(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-24
(54)【発明の名称】リアルタイム試料不足吸引障害検出
(51)【国際特許分類】
G01N 35/00 20060101AFI20240717BHJP
G01N 35/10 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
G01N35/00 F
G01N35/10 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501732
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(85)【翻訳文提出日】2024-02-22
(86)【国際出願番号】 US2022073657
(87)【国際公開番号】W WO2023288232
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508147326
【氏名又は名称】シーメンス・ヘルスケア・ダイアグノスティックス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】ナラヤナン・ラマクリシュナン
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058GB06
2G058GB10
2G058GE10
(57)【要約】
自動診断分析システムにおける試料不足吸引障害のリアルタイム検出方法は、吸引圧力測定信号に基づく圧力勾配波形のスペクトル解析を含む。スペクトル解析は、移動平均フィルタ、または、例えば連続ウェーブレット変換(CWT)もしくは離散ウェーブレット変換(DWT)などのウェーブレット変換を使用して、圧力勾配波形における明確な過渡的挙動を特定することを含むことができる。これらの方法は、試料不足吸引障害を正確に特定して、自動診断分析システムが、検出された試料不足の分析を適時に終了して、誤っている可能性のある試料検査結果を回避することができるようにする。試料不足吸引障害のリアルタイム検出装置もまた、他の態様と同様に提供される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動診断分析システムにおいて試料不足吸引障害を検出する方法であって:
自動診断分析システムにおいて、液体が吸引されている際に、圧力センサを介して吸引圧力測定を実行することと;
吸引圧力測定信号波形から勾配波形を導出し:
勾配波形の移動平均、または
勾配波形のウェーブレット変換
を計算するように構成されたアルゴリズムを実行するプロセッサを介して、吸引圧力測定信号波形を解析することと、
該解析することに応答して、プロセッサを介して試料不足吸引障害を特定しそれに応答することと、
を含む前記方法。
【請求項2】
移動平均を計算するように構成されたアルゴリズムは、勾配波形の検出窓内の予め決められた時間増分で、移動平均と勾配波形との差を計算するようにさらに構成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
移動平均を計算するように構成されたアルゴリズムは、20log(signal_metric/noise)dBに等しい信号対雑音比を計算するようにさらに構成されており、signal_metricは、勾配波形の検出窓内の予め決められた時間増分での移動平均と勾配波形との差の絶対値の平均値、二乗平均平方根(RMS)、または75パーセンタイル値のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
特定し応答することは、信号対雑音比が閾値を超えるかどうかを判断することにより、プロセッサを介して吸引障害を特定しそれに応答することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
移動平均は、約10ミリ秒の移動平均窓に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ウェーブレット変換は、連続ウェーブレット変換(CWT)または離散ウェーブレット変換(DWT)である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ウェーブレット変換を計算するように構成されたアルゴリズムは、ウェーブレット変換係数に基づいてウェーブレット変換の複数のメトリックを計算するようにさらに構成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
特定し応答することは、信号対雑音比が閾値を超えるかどうかを判断することにより、プロセッサを介して吸引障害を特定しそれに応答することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
吸引圧力測定信号波形を解析することは、吸引プロセスの開始から270ミリ秒~320ミリ秒の範囲の検出窓の間に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
特定し応答することは、自動診断分析システムによる液体の分析を、試料不足吸引障害を特定することに応答して、液体の分析の開始前に終了することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
自動吸引分注装置であって:
ロボットアームと;
該ロボットアームに連結されたプローブと;
該プローブに連結されたポンプと;
プローブを介して液体が吸引されている際に、吸引圧力測定を実行するように構成された圧力センサと;
アルゴリズムを実行して、吸引プロセス中に試料不足吸引障害を検出しそれに応答するように構成されたプロセッサであって、アルゴリズムは、圧力センサから受信した吸引圧力測定信号波形を、該吸引圧力測定信号波形から勾配波形を導出し、勾配波形の移動平均またはウェーブレット変換を計算することによって勾配波形のスペクトル解析を実行することによって、解析するように構成されている、プロセッサと、
を含む前記自動吸引分注装置。
【請求項12】
アルゴリズムは、勾配波形の検出窓内の予め決められた時間増分で、移動平均と勾配波形との差を計算するようにさらに構成されている、請求項11に記載の自動吸引分注装置。
【請求項13】
アルゴリズムは、ウェーブレット変換係数に基づいてウェーブレット変換の複数のメトリックを計算するようにさらに構成されている、請求項11に記載の自動吸引分注装置。
【請求項14】
アルゴリズムは、信号対雑音比が閾値を超えるかどうかを判断することにより、吸引プロセス中に試料不足吸引障害を検出しそれに応答するようにさらに構成されている、請求項11に記載の自動吸引分注装置。
【請求項15】
ウェーブレット変換は、連続ウェーブレット変換(CWT)または離散ウェーブレット変換(DWT)である、請求項11に記載の自動吸引分注装置。
【請求項16】
移動平均は、約10ミリ秒の移動平均窓に基づき;または
勾配波形のスペクトル解析を実行するように構成されたアルゴリズムは、吸引プロセスの開始から270ミリ秒~320ミリ秒の範囲の検出窓の間に移動平均を計算することによって、勾配波形のスペクトル解析を実行するようにさらに構成されている、請求項11に記載の自動吸引分注装置。
【請求項17】
アルゴリズムは、訓練された学習ベースの分類器を使用して正常/異常閾値を決定することによって、正常および異常(試料不足)分類の自動分類を実行するようにさらに構成された人工知能(AI)アルゴリズムである、請求項11に記載の自動吸引分注装置。
【請求項18】
アルゴリズムを実行するプロセッサは、吸引プロセス中に、自動診断分析システムによる液体の分析を終了することにより、試料不足吸引障害に応答するように構成されている、請求項11に記載の自動吸引分注装置。
【請求項19】
自動診断分析システムであって:
請求項11に記載の自動吸引分注装置と;
生体試料を分析する1つまたはそれ以上の分析器ステーションと;
試料容器および反応ベッセルを、自動吸引分注装置、ならびに1つまたはそれ以上の分析器ステーションに、またそれらから輸送する自動トラックと、
を含む前記自動診断分析システム。
【請求項20】
吸引圧力測定信号波形から導出された圧力勾配波形のスペクトル解析に基づいて試料不足吸引障害を検出するように構成されたプロセッサ実行可能アルゴリズムを含み、該アルゴリズムは、圧力勾配波形の移動平均またはウェーブレット変換を計算することによって圧力勾配波形のスペクトル解析を実行するように構成されている、非一時的コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項21】
自動診断分析システムにおいて試料不足吸引障害を検出する方法であって:
自動診断分析システムにおいて、液体が吸引されている際に、圧力センサによって測定された吸引圧力測定値から吸引圧力測定信号波形を導出することと;
正常な吸引の1つまたはそれ以上の第1の吸引圧力測定信号波形のパターンを特定することと;
1つまたはそれ以上の第2の吸引圧力測定信号波形において特定される、試料不足吸引障害によって引き起こされる異常の時間窓かけ局在化を定義することと;
異常を検出するための好適な識別メトリックを導出することであって、単純閾値処理、教師なし分類器、または教師あり学習ベースの分類器が、識別メトリックとともに使用されて、後続の吸引圧力測定信号波形における異常を特定することと、
を含む前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年7月13日に出願された「REAL-TIME SHORT SAMPLE ASPIRATION FAULT DETECTION」と題する米国仮特許出願第63/221,453号の利益を主張するものであり、その開示の全体をあらゆる目的のために参照によって本明細書に組み入れる。
【0002】
本開示は、自動診断分析システムにおける液体の吸引に関する。
【背景技術】
【0003】
医療検査において、自動診断分析システムは、生体試料を分析して、試料中の分析物または他の成分を同定するために使用することができる。生体試料は、例えば、尿、全血、血清、血漿、間質液、脳脊髄液などであり得る。このような生物学的液体試料は、通常、試料容器(例えば、試験管、バイアルなど)に収容され、容器キャリアおよび自動トラックを介して、自動診断分析システム内のさまざまな撮像、処理、および分析器ステーションに、またそれらから輸送することができる。
【0004】
自動診断分析システムは、通常、自動吸引分注装置を含み、こうした装置は、液体を液体容器(例えば、生物学的液体の試料、または試料と混合する液体試薬、酸、もしくは塩基)から吸引し(引き込み)、その液体を反応ベッセル(例えば、キュベット)に分注するように構成されている。吸引分注装置は、通常、プローブ(例えば、ピペット)を含み、プローブは、吸引および分注機能を実行し、試料または試薬を反応ベッセルに移送する、可動ロボットアームまたは他の自動化機構に取り付けられている。
【0005】
吸引プロセス中、システムコントローラまたはプロセッサによって制御することができる可動ロボットアームは、プローブを液体容器の上方に位置決めし、次いで、プローブが液体中に部分的に浸されるまで、プローブを容器内に下降させることができる。その後、ポンプまたは他の吸引デバイスを起動して、液体の一部を容器からプローブ内部に吸引する(引き込む)。その後、プローブは、処理および/または分析のために液体を反応ベッセルまで移送して反応ベッセル内に分注することができるように容器から引き抜かれる。吸引中または吸引後に、吸引圧力信号を解析して、何らかの異常、例えば、不十分な量の液体の吸引(以下、試料不足(short-sample)吸引障害と称する場合がある)などが発生したかどうかを判断することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のシステムは、いくつかの試料不足吸引障害を検出することができる可能性があるが、そのような検出は正確でない可能性があり、高い計算コストがかかる可能性があり、および/または、試料不足が検査結果に悪影響を及ぼすのを防ぐには、試料分析プロセスにおいて遅すぎる可能性がある。
【0007】
したがって、誤ったまたは不正確な試料検査を回避するために、試料不足吸引障害の正確なリアルタイム検出のための改良された方法および装置が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
いくつかの実施形態では、自動診断分析システムにおいて試料不足吸引障害を検出する方法を提供する。本方法は、自動診断分析システムにおいて、液体が吸引されている際に、圧力センサを介して吸引圧力測定を実行することを含む。本方法は、吸引圧力測定信号波形を、アルゴリズムを実行するプロセッサを介して解析することをさらに含む。アルゴリズムは、吸引圧力測定信号波形から勾配波形を導出し、勾配波形の移動平均を計算するか、または勾配波形のウェーブレット変換を計算するように構成されている。本方法は、上記解析することに応答して、プロセッサを介して試料不足吸引障害を特定しそれに応答することをさらに含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、ロボットアームと、ロボットアームに連結されたプローブと、プローブに連結されたポンプと、プローブを介して液体が吸引されている際に、吸引圧力測定を実行するように構成された圧力センサと、アルゴリズムを実行して、吸引プロセス中に試料不足吸引障害を検出しそれに応答するように構成されたプロセッサとを含む、自動吸引分注装置を提供する。アルゴリズムは、圧力センサから受信した吸引圧力測定信号波形を、吸引圧力測定信号波形から勾配波形を導出し、勾配波形の移動平均またはウェーブレット変換を計算することによって勾配波形のスペクトル解析を実行することによって、解析するように構成されている。
【0010】
いくつかの実施形態では、非一時的コンピュータ可読記憶媒体は、吸引圧力測定信号波形から導出された圧力勾配波形のスペクトル解析に基づいて試料不足吸引障害を検出するように構成されたプロセッサ実行可能アルゴリズムを含む。アルゴリズムは、圧力勾配波形の移動平均またはウェーブレット変換を計算することによって圧力勾配波形のスペクトル解析を実行するように構成されている。
【0011】
いくつかの実施形態では、自動診断分析システムにおいて試料不足吸引障害を検出する方法を提供する。本方法は、自動診断分析システムにおいて、液体が吸引されている際に、圧力センサによって測定された吸引圧力測定値から吸引圧力測定信号波形を導出することを含む。本方法はまた、正常な吸引の1つまたはそれ以上の第1の吸引圧力測定信号波形のパターンを特定することと、1つまたはそれ以上の第2の吸引圧力測定信号波形において特定される異常の時間窓かけ局在化(time-windowed localization)を定義することとを含み、異常は、試料不足吸引障害によって引き起こされる。本方法は、異常を検出するための好適な識別メトリックを導出することをさらに含み、単純閾値処理、教師なし分類器、または教師あり学習ベースの分類器が、識別メトリックとともに使用されて、後続の吸引圧力測定信号波形における異常が特定される。
【0012】
本開示のさらに他の態様、構成、および利点は、本発明を実行するために企図された最良の形態を含む、多数の実施形態および実施態様例の以下の詳細な説明および例示から容易に明らかであり得る。本開示はまた、他の異なる実施形態を可能とすることもでき、そのいくつかの詳細は、すべて本発明の範囲から逸脱することなく、さまざまな点で変更することができる。例えば、以下の説明は自動診断分析システムに関するものであるが、本明細書に開示する試料不足吸引障害検出方法および装置は、試料不足吸引障害の正確なリアルタイム検出から利益を得る他の自動化システムに容易に適用することができる。本開示は、添付の請求項(さらに後述を参照)の範囲内にあるすべての変更形態、均等物、および代替形態を包含するように意図されている。
【0013】
以下に説明する図面は、例示を目的とするものであり、必ずしも原寸に比例して示されていない。したがって、図面および説明は、制限的なものとしてではなく本質的に例示的なものとしてみなされるべきである。図面は、本発明の範囲をいかなるようにも限定するようには意図されてない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本明細書で提供する実施形態による、生体試料を分析するように構成された自動診断分析システムの上面概略図である。
【
図2】
図2Aおよび
図2Bは、本明細書で提供する実施形態による試料容器の正面図である。
【
図3】本明細書で提供する実施形態による吸引分注装置の正面概略図である。
【
図4】本明細書で提供する実施形態による自動診断分析システムにおいて試料不足吸引障害を検出する方法のフローチャートである。
【
図5】
図5Aは、本明細書で提供する実施形態による、正常な吸引の吸引圧力信号波形対時間のグラフである。
図5Bは、本明細書で提供する実施形態による、
図5Aの吸引圧力信号波形の吸引圧力勾配波形対時間のグラフである。
【
図6】
図6Aは、本明細書で提供する実施形態による、異常な吸引(試料不足吸引障害)の吸引圧力信号波形対時間のグラフである。
図6Bは、本明細書で提供する実施形態による、
図6Aの吸引圧力信号波形の吸引圧勾配波形対時間のグラフである。
【
図7】
図7Aは、本明細書で提供する実施形態による、正常な吸引を表す勾配波形の移動平均(MA)のグラフである。
図7Bは、本明細書で提供する実施形態による、
図7Aの移動平均(MA)に基づくデルタ信号のグラフである。
【
図8】
図8Aは、本明細書に提供する実施形態による、異常な吸引を表す勾配波形の移動平均(MA)のグラフである。
図8Bは、本明細書に提供する実施形態による、
図8Aの移動平均(MA)に基づくデルタ信号のグラフである。
【
図9】本明細書に提供する実施形態による、8つのサンプル吸引圧力信号波形の移動平均(MA)に基づく複数のデルタ信号のグラフである。
【
図10】本明細書に提供する実施形態による、8サンプル吸引圧力信号波形の
図9のデルタ信号に対する信号対雑音比(SNR)対SNRメトリックの棒グラフである。
【
図11】本明細書で提供する実施形態による、8つの試験サンプル吸引圧力信号波形の圧力勾配対時間のグラフである。
【
図12】本明細書で提供する実施形態による、
図11の8試験サンプル吸引圧力信号波形の最大勾配メトリックの2クラスタ分類のグラフである。
【
図13】本明細書で提供する実施形態による、連続ウェーブレット変換(CWT)に基づく、正常な吸引のサンプルのSNRメトリック対時間のグラフである。
【
図14】本明細書で提供する実施形態による、CWTに基づく異常な吸引のサンプルのSNRメトリック対時間のグラフである。
【
図15】本明細書で提供する実施形態による、離散ウェーブレット変換(DWT)に基づく、正常な吸引のサンプルのSNRメトリック対時間のグラフである。
【
図16】本明細書で提供する実施形態による、DWTに基づく異常な吸引のサンプルのSNRメトリック対時間のグラフである。
【
図17】本明細書で提供する実施形態による、マルチレベル離散ウェーブレット変換(DWT)フィルタバンクの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書に記載する実施形態は、試料不足吸引障害をリアルタイムで適時かつ正確に検出する方法および装置を提供する。試料不足吸引障害は、吸引が十分な量の液体を吸引しなかったときに発生し、これは、例えば、液体容器が十分な量の液体を含まないこと、閉塞、および/または、機器の欠陥(例えば、吸引ポンプの欠陥、ロボットアームの欠陥による液体容器内でのプローブの不適切な位置決め、ソフトウェアの欠陥など)によって引き起こされる可能性がある。いくつかの実施形態では、試料不足は、100μLの公称/目標吸引量に対して92μL未満とみなす場合がある。他の容量を、試料不足とみなしてもよい。試料不足吸引障害の適時かつ正確なリアルタイム検出により、自動診断分析システムが、試料の分析を終了すること、および/または誤った分析結果を有利に回避するために好適なエラー状態手順を実施することを可能にすることができる。いくつかの実施形態では、試料不足吸引障害の検出は、吸引プロセス中、または吸引プロセスの完了直後に検出された場合に、適時であるとみなすことができる。
【0016】
1つまたはそれ以上の実施形態に従って、試料不足吸引障害の適時かつ正確なリアルタイム検出は、自動診断分析システムまたは自動吸引分注装置のシステムコントローラ、プロセッサ、または他の同様のコンピュータデバイス上で実行するソフトウェアまたはファームウェアアルゴリズムを介して実装することができる。いくつかの実施形態では、アルゴリズムは、学習ベースのAI(人工知能)アルゴリズムであり得る。アルゴリズムは、圧力センサによって提供される吸引圧力測定信号から導出される圧力勾配波形のスペクトル解析を実行して、圧力勾配波形における明確な過渡的挙動を特定するように構成することができる。スペクトル解析は、移動平均フィルタ解析またはバンドパスフィルタ処理が施された信号の解析などの時間領域解析を含んでもよく、または、スペクトル解析は、短時間高速フーリエ変換(STFT)またはウェーブレット変換解析を使用してもよい。好ましい実施形態は、簡便性から移動平均フィルタ解析を含んでもよく、または時間およびスケール(スペクトル内容)に局在化する能力からウェーブレット変換解析を含んでもよい。
【0017】
移動平均フィルタ解析は、吸引プロセス中の勾配波形の好適な検出窓内の好適なタイムステップにおける(好適な移動平均窓にわたって求められる)移動平均と勾配波形との間の差分を計算することを含むことができる。その後、計算した差分に好適な信号対雑音比(SNR)閾値を適用して、吸引を正常または異常として分類することができる。
【0018】
信号識別メトリックは、以下:(a)対象となる予め決められた時間窓における圧力勾配の最大値、中央値、標準偏差、75パーセンタイル値などの何らかの統計的尺度、または(b)対象となる予め決められた時間窓における圧力勾配と圧力勾配の移動平均との差のうちの1つまたはそれ以上であり得る。
【0019】
ウェーブレット変換解析は、連続ウェーブレット変換(CWT)または離散ウェーブレット変換(DWT)を使用することと、特定の範囲のスケールにおける変換係数に基づくメトリックを検査する(interrogate)ことと、次いで、吸引を正常または異常として分類するために好適なSNR閾値を適用することとを含むことができる。
【0020】
より高度な学習ベースの分類器を使用して、高い分類精度を達成するために、ロバストな方法で、正常な吸引から異常な吸引(試料不足吸引)を分離する閾値または識別境界を自動的に設定することができる。いくつかの実施形態では、k平均クラスタリングを使用して、SNRメトリックに基づいて教師なし方法で吸引を正常または異常として分類することができる。単純閾値ベースのファジー分類器または単純ルールベースの基準もしくはスキーマを代替的に使用して、サンプルを正常または異常(試料不足吸引)として分類することもできる。ロジスティック関数分類器またはサポートベクターマシンなどの教師あり学習ベースの分類器も使用することができる。
【0021】
有利には、移動平均フィルタ解析およびウェーブレット変換解析の両方を、吸引プロセス中にオンラインでかつリアルタイムで実行することができる。各オンライン解析は、低い計算複雑度(O(N))および低いメモリ要件を有し、したがって、ファームウェアまたはソフトウェアに容易に実装することができる。
【0022】
1つまたはそれ以上の実施形態に従って、
図1~
図17に関連して、試料不足吸引障害の適時かつ正確なリアルタイム検出のための方法および装置について以下により詳細に説明する。
【0023】
図1は、1つまたはそれ以上の実施形態による自動診断分析システム100を示す。自動診断分析システム100は、試料容器102に収容された生体試料を自動的に処理および/または分析するように構成することができる。試料容器102は、システム100において、装填エリア106に設けられた1つまたはそれ以上のラック104に受けることができる。装填エリア106に、ラック104のうちの1つから試料容器102を把持し、自動トラック112上に位置する容器キャリア110内に試料容器102を装填する、ロボット容器ハンドラ108を設けることができる。試料容器102は、自動トラック112を介してシステム100全体を通して、例えば、品質チェックステーション114、吸引分注ステーション116、ならびに/または1つまたはそれ以上の分析器ステーション118A~Cまで輸送することができる。
【0024】
品質チェックステーション114は、試料が分析に適しているかどうかを判断するために、生体試料の妨害物質または他の望ましくない特性について事前スクリーニングすることができる。事前スクリーニングに合格した後、生物学的液体試料は、1つまたはそれ以上の分析器ステーション118A~Cにおける試料の分析を有効にし、および/または容易にするために、吸引分注ステーション116で液体試薬、酸、塩基、または他の溶液と混合することができる。分析器ステーション118A~Cは、例えばDNAまたはRNAなど、標的実体(分析物)の存在、量、または機能活性について試料を分析することができる。一般的に検査される他の分析物としては、酵素、基質、電解質、特定のタンパク質、乱用薬物、および治療薬物を挙げることができる。システム100において、より多いかまたは少ない分析器ステーション118A~Cを使用することができ、システム100は、他のステーション(図示せず)を含むことができる。
【0025】
自動診断分析システム100は、コンピュータ120も含むことができ、または代替的に、外部のコンピュータ120とリモートで通信するように構成してもよい。コンピュータ120は、例えば、システムコントローラなどであってもよく、マイクロプロセッサベースの中央処理装置(CPU)および/または他の好適なコンピュータプロセッサを有していてもよい。コンピュータ120は、システム100の(品質チェックステーション114、吸引分注ステーション116、ならびに分析器ステーション118A~Cを含む)さまざまな構成要素を動作させ、および/または制御するための好適なメモリ、ソフトウェア、電子機器、および/またはデバイスドライバを含むことができる。例えば、コンピュータ120は、装填エリア106との間、トラック112のまわり、品質チェックステーション114、吸引分注ステーション116、および分析器ステーション118A~Cとの間、ならびにシステム100の他のステーションおよび/または構成要素との間の、キャリア110の動きを制御することができる。品質チェックステーション114、吸引分注ステーション116、ならびに分析器ステーション118A~Cのうちの1つまたはそれ以上は、コンピュータ120に直接連結してもよく、または、ローカルエリアネットワーク(LAN)、広域ネットワーク(WAN)、もしくは有線および無線ネットワークを含む他の好適な通信ネットワークなどのネットワーク122を介してコンピュータ120と通信してもよい。コンピュータ120は、システム100の一部として収容してもよく、または、システム100からリモートであってもよい。
【0026】
いくつかの実施形態では、コンピュータ120は、検査室情報システム(LIS)データベース124に連結することができる。LISデータベース124は、例えば、患者情報、生体試料に対して行うべき検査、生体試料が得られた日時、医療施設情報、ならびに/または追跡および経路情報を含むことができる。その他の情報も含めることができる。
【0027】
コンピュータ120は、コンピュータインターフェースモジュール(CIM)126に連結することができる。CIM126および/またはコンピュータ120は、グラフィカルユーザインターフェースを含むことができるディスプレイ128に連結することができる。CIM126は、ディスプレイ128と連動して、ユーザが種々の制御およびステータス表示画面にアクセスし、データをコンピュータ120に入力することができるようにする。これらの制御およびステータス表示画面は、試料容器102内の生体試料を事前スクリーニングし、調製し、分析するための、品質チェックステーション114、吸引分注ステーション116、ならびに分析器ステーション118A~Cの一部またはすべての態様を表示し、その制御を有効にすることができる。CIM126を使用して、ユーザとシステム100との間のインタラクションを容易にすることができる。ディスプレイ128を使用して、アイコン、スクロールバー、ボックス、およびボタンを含むメニューを表示することができ、このメニューを通じて、ユーザ(例えば、システムオペレータ)は、システム100とインターフェースすることができる。メニューは、システム100の機能態様を表示し、および/または動作させるようにプログラムされた多数の機能要素を含むことができる。
【0028】
図2Aおよび
図2Bは、それぞれ試料容器202Aおよび202Bを示し、各図は、
図1の試料容器102を表す。試料容器202Aおよび202Bは、採血管、試験管、試料カップ、キュベット、または内部に生体試料を収容し、生体試料が事前スクリーニングされ、処理され(例えば、吸引され)、分析されるのを可能にすることができる他の容器など、透明または半透明の容器を含む、任意の好適な液体容器であり得る。
図2Aに示すように、試料容器202Aは、チューブ230Aおよびキャップ232Aを含むことができる。チューブ230Aは、バーコード、アルファベット文字、数字文字、またはそれらの組み合わせの形式で、患者、試料、および/または検査情報を示すことができるラベル234Aを、その上に含むことができる。チューブ230Aは、血清または血漿部分236SPと、沈降血液部分236SBと、それらの間に位置するゲルセパレータ216GAとを含むことができる生体試料236Aを、内部に収容することができる。
図2Bに示すように、試料容器202Aと構造的に同一であり得る試料容器202Bは、内部に均質な生体試料236Bを収容することができ、チューブ230Bはゲル底236GBを有する。
【0029】
図3は、1つまたはそれ以上の実施形態による吸引分注装置316を示す。吸引分注装置316は、自動診断分析システム100の吸引分注ステーション116の一部であるか、またはそれを表すものであり得る。試料不足吸引障害を検出するための本明細書に記載する方法および装置は、分析器118A、118B、および/または118Cに位置するものなど、吸引分注装置の他の実施形態とともに使用することができることに留意されたい。
【0030】
吸引分注装置316は、生体試料(例えば、試料236Aおよび/または236B)、試薬などを吸引して反応ベッセル内に分注し、1つまたはそれ以上の分析器ステーション118A~118Cでの生体試料の分析を有効にするかまたは容易にすることができる。吸引分注装置316は、吸引分注ステーション内でプローブアセンブリ340を移動させるように構成されたロボット338を含むことができる。プローブアセンブリ340は、図示するように、例えば試薬パケット344から試薬342を吸引するように構成された、プローブ340Pを含むことができる。プローブアセンブリ340はまた、例えば自動トラック112を介して吸引分注装置316に位置する試料容器302から(図示するように、そのキャップが除去された後に)、生体試料336を吸引するように構成することもできる。試薬342、他の試薬、および試料336の一部は、プローブ340Pによってキュベット346などの反応ベッセル内に分注することができる。いくつかの実施形態では、キュベット346は、数マイクロリットルの液体のみを保持するように構成することができる。生体試料336の他の部分は、プローブ340Pによって他の試薬または液体とともに他のキュベット(図示せず)内に分注することができる。
【0031】
吸引分注装置316の一部またはすべての構成要素の動作は、コンピュータ320によって制御することができる。コンピュータ320は、プロセッサ320Pおよびメモリ320Mを含むことができる。メモリ320Mは、プロセッサ320Pで実行可能であるソフトウェア320Sを記憶することができる。ソフトウェア320Sは、プローブアセンブリ340の位置決め、ならびにプローブアセンブリ340による液体の吸引および分注を制御および/または監視するアルゴリズムを含むことができる。ソフトウェア320Sはまた、後にさらに説明するように、試料不足吸引障害を検出するように構成されたアルゴリズム320Aも含むことができる。いくつかの実施形態では、アルゴリズム320Aは、人工知能(AI)アルゴリズムであってもよい。コンピュータ320は、コンピュータ120(システムコントローラ)に連結された別個のコンピューティング/制御デバイスであってもよい。いくつかの実施形態では、コンピュータ320の構成および機能は、コンピュータ120に実装し、コンピュータ120によって実行してもよい。また、いくつかの実施形態では、プローブアセンブリの位置決めおよび/またはプローブアセンブリの吸引/分注の機能は、別個のコンピューティング/制御デバイスに実装してもコンピュータ120に実装してもよい。
【0032】
ロボット338は、例えばシステム100の吸引分注ステーション116内でプローブアセンブリ340を移動させるように構成された、1つまたはそれ以上のロボットアーム342、第1のモータ344、および第2のモータ346を含むことができる。ロボットアーム342は、プローブアセンブリ340および第1のモータ344に連結することができる。第1のモータ344は、コンピュータ320によって、ロボットアーム342、したがってプローブアセンブリ340を、液体容器の上の位置まで移動させるように制御することができる。第2のモータ346は、ロボットアーム342およびプローブアセンブリ340に連結することができる。第2のモータ346もまたコンピュータ320によって、プローブ340Pを垂直方向に液体容器の内外に移動させ、そこから液体を吸引するかまたはそこに液体を分注するように制御することができる。いくつかの実施形態では、ロボット338は、フィードバックを提供するためおよび/またはロボット338の動作を容易にするために、コンピュータ320に連結された、例えば、振動、電流もしくは電圧、および/または位置センサなど、1つまたはそれ以上のセンサ348も含むことができる。
【0033】
吸引分注装置316は、導管352に機械的に連結されるとともに、コンピュータ320によって制御される、ポンプ350も含むことができる。ポンプ350は、液体を吸引するために導管352内に真空または負圧(例えば、吸引圧力)を発生させることができ、液体を分注するために導管352内に正圧(例えば、分注圧力)を発生させることができる。
【0034】
吸引分注装置316は、導管352内の吸引および分注圧力を測定し、それに応じて圧力データを生成するように構成された、圧力センサ354をさらに含むことができる。圧力データは、コンピュータ320によって受信することができ、ポンプ350を制御するために使用することができる。吸引圧力測定信号波形(対時間)は、受信された圧力データからコンピュータ320によって導出することができ、吸引プロセス中にプローブアセンブリ340における試料不足吸引障害を検出するために、アルゴリズム320Aに入力することができる。アルゴリズム320AがAIアルゴリズムである実施形態では、圧力センサ354からの受信された圧力データから導出される吸引圧力測定信号波形を使用して、試料不足吸引障害を検出するようにAIアルゴリズムを訓練することもできる。
【0035】
図4は、1つまたはそれ以上の実施形態による、自動診断分析システムにおける試料不足吸引障害を検出する方法400を示す。プロセスブロック402において、方法400は、自動診断分析システムにおいて、液体が吸引されている際に、圧力センサを介して吸引圧力測定を実行することによって、開始することができる。例えば、吸引圧力測定は、(
図1の)自動診断分析システム100の吸引分注ステーション116の一部であり得る(
図3の)吸引分注装置316の圧力センサ354によって行うことができる。
【0036】
プロセスブロック404において、方法400は、吸引圧力測定信号波形から勾配波形を導出し、勾配波形の移動平均または勾配波形のウェーブレット変換を計算するように構成されたアルゴリズムを実行するプロセッサを介して、吸引圧力測定信号波形を解析することを含むことができる。
【0037】
試料不足吸引障害を検出するために吸引圧力測定信号波形を解析することは、正常な吸引の圧力測定信号波形と、(試料不足吸引障害を表す)異常な吸引の圧力測定信号波形との間の明確な過渡的挙動の差異に基づく。
【0038】
図5Aは、1つまたはそれ以上の実施形態による、正常な吸引の吸引圧力信号波形対時間のグラフ500Aを示し、
図5Bは、1つまたはそれ以上の実施形態による、
図5Aの吸引圧力信号波形の勾配波形(すなわち、圧力信号波形の時間微分、d(圧力信号)/dt)対時間のグラフ500Bを示す。対照的に、
図6Aは、1つまたはそれ以上の実施形態による、異常な(試料不足)吸引の吸引圧力信号波形対時間のグラフ600Aを示し、
図6Bは、1つまたはそれ以上の実施形態による、
図6Aの吸引圧力信号波形の勾配波形(すなわち、圧力信号波形の時間微分、d(圧力信号)/dt)対時間のグラフ600Bを示す。グラフ500Aおよび600Aの吸引圧力信号波形は、各々、例えば(
図3の)吸引分注装置316などの吸引分注装置によって生成された可能性があり、グラフ500Bおよび600Bの勾配波形は、各々、グラフ500Aおよび600Aのそれぞれの吸引圧力信号波形からアルゴリズム320Aによって導出された可能性がある。グラフ500Aおよび500Bそれぞれにおける対応する部分と比較して、グラフ600Aおよび600Bそれぞれの丸で囲んだ部分602Aおよび602Bに留意されたい。これらの相違は方法400によって検出可能である。
【0039】
いくつかの実施形態では、勾配波形の導出後、プロセスブロック404は、導出された勾配波形を、勾配波形の移動平均を計算し、次いで、吸引プロセス中の好適な時間増分(例えば、10ミリ秒ごと)で移動平均と勾配波形との差を計算することにより、アルゴリズムを実行するプロセッサを介して、解析することをさらに含む。これらの計算された差は、デルタ信号と称する場合がある。移動平均は、いくつかの実施形態では、約10ミリ秒(±10%)の移動平均窓に基づいてもよい。プロセスブロック404で実行される解析は、ノイズフロア振幅を計算することによって継続することができ、ノイズフロア振幅は、いくつかの実施形態では、吸引プロセスのt=0~150ミリ秒のデルタ信号のRMS(二乗平均平方根)振幅であってもよい。検出窓にわたって、デルタ信号の1つまたはそれ以上の信号振幅メトリック(例えば、絶対値の平均値、RMS、または75パーセンタイル値など)を計算することができ、検出窓は、いくつかの実施形態では、吸引プロセスの270~320ミリ秒であり得る。その後、SNR=20log(signal_metric/noise)dBとなるSNRを計算することができる。
図7A~
図10は、上記の計算を示す。
【0040】
図7Aは、1つまたはそれ以上の実施形態による、正常な吸引を表す勾配波形(例えば、グラフ500Bなど)の移動平均のグラフ700Aを示し、
図7Bは、1つまたはそれ以上の実施形態による、移動平均グラフ700Aに基づくデルタ信号のグラフ700Bを示す。いくつかの実施形態では、移動平均は、約10ミリ秒(±10%)の移動平均窓に基づく。デルタ信号グラフ700Bは、デルタ信号を使用してノイズフロア振幅を計算することができるt=0~150ミリ秒のノイズフロア窓702を含むことができる。デルタ信号グラフ700Bはまた、検出窓704も含むことができ、検出窓704は、いくつかの実施形態では270~320ミリ秒で最適であると決定されている。後により詳細に説明するように、検出窓704内のデルタ信号を解析して、吸引が正常であるか異常であるかが判断される。
【0041】
図8Aは、1つまたはそれ以上の実施形態による、異常な(試料不足)吸引を表す勾配波形(例えば、グラフ600Bなど)の移動平均のグラフ800Aを示し、
図8Bは、1つまたはそれ以上の実施形態による、移動平均グラフ800Aに基づくデルタ信号のグラフ800Bを示す。移動平均は、この場合もまた、
図7Bの正常な吸引の移動平均窓に対応する、約10ミリ秒(±10%)の移動平均窓に基づく。デルタ信号グラフ800Bは、デルタ信号を使用してノイズフロア振幅を計算することができるt=0~150ミリ秒のノイズフロア窓802も含むことができる。デルタ信号グラフ800Bはまた、検出窓704に対応する検出窓804も含むことができ、この検出窓804は、いくつかの実施形態では270~320ミリ秒で最適であると決定されている。後により詳細に説明するように、検出窓804内のデルタ信号を解析して、吸引が正常であるか異常であるかが判断される。
【0042】
正常な吸引および異常な吸引を判断するための好適な検出窓および閾値の決定は、既知の正常なおよび異常な吸引圧力信号波形の試験サンプルの解析に基づくことができる。
【0043】
図9は、1つまたはそれ以上の実施形態による8つのサンプル吸引圧力信号波形の移動平均に基づく複数のデルタ信号のグラフ900を示し、ここで、4つは正常な吸引であることが分かっており、4つは異常な吸引(試料不足吸引障害)であることが分かっている。デルタ信号は、約10ミリ秒(±10%)の移動平均窓に基づく。検出窓904は、270~320ミリ秒の範囲になるように最適に選択されており、それは、異常な吸引のみがそこにデルタ信号シグネチャを示すためである。
【0044】
図10は、8サンプル吸引圧力信号波形S1、S2、S3、S4、S5、S6、S7、およびS8を表す、
図9のデルタ信号に対する1つまたはそれ以上の実施形態によるSNR対SNRメトリック(絶対値の平均、RMS、および75パーセンタイル値)の棒グラフ1000を示す。サンプルS1、S3、S5、およびS7に対する計算されたSNR(=20log(signal_metric/noise)dB)は、正常な吸引を表し、サンプルS2、S4、S6、およびS8に対する計算されたSNRは、異常な吸引を表す。したがって、7dBのSNR閾値1006を選択することができ、7dB未満のSNRは正常な吸引を示し、7dB以上のSNRは異常な吸引(試料不足吸引障害)を示す。SNR閾値1006は、正常な吸引と異常な吸引との明確な境界を示す。
【0045】
アルゴリズム320AがAIアルゴリズムであるいくつかの実施形態では、圧力勾配波形における異常な吸引を特定するために、例えば、K平均クラスタリングなどの教師なし学習法を使用することができる。プロセッサ320Pによって実行可能であるAIアルゴリズム320Aは、限定されないが、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を含むニューラルネットワーク、ディープラーニングネットワーク、再生ネットワーク、および他のタイプの機械学習アルゴリズムもしくはモデルを含む、人工知能プログラミングの任意の好適な形態で実装することができる。したがって、AIアルゴリズム320Aは、例えば、単純なルックアップテーブルではないことに留意されたい。むしろ、AIアルゴリズム320Aは、1つまたはそれ以上のタイプの吸引障害を検出または予測するように訓練することができ、明示的にプログラムされることなく改善する(より正確な決定または予測を行う)ことが可能である。
【0046】
図11は、1つまたはそれ以上の実施形態による、8つの試験サンプル吸引圧力信号波形の圧力勾配対時間のグラフ1100を示す。4つの試験サンプル吸引圧力信号波形は、正常な吸引を表し、4つの試験サンプル吸引圧力信号波形は、異常な(試料不足)吸引を表す。異常な吸引は、正常な吸引よりも大きい圧力勾配を示す(囲んだ領域1108を参照)。したがって、この「最大勾配」メトリックは、異常な吸引を特定するためにK平均クラスタリングとともに使用することができる。すなわち、圧力勾配波形の最大勾配は、吸引を正常または異常(すなわち、試料不足)として分類するために、吸引プロセス全体にわたって検査することができる。
図12は、1つまたはそれ以上の実施形態による、8つの試験サンプル吸引圧力信号波形の最大勾配メトリックの2クラスタ分類のグラフ1200を示す(ここで、X軸は、ミリ秒単位の時間を表し、Y軸は、経時的な正規化圧力の変化率である圧力勾配を表す)。図示するように、(中心1210を有する)クラスタ1と(中心1212を有する)クラスタ2とは、十分に分離されており、これは、最大勾配メトリックが、正常な吸引および異常な(試料不足)吸引の教師なし(K平均クラスタリング)分類によく適していることを示している。
【0047】
K平均クラスタリングの代わりに、他の教師なしクラスタリング法を使用してもよいことに留意されたい。また、サンプルに予めラベル付けすることができる場合には、ロジスティック回帰、SVM(サポートベクターマシン)、ベイズ分類器などの教師あり分類法を使用してもよい。
【0048】
プロセスブロック404に戻ると、方法400は、代替的に、吸引圧力測定信号波形を、勾配波形のウェーブレット変換を計算することによって吸引圧力測定信号波形から勾配波形を導出するように構成されたアルゴリズムを実行するプロセッサを介して、解析することを含むことができる。(正常な吸引を表す)
図7Aおよび(異常な(試料不足)吸引を表す)
図8Aの移動平均勾配波形に関連して上述したように、2つの波形間のスペクトルシグネチャの明確な相違が観察可能である。この解析において、ウェーブレットの強力な同時の時間スケール(周波数)局在化および多重解像度解析能力は、有利に使用される。ウェーブレット変換は、連続ウェーブレット変換(CWT)であっても離散ウェーブレット変換(DWT)であってもよい。
【0049】
CWTを使用する解析の概要は、上述したように、圧力信号の差分を計算することによって、吸引圧力測定信号波形から圧力勾配波形を計算することを含むことができる。微分によるノイズの増幅を低減させるために、好適な移動平均フィルタを使用することができる。解析はまた、以下のようにスライディング時間窓にわたって圧力勾配信号のCWTをリアルタイムで計算することを含むことができる:
【数1】
式中、「a」はスケールパラメータであり、「b」はシフトパラメータである。
【0050】
解析は、特定の範囲のスケールでCWT係数を検査することと、次いで、特定されたCWT係数に基づいて好適なメトリックを計算し、好適な(特定された)閾値を適用することによって、障害のある吸引を正常な吸引から識別することとをさらに含むことができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、好適なメトリックを計算することは、以下のようにベースライン信号を決定することを含むことができる:好適なスケール範囲(この場合、例えば、<13であるように決定されている)において、0~t
0(この場合、例えば、t
0=125ミリ秒であるように選択されている)の時間窓にわたって、総CWTエネルギーを計算する。次に、(後述するように決定された)検出窓t>200ミリ秒のタイムステップごとに、またはサブサンプリングされたタイムステップで、同じスケール範囲(<13)内のCWTエネルギーを計算し、次いで、検出SNRメトリックを以下のように計算する:
【数2】
【0052】
図13は、1つまたはそれ以上の実施形態による、正常な吸引のサンプルに対するCWT SNRメトリック対時間のグラフ1300を示し、
図14は、1つまたはそれ以上の実施形態による、異常な吸引のサンプルに対するCWT SNRメトリック対時間のグラフ1400を示す。(正常な吸引のサンプルに対する)グラフ1300および(異常な吸引のサンプルに対する)グラフ1400における結果としてのCWT SNRメトリックに基づいて、t>200ミリ秒の好適な検出窓1314および1414を選択することができ、7dBの好適なSNRメトリック閾値1316および1416を選択することができる。検出窓1414において閾値1416を超えるSNRメトリック値を示す、矢印1417によって示す領域によって示すように、これらのCWT SNRメトリックは、異常な(試料不足)吸引を検出するのに適している。分類精度を最大限にするために、追加の正常な吸引および異常な吸引のサンプルデータを使用して、適切な検出窓およびCWT SNR閾値を特定することができる。
【0053】
CWT解析のいくつかの実施形態では、以下の選択肢を考慮することができる:
【0054】
- スケールパラメータ「a」およびシフトパラメータ「b」を、離散値に、特にスケールパラメータが2の累乗に制限される二項表現に制限することができる。
【0055】
- MallatのアルゴリズムまたはShensaのアルゴリズムを、スケールパラメータの二項表現を用いて使用することができる。これは、O(N)の計算複雑度を有することができ、ここで、N=信号ベクトルの長さである。実際の検出では、t>200ミリ秒の信号のみを考慮する可能性があり、したがって、Nは比較的小さくなる。
【0056】
- スケールパラメータ「a」のより細かい離散化が必要な場合(例えば、「a」=2の累乗である必要のない整数値)、Unserら、IEEE Trans on Signal Proc.、1994におけるようなスプライン表現ベースの高速CWT変換アルゴリズムなど、他の方法を使用してもよい。これらもまた、O(N)の計算複雑度を有することができる。
【0057】
- 正常なおよび異常な吸引の信号サンプルのより大きいデータセットを検査することによって、検出閾値、スケールの好適な範囲、ベースライン信号の尺度、ならびに検出およびベースライン信号の時間窓をさらに調整することができる。
【0058】
- 同様に、より多くの吸引信号サンプルのさらなる検査を通じて、使用すべきウェーブレットのタイプもまた最適に選択することができる。
【0059】
- この解析で使用するのに適していることが分かったウェーブレットタイプの1つは、Symlet 2ウェーブレットであり得る。しかしながら、他の好適なCWTタイプを使用してもよい。
【0060】
- ウェーブレットフィルタは、ファームウェアまたはデータ操作言語(DML)レベルのソフトウェアを使用して実装することができ、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)、DSP(デジタル信号プロセッサ)チップ、または他の好適なIC(集積回路)上で実装することができる。
【0061】
他の実施形態では、吸引圧力測定信号波形の解析は、DWTを使用することを含むことができる。DWTを使用する利点は、多重解像度解析能力を使用して過渡現象を(通常、より低いスケールで)検出する際のその低い計算コストおよび有効性であり得る。DWTを使用する解析の概要は、上述したように、圧力信号の差分を計算することによって、吸引圧力測定信号波形から圧力勾配波形を計算することを含むことができる。微分によるノイズの増幅を低減させるために、好適な移動平均フィルタを使用することができる。解析はまた、スライディング時間窓にわたって圧力勾配信号のDWTをリアルタイムで計算することと、特定の範囲のスケールでDWT係数を検査することと、特定されたDWT係数に基づいて好適なメトリックを計算し、好適な(特定された)閾値を適用することによって、障害のある吸引を正常な吸引から識別することとを含むことができる。
【0062】
より詳細には、DWT解析は、以下のようにベースライン信号を決定することを含むことができる:適切なスケール範囲(この場合、例えば<2であるように決定されている)において、0~t
0(この場合、例えばt
0=125ミリ秒であるように選択されている)の時間窓にわたって、最大DWTノルム(最大の係数値)を計算する。次に、(後述するように決定された)検出窓t>200ミリ秒のタイムステップごとに、またはサブサンプリングされたタイムステップで、同じスケール範囲(<2)内の「DWT最大ノルム」を計算し、次いで、検出SNRメトリックを以下のように計算する:
【数3】
【0063】
図15は、1つまたはそれ以上の実施形態による、正常な吸引のサンプルに対するDWT SNRメトリック対時間のグラフ1500を示し、
図16は、1つまたはそれ以上の実施形態による、異常な吸引のサンプルに対するDWT SNRメトリック対時間のグラフ1600を示す。より低いスケール(スケール=1~2)でt>200ミリ秒にわたり、正常な吸引のサンプルと異常な吸引のサンプルとの間で、DWT SNRメトリックの明確な区別が観察される。すなわち、
図15に示す正常な吸引のサンプルに対する(および同様に本明細書に記載するように試験された他のいくつかの正常な吸引のサンプルに対する)DWT SNRメトリックは、一貫して0dB未満であった。対照的に、
図16に示す異常な吸引のサンプルに対する(および同様に本明細書に記載するように試験された他のいくつかの異常な吸引のサンプルに対する)DWT SNRメトリックは、t>200ミリ秒の少なくとも1つの時間インスタンスについて、一貫して少なくとも4dB以上であった。これらの結果に基づいて、t>200ミリ秒の好適な検出窓1514および1614を選択することができ、3dBの好適なDWT SNRメトリック閾値1516および1616を選択することができる。(例えば、検出窓1614内の閾値1616を超える異常な吸引のサンプルのDWT SNRメトリック値を示す、矢印1617によって示す領域を参照)。検出精度を最大限にするために、追加の正常なおよび異常な吸引のサンプルデータを使用して、適切な検出窓およびDWT SNR閾値を特定することができる。
【0064】
図17は、1つまたはそれ以上の実施形態による、上述したDWT解析を実装するために使用することができるマルチレベルDWTフィルタバンク1700の概略図を示す。DWTフィルタバンク1700は、各レベルにおける別個のハイパスフィルタリングおよびローパスフィルタリングならびにダウンサンプリング動作を含む、カスケード型フィルタバンクであり得る。ここで、「G」は、ハイパスフィルタを表し、各ステップにおいて、そのスケールにおける信号の「詳細」を提供し、「H」はローパスフィルタを表す。各段において、Hフィルタリングの出力は半分ずつサブサンプリングされ、カスケード型フィルタバンク内のウェーブレットフィルタリングの次の段を通過する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載するDWT解析は、9つのレベルを必要とする場合がある(
図17には3つのみを示すことに留意されたい)。しかしながら、最低スケールのDWT成分を使用して、圧力勾配信号の過渡現象(およびその結果として異常な吸引)が検出されるため、タイムステップごとの圧力勾配信号の完全な解析は不要である場合がある。したがって、DWT計算は、DWTフィルタバンク1700の第1のレベル1718によってのみ実行すればよい場合がある。これにより、有利には、大幅な計算実行時間の節約をもたらすことができ、これにより、ファームウェアまたはソフトウェアのオーバーヘッドを最小限にすることができる。いくつかの実施形態では、Symlet 2またはDaubechies次数2および次数4ウェーブレットを使用してもよい。これらは、
図17に示すように、単純な2次または4次のローパスフィルタおよびハイパスフィルタとして実装することができる。
【0065】
図4に戻ると、方法400は、プロセスブロック406において、プロセスブロック404で実行された解析に応答して、プロセッサを介して吸引障害(すなわち、試料不足吸引障害)を特定するとともにそれに応答することによって、継続することができる。上述したように、試料不足吸引障害は、移動平均、従来のバンドパスフィルタ(例えば、バターワース(Butterworth)フィルタなど)、CWT、またはDWTを計算することによるスペクトル解析を介して、特定することができる。これらの解析の各々は、吸引プロセスの終わりまでに試料不足吸引障害を正確に検出することができる。方法400は、自動診断分析システムによる(試料不足吸引障害に関与した)液体の分析を、液体の任意の分析の開始前に適時に終了することによって、特定された試料不足吸引障害に応答することができる。他の実施形態では、方法400は、代替的またはさらに、エラー状態に対するシステムの1つまたはそれ以上の他の手順を実行することによって、特定された試料不足吸引障害に応答することができる。
【0066】
3つのスペクトル解析(移動平均、CWT、およびDWT)は各々、吸引圧力信号波形の一部で実行されるリアルタイム計算を含み、したがって、各タイムステップで解析されるデータストリームのサイズを有利に制限する。各々が、O(N)の計算コストを有し、それにより、DSP(デジタル信号プロセッサ)マイクロチップまたはFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)を使用するファームウェアまたはソフトウェアでのこれらの解析のオンライン実装が実現可能となる。
【0067】
本開示は、さまざまな変更形態および代替形態が可能であるが、特定の方法および装置の実施形態について、図面において例として示しており、本明細書において詳細に説明している。しかしながら、本明細書に開示した特定の方法および装置は、本開示または以下の特許請求の範囲を限定するようには意図されていないことが理解されるべきである。
【国際調査報告】