(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-24
(54)【発明の名称】アルコールおよび脂肪に対して高められた耐性を有する透明なアクリル系ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 33/04 20060101AFI20240717BHJP
C08L 25/04 20060101ALI20240717BHJP
C08L 55/00 20060101ALI20240717BHJP
C08F 220/10 20060101ALI20240717BHJP
C08F 265/06 20060101ALI20240717BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C08L33/04
C08L25/04
C08L55/00
C08F220/10
C08F265/06
B29C45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502201
(86)(22)【出願日】2022-07-14
(85)【翻訳文提出日】2024-02-21
(86)【国際出願番号】 EP2022069728
(87)【国際公開番号】W WO2023285593
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319013746
【氏名又は名称】レーム・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Deutsche-Telekom-Allee 9, 64295 Darmstadt, Germany
(71)【出願人】
【識別番号】513245819
【氏名又は名称】レーム アメリカ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Roehm America LLC
【住所又は居所原語表記】8 Campus Drive, Suite 450, Parsippany, NJ 07054, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】リューディガー カルロフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルナー アルノルト
(72)【発明者】
【氏名】カイ ベアンハート
【テーマコード(参考)】
4F206
4J002
4J026
4J100
【Fターム(参考)】
4F206AA04
4F206AA13
4F206AA19
4F206AA21
4F206AA31
4F206AA45
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4F206AH31
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4J100AK32R
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4J100DA01
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4J100FA03
4J100FA19
4J100JA28
4J100JA43
(57)【要約】
本発明は、アルコール、油、および脂肪に対して高められた耐性を有する透明なアクリル系ポリマー組成物に関する。このポリマー組成物は、少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレートを含むアクリル系ポリマーA;少なくとも1種のオレフィン系モノマーと、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のエステル、および不飽和カルボン酸の無水物から選択される少なくとも1種の極性モノマーとを含むオレフィン系コポリマーB;およびコアと少なくとも1種のシェルとを含み、少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレートを含む粒状多相グラフトコポリマーCを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー組成物であって、該ポリマー組成物の重量を基準として、以下の成分A、B、およびC:
A.少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレートを含む、40.0~94.5重量%、好ましくは50.0~84.0重量%の少なくとも1種のアクリル系ポリマー;
B.少なくとも1種のオレフィン系モノマーと、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のエステル、および不飽和カルボン酸の無水物から選択される少なくとも1種の極性モノマーとを含む、0.5~12.0重量%、好ましくは1.0~10.0重量%の少なくとも1種のオレフィン系コポリマーB;
C.コアと少なくとも1種のシェルとを含み、少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレートを含む、5.0~40.0重量%、好ましくは10.0~36.0重量%の少なくとも1種の粒状多相グラフトコポリマー、
を含む、ポリマー組成物。
【請求項2】
前記ポリマー組成物が、ASTM D1003規格に準拠して、厚さ3mmの射出成形試験片について23℃で測定された70%以下のヘイズを有する、請求項1記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記ポリマー組成物が、
少なくとも1種のモノビニル芳香族モノマーと、少なくとも1種のカルボン酸無水物モノマーとを含むコポリマーD1;および
少なくとも1種のモノビニル芳香族モノマーと、少なくとも1種のシアン化ビニルモノマーとを含むコポリマーD2、
から選択される少なくとも1種の更なるポリマー成分Dを、前記ポリマー組成物全体を基準として、50.0重量%まで含む、請求項1または2記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記アクリル系ポリマーAは、1~20個、好ましくは1~12個、より好ましくは1~8個、最も好ましくは1~4個の炭素原子をアルキル基に有する少なくとも1種のアルキルメタクリレートモノマーを、前記アクリル系ポリマーAの総重量を基準として、40.0~100.0重量%、好ましくは45.0~100.0重量%、より好ましくは55.0~99.5重量%含む、請求項1から3までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記アクリル系ポリマーAは、
50.0~100.0重量%、好ましくは65~99重量%の少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレート、好ましくはメチルメタクリレート;
0.0~20.0重量%、好ましくは0.1~4重量%の、好ましくはC
1~C
10アルキルアクリレートから選択される、メチルメタクリレート以外の少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレート;
0.0~40重量%、好ましくは5.0重量%~30.0重量%の少なくとも1種のビニル芳香族モノマー、好ましくはスチレン;および
0.0~20重量%、好ましくは5.0~20.0重量%の、好ましくは不飽和カルボン酸無水物から選択される、1種以上の他の共重合性モノマー、
を含む熱可塑性(メタ)アクリレートポリマーであり、
全ての量は、前記アクリル系ポリマーAの総重量を基準として示される、
請求項1から4までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記アクリル系ポリマーAは、
48.0~90.0重量%、好ましくは63.0~81.0重量%の少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレート、好ましくはメチルメタクリレート;
8.0~35.0重量%、好ましくは12.0~22.0重量%の少なくとも1種のモノビニル芳香族モノマー;および
2.0~17.0重量%、好ましくは7.0~15.0重量%の少なくとも1種の不飽和カルボン酸無水物、好ましくは無水マレイン酸、
のコポリマーであり、
全ての量は、前記アクリル系ポリマーAの総重量を基準とする、
請求項1から5までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1種のオレフィン系コポリマーBは、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のエステル、および不飽和カルボン酸の無水物から選択される少なくとも1種の極性モノマーでグラフトされた少なくとも1種のポリオレフィン系ポリマーを含むポリオレフィン系グラフトコポリマーである、請求項1から6までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項8】
前記少なくとも1種のオレフィン系コポリマーBは、グラフトコポリマーBの重量を基準として、0.5~3.0重量%、好ましくは0.7~2.5重量%の、不飽和カルボン酸の無水物から選択される少なくとも1種の極性モノマー、好ましくは無水マレイン酸でグラフトされた少なくとも1種のポリオレフィン系ポリマーを含むポリオレフィン系グラフトコポリマーである、請求項1から7までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項9】
前記粒状多相グラフトコポリマーCが、
ブタジエン系コアであって、該ブタジエン系コアの重量を基準として、少なくとも65.0重量%、好ましくは少なくとも75.0重量%のポリブタジエンを含むブタジエン系コア;および
外側シェルであって、該外側シェルの重量を基準として、60.0重量%~100.0重量%、好ましくは65.0重量%~100.0重量%の少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレートと、前記外側シェルの重量を基準として、0.0重量%~40.0重量%、好ましくは0.0重量%~35.0重量%の少なくとも1種の芳香族ビニルモノマーとを含む外側シェル、
を含む、請求項1から8までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項10】
前記粒状多相グラフトコポリマーCが、エラストマー架橋アルキル(メタ)アクリレートコアをベースとするグラフトコポリマーから選択され、かつ:
少なくとも40重量%、好ましくは40~70重量%の少なくとも1種のC
1~C
10アルキルメタクリレート、好ましくはメチルメタクリレート;
5~45重量%、好ましくは20~45重量%、好ましくは25~42重量%の少なくとも1種のC
1~C
10アルキルアクリレート;
0~2重量%、好ましくは0.1~2重量%、より好ましくは0.5~1重量%の少なくとも1種の架橋モノマー;および
0~15重量%、好ましくは0~10重量%、より好ましくは0.5~5重量%の任意の更なるモノマー、
を含む、請求項1から8までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項11】
前記ポリマー組成物が、脂肪族熱可塑性ポリウレタン、メタクリレート-アクリレートブロックコポリマー、スチレン-ブタジエンブロックコポリマー、およびエチレン-プロピレン-ジエンゴムなどの熱可塑性耐衝撃性改質剤から選択される少なくとも1種の更なる耐衝撃性改質剤Fを、前記ポリマー組成物全体を基準として、5.0~40.0重量%、好ましくは10.0~35.0重量%含む、請求項1から10までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項12】
前記ポリマー組成物は、
(i)少なくとも60℃、好ましくは少なくとも70℃、より好ましくは少なくとも75℃の、ISO 306-B50(2014)に準拠したビカット軟化温度;
(ii)少なくとも3.0%、特に好ましくは少なくとも5.0%の、ISO 527(2012)に準拠した公称破断伸び;
(iii)1,500MPa超、好ましくは1,700MPa超の、ISO 527(2012)に準拠した弾性率;
(iv)厚さ3mmの射出成形試験片について23℃で測定した、少なくとも40%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%の、DIN 5033-7(2014)に準拠した光透過率(TD65)、
の特性のうちの1つ以上を有する、請求項1から11までのいずれか1項記載のポリマー組成物。
【請求項13】
前記成分A、B、C、ならびに任意にD、Eおよび/またはFを混合すること、好ましくは、前記成分A、B、C、ならびに任意にD、Eおよび/またはFを溶融混合することを含む、請求項1から12までのいずれか1項記載のポリマー組成物を製造する方法。
【請求項14】
請求項1から12までのいずれか1項記載のポリマー組成物から成形品を製造する方法であって、前記組成物を射出成形する工程を含む、方法。
【請求項15】
請求項1から12までのいずれか1項記載のポリマー組成物を含む、成形品。
【請求項16】
前記成形品が、医療装置、好ましくは、例えば、医療診断装置、点滴およびカテーテル付属品、血液取扱装置、胸部ドレナージユニット、呼吸換気装置、医療用フィルターハウジング、常設装置ハウジング、チューブ、コネクタ、取付器具、およびキュベットから選択される使い捨て医療装置であるか;または家庭用品の部品;通信機器の部品;電子部品;趣味用器具の部品;スポーツ用品の部品;園芸用品の部品;自動車、船舶、もしくは航空機用の外内装部品;自動車、船舶、もしくは航空機の建造で使用される本体部品;衛生および浴用備品の部品から選択される、請求項15記載の成形品。
【請求項17】
医療装置、好ましくは、例えば、医療診断装置、点滴およびカテーテル付属品、血液取扱装置、胸部ドレナージユニット、呼吸換気装置、医療用フィルターハウジング、常設装置ハウジング、チューブ、コネクタ、取付器具、ならびにキュベットから選択される使い捨て医療装置における、請求項1から12までのいずれか1項記載のポリマー組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール、油、および脂肪に対して高められた耐性を有する透明なアクリル系ポリマー組成物に関する。特に、この組成物は、使い捨て医療器具の消毒および滅菌のために一般的に使用される水-イソプロパノール混合物に対して優れた耐性を有する。さらに、この組成物は、市販の消毒剤に長期間曝露した後でも高い透明性を有し、ヘイズが低く、優れた機械的特性を有する。
【0002】
したがって、本発明の組成物は、点滴およびカテーテル付属品、血液取扱装置、胸部ドレナージユニット、または呼吸換気装置等の各種医療装置の製造に非常に適している。さらに、本発明の組成物は、例えば、家庭用品および園芸用品、電子部品、衛生および浴用備品、ならびに自動車の外内装部品の製造に適している。
【0003】
本発明のポリマー組成物は、少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレートを含むアクリル系ポリマーA;少なくとも1種のオレフィン系モノマーと、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のエステル、および不飽和カルボン酸の無水物から選択される少なくとも1種の極性モノマーとを含むオレフィン系コポリマーB;およびコアと少なくとも1種のシェルとを含み、少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレートを含む粒状多相グラフトコポリマーCを含む。
【0004】
背景技術
医療用グレードのアクリル系ポリマー組成物は、光学的および機械的特性のバランスに優れ、電子ビームまたはγ線を使用して滅菌することができ、生体材料に適合する。さらに、そのような組成物は、優れた熱可塑性加工性を有することが多く、射出成形に有利に使用され得る。これにより、様々な医療装置用途ならびに医療診断装置における使用が可能になる。そのような材料の典型的な用途は、とりわけ点滴およびカテーテル付属品、血液取扱装置、胸部ドレナージユニット、呼吸換気装置などを含む。
【0005】
市販の医療用グレードのアクリル系ポリマー組成物は、アルコール、油、および脂肪などの材料に対して既に良好な耐薬品性を有するが、水/アルコール混合物に長期間曝露されると、不透明になり亀裂を生じる傾向がある。さらに、そのような長期間曝露は、組成物の他の機械的特性にとって不利益である。この挙動は、例えば数日にわたりイソプロパノール-水混合物へ長期間曝露される場合、特に問題となる。イソプロパノール-水混合物は、現在、医療装置のための消毒剤として一般的に使用されている。医療用途のためのポリマー組成物は、23℃における消毒液の存在下で長期間保存される場合、その機械的および光学的特性を保持する必要がある。特に、ヘイズまたは亀裂の形成は、最小限にされるべきである。
【0006】
国際公開第2020/126722号には、透明でアルコール、油、および脂肪に対して良好な耐性を有するアクリル系ポリマー組成物が記載されており、前記組成物は、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族ビニルモノマー、および不飽和カルボン酸無水物を含むコポリマー;芳香族ビニルモノマー、およびシアン化ビニルモノマーを含むコポリマー;ならびにゴム相としてブタジエン系コアと、硬質相としてアルキル(メタ)アクリレートとを含む、粒状コア-シェル型グラフトコポリマーを含む。国際公開第2020/126722号のポリマー組成物が、アルコール、油、および脂肪に対して既に良好な耐性を示したとしても、前記従来技術と比較してより高い耐薬品性、すなわち、より過酷な条件下における良好な耐応力割れ性、および向上した機械的強度、例えば、より高い破断伸びを示す、改善された透明なポリマー材料を提供することが望まれている。
【0007】
国際公開第2008/148595号には、メチルメタクリレート(MMA)、スチレン、および無水マレイン酸のコポリマー、ならびにスチレン-アクリロニトリルコポリマー(SAN)を含むポリマー配合物が記載されている。このポリマー配合物は、イソプロパノール原液の存在下において、良好な光学的および機械的特性を有し、かつ高められた耐応力割れ性を有する。国際公開第2008/148595号は、消毒剤として一般的に使用されるイソプロパノール-水混合物の存在下における耐応力割れ性、および前記消毒剤への長期間曝露中の光学的特性の変化に関して言及していない。
【0008】
米国特許第6,689,827号明細書は、ポリメチルメタクリレートとSANコポリマーとのマトリックス、耐衝撃性改質剤としてブタジエンおよび/またはイソプレンをベースとするグラフトベースを有するグラフトコポリマー、および実質的に少なくとも1つの2,6-二置換フェノールからなる添加剤を含む、透明な耐衝撃性改質熱可塑性成形組成物を記載している。
【0009】
国際公開第2001/46317号には、メタクリル酸メチルポリマー、スチレン/アクリロニトリルコポリマー、ならびに二峰性粒径分布を有し、0℃未満のガラス転移温度を有するエラストマーグラフトコアと、メタクリル酸エステルおよび任意でビニル芳香族モノマーおよび/または架橋モノマーを含有する1つ以上のグラフトシェルとを含有するグラフトコポリマーの混合物を含む、透明な耐衝撃性熱可塑性成形組成物が記載されている。特開平02-272050号公報には、メチルメタクリレート、無水マレイン酸、スチレンおよびC1~C4のアルキルアクリレートを含むコポリマー;シアン化ビニル/芳香族ビニルコポリマーまたはメチルメタクリレート/C1~C4のアルキルアクリレート;およびゴム状ポリマーにシアン化ビニルおよび芳香族ビニル化合物をグラフトすることによって製造されたコポリマーを含む耐衝撃性ポリマー配合物が記載されている。特開平02-272050号公報のポリマー配合物は、高い耐熱性、耐衝撃性および透明性を有し、主に自動車用途での使用向けに設計されている。
【0010】
米国特許第9,834,645号明細書は、高い耐環境応力割れ性を有する透明な熱可塑性樹脂組成物を記載している。樹脂組成物は、好ましくは、ブタジエンゴムにメチルメタクリレート/アクリロニトリル/スチレンをグラフトすることにより得られるグラフトコポリマーAと、メチルメタクリレート/アクリロニトリル/スチレンコポリマーBとを含む。
【0011】
米国特許第8,524,826号明細書は、高い耐薬品性および耐衝撃性を有する透明なアクリル合金組成物を記載している。アクリル合金は、高分子量アクリルコポリマー、ポリフッ化ビニリデン、コア-シェル型耐衝撃性改質剤、およびメルトフロー加工助剤を含む。
【0012】
オレフィン系モノマーと無水マレイン酸とのコポリマー、例えば無水マレイン酸でグラフトされたポリオレフィン、およびオレフィン系モノマー単位および無水マレイン酸単位を包含する直鎖状コポリマー、ならびにポリマー組成物における相溶化剤としてのその適用は、従来技術において一般的に知られている。
【0013】
特開2001-279105号公報には、医薬品包装用の白色ポリマー組成物が記載されており、該白色ポリマー組成物は、互いに実質的に相溶性ではない2種以上の樹脂、例えばポリオレフィン、ポリスチレン、アクリル樹脂から選択される樹脂;および例えばマレイン化ポリプロピレン/ポリスチレングラフトコポリマー、またはエチルアクリル酸、エチレン、および無水マレイン酸の三元コポリマーから選択される相溶化剤を含む。特開昭63-268754号公報には、特に良好な耐薬品性を有する熱可塑性樹脂が記載されており、該熱可塑性樹脂は、ポリカーボネートとアクリロニトリル-スチレンコポリマーとの配合物;およびオレフィン(例えば、エチレン、プロピレン)、不飽和ジカルボン酸無水物(例えば、無水マレイン酸)、および不飽和カルボン酸アルキルエステル(例えば、エチルアクリレート)を含む三元系ポリマーである相溶化剤を含む。
【0014】
例えば、国際公開第2016/010893号には、オレフィン-無水マレイン酸コポリマー、好ましくはエチレンと無水マレイン酸との1:1交互コポリマー(例えば、Vertellus Specialities Inc.製のZeMac(登録商標))、およびエンジニアリングプラスチック、例えばアクリロニトリル-スチレン-ブタジエンコポリマー(ABS)組成物、ポリカーボネート組成物、またはポリアミド組成物における相溶化剤としてのその用途が記載されている。
【0015】
さらに、ポリエチレングラフト無水マレイン酸(PE-g-MAH)などのポリオレフィン無水マレイン酸グラフトコポリマーは、一般的に知られている相溶化剤である。その製造方法は、例えば国際公開第95/16718号および国際公開第2002/093157号に記載されている。例えば、米国特許出願公開第2011/0254204号明細書には、プラスチック材料におけるマット剤としてのPE-g-MAHの使用が記載されている。多くの場合、無水マレイン酸グラフトポリオレフィン、例えば、無水マレイン酸でグラフトされたポリエチレン(PE-g-MAH)、および無水マレイン酸でグラフトされたポリプロピレン(PP-g-MAH)は、ポリエチレン樹脂などの熱可塑性樹脂において、充填剤または強化繊維とポリマーマトリクスとの適合性を改善するために使用される。典型的には、多種多様な無水マレイン酸グラフトポリオレフィン、例えば、Chemtura製のPOLYBOND(登録商標)、Arkema製のOREVAC(登録商標)、BYK製のSCONA(登録商標)、および三菱ケミカル株式会社のMODIC(登録商標)が市販されている。
【0016】
本発明の目的は、透明な医療装置の製造に有利に使用することができ、アルコール-水系消毒剤、油、および脂肪に対してさらに改善された耐応力割れ性、改善された機械的強度、ならびにアルコールまたは油に長時間曝露された後でも高い透明性を示す新規なポリマー組成物を提供することである。
【0017】
発明の開示
本発明は、医療用グレードのアクリル系ポリマー組成物の、イソプロパノール-水系消毒剤、油、および脂肪に対する長期間の耐応力割れ性を、極性モノマー、例えば、無水マレイン酸グラフトポリエチレン(PE-g-MAH)を含むオレフィン系コポリマー、特にグラフトコポリマーの添加によって、著しく高めることができるという驚くべき発見に基づく。さらに、驚くべきことに、アクリル系ポリマーが、粒状多相グラフトコポリマー(例えば、公知の粒状耐衝撃性改質剤)と組み合わせてオレフィン系コポリマー、例えば、PE-g-MAHと混合されると、透明な熱可塑性ポリマー組成物またはそれから製造される成形部品を得ることができることが見出された。特に、この発見は驚くべきことであった。というのも、アクリル系ポリマーとオレフィン系コポリマーとの二成分配合物、例えば極性グラフトポリオレフィンは、透明性を示さないからである。したがって、粒状多相グラフトコポリマーを用いて極性オレフィン系コポリマーをアクリル系ポリマーに導入するための有利な方法が見出された。粒状多相グラフトコポリマーは、有利には、アクリル系ポリマーマトリックス中のオレフィン系コポリマーの分散および相溶性に影響を与えると思われる。この文脈において、本発明は、前記3つのポリマー成分の相乗的組み合わせを対象とする。
【0018】
本発明は、ポリマー組成物であって、ポリマー組成物の重量を基準として、以下の成分A、B、およびC:
A.少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレートを含む、40.0~94.5重量%、好ましくは50.0~84.0重量%の少なくとも1種のアクリル系ポリマー;
B.少なくとも1種のオレフィン系モノマーと、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のエステル、および不飽和カルボン酸の無水物から選択される少なくとも1種の極性モノマーとを含む、0.5~12.0重量%、好ましくは1.0~10.0重量%の少なくとも1種のオレフィンコポリマーB;
C.コアと少なくとも1種のシェルとを含み、少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレートを含む、5.0~40.0重量%、好ましくは10.0~36.0重量%の少なくとも1種の粒状多相グラフトコポリマー、
を含む、ポリマー組成物を対象とする。
【0019】
本発明に関して、「モノマーを含むかまたはこれからなるポリマーまたはコポリマー」という用語は、ポリマーまたはコポリマーが、前記モノマー単位を含むかまたはそれらから構成されている、と理解される。当業者は、前記ポリマーが、言及されたモノマーの重合によって得られ、重合においては、モノマーの不飽和基のうちの少なくとも1つは、好ましくはラジカル重合されるということを理解する。前記重合後に得られるポリマーが、ポリマー鎖に組み込まれていない未反応モノマーを含む場合、これは残留モノマーと呼ばれる。
【0020】
本発明に関して、「粒状多相グラフトコポリマー」という用語は、少なくとも1種のコアおよび少なくとも1種のシェルを含むコア-シェル構造を有することができる架橋グラフトコポリマーに関する。
【0021】
好ましくは、アクリル系ポリマーAは、ポリマーマトリックスを形成し、粒状多相グラフトコポリマーCは、前記ポリマーマトリックス中に分散されている。好ましくは、アクリル系ポリマーAは、任意のポリマーDと共にポリマーマトリックスを形成し、粒状多相グラフトコポリマーCは、前記ポリマーマトリックス中に分散されている。例えば、粒状多相グラフトコポリマーC、および例えばポリオレフィン系グラフトコポリマーであるオレフィン系コポリマーBがポリマーマトリックス中に分散され、その際、オレフィン系コポリマーBおよび粒状多相グラフトコポリマーCは、一種の凝集を形成する場合もあることが考えられる。
【0022】
好ましくは、本発明のポリマー組成物は、熱可塑性成形組成物である。好ましくは、本発明のポリマー組成物は、透明なポリマー組成物である。本発明に関して、「透明なポリマー組成物」、または「透明な成形品」とは、ポリマー組成物または成形品が、ASTM D1003規格に準拠して、厚さ3mmの射出成形試験片について23℃で測定された70%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下のヘイズを示すことを意味する。
【0023】
本発明によるポリマー組成物は、比較的容易な方法で製造および処理することができ、複雑な幾何学的形状を有する物品を含む、射出成形を使用する物品の製造に特に適している。
【0024】
したがって、更なる態様において、本発明は、本発明のポリマー組成物から成形品を製造する方法であって、前記組成物を射出成形する工程を含む、方法に関する。好ましくは、本発明のポリマー組成物から製造される成形品は、透明な成形品である。
【0025】
本発明の更なる別の態様は、本発明のポリマー組成物を含む成形品、特に医療用成形品に関する。重要なことに、本発明のポリマー組成物から製造された物品は、アルコール、アルコール-水混合物、油、および脂肪に対して優れた耐性を有するだけでなく、
-優れた光学的特性、特に高い透明性
-高い耐熱変形性
-顕著な機械的特性、特に高い弾性率、高い破断伸び、および高いビカット軟化温度
などの幾つかの更なる有利な特性も示す。
【0026】
最後に、本発明の更なる態様は、医療装置、好ましくは、例えば、医療診断装置、点滴およびカテーテル付属品、血液取扱装置、胸部ドレナージユニット、呼吸換気装置、医療用フィルターハウジング、常設装置ハウジング、チューブ、コネクタ、取付器具、およびキュベットから選択される使い捨て医療装置における、本発明のポリマー組成物の使用を対象とする。さらに本発明は、家庭用品の部品;通信機器の部品;電子部品;趣味用器具の部品;スポーツ用品の部品;園芸用品の部品;自動車、船舶、または航空機用の外内装部品;自動車、船舶、または航空機の建造で使用される本体部品;衛生および浴用備品の部品における、本発明のポリマー組成物の使用を対象とする。
【0027】
発明の詳細な説明
本発明のポリマー組成物は、少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレートを含む、少なくとも1種(特に1種または3種、好ましくは厳密に1種)のアクリル系ポリマーA;少なくとも1種のオレフィン系モノマーと、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のエステル、および不飽和カルボン酸の無水物から選択される少なくとも1種の極性モノマーとを含む、少なくとも1種(特に1種または3種、好ましくは厳密に1種)のオレフィン系コポリマーB;およびコアと少なくとも1種のシェルとを含み、少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレートを含む、少なくとも1種(特に1種または3種、好ましくは厳密に1種)の粒状多相グラフトコポリマーCを含み、アクリル系ポリマーAは、ポリマーマトリックスを形成し、かつ粒状多相グラフトコポリマーCは、ポリマーマトリックス中に分散されている。
【0028】
任意に、本発明のポリマー組成物は、好ましくは:
少なくとも1種のモノビニル芳香族成分、好ましくはスチレンと、少なくとも1種のカルボン酸無水物成分、好ましくは無水マレイン酸とを含むコポリマーD1;および
少なくとも1種のモノビニル芳香族モノマー、好ましくはスチレンと、少なくとも1種のシアン化ビニルモノマー、好ましくはアクリロニトリルとを含むコポリマーD2、
から選択される少なくとも1種の更なるポリマー成分Dを、ポリマー組成物全体を基準として、50.0重量%まで、好ましくは1.0~50.0重量%、より好ましくは2.0~20.0重量%、また好ましくは.0~10.0重量%含む場合がある。
【0029】
成分A、BおよびCならびに任意の成分DおよびEを、以下でより詳細に説明する。
【0030】
アクリル系ポリマーA
本発明のポリマー組成物は、少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレートを含む、少なくとも1種のアクリル系ポリマーAを、ポリマー組成物全体を基準として、40.0~94.5重量%、好ましくは50.0~84.0重量%、より好ましくは55.0~80重量%含む。
【0031】
本明細書で使用される「アルキル(メタ)アクリレート」という用語は、単一のアルキル(メタ)アクリレート、または異なるアルキル(メタ)アクリレートの混合物を表す場合がある。本明細書で使用される「(メタ)アクリレート」という用語は、メタクリレート、例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート等だけではなく、アクリレート、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート等、およびその混合物も指す。
【0032】
本発明の目的のために、C1~C18-アルキル(メタ)アクリレート、有利にはC1~C10-アルキル(メタ)アクリレート、とりわけC1~C4-アルキル(メタ)アクリレートが特に好ましい。好ましいアルキルメタクリレートは、メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルメタクリレート、およびエチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ならびにシクロアルキルメタクリレート、例えばシクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレートまたはエチルシクロヘキシルメタクリレートなども包含する。メチルメタクリレートの使用が特に好ましい。好ましいアルキルアクリレートは、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、およびエチルヘキシルアクリレート、ならびにシクロアルキルアクリレート、例えばシクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレートまたはエチルシクロヘキシルアクリレートなども包含する。
【0033】
好ましい実施形態において、アクリル系ポリマーAは、1~20個、好ましくは1~12個、より好ましくは1~8個、最も好ましくは1~4個の炭素原子をアルキル基に有する少なくとも1種のアルキルメタクリレートモノマー(各繰り返し単位)を、アクリル系ポリマーA全体を基準として、40.0~100.0重量%、好ましくは45.0~100.0重量%、より好ましくは55.0~99.5重量%含む。
【0034】
特に好ましい実施形態において、アクリル系ポリマーAは、50.0~100.0重量%、好ましくは65.0~100.0重量%、より好ましくは70.0~100.0重量%のメチルメタクリレートMMAを含む。
【0035】
適切なアクリル系ポリマーAは、例えば:
50.0~100.0重量%、好ましくは65~99重量%の少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレート、好ましくはメチルメタクリレート;
0.0~20.0重量%、好ましくは0.1~4重量%の、好ましくはC1~C10アルキルアクリレートから選択され、より好ましくはメチルアクリレート、エチルアクリレート、およびブチルメタクリレートから選択される、メチルメタクリレート(MMA)以外の少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレート;
0.0~40重量%、好ましくは5.0重量%~30.0重量%の少なくとも1種のビニル芳香族モノマー、好ましくはスチレン;および
0.0~20重量%、好ましくは5.0~20.0重量%の、1種以上の他の共重合性モノマー、例えば少なくとも1種の不飽和カルボン酸もしくは不飽和カルボン酸無水物、またはアクリロニトリル、好ましくは少なくとも1種の不飽和カルボン酸無水物、より好ましくはアクリル酸無水物、メタクリル酸無水物、無水マレイン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物、イタコン酸無水物、さらにより好ましくは無水マレイン酸、
を含む(好ましくは、それらからなる)場合があり、
ここで、全ての量は、アクリル系ポリマーAの総重量を基準として示される。
【0036】
さらに、本発明者らは、アクリル系ポリマーAが:
48.0~90.0重量%、好ましくは63.0~81.0重量%の少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレート、好ましくは少なくとも1種のC1~C10アルキル(メタ)アクリレート、より好ましくはメチルメタクリレート;
8.0~35.0重量%、好ましくは12.0~22.0重量%の少なくとも1種のモノビニル芳香族モノマー;および
2.0~17.0重量%、好ましくは7.0~15.0重量%の少なくとも1種の不飽和カルボン酸無水物、好ましくは無水マレイン酸、
のコポリマー(ここで、全ての量は、アクリル系ポリマーAの総重量を基準とする)である場合に、本発明の組成物が、特に有利な、薬品に対する環境応力耐性および光学的特性を有することを見出した。
【0037】
好ましくは、アクリル系ポリマーAは、言及されたモノマーの共重合によって得られる。したがって、アクリル系ポリマーAは、好ましくはポリマー鎖に、好ましくはほぼランダムな分布で、言及されたモノマーを含むかまたはそれらからなるコポリマーである。より好ましくは、アクリル系ポリマーAは、グラフトポリマーではない。
【0038】
適切なモノビニル芳香族モノマーの例としては、スチレン;例えばo-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o,p-ジメチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、およびp-エチルスチレンなどの、モノまたはポリアルキルスチレン;例えばメトキシスチレン、エトキシスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、酢酸ビニルベンジル、ヒドロキシスチレン、o-クロロスチレン、p-クロロスチレン、およびジビニルベンゼンなどの、官能基を含むスチレン誘導体;3-フェニルプロピレン、4-フェニルブテン、およびα-メチルスチレンが挙げられる。これらの中でも、スチレンが最も好ましい。
【0039】
アクリル系ポリマーAにおいて、不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸無水物は、特に制限なく選択される。前記カルボン酸無水物は、有利には、メタクリル酸、アクリル酸無水物、メタクリル酸無水物、無水マレイン酸、マレイン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロヘキシルマレイミド、およびイタコン酸無水物から選択することができ、ここで、マレイン酸無水物が特に好ましい。
【0040】
適切なアクリル系ポリマーAは、例えば:
50.0重量%~90.0重量%、好ましくは65~90重量%、より好ましくは70.0重量%~83.0重量%のアルキル(メタ)アクリレート;
5.0重量%~30重量%、好ましくは5.0重量%~20.0重量%、より好ましくは7重量%~15重量%のスチレン;および
5.0重量%~20.0重量%、好ましくは5.0重量%~15.0重量%、より好ましくは7重量%~10重量%の無水マレイン酸(ここで、全ての量は、アクリル系ポリマーAの総重量を基準として示される)、
を含む(好ましくは、これらからなる)場合がある。
【0041】
本発明の特に好ましい実施形態において、アクリル系ポリマーAは、MMA、スチレン、および無水マレイン酸のコポリマーである(メタ)アクリレート系(コ)ポリマーである。そのような適切なアクリル系ポリマーAは、例えば、国際公開第2020/126722号に記載されている。したがって、そのようなアクリル系ポリマーAは、例えば:
50.0重量%~90.0重量%、好ましくは70.0重量%~80.0重量%のMMA;
10.0重量%~20.0重量%、好ましくは12.0重量%~18.0重量%のスチレン;および
5.0重量%~15.0重量%、好ましくは8.0重量%~12.0重量%の無水マレイン酸(ここで、全ての量は、アクリル系ポリマーAの総重量を基準として示される)、
を含む(好ましくは、これらからなる)場合がある。
【0042】
ポリマー組成物の最適なレオロジー特性を達成するために、ポリマーAの重量平均分子量Mwは、好ましくは60,000~280,000g/モル、より好ましくは120,000~240,000g/モルに調整される。Mwの測定は、有利には、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)実施してもよく、例えば、校正標準としてPMMAを使用し、溶離液として0.2体積%のトリフルオロ酢酸(TFA)と共にテトラヒドロフラン(THF)を用いる。校正標準を使用する代わりに、散乱検出器を使用することもできる(H.F. Mark等、Encyclopedia of Polymer Science and Engineering、2nd. Edition、Vol. 10、page 1 et seq.、J. Wiley、1989)。適切なGPCカラムは、当業者によって容易に選択可能である。そのようなカラムは、例えばPSS SDVシリーズのカラムとして、PSS Standards Service GmbH社(独国、マインツ)より市販されている。当業者によって容易に理解されるように、複数のGPCカラムの組み合わせを使用してもよい。
【0043】
アクリル系ポリマーAの製造に適した方法は、当該技術分野で公知である。例えば、独国特許出願公開第1231013号明細書は、より少量の無水マレイン酸(MAH)および/またはメタクリル酸と共に、1~50重量%のアルキルスチレン、および99~50重量%のアルキルメタクリレートからの塊状重合によるコポリマーの製造方法を開示する。
【0044】
米国特許第3,336,267号明細書は、5~95モル%のビニル芳香族物質、5~40モル%の不飽和環状無水物、および0~90モル%のアルキル(メタ)アクリレートを含むコポリマーを製造する方法を記載している。この方法では、上記モノマーの混合物を不活性溶媒と共に連続的に重合させ、この重合混合物からポリマーを連続的に取り出している。
【0045】
欧州特許出願公開第264590号明細書は、非重合性有機溶媒の存在下で、75~150℃の温度範囲において、メチルメタクリレート、ビニル芳香族物質、無水マレイン酸、および任意で低級アルキルアクリレートを含むモノマー混合物から成形化合物を製造する方法を開示している。
【0046】
別の好ましい実施形態において、アクリル系ポリマーAは:
50.0~100.0重量%、好ましくは60.0~100.0重量%、特に好ましくは75.0~100.0重量%、特に85.0~99.5重量%の、アルキル基中に1~20個、好ましくは1~12個、より好ましくは1~8個、特に1~4個の炭素原子を有する少なくとも1種のアルキルメタクリレートモノマー(各繰り返し単位);
0.0~40.0重量%、好ましくは0.0~25.0重量%、特に0.1~15.0重量%の、アルキル基中に1~20個、好ましくは1~12個、有利には1~8個、特に1~4個の炭素原子を有する少なくとも1種のアルキルアクリレートモノマー(各繰り返し単位);および
0.0~30.0重量%、好ましくは0.0~10重量%、より好ましくは0.0~8.0重量%の、少なくとも1種のモノビニル芳香族モノマー(各繰り返し単位)、例えばスチレン(ここで、全ての量は、アクリル系ポリマーAの総重量を基準とする)、
を含む(好ましくは、それらからなる)熱可塑性(メタ)アクリレートポリマーである。
【0047】
特に、アクリル系ポリマーAは、その総重量を基準として、50.0~100.0重量%、好ましくは70.0~100.0重量%、より好ましくは95.0~100.0重量%のMMAと、0.0~20.0重量%、好ましくは0.0~10.0重量%、より好ましくは0.0~5.0重量%のMMA以外のアルキル(メタ)アクリレートとを含む熱可塑性(メタ)アクリレートポリマーである。MMA以外のアルキル(メタ)アクリレートは、上記の好ましいアルキルメタクリレートおよびアルキルアクリレートのいずれかから実質的に選択され得る。例えば、アルキル(メタ)アクリレートは、MMAおよびエチルアクリレートからなるか、またはMMAおよびブチルアクリレートからなるか、またはMMAおよびブチルメタクリレートからなることができる。さらに好ましい実施形態では、アルキル(メタ)アクリレートは、MMAのみからなる。
【0048】
オレフィン系コポリマーB
本発明のポリマー組成物は、ポリマー組成物全体を基準として、0.5~12.0重量%、好ましくは1.0~10.0重量%、より好ましくは2.0~8.0重量%の少なくとも1種のオレフィン系コポリマーB、好ましくは、少なくとも1種のオレフィン系モノマーと、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のエステル、および不飽和カルボン酸の無水物から選択される少なくとも1種の極性モノマーとを含む(好ましくは、それらからなる)、少なくとも1種のポリオレフィン系グラフトコポリマーを含む。
【0049】
オレフィン系コポリマーBは、例えば、少なくとも1種の定義された極性モノマーでグラフトされたポリオレフィンなどの、分岐鎖状またはグラフト状のコポリマー、または少なくとも1種のオレフィン系モノマーおよび少なくとも1種の極性モノマーを含む単一主鎖からなる直鎖状コポリマー、例えば、統計コポリマー、交互コポリマー、グラジエントコポリマー、およびブロックコポリマーから選択されてもよい。
【0050】
例えば、エチレンと無水マレイン酸との交互コポリマーは公知であり、Vertellus Specialities Inc.社から、ZeMac(登録商標)E400として市販されている。例えば、エチレン、アクリル酸エステル、および無水マレイン酸のターポリマー、例えば、ランダムターポリマーが公知であり、SK Functional Polymer社よりLOTADER(登録商標)として市販されている。
【0051】
好ましい実施形態において、少なくとも1種のオレフィン系コポリマーBは、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のエステル、および不飽和カルボン酸の無水物から選択される少なくとも1種の極性モノマーでグラフトされた、少なくとも1種のポリオレフィン系ポリマー(ポリオレフィン骨格ポリマーとも呼ばれる)を含む(好ましくは、それらからなる)、少なくとも1種のポリオレフィン系グラフトコポリマーである。より好ましくは、少なくとも1種の極性モノマーは、不飽和カルボン酸の無水物から選択される。最も好ましくは、少なくとも1種の極性モノマーは、無水マレイン酸(MAH)である。
【0052】
好ましい実施形態において、オレフィン系コポリマーB、好ましくはポリオレフィン系グラフトコポリマーは、オレフィン系コポリマーBの重量を基準として、0.5~3.0重量%、好ましくは0.7~2.5重量%、さらにより好ましくは1.0~2.0重量%の少なくとも1種の極性モノマーを含む。
【0053】
好ましい実施形態において、本発明のポリマー組成物中のオレフィン系コポリマーBの、粒状グラフトコポリマーCに対する重量比は、0.4重量%/重量%以下、好ましくは0.3重量%/重量%以下、より好ましくは0.2重量%/重量%以下である。典型的には、ポリマー組成物中のオレフィン系コポリマーBの、粒状グラフトコポリマーCに対する重量比は、0.05重量%/重量%より大きく、好ましくは0.1重量%/重量%より大きく、より好ましくは0.13重量%/重量%より大きい。好ましくは、この文脈において、粒状グラフトコポリマーCは、40nm~600nmの範囲の体積平均粒子径を有する。
【0054】
好ましい実施形態において、ポリオレフィン系グラフトコポリマーは、グラフトポリマーの重量を基準として、0.5~3.0重量%、好ましくは0.7~2.5重量%、さらにより好ましくは1.0~2.0重量%の、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のエステル、および不飽和カルボン酸の無水物から選択された少なくとも1種の極性モノマーによってグラフトされた、好ましくは少なくとも1種の不飽和カルボン酸の無水物でグラフトされた、より好ましくは無水マレイン酸でグラフトされた、少なくとも1種のポリオレフィン系ポリマーを含む。
【0055】
本発明に関して、オレフィン系モノマーとは、少なくとも1個の炭素-炭素二重結合、好ましくは第1位、またはアルファ(α)位に位置する少なくとも1個の炭素-炭素二重結合を有し、かつ2個以上の炭素原子、好ましくは2~20個の炭素原子、より好ましくは2~8個の炭素原子を有するラジカル重合性炭化水素モノマーを意味する。
【0056】
本発明に関して、ポリオレフィンとは、少なくとも1種のオレフィン系モノマー、好ましくは少なくとも1種のα-オレフィン系モノマーを含み、少なくとも1個の炭素-炭素二重結合を有し、かつ2個以上の炭素原子、好ましくは2~20個の炭素原子、より好ましくは2~8個の炭素原子を有するホモポリマーまたはコポリマーを意味する。適切なポリオレフィンは:
-2個以上の炭素原子、好ましくは2~20個の炭素原子、より好ましくは2~8個の炭素原子を有するα-オレフィンのホモポリマーおよびコポリマー、例えば、ポリエチレン、高密度ポリエチレン(HDPE)、高密度および高分子量ポリエチレン(HDPE-HMW)、高密度および超高分子量ポリエチレン(HDPE-UHMW)、中密度ポリエチレン(LDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン、1-ポリブテン、1-ポリメチルペンテン、エチレン-プロピレンコポリマー、エチレン-1-ブテンコポリマー、エチレン-4-メチル-1-ペンテンコポリマー、エチレン-1-ヘキセンコポリマー、エチレン-1-オクテンコポリマー、エチレン-1-デセンコポリマー、プロピレン-1-ブテンコポリマー、プロピレン-4-メチル-1-ペンテンコポリマー、プロピレン-1-ヘキセンコポリマー、プロピレン-1-オクテンコポリマー、およびプロピレン-1-デセンコポリマー、プロピレン/イソブチレンコポリマー、またはそれらの混合物;
-2個以上の炭素原子、好ましくは2~20個の炭素原子、より好ましくは2~8個の炭素原子を有するα-オレフィンと、シクロオレフィン(例えば、シクロペンテンまたはノルボルネン)とのコポリマー;
-2個以上の炭素原子、好ましくは2~20個の炭素原子、より好ましくは2~8個の炭素原子を有するα-オレフィンと、ジオレフィン(例えば、ブタジエン、イソプレン、ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン)とのコポリマー、例えば、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー、プロピレン-ブタジエンコポリマー、イソブチレン-イソプレンコポリマー;
-2個以上の炭素原子、好ましくは2~20個の炭素原子、より好ましくは2~8個の炭素原子を有するα-オレフィンと、他のビニルモノマー(例えば、スチレン、(メタ)アクリルモノマー、または酢酸ビニル)とのコポリマー、例えば、エチレン-アルキルアクリレートコポリマー、エチレン-アルキルメタクリレートコポリマー、エチレン-酢酸ビニル(EVA)コポリマーなど、
から選択されてもよい。
【0057】
好ましい実施形態において、オレフィン系コポリマーBは、ポリオレフィン系グラフトコポリマーであり、ここで、ポリオレフィン系グラフトコポリマーのベースポリマーは、ポリエチレン(好ましくはHDPE、HDPE-HMW、HDPE-UHMW、MDPE、LDPE、LLDPE);ポリプロピレン;エチレンのコポリマー(好ましくはエチレン-プロピレンコポリマー、エチレン-1-ブテンコポリマー、エチレン-1-ヘキセンコポリマー、エチレン-1-オクテンコポリマー);プロピレンのコポリマー(好ましくはプロピレン-1-ヘキセンコポリマー、プロピレン-1-オクテンコポリマー、およびプロピレン-1-デセンコポリマー);およびポリスチレン(好ましくはsPS)から選択される。より好ましくは、グラフトコポリマーBのポリオレフィン系ベースポリマーは、ポリエチレンおよびポリプロピレンから選択され、より好ましくはポリエチレン、例えば、HDPE、HDPE-HMW、HDPE-UHMW、MDPE、LDPE、LLDPEから選択される。
【0058】
ポリオレフィン系グラフトコポリマーのポリオレフィンベースポリマー(またはポリオレフィン骨格ポリマーとも呼ばれる)は、一般的に公知の方法によって、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のエステル、および不飽和カルボン酸の無水物から選択される少なくとも1つの極性モノマーでグラフトされる。
【0059】
典型的には、不飽和カルボン酸、およびそれらの各無水物には、不飽和モノカルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、α-エチルアクリル酸、またはシアノアクリル酸)、不飽和ジカルボン酸(例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、ブテニルコハク酸)、およびそれらの置換誘導体が含まれ、ここで、置換誘導体、好ましくは、モノまたはジ置換誘導体は、C1~C3-アルキル置換誘導体;C6~C12-アリール置換誘導体、またはハロゲン置換誘導体(例えば、2-メチルマレイン酸、2-エチル-マレイン酸、2-フェニル-マレイン酸、2,3-ジメチルマレイン酸、クロロマレイン酸)であってもよい。
【0060】
不飽和カルボン酸またはその無水物の特に好ましい例としては、アクリル酸、メタクリル酸、α-エチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、クロロマレイン酸およびそれらの無水物が挙げられる。より好ましい例には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、およびそれらの無水物が含まれる。これらの酸および無水物の中で最も好ましいのは、マレイン酸および無水マレイン酸である。
【0061】
グラフト化は、前述のモノカルボン酸またはジカルボン酸のエステル、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノールなどのC1~C12アルコールとのエステルを用いて行ってもよい。好ましくは、不飽和カルボン酸のエステルは、アクリル酸およびメタクリル酸のエステル、例えば、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ブチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレートなどから選択されてよい。
【0062】
好ましい実施形態において、オレフィン系コポリマーBは、ポリオレフィン系グラフトコポリマーであり、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ブチルアクリレート、およびヒドロキシエチルアクリレートから選択される少なくとも1種(好ましくは厳密に1種)の極性モノマーによりグラフトされた;さらに好ましくは、マレイン酸、無水マレイン酸(MAH)、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、メチルメタクリレート(MMA)、エチルアクリレート(EA)、ブチルアクリレート(BA)、および非ヒドロキシエチルアクリレートから選択される少なくとも1種(好ましくは厳密に1種)の極性モノマーによりグラフトされた;最も好ましくは、無水マレイン酸(MAH)によりグラフトされた、少なくとも1種のポリオレフィンベースポリマーを含む(好ましくはそれらからなる)。
【0063】
また、ポリオレフィン系グラフトコポリマーは、上記の不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のエステル、および不飽和カルボン酸の無水物から選択される、2種以上の極性モノマーでグラフトされてもよい。さらに、ポリオレフィン系グラフトコポリマーは、スチレンなどの少なくとも1種のビニル芳香族モノマーと組み合わせた、上記の極性モノマーの少なくとも1種の極性モノマーでグラフトされてもよい。
【0064】
適切なポリオレフィン系グラフトコポリマーの例としては、BYK社/ドイツ国から入手可能なScona(登録商標)、および三菱ケミカル株式会社から入手可能なModic(登録商標)の特にPEタイプおよびPPタイプが挙げられる。
【0065】
典型的には、本発明において使用されるオレフィン系コポリマーB、好ましくはポリオレフィン系グラフトコポリマーは、2.16kgの荷重下で190℃(DIN ISO 1133)で測定された、0.5~50g/10分のメルトフローレート(MFR)を有する。
【0066】
オレフィン系コポリマーBは、ラジカル重合などの一般的に知られている重合技術、例えば乳化重合、溶液重合または塊状重合により製造することができる。ポリオレフィン系グラフトコポリマーは、様々な従来公知の方法を用いて、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸、そのエステルまたはその無水物とをグラフト共重合させることによって製造することができる。この製造方法は、例えば、例えば国際公開第2002/093157号に記載されるように、固相合成法によって実施することができる。さらに、他の公知の方法、例えば溶融法、溶媒法、または懸濁法も可能である。例えば、溶融法は、押出機等を用いてポリオレフィンを溶融させ、次いで、グラフトされるモノマーを溶融したポリオレフィンに添加することにより、ポリオレフィンを共重合させることを含む。
【0067】
粒状多相グラフトコポリマーC
本発明のポリマー組成物は、ポリマー組成物全体を基準として、5.0~40.0重量%、好ましくは10.0~36.0重量%、より好ましくは18.0~35.0重量%の、少なくとも1種の粒状多層グラフトコポリマーを含む。粒状多層グラフトコポリマーは、コアと少なくとも1種のシェルとを含み、少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレートを含む。典型的には、粒状多相グラフトコポリマーCは、エラストマーコアまたは少なくとも1種のエラストマー中間層を含む。
【0068】
本発明に関して、エラストマーコアまたはエラストマー層とは、ガラス転移温度Tg<20℃、好ましくはTg<0℃を有するポリマーまたはポリマー組成物から構成されるコアまたは層を意味する。
【0069】
この文脈における「粒状多相グラフトコポリマー」とは、少なくとも1種のコアと、1種以上のシェルとを含むコア-シェル構造を有する場合がある架橋グラフトコポリマーを意味する。
【0070】
グラフトコポリマーCの文脈で使用される「アルキル(メタ)アクリレート」、「モノビニル芳香族ビニルモノマー」、および「シアン化ビニルモノマー」の用語は、ポリマーAおよびDの文脈で上述したのと同じ意味を有する。
【0071】
好ましくは、粒状多相グラフトコポリマーCは、アクリル系ポリマーAおよび任意で更なるポリマー成分Dによって形成されるポリマーマトリックス中に分散される。幾つかの実施形態において、グラフトコポリマーCは、非凝集性単粒子の形態でポリマーマトリックス中にほぼ均一に分散され得る。しかしながら、他の実施形態において、粒子グラフトコポリマーCは、凝集体を形成してもよく、その際、前記凝集体は、ポリマーマトリックス中にほぼ均一に分散されている。
【0072】
粒状多相グラフトコポリマーCは、コア-シェル構造またはコア-シェル-シェル構造を有することが好ましい。
【0073】
好ましい実施形態において、粒状多相グラフトコポリマーCは、23℃の水中でDIN ISO 13321(2017)に準拠した光子相関分光法によって測定された、20~1,000nm、好ましくは50~500nm、より好ましくは100nm~400nmの体積平均粒子径を有する。この測定には、例えば、Beckman Coulter Inc.社製のレーザー回折粒径分析装置(例えば、粒径分析装置LS 13 320:Beckman Coulter社製)などの市販の機器を使用することができる。
【0074】
粒状多相グラフトコポリマーCは、公知の粒状耐衝撃性改質剤、例えばポリブタジエンコアをベースとする耐衝撃性改質剤または架橋ポリ(メタ)アクリレートコアをベースとする耐衝撃性改質剤から選択される場合がある。粒状多相グラフトコポリマーCは、コアと少なくとも1つの、好ましくは1種または2種のシェルとを含む多相構造を示す。典型的には、粒状多相グラフトコポリマーCは、少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレートを含み(好ましくは、それらからなり)、かつ任意に、モノビニル芳香族モノマー(例えばスチレン)および/またはシアン化ビニルモノマー(例えばアクリロニトリル)などの他のコモノマーを含む、硬質の外側シェルを有する。硬質の外側シェルは、アクリル系ポリマーAおよび任意の更なるポリマー成分D(例えば、以下に記載されるD1)によって形成されるポリマーマトリックスと同じまたは類似の屈折率を示すことが好ましい。
【0075】
多相グラフトコポリマーCは、ゴム相を呈するエラストマーコア、または1種以上のエラストマー内側シェルを含むことが好ましい。典型的には、エラストマー相またはゴム相は、ガラス転移温度Tg<20℃、好ましくはTg<0℃を示し、かつ例えば共役ジエンまたは架橋されたアルキル(メタ)アクリレート、好ましくは架橋されたC1~C10アルキル(メタ)アクリレートを含む架橋ポリマーに基づく。
【0076】
特に、Cのコアにおける共役ジエンは、少なくとも2個、好ましくは厳密に2個の共役炭素-炭素二重結合を含み、好ましくは合計4~12個の炭素原子、好ましくは4~8個の炭素原子を含む。例えば、適切な共役ジエンは、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、およびそれらの混合物から選択してもよい。共役ジエンモノマーは、1,3-ブタジエンまたはイソプレンであることが好ましく、1,3-ブタジエンであることがより好ましい。
【0077】
好ましい実施形態において、粒状多相グラフトコポリマーCは、ブタジエン系エラストマーコアを有し、ここで、ブタジエンは、スチレンおよび/またはブチルアクリレートと共重合されてもよい。好ましくは、グラフトコポリマーCは、ゴム相としてのブタジエン系コアと、少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレート、任意に少なくとも1種のモノビニル芳香族モノマー(例えば、スチレン)、および任意に少なくとも1種のシアン化ビニルモノマー(例えば、アクリロニトリル)のポリマーを含む硬質の外側シェルと、を含む(好ましくは、これらからなる)、粒状コア-シェル型グラフトコポリマーである。ブタジエン系コアは、ブタジエン系コアの重量を基準として、少なくとも65.0重量%、好ましくは少なくとも75.0重量%、より好ましくは少なくとも80.0重量%のポリブタジエン、および任意に0~20重量%の、好ましくはスチレンおよび/またはブチルアクリレートから選択される1種以上の更なるモノマーを含む。
【0078】
特に好ましい実施形態において、粒状多相グラフトコポリマーCは、シアン化ビニルモノマーを実質的に含まない。
【0079】
典型的には、粒状コア-シェル型グラフトコポリマーC中の、上記で定義したシアン化ビニルモノマーの含有量は、グラフトコポリマーCの重量を基準として、5.0重量%以下、好ましくは2.0重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下である。
【0080】
好ましい実施形態において、グラフトコポリマーCは、ゴム相としてのブタジエン系エラストマーコアを含み、かつ硬質の外側シェルとしてのアルキル(メタ)アクリレートおよび任意で芳香族ビニルモノマーを含むコポリマーを含む。粒状多相グラフトコポリマーCは:
ブタジエン系コアの重量を基準として、少なくとも65.0重量%、好ましくは少なくとも75.0重量%、より好ましくは少なくとも80.0重量%のポリブタジエンを含むブタジエン系コア;ならびに
外側シェルの重量を基準として、50.0重量%~100.0重量%、好ましくは60.0重量%~100.0重量%、より好ましくは65.0重量%~100.0重量%の、少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレート、例えばメチルメタクリレート、および
外側シェルの重量を基準として、0.0重量%~50.0重量%、好ましくは0.0重量%~40.0重量%、より好ましくは0.0重量%~35.0重量%の、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー、例えばスチレン、
を含む(好ましくは、それらからなる)ことが好ましい。
【0081】
本発明の1つの好ましい実施形態において、粒状多相グラフトコポリマーCは、ポリブタジエンコアを含み、粒状多相グラフトコポリマーの総重量を基準として、任意で他の共重合可能なモノマー、例えば2重量%までのブチルアクリレートを含み;17~22重量部のMMA、0~7重量部のスチレン、ならびに0~3重量部のエチルアクリレートおよび/またはブチルアクリレートでグラフトされている。典型的には、ポリブタジエンと他のモノマーとの重量比は、それぞれ約1:1~約4:1の範囲である。そのようなグラフトコポリマーは、例えば、米国特許第4,085,166号明細書に記載されている。対応する材料は、実質的にあらゆる公知の重合方法、例えば従来技術において一般的に使用されている開始剤および分子量調節剤を利用するフリーラジカル重合によって、製造することができる。
【0082】
別の好ましい実施形態によれば、粒状多相グラフトコポリマーCは、エラストマー架橋アルキル(メタ)アクリレートコアをベースとするグラフトコポリマー(以下、多相アルキル(メタ)アクリレートグラフトコポリマーとも言う)から選択される。
【0083】
このような多相アルキル(メタ)アクリレートグラフトコポリマーは、アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、任意の他の共重合可能なモノマーとを乳化重合、好ましくは順次に乳化重合することによって得られ、その際、得られるエマルションポリマー(グラフトコポリマーC)は、少なくとも1種のコアと、少なくとも1種、好ましくは1種または2種のシェルとを含む多相構造を有することが好ましい。
【0084】
例えば、多相アルキル(メタ)アクリレートグラフトコポリマーは、23℃の水中でDIN ISO 13321(2017)に準拠して光子相関分光法により測定した、20nm~500nm、好ましくは50nm~450nm、より好ましくは100nm~400nm、最も好ましくは150nm~350nmの体積平均粒子径を有する、コア-シェル構造、またはコア-シェル-シェル構造を有する架橋粒子によって形成されてもよい。
【0085】
好ましい一実施形態において、多相アルキル(メタ)アクリレートグラフトコポリマーは、軟質のエラストマーコア、および硬質の非エラストマー外側相を含み、コアの存在下で、典型的にはグラフト乳化重合により製造される(コア-シェルグラフトコポリマー)。
【0086】
別の好ましい実施形態において、多相アルキル(メタ)アクリレートグラフトコポリマーは、硬質の非エラストマーコア;コアの存在下で、典型的にはグラフト乳化重合により製造される、軟質のエラストマー中間シェル;および中間コアーシェル粒子の存在下で、典型的にはグラフト乳化重合により製造される、硬質の非エラストマー外側シェルを含む(コア-シェル-シェル型グラフトコポリマー)。粒状多相グラフトコポリマーCは、例えば架橋メチルメタクリレートから形成される硬質のコア;例えば架橋C1~C10アルキルアクリレート、好ましくはn-ブチルアクリレートから形成される軟質の中間シェル;および例えば、非架橋メチルメタクリレートから形成される硬質の外側シェルから構成されることが好ましい。前記コア-シェル-シェル型グラフトコポリマーは、欧州特許第1332166号明細書、国際公開第02/20634号、または欧州特許出願公開第0522351号明細書に記載の通りに製造されるのが典型的である。
【0087】
粒状多相グラフトコポリマーCの外側シェルは、少なくとも1種のC1~C6アルキルメタクリレートを、外側シェルを基準として少なくとも80重量%、好ましくはメチルメタクリレートを、外側シェルを基準として少なくとも80重量%含む硬質相であることが好ましい。
【0088】
粒状多相グラフトコポリマーCの総重量を基準として、少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも55重量%、より好ましくは少なくとも80重量%の外層は、軟質相、すなわちコア-シェルグラフトコポリマーの軟質コア、またはコア-シェル-シェル型グラフトコポリマーの中間シェルに共有結合されることが好ましい。典型的には、共有結合した外層(グラフトポリマー)の量(またはグラフト率とも言う)は、アセトンに不溶の量とする。
【0089】
粒状多相グラフトコポリマーCは、少なくとも1つのC1~C20アルキル(メタ)アクリレート、より好ましくはメチルメタクリレート、および/またはn-ブチルアクリレートを、グラフトコポリマーCを基準として、少なくとも60重量%、好ましくは少なくとも75重量%含むことが好ましい。
【0090】
一般的に、(メタ)アクリレートとしては、C1~C10-アルキル(メタ)アクリレート、C2~C20-アルケニル(メタ)アクリレート、C6~C20-アリール(メタ)アクリレート、C6~C20-アラルキル(メタ)アクリレート、C1~C10-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリコールジ(メタ)アクリレート、および多官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0091】
粒状多相グラフトコポリマーCは、好ましくはメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルメタクリレート、およびエチルヘキシルメタクリレートから選択される少なくとも1つのC1~C10アルキルメタクリレート、ならびにシクロヘキシルメタクリレートなどのシクロアルキルメタクリレートをも含むことが好ましい。
【0092】
粒状多相グラフトコポリマーCは、好ましくはメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、およびエチルヘキシルアクリレートから選択される少なくとも1種のC1~C10アルキルアクリレート、ならびにシクロヘキシルアクリレートなどのシクロアルキルアクリレートをも含むことが好ましい。
【0093】
好ましい実施形態において、粒状多相グラフトコポリマーCは、エラストマー架橋アルキル(メタ)アクリレートコアをベースとするグラフトコポリマーから選択され、かつ:
少なくとも40重量%、好ましくは40~70重量%の、少なくとも1種のC1~C10、好ましくはC1~C6アルキルメタクリレート、好ましくはメチルメタクリレート;
5~45重量%、好ましくは20~45重量%、好ましくは25~42重量%の、少なくとも1種のC1~C10アルキルアクリレート、好ましくはエチルアクリレート、メチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、およびブチルメタクリレートから選択されるC1~C6アルキルアクリレート、より好ましくは、n-ブチルアクリレートを含むC1~C10アルキルアクリレート;
0~2重量%、好ましくは0.1~2重量%、より好ましくは0.5~1重量%の、少なくとも1種の架橋モノマー、好ましくは多官能性(メタ)アクリレート、および/またはアリル(メタ)アクリレート;および
0~15重量%、好ましくは0~10重量%、より好ましくは0.5~5重量%の、好ましくは前記モノマーとは異なる任意の更なるモノマー、例えば、スチレン、ベンジルメタクリレートなどのビニル芳香族モノマー、
を含む(好ましくは、それらからなる)。
【0094】
これらの量は、モノマーの全重量を基準として示される。
【0095】
粒状多相グラフトコポリマーCは、硬質相および軟質相の反射指数の差を調整するために、ビニル芳香族モノマー、例えばスチレンおよび/またはC7~C20アラルキル(メタ)アクリレート、例えばベンジルメタクリレートを含むことが好ましい。使用可能なビニル芳香族モノマーは、スチレン、側鎖にアルキル置換基を有する置換スチレン、例えば、α-メチルスチレンおよびα-エチルスチレン、環上にアルキル置換基を有する置換スチレン、例えばビニルトルエンおよびp-メチルスチレン、ならびにハロゲン化スチレン、例えばモノクロロスチレン、ジクロロスチレン、トリブロモスチレン、およびテトラブロモスチレンなどである。
【0096】
典型的には、架橋モノマーは、分子内に2個以上の重合可能な二重結合を有する。架橋モノマーは、二官能性(メタ)アクリレート、三官能性または多官能性(メタ)アクリレート、および他の公知の架橋剤、例えばアリルメタクリレート、アリルアクリレート、およびジビニルベンゼンから選択されてもよい。
【0097】
例えば、二官能性(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸と多官能性アルコールとのジエステル、例えば、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、エイコサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ドデカエチレングリコール、テトラデカエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピルグリコール、テトラデカプロピレングリコールのジ(メタ)アクリレートである。例えば、三官能性、または多官能性(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸と多官能性アルコールとの三官能性、またはマルチエステル、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、およびペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートである。適切な架橋モノマーは、例えば国際公開第02/20634号、および欧州特許出願公開第0522351号明細書に記載されている。
【0098】
粒状多相グラフトコポリマーCは、エチレングリコールメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、およびアリル(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種の架橋モノマーを含むことが好ましい。架橋モノマーは、アリルメタクリレートであることがより好ましい。
【0099】
好ましい実施形態において、粒状多相グラフトコポリマーCは:
C-A2)グラフトコポリマー全体を基準として、5~40重量%の硬質の非エラストマーコアC-A2であって、50℃超のガラス転移温度Tgを有し、
C-A2.1)CA-2を基準として、80~100重量%の、少なくとも1種のC1~C6アルキルメタクリレート、好ましくはメチルメタクリレート;
C-A2.2)CA-2を基準として、0~20重量%の、少なくとも1種の更なるエチレン性不飽和フリーラジカル重合性モノマー;および
C-A2.3)CA-2を基準として、0~5重量%の、2種以上のエチレン性不飽和基を有する少なくとも1種の架橋モノマー、
から構成される硬質の非エラストマーコアCA-2;
C-B2)グラフトコポリマー全体を基準として、20~75重量%の軟質のエラストマー中間シェルC-B2であって、0℃未満のガラス転移温度Tgを有し、
C-B2.1)B2を基準として、45~99.5重量%の、少なくとも1種のC1~C10アルキルアクリレート、好ましくはn-ブチルアクリレート;
C-B2.2)B2を基準として、0.5~5重量%の、2種以上のエチレン性不飽和基を有する少なくとも1種の架橋モノマー;および
C-B2.3)B2を基準として、0~50重量%の、少なくとも1種の更なるエチレン性不飽和フリーラジカル重合性モノマー、好ましくは芳香族基を有するモノマー;ならびに
C-C2)グラフトコポリマー全体を基準として、15~60重量%の硬質の外側シェルC-C2であって、50℃超のガラス転移温度Tgを有し、
C-C2.1)C-C2を基準として、80~100重量%、好ましくは90~100重量%の、少なくとも1種のC1~C6アルキルメタクリレート、好ましくはメチルメタクリレート;および
C-C2.2)C-C2を基準として、0~20重量%、好ましくは0~10重量%の少なくとも1種の更なるエチレン性不飽和フリーラジカル重合性モノマー、
を含む(好ましくは、それらからなる)、コア-シェル-シェル型グラフトコポリマーである。
【0100】
硬質の外側シェルC-C2の少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも25重量%が、軟質のエラストマーの中間シェルC-B2に共有結合していることが好ましい。
【0101】
好ましいグラフトコポリマーCは、多層コア-シェル構造を有してもよいポリマー粒子であり、例えば、欧州特許出願公開第0113924号明細書、欧州特許出願公開第0522351号明細書、欧州特許出願公開第0465049号明細書、および欧州特許出願公開第0683028号明細書に記載されている乳化重合によって得られる。
【0102】
任意のポリマー成分D
本発明のポリマー組成物は、アクリル系ポリマーA、オレフィン系コポリマーB、および粒状多相グラフトコポリマーCとは異なる、1種以上の任意のポリマー成分Dを含む場合がある。典型的には、任意のポリマー成分Dは、ポリマー組成物全体を基準として、0.0~50.0重量%、好ましくは1.0~30.0重量%、より好ましくは2.0~20.0重量%、また好ましくは4.0~15.0重量%、また好ましくは4.0~10重量%の量で存在してよい。任意のポリマー成分Dは、アクリル系ポリマーAと均質に混合することができ、かつアクリル系ポリマーAと一緒にポリマーマトリックスを形成することができるポリマーから選択されることが好ましい。
【0103】
好ましい実施形態によれば、本発明のポリマー組成物は:
少なくとも1種のモノビニル芳香族成分、好ましくはスチレンと、少なくとも1種のカルボン酸無水物成分、好ましくは無水マレイン酸とを含むコポリマーD1;および
少なくとも1種のモノビニル芳香族モノマー、好ましくはスチレンと、少なくとも1種のシアン化ビニルモノマー、好ましくはアクリロニトリルとを含むコポリマーD2、
から選択される少なくとも1種の更なるポリマー成分Dを、ポリマー組成物全体を基準として、50.0重量%まで、好ましくは1.0~50.0重量%、より好ましくは2.0~20.0重量%含む。
【0104】
好ましい実施形態において、本発明のポリマー組成物は、ポリマー成分Dとして、少なくとも1種のモノビニル芳香族モノマー、および少なくとも1種のカルボン酸無水物モノマーを含むコポリマーD1を、ポリマー組成物全体を基準として、0~20重量%、好ましくは2.0~20.0重量%、より好ましくは4.0~15.0重量%含む。
【0105】
任意のコポリマーD1は:
コポリマーD1の重量を基準として、65.0重量%~90.0重量%、好ましくは70.0重量%~90.0重量%、より好ましくは72.0重量%~85.0重量%、さらにより好ましくは75.0重量%~80.0重量%の、少なくとも1種のモノ芳香族ビニルモノマー、好ましくはスチレン;および
コポリマーD1の重量を基準として、10.0重量%~35.0重量%、好ましくは10.0重量%~30.0重量%、より好ましくは15.0重量%~28.0重量%、さらにより好ましくは20.0重量%~25.0重量%の少なくとも1種のカルボン酸無水物モノマー、好ましくは無水マレイン酸、
のコポリマーであることが好ましい。
【0106】
そのようなコポリマーD1は、一般にスチレン-無水マレイン酸(SMAH)樹脂として知られており、様々な製造業者から市販され、例えば、Polyscope社(Geleen、オランダ国)から市販されているXiran(登録商標)タイプなどが挙げられる。
【0107】
別の好ましい実施形態において、本発明のポリマー組成物は、成分Dとして、少なくとも1種のモノビニル芳香族モノマー、と少なくとも1種のシアン化ビニルモノマー(コポリマーD2)とを含む、少なくとも1種のコポリマーを含む。好ましい実施形態によれば、本発明のポリマー組成物は、更なるポリマー成分Dとして、少なくとも1種のモノビニル芳香族モノマー、および少なくとも1種のシアン化ビニルモノマーを含むコポリマーD2を、ポリマー組成物全体を基準として、0から20重量%、好ましくは20.0~20.0重量%、より好ましくは4.0から13.0重量%、最も好ましくは4.0~10.0重量%含む。
【0108】
そのようなコポリマーD2は、一般にスチレン-アクリロニトリル(SAN)樹脂として知られており、様々な製造業者から市販され、例えばINEOS Styrolution Group GmbH(フランクフルト、ドイツ国)から市販されているLuran(登録商標)タイプ、またはTrinseo S.A.(ルクセンブルク)から市販されているTYRIL(登録商標)タイプなどが挙げられる。
【0109】
コポリマーD2の製造は、SAN樹脂の製造について記載された実質的にあらゆる公知の重合方法、例えば塊状重合、溶液重合、乳化重合またはビーズ重合により実施することができる。
【0110】
実質的には、あらゆる分子量のコポリマーD1および/またはD2を使用してもよいが、60,000g/モル~300,000g/モル、好ましくは100,000g/モル~250,000g/モルの重量平均分子量Mwを有するコポリマーD1および/またはD2の使用が、組成物の機械的特性の点で特に有利であることが明らかとなった。コポリマーD1の重量平均分子量Mwは、PMMA標準を用いたGPCによって測定してもよい。
【0111】
典型的には、コポリマーD1およびD2におけるモノビニル芳香族モノマーは、アクリル系ポリマーAに関して前記したモノビニル芳香族モノマーの1種と同じである。任意のコポリマーD1に使用するのに適したモノビニル芳香族モノマーは、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン、4-n-プロピル-スチレン、tert-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、ビニルトルエン、およびそれらの混合物である。好ましい実施形態において、モノビニル芳香族モノマーは、スチレンおよび/またはα-メチルスチレンであり、モノビニル芳香族モノマーは、スチレンであることがより好ましい。
【0112】
本発明、特にコポリマーD2に使用するための適切なシアン化ビニルモノマーの例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル、フマロニトリルなどが挙げられる。これらは、単独でまたは混合物として使用してもよい。例えば、シアン化ビニルモノマーは、アクリロニトリルおよび/またはメタクリロニトリルでもよい。シアン化ビニルモノマーは、アクリロニトリルであることがより好ましい。
【0113】
任意の更なる成分E
本発明のポリマー組成物は、任意で、好ましくは、一般に知られている添加剤、助剤および/または充填剤などの非ポリマー成分から選択される、1種以上の更なる成分Eを含む場合がある。典型的には、更なる成分Eは、ポリマー組成物全体を基準として、0.0~15.0重量%、好ましくは0.0~10.0重量%、より好ましくは0.0001~5.0重量%、また好ましくは0.001~2.0重量%の量で存在してよい。
【0114】
本発明のポリマー組成物は、慣用の添加剤、助剤、および/または充填剤、例えば、熱安定剤、加工安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、ガンマ線安定剤、酸化防止剤、特に可溶性または不溶性の染料または着色剤、および可塑剤を任意に含有してよいが、ただし、本発明による組成物の特性は、これらの添加剤によって悪影響を受けないものとする。
【0115】
適切な紫外線吸収剤は、例えば、ヒドロキシル基および/またはアルコキシ基などの置換基が一般的に2位および/または4位に存在するベンゾフェノンの誘導体であってよい。これらとしては、2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノンが挙げられる。
【0116】
特に適切な紫外線吸収剤としては、例えば、一般式(III):
【化1】
[式中、R
4、R
5およびR
6は、独立して、水素またはC
1~C
12-アルキルから選択される]
で表されるベンゾトリアゾールが挙げられる。
【0117】
本発明における使用に特に適した化合物(III)の例としては、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチル-フェニル)ベンゾトリアゾール(Tinuvin(登録商標)Pの名称でBASF SE社(Ludwigshafen、ドイツ国)から市販されている)、または2-(2’-ヒドロキシ-3’-ドデシル-5’-メチル-デシル)ベンゾトリアゾールが挙げられる。
【0118】
特に好ましい紫外線吸収剤の更なる例としては:
【化2】
のヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール誘導体が含まれる。
【0119】
さらに、追加の紫外線吸収剤としての使用に適した置換ベンゾトリアゾールとしては、特に、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ジ(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3-sec-ブチル-5-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、および2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが挙げられる。
【0120】
同様に使用可能な紫外線吸収剤は、エチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、2-エトキシ-2’-エチルオキサル酸ビスアニリド、2-エトキシ-5-tert-ブチル-2’-エチルオキサル酸ビスアニリド、および置換フェニルベンゾエートである。
【0121】
紫外線吸収剤は、低分子量化合物としてポリマー組成物中に存在することができる。しかしながら、マトリックスポリマー分子中の紫外線吸収性基もまた、重合可能な紫外線吸収性化合物、例えば、ベンゾフェノン誘導体もしくはベンゾトリアゾール誘導体のアクリル誘導体、メタクリル誘導体、またはアリル誘導体との共重合後に共有結合されている場合がある。
【0122】
当業者には容易に理解されることだが、化学的に異なる紫外線吸収剤の混合物が使用される場合もある。
【0123】
ポリマー組成物中の紫外線吸収剤の全含有量は、典型的には、本発明のポリマー組成物の全重量を基準として、0.01重量%~1.0重量%、特に0.01重量%~0.5重量%、特に0.02重量%~0.2重量%の範囲にある。
【0124】
適切なフリーラジカルスカベンジャー/紫外線安定剤の例としては、とりわけ、HALS(Hindered Amine Light Stabilizer)の名称で知られている立体障害アミンが挙げられる。それらは、仕上げおよびプラスチック、特にポリオレフィンプラスチックにおける老化プロセスを抑制するために使用することができる(Kunstoffe [Plastics]、 74 (1984) 10、第620頁~第623頁;Farbe + Lack [Paints + Finishes]、96th year 9/1990、第689頁~第693頁)。HALS化合物中に存在するテトラメチルピペリジン基により、その安定化効果が得られる。この種の化合物は、非置換であってもよいし、ピペリジン窒素上でアルキル基またはアシル基によって置換されていてもよい。立体障害アミンは、紫外線範囲では吸収しない。立体障害アミンは形成されたフリーラジカルを捕捉するが、一方、紫外線吸収剤にはそれはできない。
【0125】
安定化作用を有し、混合物としても使用可能なHALS化合物の例としては:ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、8-アセチル-3-ドデシル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3-8-トリアザスピロ(4,5)デカン-2,5-ジオン、コハク酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)、ポリ(N-β-ヒドロキシエチル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジンコハク酸エステル)、およびセバシン酸ビス(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルが挙げられる。
【0126】
フリーラジカルスカベンジャー/UV安定剤は、本発明による組成物中で、全ての成分の合計を基準として、0.01重量%~1.5重量%の量で、特に0.02重量%~1.0重量%の量で、特に0.02重量%~0.5重量%の量で使用される。
【0127】
成形材料の射出金型への付着の可能性を低減または完全に防止し得る潤滑剤および離型剤は、射出成形プロセスにとって重要であり、使用されてもよい。
【0128】
例えば、20個未満、好ましくは16~18個の炭素原子を有する飽和脂肪酸からなる群から選択される潤沢剤、または20個未満、好ましくは16~18個の炭素原子を有する飽和脂肪アルコールから選択される潤沢剤が、任意の更なる成分Eとして存在していてもよい。例えば、ステアリン酸、ステアリルアルコール、パルミチン酸、パルミチン酸アルコール、ラウリン酸、乳酸、グリセロールモノステアレート、ペンタエリスロル、およびステアリン酸とパルミチン酸との工業用混合物が挙げられる。また、n-ヘキサデカノール、n-オクタデカノール、およびn-ヘキサデカノールとn-オクタデカノールとの工業用混合物も適している。特に好ましい潤滑剤または離型剤は、ステアリルアルコールである。
【0129】
潤滑剤は、典型的には、ポリマー組成物の重量を基準として、0.35重量%以下、例えば、0.05重量%~0.25重量%の量で使用される。
【0130】
さらに、組成物が少なくとも1種の可塑剤を任意の更なる成分Eとして含む場合、耐クレーズ性および耐薬品性をさらに改善することができる。可塑剤自体は、当業者によく知られており、例えば、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, 2012, Plasticisers, D. F. Cadogan等に記載されている。本発明の目的のために、可塑剤は、通常、100g/モル~200,000g/モルの分子量および40℃以下の融点を有する。本発明の成形組成物において可塑剤としてポリマー化合物が使用される場合、そのようなポリマー化合物は、理想的には、ISO 11357-2:2013規格にしたがって測定されたガラス転移温度Tgが40℃以下であるべきである。さらに、可塑剤の存在がポリマー組成物の光学的特性に悪影響を及ぼさないようにするために、可塑剤は、成形組成物と混和可能であるべきである。
【0131】
特に適切な可塑剤の例としては、特に、500~15,000g/モルの分子量を有するポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル(例えば、BASF SE社(Ludwigshafen、ドイツ国))から異性体の混合物として市販されているHexamoll(登録商標)DINCH(商品名))、およびアジピン酸ポリエステル(例えば、Lanxess社(Leverkusen、ドイツ国)から異性体の混合物として市販されているUltramoll(登録商標)IV(商品名))が挙げられる。典型的には、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステルは、異性体の混合物であり、通常、イソノニルアルコール残基の全重量を基準として、10重量%のn-ノニルアルコール、35~40重量%のメチルオクチルアルコール、40~45重量%のジメチルヘプチルアルコール、および5~10重量%のメチルエチルヘキシルアルコールを含む。添加剤のうち、例えば紫外線吸収剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、および可塑剤、例えばアジピン酸ポリエステルの幾つかは、ガンマ線露光下およびガンマ線露光後の色安定性も改善し得る。
【0132】
可塑剤は、典型的には、ポリマー組成物の重量を基準として0.01重量%~5.0重量%、好ましくは0.05重量%~3.0重量%の量で使用される。
【0133】
本発明の文脈において、以下に記載される成分c1)、c2)、c3)および/またはc4)の添加も特に有用であることが明らかとなった。
【0134】
成分c
1)は、一般式(I):
【化3】
[式中、
R
1およびR
2は:C
1~C
12-アルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、1-メチルエチル、n-ブチル、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチル、n-ペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、1,2-ジメチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、2,2-ジメチルプロピル、1-エチルプロピル、n-ヘキシル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1,1,2-トリメチルプロピル、1,2,2-トリメチルプロピル、1-エチルブチル、2-エチルブチル、1-エチル-2-メチルプロピル、n-ヘプチル、1-メチルヘキシル、2-メチルヘキシル、3-メチルヘキシル、4-メチルヘキシル、5-メチルヘキシル、1-エチルペンチル、2-エチルペンチル、1-プロピルブチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、およびドデシル、好ましくは1位(α)に分岐を有するC
3-C
12-アルキル基、特にC
3~C
7-アルキル基、例えば1-メチルエチル、1-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチル、1-メチルブチル、1,2-ジメチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、1-エチルプロピル、1-メチルペンチル、1-1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、1,1-ジメチルブチル、1,1,2-トリメチルプロピル、1,2,2-トリメチルプロピル、1-エチルブチル、1-エチル-2-メチルプロピル、1-メチルヘキシル、1-エチルペンチル、および1-プロピルブチル、および1,1,3,3-テトラメチルブチル、1,1,2,2,5,5-ヘキサメチルヘキシル;
C
5~C
8-シクロアルキル、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、およびシクロオクチル、好ましくはシクロヘキシル;
C
6~C
10-アリールおよびC
6~C
100-アリール-C
1~C
4-アルキルであって、アリール基はC
1~C
4-アルキル、例えばフェニル、ナフチル、または2,2-ジメチルベンジルによって三置換までされていてよく、R
3は水素およびC
1~C
4-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチルおよびtert-ブチル、好ましくは水素およびメチルを表す]
のトリアリールホスフィットを示す。
【0135】
化合物(I)の例は、市販のトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフィット(BASF SE社(Ludwigshafen、ドイツ国)から市販されているIRGAFOS(登録商標)168)およびトリス(ノニルフェニル)ホスフィット、好ましくはトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフィットである。
【0136】
成分c
2)は、一般式(IV):
AB
k (IV)
[式中、kは、1、2または4を表し、かつkが1である場合、Aは、-COOR
7、-CONHR
7、
【化4】
[式中、R
7は、C
1~C
21-アルキルを表す]を表し、
kが2である場合、Aは、-CONH-(CH
2)
n-CONH-、
【化5】
[式中、pおよびmは、1~10の整数を示す]を表し、かつkが4である場合、Aは、
【化6】
[式中、qは、1~4の整数を表す]を表し、かつ
Bは、
【化7】
[式中、R
8およびR
9は、水素、メチルまたはtert-ブチルを表す]
のフェノールを示す。
【0137】
成分c3)の添加により、耐応力割れ性をさらに改善することができる。
【0138】
本発明に関して特に重要な化合物c
3)の例は、オクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート(BASF SE社(Ludiwigshafen、ドイツ国)から市販されているIrganox(登録商標)1076)、および
【化8】
である。
【0139】
さらに、以下の安定剤:
【化9】
の成分c
4)としての使用が特に有利であることが示された。
【0140】
また、チオエーテルまたは有機ジスルフィド、およびスルフィド、例えばジ-tert-ドデシルジスルフィド、ジ-tert-ブチルジスルフィド、ジ-tert-ドデシルジスルフィドも、この目的のために有利に使用することができる。
【0141】
【0142】
成分c1)、c2)、c3)およびc4)は、風化後の耐応力割れ性の改善に関して相乗効果を達成するために、混合物として使用されることが好ましい。
【0143】
成分c1)~c3)の好ましい量は、いずれの場合にも、ポリマー成分A、B、およびC、ならびに任意にDおよび/またはFの総重量を基準として、0.01重量%~1.0重量%、好ましくは0.01重量%~0.1重量%の範囲にある。成分c4)の好ましい量は、典型的には、ポリマー成分A、B、およびC、ならびに任意にDおよび/またはFの総重量を基準として、0.01重量%~2.0重量%、好ましくは0.05重量%~1.0重量%である。
【0144】
任意の更なる耐衝撃性改質剤F
任意に、本発明のポリマー組成物は、前述の粒状多相グラフトコポリマーCに加え、成分Fとして1種以上の更なる耐衝撃性改質剤を含んでもよい。例えば、任意の更なる耐衝撃性改質剤は、いわゆる熱可塑性耐衝撃性改質剤、特に、本発明のポリマー組成物内、特にアクリル系ポリマーAによって形成されたポリマーマトリックス内に、別個のドメインを形成する熱可塑性耐衝撃性改質剤から選択することができる。典型的には、更なる耐衝撃性改質剤Fは、ポリマー組成物全体を基準として、0.0~40.0重量%、好ましくは0.0~35.0重量%、より好ましくは5.0~40.0重量%、また好ましくは10.0~35.0重量%の量で存在する場合がある。
【0145】
一般的に、熱可塑性耐衝撃性改質剤は、粒状耐衝撃性改質剤とは異なる作用機序を有する。熱可塑性耐衝撃性改質剤は一般に、マトリックス材料と混合される。例えばブロックコポリマーを使用する場合に起こるように、ドメインが形成される場合には、例えば電子顕微鏡法により測定されるこれらのドメインの好ましいサイズは、コア-シェル粒子の好ましいサイズに対応する。
【0146】
様々な種類の熱可塑性耐衝撃性改質剤が存在する。例えば、Covestro AG社から市販されているDesmopan(登録商標)製品のような脂肪族熱可塑性ポリウレタン(TPU)を使用することができる。例えば、Desmopan(登録商標)WDP85784A、WDP85092A、WDP89085AおよびWDP89051DなどのTPUは、いずれも1.490~1.500の屈折率を有し、耐衝撃性改質剤として特に適している。
【0147】
更なる耐衝撃性改質剤Fとして使用するための更なる種類の熱可塑性ポリマーは、メタクリレート-アクリレートブロックコポリマー、特にPMMA-ポリ-n-ブチルアクリレート-PMMAトリブロックコポリマーを含むアクリルTPEであり、これらは、クラリティ(登録商標)の商品名でクラレ社から市販されている。ポリ-n-ブチルアクリレートブロックは、ポリマーマトリックスにおいて10nm~20nmの大きさのナノドメインを形成する。
【0148】
更なる耐衝撃性改質剤Fとして使用するための更なる種類のポリマーは、ポリマーマトリックスに任意に含まれるスチレン-ブタジエンブロックコポリマー(SBC)に基づき、アクリル酸-スチレンコポリマー(例えば、Ineos Styrolution社製のZylar(登録商標))、およびエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、またはグラフトEPDM、例えばアクリル系ポリマーマトリックスでグラフトされたEPDMなどが挙げられる。
【0149】
好ましい実施形態によれば、本発明のポリマー組成物は、ポリマー組成物全体を基準として5.0~40.0重量%、好ましくは10.0~35.0重量%の少なくとも1種の更なる耐衝撃性改質剤F、好ましくは脂肪族熱可塑性ポリウレタン(TPU)、メタクリレート-アクリレートブロックコポリマー、スチレン-ブタジエンブロックコポリマー(SBC)、およびエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)などの熱可塑性耐衝撃性改質剤から選択される。
【0150】
ポリマー組成物の特性
既に記載したように、本発明のポリマー組成物は、一般的な消毒剤、特にアルコールまたは水/アルコール混合物、油および脂肪の存在下で、優れた耐応力割れ性を有する。特に本発明のポリマー組成物は、油および脂肪、例えば大豆油、グリセリンおよび/または水を含むエマルション、ならびにリン脂質などの乳化剤の存在下で、改善された耐応力割れ性を示す。例えば、油および脂肪の試験液は、Fresenius Kabi Austria GmbH社から市販されているIntralipid(登録商標)エマルションであってよい。
【0151】
さらに、本発明のポリマー組成物は、優れた透明性、および実質的に濁りのない魅力的な外観を有する。好ましい実施形態において、ポリマー組成物は、厚さ3mmの射出成形試験片について23℃で測定した、70%以下、好ましくは60%以下、また好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下の、ASTM D1003(2013)規格に準拠したヘイズを有する。
【0152】
さらに、本発明のポリマー組成物は、一般的な消毒剤、油および脂肪の存在下においても優れた透明性を維持し、これらの条件下におけるヘイズの上昇が特に少ない高分子組成物である。典型的には、厚さ3mmの試験片を、イソプロパノール-水混合物(イソプロパノール:63.0重量%、水:37.0重量%)に対して、23℃で少なくとも48時間、好ましくは23℃で72時間、より好ましくは23℃で96時間暴露した場合、ヘイズの増加は40%以下、好ましくは25%以下、さらにより好ましくは20%以下である。
【0153】
さらに、本発明のポリマー組成物は、厚さ3mmの射出成形試験片について23℃で測定した、40~93%の範囲、特に65~92%の範囲の、DIN 5033-7(2014)に準拠した光透過率TD65を示す。
【0154】
DIN 6167(1980)(D65光源、3mmの層厚さにおいて10°)に準拠して測定可能な本発明のポリマー組成物の黄色度指数は、厚さ3mmの射出成形試験片を用いて測定した場合、好ましくは、15未満、好ましくは8未満(着色されていないポリマーにおいて典型的)であるべきである。
【0155】
本発明のポリマー組成物の、ISO 306-B50(2014)に準拠したビカット軟化温度は、有利には、少なくとも60℃、好ましくは少なくとも70℃、より好ましくは少なくとも75℃である。
【0156】
本発明のポリマー組成物の、ISO 527(2012)に準拠した公称破断伸びは、好ましくは少なくとも3.0%、特に好ましくは少なくとも5.0%であることが好ましい。
【0157】
本発明のポリマー組成物の、ISO 527(2012)に準拠した弾性率は、有利には1,500MPa超、好ましくは1,700MPa超である。
【0158】
その有利なレオロジー特性のために、本発明のポリマー組成物は、射出成形による医療用物品の製造に非常に適している。本発明の組成物は、概して、ISO 1133(2012)に準拠して230℃および5.0kgで測定された、0.3cm3/10分を上回る、好ましくは0.5cm3/10分を上回る、より好ましくは0.7cm3/10分を上回る、最も好ましくは1.0~12.0cm3/10分の範囲のメルトボリュームフローレートを有する。
【0159】
本発明のポリマー組成物は:
(i)少なくとも60℃、好ましくは少なくとも70℃、より好ましくは少なくとも75℃の、ISO 306-B50(2014)に準拠したビカット軟化温度;
(ii)少なくとも3.0%、特に好ましくは少なくとも5.0%の、ISO 527(2012)に準拠した公称破断伸び;
(iii)1,500MPa超、好ましくは1,700MPa超の、ISO 527(2012)に準拠した弾性率;
(iv)厚さ3mmの射出成形試験片について23℃で測定した、少なくとも40%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%の、DIN 5033-7(2014)に準拠した光透過率(TD65)、
の特性のうちの1つ以上を有することが好ましい。
【0160】
組成物および成型品の製造
さらに、本発明は、成分A、B、C、ならびに任意にD、Eおよび/またはFを混合すること、好ましくは、成分A、B、C、ならびに任意にD、Eおよび/またはFを溶融混合することを含む、前述の本発明のポリマー組成物を製造する方法に関する。
【0161】
本発明の組成物は、前述の成分を乾式混合することによって調製することができ、該成分は、粉末、粒子、または好ましくはペレットとして存在してもよい。
【0162】
本発明の組成物はまた、成分BおよびCを、同時にまたは連続的に、ポリマーA、ならびに場合によりDおよび/またはFの溶融物中に混合することによって製造することもできる。組成物はまた、各成分を溶融し、かつ溶融状態の各成分を混合することで、または各成分の乾燥プリミックスを溶融し、すぐに使用できる成形材料を得ることで、製造することもできる。これらの方法は、例えば、一軸スクリューまたは二軸スクリュー押出機を用いて実施することができる。次いで、得られた押出物を造粒してもよい。慣用の添加剤、助剤および/または充填剤は、直接混合してもよいし、後に必要に応じて、最終使用者によって添加されてもよい。
【0163】
本発明による組成物は、改善された耐薬品性および耐応力割れ性を有し、かつ透明である、例えば医療用成形品の製造のための出発材料として適している。組成物の形成は、それ自体公知の方法、例えば、弾粘性状態を経由する処理、すなわち、混練、圧延、カレンダリング、押出または射出成形、押出および射出成形による処理などの方法によって行うことができ、ここでは、射出成形が特に好ましい。
【0164】
組成物の射出成形は、それ自体公知の方法により、220℃~280℃(溶融温度)の範囲の温度、および好ましくは60℃~90℃の金型温度で行うことができる。
【0165】
押出は、好ましくは220℃~280℃の温度で行われる。
【0166】
本発明の更なる態様は、特に高い耐薬品性および薬品に対する耐応力割れ性(chemical stress cracking resistance)が必要とされる用途のための、前記ポリマー組成物を含む成形品に関する。
【0167】
特に好ましい実施形態において、成形品は、医療装置、好ましくは使い捨て医療装置であり、例えば、医療診断装置、点滴およびカテーテル付属物、血液取扱装置、胸部ドレナージユニット、呼吸換気装置、医療用フィルターハウジング、常設装置ハウジング、チューブ、コネクタ、取付器具、およびキュベットから選択される。前記装置としては、ルアーロック、Yサイト、スパイク、取付器具、ノズル、保護キャップおよびカバー、血漿分離器、収集および検体容器、ニードルハブおよびアダプター、カテーテル付属品、胸腔ドレナージユニット、バルブアセンブリ、メーターハウジング、フローコントロール、フィルターハウジング、点滴チャンバー、静脈アダプター、ヤンカウアー、剛性チューブ、診断キュベット、診断テストパック、診断ローター、光学センサービューポート、マイクロ流体装置、ブラケオセラピー(bracheotherapy)ニードルハブ、吸入マウスピース、ならびにスペーサーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0168】
特に好ましい実施形態において、成型品は、家庭用品の部品、通信機器の部品、電子部品、趣味用器具の部品、スポーツ用品の部品、園芸用品の部品、自動車、船舶または航空機の外内装部品、自動車、船舶または航空機の建造で使用される本体部品、衛生および浴用備品の部品から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【
図1】
図1は、実験例に記載される薬品に対する耐応力割れ性の試験の構成を示す図である。半径rの曲面を有する曲がり治具(3)に、厚さhを有する試験片(2)を固定し、試験片(2)は、2つのクランプ(1)を介して固定される。ε
xは、表面の公称歪みである。
【
図2】
図2は、曲がり治具(3)上に2つのクランプ(1)で固定された試験片(2)の形状を示す図である。
【0170】
以下の実施例は、本発明をより詳細に説明するが、本発明の概念を制限するものではない。
【0171】
実施例
I.ポリマー組成物の製造
実施例1~12のポリマー組成物を、各成分の乾燥配合物からタンブリングミキサーを用いて製造した。乾燥混合物を、Leistritz LSM 30二軸スクリュー押出機を用いて、240℃のバレル温度および12kg/hの押出量、150rpmのスクリュー速度で混ぜ合わせた。実施例1~10の組成物を表1にまとめる。成分A、B、C、任意成分DおよびFを以下に記載する。
【0172】
II.ポリマー組成物の成分
以下に記載するアクリル系ポリマーA1~A3、PE-MAHグラフトコポリマーB1およびB2、粒状多相グラフトコポリマー(耐衝撃性改質剤)C1およびC2、任意にSANコポリマーD2、ならびに任意に添加剤Fを使用した。
【0173】
A1:アクリル系ポリマーA1:約75.0重量%のMMA、15.0重量%のスチレン、および10.0重量%の無水マレイン酸を含むコポリマー(以下に記載の通りに製造);
A2:アクリル系ポリマーA2:97重量%のメチルメタクリレート、および約110,000g/モルの重量平均分子量Mwを有する3重量%のメチルアクリレートからなるポリメチルメタクリレート樹脂(耐衝撃性改質剤を含まないポリメチルメタクリレート);
A3:アクリル系ポリマーA3:粒状コア-シェル-シェル型耐衝撃性改質剤を含む(メタ)アクリル系ポリマー(以下に記載の通りに製造)、すなわち、成分A3は、成分A(アクリル系ポリマー)および成分C(粒状多相グラフトコポリマー)を含む;
B1:ポリオレフィン系グラフトコポリマーB:モディック814E(三菱ケミカル株式会社/日本国)。無水マレイン酸(MAH)でグラフトされたLLDPEポリエチレン。MAH量>1.0重量%(PE-g-MAH);
B2:ポリオレフィン系グラフトコポリマーB:Scona TPPE 5002 GALL(BYK社/ドイツ国)。無水マレイン酸でグラフトされたLLDPEポリエチレン。MAH量>1.0重量%(PE-g-MAH);
C1:耐衝撃性改質剤C:カネエース(登録商標)M731(カネカ社/米国)、ポリメチルメタクリレートシェルでグラフトされたポリブタジエンコアを含むコア-シェルコポリマー;
C2:耐衝撃性改質剤C:カネエース(登録商標)M711(カネカ社、高砂、日本国から市販)、ポリメチルメタクリレートシェルでグラフトされたポリブタジエンコアを含むコア-シェルコポリマー;
D2:任意のコポリマーD2:76.0重量%のスチレン、および24.0重量%のアクリロニトリルを含む、スチレンアクリロニトリルコポリマー(SAN);
E1:任意の添加剤E:分子量約3,350のポリエチレングリコールPEG3350(Dow Chemical社/米国)
【0174】
【0175】
III.成分の製造
a.アクリル系ポリマーA1の製造
75.0重量%のMMA、15.0重量%のスチレン、および10.0重量%の無水マレイン酸を含むコポリマーA1を、独国特許出願公開第4440219号明細書に記載された手順に従って製造した。
【0176】
製造に使用した出発材料は以下の通りであった:
メチルメタクリレート 74.638g
スチレン 15.00g
無水マレイン酸 10.00g
n-ドデシルメルカプタン 0.33g
tert-ブチルペルオキシネオデカノエート 0.034g
tert-ブチルペルオキシイソノナノエート 0.01g
【0177】
出発材料を、Hosteraphan(登録商標)ポリエステル袋に入れ、水浴中で重合を行い(52℃で12時間、続いて44℃で16時間)、次いで焼き戻し炉中で焼き戻した(110℃で6時間)。最後に、得られたコポリマーAを粉砕し、押出機を使用して脱気した。
【0178】
得られたコポリマーA1は、(以下に記載のように)PMMAを標準として使用するGPCで測定された約150,000g/モルの重量平均分子量Mwを有し、かつ25℃のクロロホルム中の溶液粘度(ISO 1628-第6部)が約72mL/gであった。
【0179】
b.アクリル系ポリマーA3(耐衝撃性改質PMMA)の製造
A3の粒状コア-シェル-シェル型耐衝撃性改質剤を以下の通り調製した:
撹拌機、供給容器および外部冷却を備えた重合容器に、酢酸、硫酸鉄(II)(FeSO4)、およびPMMAを10重量%含有するシードを含む水相を入れた。温度52℃(容器外部温度)で、以下に記載されるエマルションIを1時間かけて添加した。平行して、水20g中の0.69gのメタ重亜硫酸ナトリウムを(最初の10分の間)加えた。15分後、水100g中の1.94gのメタ重亜硫酸ナトリウムを、以下に記載されるエマルションIIの添加開始と並行して、10分以内で添加した。エマルションIIを2時間以内で添加し、続いて50分間休止した。以下に記載されるエマルションIIIを、水50g中の0.62gのメタ重亜硫酸ナトリウムと同時に添加した。メタ重亜硫酸ナトリウムの添加は、10分以内に、エマルションIIIの添加は、1時間後に終了した。その後、反応混合物を30分間撹拌し、35℃に冷却し、VA鋼(メッシュサイズ100μm)で濾過した。
【0180】
エマルションI、IIおよびIIIは、それぞれ、以下のモノマーおよび成分(単位:重量部)を乳化することで得られた:
【0181】
【0182】
得られたラテックスを凍結凝固により凝固させ、脱水し、乾燥させた。
【0183】
得られた耐衝撃性改質剤ポリマー粉末を、97重量%のメチルメタクリレート、および3重量%の約150,000g/モルの重量平均分子量Mwを有するメチルアクリレートからなるポリメチルメタクリレート樹脂と溶融配合した。耐衝撃性改質剤の量は、ポリマー配合物全体を基準として、約19重量%であった。ポリマー配合物を、220~230℃の温度で(30rpmで)混合した。得られた溶融物をチャンバーから取り出し、プライヤーで粉砕した。
【0184】
IV.結果
試験片を、実施例1~12のポリマー組成物から、射出成形により製造した(詳細は以下に記載)。メルトボリュームフローレート(MVR)、ビカット軟化温度(B50)、光学的特性(ヘイズ、透過率(TD65))、引張り特性(破断伸び(Elong@break);引張り係数(E)、最大引張り強さ(TSmax))、ならびにアルコールおよび脂肪に対する耐薬品性(耐応力割れ性)を、以下に記載の通りに測定した。特に断りのない限り、全ての試験片は、試験前に23℃、相対湿度50%で少なくとも24時間貯蔵した。特に断りのない限り、試験は23℃、相対湿度50%で実施した。
【0185】
結果を、以下の表2および表3にまとめる。
【0186】
【0187】
【0188】
ポリブタジエンのコア-シェル型耐衝撃性改質剤(C1またはC2)、およびポリエチレン無水マレイン酸グラフトコポリマーPE-MAH(B1またはB2)を含む本発明の実施例1~4は、高い透過率(TD65)および低いヘイズを示す。さらに、実施例1~4の全てにおいて、耐応力割れ性が高く、全ての引張り棒は、(歪み0.5%、および歪み0.75%における)引張り試験で延性破壊を示す。比較例5および6(ポリエチレン無水マレイン酸グラフトコポリマーC1またはC2を含まない)も同様に、高い透明性および低いヘイズを示す。しかしながら、引張り試験において十分な耐応力割れ性が示されたのは、歪み0.5%の時のみで、より苛酷な条件下(歪み0.75%)では、全ての引張り棒は脆性破壊、ならびにより低い伸びおよび破断点引張り強度を示す。よって本発明の実施例1~4によるアルコールに対する耐応力割れ性(歪み0.75%を参照)は、(成分B、PE-MAHを含まない)比較例5~6の耐応力割れ性よりも高い。さらに、この有利なより高い薬品に対する耐応力割れ性が、調節可能なより苛酷な条件を伴う、前記の特定の耐薬品性試験により認識できるようになったことが見出された。
【0189】
実施例1~4(A1またはA1+D1)と同様のポリマーマトリックスを有し、PE-MAH(B1またはB2)を含むが、耐衝撃性改質剤(C1またはC2)を含まない、比較例8および9の試験片は、透明ではない(白色)。同様の結果は、本発明の実施例7と比較例10との比較によっても示される。実施例7と比較例10の双方は、PMMAマトリックスポリマー(A2またはA3)に基づいており、4重量%のPE-MAH(B1)を含む。しかしながら、実施例7のポリマー組成物は、粒状のコア-シェル-シェル型耐衝撃性改質剤(成分A3は、耐衝撃性改質されたPMMAである)を含む。本発明の実施例7のポリマー組成物は、透明である(高い透過率TD65を有する)のに対し、比較例10のポリマー組成物は、透明ではない(白色)。よって、驚くべきことに、アクリル系ポリマーを、粒状耐衝撃性改質剤(例えば、C1またはC2)と組み合わされたPE-MAHと混合すると、透明なポリマー組成物を得ることができることが見出された。
【0190】
さらに、PE-MAH成分Bの添加により、PMMAポリマーA3に基づく耐衝撃性改質されたポリマー組成物において、改善された耐応力割れ性が得られることが実証された。本発明の実施例11(耐衝撃性改質されたPMMA A3+PE-MAH B1+PEG E1)における、アルコールに対する耐応力割れ性(歪み0.5%を参照)は、比較例12(耐衝撃性改質されたPMMA A3 100%)の耐応力割れ性よりも高い。比較例12において、IPA/H2O曝露後、5本の試験棒全てが、歪み0.5%で破壊された。
【0191】
V.試験方法
a.GPC測定条件:
溶離液:THF(HPLCグレード)+0.2体積%TFA
流速:1mL/分
注入量:100μL
検出:RI HPS
試料溶液の濃度:2g/L
標準:PMMA
【0192】
b.光学的、機械的およびその他の特性
ポリマー組成物のヘイズは、ASTM D1003規格に準拠して、厚さ3mmの射出成形試験片について23℃で測定した。
【0193】
ポリマー組成物の光透過率(TD65)を、DIN 5033-7(2014)に準拠して、厚さ3mmの射出成形試験片について23℃で測定した。
【0194】
メルトボリュームフローレートMVRを、ISO 1133(2012)に準拠して、230℃および荷重5.0kgで測定した。
【0195】
ポリマー組成物のビカット軟化温度を、ISO 306-B50(2014)に準拠して、測定した。
【0196】
ポリマー組成物の引張り特性を、ISO 294-1:2016に準拠して射出成形により調製された試験片(引張り棒)を使用して、ISO 527-1:2012に準拠して、測定した。破断伸び、引張り係数、および引張り強度(最大引張り強度、または破断点引張り強度)を、前記表2および表3にまとめる。ISO 527(2012)に準拠したポリマー組成物の公称破断伸びは、好ましくは少なくとも4.0%、特に好ましくは少なくとも5.0%であることが望ましい。ISO 527(2012)に準拠したポリマー組成物の弾性率は、有利には1,500MPa超、好ましくは1,700MPa超である。
【0197】
c.薬品に対する耐応力割れ性の測定
アルコールに対する耐応力割れ性を、ISO 22088-3のベントストリップ法により以下のように測定した:
ISO 294-1:2016に準拠した5つの引張り棒を、250℃で射出成形して各ポリマー組成物から製造した。その後、引張り棒を約70~80℃で2時間アニールした(ポリマーによっては、ビカットB50の軟化温度を20K下回る)。
【0198】
試験片(寸法:160mm×20mm×厚さh(4mm))を、曲がり治具上に平らに置いた。試験の具体的な設定の概略を
図1および
図2に示す。
図1に示すように、各引張り棒(試験片(2))を、2つのクランプ(1)を介して、半径rの曲面を有する曲がり治具(3)に固定した。ここでは、0.5%または0.75%の歪みが適用された。
【0199】
歪みは、外側引張り面における公称歪みε
xとして与えられ、ISO 22088-3(2006)の通りに計算される:
ε
x=h/(2r+h)
[式中、rは曲がり治具の半径であり、hは試験片の厚さである(
図1参照)]。
【0200】
曲がり治具上に固定されている試験棒を、63.0重量%のイソプロパノール(IPA)と37.0重量%の水との混合物に曝露した。曝露するために、混合物(イソプロパノール(IPA):63.0重量%、水:37.0重量%)をしみ込ませた綿布(50mm×8mm)を棒の上面中央に配置し、その後、綿布で覆われた棒を固定した曲がり治具を、63.0重量%のイソプロパノール(IPA)と37.0重量%の水との混合物で満たされ口の開いた100mLのグラスと共に、容量約4リットルのポリエチレン袋に入れて密閉した。密閉したポリエチレン袋の中で、この状態を23℃で5時間保持した。
【0201】
曲がり治具をポリエチレン袋から取り出し、綿布を取り除き、曲がり治具から引張り棒を取り外した。取り外してから2時間後に、引張り棒の引張り特性を、ISO 527-1:2012に準拠して測定した。5つの試験棒の結果を平均した。結果を、前述の表3にまとめる。
【0202】
前述のように5時間の処理の後に、引張り棒の表面に欠陥が見られず、引張り応力下で引張り棒の延性破壊が示された場合、耐薬品性が高いとされる。
【0203】
脂肪に対する耐応力割れ性は、以下のように測定した:
試験液として、Intralipid(登録商標)20%エマルション(Fresenius Kabi Austria GmbH社から市販)を使用した。Intralipid(登録商標)20%は、pH8、重量オスモル濃度約350モスモル/kgの無菌脂肪乳剤であり、20%の大豆油、1.2%の卵黄リン脂質、2.25%のグリセリン、および水を含む。前述のように、5つの引張り棒を製造し、アニールした。
【0204】
前述の手順に従って、各引張り棒を、曲面を有する曲がり治具に固定し、歪み1.0%を適用した(
図1を参照)。曲がり治具に固定された試験棒を、試験液Intralipid(登録商標)20%に曝露した。曝露するために、Intralipid(登録商標)20%をしみ込ませた綿布(50mm×8mm)を、棒の上面中央に配置した。この状態を、23℃で24時間保持した。綿布を取り除き、曲がり治具から引張り棒を取り外した。取り外してから2時間後に、引張り棒の引張り特性を、ISO 527-1:2012に準拠して測定した。結果を、前述の表3にまとめる。
【0205】
d.水-イソプロパノール混合物による浸漬試験
実施例1~4の試験片を、63.0重量%のイソプロパノール(IPA)、および37.0重量%の水を含む混合物を使用して試験した。浸漬試験は、23℃で72時間行われた。その後、試験片の目視評価を行った。結果を表4にまとめる。本発明のポリマー組成物の試験片は、全て透明な外観を示した。
【0206】
【国際調査報告】