(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-24
(54)【発明の名称】HIF-1アルファ阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240717BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240717BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240717BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240717BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240717BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20240717BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240717BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20240717BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61P27/02 ZNA
A61P43/00 111
A61K31/7088
A61K48/00
A61K39/395 N
C07K16/18
C12N15/13
C12N15/63 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580939
(86)(22)【出願日】2022-07-15
(85)【翻訳文提出日】2023-12-29
(86)【国際出願番号】 KR2022010378
(87)【国際公開番号】W WO2023287251
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】10-2021-0093191
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0042695
(32)【優先日】2022-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520253694
【氏名又は名称】ノベルティー、ノビリティー、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ナ,テ-ヨン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA33
4C085AA13
4C085BB31
4C085CC22
4C085EE01
4C085GG01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA33
4C086ZC41
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、HIF-1αの発現又は活性抑制剤に関する。本発明のHIF-1αの発現又は活性抑制剤は、眼球内HIF-1αの発現を効果的に抑制し、血管新生因子及び/又は炎症因子の発現を下向き調節することによって、眼疾患の予防又は治療に有用に利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のCDR配列を含む抗体又はその抗原結合断片、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子、又は前記核酸分子を含むベクターの治療的有効量をそれを必要とする対象体に投与する段階を含む、HIF-1αの発現又は活性抑制による、既存の眼疾患治療剤に不応性又は無反応性である眼疾患の予防又は治療方法:
(i)配列番号1で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR1;
(ii)配列番号2で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR2;
(iii)配列番号3で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR3;
(iv)配列番号4で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR1;
(v)配列番号5で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR2;及び
(vi)配列番号6で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR3。
【請求項2】
前記眼疾患は、網膜又は黄斑疾患であることを特徴とする、請求項1に記載の眼疾患の予防又は治療方法。
【請求項3】
前記網膜又は黄斑疾患は、脈絡膜血管新生、黄斑病症、網膜病症、網膜細胞変性、網膜血管閉塞、網膜剥離及び緑内障からなる群から選ばれる1以上の疾患であることを特徴とする、請求項2に記載の眼疾患の予防又は治療方法。
【請求項4】
前記網膜又は黄斑疾患は、糖尿病性網膜病症(Diabetic Retinopathy)、糖尿病性黄斑浮腫(Diabetic Macular Edema)、湿性黄斑変性(wet Age-related Macular Degeneration)、網膜静脈閉塞(Retinal Vein Occlusion)、未熟児の網膜症(Retinopathy of Prematurity)及び緑内障(Glaucoma)からなる群から選ばれる1以上の疾患であることを特徴とする、請求項3に記載の眼疾患の予防又は治療方法。
【請求項5】
既存の眼疾患治療剤は、VEGF抑制剤である、請求項1に記載の眼疾患の予防又は治療方法。
【請求項6】
既存の眼疾患治療剤は、アフリベルセプト(aflibercept)、ラニビズマブ(ranibizumab)、サスビモ(Susvimo)(登録商標)、ベバシズマブ(bevacizumab)、ブロルシズマブ(brolucizumab)、ペガプタニブ(pegaptanib)、ファリシマブ(faricimab)、及びKSI-301からなる群から選ばれるものである、請求項1に記載の眼疾患の予防又は治療方法。
【請求項7】
下記のCDR配列を含む抗体又はその抗原結合断片、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子、又は前記核酸分子を含むベクターの治療的有効量をそれを必要とする対象体に投与する段階を含む、HIF-1αの発現又は活性抑制方法:
(i)配列番号1で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR1;
(ii)配列番号2で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR2;
(iii)配列番号3で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR3;
(iv)配列番号4で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR1;
(v)配列番号5で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR2;及び
(vi)配列番号6で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR3。
【請求項8】
前記抗体又はその抗原結合断片は、配列番号7で表示されるアミノ酸配列の軽鎖可変領域及び配列番号8で表示されるアミノ酸配列の重鎖可変領域を含むことを特徴とする、請求項7に記載のHIF-1αの発現又は活性抑制方法。
【請求項9】
前記HIF-1αの発現又は活性抑制は、脈絡膜又は網膜内でなされることを特徴とする、請求項7に記載のHIF-1αの発現又は活性抑制方法。
【請求項10】
前記HIF-1αの発現又は活性抑制は、視神経細胞、網膜ミュラー(Mueller)細胞、脈絡膜細胞、網膜微小血管内皮細胞(RMEC)、網膜色素上皮(RPE)細胞及び光受容体細胞からなる群から選ばれる細胞でなされることを特徴とする、請求項9に記載のHIF-1αの発現又は活性抑制方法。
【請求項11】
前記HIF-1αの発現抑制は、HIF-1αのタンパク質発現抑制であることを特徴とする、請求項7に記載のHIF-1αの発現又は活性抑制方法。
【請求項12】
前記HIF-1αの発現又は活性抑制は、HIF-1αタンパク質の分解を促進して達成されることを特徴とする、請求項7に記載のHIF-1αの発現又は活性抑制方法。
【請求項13】
前記HIF-1αの活性抑制は、SCF/C-Kit誘導リン酸化によるHIF-1αの活性を抑制して達成されることを特徴とする、請求項7に記載のHIF-1αの発現又は活性抑制方法。
【請求項14】
前記抗体又はその抗原結合断片はさらに、血管新生因子及び/又は炎症因子を調節することを特徴とする、請求項7に記載のHIF-1αの発現又は活性抑制方法。
【請求項15】
前記血管新生因子及び/又は炎症因子は、アンギオゲニン(Angiogenin)、アンジオポエチン-2(Angiopoietin-2)、CXCL16、エンドグリン(Endoglin)、凝固因子III(Coagulation Factor III)、エンドセリン-1(Endotherin-1)、MCP-1、EG-VEGF、VEGF、IGFBP-1、IGFBP-2、IL-1β、PDGF-AA、PIGF、セルピンE(Serpin E)、セルピンF1(Serpin F1)、トロンボスポンジン-2(Thrombospondin-2)、ANGPT2、ペントラキシン3(Pentraxin 3)、IL-8、FGF2及びFGF5からなる群から選ばれる1以上の因子であることを特徴とする、請求項14に記載のHIF-1αの発現又は活性抑制方法。
【請求項16】
前記抗体又はその抗原結合断片は、血管新生因子及び/又は炎症因子発現の上向き調節を減少させることを特徴とする、請求項14に記載のHIF-1αの発現又は活性抑制方法。
【請求項17】
前記抗体又はその抗原結合断片は、微小血管細胞の増殖、移動(migration)及び管形成(tube formation)からなる群から選ばれるいずれかを減少させることを特徴とする、請求項7に記載のHIF-1αの発現又は活性抑制方法。
【請求項18】
下記のCDR配列を含む抗体又はその抗原結合断片、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子、又は前記核酸分子を含むベクターを有効成分として含む、HIF-1αの発現又は活性抑制による、既存の眼疾患治療剤に不応性又は無反応性である眼疾患の予防又は治療用薬剤学的組成物:
(i)配列番号1で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR1;
(ii)配列番号2で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR2;
(iii)配列番号3で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR3;
(iv)配列番号4で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR1;
(v)配列番号5で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR2;及び
(vi)配列番号6で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR3。
【請求項19】
HIF-1αの発現又は活性抑制によって、既存の眼疾患治療剤に不応性又は無反応性である眼疾患の予防又は治療に使用するための、下記のCDR配列を含む抗体又はその抗原結合断片、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子、又は前記核酸分子を含むベクターの用途:
(i)配列番号1で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR1;
(ii)配列番号2で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR2;
(iii)配列番号3で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR3;
(iv)配列番号4で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR1;
(v)配列番号5で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR2;及び
(vi)配列番号6で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR3。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HIF-1αの発現又は活性抑制剤を投与する段階を含む眼疾患(例えば、網膜又は黄斑疾患)の予防又は治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HIF-1α(Hypoxia-inducible factor 1-alpha)は、HIF1A遺伝子によって暗号化される低酸素症誘発因子1(HIF-1)の一つのサブユニットである。HIF1Aは、低酸素症に対する細胞及び発達反応のマスター転写調節者とされている(Wang GL ee al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America.92(12):5510-4(1995))。低酸素症又は遺伝的原因によるHIF1Aの調節障害及び過発現は、癌だけでなく、特に血管形成及び血管新生、エネルギー代謝、細胞生存及び腫瘍侵襲領域において多数の他の病態生理学に大きく関連している(Semenza GL,Nature Reviews.Cancer.3(10):721-32(2003))。
【0003】
網膜は、眼球壁の最内側に位置して硝子体(vitreous body)と接している透明且つ薄い膜で、事物の光学的情報を電気的信号に変換し、視覚神経を通じて脳の中枢視覚領域に映像を伝達する一次視覚情報器官として働く。網膜は、1億個を超える光感知細胞(光受容体細胞、light-sensitive photoreceptor cells)と百万個を超える視覚神経細胞である神経節細胞(ganglion cells)、及びそれらを連結する神経細胞からなっている。黄斑は、網膜の中心部に位置している神経組織で、視細胞の大部分がここに集まっており、物体の像が結ばれる所であって、中心視力を担当する。黄斑部(macula lutea)は、円錐細胞で構成された光受容体細胞層及び神経節細胞層からなっており、網膜の厚さが薄く、明るい光状態で映像の電気的信号が化学的信号に転換され、神経節細胞の軸索である視覚神経(optic nerve)に沿って脳に伝達され、黄斑部以外の網膜は、周辺部を見分け、暗い時に主役割を担当する。したがって、加齢又は外部的な要因によって網膜又は黄斑に異常が発生すると、視力と視野に問題が生じる視覚障害の他に失明にまで至ることがある。網膜又は黄斑疾患には脈絡膜血管新生、黄斑変性、黄斑浮腫、網膜病症、網膜浮腫、網膜血管閉塞、網膜剥離、緑内障などがある。
【0004】
上記の背景技術として説明された事項は、本発明の背景に対する理解増進のためのものに過ぎず、この技術の分野における通常の知識を有する者に既に知られた従来技術に該当することを認めるものと理解されてはならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、抗体又はその抗原結合断片、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子、又は前記核酸分子を含むベクターをそれを必要とする対象体に治療的有効量投与する段階を含む、HIF-1αの発現又は活性抑制による、既存の眼疾患治療剤に不応性又は無反応性である眼疾患の予防又は治療方法を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、抗体又はその抗原結合断片、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子、又は前記核酸分子を含むベクターをそれを必要とする対象体に治療的有効量投与する段階を含む、HIF-1αの発現又は活性抑制方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、HIF-1αの発現又は活性抑制剤をそれを必要とする対象体に治療的有効量投与する段階を含む、既存の眼疾患治療剤に不応性又は無反応性である眼疾患の予防又は治療方法を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、HIF-1αの発現又は活性抑制剤を有効成分として含む、既存の眼疾患治療剤に不応性又は無反応性である眼疾患の予防又は治療用薬剤学的組成物を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的及び利点は、下記の発明の詳細な説明、特許請求の範囲及び図面から、より明確になる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、HIF-1αの発現又は活性抑制剤及びその用途に関し、例えば、HIF-1αの発現又は活性を抑制する抗体又はその抗原結合断片、これをコードする核酸分子、又は前記核酸分子を含むベクターの投与によって、眼疾患、特に、既存の網膜又は黄斑疾患治療剤に不応性又は無反応性である網膜又は黄斑疾患が制御、治療、緩和、又は減少したり或いは再発が抑制され得る。
【0011】
本発明の理解を容易にするために多数の用語及び語句が定義される。更なる定義は、詳細な説明全般において提示される。
【0012】
I.定義
【0013】
本明細書において用語「約」は、概略(approximately)、凡そ(roughly)、~の近く(around)、又は「~の領域内」を意味する。用語「約」が数値範囲と共に使われるとき、それは、提示された数値の上又は下へと境界を拡張させることによって当該範囲を変形する。一般に、用語「約」は、例えば、上又は下へ(より高く又はより低く)10パーセントの変動まで、言及された値の上又は下へと数値を変形できる。
【0014】
本明細書で使われる用語「“治療する(treat)」、「治療する(treating)」及び「治療(treatment)」は、疾患に関連した症状、合併症、状態又は生化学的指標の進行、発生、深刻性又は再発を反転、改善、緩和、阻害又は遅延させる目的で対象に対して行われた任意の種類の介入又は過程、又は対象への活性剤の投与のことを指す。治療は、疾患を持つ対象又は疾患を持っていない対象(例えば、予防)に対して行われてよい。
【0015】
本明細書で使われる用語「投与」は、当業者に公知された様々な方法及び送達システム(delivery systems)のいずれかを用いて、対象に治療剤又は治療剤を含む組成物を物理的に導入することを指す。本明細書に開示される抗体のための様々な投与経路は、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、脊椎又は他の非経口投与経路、例えば、注射(injection)又は注入(infusion)によるものを含む。本明細書で使われる用語「非経口投与」は一般に、注射による、腸(enteral)及び局部的(topical)投与以外の別の投与方式を意味し、特に限定されないが、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、髄腔内、リンパ内、病巣内、嚢内(intracapsular)、眼窩内(intraorbital)、心臓内、血内、経気管支(transtracheal)、器官内、肺、皮下、表皮下、眼内、関節内、嚢下、蜘蛛膜下、脳室内、硝子体内(intravitreal)、硬膜外、及び胸骨下注射及び注入、さらには生体内電気穿孔を含む。本明細書に記載される組成物の好ましい投与経路は、眼内投与を含む。
【0016】
本明細書において用語「眼内」は、眼組織の内部又は下部のことを指す。本明細書で使われる用語「眼内投与」は、組成物を眼のテノン嚢下(sub-Tenon)、結膜下、脈絡膜上(suprachoroidal)、網膜下(subretinal)、硝子体内及び類似位置に伝達できる任意の投与を指す。いくつかの側面において、眼内投与は、脈絡膜上(suprachoroidal)、網膜下(subretinal)、硝子体内投与を含む。
【0017】
本明細書において用語「案疾患」は、眼球に発生する疾病を意味し、眼血管疾患や、網膜又は黄斑疾患、角膜疾患、結膜疾患、葡萄膜疾患、緑内障、白内障などを含む。
【0018】
本明細書において用語「眼血管疾患」、「眼血管障害」及び「血管眼疾患」は、本願において互換的に使われてよく、眼内新生血管症候群、例えば、糖尿病性網膜病症、糖尿病性黄斑浮腫、未熟児の網膜病症、新生血管緑内障、網膜静脈閉塞、中心網膜静脈閉塞、黄斑変性、加齢黄斑変性、色素性網膜炎、網膜血管腫増殖、黄斑毛細血管拡張、虚血性網膜病症、虹彩新生血管形成、眼内新生血管形成、角膜新生血管形成、網膜新生血管形成、脈絡膜新生血管形成及び網膜変性を含むが、それらに限定されない(Garner,A.,Vascular diseases,In:Pathobiology of ocular disease,A dynamic approach,Garner,A.,and Klintworth,G.K.,(eds.),2nd edition,Marcel Dekker,New York(1994)、pp.1625-1710)。本願で使われているように、眼血管障害は、眼組織、例えば、網膜又は角膜の構造物内への新生血管の変更された又は非調節された増殖及び侵襲を特徴とする任意の病理学的状態を指す。
【0019】
一実施態様において、眼血管疾患は、下記疾患からなる群から選ばれる:湿性加齢黄斑変性(湿性AMD)、乾性加齢黄斑変性(乾性AMD)、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、嚢様黄斑浮腫(CME)、非増殖性糖尿病性網膜病症(NPDR)、増殖性糖尿病性網膜病症(PDR)、嚢様黄斑浮腫、血管炎(例えば、中心網膜静脈閉塞)、乳頭浮腫、網膜炎、結膜炎、葡萄膜炎、脈絡膜炎、多焦点脈絡膜炎、眼ヒストプラズマ症、眼瞼炎、眼の乾燥(シェーグレン病)及び他の眼科疾患(このとき、眼疾患又は障害は、眼新生血管形成、血管漏れ及び/又は網膜浮腫と関連している。)。したがって、本発明に係る抗体又はその抗原結合断片は、湿性AMD、乾性AMD、CME、DME、NPDR、PDR、眼瞼炎、眼の乾燥及び葡萄膜炎、好ましくは湿性AMD、乾性AMD、眼瞼炎及び眼の乾燥、より好ましくはCME、DME、NPDR及びPDR、さらに好ましくは眼瞼炎及び眼の乾燥、特に湿性AMD及び乾性AMD、より特に湿性AMDの予防及び治療に有用である。一部の実施態様において、眼疾患は、湿性加齢黄斑変性(湿性AMD)、黄斑浮腫、網膜静脈閉塞、未熟児の網膜病症及び糖尿病性網膜病症からなる群から選ばれる。
【0020】
本明細書で使われる用語「網膜疾患」又は「黄斑疾患」は、眼球の脈絡膜、網膜又は黄斑の一部又は領域に影響を与えたり関連する疾患、疾病又は症状のことを指す。
【0021】
本明細書に開示の組成物及び方法によって治療可能な網膜又は黄斑疾患は、脈絡膜血管新生、黄斑病症、黄斑浮腫、網膜病症、網膜細胞変性、網膜血管閉塞、網膜剥離及び緑内障からなる群から選ばれる1以上の疾患を含む。
【0022】
本明細書で使われる用語「網膜病症」は、網膜(すなわち、角膜と水晶体を通過する像を捕捉する眼裏側の内表面を包んでいる組織)又は網膜細胞の疾患又は損傷のことを指す。
【0023】
本明細書で使われる用語「糖尿病性網膜病症」(DR)は、糖尿病と関連した合併症によって誘発される網膜病症を指し、非増殖性糖尿病性網膜病症(NPDR)、増殖性糖尿病性網膜病症(PDR)、糖尿病性黄斑病症及び糖尿病性黄斑浮腫を含むが、これに限定されない如何なる類型の糖尿病性網膜病症も含む。
【0024】
前記疾患の重症度によって、DRは、無症状であるか、軽微な視力問題を招いたり失明につながることがある。DRは、微小血管網膜変化の結果である。高血糖症誘導壁内(intramural)血管周囲細胞の死滅と基底膜の肥厚は血管壁の不全につながることがある。これらの損傷は、血液-網膜障壁の形成を変化させ、網膜血管をより透過しやすくする。
【0025】
DRは、2個の別の段階に分類可能である(Wu L.,el al.,World J Diabetes 4(6):290-294(2013))。非増殖性糖尿病性網膜病症(NPDR)と言われる第1期は、早期糖尿病性網膜病症と関連がある。NPDRは一般的に明らかな症状がないか、又は周辺組織に体液が抜け出る血管によって起きる軽微な視力歪み(vision distortion)と関連がある。治療しないで放置すると、DR患者は増殖性糖尿病性網膜病症(PDR)というより進行した第2期につながることがある。PDRは、破裂と出血を引き起こして視界を曇らせるような新しい異常血管形成(すなわち、血管新生)を特徴とする。PDRの他の症状としては、目の前に斑点又は濃い縞が浮いて見える症状(「飛蚊症(floaters)」)、視力変化、色覚損傷、視野が欠けて見える症状、眼の疼痛、不均一な視力と完全な視力喪失などを含む。
【0026】
本明細書で使われる用語「黄斑病症」は、非常に敏感で正確な視力と関連がある網膜の中心領域である黄斑の任意の病理学的症状を意味する。いくつかの側面において、用語「黄斑病症」及び「網膜病症」は互換して使われてよい(すなわち、黄斑の影響のみを受ける場合)。いくつかの側面において、前記黄斑病症は糖尿病性黄斑病症である。
【0027】
「糖尿病性黄斑病症」は、糖尿病によって発生した網膜変化による影響が黄斑に及ぶ時に発生する。この用語は、2つの区別される眼疾患である糖尿病性黄斑浮腫と糖尿病性虚血性黄斑病症を意味する。
【0028】
本明細書で使われる用語「黄斑変性」は、黄斑又は黄斑細胞が変性されたり機能的活性を失う任意の数の障害と症状を指す。加齢黄斑変性は黄斑変性の最も一般的なものであるが、用語「黄斑変性」は、老人以外の患者の黄斑変性を必ずしも排除しない。黄斑変性の非制限的な例は:加齢黄斑変性(湿性又は乾性);Best黄斑異栄養症、Sorsby眼底異栄養症、Mallatia Leventinese、 Doyneハチの巣状網膜異栄養症、Stargardt病(Stargardt黄斑異栄養症、青少年黄斑変性又は黄色斑眼底(fundus flavimaculatus)ともいう。)及び色素上皮剥離関連黄斑変性を含む。
【0029】
本明細書で使われる用語「加齢黄斑変性」(AMD)は、一般に老人に影響を及ぼし、網膜の中央部(すなわち、黄斑)損傷による中心視喪失と関連した網膜病症を意味する。AMDは一般に、黄斑(主に網膜色素上皮(RPE)とその下にある脈絡膜との間)内ドルーゼン(アミロイドベータのような細胞外タンパク質及び脂質の蓄積)という黄色を帯びる不溶性細胞外沈着物の漸進的な蓄積又は凝集を特徴とする。黄斑内におけるこれら沈着物の蓄積又は凝集は、黄斑を漸次悪化させ、中心視損傷を招くことがある。本明細書で使われる用語「黄斑」は、中央の高解像度色覚を担当する網膜の中心部を意味する。
【0030】
AMDには、2つの主要形態である(i)乾性AMD、及び(ii)湿性AMDがある。特に断りのない限り、用語「加齢黄斑変性」は、乾性AMD及び湿性AMDの両方を含む。また、本明細書で使われる用語「加齢黄斑変性」は、原因に関係なく、全ての類型の加齢黄斑変性と加齢黄斑変性の任意及び全ての症状を含む。黄斑変性(例えば、加齢黄斑変性)に関連した症状の非制限的な例は:中心視喪失、歪み、造影剤感度低下、霧視、低照度適応の困難、突然の発病、症状の急速悪化及び色覚減少を含む。一部の側面において、黄斑変性(例えば、加齢黄斑変性)は、黄斑浮腫(すなわち、黄斑上又は下に体液とタンパク質沈着物の捕集による黄斑腫脹)を起こすことがある。
【0031】
本明細書で使われる用語「乾性AMD」(萎縮性加齢黄斑変性又は非滲出性AMDともいう。)は、湿性(血管新生性)AMD以外の全形態のAMDのことを指す。これは、初期及び中期形態のAMDだけでなく、地図状萎縮と知られた進行期形態の乾性AMDも含む。乾性AMD患者は、より早い初期において最小症状を持つ傾向があり;視覚機能喪失は、症状が地図状萎縮に進行する場合に、より頻繁に発生する。
【0032】
本明細書で使われる用語「湿性AMD」(血管新生性加齢黄斑変性又は滲出性AMDともいう。)は、網膜血管新生の存在を特徴とする網膜症状のことを指し、最も進行された形態のAMDである。湿性AMDにおいて血管は、ブルッフ膜(Bruch’s membrane)の欠陥により、脈絡膜毛細血管及び一部の場合には下部の網膜色素上皮(脈絡膜新生血管形成又は血管新生)から成長する。これらの血管から抜け出る漿液性又は血性滲出物の組織化は、神経網膜の付随的変性、網膜色素上皮の剥離及び破裂、硝子体出血及び中心視の永久損傷と共に、黄斑部位の線維血管瘢痕の生成を起こすことがある。
【0033】
本明細書で使われる用語「血管新生」は、出血を誘発し、視力喪失を起こし得る眼の異なる部分における新しい異常血管成長のことを指す。本明細書で使われる用語「脈絡膜血管新生」は、脈絡膜(すなわち、結合組織を含み、網膜と鞏膜との間にある眼の血管層)における新しい血管の異常成長のことを指す。湿性AMDにおいて新しい血管は、網膜色素上皮(RPE)と脈絡膜を経て網膜へと成長でき、血液及び脂質の漏れによって視覚機能に損傷を与えることがある。本明細書で使われる用語「網膜血管新生」は、網膜の上部又は内部、例えば、網膜表面における血管の異常発達、増殖及び/又は成長のことを指す。網膜血管新生は、網膜虚血と関連した網膜病症(例えば、糖尿病性網膜病症、鎌状赤血球網膜病症、イールズ(Eales)病、眼虚血症候群、頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid cavernous fistula)、家族性滲出性硝子体網膜病症、過粘稠度症候群、放射線網膜病症、網膜静脈閉塞、網膜動脈閉塞、網膜塞栓症、バードショート網膜脈絡膜症(birdshot retinochoroidopathy)、脈絡膜黒色腫、慢性網膜剥離、前部虚血性視神経病症(AION)、非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)及び色素失調症(incontinentia pigmenti))のような多くの網膜病症において発生し得る。
【0034】
本明細書で使われる用語「緑内障」は、視神経(optic nerve)又は視神経細胞の損傷によって視野欠損が起こる疾患を指す。緑内障は失明の主要原因の一つである。緑内障の非制限的な例は:原発先天緑内障、開放偶角緑内障、閉塞偶角緑内障を含む。
【0035】
本明細書で使われる用語「網膜色素変性」(RP)は、網膜の視覚細胞(optic cell)と網膜色素上皮細胞が損傷(変性)される遺伝性網膜疾患を指す。視覚細胞が損傷するにつれて、初期に夜盲症が発生し、次第に視野が狭くなり、結局としては失明に至る。
【0036】
本明細書で使われる用語「不応性」又は「無反応性」は、既存の眼疾患治療に反応しないか、又は既存の治療によって十分の効果が得られないことを指す。
【0037】
本明細書で使われる用語「既存の眼疾患治療剤」は、本発明の出願日前に開発又は販売された眼疾患治療剤、又は作用機序が既に公知された眼疾患治療方式を適用した治療剤を意味する。
【0038】
本明細書で使われる用語「既存の網膜又は黄斑疾患治療剤」は、VEGFA、VEGFB、PIGF、CCR3、VEGFR、PDGFR、CSF1R、FGF-2、PGF及びAng2からなる群から選ばれる一つ以上の標的タンパク質の発現又は活性を抑制する物質であってよい。このような物質には、これら標的タンパク質の発現又は活性を抑制できる化合物、核酸、ペプチド、ウイルス、前記核酸を含むベクター、これらタンパク質に特異的なsiRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、抗体又はその抗原結合断片を含むが、これに限定されるものではない。
【0039】
既存の網膜又は黄斑疾患治療剤の好ましい例は、VEGF抑制剤であってよい。本明細書で使われる用語「VEGF抑制剤」は、VEGFのみを抑制したり、又は他のタンパク質(例えば、ANG-2)とVEGFを同時に抑制する物質を包括的に指し、作用時間などを増加させるためにVEGF抑制剤に生重合体(biopolymer)を接合させた形態の物質も含まれる。VEGF抑制剤の例には、アフリベルセプト(aflibercept;アイリーア(Eylea)(登録商標)などの商品名で市販)、ラニビズマブ(ranibizumab;ルセンティス(Lucentis)(登録商標)、サスビモ(Susvimo)(登録商標)-Port Delivery Systemなどの商品名で販売)、ベバシズマブ(bevacizumab;アバスチン(Avastin)(登録商標)などの商品名で販売)、ブロルシズマブ(brolucizumab);ベオビュ(Beovu)(登録商標)などの商品名で販売)、ペガプタニブ(pegaptanib;マクジェン(Macugen)(登録商標)などの商品名で販売)、ファリシマブ(faricimab;バビースモ(Vabysmo)(登録商標)などの商品名で販売)、KSI-301、これらの組合せなどを含むが、これに限定されるものではない。
【0040】
本明細書で使われる語句「HIF-1αの発現又は活性を抑制する」とは、HIF1A遺伝子又はタンパク質の発現又はHIF-1αタンパク質活性の任意の測定可能な減少、例えば、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約99%、又は100%までのHIF-1αの発現又は活性の阻害を含む。
【0041】
用語「有効量」、「治療的有効量」又は「有効投薬量」は、所望の効果を達成したり又は少なくとも部分的に達成するのに十分な量と定義される。薬物又は治療剤の「治療的有効量」又は「治療的有効投薬量」は、単独で又は他の治療剤との組合せで使用されたとき、疾患症状の深刻性の減少によって証明された疾患退行(regression)、疾患症状がない期間の頻度及び持続期間の増加、又は疾患による障害や傷害の予防を促進する薬物の量である。薬物の治療的有効量又は有効投薬量は「予防的有効量」又は「予防的有効投薬量」を含み、これは、単独で又は他の治療剤との組合せで疾患発生の危険があるか又は疾患の再発で苦痛を受ける危険がある対象に投与された時に疾患の発生や再発を阻害する薬物の量である。
【0042】
例えば、網膜又は黄斑疾患治療において、薬物の治療的有効量又は有効投薬量は、治療されてない対象に比べて少なくとも約20%、少なくとも約40%、少なくとも約60%、又は少なくとも約80%までHIF-1αの発現又は活性を阻害する。
【0043】
用語「抗体」は当業界の用語で、本明細書において互換的に使われてよく、抗原に特異的に結合する抗原結合部位を有する分子のことを指す。本明細書で使われる用語は、全抗体及び任意の抗原結合断片(すなわち、「抗原結合部分」)又はこれらの一本鎖を含む。一具体例において、「抗体」は、二硫化物結合によって相互連結された少なくとも2個の重鎖(H)と2個の軽鎖(L)を含む糖タンパク質、又はその抗原結合部分のことを指す。他の具体例において、「抗体」は、単一可変ドメイン、例えばVHHドメインを含む一本鎖抗体のことを指す。各重鎖は、重鎖可変領域(VHと略す。)と重鎖定常領域とからなる。特定自然発生抗体において、重鎖定常領域は、3個のドメインCH1、CH2及びCH3からなる。特定自然発生抗体において、各軽鎖は、軽鎖可変領域(VLと略す。)と軽鎖定常領域とからなる。軽鎖定常領域は、1個のドメインCLからなる。
【0044】
VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称する、より保存される領域が散在している、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分できる。それぞれのVH及びVLは、3個のCDR及び4個のFRからなり、これらは、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4の順にアミノ末端からカルボキシ末端に向かって配列される。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、免疫システムの様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)及び正統補体システムの第1成分(C1q)を含む宿主組織又は因子と免疫グロブリンの結合を媒介できる。
【0045】
抗体は、免疫グロブリン分子の任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA又はIgY)、任意の類型(例えば、IgD、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1又はIgA2)、又は任意の亜型(例えば、ヒトにおいてIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4;並びにマウスにおいてIgG1、IgG2a、IgG2b及びIgG3)を有してよい。免疫グロブリン、例えばIgG1は、いくつかのアロタイプとして存在し、これらは最大で数個のアミノ酸が互いに異なっている。本明細書に開示の抗体は、周知のアイソタイプ、類型、亜型、又はアロタイプのいずれかに由来してよい。特定の具体例において、本明細書に開示の抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4亜型又はこれらの任意のハイブリッドである。特定の具体例において、抗体は、ヒトIgG1亜型又はヒトIgG2又はヒトIgG4亜型のものである。
【0046】
「抗体」は、例えば、自然発生及び非自然発生抗体;単クローン性及び多クローン性抗体;キメラ及びヒト化された抗体;ヒト及び非ヒト抗体、全体合成抗体;一本鎖抗体;単一特異的抗体;多重特異的抗体(二重特異的抗体を含む);2個の重鎖と2個の軽鎖分子を含むテトラマー抗体;抗体軽鎖モノマー;抗体重鎖モノマー;抗体軽鎖ダイマー;抗体重鎖ダイマー;抗体軽鎖-抗体重鎖対;イントラボディ;ヘテロコンジュゲート抗体;1価抗体;ラクダ化抗体;アフィボディ;抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、抗-抗Id抗体を含む)、及び十分に抗原結合可能な単一モノマー可変抗体ドメイン(例えば、VHドメイン又はVLドメイン)で構成された結合分子を含む単一ドメイン抗体(sdAb)を含む(Harmen M.M.and Haard H.J.Appl Microbiol Biotechnol.77(1):13-22(2007))。
【0047】
本明細書で使われる用語抗体の「抗原結合部分」、すなわち、「抗原結合断片」は、抗原に特異的に結合する能力を保有している抗体の一つ以上の断片のことをいう。このような「断片」は、例えば、約8~約1500個アミノ酸長、好ましくは約8~約745個アミノ酸長、より好ましくは約8~約300個、例えば約8~約200個アミノ酸、又は約10個~約50又は100個アミノ酸長である。抗体の抗原結合機能は、全長抗体の断片によってなされ得ることが明らかにされた。抗原結合断片という用語に含まれる結合断片の例は、(i)VL、VH、CL、及びCH1ドメインで構成された1価断片であるFab断片;(ii)ヒンジ領域で二硫化物ブリッジによって連結された2個のFab断片を含む2価断片であるF(ab’)2断片;(iii)VH及びCH1ドメインで構成されたFd断片;(iv)抗体の単一腕のVL及びVHドメインで構成されたFv断片、及び二硫化物連結されたFvs(sdFv);(v)VHドメインで構成されたdAb断片(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546);及び(vi)分離された相補性決定領域(CDR)又は(vii)合成リンカーによって選択的につながり得る2つ以上の分離されたCDRの組合せを含むが、これに限定されるものではない。また、Fv断片の両ドメインであるVLとVHは、別個の遺伝子によってコードされるが、これらは合成リンカーによって、組換え方法によってつながってよく、これにより、VLとVH領域が対をなして1価分子を形成した単一タンパク質鎖になり得る(一本鎖Fv(scFv)という。)(例えば、Bird et al.,(1988)Science 242:423-426;及びHuston et al.,(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883参照)。このような一本鎖抗体も、抗体の「抗原結合部分」又は「抗原結合断片」という用語内に含まれる。これらの抗体断片は、当業者に公知された従来の技術によって得られ、これらの断片は無損傷抗体と同じ方式で有用性に対してスクリーニングされる。抗原結合部分は、組換えDNA技術によって又は無損傷免疫グロブリンの酵素又は化学切断によって生成されてよい。
【0048】
本明細書で使われる用語「可変領域」又は「可変ドメイン」は、当業界において一般に互換的に使われる。可変領域は、典型的に抗体の一部分、一般的に軽鎖又は重鎖の一部分、典型的に成熟した重鎖において約アミノ末端110~120個アミノ酸及び成熟した軽鎖において約90~115個アミノ酸をいい、これらは、抗体と比較して配列が広範囲に異なり、その特定抗原に対する特定抗体の結合及び特異性があるため使用される。配列変動性は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる領域に集中し、可変ドメインにおいてより高度に保存された領域はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。
【0049】
軽鎖及び重鎖のCDRは、抗原と抗体の相互作用及び特異性を主に担当するとされている。特定の具体例において、可変領域は、ヒト可変領域である。特定の具体例において、可変領域は、齧歯類又はネズミ科のCDRとヒトフレームワーク領域(FR)を含む。特定の具体例において、可変領域は、霊長類(例えば、非ヒト霊長類)可変領域である。特定の具体例において、可変領域は、齧歯類又はネズミ科のCDRと霊長類(例えば、非ヒト霊長類)フレームワーク領域(FR)を含む。
【0050】
本明細書で使われる用語「重鎖」は、抗体と関連して使われたとき、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、任意の異なるタイプ、例えば、アルファ(α)、デルタ(δ)、エプシロン(ε)、ガンマ(γ)及びミュー(μ)を意味でき、これらはそれぞれIgGの亜型、例えば、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含み、抗体のIgA、IgD、IgE、IgG及びIgM類型を発生させる。
【0051】
本明細書で使われる用語「軽鎖」は、抗体と関連して使われたとき、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、任意の異なるタイプ、例えば、カッパ(κ)及びラムダ(λ)を意味できる。軽鎖アミノ酸配列は当業界によく公知されている。特定の具体例において、軽鎖はヒト軽鎖である。
【0052】
用語「VL」及び「VLドメイン」は互換的に使われてよく、抗体の軽鎖可変領域のことを指す。
【0053】
用語「VH」及び「VHドメイン」は互換的に使われてよく、抗体の重鎖可変領域のことを指す。
【0054】
本明細書で使われる用語「定常領域」又は「定常ドメイン」は互換的に使われてよく、当業界における通常の意味を有する。定常ドメインは抗体部分であり、例えば、抗体と抗原の結合には直接関係しないが、Fc受容体との相互作用のような様々なエフェクター機能を示し得る軽鎖及び/又は重鎖のカルボキシ末端部分である。免疫グロブリン分子の定常領域は一般に、免疫グロブリン可変ドメインに比べてより保存されたアミノ酸配列を有する。
【0055】
「Fc領域」(断片結晶化可能な領域)又は「Fcドメイン」又は「Fc」は、免疫システムの様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)上に位置しているFc受容体又は正統補体システムの第1成分(C1q)との結合を含め、宿主組織又は因子と免疫グロブリンの結合を媒介する抗体の重鎖のC末端領域のことを指す。したがって、Fc領域は、第1定常領域免疫グロブリンドメイン(例えば、CH1又はCL)以外の抗体定常領域を含む。IgG、IgA及びIgD抗体アイソタイプにおいて、Fc領域は、抗体の両重鎖の第2(CH2)及び第3(CH3)定常ドメインに由来する2個の同じタンパク質断片を含む;IgM及びIgE Fc領域は各ポリペプチド鎖に3個の重鎖定常ドメイン(CHドメイン2~4)を含む。IgGにおいて、Fc領域は免疫グロブリンドメインCγ2及びCγ3と、Cγ1とCγ2間のヒンジを含む。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は様々であるが、ヒトIgG重鎖Fc領域は一般に、位置C226又はP230に存在するアミノ酸残基(又は、これら両アミノ酸間のアミノ酸)から重鎖のカルボキシ末端まで延びたものに限定され、ここでナンバリングはKabatにおけるようなEUインデックスに従う。ヒトIgG Fc領域のCH2ドメインは、約アミノ酸231から約アミノ酸340まで延長され、CH3ドメインは、Fc領域においてCmドメインのC末端側に位置するが、すなわち、それはIgGの約アミノ酸341から約アミノ酸447まで延長される。Fc領域は、任意のアロタイプ変異体を含む自生配列Fc、又は変異体Fc(例えば、非自然発生Fc)であってよい。また、Fcは、分離された状態の領域を指すか、又は「Fc融合タンパク質」(例えば、抗体又は免疫癒着(immunoadhesion))ともいわれる、「Fc領域を含む結合タンパク質」のような含Fcタンパク質ポリペプチドと関連した領域のことを指す。
【0056】
「ヒンジ」、「ヒンジドメイン」又は「ヒンジ領域」又は「抗体ヒンジ領域」は、CH1ドメインをCH2ドメインに連結してヒンジの上部、中央、及び下部を含む重鎖定常領域のドメインのことを指す(Roux et al.J.Immunol.1998 161:4083)。ヒンジは、抗体の結合領域とエフェクター領域との間に可撓性のレベルを変化させ、また、両重鎖定常領域の間に分子間二硫化物結合のための部位を提供する。野生型IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4ヒンジの配列が当業界に公知されている(例えば、Kabat EA et al.,(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242;Vidarsson G.et al.,Front Immunol.5:520(2014年10月20日オンライン公開)参照)。
【0057】
本明細書で使われる用語「アイソタイプ」は、重鎖定常領域遺伝子によって暗号化される抗体類型(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD、及びIgE抗体)のことを指す。
【0058】
本明細書で使われる用語「アロタイプ」は、いくつかのアミノ酸が相違する特定のアイソタイプグループ内で自然発生した変異体のことを指す(例えば、Jefferis et al.(2009)mAbs1:1参照)。本明細書に提示された抗体は任意のアロタイプを有してよい。IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4のアロタイプは当業界に公知されている(例えば、Kabat EA et al.,(1991)(同上);Vidarsson G.et al.,Front Immunol.5:520(2014年10月20日オンライン公開);及びLefranc MP,mAbs 1:4,1-7(2009)参照)。
【0059】
本明細書で使われる用語「分離された抗体」は、異なる抗原特異性を持つ他の抗体が実質的にない抗体のことを指す。
【0060】
本明細書で使われる用語「単クローン性抗体」は、特定エピトープに対して単一結合特異性及び親和性を示す抗体又は全ての抗体が特定エピトープに対して単一結合特異性及び親和性を示す抗体の組成物を指す。したがって、用語「ヒト単クローン性抗体」は、単一結合特異性を示し、ヒトジャームライン免疫グロブリン配列に由来する可変及び選択的定常領域を持つ抗体又は抗体組成物のことを指す。一具体例において、ヒト単クローン性抗体は、トランスジェニック非ヒト動物、例えば不死化細胞に融合されたヒト重鎖トランスジェンと軽鎖トランスジェンを含むゲノムを持つ、トランスジェニックマウスから得られたB細胞を含むハイブリドーマによって生成される。
【0061】
本明細書で使われる用語「組換えヒト抗体」は、(a)ヒト免疫グロブリン遺伝子に対してトランスジェンであるか又はトランス染色体性(transchromosomal)である動物(例えば、マウス)から分離された抗体又はこれによって製造されたハイブリドーマ、(b)抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から、例えばトランスフェクトーマ(transfectoma)から分離された抗体、(c)組換え、組合せヒト抗体ライブラリーから分離された抗体、及び(d)他のDNA配列に対するヒト免疫グロブリン遺伝子配列をスプライシングを伴う任意の他の手段によって製造、発現、生成又は分離された抗体のような、組換え手段によって製造、発現、生成又は分離された全てのヒト抗体を含む。このような組換えヒト抗体はジャームライン遺伝子によって暗号化されるが、例えば、抗体成熟化中に発生する後続再配列及び突然変異を含む特定のヒトジャームライン免疫グロブリン配列を利用する可変及び定常領域を含む。当業界に公知されているように(例えば、Lonberg(2005)Nature Biotech.23(9):1117-1125参照)、可変領域は、外来抗原に対して特異的な抗体を形成するように再配列した様々な遺伝子によって暗号化された、抗原結合ドメインを含有する。再配列に加えて、可変領域は、外来抗原に対する抗体の親和性を増加させるために、多数の単一アミノ酸変化(体細胞突然変異又は超突然変異)によってさらに変形されてよい。定常領域は、抗原に対する追加の反応(すなわち、アイソタイプスイッチ)で変わるであろう。したがって、抗原に反応して軽鎖及び重鎖免疫グロブリンポリペプチドを暗号化する、再配列され体細胞突然変異された核酸分子は、本来の核酸分子と配列同一性を有することはできないが、その代わりに、実質的に同一又は類似であろう(すなわち、少なくとも80%同一性を有する)。
【0062】
本明細書で使われる用語「ヒト」抗体(HuMAb)は、フレームワークとCDR領域の両方ともヒトジャームライン免疫グロブリン配列に由来する可変領域を持つ抗体のことを指す。また、この抗体が定常領域を含有する場合には、定常領域もヒトジャームライン免疫グロブリン配列に由来する。本明細書に提示の抗体は、ヒトジャームライン免疫グロブリン配列によって暗号化されないアミノ酸残基を含み得る(例えば、試験管内無作為又は部位特定突然変異誘発によって又は生体内体細胞突然変異によって導入された突然変異)。しかし、用語「ヒト抗体」は、マウスのような他の哺乳類種のジャームラインに由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列に移植された抗体は含まない。用語「ヒト」抗体と「完全なヒト」抗体は同義語として使われる。
【0063】
本明細書で使われる用語「ヒト化された抗体」は、非ヒト抗体のCDRドメイン外部のアミノ酸の一部、大部分又は全部がヒト免疫グロブリンに由来する相応するアミノ酸に置換された抗体のことを指す。抗体のヒト化された形態の一具体例において、CDRドメイン外部のアミノ酸の一部、大部分又は全部がヒト免疫グロブリンからのアミノ酸に置換され、一つ以上のCDR領域内のアミノ酸の一部、大部分又は全部はそのまま残る。アミノ酸の添加、欠失、挿入、置換又は変形は、これらが抗体が特定抗原に結合する能力をなくさない限り許容される。「ヒト化された」抗体は、原始抗体の抗原特異性に類似する抗原特異性を有する。
【0064】
本明細書で使われる用語「キメラ抗体」は、可変領域が一つの種に由来し、定常領域が他の種に由来する抗体、例えば、可変領域がマウス抗体に由来し、定常領域がヒト抗体に由来する抗体のことを指す。
【0065】
II.HIF-1αの発現又は活性抑制方法
【0066】
一態様によれば、本発明は、前記抗体又はその抗原結合断片、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子、又は前記核酸分子を含むベクターをそれを必要とする対象体に治療的有効量投与する段階を含む、HIF-1αの発現又は活性抑制方法を提供する。
【0067】
一態様によれば、本発明は、前記抗体又はその抗原結合断片、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子、又は前記核酸分子を含むベクターをそれを必要とする対象体に治療的有効量投与する段階を含む、HIF-1αの発現又は活性抑制による、既存の眼疾患(例えば、網膜又は黄斑疾患)治療剤に不応性又は無反応性である眼疾患(例えば、網膜又は黄斑疾患)の予防又は治療方法を提供する。
【0068】
一部の具体例において、前記抗体又はその抗原結合断片は、下記のCDR配列を含む:
【0069】
(i)配列番号1で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR1;
【0070】
(ii)配列番号2で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR2;
【0071】
(iii)配列番号3で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR3;
【0072】
(iv)配列番号4で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR1;
【0073】
(v)配列番号5で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR2;及び
【0074】
(vi)配列番号6で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR3。
【0075】
一部の具体例において、前記抗体又はその抗原結合断片は、配列番号7で表示されるアミノ酸配列の軽鎖可変領域、及び配列番号8で表示されるアミノ酸配列の重鎖可変領域を含む。
【0076】
一部の具体例において、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子は、配列番号9、配列番号10及び配列番号11の塩基配列を含んでよい。ここで、配列番号9、配列番号10及び配列番号11の塩基配列はそれぞれ、配列番号1で表示される軽鎖CDR1、配列番号2で表示される軽鎖CDR2及び配列番号3で表示される軽鎖CDR3をコードする。配列番号9~11の塩基配列はそれぞれ、CHO細胞に対してコドン最適化されてよく、このようにコドン最適化された塩基配列を含む核酸は、本発明に係る抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸の範囲内に含まれるものと解釈されるべきである。例えば、本発明に係る抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸は、配列番号17、配列番号18及び配列番号19を含んでよい。
【0077】
選択的に、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子は、配列番号12、配列番号13及び配列番号14の塩基配列を含んでよい。ここで、配列番号12、配列番号13及び配列番号14の塩基配列はそれぞれ、配列番号4で表示される重鎖CDR1、配列番号5で表示される重鎖CDR2、及び配列番号6で表示される重鎖CDR3をコードする。配列番号12~14の塩基配列はそれぞれ、CHO細胞に対してコドン最適化されてよく、このようにコドン最適化された塩基配列を含む核酸は、本発明に係る抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸の範囲内に含まれるものと解釈されるべきである。例えば、本発明に係る抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸は、配列番号20、配列番号21及び配列番号22を含んでよい。
【0078】
本発明の一態様によれば、本発明に係る抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸は、配列番号15又は配列番号23を含む軽鎖可変領域コーディング核酸を含んでよい。
【0079】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明に係る抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸は、配列番号16又は配列番号24を含む重鎖可変領域コーディング核酸を含んでよい。
【0080】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明に係る抗体又はその抗原結合断片は、配列番号25を含む軽鎖を含んでよい。
【0081】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明に係る抗体又はその抗原結合断片は、配列番号26を含む重鎖を含んでよい。
【0082】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明の抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸は、配列番号27又は配列番号29を含む軽鎖コーディング核酸を含んでよい。
【0083】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明に係る抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸は、配列番号28又は配列番号30を含む重鎖コーディング核酸を含んでよい。
【0084】
一部の具体例において、前記抗体は、WO2020/076105に記載されている2G4抗体である。
【0085】
前記抗体又はその抗原結合断片(又は、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子、又は前記核酸分子を含むベクターが発現して形成された抗体又はその抗原結合断片を含む。)は、前記HIF-1αの発現又は活性を抑制し、好ましくは生体内(in vivo)で、より好ましくは眼球内で、さらに好ましくは脈絡膜又は網膜内でなされるものであるが、これに限定されない。
【0086】
前記抗体又はその抗原結合断片(又は、前記核酸分子又は前記核酸分子を含むベクターが発現して形成された抗体又はその抗原結合断片を含む。)は、眼球内細胞においてHIF-1αの発現又は活性を抑制し、好ましくは、視神経細胞、網膜ミュラー(Mueller)細胞、脈絡膜細胞、網膜微小血管内皮細胞(RMEC)、網膜色素上皮(RPE)細胞及び光受容体細胞からなる群から選ばれる細胞においてなされるものであるが、これに限定されない。
【0087】
前記脈絡膜細胞、網膜微小血管内皮細胞(RMEC)、網膜色素上皮(RPE)細胞及び光受容体細胞の機能異常又は損傷が原因となって発生する疾患の例には、脈絡膜血管新生、黄斑病症、網膜病症、網膜細胞変性、網膜剥離、網膜血管閉塞(PDR)などがあり、前記視神経細胞、網膜ミュラー(Mueller)細胞の機能異常又は損傷が原因となって発生する疾患の例には緑内障などがある。
【0088】
前記HIF-1αの発現抑制は、HIF-1α遺伝子が発現してタンパク質合成、及びタンパク質分解調節を含む全体過程又はその一部過程を抑制又は阻害することを意味し、好ましくはmRNA又はタンパク質発現抑制、より好ましくはタンパク質分解促進による活性抑制であってよい。
【0089】
前記HIF-1αの活性抑制は、前記発現して生成されたHIF-1αタンパク質自体の機能抑制、HIF-1αタンパク質の分解促進、SCF誘導リン酸化によるHIF-1αの活性抑制などによって達成されてよい。
【0090】
ただし、本願ではHIF-1αの発現又は活性抑制が厳格に区別して使われるわけではなく、互換的に使われてよい。
【0091】
前記HIF-1αの発現又は活性抑制は、非投与した対象と比較して、前記抗体又はその抗原結合断片(又は、前記核酸分子又は前記核酸分子を含むベクターが発現して形成された抗体又はその抗原結合断片を含む。)の投与によって、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は100%までHIF-1αの発現を抑制させる。
【0092】
一部の具体例において、前記抗体又はその抗原結合断片(又は、前記核酸分子又は前記核酸分子を含むベクターが発現して形成された抗体又はその抗原結合断片を含む。)はさらに、血管新生因子及び/又は炎症因子を調節する。
【0093】
前記血管新生因子及び/又は炎症因子は、アンギオゲニン(Angiogenin)、アンジオポエチン-2(Angiopoietin-2)、CXCL16、エンドグリン(Endoglin)、凝固因子III(Coagulation Factor III)、エンドセリン-1(Endotherin-1)、MCP-1、EG-VEGF、VEGF、IGFBP-1、IGFBP-2、IL-1β、PDGF-AA、PIGF、セルピンE(Serpin E)、セルピンF1(Serpin F1)、トロンボスポンジン-2(Thrombospondin-2)、ANGPT2、ペントラキシン3(Pentraxin 3)、IL-8、FGF2及びFGF5からなる群から選ばれる1以上の因子であってよい。
【0094】
一部の具体例において、前記抗体又はその抗原結合断片(又は、前記核酸分子又は前記核酸分子を含むベクターが発現して形成された抗体又はその抗原結合断片を含む。)は、前記血管新生因子及び/又は炎症因子発現の上向き調節(up-regulation)を減少又は下向き調節(down-regulation)させる。
【0095】
前記血管新生因子及び/又は炎症因子発現の上向き調節の減少は、非投与した対象と比較して、前記抗体又はその抗原結合断片(又は、前記核酸分子又は前記核酸分子を含むベクターが発現して形成された抗体又はその抗原結合断片を含む。)の投与によって、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は100%まで上向き調節を減少させる。
【0096】
一部の具体例において、前記抗体又はその抗原結合断片(又は、前記核酸分子又は前記核酸分子を含むベクターが発現して形成された抗体又はその抗原結合断片を含む。)は、微小血管細胞の増殖、移動(migration)及び管形成(tube formation)からなる群から選ばれるものを減少させることができる。
【0097】
III.眼疾患の予防又は治療方法
【0098】
本発明の他の態様によれば、本発明は、HIF-1αの発現又は活性抑制剤をそれを必要とする対象体に治療的有効量投与する段階を含む眼疾患の予防又は治療方法を提供する。
【0099】
一態様によれば、本発明は、前記抗体又はその抗原結合断片、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子、又は前記核酸分子を含むベクターをそれを必要とする対象体に治療的有効量投与する段階を含む、HIF-1αの発現又は活性抑制による、既存の眼疾患(例えば、網膜又は黄斑疾患)治療剤に不応性又は無反応性である眼疾患(例えば、網膜又は黄斑疾患)の予防又は治療方法を提供する。
【0100】
一部の具体例において、前記HIF-1αの発現又は活性抑制剤は、下記のCDR配列を含む抗体又はその抗原結合断片、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子、又は前記核酸分子を含むベクターを含む:
【0101】
(i)配列番号1で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR1;
【0102】
(ii)配列番号2で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR2;
【0103】
(iii)配列番号3で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR3;
【0104】
(iv)配列番号4で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR1;
【0105】
(v)配列番号5で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR2;及び
【0106】
(vi)配列番号6で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR3。
【0107】
一部の具体例において、前記抗体又はその抗原結合断片は、配列番号7で表示されるアミノ酸配列の軽鎖可変領域、及び配列番号8で表示されるアミノ酸配列の重鎖可変領域を含む。
【0108】
一部の具体例において、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子は、上の項目<II.HIF-1αの発現又は活性抑制方法>で述べた記載をそのままこの項目にも導入する。
【0109】
一部の具体例において、前記抗体は、WO2020/076105に記載されている2G4抗体である。
【0110】
一部の具体例において、前記眼疾患は、眼血管疾患、網膜又は黄斑疾患、角膜疾患、結膜疾患、葡萄膜疾患、緑内障、白内障からなる群から選ばれる1以上の疾患である。
【0111】
一部の具体例において、前記網膜又は黄斑疾患は、脈絡膜血管新生、黄斑病症、網膜病症、網膜細胞変性、網膜血管閉塞、網膜剥離及び緑内障からなる群から選ばれる1以上の疾患である。
【0112】
一部の具体例において、前記網膜又は黄斑疾患は、糖尿病性網膜病症(Diabetic Retinopathy;DR)、糖尿病性黄斑浮腫(Diabetic Macular Edema;DME)、湿性黄斑変性(wet Age-related Macular Degeneration;wet AMD)、網膜静脈閉塞(Retinal Vein Occlusion;RVO)、未熟児の網膜症(Retinopathy of Prematurity)及び緑内障(Glaucoma)からなる群から選ばれる1以上の疾患である。
【0113】
一部の具体例において、本明細書に開示の方法は、治療する対象(例えば、DR、DME、AMDなど)の治療可能性を増加させたり又は治療期間を減少させる。例えば、対象の治療期間は、基準個体(例えば、本明細書に開示の抗体又は組成物で治療していない他の対象)と比較して、少なくとも約1ケ月、少なくとも約2ケ月、少なくとも約3ケ月、少なくとも約4ケ月、少なくとも約5ケ月、少なくとも約6ケ月、少なくとも約7ケ月、少なくとも約8ケ月、少なくとも約9ケ月、少なくとも約10ケ月、少なくとも約11ケ月、又は少なくとも約1年又はそれ以上まで治療期間を減少させる。さらに他の具体例において、本明細書に開示の方法は、対象の疾病がよくなった状態の持続期間を、基準対象(例えば、本明細書に開示の抗体又は組成物で治療していない他の対象)の持続期間よりも長いレベルに(約1ケ月さらに長く、約2ケ月さらに長く、約3ケ月さらに長く、約4ケ月さらに長く、約5ケ月さらに長く、約6ケ月さらに長く、約7ケ月さらに長く、約8ケ月さらに長く、約9ケ月さらに長く、約10ケ月さらに長く、約11ケ月さらに長く、又は約1年さらに長く)増加させる。
【0114】
一部の具体例において、本発明の方法は、対象の疾患進行がないか又は弱化した持続期間を増加させる。例えば、対象の疾患進行がない持続期間は、基準対象(例えば、本明細書に開示の抗体又は組成物で治療していない他の対象)と比較して、少なくとも約1ケ月、少なくとも約2ケ月、少なくとも約3ケ月、少なくとも約4ケ月、少なくとも約5ケ月、少なくとも約6ケ月、少なくとも約7ケ月、少なくとも約8ケ月、少なくとも約9ケ月、少なくとも約10ケ月、少なくとも約11ケ月、又は少なくとも約1年まで増加する。
【0115】
一部の具体例において、本明細書に開示の方法は、一群の対象での反応速度を効果的に増加させる。例えば、一群の対象での反応速度は、基準対象(例えば、本明細書に開示の抗体又は組成物で治療していない他の対象)と比較して、少なくとも約2%、少なくとも約3%、少なくとも約4%、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%又は少なくとも約100%まで増加する。
【0116】
一部の具体例において、本明細書で使われる用語「基準」は、本明細書に開示の組成物(例えば、HIF-1αの発現又は活性抑制剤、例えば抗体)を非投与した当該対象(例えば、糖尿病性網膜病症又は加齢黄斑変性を持つ対象)のことを指す。また、用語「基準」は、本明細書に開示の組成物を投与する前の同対象(例えば、糖尿病性網膜病症又は加齢黄斑変性を持つ対象)のことを指してもよい。特定の態様において、用語「基準」は、対象(例えば、糖尿病性網膜病症又は加齢黄斑変性を持つ対象)の集団の平均を指す。
【0117】
一部の具体例において、本開示内容で治療可能な網膜病症は、糖尿病性網膜病症を含む。特定の態様において、糖尿病性網膜病症は、非増殖性糖尿病性網膜病症(NPDR)である。他の態様において、糖尿病性網膜病症は、増殖性糖尿病性網膜病症(PDR)である。一部の態様において、糖尿病性網膜病症は、糖尿病性黄斑病症である。他の態様において、糖尿病性網膜病症は、糖尿病性黄斑浮腫である。一部の態様において、糖尿病性網膜病症は、網膜内虚血性損傷と関連した任意の網膜病症である。
【0118】
一部の具体例において、本開示内容で治療可能な黄斑変性は、加齢黄斑変性(AMD)を含む。一部の態様において、加齢黄斑変性は初期AMDである。他の態様において、加齢黄斑変性は中期AMDである。他の態様において、加齢黄斑変性は、後期又は進行性AMD(すなわち、地図状萎縮)である。一部の態様において、加齢黄斑変性は、乾性(非滲出性)AMDである。他の態様において、加齢黄斑変性は、湿性(血管新生性又は滲出性)AMDである。
【0119】
一部の具体例において、本方法で治療される対象は、非ヒト動物、例えばラット又はマウスである。一部の具体例において、本方法で治療される対象は、ヒトである。
【0120】
一実施態様において、本方法における「既存の網膜又は黄斑疾患治療剤」は、VEGF抑制剤であってよく、具体的には、アフリベルセプト(aflibercept)、ラニビズマブ(ranibizumab)、サスビモ(Susvimo)(登録商標)、ベバシズマブ(bevacizumab)、ブロルシズマブ(brolucizumab)、ペガプタニブ(pegaptanib)、ファリシマブ(faricimab)、及びKSI-301からなる群から選ばれるものであってよい。
【0121】
IV.薬剤学的組成物又は用途
【0122】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、HIF-1αの発現又は活性抑制剤を有効成分として含む眼疾患(例えば、網膜又は黄斑疾患)の予防又は治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0123】
一部の具体例において、前記HIF-1αの発現又は活性抑制剤は、下記のCDR配列を含む抗体又はその抗原結合断片、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子、又は前記核酸分子を含むベクターを含む:
【0124】
(i)配列番号1で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR1;
【0125】
(ii)配列番号2で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR2;
【0126】
(iii)配列番号3で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR3;
【0127】
(iv)配列番号4で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR1;
【0128】
(v)配列番号5で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR2;及び
【0129】
(vi)配列番号6で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR3。
【0130】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、下記のCDR配列を含む抗体又はその抗原結合断片、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子、又は前記核酸分子を含むベクターを有効成分として含む、HIF-1αの発現又は活性抑制による、既存の眼疾患(例えば、網膜又は黄斑疾患)治療剤に不応性又は無反応性である眼疾患(例えば、網膜又は黄斑疾患)の予防又は治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0131】
(i)配列番号1で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR1;
【0132】
(ii)配列番号2で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR2;
【0133】
(iii)配列番号3で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR3;
【0134】
(iv)配列番号4で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR1;
【0135】
(v)配列番号5で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR2;及び
【0136】
(vi)配列番号6で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR3。
【0137】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明はHIF-1αの発現又は活性抑制によって、既存の眼疾患(例えば、網膜又は黄斑疾患)治療剤に不応性又は無反応性である眼疾患(例えば、網膜又は黄斑疾患)の予防又は治療に使用するための、下記のCDR配列を含む抗体又はその抗原結合断片、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子、又は前記核酸分子を含むベクターの用途を提供する:
【0138】
(i)配列番号1で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR1;
【0139】
(ii)配列番号2で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR2;
【0140】
(iii)配列番号3で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR3;
【0141】
(iv)配列番号4で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR1;
【0142】
(v)配列番号5で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR2;及び
【0143】
(vi)配列番号6で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR3。
【0144】
一部の具体例において、前記抗体又はその抗原結合断片は、配列番号7で表示されるアミノ酸配列の軽鎖可変領域及び配列番号8で表示されるアミノ酸配列の重鎖可変領域を含む。
【0145】
一部の具体例において、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子は、上の項目<II.HIF-1αの発現又は活性抑制方法>で述べた記載をそのままこの項目にも導入する。
【0146】
一部の具体例において、前記抗体は、WO2020/076105に記載されている2G4抗体である。
【0147】
一部の具体例において、前記眼疾患は、眼血管疾患、網膜又は黄斑疾患、角膜疾患、結膜疾患、葡萄膜疾患、緑内障、白内障からなる群から選ばれる1以上の疾患である。
【0148】
一部の具体例において、前記網膜又は黄斑疾患は、脈絡膜血管新生、黄斑病症、網膜病症、網膜細胞変性、網膜血管閉塞、網膜剥離及び緑内障からなる群から選ばれる1以上の疾患である。
【0149】
一部の具体例において、前記網膜又は黄斑疾患は、糖尿病性網膜病症(Diabetic Retinopathy)、糖尿病性黄斑浮腫(Diabetic Macular Edema)、湿性黄斑変性(wet Age-related Macular Degeneration)、網膜静脈閉塞(Retinal Vein Occlusion)、未熟児の網膜症(Retinopathy of Prematurity)及び緑内障(Glaucoma)からなる群から選ばれる1以上の疾患である。
【0150】
生理学的に許容される担体、賦形剤又は安定剤(Remington‘s Pharmaceutical Sciences(1990) Mack Publishing Co.,Easton,PA)中で所望の程度の純度を有する、本明細書に開示の抗体を含む組成物が本明細書に開示される
【0151】
一部の具体例において、薬剤学的組成物は、薬剤学的に許容される担体に、本明細書に記載の抗体又はその抗原結合部分、二重特異的分子又は免疫複合体を含む。一部の態様において、薬剤学的組成物は、薬剤学的に許容される担体に、本明細書に記載の抗体又はその抗原結合部分の有効量及び場合によって一つ以上の追加予防剤又は治療剤を含む。一部の態様において、前記抗体は、前記薬剤学的組成物に含まれた唯一の活性成分である。本明細書に記載の薬剤学的組成物は、HIF-1αの発現又は活性を抑制し、AMD、緑内障のような眼疾患、障害又は症状を治療するのに有用であり得る。
【0152】
本開示内容の薬剤学的組成物は、対象に対する任意の投与経路のために剤形化されてよい。一部の態様において、本明細書に開示の薬剤学的組成物は、眼のテノン嚢下、結膜下、脈絡膜上、網膜下、硝子体内及び類似位置に前記組成物を伝達できる任意の経路で投与できる。特定の態様において、本明細書に開示の薬剤学的組成物は、対象に眼球投与で伝達される。一部の態様において、眼球投与は、硝子体内投与を含む。本明細書では、皮下、筋肉内、腹腔内又は静脈内注射を特徴とする非経口投与も考慮される。
【0153】
本明細書に記載の抗体又はその抗原結合部分は、眼内にあるような皮膚と粘膜への局所塗布のように局所用又は局部用に、ゲル、クリーム及びローションの形態で、及び眼に適用又は槽内(intracisternal)又は脊髄内適用のために製剤化できる。局所投与は、経皮伝達用にそして眼や粘膜投与用又は吸入療法用にも考慮される。前記抗体の点鼻液(nasal solution)は、単独で、或いは他の薬剤学的に許容される賦形剤との組合せで投与されてよい。
【0154】
一部の態様において、本明細書に記載の抗体又はその抗原結合部分を含む薬剤学的組成物は、溶液、乳化液及びその他の混合物として投与用に再構成可能な凍結乾燥粉末である。また、前記凍結乾燥粉末は固体又はゲルとして再構成及び剤形化されてよい。
【0155】
このような凍結乾燥した粉末を注射用水によって再構成して非経口投与用に使用するための剤形を提供する。再構成のために、前記凍結乾燥した粉末を、滅菌水又は他の適切な担体に添加する。その正確な量は、選択した化合物によって異なる。このような量は経験的に決定できる。
【発明の効果】
【0156】
本発明の特徴及び利点を要約すれば、次の通りである。
【0157】
(i)本発明は、HIF-1αの発現又は活性抑制剤を提供する。
【0158】
(ii)本発明のHIF-1αの発現又は活性抑制剤は、眼球内HIF-1αの発現を効果的に抑制し、血管新生因子及び/又は炎症因子の発現を下向き調節することによって、眼疾患の予防又は治療、特に既存の網膜又は黄斑疾患治療剤に不応性又は無反応性である網膜又は黄斑疾患の予防又は治療に有用に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【
図1】NN2101がレーザー誘導CNVマウスにおいてHIF-1αの脈絡膜発現を効果的に抑制することを確認した結果である。
【
図2A】NN2101が低酸素状態でHIF-1αの発現を効果的に抑制することを確認した結果である。
図2A:全体細胞溶解物中のタンパク質レベル。
【
図2B】NN2101が低酸素状態でHIF-1αの発現を効果的に抑制することを確認した結果である。
図2B:培養上澄液に分泌されたsSCF及びsVEGFA。
【
図2C】NN2101が低酸素状態でHIF-1αの発現を効果的に抑制することを確認した結果である。
図2C:培養上澄液に分泌されたsSCF及びsVEGFA。
【
図3A】NN2101がSCF誘導リン酸化によるHIF-1α発現を調節することを確認した結果である。
図3A:全体細胞溶解物中のタンパク質レベル。
【
図3B】NN2101がSCF誘導リン酸化によるHIF-1α発現を調節することを確認した結果である。
図3B:培養上澄液に分泌されたsSCF(上)及びsVEGFA(下)。
【
図4】NN2101処理が低酸素状態でHIF-1α、VEGFA、mSCF、phospho-cKITのタンパク質発現を有意に減少させていることを確認した結果である。
【
図5A】HRMECにおいてNN2101処理によって低酸素状態でHIF-1α標的遺伝子のmRNAレベルが調節されたことを確認した結果である。
図5A:CoCl
2処理で低酸素状態誘導。
【
図5B】HRMECにおいてNN2101処理によって低酸素状態でHIF-1α標的遺伝子のmRNAレベルが調節されたことを確認した結果である。
図5B:低酸素チャンバーを用いた検証。
【
図6A】RPE細胞においてNN2101処理によって低酸素状態でHIF-1α標的遺伝子のmRNAレベル及びタンパク質レベルが調節されたことを確認した結果である。
図6A:タンパク質レベル。
【
図6B】RPE細胞においてNN2101処理によって低酸素状態でHIF-1α標的遺伝子のmRNAレベル及びタンパク質レベルが調節されたことを確認した結果である。
図6B:mRNAレベル。
【
図7】HRMEC、ARPE19、MIO-M1及びY79細胞にNN2101先処理後に、低酸素状態(1% O
2)で追加処理した時に、細胞溶解物のタンパク質レベル発現をウェスタンブロットで分析した結果である。
【
図8A】NN2101がユビキチン-プロテアソーム分解経路(Uniquitin-Proteasome Degradation Pathway)を通じてHIF-1αの分解を促進することを示す結果である。
図8A:MG132処理結果。
【
図8B】NN2101がユビキチン-プロテアソーム分解経路(Uniquitin-Proteasome Degradation Pathway)を通じてHIF-1αの分解を促進することを示す結果である。
図8B:CHx処理結果。
【
図9】NN2101がユビキチン-プロテアソーム分解経路(Uniquitin-Proteasome Degradation Pathway)を通じてHIF-1αの分解を促進することを示す結果である。
図9:HIF-1α-PHD分析結果。
【
図10】NN2101がHRMEC、ARPE19、MIO-M1及びY79細胞において血管新生/炎症因子を調節することを確認した結果である。
図10:HRMEC細胞。
【
図11】NN2101がHRMEC、ARPE19、MIO-M1及びY79細胞において血管新生/炎症因子を調節することを確認した結果である。
図11:ARPE19細胞。
【
図12】NN2101がHRMEC、ARPE19、MIO-M1及びY79細胞において血管新生/炎症因子を調節することを確認した結果である。
図12:MIO-M1細胞。
【
図13】NN2101がHRMEC、ARPE19、MIO-M1及びY79細胞において血管新生/炎症因子を調節することを確認した結果である。
図13:Y79細胞。
【発明を実施するための形態】
【0160】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例に限定されないことは当業界における通常の知識を有する者に明らかである。
【0161】
実施例
【0162】
実施例1.HIF-1α阻害剤としてのNN2101抗体の選別
【0163】
(株)ノベルティノビリティ(Noveltynobility)保有抗体プール(pool)を用いて、HIF-1αに対する阻害剤(発現又は活性抑制剤)としての活性を示す抗体を選別した。
【0164】
前記選別されたNN2101抗体のCDR配列は、下表1の通りである。
【0165】
【0166】
前記NN2101抗体の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域の配列は、下表2の通りである。
【0167】
【0168】
実施例2.NN2101はネズミ科の(murine)CNVモデルにおいてHIF-1αの発現を下向き調節する。
【0169】
レーザー誘導CNVマウスを次のように作製した。10週齢C57BL/6マウス(Orient Co.,Ltd.,Korea)の一方の目に対して、レーザーを用いてマウスのブルッフ膜(Bruch‘s membrane)を損傷させて脈絡膜血管新生を誘導した。用いられたレーザーは次の通りである:レーザー光凝固術(Laser photocoagulation):波長:532nm;固定直径(fixed diameter):50μm;強度:300mW;継続時間(duration):0.70.
【0170】
CNVマウスの一方の目は、レーザー光凝固の直後にNN2101(1μg/1μL)を1回硝子体内注射で投与した。他方の目は対照群として用い、PBS(1μL)を硝子体内投与した。レーザー光凝固術から7日目にレーザー誘導CNVマウスから眼球を摘出した。この眼球から抽出された脈絡膜組織を用いてウェスタンブロット(Western Blot;以下、「WB」ともいう。)分析を行い、pho-cKIT、pho-GSK-3β、HIF-1α、VEGF-Aタンパク質を定量した。
【0171】
NN2101の硝子体内注射は、CNVマウスにおいてHIF-1αの脈絡膜発現を抑制したし、これによってVEGF-A発現も減少し、pho-cKIT発現も減少することを確認した(
図1)。
【0172】
実施例3:NN2101はアフリベルセプトとは違い、低酸素HRMEC(ヒト網膜微小血管内皮細胞)においてHIF-1αを完全に抑制する。
【0173】
低酸素状態ではHIF-1αが発現し、HIF-1αはさらに、SCF、VEGFなどを含む血管形成因子の発現を刺激し、これによってSCF/cKIT及びVEGF信号伝達機序がそれぞれ活性化される。本実施例では、NN2101がCoCl2で誘導された低酸素状態でHIF-1αの発現を抑制するかを確認しようとした。
【0174】
HRMEC(Cell Systems,Kirkland,WA,USA)を0.5% FBS含有EBM(Lonza,Walkersville,MD,USA)と共に一晩培養した後、次のように処理した。HRMECをNN2101 10μg/ml又はアイリーア(Bayer korea Ltd.,Seoul,Korea)10μg/mlで6時間前処理した後、100μMのCoCl
2で2時間さらに処理して低酸素状態を誘発した。全体細胞溶解物中のタンパク質レベルの発現はウェスタンブロット(
図2A)によって分析された。培養上澄液に分泌されたsSCF(
図2B及び
図2C、左側)及びsVEGF(
図2B及び
図2C、右側)をELISAで定量化した。
【0175】
前記分析の結果、NN2101は、CoCl2で誘導された低酸素状態でHIF-1α発現を抑制したし、これによって、SCF及びVEGFAの発現も顕著に減少し、pho-cKITのシグナル(signal)が遮断されることを確認した。一方、アイリーアはHIF-1αレベルに影響を及ぼさなかった。
【0176】
実施例4:NN2101は低酸素条件でSCFの存在下にHIF-1αの発現及びGSK-3βのリン酸化を調節する。
【0177】
実施例3と同様に、本実施例においても、NN2101が低酸素状態でHIF-1αの発現を抑制するかを確認しようとした。また、GSK-3βの活性化は、血管新生(angiogenesis)に寄与するが、GSK-3βリン酸化はSCF/c-KITシグナリングによって調節されるので、GSK-3βリン酸化程度を確認してSCF/c-KIT信号伝達機序活性化の有無を確認しようとした。
【0178】
HRMECを0.5% FBS含有EBMと共に一晩培養した後、次のように処理した。HRMECをNN2101(1又は10μg/ml)又はアイリーア(1又は10μg/ml)で6時間前処理した後、100μMのCoCl
2又は/及び100ng/mlのSCFでさらに処理した。2時間、全体細胞溶解物中のタンパク質レベルの発現がウェスタンブロット(
図3A)によって分析された。培養上澄液に分泌されたsSCF(
図3B、上)及びVEGF(
図3B、下)をELISAで定量化した。
【0179】
前記分析の結果、NN2101は、低酸素及びSCF存在下でHIF-1αの発現を濃度依存的に減少させ、これによってSCF及びVEGFAの発現も顕著に減少したし、リン酸化によるcKITの活性化が遮断され(phospho-cKITの発現減少)、その下位信号物質であるGSK-3βのリン酸化も抑制されることを確認した。
【0180】
実施例5:NN2101はHIF-1αのタンパク質発現を迅速に抑制する。
【0181】
HRMECを0.5% FBS含有EBMと共に一晩培養した後、次のように処理した。各プレートにHRMECを6時間、10μg/mlのNN2101で前処理した後、それぞれ0.5h、6h、12h、又は18hの間に1% O
2を露出させて低酸素状態を誘発した。全体細胞溶解物のタンパク質レベル発現をウェスタンブロットで分析した(
図4)。
【0182】
前記分析の結果、HIF-1α、VEGFA、mSCF、pho-cKITのタンパク質発現は、低酸素状態でNN2101処理によって有意に減少していることを確認した。
【0183】
実施例6:NN2101はHRMECでHIF-1α標的遺伝子のmRNA発現を下向き調節する。
【0184】
低酸素状態でHIF-1α発現時に、VEGF、GLUT1、GLUT3などのタンパク質が共に発現することが知られている。そこで、本実施例では、これらの標的タンパク質のmRNA発現量を確認することによってNN2101によるHIF-1α発現抑制の有無を確認しようとした。
【0185】
HRMECを0.5% FBS含有EBMと共に一晩培養した後、次のように処理した。HRMECをNN2101又はアイリーア(それぞれ1,10又は20μg/ml)で6時間前処理した後、100μMのCoCl
2で2時間さらに処理して低酸素状態を誘発した(
図5A)。
【0186】
これとは別に、実際低酸素濃度でのHIF1aの誘導を確認するために、HRMECを6時間、10μg/mlのNN2101で前処理した後、6h又は12hの間に1% O
2で追加露出を加えた(
図5B)。mRNA発現レベルを実時間PCRで分析した。
【0187】
前記分析の結果、HRMECで低酸素状態でNN2101処理によってHIF-1α発現の標的タンパク質であるVEGFA、GLUT1又はGLUT3のmRNAレベルが下向き調節されたことを確認した。一方、アイリーアは、VEGFAのmRNAレベルは多少減少させたが、他の標的タンパク質であるGLUT1又はGLUT3の発現はほとんど調節できなかった。
【0188】
実施例7:NN2101は網膜色素上皮(RPE)細胞においてHIF-1α標的遺伝子の発現を有意に抑制する。
【0189】
ARPE-19(American Type Culture Collection,Manassas,VA,USA)細胞を1% FBS含有DMEM-F12と共に一晩培養した。細胞をNN2101 10μg/ml又はアイリーア10μg/mlで6時間前処理した後、低酸素症を誘導するために50及び100μM CoCl
2(
図6A)でさらに処理したり、又は各プレートを0.5h、6h、又は12hの間に1% O
2に露出(
図6B)させて低酸素状態を誘発した。
【0190】
前記分析の結果、HIF-1α標的遺伝子のタンパク質(
図6A)及びHIF-1αの標的遺伝子mRNA(
図6B)レベルはRPE細胞の低酸素状態でNN2101処理によって調節されたことを確認した。
【0191】
実施例8:主要網膜細胞においてNN2101はアイリーアと比較して、実際低酸素状態(1% O2)でHIF-1α及びVEGFAなどの発現を抑制する。
【0192】
4個の網膜細胞;HRMEC(Human retinal microvascular endothelial cell)、ARPE19(spontaneoulsy arising retinal pigment epithelial cell)、MIO-M1(Moorfields /Institute of Ophthalmology-Mueller 1;spontaneoulsy immortalized human Mueller glia cell line)及びY79(photoreceptor cell)を選択し、次のように培養した。HRMECはEBMと共に一晩培養した。ARPE19細胞をDMEM/F12と共に一晩培養した。MIO-M1細胞(Mueller glial)をDMEMと共に一晩培養した。MIO-M1は、G.Astrid Limb教授(Institute of Ophthalmology,University College London、ロンドン、英国)から提供された。Y79(American Type Culture Collection,Manassas,VA,USA)細胞をRPMI1640と共に一晩培養した。
【0193】
上の4個の細胞を、指示された組合せで処理した。細胞をNN2101抗体(10μg/ml)又はアイリーア(10μg/ml)で6時間前処理した後、1% O
2に18時間さらに低酸素に露出させた。全体細胞溶解物のタンパク質レベル発現をウェスタンブロットで分析した(
図7)。
【0194】
前記分析の結果、主要網膜細胞株においてHIF-1αの発現はNN2101処理によって調節され、これによってSCF及びVEGFAの発現も顕著に減少したし、pho-cKITのシグナルが遮断されることを確認した。一方、アイリーアは、HIF-1α、mSCF、VEGFA、phospho-cKITレベルに影響を及ぼさなかった。
【0195】
実施例9:NN2101はユビキチン-プロテアソーム分解経路を通じてHIF-1αの分解を促進する。
【0196】
<実施例9-1>
【0197】
HIF-1αは、正常酸素状態では、PHD(prolyl hydroxylase)によってヒドロキシル化された(hydroxylate)後、pVHL媒ユビキチン化(ubiquitination)過程によってプロテアゾームで分解される。低酸素状態では、ヒドロキシル化が抑制され、核内に入ったHIF-1αはHIF-1βと二量化(dimerization)され、血管新生などを促進するターゲット遺伝子の転写発現を促進させる。本実施例では、NN2101がHIF-1αのユビキチン-プロテアソーム分解経路を通じてタンパク質発現に関与するか否かを確認しようとし、そのために、代表的なProteasomal inhibitorであるMG132(S2619,Selleckchem,Houston,USA)と、mRNAからタンパク質への新生合成過程を抑制するシクロヘキシミド(cyclohexamide,CHx)(S7418,Selleckchem,Houston,USA)をそれぞれ使用した。
【0198】
HRMECを0.5% FBS含有EBMと共に一晩培養した。細胞をNN2101(10μg/ml)で6時間前処理した後、50μMのCoCl2で12時間さらに処理して低酸素状態を誘導した。処理が終わると、表示された期間の間に、MG132又はCHx 10μmol/Lをそれぞれ添加した。細胞内HIF-1αの全体白質発現量をウェスタンブロットで分析した。各タンパク質バンドの密度は、イメージ分析システムで決定され、当該α-チューブリンの密度で正規化された。
【0199】
分析の結果、CoCl
2で低酸素状態を誘導して増加したHIF-1αの量が(
図8A、2番目のレーン)、NN2101処理によって減少していることを確認した(
図8A、4番目のレーン)。このように減少したHIF-1αは、プロテアソーム阻害剤(Preoteasomal inhibitor)であるMG132処理によって、ビークル処理群と同じレベルに復旧された(
図8A、3番目のレーン対比5番目のレーン)。MG132の処理によって、NN2101処理によって同じレベルにHIF-1αが還元されたことから、これは、NN2101がHIF-1αのユビキチン-プロテアソーム分解経路に関与することを示唆する。
【0200】
また、タンパク質の合成を抑制するCHx処理によって、HIF-1αの半減期を測定した。対照群(ビークル)における半減期勾配(
図8Bの下側;丸)に比べて、NN2101処理群の勾配が急であることを確認した(
図8Bの下側;四角)。これは、NN2101がHIF-1αのタンパク質分解速度を加速化させることを示唆する(
図8B)。
【0201】
<実施例9-2>
【0202】
本実施例では、HUVEC(Lonza,Walkersville,MD,USA)細胞を、PHDを過発現させてNN2101とHIF-1αの分解(degradation)関連性を確認しようとした。
【0203】
このために、HUVEC細胞を、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein;GFP)付き3つのアイソタイプのPHD、すなわち、GFP-PHD1、GFP-PHD2及びGFP-PHD3をエンコードする発現ベクターを用いて過発現させた。形質感染された細胞を12時間、表示した通りに10μg NN2101処理と同時に低酸素状態又は正常酸素状態でそれぞれ培養した。細胞を収穫する3時間前からは10μmol/LのMG132で処理したり処理しなかった。全体細胞溶解物で選択的にHIF-1αを免疫沈殿(IP)させ、次に、過発現したPHDに結合しているHIF-1α(HIF-1α-PHD)をウェスタンブロットで分析した(
図9)。
【0204】
分析の結果、正常酸素状態でプロテアソーム阻害剤であるMG132のみを単独で処理した場合には、HIF-1α-PHDの量が増加したが(
図9のそれぞれ1番目のレーン)、低酸素状態ではHIF-1α-PHDがほとんど検出されなかった(
図9のそれぞれ2番目のレーン)。これに対し、低酸素状態でNN2101の存在時にはHIF-1α-PHDの量が増加することを確認した(
図9のそれぞれ3番目のレーン)。この結果も同様、NN2101が低酸素状態でHIF-1αのユビキチン-プロテアソーム分解経路に関与することを示唆する。
【0205】
実施例10:NN2101は主要網膜細胞の低酸素状態でHIF標的遺伝子を含む血管形成促進/炎症因子(pro-angiogenesis/inflammation factors)の上向き調節を減少させる。
【0206】
4個の網膜細胞HRMEC(Human retinal microvascular endothelial cell)、ARPE19(spontaneoulsy arising retinal pigment epithelial cell)、MIO-M1(Moorfields /Institute of Ophthalmology-Mueller 1;spontaneoulsy immortalized human Mueller glia cell line)及びY79(photoreceptor cell)を選択し、次のように培養して処理した。
【0207】
HRMECを0.5% FBS含有EBMと共に一晩培養し、細胞をNN2101抗体又はアイリーア(10μg/ml)で6時間前処理した後、100μMのCoCl
2で18時間さらに処理した。培養上澄液をプロテオームプロファイラーで分析して定量化した。前記分析の結果、NN2101は、低酸素状態でHRMECにおいて増加する血管新生/炎症因子を調節することを確認した(
図10)。
【0208】
ARPE19細胞を0.5% FBS含有DMEM/F12で一晩培養し、細胞をNN2101mAb又はアイリーア(10μg/ml)で6時間前処理した後、100μMのCoCl
2でさらに処理した。18時間、培養上澄液をプロテオームプロファイラーで分析して定量化した。前記分析の結果、NN2101は、低酸素状態でRPEにおいて増加する血管新生/炎症因子を調節することを確認した(
図11)。
【0209】
MIO-M1細胞を0.5% FBS含有DMEMと共に一晩培養し、細胞をNN2101mAb又はアイリーア(10μg/ml)で6時間前処理した後、100μMのCoCl
2でさらに処理した。18時間、培養上澄液をプロテオームプロファイラーで分析して定量化した。前記分析の結果、NN2101は、低酸素状態でMIO-M1細胞において増加する血管新生/炎症因子を調節することを確認した(
図12)。
【0210】
Y79細胞を0.5% FBS含有RPMI1640と共に一晩培養し、細胞をNN2101mAb又はアイリーア(10μg/ml)で6時間前処理した後、18時間、100μMのCoCl
2でさらに処理した。培養上澄液をプロテオームプロファイラーで分析して定量化した。前記分析の結果、NN2101は、低酸素状態でY79細胞において増加する血管新生/炎症因子を調節することを確認した(
図13)。
【0211】
前記分析の結果、NN2101はそれぞれの細胞において低酸素状態で由来する血管新生/炎症因子を調節することを確認した(
図10~
図13)。特に、NN2101は、アンジオポエチン-2とVEGFを同時に減少させたし、それ以外の血管新生因子を調節したが、これは、アンジオポエチン-2とVEGFを同時に標的するファリシマブ(faricimab)と同等又はより優れた効果を示すこと示唆する。
【0212】
以上、本発明の実施例について説明したが、当該技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された本発明の思想から逸脱しない範囲内で、構成要素の付加、変更、削除又は追加などによって本発明を様々に修正及び変更させることができ、これらも本発明の権利範囲内に含まれると言えよう。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-01-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のCDR配列を含む抗体又はその抗原結合断片、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子、又は前記核酸分子を含むベクタ
ーを含む、HIF-1αの発現又は活性抑制による、既存の眼疾患治療剤に不応性又は無反応性である眼疾患の予防又は治療
用薬剤学的組成物:
(i)配列番号1で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR1;
(ii)配列番号2で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR2;
(iii)配列番号3で表示されるアミノ酸配列の軽鎖CDR3;
(iv)配列番号4で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR1;
(v)配列番号5で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR2;及び
(vi)配列番号6で表示されるアミノ酸配列の重鎖CDR3。
【請求項2】
前記眼疾患は、網膜又は黄斑疾患であることを特徴とする、請求項1に記載の
薬剤学的組成物。
【請求項3】
前記網膜又は黄斑疾患は、脈絡膜血管新生、黄斑病症、網膜病症、網膜細胞変性、網膜血管閉塞、網膜剥離及び緑内障からなる群から選ばれる1以上の疾患であることを特徴とする、請求項2に記載の
薬剤学的組成物。
【請求項4】
前記網膜又は黄斑疾患は、糖尿病性網膜病症(Diabetic Retinopathy)、糖尿病性黄斑浮腫(Diabetic Macular Edema)、湿性黄斑変性(wet Age-related Macular Degeneration)、網膜静脈閉塞(Retinal Vein Occlusion)、未熟児の網膜症(Retinopathy of Prematurity)及び緑内障(Glaucoma)からなる群から選ばれる1以上の疾患であることを特徴とする、請求項3に記載の
薬剤学的組成物。
【請求項5】
既存の眼疾患治療剤は、VEGF抑制剤である、請求項1に記載の
薬剤学的組成物。
【請求項6】
既存の眼疾患治療剤は、アフリベルセプト(aflibercept)、ラニビズマブ(ranibizumab)、サスビモ(Susvimo)(登録商標)、ベバシズマブ(bevacizumab)、ブロルシズマブ(brolucizumab)、ペガプタニブ(pegaptanib)、ファリシマブ(faricimab)、及びKSI-301からなる群から選ばれるものである、請求項1に記載の
薬剤学的組成物。
【請求項7】
HIF-1αの発現又は活性
を抑制
する、請求項1に記載の薬剤学的組成物。
【請求項8】
前記抗体又はその抗原結合断片は、配列番号7で表示されるアミノ酸配列の軽鎖可変領域及び配列番号8で表示されるアミノ酸配列の重鎖可変領域を含むことを特徴とする、請求項
1に記載の
薬剤学的組成物。
【請求項9】
前記HIF-1αの発現又は活性抑制は、脈絡膜又は網膜内でなされることを特徴とする、請求項7に記載の
薬剤学的組成物。
【請求項10】
前記HIF-1αの発現又は活性抑制は、視神経細胞、網膜ミュラー(Mueller)細胞、脈絡膜細胞、網膜微小血管内皮細胞(RMEC)、網膜色素上皮(RPE)細胞及び光受容体細胞からなる群から選ばれる細胞でなされることを特徴とする、請求項9に記載の
薬剤学的組成物。
【請求項11】
前記HIF-1αの発現抑制は、HIF-1αのタンパク質発現抑制であることを特徴とする、請求項7に記載の
薬剤学的組成物。
【請求項12】
前記HIF-1αの発現又は活性抑制は、HIF-1αタンパク質の分解を促進して達成されることを特徴とする、請求項7に記載の
薬剤学的組成物。
【請求項13】
前記HIF-1αの活性抑制は、SCF/C-Kit誘導リン酸化によるHIF-1αの活性を抑制して達成されることを特徴とする、請求項7に記載の
薬剤学的組成物。
【請求項14】
前記抗体又はその抗原結合断片はさらに、血管新生因
子又は炎症因子を調節することを特徴とする、請求項7に記載の
薬剤学的組成物。
【請求項15】
前記血管新生因
子又は炎症因子は、アンギオゲニン(Angiogenin)、アンジオポエチン-2(Angiopoietin-2)、CXCL16、エンドグリン(Endoglin)、凝固因子III(Coagulation Factor III)、エンドセリン-1(Endotherin-1)、MCP-1、EG-VEGF、VEGF、IGFBP-1、IGFBP-2、IL-1β、PDGF-AA、PIGF、セルピンE(Serpin E)、セルピンF1(Serpin F1)、トロンボスポンジン-2(Thrombospondin-2)、ANGPT2、ペントラキシン3(Pentraxin 3)、IL-8、FGF2及びFGF5からなる群から選ばれる1以上の因子であることを特徴とする、請求項14に記載の
薬剤学的組成物。
【請求項16】
前記抗体又はその抗原結合断片は、血管新生因
子又は炎症因子発現の上向き調節を減少させることを特徴とする、請求項14に記載の
薬剤学的組成物。
【請求項17】
前記抗体又はその抗原結合断片は、微小血管細胞の増殖、移動(migration)及び管形成(tube formation)からなる群から選ばれるいずれかを減少させることを特徴とする、請求項7に記載の
薬剤学的組成物。
【国際調査報告】