(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-24
(54)【発明の名称】WECコントローラ、方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
F03B 13/14 20060101AFI20240717BHJP
H02P 9/04 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
F03B13/14
H02P9/04 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577956
(86)(22)【出願日】2022-06-23
(85)【翻訳文提出日】2024-01-31
(86)【国際出願番号】 IB2022055825
(87)【国際公開番号】W WO2022269529
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】102021000016634
(32)【優先日】2021-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515063312
【氏名又は名称】イーエヌアイ ソシエタ ペル アチオニ
【氏名又は名称原語表記】ENI S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【氏名又は名称】野村 知美
(72)【発明者】
【氏名】マッシモ ザンパト
(72)【発明者】
【氏名】ダニエレ ヴァンザン
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアナ マティアッツォ
(72)【発明者】
【氏名】エリサ カページョ
(72)【発明者】
【氏名】ジョバンニ ブラッコ
(72)【発明者】
【氏名】マウロ ボンファンティ
【テーマコード(参考)】
3H074
5H590
【Fターム(参考)】
3H074AA02
3H074AA12
3H074BB19
3H074CC01
3H074CC50
5H590CA30
5H590CD05
5H590EB25
5H590JA02
(57)【要約】
WECコントローラ、方法及びシステムである。浮遊浮体(3)と関連付けられ、前記浮遊浮体(3)の回転エネルギーを電気エネルギーに変換するのに適した電気コンバータ(9)を備えるジャイロスコープ構造体(2)のコントローラ(10)は、ジャイロスコープ構造体(2)の動作変数を含む摂動出力状態(x)を入力として受け取り、電気コンバータ(9)の駆動信号(u)を判定し、前記摂動出力状態(x)に基づいて計算された前記ジャイロスコープ構造体(2)の予測制御モデルを使用して判定される第1の信号部分(v)と、前記摂動出力状態(x)の前記動作変数のパラメトリック偏差(r)上で計算された管収束を使用して判定される第2の信号部分(v
*)であって、前記パラメトリック偏差(r)は、前記ジャイロスコープ構造体(2)の非摂動出力ノミナル状態(z
NP)の動作変数に関して計算される、第2の信号部分(v
*)とを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮遊浮体(3)と関連付けられ、前記浮遊浮体(3)の回転エネルギーを電気エネルギーに変換するのに適した電気コンバータ(9)を備えるジャイロスコープ構造体(2)のコントローラ(10)であって、前記ジャイロスコープ構造体(2)の動作変数を含む摂動出力状態(x)を入力において受け取る、前記コントローラ(10)において、前記電気コンバータ(9)を駆動する駆動信号(u)を判定することであって、
前記摂動出力状態(x)に基づいて計算された前記ジャイロスコープ構造体(2)の予測制御モデルを使用して判定される第1の信号部分(v)と、
前記ジャイロスコープ構造体(2)の動作変数のパラメトリック偏差(r)上で計算された管収束を使用して判定される第2の信号部分(v
*)であって、前記パラメトリック偏差(r)は、非摂動出力ノミナル状態(z
NP)に関する前記摂動出力状態(x)の前記動作変数のノミナル差として計算される、前記第2の信号部分(v
*)と
を含む、前記判定することを特徴とする、
コントローラ(10)。
【請求項2】
前記ジャイロスコープ構造体(2)の必要とされる非摂動状態(z
0-z
N)の時間展開を考慮して、前記パラメトリック偏差(r)の予め規定された値への収束を規定するのに適したゲイン行列(K)を備えるノミナル収束モジュール(18)であって、前記ゲイン行列(K)は、各必要とされる非摂動状態(z
0-z
N)の境界空間(X’)を考慮して規定される、前記ノミナル収束モジュール(18)を含むことを特徴とする、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項3】
カスケード状に配置されたノミナルユニット(14)及び予測ユニット(15)を備える予測ブロック(13)であって、前記ノミナルユニット(14)は、前記ジャイロスコープ構造体(2)の非摂動ノミナルモデルを含み、
前記ノミナルユニット(14)は、前記摂動出力状態(x)を入力として受け取り、前記予測ユニット(15)によって生成された前記第1の信号部分(v)をフィードバックとして受け取り、前記非摂動出力ノミナル状態(z
NP)を生成し、
前記予測ユニット(15)は、前記第1の信号部分(v)を生成するために、前記非摂動出力ノミナル状態(z
NP)を入力として受け取る予測動的制御モデルを含み、或いは、前記予測ユニット(15)は、前記第1の信号部分(v)を生成するために、前記非摂動出力ノミナル状態(z
NP)及びさらに前記パラメトリック偏差(r)を前記入力として受け取る、前記予測ブロック(13)を含むことを特徴とする、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項4】
ノミナル収束モジュール(18)は、前記ノミナルユニット(14)によって生成された前記非摂動出力ノミナル状態(z
NP)を入力として受け取ることを特徴とする、請求項3に記載のコントローラ。
【請求項5】
予測ユニット(15)の予測動的制御モデルは、前記ジャイロスコープ構造体(2)の状態及び前記駆動信号に関連する2次項を有し、前記ジャイロスコープ構造体(2)によって吸収される瞬時力に関連する非2次項をさらに含む、コスト関数(J
T)を含むことと、
前記コスト関数(J
T)を最小化するための計算が、駆動信号
を判定することであって、前記第1の信号部分(v)は、前記駆動信号
の少なくとも1つの要素(v
i i=0..T)によって判定される、前記判定することと
を特徴とする、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項6】
浮遊浮体(3)と関連付けられたジャイロスコープ構造体(2)の電気コンバータ(9)を制御する方法であって、前記電気コンバータ(9)は、前記浮遊浮体(3)の回転エネルギーを電気エネルギーに変換するように構成され、前記方法は、前記ジャイロスコープ構造体(2)の動作変数を含む摂動出力状態(x)を受け取ることを提供する、前記方法において、
-第1の信号部分(v)及び第2の信号部分(v
*)を含む駆動信号(u)によって前記電気コンバータ(9)を駆動することと、
-前記摂動出力状態(x)に基づいて計算された前記ジャイロスコープ構造体(2)の予測制御モデルを使用して前記第1の信号部分(v)を判定することと、
-前記第2の信号部分(v
*)を、前記摂動出力状態(x)の動作変数のパラメトリック偏差(r)上で計算された管収束を使用して判定することであって、前記パラメトリック偏差(r)は、前記ジャイロスコープ構造体(2)の非摂動出力ノミナル状態(z
NP)の動作に基づいて計算される、前記判定することと
を特徴とする、方法。
【請求項7】
-予め規定された最終的な必要とされる状態(z
n)への収束のために、前記ジャイロスコープ構造体(2)のノミナルモデルによって、前記ジャイロスコープ構造体(2)の必要とされる非摂動状態(z
0-z
n)の展開を規定することであって、前記状態の展開は、N個の後続ステップを有する時間間隔(T)において判定される、前記規定することと、
-各摂動出力状態(x
0-x
N)に関して、対応する必要とされる非摂動状態(z
0-z
n)と比較されたパラメトリック偏差(r)を規定することと、
-前記摂動出力状態(x
0-x
n)の展開によって規定される実際の軌道を、1つの境界空間(X’)内に維持するように、前記パラメトリック偏差(r)にゲイン行列(K)のパラメータを乗算することであって、前記境界空間は、前記必要とされる非摂動状態(z
0-z
n)の周囲によって予め規定される、前記乗算することと
を特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
-前記ジャイロスコープ構造体(2)の前記摂動出力状態(x)と、前記第1の信号部分(v)のフィードバックとから出発する前記非摂動ノミナル状態(z
NP)を生成するために、前記ジャイロスコープ構造体(2)の非摂動ノミナルモデルを使用することと、
-前記第1の信号部分(v)を生成するために、入力として受け取られた前記非摂動ノミナル状態(z
NP)に基づいて、前記ジャイロスコープ構造体(2)の予測動的制御モデルを使用すること、又は、前記第1の信号部分(v)を生成するために、入力として受け取られた前記非摂動ノミナル状態(z
NP)及びさらに前記パラメトリック偏差(r)に基づいて、前記ジャイロスコープ構造体(2)の予測動的制御モデルを使用することと
を特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
予測動的制御モデルは、前記ジャイロスコープ構造体(2)の状態及び前記駆動信号(u)に関連する2次項と、前記ジャイロスコープ構造体(2)によって吸収される瞬時力に関連する非2次項とを有するコスト関数(J
T)を工夫し、
-駆動信号
が判定されるコスト関数(J
T)を最小化する最適化問題に従って計算を使用することと、
-前記駆動信号
のうちの少なくとも1つの要素(v
i i=0,...,T)に基づいて第1の信号部分(v)を判定することと
を特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
-前記摂動出力状態(x)を入力として受け取り、前記第1の信号部分(v)をフィードバックとして受け取ることによって、理想的な非摂動出力状態(z
NP)を規定するのに適したノミナルユニット(14)を提供することと、
-前記ノミナルユニット(14)によって生成された前記理想的な非摂動出力状態(z
NP)を使用することによって、前記パラメトリック偏差(r)を計算することと
を特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
-浮遊浮体(3)と、
-前記浮遊浮体(3)と関連付けられ、前記浮遊浮体(3)の回転エネルギーを電気エネルギーに変換するのに適した電気コンバータ(9)を備えた少なくとも1つのジャイロスコープ構造体(2)と、
-前記少なくとも1つのジャイロスコープ構造体(2)の動作変数を含む摂動出力状態(x)を入力として受け取るコントローラ(10)において、請求項1乃至5のうちの1つ又は複数に従って製造されることを特徴とする、前記コントローラ(10)と
を含む、WECシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気エネルギーを海波から生成することができる電気ジェネレータ又はWEC(Wave Energy Converter)を含むWECエネルギー変換システムのコントローラに関する。
【0002】
本発明はまた、浮遊浮体(floating hull)と関連付けられたジャイロ構造体の電気コンバータを制御する方法、及び関連するWECシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
知られているように、波力は、再生可能エネルギーの主要源のうちの1つであり、近年、多くの大規模プラントは、電気エネルギーへの波力の変換のために、開発されており、建設されている。いくつかのプラント、例えば、慣性型WEC又はISWECプラントは、反応を生成し、その力を抽出するために大質量の慣性を利用する反応体又はPTOを使用する。
【0004】
浮遊浮体を含む慣性変換システムは、知られている。浮遊浮体は、海底に固定され、方向ジャイロコンバータを備え、その各々は、電力ジェネレータに接続される。ジェネレータは、フライホイールの動きによって、浮体の振動に起因し、波力によって誘導される回転エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。
【0005】
このケースでは、ジャイロスコープ構造体は、ジャイロスコープと、サスペンションデバイスによって浮体と関連付けられたフライホイールと、フライホイールの主慣性軸に実質的に直交する回転軸に連動された電気コンバータとを含む。コンバータは、適切なジョイント及びギアによって回転軸に連結されるドライバ/インバータによって制御される電気モータを含む。したがって、主にダンパとして作用する反作用抵抗駆動トルクを印加することによって、ドライバ/インバータのV-Iダイアグラムの偶数象限において動作することによって、電力は、電気モータに供給され得るよりも、電力は、電気モータを介して生成され得る。
【0006】
抽出された電力を最大化し、構造体の効率を高めるために、反対抵抗(opposing resistive)駆動トルクは、適切に変調されるべきである。
【0007】
PID(Proportional,Integrative and Derivative)コントローラなどの古典的な制御システムは、知られ、産業分野において広く使用され、典型的に、SISO(Single-Input Single-Output)システムのコントローラとして動作する。様々な態様下で満足いくが、PIDコントローラを用いたシステムは、欠点を有する。実際、波動は、「JONSWAP分布」として知られている、統計的分布特性を有するランダムプロセスとして文献的に記載され、そのパラメータは、対象の海域に依存する。PIDコントローラのケースでは、制御パラメータは、海況予測に従って予め設定されたゲインスケジューリングによって更新される。したがって、制御パラメータとして使用されるテーブル値は、実際の波動によって必要とされる値とは異なることがあり、抽出されたエネルギーの結果としての損失は、内在する。
【0008】
状態展開(state evolution)モデルを用いたコントローラを採用する動的システムの使用は、知られている。そのような動的システムは、コントローラMPC(Model Predictive Control)を採用する。MPCコントローラは、D.Wilsonらによる論文「A comparison of WEC control strategies」、Sandia National Labs、Albuquerque、New Mexico、Tech.Rep.SAND2016-4293、2016年4月において、記載される。
【0009】
最も一般的な形式では、MPCコントローラは、状態からのフィードバックと、システム状態を最適化するための適切なコスト関数を最小化することによって動的に計算された制御則とに基づいている。
【0010】
MPCコントローラは、いくつかの本質的な態様においてPIDコントローラとは異なる。
a)制御則又は制御関数は、古典的な最適化理論では、コスト関数の定常部分(上極値(superior extremity)として)として生じる時間の関数を解として生成するオイラーラグランジュ方程式の解に基づいている。
b)コスト関数は、状態、入力信号、及び、状態及び制御信号と関連付けられた運動エネルギーに関する様々な項を内部に含み、通常、凸関数である。
c)コスト関数は通常、必要とされる状態が実現されるときにnullになる項と、制御動作のエネルギーが最小化されるときにnullになる項とを含む。
【0011】
さらに、MPCコントローラの制御則は、コスト関数を最小化するために使用される動的制約を規定し得る。MPCコントローラの制御則は、オイラーラグランジュ方程式の解に基づき、本質的に、必要とされる状態に関する誤差と、この結果を取得するために関与されるエネルギーに関する誤差とを同時に最小化する時間の関数である。
【0012】
ジャイロ構造体の状態展開モデルを使用することによって、WECシステムを制御するMPCコントローラの使用は、知られている。これは、プラントが設置される場所に関連して、全ての海波の状態に関する制御パラメータの単一セットを有することを可能にする。状態展開モデルの精度と、関連するパラメータセットの推定とは、制御システムの性能に影響する。
【0013】
言い換えれば、これらのMPCコントローラは、固定され、予め規定されたパラメータを有するシステムのために最適化され、したがって、これらのパラメータの変動によって、或いは海波の状態などのランダムな外乱の存在によって影響されるシステムに対して、より低い効率である。同様に、MPCコントローラパラメータのキャリブレーション中に考慮されない海況は、非最適なエネルギー抽出条件、すなわち、低いパフォーマンスにつながり得る。
【0014】
既知の解決策は、BRACOO Gら:「Optimizing energy production of an Inertial Sea Wave Energy Converter via Model Predictive Control」、Control Engineering Practice、Pergamon Press、Oxford、GB-vol.96、2020年1月17日-XP086048062という論文に記載される。
【0015】
本願の基礎をなす技術的課題は、波動及びジャイロスコープ構造体のモデリングに起因して誤差の低減を可能にするように、機能的且つ構造的特徴を有するジャイロスコープ構造体の制御を工夫しており、抽出されるエネルギーを最大化することを可能にし、したがって、公知技術を参照して言及された欠点を克服する。
【発明の概要】
【0016】
本発明の基礎をなす解決策は、ジャイロスコープ構造体の状態を規定する動作変数の将来の展開を、制約された方法で駆動することであり、制御のロバスト性及び効率を向上させる。
【0017】
この解決案に基づいて、技術的課題は、請求項1によって規定されるコントローラ、及び請求項2-5によって記載される具体的な実施形態によって解決される。
【0018】
本発明の対象はまた、請求項6によって規定される制御方法、及び請求項7-10によって記載される具体的な実施形態、及び請求項11によって規定されるWECシステムである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明のさらなる特徴及び利点は、添付図面を参照して実施例のために提供されるシステムの好ましい実施形態及びその変形の以下の説明から明らかになるであろう。
【
図1】
図1は、慣性型WECシステム(ISWEC)及びジャイロスコープ構造体を概略的に示す。
【
図2】
図2は、慣性型WECシステム(ISWEC)及びジャイロスコープ構造体を概略的に示す。
【
図3】
図3は、本発明による、作られたコントローラのブロックダイアグラムである。
【
図4】
図4は、2つの状態変数を有するシステムに適用される管収束モデルの理想且つ実際の出力状態の展開を、直交ダイアグラムで概略的に示す。
【
図5】
図5は、本発明による、作られたコントローラの第2の実施形態のブロックダイアグラムを示す。
【
図6】
図6は、本発明による、実装されたコントローラを用いた慣性WEC変換システムの抽出された電力の経時的傾向のシミュレーションを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
これらの図を参照して、1は、浮遊浮体3と、浮遊浮体3に関して力と釣り合うように対称に配置された一対の同一且つ独立したジャイロスコープ構造体2とを含む慣性型WECシステム、すなわち、ISWECの概要を示す。各ジャイロスコープ構造体2は、浮遊浮体3の回転エネルギーを電気エネルギーに変換するのに適した電気コンバータ9を含む。
【0021】
図1に示される概略形態では、浮遊浮体3は、ロール軸Xに関して実質的に対称であり、ジャイロスコープ6が強調表示される第1のジャイロスコープ構造体2と、第2のジャイロスコープ構造体2’とを有する。第2のジャイロスコープ構造体2’は、基礎をなすフライホイールを覆うのに適したカバー保護7と共に示される。以下の説明では、言及は、ジャイロスコープ6を含む第1のジャイロスコープ構造体2に行われるだろう。
【0022】
浮遊浮体3は、波動によって強制される回転モーメントに起因するピッチ角δ及び
で、ピッチ軸Yに従って回転を可能にするように形成される。
図1及び
図2では、波動は、方向Aの矢印によって示される。
【0023】
図には示されないが、従来の方法では、浮遊浮体3は、海底に固定され、ロール軸Xは、波動の方向Aに実質的に平行である。ロール軸Xは、ピッチ軸Yに垂直である。浮遊浮体3はまた、ロール軸X及びピッチ軸Yによって特定される平面Pに実質的に垂直なヨー軸Zを有する。
【0024】
【0025】
図に概略的に示される電気コンバータ9は、ドライバ/インバータと関連付けられた電気モータを含み、抽出された電力を最大化するために歳差トルクを打ち消す駆動信号uを介してコントローラ10によって駆動される。
【0026】
図3は、本発明に従って設計された、ジャイロスコープ構造体2及びコントローラ10に関連して、
図1の慣性変換システムWEC1の一部分を、ブロックダイアグラムを介して示す。
【0027】
ジャイロスコープ構造体2は、ジャイロスコープ構造体2の実際の状態zを表すのに適した構造ブロック21を含む、リアルプラントブロック20、すなわち、非線形システムによって表される。構造ブロック21は、駆動信号uを受け取り、ジャイロスコープ構造体2の非摂動出力状態zを含むベクトルを生成する。
【0028】
摂動及び/又は外乱(w)は、非摂動出力状態(z)に加算され、ジャイロスコープ構造体2の動作変数を含む摂動出力状態xを規定する。摂動wは、伝達関数によってフィルタリングされ、係留効果及び他の摂動要素/力に加えられ得る波動の外部駆動力などの、ジャイロスコープ構造体2に対する外部摂動及び内部摂動のセットを含む。
【0029】
コントローラ10は、電気コンバータ9を駆動し、或いはアクティベートするのに適した駆動信号uを生成するために、摂動出力状態xを入力として受け取る。その最も一般的な態様では、コントローラ10は、Tube-Based Robust Model Predictive Controlの頭文字のような、TRMPCである。
【0030】
第1の実施形態では、摂動出力状態xを規定する動作変数は、以下によってベクトル行列形式で表され得る。
【数1】
【0031】
コントローラ10は、第1の信号部分vと第2の信号部分v*とを加算することによって、駆動信号uを判定する。
【0032】
第1の信号部分vは、入力として受け取られた摂動出力状態xを有するジャイロスコープ構造体2の予測制御モデルを含む予測制御ブロック13によって判定される。一実施形態では、予測制御モデルは、例えば、従来のMPCコントローラによって採用されるコスト関数を有する。このケースでは、予測制御ブロック13は、制御則を使用し、その解は、必要とされる状態に関して、誤差を最小化し、その状態を実現するために使用されるエネルギーを最小化する時系列を提供することによって、オイラーラグランジュ方程式の解に基づき得る。
【0033】
第2の信号部分v*は、ノミナル(nominal)管収束を有するノミナル収束モジュール18によって判定される。具体的には、ノミナル収束モジュール18は、ブロック13と共に、TRMPC制御に従って出力状態のノミナル展開zへの、摂動出力状態xの展開の収束を可能にする。
【0034】
ノミナル収束モジュール18は、システムの不確実性を考慮することによって、且つジャイロスコープ構造体2のパラメトリック偏差rのゼロなどの、予め規定された値への収束のための管収束の規定に従って、規定されたゲイン行列Kを含む。パラメトリック偏差rは、ジャイロスコープ構造体2の非摂動出力状態zに関する摂動出力状態xの動作変数の差として取得される。
【0035】
次いで、第2の信号部分v*は、ゲイン行列Kと、パラメトリック偏差又は誤差rとの積として取得される。
【0036】
図4は、2つの状態変数x1及びx2を有する線形システムのTRMPC制御に従った管収束を概略的に示す。変数x1及びx2の平面において、実線は、ゼロに収束するノミナル状態z
0-z
Nの展開の長さΔtのN個の後続ステップを含む時間間隔Tにおける必要とされる軌道を特定する。点線は、システムのN個の摂動された実際の状態X
0-X
Nの展開によって生成された実際の軌道を表す。三角形の形状と共に、実際には、管のセクションは、強調表示され、各ノミナル状態z
0-z
Nに対応して、許容可能な実際の摂動状態X
0-X
Nを特定するための、適切な境界空間X’を表し、初期瞬間t
0から最終瞬間t
Nまで、すなわち、(t
0+T)までのN個の後続ステップにおける時間展開を考慮に入れている。当然、このケースでは三角形である境界空間X’は、各ノミナル状態z
0-z
Nに関して、モデルパラメータに関連する不確実性に起因する全ての可能な摂動wならびに全ての誤差を含むことが仮定される。
【0037】
境界空間X’は、ノミナル状態z0-zNに関する摂動出力状態xの最大距離を規定し、境界空間X’の中心に位置される。もちろん、境界空間X’は、三角形の周囲とは異なる形状を有することができ、大きさは、管収束に必要とされる強さに依存する。
【0038】
2つの状態変数、x1及びx2を有する
図4のシステムは、2次元表現を空間に有する。明らかに、ジャイロスコープ構造体2のケースでは、第1の実施形態では、ベクトル行列1に示されるように、4つの状態変数があり、したがって、境界空間X’は、4次元である。時間間隔Tは、波周期を参照して波動の動的特性などの、解析されるシステムの動的特性を考慮して、設計段階において予め規定される。もちろん、使用される機器及び/又はハードウェアの特性はまた、関連する。
【0039】
ノミナル状態z0-zNは、理想的な非摂動状態であり、ジャイロスコープ構造体2の非摂動モデルに基づいて判定される。
【0040】
一実施形態によれば、ゲイン行列Kは、「Aerospace Science and Technology-Volume 77、585-594ページ」によって、2018年6月1日に発行された、「Tube-Based Robust Model Predictive Control for Spacecraft Proximity Operations in the Presence of Persistent Disturbance」と題された、M.Mammarella、Capello、Park、Guglieri、Romano、2018年の論文に記載されるように、線形行列不等式又はLMIの理論に従った手順を使用することによって、判定される。
【0041】
したがって、この領域(「管」)の規定及びその幅は、制御において使用されるモデルと、モデル化されていない任意の外乱(例えば、係留効果)の量との両方の不確実性として取得される。
【0042】
図3に示される実施形態によれば、予測ブロック13は、カスケード状に配置されたノミナルユニット14及び予測ユニット15によって実装される。ノミナルユニット14は、ジャイロスコープ構造体2のノミナル非摂動モデルを含む。ノミナルユニット14は、摂動出力状態xを入力として受け取り、また、予測ユニット15によって生成された信号vの第1の部分をフィードバックとして受け取り、ジャイロスコープ構造体2の非摂動出力ノミナル状態z
NPを取得する。
【0043】
予測ユニット15は、ジャイロスコープ構造体2の状態、駆動動作、ならびにジャイロスコープ構造体2によって吸収される瞬時力に関連する非2次項に対する2次項を含むコスト関数JTを有する予測動的制御モデルを含む。
【0044】
【0045】
さらに、この実施形態によれば、ノミナル収束モジュール18は、ノミナルユニット14によって生成された、非摂動ノミナル状態zNPを入力として受け取り、パラメトリック偏差rを計算する。信号v*の第2の部分は、パラメトリック偏差rをゲイン行列Kと乗算することによって取得される。
【0046】
信号v*の第2の部分は、ジャイロスコープ構造体2の実際の状態x0-xNの展開の実際の軌跡を、より正確に、境界空間X’又は最適状態内に維持する一方、駆動信号uの修正を可能にする。これは、ジャイロスコープシステム2が、波動によって生成された外部ランダム摂動wの存在下でさえ、最適に制御されることを可能にする。
【0047】
第2の実施形態は、
図5に示され、コントローラ10は、駆動信号uを拡張駆動信号として判定する。以下では、以前の解決策に関する差のみが、具体的に記載されるだろう。
【0048】
拡張駆動信号uは、拡張信号vの第1の部分と、信号v*の第2の部分とを含む。
【0049】
予測ユニット15は、拡張ノミナル状態zaを入力として受け取り、非摂動ノミナル状態zNP、及び、摂動出力状態xの動作変数とジャイロスコープ構造体2の非摂動ノミナル状態zNPの動作変数との間の差として計算されたパラメトリック偏差rを含む。
【0050】
拡張状態zaは、ブロック15が、ジャイロユニット状態の予測を強化する一方、外乱wの傾向をモデル化し、予測することを可能にするベクトルである。
【0051】
このようにして、コスト関数J
Tを最小化することによって予測ユニット15によって生成された駆動信号
は、より正確であり、したがって、電気コンバータ9の制御をより効率的にする拡張駆動信号uの判定を可能にする。
【0052】
したがって、取得されたコントローラは、摂動状態の展開制御に関して非常にロバストである。そのような制御は、摂動出力状態xの二重フィードバックと、動的管収束モデルとの両方によって取得される。
【0053】
さらに、本出願人は、そのように設計されたコントローラ10が、予測ユニット15及びノミナルユニット14の予測制御モデルパラメータの不確実性の存在下でさえ、ジャイロスコープシステム2が、必要とされる状態に維持され、或いは戻されることを可能にすることを確かめることができた。
【0054】
図6は、本発明に従って実装された、コントローラ10を用いた慣性WEC変換システムの時間関数としての抽出された電力の傾向のシミュレーションを概略的に示す。電力は、負であり、抽出された電力である。
図7-
図9は、
図6のグラフに関連するいくつかの詳細な要素を示す。最大誤差は、以下のパラメータ変動において、おおよそ2%であることが判明している。
-ジャイロスコープ質量変動(VMG曲線):±10%
-浮体質量変動(VMS曲線):±15%
-ジャイロスコープ慣性変動(VIG曲線):±15%
-フライホイール慣性変動(VIV曲線):±2%
【0055】
Nomによって特定された
図7-
図9のチャートは、強制的な波動を受けるモデルのノミナルパラメータを考慮して、抽出された電力の傾向を示す。
【0056】
図7は、ノミナル曲線Nomに加えて、2つのVMG曲線及び2つのVMS曲線を示す。
図8は、ノミナル曲線Nomに加えて、2つのVIV曲線及び2つのVIG曲線を示す。
図9では、ノミナル曲線Nomに加えて、抽出された電力の下限値L
I及び上限値L
Sを表す曲線は、浮遊浮体3、ジャイロスコープ、及びフライホイールの質量及び慣性を共同で変化させることによって、強調される。
【0057】
本発明はまた、上述されたWECシステム1のジャイロスコープ構造体2の制御方法に言及し、その詳細及び前述されたのと同じ構造及び機能を有する協働部品は、同じ番号及び参照符号と共に示されるだろう。
【0058】
具体的には、ジャイロスコープ構造体2は、浮遊浮体3と関連付けられ、浮遊浮体3の回転エネルギーを電気エネルギーに変換する電気コンバータ9を含む。最も一般的な形態では、方法は、電気コンバータ9のTRMPC(Tube-Based Robust Model Predictive Control)を含む。
【0059】
コントローラ10は、前記ジャイロスコープ構造体2の動作変数を含む摂動出力状態xを受け取る。
【0060】
本発明によれば、方法は、信号(v)の第1の部分と信号v*の第2の部分とを加算することによって取得される駆動信号uによって、電気コンバータ9を駆動するように工夫する。
【0061】
方法は、摂動出力状態xで計算されたジャイロスコープ構造体2の予測制御モデルを使用することによって、信号vの第1の部分を判定するように工夫する。
【0062】
さらに、方法は、動的管収束を有するノミナル収束モジュール18を使用することによって、第2の信号部分v*を判定するように工夫する。動的管収束は、摂動出力状態xの動作変数のパラメトリック偏差rで計算される。これらのパラメトリック偏差rは、摂動出力状態xとジャイロスコープ構造体2の非摂動出力ノミナル状態zNPとの間の動作変数の差として規定される。非摂動出力ノミナル状態zNPは、ジャイロスコープ構造体2の非摂動ノミナルモデルによって取得される。
【0063】
第1の実施形態では、方法は、従来のMPCコントローラによって実装された予測制御モデルを使用し、第1の信号部分vを判定するように工夫する。
【0064】
さらに、方法は、「動的管収束」、すなわち、ジャイロスコープ構造体2のパラメトリック偏差rの予め規定された値、好ましくはゼロへの収束として規定されたゲイン行列Kを使用するようにする。概して、動的管収束は、線形システムを取り扱い、
図4では、2つの状態変数、x1及びx2を有するシステムの、より一般的な実装形態において示される。このようにして、状態空間では、ゲイン行列Kは、ジャイロスコープ構造体2の必要とされる非摂動出力状態z
0-z
nに向かって摂動出力状態X
0-X
nの展開を可能にする。
【0065】
必要とされる非摂動状態z0-znは、ジャイロスコープ構造体2のノミナルモデルに基づいて、すなわち、非外乱且つ線形システムを考慮して、アプリオリに判定される。
【0066】
設計段階では、方法は、時間間隔T、後続ステップの数N、ならびに各必要とされる非外乱状態z0-znの境界空間X’の大きさ及び形状の規定を工夫する。
【0067】
このようにして、状態空間では、各摂動出力状態xに関して、ゲイン行列Kのパラメータによって乗算されるパラメトリック偏差rは、ジャイロスコープ構造体2の実際の軌道を、各必要とされる状態に関して規定された境界空間X’内に維持し、非摂動の必要とされる状態z0-znの展開は、予め規定された最終的な必要とされる状態znに収束する。当然、各必要とされる非摂動状態z0-znを取り囲む境界空間X’は、外乱又は摂動wの全ての可能な原因を含むことが仮定される。
【0068】
一実施形態によれば、管ゲイン行列Kは、線形行列不等式理論を使用することによって、オフラインで判定される。一実施形態では、状態空間離散化における線形システムの古典的表現において使用される行列A及びBは、次の章で詳述されるように、コスト関数JT内で使用される重み行列Q、R及びPと共に考慮される。
【0069】
このようにして、駆動信号uの第2の部分v*は、非摂動状態への収束に関して、摂動状態の展開を境界空間X’によって規定された管内部に維持するために判定される。
【0070】
図3に示される一実施形態によれば、方法は、ノミナルユニット14及び予測ユニット15をカスケード状に配置する接続した予測ブロック13の実装形態を介して、第1の信号部分vを判定する。ノミナルユニット14では、ジャイロスコープ構造体2の非摂動ノミナルモデルは、摂動出力状態xと第1の信号部分vのフィードバックとを使用することによって、非摂動ノミナル状態z
NPを生成するために使用される。
【0071】
予測ユニット15では、ジャイロスコープ構造体2の予測動的制御モデルは、入力として受け取られた非摂動ノミナル状態zNPによって駆動され、信号vの前記第1の部分を生成する。
【0072】
予測動的制御モデルは、ジャイロスコープ構造体2の状態及び駆動動作に関する2次項を含むコスト関数JTを工夫し、ならびに、ジャイロスコープ構造体2によって吸収される瞬時力に関する非2次項JTを含む。
【0073】
方法は、駆動信号
が、コスト関数J
Tを最小化するために判定される最適化問題に従って計算を使用するように工夫する。
【0074】
【0075】
さらに、方法は、ノミナルユニット14によって生成された、非摂動ノミナル状態zNPを使用し、パラメトリック偏差rを計算し、信号v*の第2の部分を規定するように工夫する。
【0076】
図5の、より一般的な態様において示される一代替形態では、方法は、拡張状態z
aを予測ユニット15に入力として提供することによって、駆動信号uを拡張駆動信号として生成するように工夫する。拡張状態z
aは、非摂動ノミナル状態z
NP、及び、出力状態xの動作変数とジャイロスコープ構造体2の非摂動出力ノミナル状態z
NPの動作変数との間の差として計算されたパラメトリック偏差rを含む。
【0077】
拡張状態zaは、ブロック15が、ジャイロユニットの状態の予測を強化する一方、外乱wの傾向をモデル化し、予測することを可能にするベクトルである。
【0078】
このようにして、取得された駆動信号
は、より正確であり、電気コンバータ9の制御は、より効率的である。
【0079】
そのように設計された方法は、WECシステムのジャイロスコープ構造体の内部摂動及び外部摂動に関して、いわゆるロバストな駆動信号uの生成を可能にすることによって、予め設定された目標及び目的を実現した。
【0080】
さらに、本発明に従って実施される、コントローラによって生成され、管収束によって取得された補正は、ノミナルユニット及び予測ブロックのノミナルモデルのパラメータ上の不確実性の存在下、又は、以前に考慮されず、且つ/或いはモデル化されていない外乱の存在下でさえ、ジャイロスコープ構造体が、必要とされる状態に近い動作状態に戻されることを可能にする。
【0081】
(コスト関数)
上に示された単純化されたモデルの状態を考慮すると、予測動的制御モデルの、及び予測ユニット15に関連するコスト関数J
Tは、式に従って詳述される。
【数2】
z
Kは、対角行列Q内に含まれる係数で重み付けされたジャイロスコープ構造体2の実際の出力状態zのベクトル要素の2乗の合計として計算されたk番目のステップにおける非摂動状態のエネルギーを表す。
v
Ekは、k番目のステップにおける制御変数のエネルギーを表し、その値の2乗として計算され、重み行列(R)によって重み付けされる。一実施形態では、重み行列(R)は、vEkなどのスカラーである。
Z
Nは、対角行列P内に含まれる係数で重み付けされた、ステップN(すなわち、N個のステップから構成される予測時間地平線の終わりにおいて)における状態のエネルギーを表す。
【0082】
コスト関数JTは、ジャイロスコープ構造体2の状態及び制御又は駆動動作に関する2次項を含み、ならびに瞬時吸収力に関する非2次項を含む。規定によって混合項である瞬時力項に起因して、コスト関数JTは、凸ではなく、その最小化は、駆動信号vの判定によって求められる。
【0083】
k番目のステップで抽出された電力と、k番目のステップでの状態のエネルギーzKと、制御変数vEkのエネルギーとは、一緒に全て合計され、N個のステップを含む時間間隔Tに関して計算される。
【0084】
状態に関連する行列Qと、制御変数に関連する行列Rとによって、各項の寄与は、総コスト関数の計算において調整される。重み係数が増加するにつれて、関連付けられた項のエネルギーは、低減される。
【0085】
一実施形態によれば、行列Pは、ゲイン行列Kと共に、線形行列不等式又はLMIの理論に従って計算される。
【国際調査報告】