(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-24
(54)【発明の名称】リアルタイム試料吸引障害検出および制御
(51)【国際特許分類】
G01N 35/00 20060101AFI20240717BHJP
G01N 35/10 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
G01N35/00 F
G01N35/10 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501735
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(85)【翻訳文提出日】2024-02-22
(86)【国際出願番号】 US2022073655
(87)【国際公開番号】W WO2023288230
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508147326
【氏名又は名称】シーメンス・ヘルスケア・ダイアグノスティックス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】ナラヤナン・ラマクリシュナン
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058GB06
2G058GB10
2G058GE10
(57)【要約】
自動診断分析システムにおける吸引障害の早期のリアルタイム検出または予測方法は、吸引圧力測定信号波形に基づくクラスタ解析または確率的グラフィカルモデリングのいずれかを使用するように構成された人工知能アルゴリズムを含む。吸引障害は、吸引量不足の吸引および望ましくないゲルの収集を含む可能性がある。これらの方法により、誤った試料検査結果ならびに/または点検および清掃のための機器のダウンタイムなど、下流におけるあり得る不利益な結果を回避するかまたは最小限にするように、吸引プロセスを適時に終了させることができる。吸引障害の早期のリアルタイム検出または予測のための装置が、他の態様と同様に提供される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動診断分析システムにおいて吸引障害を検出または予測する方法であって:
自動診断分析システムにおいて、液体が吸引されている際に、圧力センサを介して吸引圧力測定を実行することと;
吸引圧力測定信号波形を:
吸引圧力測定信号波形のクラスタ解析、または
吸引圧力測定信号波形に基づく確率的グラフィカルモデリング
を実行するように構成された人工知能(AI)アルゴリズムを実行するプロセッサを介して解析することと;
該解析することに応答して、プロセッサを介して吸引障害を特定しそれに応答することと、
を含む前記方法。
【請求項2】
クラスタ解析は、教師なし訓練データに基づき、または、確率的グラフィカルモデリングは、教師ありまたは教師なし訓練データに基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
クラスタ解析は、分類範囲を有する閾値を確立するために教師あり学習アルゴリズムを使用するラベル付けされた訓練データに基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
クラスタ解析は、吸引圧力測定信号波形に基づいて2つのメトリックのみを使用することを含み、または、確率的グラフィカルモデリングは、吸引圧力測定信号波形に対して同時に実行される2つの確率的グラフィカルモデルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
クラスタ解析は、2つのメトリックのみに基づく4クラスタ分類を使用するK平均クラスタリングを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
2つのメトリックのみのうちの第1のメトリックは、吸引圧力勾配の移動平均を含む吸引圧力測定信号波形の圧力の時間変化率を取得し、2つのメトリックのみのうちの第2のメトリックは、吸引圧力測定信号波形の変曲特性を取得する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
2つの確率的グラフィカルモデルのうちの第1の確率的グラフィカルモデルは、正常な吸引データを用いて訓練され、2つの確率的グラフィカルモデルのうちの第2の確率的グラフィカルモデルは、異常な吸引データを用いて訓練される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
吸引障害が、第1の確率的グラフィカルモデルからの出力と、第2の確率的グラフィカルモデルからの出力との比較に基づいて決定される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
確率的グラフィカルモデリングは、left-to-right隠れマルコフモデル(HMM)アーキテクチャを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
left-to-right HMMアーキテクチャは:
6つの状態と;
12の出力状態と;
15タイムステップシーケンスと、
を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
特定し応答することは、液体が吸引され始めてから100ミリ秒以内に、プロセッサを介して吸引障害を特定しそれに応答することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
吸引障害は、ゲルもしくは望ましくない物質の収集または吸引量不足の吸引である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
自動吸引分注装置であって:
ロボットアームと;
該ロボットアームに連結されたプローブと;
該プローブに連結されたポンプと;
プローブを介して液体が吸引されている際に、吸引圧力測定を実行するように構成された圧力センサと;
人工知能(AI)アルゴリズムを実行して、吸引プロセス中に吸引障害を検出または予測しそれに応答するように構成されたプロセッサであって、AIアルゴリズムは、クラスタ解析または確率的グラフィカルモデリングを使用して、圧力センサから導出される吸引圧力測定信号波形を解析するように構成されている、プロセッサと
を含む前記自動吸引分注装置。
【請求項14】
クラスタ解析は、吸引圧力測定信号波形に基づいて2つのメトリックのみを使用することを含み、または、確率的グラフィカルモデリングは、吸引圧力測定信号波形に対して同時に実行される2つの確率的グラフィカルモデルを含む、請求項13に記載の自動吸引分注装置。
【請求項15】
クラスタ解析は、2つのメトリックのみに基づく4クラスタ分類を使用するK平均クラスタリングを含む、請求項14に記載の自動吸引分注装置。
【請求項16】
2つのメトリックのみのうちの第1のメトリックは、吸引圧力測定信号波形の圧力の時間変化率を取得し;かつ
2つのメトリックのみのうちの第2のメトリックは、吸引圧力測定信号波形の変曲特性を取得し;または、
2つの確率的グラフィカルモデルのうちの第1の確率的グラフィカルモデルは、正常な吸引データを用いて訓練され;かつ
2つの確率的グラフィカルモデルのうちの第2の確率的グラフィカルモデルは、異常な吸引データを用いて訓練される、
請求項14に記載の自動吸引分注装置。
【請求項17】
クラスタ解析は、複数のクラスタ分類を使用し、該複数のクラスタ分類のうちの1つは正常な吸引データを表し、複数のクラスタ分類のうちの他のものは、各々、異なるタイプの異常な吸引データを表す、請求項13に記載の自動吸引分注装置。
【請求項18】
確率的グラフィカルモデリングは、吸引圧力測定信号波形に対して同時に実行される複数の確率的グラフィカルモデルを含み、該複数の確率的グラフィカルモデルのうちの1つは、正常な吸引データを用いて訓練され、複数の確率的グラフィカルモデルのうちの他のものは、各々、異なるタイプの異常な吸引データを用いて訓練される、請求項13に記載の自動吸引分注装置。
【請求項19】
確率的グラフィカルモデリングは、left-to-right隠れマルコフモデル(HMM)アーキテクチャを含む、請求項13に記載の自動吸引分注装置。
【請求項20】
left-to-right HMMアーキテクチャは:
6つの状態と;
12の出力状態と;
15タイムステップシーケンスと、
を含む、請求項19に記載の自動吸引分注装置。
【請求項21】
プロセッサは、AIアルゴリズムの実行により、吸引プロセス中に液体が吸引され始めてから100ミリ秒以内に、吸引障害を特定しそれに応答するように構成されている、請求項13に記載の自動吸引分注装置。
【請求項22】
自動診断分析システムであって:
請求項13に記載の自動吸引分注装置と;
生体試料を分析する1つまたはそれ以上の分析器ステーションと;
試料容器および反応ベッセルを、自動吸引分注装置、ならびに1つまたはそれ以上の分析器ステーションに、またそれらから輸送する自動トラックと、
を含む前記自動診断分析システム。
【請求項23】
吸引圧力測定信号波形のクラスタ解析を使用するか、または吸引圧力測定信号波形に基づく確率的グラフィカルモデリングを使用する吸引圧力測定信号波形の解析に基づいて、吸引障害を検出または予測するように構成された人工知能(AI)アルゴリズムを含む、非一時的コンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年7月13日に出願された「REAL-TIME SAMPLE ASPIRATION FAULT DETECTION AND CONTROL」と題する米国仮特許出願第63/221,450号の利益を主張するものであり、その開示の全体をあらゆる目的のために参照によって本明細書に組み入れる。
【0002】
本開示は、自動診断分析システムにおける液体の吸引に関する。
【背景技術】
【0003】
医療検査において、自動診断分析システムは、生体試料を分析して、試料中の分析物または他の成分を同定するために使用することができる。生体試料は、例えば、尿、全血、血清、血漿、間質液、脳脊髄液などであり得る。このような生物学的液体試料は、通常、試料容器(例えば、試験管、バイアルなど)に収容され、容器キャリアおよび自動トラックを介して、自動診断分析システム内のさまざまな撮像、処理、および分析器ステーションに、またそれらから輸送することができる。
【0004】
自動診断分析システムは、通常、1つまたはそれ以上の自動吸引分注装置を含み、こうした装置は、液体容器から液体(例えば、生物学的液体の試料、または試料と混合する液体試薬、酸、もしくは塩基)を吸引し(引き込み)、その液体を反応ベッセル(例えば、キュベットなど)に分注するように構成されている。吸引分注装置は、通常、プローブ(例えば、ピペット)を含み、プローブは、吸引および分注機能を実行し、試料または試薬を反応ベッセルに移送する、可動ロボットアームまたは他の自動化機構に取り付けられている。
【0005】
吸引プロセス中、システムコントローラまたはプロセッサによって制御することができる可動ロボットアームは、プローブを液体容器の上方に位置決めし、次いで、プローブが液体(例えば、生物学的液体試料または液体試薬)中に部分的に浸されるまで、プローブを容器内に下降させることができる。その後、ポンプまたは他の吸引デバイスを起動して、液体の一部を容器からプローブ内部に吸引する(引き込む)。その後、プローブは、容器から引き抜かれ、処理および/または分析のために液体を反応ベッセルまで移送して反応ベッセル内に分注することができるように動かされる。
【0006】
吸引中または吸引後に、吸引圧力信号を解析して、何らかの異常が発生したか否かを判断する、すなわち、詰まり(例えば、液体容器からのゲルまたは他の望ましくない物質の収集)があるか、または吸引された液体の量が不十分である(以下、吸引量不足(short-volume)の吸引または障害と称する場合がある)かをチェックすることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の吸引検出システムは、いくつかの異常な吸引を検出することができる可能性があるが、そのような従来の検出は、いくつかの不利益な結果を回避するのに十分ではない可能性がある。したがって、そのようなあり得る不利益な結果を回避するかまたは最小限にするように、吸引障害を検出および/または予測する改良された方法および装置が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
いくつかの実施形態では、自動診断分析システムにおいて吸引障害を検出または予測する方法を提供する。本方法は、自動診断分析システムにおいて、液体が吸引されている際に、圧力センサを介して吸引圧力測定を実行することを含む。本方法は、吸引圧力測定信号波形を、人工知能(AI)アルゴリズムを実行するプロセッサを介して解析することも含む。AIアルゴリズムは、吸引圧力測定信号波形のクラスタ解析、または吸引圧力測定信号波形に基づく確率的グラフィカルモデリングを実行するように構成されている。本方法は、解析することに応答して、プロセッサを介して吸引障害を特定しそれに応答することをさらに含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、自動吸引分注装置であって、ロボットアームと、ロボットアームに連結されたプローブと、プローブに連結されたポンプと、プローブを介して液体が吸引されている際に、吸引圧力測定を実行するように構成された圧力センサと、人工知能(AI)アルゴリズムを実行して、吸引プロセス中に吸引障害を検出または予測しそれに応答するように構成されたプロセッサとを含む、自動吸引分注装置を提供する。AIアルゴリズムは、クラスタ解析または確率的グラフィカルモデリングを使用して、圧力センサから導出される吸引圧力測定信号波形を解析するように構成されている。
【0010】
いくつかの実施形態では、非一時的コンピュータ可読記憶媒体は、吸引圧力測定信号波形の解析に基づいて吸引障害を検出または予測するように構成された人工知能(AI)アルゴリズムを含む。解析は、吸引圧力測定信号波形のクラスタ解析であってもよく、または、吸引圧力測定信号波形に基づく確率的グラフィカルモデリングを使用してもよい。
【0011】
本開示のさらに他の態様、構成、および利点は、本発明を実行するために企図された最良の形態を含む、多数の実施形態および実施態様例の以下の詳細な説明および例示から容易に明らかであり得る。本開示はまた、他の異なる実施形態を可能とすることもでき、そのいくつかの詳細は、すべて本発明の範囲から逸脱することなく、さまざまな点で変更することができる。例えば、以下の説明は自動診断分析システムに関するものであるが、本明細書に開示する吸引障害検出および/または予測方法および装置は、吸引障害の早期かつ正確なリアルタイム検出および/または予測から利益を得る他の自動化システムに容易に適用することができる。本開示は、請求項の範囲内にあるすべての変更形態、均等物、および代替形態を包含するように意図されている。
【0012】
以下に説明する図面は、例示を目的とするものであり、必ずしも縮尺通りに描かれていない。したがって、図面および説明は、制限的なものとしてではなく本質的に例示的なものとしてみなされるべきである。図面は、本発明の範囲をいかなるようにも限定するようには意図されていない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本明細書で提供する実施形態による、生体試料を分析するように構成された自動診断分析システムの上面概略図である。
【
図2A】本明細書で提供する実施形態による試料容器の正面図である。
【
図2B】本明細書で提供する実施形態による試料容器の正面図である。
【
図3】本明細書で提供する実施形態による吸引分注装置の正面概略図である。
【
図4】本明細書で提供する実施形態による自動診断分析システムにおいて吸引障害を検出または予測する方法のフローチャートである。
【
図5】本明細書で提供する実施形態による、正常な吸引を表す複数の圧力信号波形のグラフである。
【
図6】本明細書で提供する実施形態による、異常な吸引を表す複数の圧力信号波形のグラフである。
【
図7】本明細書で提供する実施形態による、正常な吸引圧力信号波形と選択された一定のオフセット値P(threshold)のグラフである。
【
図8】本明細書で提供する実施形態による、吸引圧力信号波形のクラスタリングベースの解析のためにAIアルゴリズムを訓練する方法のフローチャートである。
【
図9】正常な吸引および異常な吸引を表す複数の圧力信号波形と、吸引障害を予測するために使用されるメトリックの大域的最小値および最大値に基づく上限閾値および下限閾値とのグラフである。
【
図10】正常な吸引および異常な吸引を表す複数の圧力信号波形と、吸引障害を予測するために使用されるメトリックの大域的最小値および最大値に基づく上限閾値および下限閾値とのグラフである。
【
図11】本明細書で提供する実施形態による、メトリックに基づく4クラスタ分類のグラフである。
【
図12】本明細書で提供する実施形態による、メトリックに基づく4クラスタ分類のグラフである。
【
図13】本明細書で提供する実施形態による、メトリックのベースライン分類範囲のグラフである。
【
図14】本明細書で提供する実施形態による、メトリックのベースライン分類範囲のグラフである。
【
図15A】本明細書で提供する実施形態による、吸引圧力信号波形のメトリックごとの2クラスタ分類のグラフである。
【
図15B】本明細書で提供する実施形態による、吸引圧力信号波形のメトリックごとの2クラスタ分類のグラフである。
【
図16】本明細書で提供する実施形態による、吸引圧力信号波形を解析するための隠れマルコフモデルのアーキテクチャを示す図である。
【
図17】本明細書で提供する実施形態による、大部分の障害が吸引プロセスの最初の100ミリ秒以内に検出されたことを示す、検出された吸引障害のヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
いくつかの従来のシステムは、いくつかの異常な吸引を検出することができる可能性があるが、そのような検出は、例えば、吸引量不足の吸引による不正確な検査結果、ならびに/またはゲルまたは他の望ましくない物質の収集によるプローブや他の影響を受ける機構およびサブシステムの点検および清掃のための機器のダウンタイムなど、下流におけるあり得る不利益な結果を回避するように、吸引プロセスにおいて十分に早期には行われない可能性がある。
【0015】
したがって、本明細書に記載する実施形態は、吸引プロセスの早期に吸引障害をリアルタイムで正確に検出または予測する方法および装置を提供する。早期のリアルタイムの吸引障害検出または予測により、例えば機器のダウンタイムおよび/または誤った分析結果など、障害のある吸引の下流におけるあらゆるあり得る結果を有利に回避するかまたは最小限にするように、吸引プロセスを適時に終了すること、および/または好適なエラー状態手順を実行することを可能にすることができる。いくつかの実施形態では、吸引障害は、吸引プロセスを開始してから最初の100ミリ秒以内に有利に検出または予測することができる。検出可能および/または予測可能な吸引障害としては、例えば、ゲル(または他の望ましくない物質)収集障害および/または吸引量不足障害を挙げることができる。吸引量不足障害は、吸引が十分な量の液体を引き込み損なう場合に発生し、これは、例えば、液体容器が十分な量の液体を含まないこと、および/または、機器の欠陥(例えば、吸引ポンプまたは吸引チューブの欠陥、ロボットアームの欠陥による液体容器内でのプローブの不適切な位置決め、閉塞など)によって引き起こされる可能性がある。ゲル収集障害もまた、機器の欠陥(例えば、ロボットアームの欠陥により液体容器内でプローブが不適切に位置決めされ、プローブが、液体容器内の試料成分間のゲルセパレータに、または、液体容器内のゲルまたは赤血球の底層に接触するかまたは過度に近くなり、結果としてゲルがプローブに吸引されること)によって引き起こされる可能性がある。
【0016】
いくつかの実施形態では、吸引障害の早期かつ正確なリアルタイム検出または予測は、自動診断分析システムまたは自動吸引分注装置のシステムコントローラ、プロセッサ、または他の同様のコンピュータデバイス上で実行するソフトウェアまたはファームウェア学習ベースのAI(人工知能)アルゴリズムを介して実装することができる。いくつかの実施形態では、AIアルゴリズムは、2つのメトリックのみを使用して吸引圧力信号波形のクラスタ解析を実行するように構成することができる。一方のメトリックは、吸引圧力測定信号波形の圧力の時間変化率を取得し、他方のメトリックは、吸引圧力測定信号波形の変曲特性を取得する。この2つのメトリックを使用して、正常な吸引および(異なるタイプの)異常な吸引の両方を表す圧力信号波形サンプルを含む訓練データに基づいて、検出閾値(分類境界)が確立される。他の実施形態では、3つ以上のメトリックを使用することができる。訓練データは教師なし(すなわち、ラベル付けされていない)であってもよく、正常な吸引のクラス境界は、2つのメトリックのみに基づく4クラスタ分類を使用するK平均クラスタリングに基づいて確立することができる。代替的に、サポートベクターマシンを使用する教師あり分類技術を使用することもできる。
【0017】
他の実施形態では、吸引障害の早期かつ正確なリアルタイム検出または予測は、吸引圧力測定信号波形に基づいて確率的グラフィカルモデリングを実行するように構成されたソフトウェアまたはファームウェア学習ベースのAIアルゴリズムを介して実装することができる。これらの実施形態のうちのいくつかでは、隠れマルコフモデル(HMM)を使用して、吸引圧力測定信号波形から導出されたメトリックの検査に基づいて吸引障害を予測することができる。3状態left-to-right HMMアーキテクチャを使用することができ、「正常な吸引」に対して訓練されたものと「異常な吸引」に対して訓練されたものとの別個のHMMモデルを使用することができる。いくつかの実施形態では、N個のHMMモデルを使用することができ、1つは「正常な吸引」に対して訓練され、他の各々は特定のタイプの「異常な吸引」に対して訓練される。各モデルは、機械学習法とラベル付けされた(教師ありまたは教師なし)サンプル訓練データを使用して訓練することができる。2モデル実施形態では、両方のHMMを、測定された吸引圧力信号波形に対してリアルタイムで同時に実行することができる。圧力信号値の連続するシーケンスにわたるシーケンス出力確率は、両方のモデルを使用して計算される。吸引の「正常」または「異常」としての分類は、相対的なシーケンス尤度(PSEQUENCE NORMAL/PSEQUENCE ABNORMAL)を比較することによって、または代替的に、「正常な」吸引および「異常な」吸引について、それぞれの閾値セットに対して「正常」HMMモデルおよび「異常」HMMモデルを使用してシーケンス尤度を比較することによって、実行することができる。
【0018】
正常な吸引圧力波形と異常な吸引圧力波形とが任意に混在するラベル付けされていないサンプル訓練データが利用可能であるこれらの実施形態では、K平均クラスタリングなどの教師なし分類法を使用して、吸引信号サンプルを好適に選択された数のグループに自動的に類別することができる。そして、いずれのグループを正常な吸引とみなすことができるかの判断は、各グループから1つまたはそれ以上のサンプルを検査し、正常な吸引波形がどのように見えるべきかの事前知識に頼ることによって、行うことができる。
【0019】
有利には、吸引障害を検出または予測するクラスタ解析および確率的グラフィカルモデリングの実施形態は両方とも、吸引プロセスの開始から低い計算複雑度(O(N))および低いメモリ要件で、オンラインでかつリアルタイムで実装することができ、したがって、ファームウェアまたはソフトウェアで容易に実装することができる。(障害閾値を決定するための)クラスタ解析および確率的グラフィカルモデリングの訓練態様は、オフラインで実行することができる。確率的グラフィカルモデリングの訓練された遷移確率および出力確率は、システムコントローラ、プロセッサ、または他の同様のコンピュータデバイスのメモリに記憶して、その後、サンプリングされた時点でリアルタイムに各吸引圧力測定波形の障害状態を評価するためにオンラインで使用することができる。
【0020】
1つまたはそれ以上の実施形態に従って、
図1~
図17に関連して、吸引障害の早期かつ正確なリアルタイム検出または予測のための方法および装置について以下により詳細に説明する。
【0021】
図1は、1つまたはそれ以上の実施形態による自動診断分析システム100を示す。自動診断分析システム100は、試料容器102に収容された生体試料を自動的に処理および/または分析するように構成することができる。試料容器102は、システム100において、装填エリア106に設けられた1つまたはそれ以上のラック104に受けることができる。装填エリア106に、ラック104のうちの1つから試料容器102を把持し、自動トラック112上に位置する容器キャリア110内に試料容器102を装填する、ロボット容器ハンドラ108を設けることができる。試料容器102は、自動トラック112を介してシステム100全体を通して、例えば、品質チェックステーション114、吸引分注ステーション116、ならびに/または1つまたはそれ以上の分析器ステーション118A~118Cまで輸送することができる。
【0022】
品質チェックステーション114は、試料が分析に適しているか否かを判断するために、生体試料の妨害物質または他の望ましくない特性について事前スクリーニングすることができる。事前スクリーニングに合格した後、生物学的液体試料は、1つまたはそれ以上の分析器ステーション118A~118Cにおける試料の分析を有効にしかつ/または容易にするために、吸引分注ステーション116で液体試薬、酸、塩基、または他の溶液と混合することができる。分析器ステーション118A~118Cは、例えばDNAまたはRNAなど、標的実体(分析物)の存在、量、または機能活性について試料を分析することができる。一般的に検査される分析物としては、酵素、基質、電解質、特定のタンパク質、乱用薬物、および治療薬物を挙げることができる。システム100において、より多いかまたは少ない分析器ステーション118A~118Cを使用することができ、システム100は、遠心分離ステーションおよび/またはデキャッピングステーションなど、他のステーション(図示せず)を含むことができる。
【0023】
自動診断分析システム100は、コンピュータ120も含むことができ、または代替的に、外部のコンピュータ120とリモートで通信するように構成してもよい。コンピュータ120は、例えば、システムコントローラなどであってもよく、マイクロプロセッサベースの中央処理装置(CPU)および/または他の好適なコンピュータプロセッサを有していてもよい。コンピュータ120は、システム100の(品質チェックステーション114、吸引分注ステーション116、ならびに分析器ステーション118A~118Cを含む)さまざまな構成要素を動作させかつ/または制御するための好適なメモリ、ソフトウェア、電子機器、および/またはデバイスドライバを含むことができる。例えば、コンピュータ120は、装填エリア106との間、トラック112のまわり、品質チェックステーション114、吸引分注ステーション116、および分析器ステーション118A~Cとの間、ならびにシステム100の他のステーションおよび/または構成要素との間の、キャリア110の動きを制御することができる。品質チェックステーション114、吸引分注ステーション116、ならびに分析器ステーション118A~Cのうちの1つまたはそれ以上は、コンピュータ120に直接連結してもよく、または、ローカルエリアネットワーク(LAN)、広域ネットワーク(WAN)、もしくは有線および無線ネットワークを含む他の好適な通信ネットワークなどのネットワーク122を介してコンピュータ120と通信してもよい。コンピュータ120は、システム100の一部として収容してもよく、または、システム100からリモートであってもよい。
【0024】
いくつかの実施形態では、コンピュータ120は、検査室情報システム(LIS)データベース124に連結することができる。LISデータベース124は、例えば、患者情報、生体試料に対して行うべき検査、生体試料が得られた日時、医療施設情報、ならびに/または追跡および経路情報を含むことができる。その他の情報も含めることができる。
【0025】
コンピュータ120は、コンピュータインターフェースモジュール(CIM)126に連結することができる。CIM126および/またはコンピュータ120は、グラフィカルユーザインターフェースを含むことができるディスプレイ128に連結することができる。CIM126は、ディスプレイ128と連動して、ユーザが種々の制御およびステータス表示画面にアクセスし、データをコンピュータ120に入力することを可能にする。これらの制御およびステータス表示画面は、試料容器102内の生体試料を事前スクリーニングし、調製し、分析するための、品質チェックステーション114、吸引分注ステーション116、ならびに分析器ステーション118A~Cの一部またはすべての態様の制御を表示し、有効にすることができる。CIM126を使用して、ユーザとシステム100との間のインタラクションを容易にすることができる。ディスプレイ128を使用して、アイコン、スクロールバー、ボックス、およびボタンを含むメニューを表示することができ、このメニューを通じて、ユーザ(例えば、システムオペレータ)は、システム100とインターフェースすることができる。メニューは、システム100の機能態様を表示しかつ/または動作させるようにプログラムされた多数の機能要素を含むことができる。
【0026】
図2Aおよび
図2Bは、それぞれ試料容器202Aおよび202Bを示し、各図は、
図1の試料容器102を表す。試料容器202Aおよび202Bは、採血管、試験管、試料カップ、キュベット、または内部に生体試料を収容し、生体試料が事前スクリーニングされ、処理され(例えば、吸引され)、分析されるのを可能にすることができる他の容器など、透明または半透明の容器を含む、任意の好適な液体容器であり得る。
図2Aに示すように、試料容器202Aは、チューブ230Aおよびキャップ232Aを含むことができる。チューブ230Aは、バーコード、アルファベット文字、数字文字、またはそれらの組み合わせの形式で、患者、試料、および/または検査情報を示すことができるラベル234Aを、その上に含むことができる。チューブ230Aは、血清または血漿部分236SPと、沈降血液部分236SBと、それらの間に位置するゲルセパレータ216GAとを含むことができる生体試料236Aを、内部に収容することができる。
図2Bに示すように、試料容器202Aと構造的に同一であり得る試料容器202Bは、内部に均質な生体試料236Bを収容することができ、チューブ230Bはゲル底236GBを有する。
【0027】
より詳細に後述するように、吸引プロセス中に、不適切に位置するプローブがゲルセパレータ236GAまたはゲル底236GB(例えば赤血球)のいずれかと接触することにより、例えば誤った検査結果および/またはシステムダウンタイムなどの不利益な結果を有する可能性がある、吸引障害をもたらす可能性がある。
【0028】
図3は、1つまたはそれ以上の実施形態による吸引分注装置316を示す。吸引分注装置316は、自動診断分析システム100の吸引分注ステーション116の一部であるか、またはそれを表すものであり得る。場合により、吸引分注装置316は、分析器ステーション118A~118Cのうちの1つまたはそれ以上の一部であるかまたはそれに隣接していてもよい。吸引障害を検出または予測するための本明細書に記載する方法および装置は、吸引分注装置の他の実施形態とともに使用することができることに留意されたい。
【0029】
吸引分注装置316は、生体試料(例えば、試料236Aおよび/または236B)、試薬などを吸引して反応ベッセル内に分注し、1つまたはそれ以上の分析器ステーション118A~Cでの生体試料の分析を有効にするかまたは容易にすることができる。吸引分注装置316は、吸引分注ステーション内でプローブアセンブリ340を移動させるように構成されたロボット338を含むことができる。プローブアセンブリ340は、図示するように、例えば試薬パケット344から試薬342を吸引するように構成された、プローブ340Pを含むことができる。プローブアセンブリ340はまた、例えば自動トラック112を介して吸引分注装置316に位置する試料容器302から(図示するように、そのキャップが除去された後に)、生体試料336を吸引するように構成することもできる。試薬342、他の試薬、および試料336の一部は、プローブ340Pによってキュベット346などの反応ベッセル内に分注することができる。いくつかの実施形態では、キュベット346は、数マイクロリットルの液体のみを保持するように構成することができる。生体試料336の他の部分は、プローブ340Pによって他の試薬または液体とともに他のキュベット(図示せず)に分注することができる。
【0030】
吸引分注装置316の一部またはすべての構成要素の動作は、コンピュータ320によって制御することができる。コンピュータ320は、プロセッサ320Aおよびメモリ320Bを含むことができる。メモリ320Bは、プロセッサ320Aで実行可能であるプログラム320Cを記憶することができる。プログラム320Cは、プローブアセンブリ340の位置決め、ならびにプローブアセンブリ340による液体の吸引および分注を制御および/または監視するアルゴリズムを含むことができる。プログラム320Cはまた、後にさらに説明するように、吸引障害を検出または予測するように構成された人工知能(AI)アルゴリズム320AIも含むことができる。いくつかの実施形態では、コンピュータ320は、コンピュータ120(システムコントローラ)に連結された別個のコンピューティング/制御デバイスであってもよい。他の実施形態では、コンピュータ320の構成および機能は、コンピュータ120に実装し、コンピュータ120によって実行してもよい。また、いくつかの実施形態では、プローブアセンブリの位置決めおよび/またはプローブアセンブリの吸引/分注の機能は、別個のコンピューティング/制御デバイスに実装してもよい。
【0031】
ロボット338は、例えばシステム100の吸引分注ステーション116内でプローブアセンブリ340を移動させるように構成された、1つまたはそれ以上のロボットアーム342、第1のモータ344、および第2のモータ346を含むことができる。ロボットアーム342は、プローブアセンブリ340および第1のモータ344に連結することができる。第1のモータ344は、コンピュータ320によって、ロボットアーム342、したがってプローブアセンブリ340を、液体容器の上の位置まで移動させるように制御することができる。第2のモータ346は、ロボットアーム342およびプローブアセンブリ340に連結することができる。第2のモータ346もまたコンピュータ320によって、プローブ340Pを垂直方向に液体容器の内外に移動させ、そこから液体を吸引するかまたはそこに液体を分注するように制御することができる。いくつかの実施形態では、ロボット338は、フィードバックを提供するためおよび/またはロボット338の作動方法を容易にするために、コンピュータ320に連結された、例えば、電流、振動、および/または位置センサなど、1つまたはそれ以上のセンサ348も含むことができる。
【0032】
吸引分注装置316は、導管352に機械的に連結されるとともに、コンピュータ320によって制御される、ポンプ350も含むことができる。ポンプ350は、液体を吸引するために導管352内に真空または負圧(例えば、吸引圧力)を発生させることができ、液体を分注するために導管352内に正圧(例えば、分注圧力)を発生させることができる。
【0033】
吸引分注装置316は、導管352内の吸引および分注圧力を測定し、それに応じて圧力データを生成するように構成された、圧力センサ354をさらに含むことができる。圧力データは、コンピュータ320によって受信することができ、ポンプ350を制御するために使用することができる。吸引圧力測定信号波形(対時間)は、受信された圧力データからコンピュータ320によって導出することができ、吸引プロセス中にプローブアセンブリ340における吸引障害を検出または予測するために、AIアルゴリズム320AIに入力することができる。圧力センサ354からの受信された圧力データから導出される吸引圧力測定信号波形を使用して、吸引障害を検出または予測するようにAIアルゴリズム320AIを訓練することもできる。圧力センサ354は、圧力を検知するために流体経路内の任意の好適な場所に配置することができる。
【0034】
図4は、1つまたはそれ以上の実施形態による、自動診断分析システムにおいて吸引障害を検出または予測する方法400を示す。プロセスブロック402において、方法400は、自動診断分析システムにおいて、液体が吸引されている際に、圧力センサを介して吸引圧力測定を実行することによって、開始することができる。例えば、吸引圧力測定は、(
図1の)自動診断分析システム100の吸引分注ステーション116の一部であり得る(
図3の)吸引分注装置316の圧力センサ354によって行うことができる。場合により、吸引分注装置316と同様または同一の吸引分注装置を、1つまたはそれ以上の分析器ステーション118A~118Cの一部に組み込むか、または一部として配置することができる。
【0035】
プロセスブロック404において、方法400は、吸引圧力測定信号波形を、(A)吸引圧力測定信号波形のクラスタ解析、または(B)吸引圧力測定信号波形に基づく確率的グラフィカルモデリングのいずれかを実行するように構成された人工知能(AI)アルゴリズムを実行するプロセッサを介して解析することを含むことができる。いくつかの実施形態では、クラスタ解析は、吸引圧力測定信号波形に基づいて2つのメトリックのみを使用することを含むことができる。いくつかの実施形態では、確率的グラフィカルモデリングは、吸引圧力測定信号波形に対して同時に実行される2つの確率的グラフィカルモデルを実装することができる。他の実施形態では、クラスタ解析は、吸引圧力測定信号波形に基づく3つ以上のメトリックを含んでもよい。さらに他の実施形態では、確率的グラフィカルモデリングは、吸引圧力測定信号波形に対して同時に実行される3つ以上の確率的グラフィカルモデル(1つは正常な吸引に関連し、他の各々は異なるタイプの異常な吸引に関連する)を実装してもよい。
【0036】
吸引障害を検出または予測するために吸引圧力測定信号波形を解析することは、正常な吸引の圧力測定信号波形によって示される特性と、(障害状態を表す)異常な吸引の圧力測定信号波形によって示される特性との間の識別可能な差異に基づく。
【0037】
例えば、
図5は、1つまたはそれ以上の実施形態による、正常な吸引の(実質的に互いに重ね合わされている)約30以上の測定された圧力信号波形の吸引圧力信号対時間グラフ500を示す。正常な吸引は、例えば、(
図3の)吸引分注装置316などの吸引分注装置において実行された可能性がある。
【0038】
図6は、1つまたはそれ以上の実施形態による、異常な吸引の約30以上の圧力信号波形の吸引圧力信号対時間グラフ600を示す。異常な吸引は、例えば(
図3の)吸引分注装置316などの吸引分注装置において発生した可能性がある。
【0039】
グラフ500の信号波形とグラフ600の信号波形との間の識別可能な特性の差異は、例えばAIアルゴリズム320AIなど、訓練されたAIアルゴリズムによって、吸引プロセス中にリアルタイムで検出することができる。プロセッサ320Aによって実行可能であるAIアルゴリズム320AIは、限定されないが、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を含むニューラルネットワーク、ディープラーニングネットワーク、再生ネットワーク、または別のタイプの機械学習アルゴリズムもしくはモデルを含む、人工知能プログラミングの任意の好適な形態で実装することができる。したがって、AIアルゴリズム320AIは、例えば、単純なルックアップテーブルではないことに留意されたい。むしろ、AIアルゴリズム320AIは、1つまたはそれ以上のタイプの吸引障害を検出または予測するように訓練することができ、明示的にプログラムされることなく改善する(より正確な決定または予測を行う)ことが可能である。
【0040】
いくつかの実施形態では、AIアルゴリズム320AIによる吸引障害状態の検出は、吸引プロセス中の吸引圧力測定信号波形から導出される2つのメトリックのみを使用するクラスタ解析に基づくことができる。この2つのメトリックは、吸引障害の予測因子として使用される。(分類境界または範囲を有する)検出閾値は、2つのメトリック、訓練データ、およびいくつかの実施形態ではK平均クラスタリングのみに基づく。他の好適なクラスタリングアルゴリズムも可能である。訓練データは、正常な吸引と異なるタイプの異常な吸引との両方を表す。時間的に変化する分類範囲は、統計的尺度に基づいて確立される。
【0041】
2つのメトリックのうちの第1のメトリックは以下の通りであり:
【数1】
式中:
P(t)は、時間tで測定された吸引圧力であり、
P(threshold)は、圧力測定信号波形の変曲点を取得するために選択される一定のオフセット値であり;
図7は、1つまたはそれ以上の実施形態による、選択されたP(threshold)756とともに正常な吸引圧力信号波形のグラフ700を示し;
【数2】
は、吸引圧力勾配の移動平均であり;
εは、特異点(P(t)=P(threshold)のときのメトリック1におけるゼロによる除算)を回避するために使用される小さい数(例えば、0.005)である。
【0042】
2つのメトリックのうちの第2のメトリックは以下の通りである:
【数3】
【0043】
メトリック1は、圧力の時間変化率を取得し、メトリック2は、吸引圧力波形の変曲特性を取得する。メトリック1および2は、差し迫ったまたは早期の吸引障害の信頼性のある予測因子であることが分かった。
【0044】
図8は、1つまたはそれ以上の実施形態による、吸引圧力信号波形のクラスタリングベースの解析のためにAIアルゴリズム320AIを訓練する方法800を示す。AIアルゴリズム320AIの訓練は、オフラインで実装することができる。クラスタの最適な数の決定、およびP(threshold)、移動平均フィルタパラメータ、εなどのパラメータのチューニングは、訓練後の検証を通じて行うことができる。圧力測定値のリアルタイムサンプリングのための好適なサンプルレートの決定は、障害検出までの時間に対する感度に基づくことができる。吸引障害予測のロバスト性のために、吸引を異常として特定する前に、いくつかの実施形態では、タイムステップのセットにわたる複数の障害状態をカウントすることができる。
【0045】
方法800は、吸引圧力信号波形の訓練セットが提供される入力データブロック802で開始することができる。プロセスブロック804において、各サンプリングされた吸引圧力測定値について、メトリック1およびメトリック2が計算される。
【0046】
プロセスブロック806において、メトリック1および2の各々について、検出時間窓にわたる大域的統計量が計算される。
図5および
図6に、検出時間窓の例を示す(輪郭を描いた「サンプル吸引フェーズ」を参照)。大域的統計量は、検出時間窓にわたるメトリックの大域的最小値および最大値に基づく上限閾値および下限閾値を含む。例えば、
図9は、正常および異常の吸引圧力信号波形対時間のグラフ900を示し、ここでは、1つまたはそれ以上の実施形態に従って、メトリック1の大域的最小値および最大値に基づく上限閾値958および959と、メトリック1の大域的最小値および最大値に基づく下限閾値960および961とが計算されている(下限閾値960が上限閾値959と偶然にほぼ同じとなっていることに留意されたい)。
図10は、正常および異常の吸引圧力信号波形対時間のグラフ1000を示し、ここでは、1つまたはそれ以上の実施形態に従って、メトリック2の大域的最小値および最大値に基づく上限閾値1058および1059と、メトリック2の大域的最小値および最大値に基づく下限閾値1060および1061とが計算されている。
【0047】
ブロック808において、正常な吸引に対応するクラスタを特定するために、プロセスブロック806において計算された大域的統計量に基づいて、サンプル吸引に対してクラスタリングが実行される。
図11は、1つまたはそれ以上の実施形態による、メトリック1に基づく4クラスタ分類1100を示し、
図12は、1つまたはそれ以上の実施形態による、メトリック2に基づく4クラスタ分類1200を示す。
図11および
図12に示すように、メトリック1およびメトリック2の大域的最小値および最大値に基づくクラスタリングは、クラスタ1に示すような正常な吸引サンプルを、クラスタ2、3、および4に示すような異常な吸引サンプルから効果的に分離する。
【0048】
ブロック810において、方法800は、各瞬間における正常な吸引クラスタ(クラスタ1)についてメトリック1および2の各々に対して統計量(例えば、平均値および標準偏差)を計算することを含むことができる。これらの統計量は、サンプルを正常または異常として分類するために使用することができる。正常な吸引サンプルは、全サンプルの中で平均値および標準偏差の最も低い変動を示す。
【0049】
ブロック812において、方法800は、分類範囲を決定するために、各瞬間におけるクラスタ1についてメトリック1および2の各々に対して正常吸引統計量を計算することを含むことができる。以下の統計的手順を使用して、各時間サンプルにおいて、メトリック1およびメトリック2について正常な吸引のクラス(クラスタ1)に対応する範囲を確立することができ:
メトリックUpperLimit(t)=メトリック75percentile(t)+αメトリックIQR
メトリックLowerLimit(t)=メトリック25percentile(t)-αメトリックIQR(t)
式中、メトリックIQR(t)=メトリック75percentile(t)-メトリック25percentile(t)
(注:t=時間)
ここで、α=1.5または3であり(αの最適値は、初期訓練後の検証によって調整することができる)、サンプリング時間Ts=1/fsであり、ここで、fsは、吸引プロセス中の圧力測定のサンプリングレートである。好適なサンプリング時間は、例えば1ミリ秒であってよい。他の好適なサンプリングレートを使用してもよい。
【0050】
図13は、1つまたはそれ以上の実施形態による、α=3である、プロセスブロック812で実行された計算に基づく、メトリック1、クラスタ1のベースライン分類ゾーンまたは範囲1300を示す。ベースライン分類範囲1300は、上限曲線1362、平均曲線1363、および下限曲線1364を含む。
【0051】
図14は、1つまたはそれ以上の実施形態による、α=3である、プロセスブロック812で実行された計算に基づく、メトリック2、クラスタ1のベースライン分類ゾーンまたは範囲1400を示す。ベースライン分類範囲1400は、上限曲線1462、平均曲線1463、および下限曲線1464を含む。
【0052】
ベースライン分類範囲1300および1400は、図示するように、ノンパラメトリック形式で決定および記憶されることに留意されたい。第1の代替実施形態では、ベースライン分類範囲は、多項式、B-スプライン、自己回帰移動平均(ARMA)モデル、または他の好適な基底関数を使用する大域的表現によって、パラメータ化することができる。第2の代替実施形態では、吸引フェーズは、サブフェーズ(例えば、4つ)に細分化することができ、各サブフェーズにわたるベースライン分類範囲は、多項式、B-スプライン、ARMAモデル、または他の好適な基底関数を使用する局所的表現を介して、個々にパラメータ化することができる。第1および第2の代替実施形態のパラメトリック形式は、ノンパラメトリック形式と比較して、必要なメモリを少なくすることができるが、追加の計算コストが発生する可能性がある。
【0053】
ベースライン分類範囲1300および1400は、確立されると、後に説明するように、吸引障害を検出/予測するために、吸引圧力測定信号波形のクラスタ解析において使用することができる。
【0054】
図4に戻ると、方法400は、プロセスブロック406において、プロセスブロック404で実行されたクラスタ解析に応答して、プロセッサを介して吸引障害を特定しそれに応答することによって、継続することができる。吸引障害は、吸引圧力測定信号波形の各サンプリングされた瞬間について決定することによって、特定することができ、
t=t
n∈検出時間窓
メトリック1および2の各々について、
メトリック
i(t=t
n)≦メトリック
i,UpperLimit
および
メトリック
i(t=t
n)≧メトリック
i,LowerLimit
のいずれかである。
【0055】
上記の条件が検出窓内で満たされない場合、吸引は異常として特定することができ、吸引プロセスを終了することができ、かつ/またはエラー状態のためのシステム手順に従うことができる。
【0056】
他の実施形態では、上述したようにプロセスブロック404においてクラスタ解析を実行する代わりに、プロセスブロック404で実行される解析は、代替的に、吸引圧力測定信号波形に基づく確率的グラフィカルモデリングを含むことができ、この場合、吸引圧力測定信号波形に対して、2つの確率的グラフィカルモデルが同時に実行される。サンプル吸引のダイナミクスをモデル化するために、隠れマルコフモデル(HMM)を使用することができる。正常な吸引サンプルおよび異常な吸引サンプルの訓練データセットは、最初に、教師式(すなわち、データの専門家ベースのラベル付け)、または上述したK平均クラスタリングなどの機械学習法を使用する教師式のいずれかで、特定される。サンプル吸引中の状態遷移は、現状態値から隣接するより高い状態値に状態遷移が行われ得るように逐次的であるため、left-to-right HMMアーキテクチャを使用することができる。HMMモデルは、期待値最大化(Expectation-Maximization)(EM)アルゴリズムを用いて、別個のHMMモデル、すなわち正常な吸引に対するものと異常な吸引に対するものとで、訓練される。EMアルゴリズムの「期待」ステップは、バウム-ウェルチ(Baum-Welch)(フォワード-バックワード(forward-backward))アルゴリズムの形式で適用される。訓練が完了すると、AIアルゴリズム320AIは、測定された吸引圧力信号波形に対してリアルタイムで正常吸引HMMおよび異常吸引HMMを同時に実行するように構成される。圧力信号値の連続するシーケンスにわたるシーケンス出力確率は、両方のHMMを使用して計算される。吸引の正常または異常としての分類は、相対的なシーケンス尤度:
PSEQUENCE,NORMAL/PSEQUENCE,ABNORMAL
の比較に基づいてもよく、または代替的に、正常な吸引および異常な吸引について、それぞれの閾値セットに対して正常HMMおよび異常HMMを使用してシーケンス尤度を比較することによるものとすることもできる。訓練は、正常な吸引および異常な吸引に対する訓練データセットを使用して、オフラインモードで実行することができる。HMMモデルは、訓練されると、リアルタイムでの吸引障害の検出/予測のために、ファームウェアまたはソフトウェアDML(確定版メディアライブラリ(Definitive Media Library))においてオンラインで実装することができる。
【0057】
図15Aおよび
図15Bは、1つまたはそれ以上の実施形態によるメトリックごとの2クラスタ分類1500A、1500Bを示し、各メトリックの第1のクラスタを
図15Aに示し、各メトリックの第2のクラスタを
図15Bに示す。正常HMMおよび異常HMMの訓練は、以下:(1)いくつかの実施形態では、検出時間窓1566Aおよび1566Bであってよく、各々が200ミリ秒であり得る(他の検出時間窓を使用してもよい)、所定の検出時間窓内の、クラスタ1(正常な吸引)およびクラスタ2(異常な吸引)各々についてのメトリック1およびメトリック2を計算すること;(2)正常な吸引サンプル(クラスタ1)に対するメトリックの平均ベクトルを計算し、計算した平均ベクトルを、サンプルの訓練セットにおける各吸引サンプルの平均ベクトルから減算すること;および(3)出力(output)/出力(emission)の数を定義する、すなわち、(ステップ(2)から)メトリック残差の最小-最大範囲を均等に分割することにより、出力の離散的な量子化された(整数値)範囲セットを作成することを含む。
【0058】
いくつかの実施形態では、吸引障害の検出または予測は、6つの状態k=1~6、制約付き状態遷移、12の出力状態、および15タイムステップシーケンスを有する、
図16に示すようなleft-to-rightアーキテクチャ1600を有するHMMによって各々が実行され得る。
【0059】
代替実施形態では、吸引プロセスの全検出時間窓にわたってHMMを実行する代わりに、検出時間窓をサブフェーズ(例えば、4つ)に細分化することができ、各サブフェーズについて、正常な吸引および異常な吸引に対する別個のHMMモデルを訓練し、その後、吸引障害を検出/予測するために測定された吸引圧力に対して実行することができる。検出時間窓をサブフェーズに細分化することにより、HMMの各々の複雑性および/またはサイズを低減させ、したがって、全体的な計算コストを削減することができる。
【0060】
図4に戻ると、方法400は、プロセスブロック406において、プロセスブロック404で実行された確率的グラフィカルモデリングに応答して、プロセッサを介して吸引障害を特定しそれに応答することによって、継続することができる。吸引障害は、2つのHMM(一方は正常な吸引に対して訓練され、他方は異常な吸引に対して訓練される)を同時に実行することによって、特定することができる。いくつかの実施形態では、以下のように、正常な吸引を特定するために、吸引圧力測定信号波形の各サンプリングされた瞬間に、シーケンス尤度の第1および第2の閾値を適用することができ:
P
SEQUENCE,NORMAL>第1の閾値;
および
P
SEQUENCE,ABNORMAL<第2の閾値;
ここで、いくつかの実施形態では、第1の閾値は0.90であってもよく、第2の閾値は0.50であってもよい(第1および第2の閾値について他の好適値を使用してもよい)。
【0061】
シーケンス尤度は、対応する既知の状態シーケンスを条件とした観測シーケンス(長さ=15)の複合確率に基づいて計算される。
【0062】
有利には、本明細書に記載するようなクラスタ解析および確率的グラフィカルモデリングの両方は、吸引プロセスの開始から最初の100ミリ秒以内に吸引障害を検出および/または予測した(例えば、1つまたはそれ以上の実施形態による、吸引サンプルのデータセットの間で検出された吸引障害のヒストグラム1700を示す
図17を参照)。この早期のリアルタイムの吸引障害検出または予測により、例えば機器のダウンタイムおよび/または誤った分析結果など、障害のある吸引の下流におけるあらゆるあり得る結果を有利に回避するかまたは最小限にするように、吸引プロセスを適時に終了すること、および/または好適なエラー状態手順を実行することを可能にすることができる。
【0063】
さらに、クラスタ解析および確率的グラフィカルモデリングの両方が、リアルタイムで、サンプル吸引の正常または異常としての効率的かつ正確な二項分類を有利に実行することが分かった。両実施形態ともに、オンライン実行中の計算複雑度(O(N))およびメモリ要件が低く、したがって、ファームウェアまたはソフトウェアで容易に実装することができる。両実施形態ともに、(
図3の)AIアルゴリズム320AIの訓練段階の間、計算コストが高くなる可能性があるが、訓練段階はオフラインで実行することができる。
【0064】
本明細書に記載する方法および装置は、いかなる特定のタイプの吸引障害にも限定されないことに留意されたい。例えば、吸引量不足およびゲルまたは望ましくない物質の収集による吸引障害に加えて、検出/予測すべき特定のタイプの吸引障害について十分な数の試料吸引圧力波形サンプル(すなわち、訓練データ)が存在することを条件として、例えば、吸引ポンプによる不正確な滴定、滴定中のソフトウェア関連のエラー、プローブ上流の流体工学マニホールドの流れ状態の悪化、ならびに/または滴定に悪影響を及ぼす電気的ノイズおよび/もしくは環境的影響によって引き起こされる他の障害もまた、検出/予測することができる。そして、本明細書に記載する方法および装置を適用して、各タイプの吸引障害に関連する別個のメトリックプロファイルを特定することができる。したがって、吸引障害を検出/予測するために使用されるメトリックのタイプおよび数は、検出/予測すべき特定の吸引障害の特定の吸引プロファイルに基づくことができる。任意の新たな吸引プロファイルに対して新たなメトリックを導出することができる。同様に、解析のために選択されるクラスタ分類の数は、障害の状態および/またはタイプの予測されるカテゴリの数、ならびに、訓練データの可用性、および訓練データに存在する異なる吸引障害状態を許容可能な精度の範囲内で類別するクラスタリング解析の能力によって決まる。したがって、例えばより高いレベルの偽陰性が許容可能である場合には、例えば、上述した4クラスタ分類を3クラスタ分類に減らしてもよい。このように、本明細書に記載する方法および装置は、吸引障害を検出/予測するためのメトリックおよび/またはクラスタのいかなる特定のタイプまたは数にも限定されない。
【0065】
本開示は、さまざまな変更形態および代替形態が可能であるが、特定の方法および装置の実施形態について、図面において例として示しており、本明細書において詳細に説明している。しかしながら、本明細書に開示した特定の方法および装置は、本開示または以下の特許請求の範囲を限定するようには意図されていないことが理解されるべきである。
【国際調査報告】