(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-24
(54)【発明の名称】流体内の少なくとも1つの粒子に対する力を測定する方法および装置、ならびにコンピュータプログラム製品およびコンピュータ可読記憶媒体
(51)【国際特許分類】
G01N 15/10 20240101AFI20240717BHJP
【FI】
G01N15/10 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580711
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(85)【翻訳文提出日】2024-02-16
(86)【国際出願番号】 EP2021071392
(87)【国際公開番号】W WO2023274565
(87)【国際公開日】2023-01-05
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】301033396
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト ツール フォーデルング デル ヴィッセンシャフテン エー.ヴェー.
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ストエフ イリヤ
(72)【発明者】
【氏名】マジェッリ ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】クレイシング モーリッツ
(57)【要約】
本発明は、流体内の少なくとも1つの粒子に対する力を測定する方法に関し、特異動的局所加熱イベントにより流体内で流体力学的な流れの不均一場が生成され、流体力学的な流れにより、粒子が空間的に操作され、流体内の粒子(1または複数)の空間的構成が撮影され、粒子(1または複数)の撮影された空間的構成を評価することで、粒子(1または複数)に掛かる少なくとも1つの力が決定される。本発明はさらに、流体内の少なくとも1つの粒子に対する力を測定する装置、コンピュータプログラム製品、およびコンピュータ可読記憶媒体に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体内の少なくとも1つの粒子に対する力を測定する方法であって、
特異動的局所加熱イベントにより流体(12)内で流体力学的な流れの不均一場
【数1】
を生成することと、
前記流体力学的な流れにより、前記粒子(p)が空間的に操作されることと、
前記流体(12)内の前記粒子(1または複数)(p)の空間的構成を撮影することと、
前記粒子(1または複数)(p)の前記撮影された空間的構成を評価することで、前記粒子(1または複数)(p)に掛かる少なくとも1つの力(F)を決定することと、を含む方法。
【請求項2】
前記流体力学的な流れ場
【数2】
は、前記場
【数3】
の方向に減少することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記流体(12)は、水である、または水を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
操作される前記粒子(1または複数)(p)は、生物学的粒子、細胞、ウイルス、組織片、金属粒子、複合材料粒子、ポリマー粒子、ナノ粒子、球体ビード、磁気ビード、テザー型分子、細胞小器官、自身がたんぱく質、RNA、またはその他生体分子を含有する分相液滴、テザー型分子の内の少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記流体(12)の前記動的局所加熱は、レーザまたは赤外線レーザ、あるいは少なくとも1つの赤外線発光ダイオードにより実現されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記流体(12)内の経路に沿って、前記レーザの焦点ボリュームを繰り返し走査することで、前記流体(12)の前記動的局所加熱イベントが生じることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記流体(12)に適用される特異動的局所加熱イベントの決定は、以下
・前記流体内の2次元走査経路、
・前記流体内の3次元走査経路、
・レーザ強度、
・レーザ走査速度、
・前記レーザの走査周波数、
・前記走査経路の走査回数、
の内の少なくとも1つの決定を含むことを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
操作される前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)に加熱照射が当たらないように、前記レーザが走査される前記経路が選択されることを特徴とする、請求項5から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
連続した走査間で、前記試料内の温度場が緩和され得るように、前記繰り返し走査の走査速度が選択されることを特徴とする、請求項6から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)を空間的に操作することは、
・前記流体(12)内の指定目標位置(S、T1、T2)に向けて、指定粒子(1または複数)(p、p1、p2)を押す、または動かすことと、
・前記流体(12)内の指定経路に沿って、指定粒子(1または複数)(p、p1、p2)を動かすことと、
・指定粒子(1または複数)(p、p1、p2)を、前記流体(12)内の指定目標位置(S、T1、T2)に留めることと、
・指定粒子(1または複数)(p、p1、p2)を、前記流体(12)内の指定目標配向(S、T1、T2)に留めることと、
・前記流体(12)内の指定目標配向(1または複数)(S、T1、T2)に向けて、指定粒子(1または複数)(p、p1、p2)を押す、または動かすことと、
の内の少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の前記実際の空間的構成を撮影することは、以下
・前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の1次元位置、
・前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の2次元位置、
・前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の3次元位置、
・平面内の前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の配向測定、
・空間内の前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の3次元配向測定、
の内の少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記流体力学的な流れの不均一場
【数4】
は、少なくとも1つのよどみ点(S)を含み、前記少なくとも1つの粒子(p)は、少なくとも一時的に前記よどみ点(S)の近傍でトラップされることを特徴とする、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記よどみ点(S)からの前記少なくとも1つの粒子(p)の実際の位置のずれ(δr)が観測され、前記ずれ(δr)に応じて、前記粒子(p)に掛かる力が決定される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つのよどみ点(S)を含む前記流体力学的な流れの不均一場は、前記よどみ点(S)に向かって反対方向の少なくとも2つの流体力学的な流れ(f)により生成されることを特徴とする、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記反対方向の少なくとも2つの流体力学的な流れ(f)は、前記よどみ点(S)周りに平面内で回転させられることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記反対方向の少なくとも2つの流体力学的な流れ(f)が印加される方位角方向は、前記粒子(p)の撮影された空間的構成に応じて、特に、前記よどみ点(S)に関して、測定された前記粒子(1または複数)(p)の方位角および動径座標の内の少なくとも1つに応じて選択されることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つの外力(Fext)が前記粒子(p)に印加されることを特徴とする、請求項1から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記外力(Fext)は、
・磁力、
・静電力、
・重力、
・特に光ピンセットである光トラップにより生成される力、
・例えばテザー型ポリマーである、テザー型分子により掛かる力、
の内の少なくとも1つであることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記外力(Fext)は、少なくとも指定期間において、時間に依存するか一定であることを特徴とする、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記粒子(p)に掛かる前記力は、前記外力(Fext)との比較により較正されることを特徴とする、請求項17から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記粒子(p)に掛かる前記力(F)は、例えば、よどみ点近傍の前記粒子(p)の横方向位置と、前記流体(12)の温度との統計的分布の評価により決定されることを特徴とする、請求項1から20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも2つの粒子(p1、p2)が同時に空間的に操作され、および/または、少なくとも2つの粒子に掛かる力が同時に決定されることを特徴とする、請求項1から21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
少なくとも1つの粒子(p)について、各粒子(p)に掛かるトルクが決定されることを特徴とする、請求項1から22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記流体(12)は、粒子、例えば、前記流体力学的な流れ場を撮影可能とする蛍光粒子を含むことを特徴とする、請求項1から23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記特異局所加熱イベントは、
前記粒子(1または複数)の最近撮影された空間的構成と、
最近撮影された流体力学的な流れ場と、
の内の少なくとも1つに応じて決定されることを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記流体(12)内の前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の少なくとも1つの目標空間的構成(T1、T2)が定義され、以下
a)前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の実際の空間的構成を撮影することと、
b)前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の少なくとも1つの最近の実際の空間的構成と、前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の目標構成(T1、T2)に応じて、前記流体(12)に適用される特異動的局所加熱イベントを決定することと、
c)ステップb)で決定された前記特異動的局所加熱イベントを前記流体(12)に少なくとも一度適用することと、
d)ステップa)からc)の少なくとも1つまたは全てを繰り返すことと、
というさらなるステップが実施されることを特徴とする、請求項1から25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記流体(12)内の前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の前記目標空間的構成は、
・前記流体(12)内の前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の指定目標位置(1または複数)(T1、T2)、特によどみ点、
・前記流体(12)内の前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の1または複数の指定目標速度(T1、T2)、
・前記流体(12)内の前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の指定目標配向(1または複数)(T1、T2)、
・前記流体(12)内の前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の指定目標回転速度(1または複数)(T1、T2)、
の内の少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記流体(12)内の前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の前記目標空間的構成は、
・前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の1次元位置測定、
・前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の2次元位置測定、または
・前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の3次元位置測定
であることを特徴とする、請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
前記粒子(p、p1、p2)の最近の実際の空間的構成と、前記粒子(p、p1、p2)の目標構成(T1、T2)とに基づいて、費用関数が計算され(S05、S12)、特に、
ステップb)で決定される前記特異動的局所加熱イベントは、前記費用関数に応じて決定されることを特徴とする、請求項26から28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
データベース内に、以下のデータ
・前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の前の実際の空間的構成、
・少なくとも各実際の空間的構成および目標構成(T1、T2)に基づいて決定された、前記流体(12)に適用された、前の動的局所加熱イベント、
・前記流体(12)に適用された各動的局所加熱イベントにより生じた、前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の前記実際の空間的構成の変化、
が記憶され、
前記流体(12)に適用される未来の動的局所加熱イベントは、前記データベースに記憶された前記データの少なくとも一部を使用して計算されることを特徴とする、請求項26から29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記流体(12)に適用される未来の動的局所加熱イベントは、機械学習を使用して計算されることを特徴とする、請求項1から30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
操作および分析される前記粒子はテザー型分子であり、
前記流体(12)内で少なくとも2つのよどみ点を有する流れ場が生成され、
前記テザー型分子の少なくとも2つの部位、例えば、前記テザー型分子の末端粒子(p1、p2)は、前記流体力学的な流体により前記よどみ点(S1、S2)内に保持されることを特徴とする、請求項1から31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
流体内の少なくとも1つの粒子に対する力を測定する装置であって、
前記流体(12)および前記粒子(p)を収容する容器(10)と、
特異動的局所加熱イベント(12)により、前記流体(12)内に流体力学的な流れの不均一場を生成する加熱デバイス(20)と、
前記容器(10)内で前記粒子(1または複数)(p)の空間的構成の少なくとも一部を撮影するデバイス(40)と、
制御部(60)であって、
・前記加熱デバイス(20)および前記粒子(1または複数)(p)の空間的構成の少なくとも一部を撮影する前記デバイス(40)を制御し、
・前記粒子(1または複数)(p)の空間的構成の少なくとも一部を撮影する前記デバイス(40)からのデータ(52)を評価し、
・前記粒子の前記空間的構成を評価することで、前記粒子(p)に掛かる少なくとも1つの力を決定する
制御部(60)と、
を備える、装置。
【請求項34】
前記粒子(1または複数)の空間的構成の少なくとも一部を撮影する前記デバイスは、
・撮像デバイス、
・レンズのないカメラ、
・象限フォトダイオード、
の内の少なくとも1つであることを特徴とする、請求項33に記載の装置。
【請求項35】
請求項1から31のいずれか1項に記載の方法を実行するように設計される、請求項33または34に記載の装置。
【請求項36】
前記容器(10)は、前記流体(12)の温度を制御する手段を有することを特徴とする、請求項33から35のいずれか1項に記載の装置。
【請求項37】
前記加熱デバイス(20)は、前記動的局所加熱用のエネルギーを提供するレーザ(22)と、前記流体内の可変である位置に加熱レーザ照射を中継する、スキャナ(26)を含む光学的手段と、を有することを特徴とする、請求項33から36のいずれか1項に記載の装置。
【請求項38】
前記撮像デバイス(40)は顕微鏡であることを特徴とする、請求項33から37のいずれか1項に記載の装置。
【請求項39】
前記顕微鏡は、以下の技術、すなわち、蛍光顕微鏡検査、多光子蛍光顕微鏡検査、広視野顕微鏡検査、走査型顕微鏡検査、暗視野顕微鏡検査、共焦点顕微鏡検査、ライトシート顕微鏡検査、局在化顕微鏡検査、構造化照明顕微鏡検査、光活性局在化顕微鏡検査(FPALM)、確率的光学再構成顕微鏡検査(STORM)、誘導放出抑制顕微鏡検査(STED)、基底状態除去顕微鏡検査(GSD)、飽和パターン励起顕微鏡検査、飽和構造照明顕微鏡検査(SSIM)、ライトフィールド顕微鏡検査(LFM)、フーリエライトフィールド顕微鏡検査(FLFM)、斜平面顕微鏡検査(OPM)の内の少なくとも1つを実施するように設計されたことを特徴とする、請求項38に記載の装置。
【請求項40】
前記制御部(60)は、
A)前記容器(10)内の前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の実際の空間的構成を撮影するために、前記粒子(1または複数)の空間的構成の少なくとも一部を撮影するための前記デバイス、特に前記撮像デバイス(40)を作動し、
B)前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の少なくとも1つの最近の空間的構成と、前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の事前に定義された目標構成(T1、T2)に応じて、前記流体(12)に適用される特異動的局所加熱イベントに適した前記加熱デバイス(20)に対する、制御信号を決定し、
C)ステップB)で決定された前記特異動的局所加熱イベントを前記流体(12)に少なくとも一度適用するために、前記加熱デバイス(20)を作動し、
D)ステップA)からC)の少なくとも1つまたは全てを繰り返す
ように設計されることを特徴とする、請求項33から39のいずれか1項に記載の装置。
【請求項41】
指示を含むコンピュータプログラム製品であって、
前記指示は、前記プログラムが前記制御部(60)により実行されると、前記制御部(60)に、
A)前記容器(10)内の前記粒子(p、p1、p2)の実際の空間的構成を撮影するために、前記粒子(1または複数)の空間的構成の少なくとも一部を撮影するための前記デバイス、特に前記撮像デバイス(40)を作動するステップと、
B)前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の少なくとも1つの最近の空間的構成と、前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の事前に定義された目標構成(S、T1、T2)に応じて、前記流体(12)に適用される特異動的局所加熱イベントに適した前記加熱デバイス(20)に対する、制御信号を決定するステップと、
C)ステップB)で決定された前記特異動的局所加熱イベントを前記流体(12)に少なくとも一度適用するために、前記加熱デバイス(20)を作動するステップと、
D)ステップA)からC)の少なくとも1つまたは全てを繰り返すステップと、
E)前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の撮影された空間的構成に応じて、粒子(p、p1、p2)に掛かる力を決定するステップと、
を含む方法、特に請求項1から32のいずれか1項に記載の方法を実行させる、コンピュータプログラム製品。
【請求項42】
指示を含むコンピュータ可読記憶媒体であって、前記指示は、前記制御部(60)により実行されると、前記制御部(60)に、
A)前記容器(10)内の前記粒子(p、p1、p2)の実際の空間的構成を撮影するために、前記粒子(1または複数)の空間的構成の少なくとも一部を撮影するための前記デバイス、特に前記撮像デバイス(40)を作動するステップと、
B)前記粒子(p、p1、p2)の少なくとも1つの最近の空間的構成と、前記粒子(p、p1、p2)の事前に定義された目標構成(S、T1、T2)に応じて、前記流体(12)に適用される特異動的局所加熱イベントに適した前記加熱デバイス(20)に対する、制御信号を決定するステップと、
C)ステップB)で決定された前記特異動的局所加熱イベントを前記流体(12)に少なくとも一度適用するために、前記加熱デバイス(20)を作動するステップと、
D)ステップA)からC)の少なくとも1つまたは全てを繰り返すステップと、
E)前記粒子(1または複数)(p、p1、p2)の撮影された空間的構成に応じて、粒子(p、p1、p2)に掛かる力を決定するステップと、
を含む方法、特に請求項1から32のいずれか1項に記載の方法を実行させる、コンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に、流体内の少なくとも1つの粒子に対する力を測定する方法および装置に関する。さらなる態様において、本発明は、流体内の少なくとも1つの粒子に対する力の測定を支援する、コンピュータプログラム製品およびコンピュータ可読記憶媒体を提供する。
【背景技術】
【0002】
メゾスコピック粒子に掛かる力の測定に光ピンセットを使用することは、材料科学から細胞生物学まで、分野の革新を起こした(非特許文献1~9)。しかし、この技術の適用には、プローブの屈折率に関する所定の前提条件を伴う(非特許文献10)。さらに、生命過程に対する影響の懸念から、生物学的システムにおけるその利用は限定され得る(非特許文献11、12)。
【0003】
粒子の配置に熱粘性流が利用され得る。熱粘性流は、移動温度場に応じた、水性媒体の方向付けられた運動であると説明されており(非特許文献13)、不均一な粘度場における流体の熱膨張によって引き起こされる突発的な物理現象である。具体的に、熱粘性流は、光学的に定義された経路に沿ってトレーサ粒子または分子によって視覚化された水溶液を運ぶのに使用されている(非特許文献13、14)。近年、上述の流れは細胞や発育中の胚でも生成され得、細胞質に浸ったコロイドの配置を制御する能力は限られているものの、細胞質の流れを引き起こすことが示された(非特許文献15~17)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Gomez,G.A.,McLachlan,R.W.&Yap,A.S.Productive tension:force-sensing and homeostasis of cell-cell junctions.Trends Cell Biol.21,499-505(2011).
【非特許文献2】Petridou,N.I.,Spiro,Z.&Heisenberg,C.-P.Multiscale force sensing in development.Nat.Cell Biol.19,581-588(2017).
【非特許文献3】Beech David J.&Kalli Antreas C.Force Sensing by Piezo Channels in Cardiovascular Health and Disease.Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.39,2228-2239(2019).
【非特許文献4】Gardel,M.L.,Kasza,K.E.,Brangwynne,C.P.,Liu,J.&Weitz,D.A.Chapter 19 Mechanical Response of Cytoskeletal Networks.in Methods in Cell Biology vol.89 487-519(Academic Press,2008).
【非特許文献5】Ashkin,A.,Dziedzic,J.M.,Bjorkholm,J.E.&Chu,S.Observation of a single-beam gradient force optical trap for dielectric particles.Opt.Lett.11,288-290(1986).
【非特許文献6】Capitanio,M.,Cicchi,R.&Pavone,F.S.Position control and optical manipulation for nanotechnology applications.Eur.Phys.J.B-Condens.Matter Complex Syst.46,1-8(2005).
【非特許文献7】Kotsifaki,D.G.&Chormaic,S.N.Plasmonic optical tweezers based on nanostructures:fundamentals,advances,and prospects.Nanophotonics 8,1227-1245(2019).
【非特許文献8】Stoev,I.D.,Caciagli,A.,Xing,Z.&Eiser,E.Using single-beam optical tweezers for the passive microrheology of complex fluids.in Optical Trapping and Optical Micromanipulation XV vol.10723 107232D(International Society for Optics and Photonics,2018).
【非特許文献9】Brouhard,G.J.,Schek,H.T.&Hunt,A.J.Advanced optical tweezers for the study of cellular and molecular biomechanics.IEEE Trans.Biomed.Eng.50,121-125(2003).
【非特許文献10】Shan,X.et al.Optical tweezers beyond refractive index mismatch using highly doped upconversion nanoparticles.Nat.Nanotechnol.16,531-537(2021).
【非特許文献11】Tassieri,M.Linear microrheology with optical tweezers of living cells ‘is not an option’! Soft Matter 11,5792-5798(2015).
【非特許文献12】Tassieri,M.Microrheology with Optical Tweezers of gel-like materials “is not an option”! in Optics in the Life Sciences(2015),paper OtM4E.1 OtM4E.1(Optical Society of America,2015).
【非特許文献13】F.M.Weinert,J.A.Kraus,T.Franosch and D.Braun,Phys.Rev.Lett.,2008,100,164501.
【非特許文献14】F.M.Weinert and D.Braun,Journal of Applied Physics,2008,104,104701.
【非特許文献15】M.Mittasch,P.Gross,M.Nestler,A.W.Fritsch,C.Iserman,M.Kar,M.Munder,A.Voigt,S.Alberti,S.W.Grill and M.Kreysing,Nat Cell Biol,2018,20,344-351.
【非特許文献16】M.Mittasch,V.M.Tran,M.U.Rios,A.W.Fritsch,S.J.Enos,B.Ferreira Gomes,A.Bond,M.Kreysing and J.B.Woodruff,Journal of Cell Biology,DOI:10.1083/jcb.201912036.
【非特許文献17】N.T.Chartier,A.Mukherjee,J.Pfanzelter,S.Furthauer,B.T.Larson,A.W.Fritsch,M.Kreysing,F.Julicher and S.W.Grill,bioRxiv,2020,2020.05.30.125864.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
流体力学的な流れにより流体内の粒子を空間的に操作する装置は、例えば、特許文献1から公知である。
【0007】
流体内の粒子に対する力を測定するための新規方法および新規装置を提供することが、本発明の課題と捉えられ得る。本発明のさらなる目的は、流体内の粒子に対する力の測定を支援する適切なソフトウェア手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題は、請求項1の特徴を有する方法と、請求項33の特徴を有する装置とにより解決される。ソフトウェア手段については、本発明の課題は、請求項41に記載のコンピュータプログラム製品と、請求項42に記載のコンピュータ可読記憶媒体により解決される。
【0009】
本発明に係る流体内の少なくとも1つの粒子に対する力を測定する方法(請求項1)において、特異動的局所加熱イベントにより流体内で流体力学的な流れの不均一場が生成され、流体力学的な流れにより、粒子が空間的に操作され、流体内の粒子(1または複数)の空間的構成が撮影され、粒子(1または複数)の撮影された空間的構成を評価することで、粒子(1または複数)に掛かる少なくとも1つの力が決定される。
【0010】
本発明に係る流体内の少なくとも1つの粒子に対する力を測定する装置(請求項32)は、以下の特徴を有する。流体および粒子を収容する容器と、特異動的局所加熱イベントにより、流体内に流体力学的な流れの不均一場を生成する加熱デバイスと、容器内で粒子(1または複数)の空間的構成の少なくとも一部を撮影するデバイスと、加熱デバイスおよび粒子(1または複数)の空間的構成の少なくとも一部を撮影するデバイスを制御し、粒子(1または複数)の空間的構成の少なくとも一部を撮影するデバイスからのデータを評価し、粒子の空間的構成を評価することで、粒子に掛かる少なくとも1つの力を決定する制御部。
【0011】
本発明に係るコンピュータプログラム製品(請求項40)および本発明に係るコンピュータ可読記憶媒体(請求項41)は、いずれの場合も、指示を含み、指示は、プログラムが制御部により実行されると、制御部に、以下のステップを含む本発明に係る方法を実行させる。
A)容器内の粒子の実際の空間的構成を撮影するために、粒子(1または複数)の空間的構成の少なくとも一部を撮影するためのデバイス、特に撮像デバイスを作動する。
B)粒子(1または複数)の少なくとも1つの最近の空間的構成と、粒子(1または複数)の事前に定義された目標構成に応じて、流体に適用される特異動的局所加熱イベントに適した加熱デバイスに対する、制御信号を決定する。
C)ステップB)で決定された特異動的局所加熱イベントを流体に少なくとも一度適用するために、加熱デバイスを作動する。
D)ステップA)からC)の少なくとも1つまたは全てを繰り返す。
E)粒子(1または複数)の撮影された空間的構成に応じて、粒子に掛かる力を決定する。
【0012】
本発明に係る方法の有利な変形例と、本発明に係る装置の好ましい実施形態を以下に具体的に、従属請求項と、添付の図面に関して説明する。
【0013】
本発明に係る装置は、本発明に係る方法を実行するように設計可能である。
【0014】
コンピュータプログラム製品および/またはコンピュータ可読記憶媒体の指示は具体的に、請求項1から32のいずれか1項に記載の方法を実行するように、制御部を作動する目的に供することができる。
【0015】
本発明の基本概念は、流体内の流体力学的な流れの不均一場を生成するために、流体内の粒子を空間的に操作するのに特異動的局所加熱イベントを利用することである。これにより、不均一な流れ場における少なくとも1つの粒子の位置を観察または撮影し、観察された粒子の構成を評価することで、少なくとも1つの粒子に掛かる力を導出する。
【0016】
特異動的局所加熱イベントは、いずれの場合も、粒子(1または複数)の目標構成と、流体内の粒子(1または複数)の最近撮影された実際の構成とに応じて、決定されてもよい。特異動的局所加熱イベントは、流体内で、流体力学的な流れのシーケンスを生成する目的に供される。粒子の空間的操作は、閉鎖系制御内で実行されてもよい。その場合、実際の撮影された粒子構成は、次に適用される特異動的局所加熱イベントの決定に対するフィードバックとなってもよい。
【0017】
概して、「目標」という用語が使用されたとしても、必ずしも操作、および/または分析される粒子が例えば目標位置に確実に到達するとは限らないことを理解されたい。典型的な状況において、目標位置は、所要の特異局所加熱イベントを計算する目的に供される。粒子は例えば、掛かる外力に抗して、目標位置の方向に特異局所加熱イベントにより押され続ける。
【0018】
また、概して、最近の空間的構成という用語は、操作および/または分析される粒子(1または複数)の完全な座標が既知であることを必ずしも示すものではないことが理解されたい。むしろ、ここでの空間的構成とは、操作および/または分析される粒子(1または複数)を特徴づける、少なくとも1つのパラメータまたは座標で実現され得る。
【0019】
本発明の極めて重要な利点として、この方法が、光誘起された流体力学的な流れに基づく非接触トラップ方法であるため、方法が敏感な粒子に適用され得るということが挙げられる。発明者らは、力と伸張との線形関係を示すことができ、熱限界感度近くで、フェムトニュートン単位で力を検出できた。本発明に係る技術によると、粒子にレーザが触れる必要がなくなり、原則として、分析され得る粒子に材料的制限がなくなる。さらに、特殊なチャンバを要さず、一般的な光学顕微鏡で方法が実施され得る。したがって、より複雑な材料内で局地的な力を調査可能となる。したがって、光誘起された流体力学的な流れは、試料の性質に対する制限を低くして、高感度、非侵襲的力測定をしやすくする。
【0020】
流体内の粒子の空間的操作という用語は概して、例えば容器が固定された参照フレームと比べ、粒子が一点から他点に、および/または一配向から別配向へと移動するように、容器内の粒子/流体系が影響されることを意味する。ただし、空間的操作とは、粒子が、その他の挙動、例えば、粒子に掛かる外力に抗して、特定の位置に留められることも意味し得る。
【0021】
本発明に係る方法の好ましい実施形態において、粒子(1または複数)を空間的に操作することは以下の少なくとも1つを含む。流体内の指定目標位置に向けて、指定粒子(1または複数)を押す、または動かす。流体内の指定経路に沿って、指定粒子(1または複数)を動かす。指定粒子(1または複数)を、流体内の指定目標位置に留める。指定粒子(1または複数)を、流体内の指定目標配向に留める。流体内の指定目標配向(1または複数)に向けて、指定粒子(1または複数)を押す、または動かす。
【0022】
本発明に係る方法の好ましい実施形態において、流体力学的な流れ場は、分析される粒子が存在する領域で、少なくとも部分的に、場の方向に沿って減少する。少なくともそのような状態で、分析される粒子(1または複数)が定常状態に達し得ることが確認された。
【0023】
概して、本発明に係る方法および装置は、流体の動的局所加熱により流体力学的な流れが生成可能な、任意の種類の流体に対して使用され得る。本発明に係る方法の好ましい実施形態において、流体は液体であり、具体的には、水を含むか、水である。
【0024】
概して、本発明に係る方法および装置は、流体内で少なくとも部分的に自由移動可能な、流体における任意の懸濁粒子の操作に使用され得る。本発明に係る方法の好ましい変形例において、操作される粒子(1または複数)は、生物学的粒子、細胞、ウイルス、組織片、金属粒子、複合材料粒子、ポリマー粒子、ナノ粒子、球体ビード、磁気ビード、細胞小器官、自身がたんぱく質、RNA、またはその他生体分子を含有する分相液滴、テザー型分子の内の少なくとも1つである。
【0025】
本発明によると、流体の動的局所加熱により、流体内で、流体力学的な流れが生成され、生成された流体力学的な流れにより粒子が運ばれることで、粒子の操作が実現される。
【0026】
原則としてさらに、負の符号の特異動的局所加熱イベントでも流体力学的な流れが生成可能となる。すなわち、流体の動的局所冷却により流体内に流体力学的な流れが導入されるイベントである。ここでも、生成された流体力学的な流れにより粒子が運ばれることで、粒子の操作が実現される。
【0027】
粒子の特定の種類、およびこれら粒子を囲う特定の液体に強く依存する熱泳動運動という現象に対して、本発明が基づくメカニズムの全体的概念は、粒子の特定の性質に依存しない。熱泳動運動の場合、一般的に、異なる粒子は異なる移動をする。例えば、速度が異なり、方向が異なることもある。本発明で利用される流体力学的な流れの場合、粒子は根本的に、流体力学という物理的性質に応じて移動する。本発明のメカニズムは根本的に、例えば水である、利用される流体の熱力学的特性のみに基づく。例えばレーザのような電磁照射が試料の加熱に使用される場合、流体の光学的特性も重要となる。流体の動的局所加熱により生成される流体力学的な流れは、熱粘性流とも称する。
【0028】
原則として、流体の動的局所加熱は、所望の熱粘性流を生じる、流体内での任意のエネルギー蓄積により実現され得る。例えば、熱伝導接続を介して容器に取り付けられ、選択的に加熱される、特定の加熱デバイスにより、動的局所加熱が導入され得る。本発明に係る方法の好ましい実施形態において、流体の動的局所加熱は、レーザまたは赤外線レーザにより実現される。
【0029】
本発明に係る方法の別の好ましい実施形態において、流体の動的局所加熱は、発光ダイオード、例えば、赤外線発光ダイオードにより実現される。
【0030】
したがって、本発明に係る装置の好ましい実施形態において、加熱デバイスは、動的局所加熱用のエネルギーを提供するレーザと、スキャナ、ガルバノスキャナ、準静的スキャナ、空間光変調器、音響光学スキャナなどの光学的手段、または流体の可変である、制御された位置に加熱レーザ照射を中継し、試料にわたって加熱レーザビームの動的走査を可能とするその他任意の適切なデバイスとを有する。
【0031】
特許文献1に記載されたような、光学的アセンブリが、流体の動的局所加熱に使用され得る。このため、本開示は、特許文献1の各内容を包含する。
【0032】
本発明に係る方法の好ましい実施形態において、試料内の特別に選択された経路または軌道に沿って、レーザの焦点ボリュームを繰り返し走査することで、流体の動的局所加熱イベントが生じる。
【0033】
より具体的に、流体に対して決定される、特異動的局所加熱イベントの決定は、以下の少なくとも1つを決定することを含み得る。流体内の2次元走査経路、流体内の3次元走査経路、レーザ強度、レーザ走査速度、レーザの走査周波数、走査経路の走査回数。
【0034】
特異動的局所加熱イベントは、レーザ走査経路の一度のみの走査、または同一レーザ走査経路の多数の、例えば100回の走査を含み得る。
【0035】
決定された特異動的局所加熱の適用は、決定された動的加熱パターンが流体に適用されることを意味する。これは一度のみ、または順次複数回実行され得る。この場合、制御部はこれに合わせて、本発明に係る装置の加熱デバイスを作動する。
【0036】
概して、走査経路は容器内の任意の箇所にあればよく、必ずしも連続していなくてもよい、1または複数の直線または任意の形状、任意の長さのセグメントから成り得る。走査経路は、粒子の目的地と実際の位置との間の接続ベクトルに平行であり得る。走査経路は、例えば、粒子を中心としてもよく、その直前で途切れてもよく、またはその直後から始まってもよい。これに関して他の多くの変形例が可能である。レーザ走査は、例えば典型的には1から3kHzという走査速度で経路に沿って適用され得る。これは、連続した走査期間の間で、温度場が緩和可能となるのに十分なほど低速である。走査経路に沿って、走査速度は可変であり得る。
【0037】
本発明に係る方法のさらなる好ましい実施形態において、操作され、分析される粒子(1または複数)に加熱照射が当たらないように、レーザが走査される経路が選択され得る。すなわち、粒子(1または複数)は、実質的に加熱レーザ照射により接触されることなく、空間的に操作される。したがって、そのような粒子、または容器、例えば加熱照射により影響されるまたは危害を受ける生体細胞または胚の危険性は、最低限に抑えられる。
【0038】
本発明に係る方法のさらなる好ましい実施形態において、連続した走査間で、試料内の温度場が緩和され得るように、繰り返し走査の走査速度が選択される。したがって、試料の全体的加熱が避けられ得る。
【0039】
流体に適用される特異動的局所加熱イベントは、さらに、流体内の粒子(1または複数)の可動性にも応じて決定されることで、さらに個別化され得る。これにより、操作、特に配置の精度がさらに向上し得る。操作される粒子の可動性は、観測データから導出され得る。
【0040】
流体と、操作される粒子を収容する容器については、当該技術で公知のコンポーネントが使用され得る。容器が流体に特異動的局所加熱を導入可能とすることが重要である。例えば、特許文献1に記載の容器を、本発明の実施に利用可能である。このため、本開示は、特許文献1の各内容を包含する。
【0041】
本発明の好ましい実施形態において、容器は、流体の基本温度を制御する手段を有する。
【0042】
加熱デバイスおよび撮像デバイスを制御し、撮像デバイスからの画像データを評価する制御部は、典型的には、当該技術で公知の周辺部品を有する、PCまたは同等のデバイスであり得る。
【0043】
粒子(1または複数)の空間的構成の少なくとも一部を撮影するデバイスは、粒子の空間的構成の少なくとも一部を符号化する信号を取得可能な任意のデバイスであり得る。このデバイスは、具体的に光学的デバイスであり得、例えば、撮像デバイス、レンズのないカメラ、象限フォトダイオードの内の少なくとも1つであり得る。
【0044】
撮像デバイスは、流体内の、操作される粒子の実際の構成を撮影する目的に供される。操作される粒子を含む容器の少なくとも一部が、撮影または撮像可能な、任意の、特に光学的デバイスであり得る。本発明の好ましい実施形態において、撮像デバイスは顕微鏡である。顕微鏡は、コンピュータ制御式顕微鏡であり得、試料の視覚的観察を可能としなくてもよい。好ましくは、画像取得は少なくとも部分的に自動化され、撮影された粒子の構成の評価に画像アルゴリズムが利用される。
【0045】
例えば、顕微鏡は以下の技術の内の少なくとも1つを実施するように設計され得る。蛍光顕微鏡検査、多光子蛍光顕微鏡検査、広視野顕微鏡検査、走査型顕微鏡検査、暗視野顕微鏡検査、共焦点顕微鏡検査、ライトシート顕微鏡検査、局在化顕微鏡検査、構造化照明顕微鏡検査、光活性局在化顕微鏡検査(FPALM)、確率的光学再構成顕微鏡検査(STORM)、誘導放出抑制顕微鏡検査(STED)、基底状態除去顕微鏡検査(GSD)、飽和パターン励起顕微鏡検査、飽和構造照明顕微鏡検査(SSIM)、ライトフィールド顕微鏡検査(LFM)、フーリエライトフィールド顕微鏡検査(FLFM)、斜平面顕微鏡検査(OPM)。
【0046】
顕微鏡は、試料上および試料内へと、例えば蛍光照射である撮像照射を中継し得、試料内に加熱照射を導入するのにも使用されたのと同じ顕微鏡対物レンズを介して、撮像照射に応じて試料から放射された逆照射を中継し得る。
【0047】
粒子(1または複数)の実際の空間的構成を撮影することは、以下の内の少なくとも1つを含み得る。粒子(1または複数)の1次元位置、粒子(1または複数)の2次元位置、粒子(1または複数)の3次元位置、平面内の粒子(1または複数)の配向測定、空間内の粒子(1または複数)の3次元配向測定。
【0048】
特に、本発明に係る方法の好ましい実施形態において、操作および分析される粒子の空間的構成は、経時的に評価される。
【0049】
本発明の実施に当たって、流体力学的な流れ場が不均一であることが求められる。したがって、同様の表現として、流体力学的な流れ場の少なくとも1つのベクトルコンポーネントの勾配がゼロではない、あるいは単純に、操作および分析される粒子(1または複数)が位置する、試料の少なくとも所定の体積内で、流体力学的な流れ場が一定ではないとも言える。ただし、特に好ましい実施形態において、流体力学的な流れの不均一場は、少なくとも1つのよどみ点を有する。これにより、操作および分析される粒子(1または複数)が、よどみ点の近傍において、少なくとも一時的にトラップされ得る。このような状態で、流体力学的な流れは、粒子(1または複数)に掛かる力を決定可能とする準ポテンシャルを生成する。
【0050】
よどみ点を有する流体力学的場の場合、操作および分析される粒子の構成を撮影することは、少なくとも1つの粒子の実際の位置の、よどみ点からのずれを観察することであり得る。
【0051】
したがって、粒子に掛かる力は、観察されたずれに応じて決定され得る。
【0052】
例えば、少なくとも1つのよどみ点を有する流体力学的な流れの不均一場は、よどみ点に向かって反対方向の少なくとも2つの流体力学的な流れにより生成され得る。準安定状態を得るための試みとして、反対方向の少なくとも2つの流体力学的な流れは、よどみ点周りに平面内で回転させられ得る。
【0053】
本発明に係る方法の他の好ましい実施形態において、よどみ点は、1つの流体力学的な流れのみで生成され得る。これは特に、流体に例えば重力のような外力が掛かっている場合、または例えば平面に対するトラップのように、物理的なバリアがすでに粒子を一方向に制限している場合である。
【0054】
より具体的に、粒子の撮影された空間的構成に応じて、特に、よどみ点に関する、粒子(1または複数)の測定された方位角および動径座標の内の少なくとも1つに応じて、反対方向の少なくとも2つの流体力学的な流れが適用される方位角方向が選択され得る。これにより、操作および分析される粒子(1または複数)に対する2次元準ポテンシャルが生成され得る。
【0055】
本発明に係る方法のさらなる好ましい実施形態において、少なくとも1つの外力が粒子に印加される。外力は、磁力、静電力、重力、システム内の追加の流れによる摩擦力、特に分子テザーであるテザーにより粒子に掛かる力、特に光ピンセットである光トラップにより生成される力、例えばテザー型ポリマーである、テザー型分子により掛かる力の内の少なくとも1つであり得る。外力は、粒子に掛かる力を定量的に決定可能とする。本発明の好ましい変形例において、外力は、少なくとも指定期間において、時間に依存するか一定である。システム流体/粒子の機械的パラメータを決定可能とする、変動外力を含むことも可能である。
【0056】
測定された力の較正のため、操作および分析される粒子を含む流体に、既知の大きさの、例えば静電力または磁力のような外力を掛けることが有用であり得る。その後、粒子の位置の、例えばよどみ点である、有効ポテンシャルにおける平衡位置からのずれが、外力の大きさに応じて測定され得る。したがって、流体力学的な流れを通じて粒子に掛かる力の大きさが決定され得る。
【0057】
本発明に係る方法のさらに好ましい実施形態において、操作および分析される粒子はテザー型分子であり、流体内で少なくとも2つのよどみ点を有する流れ場が生成され、テザー型分子の少なくとも2つの部位、例えば、テザー型分子の末端粒子は、流体力学的な流れによりよどみ点内に保持される。
【0058】
その後、テザー型分子内、特に末端粒子間に掛かる力を、特にテザー型分子の延長に応じて測定可能となる。
【0059】
それに加えて、またはそれに代えて、変動する移動、特に有効ポテンシャルにおける粒子の平衡位置からの平均距離を観測することで、測定された力の較正も実現され得る。各自由度のエネルギーの平均量が、kBT(kB=ボルツマン定数、T=温度)であるものと仮定して、粒子に掛かる力が決定できる。これに関して、本発明に係る方法の好ましい実施形態は、例えば、よどみ点近傍の粒子の横方向位置と、流体の温度との統計的分布の評価により、粒子に掛かる力が決定されることを特徴とする。
【0060】
本発明は特に、外力がなく、流体力学的な流れ場のよどみ点に戻るように粒子が移動する際の、トラップされた粒子の速度および動力学を研究可能とする。
【0061】
1つの粒子に掛かる1つの力を決定する際に、本発明の方法が実施される。例えば、周囲の流体力学的な流れ場に対する、粒子の配向のような、粒子の実際の空間的構成を評価することで、各粒子に掛かるトルクを決定することも可能である。
【0062】
これに関して、例えば、流体力学的な流れ場を撮影可能とする、トレーサ粒子などの蛍光粒子のような粒子を流体が含むことが有用であり得る。
【0063】
特異局所加熱イベントは、粒子(1または複数)の最近撮影された空間的構成と、最近撮影された流体力学的な流れ場と、の内の少なくとも1つに応じて決定され得る。
【0064】
分析される粒子(1または複数)の空間的操作に関して、流体に適用される特異動的局所加熱イベントは、フィードバックループにおいて決定され得る。より具体的に、本発明に係る方法の好ましい実施形態において、流体内の粒子(1または複数)の少なくとも1つの目標空間的構成が定義され、以下のさらなるステップが実施される。
a)粒子(1または複数)の実際の空間的構成を撮影する。
b)粒子(1または複数)の少なくとも1つの最近の実際の空間的構成と、粒子(1または複数)の目標構成に応じて、流体に適用される特異動的局所加熱イベントを決定する。
c)ステップb)で決定された特異動的局所加熱イベントを流体に少なくとも一度適用する。
d)ステップa)からc)の少なくとも1つまたは全てを繰り返す。
【0065】
特定の操作タスクに対して、請求項1のステップa)からc)の少なくとも一部または全てを含むループの、繰り返し回数または繰り返し率を変化させる、および/または適用することが可能である。
【0066】
したがって、本発明に係る装置の好ましい実施形態は、制御部が以下のように設計されることを特徴とする。
A)容器内の粒子(1または複数)の実際の空間的構成を撮影するために、粒子(1または複数)の空間的構成の少なくとも一部を撮影するためのデバイス、特に撮像デバイスを作動する。
B)粒子(1または複数)の少なくとも1つの最近の空間的構成と、粒子(1または複数)の事前に定義された目標構成に応じて、流体に適用される特異動的局所加熱イベントに適した加熱デバイスに対する、制御信号を決定する。
C)ステップB)で決定された特異動的局所加熱イベントを流体に少なくとも一度適用するために、加熱デバイスを作動する。
D)ステップA)からC)の少なくとも1つまたは全てを繰り返す。
【0067】
目標空間的構成の定義は、1または複数の粒子が内部で操作される所定の構成が定義されることを意味する。これは、例えば、粒子の測定された実際の構成または実際の画像に基づいて、コンピュータ画面上で、ユーザにより実行され得る。目標構成の定義は、例えば、測定された画像データにおける所定の構造を認識する、画像評価ソフトウェアにより支援され得る。流体内の粒子(1または複数)の目標空間的構成は、以下の内の少なくとも1つを含み得る。流体内の粒子(1または複数)の指定目標位置(1または複数)、特によどみ点、流体内の粒子(1または複数)の1または複数の指定目標速度、流体内の粒子(1または複数)の指定目標配向(1または複数)、流体内の粒子(1または複数)の指定目標回転速度(1または複数)。
【0068】
流体内の粒子(1または複数)の目標空間的構成はさらに、粒子(1または複数)の1次元位置測定、粒子(1または複数)の2次元位置測定、または粒子(1または複数)の3次元位置測定であり得る。
【0069】
力測定のために、特に目標位置は、流れ場におけるよどみ点により実現され得る。
【0070】
それに加えて、またはそれに代えて、目標構成は、以下の要件の内の少なくとも1つをさらに含むことができる。指定粒子(1または複数)が指定位置にないこと、指定粒子(1または複数)が、指定位置(1または複数)から可能な限り離間すること、指定粒子(1または複数)が、指定位置(1または複数)から少なくとも指定距離(1または複数)にあること、指定粒子が互いに可能な限り近くにあること、指定粒子が互いに接してはならないこと、異なる種類の粒子は扱いが異なること。
【0071】
本発明の主要な特徴は、ステップb)において、粒子(1または複数)の少なくとも1つの最近の実際の空間的構成と、粒子(1または複数)の目標構成に応じて、流体に適用される特異動的局所加熱イベントを決定することに関する。これに関して、粒子の最近の、特に直近の、実際の空間的構成と、粒子の目標構成とに基づいて、費用関数が計算され得る。したがって、特異動的局所加熱イベントは、費用関数に応じて決定され得る。費用関数は、粒子(1または複数)の少なくとも1つの最近の実際の空間的構成と、粒子(1または複数)の目標構成のスカラー関数、および/または所望の目標構成の説明であり得る。目標構成の説明とは、例えば、効果的なソートを可能とするために、第1種類の粒子の全てが左に動かされるべきであり、第2種類の粒子の全てが右に動かされるべきであることであり得る。
【0072】
例えば、ステップc)における特異動的局所加熱イベントの適用、または各適用後、実際の構成が撮影され得、その後、新たな構成用に費用関数が計算され得、費用関数が直近の値から減少している場合、同じ特異動的局所加熱イベントでステップc)が繰り返され得、または費用関数が直近の値から増加している場合、ステップb)が新たに実行され得る。
【0073】
本発明の方法は、1つの粒子に掛かる力が決定されると実現される。ただし、少なくとも2つの粒子が同時に空間的に操作されること、および/または少なくとも2つの粒子に掛かる力が同時に決定されることも可能である。これは、複数の粒子の実際の構成が撮影されることを意味する。したがって、両方の(またはそれ以上の)粒子が移動または操作され、実質的には一度に1つの粒子のみが操作または移動されるように、特異動的局所加熱イベントが決定され得る。これに関連して同時にとは、複数の粒子に掛かる力が、粒子の1つおよび同一の観察された空間的構成から決定されたことを意味する。
【0074】
原則として、操作される各粒子は、個別に検討され得る。例えば、各粒子は、所定の位置または所定の配向に個別に移動され得る。ただし、所定の用途に関して、所定の種類の粒子を検討することが有用であり得る。すなわち、空間的に操作される複数の粒子は、等価または同一の粒子の少なくとも1つのサブセットを含み得る。したがって、費用関数は、等価または同一の粒子の交換に関して不変であり得る。この場合、根本的な数学的タスクの複雑さが低減され得る。
【0075】
例えば、少なくとも2つの粒子が操作される構成において、いずれの場合も、次のステップで主に操作される粒子は、各粒子に対応付けられる目標位置および目標配向の少なくとも一方から最も離れた粒子であり得る。
【0076】
さらに具体的には、費用関数は、以下の引数の内の少なくとも1つを含み得る。特定の粒子の当該粒子の特定の目標位置への距離、特定の粒子の指定位置に対する往復距離、指定種類の粒子の、各種類の粒子の特定の目標位置への距離、指定種類の粒子の、各種類の粒子に指定された指定位置に対する往復距離、各粒子、または各種類の粒子の、実際の粒子配向と、目標配向との間の角度、各粒子、または各種類の粒子の、実際の粒子速度と、目標速度との間の差。
【0077】
本発明に係る方法のさらなる好ましい実施形態において、ステップa)とb)の間に、次のさらなるステップが実行され得る。すなわち、操作される粒子(1または複数)が、目標位置および目標配向の少なくとも一方に対応付けられる。粒子が特定の目標位置に対応付けられることは、各粒子に、目標位置が結び付けられることを意味する。
【0078】
本発明に係る方法のさらなる好ましい実施形態において、粒子(1または複数)の追跡が、直近の実際の構成における粒子を含む撮影された新たな実際の構成に存在する粒子を特定することで実行され得る。したがって、個別粒子の軌道は、実際の構成のシーケンスから導出され得る。
【0079】
本発明に係る方法のさらなる好ましい実施形態において、粒子の追跡後、目標構成が再評価され得、目標構成が新たな目標構成に変更された場合、その後、いずれの場合も、新たな目標位置および新たな目標配向の少なくとも一方に、粒子が対応付けられ得る。したがって、システムは、目標構成の変化に動的に反応でき、早急に、粒子の特定の目標構成への結び付きを変えることができる。
【0080】
本発明に係る方法のさらなる好ましい実施形態において、データベース内に、以下のデータの少なくとも一部が記憶され得る。粒子(1または複数)の前の実際の空間的構成、少なくとも各実際の空間的構成および目標構成に基づいて決定された、流体に適用された、前の動的局所加熱イベント、ならびに流体に適用された各動的局所加熱イベントにより生じた、粒子(1または複数)の実際の空間的構成の変化。
【0081】
流体に適用される未来の動的局所加熱イベントは、データベースに記憶されたデータの少なくとも一部を使用して計算され得る。特に、機械学習/人工知能が利用される。
【0082】
本発明のさらなる特徴および利点が、以下の添付の図面を参照して、以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【
図3】本発明に係る方法における空間的操作の態様を示す概略図である。
【
図4】本発明に係る方法における空間的操作の態様をさらに示すフローチャートである。
【
図5】2つの粒子を操作する単純例を示す図である。
【
図6】よどみ点を有する流体力学的な流れ場の例である。
【
図7】
図6に示すものと同様の流体力学的な流れ場におけるよどみ点近傍での粒子のトラップを示す図である。
【
図8】流体力学的トラップが周期的にON、OFFされる状態での、よどみ点からの粒子の経時的な径方向変位を示す図である。
【
図9】トラップされた粒子が動き回る位相空間のヒストグラムである。
【
図10】プローブ粒子の生位置データから得られた、粒子のパワースペクトル密度関数、または平均二乗変位を示す図である。
【
図11】分析される粒子が磁気球形ビードであり、外部磁力が印加された例において撮像された画像である。
【
図12】印加される外部磁力の大きさを変えた場合の、よどみ点から離間するプローブ粒子ビードの経時的な変位を示す図である。
【
図13】
図7に示すトラップの頑丈さの推定を示す図である。
【
図14】本発明を実施するための、さらなる好ましい実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0084】
同じおよび同等のコンポーネントは、図において基本的に同じ数字が付される。
【0085】
【0086】
図1は、局所加熱イベントにより、流体力学的な流れの不均一場
【数1】
が生成された容器(不図示)内の流体12の一部を示す。より具体的に、局所加熱イベントは、熱粘性流を生成する。この過程は、文献に記載および言及がある。
図1に示す概略例では、流体力学的な流れは、x方向の成分を有し、流れの大きさはxの増加に伴い減少する。実際には、水のような非圧縮性流体の場合、流体力学的な流れが一方向のみに成分を有するという状態は不可能であり、x方向に垂直な成分が確実に存在することは明らかである。
図1の例では、2つの粒子p1およびp2が、流体力学的な流れの不均一場
【数2】
内で、位置x1およびx2に配置される。ここで問題となるのは、それぞれの位置に粒子p1およびp2をそれぞれ留めるのに、どのような力が必要であるかであり得る。詳細には、この力は、例えば水である流体12の性質、特に、その温度依存粘度に依存し、さらに例えば、断面、幾何学的形状、および表面特性である粒子の性質に依存する。
【0087】
均一構成で、滑らかな表面と層流を有する球形不干渉粒子の場合、粒子に掛かる摩擦力は、ストークスの式で与えられる。具体的には以下のとおりである。
【数3】
式中、
【数4】
は、流体と粒子との間の界面に掛かる摩擦力である。
ηは、例えば水である流体の動的粘度である。
Rは、球形粒子の半径である。
【数5】
は、粒子に対する流速である。
【0088】
ここで
図1に戻ると、同一の粒子p1およびp2に関して、粒子p2を位置x2に留める力F2は、粒子p1を位置x1に留める力F1よりも小さい。より一般的には、
図1に示す例において、それぞれの力は、xの値の増加に伴い減少する。
【0089】
本発明の本質は、流体に適用された一連の特異局所加熱イベントを利用して、さらに粒子に掛かる力の測定に位置/力関係を利用することで、流体内に流体力学的な流れの適切な不均一場を生成することにある。
【0090】
本発明に係る装置100の実施形態を、
図2を参照して以下に説明する。
図2に示す装置100は、本発明に係る方法を実施するように設計される。以下に、流体内の粒子の空間的操作の詳細を、
図3から5を参照して説明する。その後、本発明に係る方法の実施形態を
図6から13を参照して説明する。
【0091】
主要コンポーネントとして、
図2に示す装置100は、流体12および操作される粒子p1、p2を収容する容器10と、流体12の動的局所加熱により流体12内に流体力学的な流れを生成する加熱デバイス20と、容器10の少なくとも一部を撮像する撮像デバイス40と、加熱デバイス20および撮像デバイス40を制御し、撮像デバイス40からの画像データ52を評価する制御部60とを有する。
【0092】
動的局所加熱は、流体力学的な流れにより、容器10内の粒子p1、p2の空間的操作を実現するように設計される。流体12と、その内部に含まれる粒子p1、p2とは、試料とも称する。
【0093】
より具体的に、
図2に示す例において、加熱デバイス20は、加熱照射24を提供するための、例えば、赤外線レーザのようなレーザ22を有する。加熱照射24は、操作および分析される試料、すなわち流体12および粒子p1、p2を含む容器10内へと、光経路を通じて誘導される。
図2に示す例において、光経路は、スキャナ26、ビームシャッター28、ビームスプリッタ30、および顕微鏡対物レンズ48を含む。スキャナ26により、加熱照射24は容器10内の異なる位置に誘導され得る。ビームシャッター28は、容器10に加熱照射24が到達することを防止する目的に供される。ビームスプリッタ30は、例えば、加熱照射を顕微鏡対物レンズ48の方向に向ける、ダイクロイックミラーであり得る。
図2に示す例において、スキャナ26およびビームシャッター28は、制御部にステータス情報を送り返し得、制御部60により制御され得る。
【0094】
図2が概略図であり、実際、光ビーム経路が、
図2に不図示の複数のさらなるコンポーネントを有し得ることは明らかである。より具体的に、光学的構成は、特許文献1に記載のとおりであり得る。
図2の光学的アセンブリは倒立顕微鏡の光学的構成である。当然、他の形状も可能である。この倒立顕微鏡の倒立構成と、レーザを利用した加熱のために、容器10は、加熱照射および撮像照射44を試料に入射可能にする窓を有する必要があることは明らかである。より一般的には、そのような窓を要さない、局所ヒータ付きの装置または容器、および/または正立顕微鏡も可能である。
図2の容器10は、例えばシャーレであり得る。容器10は、流体12の温度を制御する手段を有し得るが、これも
図2では不図示である。特許文献1には、流体の温度を制御する当該手段も記載されており、これに関して、同文献が参照される。
【0095】
図2の例における撮像手段40は、例えば、広視野蛍光顕微鏡のような顕微鏡により実現される。上述のように、その他多くの撮像および顕微鏡技術が可能である。同様にあくまで概略的に示される顕微鏡は、光源42と、ビームスプリッタ46と、顕微鏡対物レンズ48とを備える。例えば、レーザのような光源42が提供する撮像照射44は、例えば、ダイクロイックビームスプリッタのようなビームスプリッタ46により、顕微鏡対物レンズ48の方向に導かれる。撮像照射は、ビームスプリッタ30を通過し、顕微鏡対物レンズ48に入射し、顕微鏡対物レンズにより、試料内、すなわち、概略例では操作される粒子p1、p2を含む流体12内へと集光される。
【0096】
例えば操作される粒子が作成される、例えば染料である試料から反射する蛍光照射、または、自発蛍光が、顕微鏡対物レンズ48、ビームスプリッタ30、およびビームスプリッタ46を通じて戻り、光検出器50に到達して、そこで検出される。光検出器50は、光ビーム経路により伝搬する、視野の画像を記録可能なカメラであり得る。すなわち、カメラは、容器10内の粒子p1、p2の実際の空間的構成を撮影可能である。光源42と、光検出器50との両方が、制御部60により制御され、いずれの場合も、制御部60にステータスデータを送り返すことができる。
【0097】
図2の概略例において、
図2の容器10内に、目標位置T1、T2が概略的に示される。目標位置T1、T2は、粒子p1およびp2がそれぞれ空間的に操作される目標となる位置を表し得る。すなわち、この例での空間的操作タスクは、粒子p1を位置T1の方向に押すまたは動かすことと、粒子p2をT2の方向に動かすこととから成る。
【0098】
本発明によると、制御部60は以下のように設計される。
・加熱デバイス20および撮像デバイス40を制御する。
・少なくとも粒子pの空間的構成に関して、撮像デバイス40からの画像データ52を評価する。
・粒子pの空間的構成を評価することで、粒子pに掛かる少なくとも1つの力を決定する。
【0099】
制御部60はさらに以下のように設計され得る。
A)容器10内の粒子(1または複数)p1、p2の実際の空間的構成を撮影するために、撮像デバイス40を作動する。
B)粒子(1または複数)p1、p2の少なくとも1つの最近の空間的構成と、粒子(1または複数)p1、p2の事前に定義された目標構成T1、T2に応じて、流体12に適用される特異動的局所加熱イベントに適した加熱デバイス20に対する、制御信号を決定する。
C)ステップB)で決定された特異動的局所加熱イベントを流体12に少なくとも一度適用するために、加熱デバイス20を作動する。
D)ステップA)からC)の少なくとも1つまたは全てを繰り返す。
【0100】
例えば、さらなるレーザのような、具体的には空間的に操作される粒子p1、p2である試料を操作するさらなるデバイスが、
図2の装置100内に存在し得る。
【0101】
制御部60は、当該技術で公知の周辺部品を有する、PCまたは同等のコンピューティングデバイスであり得る。制御部60は、本発明に係るコンピュータプログラム製品とコンピュータ可読記憶媒体の両方を有し得る。
【0102】
図3から
図5を参照して、撮影された空間的構成からのフィードバックを使用した空間的操作に係る本発明の態様を以下に説明する。ただし、重要事項として、撮影された実際の空間的構成からのフィードバックが、力測定に関する本発明の必須特徴ではないことを付言する。
【0103】
次に、本発明の実施形態を
図6から
図13を参照して説明する。流体12内における粒子p1、p2の空間的操作の主要な特徴を、以下に説明する。まずは
図3に関連してより全体的に説明し、次に
図4を参照してより詳細に説明する。より具体的に、
図3および
図4を参照して、本発明に係る方法の実施形態の粒子の空間的操作に関する態様を以下に説明する。ここで、流体12内の粒子(1または複数)p1、p2の少なくとも1つの目標空間的構成T1、T2が定義され、以下のさらなるステップが実施される。
a)粒子(1または複数)(p、p1、p2)の実際の空間的構成を撮影する。
b)粒子(1または複数)p1、p2の少なくとも1つの最近の実際の空間的構成と、粒子(1または複数)p1、p2の目標構成T1、T2に応じて、流体12に適用される特異動的局所加熱イベントを決定する。
c)ステップb)で決定された特異動的局所加熱イベントを流体12に少なくとも一度適用する。
d)ステップa)からc)の少なくとも1つまたは全てを繰り返す。
【0104】
図3の上部は、
図1のように、空間的に操作される、すなわちそれぞれ実際の位置から目標位置T1およびT2に動かされる、またはT1およびT2の方向に押される粒子p1、p2を収容する容器10の3つの概略図a1、a2、およびa3を示す。図a1は、粒子p1およびp2が、その移動先である目標位置T1およびT2から大きく離間した初期構成を示す。図a2は、点線矢印で示される、流体12内に生成される、流体力学的な流れまたは熱粘性流を概略的に示す。図a3は、特異動的局所加熱イベント適用後の状態を示す。図a3に示すように、粒子p1を、対応する目標位置T1に動かせており、粒子p2と、その目標位置T2との距離は、図a1の初期状態と比較して、少なくとも低減されている。
【0105】
図3の下部は、流体12内の粒子p1、p2の空間的操作の主要なステップを示す。
【0106】
まず(図b1)、粒子p1、p2の実際の空間的構成が撮影される(ステップa))。例えば、画像は、
図1の顕微鏡40のカメラ50で記録される。
【0107】
次に、
図3示す例において、操作される粒子の位置が特定される。すなわち、各粒子p1、p2の座標が特定される(図b2)。
【0108】
粒子p1、p2の目標空間的構成の定義後、すなわち
図3の例において、目標位置T1、T2の定義後、粒子p1とp2の両方が、それぞれの目標位置T1、T2に到達するための経路が計算される(図b3)。
【0109】
本発明に係る方法の変形例のステップb)によると、その後、流体12に適用される特異動的局所加熱イベントが、粒子p1、p2の少なくとも1つの最近の実際の空間的構成、例えば少なくともステップa)(図b1)で記録された画像と、粒子p1、p2の目標位置T1、T2とに応じて決定される。
【0110】
本変形例のステップc)によると、ステップb)で決定された特異動的局所加熱イベントが、少なくとも一度、流体12に適用される。
図3に示す例では、例えば
図1のスキャナ26で、試料を通じて加熱照射24を適切に走査することで、流体12に特異動的局所加熱イベントが適用される(図b4)。
【0111】
したがって、流体12の動的局所加熱により、流体12内で生成された流体力学的な流れにより、流体12内で粒子p1、p2が空間的に操作される。
【0112】
ステップd)によると、ステップa)からc)の少なくとも1つまたは全てが繰り返される。
図3に示す例では、ステップa)からc)のサイクルが、例えば30Hzで繰り返される。
【0113】
図4を参照して、粒子を空間的に操作する方法のより詳しい例を説明する。ステップS01「目標初期化」において、流体内で操作される粒子(1または複数)の少なくとも1つの目標空間的構成が定義される。次に、ステップS02において、試料の画像が取得される。これは、操作される粒子(1または複数)の実際の空間的構成を撮影するステップa)に対応する。これは例えば、顕微鏡画像を取得することで実現され得る。
図1の記載を参照されたい。
図4の例において、その後粒子はステップS03で追跡される。すなわち、ステップS02で撮影された実際の構成に存在する粒子が、直近の実際の構成における粒子で特定される。ステップS04において、いずれの場合も、操作される粒子が、目標位置と対応付けられる。ステップS05「誤差計算」において、例えばステップS02で取得された画像のような、粒子p1、p2の最近の実際の空間的構成と、例えばステップS01で定義された目標構成または位置のような、粒子p1、p2の目標構成T1、T2とに応じて、費用関数が計算される。
【0114】
上記方法のステップb)によると、その後、例えば、ステップS05で計算された費用関数に応じて、ステップS06「新FLUCSベクトル計算」で、流体12に適用される特異動的局所加熱イベントが決定される。したがって、特異動的局所加熱イベントは、粒子の少なくとも1つの最近の実際の空間的構成と、粒子の目標構成に応じる。ただし、流体12に適用される特異動的局所加熱イベントを、費用関数値とは無関係に決定することも可能である。その場合、例えば、最も遠い粒子を選択し、それを目標に向けて押すことで実現される。
【0115】
ステップS07「FLUCSベクトル適用」において、ステップS06で決定された特異動的局所加熱イベントが試料、すなわち操作される粒子を含む流体に適用される。これは、上記方法のステップc)に対応する。
【0116】
方法のステップd)によると、ステップa)からc)の少なくとも一部が繰り返される。
図4に示すフローチャートでは、ステップS08で新しい画像が取得される。すなわち、方法のステップa)が繰り返される。その後、ステップS09において粒子がさらに追跡される。すなわち、ステップS08で撮影された実際の構成内に存在する粒子で、ステップS08で撮影された実際の構成内に存在する粒子が特定される。すなわち、各粒子の経路が得られる。
【0117】
ステップS10で、目標構成が更新されるか問い合わせられる。好ましい実施形態において、ソフトウェアが、目標構成が更新されるか判定する。
【0118】
目標構成を変えないままの場合、問い合わせS10の次にステップS11が実行され、ここでは、ステップS04のように、いずれの場合も、操作される粒子が目標位置に対応付けられる。ステップS10の問い合わせに応じて、目標構成が更新される場合、新しい目標構成、例えば新しい目標位置がステップS14「新目標定義」で定義され、プログラムはステップS11に続く。
【0119】
ステップS11の次のステップS12において、ステップS05のように、ステップS08で撮影された粒子の新しい実際の構成に対して、また該当する場合は、ステップS14で定義された新しい目標構成に対して、費用関数が新たに計算される。
【0120】
ステップS13において、誤差、すなわち、費用関数が、ステップS05で決定された値と比べて減少しているか判定される。
【0121】
実際、ステップS05で決定された値から費用関数が減少している場合、ステップS07による、
図4の例において実現されるステップc)が、ステップS06で決定されたのと同じ特異動的局所加熱イベントで繰り返される。
【0122】
一方、ステップS05で決定された値から費用関数が増加している場合、方法のステップb)が新たに実行される。すなわち、ステップS06「新FLUCSベクトル計算」において、ステップS12で計算された費用関数に応じて、流体12に適用される新たな特異動的局所加熱イベントが決定される。
【0123】
したがって、閉フィードバックループ制御、および流体内の粒子の自動空間的操作が実現される。
【0124】
図5の概略
図1から3に、熱粘性流を利用して、2つの粒子p1およびp2が互いに接近させられる様子を示す。
図1は初期状態を示す。粒子p2を中心の近くに移動させる、第1特異動的局所加熱イベントが決定および適用される。次に、
図2に示すように、粒子p1を中心の近く、および粒子p2に隣接した位置に動かす、第2特異動的局所加熱イベントが決定および適用される。
図3は、粒子p1およびp2の最終構成を示す。
【0125】
次に、本発明の実施形態を
図6から
図13を参照して説明する。
【0126】
光誘起された流体力学的トラップを実現するため、リレーレーザの走査線を2つの反対方向経路に分けることで、2つの反対方向の熱粘性流が生成された。
図6は、生成された、流体力学的な流れの不均一場u(x)を概略的に示す。この手法によると、交差するミクロ経路は不要である。レーザ走査の方向は、誘起された流れの方向を決め、よどみ点Sが任意に選択されたレーザ走査経路(
図6の横方向矢印がよどみ点Sに向けられる)間に形成され、そこで微粒子がトラップ可能である。
【0127】
この場合の閉じ込めは、弱く準安定的なものである。これは、トラップの復元性質が、圧縮軸すなわち
図6における横方向にのみ確認され、したがって、垂直軸(
図6における縦矢印)に沿ったあらゆる位置変動が、粒子放出につながるためである。
【0128】
そのような放出を避けるため、アクティブフィードバック制御が利用される。これは、逆方向流の動的回転と、2つの面内軸の早急な再調整を可能とする(
図7)。
【0129】
請求項の用語に関して、
図6に示す流体力学的な流れの不均一場
【数6】
は、よどみ点Sを含み、このよどみ点Sの近傍において、粒子pは、少なくとも一時的にトラップ可能である。
図6の流体力学的な流れの不均一場
【数7】
は、よどみ点Sに向かって、反対方向に向けられた2つの流体力学的な流れfによって生成される。反対方向に向けられた2つの流体力学的な流れfは、よどみ点S周りに平面内で動的に回転させられる(
図7aに二方向矢印で示す)。より具体的に、反対方向に向けられた2つの流体力学的な流れfが適用される方位角方向は、撮影された粒子pの空間的構成に応じて選択される。例えば、方位角方向は、よどみ点Sに関して、測定された粒子pの方位角および動径座標の内の少なくとも1つに応じて選択され得る。よどみ点Sは、目標位置の実施形態と捉えられ得る。
【0130】
図7a)は、粒子pの実際の位置の、よどみ点Sからのずれδrを示す。このずれδrは観測可能で、粒子pに掛かる力は、このずれδrに応じて決定され得る。
図7b)、7c)、および7d)は、いずれの場合も、適用される熱粘性流の異なる方向と、粒子pの位置と、よどみ点Sとを示す。
図7b)および7d)では、粒子pはよどみ点Sに極めて近い一方、
図7c)の状態では、粒子pはよどみ点Sから大きく離れている。
【0131】
トラップの頑丈さは、走査レーザの強度、走査の周波数、および走査経路の更新頻度、ならびにその他多数のユーザ指定パラメータに依存するため、調整可能である。
【0132】
トラップのさらなる特性は、トラップのON、OFFを間欠的に切り替えることで評価可能である。当該測定の結果を、
図8の図内に示す。これは、よどみ点Sからの粒子の、経時的な径方向変位を示す。
【0133】
レーザがONになるとすぐに、よどみ点Sに向かって、粒子pが引きずられる。これは
図8の図内における実線に対応する。一方、レーザがOFFになると、ブラウン運動形式で、粒子pが再度拡散する。これは
図8の図内における点線に対応する。
【0134】
図9は、トラップ形状の外形を間接的に成形する、水内のトラップされた粒子が動き回る位相空間のヒストグラムを示す。当該ヒストグラムは、ヒートマップとも称する。ヒストグラムは、よどみ点Sから所定の距離(横軸)で粒子が確認された回数(数、縦軸)を示す。
【0135】
図9のヒストグラムは、トラップポテンシャルのプロファイルに対応する。ポテンシャルは対称性を呈する。これは、レーザ走査経路の動的回転により実現される復元力(
図7参照)が、よどみ点からの粒子の変位の方向に無関係であることを示す。これは、実質的に、疑似的な1次元トラップ状態を実現する。ここで粒子は常に、圧縮軸に沿ってずれるようになる。
【0136】
これは、
図10に示す粒子pの平均二乗変位(MSD)の分析で確認され得る。
図10は、粒子pの生位置データから得られる、粒子pの平均二乗変位の、パワースペクトル密度関数を示す図である。光ピンセットと同様、パワースペクトル密度(PSD)ロールオフ解析を使用して、フーリエ変換された流れトラップデータに対するLorentzian当てはめを得ることができる。したがって、各横座標に沿った、トラップの頑丈さが正確に推定され得る。
図10は、x座標のデータを示す。計算された不確定性内で重なるkxで示されるx座標による2つの面内トラップの頑丈さの一致から、トラップの対称性は明らかである。y座標についてのデータは不図示である。
【0137】
短期拡散と長期拡散の間の遷移は、折点周波数f
cによるPSDプロットでマーキングされる。したがって、以下を介して、各直交軸に沿ったトラップの頑丈さkが正確に推定可能となる。
【数8】
この手法を使って、x軸に沿った35±5fN/μm(フェムトニュートン/マイクロメートル)のトラップ頑丈さが得られる。これは、少なくとも典型的な光ピンセットで得られる程度の感度である。したがって、光誘起された熱粘性流は、レーザへの直接曝露を介さず、あくまで中程度の加熱により、高感度のトラップを生成可能であると考えられる。
【0138】
高感度の力測定を行うには、粒子に掛かる力の計測値として、トラップ点からの変位が使用可能であることが必須となる。したがって、光誘起された流体力学的トラップによって示された、力と伸張の関係を調べることができる。速度と距離の関係を決定するのに、ストークス抵抗較正を利用可能である。すなわち、光ピンセットにより生成された、略高周波トラップポテンシャルの検証にも使用された手法である。
【0139】
よどみ点からトラップされた粒子をずらし、その緩和挙動を追跡することもできる。発明者らが、粒子のよどみ点への指数関数的手法を観察したところ、速度と変位の関係について、線形関係が示唆された。すなわち、よりトラップからずれている粒子が、より速くよどみ点に向かって引きずられるのである。これはフック的なスプリングを想起させる。光ピンセット実験におけるトラップ所要時間は以下により導き出せる。
【数9】
これは、トラップの頑丈さの第2推定を得るのに使用され得る。この推定による値は、33±3fN/μmと低く、したがって従前のPSDロールオフ推定にかなり近接したものとなった。力と変位が線形の関係であることから、これらの結果は、本発明の、光誘起された流体力学的トラップの手法が、フェムトニュートン単位で力を測定するために使用可能であることを示唆する。
【0140】
外力を使用して、さらにトラップの特性が確認され得、さらに較正目的にも供され得る。これを
図11から
図13を参照して説明する。
図11から
図13のデータの基となる実験に関して、力のバランスを取り、逆方向に流れるトラップ力を定量化するのに、外部特注電磁針Mと、磁気粒子pが使用された。磁力は、電磁石に印加される電流の着実な変更によって調整可能である。一切流れがないと、粒子pの動的磁気駆動は、予期されたとおりに、好適な引き寄せ効果を呈した。これは、長い時間差での、弾道運動(不図示)により検証され得る。
【0141】
電流を大きくすることで、同じ取得時間で、粒子が空間のより大きな領域を動き回ることができるようになる。これは、磁気引力向上を反映したものである。いずれの場合も粒子の長期(定常状態)速度を抽出することで、以下の式から、公知のストークス抵抗力による力のバランスを通じて、磁力を較正可能となる。
【数10】
次に、発明者らは、外力を利用して粒子を引いた場合に、外力がない状態での粒子動力学で示される見かけばね定数が確認され得るか確認した。これを、
図11を参照して説明する。
図11a)は、トラップが起動されて、すなわち反対方向の流れが生じており、外力が一切ない状態での磁気粒子の位置の写真である。粒子はここでも、2つの走査経路の間に形成されたよどみ点近傍で、極めて狭い範囲で動き回っていることが確認された。粒子は、
図11a)における黒い球形構造に対応する。これは実質的に、白丸で示されたよどみ点の位置にある。
【0142】
駆動電流を電磁石Mに印加し、その後誘起される磁場により、粒子はよどみ点から離れるように引かれる。これを
図11b)に示す。ここでもトラップは作動しており、電磁石Mで実現される電磁外力FextがONとなっている。図示のとおり、粒子pは引きずられて、よどみ点Sからδrだけ離間している。したがって、粒子に対するポテンシャルエネルギーの極小値は、磁場源の方向にシフトしている。
【0143】
ずれの大きさは、磁力の強さに依存する。電流が大きいほど、よどみ点からの変位が大きくなる。
【0144】
これを、
図12を参照して示す。
図12は、電磁石を通じた電流の様々な大きさについて、経時的な変位を示す。曲線sから曲線kまで、電磁石Mを通じた電流は、それぞれ0.2A単位で増加している。
【0145】
計算される磁力に、印加電流を対応付けることで、力と伸張との線形関係が当てはめられ得る。したがって、逆流トラップの頑丈さについて、さらに別の推定が得られる。これを
図13に示す。同図は、計算される磁力に対してプロットされる外力の影響下での粒子のずれδrを示す。ここで得られたトラップの頑丈さは、先立つ2つの推定の大きさの程度に極めて近く、その差はせいぜい2つの標準偏差分であった。重要なのは、十分に制御された磁力の印加により決定された逆流力は、構成における、あらゆるその他未知の、外から印加される力を定量化するのに使用可能であることである。
【0146】
外力を明確に印加することで、位置が乱れた後の緩和力学を正確に示すのに、平衡熱力学が実際に使用可能であることが確認される。さらに、逆流が磁力に対して正確に平衡となる、その定常状態位置回りの磁気粒子の変動を反映するヒストグラムにより、測定が熱限界に近いことが示される。より小さい力の検出は、より広範のポテンシャルを伴う。これは、典型的には焦点が回析により制限される、多くの点トラップ光ピンセット構成で現在実現可能なものよりも大きな位相空間にわたるトラップを可能とする。さらに、本発明の、光により生成された流体力学的トラップは、調整性が高い。したがって、レーザ強度増加、走査経路距離増加、または逆流更新頻度低減により、さらなる最適化を可能とする。
【0147】
本発明に係る方法のさらなる実施形態を、
図14を参照して説明する。
図14は、2つの別個のよどみ点S1およびS2を有する流体力学的な流れ場が、レーザによる適切な走査パターンで生成される状態を示す。
【0148】
より具体的に、矢印s1およびs2の方向にレーザビームを走査することで、矢印f1からf4の方向に、流体力学的な流れが生成される。流れf1およびf4が互いにぶつかる位置に、第1よどみ点S1が生成される。
【0149】
さらに矢印s3およびs4の方向にレーザビームを走査することで、矢印f5からf8の方向に、流体力学的な流れが生成される。流れf5およびf8が合流する位置に、第2よどみ点S2が生成される。
【0150】
この例における操作および分析対象は、2つの末端粒子p1およびp2と、p1およびp2を繋ぐ概略的に図示された分子鎖Cとを有するテザー型分子である。上述のように、粒子p1は、よどみ点S1近傍にトラップされている。粒子p2は、よどみ点S2近傍にトラップされている。分子鎖により力が印加されていない状態で、粒子p1およびp2をそれぞれよどみ点S1およびS2に引き戻す力は、上述のように測定され得る。この目的のために、よどみ点S1を生成する流れf1からf4、またはよどみ点S2を生成する流れf5からf8のいずれかが作動される。
【0151】
分子鎖Cが粒子p1およびp2に掛ける力F1およびF2はその後、よどみ点S1からよどみ点S2までの距離を変え、S1からS2までの距離に応じて、よどみ点S1およびS2からの粒子p1およびp2それぞれのずれを観測することで測定され得る。
【0152】
図14の構成の具体的利点は、領域Rの全体でレーザからの加熱照射が流体12に当たらず、それによって、調査対象のテザー型分子p1-C-p2に、レーザからの加熱照射が当たらないことである。
【0153】
全体として、発明者らは、光誘起された、2つの反対方向の熱粘性流で生成された高感度、調整可能、非接触トラップを開示する。この新規手法は、体内システムにおける光学的トラップの適用およびミクロ流体型トラップの幾何学的制限による、加熱効果および光傷害の可能性に関して生じている懸念に対処することに極めて関連性が高くなり得る。任意で定義された走査経路と、その結果としてのよどみ点は、この手法の局地性および柔軟性を高くする。レーザ走査による加熱の誘導レベルは、中程度であり、体内システムで容易に許容される。したがって、本発明の手法は、生命科学において、細胞生物学から胚発育まで、多様な用途を取り得る。材料科学という面に関して、方法は複合流体の粘弾性特性の決定に極めて都合がよい。最後に、逆流トラップの、マイクロメートル単位のフェムトニュートン力を検知可能とする能力は、分化と増殖など、主要な細胞プロセスを促す、局地機械的指標の検出のための機械生物学の分野で特に有利となり得る。
【0154】
本開示において、発明者らは、光誘起された流体力学的な流れに基づく、新規の非接触トラップ方法を提示する。発明者らは、熱限界感度近くで、フェムトニュートン単位の力を検出可能な、力と伸張との線形関係を示す。提示された技術によると、粒子にレーザが触れる必要がなくなり、分析対象とし得る粒子に材料的制限がなくなる。さらに、方法は、特殊なチャンバを要さない、一般的な光学顕微鏡で実施できるため、より複雑な材料内での局地的力を検査可能となる。したがって、光誘起された流体力学的な流れは、多様な試料内での高感度、非侵襲的力測定に寄与する。
【符号の説明】
【0155】
10 容器、試料チャンバ、12 流体、例えば水、20 加熱デバイス、22 照射源、例えば、赤外線レーザ、24 加熱照射、26 スキャナ、28 ビームシャッター、30 光ビームの結合手段、例えば、ダイクロイックミラー、40 顕微鏡、例えば、蛍光顕微鏡、42 撮像光源、44 撮像照射、46 例えば、励起、ダイクロイック、吸収フィルターから成るフィルターキューブ、48 対物レンズ、50 撮像照射用検出器、例えば、カメラ、52 画像データ、60 制御部、例えば、PC、100 本発明に係る装置、C 分子鎖、p、p1からp6 操作および/または配置される粒子、f、f1からf8 流体力学的な流れの方向、F 粒子に掛かる力、F1 粒子p1に掛かる力、F2 粒子p2に掛かる力、Fext 粒子に掛かる外力、FLUCS 集束光による細胞質流動、R 加熱照射が流体に入射しない領域、S、S1、S2 よどみ点、目標位置、T1からT3 目標位置、u,u(x),u(x,y) 流体力学的な流れの不均一場、δr 粒子の実際の位置のよどみ点からのずれ。
【国際調査報告】