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特表2024-527280構造的に統合された電気化学的なセルおよび該電気化学的なセルから構築された構造的に統合されたスタック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-24
(54)【発明の名称】構造的に統合された電気化学的なセルおよび該電気化学的なセルから構築された構造的に統合されたスタック
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20240717BHJP
   B64G 1/42 20060101ALN20240717BHJP
   B64G 1/60 20060101ALN20240717BHJP
【FI】
H01M8/18
B64G1/42 100
B64G1/60
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578944
(86)(22)【出願日】2022-06-22
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 DE2022100460
(87)【国際公開番号】W WO2022268264
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】102021116066.9
(32)【優先日】2021-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594102418
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer-Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
【住所又は居所原語表記】Hansastrasse 27c, D-80686 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ギルシク ヤン
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA08
5H126BB10
5H126CC02
5H126FF01
5H126FF05
5H126GG02
5H126GG05
5H126GG06
5H126GG18
(57)【要約】
本出願は、電気化学的なセル、特にレドックスフローバッテリーと、2つ以上のそのような電気化学的なセルから成るセル複合体を備えたスタックとに関する。セルは、少なくとも1つのセルフレームと、少なくとも1つの電極とを備え、セルフレームは、セル内室を周面側で取り囲んでおり、セルフレームが、セル内室内に流体を供給するための少なくとも1つの供給通路と、セル内室から流体を導出するための少なくとも1つの導出通路とを有しており、場合によっては少なくとも1つの半透過性膜と、場合によっては少なくとも1つのバイポーラプレートとを有している。セルフレーム、電極、場合によって存在する半透過性の膜および場合によって存在するバイポーラプレートが、実質的に形状結合式に互いに結合されており、特に活性なセル面の領域において実質的に形状結合式に互いに結合されている。このようなセルは、特に航行および宇宙旅行における用途に適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学的なセル、特にレドックスフローバッテリーであって、少なくとも1つのセルフレームと、少なくとも1つの電極とを備え、前記セルフレームが、セル内室を周面側で取り囲んでおり、前記セルフレームが、前記セル内室内に流体を供給するための少なくとも1つの供給通路と、前記セル内室から前記流体を導出するための導出通路とを有しており、かつ場合によっては少なくとも1つの半透過性膜と、場合によっては少なくとも1つのバイポーラプレートとを有している、電気化学的なセルにおいて、
前記セルフレーム、前記電極、場合によっては存在する前記半透過性膜および場合によっては存在する前記バイポーラプレートが、実質的に形状結合式に互いに結合されており、特に活性なセル面の領域において実質的に形状結合式に互いに結合されていることを特徴とする、電気化学的なセル。
【請求項2】
前記セルが、宇宙旅行の静止要素または可動要素の支持構造体および/または賦形構造体内に配置されている、請求項1記載のセル。
【請求項3】
前記セルが、前記静止物体または前記可動物体の外側のカバー内に配置されている、請求項2記載のセル。
【請求項4】
前記電極が、前記セル内室内で少なくとも部分的に、前記少なくとも1つの供給通路から前記少なくとも1つの導出通路への前記電解質の通流のための多孔性を有している、請求項1から3までのいずれか1項記載のセル。
【請求項5】
前記電極が、少なくとも部分的に開気孔の金属発泡体-構造体として、特に金属メッシュとして、特にニッケル発泡体またはニッケルメッシュとして形成されている、請求項4記載のセル。
【請求項6】
前記電極が、多孔質の、形状安定性の炭素材料から形成されており、特に炭素ベースの硬質不織布、硬質フェルトから、グラファイト繊維から、かつ/またはカーボンナノチューブから、特に導電性のポリマーベースの複合体から形成されている、請求項4記載のセル。
【請求項7】
前記電極の前記多孔質の材料が、少なくとも部分的に繊維状の構造体要素から形成されている、請求項1から6までのいずれか1項記載のセル。
【請求項8】
前記電極内に流路が形成されている、請求項1から7までのいずれか1項記載のセル。
【請求項9】
前記セルが、組み込まれた状態および/または組み込まれていない状態において、曲げ可撓性であり、かつ/または位置柔軟性に形成されている、請求項1から8までのいずれか1項記載のセル。
【請求項10】
前記セルの構成部分の少なくとも一部と、特に前記電極とが、曲げ可撓性かつ/または位置柔軟性の材料から形成されている、請求項9記載のセル。
【請求項11】
前記セルの構成部分の少なくとも一部と、特に前記電極とが、曲げ可撓性かつ/または位置柔軟性の幾何学形状を有しており、このために1つまたは複数の材料切欠きが、少なくとも、前記セルフレームにより取り囲まれた表面に設けられている、請求項9または10記載のセル。
【請求項12】
前記セル内室に、前記電極の他に、機械的な安定化構造体、特に、前記流体による通流を可能にするための個別のハニカム要素が穿孔されているハニカム体の形態の安定化構造体または実質的に作用する押圧力の方向で前記半透過性膜と前記バイポーラプレートとの間に配置された柱状の安定化構造体が配置されている、請求項1から11までのいずれか1項記載のセル。
【請求項13】
請求項1から12までの少なくともいずれか1項記載の2つ以上の電気化学的なセルから成るセル複合体を備えたスタック。
【請求項14】
宇宙旅行の静止要素または可動要素の構造体要素であって、該構造体要素が、前記静止要素または前記可動要素のための支持機能および/または賦形機能を満たしている、構造体要素において、
請求項1から12までのいずれか1項記載の電気化学的なセルまたは請求項13記載のスタックが、前記構造体要素に形状結合式に結合されていることを特徴とする、構造体要素。
【請求項15】
前記可動要素が、乗り物である、請求項14記載の構造体要素。
【請求項16】
前記静止要素が、宇宙ステーションである、請求項14記載の構造体要素。
【請求項17】
航行および宇宙旅行における、請求項1から12までのいずれか1項記載の電気化学的なセルまたは請求項13記載のスタックの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、電気化学的な反応器、特にフロー反応器、例えばフローセル、燃料電池、電解槽または(特に容量性脱イオン化または電気透析のための)水処理セルを、可動要素または宇宙旅行の静止要素の支持構造体および賦形構造体に構造スペース効率よく統合することに関する。フロー反応器は、その一次的なタスク、例えばエネルギ貯蔵、エネルギ変換、元素製造または濾過の他に、構造体の機械的な補強、熱管理の支援および/または放射線の吸収のような別のタスクを引き受けることができる。このためには、曲げ可撓性かつ同時に圧力安定性の(つまり、特に外部から作用する圧力に対して安定的である)電気化学的な反応器が特に適している。
【0002】
反応器、特にフロー反応器の圧力安定性(本出願では実質的に機械的な圧力安定性であると理解される)は、本出願によれば、フローセルの一貫した形状結合により、電気化学的に活性なセル面の領域においても、曲げ可撓性の材料および/または曲げ可撓性の構造の使用による曲げ可撓性と同時に達成される。したがって、流体をガイドするために、例えば、硬質不織布または硬質フェルトまたは金属発泡体のような形状安定性の多孔質の電極を使用することができる。フロー反応器を汎用的に利用することによって、高い構造スペース効率の他に、システム全体の効率も向上させることができる。
【0003】
従来技術からは、少なくとも1つのアノードと、少なくとも1つのカソードと、アノードとカソードとの間の電荷交換を可能にする少なくとも1種の電解質とを含む電気化学的なフロー反応器が公知である。運転状態において、反応物質供給および反応物質導出のために働く流体がフロー反応器を通流する。
【0004】
電気化学的なフロー反応器は、複数の電気化学的なフローセルから構成されていることが多く、これらの電気化学的なフローセルは、プレート状かつ非可撓性の形態を有していて、双極で結合されてセルスタックを形成する。このスタックは、直方体状の嵩張る構造物であることが多く、フロー反応器の機能を可能にするものの、可動物体および静止物体に低い構造スペース効率でしか組み込むことができない。
【0005】
電気化学的な反応器を特に構造スペース効率的に物体内に収容するための基本的な可能性は、乗り物または飛行体の外壁および/または中間壁のような既存の構造体への反応器の統合であろう。しかし、従来技術において公知の反応器は、既存の構造体に形状に関して適合することができず、置き換えられた構造体のタスクを担うこともできない。
【0006】
従来技術により現在追求されているアプローチは、構造的な固体電解質マトリックス内の炭素繊維から成る構造的なセル複合材料による電気化学的なノン・フローセルの機能の拡張であり、ノン・フローセルの化学は、リン酸鉄リチウムをベースとしている。これらのアプローチ法の欠点は、一方では、今日まで使用されてきた構造体材料に適している新しいセル化学の手間のかかる研究および開発であり、他方では、電気化学的なノン・フローセルのための排他的な適性である。
【0007】
本発明の根底を成す課題は、従来技術の欠点を克服すると共に、好適には以下の特性のうちの複数または全てを実現する電気的化学的なセルを提供することであり、すなわち、可動物体および静止物体における構造スペース効率、既存の構造体、特にそれぞれの可動物体または静止物体の機能性に基づいて必然的に生じる構造体または構造要素内(例えば、宇宙飛行体の円筒形または直方体形のカバー内)への統合性、可撓性、特に(特に構造体の湾曲面への適合性を実現することができるようにするための)曲げ可撓性、(特にそれぞれの使用環境における電気化学的なセルの一次的な機能性を保証するための)機械的な圧力安定性に加え、場合によっては構造体の機械的な補強、(特に使用される流体の許容可能な粘性に関して)できるだけ多くのセル化学のための使用可能性ならびに電極および膜のような、セルの使用される構成要素の化学的かつ電気化学的な耐性のような別のタスクを実現するための特性のうちの複数または全てを実現する電気的化学的なセルを提供することである。
【0008】
この課題は、独立請求項の対象により解決される。従属請求項および明細書は、有利な構成を教示する。
【0009】
本発明は、独立請求項によれば、電気化学的なセル、特にレドックスフローバッテリーであって、少なくとも1つのセルフレームと、少なくとも1つの電極とを備え、セルフレームが、セル内室を周面側で取り囲んでおり、セルフレームが、セル内室に流体、特に電解質を供給するための少なくとも1つの供給通路と、セル内室から流体を導出するための少なくとも1つの導出通路とを有しており、かつ場合によって少なくとも1つの半透過性膜と、場合によって少なくとも1つのバイポーラプレートとを有しており、セルフレーム、電極、場合によって存在する半透過性膜および場合によって存在するバイポーラプレートが、実質的に形状結合式に互いに結合されている、電気化学的なセルに関する。
【0010】
電気化学的なセルの上述の構成要素は、特に可動要素または静止要素の支持構造体および/または賦形構造体への統合時に、もしくは可動要素または静止要素の支持構造体および/または賦形構造体への統合のために、形状結合式に互いに結合されており、特に活性なセル面の領域において、膜平面に対して直交して互いに結合されている。特に活性なセル面の領域における形状結合は、支持構造体および/または賦形構造体への組込みによって初めて実現されてもよい。形状結合とは、特に、種々異なる構成要素の面一の配置形態であるとも理解され、その際に構成要素の互いに対する位置柔軟性はもはや存在しない。形状結合によって、本出願によれば、特に機械的な圧力安定性も達成される。それにもかかわらず、形状結合に対して付加的に、例えばねじ結合部による力結合式の取付けまたは例えば接着剤による材料結合式の取付けが想定されていてよい。可動要素とは、本出願によれば、特に乗り物(つまり陸上の乗り物および陸上輸送手段、空および宇宙の乗り物ならびに水上の乗り物、例えば宇宙飛行体、船舶または航空機)であると理解され、宇宙旅行の静止要素とは、例えば宇宙ステーション(例えば月面の将来的な宇宙ステーション)であると理解される。
【0011】
支持構造体および/または賦形構造体とは、電気化学的なセルが配置されている、可動構造体または静止構造体の構造体要素、つまり、特に乗り物または宇宙旅行の静止要素の構造体要素であると理解される。賦形構造体は、例えば、乗り物の外側のカバーまたは胴体であってよいが、例えば、複数のモジュールまたはセルから構成される乗り物、特に宇宙飛行体または宇宙ステーションでは1つのセルであってもよく、または特に航空機では胴体区分であってもよい。通常、賦形構造体は、(例えば航空機胴体のような)人員によって使用される区画を制限するか、または包囲する構造体要素であってよく、またはこのような複数の区画から構成されている構造体要素である。例を挙げるとすれば、例えば乗員室、制御スタンド、または宇宙ステーションのモジュールである。支持構造体は、例えば外板を支持する、横方向、斜め方向または長手方向で補強された支持構造であってよい。しかし、支持構造体および賦形構造体は、支持構造体が配置されている車両胴体または乗り物区画内の被覆要素であってよい。
【0012】
本出願による電気化学的なセルとは、従来技術により公知のあらゆる電気化学的なセルであると理解される。これらのセルは、種々異なる構成において知られており、電気化学的なセル内で電気化学的な反応が進行するので、一部で電気化学的な反応器とも呼ばれる。電気化学的なセルは、その用途に応じて、例えば、互いに異なる電極における化学反応によって利用可能な電気エネルギを供給する電気化学的な電流源の形態のガルバニ電池として構成されていてよい。しかし代替的には、電気化学的なセルは、外部電圧の印加により特定の生成物を製造に用いられる電解セルであってもよい。例えば、燃料セルのための水素の生成または水の電気分解による酸素の生成が考えられる。蓄電池は、ガルバニ電池のように交互に電流源として、さらに例えば電解セルにおけるような蓄電体として役立つ。最後に、電気分解または容量性脱イオン化による水処理も挙げられる。
【0013】
或る実施形態によれば、セルは可撓性に、特に曲げ可撓性に形成されている。曲げ可撓性は実質的に、曲げ可撓性の材料および/または曲げ可撓性の構造の使用により達成することができる。
【0014】
曲げ可撓性の構造は、例えば、セル内、特に電極内にも、意図的に材料切欠き(例えば畝、溝またはノッチまたは概してV字形の切欠きが考えられる)が一方の主表面または両方の主表面に設けられていることによって、実現することができる。これらの材料切欠きは、組込みが行われる構造体、特に支持構造体の幾何学形状への適合を可能にする。切欠きは、組込み後には実質的に単にスリットしか残っていないように形成されてよい。換言すると、切欠きの幾何学形状によって(例えばV字形の構造の開放角度の選択によって)、曲げ可撓性の構造は組込み中に自動的に、組込みが行われる構造体の内側幾何学形状を引き起こすように意図的に規定されていてよい。特に宇宙旅行の分野においてこのことは有利である。なぜならば、具体的な組付け位置に関する最大限の柔軟性が要求されるからである。
【0015】
規定された材料は、それ自体が、ある程度の曲げ可撓性を可能にする(つまり曲げ可撓性の材料である)が、同時に機械的圧力安定性を有している。ここでは、例えば導電性の多孔質のポリマー、導電性のポリマーベースの複合材料または硬質不織布または硬質フェルト、ならびに金属発泡体、例えばアルミニウム発泡体、ニッケル発泡体またはチタン発泡体が挙げられる。
【0016】
或る実施形態によれば、セルは、セルフレームによって取り囲まれた面が、平均で0.2mm~100mm、しばしば2mm~10mm互いに離間して配置されているように形成されていてよい。しかし典型的には、この間隔は、組込みが行われる構造体に合わせられており、例えば月面ステーション等の場合、100mmを超えることもある比較的大きな離間が考えられる。比較的剛性の電極材料では、十分な曲げ強度のために、比較的薄いセルを設けることができ、極めて曲げ可撓性である材料または構造および多孔質の電極中の極めて大きな表面積を有するセル(例えば金属発泡体または好適には90%を超える多孔率を有する導電性の多孔質のポリマー複合体)では、場合によっては極めて厚い幾何学形状を実現することもできる。
【0017】
本発明は、全ての種類の電気化学的なセルにおいて利用することができる。しかし、特に有利には、本発明は蓄電池に関し、かつ本明細書では好適にはすでに長期にわたって様々な構成で自体公知であるレドックスフローバッテリーに関する。このような構成は、例えば欧州特許出願公開第0051766号明細書および米国特許出願公開第2004/0170893号明細書に記載されている。以下では、本発明を頻繁にレドックスフローバッテリーにつき説明する。しかし、レドックスフローバッテリーのみに制限される実施形態の他に、本開示内容は、電気化学的なセルに関しても一般的に理解され得る。
【0018】
レドックスフローバッテリーの重要な利点は、出力および容量のフレキシブルな拡張可能性、ひいてはその適性にあり、低く選択された出力でも極めて大量のエネルギを蓄積することができ、かつその逆もまた然りであることである。エネルギは、外部のタンクに準備され得る電解質に貯蔵される。電解質は、大抵、種々異なる酸化段階の金属イオンを有している。電解質から電気的なエネルギを取り出すために、または電解質に再び蓄えるために、電解質は、いわゆる電気化学的なセルを通して圧送される。出力および容量に対する個別の拡張可能性の他に、エネルギ変換およびエネルギ蓄積の場所的な分離は、特に小さな自己放電および電極の理論的に存在しない劣化のような別の利点をもたらす。宇宙旅行のために、電解質タンクを別個の搬送で使用場所にもたらし、現地で初めて、モジュールまたはステーションに統合されたレドックスフローバッテリーセルに連結することが可能であり、このことは、固定された搬送能力で出力および容量のより大きな規模設定を可能にする。電解質容器は、セル構造空間の外に、例えば宇宙飛行体の外部に、貯蔵構造空間として配置されていてよいが、電気化学的なセルと同じ支持構造体および賦形構造体に配置されていてもよい。特に、エネルギ変換器セルとエネルギ貯蔵タンクとの構造的な統合が可能であり、これにより、エネルギ変換器セルおよびエネルギ貯蔵タンクは、例えば2つ以上の層において、乗り物、例えば宇宙飛行体の外側のカバーまたは胴体の一部を成す。エネルギ貯蔵タンクは、使用場所への搬送前にすでに、または使用場所への到達後に、付加的な供給ミッションにより、貯蔵媒体で満たされてよい。
【0019】
本出願による電気化学的なセルは、通常は2つのハーフセル(半電池)から形成され、これら2つのハーフセルは、半透過性膜の形態のセパレータを介して互いに分離されていて、かつそれぞれ1つの電解質および電極を有している。半透過性膜は、電気化学的なセルのカソードとアノードとを空間的かつ電気的に相互に分離するというタスクを有している。したがって、半透過性膜は、貯蔵された化学的なエネルギを電気的なエネルギに変換するか、または電気的なエネルギを化学的なエネルギに変換するイオンに対して透過性でなければならない。半透過性膜は、例えばマイクロポーラスプラスチックならびにガラス繊維またはポリエチレンおよびいわゆる隔膜から成る不織布から形成され得る。電気化学的なセルの両方の電極では、レドックス反応が進行し、その際に一方の電極において電解質から電子が放出されて、他方の電極において電子が収容される。電解質の金属イオンおよび/または非金属イオンは、レドックス対を形成し、したがってレドックス電位を形成する。レドックス対としては、例えば鉄-クロム、多硫化物臭化物またはバナジウムが挙げられる。これらのレドックス対または別のレドックス対は、基本的に水溶液または非水溶液中に存在していてもよい。
【0020】
レドックス電位により電位差が形成されるセルの電極は、セルの外側で、例えば電気的な消費器を介して電気的に互いに接続されている。電子が、セルの外側で、一方のハーフセルから他方のハーフセルに到達する一方、電解質のイオンは、半透過性膜を通って直接に一方のハーフセルから他方のハーフセルに移行する。レドックスフローバッテリーを再充電するために、ハーフセルの電極には、電気的な消費器の代わりに、例えば充電器を用いて、電位差が印加されてよく、これらの電位差により、ハーフセルの電極において進行するレドックス反応が反転される。
【0021】
記載されたセルを形成するために、特に、セル内室を取り囲むセルフレームが使用される。セルフレームは、セル内室を典型的には完全には取り囲んでおらず、専ら周囲に延びる狭幅側に沿って取り囲んでいる。したがって、セルフレームは、周面側でセル内室の周囲を環状に延び、対向する2つの大面積の側を互いに分離する。これらの側自体は、半透過性膜または電極に対応配置されている。セルフレームの縁部により形成されるセルフレームの厚さは、典型的には、対向する大面積の面を規定するセルフレームの幅および高さよりも明らかに小さい。
【0022】
電気化学的なセルの各ハーフセルは、例えば射出成形法で熱可塑性プラスチックから製造されるようなセルフレームを含んでいる。2つのセルフレーム間に半透過性膜が配置され、この半透過性膜は、ハーフセルの電解質を対流物質移動に関して互いに分離するが、一方のハーフセルから他方のハーフセルへの特定のイオンの拡散は許容する。さらにセル内室には、それぞれ1つの電極が、この電極が、セル内室を通流する電解質と接触するように対応配置されている。電極は、例えば、各セルフレームのセル内室を、半透過性膜とは反対側で終端させることができる。従来技術によれば、セル内室は、実質的に空のままであり、それぞれ1つの電解質によってのみ充填されていてよい。代替的には、それぞれの電極も、少なくとも部分的にセル内室内に設けられていてよい。この場合、電極は、典型的には、電解質が部分的に電極を貫流することができるように形成されている。特に、この形態では、高い比表面積を有する電極が考慮され、この電極において、対応する電気化学反応が対応して迅速に、かつ/または広範囲に進行することができる。このことは、最終的に、セルの高い体積比出力につながる。しかし、セル内室は、従来技術によれば、電極がセル内室に突入している場合でも、大抵は、半透過性膜とは反対側で電極によって閉じられている。電極の非多孔質の部分としては、例えば触媒または別の物質でコーティングされていてよい、いわゆるバイポーラプレートも考慮される。
【0023】
各セルフレームは、開口および通路を有しており、開口および通路を通って、対応する電解質が供給管路からそれぞれのセル内室に流入し、セル内室から再び引き出されて、排出管路に供給されてよい。ハーフセルの電解質は、供給管路および排出管路を介して貯蔵容器から収集容器へと圧送される。これにより、電解質の新たな使用が可能となり、したがって電解質は破棄されることも交換されることも必要ではない。
【0024】
レドックスフローバッテリーが唯1つのセルを含んでいる場合、ハーフセルを形成するセルフレームの外側に、各ハーフセルのための供給管路および各ハーフセルのための排出管路が位置している。各セルフレームは少なくとも2つの開口を有しており、これらの開口のうちの少なくとも1つ開口が供給管路に接続されている一方で、少なくとも1つの別の開口が排出管路に接続されている。セルフレーム内では、各開口が、セル内室に向かって開いている流路に接続されている。このことは、供給通路を介した供給管路からセル内室への電解質の供給と、セル内室通って流れる電解質の、導出通路を介した導出とを可能にする。電解質をセル内室の幅にわたってより均一に分布し、かつ電解質をセル内室の幅にわたってより均一に引き出すために、それぞれの供給通路および/または導出通路は、外側の開口とセル内室との間に、つまりセルフレームのフレーム周壁の領域において1回または複数回、分岐されていてよい。代替的には、セルフレーム内に、電解質を供給するための一連の供給通路および/または導出するための一連の排出通路が別個に設けられていてもよい。どちらの場合にも、電解質は、均一に分配されてセルフレームの一方の側の供給通路の出口開口を介してできるだけ均一に分配されてセル内室に流入し、かつ再びできるだけ均一に分配されて、セルフレーム他方の側の導出通路を介してセル内室から流出する。したがって、セル内室を通るできるだけ均一な流れを達成することが試みられる。これらの供給通路は、その他方の端部において、流入開口を介して供給管路に接続されている。したがって、電解質は、供給管路から、各ハーフセルのセルフレームの少なくとも1つの供給通路を通じて対応するセル内室に到達することができる。
【0025】
必要な場合、レドックスフローバッテリー内に同じ種類の複数の電気化学的なセルがまとめられる。大抵、これらのセルは、それに対して互いに積層されており、したがってセル全体を、セル積層体またはセルスタックと呼ぶ。個々のセルは、大抵は互いに並列して電解質により貫流される一方で、セルは大抵、電気的に直列接続されている。つまり、セルは大抵、液圧的に並列に、かつ電気的に直列に接続されている。この場合、セル積層体の複数のハーフセルのうちのそれぞれ1つのハーフセルにおける電解質の電荷状態は等しい。セルスタックの対応するハーフセルに電解質を分配し、電解質をそれぞれのハーフセルから一緒に導出するために、ハーフセルは、供給管路および排出管路に相互に接続されている。セルの各ハーフセルまたは各セル内部空間が別の電解質により通流されるので、両方の電解質は、セルスタックを通る通過中に互いに分離されなければならない。したがって、セル積層体に沿って、通常は、2つの別個の供給管路と2つの別個の排出管路とが設けられている。これらの通路のそれぞれは、通常、部分的に、セルフレーム自体により形成されており、セルフレームは、このために4つの開口を有している。これらの開口は、セルスタックに沿って延び、相前後して配置され、必要に応じてシール材料を介して互いに分離されて供給管路および排出管路を形成する。このようなセルスタックでは、曲げ可撓性の電極材料を有する実施形態が選択されることが多いが、可撓性の構造体を有する実施形態またはその両方の混合形態も考えられる。
【0026】
多数の電気化学的なセルでは、出力密度の上昇のために、電極が少なくとも、複数のハーフセルのうちの1つのハーフセルにおいて少なくとも部分的にセル内室に係合し、多孔質であり、かつ対応する電解質により通流されると有利であることが判った。
【0027】
本出願による電気化学的なセルは、セル内室に、電解質を少なくとも1つの供給通路から少なくとも1つの導出通路へと通流させるための少なくとも部分的に多孔質の電極を有している。電極の多孔質の区分は、電極の、同様に存在し得る非多孔質の部分とは異なり、電解質によって通流され得るので、電極の多孔質の区分により占められる空間がセル内室に対応配置されており、このことは特に機能的な観点から妥当である。電極の多孔質の区分は、一体に形成されていても、複数の部分から形成されていてよく、一体的な構成は、単純さのために考えられ得る。
【0028】
或る実施形態によると、多孔質の電極は、本出願によれば、導電性の多孔質のポリマー、導電性のポリマーベースの複合材料(例えば、大きな割合のポリプロピレンもしくはポリエチレンおよび小さな割合のグラファイトおよび煤から成る複合材料)、不織布またはフェルト状の材料、例えばグラファイト不織布および/または金属発泡体から成っていてよく、またはこれらの材料のうちの1種以上を含んでいてよい。金属発泡体-構造体とは、一般的な発泡体の定義に依拠して、固体の金属壁(固体の発泡体)により分離されている気体状の領域から形成される2相系の複合体であると理解される。製造方法に応じて、多孔質の金属の構造体は、極めて種々異なる外観を呈していてよい。金属発泡体という用語は、従来技術においても、極めて種々異なる特性を有する多孔質の金属に対する同義として使用される。共通の特徴は、通常は90%超である、構造体の高い多孔率と、その意図的な形成である。それゆえ、本出願によれば、金属メッシュ、不織布状またはフェルト状の構造体ならびに一般的に繊維または織布ベースの開気孔の構造(例えば織布および編成体)も金属発泡体に数えられる。
【0029】
本出願による金属発泡体は、金属(合金からも)成っていてもよいが、金属構造体であってもよく、この金属構造体の表面は(例えば流体もしくは電解質に対する回転された化学的な安定性を保証するために)コーティングされており、特に金属発泡体の、流体に面した表面全体がコーティングされている。同様に、製造プロセスにより実現可能である限り、例えば金属化されたテキスタイルにより可能であるように、金属でコーティングされた(例えばポリマーをベースとする)基本構造が使用され得る。
【0030】
本出願によれば、電解質の搬送を保証するために、少なくとも部分的に開気孔の構造を有する金属発泡体が必要である。開気孔の領域の孔は、互いに接続されている。金属発泡体の製造は、文献から公知であり、例えば、以下のことによって行うことができる:
-発泡剤を用いた溶融物の発泡、
-ガス噴射による、または溶解させた気体による溶融物の発泡、
-後の金属発泡体のポリマーモデルを起点とした精密鋳造、
-スペーサ構造体における溶融含浸、
-例えば、フィルタ用途のための開気孔の構造体を製造するために使用されるような、粉末ばら材および顆粒ばら材の焼結、
-金属製の個別繊維および個別ワイヤの焼結またははんだ付けによる多孔質の構造体の形成、または金属テキスタイルまたは金属化されたテキスタイルをさらに加工することによる多孔質の構造体の形成、
-付加製造(これは特に、高いリソース効率と、使用目的に最適化されたトポロジとを可能にする)、
-スラリー床反応発泡焼結法。
【0031】
電極の多孔性により、電極と電解質との間で著しく大きな界面が提供され、このことは、対応する界面において進行するプロセスおよび反応を促進する。プロセスおよび反応は、特により迅速にかつ/またはより包括的に進行する。
【0032】
これに関連して、電極が互いに異なる区分を有していると特に有利である。電極の多孔質の区分は、セル内室に設けられており、電極の非多孔質の区分に導電接続されている。電解質は、電極の多孔質の区分を通るのとは異なって、電極の非多孔質の区分を通って通過することはできない。このことは、セル内室を少なくとも部分的に閉じるために利用され得る。セル内室を閉じることは、特に、セルフレームの、半透過性膜に対向して位置し、セル内室を対応する側で閉じることができる側において提供され得る。セル内室は、セルフレームの長さおよび幅を定義する側において電極および半透過性膜により、かつセルフレームの高さまたは厚さを定義する、セルフレーム狭幅側においてセルフレーム自体により閉じられている。しかし、このことは、セル内室に少なくとも1つの供給通路を介して電解質が供給され、かつ/または少なくとも1つの導出通路を介して電解質が排出され得ることを排除するものではない。これにより、互いに上下に積層された複数の電気化学的なセルから成るセルスタックを、極めて簡単かつ効率的に形成することもできる。これとは無関係に、電極の非多孔質の区分は、バイポーラプレートの形態で形成されていてよい。多孔質の電極と組み合わせたバイポーラプレートの使用は、すでに一連の公知の電気化学的なセルにおいて想定されている。類似の構成は、簡単にするために、本出願においても有利であると考えられる。基本的に、本発明によるセルの構造体の形状結合式の、かつ頻繁に曲げ可撓性でもある構造体は、電極が非多孔質であり、例えば統合された流体ガイドを備えた非多孔質の電極が使用される場合にも実現可能である。
【0033】
電気化学的なセルもしくはセルスタックの電極の、多孔質の領域の通流すべき長さが長いことによって圧力損失が高まる。しかし、対応して高められる、部分的に1.5バールを超えるセル内部圧力は通常望ましくない。なぜならば、このことは電気化学的なセルまたはセルスタックの非密閉性ならびに不可逆的な損傷に容易に結び付いてしまうからである。
【0034】
セル内室を介した電解質の圧力損失は、セル内室を通る電解質の流れが均一に行われることによって減じることができる。このことを達成するために、電極内に、好適には矩形である少なくとも1つ流路が設けられていてよい。流路は、この流路内の自由な流れ横断面が、電極の多孔質の区分の平均的な孔径よりも明らかに大きく、特に数倍大きいことにより優れている。したがって、流路を介して、電解質が電極の孔内に到達することができる。代替的または付加的には、電極の孔から流出する電解質を流路内に集めることができる。この背景から、少なくとも1つの流路が電極の多孔質の区分に設けられていても、特に適している。したがって代替的または付加的には、少なくとも1つの流路が、流入開口および/または流出開口に接続している場合も有利であり得る。したがって、分配すべき電解質は流路を介して電極の多孔内に分配することができ、かつ/または集めるべき電解質を、流路を介して集めることができる。
【0035】
さらに、電極の、流入開口に接続する少なくとも1つの流路と、電極の、流出開口に接続する少なくとも1つの流路とが、電解質を通流させるための電極の多孔質の区分を介して互いに離間されている場合、均一かつ予測可能な流れを保証することができる。したがって、いわゆる短絡流が生じてしまうことはなく、電解質は、電極の多孔質の区分の孔を通って常に最短の区間を通流しなければならない。このような複数の流路では、この理由から、これらの流路が電解質を通流させるための電極の多孔質の区分を介して離間させられていると適当である。
【0036】
少なくとも1つの流入開口に接続する流路と、少なくとも1つの流出開口に接続する流路とが、少なくとも1つの方向においてそれぞれ交互に設けられていると、セルフレームのセル内室への電解質の流れの分配を均一に行うことができる。この場合、この方向は、好適にはセルフレームにより規定される平面に対して平行に配向されている。
【0037】
本出願によれば、曲げ可撓性かつ同時に機械的に圧力安定性の電気化学的なフロー反応器の使用によって、この電気化学的なフロー反応器を可動要素および静止要素の支持構造体および賦形構造体に直接に統合することができ、このことは、より高い構造スペース効率ならびに、フロー反応器の汎用の利用に基づいたより高い全体システム効率をもたらすことができる。このためには、電気化学的なフローセルの構造および特に電極材料の構造を適合させるだけでよいので、さらに、新規のセル化学の手間のかかる研究および開発が省略され、かつすでに公知のセル化学、特に高いエネルギ密度および/または出力密度を有するセル化学を使用することもできる。
【0038】
フロー反応器の機械的な圧力安定性は、可撓性の材料および/または構造体の使用による曲げ可撓性と同時に、電気化学的に活性なセル面の領域でもフローセルを一貫して形状結合することによって達成される。セルは、実質的に形状結合式に構成されており、ここで、実質的に形状結合式とは、特定の構造体にセルを組み込むために、セル構成要素のある程度の位置柔軟性が必要であり得る(ただし、常に必要というわけではない)が、組み込まれた状態ではバッテリーセル構成要素の完全な形状結合が実現されていることであると理解される。ここで、位置柔軟性とは、まだ組み込まれていない状態において、膜、バイポーラプレートまたは(例えば金属メッシュの使用時に)電極も、まだ緊締された状態で存在し得ないということであると理解される。組込みにより、典型的には緊締が生じる。したがって、組み込まれていないセルとは異なり、組み込まれたセルは、通常、もはや位置柔軟性を有していないが、通常の場合は依然としてある程度までは曲げ可撓性であってよい。したがって流体をガイドするために、特に、特別に形状安定性の多孔質の電極、例えば金属発泡体、特にメッシュならびに不織布状またはフェルト状の構造体を利用することができる。しかし、曲げ可撓性は、組み込まれた状態では組み込まれていない状態におけるよりも著しく低くなることが多く、大抵の場合、曲げ可撓性はもはや実質的に存在しない。必要なのは専ら、セルが組み込まれている支持構造体または賦形構造体に作用する(例えばロケットまたは航空機の始動時に生じるような)機械的な負荷が許容され得るための幾らかの曲げ可撓性である。したがって、本出願によれば、「実質的に曲げ可撓性がない」とは、組込みの際の曲げ可撓性が、可動要素または静止要素(もしくはそれらの部分構造)への機械的な荷重のみを支持することができればよく、この機械的な荷重を残留曲げ可撓性により受け止めることができるまで、消失し得ることを意味している。
【0039】
機械的な安定性をさらに改善するために、セルに複数の安定化構造体が配置されていてよく、この安定化構造体は、セルに作用する押圧力の方向での力吸収を可能にする。特にこの場合、流体の通流を可能にするために個別のハニカム要素が穿孔されているハニカム体の形態の安定化構造体を挙げることができ、または半透過性膜とバイポーラプレートとの間に配置された柱状の安定化構造体も挙げられる。ハニカム体の形態の構造体は、ハニカム自体が菱形または正方形であってもよく、またはより強く湾曲していて平坦ではない幾何学形状の場合、例えばアルキメデスの立体またはプラトンの立体の部分表面であってよい。このような安定化構造体のために、使用される電極の幾何学形状に意図的に切欠きが設けられていてよく、したがってこれらの安定化構造体は電極もしくは電極層内に統合され得る。極端な場合、この実施形態では、(曲げ可撓性にもかかわらず)電気化学的なセルの全体構成の機械的な安定化を引き起こさない電極材料、例えば軟質不織布に換えることができる。したがって、この実施形態では、あらゆる公知の、特に多孔質の電極材料が可能である。
【0040】
したがって曲げ可撓性でかつ同時に機械的に圧力安定性である電気化学的なフロー反応器は、可動要素および静止要素の支持構造体および賦形構造体に統合することができ、エネルギ貯蔵、エネルギ変換、基材製造または濾過のようなその一次的なタスクの他に、構造体の機械的な補強、熱管理の支援または放射線の吸収のような別のタスクも引き受けることができる。
【0041】
或る実施例は、曲げ可撓性かつ圧力安定性のレドックスフローバッテリーセルの、宇宙ステーションのモジュールの支持構造体内への統合である。電気化学的なフローセルは、セグメント状または環状に延びるように円筒形の構造体に配置されてよい。
【0042】
レドックスフローバッテリーの機能構成要素の純粋な触媒作用により、レドックスフローバッテリーは、極めて高いサイクル強度と寿命とを有しており、したがって、例えば全運転寿命にわたって、このレドックスフローバッテリーが備えられた宇宙ステーションモジュールが使用可能であることが望ましい。これにより、バッテリー交換のための、コスト、時間および資源のかかるミッションが省略される。モジュールの支持構造体および賦形構造体内へのレドックスフローバッテリーセルの統合により、一方では所要スペースならびに重量を節減することができ、他方では、レドックスフローセルは、圧力安定性ゆえに支持構造体を機械的に補強することができ、循環する液状の電解質により熱管理を支援し、それどころか場合によっては宇宙線を吸収することができる。レドックスフローバッテリーの他に、すでに述べたように、有意義には、水処理反応器ならびに電気化学的な酸素生成のための反応器も、宇宙ステーションモジュールの支持構造体内に統合され得る。
【0043】
出願の対象を、一般性を制限することなしに、以下で図面につきさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】2つのハーフセルを備えた、従来技術による電気化学的なフロー反応器を示す図であり、ハーフセルは、それぞれ1つの終端電極(11,12)と、グラファイト不織布電極(13,14)を備えたハーフセル空間とを含んでいる。
図2】結合されてセルスタックを形成している複数の電気化学的なフローセルから構成された、従来技術による電気化学フロー反応器を示す図である。
図3】円筒形の賦形構造体(52)の詳細図である。
図4】電気化学的なフロー反応器(100)の、本出願による電気化学的なセルから形成されたバイポーラのサンドイッチ構造を示す図である。
図5】空間ステーションモジュール(50)の賦形構造体であってよい、円筒形の賦形構造体(52)の別の実施形態を示す図である。
図6】曲げ可撓性の構造を有する電極(20)を、可動物体もしくは静止物体の構造体要素への組込み前および組込み後に示す図である。
図7】付加的な安定化構造体を備えた通流可能な電気化学的なフローセルを示す図である。
【0045】
図1は、2つのハーフセルを備えた、従来技術による電気化学的なフロー反応器を示しており、ハーフセルは、それぞれ1つの終端電極(11,12)と、グラファイト不織布電極(13,14)を備えたハーフセル空間とを含んでいる。各ハーフセル空間には流体が充填されており、流体は、それぞれ1つのポンプ(20)により循環され得る。流体は、レドックス活性種を有する電解質を含み、したがって、図1において、レドックス活性種A(22)を有する電解質を備えた電解質タンクもしくはレドックス活性種B(23)を有する電解質を備えた電解質タンクを示す。電解質により、アノードとカソードとの間の電荷交換が可能にされ、充電過程(1)においても放電過程(2)においても、イオンが膜(5)を通って拡散することができる。
【0046】
図2は、結合されてセルスタックを形成している複数の電気化学的なフローセルから構成された、従来技術による電気化学フロー反応器を示す。個別のフローセルは、バイポーラプレート(10)を介して互いに結合されており、ハーフセル間には、それぞれ膜(15)が配置されている。
【0047】
図3は、図面の下半部において、(本実施形態では、曲げ可撓性の金属発泡体から成る)多孔質の電極(11,12)、バイポーラプレート(10)および膜(15)を備えた電気化学的なフロー反応器(100)の、本出願による電気化学的なセルから形成されたバイポーラのサンドイッチ構造を示している。矢印先端は、宇宙ステーションモジュール(50)の外側のカバー(51)へのこのセルの組込みを示しており、外側のカバー(51)は、本実施形態では同時に特に円筒形の支持構造体および賦形構造体を形成する。
【0048】
図4は、左上および右上で円筒形の賦形構造体(52)の詳細図を示している。これは、例えば、宇宙ステーションモジュール(50)の賦形構造体であってよい。図4では、左下に、賦形構造体(52)への電気化学的なフロー反応器(100)の構造的な統合を示している。付加的に、本実施形態では、機械的な安定化のための補強要素(60)を確認することができる。右下には、詳細図において、電気化学的なフロー反応器(100)が内側のカバー(61b)と外側のカバー(61a)との間に形状結合式に配置されていることを確認することができる。
【0049】
図5は、左側において、空間ステーションモジュール(50)の賦形構造体であってよい、円筒形の賦形構造体(52)の別の実施形態を示す。本実施形態では、電気化学的なフロー反応器(100)に付加的に、エネルギ貯蔵タンク(70)が宇宙飛行体のカバーに統合されている。
【0050】
図6は、曲げ可撓性の構造を有する電極(20)を、可動物体もしくは静止物体の構造体要素への組込み前および組込み後に示している。この場合、(組込み前の)曲げ可撓性は、本実施形態ではV字形の材料切欠き(30)により実現される。組込み後(下側)に、材料切欠きは単にスリット状であり、電極(20)は、円筒セグメントの形状を有しているか、もしくは組込み中に、本実施形態では円筒形の可動物体もしくは静止物体の構造体に適合させられている。図7は、付加的な安定化構造体を備えた通流可能な電気化学的なフローセルを示している。上側の実施形態は、左側で菱形の安定化構造体(41)を備えたフローセル、右側でハニカム状の安定化構造体(42)を備えたハニカム体(40)の形態の安定化構造体を備えたフローセルを示しており、下側の実施形態は、柱状の安定化構造体(45)を備えたフローセルを示しており、このフローセルでは、柱状の安定化構造体(46)が、セルに作用する押圧力の方向での力吸収を可能にする。セルは、それぞれ複数の流入開口および流出開口(両方とも符号25で示されている)を有している。付加的に、ハニカム構造の形態の安定化構造体では、流体による通流を可能にするために、多数の穿孔(43)がハニカム要素内にある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】