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特表2024-527360高強度のコーティングされた二相鋼ストリップおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-24
(54)【発明の名称】高強度のコーティングされた二相鋼ストリップおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240717BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240717BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240717BHJP
   C22C 18/00 20060101ALN20240717BHJP
   C22C 18/04 20060101ALN20240717BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C21D9/46 G
C22C38/00 301T
C22C38/60
C21D9/46 J
C22C18/00
C22C18/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500430
(86)(22)【出願日】2022-07-07
(85)【翻訳文提出日】2024-03-05
(86)【国際出願番号】 EP2022069016
(87)【国際公開番号】W WO2023281035
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】21184350.3
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ヨースト、ビレム、ヘンドリック、ファン、クレフェル
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA09
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA14
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EA32
4K037EA36
4K037EB05
4K037EB08
4K037EB09
4K037EB11
4K037FB05
4K037FC04
4K037FC07
4K037FD04
4K037FE01
4K037FE02
4K037FG01
4K037FH01
4K037FJ01
4K037FJ05
4K037FK01
4K037FK02
4K037FK03
4K037FK08
4K037FL01
4K037FL02
4K037FM02
4K037GA05
4K037JA06
(57)【要約】
本発明は、改善された成形性を有する580~720MPaの引張強度Rmおよび310~430MPaの降伏強度Rpを有する、コーティングされ、任意選択で調質圧延された二相鋼ストリップに関する。本発明はまた、そのような鋼ストリップを製造するための方法およびその使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、以下の組成:
C:0.090~0.140;
Mn:1.200~1.900;
Si:0.200~0.800;
Al:0.200~0.800;
B:0.0010~0.0050;
S:最大で0.050;
P:最大で0.050;
N:最大で0.015;
任意選択で、以下の元素:
Cr:最大で0.500
Mo:最大で0.400
V:最大で0.200
Nb:最大で0.060
Ti:最大で0.060
Ca:最大で0.0050
から選択される元素のうちの1つまたは2つ以上;
鉄および不可避的不純物:残部
からなる二相鋼ストリップであって、
前記二相鋼ストリップが、580~720MPaの引張強度Rmおよび310~430MPaの降伏強度Rpを有し、
前記二相鋼ストリップが、任意選択で、i)溶融亜鉛めっき、ii)電気亜鉛めっき、または、iii)電気めっきされている、二相鋼ストリップ。
【請求項2】
重量%で、以下の組成:
C:0.090~0.130;
Mn:1.400~1.800;
Si:0.250~0.750;
Al:0.200~0.750;
B:0.0010~0.0040;
S:最大で0.004;
P:最大で0.040;
N:最大で0.012;
任意選択で、以下の元素:
Cr:最大で0.400
Mo:最大で0.300
V:最大で0.150
Nb:最大で0.050
Ti:最大で0.050
Ca:最大で0.0050
から選択される元素のうちの1つまたは2つ以上;
鉄および不可避的不純物:残部
からなる、請求項1に記載の二相鋼ストリップ。
【請求項3】
重量%で、以下の組成:
C:0.090~0.130;
Mn:1.400~1.750;
Si:0.250~0.700;
Al:0.200~0.650;
B:0.0010~0.0030;
S:最大で0.003;
P:最大で0.015;
N:最大で0.006;
任意選択で、以下の元素:
Cr:最大で0.120
Mo:最大で0.015
V:最大で0.010
Nb:最大で0.010
Ti:最大で0.010
Ca:最大で0.0050
から選択される元素のうちの1つまたは2つ以上;
鉄および不可避的不純物:残部
からなる、請求項1または2に記載の二相鋼ストリップ。
【請求項4】
重量%で、以下の組成:
C:0.110~0.130;
Mn:1.400~1.750;
Si:0.500~0.700;
Al:0.200~0.400;
B:0.0012~0.0028;
S:最大で0.003;
P:最大で0.015;
N:最大で0.006;
任意選択で、以下の元素:
Cr:最大で0.040
Mo:最大で0.015
V:最大で0.010
Nb:最大で0.010
Ti:最大で0.010
Ca:最大で0.0050
から選択される元素のうちの1つまたは2つ以上;
鉄および不可避的不純物:残部
からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップ。
【請求項5】
重量%で、以下の組成:
C:0.110~0.130;
Mn:1.400~1.750;
Si:0.500~0.700;
Al:0.200~0.400;
B:0.0012~0.0028;
S:最大で0.003;
P:最大で0.015;
N:最大で0.006;
Cr:0.020~0.150;
任意選択で、以下の元素:
Mo:最大で0.015
V:最大で0.010
Nb:最大で0.010
Ti:最大で0.010
Ca:最大で0.0050
から選択される元素のうちの1つまたは2つ以上;
鉄および不可避的不純物:残部
からなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップ。
【請求項6】
重量%で、以下の組成:
C:0.090~0.130;
Mn:1.300~1.800;
Si:0.250~0.750;
Al:0.200~0.650;
B:0.0010~0.0035;
S:最大で0.003;
P:最大で0.030;
N:最大で0.010;
任意選択で、以下の元素:
Cr:最大で0.150
Mo:最大で0.200
V:最大で0.100
Nb:最大で0.040
Ti:最大で0.040
Ca:最大で0.0050
から選択される元素のうちの1つまたは2つ以上;
鉄および不可避的不純物:残部
からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップ。
【請求項7】
Cr、Mo、V、NbおよびTiのうちの1つまたは2つ以上またはすべてが、不純物としてのみ存在し、これは、該当する場合、Crが0.020重量%未満であり、Tiが0.010重量%未満であり、Vが0.010重量%未満であり、Moが0.015重量%未満であり、Nbが0.010重量%未満であることを意味する、請求項1~6のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップ。
【請求項8】
前記二相鋼ストリップが、590~720MPaの引張強度Rmおよび/または320~430MPaの降伏強度Rpを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップ。
【請求項9】
前記二相鋼ストリップが、少なくとも18%、好ましくは少なくとも19%、より好ましくは少なくとも20%、さらにより好ましくは少なくとも22%、最も好ましくは少なくとも24%の一様伸びAg、および/または、少なくとも26%、好ましくは少なくとも28%、より好ましくは少なくとも29%、最も好ましくは少なくとも30%の全伸びA80を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップ。
【請求項10】
前記二相鋼ストリップが、少なくとも35%の穴広げ能HECを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップ。
【請求項11】
前記二相鋼ストリップが、少なくとも0.16、好ましくは少なくとも0.18、より好ましくは少なくとも0.20、さらにより好ましくは少なくとも0.22、最も好ましくは少なくとも0.24の平均歪み硬化指数またはn値を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップ。
【請求項12】
前記二相鋼ストリップが、連続アニーリングの直後に続く溶融コーティングによる金属コーティング、または、連続アニーリングした鋼ストリップを周囲温度に冷却した後の電着による金属コーティングを備える、請求項1~11のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップ。
【請求項13】
580~720MPaの引張強度Rmおよび310~430MPaの降伏強度Rpを有する、コーティングされ、任意選択で調質圧延された、請求項1~12のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップを製造するための方法であって、以下の工程:
・重量%で、
C:0.090~0.140;
Mn:1.200~1.900;
Si:0.200~0.800;
Al:0.200~0.800;
B:0.0010~0.0050;
S:最大で0.050;
P:最大で0.050;
N:最大で0.015;
任意選択で、以下の元素:
Cr:最大で0.500
Mo:最大で0.400
V:最大で0.200
Nb:最大で0.060
Ti:最大で0.060
Ca:最大で0.0050
から選択される元素のうちの1つまたは2つ以上;
鉄および不可避的不純物:残部
からなる組成を有する連続鋳造スラブを、2.0~4.5mmの厚みを有する熱間圧延鋼ストリップに熱間圧延することによって、熱間圧延鋼ストリップを作製する工程、ここで、仕上げ圧延は、鋼ストリップがオーステナイトミクロ組織を有する間に実施される;
・仕上げ圧延後の熱間圧延鋼ストリップを、少なくとも30℃/秒の冷却速度で冷却する工程;
・冷却された鋼ストリップを、500~650℃の巻き取り温度CTで巻き取る工程、ここで、オーステナイトの量は60%超であり、巻き取られた鋼ストリップは、次いで、周囲温度に冷却される;
・巻き取られた熱間圧延鋼ストリップを巻き戻した後、酸洗いし、40~80%の圧下率で冷間圧延する工程;
・冷間圧延鋼ストリップを、
i.鋼ストリップを、少なくとも3℃/秒の加熱速度HR1で550~710℃の温度T1に加熱して、冷間圧延鋼ストリップの再結晶化をオーステナイト形成の開始前に少なくとも60%進行させ、
ii.鋼ストリップを、平均加熱速度HR2で、(Ac1+50℃)~(Ac3-30℃)の温度T2にさらに加熱して、部分的なオーステナイトミクロ組織を形成させ、ここで、平均加熱速度HR2は、好ましくは2~20℃/秒であり、
iii.続いて、
a.鋼ストリップを、最大300秒の時間t2の間、温度T2で維持した後、16~30%のオーステナイトが低速冷却鋼ストリップ中に存在するように、鋼ストリップを、0.5~12℃/秒の冷却速度CR1で、600~790℃、好ましくは620~790℃の温度T3に低速で冷却するか、または、
b.16~30%のオーステナイトが低速冷却鋼ストリップ中に存在するように、鋼ストリップを、0.5~12℃/秒の冷却速度CR1で、温度T2から、600~790℃、好ましくは620~790℃の温度T3に直ちに低速で冷却し、
iv.16~30%のオーステナイトを含む低速冷却鋼ストリップを、5~70℃/秒の平均冷却速度CR2で、
a.330~470℃の温度T4に急速に冷却するか、または、
b.オーバーエージング温度T_oaに、5~100秒の時間t_oaの間、急速に冷却し、ここで、オーバーエージング温度T_oaは、390~465℃であり、
v.鋼ストリップを、少なくとも4℃/秒の冷却速度CR3で、300℃未満の温度に冷却する
ことによって連続アニーリングする工程;
・鋼ストリップに対して、
a)ステップivとvとの間に、溶融コーティングによって金属コーティングを設け、次いで、任意選択で、溶融コーティングされた鋼ストリップをガルバニール処理するか、または、
b)ステップvの後に、電着によって金属コーティングを設ける工程;
・任意選択で、コーティングされた鋼ストリップを、最大で0.70%の圧下率で調質圧延またはテンションレベリングする工程;
・コーティングされた鋼ストリップを巻き取るか、または、コーティングされた鋼ストリップをシートまたはブランクに切断する工程;
・任意選択で、コーティングされた鋼ストリップ、シートまたはブランクを、打抜き加工、曲げ加工、深絞り加工などの冷間成形操作を介して、または、温間プレス成形もしくは熱間プレス成形を介して、成形する工程
を含む、方法。
【請求項14】
以下のプロセスパラメーター:
・630℃未満、好ましくは610℃未満、より好ましくは600℃未満の巻き取り温度;
・520℃超、好ましくは530℃超の巻き取り温度;
・少なくとも44%、好ましくは少なくとも45%、かつ、最大で70%、好ましくは最大で67%の冷間圧延圧下率;
・400~470℃の温度T3
のうちの1つまたは2つ以上を適用する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
以下の特性:
・少なくとも18%の一様伸びAg;
・少なくとも26%の全伸びA80またはJIS;
・少なくとも35%の穴広げ能HEC;
・少なくとも7.0%、好ましくは少なくとも7.5%の(全伸びマイナス一様伸び)
のうちの1つまたは2つ以上を有する、コーティングされた鋼ストリップ、シートまたはブランクを製造するための、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップから製造された、自動車またはトラックの構成部品、例えば、自動車のシャーシまたは安全構成部品、Bピラー、強化(衝突)部品、フロントクラッシュビーム、シート部材、バンパー部品、ドア部品、ホワイトボディの構成部品、フレームまたはサブフレームの構成部品、電池ホルダーまたは容器部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車産業において使用されるような、改善された成形性を有する、高強度の、コーティングされた二相鋼ストリップに関する。本発明はまた、そのような鋼ストリップを製造するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、(先進)高強度鋼板AHSSは、重量および燃料消費を低減するために、自動車構成部品における使用が増加している。一連の(先進)高強度鋼、例えば、HSLA鋼、二相(DP)鋼、伸びフランジ(SF)鋼を含むフェライト-ベイナイト(FB)鋼、複合相(CP)鋼、変態誘起塑性(TRIP)鋼、熱間成形鋼、双晶誘起塑性(TWIP)鋼が、増大する要求を満たすために開発されている。
【0003】
しかしながら、AHSS鋼板は、成形性が比較的不十分なため、多種多様な自動車構成部品に容易には適用できない。製品は、好ましくは、コイルとして最終顧客に供給され、最終顧客は、ブランクを切断し、これらを最終部品に成形する。
【0004】
鋼は、高強度化されるにつれて、自動車部品への形成が困難になる。実際、AHSS鋼(DP、CPおよびTRIP)の自動車構成部品への実際の適用は、その成形性によって、なお制限されている。したがって、成形性および製造可能性を改善することが、AHSSを適用するための重要な課題となる。他方、価格面も重要な課題である。このことは、腐食保護、様々な機械特性、溶接性、光学特性、加工性およびコストといった、鋼が満足しなくてはならない、多くの場合相反する要求を実現するために、高価な合金元素を使用する可能性を制限する。
【0005】
二相鋼は、硬質マルテンサイト相および/またはベイナイト相の(混合物の)主成分が、延性フェライト母材中に分散したミクロ組織の結果、強度と打抜き性(またはプレス性)の良好な組合せを提供する。少量の残留オーステナイト(1~3%)およびセメンタイトが存在していてもよい。これらの鋼は、高い歪み硬化性を有する。このことは、鋼に、良好な歪み再分配能および打抜き性を付与するだけでなく、平らな金属よりもはるかに優れた、降伏強度を含む完成部品の機械特性を付与する。二相鋼の降伏強度は、塗料焼付(焼付硬化、BHとも呼ばれる)プロセスによってさらに向上する。これらの二相鋼は、VDA239-100においてCR330Y590T-DPまたはDHと称され、ここで、330は最小降伏(Y)強度(本発明の文脈においてRp=Rp0.2)(単位MPa)を指し、590は最小引張(T)強度(Rm)(単位MPa)を指す。DPは二相を表し、DHは、より高い成形性を有するDPを表す(DH=Dehnung Hoch)。
【0006】
【表1】
【0007】
A80mm(%):標点距離L=80mm(ISO 6892-1 タイプ2(EN20×80))の試料を使用した破断伸び。
A50mm(%):標点距離L=50mm(ISO 6892-1 タイプ1(ASTM12.5×50)またはタイプ3(JIS25×50)の試料を使用した破断伸び。
A(%):L=5.65√S(式中、Sは、試料の開始時断面積(単位mm)である)の比例試料を使用した破断伸び。
Ag(%):一様伸び(最大試験力における塑性伸び)。
BH2(MPa):2%塑性予備歪み後の参照状態と加熱処理(170℃、20分間)後に得られた状態との間の降伏強度の増加。
10-20(-):10~20%の塑性歪みまたはAg(Ag<20%の場合)で決定した歪み硬化指数。
4-6(-):4~6%の塑性歪みで決定した歪み硬化指数。
Rm(MPa):引張強度。
Rp0.2(MPa):0.2%塑性伸長における降伏強度(MPa)。これは、調質圧延後に得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、鋼ストリップの成形性、均質性および加工性の間のバランスをとる、高強度の、溶融亜鉛めっきされた鋼ストリップの組成を見出すことである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、溶融亜鉛めっきによる良好なコーティング性を有する、高強度の溶融亜鉛めっき鋼ストリップを提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、良好な溶接性を有する、高強度の溶融亜鉛めっき鋼ストリップを提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、良好な表面品質を有する、高強度の溶融亜鉛めっき鋼ストリップを提供することである。
【0012】
本発明のなお別の目的は、可能な限り低い原価を有する、高強度の溶融亜鉛めっき鋼ストリップを提供することである。
【0013】
本発明のなお別の目的は、CR330Y590T特性が、コイルを通して、または全コイル幅および全長にわたって、ならびにコイル間で得られることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
目的のうちの1つまたは2つ以上は、重量%で、以下の組成:
C:0.090~0.140;
Mn:1.200~1.900;
Si:0.200~0.800;
Al:0.200~0.800;
B:0.0010~0.0050;
S:最大で0.050;
P:最大で0.050;
N:最大で0.015;
任意選択で、以下の元素:
Cr:最大で0.500
Mo:最大で0.400
V:最大で0.200
Nb:最大で0.060
Ti:最大で0.060
Ca:最大で0.0050
から選択される元素のうちの1つまたは2つ以上;
鉄および不可避的不純物:残部
からなる二相鋼ストリップであって、
580~720MPaの引張強度Rmおよび310~430MPaの降伏強度Rpを有する、二相鋼ストリップによって達成される。鋼ストリップは、任意選択で、溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっきまたは電気めっきされている。
【0015】
好ましい実施形態は、従属請求項によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、溶融金属(この場合、亜鉛)を保持するポットを備えた連続アニーリングおよび溶融コーティングラインの模式図である。アスタリスクで示される位置は、任意選択のガルバニール処理セクションが配置される位置である。これらのラインの大半において、溶融コーティングは任意選択であるため、亜鉛ポットは、所望の場合省略されうる。
図2図2は、亜鉛ポットと上部の方向転換ロールとの間に配置されるガルバニール処理セクションの模式図である。ガルバニール処理セクションは、加熱セクション、保持セクションおよび冷却セクションからなる。
図3図3は、試料が、鋼ストリップのロール方向に対して0°(すなわち縦方向)、90°(横方向)および45°で採取された引張試験結果の比較を示す図である。RmおよびRpは、方向に比較的非依存的であるが、全歪み、一様歪みは方向に依存する。
図4図4は、1/4tでの合金4(L)のミクロ組織を示す図である。ミクロ組織は、90%超のフェライト(F)>90%(明灰色の母材)、4~6%の残留オーステナイト(オフホワイト色)、少量のマルテンサイト(暗灰色/黒色)、少量のベイナイト(灰色)からなり、残部(存在する場合)はセメンタイトである。
図5図5は、本発明による鋼をアニーリングするための様々な(非限定的な)選択肢の1つを示す図である。T2で平坦域のない最高温度Tでの連続アニーリング、および溶融亜鉛めっき温度においてオーバーエージングありの溶融亜鉛めっき。
図6図6は、本発明による鋼をアニーリングするための様々な(非限定的な)選択肢の1つを示す図である。HDG(溶融亜鉛めっき)温度への加熱を含む、溶融金属の温度未満でのオーバーエージングありのCA(連続アニーリング)およびHDG。
図7図7は、本発明による鋼をアニーリングするための様々な(非限定的な)選択肢の1つを示す図である。T2で平坦域があるCA、およびHDG温度への加熱を含む、溶融金属の温度未満でのオーバーエージングありのHDG。
図8図8は、本発明による鋼をアニーリングするための様々な(非限定的な)選択肢の1つを示す図である。T2で平坦域があるCA、およびオーバーエージングなしのHDG。
図9図9は、巻き取り前の熱間圧延鋼ストリップのU型巻き取り温度プロファイルの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
二相鋼(DP)は、多相ミクロ組織を有する。マルテンサイトの島がフェライト母材に包埋され、その割合を使用して、それぞれのグレードの強度が調整される。成形性が改善された二相鋼(DH)の場合、ミクロ組織は、主にフェライトおよびマルテンサイト、ならびに少量のベイナイトおよび残留オーステナイトからなる。ミクロ組織および所望の機械特性は、化学組成、および任意選択で溶融亜鉛めっきと組み合わせたアニーリングプロセスによって調整される。二相鋼は、非常に低い降伏強度対引張強度比(Rp/Rm)を示すとともに、高い引張強度および高い加工硬化能を示す。したがって、これらの二相鋼は、高い延伸が要求される成形操作によく適している。セメンタイトは、好ましくは、ミクロ組織に存在しない。
【0018】
本発明の文脈において、溶融亜鉛めっき(亜鉛または亜鉛合金による溶融コーティング)は、溶融アルミニウムめっき(市販の純粋なアルミニウムまたはアルミニウム合金による溶融コーティング)を含む。あるいは、アニーリングした鋼ストリップには、電着によって金属コーティングが設けられていてもよい。本発明の文脈において、電気めっきと電着とは同義語であり、金属コーティングを、別の金属上に堆積させる電解プロセスのことである。電気亜鉛めっきは、一般に、亜鉛または亜鉛合金コーティングを別の金属に電着する、一種の電着である。
【0019】
主合金元素C-Mn-Si-Al-Bを、任意選択の元素を任意選択で添加して使用することは、ヨーロッパ規格VDA239-100に規定されるグレードCR330Y590T-DHを実現するための、費用対効果の高い解決法である。VDA239-100に基づくこのグレードのためのいくつかの要求を、表1に示す。本発明による鋼は、VDA239-100に適合する。強化された成形性は、冷間成形操作、例えば、引き抜き加工の操作において重要な部品を成形する場合に、従来の二相グレードと同等の溶接性能を保持しながら、鋼に付加価値を与える。その機械特性のおかげで、これらのグレードは、耐衝突のための自動車の安全部品に好適である。置換元素(例えばMn)の量を制限することによって、良好な穴広げ係数(HEC)値を得ることができる。Mnの制限はまた、不均一伸び(post-uniform elongation)の量に対しても有益な効果を有する。鋼の強化は、ホウ素およびケイ素の添加によってさらに実現される。ケイ素を使用することの不利益は、例えば、液体金属脆化(LME)または熱収縮圧力による、スポット溶接における割れのリスクであり、スポット溶接時の割れを抑制するためには、アルミニウムの添加が必要である。アルミニウムは、一般に、LMEに寄与すると考えられるため、これは実に驚くべきことであるが、この慎重にバランスのとられた化学的性質においては、相変態に対するフェライト形成剤としてのアルミニウムの有益な効果が優勢である。
【0020】
本発明者らは、鋼の主構成元素(炭素、マンガン、ケイ素、アルミニウム、クロムおよびホウ素)の量を慎重に選択することによって、要求される成形性、均質性、加工性、強度および伸びを有するとともに、十分な溶接性、コーティング性および表面品質をもたらす、高強度の溶融亜鉛めっき鋼ストリップが製造可能であることを見出した。
【0021】
本発明による鋼中の主構成元素量の理由は、下記で説明する通りである(すべての組成を通して、別段に示されない限り、重量パーセント(重量%)で示される)。下記に示す合金元素は、所望の結果を達成するバランスのとれた方法で適用されなくてはならないが、元素は、互いに独立して、本明細書において個々の元素について下記に記載する範囲内で変化してもよいことに留意されたい。
【0022】
C:0.090~0.140重量%
炭素は、従来の連続アニーリング/亜鉛めっきラインにおける強度レベルを達成するための、鋼のグレードにおいて必須の費用対効果の高い合金元素である。炭素は、要求される強度および伸びを確実にする量で存在しなくてはならない。焼入れ性、および従来のアニーリング/亜鉛めっきラインにおいて利用可能な冷却速度で生じるマルテンサイトの形成を確実にするためには、少なくとも0.090重量%が必要であることが見出された。0.140重量%の最大のレベルは、十分な溶接性および伸びを確実にするために必須であることが見出された。Cは、好ましくは少なくとも0.094重量%、より好ましくは0.098重量%、より一層好ましくは0.104重量%、より一層好ましくは少なくとも0.110重量%である。炭素含有量は、好ましくは最大で0.130重量%、より好ましくは最大で0.125重量%である。好ましい実施形態では、Cは、0.090重量%~0.130重量%である。
【0023】
Mn:1.200~1.900重量%
マンガンは、鋼の焼入れ性を改善し、その結果、ベイナイトおよびマルテンサイトの形成を促進する。マンガンは、固溶体強化によってフェライト母材を強化し、鋼の変態温度の範囲を低下させ、したがって、必要なアニーリング温度を低下させる。オーステナイト安定化元素として、マンガンは、残留オーステナイトの形成を促進する。Mnは、HEC値およびコイルにおける延性の変動、ならびに熱間および冷間圧延における圧延力に悪影響を及ぼすことが公知であり、したがって、Mn値は、1.900重量%以下、好ましくは1.800重量%以下とするべきである。Mnの好適な最大値は、1.750重量%である。1.700重量%以下、またはさらには1.600重量%以下のMn値は、HEC値および延性をさらに改善する。これらの最大のレベルはまた、鋳造時のより強い偏析、およびより高い値の鋼ストリップの中心偏析を考慮して与えられる。製品は、RTF加熱およびより高速の炎加熱の両方の連続アニーリングラインにおいて、さらに処理可能であるべきである。1.7重量%を超えると、とりわけ、DFF(直火炉)、NOF(無酸化炉)等におけるより高速の炎加熱、または誘導加熱のような任意のその他の高速加熱方法の場合、冷間圧延の再結晶化、および後続の連続アニーリング時のフェライトの粒成長を、決定的に遅延させる。コイルの幅および長さにわたる加熱における不可避の変動を考慮すると、これは、全コイル幅および全長にわたって延性に悪影響を及ぼしうる。最小のMn値は、少なくとも1.200重量%、好ましくは少なくとも1.300重量%、より好ましくは少なくとも1.400重量%、最も好ましくは少なくとも1.450重量%である。Mnのレベルが低すぎると、要求される強度レベルが達成できず、低Rp/Rm比のDP特性は、Mnがより低い値においては達成されない。この下限は、ホウ素などのその他の元素の添加することで可能となる。これらの値は、より高いMn値では容易に達成されるが、費用および伸び値が悪化するため、適切なバランスが選択されなくてはならない。好ましい実施形態では、Mnは、1.400重量%~1.750重量%である。
【0024】
Si:0.200~0.800重量%
ケイ素は、最終製品におけるセメンタイトの形成を抑制し、残留オーステナイトの形成を安定化し、それによって、製品の延性を改善する。ケイ素は、固溶体によって鋼母材を効果的に強化して、必要な強度レベルを達成し、フェライト成分の加工硬化速度を上昇させ、これは、局所的な成形性(HEC)および高い全伸びを改善する。本発明による鋼中の最大のSi含有量は、0.800重量%である。しかしながら、Siは、スポット溶接性に悪影響を及ぼし、コーティングされた鋼ストリップが液体金属脆化を受けやすくなることが観察されたため、最大値は、好ましくは0.750重量%、より好ましくは0.700重量%、最も好ましくは0.650重量%までに制限される。さらに、ケイ素が過剰であると、コイル冷却時に内部および粒界の酸化の程度が高くなりすぎる場合がある。これは、非常に低い巻き取り温度およびバッチアニーリング処理を採用することによって回避しうるが、これは、プロセスの点で費用対効果の高い解決法の範囲外である。
【0025】
最低限の強化効果を達成するためには、少なくとも0.200重量%、好ましくは少なくとも0.250重量%のSiが必要である。Siと、例えばAlなどのその他の元素とのバランスをとることによって、好ましくは少なくとも0.400重量%、より好ましくは少なくとも0.450重量%の最小のSiレベルが好ましい場合がある。好ましい実施形態では、Siは、0.500重量%~0.700重量%である。
【0026】
Al:0.200~0.800重量%
アルミニウムは、主に、脱酸素の目的で、比較的少量で溶鋼に添加される。過剰のAlはまた、窒素と反応し、AlN析出物を形成し、ホウ素が窒素と反応するのを防止する。結果として、Bは粒界で偏析し、焼入れ性元素として作用する。少なくとも遊離酸素および窒素との結合を実現するために、少なくとも0.060重量%というより低レベルのAlが提案される。
【0027】
より高い含有量では、Alはベイナイト変態を遅延させ、これによって、連続アニーリング/亜鉛めっきラインのアニーリングセクションによって課される時間的制約内で最適なベイナイト形成が決定される。Alは、総アルミニウム含有量として示される。アルミニウムはまた、カーバイドの形成を阻止し、溶鋼中に炭素を維持し、これは次に、オーバーエージング時にオーステナイトへの炭素の分配(partitioning)を引き起こし、オーステナイトの安定性を促進する。ケイ素とは異なり、Alは、連続アニーリングラインのオーバーエージングセクションにおいて、オーステナイトの炭素富化のための分配時間をほとんど増加させない。これは、伸び値および焼入れ性を改善し、また、連続アニーリングラインにおいて、必要な要件を達成するものの、オーバーエージング時間を最小にまたはゼロにすることを可能にする。高いアルミニウム含有量は、鋳型スラグの鋳造の弊害につながり、その結果、鋳型スラグ粘度を増加させ、鋳造時の不正確な熱伝達および潤滑を与えるため、鋳造性のために0.800重量%の最大レベルが与えられる。
【0028】
鋳造時、アルミニウムは偏析して、炭素、ケイ素およびマンガン富化偏析バンドと、中間状態の、より低Mn高アルミニウム富化偏析バンドが生じる。いずれの効果も、降伏応力は低いままに維持しながら、最終製品の伸び、焼入れ性値(n4_6(4~6%の歪み範囲における歪み硬化指数)およびn値(歪み硬化係数))を増加させる。さらに、AlはMnおよびSiの偏析を引き起こすため、強度を増加させる。アルミニウムのさらなる有益な効果は、亜鉛(合金化)めっき鋼ストリップなどの溶接時に割れが形成されにくくなり、液体金属脆化への感受性を低減させることである。したがって、アルミニウムは、限られた程度に、Siを置き換えることができる。
【0029】
アルミニウムの量は、変態区間アニーリングおよび変態区間アニーリング時の相分布に影響を及ぼす。これは、アルミニウムがフェライト形成剤であることによって理解されうる。上記の理由から、Alは、好ましくは0.200重量%超であり、より好ましくは、最小のAl含有量は0.25重量%である。アルミニウム含有量は、好ましくは最大で0.750重量%、より好ましくは最大で0.650重量%、より一層好ましくは最大で0.400重量%である。好ましい実施形態では、Alは、0.200重量%~0.400重量%である。
【0030】
アルミニウムおよびケイ素の合計は、好ましくは、Al+Si=0.350~1.200重量%、より好ましくは0.600~1.200重量%である。両方の元素の組合せにより、最終製品におけるカーバイドの形成が抑制され、十分なオーステナイトが安定化する。ケイ素は、オーバーエージングセクションにおける残留オーステナイト形成の最適時間を増加させることが公知である一方、アルミニウムは、残留オーステナイト形成の分配時間にはほとんど影響を及ぼさない。正確な組成を使用することで、AlとSiの合計は、所望の通りに成形性を拡大しうる。その使用は、熱間圧延非再結晶化温度(TNR)も決定するため、バランスをとらなければならない。ケイ素はTNRを低下させる一方、AlはTNRを上昇させる。熱機械圧延を可能にして、改善されたr値により、所望の通りに成形性をさらに確実に拡大するために、TNRは、好ましくは可能な限り低くする。Al+Siは、好ましくは0.650~1.100重量%、より好ましくは0.700~1.100重量%、より一層好ましくは0.750~1.050重量%、最も好ましくは0.800~0.950重量%である。
【0031】
B:0.0010~0.0050重量%(5~50重量ppm)
ホウ素は、必要な強度レベルを達成するための焼入れ性元素として添加される。ホウ素の添加は、より高価な合金元素の使用を削減することを可能にする。より高価な固溶体合金元素と比較して、ホウ素は、再結晶化する能力への影響がはるかに少ない。これにより、熱間圧延ラインにおける追加の静的または動的再結晶化が可能になり、平均流動応力の蓄積が低減される。また、連続アニーリングの加熱セクションにおける冷間圧延再結晶化能も向上するため、十分な粒成長を可能にし、直火式および低速管状加熱式アニーリングラインの両方において、DH600特性を達成しうる。ホウ素は、最終製品の特性に影響を及ぼすが、圧延力には影響を及ぼさないため、MnおよびSiなどの固溶体硬化元素の代わりにホウ素を使用すると、鋼ストリップの寸法ウィンドウ(dimensional window)が改善される。これは、鋼ストリップの幅方向にわたる鋼の機械特性は好適なままでありながら、より高い幅対厚さ比が得られることを意味する。ホウ素は、残留オーステナイトを微細化し、形成された残留オーステナイトを安定化させる。ホウ素は、粒界に偏析し、リンを部分的に置き換えるため、溶接性を改善する。これにより、溶接性を損なうことなく鋼中のPの量をある程度多くすることを可能にする。
【0032】
ホウ素の量は、0.0010~0.0050重量%(10~50ppm)である。下限レベルは、好ましくは0.0012重量%、より好ましくは0.0015重量%である。ある特定のホウ素レベルを超えると、亜鉛コーティングは有害な影響を受け、焼入れ性が低下する。上限レベルは、好ましくは0.0040重量%、より好ましくは0.0035重量%、より一層好ましくは0.0030重量%、より一層好ましくは0.0025重量%である。好ましい実施形態では、Bは、0.0015~0.0025重量%である。
【0033】
N:最大で0.015重量%(150ppm)
窒素は、鋳造時に存在する。鋼中の遊離窒素は、深刻なエージングにつながり、ホウ素が焼入れ性元素として作用する能力に影響を及ぼすため、回避すべきである。しかしながら、本発明による鋼の化学組成中には、アルミニウムおよびホウ素の余剰分があり、結果としてすべての窒素は、AlNまたはBNとしてAlまたはBに結合する。N含有量は、BOS製鋼および連続鋳造プラントで典型的に、0.015重量%に制限される。しかしながら、窒素は、最大で0.012重量%、好ましくは最大で0.010重量%の値に低減することが好ましい。最大のレベルは、より好ましくは0.008重量%、より一層好ましくは0.006重量%である。鋼からすべての窒素を除去するのは経済的ではないため、好ましい実施形態では、Nは、0.0001重量%~0.006重量%(10~60ppm)である。
【0034】
P:最大で0.050
リンはカーバイドの形成を阻害するため、鋼中のいくらかのリンは有利でありうる。さらに、リンは、酸洗い性に好影響を及ぼし、鋼を強化する。0.050重量%の最大値が許容される。しかしながら、リンは溶接の際に鋼を脆くすることがあるため、リンの量は、十分な熱間延性を維持し、スポット溶接組み立てにおいて実施される引張せん断試験時の剥離による破損を回避するために、好ましくは0.040重量%に制限される。Pの最大のレベルは、より好ましくは0.030重量%、より一層好ましくは0.020質量%である。好ましい実施形態では、Pは、最大で0.015重量%である。
【0035】
S:最大で0.050重量%
硫黄(S)は、0.050重量%の値で最大となり、好ましくは0.020重量%の値、より好ましくは0.010重量%の値で最大となる。硫黄は酸洗い性をある程度改善しうるものの、硫黄は好ましくは完全に回避されるが、製鋼プロセスおよびそこで使用される原材料の結果として、不可避的に存在する。硫黄は、硫化マンガンおよび/または硫化カルシウムの形態で析出し、成形性を大幅に低下させる。硫黄の量は、好ましくは0.0001~0.005重量%、より好ましくは最大で0.003重量%、より一層好ましくは最大で0.002重量%である。最小量は、好ましくは0.0002重量%である。好ましい実施形態では、Sは、0.0001重量%~0.002重量%である。
【0036】
任意選択で、Ti、V、Cr、Mo、Nb、Ni、Cu、Caから選択される1つまたは2つ以上の元素が、鋼組成に添加されてもよく、または不純物として存在していてもよい。
【0037】
カルシウム(Ca)の添加は、硫化マンガン介在物のモルホロジーを変更する。カルシウムが添加される場合、硫化マンガン介在物は、細長い形状ではなく球形をとる。ストリンガーとも呼ばれる細長い介在物は、それに沿って層状に裂け、剥離破壊が起こりうる弱い面として作用しうる。ストリンガーの回避は、穴の拡張またはフランジの延伸を伴う鋼板の形成プロセスに有益であり、等方性成形挙動を促進する。また、カルシウム処理は、アルミニウム脱酸鋼タイプにおいて、硬質で角のある研磨性のアルミナ介在物の形成を防止し、代わりに、圧延温度においてより軟質で球状のアルミン酸カルシウム介在物を形成し、それによって、材料の加工特性が改善される。連続鋳造機において、溶鋼中に生じるいくらかの介在物は、ノズルを詰まらせる傾向を有し、出力損失および費用の増大につながる。カルシウム処理は、キャスターノズルを塞がない低融点種の形成を促進することによって、詰まりの傾向を低減する。硫黄含有量が非常に低い場合、カルシウムは添加しないことも可能である。Ca元素の最大値は、0.0050重量%(=50ppm)、好ましくは0.0030重量%、より好ましくは0.0020重量%、より一層好ましくは0.0010重量%に設定される。好ましい実施形態では、Caは、最大で0.0010重量%である。マグネシウムまたは希土類金属(REM)が、Caと同様の理由で添加されてもよい。これらの元素の最大値は、Mgについて500ppm、およびREMについて50ppmに設定される。
【0038】
クロム(Cr)は、焼入れ性を高めるために添加される。クロムは、フェライトの形成を促進する。残留オーステナイトを犠牲にして、多すぎるマルテンサイトが形成しないことを確実にするために、0.500重量%の最大のレベルが与えられる。Crは添加しないことも可能であり、この場合、クロムは完全に存在しないか、または最大でも残留元素もしくは不純物レベルで存在する。Crは、実に高価である。この観点から、Crの量は、好ましくは最大で0.300重量%、より好ましくは最大で0.250重量%、より一層好ましくは最大で0.200重量%である。機械特性の観点から、Crが合金元素として添加される場合、好ましい範囲は、0.020~0.400重量%である。所望のミクロ組織、所望の機械特性を得ることと費用との間の良好なバランスは、Crが0.020~0.150重量%、好ましくは0.020~0.120重量%である場合に得られる。合金元素として添加される場合、Crの最小量は、好ましくは0.030重量%、より好ましくは0.040重量%である。0.020未満の値は、残留元素レベルであるとみなされる。元素が残留元素レベルである場合、その元素は、鋼の特性または加工性に顕著には影響しないとみなされ、これらの場合、そのレベルをさらに低減することが技術的に可能であったとしても、これらの元素を除去する費用は、さらにCrを低減することによる予測利益をさらに超えることになる。
【0039】
チタン(Ti)は、鋼を強化するために主に添加され、許容レベルは、最大で0.060重量%である。Tiは添加しないことも可能であり、この場合、チタンは、完全に存在しないか、または最大でも残留元素もしくは不純物レベルで存在する。添加される場合、Tiの量は、好ましくは0.010~0.060重量%、より好ましくは0.02~0.050重量%である。0.010重量%未満の値は、残留元素レベルであるとみなされる。
【0040】
バナジウムは、0.200重量%まで添加されてもよい。添加される場合、好ましい範囲は、0.005~0.200重量%である。バナジウム含有量が0.005重量%未満である場合、バナジウムの析出強化が不十分である。バナジウム含有量が0.200重量%超である場合、析出は、微細析出物の形態で、熱間圧延中または熱間圧延後の早い段階で起こり、これは、寸法ウィンドウを減少させるか、または連続アニーリング時に粗大化し、析出強化を低下させる。バナジウムの量は、0.005~0.200重量%、好ましくは0.010~0.200重量%、より好ましくは0.030~0.200重量%、最も好ましくは0.040~0.150重量%である。Vは添加しないことも可能であり、この場合、バナジウムは、完全に存在しないか、または最大でも残留元素もしくは不純物レベルで存在する。0.010重量%未満の値は、残留元素レベルであるとみなされる。
【0041】
任意選択で、ベイナイト変態を妨害し、固溶体硬化を促進する、モリブデン等の元素が、0.40重量%を超えない量で添加されてもよい。Moの量は、鋼の費用を制限し、寸法ウィンドウを可能な限り大きく維持するために、好ましくは、0.005~0.20重量%、より好ましくは0.005~0.10重量%である。Moは、強度を改善し、亜鉛系コーティングの品質を改善するために添加しうる。Moはまた、析出形成により鋼の強化を補助する。しかしながら、Moは添加しないことも可能であり、この場合、モリブデンは、完全に存在しないか、または最大でも残留元素もしくは不純物レベルで存在する。0.015重量%未満の値は、残留元素レベルであるとみなされる。
【0042】
ニオブ(Nb)は、好ましくは0.001~0.060重量%、より好ましくは0.001~0.050重量%、最も好ましくは0.001~0.030重量%の量で添加されてもよい。Nbの添加は、相補的な炭窒化物の析出によって強度を増加させるが、熱間圧延力を増加し、これは寸法ウィンドウを減少させる。添加される場合、Nbの量は、好ましくは0.010~0.060重量%、より好ましくは最大で0.050または最大で0.030重量%である。0.010重量%未満の値は、残留元素レベルであるとみなされる。
【0043】
したがって、ある実施形態では、請求項のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップにおいて、Cr、Mo、V、NbおよびTiのうちの1つもしくは2つ以上、またはすべては、不純物としてのみ存在し、これは、該当する場合、Cr、Ti、V、MoおよびNbのうちの1つもしくは2つ以上、またはすべてについて、それぞれ、Crは0.020重量%未満であり、Tiは0.010重量%未満であり、Vは0.010重量%未満であり、Moは0.015重量%未満であり、Nbは0.010重量%未満であることを意味する。
【0044】
ニッケルおよび銅は、本発明による鋼には添加されず、これらの元素は、完全に存在しないか、または最大でも残留元素もしくは不純物レベルで存在する。0.060重量%未満の値は、残留元素レベルであるとみなされる。
【0045】
ある実施形態では、本発明による二相鋼ストリップは、590~720MPaの引張強度Rmおよび/または320~430MPaの降伏強度Rpを有する。好ましくは、本発明による鋼は、少なくとも330MPaの降伏強度Rpを有する。好ましくは、本発明による鋼は、最大で700MPaの引張強度Rmおよび最大で430MPaの降伏強度Rpを有する。
【0046】
本発明の第2の態様によると、580~720MPaの引張強度Rmおよび310~430MPaの降伏強度Rpを有する、コーティングされ、任意選択で調質圧延された、請求項1~11のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップを製造するための方法であって、以下の工程:
・重量%で、
C:0.090~0.140;
Mn:1.200~1.900;
Si:0.200~0.800;
Al:0.200~0.800;
B:0.0010~0.0050;
S:最大で0.050;
P:最大で0.050;
N:最大で0.015;
任意選択で、以下の元素:
Cr:最大で0.500
Mo:最大で0.400
V:最大で0.200
Nb:最大で0.060
Ti:最大で0.060
Ca:最大で0.0050
から選択される元素のうちの1つまたは2つ以上;
鉄および不可避的不純物:残部
からなる組成を有する連続鋳造スラブを、2.0~4.5mmの厚みを有する熱間圧延鋼ストリップに熱間圧延することによって、熱間圧延鋼ストリップを作製する工程、ここで、仕上げ圧延は、鋼ストリップがオーステナイトミクロ組織を有する間に実施される;
・仕上げ圧延後の熱間圧延鋼ストリップを、少なくとも30℃/秒の冷却速度で冷却する工程;
・冷却された鋼ストリップを、500~650℃の巻き取り温度CTで巻き取る工程、ここで、オーステナイトの量は60%超であり、巻き取られた鋼ストリップは、次いで、周囲温度に冷却される;
・巻き取られた熱間圧延鋼ストリップを巻き戻した後、酸洗いし、40~80%の圧下率で冷間圧延する工程;
・冷間圧延鋼ストリップを、
i.鋼ストリップを、少なくとも3℃/秒の加熱速度HR1で550~710℃の温度T1に加熱して、冷間圧延鋼ストリップの再結晶化をオーステナイト形成の開始前に少なくとも60%進行させ、
ii.鋼ストリップを、平均加熱速度HR2で、(Ac1+50℃)~(Ac3-30℃)の温度T2にさらに加熱して、部分的なオーステナイトミクロ組織を形成させ、ここで、平均加熱速度HR2は、好ましくは2~20℃/秒であり、
iii.続いて、
a.鋼ストリップを、最大で90秒の時間t2の間、温度T2で維持した後、16~30%のオーステナイトが低速冷却鋼ストリップ中に存在するように、鋼ストリップを0.5~12℃/秒の冷却速度CR1で、600~790℃、好ましくは620~790℃の温度T3に低速で冷却するか、または、
b.16~30%のオーステナイトが低速冷却鋼ストリップ中に存在するように、鋼ストリップを、0.5~12℃/秒の冷却速度CR1で、温度T2から、600~790℃、好ましくは620~790℃の温度T3に直ちに低速で冷却し、
iv.16~30%のオーステナイトを含む低速冷却鋼ストリップを、5~70℃/秒の平均冷却速度CR2で、
a.330~470℃の温度T4に急速に冷却するか、または、
b.オーバーエージング温度T_oaに、5~100秒の時間t_oaの間、急速に冷却し、ここで、オーバーエージング温度T_oaは、390~465℃であり、
v.鋼ストリップを、少なくとも4℃/秒の冷却速度CR3で、300℃未満の温度に冷却する
ことによって連続アニーリングする工程;
・鋼ストリップに対して、
a)ステップivとvの間に、溶融コーティングによって金属コーティングを設け、次いで、任意選択で、溶融コーティングされた鋼ストリップをガルバニール処理するか、または、
b)ステップvの後に、電着によって金属コーティングを設ける工程;
・任意選択で、コーティングされた鋼ストリップを、最大で0.70%の圧下率で調質圧延またはテンションレベリングする工程、ここで、コーティングされ、任意選択で調質圧延された鋼ストリップは、580~720MPaの引張強度Rmおよび310~430MPaの降伏強度Rpを有し;
・コーティングされた鋼ストリップを巻き取るか、または、コーティングされた鋼ストリップをシートまたはブランクに切断する工程;
・任意選択で、コーティングされた鋼ストリップ、シートまたはブランクを、打抜き加工、曲げ加工、深絞り加工などの冷間成形操作を介して、または、温間プレス成形もしくは熱間プレス成形を介して、成形する工程
を含む、方法が提供される。
【0047】
好ましい実施形態は、従属請求項によって提供される。
【0048】
製鋼および鋳造
溶鋼は、好ましくは、BOSプロセス(塩基性酸素製鋼)で製造される。このプロセスは、電気アーク(EA)プロセスよりも化学的性質を制御することができること、およびEAプロセスと比較して、BOSプロセスで達成されうる不可避的不純物のレベルがより低いことから、好ましい。本発明の文脈において、不可避的不純物および残留元素は、不可避的不純物のレベルおよび残留元素のレベルが、これらのレベル未満の元素レベルに低下させることが技術的または経済的に不可能であることによって決定される点で同じものを意味する。
【0049】
溶鋼は、慣用の鋳造機で、連続してスラブに鋳造される。鋳造後、鋼ストリップは連続鋳造機において冷却される。連続鋳造の冷却の間に、スラブは、曲げ加工中に鋼の延性が低下する特定の温度範囲になり、これは、延性の谷(ductility trough)として公知である。この温度範囲では、析出物が形成しうる。析出物を形成する元素のうちの1つはAlであり、これは、粒界でAlNを形成する。これは、プロセスの後期で銀の形成につながりうるため、部分的に抑制されるべきである。Bを添加することによって、BNが優先的に形成されるため、AlNは、部分的に抑制される。
【0050】
鋳造スラブは、厚スラブ(150~350mmの厚み)または薄スラブ(50~150mm)であってもよい。不均質で過剰な粒成長は、BNおよび/またはAlN(混合物)の析出物の形成によって抑制されうる。BN析出物の一部は溶解する一方、AlN析出物が形成される。
【0051】
熱間圧延
続いて、スラブは熱間圧延される。厚スラブは、従来のホットストリップミル(HSM)で熱間圧延される。薄スラブは、通常、薄スラブ鋳造機および(直接)圧延設備(TSCR)において鋳造された後、直接熱間圧延される。HSMで厚鋳造スラブを熱間圧延する前に、スラブを、1150℃以上の温度に再加熱しなくてはならない。TSCRで薄鋳造スラブを熱間圧延する前に、スラブを、約1150℃の温度で均質にしなくてはならない。いずれのタイプの熱間圧延プロセスも、本発明による鋼を熱間圧延するのに等しく適用可能である。
【0052】
必須ではないが、本発明者らは、鋳造スラブから開始する熱間圧延の圧下の大部分は、TNR超の温度で適用されることが好ましいことを見出した。
【0053】
厚鋳造スラブ(150~350mm)から開始する場合、総熱間圧延圧下(スラブの厚みから熱間圧延鋼ストリップの厚みへ)のうち、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%、より一層好ましくは少なくとも80%、より一層好ましくは85%は、非再結晶化温度(TNR)超で実施されることが好ましい。薄鋳造スラブ(50~150mm)から開始する場合、総熱間圧延圧下のうち、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より一層好ましくは少なくとも70%、より一層好ましくは75%は、非再結晶化温度(TNR)超で実施されること、および、完全再結晶化は、仕上げ圧延機の第1のスタンドにおいて起こることが好ましい。タンデム仕上げ圧延機において、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%の熱間圧延圧下(トランスファーバーの厚みから熱間圧延鋼ストリップの厚みへ)は、TNR超で実施される。TNR超でのより高い圧下は、静的または動的再結晶化の反復に起因した、より微細なオーステナイト構造につながり、それによって、フェライト母材中に残留オーステナイト画分がより均一に分布したより微細な熱間圧延コイルの最終構造がもたらされる。本発明の合金の場合、使用される等式は(組成の単位は重量%):
TNR(℃)=887+464×[C]+363×[Al]-357×[Si]
である。
【0054】
TNRは、好ましくは1050℃未満であり、仕上げ圧延温度(FRT)は、好ましくは少なくとも880℃である。最終的なフェライトの結晶粒の配向を最適化することによって、r値、ひいては局部延性を促進するために、最後の熱間圧延の圧下工程の間、鋼は、なおそのオーステナイト状態(すなわち、Ac3超)でなくてはならない。
【0055】
熱間圧延の完了後、鋼ストリップは、ランアウトテーブル上で、平均冷却速度(好ましくは50℃/秒超の平均冷却速度)で巻き取り温度に冷却される。本発明において特定される巻き取り温度は、鋼ストリップの本体の目標巻き取り温度に関する。巻き取られた熱間圧延鋼ストリップの冷却効果に起因して、鋼ストリップの前端部および後端部は、鋼ストリップの本体よりもコイルにおいてより速く冷却される。前端部および後端部は、コイルの内側および外側ラップ(wrap)を形成する。熱間圧延鋼ストリップの前端部および後端部のより速い冷却を補正するために、いわゆるU型冷却パターンを用いることによって、前端部および後端部はより高い巻き取り温度を目標とすることが好ましい場合がある。
【0056】
熱間圧延後の本体の巻き取り温度は、表面の粒界酸化を回避するために、好ましくは610℃未満、より好ましくは600℃未満、より一層好ましくは590または580℃未満である。巻き取り温度が低いほど、表面の粒界酸化のリスクが低くなる。さらに、パーライト/セメンタイトが帯状モルホロジーで形成し始めるが、これもまた、好ましくは回避される。さらに、コイル中間の強度が相当な低下を示し、合金組成は、コイルの中間位置において適正強度を達成しないリスクを有しうる。他方、巻き取り温度が低すぎると、コイル前端部および後端部において硬質端部が生じ、伸びの低下につながる。したがって、本体の巻き取り温度は、500℃以上、好ましくは520℃以上である。前端部および後端部の悪影響は、好適に選択されたより高い前端部および/または後端部の巻き取り温度によって補正しうる。
【0057】
冷間圧延
鋼ストリップは酸洗いされ、次いで、冷間圧延される。固溶体中の合金元素によって、圧延力は考慮される。したがって、冷間圧延圧下率は、最大で80%、好ましくは最大で75%、より好ましくは最大で70%、より一層好ましくは最大で65%である。圧下率が高いほど、圧延力は高くなり、したがって、形状欠陥のリスクが高くなり、寸法ウィンドウが小さくなる。寸法ウィンドウがより小さいとは、鋼の機械特性が、鋼ストリップの幅にわたって好適なまま、幅対厚み比がより小さくなることを意味する。冷間圧延圧下率はまた、アニーリング後の最終的なミクロ組織に影響を及ぼす。冷間圧延圧下率がある特定の(組成依存性の)閾値を超える場合、ミクロ組織は、ミクロ組織がアニーリング処理の間に残留オーステナイトを形成するその潜在力を失う程度に変形する。この少量の残留オーステナイトは、所望の成形性を得るために重要であり、したがって冷間圧延圧下率は重要である。さらに、冷間圧延圧下率が高いと、フェライト粒が小さくなり、このことは、n4_6値に悪影響を及ぼしうる。
【0058】
連続アニーリング
すべての先行するプロセス工程が鋼の最終特性に寄与するが、連続アニーリング工程は、所望の最終特性を得る上で最後の重要な工程である。
【0059】
冷間圧延鋼ストリップは、無酸化炉(NOF)、直火炉(DFF)、誘導炉、輻射管炉(RTF)において、または熱気によって、3~30℃/秒の平均加熱速度で加熱される。加熱の間、冷間圧延ミクロ組織の再結晶化とオーステナイト形成と間の重なりが少ないことが重要である。変形したミクロ組織の少なくとも実質的な部分、好ましくはすべてが、オーステナイトへの変態が開始する前に再結晶化される。これは、再結晶化されていないフェライト粒が再結晶化前に回復し、これらの回復した粒中の炭素は、回復した粒の低角粒界に拡散する傾向があるためである。再結晶化粒は、その炭素に「固着(cling)」せず、炭素は、形成されたオーステナイトに拡散し、フェライトの炭素含有量が低いことに起因して、再結晶化粒は、再結晶化されていない粒よりも先に変態する傾向がある。アニーリングサイクルが変態区間アニーリングサイクルである場合、これは、最後に残留しているフェライトが、炭素含有量の高い再結晶化されていないフェライトであることを意味する。この炭素は、アニーリング後の冷却時におけるマルテンサイトの形成には寄与せず、炭素はまた、成形性に必須であると考えられる残留オーステナイトの安定化を補助しない。再結晶化されていないフェライトは、さらに、成形性に悪影響を及ぼす。
【0060】
鋼ストリップ表面は、炉のセクションにおいて予備酸化されて、亜鉛めっきに好適な、十分な接着性を有する酸化物層が表面上に形成されることが可能となる。本発明による鋼の組成は、溶融亜鉛めっき時に、溶融金属の濡れ性が悪い。表面の酸化、例えば、蒸気、HNX、水蒸気での酸化による、または、露点制御による。酸化鉄皮膜はまた、少量の酸化マンガンを含有する。SiおよびAlなどの合金元素から生じたその他の酸化物は、鉄/マンガン酸化物に不溶性であり、鋼/酸化物の界面ではじかれる。次いで、炉のセクションにおける還元雰囲気での酸化物の還元後、酸化合金元素は、表面を完全に被覆するのではなく、ノジュール状に配置され、これにより、より良好な濡れ性およびコーティング接着が可能になる。
【0061】
最高のアニーリング温度(T_top(T2))は、(Ac1+50℃)~(Ac3-30℃)で選択される。再加熱の間の相変態温度(Ac1およびAc3)ならびに冷却の間の相変態温度(例えば、ベイナイトおよびマルテンサイトの変態温度)は、膨張計において、図5~8に模式的に示される通りの熱プロファイルを模倣することによって単純に決定されうる。T_top(T2)の好ましい温度範囲は、790℃~880℃である。鋼ストリップは、最大300秒の均熱時間の間、T_top(T2)で保持されてもよい。均熱時間は、好ましくは最大で90秒である。あるいは、T_top(T2)は、ピーク温度であってもよく、このとき、温度は、最大300秒の均熱時間の間、790℃超で保持され、温度は、T_topにゆっくり昇温され、T_top(T2)からゆっくり降温される。均熱時間の後、鋼ストリップは、頂点温度よりも9℃~100℃低いT_slow(T3)にゆっくり冷却される。冷却の間、エピタキシャルフェライトが形成される一方、残留オーステナイトでは炭素が富化される。T_slow(T3)(T2からT3への冷却は、低速冷却セクションである)は、650℃超であるため、十分な量のオーステナイトが残留し、これがベイナイト、マルテンサイトに変態されるか、または残留オーステナイトがさらに富化されることが重要である。最小のオーステナイト量が少なくとも15~20%であることは、要求される590MPaを達成することを確実にする。低速冷却セクション後の冷却速度(CR2)は、5~70℃/秒、好ましくは少なくとも30℃/秒であり、オーステナイトではカーバイドの形成が防止される。
【0062】
本発明において、特性は、オーバーエージングありまたはなしの両方で達成可能であるべきである。T_slow(T3)から溶融金属浴へ直接冷却(図8を参照されたい)され、次いで、溶融亜鉛めっき、ガスジェットワイパーおよび周囲温度への冷却が続いてもよい。溶融亜鉛めっきされた鋼ストリップは、任意選択で、周囲温度に冷却される前にアニーリングされてもよい(ガルバニーリング処理)。亜鉛めっきの後に、アニーリング処理が続いてもよく、これはガルバニーリング処理として公知である。
【0063】
オーバーエージングは、さらなるベイナイトが形成され、既存のミクロ組織が調質されるという利点を有しうる。炭素の分配が、残留オーステナイトの形成のために行われてもよい。また、鋼に溶解した水素が、少なくとも部分的に放出されることがあり、鋼ストリップの張力もまた、部分的に緩和されうる。
【0064】
代替法において、鋼ストリップは、T_slow(T3)から370~470℃のオーバーエージング温度(T_oa)に、少なくとも15℃/秒の冷却速度(CR2)で冷却され、最大50秒のオーバーエージング時間の間、その温度で保持され、次いで、任意選択で、溶融金属浴の温度に加熱または冷却され、溶融金属浴に浸漬されることによって溶融亜鉛めっきされる(例えば、図5、6および7に示す)。浸漬後、亜鉛めっきされた鋼ストリップは、周囲温度に冷却されるか、または任意選択でアニーリングされ、周囲温度に冷却される。
【0065】
溶融金属浴は、溶融亜鉛、溶融亜鉛合金、溶融アルミニウムまたは溶融アルミニウム合金を含有しうる。亜鉛合金は、0.3~4.0重量%のMg、および0.3~6.0重量%のAl、任意選択で、最大で0.2重量%の1つまたは2つ以上の追加元素、不可避的不純物を含んでもよく、残部は亜鉛である。好ましくは、亜鉛合金コーティング層中の合金元素含有量は、1.0~2.0%のMgおよび1.0~3.0%のAl、任意選択で、最大で0.2%の1つまたは2つ以上の追加元素、不可避的不純物、ならびに残部の亜鉛である。より一層好ましい実施形態では、亜鉛合金コーティングは、最大で1.6%のMgおよび1.6~2.5%のAl、任意選択で、最大で0.2%の1つまたは2つ以上の追加元素、不可避的不純物、ならびに残部の亜鉛を含む。
【0066】
別の実施形態では、鋼ストリップ、シートまたはブランクは、(市販の純粋な)アルミニウム層またはアルミニウム合金層を設けられる。アルミニウム層などの溶融コーティングのための典型的な金属浴は、ケイ素により合金化されたアルミニウム、例えば、8~11重量%のケイ素および最大で4重量%の鉄、任意選択で、最大で0.2重量%の1つまたは2つ以上のカルシウムなどの追加元素、不可避的不純物、残部のアルミニウムを含む。ケイ素は、接着性および成形性を低下させる厚い鉄-金属間化合物層の形成を防止するために存在する。鉄は、好ましくは1~4重量%、より好ましくは少なくとも2重量%の量で存在する。
【0067】
アニーリングされた鋼ストリップはまた、溶融亜鉛めっきに代えて、亜鉛または亜鉛合金コーティングで電気亜鉛めっきされうる。任意選択で、アニーリングされた鋼ストリップは、ニッケル、コバルトまたはクロム、およびそれらの組合せで電気めっきされてもよい。
【0068】
コーティングされた鋼ストリップは、任意選択で、最大で0.70%のコーティングされた鋼ストリップの厚みの圧下率で調質圧延またはテンションレベリングに供されてもよい。圧下率は、好ましくは、最大で0.45%である。圧下率は、好ましくは、少なくとも0.05%である。圧下率の最大値は、n4_6の十分に高い値を確保する必要性によって左右される。最小圧下率は、コーティングされた鋼ストリップの表面テクスチャを改善し、および/または、降伏点伸び(YPE)を抑制し、および/または、材料の降伏強度(Rp)を増加させるために使用されうる。
【実施例
【0069】
本発明の比較例(C)および実施例(I)の鋼の組成を表2に示す。表3~5は、実験のためのプロセス設定を示す。表4は、産業的規模の試験に関連し、表5は、実験室規模の試験に関連することに留意されたい。
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】
【0074】
【表6】
【0075】
表6および7は、産業的規模および実験室規模の試験結果を示している。本発明の実施例の結果はすべて、表1に示される通り、VDA-239の要件を満たすことに留意されたい。RpおよびRmの値は、330~430MPaのRpおよび590~700MPaのRmというVDA-239の要求を満たす。
【0076】
伸びフランジ性の基準である穴広げ係数を決定するために、各シートから3つの正方形試料(90×90mm)を切り出し、次いで、試料に直径10mmの穴をあけた。試料の穴広げ試験を、上方へのバーリング加工(upper burring)により行った。60°の円錐状のパンチを下から押し上げ、厚さ方向に割れが形成されたときの穴の直径dfを測定した。HECを、d0=10mmとして下記式を使用して計算した。
【0077】
【数1】
【0078】
伸びフランジ性は、最大HEC値に基づいて評価し、HEC>35%の場合、十分であると判断する。
【0079】
以下、本発明は、以下の非限定的な図によって説明される。
【0080】
図1は、溶融金属(この場合、亜鉛)を保持するポットを備えた連続アニーリングおよび溶融コーティングラインの模式図である。アスタリスクで示される位置は、任意選択のガルバニール処理セクションが配置される位置である。これらのラインの大半において、溶融コーティングは任意選択であるため、亜鉛ポットは、所望の場合省略されうる。
図2は、亜鉛ポットと上部の方向転換ロールとの間に配置されるガルバニール処理セクションの模式図である。ガルバニール処理セクションは、加熱セクション、保持セクションおよび冷却セクションからなる。
図3は、試料が、鋼ストリップのロール方向に対して0°(すなわち縦方向)、90°(横方向)および45°で採取された引張試験結果の比較を示す図である。RmおよびRpは、方向に比較的非依存的であるが、全歪み、一様歪みは方向に依存する。
図4は、1/4tでの合金4(L)のミクロ組織を示す図である。ミクロ組織は、90%超のフェライト(F)>90%(明灰色の母材)、4~6%の残留オーステナイト(オフホワイト色)、少量のマルテンサイト(暗灰色/黒色)、少量のベイナイト(灰色)からなり、残部(存在する場合)はセメンタイトである。
図5~8は、本発明による鋼をアニーリングするための様々な(非限定的な)選択肢を示す図である。
5:T2で平坦域のない最高温度Tでの連続アニーリング、および溶融亜鉛めっき温度においてオーバーエージングありの溶融亜鉛めっき。
6:HDG(溶融亜鉛めっき)温度への加熱を含む、溶融金属の温度未満でのオーバーエージングありのCA(連続アニーリング)およびHDG。
7:T2で平坦域があるCA、およびHDG温度への加熱を含む溶融金属の温度未満でのオーバーエージングありのHDG。
8:T2で平坦域があるCA、およびオーバーエージングなしのHDG。
図9は、巻き取り前の熱間圧延鋼ストリップのU型巻き取り温度プロファイルの模式図である。
【0081】
【表7】
【0082】
【表8】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-03-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
好ましい実施形態は、従属請求項によって提供される。
本発明は、以下の発明を包含する。
[1]重量%で、以下の組成:
C:0.090~0.140;
Mn:1.200~1.900;
Si:0.200~0.800;
Al:0.200~0.800;
B:0.0010~0.0050;
S:最大で0.050;
P:最大で0.050;
N:最大で0.015;
任意選択で、以下の元素:
Cr:最大で0.500
Mo:最大で0.400
V:最大で0.200
Nb:最大で0.060
Ti:最大で0.060
Ca:最大で0.0050
から選択される元素のうちの1つまたは2つ以上;
鉄および不可避的不純物:残部
からなる二相鋼ストリップであって、
前記二相鋼ストリップが、580~720MPaの引張強度Rmおよび310~430MPaの降伏強度Rpを有し、
前記二相鋼ストリップが、任意選択で、i)溶融亜鉛めっき、ii)電気亜鉛めっき、または、iii)電気めっきされている、二相鋼ストリップ。
[2]重量%で、以下の組成:
C:0.090~0.130;
Mn:1.400~1.800;
Si:0.250~0.750;
Al:0.200~0.750;
B:0.0010~0.0040;
S:最大で0.004;
P:最大で0.040;
N:最大で0.012;
任意選択で、以下の元素:
Cr:最大で0.400
Mo:最大で0.300
V:最大で0.150
Nb:最大で0.050
Ti:最大で0.050
Ca:最大で0.0050
から選択される元素のうちの1つまたは2つ以上;
鉄および不可避的不純物:残部
からなる、[1]に記載の二相鋼ストリップ。
[3]重量%で、以下の組成:
C:0.090~0.130;
Mn:1.400~1.750;
Si:0.250~0.700;
Al:0.200~0.650;
B:0.0010~0.0030;
S:最大で0.003;
P:最大で0.015;
N:最大で0.006;
任意選択で、以下の元素:
Cr:最大で0.120
Mo:最大で0.015
V:最大で0.010
Nb:最大で0.010
Ti:最大で0.010
Ca:最大で0.0050
から選択される元素のうちの1つまたは2つ以上;
鉄および不可避的不純物:残部
からなる、[1]または[2]に記載の二相鋼ストリップ。
[4]重量%で、以下の組成:
C:0.110~0.130;
Mn:1.400~1.750;
Si:0.500~0.700;
Al:0.200~0.400;
B:0.0012~0.0028;
S:最大で0.003;
P:最大で0.015;
N:最大で0.006;
任意選択で、以下の元素:
Cr:最大で0.040
Mo:最大で0.015
V:最大で0.010
Nb:最大で0.010
Ti:最大で0.010
Ca:最大で0.0050
から選択される元素のうちの1つまたは2つ以上;
鉄および不可避的不純物:残部
からなる、[1]~[3]のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップ。
[5]重量%で、以下の組成:
C:0.110~0.130;
Mn:1.400~1.750;
Si:0.500~0.700;
Al:0.200~0.400;
B:0.0012~0.0028;
S:最大で0.003;
P:最大で0.015;
N:最大で0.006;
Cr:0.020~0.150;
任意選択で、以下の元素:
Mo:最大で0.015
V:最大で0.010
Nb:最大で0.010
Ti:最大で0.010
Ca:最大で0.0050
から選択される元素のうちの1つまたは2つ以上;
鉄および不可避的不純物:残部
からなる、[1]~[4]のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップ。
[6]重量%で、以下の組成:
C:0.090~0.130;
Mn:1.300~1.800;
Si:0.250~0.750;
Al:0.200~0.650;
B:0.0010~0.0035;
S:最大で0.003;
P:最大で0.030;
N:最大で0.010;
任意選択で、以下の元素:
Cr:最大で0.150
Mo:最大で0.200
V:最大で0.100
Nb:最大で0.040
Ti:最大で0.040
Ca:最大で0.0050
から選択される元素のうちの1つまたは2つ以上;
鉄および不可避的不純物:残部
からなる、[1]~[3]のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップ。
[7]Cr、Mo、V、NbおよびTiのうちの1つまたは2つ以上またはすべてが、不純物としてのみ存在し、これは、該当する場合、Crが0.020重量%未満であり、Tiが0.010重量%未満であり、Vが0.010重量%未満であり、Moが0.015重量%未満であり、Nbが0.010重量%未満であることを意味する、[1]~[6]のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップ。
[8]前記二相鋼ストリップが、590~720MPaの引張強度Rmおよび/または320~430MPaの降伏強度Rpを有する、[1]~[7]のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップ。
[9]前記二相鋼ストリップが、少なくとも18%、好ましくは少なくとも19%、より好ましくは少なくとも20%、さらにより好ましくは少なくとも22%、最も好ましくは少なくとも24%の一様伸びAg、および/または、少なくとも26%、好ましくは少なくとも28%、より好ましくは少なくとも29%、最も好ましくは少なくとも30%の全伸びA80を有する、[1]~[8]のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップ。
[10]前記二相鋼ストリップが、少なくとも35%の穴広げ能HECを有する、[1]~[9]のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップ。
[11]前記二相鋼ストリップが、少なくとも0.16、好ましくは少なくとも0.18、より好ましくは少なくとも0.20、さらにより好ましくは少なくとも0.22、最も好ましくは少なくとも0.24の平均歪み硬化指数またはn値を有する、[1]~[10]のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップ。
[12]前記二相鋼ストリップが、連続アニーリングの直後に続く溶融コーティングによる金属コーティング、または、連続アニーリングした鋼ストリップを周囲温度に冷却した後の電着による金属コーティングを備える、[1]~[11]のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップ。
[13]580~720MPaの引張強度Rmおよび310~430MPaの降伏強度Rpを有する、コーティングされ、任意選択で調質圧延された、[1]~[12]のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップを製造するための方法であって、以下の工程:
・重量%で、
C:0.090~0.140;
Mn:1.200~1.900;
Si:0.200~0.800;
Al:0.200~0.800;
B:0.0010~0.0050;
S:最大で0.050;
P:最大で0.050;
N:最大で0.015;
任意選択で、以下の元素:
Cr:最大で0.500
Mo:最大で0.400
V:最大で0.200
Nb:最大で0.060
Ti:最大で0.060
Ca:最大で0.0050
から選択される元素のうちの1つまたは2つ以上;
鉄および不可避的不純物:残部
からなる組成を有する連続鋳造スラブを、2.0~4.5mmの厚みを有する熱間圧延鋼ストリップに熱間圧延することによって、熱間圧延鋼ストリップを作製する工程、ここで、仕上げ圧延は、鋼ストリップがオーステナイトミクロ組織を有する間に実施される;
・仕上げ圧延後の熱間圧延鋼ストリップを、少なくとも30℃/秒の冷却速度で冷却する工程;
・冷却された鋼ストリップを、500~650℃の巻き取り温度CTで巻き取る工程、ここで、オーステナイトの量は60%超であり、巻き取られた鋼ストリップは、次いで、周囲温度に冷却される;
・巻き取られた熱間圧延鋼ストリップを巻き戻した後、酸洗いし、40~80%の圧下率で冷間圧延する工程;
・冷間圧延鋼ストリップを、
i.鋼ストリップを、少なくとも3℃/秒の加熱速度HR1で550~710℃の温度T1に加熱して、冷間圧延鋼ストリップの再結晶化をオーステナイト形成の開始前に少なくとも60%進行させ、
ii.鋼ストリップを、平均加熱速度HR2で、(Ac1+50℃)~(Ac3-30℃)の温度T2にさらに加熱して、部分的なオーステナイトミクロ組織を形成させ、ここで、平均加熱速度HR2は、好ましくは2~20℃/秒であり、
iii.続いて、
a.鋼ストリップを、最大300秒の時間t2の間、温度T2で維持した後、16~30%のオーステナイトが低速冷却鋼ストリップ中に存在するように、鋼ストリップを、0.5~12℃/秒の冷却速度CR1で、600~790℃、好ましくは620~790℃の温度T3に低速で冷却するか、または、
b.16~30%のオーステナイトが低速冷却鋼ストリップ中に存在するように、鋼ストリップを、0.5~12℃/秒の冷却速度CR1で、温度T2から、600~790℃、好ましくは620~790℃の温度T3に直ちに低速で冷却し、
iv.16~30%のオーステナイトを含む低速冷却鋼ストリップを、5~70℃/秒の平均冷却速度CR2で、
a.330~470℃の温度T4に急速に冷却するか、または、
b.オーバーエージング温度T_oaに、5~100秒の時間t_oaの間、急速に冷却し、ここで、オーバーエージング温度T_oaは、390~465℃であり、
v.鋼ストリップを、少なくとも4℃/秒の冷却速度CR3で、300℃未満の温度に冷却する
ことによって連続アニーリングする工程;
・鋼ストリップに対して、
a)ステップivとvとの間に、溶融コーティングによって金属コーティングを設け、次いで、任意選択で、溶融コーティングされた鋼ストリップをガルバニール処理するか、または、
b)ステップvの後に、電着によって金属コーティングを設ける工程;
・任意選択で、コーティングされた鋼ストリップを、最大で0.70%の圧下率で調質圧延またはテンションレベリングする工程;
・コーティングされた鋼ストリップを巻き取るか、または、コーティングされた鋼ストリップをシートまたはブランクに切断する工程;
・任意選択で、コーティングされた鋼ストリップ、シートまたはブランクを、打抜き加工、曲げ加工、深絞り加工などの冷間成形操作を介して、または、温間プレス成形もしくは熱間プレス成形を介して、成形する工程
を含む、方法。
[14]以下のプロセスパラメーター:
・630℃未満、好ましくは610℃未満、より好ましくは600℃未満の巻き取り温度;
・520℃超、好ましくは530℃超の巻き取り温度;
・少なくとも44%、好ましくは少なくとも45%、かつ、最大で70%、好ましくは最大で67%の冷間圧延圧下率;
・400~470℃の温度T3
のうちの1つまたは2つ以上を適用する、[13]に記載の方法。
[15]以下の特性:
・少なくとも18%の一様伸びAg;
・少なくとも26%の全伸びA80またはJIS;
・少なくとも35%の穴広げ能HEC;
・少なくとも7.0%、好ましくは少なくとも7.5%の(全伸びマイナス一様伸び)
のうちの1つまたは2つ以上を有する、コーティングされた鋼ストリップ、シートまたはブランクを製造するための、[13]または[14]に記載の方法。
[16][1]~[12]のいずれか一項に記載の二相鋼ストリップから製造された、自動車またはトラックの構成部品、例えば、自動車のシャーシまたは安全構成部品、Bピラー、強化(衝突)部品、フロントクラッシュビーム、シート部材、バンパー部品、ドア部品、ホワイトボディの構成部品、フレームまたはサブフレームの構成部品、電池ホルダーまたは容器部品。
【国際調査報告】