(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-24
(54)【発明の名称】アンモニウムイオン含有ハロゲン化合物の固体冷凍における応用
(51)【国際特許分類】
F25B 23/00 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
F25B23/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580849
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(85)【翻訳文提出日】2023-12-28
(86)【国際出願番号】 CN2022105057
(87)【国際公開番号】W WO2023001018
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】202110837618.3
(32)【優先日】2021-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522094967
【氏名又は名称】中国科学院金属研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088063
【氏名又は名称】坪内 康治
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲びん▼
(72)【発明者】
【氏名】斉 迹
(72)【発明者】
【氏名】張 志東
(57)【要約】
本発明は、アンモニウムイオン含有ハロゲン化合物の固体冷凍における応用、及び圧力駆動型の新たな高効率の固体冷凍方法を提供することを目的とする。上記アンモニウムイオン含有ハロゲン化合物は、小さい圧力で相転移を誘導して、高い圧力熱量効果を生じることができ、その単位圧力で駆動される相転移温度の変位量が0.81Kmin
-1であることを特徴とする。ヨウ化アンモニウムは、20MPaの圧力で89.07Jkg
-1K
-1の等温エントロピー変化量が発生し、該材料を用いて冷凍サイクルを行うと、他の圧力熱量効果の材料系よりはるかに優れている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニウムイオン含有ハロゲン化合物の固体冷凍における応用であって、前記アンモニウムイオン含有ハロゲン化合物は、NH
4I、NH
4Cl、NH
4Brのうちの1種又は複数種である、ことを特徴とする応用。
【請求項2】
NH
4Iを冷凍作動媒体とする、ことを特徴とする請求項1に記載の応用。
【請求項3】
NH
4Iの応用温度区間は、268~332Kである、ことを特徴とする請求項2に記載の応用。
【請求項4】
静水圧力が20MPaである場合、NH
4Iの静圧で駆動される相転移の等温エントロピー変化量は、89.07Jkg
-1K
-1であり、単位圧力で駆動可能な相転移温度dP/dTは、0.81KMPa
-1である、ことを特徴とする請求項2に記載の応用。
【請求項5】
NH
4I、NH
4Cl、NH
4Brのうちの1種又は複数種を冷凍作動媒体とし、圧力の付与及び解放を制御することにより、熱の移転を実現し、冷凍サイクルを形成して、冷凍効果を達成する、ことを特徴とするアンモニウムイオン含有ハロゲン化合物の静圧駆動に基づく固体冷凍方法。
【請求項6】
NH
4Iを冷凍作動媒体とし、応用温度区間を268~332Kとする、ことを特徴とする請求項5に記載のアンモニウムイオン含有ハロゲン化合物の静圧駆動に基づく固体冷凍方法。
【請求項7】
静水圧力で駆動し、かつ印加圧力を80MPa以下とする、ことを特徴とする請求項5又は6に記載のアンモニウムイオン含有ハロゲン化合物の静圧駆動に基づく固体冷凍方法。
【請求項8】
駆動圧力を30MPa~60MPaとする、ことを特徴とする請求項5又は6に記載のアンモニウムイオン含有ハロゲン化合物の静圧駆動に基づく固体冷凍方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体冷凍応用の分野に属し、具体的には、アンモニウムイオン含有ハロゲン化合物の固体冷凍における応用に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍技術の応用は、既に人間の生活の様々な方面に関しており、20世紀の初めから現在まで、ガス圧縮冷凍技術は、企業の運営、生産、倉庫保管、輸送、及びエアコン、冷蔵庫などの民間用の分野に広く応用されている。しかしながら、省エネルギー及び排出削減の要求の提出に伴って、炭素排出が徐々に制限され、ガス圧縮冷凍技術の欠点が徐々に現れ、フロン、フッ化炭素、ハイドロフルオロカーボンなどを冷凍作動媒体として使用し、オゾン層を深刻に破壊し、かつ温室効果を悪化させ、自然環境を破壊する。持続可能な発展の要求に応答するために、グリーンで環境に優しく、かつ高効率で省エネルギーである新たな冷凍技術を見つけることが急務である。
【0003】
このような背景に基づいて、グリーンで省エネルギーで高効率で環境に優しいなどの特徴を有する固体冷凍技術は、人々の視野に入っている。これまでに発見された固体冷凍技術には、磁気熱量冷凍、電気熱量冷凍、弾性熱量冷凍及びオートクレーブ冷凍の技術が含まれ、これらの技術では、それぞれ磁場、電場、一軸応力場、等方圧により材料の相転移を駆動し、放熱吸熱サイクルを形成して、冷凍効果を達成する。これらの冷凍技術は、広範な研究と注目を集めており、従来のガス圧縮冷凍技術を代わる可能性が非常に高い。オートクレーブ冷凍技術は、利点が特に顕著であり、材料を選択する場合に汎用性があり、適切な温度区間内で一次相転移を有する大量の材料を、いずれもオートクレーブ冷凍の作動媒体とすることができ、等方圧でそれを制御することにより、吸熱放熱の効果を達成する。また、オートクレーブ冷凍サイクルは、従来のガス圧縮機の冷凍サイクル装置を同時に受け入れ、大規模な応用において明らかな利点を有する。
【0004】
また、他の3つの冷凍方式に使用される材料の固有エントロピー変化量値は、依然として実際の応用との距離が大きく、例えば、5Tの外部磁場を使用してLa(FeSi)13合金及びGd5Ge2Si2合金の磁気相転移を制御することにより、約20Jkg-1K-1のエントロピー変化量を得ることができるが、このような数値及び極めて高い駆動場は、実際の応用のニーズを満たすことが困難であり、エントロピー変化量がより大きく、かつ駆動場がより低い、新たな冷凍作動媒体を見つけてこそ、固体冷凍技術の冷凍能力を改善することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アンモニウムイオン含有ハロゲン化合物を冷凍作動媒体として使用して、圧力で駆動可能な新たな高効率の冷凍方法を提供することを目的とする。本発明において、該ハロゲン化合物を冷凍作動媒体として、低い圧力を印加して、完全に相転移させ高い熱効果を生じるように冷凍作動媒体を駆動することにより、固体冷凍を行う。
【0006】
このようなアンモニウムイオン含有ハロゲン化合物は、固体-固体の一次相転移が発生するときに、アンモニウムイオンユニットの配向が深刻に無秩序になり、ユニットの配向がランダムになり、その回転の時間スケールがピコ秒オーダーであり、超高速の無秩序を示す。この超高速の無秩序の相転移により、高い熱効果を生じ、大きなエントロピー変化量が発生し、極めて大きな相転移潜熱を有する。また、この相転移は、可逆相転移であり、逆相転移が発生するときに大量の熱を吸収して、冷凍の目的を達成することができ、優れた冷凍作動媒体とすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明は、以下の技術手段を用いる。
【0008】
アンモニウムイオン含有ハロゲン化合物の固体冷凍における応用であって、前記アンモニウムイオン含有ハロゲン化合物は、NH4I、NH4Cl、NH4Brのうちの1種又は複数種であることを特徴とする。
【0009】
好ましい技術手段として、NH4I(ヨウ化アンモニウム、英語名がAmmonium iodideである)を冷凍作動媒体として選択し、NH4Iの応用温度区間は、268~332Kであり、NH4Iは、相転移温度が圧力に対して極めて高い感度を有し、その単位圧力で駆動可能な相転移温度の変位量は、0.81KMPa-1に達する。静水圧力が20MPaである場合、NH4Iの静圧で駆動される相転移の等温エントロピー変化量は、89.07Jkg-1K-1であり、冷凍作動媒体としての応用に特に適する。
【0010】
本発明に係るアンモニウムイオン含有ハロゲン化合物の静圧駆動に基づく固体冷凍方法において、NH4I、NH4Cl、NH4Brのうちの1種又は複数種を冷凍作動媒体とし、圧力の付与及び解放を制御することにより、熱の移転を実現し、冷凍サイクルを形成して、冷凍効果を達成する、ことを特徴とする。
【0011】
本発明に記載の方法における駆動力は、等方圧であり、ピストンシステムと高気圧システムは、いずれも該冷凍方法の駆動に用いることができる。
【0012】
本発明に記載のハロゲン化合物は、アンモニウムイオンを含み、該アンモニウムイオンユニットは、配向無秩序性を有する。アンモニウムイオンを有するハロゲン化合物を冷凍作動媒体として、
図1に示す冷凍サイクルを設計する。
【0013】
上記アンモニウムイオンを有するハロゲン化合物は、好ましくはNH
4Iであり、該材料の状態は、
図2に示すとおりである。
【0014】
本発明に記載の方法は、構造変換に関する。
図3は、該材料の相転移前後の結晶構造の概略図である。該材料は、一次相転移を有し、常温でI相であり、立方晶構造を有し、空間群が
【数1】
であり、低温でII相に変換し、依然として立方構造であり、空間群が
【数2】
である。該一次相転移は、昇温時に267Kで発生し、降温時に242Kで発生する。
【0015】
本発明に記載のアンモニウムイオン含有ハロゲン化合物の静水圧力駆動に基づく固体冷凍方法において、静水圧力で駆動し、かつ印加圧力を80MPa以下とする(好ましくは、駆動圧力を30MPa~60MPaとする)ことを特徴とする。
【0016】
本発明に記載のアンモニウムイオン含有ハロゲン化合物の応用温度区間は、268~332Kである。
【0017】
本発明に記載の方法において、最も好ましい冷凍作動媒体は、NH
4Iであり、
図5に示すように、20MPaの低い圧力で89.07Jkg
-1K
-1の等温エントロピー変化量を得ることができる。
【0018】
本発明のキーポイントは、相転移前後のアンモニウムイオンの配向が秩序から無秩序になることであり、オートクレーブ効果を有する無機プラスチック結晶材料である。このような材料に圧力を印加すると、オートクレーブ材料は、環境に放熱し、圧力を解除した後、該オートクレーブ材料は、負荷から吸熱して、冷凍の目的を達成する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の有益な効果は、以下の1~3のとおりである。
【0020】
1、極めて低い等方圧で、完全に相転移するように本発明に記載のアンモニウムイオン含有ハロゲン化合物を駆動することができ、
図6に示すように、印加圧力が80MPaである場合、相転移温度が268Kから332Kに昇温し、変位量が64Kであり、単位圧力で駆動される相転移温度の変位量が0.81KMPa
-1である。上記現象に基づいて、20MPaの等方圧で相転移するようにNH
4Iを完全に誘導することができ、その飽和エントロピー変化量値は、89.07Jkg
-1K
-1である。
【0021】
2、本発明で使用される冷凍作動媒体は、アンモニウムイオン含有ハロゲン化合物であり、このような材料は、構造が簡単であり、コストが低く、大量生産することができる。
【0022】
3、本発明の固体冷凍効果は、圧縮サイクルにより達成することができ、従来のガス圧縮冷凍サイクルシステムと類似するため、従来のガス圧縮冷凍サイクルシステムを同時に受け入れて、それを代わることができ、圧縮冷凍を基に冷凍作動媒体をこのような材料に直接的に交換するという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】アンモニウムイオン含有ハロゲン化合物を用いて圧縮冷凍サイクルを行うプロセスフロー図である。
【
図3】NH
4I相転移前後の結晶構造の概略図である。
【
図4】NH
4Iの異なる圧力での熱流曲線であり、左から右へ順に0.1MPa、10MPa、20MPa、30MPa、40MPa、50MPa、60MPa、70MPa及び80MPaでの状況である。
【
図5】NH
4Iの異なる圧力でのエントロピー変化量の曲線であり、左から右へ順に10MPa、20MPa、30MPa、40MPa、50MPa、60MPa、70MPa及び80MPaでの状況である。
【
図6】圧力に伴うNH
4Iの相転移温度の変化曲線である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0024】
10MPaでの冷凍効果:
冷凍作動媒体のヨウ化アンモニウムを気密高圧サンプルセルに入れるとともに、対照サンプルセルを空にしてμDSC7(フランスセタラム社製)マイクロカロリメトリーのサンプル室に入れた。加圧装置を使用して2つのサンプルセル内に窒素ガスを導入し、このとき、常圧状態(0.1MPa)を保持し、343Kから1Kmin
-1の降温速度で248Kまで冷却してから、343Kまで昇温し、サンプルの熱流データを記録し、
図4の左側の第1本の曲線に示す。次に、ガスの圧力を10MPaまで上昇させ、以上のプロセスを繰り返して、得られたデータを
図4の第2本の曲線に示す。熱流データをエントロピー変化量データに変換し、2本の曲線に減算を行って、圧力が0.1MPaから10MPaに上昇するときのエントロピー変化量を得て、その最大値が-82.67Jkg
-1K
-1である。
【実施例2】
【0025】
冷凍効果の飽和傾向:
冷凍作動媒体のヨウ化アンモニウムを気密高圧サンプルセルに入れるとともに、対照サンプルセルと共にμDSC7マイクロカロリメトリーのサンプル室に入れた。高圧ガス制御パネルを使用して、純粋な窒素ガスを導入し、ガス圧力を1気圧(0.1MPa)に一定に保持し、343Kから1Kmin
-1の降温速度で248Kまで冷却してから、343Kまで昇温し、サンプルの熱流データを記録し、
図4の第1の曲線に示す。次に、ガスの圧力を20MPa、30MPa、40MPa、50MPa、60MPa、70MPa、80MPaまで上昇させ、上記測定プロセスを繰り返して、得られたデータをそれぞれ
図4に示す。熱流データをエントロピー変化量データに変換し、2本の曲線に減算を行って、圧力が0.1MPaから10MPa、20MPa、30MPa、40MPa、50MPa、60MPa、70MPa、80MPaに上昇するときのエントロピー変化量を得て、
図5に示すように、圧力が20MPaに近いときに最大エントロピー変化量の飽和傾向がはっきりと見られる。この特徴は、小さい圧力で大きなエントロピー変化量を得るできることを決定する。
【実施例3】
【0026】
冷凍サイクル:
冷凍作動媒体のヨウ化アンモニウムを圧縮冷凍サイクルのチャンバに入れ、断熱条件下で、温度268Kで常圧(0.1MPa)での冷凍作動媒体のヨウ化アンモニウムに40MPaの等方圧を印加することにより、その温度が278Kまで上昇し、圧力を40MPaに保持し、冷凍作動媒体のヨウ化アンモニウムを熱交換流体により環境と接触させ、熱を環境に伝達した後に環境温度とのバランスがとれ、268Kまで降温させ、断熱条件下で、冷凍作動媒体のヨウ化アンモニウムに対して、圧力を常圧(0.1MPa)まで低下させ、温度を258Kまで低下させ、冷凍作動媒体が負荷から吸熱して降温効果を達成する。
【0027】
以上の実施例は、本発明の技術的思想及び特徴を説明するためのものに過ぎず、その目的は、当業者が本発明の内容を理解し、これに基づいて実施できるようにすることであり、本発明の保護範囲を限定するものではない。本発明の要旨に基づいて行われる等価変換又は修飾は、いずれも本発明の保護範囲内に含まれるべきである。
【国際調査報告】