(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-24
(54)【発明の名称】タウ低減遺伝子療法のための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/864 20060101AFI20240717BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240717BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240717BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240717BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240717BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240717BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20240717BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
A61K35/76
A61K48/00
A61P25/28
A61P25/14
A61P25/00
C12N15/113 Z ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580435
(86)(22)【出願日】2022-06-27
(85)【翻訳文提出日】2024-02-26
(86)【国際出願番号】 US2022035091
(87)【国際公開番号】W WO2023278305
(87)【国際公開日】2023-01-05
(32)【優先日】2022-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508152917
【氏名又は名称】ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】THE BOARD OF REGENTS OF THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100204582
【氏名又は名称】大栗 由美
(72)【発明者】
【氏名】ベイリー,レイチェル,エム.
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA16
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA16
(57)【要約】
本開示は、タウオパシー、たとえば、アルツハイマー病またはFTDP-17等を処置するための方法および組成物について提示する。本開示の方法および組成物は、MAPTを標的とする人工的マイクロRNA(amiRNA)をコードするポリヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子、rAAVベクター、およびrAAVウイルスベクターを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MAPTを標的とする少なくとも1つの人工的マイクロRNA(amiRNA)をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド配列を含み、前記MAPTを標的とするamiRNAが配列番号139~186のうちのいずれか1つで表される核酸配列を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター。
【請求項2】
前記MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードするポリヌクレオチド配列が、配列番号41~88のうちのいずれか1つで表される核酸配列を含む、請求項1に記載のrAAVベクター。
【請求項3】
第1の末端逆位反復(ITR)配列をさらに含み、前記第1のITR配列が、AAV2 ITR配列である、請求項1または2に記載のrAAVベクター。
【請求項4】
前記第1のITR配列が配列番号15で表される配列を含む、請求項3に記載のrAAVベクター。
【請求項5】
第2のITR配列をさらに含み、前記第2のITR配列がAAV2 ITR配列である、請求項1から4のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項6】
前記第2のITR配列が配列番号16で表される配列を含む、請求項5に記載のrAAVベクター。
【請求項7】
第1のプロモーター配列をさらに含み、前記第1のプロモーター配列がマウスU6プロモーター配列である、請求項1から6のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項8】
前記マウスU6プロモーター配列が配列番号31で表される核酸配列を含む、請求項7に記載のrAAVベクター。
【請求項9】
第2のプロモーター配列をさらに含み、前記第2のプロモーター配列がニワトリβ-アクチンハイブリッド(CBh)プロモーター配列である、請求項1から8のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項10】
前記CBhプロモーター配列が配列番号29で表される核酸配列を含む、請求項9に記載のrAAVベクター。
【請求項11】
終止シグナルをさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項12】
前記終止シグナルが配列番号40で表される核酸配列を含む、請求項11に記載のrAAVベクター。
【請求項13】
5’から3’の方向に、
a.第1のAAV2 ITR配列と、
b.マウスU6プロモーター配列と、
c.MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードし、前記MAPTを標的とするamiRNAが配列番号139~186のうちのいずれか1つで表される核酸配列を含む、ポリヌクレオチド配列と、
d.終止配列と、
e.CBhプロモーター配列と、
f.合成ポリA配列と、
g.第2のAAV2 ITR配列と
を含むrAAVベクター。
【請求項14】
配列番号14で表される配列を含む、請求項13に記載のrAAVベクター。
【請求項15】
(a)AAVカプシドタンパク質と、
(b)請求項1から14のいずれか一項に記載のrAAVベクターと
を含むrAAVウイルスベクター。
【請求項16】
前記AAVカプシドタンパク質がAAV9カプシドタンパク質である、請求項15に記載のrAAVウイルスベクター。
【請求項17】
請求項1から14のいずれか一項に記載のrAAVベクター、または請求項15もしくは16に記載のrAAVウイルスベクター、ならびに少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤および/または添加剤を含む医薬組成物。
【請求項18】
それを必要としている対象においてタウオパシーを処置するための方法であって、請求項1から14のいずれか一項に記載のrAAVベクター、請求項15もしくは16に記載のrAAVウイルスベクター、または請求項17に記載の医薬組成物について、その治療有効量を対象に投与するステップを含む方法。
【請求項19】
前記タウオパシーが、アルツハイマー病または第17染色体と関連する前頭側頭型認知症およびパーキンソニズム(FTDP-17)である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記対象がMAPT遺伝子内に1つまたは複数の突然変異を有する、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
タウオパシーの処置で使用するための、請求項1から14のいずれか一項に記載のrAAVベクター、請求項15もしくは16に記載のrAAVウイルスベクター、または請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記タウオパシーがアルツハイマー病またはFTDP-17である、請求項21に記載の使用のためのrAAVベクター、rAAVウイルスベクター、または医薬組成物。
【請求項23】
前記タウオパシーがMAPT遺伝子内の1つまたは複数の突然変異と関連する、請求項21または22に記載のrAAVベクター、rAAVウイルスベクター、または医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2021年6月28日出願の米国仮特許出願第63/215,833号、2022年2月2日出願の同第63/267,440号、および2022年5月16日出願の同第63/342,240号の優先権および利益を主張し、そのそれぞれの内容は参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表の参照による組み込み
本出願はEFS-Webを介してASCIIフォーマットで提出され、参照により全体として本明細書に組み込まれる配列表を含む。前記ASCIIコピーは2022年6月6日に作成され、「TAYS-013_001WO_Seq_Listing_ST25.txt」と命名され、大きさ約148,953バイトである。
【0003】
本開示は、アルツハイマー病(AD)、ならびに第17染色体と関連する前頭側頭型認知症およびパーキンソニズム(FTDP-17)を含むタウオパシーを処置するための方法および組成物について提示する。
【0004】
本開示の方法および組成物は、MAPTを標的とする人工的マイクロRNA(amiRNA)をコードするポリヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター、およびrAAVウイルスベクターを含む。
【背景技術】
【0005】
神経変性疾患の一般的病理学的特徴は、CNSにおける特定タンパク質のミスフォールディングおよびその不溶性タンパク質性の沈着であり、罹患領域においてニューロンの進行的喪失を伴う。タウオパシーは、高度にリン酸化された線維状のタウタンパク質の凝集により広義に定義される神経変性疾患の群である。最も一般的なタウオパシーはアルツハイマー病(AD)である。ADは、プラークとしてb-アミロイドおよび神経原線維濃縮体(NFT)として高度にリン酸化されたタウの両者が凝集することにより特徴づけられるが、NFT病理のみが認知機能低下と密接な相関関係を有する。タウ線維は、疾患に依存して、異なる脳領域からタウ病理を経細胞的に安定的に伝播拡散する(Braakら,Acta Neuropathol 82,239~259頁,doi:10.1007/bf00308809(1991);Braakら,Acta Neuropathol 121,589~595頁,doi:10.1007/s00401-011-0825-z(2011);Irwinら,Parkinsonism Re/at Disord 22 Suppl 1,S29-33頁、doi:10.1016/j.parkreldis.2015.09.020S1353-8020(15)00395-8[pii](2016))。
【0006】
タウをコードするMAPT遺伝子はADと遺伝学的に関連しないが、MAPT内の突然変異がその他のタウオパシー、たとえば第17染色体と関連する前頭側頭型認知症およびパーキンソニズム(FTDP-17)等を引き起こし(Huttonら,Nature 393,702~705頁,doi:10.1038/31508(1998);Spillantiniら,Proc Natl Acad Sci US A 95,7737~7741頁,doi:10.1073/pnas.95.13.7737(1998))、タウホメオスタシスの破綻が神経変性を引き起こすのに十分であることが判明している。
【0007】
過去10年にわたり、ミスフォールドして分解に至るタンパク質を標的とする分子療法において飛躍的な進歩を遂げた。ほとんどのアプローチは、開発中の2つの主要なRNAiプラットフォーム:オリゴヌクレオチド療法および遺伝子療法のうちの一方を使用することによる内因性RNAi機構を利用する。前者は、ハンチントン舞踏病(HD)を処置するためのハンチンチンを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)(Kordasiewiczら,Neuron 74,1031~1044頁,doi:10.1016/j.neuron.2012.05.009(2012);NCT03761849)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を処置するためのSOD1(Millerら,Lancet Neural 12,435~442頁,doi:10.1016/S1474-4422(13)70061~9頁(2013);NCT02623699)、ALSを処置するためのC90rf72(Mccampbellら,J Clin Invest 128,3558~3567頁,doi:10.1172/JCl99081(2018))、ならびにADおよび前頭側頭型認知症(FTD)を処置するためのタウ(DeVosら,Sci Transl Med 9,doi:10.1126/scitranslmed.aag0481(2017).;NCT03186989)を用いながら臨床現場までより早期に導入された。
【0008】
ASOは、連続輸液または反復した髄腔内注射により脳脊髄液中に送達される必要があり、またその治療効果は脳室系に隣接した脳領域内で最も強力であると考えられている(Kordasiewiczら,Neuron 74,1031~1044頁,doi:10.1016/j.Neuron.2012.05.009(2012))。ASO療法は有望であるものの、これらの処置の注意点として、患者の生涯を通じて薬物を反復投与する必要があり、その経費負担が継続することが挙げられる。ヒトでは、現行のASO処置法は3~4カ月毎に髄腔内注射を必要とし、瘢痕組織が経時的に蓄積し、そして高齢者集団において感染症に対する追加のリスクを惹起するおそれがある。あるいは、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)およびマイクロRNA(miRNA)を使用するRNAiに基づく遺伝子療法アプローチも、神経変性疾患のために開発されている。RNAiに基づく遺伝子療法は、shRNAまたは人工的miRNA前駆体の連続的発現および後続する標的タンパク質の長期持続的降下を引き起こすウイルスベクターの単回投与を使用する。人工的miRNAは天然のmiRNA構造を模倣するが、また標的mRNA上の相補的配列と塩基対形成することにより、おそらくは任意の目的とする遺伝子の発現を停止させるように工学操作可能である。miRNAシャトルのベクター媒介式送達を使用する遺伝子療法試験は、前臨床モデルにおいてHDの処置にとって有望であることを明らかにし、また近年臨床現場にもたらされた(Eversら,Mol Ther26,2163~2177頁,doi:10.1016/j.ymthe.2018.06.021(2018);NCT04120493)。
【0009】
遺伝子送達では、非分裂細胞に感染するその能力、高形質導入効率、1回の投与からの長期持続的発現、および比較的低い宿主免疫応答に起因して、AAVが最も安全かつ最も一般的に使用されるベクターの1つとして登場した。組換えAAV(rAAV)ベクターは野生型ウイルスの末端逆位反復配列(送達される目的とする遺伝子と共にプロモーターから構成される導入遺伝子カセットに隣接する)のみを保持する。
【0010】
AAVベクターの設計ならびに脳および脊髄内送達における進歩により、CNSに対して最高の親和性を有するAAV9血清型を用いて神経学的疾患を処置する場合、AAVは理想的となった(Kantor、Adv Genet 87,125~197頁,doi:10.1016/B978-0-12- 800149-3.00003-2(2014))。
【0011】
髄腔内投与されるAAV9ベクターを使用する、小児を対象とした第I相臨床トライアルを支援するために、巨大軸索ニューロパチーIND申請研究が実施され(NCT02362438)、2015年以降進行中である(Baileyら,Mol Ther Methods Clin Dev 9,160~171頁,doi:10.1016/j.omtm.2018.02.005(2018))。GANに付加して、AAV9遺伝子療法は、複数の障害について現在進行中の臨床トライアルにおいて使用されており、またFDAは髄性筋萎縮症についてAAV9ベクター療法の使用を最近承認した。
【0012】
現在のところ、疾患進行を有意に低速化させる、神経変性疾患に対する承認済みの療法は存在せず、また疾患特異的治療薬に対する多大な必要性が存続する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド配列を含み、MAPTを標的とするamiRNAが配列番号139~186のうちのいずれか1つで表される核酸配列を含む、rAAVベクターが本明細書に提示される。一部の実施形態では、MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードするポリヌクレオチド配列は、配列番号41~88のうちのいずれか1つで表される核酸配列を含む。一部の実施形態では、amiRNAはヒトMAPTを標的とする。一部の実施形態では、ヒトMAPTを標的とするamiRNAは、配列番号139~149のうちのいずれか1つで表される核酸配列を含む。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドによりコードされ、ヒトMAPTを標的とするamiRNAは、配列番号41~49のうちのいずれか1つで表される核酸配列を含む。
【0014】
一部の実施形態では、rAAVベクターは、第1の末端逆位反復(ITR)配列をさらに含み、第1のITR配列はAAV2 ITR配列である。一部の実施形態では、第1のITR配列は配列番号15で表される配列を含む。一部の実施形態では、rAAVベクターは第2のITR配列をさらに含み、第2のITR配列はAAV2 ITR配列である。一部の実施形態では、第2のITR配列は配列番号16で表される配列を含む。
【0015】
一部の実施形態では、rAAVベクターは第1のプロモーター配列をさらに含み、第1のプロモーター配列はマウスU6プロモーター配列である。一部の実施形態では、マウスU6プロモーター配列は配列番号31で表される核酸配列を含む。
【0016】
一部の実施形態では、rAAVベクターは第2のプロモーター配列をさらに含み、第2のプロモーター配列はCBhプロモーター配列である。一部の実施形態では、CBhプロモーター配列は配列番号29で表される核酸配列を含む。
【0017】
一部の実施形態では、rAAVベクターは終止シグナルをさらに含む。一部の実施形態では、終止シグナルは配列番号40で表される核酸配列を含む。
【0018】
別の態様では、5’から3’の方向に、第1のAAV2 ITR配列と、マウスU6プロモーター配列と、MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードするポリヌクレオチド配列と、終止配列と、CBhプロモーター配列と、合成ポリA配列と、第2のAAV2 ITR配列とを含み、MAPTを標的とするamiRNAが配列番号139~186のうちのいずれか1つで表される核酸配列を含む、rAAVベクターが本明細書に提示される。一部の実施形態では、rAAVベクターは配列番号14で表される配列を含む。
【0019】
別の態様では、本明細書に記載されるAAVカプシドタンパク質およびrAAVベクターを含むrAAVウイルスベクターが本明細書に提示される。一部の実施形態では、AAVカプシドタンパク質はAAV9カプシドタンパク質である。
【0020】
別の態様では、本明細書に記載されるrAAVベクター、または本明細書に記載されるrAAVウイルスベクター、ならびに少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤および/または添加剤を含む医薬組成物が本明細書に提示される。
【0021】
別の態様では、それを必要としている対象においてタウオパシーを処置するための方法であって、本明細書に記載されるrAAVベクター、rAAVウイルスベクター、または医薬組成物の治療有効量を対象に投与するステップを含む方法が本明細書に提示される。一部の実施形態では、タウオパシーはアルツハイマー病またはFTDP-17である。一部の実施形態では、対象はMAPT遺伝子内に1つまたは複数の突然変異を有する。
【0022】
別の態様では、タウオパシーの処置で使用するための、本明細書に記載されるrAAVベクター、rAAVウイルスベクター、または医薬組成物が本明細書に提示される。一部の実施形態では、タウオパシーはアルツハイマー病またはFTDP-17である。一部の実施形態では、タウオパシーはMAPT遺伝子内の1つまたは複数の突然変異と関連する。
【0023】
上記のおよびさらなる特徴は、添付した図面と併せて取り上げた場合に、以下の詳細な説明からより明確に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】U6プロモーターにより駆動される抗タウmiRNAを含む自己相補性AAV9ベクターの概略を示す図である。
【
図2】デュアルレポーターアッセイにより測定した場合の、ヒトタウを標的とする様々なmiRNAを用いた、ヒトMAPTのノックダウンを示す図である;scr=スクランブル化タウmiRNA;hTau=ヒト特異的タウmiRNA。
【
図3A】ヒトタウを標的とする様々なmiRNAを用いた、ヒトタウmRNAおよびタンパク質のノックダウンをそれぞれ示す図である。
【
図3B】ヒトタウを標的とする様々なmiRNAを用いた、ヒトタウmRNAおよびタンパク質のノックダウンをそれぞれ示す図である。
【
図3C】免疫蛍光法により決定した場合の、スクランブル化コントロールmiRNAおよびヒトタウに対して特異的なmiRNAを用いて処置した後のHEK293細胞内タウ発現をそれぞれ示す図である。
【
図3D】免疫蛍光法により決定した場合の、スクランブル化コントロールmiRNAおよびヒトタウに対して特異的なmiRNAを用いて処置した後のHEK293細胞内タウ発現をそれぞれ示す図である。
【
図4A】ヒトP301S突然変異体タウを過剰発現するマウス内に送達した後に、媒体コントロール、またはヒトタウを標的とするmiRNAを発現し、GFPレポータータンパク質もコードするAAV9ベクターを用いたときの、グリアおよびニューロン内GFP染色によるベクターの分布および対応するタウタンパク質の減少を示す図である。
【
図4B】処置されたマウス脳におけるMAPT mRNAの定量を示す図である。
【
図5】デュアルレポーターアッセイにより測定した場合の、マウスタウを標的とする様々なmiRNAを用いたマウスMaptのノックダウンを示す図である;scr=スクランブル化タウmiRNA;mTau=マウス特異的タウmiRNA。
【
図6A】マウスタウを標的とする様々なmiRNAを用いた、マウスMapt mRNAのノックダウンを示す図である。
【
図6B】マウスタウを標的とする様々なmiRNAを用いた、ヒトタウタンパク質ではなくマウスタウタンパク質のノックダウンを示す図である。
【
図7A】ヒトタウおよびマウスタウの両方を標的とする様々なmiRNAを用いた、マウスMaptおよびヒトMAPTのノックダウンをそれぞれ示す図である。
【
図7B】ヒトタウおよびマウスタウの両方を標的とする様々なmiRNAを用いた、マウスMaptおよびヒトMAPTのノックダウンをそれぞれ示す図である。
【
図8】媒体コントロールまたはAAV9/hTau5i-GFPを用いて処置された野生型マウスおよびヒトP301S突然変異体タウを過剰発現するマウスについて、その3月齢における生存率を示す図である。
【
図9A】媒体コントロールまたはAAV9/hTau5i-GFPを用いて処置された野生型マウスおよびヒトP301S突然変異体タウを過剰発現するマウスについて、その体重の変化を示す図である(オスおよびメスのマウスに関するデータを
図9Aおよび
図9Bにそれぞれ示す)。
【
図9B】媒体コントロールまたはAAV9/hTau5i-GFPを用いて処置された野生型マウスおよびヒトP301S突然変異体タウを過剰発現するマウスについて、その体重の変化を示す図である(オスおよびメスのマウスに関するデータを
図9Aおよび
図9Bにそれぞれ示す)。
【
図10】AAV9/hTau5i-GFPまたは媒体をICM注射した後の、マウス脳においてGFP抗体を使用する免疫組織化学染色の代表的な画像を示す図である。
【
図11】媒体コントロールまたはAAV9/hTau5i-GFPを用いて処置された野生型マウスおよびヒトP301S突然変異体タウを過剰発現するマウスに由来する脳幹組織において、qPCRにより決定したときのMAPT発現を示す図である。
【
図12A】媒体コントロールまたはAAV9/hTau5i-GFPを用いて処置された野生型マウスおよびヒトP301S突然変異体タウを過剰発現するマウスに由来する脳幹、小脳、および皮質組織において、ELISAにより決定したときのタウ発現を示す図である。
【
図12B】媒体コントロールまたはAAV9/hTau5i-GFPを用いて処置された野生型マウスおよびヒトP301S突然変異体タウを過剰発現するマウスに由来する脳幹、小脳、および皮質組織において、ELISAにより決定したときのタウ発現を示す図である。
【
図12C】媒体コントロールまたはAAV9/hTau5i-GFPを用いて処置された野生型マウスおよびヒトP301S突然変異体タウを過剰発現するマウスに由来する脳幹、小脳、および皮質組織において、ELISAにより決定したときのタウ発現を示す図である。
【
図13A】シーディングアッセイ結果を示す図であり、媒体またはAAV9/hTau5i-GFPを用いて処置された野生型マウスに由来する脳ホモジネートをトランスフェクトしても、その結果FRET陽性封入体は生じなかったが、P301S処置コホート由来の脳ライセートを添加すると細胞内FRET陽性凝集物が誘発された一方、AAV9/hTau5i-GFPを用いて処置されたP301Sマウスでは、媒体で処置されたP301Sマウスと比較してそれより少量のFRET陽性凝集物が誘発される(一元配置分散分析、P301S+媒体と比較したDunnettの多重比較検定、
****p<0.0001)。
【
図13B】シーディングアッセイ結果を示す図であり、媒体またはAAV9/hTau5i-GFPを用いて処置された野生型マウスに由来する脳ホモジネートをトランスフェクトしても、その結果FRET陽性封入体は生じなかったが、P301S処置コホート由来の脳ライセートを添加すると細胞内FRET陽性凝集物が誘発された一方、AAV9/hTau5i-GFPを用いて処置されたP301Sマウスでは、媒体で処置されたP301Sマウスと比較してそれより少量のFRET陽性凝集物が誘発される(一元配置分散分析、P301S+媒体と比較したDunnettの多重比較検定、
****p<0.0001)。
【
図13C】シーディングアッセイ結果を示す図であり、媒体またはAAV9/hTau5i-GFPを用いて処置された野生型マウスに由来する脳ホモジネートをトランスフェクトしても、その結果FRET陽性封入体は生じなかったが、P301S処置コホート由来の脳ライセートを添加すると細胞内FRET陽性凝集物が誘発された一方、AAV9/hTau5i-GFPを用いて処置されたP301Sマウスでは、媒体で処置されたP301Sマウスと比較してそれより少量のFRET陽性凝集物が誘発される(一元配置分散分析、P301S+媒体と比較したDunnettの多重比較検定、
****p<0.0001)。
【
図14】媒体コントロール、AAV9/スクランブル化(Scr)コントロール、AAV9/hTau5i-GFP、またはAAV9/hTau5iを用いて処置された野生型マウスおよびヒトP301S突然変異体タウを過剰発現するマウスについて、その6月齢における生存率を示す図である。
【
図15A】媒体コントロール、AAV9/Scrコントロール、AAV9/hTau5i-GFP、またはAAV9/hTau5iを用いて処置された野生型マウスおよびヒトP301S突然変異体タウを過剰発現するマウスについて、その6月齢における体重の変化を示す図である。
【
図15B】媒体コントロール、AAV9/Scrコントロール、AAV9/hTau5i-GFP、またはAAV9/hTau5iを用いて処置された野生型マウスおよびヒトP301S突然変異体タウを過剰発現するマウスについて、その6月齢における体重の変化を示す図である。
【
図16A】シーディングアッセイ結果を示す図である。
図16Aおよび
図16Bは、AAV9/Scrは、媒体処置と比較して、WTまたはP301Sマウスにおいてシーディング活性を変化させなかったことを示す。
図16Cは、AAV9/hTau5i-GFPまたはAAV9/hTau5iを用いて処置されたマウスは脳幹において類似したシーディング活性を有したことを示す。
図16Dは、6月齢においてAAV9/hTau5iを用いて処置すると、脳幹においてタウシーディング活性が有意に低下したことを示す。
【
図16B】シーディングアッセイ結果を示す図である。
図16Aおよび
図16Bは、AAV9/Scrは、媒体処置と比較して、WTまたはP301Sマウスにおいてシーディング活性を変化させなかったことを示す。
図16Cは、AAV9/hTau5i-GFPまたはAAV9/hTau5iを用いて処置されたマウスは脳幹において類似したシーディング活性を有したことを示す。
図16Dは、6月齢においてAAV9/hTau5iを用いて処置すると、脳幹においてタウシーディング活性が有意に低下したことを示す。
【
図16C】シーディングアッセイ結果を示す図である。
図16Aおよび
図16Bは、AAV9/Scrは、媒体処置と比較して、WTまたはP301Sマウスにおいてシーディング活性を変化させなかったことを示す。
図16Cは、AAV9/hTau5i-GFPまたはAAV9/hTau5iを用いて処置されたマウスは脳幹において類似したシーディング活性を有したことを示す。
図16Dは、6月齢においてAAV9/hTau5iを用いて処置すると、脳幹においてタウシーディング活性が有意に低下したことを示す。
【
図16D】シーディングアッセイ結果を示す図である。
図16Aおよび
図16Bは、AAV9/Scrは、媒体処置と比較して、WTまたはP301Sマウスにおいてシーディング活性を変化させなかったことを示す。
図16Cは、AAV9/hTau5i-GFPまたはAAV9/hTau5iを用いて処置されたマウスは脳幹において類似したシーディング活性を有したことを示す。
図16Dは、6月齢においてAAV9/hTau5iを用いて処置すると、脳幹においてタウシーディング活性が有意に低下したことを示す。
【
図17】AAV9/ScrコントロールまたはAAV9/hTau5iを用いて処置された野生型マウスおよびヒトP301S突然変異体タウを過剰発現するマウスの9月齢における生存率を示す図である。
【
図18A】AAV9/ScrコントロールまたはAAV9/hTau5iを用いて処置された野生型マウスおよびヒトP301S突然変異体タウを過剰発現するマウスの9月齢における体重変化を示す図である。
【
図18B】AAV9/ScrコントロールまたはAAV9/hTau5iを用いて処置された野生型マウスおよびヒトP301S突然変異体タウを過剰発現するマウスの9月齢における体重変化を示す図である。
【
図19A】媒体、AAV9/Scrコントロール、またはAAV9/mTau2iを用いて、3月齢において処置された野生型マウスに由来する注射後1カ月の臨床血液化学に変化が認められないことを示す図である。
【
図19B】媒体、AAV9/Scrコントロール、またはAAV9/mTau2iを用いて、3月齢において処置された野生型マウスに由来する注射後1カ月の臨床血液化学に変化が認められないことを示す図である。
【
図19C】媒体、AAV9/Scrコントロール、またはAAV9/mTau2iを用いて、3月齢において処置された野生型マウスに由来する注射後1カ月の臨床血液化学に変化が認められないことを示す図である。
【
図19D】媒体、AAV9/Scrコントロール、またはAAV9/mTau2iを用いて、3月齢において処置された野生型マウスに由来する注射後1カ月の臨床血液化学に変化が認められないことを示す図である。
【
図19E】媒体、AAV9/Scrコントロール、またはAAV9/mTau2iを用いて、3月齢において処置された野生型マウスに由来する注射後1カ月の臨床血液化学に変化が認められないことを示す図である。
【
図20A】媒体、AAV9/Scrコントロール、またはAAV9/mTau2iを用いて、3月齢において処置された野生型マウスについて、注射後1カ月の行動に変化が認められないことを示す図である。
【
図20B】媒体、AAV9/Scrコントロール、またはAAV9/mTau2iを用いて、3月齢において処置された野生型マウスについて、注射後1カ月の行動に変化が認められないことを示す図である。
【
図20C】媒体、AAV9/Scrコントロール、またはAAV9/mTau2iを用いて、3月齢において処置された野生型マウスについて、注射後1カ月の行動に変化が認められないことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示は、特に、MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNA分子をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター、およびrAAVウイルスベクターについて提示する。本開示は、これらの単離されたポリヌクレオチド、rAAVベクター、およびrAAVウイルスベクターを製造する方法、ならびにshRNA分子を送達してタウオパシーを処置または予防するためのその使用についても提示する。
【0026】
本明細書で使用される用語「アデノ随伴ウイルス」または「AAV」は、この名称に付随し、パルボウイルス(Parvoviridae)ファミリーのデペンドパルボウイルス(Dependoparvovirus)属に属するウイルスのクラスのメンバーを指す。アデノ随伴ウイルスは、細胞中で増殖する一本鎖DNAウイルスであり、その中である種の機能が共感染するヘルパーウイルスによって提供される。AAVに関する一般的な情報および総説は、たとえばCarter,1989,Handbook of Parvoviruses,1巻,169~228頁およびBerns,1990,Virology,1743~1764頁,Raven Press(New York)に見出すことができる。種々の血清型が、遺伝子レベルであっても、構造的および機能的両方に極めて密接に関連していることがよく知られているので、これらの総説に記載された同じ原理が総説の発行日以後に特徴解析されたさらなるAAVの血清型に適用可能であることが、完全に期待される(たとえばBlacklowe,1988,Parvoviruses and Human Disease,J.R.Pattison編,165~174頁、およびRose,Comprehensive Virology 3:1~61頁(1974)を参照)。たとえば、全てのAAV血清型は同種rep遺伝子によって媒介される極めて類似した複製特性を明らかに呈し、全てが、AAV2で発現されるもののような3つの関連するカプシドタンパク質を有している。ゲノムの長さに沿った血清型の間の広範な交叉ハイブリダイゼーションおよび「逆転ターミナルリピート配列」(ITR)に対応する末端における類似の自己アニール性セグメントの存在を明らかにするヘテロデュプレックス解析によって、関連性の程度がさらに示唆されている。類似した感染性パターンも、各血清型における複製機能が同様の規制制御の下にあることを示唆している。このウイルスの多数の血清型が遺伝子送達に適していることが知られており、全ての既知の血清型が種々の組織型の細胞に感染することができる。連続的に番号付けされた少なくとも11個のAAV血清型が当技術で知られている。本明細書で開示した方法において有用な非限定的な例示的血清型には、11個の血清型、たとえばAAV2、AAV8、AAV9、またはバリアント血清型、たとえばAAV-DJおよびAAV PHP.Bのいずれかが含まれる。AAV粒子は、3つの主要なウイルスタンパク質、即ちVP1、VP2、およびVP3を含むか、実質的にそれらからなるか、またはそれらからなる。一部の態様では、AAVは、血清型AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、AAVPHP.B、AAVrh74、またはAAVrh.10を指す。
【0027】
例示的なアデノ随伴ウイルスおよび組換えアデノ随伴ウイルスには、それだけに限らないが、全ての血清型(たとえばAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、AAVPHP.B、AAVrh74、およびAAVrh.10)が含まれる。例示的なアデノ随伴ウイルスおよび組換えアデノ随伴ウイルスには、それだけに限らないが、自己相補性AAV(scAAV)および1つの血清型のゲノムと別の血清型のカプシドとを含むAAVハイブリッド(たとえばAAV2/5、AAV-DJ、およびAAV-DJ8)が含まれる。例示的なアデノ随伴ウイルスおよび組換えアデノ随伴ウイルスには、それだけに限らないが、rAAV-LK03、AAV-KP-1(Kerunら.JCI Insight,2019;4(22):e131610に詳細に記載)およびAAV-NP59(Paulkら.Molecular Therapy,2018;26(1):289~303頁に詳細に記載)が含まれる。
【0028】
AAVの構造および機能
AAVは複製欠損性のパルボウイルスであり、その一本鎖DNAゲノムは約4.7kbの長さで、2つの145ヌクレオチド逆転ターミナルリピート(ITR)を含む。AAVには多数の血清型が存在する。AAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列は既知である。たとえば、AAV-1の完全ゲノムはGenBank受託番号NC_002077で提供され、AAV-2の完全ゲノムはGenBank受託番号NC_001401およびSrivastavaら,J.Virol.,45:555~564頁(1983)で提供され、AAV-3の完全ゲノムはGenBank受託番号NC_l829で提供され、AAV-4の完全ゲノムはGenBank受託番号NC_001829で提供され、AAV-5ゲノムはGenBank受託番号AF085716で提供され、AAV-6の完全ゲノムはGenBank受託番号NC_001862で提供され、AAV-7およびAAV-8のゲノムの少なくとも一部はそれぞれGenBank受託番号AX753246およびAX753249で提供され、AAV-9のゲノムはGaoら,J.Virol.,78:6381~6388頁(2004)で提供され、AAV-10のゲノムはMol.Ther.,13(1):67~76頁(2006)で提供され、AAV-11のゲノムはVirology,330(2):375~383頁(2004)で提供されている。AAV rh.74ゲノムの配列は米国特許第9,434,928号で提供されている。米国特許第9,434,928号は、カプシドタンパク質および自己相補性ゲノムの配列も提供している。一態様では、AAVゲノムは自己相補性ゲノムである。ウイルスDNA複製(rep)、カプシド封入/パッケージング、および宿主細胞染色体の一体化を指示するシス作用性配列は、AAV ITRの中に含まれている。3つのAAVプロモーター(それらの相対的なマップ位置によってp5、p19、およびp40と命名)は、repおよびcap遺伝子をコードする2つのAAV内部オープンリーディングフレームの発現を推進する。単一のAAVイントロンの(ヌクレオチド2107および2227における)差別的スプライシングと一体になった2つのrepプロモーター(p5およびp19)は、rep遺伝子からの4つのrepタンパク質(rep78、rep68、rep52、およびrep40)の産生をもたらす。repタンパク質は、究極的にはウイルスゲノムの複製に関与する多種の酵素特性を有している。
【0029】
cap遺伝子はp40プロモーターから発現され、3つのカプシドタンパク質、即ちVP1、VP2、およびVP3をコードする。選択的なスプライシングおよび非コンセンサス翻訳開始部位が、この3つの関連するカプシドタンパク質の産生に関与している。より具体的には、VP1、VP2、およびVP3タンパク質のそれぞれがそれから翻訳される単一のmRNAが転写された後で、このmRNAは2つの異なる様式でスプライシングされ得る。長いイントロンまたは短いイントロンが切除され、mRNAの2つのプール、即ち2.3kbと2.6kbの長さのmRNAプールの形成がもたらされる。長いイントロンが好ましいことが多く、したがって2.3kbの長さのmRNAは主要なスプライスバリアントと称され得る。この形態はVP1タンパク質の合成がそれから始まる第1のAUGコドンを欠き、VP1タンパク質合成の全体のレベルの低下をもたらす。主要なスプライスバリアントに残る第1のAUGコドンは、VP3タンパク質の開始コドンである。しかし、同じオープンリーディングフレーム中のそのコドンの上流には、最適のKozak(翻訳開始)コンテクストによって囲まれたACG配列(スレオニンをコードする)が存在する。これはVP2タンパク質の合成の低いレベルに寄与する。VP2タンパク質は実際上、それぞれが参照により本明細書に組み込まれるBecerra SPら,(1985年12月).“Direct mapping of adeno-associated virus capsid proteins B and C: a possible ACG initiation codon”.Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America.82(23):7919~23頁;Cassinotti Pら,(1988年11月).“Organization of the adeno-associated virus (AAV) capsid gene: mapping of a minor spliced mRNA coding for virus capsid protein 1”.Virology.167(1):176~84頁;Muralidhar Sら,(1994年1月).“Site-directed mutagenesis of adeno-associated virus type 2 structural protein initiation codons: effects on regulation of synthesis and biological activity”.Journal of Virology.68(1):170~6頁;およびTrempe JP,Carter BJ(1988年9月).“Alternate mRNA splicing is required for synthesis of adeno-associated virus VP1 capsid protein”.Journal of Virology.62(9):3356~63頁に記載されているように、VP1と同じく、VP3タンパク質にN末端残基が付加されたものである。単一のコンセンサスポリA部位は、AAVゲノムのマップ位置95に位置している。AAVのライフサイクルおよび遺伝的特徴は、Muzyczka,Current Topics in Microbiology and Immunology,158:97~129頁(1992)に概説されている。
【0030】
それぞれのVP1タンパク質は、VP1部分、VP2部分、およびVP3部分を含む。VP1部分は、VP1タンパク質に特有のVP1タンパク質のN末端部分である。VP2部分は、VP2タンパク質のN末端部分にも見出される、VP1タンパク質の中に存在するアミノ酸配列である。VP3部分とVP3タンパク質は同じ配列を有する。VP3部分は、VP1タンパク質とVP2タンパク質に共有されるVP1タンパク質のC末端部分である。
【0031】
VP3タンパク質は、不連続の可変表面領域I~IX(VR-I~IX)にさらに分割することができる。可変表面領域(VR)のそれぞれは、その内容が参照により本明細書に組み込まれるDiMattaら,“Structural Insight into the Unique Properties of Adeno-Associated Virus Serotype 9”J.Virol.,Vol.86(12):6947~6958頁,2012年6月に記載されているように、単独でまたは他のVRのそれぞれの特定のアミノ酸配列との組合せで、特有の感染表現型(たとえば低下した抗原性、改善された形質導入および/または他のAAV血清型と比較した組織特異的向性)を特定の血清型に付与することができる特定のアミノ酸配列を含み得る。
【0032】
AAVは、たとえば遺伝子療法において外来のDNAを細胞に送達するためのベクターとしてこれを魅力的なものにする固有の特徴を有している。培養における細胞のAAV感染は細胞変性を起こさず、ヒトおよびその他の動物の天然の感染は症状がなく無症候性である。さらに、AAVは多くの哺乳動物細胞に感染してin vivoで多くの異なる組織を標的とすることを可能にする。さらに、AAVは分裂している細胞および分裂していない細胞にゆっくりと形質導入し、実質的にこれらの細胞の生涯にわたって転写活性の核エピソーム(染色体外エレメント)として持続することができる。AAVのプロウイルスゲノムはクローニングされたDNAとしてプラスミド中に挿入され、それにより組換えゲノムの構築が実行可能になる。さらに、AAVの複製とゲノムのカプシド封入を指示するシグナルがAAVゲノムのITRの中に含まれているので、ゲノムの内部の約4.3kbの一部または全部(複製および構造のカプシドタンパク質、rep-capをコードする)を外来のDNAで置き換えて、rAAVベクターを生成することができる。repおよびcapのタンパク質はトランスで提供され得る。AAVの別の顕著な特徴は、これが極めて安定で元気なウイルスであることである。これはアデノウイルスを不活化するために用いられる条件(56~65℃で数時間)に容易に耐え、AAVの低温保存の問題を重要でなくしている。AAVは凍結乾燥することさえできる。最後に、AAVに感染した細胞は重複感染に抵抗しない。
【0033】
多くの研究が筋肉における長期(1.5年超)の組換えAAV媒介タンパク質発現を実証している。Clarkら,Hum Gene Ther,8:659~669頁(1997);Kesslerら,Proc Nat. Acad Sc.USA,93:14082~14087頁(1996);およびXiaoら,J Virol,70:8098~8108頁(1996)を参照されたい。Chaoら,Mol Ther,2:619~623頁(2000)およびChaoら,Mol Ther,4:217~222頁(2001)も参照されたい。さらに、筋肉は高度に血管新生しているので、Herzogら,Proc Natl Acad Sci USA,94:5804~5809頁(1997)およびMurphyら,Proc Natl Acad Sci USA,94:13921~13926頁(1997)に記載されているように、組換えAAV形質導入によって、筋肉内注射の後の全身循環におけるトランスジーン産生物の出現がもたらされた。さらに、Lewisら,J Virol,76:8769~8775頁(2002)は、骨格筋筋線維が抗体の正しいグリコシル化、フォールディング、および分泌のために必要な細胞性因子を有していることを実証し、筋肉が分泌されたタンパク質治療剤を安定的に発現することができることを示した。
【0034】
本発明の組換えAAV(rAAV)ゲノムは、MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸分子であって、核酸分子に隣接して1つまたは複数のAAV ITRを含む核酸分子を含み、それから実質的に構成されるかまたはそれから構成される。偽型rAAVの産生は、たとえばWO2001083692に開示されている。その他の型のrAAVバリアント、たとえばカプシド変異を有するrAAVも意図されている。たとえばMarsicら,Molecular Therapy,22(11):1900~1909頁(2014)を参照されたい。種々のAAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列は、当技術で既知である。
【0035】
単離された核酸分子
本開示は、MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードするポリヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子について提示する。
【0036】
ヒトMAPTを標的とするamiRNA配列をコードする例証的ポリヌクレオチド配列(「シャトルDNA」)、ならびに対応するヒトMAPTを標的とするamiRNA配列は表1に記載されている。マウスMAPTを標的とするamiRNA配列をコードする例証的ポリヌクレオチド配列は配列番号52~70で表され、またマウスMAPTを標的とする対応するamiRNA配列は配列番号150~168で表される。マウスおよびヒトMAPTを標的とするamiRNA配列をコードする例証的ポリヌクレオチド配列は配列番号71~88で表され、またマウスおよびヒトMAPTを標的とする対応するamiRNA配列は配列番号169~168で表される。
【0037】
【0038】
一部の実施形態では、MAPTを標的とするamiRNAは、配列番号139~186のうちのいずれか1つで表される核酸配列を含み、それから実質的に構成されるかまたはそれから構成される。一部の実施形態では、MAPTを標的とするamiRNAは、配列番号139~186のうちのいずれか1つで表される核酸配列と、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはその間の任意のパーセント)同一である核酸配列を含み、それから実質的に構成されるかまたはそれから構成される。
【0039】
一部の実施形態では、MAPTを標的とするamiRNAをコードするポリヌクレオチド配列は、配列番号41~88のうちのいずれか1つで表される核酸配列を含み、それから実質的に構成されるかまたはそれから構成される。一部の実施形態では、MAPTを標的とするamiRNAをコードするポリヌクレオチド配列は、配列番号41~88のうちのいずれか1つで表される核酸配列と、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはその間の任意のパーセント)同一である核酸配列を含み、それから実質的に構成されるかまたはそれから構成される。配列番号41~88はDNA配列であり、また対応するRNA配列は配列番号90~137でそれぞれ表される。
【0040】
一般的に、本明細書に提示される、MAPTを標的とするamiRNAをコードするポリヌクレオチド配列は、MAPTを標的とするamiRNA(成熟したアンチセンス配列)、ループ配列、ならびに5’および3’オーバーハングに隣接するパッセンジャー配列を含む。
【0041】
ループ配列およびオーバーハングはmiRNA「骨格」を共に構成する。例示的ループ配列は、CTGTAAAGCCACAGATGGG(DNA、配列番号188)またはCUGUAAAGCCACAGAUGGG(RNA、配列番号189)である。例示的5’オーバーハング配列は、GAGTGAGCG(DNA、配列番号190)またはGAGUGAGCG(RNA、配列番号191)である。例示的3’オーバーハング配列は、TGCCTACT(DNA、配列番号192)またはUGCCUACU(RNA、配列番号193)である。理論に拘泥するものではないが、パッセンジャー配列およびMAPTを標的とするamiRNAは密着してヘアピンループ構造を形成すると考えられている。ヘアピンループ構造は、次にダイサー(ヘアピンのループを取り除き、miRNA二本鎖をそのまま残すエンドリボヌクレアーゼ)によりさらに処理されるものと考えられている。miRNA二本鎖である、MAPTを標的とするamiRNAは、次にRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に組み込まれ、その標的mRNA(たとえば、MAPT mRNA)と相互作用し、したがって翻訳をブロックする。Myburghら,Molecular Therapy-Nucleic Acids(2014)3、e207頁を参照されたい。
【0042】
ループおよびオーバーハング配列はmiRNAスキャフォールドを形成する。任意の適するスキャフォールドが本明細書に提示されるMAPTを標的とするamiRNAを送達するのに使用され得ることは、当業者にとって明白である。例示的スキャフォールドとして、miR-30スキャフォールド(Changら,Cold Spring Harb Protoc;2013;doi:10.1101/pdb.prot075853)およびmiR-33スキャフォールド(Xieら,2020 Mor Ther.28(2):422頁)が挙げられる。当業者により認識されるように、MAPTを標的とするamiRNAは、任意の適するmiRスキャフォールド中にクローニングされ得る。
【0043】
一部の実施形態では、本明細書に記載されるamiRNAに対するMAPT転写物は、ヒトMAPT転写物である。本明細書に提示されるamiRNAの標的となり得る例証的ヒトMAPT転写物として、NCBI参照配列NM_016835.5、NM_005910.6、NM_016834.5、NM_016841.5、NM_001123067.4、NM_001123066.4、NM_001203251.2、NM_001203252.2、NM_001377265.1、NM_001377266.1、NM_001377267.1、およびNM_001377268.1(それぞれ配列番号2~13)で表されるものが挙げられる。一部の実施形態では、本明細書に記載されるamiRNAは、1、2、3、4、5、または6個のMAPT転写物を標的とする。一部の実施形態では、本明細書に記載されるamiRNAはヒトMAPT転写物を標的とする。一部の実施形態では、本明細書に記載されるamiRNAは、1、2、3、4、5、または6個のヒトMAPT転写物を標的とする。
【0044】
当業者により認識されるように、「MAPTを標的とするamiRNA」という句は、細胞内で産生されたら、内因性RNAi経路(たとえば、ダイサー経路、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)経路)に対して、MAPT mRNAの分解および/または下方制御を開始するように指令を発するRNA分子を指す。用語「AAV-amiRNAを標的とするMAPT」とは、MAPTを標的とするamiRNAをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド配列を含むrAAVベクターを指す。
【0045】
一部の態様では、単離された核酸分子は、MAPTを標的とするamiRNAをコードする2つ以上のポリヌクレオチド配列を含み得る。したがって、一部の実施形態では、単離された核酸分子は、少なくとも約2個、または少なくとも約3個、または少なくとも約4個、または少なくとも約5個、または少なくとも約6個、または少なくとも約7個、または少なくとも約8個、または少なくとも約9個、または少なくとも約10個、または少なくとも約11個、または少なくとも約12個、または少なくとも約13個、または少なくとも約14個、または少なくとも約15個、または少なくとも約16個、または少なくとも約17個、または少なくとも約18個、または少なくとも約19個、または少なくとも約20個のポリヌクレオチド配列を含み、それぞれMAPTを標的とするamiRNAをコードする。
【0046】
単離された核酸分子がMAPTを標的とするamiRNAをコードする2つ以上のポリヌクレオチド配列を含む複数の態様では、任意の数のポリヌクレオチド配列が同一配列であり得、また任意数は異なる配列であり得る。単離された核酸分子が3つのポリヌクレオチド配列(すなわち、第1のポリヌクレオチド配列、第2のポリヌクレオチド配列、および第3のポリヌクレオチド配列)を含み、それぞれMAPTを標的とするamiRNAをコードする非限定的な例では、3つのポリヌクレオチド配列はいずれも同一配列を有し得る。代替的に、3つのポリヌクレオチド配列全ては異なる配列を有し得る。なおも代替的に、3つのポリヌクレオチド配列の2つが同一配列を有し得、そして第3のポリヌクレオチド配列は異なる配列を有し得る。
【0047】
rAAVベクター
一部の態様では、本明細書に記載される、MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチドは、組換えAAV(rAAV)ベクターであり得る。
【0048】
本明細書で使用される場合、用語「ベクター」は、元のままのレプリコンを含むか、実質的にそれからなるか、またはそれからなる核酸であって、それによりベクターが、細胞内に入れられた場合に、たとえばトランスフェクション、感染、または形質転換のプロセスによって複製される、核酸を指す。いったん細胞内に入れば、ベクターは染色体外(エピソーマル)エレメントとして複製され、または宿主細胞の染色体内に統合され得ることが当技術で理解されている。ベクターには、レトロウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、バキュロウイルス、改変されたバキュロウイルス、パポバウイルス、またはその他に改変された天然産生のウイルスから誘導される核酸が含まれ得る。核酸を送達するための例示的な非ウイルスベクターには、裸のDNA、単独もしくはカチオン性ポリマーと組み合わせたカチオン性脂質とのDNAの複合体、アニオン性およびカチオン性のリポソーム、DNA-タンパク質複合体、ならびに不均一なポリリジン、定義された長さのオリゴペプチド、およびポリエチレンイミン等のカチオン性ポリマーと縮合し、ある場合にはリポソームに含まれるDNAを含むか、実質的にそれからなるか、またはそれからなる粒子、ならびにウイルスおよびポリリジン-DNAを含むか、実質的にそれからなるか、またはそれからなる三元複合体の使用が含まれる。
【0049】
一般的な組換え手法に関しては、プロモーターとその中にポリヌクレオチドを作動可能に連結することができるクローニング部位との両方を含むベクターは、当技術で周知である。そのようなベクターはin vitroまたはin vivoでRNAを転写することができ、Agilent Technologies社(Santa Clara,Calif)およびPromega Biotech社(Madison,Wis.)等の供給元から市販されている。発現および/またはin vitroでの転写を最適化するため、クローニングされたトランスジーンの5’および/または3’の翻訳されない部分を除去、付加、または変化させて、余分で潜在的で不適切な代替の翻訳開始コドンまたは転写もしくは翻訳のレベルにおいて発現に干渉しまたはこれを低減させ得る他の配列を排除することが必要であろう。あるいは、発現を増強するために、コンセンサスリボソーム結合部位を開始コドンの5’のすぐ傍に挿入することができる。AAVベクターの核酸配列はコドン最適化され得る。
【0050】
「rAAVベクター」とは、本明細書で使用される場合、1つまたは複数の導入遺伝子および/または外因性ポリヌクレオチド配列、ならびに1つまたは複数のAAV末端逆位反復配列(ITR)を含み、それから実質的に構成されるか、またはそれから構成されるベクターを指す。そのようなrAAVベクターは、宿主細胞中に存在する場合に、たとえば宿主細胞のトランスフェクションによってrepおよびcapの遺伝子産物の機能を提供する感染性ウイルス粒子の中に、複製しパッケージすることができる。一部の態様では、rAAVベクターは、プロモーター、少なくとも1つのタンパク質もしくはRNAをコードし得る少なくとも1つの核酸、および/または感染性AAV粒子の中にパッケージされた側面ITRの中のエンハンサーおよび/またはターミネーターを含む。カプシド封入された核酸部分は、rAAVベクターゲノムと称し得る。rAAVベクターを含むプラスミドは、製造目的のためのエレメント、たとえば抗生剤耐性遺伝子、複製起点の配列、その他を含んでもよいが、これらはカプシド封入されず、したがってAAV粒子の一部を形成しない。
【0051】
一部の態様では、rAAVベクターは、MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド配列を含み得る。一部の態様では、rAAVベクターは、少なくとも1つのAAV逆転ターミナル(ITR)配列を含み得る。一部の態様では、rAAVベクターは、少なくとも1つのプロモーター配列を含み得る。一部の態様では、rAAVベクターは、少なくとも1つのエンハンサー配列を含み得る。一部の態様では、rAAVベクターは、少なくとも1つのポリA配列を含み得る。
【0052】
一部の態様では、rAAVベクターは、第1のAAV ITR配列、プロモーター配列、MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド配列、および第2のAAV ITR配列を含み得る。一部の態様では、rAAVベクターは、5’から3’の方向に、第1のAAV ITR配列、プロモーター配列、MAPTを標的とする少なくともamiRNAをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド配列、および第2のAAV ITR配列を含み得る。
【0053】
一部の態様では、rAAVベクターは、第1のAAV ITR配列、プロモーター配列、MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド配列、ポリA配列、および第2のAAV ITR配列を含み得る。一部の態様では、rAAVベクターは、5’から3’の方向に、第1のAAV ITR配列、プロモーター配列、MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド配列、ポリA配列、および第2のAAV ITR配列を含み得る。
【0054】
一部の態様では、rAAVベクターは、MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードする2つ以上のポリヌクレオチド配列を含み得る。
【0055】
一部の態様では、本開示は、少なくとも約2個、または少なくとも約3個、または少なくとも約4個、または少なくとも約5個、または少なくとも約6個、または少なくとも約7個、または少なくとも約8個、または少なくとも約9個、または少なくとも約10、または少なくとも約11、または少なくとも約12個、または少なくとも約13個、または少なくとも約14個、または少なくとも約15個、または少なくとも約16、または少なくとも約17、または少なくとも約18、または少なくとも約19個、または少なくとも約20個のポリヌクレオチド配列を含み、それぞれがMAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードする、rAAVベクターについて提示する。
【0056】
一部の態様では、本開示は、約2個、または約3個、または約4個、または約5個、または約6個、または約7個、または約8、または約9個、または約10個、または約11個、または約12個、または約13個、または約14個、または約15個、または約16個、または約17個、または約18個、または約19個、または約20個のポリヌクレオチド配列を含み、それぞれがMAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードする、rAAVベクターについて提示する。
【0057】
rAAVベクターがMAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードする2つ以上のポリヌクレオチド配列を含む態様では、任意の数のポリヌクレオチド配列が同一配列であり得、また任意数は異なる配列であり得る。rAAVベクターが、MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードする3つのポリヌクレオチド配列(すなわち、第1のポリヌクレオチド配列、第2のポリヌクレオチド配列、および第3のポリヌクレオチド配列)を含む非限定的な例では、3つのポリヌクレオチド配列はいずれも同一の配列を有し得る。代替的に、3つのポリヌクレオチド配列全てが異なる配列を有し得る。なおも代替的に、3つのポリヌクレオチド配列の2つが同一の配列を有し得、そして第3のポリヌクレオチド配列は異なる配列を有し得る。
【0058】
一部の態様では、rAAVベクターは、2つ以上のプロモーター配列を含み得る。一部の態様では、rAAVベクターは、少なくとも2つのプロモーター配列を含み得て、それによりrAAVベクターは第1のプロモーター配列および少なくとも第2のプロモーター配列を含む。一部の態様では、第1および少なくとも第2のプロモーター配列は、同じ配列を含み得る。一部の態様では、第1および少なくとも第2のプロモーター配列は、異なる配列を含み得る。一部の態様では、第1および少なくとも第2のプロモーター配列は、互いに隣接し得る。rAAVベクターがMAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードする第1のポリヌクレオチド配列およびMAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードする少なくとも第2のポリヌクレオチド配列も含む一部の態様では、第1のプロモーターは第1のポリヌクレオチド配列の上流(5’)に位置してよく、少なくとも第2のプロモーターは第1のポリヌクレオチド配列と少なくとも第2のポリヌクレオチド配列との間に位置してよく、それにより少なくとも第2のプロモーターは第1のポリヌクレオチド配列の下流(3’)かつ少なくとも第2のポリヌクレオチド配列の上流(5’)に位置する。
【0059】
先行するrAAVベクターのいずれも、少なくとも1つのエンハンサーをさらに含み得る。少なくとも1つのエンハンサーは、rAAVベクターのいずれの場所に位置してもよい。
【0060】
一部の態様では、少なくとも1つのエンハンサーは、プロモーターのすぐ上流(5’)に位置し得る。即ち、rAAVベクターは、5’から3’の方向に、第1のAAV ITR配列、エンハンサー、プロモーター配列、MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド配列、および第2のAAV ITR配列を含み得る。一部の態様では、少なくとも1つのエンハンサーは、プロモーターのすぐ下流(3’)に位置し得る。即ち、rAAVベクターは、5’から3’の方向に、第1のAAV ITR配列、プロモーター配列、エンハンサー、MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド配列、および第2のAAV ITR配列を含み得る。一部の態様では、少なくとも1つのエンハンサーは、MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド配列のすぐ下流に位置し得る。即ち、rAAVベクターは、5’から3’の方向に、第1のAAV ITR配列、プロモーター配列、MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド配列、エンハンサー、ポリA配列、および第2のAAV ITR配列を含み得る。
【0061】
一部の実施形態では、rAAVベクターは、Dエレメントが削除された突然変異体AAV2 ITR、U6プロモーター、MAPTを標的とするamiRNAをコードするポリヌクレオチド配列、T6終止シグナル、CBhプロモーター、ポリアデニル化シグナル、および野生型AAV2 ITRを含む。
【0062】
MAPTを標的とするamiRNAをコードするポリヌクレオチドを含むrAAVベクターの例証的配列は配列番号14で表される。配列番号14においてITR配列に下線を付す;プロモーター領域はイタリック体で表し、hTau5iをコードする配列を太字イタリック体で表す。
【0063】
【0064】
AAV ITR配列
一部の態様では、AAV ITR配列は、当技術で既知の任意のAAV ITR配列を含み得る。一部の態様では、AAV ITR配列は、AAV1 ITR配列、AAV2 ITR配列、AAV4 ITR配列、AAV5 ITR配列、AAV6 ITR配列、AAV7 ITR配列、AAV8 ITR配列、AAV9 ITR配列、AAV10 ITR配列、AAV11 ITR配列、AAV12 ITR配列、AAV13 ITR配列、AAVrh74 ITR配列、またはAAVrh.10 ITR配列であってよい。
【0065】
即ち、一部の態様では、AAV ITR配列は、AAV1 ITR配列、AAV2 ITR配列、AAV4 ITR配列、AAV5 ITR配列、AAV6 ITR配列、AAV7 ITR配列、AAV8 ITR配列、AAV9 ITR配列、AAV10 ITR配列、AAV11 ITR配列、AAV12 ITR配列、AAV13 ITR配列、AAVrh74 ITR配列、またはAAVrh.10 ITR配列を含むか、実質的にそれらからなるか、またはそれらからなってよい。
【0066】
一部の態様では、本開示のrAAVベクターは、AAV2 ITR配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。一部の態様では、本開示のrAAVベクターは、AAV2 ITR配列または改変されたAAV2 ITR配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。AAV2 ITRは、たとえばD領域を削除することにより改変され得る。
【0067】
一部の態様では、AAV ITR配列は、配列番号15~24のうちのいずれか1つで表される核酸配列のうちのいずれか1つまたはその相補体と、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはその間の任意のパーセント)同一である核酸配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。
【0068】
一部の態様では、第1のAAV ITR配列は、配列番号15で表される核酸配列またはその相補体と、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはその間の任意のパーセント)同一である核酸配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。
【0069】
一部の態様では、第2のAAVITR配列は、配列番号16で表される核酸配列またはその相補体と、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはその間の任意のパーセント)同一である核酸配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。
【0070】
プロモーター配列およびエンハンサー
本明細書で使用される用語「プロモーター」および「プロモーター配列」は、遺伝子またはトランスジーンまたはshRNA配列等のコーディング配列の転写の開始および速度が制御されるポリヌクレオチド配列の領域である調節配列を意味する。プロモーターは、たとえば構造的、誘起的、抑制的、または組織特異的であってよい。プロモーターは、RNAポリメラーゼおよび転写因子等の制御性のタンパク質および分子が結合し得る遺伝要素を含み得る。非限定的な例示的プロモーターには、ラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター(任意選択でRSVエンハンサーとと共に)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40プロモーター、ジヒドロフォレートリダクターゼプロモーター、β-アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、U6プロモーター、H1プロモーター、遍在性ニワトリβ-アクチンハイブリッド(CBh)プロモーター、小核RNA(U1aまたはU1b)プロモーター、MeCP2プロモーター、MeP418プロモーター、MeP426プロモーター、ミニマルMeCP2プロモーター、VMD2プロモーター、mRhoプロモーター、またはEF1プロモーターが含まれる。プロモーターは、たとえばヒトプロモーター配列またはマウスプロモーター配列であり得る。
【0071】
本明細書で提供されるさらなる非限定的な例示的プロモーターには、それだけに限らないが、EFla、Ubc、ヒトβ-アクチン、CAG、TRE、Ac5、ポリヘドリン、CaMKIIa、Gal1、TEF1、GDS、ADH1、Ubi、およびα-1-アンチトリプシン(hAAT)が含まれる。mRNA転写の効率を増大または低減させるために、そのようなプロモーターのヌクレオチド配列を改変し得ることは、当技術で既知である。たとえばGaoら.(2018)Mol.Ther.:Nucleic Acids 12:135~145頁を参照されたい(RNAポリメラーゼIII転写を無効にし、RNAポリメラーゼII依存性mRNA転写を刺激するために、7SK、U6、およびH1プロモーターのTATAボックスを改変する)。遍在性または組織特異的な発現のために、合成由来のプロモーターを用いてもよい。さらに、そのいくつかを上で言及したウイルス由来プロモーター、たとえばCMV、HIV、アデノウイルス、およびAAVのプロモーターは、本明細書に記載した方法において有用であり得る。一部の態様では、転写効率を増大させるために、プロモーターは少なくとも1つのエンハンサーと共に用いられる。エンハンサーの非限定的な例には、間質性レチノイド結合タンパク質(IRBP)エンハンサー、RSVエンハンサー、またはCMVエンハンサーが含まれる。
【0072】
一部の態様では、プロモーター配列は、ラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター配列(任意選択でRSVエンハンサーと共に)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター配列、SV40プロモーター配列、ジヒドロフォレートリダクターゼプロモーター配列、β-アクチンプロモーター配列、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター配列、ヒトU6プロモーター配列、マウスU6プロモーター配列、H1プロモーター配列、遍在性ニワトリβ-アクチンハイブリッド(CBh)プロモーター配列、小核RNA(U1aまたはU1b)プロモーター配列、MeCP2プロモーター配列、MeP418プロモーター配列、MeP426プロモーター配列、meP229プロモーター配列、ミニマルMeCP2プロモーター配列、VMD2プロモーター配列、mRhoプロモーター配列、EFIプロモーター配列、EFlaプロモーター配列、Ubcプロモーター配列、ヒトβ-アクチンプロモーター配列、CAGプロモーター配列、TREプロモーター配列、Ac5プロモーター配列、ポリヘドリンプロモーター配列、CaMKIIaプロモーター配列、Gal1プロモーター配列、TEF1プロモーター配列、GDSプロモーター配列、ADH1プロモーター配列、Ubiプロモーター配列、またはα-1抗トリプシン(hAAT)プロモーター配列を含むか、実質的にそれらからなるか、またはそれらからなり得る。
【0073】
エンハンサーは、標的配列の発現を増大させる制御エレメントである。「プロモーター/エンハンサー」は、プロモーターとエンハンサーの両方の機能を提供することができる配列を含むポリヌクレオチドである。たとえば、レトロウイルスの長いターミナルリピートは、プロモーターとエンハンサーの両方の機能を含んでいる。エンハンサー/プロモーターは、「内因性」または「外因性」または「異種」であり得る。「内因性」エンハンサー/プロモーターは、ゲノム内の所与の遺伝子に天然に連結されたエンハンサー/プロモーターである。「外因性」または「異種」エンハンサー/プロモーターは、遺伝子操作(即ち分子生物学的手法)または合成手法の手段によって遺伝子に並置され、それによりその遺伝子の転写が連結されたエンハンサー/プロモーターによって指示される、エンハンサー/プロモーターである。本明細書で提供される方法、組成物、および構築物における使用のための連結されたエンハンサー/プロモーターの非限定的な例には、PDEプロモータープラスIRBPエンハンサー、またはCMVエンハンサープラスU1aプロモーターが含まれる。エンハンサーは遠方から、また内因性または異種のプロモーターの位置に対するそれらの配向とは関係なく、作動し得ることが当技術で理解されている。即ち、プロモーターから離れて作動するエンハンサーは、したがってベクター中のその位置またはプロモーターの位置に対するその配向とは関係なく、そのプロモーターに「作動可能に連結」されていることがさらに理解される。
【0074】
本開示全体を通じて使用されるように、用語「作動可能に連結された」とは、プロモーターの制御下に置かれ、それと空間的に連結しているポリヌクレオチド配列(すなわち、MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードするポリヌクレオチド配列)の発現を指す。プロモーターは、その制御下に置かれたポリヌクレオチド配列の5’(上流)または3’(下流)に配置可能である。プロモーターは、その制御下にあるポリヌクレオチド配列の5’(上流)に位置し得る。プロモーターとその制御下にあるポリヌクレオチド配列との間の距離は、プロモーターとそのプロモーターがそれから誘導された遺伝子内でプロモーターが制御するポリヌクレオチド配列との間の距離とほぼ同じであってよい。プロモーターとポリヌクレオチド配列との間の距離の変動は、プロモーター機能の損失なしに適応させることができる。
【0075】
一部の態様では、プロモーター配列は、JeTプロモーター配列を含むか、実質的にそれからなるか、またはそれからなってよい。JeTプロモーター配列は、配列番号25またはその相補体と少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは100%(またはその間の任意のパーセンテージ)同一の核酸配列を含むか、実質的にそれらからなるか、またはそれらからなってよい。
【0076】
一部の態様では、プロモーター配列は、MeP229プロモーター配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。meP229プロモーター配列は、配列番号26またはその相補体と、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはその間の任意のパーセント)同一である核酸配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。
【0077】
一部の態様では、プロモーター配列は、MeP426プロモーター配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。meP426プロモーター配列は、配列番号27またはその相補体と、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはその間の任意のパーセント)同一である核酸配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。
【0078】
一部の態様では、プロモーター配列は、CBhプロモーター配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。CBhプロモーター配列は、配列番号28またはその相補体と、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはその間の任意のパーセント)同一である核酸配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。CBhプロモーター配列は、配列番号29またはその相補体と、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはその間の任意のパーセント)同一である核酸配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。
【0079】
一部の態様では、プロモーター配列は、U6プロモーター配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。U6プロモーター配列は、配列番号30またはその相補体と、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはその間の任意のパーセント)同一である核酸配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。マウスU6プロモーター配列は、配列番号31またはその相補体と、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはその間の任意のパーセント)同一である核酸配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。
【0080】
一部の態様では、本開示の細菌プラスミドは原核生物プロモーターを含み得る。原核生物プロモーターは、配列番号32またはその相補体と、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはその間の任意のパーセント)同一である核酸配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。
【0081】
一部の実施形態では、本明細書に提示されるrAAVベクターは、2つプロモーター、たとえばマウスU6プロモーターとCBhプロモーターとを含む。
【0082】
ポリA配列
一部の態様では、ポリアデニル化(ポリA)配列は、当技術で既知の任意のポリA配列を含み得る。ポリA配列の非限定的な例には、それだけに限らないが、MeCP2ポリA配列、レチノールデヒドロゲナーゼ1(RDH1)ポリA配列、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリA配列、SV40ポリA配列、SPA49ポリA配列、sNRP-TK65ポリA配列、sNRPポリA配列、またはTK65ポリA配列が含まれる。一部の実施形態では、ポリA配列は合成ポリA配列である。
【0083】
即ち、ポリA配列は、MeCP2ポリA配列、レチノールデヒドロゲナーゼ1(RDH1)ポリA配列、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリA配列、SV40ポリA配列、SPA49ポリA配列、sNRP-TK65ポリA配列、sNRPポリA配列、またはTK65ポリA配列を含むか、実質的にそれらからなるか、またはそれらからなってよい。
【0084】
一部の態様では、ポリA配列は、SV40pA配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。一部の態様では、SV40pA配列は、配列番号33で表される配列またはその相補体と、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはその間の任意のパーセント)同一である核酸配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。
【0085】
一部の態様では、ポリA配列は、BGHpA配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。一部の態様では、BGHpA配列は、配列番号34で表される配列またはその相補体と、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはその間の任意のパーセント)同一である核酸配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。一部の態様では、BGHpA配列は、配列番号35で表される配列またはその相補体と、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはその間の任意のパーセント)同一である核酸配列を含み、それから実質的に構成され、またはそれから構成され得る。
【0086】
一部の態様では、合成ポリA配列は、配列番号36で表される配列またはその相補体と、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%(またはその間の任意のパーセンテージ)同一の核酸配列を含むか、実質的にそれからなるか、またはそれからなり得る。
【0087】
終止配列
一部の実施形態では、本明細書に提示されるrAAVベクターは終止配列を含み得る。終止配列は、転写ユニットの末端を定義し、また新規に合成されたRNAを転写機構から放出させるプロセスを開始する。終止配列はいくつかのチミン残基を含み得る。たとえば、T6終止は配列TTTTTT(配列番号40)を含む。T7ターミネーターは配列TTTTTTT(配列番号41)を含む。
【0088】
細菌プラスミド
一部の態様では、本開示のrAAVベクターは、in vitroでのrAAVベクターの増殖を可能にするために細菌プラスミドの中に含ませてよい。即ち、本開示は、本明細書に記載したrAAVベクターのいずれかを含む細菌プラスミドを提供する。
【0089】
細菌プラスミド、rAAVベクター、またはrAAVウイルスベクターは、複製開始点配列をさらに含み得る。一部の態様では、複製の起点の配列は、当技術で既知の任意の複製の起点の配列を含むか、実質的にそれからなるか、またはそれからなってよい。複製の起点の配列は、細菌の複製の起点の配列であってよく、それにより前記細菌の複製の起点の配列を含むrAAVベクターが当技術で標準的な方法を用いることによって細菌内で産生され、増殖し、維持されることが可能になる。一部の実施形態では、複製開始点は配列番号36で表される配列を含み、それから実質的に構成されるかまたはそれから構成される。
【0090】
細菌プラスミド、rAAVベクターまたはrAAVウイルスベクターは、抗生剤耐性遺伝子をさらに含み得る。一部の態様では、抗生剤耐性遺伝子は、当技術で既知の任意の抗生剤耐性遺伝子を含むか、実質的にそれからなるか、またはそれからなってよい。当技術で既知の抗生剤耐性遺伝子の例には、それだけに限らないが、カナマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、ストレプトマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カルベニシリン耐性遺伝子、ブレオマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、ポリミキシンB耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、およびクロラムフェニコール耐性遺伝子が含まれる。一部の実施形態では、カナマイシン耐性遺伝子は、配列番号38で表される配列を含み、それから実質的に構成されるかまたはそれから構成される。一部の実施形態では、カナマイシン耐性遺伝子はプロモーターと作動的に連結している。一部の実施形態では、カナマイシン耐性遺伝子は、アンピシリン耐性遺伝子プロモーター(AmpRプロモーター)と作動的に連結している。一部の実施形態では、AmpRプロモーターは、配列番号37で表される配列を含み、それから実質的に構成されるかまたはそれから構成される。
【0091】
細菌プラスミド、rAAVベクター、またはrAAVウイルスベクターは、原核生物プロモーターをさらに含み得る。
【0092】
AAVウイルスベクター
「ウイルスベクター」は、in vivo、ex vivo、またはin vitroで宿主細胞中に送達されるポリヌクレオチドを含む、組換えで産生されたウイルスまたはウイルス粒子と定義される。ウイルスベクターの例には、レトロウイルスベクター、AAVベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アルファウイルスベクター等が含まれる。アルファウイルスベクター、たとえばSemliki Forestウイルス系ベクターおよびSindbisウイルス系ベクターも、遺伝子療法および免疫療法における使用のために開発されている。たとえばSchlesingerおよびDubensky(1999)Curr.Opin.Biotechnol.5:434~439頁およびYingら,(1999)Nat.Med.5(7):823~827頁を参照されたい。
【0093】
「AAVビリオン」または「AAVウイルス粒子」または「AAVウイルスベクター」または「rAAVウイルスベクター」または「AAVベクター粒子」または「AAV粒子」は、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質およびカプシド封入されたポリヌクレオチドrAAVベクターからなるウイルス粒子を指す。即ち、rAAVウイルスベクターの産生には必然的にrAAVベクターの産生が含まれ、したがってベクターはrAAVベクターの中に含まれる。
【0094】
本明細書で使用される場合、用語「ウイルスカプシド」または「カプシド」は、ウイルス粒子のタンパク質性シェルまたはコートを指す。カプシドは、ウイルスゲノムをカプシド封入し、保護し、輸送し、また宿主細胞中に放出するように機能する。カプシドは一般に、タンパク質(「カプシドタンパク質」)のオリゴマー性構造サブユニットからなっている。本明細書で使用される場合、用語「カプシド封入」は、ウイルスカプシド中に封入されることを意味する。AAVのウイルスカプシドは3つのウイルスカプシドタンパク質、即ちVP1、VP2、およびVP3の混合物からなっている。VP1、VP2、およびVP3の混合物は、そのそれぞれが参照により全体として本明細書に組み込まれるSonntag Fら,(2010年6月)“A viral assembly factor promotes AAV2 capsid formation in the nucleolus”.Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America.107(22):10220~5頁、およびRabinowitz JE,Samulski RJ(2000年12月).“Building a better vector: the manipulation of AAV virions”.Virology.278(2):301~8頁に記載されているように、1:1:10(VP1:VP2:VP3)または1:1:20(VP1:VP2:VP3)の比でT=1の20面体対称に配置された60個のモノマーを含む。
【0095】
本開示は、a)本明細書に記載されるrAAVベクターのいずれか、またはその相補体;およびb)AAVカプシドタンパク質を含むrAAVウイルスベクターを提供する。
【0096】
AAVカプシドタンパク質は、当技術で既知の任意のAAVカプシドタンパク質であってよい。AAVカプシドタンパク質は、AAV1カプシドタンパク質、AAV2カプシドタンパク質、AAV4カプシドタンパク質、AAV5カプシドタンパク質、AAV6カプシドタンパク質、AAV7カプシドタンパク質、AAV8カプシドタンパク質、AAV9カプシドタンパク質、AAV10カプシドタンパク質、AAV11カプシドタンパク質、AAV12カプシドタンパク質、AAV13カプシドタンパク質、AAVPHP.Bカプシドタンパク質、AAVrh74カプシドタンパク質、またはAAVrh.10カプシドタンパク質であってよい。
【0097】
組成物および医薬組成物
本開示は、本明細書に記載した単離されたポリヌクレオチド、rAAVベクター、および/またはrAAVウイルスベクターのいずれかを含む組成物を提供する。一部の態様では、組成物は医薬組成物であってよい。したがって、本開示は、本明細書に記載される単離されたポリヌクレオチド、rAAVベクター、および/またはrAAVウイルスベクターのいずれか、ならびに任意選択的に薬学的に許容される担体を含む医薬組成物について提示する。
【0098】
医薬組成物は、本明細書に記載したように、薬理学の技術において既知のまたは開発された任意の方法によって製剤化することができ、その方法には、それだけに限らないが、活性成分(たとえばウイルス粒子または組換えベクター)を賦形剤および/または添加物および/またはその他の補助的成分と接触させ、産生物を用量単位に分割または包装することが含まれる。本開示のウイルス粒子は、望ましい特徴、たとえば増大した安定性、増大した細胞トランスフェクション、持続したまたは遅延した放出、生体分布もしくは向性、コードされたタンパク質のin vivoでの調節されたまたは増進された翻訳、およびコードされたタンパク質のin vivoでの放出プロファイルを有して製剤化され得る。
【0099】
したがって、医薬組成物は、食塩水、脂質類、リポソーム、脂質ナノ粒子、ポリマー、リポプレックス、コアシェルナノ粒子、ペプチド、タンパク質、ウイルスベクターをトランスフェクトした細胞(たとえば対象への移植のための)、ナノ粒子模倣体、またはそれらの組合せをさらに含んでよい。一部の態様では、医薬組成物はナノ粒子として製剤化される。一部の態様では、ナノ粒子は自己アセンブルした核酸ナノ粒子である。
【0100】
本開示による医薬組成物は、単一の単位用量として、および/または複数の単一単位用量として、バルクで調製され、包装され、および/または販売され得る。活性成分の量は一般に、対象に投与される活性成分の投薬量に等しくおよび/またはそのような投薬量の都合の良い割合、たとえばそのような投薬量の半分または3分の1等である。本発明の製剤は、1つまたは複数の賦形剤および/または添加物を、それぞれ共にウイルスベクターの安定性を増大し、ウイルスベクターによる細胞のトランスフェクションまたは形質導入を増大し、ウイルスベクターによってコードされたタンパク質の発現を増大し、および/またはウイルスベクターによってコードされたタンパク質の放出プロファイルを変更させる量で含み得る。一部の態様では、医薬組成物は、賦形剤および/または添加物を含む。賦形剤および/または添加物の非限定的な例には、溶媒、分散媒、希釈剤、またはその他の液体ビヒクル、分散または懸濁の助剤、界面活性剤、等張化剤、増粘剤または乳化剤、保存剤、またはそれらの組合せが含まれる。
【0101】
一部の態様では、医薬組成物は凍結保護剤を含む。用語「凍結保護剤」は、凍結中の物質に対する損傷を低減または排除することができる薬剤を指す。凍結保護剤の非限定的な例には、スクロース、トレハロース、ラクトース、グリセロール、デキストロース、ラフィノース、および/またはマンニトールが含まれる。
【0102】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容される担体」は、標準的な薬学的担体のいずれか、たとえばリン酸塩緩衝食塩溶液、水、およびエマルジョン、たとえば水中油もしくは油中水エマルジョン、ならびに種々の種類の湿潤剤を包含する。組成物は安定剤および保存剤を含んでもよい。担体、安定剤、およびアジュバントの例については、Martin(1975)Remington’s Pharm.Sci.,15版(Mack Publ.Co.,Easton)を参照されたい。
【0103】
一部の態様では、本開示の医薬組成物は、リン酸塩緩衝食塩水、D-ソルビトール、塩化ナトリウム、プルロニック(登録商標)F-68またはそれらの任意の組合せを含んでよい。
【0104】
一部の態様では、医薬組成物は塩化ナトリウムを含んでよく、塩化ナトリウムは約100mM~約500mM、または約200mM~約400mM、または約300mM~約400mMの濃度で存在する。一部の態様では、塩化ナトリウムが約350mMの濃度で存在してよい。
【0105】
一部の態様では、医薬組成物はD-ソルビトールを含んでよく、D-ソルビトールは約1%~約10%、または約2.5%~約7.5%の濃度で存在する。一部の態様では、D-ソルビトールは約5%の濃度で存在してよい。
【0106】
一部の態様では、医薬組成物はプルロニック(登録商標)F-68を含み得るが、その場合プルロニック(登録商標)F-68は、約0.00001%~約0.01%、または約0.0005%~約0.005%の濃度で存在する。一部の態様では、プルロニック(登録商標)F-68は約0.001%の濃度で存在することができる。
【0107】
次に、本開示は、リン酸緩衝化生理食塩溶液中に本開示のrAAVベクターおよび/またはrAAVウイルスベクターを含む医薬組成物について提示するが、その場合医薬組成物は、350mMの濃度で塩化ナトリウム、5%の濃度でD-ソルビトール、および0.001%の濃度でプルロニック(登録商標)F-68をさらに含む。
【0108】
次に、本開示は、本開示のrAAVベクターおよび/またはrAAVウイルスベクターを含む医薬組成物について提示するが、その場合医薬組成物は、350mMの濃度で塩化ナトリウム、5%の濃度でD-ソルビトール、および0.001%の濃度でプルロニック(登録商標)F-68をさらに含む。
【0109】
次に、本開示は、リン酸緩衝化生理食塩溶液中に本開示のrAAVベクターおよび/またはrAAVウイルスベクターを含む医薬組成物について提示するが、その場合医薬組成物は、350mMの濃度で塩化ナトリウム、5%の濃度でD-ソルビトールをさらに含む。
【0110】
次に、本開示は、本開示のrAAVベクターおよび/またはrAAVウイルスベクターを含む医薬組成物について提示するが、その場合医薬組成物は、350mMの濃度で塩化ナトリウム、5%の濃度でD-ソルビトールをさらに含む。
【0111】
本開示の組成物を使用する方法
本開示は、開示した組成物または医薬組成物を用いる、たとえば細胞、組織、器官、動物、または対象に治療有効量の組成物または医薬組成物を投与する、または接触させる、当技術で既知のまたは本明細書に記載した細胞、組織、器官、動物、または対象における疾患または障害の処置のための開示した組成物または医薬組成物の使用を提供する。一態様では、対象は哺乳動物である。好ましくは、対象はヒトである。用語「対象」および「患者」は、本明細書では相互交換可能に用いられる。
【0112】
本開示は、障害を防止または処置する方法であって、治療有効量の、本明細書に開示される単離された核酸分子、rAAVベクター、rAAVウイルスベクター、組成物、および/または医薬組成物のいずれか1つを対象に投与するステップを含むか、実質的にそれからなるか、またはそれからなる方法を提供する。
【0113】
1つの態様では、対象におけるタウオパシーを処置する方法であって、本明細書に記載される単離された核酸、rAAVベクター、rAAVウイルスベクター、または組成物の有効量を対象に投与するステップを含む方法が本明細書に提示される。
【0114】
一部の実施形態では、対象はMAPT遺伝子内の突然変異に関連する障害に罹患している。一部の実施形態では、本明細書に記載される方法に基づき処置される対象は、MAPT遺伝子内に1つまたは複数の突然変異を有する。タウ機能に対して効果を有するMAPT内の突然変異は当技術分野において公知であり、たとえばStrangら,Lab Invest.2019年7月;99(7):912~928頁を参照されたい。一部の実施形態では、突然変異は、R5H、R5L、G55R、K257T、I260V、L266V、G272V、N279K、Δ280K、S285R、K298E、P301L、P301S、P301T、G303V、S305I、S305N、K317M、K317N、S320F、P332S、G335V、Q336H、Q336R、V337M、S352L、S356T、P364S、K369I、E372G、G389R(G→A)、G389R(G→C)、およびN410Hからなる群から選択される。
【0115】
一部の実施形態では、疾患はADである。一部の実施形態では、疾患はFNTD-17である。
【0116】
したがって、本開示は、対象におけるタウオパシーを予防または処置する方法であって、本明細書に開示の単離された核酸分子、rAAVベクター、rAAVウイルスベクター、組成物、および/または医薬組成物のうちのいずれか1つについて、その治療有効量を対象に投与するステップを含み、それから実質的に構成されるかまたはそれから構成される方法について提示する。本開示は、タウオパシーの処置または予防を目的とする医薬を製造するための、本明細書に開示の単離された核酸分子、rAAVベクター、rAAVウイルスベクター、組成物、および/または医薬組成物のうちのいずれか1つの使用について提示する。本開示は、タウオパシーを処置または予防する際に使用するための、本明細書に開示の単離された核酸分子、rAAVベクター、rAAVウイルスベクター、組成物、および/または医薬組成物のうちのいずれか1つについて提示する。一部の実施形態では、タウオパシーはADである。一部の実施形態では、疾患はFNTD-17である。
【0117】
本明細書で開示した処置および防止の方法は、治療または防止のための患者を特定および選択するために適切な診断手法と組み合わせてよい。
【0118】
本開示は、宿主細胞を本明細書で開示したrAAVウイルスベクターのいずれか1つと接触させることを含む、宿主細胞中の1つまたは複数のタンパク質のレベルを低減させる方法を提供し、rAAVウイルスベクターは、本明細書で開示したrAAVベクターのいずれか1つを含む。一部の態様では、宿主細胞はin vitro、in vivo、またはex vivoである。一部の態様では、宿主細胞は対象、たとえば、タウオパシーに罹患している対象由来である。
【0119】
一部の態様では、本明細書内の単離された核酸、rAAVベクター、またはrAAVウイルスベクターを投与すると、その結果宿主細胞におけるタウタンパク質発現が減少する。タウのレベルは、宿主細胞において、約1×10-7ng、約3x10-7ng、約5x10-7ng、約7x10-7ng、約9x10-7ng、約1x10-6ng、約2x10-6ng、約3x10-6ng、約4x10-6ng、約6x10-6ng、約7x10-6ng、約8x10-6ng、約9x10-6ng、約10x10-6ng、約12x10-6ng、約14x10-6ng、約16x10-6ng、約18x10-6ng、約20x10-6ng、約25x10-6ng、約30x10-6ng、約35x10-6ng、約40x10-6ng、約45x10-6ng、約50x10-6ng、約55x10-6ng、約60x10-6ng、約65x10-6ng、約70x10-6ng、約75x10-6ng、約80x10-6ng、約85x10-6ng、約90x10-6ng、約95x10-6ng、約10x10-5ng、約20x10-5ng、約30x10-5ng、約40x10-5ng、約50x10-5ng、約60x10-5ng、約70x10-5ng、約80×10-5ng、または約90×10-5ngのレベルまで低下し得る。
【0120】
一部の実施形態では、タウタンパク質のレベルは、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または約100%低下し得る。
【0121】
一部の実施形態では、タウタンパク質のレベルは、少なくとも約1/1.25、少なくとも約1/1.5、少なくとも約1/1.25、少なくとも約1/2、少なくとも約1/2.25、少なくとも約1/2.5、少なくとも約1/2.75、少なくとも約1/3、少なくとも約1/4、少なくとも約1/5、少なくとも約1/6、少なくとも約1/7、少なくとも約1/8、少なくとも約1/9、または少なくとも約1/10に低下し得る。
【0122】
本開示は、宿主細胞内のRNA分子のレベルを減少させる方法であって、宿主細胞を本明細書に開示のrAAVウイルスベクターのいずれか1つと接触させるステップを含み、rAAVウイルスベクターが本明細書に開示のrAAVベクターのいずれか1つを含む、方法について提示する。一部の態様では、RNA分子はmRNA分子またはノンコーディングRNA分子である。一部の態様では、宿主細胞は、in vitro、in vivo、またはex vivoである。一部の態様では、宿主細胞は、対象、たとえばタウオパシーに罹患している対象に由来する。一部の実施形態では、宿主細胞は、タウオパシーに罹患している対象の脳幹、小脳、または皮質に由来する細胞である。
【0123】
一部の態様では、本明細書内の単離された核酸、rAAVベクター、またはrAAVウイルスベクターを投与すると、その結果宿主細胞においてMAPT mRNAが減少する。mRNA分子のレベルは、宿主細胞において、約1×10-7ng、約3×10-7ng、約5x10-7ng、約7x10-7ng、約9x10-7ng、約1x10-6ng、約2x10-6ng、約3x10-6ng、約4x10-6ng、約6x10-6ng、約7x10-6ng、約8x10-6ng、約9x10-6ng、約10x10-6ng、約12x10-6ng、約14x10-6ng、約16x10-6ng、約18x10-6ng、約20x10-6ng、約25x10-6ng、約30x10-6ng、約35x10-6ng、約40x10-6ng、約45x10-6ng、約50x10-6ng、約55x10-6ng、約60x10-6ng、約65x10-6ng、約70x10-6ng、約75x10-6ng、約80x10-6ng、約85x10-6ng、約90x10-6ng、約95x10-6ng、約10x10-5ng、約20x10-5ng、約30x10-5ng、約40x10-5ng、約50x10-5ng、約60x10-5ng、約70x10-5ng、約80×10-5ng、または約90×10-5ngのレベルまで低下し得る。
【0124】
一部の実施形態では、MAPT mRNAのレベルは、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または約100%減少する。
【0125】
一部の実施形態では、MAPT mRNAのレベルは、少なくとも約1/1.25、少なくとも約1/1.5、少なくとも約1/1.25、少なくとも約1/2、少なくとも約1/2.25、少なくとも約1/2.5、少なくとも約1/2.75、少なくとも約1/3、少なくとも約1/4、少なくとも約1/5、少なくとも約1/6、少なくとも約1/7、少なくとも約1/8、少なくとも約1/9、または少なくとも約1/10に低下する。
【0126】
本開示は、目的とするポリヌクレオチド配列(たとえば、MAPTを標的とする少なくとも1つのamiRNAをコードするポリヌクレオチド配列)を対象内の細胞に導入する方法であって、細胞を、本明細書に開示のrAAVウイルスベクターのいずれか1つについて、その有効量と接触させるステップを含み、rAAVウイルスベクターが目的とするポリヌクレオチド配列を含む本明細書に開示のrAAVベクターのいずれか1つを含有する、方法について提示する。
【0127】
本開示の方法の一部の態様では、対象には、本開示のrAAVベクターまたはrAAVウイルスベクターを投与することに加えて、予防的免疫抑制処置レジメンを施行することもできる。一部の態様では、免疫抑制処置レジメンには、少なくとも1つの免疫抑制治療剤を投与することが含まれる。免疫抑制治療剤の非限定的な例には、それだけに限らないが、シロリムス(ラパマイシン)、アセトアミノフェン、ジフェンヒドラミン、IVメチルプレドニソロン、プレドニソン、またはそれらの任意の組合せが含まれる。免疫抑制治療剤は、rAAVベクターおよび/もしくはrAAVウイルスベクターの投与の日に先立って、rAAVベクターおよび/もしくはrAAVウイルスベクターの投与と同じ日に、またはrAAVベクターおよび/もしくはrAAVウイルスベクターの投与の後の任意の日に、投与してよい。
【0128】
診断または処置の「対象」は、細胞または哺乳動物等の動物、またはヒトである。対象は特定の種に限定されず、限定なしに類人猿、ネズミ、ラット、イヌ、またはウサギ種を含む、診断または処置の対象となる非ヒト動物、および感染または動物のモデルの対象となるもの、ならびにその他の家畜、スポーツ動物、またはペットを含む。一部の態様では、対象はヒトである。用語「対象」および「患者」は本明細書では交換可能に使用される。
【0129】
本明細書で使用される場合、対象における疾患「を処置すること」またはその「処置」とは、(1)疾患の症状を呈しやすいかもしくはいまだ呈さない対象において、症状もしくは疾患が生ずるのを遅延させること;(2)疾患を阻害すること、もしくはその発症を阻止すること;または(3)疾患もしくは疾患の症状を良化させるか、もしくはその後退を引き起こすことを指す。遅延させること、阻害すること、および良化させることは、本明細書に記載される組成物、単離された核酸分子、rAAVベクター、またはrAAVウイルスベクターが投与されない別の対象(たとえば、同一のタウオパシー(たとえば、ADまたはFTDP-17)に罹患している対象)と比較され得る。阻害することまたは良化させることは、別の対象(たとえば、本明細書に記載される組成物、単離された核酸分子、rAAVベクター、またはrAAVウイルスベクターが投与されないタウオパシー(たとえば、ADまたはFTDP-17)に罹患している対象)、または本明細書に記載される組成物、単離された核酸分子、rAAVベクター、またはrAAVウイルスベクターの初回投与前の処置される対象と比較され得る。
【0130】
当技術で理解されているように、「処置」は、臨床的結果を含む有益なまたは望ましい結果を得るためのアプローチである。本技術の目的のため、有益なまたは望ましい結果には、検出可能であってもなくても、1つまたは複数の、それだけに限らないが、1つまたは複数の症状の緩和または改善、状態(疾患を含む)の程度の逓減、状態(疾患を含む)の状況の安定化(即ち、悪化しないこと)、状態(疾患を含む)の遅延または遅らせること、状態(疾患を含む)の進行、改善、または軽減、状況および寛解(部分的であっても全面的であっても)が含まれ得る。
【0131】
一部の実施形態では、本明細書に記載される組成物、単離された核酸分子、rAAVベクター、またはrAAVウイルスベクターの投与によって良化することとなる症状は、タウ、特に高度にリン酸化された線維状タウの脳内蓄積である。タウタンパク質は、たとえば免疫組織化学を含む、当技術分野において公知、または本明細書に記載される任意の適する方法を使用して検出され得る。
【0132】
一部の実施形態では、本明細書に記載される組成物、単離された核酸分子、rAAVベクター、またはrAAVウイルスベクターの投与によって良化することとなる症状は認知症である。
【0133】
本明細書で使用される場合、用語「有効量」とは、所望の効果を達成するのに十分な量を意味することを意図している。治療または予防の用途に関しては、有効量は、問題の状態の種類および重症度、ならびに個別の対象の特徴、たとえば一般的健康状態、年齢、性別、体重、および医薬組成物に対する忍容性に依存することになる。遺伝子療法の文脈において、有効量は、対象において欠損している遺伝子について、その機能の正常化または改善を引き起こすのに十分な量であり得る。一部の実施形態では、本明細書に提示される単離されたポリヌクレオチド、rAAVベクター、rAAVウイルスベクター、または組成物の有効量は、対象において、たとえば対象の脳幹、皮質、および/または小脳において、MAPTを標的とするamiRNAの発現を引き起こすのに十分な量である。一部の実施形態では、本明細書に提示される単離されたポリヌクレオチド、rAAVベクター、rAAVウイルスベクター、または組成物の有効量は、対象においてMAPTを標的とするamiRNAの発現を引き起こすのに十分な、たとえばタウの発現が上方制御されるような量である。一部の実施形態では、タウの発現は、脳幹、皮質、および/または小脳において上方制御される。当業者であれば、これらのおよびその他の因子に応じて適切な量を決定することができよう。
【0134】
一部の態様では、有効量は、問題の用途の大きさおよび性質に依存することになる。これは標的の対象および使用する方法の性質および感受性に依存することにもなる。当業者であれば、これらのおよびその他の考慮に基づいて有効量を決定することができよう。有効量は、実施形態に応じた組成物の1つまたは複数の投与を含むか、実質的にそれらからなるか、またはそれらからなり得る。
【0135】
本明細書で使用される場合、用語「投与する」または「投与」は、ヒトまたは動物等の対象への物質の送達を意味することを意図している。投与は、処置の経過を通して1つの用量で、連続的に、または間欠的に、達成することができる。最も有効な投与の手段および投薬量を決定する方法は当業者には既知であり、治療に用いる組成物、治療の目的、ならびに処置される対象の年齢、健康状態、または性別によって変動することになる。単一または多回の投与は、処置する臨床医またはペットおよびその他の動物の場合には処置する獣医によって選択される用量レベルおよびパターンで行なってよい。
【0136】
最も有効な投与の手段および投薬量を決定する方法は当業者には既知であり、治療に用いる組成物、治療の目的、ならびに処置される対象によって変動することになる。単一または多回の投与は、処置する臨床医によって選択される用量レベルおよびパターンで行なってよい。投薬量は投与の経路に影響され得ることが注意される。好適な投薬処方および薬剤を投与する方法は当技術で既知である。そのような好適な投薬量の非限定的な例は、投与あたり109ベクターゲノムの低い量から1017ベクターゲノム(または「ウイルス粒子」)の高い量までであってよい。
【0137】
一部の態様では、組成物、医薬組成物中のウイルス粒子の量、または患者に投与されるウイルス粒子の量は、ウイルスゲノムを含むと予測されるウイルス粒子のパーセンテージに基づいて計算することができる。
【0138】
一部の態様では、本開示のrAAVウイルスベクターは、静脈内、髄腔内、脳内、大槽内(ICM)、脳室内、鼻内、気管内、耳内、眼内または眼周囲、経口、直腸内、経粘膜、吸入、経皮、非経口、皮下、皮内、筋肉内、脳槽内、神経内、胸膜内、局所、リンパ節内、脳槽内で対象に導入してよい;そのような導入は、動脈内、心臓内、脳室下、硬膜外、大脳内、側脳室内、網膜下、硝子体内、関節内、腹腔内、子宮内、神経内、またはそれらの任意の組合せでもあってもよい。一部の態様では、ウイルス粒子は所望の標的組織に、たとえば非限定的な例として、肺、眼、またはCNSに送達される。一部の態様では、ウイルス粒子の送達は全身的である。脳槽内の投与経路には、脳室の脳脊髄液への薬物の直接投与が含まれる。これは、大槽への直接注射または永久的に位置したチューブによって実施し得る。一部の態様では、本開示のrAAVウイルスベクターは髄腔内に投与される。一部の態様では、本開示のrAAVウイルスベクターは大槽内投与される。
【0139】
本開示のrAAVベクター、rAAVウイルスベクター、組成物、または医薬組成物の投与は、処置の経過を通して1つの用量で、連続的に、または間欠的に、達成することができる。一部の態様では、本開示のrAAVベクター、rAAVウイルスベクター、組成物、または医薬組成物は、注射、注入、または移植によって非経口的に投与される。
【0140】
一部の態様では、本開示のrAAVウイルスベクターは、脳および頸椎に増進された向性を示す。一部の態様では、本開示のrAAVウイルスベクターは、血液脳関門(BBB)を通過することができる。
【0141】
製造方法
本開示のrAAVウイルスベクターを産生するために種々のアプローチを用い得る。一部の態様では、ヘルパーウイルスまたはヘルパープラスミドおよび細胞株を用いることによって、パッケージングが達成される。ヘルパーウイルスまたはヘルパープラスミドは、ウイルスベクターの産生を容易にするエレメントおよび配列を含んでいる。別の態様では、ヘルパープラスミドはパッケージング細胞株のゲノムの中に安定に組み込まれ、それによりパッケージング細胞株はヘルパープラスミドによるさらなるトランスフェクションを必要としない。
【0142】
一部の態様では、細胞はパッケージング細胞株またはヘルパー細胞株である。一部の態様では、ヘルパー細胞株は真核細胞、たとえばHEK293細胞または293T細胞である。一部の態様では、ヘルパー細胞は酵母細胞または昆虫細胞である。
【0143】
一部の態様では、細胞はテトラサイクリンアクチベータータンパク質をコードする核酸、およびテトラサイクリンアクチベータータンパク質の発現を制御するプロモーターを含む。一部の態様では、テトラサイクリンアクチベータータンパク質の発現を制御するプロモーターは、構造的プロモーターである。一部の態様では、プロモーターはホスホグリセレートキナーゼプロモーター(PGK)またはCMVプロモーターである。
【0144】
ヘルパープラスミドはたとえば、複製能のあるAAVを産生せず、複製能のないAAVをパッケージングするためおよび複製能のないAAVをパッケージングすることができるビリオンタンパク質を高いタイターで産生するために必要なトランスオールビリオンタンパク質をコードする複製能のないウイルスゲノムから誘導された少なくとも1つのウイルスヘルパーDNA配列を含み得る。
【0145】
AAVをパッケージングするためのヘルパープラスミドは当技術で既知であり、たとえば参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2004/0235174A1号を参照されたい。そこで述べられているように、AAVヘルパープラスミドはヘルパーウイルスとしてDNA配列、非限定的な例としてそれぞれの元のプロモーターまたは異種プロモーターによって制御されるAd5遺伝子E2A、E4、およびVAを含み得る。AAVヘルパープラスミドは、所望の標的細胞のトランスフェクションの単純な検出を可能にするために、蛍光タンパク質等のマーカータンパク質の発現のための発現カセットをさらに含んでよい。
【0146】
本開示は、パッケージング細胞株を本明細書で開示したAAVヘルパープラスミドのいずれか1つおよび本明細書で開示したrAAVベクターのいずれか1つでトランスフェクトすることを含む、rAAVウイルスベクターを産生する方法を提供する。一部の態様では、AAVヘルパープラスミドとrAAVベクターはパッケージング細胞株に共トランスフェクトされる。一部の態様では、細胞株は哺乳動物細胞株、たとえばヒト胚性腎(HEK)293細胞株である。本開示は、本明細書で開示したrAAVベクターおよび/またはrAAVウイルスベクターのいずれか1つを含む細胞を提供する。
【0147】
本明細書で使用される場合、ウイルスまたはプラスミドに関連する用語「ヘルパー」は、本明細書に記載したrAAVベクターのいずれか1つの複製およびパッケージングのために必要なさらなる成分を提供するために用いられるウイルスまたはプラスミドを指す。ヘルパーウイルスによってコードされる成分は、ビリオンのアセンブリー、カプシド封入、ゲノムの複製、および/またはパッケージングのために必要な任意の遺伝子を含み得る。たとえば、ヘルパーウイルスまたはプラスミドは、ウイルスゲノムの複製のための必要な酵素をコードし得る。AAV構築物と共に用いるために好適なヘルパーウイルスおよびプラスミドの非限定的な例には、pHELP(プラスミド)、アデノウイルス(ウイルス)、またはヘルペスウイルス(ウイルス)が含まれる。一部の態様では、pHELPプラスミドはpHELPKプラスミドであってよく、この場合はアンピシリン発現カセットがカナマイシン発現カセットに交換される。
【0148】
本明細書で使用される場合、パッケージング細胞(またはヘルパー細胞)は、ウイルスベクターを産生するために用いられる細胞である。組換えAAVウイルスベクター(rAAVウイルスベクター)の産生には、トランスで提供されるRepおよびCapタンパク質、ならびにAAVの複製を助けるアデノウイルス由来の遺伝子配列が必要である。一部の態様では、パッケージング/ヘルパー細胞がプラスミドを含み、細胞のゲノムの中に安定に組み込まれる。他の態様では、パッケージング細胞は一過的にトランスフェクトされ得る。典型的には、パッケージング細胞は真核細胞、たとえば哺乳動物細胞または昆虫細胞である。
【0149】
キット
本明細書に記載した単離されたポリヌクレオチド、rAAVベクター、rAAVウイルスベクター、組成物、および/または医薬組成物は、治療、診断、または研究の用途におけるその使用を容易にするために、医薬用または診断用または研究用のキットにアセンブルしてよい。一部の態様では、本開示のキットは、本明細書に記載したように、単離されたポリヌクレオチド、rAAVベクター、rAAVウイルスベクター、組成物、医薬組成物、宿主細胞、単離された組織のいずれか1つを含む。
【0150】
一部の態様では、キットは使用説明書をさらに含む。具体的には、そのようなキットは、本明細書に記載した1つまたは複数の薬剤を、これらの薬剤の意図された用途および正しい使用を記載した説明書と共に含んでよい。一部の態様では、キットは、キットの1つもしくは複数の成分を混合し、および/または試料を単離し混合して対象に適用するための説明書を含んでよい。一部の態様では、キット中の薬剤は医薬製剤中にあり、特定の用途および薬剤の投与の方法に適した投薬量である。研究目的用のキットは、種々の実験を行なうために適切な濃度または量で成分を含み得る。
【0151】
キットは、本明細書に記載した方法の使用を容易にするように設計され、多くの形態を取ることができる。キットの成分のそれぞれは、適用できる場合には、液体形態(たとえば溶液中)または固体形態(たとえば乾燥粉末)で提供され得る。ある特定の例では、組成物のいくつかは、たとえば、キットと共に提供されてもよく提供されなくてもよい好適な溶媒または他の種(たとえば、水または細胞培養培地)によって再構成または他の方法で処理(たとえば活性形に)することができる。一部の態様では、組成物は保存溶液(たとえば凍結保存溶液)中で提供され得る。保存溶液の非限定的な例には、DMSO、パラホルムアルデヒド、およびCryoStor(登録商標)(Stem Cell Technologies社,Vancouver,Canada)が含まれる。一部の態様では、保存溶液はある量のメタロプロテアーゼ阻害剤を含む。
【0152】
一部の態様では、キットは、本明細書に記載した成分のいずれか1つまたは複数を、1つまたは複数の容器中に含む。即ち、一部の態様では、キットは、本明細書に記載した薬剤を収容する容器を含み得る。薬剤は液体、ゲル、または固体(粉末)の形態であってもよい。薬剤は無菌的に調製され、シリンジに包装され、冷蔵で出荷され得る。あるいは、保存のために薬剤をバイアルまたはその他の容器中に収容してもよい。第2の容器が無菌的に調製された他の薬剤を有してもよい。あるいは、キットは、事前に混合され、シリンジ、バイアル、チューブ、またはその他の容器中で出荷された活性薬剤を含んでよい。キットは、対象に薬剤を投与するために必要な部品、たとえばシリンジ、局所適用デバイス、またはIVニードルチューブおよびバッグの1つもしくは複数または全てを有してよい。
【0153】
さらなる定義
文脈によって他が指示されない限り、本明細書に記載した本発明の種々の特徴は任意の組合せで用いることができることが特に意図されている。さらに、本開示は、一部の態様で、本明細書で説明した任意の特徴または特徴の組合せを除外または削除してよいことも意図している。説明のため、複合体が成分A、B、およびCを含むと明細書で述べている場合には、A、B、もしくはCのいずれか、またはそれらの組合せを、単独でまたは任意の組合せで削除または放棄してよいことが特に意図されている。
【0154】
他に明示的に示さない限り、全ての特定した態様、実施形態、特徴、および用語は、引用した態様、実施形態、特徴、または用語と、その生物学的等価物の両方を含むことが意図されている。
【0155】
本技術の実施には、他に指示がない限り、当技術の技能の範囲内にある有機化学、薬理学、免疫学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、および組換えDNAの従来の手法が採用されることになる。たとえばSambrook,FritschおよびManiatis,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版(1989);Current Protocols In Molecular Biology(F.M.Ausubelら編,(1987));the series Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.):PCR 2:A Practical Approach(M.J.MacPherson,B.D.HamesおよびG.R.Taylor編(1995)),HarlowおよびLane編,(1988)Antibodies,a Laboratory Manual,およびAnimal Cell Culture(RI.Freshney編,(1987))を参照されたい。
【0156】
本明細書で使用される場合、用語「含む」は、組成物および方法が引用した要素を含むが、他を排除しないことを意味することを意図している。本明細書で使用される場合、移行句「実質的に~からなる」(および文法的変形)は、引用した材料またはステップ、および引用した実施形態の基礎的かつ新規な特徴に実質的に影響しない材料またはステップを包含すると解釈すべきである。即ち、本明細書で使用される用語「実質的に~からなる」は、「含む」と等価であると解釈するべきではない。「からなる」は、他の成分および本明細書で開示した組成物を投与するための実質的な方法ステップの微量を超える要素を排除することを意味する。これらの移行句のそれぞれによって定義される態様は、本開示の範囲内である。本明細書におけるそれぞれの例において、用語「含む」、「実質的に~からなる」、および「からなる」のいずれも、それらの元の意味を保持したままで他の2つの句によって置き換えることができる。
【0157】
全ての数値指定、たとえば範囲を含むpH、温度、時間、濃度、および分子量は、必要に応じて1.0または0.1の増分で、あるいは±15%、10%、5%、2%の変動で、(+)または(-)に変動する近似である。常に明示的に述べてはいないが、全ての数値指定には、用語「約」が先行していることを理解されたい。常に明示的に述べてはいないが、本明細書に記載した試薬は単に例示的なものであり、その等価物が当技術で既知であることも理解されたい。量または濃度その他の測定可能な値に言及する場合に本明細書で使用される用語「約」は、特定した量の20%、10%、5%、1%、0.5%、または0.1%でさえもの変動を包含することを意味している。
【0158】
用語「許容される」、「有効な」、または「十分な」は、本明細書で開示した任意の成分、範囲、用量形態、その他の選択を記載するために使用される場合には、前記の成分、範囲、用量形態、その他が開示した目的に適していることを意図している。
【0159】
また、本明細書で使用される場合、「および/または」は、関連する列挙した項目の1つまたは複数のあらゆる可能な組合せ、ならびに選択肢(「または」)で説明される場合には組合せの欠如を指し、包含する。
【0160】
具体的に引用しない限り、用語「宿主細胞」は、たとえば真菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む真核生物宿主細胞を含む。真核生物宿主細胞の非限定的な例には、類人猿、ウシ、ブタ、ネズミ、ラット、鳥類、爬虫類、およびヒト、たとえばHEK293細胞および293T細胞が含まれる。
【0161】
本明細書で使用される用語「単離された」は、実質的に他の材料を含まない分子または生物製剤または細胞材料を指す。
【0162】
本明細書で使用される場合、用語「核酸配列」および「ポリヌクレオチド」は相互交換可能に使用され、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドである任意の長さのヌクレオチドのポリマーの形態を指す。即ち、この用語には、それだけに限らないが、一本鎖、二本鎖、もしくは多数鎖のDNAもしくはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、あるいはプリンおよびピリミジン塩基またはその他の天然の、化学的もしくは生化学的に改変された、非天然の、または誘導されたヌクレオチド塩基を含むか、実質的にそれらからなるか、またはそれらからなるポリマーが含まれる。
【0163】
「遺伝子」は、特定のポリペプチドまたはタンパク質をコードすることができる少なくとも1つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含むポリヌクレオチドを指す。「遺伝子産物」あるいは「遺伝子発現産物」は、遺伝子が転写され翻訳された際に生成するアミノ酸配列(たとえばペプチドまたはポリペプチド)を指す。
【0164】
本明細書で使用される場合、「発現」は、ポリヌクレオチドがmRNAに転写される2ステップのプロセスおよび/または転写されたmRNAが引き続いてペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質に翻訳されるプロセスを指す。ポリヌクレオチドがゲノムDNAから誘導される場合には、発現は真核細胞内におけるmRNAのスプライシングを含み得る。
【0165】
「転写の制御下」は当技術でよく理解されている用語であり、ポリヌクレオチド配列、通常DNA配列の転写が、転写の開始に寄与するか、または転写を促進するエレメントに作動可能に連結されていることに依存していることを示す。「作動可能に連結されている」は、ポリヌクレオチドが細胞中において機能することを可能にする様式で配置されていることを意図している。一態様では、プロモーターは下流配列に作動可能に連結されていてよい。
【0166】
用語「をコードする」とは、ポリヌクレオチド配列および/または核酸配列に適用されるとき、その天然の状態において、ポリヌクレオチド配列および/または核酸配列が生物学的に活性であるshRNA分子の配列に対応する場合、RNA分子(たとえば、shRNA分子)「をコードする」と言えるポリヌクレオチド配列および/または核酸配列を指す。アンチセンス鎖はそのようなポリヌクレオチド配列および/または核酸配列の相補体であり、コードする配列はそれから推測することができる。
【0167】
用語「等価」または「生物学的等価」は、特定の分子、生物学的材料、または細胞材料に言及する場合には、相互交換可能に使用され、最小の相同性を有しながらそれでも所望の構造または機能性を維持している特定の分子、生物学的材料、または細胞材料を意図している。等価のポリペプチドの非限定的な例には、参照ポリペプチド(たとえば野生型ポリペプチド)と少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%の同一性、もしくは少なくとも約99%の同一性を有するポリペプチド、または参照ポリヌクレオチド(たとえば野生型ポリヌクレオチド)と少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%の同一性、少なくとも約97%の配列同一性、もしくは少なくとも約99%の配列同一性を有するポリヌクレオチドでコードされるポリペプチドが含まれる。
【0168】
「相同性」または「同一性」または「類似性」は、2つのペプチドの間、または2つの核酸分子の間の配列類似性を指す。同一性パーセントは、比較の目的でアラインさせたそれぞれの配列において位置を比較することによって決定することができる。比較した配列中のある位置が同じ塩基またはアミノ酸によって占有されている場合には、それらの分子はその位置において同一である。配列の間の同一性の程度は、それらの配列によって共有される一致した位置の数の関数である。「無関係な」または「非相同性」配列は、本開示の配列の1つと40%未満の同一性、25%未満の同一性を共有している。アラインメントおよび配列同一性パーセントは、前記核酸またはアミノ酸の配列をClustalW(https://genome.jp/tools-bin/clustalw/で入手可能)にインポートし、これを用いることによって、本明細書で提供した核酸またはアミノ酸の配列について決定することができる。たとえば、本明細書で見出したタンパク質配列アラインメントを実施するために用いたClustalWパラメーターは、Gonnet(タンパク質について)重みマトリックスを用いて生成した。一部の態様では、本明細書で見出した核酸配列を用いて核酸配列アラインメントを実施するために用いたClustalWパラメーターは、ClustalW(DNAについて)重みマトリックスを用いて生成される。
【0169】
本明細書で開示したポリヌクレオチドは、遺伝子送達ビヒクルを用いて細胞または組織に送達することができる。本明細書で使用される「遺伝子送達」、「遺伝子移送」、「形質導入」等は、導入のために用いられる方法に関わらず、外因性ポリヌクレオチド(時には「トランスジーン」と称される)の宿主細胞への導入を指す用語である。そのような方法には、種々の公知の手法、たとえばベクター媒介遺伝子移送(たとえばウイルス感染/トランスフェクション、またはその他の種々のタンパク質系もしくは脂質系の遺伝子送達複合体による)、ならびに「裸の」ポリヌクレオチドの送達を容易にする手法(たとえばエレクトロポレーション、「遺伝子銃」送達、およびポリヌクレオチドの導入のために用いられる他の種々の手法)が含まれる。導入されたポリヌクレオチドは、安定的または一過的に宿主細胞中に維持され得る。安定的な維持には、典型的には導入されたポリヌクレオチドが宿主細胞に適合する複製の起点を含むか、または宿主細胞のレプリコン、たとえば染色体外レプリコン(たとえばプラスミド)、または核もしくはミトコンドリアの染色体に統合されることが必要である。当技術において既知で本明細書に記載しているように、いくつかのベクターが遺伝子の哺乳動物細胞への移送を媒介することができることが知られている。
【0170】
「プラスミド」は、典型的には染色体DNAとは離れていて独立にこれを複製することができるDNA分子である。多くの例で、これは環状で二本鎖である。プラスミドは微生物の集団の中で水平的遺伝子移送のための機構を提供し、典型的には所与の環境状況の下で選択的な利点を提供する。プラスミドは競争的な環境的地位において天然産生の抗生物質に対する耐性を提供する遺伝子を運搬し、あるいは産生されたタンパク質が同様の状況の下で毒素として作用し得る。プラスミドベクターは染色体外環状DNA分子として存在することが多い一方、プラスミドベクターはランダムにまたは標的とされた様式で宿主染色体中に安定的に統合されるようにも設計され、そのような統合は環状プラスミドまたは宿主細胞への導入の前に線状化されたプラスミドを用いて達成できることが当技術で知られている。
【0171】
遺伝子操作で用いられる「プラスミド」は「プラスミドベクター」と呼ばれる。そのような使用のために多くのプラスミドが市販されている。複製されるべき遺伝子は、細胞を特定の抗生物質に対して耐性にする遺伝子を含むプラスミドのコピー、およびいくつかの一般に用いられる制限部位を含み、この位置におけるDNA断片の挿入を容易にする短い領域である多重クローニング部位(MCSまたはポリリンカー)の中に挿入される。プラスミドの別の主要な用途は、大量のタンパク質を作成することである。この場合には、目的の遺伝子を有するプラスミドを含む細菌または真核細胞が研究者によって増殖され、これらは、挿入された遺伝子から大量のタンパク質が産生されるように誘起することができる。
【0172】
遺伝子移送がアデノウイルス(Ad)またはアデノ随伴ウイルス(AAV)等のDNAウイルスベクターによって媒介される態様では、ベクター構築物は、ウイルスゲノムまたはその部分、およびトランスジーン/外因性ポリヌクレオチド配列を含むか、実質的にそれからなるか、またはそれからなるポリヌクレオチドを指す。
【0173】
用語「組織」は、生きているもしくは死亡した生命体の組織または生きているもしくは死亡した生命体から誘導されもしくはこれを模倣するように設計された任意の組織を指すために本明細書において使用される。組織は健康であっても、疾患を有していても、および/または遺伝的変異を有していてもよい。生物学的組織は、任意の単一の組織(たとえば相互に連結されていてもよい細胞の集合)または生命体の身体の器官もしくは部分もしくは領域を構成する組織の群を含み得る。組織は、均一な細胞材料を含むか、実質的にそれからなるか、またはそれからなってよく、またはたとえば肺組織、骨格組織、および/または筋肉組織を含み得る胸部を含む身体の領域において見出されるようなコンポジット構造であってもよい。例示的な組織には、それだけに限らないが、肝、肺、甲状腺、皮膚、膵、血管、膀胱、腎、脳、胆道系、十二指腸、腹部大動脈、腸骨静脈、心臓、および腸から誘導された組織が含まれ、それらの任意の組合せが含まれ得る。
【0174】
本明細書で引用された全ての参考資料は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0175】
本セクションに記載されている実施例は例証目的に限定して提供され、またいかなる場合においても、本発明に制限を設けるようには意図されない。
【0176】
実施例1:ヒトまたはマウスMAPTを標的とするmiRNAのスクリーニング
タウオパシーに対する新規治療アプローチとして、人工的miRNAシャトルのAAV送達を、MAPT遺伝子によりコードされるタウmRNAを標的とするのに使用した。miRNAのアンチセンスガイドストランドは、配列の22ntストレッチにわたりタウmRNAと完全な相補性を備え、これにより転写物に対してRNAi分解経路に向かうように指令を発する。
図1は、miRNAを使用するタウ標的化の概略を示す。エビデンスは、miRNAシャトルはshRNAよりも予想可能に処理され、効果的かつ安全であること(Boudreauら,Mol Ther 17,169~175頁,doi:10.1038/mt.2008.231(2009);Grimmら,Nature 441,537~541頁,doi:10.1038/nature04791(2006))、およびDNAに基づく送達システム、たとえばウイルスベクター等からin vivoで発現され得ることを裏付ける。
【0177】
mir-30に基づく人工的miRNAシャトルのパネルを、全てのタウ脳アイソフォームに共通する配列に対して特異的であるように設計した。タウまたはマウス特異的miRNAシャトルに対する参照配列を、AppleScriptプログラム(ユーザーによりインプットされた標的遺伝子に基づき、miRNAシャトル配列を予測するための公表された制約条件を使用する)を使用して生成した。分解させるために、成熟したガイドストランドを、ヒトタウ(hTaui)、マウスタウ(mTaui)のみを特異的に標的とするか、またはヒトおよびマウスタウ(hmTaui)mRNAの両方を標的とするように設計した。プログラムにより生成されたリストから、有望な候補を、種特異性および潜在的オフターゲット遺伝子のスクリーニングに基づき選択した。Boudreauら(RNA Interference Techniques Neuromethods(S.Q.Harper編)Ch.2,173(Humana Press,2011))からの公表されたプロトコールを使用しながら、miRNAシャトル配列を合成し、そしてU6T6プラスミド中にクローニングした。
【0178】
標的会合についてスクリーニングするために、種特異的ライブラリーそれぞれに由来する10~20候補をPsiCheck2プラスミド中にクローニングし、そしてデュアルルシフェラーゼレポーターアッセイ(DLRA)を標準実践法に従って実施した。表2に示すように、テストしたコンストラクトをコードするシャトルDNA配列は配列番号41~89で表され、対応するRNA配列は配列番号90~138で表され、そしてMAPTを標的とするamiRNA配列は配列番号139~187で表される。
【0179】
【0180】
ヒトタウを標的とするmiRNAの一次スクリーニングの結果を
図2に示し、そしてマウスタウを標的とするmiRNAの一次スクリーニングの結果を
図5に示す。ヒトおよびマウスタウの両方を標的とするmiRNAの一次スクリーニングの結果を
図7Aおよび
図7Bに示す。
【0181】
この一次スクリーニングから、トップ3の候補を次に二次スクリーニング(HEK293T細胞において、miRNAシャトルプラスミドをヒトまたはマウスcDNAを発現するプラスミドと共に同時トランスフェクトした)においてテストした。ヒトタウを標的とするmiRNAの二次スクリーニングの結果を
図3A~
図3Dに示し、そしてマウスタウを標的とするmiRNAの二次スクリーニングの結果を
図6Aおよび
図6Bに示す。
【0182】
二次スクリーニングからのトップ候補を、次にウイルス送達用としてAAVベクター中にクローニングした。第1世代タウmiRNAシャトルベクターは、同一カセット内のGFPレポーター導入遺伝子の上流にhTauiまたはmTauiシャトルを有する。この設計は、形質導入細胞内でのGFPタンパク質の発現を可能にし、ウイルス生体内分布のアセスメントを可能にする。
図4Aおよび
図4Bは、P301Sタウマウスにおけるベクター発現、およびAAV9/hタウi-GFPの標的会合を示す。第2世代タウmiRNAシャトルでは、GFPコーディング配列は、ヒトでの使用を可能にするために除去された。
【0183】
実施例2:3月齢P301Sタウマウスを対象に、大槽内投与されたときのAAV9/hTau5iの有効性を評価する試験
この試験を、疾患経過の早期において、タウオパシーのPS19マウスモデルを対象に、AAV9/hTau5iの治療ベネフィットを評価するように設計した。AAV9/hTau5iの配列は配列番号14で表される。PS19マウスは、ヒトP301S突然変異体タウを、内因性マウスタウよりも7倍高いレベルで過剰発現する。このモデルは、8カ月までに、主に海馬においてニューロン喪失および脳萎縮を発症し、そしてその他の脳領域、たとえば新皮質および嗅内皮質等に拡散する。このようなマウスは、新皮質、海馬、脳幹、および脊髄において広範囲に及ぶ神経原線維濃縮体様封入体を発現する(Yoshiyamaら,Neuron.2007年2月1日;53(3):337~51頁)。組織学的方法により明白なタウ病理が明らかとなる前に、このようなマウスの脳はシーディング活性を示す(タウが、1つの細胞から別の細胞に、およびシナプス的に接続した脳ネットワークに沿って伝播する可能性がある)(Holmesら,Proc Natl Acad Sci USA.2013年8月13日;110(33):E3138~47頁)。脳ホモジネート中に存在するタウ凝集物は、タウのさらなる凝集(1.5月齢において最初に検出される)を誘発するおそれがあることが明らかにされている(Holmesら,Proc Natl Acad Sci USA.2014年10月14日;111(41):E4376~85頁)。挙動的には、このようなマウスは、9~10カ月内に麻痺まで進行する運動障害(営巣行動における欠陥および摂食困難と関連する)を発症する。混合遺伝背景系統の場合、PS19マウスの50%超が12月齢までに早期死亡に至る。この試験では、3月齢において、非トランスジェニックおよびP301Sタウトランスジェニック同腹子に対して、マウス1匹当たり6E+11vg AAV9/hTau5i-GFPまたは媒体を大槽内(ICM)投与した。AAV9/hTau5i-GFPは、Dエレメントが削除された突然変異体AAV2末端逆位反復配列(ITR)、U6プロモーター、hTau5iマイクロRNAシャトル配列、T6終止シグナル、CBhプロモーター、GFP DNAコーディング配列、ポリアデニル化シグナル、および野生型AAV2 ITRを含む自己相補性AAVゲノムと共にパッケージングされたAAV9カプシドを含む。
【0184】
方法
3月齢において、非トランスジェニック(野生型;WT)およびP301Sタウトランスジェニックオスおよびメス同腹子に対して、媒体(WT:n=7、メス4匹、オス3匹;P301S:n=6、メス3匹、オス3匹)、または6E+11vg AAV9/hTau5i-GFP(WT:n=8、メス4匹、オス4匹;P301S:n=7、メス3匹、オス4匹)のいずれかを、その10uLを用いてICM注射した。動物を、投与後の4週間、1週間当たり3回、次に1週間当たり1回、観察および秤量した。処置後の臨床兆候、有害事象、および死亡について、マウスを1週間毎にモニタリングした。投与後3カ月において、脳の組織学および生化学分析のために動物を死後解剖した。生化学分析には、ヒトタウ(MAPT)mRNAのqPCR分析、タウ5抗体を使用する全タウタンパク質の酵素結合イムノアッセイ(ELISA)分析、および病理学的タウ種の存在を評価するためのシーディングアッセイが含まれた。
【0185】
結果
ICM送達された6E+11vg AAV9/hTau5i-GFPの安全性は、生存データ(計画された投与後3カ月時点よりも前に処置群のいずれにおいても早期死亡が認められなかったことを示す)により裏付けられる(
図8)。試験期間全体にわたり毒性の外的兆候は指摘されなかった。動物の全体的な健康を評価するために、注射後の体重変化をモニタリングした。
図9Aおよび
図9Bは、注射後、同一遺伝子型の媒体処置動物と比較して、AAV9/hTau5i-GFP処置動物における体重変化に有意差は認められなかったことを示す。それに付加して、媒体処置WTマウスとP301Sマウスとの間で、この年齢において、体重増加に有意差は認められなかった(
図9Aおよび
図9B)。総じて、生存率および体重データは、ICM送達された6E+11vg AAV9/hTau5i-GFPの用量は処置後3カ月まで、WTおよびP301Sタウ同腹子において良好な忍容性を示したことを裏付ける。
【0186】
注射後3カ月において、組織を組織学的および生化学的に評価した。
図10において、GFP抗体を使用する免疫組織化学染色の代表的な画像は、AAV9/hTau5i-GFPをICM注射すると、その結果脳全体にわたりベクターが分布する一方、媒体処置マウスにおいては陽性が認められないことを示す。
図11に示すように、処置マウスに由来する脳幹組織の定量的PCR分析により標的会合が確認されたが、ICM送達された6E+11vg AAV9/hTau5i-GFPの用量は、媒体処置P301Sタウマウスと比較して、P301Sタウマウスにおいて、ヒトタウmRNAレベルを有意に低下させた(Dunnettの多重比較検定を用いた一元配置分散分析、
****p<0.0001)。予想される通り、WT同腹子において検出されたヒトタウmRNAは有意ではなかった(
図11、Dunnettの多重比較検定を用いた一元配置分散分析、
****p<0.0001)。
図12は、脳幹における全タウレベルのELISA分析を、マウスタウおよびヒトタウの両方を検出するタウ5抗体を使用して実施したこと示す。WT同腹子が有した全タウはP301Sタウマウスと比較して有意に少なく、AAV9/hTau5i-GFPを用いて処置した場合不変であったことから、hTau5iはマウスタウレベルを減少させないことが確認される(
図12;Dunnettの多重比較検定を用いた一元配置分散分析)。対照的に、AAV9/hTau5i-GFPを用いた処置では、送達部位に最も近い脳領域内のP301Sタウマウスにおいて全タウレベルは有意に低下し(
図12;P301S+媒体と比較したDunnettの多重比較検定を用いた一元配置分散分析)、ヒトタウmRNAが低下した結果としてタウタンパク質が減少することが確認される。
【0187】
タウタンパク質レベルを減少させることの潜在的ベネフィット評価するために、タウ「シーディング」アッセイ法(ナイーブ単量体タウのミスフォールディングを誘発する病理学的タウ凝集物の能力を測定するin vitroでの方法)を使用した。シーディングアッセイにおいて、HEK293細胞は、シアン蛍光タンパク質または黄色蛍光タンパク質(この細胞が凝集物形成を誘発する病理学的タウを用いて処置されたときに、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)を創出する)と融合したタウの反復ドメインを安定的に発現する。
図13は、媒体またはAAV9/hTau5i-GFPを用いて処置されたWTマウスから得られた脳ホモジネートをトランスフェクションすると、その結果FRET陽性封入体はなくなり、そしてP301S処置コホートから得られた脳ライセートを添加することで、細胞内FRET陽性凝集物が誘発されたシーディングアッセイ結果を示す(一元配置分散分析、P301S+媒体と比較したDunnettの多重比較検定)。重要なこととして、3月齢の時点で6E+11vg AAV9/hTau5i-GFPを用いて処置すると、6月齢の時点で、脳幹、小脳、および皮質において評価したときにタウ凝集物形成が阻止された(
図13、一元配置分散分析、P301S+媒体と比較したDunnettの多重比較検定)。皮質内で病理学的タウが減少したが、当該脳領域はこの送達経路からではウイルスベクターによる重要な標的対象とはならないことから(
図10および
図12C)、結合ニューラルネットワーク内でタウレベルが低下した場合、遠位脳領域にとって利益となり得ることが示唆される。総じて、このデータは、疾患プロセスの早期においてhTau5iマイクロRNAシャトルをAAV9送達すれば、ヒトタウmRNAが選択的に減少し、タウタンパク質レベルが減少し、そして脳内病原性タウ形成が阻害され得ることを裏付ける。
【0188】
実施例3:6月齢P301Sタウマウスを対象に大槽内投与したときのAAV9/hTau5iの有効性を評価する試験
この試験を、中間疾患進行時に投与したときに、タウオパシーのPS19マウスモデルを対象としてAAV9/hTau5iの治療ベネフィットを評価するように設計した。この試験では、6月齢において、非トランスジェニックおよびP301Sタウトランスジェニック同腹子に対して、媒体、またはAAV9/hTau5i-GFP、AAV9/hTau5iもしくはAAV9/Scrを、マウス1匹当たり6E+11vgでICM注射を行った。AAV9/hTau5iは、Dエレメントが削除された突然変異体AAV2 ITR、U6プロモーター、hTau5iマイクロRNAシャトル配列、T6終止シグナル、CBhプロモーター、ポリアデニル化シグナル、および野生型AAV2 ITRを含む自己相補性AAVゲノムと共にパッケージングされたAAV9カプシドを含む。AAV9/Scrは、Dエレメントが削除された突然変異体AAV2 ITR、U6プロモーター、スクランブル化/非特異的マイクロRNAシャトル配列、T6終止シグナル、CBhプロモーター、ポリアデニル化シグナル、および野生型AAV2ITRを含む自己相補性AAVゲノムと共にパッケージングされたAAV9カプシドを含む。この設計の追加の目的は、前臨床試験のために設計されたAAV9/hTau5i-GFPベクターと、AAV9/hTau5iベクター(その設計を変更しないで臨床用途に直接転用可能)との間のブリッジング試験を実施することであった。AAV9/Scrベクターは、ウイルスベクター送達およびマイクロRNAの発現に対する追加のコントロールである。
【0189】
方法
6月齢において、WTおよびP301Sタウトランスジェニックオスおよびメス同腹子に対して、媒体(WT:n=12、メス6匹、オス6匹;P301S:n=11、メス6匹、オス5匹)、6E+11vg AAV9/Scr(WT:n=12、メス6匹、オス6匹;P301S:n=10、メス5匹、オス5匹)、6E+11vg AAV9/hTau5i-GFP(P301S:n=11、メス6匹、オス5匹)、または6E+11vg AAV9/hTau5i(P301S:n=11、メス6匹、オス5匹)を、その10uLを用いてICM注射した。動物を、投与後の4週間、1週間当たり3回、次に1週間当たり1回、観察および秤量した。処置後の臨床兆候、有害事象、および死亡について、マウスを1週間毎にモニタリングした。投与後3カ月において、動物を死後解剖した。
【0190】
結果
図14に示すように、計画された投与後3カ月時点よりも前に、媒体またはAAV9/Scrベクターを注射されたWTマウスにおいて早期死亡は認められなかった。P301Sマウスにおいて、4つのP301S処置群それぞれにおいて早期死亡1例が認められた(
図14)。総じて、生存データは、6月齢において処置された場合、AAV9/Scr、AAV9/hTau5i-GFP、またはAAV9/hTau5iのICM送達は、WTマウスまたはP301Sマウスの生存にとって有害ではないことを裏付ける。試験期間全体にわたり毒性の外的兆候は指摘されなかった。動物の全体的な健康を評価するために、注射後の体重変化をモニタリングした。
図15に示すように、この年齢において、WTマウスとP301Sマウスとの間の体重変化に有意差は認められなかった。それに付加して、AAV9/Scr、AAV9/hTau5i、またはAAV9/hTau5i-GFPで処置されたマウスの体重に有意差は認められず、全てのベクターは6月齢のP301Sタウマウスにおいて、処置後3カ月まで良好な忍容性を示したことが実証される(
図15)。シーディングアッセイを、処置マウスに由来する脳幹ライセートを使用して実施した。AAV9/Scrを用いて処置しても、媒体処置動物と比較して、WTマウス(
図16A)またはP301Sマウス(
図16B)においてシーディング活性は変化しなかった。
図16Cは、AAV9/hTau5i-GFPまたはAAV9/hTau5iを用いて処置されたP301Sマウスは匹敵するシーディングレベルを有したこと示しており、2つのベクターは類似した活性を有することを裏付ける。6月齢において6E+11vg AAV9/hタウ5を用いて処置すると、AAV9/Scrを用いて処置されたP301Sマウスと比較して、脳幹におけるタウ凝集物形成が阻止された(
図16D)、スチューデントの独立t検定。
【0191】
実施例4:9月齢P301Sタウマウスを対象として大槽内投与したときのAAV9/hTau5iの有効性を評価する試験
この試験を、タウオパシーのPS19マウスモデルを対象として、疾患進行期間の後期に投与したときのAAV9/hTau5iの治療ベネフィットを評価するように設計した。この試験では、9月齢において、非トランスジェニックおよびP301Sタウトランスジェニック同腹子に対して、6E+11vg AAV9/hTau5iまたはAAV9/ScrのICM投与を行った。
【0192】
方法
9月齢において、WTおよびP301Sタウトランスジェニックオスおよびメス同腹子に対して、6E+11vg AAV9/Scr(WT:n=20、メス10匹、オス10匹;P301S:n=23、メス15匹、オス8匹)、または6E+11vg AAV9/hTau5i(P301S:n=18、メス11匹、オス7匹)を、その10μLを用いてICM注射した。動物を、投与後の4週間、1週間当たり3回、次に1週間当たり1回、観察および秤量した。処置後の臨床兆候、有害事象、および死亡について、マウスを1週間毎にモニタリングした。投与後3カ月において、動物を死後解剖した。
【0193】
結果
図17に示すように、AAV9/Scrを注射されたWT同腹子と比較して、全ての動物が試験のエンドポイントまで生存し、AAV9/Scrを注射されたP301Sマウスの生存率は有意により低く、試験のエンドポイントまで生存したのは39%に過ぎなかった(Mantel-Cox、
****p<0.0001)。後期年齢での処置にもかかわらず、6E+11vg AAV9/hTau5iをICM注射することで、P301Sマウスの生存が試験のエンドポイントにおいて72%まで有意に延長した(
図17、Mantel-Cox、
*p<0.05)。動物の全体的な健康を評価するために、注射後の体重変化をモニタリングした。
図18に示すように、疾患進行のこの後期段階において、AAV9/Scr処置されたP301Sオスおよびメスマウスの体重変化は、AAV9/ScrWTマウスと比較して有意に低下した(二元配置分散分析、Sidakの多重比較検定、
***p<0.001)。AAV9/hTau5iを用いた処置は、AAV9/Scr処置されたP301Sの性別が一致したマウスと比較して、P301Sオスにおいて体重の喪失を有意に低速化させ、そしてP301Sメスにおいて体重減少に影響を及ぼさなかった(
図18;二元配置分散分析、Sidakの多重比較検定、
*p<0.05)。総じて、この生存中のデータは、疾患経過の後期に提供された場合であっても、AAV9/hTau5iのタウオパシーに対する潜在的処置ベネフィットを裏付ける。
【0194】
実施例5:3月齢WT C57BL/6Jマウスを対象として大槽内投与したときのAAV9/hTau5iの安全性を評価する試験
この試験を、マウスにおいて内因性タウレベルを低下させることの安全性を評価するように設計した。この試験では、3月齢において、WT C57BL/6Jマウスに対して、媒体、または4.7E+11vg AAV9/mTau2iもしくはAAV9/ScrのICM投与を行った。
【0195】
方法
3月齢において、WT C57BL/6Jマウスのオスおよびメス同腹子に対して、媒体(n=30、メス15匹、オス5匹)、4.7E+11vg AAV9/Scr(n=30、メス15匹、オス15匹)、または4.7E+11vg AAV9/mTau2i(n=30、メス15匹、オス15匹)について、その10μLをICM注射した。処置後、臨床兆候、有害事象、および死亡について、マウスを1週間毎にモニタリングした。動物の中間群(n=10、1処置群当たりメス5匹、オス5匹)を、臨床血液化学および組織病理分析用として注射後1カ月において採取した。残りの動物は、投与後1カ月において行動試験を受け、試験エンドポイント(投与後の12カ月)まで加齢することとなる。
【0196】
結果
今日まで、処置群間で臨床兆候または死亡率に差異は見出されなかった。中間群から得られた組織は組織学的に正常であり、
図19に示す通りである。試験のエンドポイントまで加齢した群は、注射後1カ月において、運動の学習および調整(ロータロッド)、一般的活動(オープンフィールド)、および不安(高架式十字迷路)について行動アセスメントを受けた。
図20は、AAV9/mTau2i処置群において内因性タウをノックダウンした場合、媒体およびAAV9/Scr処置マウスと比較して、これら3つの課題において行動に有意な変化は認められないことを示す。総じて、これらのデータは、内因性タウをノックダウンしても、短期間において十分忍容されたことを裏付ける。
【配列表】
【国際調査報告】