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特表2024-527398有機化合物におけるまたはこれに関連する改善
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-24
(54)【発明の名称】有機化合物におけるまたはこれに関連する改善
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/08 20060101AFI20240717BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240717BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240717BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C08B37/08 Z
A61K8/73
A61Q19/00
A61Q5/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501788
(86)(22)【出願日】2022-07-15
(85)【翻訳文提出日】2024-03-11
(86)【国際出願番号】 EP2022069882
(87)【国際公開番号】W WO2023285663
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】2110211.6
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501105842
【氏名又は名称】ジボダン エス エー
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョゼット,ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】アルブレヒト,ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】ブルナー,ゲルハルト
(72)【発明者】
【氏名】ロブチック,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ムニエ,マリー
(72)【発明者】
【氏名】レノー,ロマン
(72)【発明者】
【氏名】スカンドレラ,アマディン
【テーマコード(参考)】
4C083
4C090
【Fターム(参考)】
4C083AA122
4C083AC172
4C083AC712
4C083AC782
4C083AD131
4C083AD132
4C083AD331
4C083AD332
4C083BB34
4C083CC02
4C083CC31
4C083CC38
4C083EE12
4C083EE17
4C083EE29
4C083FF01
4C090AA01
4C090AA08
4C090BA67
4C090BB18
4C090BB22
4C090BB62
4C090BD34
4C090DA26
(57)【要約】
本発明は、1.4を超えるカチオン化度を有するヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.4を超えるカチオン化度を有する、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩。
【請求項2】
ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩が、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムおよび/またはその塩;ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウムおよび/またはその塩;ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリプロピルアンモニウムおよび/またはその塩;およびヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリブチルアンモニウムおよび/またはその塩からなる群から選択される、請求項1に記載のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩。
【請求項3】
ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩が、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムおよび/またはその塩である、請求項2に記載のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩。
【請求項4】
少なくとも1.5の、より好ましくは少なくとも1.6の、なおより好ましくは少なくとも1.7の、および最も好ましくは少なくとも1.8のカチオン化度を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩。
【請求項5】
ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩が、約10kDa~約200kDaの、より好ましくは約15kDa~約150kDaの、なおより好ましくは約20kDa~約100kDaの、および最も好ましくは約20kDa~約80kDaの平均分子量を有するヒアルロン酸またはその塩から調製される、請求項1~4のいずれか一項に記載のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩。
【請求項6】
ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムの塩化物塩を含むかまたはこれからなる、請求項1~5のいずれか一項に記載のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩を調製する方法であって、塩基の存在下でヒアルロン酸および/またはその塩をカチオン化剤と反応させるステップを含み、ここでカチオン化剤は、2,3-エポキシプロピルトリアルキルアンモニウムクロリド、2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムクロリド、およびそれらの混合物からなる群から選択される、前記方法。
【請求項8】
カチオン化剤が、2,3-エポキシプロピルトリモニウムクロリド、2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
約1.5~約20当量のカチオン化剤が使用される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
反応が、約0.01~約1.00g/mlの、より好ましくは約0.05~約0.50g/mlの、ヒアルロン酸および/またはその塩の濃度で実施される、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか一項に記載のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩、および好適な担体を含む、化粧品組成物。
【請求項12】
ヘアケアまたはスキンケア組成物である、請求項11に記載の化粧品組成物。
【請求項13】
保水および/またはUV保護および/または毛髪修復のための、請求項1~6のいずれか一項に記載のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1.4を超えるカチオン化度を有するヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩に関する。
魅力的に見えることへの願望は、現代の消費者に自然に根付いている。魅力の理想は時間の経過とともに変化するものの、毛髪および皮膚の状態および外観が魅力的な外見に大きく寄与することは、万人に受け入れられている。
【0002】
皮膚の構造枠組みは、その細胞外マトリックスと称される。それは、コラーゲンおよびエラスチンなどの網目状ポリマーのネットワークを含み、その内部に皮膚細胞が含有されている。それは、硬さ、強さ、しなやかさ、および弾力性を包含する皮膚の機械的特性を担う。皮膚の老化の物理的な兆候は、皮膚マトリックスの状態の反映である。より具体的には、マトリックスがより弱くおよびより規則性に欠けると、皮膚がより多くのしわ、粗さおよびたるみを有する傾向になる。
【0003】
皮膚のしなやかさ、柔らかさ、トーンおよび外観を確保するのに不可欠である皮膚保水(skin hydration)は、複雑な現象である。水は、我々の体の主要な構成物質であり、および成人の体重の60%を占める。皮膚において、水は、主として真皮に分布し、そこでそれは細胞外マトリックスの種々異なる構造タンパク質とともに半流動ゲルを形成する。表皮および角質層が含有する水は極めて少ない。
【0004】
表皮は、皮膚の外部構造であり、その役目は、保護および環境との交流を確保することである。角質層は、表皮の再外層である。それは角質細胞の複数の層(15~20層)の積み重ねで構成され、および表皮角化プロセスの最終産物である。概略的にいうと、角質層は、タンパク質が豊富で親水性である角質細胞、および、脂質が豊富で疎水性である角質細胞間空間を含む。角質細胞は、それらの細胞質内細胞小器官を失った無核化された細胞である。角質細胞の内部では、ケラチンフィラメントの緻密なネットワークが、別のタンパク質であるフィラグリンで構成されるマトリックス内に分散している。全体は、脂質エンベロープで裏打ちされたタンパク質壁から作られた極めて耐性の高いエンベロープに取り囲まれている。
【0005】
角質細胞の2つの層は、はっきり区別される:深くにあり、角質細胞が角質デスモソームによって互いに接続されており、バリア機能を提供する角質緻密層、および角質分離層と呼ばれる落屑層である。角質細胞は、壁を形成するレンガと同じと考えることができ、および細胞膜のタンパク質が豊富な付属物である少数のデスモソームによって互いに繋がっている。角質細胞の間には、棘のある層および顆粒層の角化細胞によって合成された表皮脂質が忍び込み、「レンガとセメント」モデルを作り出している。表皮脂質は、角質層の体積の10~30%を占める。それらは、角化細胞のゴルジ装置中で形成され、および次いで、エキソサイトーシスエキソサイトーシスによって細胞外空間内へと排出される。セラミドは、角質層中の脂質の大部分を占める(40%)。これは、スフィンゴシンとリノール酸などの様々な脂肪酸とを本質的に含むスフィンゴ脂質のグループである。セラミドは、この複雑な脂質混合物の水性の構成要素を結合させる。角質層の細胞間脂質の主たる機能は、このバリア層に、水に対して相対的に不浸透性の性質を付与することである。
【0006】
皮膚保水のレベルは表面上に表れるが、しかし、水は、主として、血漿由来の水を大量に含有する真皮から来ている。真皮は、それを合成した線維芽細胞および線維細胞という特定の細胞の間に位置する豊富な細胞外マトリックス(ECM)によって特徴付けられる結合組織で構成される。ECMは、弾性繊維およびコラーゲンおよび非晶質の間質物質からなる。この間質物質は、ヒアルロン酸(硫酸化されていないグリコサミノグリカン)、および、タンパク質軸と結び付いてプロテオグリカンを形成する硫酸化グリコサミノグリカンを、本質的に含有する。全体は、スポンジのように水を保持し、また水および溶解分子の循環も可能にする、圧縮可能なゲルを形成する。体内の総水分の20%~40%は、細胞外マトリックス中に含有される。皮膚保水にとっての肝要な分子は、したがって、その重量の最大1000倍までの水を引き入れおよび固定することを可能とするヒアルロン酸である。ヒアルロン酸の代謝、皮膚内でのその役目、および他の皮膚構成要素とのその相互作用を理解することは、皮膚保水の調整を検討するのにより理にかなったアプローチである。
【0007】
ヒアルロン酸は、pH、媒体の塩含量および会合するカチオンに依存して様々な形状および立体配置を採る能力を有する高分子量アニオン性多糖類である。その役目は、細胞の運動性、付着、増殖および組織化において不可欠である。それは、皮膚保水において肝要な要素である、細胞外マトリックスの主たる構成要素である。ヒアルロン酸の機能は、体内において複数ある。細胞外マトリックス内では、ヒアルロン酸は、単なる受動的な構造上の構成要素ではなく、細胞代謝における役目を果たす細胞内調節因子である。例えば、細胞の表面のヒアルロン酸に対する受容体がある: CD44およびヒアルロン酸によって媒介される可動性のための受容体(receptor for mobility mediated by hyaluronic acid)(RHAMM)は、2つの最も重要なものである。それらは、細胞内シグナルのカスケードの後の細胞動員を誘導することができ、および、それら自体が多くのホスホキナーゼの基質である。
【0008】
ヒアルロン酸の存在は真皮のみに限定されると思われていたが、ごく最近、組織学的な技法が、表皮中のヒアルロン酸の存在を実証することを可能にした。表皮の顆粒層および有棘層は、細胞外区画中でヒアルロン酸が最も豊富である。基底層もまたヒアルロン酸を含有するが、分量がより少なく、および、これは細胞内である。表皮の基底層に含有されるヒアルロン酸は、細胞周期の調節に関与する。顆粒層および有棘層に含有されるヒアルロン酸は、細胞外マトリックス中に含有される、真皮から来る水分子を保持することによって、皮膚保水に介入する。水は、ヒアルロン酸によって固定され、および親水脂質膜によって保持される。
【0009】
表皮の浅層に到達する前に、水は、真皮の間質物質の巨大分子であるムコ多糖類、ヒアルロン酸およびプロテオグリカンへ結合する。この真皮水のうち遊離であるのはごくわずかな一部分だけである。水は、真皮から表皮接合部を通って表皮の深層まで拡散する。深層から浅層へのこの水の移動には、次いで細胞膜に位置するアクアポリンという実際の水輸送系が必要になる。皮膚において、それはほとんど専ら3型アクアポリンである。
【0010】
水は、次いでヒアルロン酸によって保持されている角質細胞間空間を獲得し、および角質細胞の内部にもまた浸透してケラチンを可塑化させる。水は、NMF(天然保湿因子)という名の下にグループ化された細胞内吸湿性要素による浸透および引力の二重の現象によって、角質細胞中に引き入れられおよび保持される。これらの天然保湿因子は、角質層中に水を捕捉するために皮膚によって天然に合成された剤である。それらは、細胞内プロテアーゼの作用下でのフィラグリンのアミノ酸への分解から結果として生じ、これは、剥離しおよび圧縮されたケラチンフィラメントと一緒に、高度に親水性の細胞内マトリックスを構成する。
【0011】
遊離アミノ酸、ピロリドンカルボン酸、尿素、乳酸塩、糖、微量元素および塩化物は、NMFの一部である。ピロリドン酸、尿素および乳酸塩は、それらが水中においてそれらの重量の最大70%を保持することができてゆえにそれらの強い保湿力が得られるような、吸湿性の作用を有する。水が角質細胞を離れることができないのは、角質細胞間空間の脂質の疎水性の性質のおかげである。最終的に、水および脂質から形成されている天然のエマルションである表面親水脂質膜が、皮膚の表面上の水を保持し、不感水分損失(PIE)を防止する。水性部分である水溶性画分は、皮膚の発汗および汗分泌から来る。脂質部分である脂溶性画分は、皮脂、および、脂質の表皮合成から来る。皮膚のしなやかさのために不可欠な親水脂質膜もまた、脱水を防止する助けになる。
【0012】
ヒアルロン酸は、その吸湿能力およびその真皮中での高濃度によって、皮膚保水における主要な役割を果たす。それは、真皮中にも、しかしまた表皮中にも存在し、そこでそれは角化細胞間空間中に水を保持する。それは、表皮の上層の細胞外空間内に事実上見出され;それはそこで水分子を固定し、蒸発を制限する親水脂質膜によってこれが表面に保持される。
【0013】
哺乳動物およびとりわけヒトの毛は、一般に3つの主要な構成要素からなる:キューティクル(外側保護層)、皮質(毛の大規模なコア)、および髄質(より太い毛においておよび特に白髪においてより一般的である、中枢性の柔らかいタンパク質コア)。これらの構造の主たる構成物質は、硫黄が豊富なタンパク質、脂質、水、メラニン、および微量元素である。
【0014】
キューティクルは、ケラチンから構成され、および大抵6~8層の扁平な重なった細胞からなる。各細胞は、複数の層を含有する。各キューティクル細胞の最上部構造は、薄いタンパク質膜、脂質層で覆われたエピキューティクルまたはf-層を含有する。この層脂質は、共有結合的に繊維の表面へ取り付いている。エピキューティクルは、疎水性である。キューティクルの複雑な構造は、毛が膨らむとそれを滑りやすくし、および、f-層がかなりの程度の耐水性をもたらす。それは、毛を保護することおよび水分の流入および流出に対して耐性にすることにおいて、不可欠である。
【0015】
正常なキューティクルは、滑らかな外観を有し、光反射を可能にし、毛幹の間の摩擦を制限する。それは、主に毛の光沢および質感を担う。キューティクルは、哺乳動物の毛繊維中の皮質を取り囲む化学的に耐性な領域である。キューティクルは、環境的な、機械的な、化学的な、および熱的な源によってダメージを受けることがある。f-層の化学的除去、特にブリーチまたはパーマの間の酸化によるものは、最初の疎水性防御を消滅させ、および毛をより多孔質および脆弱なままにする。キューティクルがダメージを受けると、毛の引張特性にはほとんど変化がない;しかしながら、その保護機能は弱まる。
【0016】
皮質は、毛のほとんどすべての機械的特性、特に強度および弾性に寄与する。皮質は、ケラチン鎖を構成するプロトフィラメントを形成するよう対を成した400~500個のアミノ酸残基を含むケラチンフィラメントが豊富な、密に詰まった紡錘形の細胞からなる。これらは、毛幹の長軸に平行に向いており、および高硫黄含有タンパク質の非晶質のマトリックス中に包埋されている。ケラチン鎖は、多数の硫黄を含むシステイン結合を有しており、これは隣接する鎖間に強力な架橋を作り出している。これらの所謂ジスルフィド結合は、毛幹に形状、安定性、および回復力を付与することにおいて不可欠であり、および、パーマやリラックスに使用されるものなど、外部の酸化性化学物質によってのみ壊すことができる。弱い水素結合は、ケラチンポリペプチド鎖同士を連結させる。これらの弱い結合は、容易に水によって圧倒され、巻き毛を一時的に真っ直ぐにする。強力なジスルフィド結合および弱い水素結合は、毛の健康に極めて重要である。皮質は、繊維の色を担うメラニン顆粒もまた含有する。
【0017】
髄質は、より太いおよび白色の毛髪中において存在する、柔らかいタンパク質コアである。それは、ヒトにおいて知られている機能を有しない。
今日の消費者は、毛髪および皮膚のケアのための多数の化粧用製品を提供されている。一般に、これらの製品は、意図する適用に応じてリーブオンまたはリンスオフ処方の形態である。スキンケア製品は、実例として、皮膚を保湿するための水およびそれを再潤滑化させるための脂肪および脂質を含有する、クリームおよびローションを包含する。ヘアケア製品は、実例として、毛髪をクレンジング、保湿およびUV保護するためのシャンプーおよびコンディショナーを包含する。
【0018】
我々は年を取るにつれて、自然にコラーゲンおよびヒアルロン酸を失い、このため皮膚はより容易に脱水するようになる。また、厳しい気候、冬季の間のヒーター、ある種のスキンケア製品、および根本的な皮膚状態は、保護的な皮膚バリア中に、水を逃がす小さな破れを引き起こす可能性がある。これが、保湿製品でのスキンケアのレジメンが余計に有益であり得る理由である。
【0019】
ヒアルロン酸、グリセリン、コロイド状オートミール、尿素、プロピレングリコール、およびソルビトールを包含する保水スキンケア成分は、すべて水分を与えようとするために水を皮膚へ引き寄せる湿潤剤として作用する。これらの成分は、モイスチャライザー、アイクリーム、およびセラムなどの製品において幅広く使用される。
【0020】
ヒアルロン酸は、皮膚中において天然に生じる糖分子であり、および、それは、皮膚がよりふっくらし、潤い、およびより保水されたように見えるように、水をコラーゲンに結合させて皮膚の中に捕捉することを助ける。それは容易に浸透することが、局所的に適用されたときにそれがそこまで良い働きをする理由である。ヒアルロン酸のさらなる利点は、その軽い重量、水を多く含む性質、および、環境および真皮深部からの水分を閉じ込めることで皮膚に十分に水分を与える能力を包含する。ヒアルロン酸は、モイスチャライザーではないが(それは湿潤剤である)、しかしそれは環境から水分を引き込むことによって助けになる。
【0021】
ヒアルロン酸は、皮膚の真皮中で自然に生産される化合物であり、および、ヒアルロニダーゼと呼ばれる酵素によって絶え間なく分解される。よって、年齢とともに、細胞によって合成されるヒアルロン酸とヒアルロニダーゼによって分解されるヒアルロン酸との間の比率が減少し、真皮保湿の低減および進行性のたるみを引き起こし、しわの出現につながる。ヒアルロン酸の皮膚柔軟化および保湿効果は、当該技術分野において知られている。
【0022】
毛髪は、しばしば、ダメージを引き起こす多種多様の損傷を受ける。これらは、シャンプー、リンス、乾燥、加熱、コーミング、スタイリング、パーマ、カラーリング、風雨に曝されること、等々を包含する。よって、毛髪表面の摩耗、ならびに髪の天然油分およびその他の自然なコンディショニングおよび保湿の除去に起因して、毛髪は、しばしば、乾燥し、粗くなり、光沢がなくなり、または縮れることがある。
【0023】
ヒアルロン酸はまた、毛髪のために有益でもある:それは毛髪に水分を与え、縮れを低減させ、毛髪をふっくらさせ、および頭皮に水分を与える。ヒアルロン酸の湿潤剤的結合特性は、それが皮膚に対してするのと同様に毛髪に対して性能を発揮し、毛髪繊維が製品からの水分を保持および密封することを可能にする。それはまた、キューティクルを密封することも助け、これは不要な水分がそこに進入することを防止して、縮れた毛髪、および巻き毛の質感での縮毛につながる。
【0024】
しかしながら、重要な難点がある:
毛髪および皮膚の表面は、通常負に帯電している。ヒアルロン酸もまた、アニオン性官能基(とりわけ、カルボキシル基)の存在に起因して、通常負に帯電している。したがって、毛髪または皮膚を処置するとき、ヒアルロン酸と毛髪/皮膚とは、それらの表面が負に帯電しているため、互いに反発し合う。
したがって、ヒアルロン酸は、通常、少ない程度でしか毛髪または皮膚の表面へ付着せず、処置をより有効性の低いものにしてしまう。
【0025】
この難点を克服するために、これまでに複数のグループが、カチオン性の基をヒアルロン酸主鎖に取り付けて、それによってカチオン化されたヒアルロン酸またはその塩を生産することを提案している。かかるカチオン化されたヒアルロン酸誘導体およびその塩は、これらに限定されないがヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムおよびその塩を包含する。
例えば、US 2009/0281056は、カチオン化されたヒアルロン酸 - 例としてヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム - を調製するための方法を開示し、ここでは、ヒアルロン酸の水酸水素原子の少なくとも一部は、第四級アンモニウムカチオン基を有する基に置き換えられる。この目的のために、ヒアルロン酸は、グリシジルトリアルキルアンモニウムハロゲン化物などのカチオン化剤と反応させられる。
【0026】
例えば、US 8,410,076は、四級アンモニウム基を含有する基を包含し、かつ0.15~0.6のカチオン化度を有する、カチオン化されたヒアルロン酸および/またはその塩 - 例としてヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム - に関する。この文書はさらに、もしもカチオン化されたヒアルロン酸および/またはその塩が0.15未満のカチオン化度を有していたら、毛髪または皮膚へのカチオン化されたヒアルロン酸および/またはその塩の付着性は大幅に減少し、充分な保湿効果が得られないかも知れないということ、および、もしもカチオン化度が0.6を超えていたら、カチオン化されたヒアルロン酸および/またはその塩は毛髪または皮膚に付着はするものの、充分な保湿効果および滑らかさが達成されないかもしれないということを説明している。
【発明の概要】
【0027】
しかしながら、上記のカチオン化されたヒアルロン酸誘導体および塩は、リンスオフ処方においてさえも、長期にわたる保湿効果を提供することはできない。
したがって、本発明の課題は、リンスオフへの適用においてもまた有効である化粧品保湿剤を提供することである。
この課題は、下に記載のとおりの本発明の製品、組成物および方法によって解決される。
【0028】
第1の側面において、本発明は、1.4を超えるカチオン化度を有するヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩に関する。
第2の側面において、本発明は、該ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩を調製する方法に関する。
【0029】
第3の側面において、本発明は、該ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩を含む化粧品組成物に関する。
第4の側面において、本発明は、保水および/またはUV保護および/または毛髪修復のための該ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、UV処理前の、組成物PおよびQのいずれか1つで洗浄したかまたは未処理の毛髪繊維のSEM画像を示す。
図2図2は、UV処理後の、組成物PおよびQのいずれか1つで洗浄したかまたは未処理の毛髪繊維のSEM画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、以下でより詳細に説明される。
本発明のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩は、1.4を超えるカチオン化度を有する。
このカチオン化されたヒアルロン酸誘導体は、皮膚および毛髪の両方に対して、およびリンスオフへの適用においてさえも、長期にわたる保湿効果を提供することができるということが見出された。それは、したがって高度に有効な化粧品活性物質である。
【0032】
とりわけ、それは、より低いカチオン化度を有する市販のヒアルロン酸誘導体よりも、毛髪へのおよび皮膚へのより良好な付着性を有し、それによってより長期にわたる保水効果を提供するということが見出された。
ヒアルロン酸誘導体がリンスオフへの適用においてもまた高度に有効であるということが見出されたのは初めてであり、これは従来の材料よりもはるかに広い処方の選択肢を可能にする。
【0033】
さらにまた、本発明のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩は、UV保護効果を、これもまたリーブオンのみならずリンスオフへの適用においても、有するということが見出された。
さらにまた、本発明のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩は、化学的処理後の毛髪修復効果を有するということが見出された。
【0034】
用語「ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウム」は、以下の構造を有する基または置換基に関する:
【化1】
式中R1、R2およびR3は、互いに独立して、直鎖状または分枝状の1~4個の炭素原子を持つアルキル基である。
R1、R2およびR3は、同じまたは異なるものであり得るが(例としてR1=R2=R3またはR1=R2≠R3またはR1≠R2≠R3)、好ましくは、それらはすべて同じである。
【0035】
例えば、R1、R2およびR3は、互いに独立して、メチル、エチル、プロピル、イソ-プロピル、およびブチルからなる群から選択される。
本出願を通してずっと使用される「カチオン化度」は、単位あたりのヒアルロン酸に取り付いたヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウム基の平均数に対応する。
【0036】
ヒアルロン酸は、ポリマーであって、N-アセチル-D-グルコサミンとD-グルコロン酸とが一緒に結び付いて1単位を形成しているものである。したがって、その一般構造は、以下である(nは単位の数を表す):
【化2】
【0037】
上記の構造からわかるように、各単位は、一級および二級アルコールを包含する数個のヒドロキシル基、ならびにカルボン酸基を含む。加えてそれは、アミド基もまた含む。ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウム基は、これらの基のいずれかに取り付いていても、すなわち夫々の水素原子を置き換えていてもよい。
カチオン化度は、NMR、IRおよび/または導電率測定の手段によって決定されてもよい。さらなる詳細は、下記で例のセクションにおいて提供される。
【0038】
一態様において、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩は、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムおよび/またはその塩;ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウムおよび/またはその塩;ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリプロピルアンモニウムおよび/またはその塩;およびヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリブチルアンモニウムおよび/またはその塩からなる群から選択される。好ましくは、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩は、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムおよび/またはその塩である。
【0039】
用語「ヒドロキシプロピルトリモニウム」は、「ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム」の短縮形であり、以下の構造を有する基または置換基に関する:
【化3】
【0040】
一態様において、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩は、少なくとも1.5の、より好ましくは少なくとも1.6の、なおより好ましくは少なくとも1.7の、および最も好ましくは少なくとも1.8のカチオン化度を有する。カチオン化度はまた、より高くてもよく、実例として1.9以上、または2.0以上、または、さらには2.1以上または2.2以上であってもよい。
より高いカチオン化度が、毛髪および/または皮膚へのより良い付着につながり、それによって化粧品活性物質の沈着性および持続性を改善し得るということが見出された。
【0041】
理論上は、カチオン化度は最大6.0までであってもよい。しかしながら、化粧品への適用には、最大3.0までの、より好ましくは最大2.8までの、および最も好ましくは最大2.6までのカチオン化度が、最も有利であることが見出された。
実例として、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩は、1.4~3.0の間の、より好ましくは1.6~2.4の間の、および最も好ましくは1.8~2.0の間のカチオン化度を有してもよい。
【0042】
一態様において、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩は、約10kDa~約200kDaの、より好ましくは約15kDa~約150kDaの、なおより好ましくは約20kDa~約100kDaの、および最も好ましくは約20kDa~約80kDaの平均分子量を有するヒアルロン酸またはその塩から調製される。
【0043】
厳密なカチオン化度に依存して、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩の平均分子量は変動し得るので、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩が由来するヒアルロン酸またはその塩の重量を定義することがより適切なようである。当業者は、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩の平均分子量を、本来のヒアルロン酸またはその塩の平均分子量および分析的に決定されたカチオン化度に基づき、以下のとおり、容易に算出することができる:
MWcatHA = MWHA + n*(CatDeg * MWHPT)
式中、
MWcatHAは、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩の平均分子量であり;
MWHAは、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩が由来するヒアルロン酸またはその塩の平均分子量であり;
nは、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩が由来するヒアルロン酸またはその塩の単位の数であり;
CatDegは、分析的に決定されたカチオン化度であり;
MWHPTは、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩に組み込まれたヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウム基および/またはその塩の分子量であり;および
nは、MWHAをヒアルロン酸またはその塩の1単位の分子量で除算することによって算出され得る。
【0044】
実例として、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムの塩化物塩は、モノヒアルロン酸ナトリウムから調製されてもよい。このケースにおいて、n= MWHA/ 401.3g/molであるように、1の単位の分子量は401.3g/molであり;およびMWHPTは、151.6g/molである。
よって、例えば、20kDaの平均分子量を持つモノヒアルロン酸ナトリウムから調製される1.4のカチオン化度を持つヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムの塩化物塩は、約30kDaの平均分子量を有することになり;および50kDaの平均分子量を持つモノヒアルロン酸ナトリウムから調製される2.5のカチオン化度を持つヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム塩化物は、約100kDaの平均分子量を有することになる。
【0045】
驚くべきことに、上に定義されるとおりの相対的に低い平均分子量は、特に有効な化粧品活性物質を提供できるということが見出された。例えば、それは毛髪へのより良い付着を呈し、および皮膚の中へとより深く浸透する。
さらにまた、相対的に低い平均分子量は、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩の合成を容易にする。より低い平均分子量を持つヒアルロン酸は、より速く反応し、および、所望のカチオン化度を得るために必要とする試薬の当量がより少ないということが見出された。理論に縛られることなく、より高い平均分子量を持つヒアルロン酸の反応部位は、より長いポリマー鎖の低減されたフレキシビリティおよび増大した立体障害の両方のせいでより試薬分子にアクセスしにくいものと考えられる。
【0046】
本出願を通してずっと、別様に示されない限り、試薬の当量は、反応に使用されるヒアルロン酸またはその塩の1個の繰り返し単位に対して相対的に示される。
具体的な態様において、本発明のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩は、20~40kDaの間の平均分子量を持つヒアルロン酸またはその塩から調製され、結果として - ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムのケースでは - 20~80kDaの間の平均分子量を持つヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムおよび/またはその塩をもたらす。
【0047】
そのままのヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムは、全体として正電荷を有し、すなわち、カチオン性である。よって、典型的には、アニオン性の対イオンが存在することになり、実例として、塩化物または他のハロゲンイオン(例として臭化物またはヨウ化物)、水酸化物、リン酸塩、酢酸塩、カルボン酸塩(これは任意にヒアルロン酸主鎖の一部であってもよい)または炭酸塩である。かかる対イオンは、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩の合成の間いつでも導入されてよい。代替的にまたは加えて、対イオンはまた、イオン交換樹脂から導入されてもよい。
実例として、塩化物基を持っている試薬がヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムの調製に使用された場合、または、塩化物塩(例としてNaCl)が、調製の間に、実例として洗浄または精製ステップの間に使用された場合、塩化物対イオンが導入されてもよい。
【0048】
一態様において、本発明のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩は、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムの塩化物塩を含むかまたはこれからなる。よって、アニオン性対イオンの一部または全部が塩化物であってもよく、および他のアニオン性対イオンもまたあってもよい。
本発明のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩はさらに、追加のカチオン、実例としてアルカリまたはアルカリ土類金属カチオン(例としてNa+、K+、Mg2+またはCa2+)もまた含んでもよい。
【0049】
さらなる側面において、本発明は、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩、とりわけ上に記載の態様におけるものを調製する方法を提供する。
方法は、塩基の存在下でヒアルロン酸および/またはその塩をカチオン化剤と反応させるステップを含む。カチオン化剤は、2,3-エポキシプロピルトリアルキルアンモニウムクロリド、2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムクロリド、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0050】
代替的に、クロリドの代わりにまたはこれに加えて、2,3-エポキシプロピルトリアルキルアンモニウムブロミド、2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムブロミド、2,3-エポキシプロピルトリアルキルアンモニウムヨージド、2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムヨージド、またはこれらの試薬のあらゆる混合物もまた、使用することが可能である。さらなる代替は、2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムフルオリドおよび2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムアセタートを包含する。
【0051】
一態様において、カチオン化剤は、2,3-エポキシプロピルトリモニウムクロリド、2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド、およびそれらの混合物からなる群から選択される。これは、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムおよび/またはその塩の形成につながる。
これらのカチオン化剤は、市販されている。
2,3-エポキシプロピルトリモニウムクロリドは、ときにはまたグリシジルトリメチルアンモニウムクロリドまたは(2,3-エポキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドとも呼ばれる;よって、これらの用語の各々は、同じ試薬を指す。
2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドは、ときにはまた3-クロロ-2-ヒドロキシ-N,N,N-トリメチルプロパン-1-アミニウムクロリドとも呼ばれ;これらの用語の各々は、同じ試薬を指す。
【0052】
代替的に、クロリドの代わりにまたはこれに加えて、2,3-エポキシプロピルトリモニウムブロミド、2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルトリモニウムブロミド、2,3-エポキシプロピルトリモニウムヨージド、2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルトリモニウムヨージド、またはこれらの試薬のあらゆる混合物もまた、使用することが可能である。さらなる代替は、2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルトリモニウムフルオリドおよび2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルトリモニウムアセタートを包含する。
好ましくは、反応がより少ない塩基を必要としおよびより円滑に実行されることが見出されているため、2,3-エポキシプロピルトリモニウムクロリドがカチオン化剤として使用される。
【0053】
所望のカチオン化度および使用されるカチオン化剤に依存して、より多いかまたはより少ない当量のカチオン化剤が使用されなければならない。実例として、約2.2のカチオン化度を得るために約5~約6当量の2,3-エポキシプロピルトリアルキルアンモニウムクロリドが使用され得;または約1.6のカチオン化度を得るために約5~約7当量の2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムクロリドが使用され得る。
【0054】
好適な塩基は、これらに限定されないが、以下を包含する:アルカリ金属およびアルカリ土類金属の水酸化物、リン酸塩、リン酸水素塩または炭酸塩などの無機塩基(例として、NaOH、KOH、Ca(OH)2、Mg(OH)2、Na3PO4、K3PO4、Na2HPO4、K2HPO4、Na2CO3またはK2CO3);トリブチルアミン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、テトラ-n-ブチル水酸化アンモニウムまたはテトラエチル水酸化アンモニウムなどの有機塩基。
【0055】
使用するカチオン化剤に依存して、約0.1~約15当量の塩基が使用されなければならず、より好ましくは、約1.0~5.0当量、例えば、1.3当量である。より大きな体積では反応がより低効率になることが見出されたことから、より多量の塩基の使用は不利である。他方、より高濃度の塩基が使用された場合には、ヒアルロン酸ポリマー鎖の部分加水分解を引き起こす可能性があり、望ましくない副産物、および、所望の生成物のより低い収率につながる。
【0056】
とりわけ、2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドまたは別の2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムが使用された場合には、追加の当量の塩基が必要であり、およびエポキシドはその場で調製され、これは有毒なエポキシドの取り扱いを回避することを可能にする:
【化4】
【0057】
カチオン化反応は、典型的には、塩基性のpH、実例として約8~約14のpHで実施される。一態様において、カチオン化反応は、約12~約13のpHで実施される。
【0058】
好適な溶媒は、これらに限定されないが、水、THF、DMSO、エタノール、メタノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、およびそれらの組み合わせを包含する。好ましくは、および水性溶媒が、およびとりわけ水が使用される。
【0059】
カチオン化反応は、撹拌可能な混合物を得ることを可能にするあらゆる好適な濃度で、より好ましくは、ヒアルロン酸および/またはその塩が完全にまたは少なくとも本質的に完全に溶解する濃度で、遂行されてもよい。例えば、反応は、約0.01~約1.00g/mlの、より好ましくは約0.05~約0.50g/mlの、ヒアルロン酸および/またはその塩の濃度で実施されてもよい。
【0060】
好適な反応温度は、約10℃~約80℃、より好ましくは、約10℃~約40℃、実例として、約25℃であってもよい。より高い温度は、ヒアルロン酸ポリマー鎖の加水分解につながる可能性がある。
好適な反応時間は、約1時間~約6日、実例として約21時間であってもよい。
【0061】
任意に、所望のカチオン化度にひとたび達したら、または、ある反応時間の後で、反応が止められてもよい。実例として、反応は、反応を中性のpH(例として9未満の、より好ましくは8未満の、および最も好ましくは約7のpH)に持ってくるための、酸などの中和剤の添加によって止められてもよい。好適な酸は、これらに限定されないが、HClまたはH2SO4などの無機酸、または酢酸、クエン酸またはシュウ酸などの有機酸を包含する。
【0062】
上に記載の合成手順の手段によって、所望のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムおよび/またはその塩を含有する粗製の反応混合物が得られ、これからヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムおよび/またはその塩が、好ましくは単離されおよび精製される。
【0063】
このようにして得られた生成物は、あらゆる好適な方法によって、実例として、透析の手段によって、およびとりわけ、極めて緩やかなかつ効率的な精製を高度に再現性のある結果を伴って提供することが見出された限外濾過で、精製されてもよい。それはまた、あらゆる有色の副産物を除去することも可能にする。
【0064】
代替的にまたは加えて、イオン交換樹脂(例として、DOWEX MAC-3)が使用されてもよい。
さらなる代替は、生成物の沈殿、例として、反応混合物へのエタノールまたはアセトンの添加によるものである。
ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩はまた、さらなる処理、例として、粉末を得るための凍結乾燥またはスプレー乾燥に供されてもよい。
ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩はまた、水性溶液の形態で使用されてもよい。
【0065】
さらなる側面において、本発明は、上に記載のとおりのヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩を含む、化粧品組成物に関する。
とりわけ、本発明は、上に記載のとおりのヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩を含む、ヘアケアまたはスキンケア組成物に関する。
【0066】
本発明のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩は、化粧品用途のために特に好適である:
- それは、長期にわたる保湿を提供し、
- 毛髪および皮膚へ強く付着してそれをリーブオンおよびリンスオフ形式の両方のために好適にさせ、
- 効率的なUV保護を提供し、
- 化学的処理後の毛髪修復を提供する。
【0067】
ヘアケア組成物は、何十年もの間、および多くの種々異なる用途のために使用されてきた。
本発明のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩は、すべての種類のヘアケア組成物、例えばヘアクレンジング組成物、ヘアコンディショニング組成物、およびヘアスタイリング組成物中において使用されてもよい。これらの組成物の多くは、典型的には水をベースとした処方である。
【0068】
ヘアクレンジング組成物は、一般に、毛髪から汚れを除去するのに有効である。汚れは、頭皮からの自然な滲出物、環境要因、およびスタイリング製品を包含する。汚れは、毛髪および頭皮を覆うかまたは沈着する可能性がある。かかる汚れで覆われた毛髪は、典型的には通常、感触および外観が脂っこく、手触りが重く、ことによると悪臭があり、および一般に所望のスタイルを維持することができなくなる。知られているクレンジング組成物は、典型的には、水と石鹸または合成界面活性剤などの表面活性成分との組み合わせを包含し、およびまた、デンプンの非水性ブレンドも包含してもよい。水と表面活性剤との組み合わせは、髪および頭皮から汚れを乳化させて、それを濯ぎ落とすことを可能にする。
【0069】
クレンジング組成物は、水で濯ぐ間に毛髪および頭皮上に沈着するコンディショニング剤もまた含有してもよい。かかるコンディショニング剤は、ポリマー、油、ワックス、タンパク質加水分解物、シリコーン、およびそれらの混合物および誘導体を包含することができる。加えて、コンディショニング組成物は、クレンジング組成物とは別々のおよび異なる製品とすることができる。
【0070】
当該技術分野において知られているコンディショニング組成物は、典型的には水をベースとした処方である。しかしながら、シリコーン;動物、鉱物または植物油;ワックス;ワセリン;およびグリースの少なくとも1つを包含するコンディショニング組成物もまた知られている。水をベースとしたコンディショニング組成物は、典型的には、置換されたカチオン性のワックス、脂肪アルコール、カチオン性のポリマー、加水分解されたタンパク質およびそれらの誘導体、およびフレグランスを包含する。かかるコンディショニング処方は、処理された毛髪に梳かしやすさおよび扱いやすさを付与し、それによってスタイリングプロセスの間の破壊を最小限に抑えて、艶のある、健康的な、および扱いやすい毛髪を結果としてもたらす。コンディショニング組成物はまた、毛髪を保湿するためにも有効であり得る。これに続く乾燥およびスタイリングプロセスは、空気乾燥または加熱を包含することができる。
【0071】
今日、多数の種々異なるスキンケア製品が、消費者に入手可能である。
本発明のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩は、すべての種類のスキンケア組成物において、例えば、保水および保湿組成物、アンチエイジング組成物、クレンジングおよびリフレッシュ組成物、またはメークアップ 組成物において使用され得る。
【0072】
本発明のスキンケア組成物は、1つ以上の化粧品的に許容し得る賦形剤を含有してもよい。ヒト皮膚上への使用のための化粧品製剤の調製に一般的に使用されるあらゆる賦形剤が、本発明において採用されてよい。好適な賦形剤は、これらに限定されないが、官能特性、皮膚の浸透、およびカチオン化されたヒアルロン酸および/またはその塩のバイオアベイラビリティに影響を及ぼすことができる成分を包含する。より具体的に言うと、それらは、水、油または界面活性剤などの液体を包含し、これは、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油、ヒマシ油、ポリソルベート、ソルビタンエステル、エーテル硫酸塩、硫酸塩、ベタイン、グリコシド、マルトシド、脂肪族アルコール、ノノキシノール、ポロキサマー、ポリオキシエチレン、ポリエチレングリコール、デキストロース、グリセロール、ジギトニン等といった、およびこれらに制限されない、石油、動物、植物または合成由来のものを包含する。
【0073】
スキンケア組成物は、リポソーム組成物、混合リポソーム、オレオソーム、ニオソーム、エソソーム、ミリ粒子、マイクロ粒子、ナノ粒子および固体-脂質ナノ粒子、ベシクル、ミセル、界面活性剤の混合ミセル、界面活性剤-リン脂質混合ミセル、ミリスフェア、ミクロスフェアおよびナノスフェア、リポスフェア、ミリカプセル、マイクロカプセルおよびナノカプセル、ならびにマイクロエマルションおよびナノエマルションの形態であってもよく、これはヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩のより高い浸透を達成するために加えられることができる。
【0074】
スキンケア組成物は、皮膚への局所的な適用または経皮適用のために有用なあらゆる固体、液体、または半固体形態で生産されてもよい。よって、これらの局所または経皮適用の製剤は、これらに制限されないが、クリーム、水中油型および/または水中シリコーン型エマルション、油中水型および/またはシリコーン中水型エマルション、水/油/水または水/シリコーン/水タイプエマルション、および油/水/油またはシリコーン/水/シリコーンタイプエマルションなどのおよびこれらに制限されない多重エマルション、マイクロエマルション、エマルションおよび/または溶液、液晶、無水組成物、水性分散液、油、ミルク、バルサム、フォーム、水性または油性ローション、水性または油性ジェル、クリーム、水性アルコール溶液、含水グリコール溶液、ヒドロゲル、リニメント、美容液(sera)、石鹸、フェイスマスク、セラム、多糖類フィルム、軟膏、ムース、ポマード、ペースト、粉末、バー、ペンシルおよびスプレーまたはエアロゾル(スプレー)を包含し、これはリーブオンおよびリンスオフ処方を包含する。
【0075】
例えば、本発明のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩は、アンチエイジング製品、保湿製品、洗浄ゲル、ローション、クレンザー、マスク、ヘアケアまたはスキンケア製品において使用されてもよい。
【0076】
本発明の化粧品組成物は、所望の効果を提供するのに十分なあらゆる好適な濃度でヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩を含んでよい。例えば、それは約0.05%~約1.0%のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩、例えば約0.1%を含んでもよい。約0.1%の濃度は、毛髪および皮膚への高い付着度および生物学的有効性の活性化を保証することが見出された。しかしながら、より高いかまたはより低い濃度を包含することもまた可能である。
【0077】
本発明の化粧品組成物は、アンチエイジングおよび抗しわ活性物質、モイスチャライザー、クレンザーまたはヘアコンディショナーなどの追加の化粧品活性物質をさらに含んでもよい。
例えば、本発明のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩はまた、ヒアルロン酸および/またはその塩と、および/または例として酢酸塩などのその他のヒアルロン酸誘導体と、組み合わせて使用されてもよい。
代替的にまたは加えて、複数のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはそれらの塩が1つの化粧品組成物中で組み合わせられてもよい。実例として、それらは、異なる分子量および/またはカチオン化度および/または対イオンを有してもよい。
【0078】
さらなる側面において、本発明はまた、保水および/またはUV保護および/または毛髪修復のための、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩の使用にも関する。
上に記載されてきたとおりおよびさらに下記の例において示されるとおり、本発明のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムおよび/またはその塩は、リンスオフへの適用においてさえも、特に有効な保水または保湿、ならびにUV保護および毛髪修復を提供する。
【0079】
本発明は、以下の非限定例を用いてさらに解説される:
例1: (2,3-エポキシプロピル)トリモニウムクロリドを使用したヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムの調製
350mlの4つ口スルホン化フラスコに、 温度計、冷却器、オーバーヘッドスターラー(Heidolph)、バブルカウンター、およびpHメーターを備え付け、および窒素でフラッシュした。それを、次いで30gのヒアルロン酸ナトリウム(75mmol;41.5kDaの平均MW)、80mlの脱イオン水および72mlの1.32M水酸化ナトリウム水溶液(95mmol)で充填した。透明な薄黄色溶液が得られるまで、混合物を1hの間200rpmで攪拌した。
【0080】
72gの(2,3-エポキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(449mmol)を混合物に一度に加え、および添加漏斗を10mlの脱イオン水で洗浄した。薄黄色の混濁した反応混合物の内部温度を、26℃から32℃まで1時間以内で上げてから、25℃まで下げた。薄黄色透明の溶液を、次いで室温にて19hの間攪拌した。
【0081】
粘性の反応混合物を、マグネット撹拌器およびpHメーターを備えた2lのSchott瓶へ移した。反応フラスコを25mlの脱イオン水で2回洗浄した。混合物を、次いで、7.07のpHに到達するまで、533gの水性HCl(0.5wt%)の滴下添加によって中和した。透明な黄色溶液(825ml)が得られた。
【0082】
1175mlの脱イオン水を加えたことで混合物を希釈した。溶液の導電率は、22.9℃にて20.5mS/cmであった。混合物を、次いで、濾液の導電率が200μS/cmに到達するまで、2つの濾過VivaFlow200ユニット(MWCO:10kDa;ポリエーテルスルホン膜;Sigma-Aldrich)を通じて3日間限外濾過した。混合物を、次いで500mlの体積に到達するように濃縮してから(混濁した溶液)、凍結乾燥したことで、35gの、上に定義されるとおりのヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム塩化物塩(48mmol;収率64%)が、白色チップの形態で得られた。
【0083】
カチオン化度を、NMRによって(下記の例3を参照)、2.18であると決定した。
生成物の分子量を、カチオン化度に基づいて、および、生成物がまだナトリウムおよび塩化物イオンを含有している(しかし生成物は事実上、上に記載のとおりの他の対イオンもまた部分的に含有してもよい)と仮定して、算出した:
[401.3] + 2.18 × [151.6] = 731.86g/mol
【0084】
例2: 2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドを使用したヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムの調製
例1に記載されたものと同じ機器を使用して、室温にて、ヒアルロン酸ナトリウム(10g、24.92mmol、37.8kDa)を3-クロロ-2-ヒドロキシ-N,N,N-トリメチルプロパン-1-アミニウムクロリド(40.6ml、150mmol、水中60%溶液)と混合した。水酸化ナトリウム(16.77ml、181mmol、32%水溶液)を、次いで、15分にわたって加えた。水浴を使用して、発熱性を制御した。混合物を、室温にて21hの間攪拌した。
【0085】
黄色の混合物を、次いで、ノードで閉じた透析バッグ(30cm/76mm管、14kDaカットオフ)中へと注ぎ、および4.5lの水浴中へと注いだ。中性のpHに到達するまで48hにわたって規則的に水浴を交換した。混合物を、中和されたDOWEX-MAC-3イオン交換樹脂を通じて濾過してから終夜凍結乾燥させたことで、7.5gの、白色の、上に定義されるとおりのヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム塩化物塩が得られた。
カチオン化度を、1H-NMR(600MHz)によって決定し、および1.47であることが判明した。
【0086】
例3: カチオン化度の決定
カチオン化度を、トリモニウムメチルシグナル 対 N-アセチルメチルシグナルの積分による定量的1H-NMR(600MHz)によって決定した。
加えて、拡散定数をヒアルロン酸塩に由来するものと比較することによって、すべてのトリモニウム基がヒアルロン酸に化学的に結合したことを確認するために、DOSY実験を実施した。
【0087】
カチオン化度はまた、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムの合成の間にIR化学分析法の手段によって測定されてもよい。この目的のために、部分最小二乗法を使用して、参照試料のIRスペクトルを、NMRによって測定されたカチオン化度と関連付けた。未知のカチオン化度を持つ新しい試料のIRスペクトルを次いで測定することができ、これまでに記載されているモデルを使用して、カチオン化度を割り当てることができる。この方法は、塩の存在に依存せず、および導電率測定よりも堅牢であるということが見出された。
【0088】
導電率測定はさらなる代替を提供するが、しかしそれらは、他のイオンの存在は結果に劇的に影響を与える可能性があるため、ワークアップ手順に大きく依存する。導電率測定のために、既知のカチオン化度を持つ複数の試料の種々異なる希釈物について複数の較正曲線を調製した。これにより試料の導電率と濃度との間の線形の関係性が明らかになり、より高いカチオン化度がより急な傾斜につながる。溶液中に存在する他の塩(例としてNaCl)との干渉を回避するために、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムは測定より前に透析されなければならず、および、最後の精製ステップにおけるイオン交換樹脂の使用は避けられなければならない。
【0089】
例4: リンスオフへの適用における皮膚付着試験
皮膚外植片の調製
乳房縮小手術および乳房挙上手術を夫々受けた2名の女性ドナー(夫々35歳および57歳)に由来する新鮮なヒト皮膚外植片を、この研究において使用した。皮膚外植片を、以下の6つの組成物の1つで、1時間、局所的に処理した:
組成物A: 1%の20~40kDaの分子量を持つヒアルロン酸ナトリウム(比較例)
組成物B: 0.4のカチオン化度を持つ、組成物Aにおいて使用したものと同じヒアルロン酸ナトリウムから調製される1%のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム(比較例)
組成物C: 1.4のカチオン化度を持つ、組成物Aにおいて使用したものと同じヒアルロン酸ナトリウムから調製される1%のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム
組成物D: 2.4のカチオン化度を持つ、組成物Aにおいて使用したものと同じヒアルロン酸ナトリウムから調製される1%のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム
組成物E: 2.0のカチオン化度を持つ、組成物Aにおいて使用したものと同じヒアルロン酸ナトリウムから調製される1%のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム
組成物F: 1%のHyaloveil(登録商標)-P (元Kewpie;579kDaの分子量および0.6のカチオン化度を持つヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム;比較例)
【0090】
何らの処理もしていない皮膚外植片を、未処理の状態として使用した。1時間の処理の後、皮膚外植片を滅菌水で2回濯ぎ、および、過剰水をクリーニングペーパーに穏やかに吸収させた。
皮膚外植片の一部を、凍結切片上のHABP染色のためにOCT中に包埋し、一方で他の部分をラマン分光法によって新たに分析した。
【0091】
HABP染色
沈着は、厚さ8μmの凍結切片上のヒアルロン酸結合タンパク質(HABP)を使用した蛍光染色で証明した。手短に言えば、特異的部位を、アビジン、ビオチンおよび0.1%ウシ血清アルブミン溶液での連続浴で飽和させた。ビオチン化されたHABPを、次いで室温にて2時間凍結切片上でインキュベートし、これに続いて、濯ぎ、および、Alexa fluor 568にカップリングされたストレプトアビジンとともに暗中で室温にて30分間の別のインキュベーションを行った。試料を濯ぎ、およびカバースリップおよび封入剤で組み立てた。Axio Observed Inverted蛍光顕微鏡(Zeiss)で画像を収集した。皮膚角質層上に沈着したヒアルロン酸に特異的な蛍光強度を定量化した。
【0092】
ラマン分光法分析
軸方向のZプロファイルを皮膚試料上に直接的に記録した。Zプロファイルは、皮膚を通しての綿密なスキャニングからなる。この研究では、皮膚表面上のZ=0μmからZ=4μmまでの2μm刻みでの異なる焦点でラマンスペクトルを収集した。合計35のラマンプロファイルを記録した(条件あたり5プロファイル、n=5)。HA製品の平均スペクトルを、参照スペクトルとして使用した。
【0093】
結果
第1の研究では、組成物A、BおよびDの皮膚付着特性を、未処理の対照と比較した。角質層の第1層におけるヒアルロン酸(誘導体)のフィッティング係数を、ラマン分光法によって測定した。結果は、以下の表に示される:
【表1】
【0094】
カチオン化されたヒアルロン酸試料(組成物BおよびD)は、カチオン化されていないヒアルロン酸(組成物A)と比較して夫々+106%および+222%の有意により高い皮膚付着を示したことが見出された。
さらにまた、本発明の組成物Dは、有意に組成物Bよりも高い皮膚付着を示した。よって、より高いカチオン化度は、より良い皮膚付着につながる。
【0095】
第2の研究では、組成物A、C、E、およびFの皮膚付着特性を、未処理の対照と比較した。皮膚表面上へのヒアルロン酸(誘導体)の付着が、HABP染色を使用して明らかになった。結果は、以下の表に示される:
【表2】
【0096】
本発明のカチオン化されたヒアルロン酸試料(組成物CおよびE)は、カチオン化されていないヒアルロン酸(組成物A)と比較して夫々+47%および+121%の有意により高い皮膚付着を示したことが見出された。また、より高いカチオン化度を持つ組成物Eは、有意に組成物Cよりも高い皮膚付着(+50%)を呈した。
【0097】
本発明のカチオン化されたヒアルロン酸試料(組成物CおよびE)は、0.6のカチオン化度を持つヒアルロン酸(組成物F)と比較して夫々+67%および+149%の有意により高い皮膚付着を示したことがさらに見出された。組成物Fは、何ら皮膚付着特性を呈さなかった。
結論として、より高いカチオン化度は、より良い皮膚付着につながったということが見出された。
【0098】
例5: リンスオフへの適用における皮膚保水試験:同じ分子量のHAとの比較
皮膚外植片の調製
乳房縮小手術を受けた女性ドナー(22歳)からの新鮮なヒト皮膚外植片を、この研究において使用した。皮膚外植片を、以下の2つの組成物の1つで、5分間局所的に処理した:
組成物G: 0.1%の20~40kDaの分子量を持つヒアルロン酸ナトリウム(比較例)
組成物H: 1.9のカチオン化度を持つ、組成物Gにおいて使用したものと同じヒアルロン酸ナトリウムから調製される0.1%のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム
【0099】
何らの処理もしていない皮膚外植片を、未処理の状態として使用した。5分の処理の後、皮膚外植片を滅菌水で5回濯いだ。
これらの処理を3日間毎日1回ずつ繰り返した。皮膚保水を、何らの処理も施していない皮膚外植片に対応する0日目、繰り返し処理に続く第2および第3日に対応する2日目および3日目に、ラマン分光法により新鮮な皮膚外植片上で分析した。アクアポリンおよびフィラグリン免疫染色を、ホルマリン固定化およびパラフィン包埋された皮膚外植片上で行った。
【0100】
ラマン分光法分析
軸方向のZプロファイルを皮膚試料上に直接的に記録した。Zプロファイルは、皮膚を通しての綿密なスキャニングからなる。皮膚表面上のZ=0μmからZ=30μmまでの3μm刻みでの異なる焦点でラマンスペクトルを収集した。合計40のラマンプロファイルを記録した(条件あたり4プロファイル、n=4)。
【0101】
第1のステップにおいて、SC表面の厳密な位置を、各ラマンプロファイルについて決定した。第2のステップにおいて、SCの下限を、含水量に基づいて決定した。これにはνOH/νCH比を算出することが関与した。この位置は、νOH/νCH比の最大値に対応する。SCの平均スペクトルは、SC上で取得したすべてのスペクトルを考慮して算出される。データプロセシング(ベースライン補正、正規化、スペクトル品質試験のためのS/N比)の後、保水パラメータを、各プロファイルのSCの平均スペクトルに対して算出した。
【0102】
皮膚保水の査定のために、平均SCスペクトル上のOH振動バンドの積分強度を算出した。このバンドは、皮膚の含水量を表す。
算出のために使用したスペクトル範囲は、νOH:3100~3600cm-1である。
【0103】
アクアポリンおよびフィラグリン免疫染色
皮膚外植片を4μmの厚い切片に切り、脱蝋し、および抗原の回復をフィラグリンおよびアクアポリン-3について夫々pH8.5でEDTA緩衝剤中およびpH6でクエン酸緩衝剤中において62℃にて終夜行った。非特異的な部位をトリス緩衝剤中において2%でのBSAで飽和させ、および、一次抗体を、次いで4℃にて終夜、皮膚切片上でインキュベートした(抗フィラグリン抗体 1:100;抗アクアポリン-3抗体 1:1000)。
【0104】
翌日、過剰の抗体をトリス緩衝剤で3回洗浄し、および、二次抗体を室温にて1時間インキュベートした:Hoechst 33342 1:5000を、フィラグリンについてはAlexa fluor 488抗マウス 1:100、またはアクアポリン-3についてはAlexa fluor 488抗ウサギ 1:200へカップリングさせた。過剰の抗体をトリス緩衝剤で3回洗浄し、および、DAPIなしの封入剤をカバースリップとともに加えた。
【0105】
放出された蛍光シグナルの写真を、倒立落射蛍光顕微鏡 (Axio Observer、Zeiss) で撮った。各条件についての蛍光強度を、ImageJソフトウェアを使用して測定し、および、処理で得られた結果を、未処理の状態を100%対照とみなして比較した。
【0106】
結果
組成物GおよびHの皮膚保水特性を、適用の2および3日後、未処理の対照と比較した。2および3日後の結果は、夫々以下の表に示される:
【表3】
【表4】
【0107】
適用の2および3日後、0日目に対して相対的に、未処理の状態での基本的な皮膚保水の現象が観察されており、培養条件が皮膚外植片において徐々に保水の喪失を誘導することが示された。
組成物GおよびHを夫々適用することによって、皮膚保水は、未処理の状態に対して相対的に有意に改善された。本発明の組成物Hは、2日目に組成物Gと比較して+58%の有意により高い有効性を;および3日目に組成物Gと比較して+45%の増大を呈した。
【0108】
組成物GとHとの間の皮膚保水の違いを理解するために、皮膚中への水循環に関与しおよび皮膚保湿に直接的に結び付くチャネルであるアクアポリン-3上への免疫染色を、2日目に行った。組成物Gは、未処理の状態に対して相対的にアクアポリン-3発現に対する有意な効果を有しておらず、一方で、組成物Hは、 有意に 増大した by 未処理の状態に対して相対的に+16%で、および組成物Gに対してもまた相対的に有意な効果を伴って、その発現を有意に増大させたことが見出された:
【表5】
【0109】
さらにまた、皮膚バリア機能への各組成物の影響を、発現を通じて分析した。組成物Gは、フィラグリン発現に対する効果を有しておらず、一方で組成物Hは、その発現が、対未処理の状態で+35%、および対組成物Gで+36%、有意に増大したことが見出された。
【表6】
よって、組成物Hは、アクアポリン-3およびフィラグリン上方調節に関連する生物学的効果のおかげでリンスオフへの適用における皮膚保水を改善することができるということが示された。
【0110】
例6: リンスオフへの適用における皮膚保水試験:高分子量のHAとの比較
皮膚外植片の調製
腹部の外科手術を受けた女性ドナー(40歳)に由来する新鮮なヒト皮膚外植片を、この研究において使用した。皮膚外植片を、組成物H(上記の例5を参照;0.1%のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムを含有する)または保湿対照としての組成物I(0.1%の1000~1400kDaの分子量を持つヒアルロン酸ナトリウムを含有する)で5分間局所的に処理し、および未処理の状態と比較した。5分の処理の後、皮膚外植片を滅菌水で5回濯いだ。これらの濯ぎ処理を2日間毎日繰り返した。皮膚保水を、何らの処理も施していない皮膚外植片に対応する0日目、および繰り返し処理に続く第2日に対応する2日目に、ラマン分光法により新鮮な皮膚外植片上で分析した。
【0111】
ラマン分光法分析
上記の例5におけるものと同じ分析をした。
【0112】
結果
組成物Iは、リンスオフ条件において皮膚に保湿効果を提供することができず、一方で本発明に従う組成物Hは、未処理の状態と比較して+66%および組成物Iと比較して有意な効果で皮膚保水を増大させたことが見出された。
【表7】
【0113】
例7: リーブオンへの適用における皮膚保水試験:同じ分子量のHAとの比較
皮膚外植片の調製
乳房縮小手術を受けた女性ドナー(35歳)に由来する新鮮なヒト皮膚外植片を、この研究において使用した。皮膚外植片を、以下の4つの組成物の1つで、8または24時間、局所的に処理した:
組成物G: 0.1%の20~40kDaの分子量を持つヒアルロン酸ナトリウム(比較例)
組成物J: 1.4%のカチオン化度を持つ、組成物Gにおいて使用したものと同じヒアルロン酸ナトリウムから調製される0.1%のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム
組成物K: 2.0%のカチオン化度を持つ、組成物Gにおいて使用したものと同じヒアルロン酸ナトリウムから調製される0.1%のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム
組成物L: 0.1%のHyaloveil(登録商標)-P (元Kewpie;579kDaの分子量および0.6のカチオン化度を持つヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム;比較例)
【0114】
何らの処理もしていない皮膚外植片を、未処理の状態として使用した。各インキュベーション時間の後、過剰の生成物をクリーニングペーパーに穏やかに吸収させ、および皮膚外植片をラマン分光法によって新たに分析した。
【0115】
ラマン分光法分析
軸方向のZプロファイルを皮膚試料上に直接的に記録した。Zプロファイルは、皮膚を通しての綿密なスキャニングからなる。皮膚表面上のZ=0μmからZ=30μmまでの3μm刻みでの異なる焦点でラマンスペクトルを収集した。合計40のラマンプロファイルを記録した(条件あたり4プロファイル、n=4)。
【0116】
第1のステップにおいて、SC表面の厳密な位置を、各ラマンプロファイルについて決定した。第2のステップにおいて、SCの下限を、含水量に基づいて決定した。これには、νOH/νCH比を算出することが関与した。この位置は、νOH/νCH比の最大値に対応する。SCの平均スペクトルは、SC上で取得したすべてのスペクトルを考慮して算出される。データプロセシング(ベースライン補正、正規化、スペクトル品質試験のためのS/N比)の後、保水パラメータを、各プロファイルのSCの平均スペクトルに対して算出した。
【0117】
皮膚保水の査定のために、平均SCスペクトル上のOH振動バンドの積分強度を算出した。このバンドは、皮膚の含水量を表す。
算出のために使用したスペクトル範囲は、νOH:3100~3600cm-1である。
【0118】
結果
8時間および24時間の適用後、組成物G、J、KおよびLの皮膚保水特性を、未処理の対照と比較した。結果は、以下の表に示される:
【表8】
【0119】
8時間後、組成物Kは、組成物G、JおよびLと比較して皮膚保水の有意な改善を示した。
24時間後、組成物G、JおよびLは、未処理の状態に対して相対的に皮膚保水を徐々に改善した。しかし、組成物Kでの皮膚保水は、依然として他でのものよりも有意により良好であった。
よって、より高いカチオン化度は、皮膚保水を促進し、および持続的な保水をもたらすということが実証された。
【0120】
例8: リーブオンへの適用における皮膚保水試験:高分子量のHAとの比較
皮膚外植片の調製
腹部の外科手術を受けた女性ドナー(40歳)に由来する新鮮なヒト皮膚外植片を、この研究において使用した。皮膚外植片を、上記の例6に記載されたとおりの組成物H(本発明のもの)または組成物I(対照)で、8、24または72時間、局所的に処理した。
【0121】
何らの処理もしていない皮膚外植片を、未処理の状態として使用した。各インキュベーション時間の後、過剰の生成物をクリーニングペーパーに穏やかに吸収させ、および皮膚外植片をラマン分光法によって新たに分析した。
【0122】
ラマン分光法分析
上記の例7におけるものと同じ分析をした。
【0123】
結果
高分子量保湿ヒアルロン酸(組成物I)と比較したリーブオンへの適用における皮膚保湿に関しては、カチオンされたヒアルロン酸(組成物H)を使用したとき、8時間の処理後に有意により良い皮膚保水が検出された: 組成物Hは、組成物Iよりも+95%高い有効性を呈した。24時間および72時間後に、2つの組成物は、ほとんど同じ有効性を有することが見出された。したがって、本発明の組成物は、保水効果をより速く提供することができる。
【表9】
【0124】
例9: リンスオフへの適用における毛髪付着試験
ヒト毛髪束を水浴中に浸し、および次いで以下の3つのシャンプー組成物の1つで2分間揉んだ:
組成物M: 0.1%の20~40kDaの分子量を持つヒアルロン酸ナトリウム(比較例)
組成物N: 2.0のカチオン化度を持つ、組成物Lにおいて使用したものと同じヒアルロン酸ナトリウムから調製される0.1%のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム
組成物O: ヒアルロン酸またはヒアルロン酸誘導体がないプラセボ(比較例)
【0125】
全処方は、以下のとおりとした:
【表10】
対照の毛髪束は、いかなるシャンプーでも未処理なままにした。シャンプーで揉んだ後、制御された体積の水中で毛髪束を3回濯ぎ、およびヘアドライヤーで3分間乾燥させた。
【0126】
結果
MおよびNの毛髪付着を、プラセボ組成物Oのそれと比較した。Alcian Blue染色は、毛髪繊維上のヒアルロン酸(誘導体)の視覚化を可能にした。結果は、以下の表に示される:
【表11】
【0127】
組成物Mのカチオン化されていないヒアルロン酸はプラセボと比較すると毛髪繊維へ結合しておらず、一方で組成物Nのカチオン化されたヒアルロン酸は、プラセボ組成物Oと比較して+52%の、および未処理のものと比較して+107%の、有意により高い毛髪付着を夫々示したことが見出された。
【0128】
例10: 走査電子顕微鏡(SEM)および原子間力顕微鏡(AFM)を使用したリンスオフへの適用における毛髪修復試験
走査電子顕微鏡(SEM)による表面の視覚化
毛髪繊維への付着がUV照射に対抗する保護層を形成することができるかどうかを評価するために、ヒト毛髪束を水浴中に浸し、および次いで、UV処理に先立って、以下の2つのシャンプー組成物のうちの1つで2分間揉んだ:
組成物P: ヒアルロン酸またはヒアルロン酸誘導体がないプラセボ(比較例)
組成物Q: 1.9のカチオン化度を持つ、20~40kDaの分子量を持つヒアルロン酸ナトリウムから調製される0.1%のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム
【0129】
全処方は、以下のとおりとした:
【表12】
【0130】
対照の毛髪束は、いかなるシャンプーも使わずに、未処理なままにした。シャンプーで揉んだ後、制御された体積の水中で毛髪束を3回濯ぎ、およびヘアドライヤーで3分間乾燥させた。
各毛髪束の半分を単回UV照射:20J/cm2 UVAおよび0.6J/cm2 UVBで処理した。毛髪表面を、次いで走査電子顕微鏡を使用して視覚化した。
【0131】
マロンジアルデヒド(MDA)および総タンパク質含量測定
SEMにおいてなされる所見を定量化するために、MDAおよび総タンパク質含量を測定した:MDAは、脂質過酸化のマーカーであり;および、UV照射が、UV照射後の酸化ストレスを転換した毛髪繊維中のMDA含量を有意に増大させる。そして総タンパク質含量は、毛髪損傷を査定することを可能にする:生体試料がダメージを受けたとき、タンパク質は、より短いタンパク質へ分解され、それによって試料中の総タンパク質含量が増大する。
【0132】
原子間力顕微鏡(AFM)による毛髪粗さ
MLCTチップ(Bruker)を使用したNanowizard III原子間力顕微鏡を使用して測定を遂行した。各条件からの3つの毛髪試料(直径で約50μm)に対して3回の25μm×25μm取得を行った。
【0133】
JPKデータプロセシングソフトウェアを使用してナノスケール分析を行った。表面のトポグラフィー、毛髪の粗さおよび機械的特性(付着および弾性)を測定した。
高度マップ上で粗さ測定をした。表面(5μm×5μm、12.5μm×12.5μmおよび25μm×25μm)の関数としての平均粗さを示す曲線は、各試料の粗さの分析およびそれらを比較することを可能にした。
【0134】
結果
毛髪表面を、UV処置の前後に視覚化した:図1は、UV処理前の、組成物PおよびQのいずれか1つで洗浄したかまたは未処理の毛髪繊維のSEM画像を示し;および図2は、UV処理後の、組成物PおよびQのいずれか1つで洗浄したかまたは未処理の毛髪繊維のSEM画像を示す。
【0135】
図1からわかるように、基本的な条件において、UV照射より前では、本発明の組成物Qで処理された毛髪繊維は、他の3つよりもわずかにより滑らかなようである。これは、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムが毛髪繊維上に沈着し、および表面を滑らかにするということを初めて確認したものである。
【0136】
UV照射後、毛髪のケラチンスケールの剥離が、図2の最も左の未処理の状態において明確に観察され、ケラチン構造へのUV照射の悪影響を証明している。組成物P(プラセボ)では未処理の試料と比較してわずかな改善しかなく、一方で明確な平滑化効果が本発明に従う組成物Qについて観察された。
これらの結果は、本発明のヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウムが、UV照射に対抗して毛髪繊維を保護することができるということを示唆する。
【0137】
MDA測定の結果は、以下の表に示される:
【表13】
上記からわかるように、組成物Qでの処理は毛髪繊維中のMDA含量を有意に低減させており、この組成物についてUV照射に対抗する保護効果が示された。
【0138】
総タンパク質含量測定の結果は、以下の表に示される:
【表14】
上記からわかるように、UV照射は、総タンパク質含量の有意な増大をさせ、他方、組成物Pでの処理は、毛髪繊維に対する保護を提供した。
【0139】
SEMが毛髪構造を包括的な視点で示す一方、AFMは、5μm×5μmスケールなどのより小さいスケールに焦点を当てることを可能にした。それは、未処理の状態との比較において、UV照射後のケラチンスケールの厚さの増大を、しかしまた、スケールの表面上に一種の粗さがあることも明らかにした。
【0140】
プラセボのシャンプー(組成物P)の適用は、毛髪表面を改善しておらず、およびスケールの表面上に目に見える粗さを残した。しかし、カチオン化されたヒアルロン酸を0.1%で含有するシャンプー(組成物Q)で毛髪束を処理したとき、スケールの表面の目に見える平滑化が観察された。この粗さを測定したところ、UV照射は、未処理の状態と比較して+31%、有意に毛髪粗さを増大させ、組成物Pに対しても同様の効果があり、一方で組成物Qは、対プラセボ条件で-29%、有意に毛髪粗さを低減させたことが確認された。
【表15】
【0141】
例11: フォトニック複屈折を使用したリンスオフへの適用における毛髪保護試験
UV照射からの毛髪保護のフォトニック複屈折による分析
ヒト毛髪束を水浴中に浸し、および次いで上記の例10に記載された2つのシャンプー組成物(夫々、組成物PおよびQ)のいずれか1つで2分間揉んだ。
対照の毛髪束は、いかなるシャンプーでも未処理なままにした。シャンプーで揉んだ後、制御された体積の水中で毛髪束を3回濯ぎ、およびヘアドライヤーで3分間乾燥させた。この連続的な洗浄・乾燥サイクルを、3回繰り返した。
【0142】
次いで、各毛髪束の1cmを切り、ペトリ皿中に広げ、および、UV照射:9J/cm2 UVAおよび0.33J/cm2 UVBの7回の繰り返しで処理した。この3回のシャンプーおよび7回のUV照射の繰り返しは、1週間にわたるヘアケアおよび毎日の包括的なUVへの曝露を模倣している。
【0143】
毛髪改変を、次いでフォトニック複屈折を使用して分析した:毛幹がより改変されると(UV、熱、化学物質等による)、未処理の毛幹と比較してフォトニック複屈折がより減少する。他方、毛幹が処理に対抗して保護されている場合には、フォトニック複屈折は増大することになる。
【0144】
結果
結果は、以下の表に示される:
【表16】
【0145】
上記からわかるように、UV照射では、非照射の状態に対して相対的に、-13.5%のフォトニック複屈折の有意な減少があり、毛髪ケラチン構造に対する毎日のUV曝露の有害な効果が確認された。プラセボ組成物Pでの処理は有意な改善を提供しなかったが、一方で、本発明の組成物Qは、フォトニック複屈折を有意に改善することができるものであった。
したがって、本発明の化粧品組成物は、毛髪に対して効率的なUV保護を提供する。
【0146】
例12: フォトニック複屈折を使用したリンスオフへの適用における毛髪修復試験
化学的ストレス後の毛髪修復のフォトニック複屈折による分析
ヒト毛髪束を、9% H2O2および3%過硫酸アンモニウムを含有するブリーチ溶液を40℃にて1時間、3回適用することによって化学的に処理した。この処理の後、毛髪束を水溶液(200ml)中で3回濯ぎ、および次いで40℃にてオーブン中で1時間乾燥させた。1分間220℃にてヘアアイロンを使用して毛髪束を真っ直ぐにしたことでジスルフィド結合の破壊を増大させ、および多孔性を増大させた(3回通した)。
【0147】
毛髪束を、次いで水浴中に浸し、および次いで上記の例10に記載された2つのシャンプー組成物(夫々、組成物PおよびQ)のいずれか1つで2分間揉んだ。
対照の毛髪束は、いかなるシャンプーでも未処理なままにした。シャンプーで揉んだ後、制御された体積の水中で毛髪束を3回濯ぎ、およびヘアドライヤーで3分間乾燥させた。この連続的な洗浄・乾燥サイクルを、3回繰り返した。
毛髪改変を、次いで、フォトニック複屈折を使用して分析した。
【0148】
結果
結果は、以下の表に示される:
【表17】
【0149】
組成物Pでは、わずかな修復効果が観察され、劣化した毛髪に対して相対的に+5.6%のフォトニック複屈折の増大があった。しかしながら、この結果は、フォトニック複屈折を有意に+24.9%改善することができるものであり組成物Pに対してもまた有意な効果があった本発明の組成物Qとの比較においては、無視できる程度であった。
したがって、本発明の化粧品組成物は、効率的な毛髪修復を提供する。
図1
図2
【国際調査報告】