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▶ ジーケーエヌ エアロスペース スウェーデン アーベーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-24
(54)【発明の名称】工具ホルダ用ダンパ
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/00 20060101AFI20240717BHJP
   B23B 29/02 20060101ALI20240717BHJP
   B23C 9/00 20060101ALI20240717BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
B23B27/00 C
B23B29/02 A
B23C9/00 Z
B23Q11/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500316
(86)(22)【出願日】2022-07-04
(85)【翻訳文提出日】2024-03-04
(86)【国際出願番号】 EP2022068469
(87)【国際公開番号】W WO2023280784
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】2109869.4
(32)【優先日】2021-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514318758
【氏名又は名称】ジーケーエヌ エアロスペース スウェーデン アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ザックリッソン,クリステル
(72)【発明者】
【氏名】グラード,ヤーメス
【テーマコード(参考)】
3C011
3C022
3C046
【Fターム(参考)】
3C011AA06
3C022QQ03
3C046BB02
3C046KK02
(57)【要約】
本発明は、フライス盤などの工作機械における工具用ダンパに関するものであり、ダンパは、機械の工具ステムまたは機械の工具ホルダの周りに配置され、工具の振動を減衰させるために使用されるように配置される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械用の減衰装置であって、前記減衰装置が、内向きの表面を有する環状体を備え、前記内向きの表面が、機械工具ステムの外面または機械工具ホルダの外面に結合するために使用するように配置され、前記環状体が内部空洞を備え、前記空洞が減衰質量を備える、減衰装置。
【請求項2】
前記減衰質量が、1つまたは複数のエラストマーまたはゴムカップリングによって前記内部空洞の前記内向きの表面に結合され、そこから離間されている、請求項1に記載の減衰装置。
【請求項3】
前記エラストマーカップリングが、前記減衰質量の周囲に配置されている、請求項2に記載の減衰装置。
【請求項4】
前記減衰質量が、2つの対向する端面を有する略円筒体の形態であり、1つまたは複数のエラストマーカップリングが、前記減衰質量の前記端面に配置されている、請求項2または3に記載の減衰装置。
【請求項5】
前記エラストマーカップリングがOリングの形態である、請求項2~4のいずれかに記載の減衰装置。
【請求項6】
前記エラストマーカップリングが、複数の離散したエラストマー要素の形態である、請求項2~4のいずれかに記載の減衰装置。
【請求項7】
前記エラストマーカップリングが、前記環状体の前記内向きの表面に結合されている、請求項2~6のいずれかに記載の減衰装置。
【請求項8】
前記エラストマーカップリングが、前記減衰質量の前記外面に結合されている、請求項2~6のいずれかに記載の減衰装置。
【請求項9】
前記エラストマーまたはゴム要素が連続的であり、前記環状体の前記内向きの表面および/または前記減衰質量の外面の一部には、前記エラストマー要素および前記減衰質量の接触線と整列した凹部が設けられている、先行する請求項のいずれかに記載の減衰装置。
【請求項10】
前記減衰質量が、単一の金属またはプラスチック要素の形態である、先行する請求項のいずれかに記載の減衰装置。
【請求項11】
前記環状体の前記内向きの表面には、使用時に1つまたは複数のエラストマーまたはゴムカップリングと整列して、円周方向に離間した複数の凹部が設けられている、請求項2~10のいずれかに記載の減衰装置。
【請求項12】
前記溝または凹部が、前記装置の周囲で円周方向に測定して5度から15度の間の角度を有し、任意で0.5mmから3mmの間の深さを有する、いかなる請求項11に記載の減衰装置。
【請求項13】
前記減衰質量が、前記内部空洞内に含まれる複数の離散かつ独立した要素から形成されている、請求項1に記載の減衰装置。
【請求項14】
前記複数の離散かつ独立した要素が、複数の金属要素の形態である、請求項13に記載の減衰装置。
【請求項15】
前記金属要素が、粉末、ショットピーニングまたは金属球から選択される、請求項14に記載の減衰装置。
【請求項16】
円筒体と中央円形開口部とを備える工具用のダンパであって、前記円筒体が、使用時に、前記ダンパを前記工具の一部に結合するように配置された半径方向内側に延在する固定具を備え、前記ダンパが前記ダンパ内に円周方向に延在する空洞を備え、前記空洞が可動な減衰質量を備える、ダンパ。
【請求項17】
請求項1~15のいずれかに記載の減衰装置を備える切削工具。
【請求項18】
前記減衰装置が切削工具の前記ステムに固定される、請求項17に記載の切削工具。
【請求項19】
前記減衰装置が前記機械の工具ホルダに結合される、請求項17に記載の切削工具。
【請求項20】
請求項1~16のいずれかに記載の減衰装置を備える工具ホルダ。
【請求項21】
細長い円筒体と、請求項1~16のいずれかに記載の減衰装置とを備えるマシニングセンタ用の切削工具。
【請求項22】
工具ステムを減衰させる方法であって、
(A)機械加工作業のための切削周波数にほぼ等しい周波数における共振振動の1つまたは複数の位置および方向を特定することと、
(B)前記特定された位置および方向において、請求項1~15のいずれかに記載の減衰配置を前記機械の前記工具ホルダまたは工具ステムに位置付けることと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
本発明は、特に、限定はしないが、旋盤またはフライス盤で作られた部品のための機械加工装置に関する。このような機械の1つには、切削ビットまたは先端が、高速で回転し材料を切削する工具ホルダに保持されるフライス盤が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
航空宇宙産業で使用されるタイプの多くの高仕様材料は、極めて硬く耐久性があり、高温および応力に耐えることができる金属合金である。それらは、このような材料が高性能部品にしばしば求められる多くの用途で使用されている。これらの部品はまた、小さな幾何学的公差を有することが多く、そのため、専門の硬化切削工具および材料を使用して慎重な機械加工が必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
5軸マシニングセンタなどの多軸マシニングセンタを使用することで、複雑な幾何学的形状を作成することができる。このような機械で使用される高い切削速度は、一部の部品で必要とされる厳密な公差に悪影響を及ぼす振動を発生させる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、従来とは異なる改良を用いることで、このような機械の性能を精度、信頼性、および切削性能の点で向上させることができることを見出した。これにより、生産性を飛躍的に向上させることができる。
【0005】
発明の概要
本発明の態様は、添付の特許請求の範囲に記載されている。
【0006】
第1の態様から見ると、工作機械用の減衰装置が提供され、減衰装置は、内向きの表面を有する環状体を備え、内向きの表面は、機械工具ステムの外面または機械工具ホルダの外面に結合するために使用するように配置され、環状体は、内部空洞を備え、空洞は、減衰質量を備える。
【0007】
したがって、このような配置により、既存の工作機械への後付けを含む、任意の工作機械に好都合に取り付けることができる工作機械用ダンパが提供される。この配置は、ダンパが配置されている切削工具の切削動作によって発生する振動に応答してこれを実質的に減衰させる装置ハウジング内の動的な移動体質量を提供する。環状体は、機械工具ステムまたはホルダの候補部品に便利に結合できる。
【0008】
有利には、この配置は、あらゆるサイズの機械工具ホルダまたはステムに結合されるように適応されてもよく、工作機械の作業環境に高い耐性を有する簡単で信頼性のある構造を提供する。この配置は、本明細書に記載のように好都合に製造することができ、信頼性の高い作業を提供する。
【0009】
さらに、工具用ダンパは、ダンパ質量およびエラストマーの選択により、切削動作の特定の動作範囲に最適化することができる。
【0010】
減衰質量は、1つまたは複数のエラストマーまたはゴムカップリングによって内部空洞の内向きの表面に結合され、そこから離間されてもよい。エラストマーまたはゴムカップリングは、動的な力が材料にかかると歪む動的カップリングとして作用する。ゴムの非圧縮性により、エラストマー材料は荷重下で単に圧縮されるのではなく歪む。これにより、減衰作用が得られる。
【0011】
エラストマーカップリングは、任意選択的に、減衰質量の周囲に配置されてもよい。したがって、複雑な多方向に作用する切削力を減衰させることができる。
【0012】
減衰質量は、2つの対向する端面と、減衰質量の端面に配置された1つまたは複数のエラストマーカップリングとを有する略円筒体の形態であってもよい。このような配置により、製造が簡単であり、また減衰質量および必要なエラストマー反力を選択するための複雑なモデリングを最小限に抑える、簡単で信頼性の高い工具用ダンパの構造が実現され得る。したがって、半径方向および軸方向の切削力、ならびに複雑な切削力を減衰させることができる。
【0013】
一配置では、エラストマーカップリングはOリングの形態であってもよい。したがって、製造コストを最小限に抑えることができ、Oリングシールが提供する緊密な公差は、信頼性の高い減衰作用を可能にすることができる。
【0014】
有利には、エラストマーカップリングは、複数の離散したエラストマー要素の形態であってもよい。したがって、高い切削力は、複数のエラストマー要素を使用して減衰されることができ、および/または切削力は、最小直径のエラストマー要素を使用して減衰されることができる。
【0015】
エラストマーカップリングはまた、環状体の内向きの表面に結合され、したがって減衰質量に面することができる。このような配置は、減衰質量が、内向きのエラストマー要素と協働するように機械加工された外面を有する簡単な幾何学的形状として製造されることを可能にする。
【0016】
別の配置では、エラストマーカップリングまたは要素は、減衰質量の外面に結合されてもよい。次いで、環状体の内向きの表面は、外向きのエラストマー要素と協働するように機械加工されてもよい。
【0017】
さらに、エラストマーまたはゴム要素は連続的であってもよく、環状体の内向きの表面および/または減衰質量の外面の一部には、エラストマー要素および減衰質量の接触線と整列した凹部が設けられてもよい。したがって、エラストマーまたはゴム要素は、ダンパの製造中に使用される振動力または代替的な力が要素をずらさない、すなわち要素を所定の減衰位置から移動させないような位置に保持されてもよい。
【0018】
減衰質量自体は、単一の金属またはプラスチック要素の形態であってもよい。これにより、減衰配置の簡単な製造および組み立てが可能になる。
【0019】
環状体の内向きの表面には、使用時に1つまたは複数のエラストマーもしくはゴムカップリングと整列して、円周方向に離間した複数の凹部または溝がさらに設けられてもよい。ここでも、そうすることで要素の位置が確保され得る。
【0020】
溝または凹部は、有利には、ダンパの周りに等間隔に配置されてもよい。例えば、6つの溝がダンパの周りに等間隔に配置されることができる。各溝または凹部は、ダンパの周囲に5度から15度の間で延在し、0.5mmから3mmの間の深さを有することができる
代替的な配置では、減衰質量は、内部空洞内に含まれる複数の離散かつ独立した要素から形成されてもよい。このような配置では、エラストマー要素によって囲まれた単一の減衰質量は、環状体内の複数の離散した要素で置き換えられてもよい。
【0021】
一配置では、複数の離散かつ独立した要素は、複数の金属要素の形態であってもよい。このような要素は、例えば、粉末、ショットピーニングまたは金属球から選択されてもよい。減衰を達成するために、所定の密度を有するプラスチックなどの他の材料が各オプションに対して選択されてもよい。このような配置では、複数の要素内の隣接する要素間の移動および摩擦が減衰作用を生じさせる。
【0022】
本明細書に記載の発明の別の態様から見ると、円筒体と中央円形開口部とを備える工具用のダンパが提供され、円筒体は、使用時に、ダンパを工具の一部に結合するように配置された半径方向内側に延在する固定具を備え、ダンパは、ダンパ内に円周方向に延在する空洞を備え、空洞は、可動な減衰質量を備える。
【0023】
さらに別の態様から見ると、本明細書に記載の減衰装置を備える切削工具が提供される。このような態様により、減衰装置は、切削工具のステムに固定されてもよい。この固定具は、減衰作業および非減衰作業ならびに/またはメンテナンスを可能にするために取り外し可能であってもよい。例えば、減衰装置は、機械の工具ホルダに結合されてもよい。
【0024】
さらに別の態様から見ると、本明細書に記載の減衰装置を備える工具ホルダが提供される。
【0025】
別の態様から見ると、本明細書に記載の細長い円筒体と減衰装置とを備えるマシニングセンタ用の切削工具が提供される。
【0026】
別の態様から見ると、工具ステムを減衰させる方法であって、
(A)機械加工作業のための切削周波数にほぼ等しい周波数における共振振動の1つまたは複数の位置および方向を特定する工程と、
(B)請求項1~15のいずれかに記載の減衰配置を、特定された位置および方向で機械の工具ホルダまたは工具ステムに位置付ける工程と、
を含む、方法が提供される。
【0027】
減衰配置およびこのような減衰配置を備える工具は、容易に製造されることができ、最小限のメンテナンスを必要とする信頼性が高く調整可能なダンパを提供することが認識されよう。このような利点は、高い機械加工出力において極めて緊密な公差が要求される製造用途において非常に望ましい。このような例の1つには、航空宇宙エンジンまたはハイブリッド燃料駆動部品の製造が挙げられる。このような用途における回転速度は、より高い公差および信頼性を非常に望ましいものにする。
【0028】
図面
本発明の態様は、添付の図面を参照しながら、例としてのみ説明される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】コンピュータ数値制御(computer numerically controlled、CNC)フライスステーションまたはフライス盤の主要部品の概略図である。
図2】本明細書に記載される発明の一実施形態が適用され得るタイプのこのようなフライス盤のスピンドルを示す。
図3】組み立て前の本明細書に記載の減衰配置の主要部品を示す。
図4】本明細書に記載のフライス盤スピンドル、工具ホルダ、工具、および減衰配置の側面図を示す。
図5】本明細書に記載の減衰カラーを有する工具の図である。
図5A】本明細書に記載の減衰カラーを有する工具の図である。
図6】本明細書に記載の減衰配置の環状体(または工具カラー)を示す。
図7】本明細書に記載の減衰配置の断面図である。
図8】固体減衰質量配置の断面図である。
図9A】ダンパ環状体の周りの凹状配置を示す。
図9B】ダンパ環状体の周りの凹状配置を示す。
図10A】弾性カップリングの代替的な配置を示す。
図10B】弾性カップリングの代替的な配置を示す。
図11A】減衰質量の代替的な実施形態を示す。
図11B】減衰質量の代替的な実施形態を示す。
図12】A~Cは、減衰質量のために選択され得る微粒子要素の異なる配置を示す。
図13】A~Cは、本明細書に記載の減衰配置の代替的な位置付けを示す。
図14】工具ビームまたはステムに対する減衰配置の代替的な位置付けを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書における先行技術文献へのいかなる参照も、そのような先行技術が広く知られていること、または当分野における共通の一般知識の一部を形成することの承認と見なされるべきではない。本明細書で使用される場合、「備える(comprises)」、「備える(comprising)」という単語、および同様の単語は、排他的または網羅的な意味で解釈されるべきではない。換言すれば、それらは「を含むが、これに限定されない」を意味するように意図されている。本発明は、以下の実施例を参照してさらに説明される。主張される本発明は、これらの実施例によって決して限定されることを意図しないことが理解されよう。本発明は、個々の実施形態だけでなく、本明細書に記載の実施形態の組み合わせも包含することも認識されよう。
【0031】
本明細書に記載の様々な実施形態は、主張される特徴の理解および教示を支援するためにのみ提示される。これらの実施形態は、実施形態の代表的なサンプルとしてのみ提供され、網羅的および/または排他的ではない。本明細書に記載された利点、実施形態、例、機能、特徴、構造、および/または他の態様は、特許請求の範囲によって定義された本発明の範囲に対する制限または特許請求の範囲に対する均等物に対する制限と見なされるべきではなく、主張された発明の精神および範囲から逸脱することなく他の実施形態を利用することができ、修正を行うことができることを理解されたい。本発明の様々な実施形態は、本明細書に具体的に記載されたもの以外の、開示された要素、部品、特徴、部分、工程、手段などの適切な組み合わせを適切に含むか、それからなるか、または本質的にそれからなることができる。さらに、本開示は、現在主張されていないが、将来主張され得る他の発明を含み得る。
【0032】
詳細な説明
図1は、典型的な多軸マシニングセンタ1の概略図である。図示の例は、スピンドル3に結合された切削工具2を備えるフライス盤である。スピンドル3は、一端で切削工具を保持し、工具ホルダおよび切削工具をスピンドル3に結合するための接続を提供する工具ホルダを組み込んでいる。
【0033】
スピンドルは、スピンドル(ひいては工具)を高速で回転させるように配置されたスピンドル駆動配置4に結合される。(駆動配置に対する)マシニングセンタの反対側の端部には、可動テーブル6に据え付けられた被加工部品(ワークピース)5を収容するチャンバがある。テーブル6は、多方向(上下回転)に移動可能である。切削スピンドルの軸方向移動と組み合わせて、切削工具は、図1の右側に示されている各軸においてワークピースに対して相対的に移動することができる。
【0034】
マシニングセンタは、テーブル6および切削工具の位置を正確に検出する多数のセンサを備え、その結果、作業中に正確な機械加工を実行することができる。
【0035】
テーブル6、スピンドル3、および駆動配置4は各々、機械加工作業中の過度の振動を防止するために大きな質量を有する。マシニングセンタの各部品の質量および剛性を増加させることにより、機械加工中の振動が低減され、正確な機械加工が可能になる。しかしながら、振動レベルが所定の閾値を超えた場合に切削(フライス加工)作業を停止させる振動アラーム7が設けられている。この状況では、機械振動を検出し、それを所定の閾値またはレベルと比較する振動または「過度の移動」アラームが使用される。振動は、工具摩耗の増加、ワークピースの一部の硬度の増加、または好ましくない切削特性/条件などのいくつかの理由で、所定のレベルを超えて増加する可能性がある。
【0036】
しかしながら、本発明者らは、以下に説明するように、工具ホルダまたは工具ビーム上の振動を直接効果的に減衰させるための代替配置を考案した。
【0037】
図2は、スピンドル3、切削工具2およびワークピース5を示す従来の機械の簡単な断面を示す。切削工具2は、テーパ状の工具ホルダ8によってスピンドル3に接続され、テーパ状の工具ホルダ8は、切削工具をスピンドル3内で好都合に交換することを可能にする。機械(この例ではGrobe製)の作業中、スピンドル3、工具ホルダ8、および工具2は、矢印9で示すように、100rpmから16,000rpmの間の任意の速度で回転されることができる。より速い速度も可能である。例えば、アルミニウムを機械加工する場合、最大30,000の速度が使用されることがある。
【0038】
すべての工具は、基本構造においていくつかの固有振動数を有する。これらの固有振動数の一部は、破壊的であり、機械加工作業中に過度な振動を引き起こす可能性がある。固有振動数は、工具内の各部分または要素に由来する。異なる振動が(建設的および破壊的に)相互に作用し合い、結果として、工具の全体的な振動性能が複雑で所与の機械、重要なのは、作業速度もしくは切削速度または条件に特有のものとなる。
【0039】
一例では、毎分回転数(rpm)での所与の切削速度における切削工具の動的安定性を向上させる必要がある。例えば、セラミック切削チップの場合、これは、12,000rpmの切削速度および200Hzの周波数であってもよい。
【0040】
図3は、本明細書に記載の減衰配置の主要な部品を示す。
この配置は、従来の遠位切削ビットコネクタにセラミック工具(または同様のもの)を担持する工具ビーム(TB)を備える。工具ビームは、図3の中央に示される減衰カラー(DC)内に位置する。減衰カラーは、円筒体内に後述する減衰配置を収容する。図示の例の工具ビームは、フライス加工作業に使用される。
【0041】
この配置により、好都合には、ダンパが、工具ビームシャフトに沿った任意の箇所において、工具ホルダと右に当接するか、または工具ビームの遠位端に向かって(左に向かって)当接する位置にあることを可能にすることが認識されるであろう。
【0042】
カラーは、工具ビームの周りに位置し、次いで締め付けられて、カラーが工具ビームの外面を把持する。次いで、ダンパが所望の位置で工具ビームに据え付けられ得る。
【0043】
以下に説明するように、従来とは異なる減衰配置および効果は、完全に減衰カラーDC内で達成されるため、従来の工具ビームおよび切削機械へのカップリングを使用することができる。したがって、本明細書に記載のダンパは、減衰のために既存の工具ビームまたは工具ホルダに好都合に後付けすることができる。実際、本明細書に記載の配置は、減衰効果を達成するために任意の工具ビームまたは工具ホルダに適応するように取り付けることができる。
【0044】
機械加工装置の作業中、機械および工具に振動が発生し、これにより減衰カラーの外側ケーシングの振動を引き起こす。これにより、次に、エラストマー製Oリングの接続を介して減衰質量の振動を引き起こし、これにより、エラストマーカップリングが加振周波数と同期せずに圧縮および膨張するときに減衰ユニットに対する減衰質量の移動の待ち時間のために減衰効果が生じる。
【0045】
ダンパの具体的な性能は、機械の特性および所望の減衰性能に応じて選択され得る。例えば、減衰質量と環状体(後述)との間の接触面積は、所望の性能を達成するためにエラストマーの硬度と組み合わせて変更されてもよい。一例では、70ショアA~90ショアAのショア硬度を使用することができる。
【0046】
図4は、本明細書に記載の本発明による工具ホルダ(12)および工具ステムの側面図を示す。この例では、フライス盤工具ヘッド11が示されている。
【0047】
配置は、切削工具13を保持して支持する工具ホルダ(12)を備える。切削工具自体は、フライス加工作業中にワークピースに係合して切削する切削チップを保持する。
【0048】
本明細書に記載の本発明によれば、環状減衰配置14が提供される。図4に示す例では、ダンパは工具ステムに結合されているが、以下に説明するように工具ホルダに結合されてもよい。
【0049】
ダンパ(図3に示す減衰カラー)は、工具ステム(または工具ホルダ)を取り囲むように配置され、環状体の形態である。これは、図5および図5Aに示されている。
【0050】
ダンパ14は、図5および図5Aに示されており、切削工具13の周りに円周方向に配置されている。図5は、図5Aに対応するが、ダンパおよび工具を示す角度が若干異なる。ダンパは、工具13の端部上を摺動し、工具ステム本体の外面と当接するように配置される。これは、締まりばめによるか、またはグラブねじなどの半径方向内側に延在するねじなどの適切なカップリングによるもので有り得る。これにより、ダンパは、別の例では、工具ステムまたは工具ホルダ本体に機械的に結合される。したがって、フライス工具の回転は、ダンパの対応する回転を生じさせる。
【0051】
図6は、ダンパ14を分離して示す。図示のように、ダンパ14は、環状体15と、ダンパの中心を通る内側開口部16とを備える。開口部は、用途に応じて、工具ステム/ビームまたは工具ホルダのいずれかを収容するようなサイズにされる。より具体的には、開口部は、ダンパを工具ビームに据え付ける図3に示すカラーカップリング配置を収容するようなサイズにされる。開口部16は、使用時に、据え付けているカラーの外面と接触する内面17を備える。
【0052】
図6はまた、環状体15の本体内に破線で示されている内部空洞18を示している。図示の例では、空洞は、環状体の周りに連続的に円周方向に延在する空洞の形態である。別の例では、空洞は、環状に配置された空洞を集合的に形成する複数の別個の空洞に細分化されてもよい。
【0053】
図7は、本発明の一実施形態による空洞の断面図である。
環状体15は、内部空洞18を備える。本体15は、空洞18が形成される第1の部分19Aと、空洞18の閉塞端を形成する第2の部分19Bとで形成されている。2つの部分19A、19Bは、ねじ部20によって連結されている。これにより、空洞を閉じることができる。
【0054】
空洞18は、空洞18内に収容された減衰質量21を含む。図示のように、減衰質量21は、空間22によって空洞の内面から離間されている。
【0055】
減衰質量21は、複数の弾性カップリング23A~23Fによって空洞18の内面から分離され、内面に接続されている。弾性カップリングは、空洞の内面に対する減衰質量の移動を可能にするように配置される。弾性カップリングの弾性特性は、空洞表面に対する減衰質量の移動に待ち時間を生じさせる。この待ち時間は減衰効果を提供する。
【0056】
図7に示す配置では、エラストマーカップリングは、減衰質量の半径方向表面の周りおよび減衰質量の軸方向表面の周りに(工具/工具ホルダの軸に対して軸方向に)位置している一連のOリングシールの形態である。
【0057】
使用時には、工具/工具ホルダの振動が環状体に伝達され、弾性カップリングを介して減衰質量に伝達される。弾性カップリングは、環状体に対する減衰質量の移動に待ち時間を与えるので、環状体の振動を減衰させるように作用し、それによって環状体が取り付けられる工具または工具ホルダを減衰させるように作用する減衰効果が達成される。
【0058】
図8は、本明細書に記載の本発明によるダンパの一実施形態の断面図である。環状体15は、それ自体が減衰質量21を含む空洞を備える。図8に示す実施形態では、減衰質量は、減衰質量21に対して半径方向および軸方向に配置された複数のエラストマー製Oリングシール22によって環状の空洞から離間された中実の金属リングである。他の配置では、それはプラスチックまたは他の適切な材料であってもよい。
【0059】
Oリングシールは、減衰質量と環状体との間の弾性カップリングを提供する。これにより、環状体に対する減衰質量の相対移動がもたらされ、したがって減衰効果が実現され得る。図8に示される断面は、(空洞を形成する)部分19Aと、空洞の端部を閉鎖し、ねじ山20によって部分19Aに結合される部分19Bとを備える環状減衰体の一般的な構造を示す。
【0060】
Oリングなどのエラストマー要素は、一方の側で減衰質量21と連続的に接触し、反対側の表面で空洞の内面と連続的に接触するように配置されてもよい。そのような配置では、Oリングシールは、減衰質量の周囲に連続的に延在し、減衰質量の軸方向端部の周りに円形プロファイルで延在してもよい。これにより、減衰質量は、周囲の空洞内壁から離間されるが、同時にエラストマー材料を介してそれに結合される。
【0061】
代替的な配置を図9Aおよび図9Bに示す。ここで、Oリングシール22は、円周方向の配置で減衰質量の周りに延在する。凹部23は、図9Aに示すように、減衰質量の内面に設けられ、その円周の周囲に間隔を置いて配置される。各凹部は、深さΔtを有する。この凹部は、Oリングシールの圧縮を低減し、減衰効果が正確に選択されることを可能にする。ダンパの動的性能は、すなわち減衰が起こる速度も調整することができる。
【0062】
別の例示的な実施形態では追加的または代替的に、減衰質量自体の外面に凹部が等しく形成され得ることが認識されよう。
【0063】
Oリング材料の硬度および凹部のサイズを選択することによって、予圧力または圧縮力がOリングに生成され得る。事実上、所与のモード質量の最適な減衰は、適切な硬度を選択することによって達成されることができる。選択される硬度は、振動および減衰質量ならびに所望の減衰に依存する。
【0064】
図10Aおよび図10Bは、Oリングシール配置の代わりにエラストマースペーサの代替的な配置を示す。ここで、複数のエラストマー部分25が、減衰質量21の外周に位置している。その効果は、Oリングシールの使用に関して上述した効果と同じである。エラストマー部分25は、21の内面に等しく配置され得ることが認識されるであろう。このような配置は、エラストマー部分25の離散的な性質および間隔のために、図9Aおよび図9Bに示される凹部の必要性をなくす。
【0065】
図11Aおよび図11Bは、本発明のさらに別の実施形態を示す。図11Aおよび図11Bに示す例では、減衰質量は、環状体に形成された空洞内に含まれる複数の離散した要素26(図11Bに示す)から形成される。要素26は、ダンパの減衰質量を集合的に形成する任意の適切な高密度材料であってもよい。有利には、空洞内に収容されているが自由に動く複数の離散した要素を使用することで、単一の均質な金属製減衰質量(または他の適切な高密度材料)よりも減衰効果を高める。図11Aおよび図11Bに示すような配置の減衰効果は、直接隣接する要素26間の摩擦のために高められる。隣接する要素26間の接触によって引き起こされる摩擦は、ダンパ内の減衰効果を高めるように作用する。事実上、空洞内の要素の摩擦および移動は、空洞の内面への単一の均一な質量およびエラストマー接続と同じ効果を提供する。
【0066】
図11Aおよび図11Bに示す配置は、個々の要素26の使用により、Oリングシールおよびそれらを位置させるための関連する凹部の必要性をなくすので、より簡単な構造のダンパを提供する。製造も便利である。
【0067】
要素26は、所望の減衰要件に従って選択されることができる。要素の数および密度は、減衰質量の所望の累積質量を達成するように選択されることができる。一配置では、直径約0.30mm(0.2mm~0.4mmの範囲)のサイズを有する個々の要素を含むショットピーニング材料を使用することができる。一配置では、直径は0.36mmである。
【0068】
別の配置では、金属、プラスチック、または繊維が選択されることができる。サイズは、有利には、直径0.3mm~15mmであってもよく、0.5kg/dm~19kg/dmの密度を有してもよい
図11Bは、離散した要素26を利用する減衰質量の拡大断面図を示す。
【0069】
図12A図12Bおよび図12Cは、図11Aおよび図11Bに示すような特定のまたは離散した減衰質量の代替オプションを示す。図12Aは、減衰質量粒子の球状配置を示す。図12Bは、三角形のモザイク状配置を示す図であり、図12Cは、減衰質量の粉末組成を示す図である。各々は、環状体内に画定された空洞内に好都合に配置または注入され得る。
【0070】
図13A図13Bおよび図13Cは、本明細書に記載の減衰配置の位置付けオプションを示す。
【0071】
図13Aにおいて、減衰配置は、工具ステム(工具ビームとも呼ばれる)の周りに位置している。実際には、減衰は、外側から、すなわち工具ビームの周囲から達成される。この配置は、工具ステムが長く、工具ステム自体に減衰配置を位置させるための空間を提供する場合に使用され得る。減衰環状体14(図3に示す工具カラーまたはコレット)は、例えば本体15の各側の一対のカラーを使用して、または適切なねじまたは固定具を使用して減衰環状体をステムに固定することによって、様々な方法で工具ステムに結合することができる。減衰体14は、工具の最大振動点に位置するようにステムに沿ってx方向に沿って移動されてもよい。これは、上記のような当業者に公知の技術を使用して決定されることができる。工具ホルダに固定される場合、ねじ配置が使用されてもよい。工具ビームに沿った位置に位置する場合、カラー/コレット配置は、図3に示すようにテーパ部材を使用して使用されてもよい。
【0072】
図13Bは、減衰環状体が工具ホルダ29に結合される代替的な配置を示す。この配置は、工具ステムが短い場合に使用されてもよい。上記のように、減衰環状体14は、例えば本体14の各側の一対のカラーを使用して、または適切なねじまたは固定具を使用して減衰環状体をホルダに固定することによって、様々な方法で工具ホルダに結合することができる。減衰体14は、工具の最大振動点に位置するように工具ホルダに沿ってx方向に沿って移動されてもよい。
【0073】
最後に、図13Cは、環状体14が工具ホルダに直接隣接して接続され、工具ステム28を取り囲む配置を示す。
【0074】
図14は、工具ステムまたはビームに沿ったダンパ環状体15の相対位置を示す。本体の位置は、切削速度、利用可能な空間などのパラメータに応じて異なる位置14、14’の間で調整され、上述の技術を使用して決定され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図5A
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12
図13
図14
【国際調査報告】