルゴンガス圧力0.6 MPaで磁石の表面に上記膨張可能な塗料を塗布した。
【0086】
膨張コーティングを塗布した磁石をモーターローターの磁性鋼溝内に組み立て、高温乾燥箱に入れ、190℃の温度を加えることによって20 min加熱した。熱可塑性膨張微小球は、温度変化により体積が増大するため、コーティング全体が膨張すると同時に、エポキシ樹脂が硬化し、コーティングが安定して収縮しなかった。電子顕微鏡で膨張コーティングの断面構造を観察し、図3に示すように、膨張コーティングの厚さは予備硬化処理後の110 μmから180 μmに膨張し、膨張率が163%に達した。且つ、膨張後に明瞭に視認できた。熱可塑性膨張微小球の縁部がはっきりと見え、膨張微小球を加熱すると、微小球内の液体アルカンの気化によってのみ微小球の体積が増大した。膨張微小球におけるイソオクタンの放出量を検測することにより、コーティングにおける微小球の破裂の有無を推測した。検測から分かるように、190℃で20 min加熱する場合、イソオクタンの放出量w1は1.52 mg/Lであった。240℃に昇温し、3 h保持してコーティングにおける膨張微小球を完全に破裂させる場合、イソオクタンの放出量w2は5.34 mg/Lであった。式の計算により、実際の組み立てプロセスにおいて、膨張微小球の破裂率q=w1/(w1+w2)=1.52/(1.52+5.34)=22%を推算することができた。
【0087】
図3から分かるように、膨張微小球の断面積は膨張コーティングの35%を占めた。
当該状態において、磁石の常温での接着押付力及び高温での接着押付力を検測し、常温(25℃)での接着押付力は920 N/cm2、高温(170℃)での接着押付力は310 N/cm2であった。
〔実施例7~14〕
本実施例において、規格35.5 mm×16.5 mm×5.5 mmのネオジム鉄ボロン系焼結磁石(未着磁)を用い、組み立てられたモーターローターを備えた磁性鋼溝の寸法は36 mm×17 mm×6 mmであった。
【0088】
実施例1と同じの表面前処理プロセス及び膨張可能な塗料を用いて、圧縮空気スプレーにより、スプレーの厚さをそれぞれ80 μm、90 μm、100 μm、110 μm、120 μm、130 μm、140 μm、150 μmとするように、磁石の表面に上記膨張可能な塗料を塗布した。
【0089】
膨張コーティングを塗布した磁石をモーターローターの磁性鋼溝内に組み立て、高温乾燥箱に入れ、二段階加熱を用いて、まず120℃に加熱し、5 min保温し、次に170℃に急速に昇温し、3 min保温した。そのうち、第1段階加熱の昇温速度は5℃/min、第2段階加熱の昇温速度は50℃/minであった。動作状態における磁石の常温での押付力及び高温での押付力を検測し、結果を下記の表2に示した。
【0090】
膨張率=H2/H0
圧縮率=(H1-H0)/(H2-H0
そのうち、H0は塗布厚さ、H1は磁性鋼溝内における膨張可能なコーティングの膨張後の厚さ、H2は自然状態における膨張可能なコーティングの膨張後の厚さである。
【0091】
【表2】
【0092】
図4は、磁性鋼溝内におけるサンプル10のコーティング状態であり、図4から分かるように、コーティングは膨張プロセスにおいて、磁性鋼溝内壁に制限されるため、膨張コーティングが圧縮され、皺状となった。
【0093】
膨張コーティングが強く圧縮される場合、膨張コーティングの接触面と磁性鋼溝内壁の接触面に比較的大きい応力が発生し、コーティング単位面積における応力が増大し、コーティングの内部欠陥が指数関数的に増加して、接着層の凝集強度が低下するため、圧縮率を35%以上に制御することで、比較的良い常温での押付力及び高温での押付力を有する磁石を製造することができる。
【0094】
圧縮率が大きいほど、経済的に有利であり、発明者らは、大量の実験を重ねた結果、驚くべきことに、圧縮率が65%より大きい場合、コーティングが温度変化による収縮応力及び熱応力に敏感になり、それにより磁石の凝集強度の損失を招くため、磁石の常温での押付力及び高温での押付力を低下させることを見出した。
【0095】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の精神及び原則を逸脱しない範囲で行われた修正、同等置換、改良などは、何れも本発明の請求範囲内に含まれる。

図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-12-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石であって、
前記磁石は、ネオジム鉄ボロン系焼結磁石及びネオジム鉄ボロン系焼結磁石の表面に塗布された膨張可能なコーティングを含み、
好ましくは、前記膨張可能なコーティングの厚さは50~300μm、好ましくは80~150μmであり、
好ましくは、前記膨張可能なコーティングは60~100℃で軟化され、
好ましくは、圧力がない状態で、前記膨張可能なコーティングの厚さの膨張率は200~400%、好ましくは300~400%であり、
好ましくは、前記膨張可能なコーティングは、膨張後にコーティングがハニカム状を呈し、好ましくは、前記膨張可能なコーティングは、膨張後に基本的に図1に示される形態を有する、
ことを特徴とする膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石。
【請求項2】
前記膨張可能なコーティングには、少なくとも水溶性樹脂及び発泡剤が含まれ、
好ましくは、前記水溶性樹脂は、水溶性アクリル樹脂、水性エポキシ樹脂及び水性ウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種であり、
好ましくは、前記膨張可能なコーティングにおいて、前記水溶性樹脂の固形分含有量は30~50%である、
ことを特徴とする請求項1に記載の膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石。
【請求項3】
前記発泡剤は熱可塑性膨張微小球であり、
好ましくは、前記熱可塑性膨張微小球の直径は5~30μm、好ましくは5~20μmであり、
好ましくは、前記膨張可能なコーティングが膨張後、膨張微小球の面積は膨張コーティングの断面積の60~90%を占め、
好ましくは、前記熱可塑性膨張微小球の平均直径は10~15μmであり、
好ましくは、前記熱可塑性膨張微小球の膨張温度は110~210℃であり、
好ましくは、前記熱可塑性膨張微小球の最高耐熱温度は145~235℃である、
ことを特徴とする請求項1に記載の膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石。
【請求項4】
前記膨張可能なコーティングは、少なくとも水溶性樹脂及び発泡剤の組成を含む膨張可能な塗料を塗布して製造され、
好ましくは、前記膨張可能な塗料における水溶性樹脂の重量百分率は45~65%、例えば50~60%であり、
好ましくは、前記膨張可能な塗料における発泡剤の重量百分率は10~30%、例えば15~25%である、
ことを特徴とする請求項1に記載の膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石。
【請求項5】
前記膨張可能な塗料には、任意選択的にラポナイトが更に含まれ、
好ましくは、前記ラポナイトの重量百分率は0.1~0.5%、また例えば0.2~0.4%であり、
好ましくは、前記膨張可能な塗料には、任意選択的にジプロピレングリコールブチルエーテルが更に含まれ、
好ましくは、前記ジプロピレングリコールブチルエーテルの重量百分率は0.5~3%、また例えば0.8~2.5%であり、
好ましくは、前記膨張可能な塗料には、任意選択的にプロピレングリコールが更に含まれ、
好ましくは、前記プロピレングリコールの重量百分率は1~3%、また例えば1.5~2.5%であり、
好ましくは、前記膨張可能な塗料には、任意選択的にアクリル増粘剤が更に含まれ、
好ましくは、前記アクリル増粘剤の重量百分率は0.2~0.8%、また例えば0.3~0.6%であり、
好ましくは、前記膨張可能な塗料には、任意選択的に分散剤が更に含まれ、
好ましくは、前記分散剤の重量百分率は0.1~0.5%、また例えば0.2~0.4%であり、
好ましくは、前記分散剤は、エチレングリコール、オレイン酸ナトリウム、カルボキシレートなどであり、
好ましくは、前記膨張可能なコーティングには、任意選択的にレベリング剤が更に含まれ、
好ましくは、前記レベリング剤の重量百分率は0.1~0.5%、また例えば0.2~0.4%であり、
好ましくは、前記レベリング剤は、シリコーンオイル、有機シロキサンなどであり、
好ましくは、前記膨張可能な塗料には水が更に含まれ、
好ましくは、前記膨張可能な塗料における各組成の重量百分率の和は100%である、
ことを特徴とする請求項4に記載の膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石。
【請求項6】
前記膨張可能なコーティングは、水溶性樹脂45~65%、発泡剤10~30%、ラポナイト0.1~0.5%、ジプロピレングリコールブチルエーテル0.5~3%、プロピレングリコール1~3%、アクリル増粘剤0.2~0.8%、分散剤0.1~0.5%、レベリング剤0.1~0.5%といった重量百分率の組成を含む膨張可能な塗料を塗布して製造され、
好ましくは、前記ネオジム鉄ボロン系焼結磁石は、主相Nd2Fe14B、Ndリッチ相及びBリッチ相からなる、
ことを特徴とする請求項1に記載の膨張可能なネオジム鉄ボロン系焼結磁石。
【請求項7】
膨張可能な焼結磁石の製造方法であって、
前記製造方法は、前記各組成を含む膨張可能な塗料をネオジム鉄ボロン系焼結磁石の表面に塗布し、予備硬化処理を経て前記膨張可能な焼結磁石を製造することを含み、
好ましくは、前記ネオジム鉄ボロン系焼結磁石に膨張可能な塗料を塗布する前、表面前処理のステップを更に含み、
好ましくは、前記表面前処理は、ネオジム鉄ボロン系焼結磁石の表面に対する化学的、超音波で油除去、酸洗い、水洗いのプロセスを含み、
好ましくは、前記油除去プロセスに使用される油除去液は塩基と界面活性剤との複合溶液であり、
好ましくは、前記塩基は水酸化ナトリウム又は炭酸ナトリウムであり、その濃度は10~20g/Lであり、
好ましくは、前記界面活性剤はドデシルスルホン酸ナトリウム又はドデシル硫酸ナトリウムであり、その濃度は2~6g/Lであり、
好ましくは、前記油除去液の温度は30~70℃、前記油除去の時間は1~20minであり、
好ましくは、前記酸洗いに使用される酸は硝酸又はクエン酸水溶液であってもよく、
好ましくは、前記酸洗いに使用される酸液の濃度は5~30wt%、前記酸洗いの時間は5~30sであり、
好ましくは、前記塗布方法は、スプレー、印刷、浸漬、塗抹などを含むが、これらに限定されず、好ましくはスプレーであり、
好ましくは、前記塗布の厚さは50~300μm、好ましい厚さは80~150μm、例示的には50μm、80μm、110μm、150μm、180μm、200μm、250μm、300μmである、
ことを特徴とする請求項1に記載の膨張可能な焼結磁石の製造方法。
【請求項8】
モーターローターにおける、請求項1に記載の膨張可能な焼結磁石の応用。
【請求項9】
請求項1に記載の膨張可能な焼結磁石を含む、
ことを特徴とするモーターローターワーク。
【請求項10】
請求項1に記載の膨張可能な焼結磁石を磁性鋼溝に組み立て、加熱膨張処理を経て、前記モーターローターワークを製造することを含み、
好ましくは、前記加熱膨張処理は二段階昇温法を採用し、第1膨張段階の膨張温度は110~160℃、第1膨張段階の昇温速度は5~15℃/minであり、
好ましくは、前記加熱膨張処理の第2膨張段階の膨張温度は180~210℃、第2膨張段階の昇温速度は30~60℃/minである、
ことを特徴とする請求項9に記載のモーターローターワークの組み立て方法。
【国際調査報告】