(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-24
(54)【発明の名称】穴拡げ性及び延性に優れた高強度鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240717BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20240717BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/38
C21D9/46 G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502609
(86)(22)【出願日】2022-06-22
(85)【翻訳文提出日】2024-01-17
(86)【国際出願番号】 KR2022008874
(87)【国際公開番号】W WO2023003188
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】10-2021-0094848
(32)【優先日】2021-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 キュン-レ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 スン-キュ
(72)【発明者】
【氏名】パク、 ジュン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】ハン、 サン-ホ
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA16
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4K037FJ05
4K037FK02
4K037FK03
4K037FK08
4K037FL00
(57)【要約】
本発明は、自動車用素材に適した鋼に関し、具体的には、穴拡げ性及び延性に優れた高強度鋼板及びその製造方法に関する。本発明の高強度鋼板は、微細組織が硬質相と軟質相で構成され、最適化された冷間圧延及び焼鈍工程によって再結晶されたフェライト基地に硬質相であるマルテンサイト相が均一に分布し、硬質相と軟質相の界面に非平衡フェライト相を導入させることで加工時のクラック抵抗性を高めることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.05~0.12%、マンガン(Mn):2.5~3.0%、シリコン(Si):1.2%以下(0%を除く)、クロム(Cr):0.1%以下(0%を除く)、モリブデン(Mo):0.1%以下(0%を除く)、ニオブ(Nb):0.1%以下(0%を除く)、チタン(Ti):0.1%以下(0%を除く)、ホウ素(B):0.002%以下(0%を除く)、アルミニウム(sol.Al):0.02~0.05%、リン(P):0.05%以下(0%を除く)、硫黄(S):0.01%以下(0%を除く)、窒素(N):0.01%以下(0%を除く)、鉄(Fe)、及びその他の不可避不純物を含み、
微細組織として、面積分率20~30%のフェライト、5~15%の非平衡フェライト、及び残部マルテンサイトを含む、穴拡げ性に優れた高強度鋼板。
【請求項2】
前記鋼板は、マルテンサイト相を面積分率50%以上で含む、請求項1に記載の穴拡げ性に優れた高強度鋼板。
【請求項3】
前記鋼板は、残留オーステナイト相を面積分率3%以下(0%を含む)でさらに含む、請求項1に記載の穴拡げ性に優れた高強度鋼板。
【請求項4】
前記鋼板は、引張強度1100MPa以上、降伏強度550~700MPa、総伸び率12%以上である、請求項1に記載の穴拡げ性に優れた高強度鋼板。
【請求項5】
前記鋼板は、穴拡げ率(HER)が25%以上である、請求項1に記載の穴拡げ性に優れた高強度鋼板。
【請求項6】
重量%で、炭素(C):0.05~0.12%、マンガン(Mn):2.5~3.0%、シリコン(Si):1.2%以下(0%を除く)、クロム(Cr):0.1%以下(0%を除く)、モリブデン(Mo):0.1%以下(0%を除く)、ニオブ(Nb):0.1%以下(0%を除く)、チタン(Ti):0.1%以下(0%を除く)、ホウ素(B):0.002%以下(0%を除く)、アルミニウム(sol.Al):0.02~0.05%、リン(P):0.05%以下(0%を除く)、硫黄(S):0.01%以下(0%を除く)、窒素(N):0.01%以下(0%を除く)、鉄(Fe)、及びその他の不可避不純物を含む鋼スラブを準備する段階と、
前記鋼スラブを1100~1300℃の温度範囲で加熱する段階と、
前記加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板を400~700℃の温度範囲で巻き取る段階と、
前記巻き取り後に熱延鋼板を常温まで冷却する段階と、
前記冷却された熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階と、
前記冷延鋼板を連続焼鈍処理する段階と、
前記連続焼鈍後に570~630℃の温度範囲まで1~10℃/sの平均冷却速度で1次冷却する段階と、
前記1次冷却後に300~400℃の温度範囲まで5~50℃の平均冷却速度で2次冷却する段階と、を含み、
前記連続焼鈍は加熱帯、均熱帯、及び冷却帯が設けられた設備で行われ、前記加熱帯及び均熱帯は810~850℃の温度範囲に制御されることを特徴とする、穴拡げ性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記熱間圧延は、出口側温度Ar3以上~1000℃以下で仕上げ熱間圧延することである、請求項6に記載の穴拡げ性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記巻き取り後の冷却は、0.1℃/s以下(0℃を除く)の冷却速度で行うことである、請求項6に記載の穴拡げ性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記冷間圧延は、1スタンド(stand)で行い、総圧下率が55~70%であることを特徴とする、請求項6に記載の穴拡げ性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記2次冷却後に過時効処理する段階をさらに含み、
前記過時効処理は、200~800秒間行うことである、請求項6に記載の穴拡げ性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用素材に適した鋼に関し、具体的には、穴拡げ性及び延性に優れた高強度鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車産業分野では、CO2排出関連の環境規制及びエネルギー使用規制による燃費又は耐久性の向上のために、高強度鋼の使用が求められている。
【0003】
特に、自動車の衝撃安定性の規制が拡大される中、車体の耐衝撃性を向上させるためのメンバー(member)、シートレール(seat rail)、ピラー(pillar)などのような構造部材の素材として、強度に優れた高強度鋼が採用されている。
【0004】
かかる自動車部品は、安定性、デザインに応じて複雑な形状を有し、主にプレス金型で成形して製造することから、高強度とともに高水準の成形性が要求される。
【0005】
ところで、鋼の強度が高いほど衝撃エネルギー吸収に有利な特徴を有するのに対し、一般的に強度が高くなると、伸び率が減少し、成形加工性が低下するという問題点がある。さらに、降伏強度が過度に高いと、成形時に金型において素材の流入が減少することによって成形性が劣化し、製造コストが上昇するという問題がある。
【0006】
また、自動車部品は、穴の加工後に拡張する成形部位が多数存在し、スムーズな成形のために穴拡げ性(Hole Expandability,HER)が要求されるものの、高強度鋼は穴拡げ性が低くて成形中にクラック(crack)のような欠陥が発生するという問題がある。このように、穴拡げ性が劣化すると、自動車衝突時に部品成形部でクラックが発生し、部品が破壊しやすくなり搭乗者の安全が確保できない恐れがある。
【0007】
一方、自動車用素材として使用される高強度鋼としては、代表的に、二相組織鋼(Dual Phase Steel,DP鋼)、変態誘起塑性鋼(Transformation Induced Plasticity Steel,TRIP鋼)、複合組織鋼(Complex Phase Steel,CP鋼)、フェライト-ベイナイト鋼(Ferrite Bainite steel,FB鋼)などがある。
【0008】
超高張力鋼であるDP鋼は、約0.5~0.6水準の低い降伏比を有するため加工が容易であり、TRIP鋼に次ぐ高い伸び率を有するという長所がある。このことから、主にドアアウター、シートレール、シートベルト、サスペンション、アーム、及びホイールディスクなどに適用されている実情にある。
【0009】
TRIP鋼は、0.57~0.67範囲の降伏比を有することで優れた成形性(高延性)を示す特徴があり、このことから、メンバー、ルーフ、シートベルト、及びバンパーレールなどの高成形性が要求される部品に適する。
【0010】
CP鋼は、低降伏比とともに、高い伸び率及び曲げ加工性によってサイドパネル、アンダーボディー補強材などに適用され、FB鋼は、穴拡げ性に優れるため、主にサスペンションロアアームやホイールディスクなどに適用される。
【0011】
このうち、DP鋼は、主に延性に優れたフェライト及び強度の高い硬質相(マルテンサイト相、ベイナイト相)からなり、微量の残留オーステナイトを含んでいてもよい。このようなDP鋼は、降伏強度が低く、引張強度が高いため降伏比(Yield Ratio,YR)が低く、高い加工硬化率、高延性、連続降伏挙動、常温耐時効性、及び焼付硬化性などに優れた特性を有する。また、各相(phase)の分率と再結晶度、分布均一度などを制御することで、穴拡げ性の高い高強度鋼に製造することができる。
【0012】
ところで、引張強度1100MPa以上の超高強度を確保するためには、強度の向上に有利なマルテンサイト相のような硬質相(hard phase)の分率を高める必要があるが、この場合、降伏強度が上昇してプレス成形中にクラック(crack)などの欠陥が発生するという問題がある。
【0013】
一般的に、自動車用DP鋼は、製鋼及び連続鋳造工程によってスラブを作製した後、該スラブに対して[加熱-粗圧延-仕上げ熱間圧延]して熱延コイルを得た後、焼鈍工程を経て最終製品として製造される。
【0014】
ここで、焼鈍工程は、主に冷延鋼板の製造時に行われる工程であり、冷延鋼板は、熱延コイルを酸洗浄して表面スケール(scale)を除去し、常温で一定の圧下率で冷間圧延した後、焼鈍工程、及び必要に応じて追加的な調質圧延工程を経て製造される。
【0015】
冷間圧延して得られた冷延鋼板(冷延材)は、それ自体が非常に硬化した状態であって、加工性が要求される部品の作製には適さないため、後続工程として連続焼鈍炉内での熱処理によって軟質化させることで加工性を向上させることができる。
【0016】
一例として、焼鈍工程は、加熱炉内で鋼板(冷延材)を約650~850℃に加熱した後、一定時間維持することで再結晶及び相変態現象によって硬度を下げ、加工性を改善することができる。
【0017】
焼鈍工程を経ていない鋼板は、硬度、特に、表面硬度が高くて加工性が足りないのに対し、焼鈍工程が行われた鋼板は、再結晶組織を有することで硬度、降伏点、抗張力が低くなり、加工性を向上させることができる。
【0018】
DP鋼の降伏強度を低減させる代表的な方法としては、連続焼鈍時の加熱工程でフェライトを完全に再結晶させて等軸晶形態に製造することで、後続工程でオーステナイトの生成及び成長時に等軸晶形態化して、粒径が小さくて均一なオーステナイト相を形成する方法が有利である。
【0019】
一方、高強度鋼の加工性を向上させるための従来技術として、特許文献1は、組織微細化による方案を提示しており、具体的にはマルテンサイト相を主体とする複合組織鋼板に対して組織内部に粒径1~100nmの微細析出銅粒子を分散させる方法を開示する。しかしながら、この技術では、良好な微細析出相粒子を得るために2~5%のCu添加が要求され、多量のCuに起因した赤熱脆性が発生する恐れがあり、製造コストが過度に上昇するという問題がある。
【0020】
特許文献2は、フェライトを基地組織としてパーライト(pearlite)を2~10面積%で含む組織を有し、炭・窒化物形成元素(例えば、Tiなど)の添加による析出強化、及び結晶粒微細化によって強度を向上させた鋼板を開示する。上記鋼板は、穴拡げ性の側面からは良好な反面、引張強度をさらに高めるには限界があり、降伏強度が高くて延性が低いため、プレス成形中にクラックが発生するという問題がある。
【0021】
特許文献3は、焼き戻しマルテンサイト相を活用した、高強度及び高延性が同時に得られ、連続焼鈍後の板形状にも優れた冷延鋼板を製造する方案を開示するが、鋼中の炭素(C)の含量が0.2%以上と高く、溶接性が劣化するという問題とともに、多量のSi添加によって炉内にデント欠陥が発生する恐れがある。
【0022】
前述の従来技術から、溶接性などの利用物性が満たされる高強度鋼の穴拡げ性などのような成形性を向上させるためには、鋼中の均一な組織形成とともに、降伏強度は低下させながら延性を向上させることができる方案の開発が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】日本公開特許公報第2005-264176号
【特許文献2】韓国公開特許公報第2015-0073844号
【特許文献3】日本公開特許公報第2010-090432号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の課題は、自動車構造部材用などに適した素材であって、低降伏比及び高強度を有しながら、延性の向上によって穴拡げ性などの成形性に優れた高強度鋼板、及びこれを製造する方法を提供することである。
【0025】
本発明の課題は、上述した内容に限定しない。本発明の課題は、本明細書の内容全般から理解できるものであり、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、本発明の付加的な課題を理解するのに何ら困難はないであろう。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の一実施形態は、重量%で、炭素(C):0.05~0.12%、マンガン(Mn):2.5~3.0%、シリコン(Si):1.2%以下(0%を除く)、クロム(Cr):0.1%以下(0%を除く)、モリブデン(Mo):0.1%以下(0%を除く)、ニオブ(Nb):0.1%以下(0%を除く)、チタン(Ti):0.1%以下(0%を除く)、ホウ素(B):0.002%以下(0%を除く)、アルミニウム(sol.Al):0.02~0.05%、リン(P):0.05%以下(0%を除く)、硫黄(S):0.01%以下(0%を除く)、窒素(N):0.01%以下(0%を除く)、鉄(Fe)、及びその他の不可避不純物を含み、微細組織として、面積分率20~30%のフェライト、5~15%の非平衡フェライト、及び残部マルテンサイトを含む、穴拡げ性に優れた高強度鋼板を提供する。
【0027】
本発明の他の一実施形態は、上述した合金組成を含む鋼スラブを準備する段階と、上記鋼スラブを1100~1300℃の温度範囲で加熱する段階と、上記加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、上記熱延鋼板を400~700℃の温度範囲で巻き取る段階と、上記巻き取り後に熱延鋼板を常温まで冷却する段階と、上記冷却された熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階と、上記冷延鋼板を連続焼鈍処理する段階と、上記連続焼鈍後に570~630℃の温度範囲まで1~10℃/sの平均冷却速度で1次冷却する段階と、上記1次冷却後に300~400℃の温度範囲まで5~50℃平均冷却速度で2次冷却する段階と、を含み、上記連続焼鈍は加熱帯、均熱帯、及び冷却帯が設けられた設備で行われ、上記加熱帯及び均熱帯は810~850℃の温度範囲に制御されることを特徴とする、穴拡げ性に優れた高強度鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、高強度ながらも穴拡げ性に優れるため、成形性及び衝突抵抗性が向上した鋼板を提供することができる。
【0029】
このように、成形性が向上した本発明の鋼板は、プレス成形時にクラック又はひずみ(しわ)などの加工欠陥を防止することができることから、複雑な形状への加工が要求される構造用などの部品に好適に用いることができるという効果がある。さらに、かかる部品が適用された自動車が不可避的に衝突した場合、クラックなどの欠陥が生じにくくなるように耐衝突性が向上した素材を製造するにも効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態による連続焼鈍時の熱履歴及び相変態履歴を図示したものである。
【
図2】(a)は、組織中のボイド(void)形成機構を示したものであり、(b)は、本発明の一実施形態における組織中の界面強化機構を図示したものである。
【
図3】実施例における発明例1及び比較例4~7の微細組織写真を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の発明者らは、自動車用素材において複雑な形状への加工が要求される部品などに好適に用いることができる水準の成形性を有する素材を開発するために鋭意研究した。
【0032】
特に、本発明者らは、鋼のクラック抵抗性に影響を及ぼす軟質相及び硬質相の間の硬度差を解消できる組織構成を導出するとともに、ボイド(void)の生成及び伝播防止に有利な硬質相の微細化及び結晶粒形状の制御によって本発明の課題を解決し得ることを確認し、本発明に到達した。
【0033】
特に、本発明は、軟質相と硬質相の硬度差を解消するために、中間相、好ましくは、非平衡フェライト相を導入し、このような組織を形成するにあたり、合金組成及び製造条件を最適化することに技術的意義を有する。
【0034】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0035】
本発明の一側面による穴拡げ性及び延性に優れた高強度鋼板は、重量%で、炭素(C):0.05~0.12%、マンガン(Mn):2.5~3.0%、シリコン(Si):1.2%以下(0%を除く)、クロム(Cr):0.1%以下(0%を除く)、モリブデン(Mo):0.1%以下(0%を除く)、ニオブ(Nb):0.1%以下(0%を除く)、チタン(Ti):0.1%以下(0%を除く)、ホウ素(B):0.002%以下(0%を除く)、アルミニウム(sol.Al):0.02~0.05%、リン(P):0.05%以下(0%を除く)、硫黄(S):0.01%以下(0%を除く)、窒素(N):0.01%以下(0%を除く)を含むことができる。
【0036】
以下、本発明で提供する鋼板の合金組成を上記のように制限する理由について詳細に説明する。
【0037】
なお、本発明で特に言及しない限り、各元素の含量は重量を基準とし、組織の比率は面積を基準とする。
【0038】
炭素(C):0.05~0.12%
炭素(C)は、固溶強化のために添加される重要な元素であり、このようなCは析出元素と結合して微細析出物を形成することで鋼の強度向上に寄与する。
【0039】
上記Cの含量が0.12%を超過すると、硬化能が増加して、鋼の製造時における冷却中にマルテンサイトが形成されて強度が過度に上昇するが、伸び率が減少するという問題がある。また、溶接性が劣化して部品としての加工時に溶接欠陥が発生する恐れがある。一方、上記Cの含量が0.05%未満であると、目標水準の強度を確保することが困難になる。
【0040】
よって、鋼板はCを0.05~0.12%で含むことができる。より好ましくは、0.06%以上で含むことができ、0.10%以下で含むことができる。
【0041】
マンガン(Mn):2.5~3.0%
マンガン(Mn)は、鋼中の硫黄(S)をMnSとして析出させてFeSの生成による熱間脆性を防止し、鋼を固溶強化させるのに有利な元素である。
【0042】
このようなMnの含量が2.5%未満であると、上述した効果を得ることができず、さらに、目標水準の強度確保にも困難がある。これに対し、その含量が3.0%を超過すると、溶接性、熱間圧延性などの問題が発生する恐れが高くなるとともに、硬化能が増加してより容易にマルテンサイトが形成され、延性が低下する恐れがある。また、組織中のMn-Band(Mn酸化物帯)が過度に形成され、加工クラックのような欠陥発生の危険が高くなるという問題がある。さらに、焼鈍時にMn酸化物が表面に溶出してめっき性を大きく阻害するという問題がある。
【0043】
よって、鋼板はMnを2.5~3.0%で含むことができる。
【0044】
シリコン(Si):1.2%以下(0%を除く)
シリコン(Si)は、フェライト安定化元素であって、フェライト変態を促進させて目標水準のフェライト分率を確保するのに有利である。また、固溶強化能が良好なためフェライトの強度を高めるのに効果的であり、鋼の延性を低下させることなく強度を確保するのに有用な元素である。
【0045】
このようなSiの含量が1.2%を超過すると、固溶強化効果が過度になってかえって延性が低下し、表面スケール欠陥を誘発してめっき表面品質に悪影響を及ぼすようになる。また、化成処理性を阻害するという問題がある。
【0046】
よって、鋼板はSiを1.2%以下で含むことができ、0%は除くことができる。より好ましくは、0.1%以上で含むことができる。
【0047】
クロム(Cr):0.1%以下(0%を除く)
クロム(Cr)は、本発明で意図する組織を構成するのに寄与する元素であって、焼鈍熱処理時にマルテンサイト、ベイナイト相の形成を抑制する一方、微細な炭化物を形成して強度向上に寄与する。即ち、上記Crは、非衡平フェライトと競争的に形成されるベイナイトを抑制する効果を有するため、適正水準で含有すると、高温で非平衡フェライト相の形成に有利である。
【0048】
このようなCrの含量が0.1%を超過すると、かえって非平衡フェライト相が形成できず、鋼の延性及び穴拡げ性が減少し、粒界に炭化物が形成される場合には強度及び伸び率が劣化する恐れがある。また、製造コストが上昇するという問題がある。
【0049】
よって、鋼板はCrを0.1%以下で含むことができ、0%は除くことができる。より好ましくは、0.01%以上で含むことができる。
【0050】
モリブデン(Mo):0.1%以下(0%を除く)
モリブデン(Mo)は、パーライトの変態を抑制して非平衡フェライト相の形成を容易にする一方、焼鈍熱処理時にマルテンサイト相の形成を抑制し、微細な炭化物を形成して強度の向上に寄与する元素である。
【0051】
このようなMoの含量が0.1%を超過すると、硬化能が過度になってかえって非平衡フェライト相が形成できず、鋼の延性及び穴拡げ性が減少する恐れがあり、製造コストが上昇するという問題がある。
【0052】
よって、鋼板はMoを0.1%以下で含むことができ、0%は除くことができる。より好ましくは、0.01%以下で含むことができる。
【0053】
ニオブ(Nb):0.1%以下(0%を除く)
ニオブ(Nb)は、オーステナイト粒界に偏析して焼鈍熱処理時にオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制し、微細な炭化物を形成して強度の向上に寄与する元素である。
【0054】
このようなNbの含量が0.1%を超過すると、粗大な炭化物が析出し、鋼中の炭素量が低減して強度及び伸び率が劣化することがあり、製造コストが上昇するという問題がある。
【0055】
よって、鋼板はNbを0.1%以下で含むことができ、0%は除くことができる。より好ましくは、0.01%以下で含むことができる。
【0056】
チタン(Ti):0.1%以下(0%を除く)
チタン(Ti)は、微細炭化物を形成する元素であって、降伏強度及び引張強度の確保に寄与する。また、Tiは、鋼中のNをTiNとして析出させて鋼中に不可避的に存在するAlによるAlNの形成を抑制する効果があり、連続鋳造時におけるクラックの発生可能性を低減させる効果がある。
【0057】
このようなTiの含量が0.1%を超過すると、粗大な炭化物が析出し、鋼中の炭素量の低減によって強度及び伸び率が減少する恐れがある。また、連続鋳造時にノズル詰まりを誘発する恐れがあり、製造コストが上昇するという問題がある。
【0058】
よって、鋼板はTiを0.1%以下で含むことができ、0%は除くことができる。より好ましくは、0.01%以下で含むことができる。
【0059】
ホウ素(B):0.002%以下(0%を除く)
ホウ素(B)は、焼鈍熱処理後に冷却する過程でオーステナイトがパーライトに変態されることを遅延させる元素であるが、その含量が0.002%を超過すると、Bが表面に過度に多く濃化して、めっき密着性の劣化を招く恐れがある。
【0060】
よって、鋼板はBを0.002%以下で含むことができ、0%は除くことができる。
【0061】
アルミニウム(sol.Al):0.02~0.05%
アルミニウム(sol.Al)は、鋼の粒度微細化効果及び脱酸のために添加する元素であって、その含量が0.02%未満であると、安定した状態でアルミニウムキルド鋼を製造することができない。これに対し、その含量が0.05%を超過すると、結晶粒が微細化して強度が向上するという効果があるが、製鋼連続鋳造操業時において介在物が過度に多く形成され、めっき鋼板の表面不良が発生する恐れが高くなる。
【0062】
よって、鋼板はsol.Alを0.02~0.05%で含むことができる。
【0063】
リン(P):0.05%以下(0%を除く)
リン(P)は、固溶強化効果が最も大きい置換型元素であって、面内異方性を改善し、成形性を大きく低下させることなく強度の確保に有利な元素である。しかしながら、このようなPを過度に多く添加すると、脆性破壊発生可能性が大きく増加して熱間圧延中にスラブの板破断の発生可能性が増加し、めっき表面特性を阻害するという問題がある。
【0064】
よって、本発明では、上記Pの含量を0.05%以下に制御することができ、不可避的に添加される水準を考慮して、0%は除くことができる。
【0065】
硫黄(S):0.01%以下(0%を除く)
硫黄(S)は、鋼中の不純物元素として不可避的に添加される元素であり、延性を阻害するため、その含量はできるだけ低く管理することが好ましい。特に、Sは、赤熱脆性の発生可能性を高める恐れがあるため、その含量を0.01%以下に制御することが好ましい。但し、製造過程で不可避的に添加される水準を考慮して、0%は除くことができる。
【0066】
窒素(N):0.01%以下(0%を除く)
窒素(N)は、固溶強化元素であるが、その含量が0.01%を超過すると、脆性の発生危険性が高まり、鋼中のAlと結合してAlNを過度に多く析出させることで連続鋳造品質を阻害する恐れがある。
【0067】
よって、鋼板はNを0.01%以下で含むことができ、不可避的に添加される水準を考慮して、0%は除くことができる。
【0068】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程においては、原料や周囲の環境から意図されない不純物が不可避的に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程における技術者であれば誰でも分かるものであるため、その全ての内容を特に本明細書で言及しない。
【0069】
上述した合金組成を有する本発明の鋼板は、微細組織として、軟質相(soft phase)であるフェライト及び硬質相(hard phase)であるマルテンサイト相とともに、これらの界面で形成される非衡平フェライト相を含むことができる。
【0070】
具体的には、本発明の鋼板は、フェライト相を面積分率20~30%、非平衡フェライト相を面積分率5~15%で含み、残部組織としてマルテンサイト相を含むことができる。さらに、微量の残留オーステナイト相を含むことができる。
【0071】
本発明において、上記非平衡フェライト相は、軟質相と硬質相との硬度差を最小化するのに有利な組織であって、既存の平衡フェライト(ポリゴナルフェライト)とは区別される組織である。非平衡フェライトは、アシキュラーフェライト又はベイニティックフェライトであってよい。さらに、冷却条件によってWidmanstatten ferrite、Massive ferriteなどを含むことができる。具体的には、非平衡フェライトは、母相(mother phase)を構成する成分の影響を受けながら平衡フェライトに比べて相対的に高いC及びMnを含む。例えば、平衡フェライトの場合、C濃度が0.02%であると、非平衡フェライトは、それよりも高い0.03~0.04%のC含量を有する。
【0072】
これによって、非平衡フェライト付近(近所)に形成される硬質相はC、Mn濃度が相対的に低くなるため、軟質相-硬質相間の硬度差が低減しながら、穴拡げ性が向上する効果が得られる。また、非平衡フェライト中のSi濃度が1%未満と低いと、積層欠陥エネルギー(stacking fault energy)が高くなり、クロススリップ(closs slip)が困難になりながらも、変形によるボイド(void)の形成が抑制される(
図2)。
【0073】
このような非平衡フェライト相の分率が過度に高いと、相対的に硬質相の分率が低くなり、目標水準の強度を確保することができなくなる。これを考慮して、上記非平衡フェライト相を15%以下で含むことができる。これに対し、その分率が5%未満であると、上述した効果(硬質相及び軟質相間の硬度差の最小化)が十分に得られず、穴拡げ性が劣化するようになる。
【0074】
上記フェライト相の分率が20%未満であると、鋼の延性確保に不利になるのに対し、その分率が30%を超過すると、相対的に硬質相の分率が低くなって目標水準の強度を確保することが困難になる。
【0075】
上記フェライト相及び非平衡フェライト相を除いた組織のうちのマルテンサイト相は、その分率に対しては具体的に限定しないが、引張強度1100MPa以上の超高強度を確保するために面積分率50%以上で含むことができる。但し、上記マルテンサイト相の分率が75%を超過すると、延性が低下して目標水準の成形性を確保することが困難になる。
【0076】
一方、上記残留オーステナイト相は、その分率が3%を超えないことが有利であり、0%であっても、意図する物性の確保には無理がない。
【0077】
上述した微細組織を有する本発明の鋼板は、引張強度1100MPa以上、降伏強度550~700MPa、伸び率(総伸び率)が12%以上と、高強度に加えて高延性の特性を有することができる。
【0078】
さらに、上記鋼板は、25%以上の穴拡げ率(Hole Expansion Ratio,HER)を有することで、加工時に発生し得るクラックに対する抵抗性及び衝突破断抵抗性に優れた効果がある。
【0079】
以下、本発明の他の一実施形態である穴拡げ性及び延性に優れた高強度鋼板を製造する方法について詳細に説明する。
【0080】
要するに、本発明は、[鋼スラブ加熱-熱間圧延-巻き取り-冷間圧延-連続焼鈍]の工程を経て目的とする鋼板を製造することができる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0081】
[鋼スラブ加熱]
先ず、前述した合金組成を満たす鋼スラブを設けた後、これを加熱することができる。
【0082】
本工程は、後続する熱間圧延工程をスムーズに行い、目標とする鋼板の物性を十分に得るために行われる。本発明では、このような加熱工程の条件に対しては特に制限がなく、通常の条件で行えばよい。一例として、1100~1300℃の温度範囲で加熱工程を行うことができる。
【0083】
[熱間圧延]
上記のように加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板に製造することができ、このとき、出口側温度Ar3以上~1000℃以下で仕上げ熱間圧延を行うことができる。
【0084】
上記仕上げ熱間圧延時の出口側温度がAr3未満であると、熱間変形抵抗が急激に増加し、熱延コイルの上(top)部、下(tail)部、及びエッジ(edge)部が単相領域となって面内異方性が増加し、成形性が劣化する恐れがある。一方、その温度が1000℃を超過すると、相対的に圧延荷重が減少して生産性には有利な反面、厚い酸化スケールが発生する恐れがある。
【0085】
より具体的には、上記仕上げ熱間圧延は760~940℃の温度範囲で行うことができる。
【0086】
[巻き取り]
上記のように製造された熱延鋼板をコイル状に巻き取ることができる。
【0087】
上記巻き取りは、400~700℃の温度範囲で行うことができる。巻き取り温度が400℃未満であると、マルテンサイト又は非平衡フェライト相が過度に多く形成されて熱延鋼板の過度な強度上昇を招き、以降の冷間圧延において負荷による形状不良などの問題が発生する恐れがある。これに対し、巻き取り温度が700℃を超過すると、表面スケールが増加して酸洗性が劣化するという問題がある。
【0088】
[冷却]
上記巻き取られた熱延鋼板を常温まで0.1℃/s以下(0℃/sを除く)の平均冷却速度で冷却することが好ましい。このとき、上記巻き取られた熱延鋼板は、移送、積置などの過程を経てから冷却が行われることができ、冷却以前の工程がこれに限定されるものではない。
【0089】
このように、巻き取られた熱延鋼板を一定速度で冷却することで、オーステナイトの核生成サイト(site)となる炭化物を微細に分散させた熱延鋼板を得ることができる。
【0090】
[冷間圧延]
上記のように巻き取られた熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板に製造することができる。
【0091】
本発明において、上記冷間圧延は55~70%の冷間圧下率で行うことができる。上記冷間圧下率が55%未満であると、再結晶駆動力が弱化して良好な再結晶粒が得られにくくなる一方で、70%を超過すると、鋼板エッジ(edge)部でクラック発生危険性が高くなり、圧延荷重が急激に増加する恐れがある。
【0092】
本発明は、冷間圧延において適正水準の冷間圧下率を適用した状態で後続の連続焼鈍工程時の加熱区間でフェライトの再結晶をさらに促進させることができ、これによって微細なフェライトの形成が誘導され、フェライト粒界に形成されるオーステナイトも小さくて均一に形成させることができる。これは、冷却中の非平衡組織の大きさや分布にも影響を及ぼし、最終製品の強度を維持しながら伸び率、穴拡げ性などの加工性を同時に向上させるのにも有利である。
【0093】
一方、上記冷間圧下率は、1回の冷間圧延、即ち、1スタンド(stand)のみで実現することができ、このように強圧下が可能で、経済的に有利な効果がある。
【0094】
但し、冷間圧延前の熱延鋼板の厚さが6mm以上と厚物材である場合は、リバースミル(reversing mill)を活用し、繰り返し圧延によって目標圧下率を達成することができる。この場合、繰り返し圧延した全てのパス(pass)数を1スタンドに設定することができる。リバース圧延機は、薄物材の圧延に使用される圧延機の一種で、一対のロール(roll)の間で素材を往復させながら圧延する圧延機のことをいい、上記素材の往復時の片道を1パスに設定することができる。
【0095】
本発明は、上記冷間圧延前に熱延鋼板を酸洗処理することができ、上記酸洗処理工程は、通常の方法によって行うことができる。
【0096】
[連続焼鈍]
上記のように製造された冷延鋼板を連続焼鈍処理することが好ましい。上記連続焼鈍処理は、一例として、連続焼鈍炉(CAL)で行うことができる。
【0097】
通常、連続焼鈍炉(CAL)は、[加熱帯-均熱帯-冷却帯(徐冷帯及び急冷帯)-(必要に応じて、過時効帯)]を含むことができ、例えば、このような連続焼鈍炉に冷延鋼板を装入した後、加熱帯において特定温度で加熱し、目標温度に到逹した後、均熱帯で一定時間維持する工程を経る。
【0098】
本発明では、上記連続焼鈍時に、加熱帯及び均熱帯の温度を同一に制御することができ、これは、加熱帯の終了温度及び均熱帯の開始温度を同一に制御することを意味する(
図1)。
【0099】
具体的には、上記加熱帯及び均熱帯の温度は、810~850℃に制御することができる。
【0100】
上記加熱帯の温度が810℃未満であると、再結晶のための十分な入熱を加えることができなくなる一方で、その温度が850℃を超過すると、生産性が低下しオーステナイト相が過度に多く形成され、後続の冷却後に硬質相(hard phase)の分率が大きく増加するため、鋼の延性が劣位する恐れがある。
【0101】
また、上記均熱帯の温度が810℃未満であると、加熱帯の終了温度で過度な冷却が要求されるため経済的に不利であり、再結晶のための熱量が不十分になる恐れがある。これに対し、その温度が850℃を超過すると、オーステナイト分率が過度になって冷却中に硬質相が増加して成形性が減少する恐れがある。
【0102】
上述した温度範囲内で均熱帯の温度を高めると、オーステナイト安定性を下げることができ、これによって、後続の冷却中に非平衡フェライト相の生成を促進させることができる。
【0103】
具体的には後述するが、本発明では、上記加熱帯及び均熱帯を経て冷却するとき、段階的冷却を行うが、1次冷却後に上記非平衡フェライト相が導入され、最終組織として、一定分率の軟質相及び硬質相に加えて、非平衡フェライト相で構成することができる。これによって、本発明の鋼板は、強度及び延性の向上とともに、非平衡フェライト相による界面強化によって加工性の向上効果を同時に得ることができる。
【0104】
したがって、本発明で意図する微細組織を得るためには、上記連続焼鈍時に加熱帯及び均熱帯からなる加熱区間で鋼板に加えられる入熱を制御することが好ましい。
【0105】
[段階的冷却]
上述したように、上記のように加熱処理された冷延鋼板を冷却することで目標とする組織を形成することができ、このとき、段階的(stepwise)に冷却を行うことが好ましい。
【0106】
本発明において、上記段階的冷却は、1次冷却-2次冷却からなることができ、具体的には、上記連続焼鈍後に570~630℃の温度範囲まで1~10℃/sの平均冷却速度で1次冷却した後、300~400℃の温度範囲まで5~50℃/sの平均冷却速度で2次冷却を行うことができる。
【0107】
このとき、2次冷却よりも1次冷却をゆっくりと行うことで、その後、相対的に急冷区間である2次冷却時の急激な温度低下による板形状不良を抑制することができる。
【0108】
上記1次冷却時の終了温度が570℃未満であると、あまりにも低い温度によって炭素の拡散活動度が低くなり、フェライト内の炭素濃度が高くなる一方で、オーステナイト内の炭素濃度が低くなるにつれて硬質相の分率が過度になって降伏比が増加し、それによって、加工時のクラック発生傾向が高くなる。また、均熱帯及び冷却帯(徐冷帯)間の冷却速度があまりにも大きくなって板の形状にばらつきが生じる問題が発生するようになる。上記終了温度が630℃を超過すると、後続の冷却(2次冷却)時にあまりにも高い冷却速度が要求され、非平衡フェライト相の導入が困難になる。
【0109】
また、上記1次冷却時に平均冷却速度が10℃/sを超過すると、炭素拡散が十分に行われない恐れがある。一方、生産性を考慮して上記1次冷却を1℃/s以上の平均冷却速度で行うことができる。
【0110】
上述したように1次冷却の完了後には、一定以上の冷却速度で急冷(2次冷却)を行うことができる。このとき、2次冷却終了温度が300℃未満であると、鋼板の幅方向及び長さ方向に冷却むらが発生し、板形状が劣位する恐れがある。これに対し、その温度が400℃を超過すると、硬質相を十分に確保することができず、強度が低くなり、ベイナイトが形成されて降伏比の上昇及び伸び率の低下を誘発する恐れがある。
【0111】
また、上記2次冷却時の平均冷却速度が5℃/s未満であると、硬質相(hard phase)の分率が過度になる恐れがある一方で、50℃/sを超過すると、かえって硬質相が不十分になる恐れがある。
【0112】
なお、必要に応じて、上記段階的冷却を完了した後、過時効処理を行うことができる。
【0113】
上記過時効処理は、上記2次冷却終了後に一定時間維持する工程であって、コイルの幅方向及び長さ方向に均一な熱処理が行われることで形状品質を向上させる効果がある。このために、上記過時効処理は200~800秒間行うことができる。
【0114】
上記過時効処理は、上記2次冷却終了直後に行うことができるため、その温度は上記2次冷却終了温度と同一であるか、又は、上記2次冷却終了温度の範囲内であってよい。
【0115】
前述した方法で製造された本発明の高強度鋼板は、微細組織が硬質相と軟質相で構成され、特に、最適化された冷間圧延及び焼鈍工程によってフェライト再結晶を極大化させることで、最終的に再結晶されたフェライト基地に硬質相のマルテンサイト相が均一に分布された組織を有することができる。さらに、上記硬質相と軟質相の界面に非平衡フェライト相を導入させることで加工時のクラック抵抗性を高める効果がある。
【0116】
これによって、本発明の鋼板は、引張強度1100MPa以上の高強度を有しながらも、低降伏比及び高延性の確保によって穴拡げ性などの優れた成形性を確保することができる。
【実施例】
【0117】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。しかしながら、このような実施例の記載は本発明の実施を例示するためのものであり、このような実施例の記載によって本発明が制限されるものではない。本発明の権利範囲は特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【0118】
実施例
下記表1に示された合金組成を有する鋼スラブを作製した後、それぞれの鋼スラブを1200℃で1時間加熱した後、仕上げ圧延温度880~920℃で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造した。その後、それぞれの熱延鋼板を650℃で巻き取った後、0.1℃/sの冷却速度で常温に冷却した。次いで、巻き取られた熱延鋼板に対して下記表2に示された条件で冷間圧延及び連続焼鈍を処理した後、段階的冷却(1次-2次)後に360℃で520秒間過時効処理を行うことで、最終鋼板を製造した。
【0119】
このとき、段階的冷却において1次冷却は3℃/sの平均冷却速度、2次冷却は20℃/sの平均冷却速度で行った。また、冷間圧延は1スタンドで行った。
【0120】
上記のように製造されたそれぞれの鋼板に対して微細組織を観察し、引張及び加工特性、及び穴拡げ率などの加工工程利用物性指数を評価した後、その結果を下記表3に示した。
【0121】
このとき、それぞれの試験片に対する引張試験は、圧延方向の垂直方向にJIS5号サイズの引張試験片を採取した後、0.01/sのstrain rateで引張試験を行った。
【0122】
一方、穴拡げ性(HER,%)測定試験は、ISO16630基準に従って行った。具体的には、試験片に円形の穴を打ち抜いた後、円錐形パンチを用いて穴を拡張させたとき、穴の端部に発生した亀裂が厚さ方向に貫通するまでの穴拡げ量を初期の穴に対する比率として示した。このとき、試験片のサイズは120mm×120mm、クリアランス(clearance)は12%であり、パンチング穴径は10mm、パンチング保持荷重は20ton、試験速度は12mm/minであった。
【0123】
そして、組織相(phase)のうち、硬質相に該当するマルテンサイト相及び非平衡フェライト相は、ナイタール(nital)エッチング後に2000倍率、5000倍率でSEMによって観察した。このとき、観察された各相の大きさ、分率などを測定した。その他、相(phase)に対してもナイタールエッチング後にSEM及びイメージ分析プログラム(Image analyzer program)を用いてそれぞれの分率を測定した。
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
上記表1から3に示されたように、鋼合金組成及び製造条件、特に、冷間圧延及び連続焼鈍工程が本発明で提案するところを全て満たす発明例1から6で、冷間圧延後の焼鈍過程でフェライトの十分な再結晶及び微細な硬質相が形成され、さらに、界面で非平衡フェライト組織によって連結されて高強度及び板状加工に適切な降伏強度を有し、優れた伸び率を有することが分かる。また、穴拡げ性に優れて目標水準の成形性の確保が可能なことを確認することができる。
【0128】
これに対し、鋼板製造工程中の連続焼鈍において、均熱温度の低い比較例1から6は、再結晶が十分に起こらず、さらに、均熱帯で形成された適正分率のオーステナイトが高い安定性を有するため、冷却中に非平衡フェライトが十分に導入されていなかった。その結果、延性及び/又は穴拡げ性に劣る結果を示した。
【0129】
一方、比較例7から10は、連続焼鈍時に適切な温度で加熱が行われたものの、1次冷却時の終了温度が高く、冷却中に非平衡フェライトの導入時間が不十分で延性及び/又は穴拡げ性が低下した。
【0130】
また、硬化能元素であるCrを過度に多く含む比較例11から14は、降伏強度が過度になって加工中にクラック発生危険性が存在し、さらに、均熱帯温度が低くて非平衡フェライト相の導入が不可能であるため、一部の比較例では延性に劣る結果を示した。
【0131】
図3は、比較例4から7、及び発明例1の微細組織写真を示したものである。
【0132】
図3に示されたように、発明例1は、十分な分率の再結晶フェライト基地に1次冷却中に均質で微細な非平衡フェライト相が導入され、2次冷却中に一定分率のマルテンサイト相が形成されたものである。
【0133】
一方、比較例4から7は、連続焼鈍時に均熱帯温度又は1次冷却終了温度の条件から外れており、非平衡フェライトが少量導入されたことを確認することができる。そのうち、均熱帯温度が800℃にも到達できず、1次冷却終了温度が相当高い比較例4、そして1次冷却終了温度が相当高い比較例7は、非平衡フェライトが1%以下と、ほとんど観察されないことが分かる。
【国際調査報告】