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特表2024-527421420MPaグレードの降伏強度を有する耐低温性の熱間圧延されたH字型鋼及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-24
(54)【発明の名称】420MPaグレードの降伏強度を有する耐低温性の熱間圧延されたH字型鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240717BHJP
   C22C 38/28 20060101ALI20240717BHJP
   C21D 8/00 20060101ALI20240717BHJP
   C21C 1/02 20060101ALI20240717BHJP
   C21C 5/30 20060101ALI20240717BHJP
   C21C 7/10 20060101ALI20240717BHJP
   C21C 7/072 20060101ALI20240717BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20240717BHJP
   B21B 1/088 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/28
C21D8/00 B
C21C1/02 110
C21C5/30 Z
C21C7/10 A
C21C7/072 Z
B22D11/00 A
B21B1/088
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503471
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 CN2021118771
(87)【国際公開番号】W WO2023000479
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】202110818559.5
(32)【優先日】2021-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520449079
【氏名又は名称】山東鋼鉄股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANDONG IRON AND STEEL CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ゾンシュエ
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ,ペイリン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ホンイン
【テーマコード(参考)】
4E002
4K013
4K014
4K032
4K070
【Fターム(参考)】
4E002AC03
4K013CA01
4K013CD02
4K013CE01
4K014AA03
4K014AB02
4K014AB03
4K014AB04
4K014AC04
4K014AC14
4K014AD23
4K032AA01
4K032AA04
4K032AA11
4K032AA16
4K032AA21
4K032AA26
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032BA00
4K032CA03
4K032CC04
4K070AB06
4K070EA01
(57)【要約】
本発明は、冶金技術分野に属し、具体的に、420MPaグレードの耐低温性の熱間圧延されたH字型鋼及びその製造方法に関する。前記H字型鋼の化学組成は、質量パーセントで、C:0.08%~0.10%、Si≦0.2%、Mn:1.25%~1.45%、V:0.03%~0.045%、Ti:0.015%~0.025%、Cr:0.15%~0.30%、A1s:0.02%~0.04%、N:0.007%~0.01%、P≦0.008%、S≦0.005%、O≦0.004%であり、残りがFe及び不可避な不純物である。本発明は、矩形スラブの圧延による中小型のH字型鋼のフランジが薄い特徴と組み合わせ、焼きならし圧延に適合する低いC含有量とVマイクロ合金化を組み合わせる成分の設計を用い、適量のCr元素を添加して冷却速度を制御し、ウィドマンステッテン等の異常組織が生成して鋼の低温衝撃靭性を低下させることを回避する。それによりH字型鋼を熱間圧延する圧延機で安定して制御された420MPaグレード以上の高強靭性熱間圧延されたH字型鋼を得る。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
420MPaグレードの降伏強度を有する耐低温性のH字型鋼であって、
前記H字型鋼の化学組成は、質量パーセントで、C:0.08%~0.10%、Si≦0.2%、Mn:1.25%~1.45%、V:0.03%~0.045%、Ti:0.015%~0.025%、Cr:0.15%~0.30%、A1s:0.02%~0.04%、N:0.007%~0.01%、P≦0.008%、S≦0.005%、O≦0.004%であり、残りがFe及び不可避な不純物である、ことを特徴とする420MPaグレードの降伏強度を有する耐低温性のH字型鋼。
【請求項2】
前記H字型鋼の化学組成は、質量パーセントで、P+S≦0.01%である、ことを特徴とする請求項1に記載された420MPaグレードの降伏強度を有する耐低温性のH字型鋼。
【請求項3】
420MPaグレードの降伏強度を有する耐低温性のH字型鋼の製造方法であって、以下のステップ(1)~ステップ(3)を含み、
(1)溶銑の前処理、複数回の脱リンをし、高炉の出銑工程において、高炉における溶銑は、第1の取鍋に流入し、高炉における溶銑の連続的な注入に伴い、取鍋に脱リン剤を噴霧して脱リンを行い、取鍋における液位は絶えず上昇して溶銑の液位が銑排出口の上縁を20~30cm超える場合、銑排出口を開き、溶銑が銑排出口を介して第2の取鍋に流入し、第2の取鍋内で噴霧による脱リン操作を再び行い、且つ第2の取鍋の取鍋の鋼-スラグ界面から20~30cm下の側面にも銑排出口が設けられ、第2の取鍋の上部の脱リンした溶銑は銑排出口を介して第3の取鍋に下向きに流入し、このように繰り返して銑排出口を介して第Nの取鍋に下向きに流入し、溶銑に対してN回の脱リン操作を行い、溶銑におけるリンの含有量を0.02%以下にし、4≦N≦6であり、
30~40minの脱リンをするたびに、第1の取鍋~第N-1の取鍋は1回のスラグ交換操作を行い、
(2)転炉による製錬:終点のリンの含有量を0.007%以下に制御し、
(3)取鍋へのアルゴン吹き込み、RH/LF精錬、矩形連鋳スラブの鋳造、連鋳スラブを徐冷ピットで徐冷し又は熱間供給・熱間装入、型鋼線半連続圧延、冷却床による密集徐冷などの工程を行い、なお、圧延において、加熱炉の均熱温度は1210~1250℃であり、スラブの鋳造時間は140~180minであり、仕上圧延の開始温度は1000~1050℃であり、仕上圧延の終了温度は890~930℃である、ことを特徴とする製造方法。
【請求項4】
前記ステップ(1)において、第1の取鍋~第N-1の取鍋の公称容積は30~50tの溶銑であり、深さは1.5~2mであり、取鍋の上部から50~60cm離れた取鍋側壁に銑排出口が設けられ、銑排出口は外へ20~30cm延出し、スライドプレートを用いて銑排出口の開閉を制御し、前記第Nの取鍋の容積は転炉のトン数とマッチングし、前記ステップ(4)における仕上圧延の最後2つのパスの圧縮比は6%~12%である、ことを特徴とする請求項1に記載された製造方法。
【請求項5】
前記脱リン剤の噴霧点は、第1の取鍋への高炉溶銑の注入点、及び次段の取鍋への1段前の取鍋における溶銑の注入点である、ことを特徴とする請求項1に記載された製造方法。
【請求項6】
前記脱リン剤は汚泥球と石灰の混合物であり、汚泥球と石灰の質量比は1:1であり、汚泥球における成分は、質量パーセントで、CaO:2~8%、Fe:85~92%、SiO:1~5%を含み、石灰における成分は、質量パーセントで、CaO:85~90%、Fe:0~3%、SiO:0~10%、MgO:0~10%を含み、前記取鍋における脱リン剤の添加量は2~3kg/1トン鉄・取鍋である、ことを特徴とする請求項1に記載された製造方法。
【請求項7】
前記脱リン剤を噴霧する時のキャリアガスは酸素であり、噴霧圧力は0.2~0.3Mpaであり、噴霧流量は2~4m/minである、ことを特徴とする請求項1に記載された製造方法。
【請求項8】
前記取鍋において、次の取鍋は1つ前の取鍋の位置より60~70cm低いことを特徴とする請求項1に記載された製造方法。
【請求項9】
前記スラグ交換操作は、第1の取鍋におけるスラグを出し、第2の取鍋の上部のスラグを第1の取鍋に入れ、第3の取鍋の上部のスラグを第2の取鍋に入れ、第N-1の取鍋の上部のスラグを第N-2取鍋に入れるまで続けることである、を特徴とする請求項1に記載された製造方法。
【請求項10】
前記第1の取鍋~第N-1の取鍋の上部に、いずれもスラグ排出口が設けられ、スラグ排出口は外へ20~30mm延出し、スラグ排出口と銑排出口の取鍋壁における位置差は円周の4分の1であり、
第1の取鍋~第N-1の取鍋の取鍋車に、いずれも油圧昇降装置及び回転装置が配置され、取鍋を1~2m昇降させ、中軸線を中心に取鍋を90度回転させることができることを特徴とする請求項9に記載された製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2021年7月20日に出願した中国特許出願第202110818559.5号に基づく優先権を主張し、この中国特許出願の全ての内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、冶金技術分野に属し、具体的に、420MPaグレードの耐低温性の熱間圧延されたH字型鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
エネルギー採掘が極寒等の複雑な地域へ発展することに伴い、総合性能がより高い熱間圧延されたH字型鋼は、現在の低グレードのH字型鋼に取って代わって、重量を軽減するとともに、高い信頼性を確保することを必要とする。また、極寒等の複雑な地域の利用環境に適応するために、鋼材の低温衝撃靭性、溶接性能、耐層状裂け目性能等に対してより高い要求があり、より高い強度グレードの熱間圧延されたH字型鋼の需要は徐々に増加している。
【0004】
現在、中国の熱間圧延されたH字型鋼の製造企業は降伏強度が345MPa以上の異なるグレードのH字型鋼を次々と開発しており、一般的に複合マイクロ合金化と熱間圧延方法を組み合わせて製造する。異なる企業は設備レベルに基づいて異なるグレード、及び異なる総合性能の製品を製造する。
【0005】
中国特許出願CN201510498771.2において、低温靭性に優れた420MPaグレードの熱間圧延されたH字型鋼及びその製造方法が開示されており、成分は、C:0.06~0.12%、Si:0.20~0.40%、Mn:1.20~1.60%、P≦0.015%、S≦0.010%、V:0.050~0.070%、Ni:0.10~0.20%、N:0.0050~0.0100%であり、残りがFe及び不可避な不純物である。従来技術に比べて、この特許は合理的なV、Ni、N成分の設計によって、適応的な制御圧延及び制御冷却プロセスをマッチングし、総合性能に優れた420MPaの熱間圧延H字型鋼を開発し、降伏強度ReHは440~520MPaであり、引張強度Rmは550~650MPaであり、伸び率AはA≧22%であり、-40℃の低温衝撃靭性はKV2≧100Jである。この特許の制御冷却は2段式を用い、第1の段階の迅速冷却+第2の段階の空冷であり、上記の製造要求を満たすために特別な冷却装置を必要とする。製造された低温靭性に優れた420MPaグレードの熱間圧延されたH字型鋼は、厚さ方向性能Zが40~65%であり、異形スラブ大型製品に対して行われるプロセス設計であり、中小型の薄フランジのH字型鋼製品の製造に適合しない。
【0006】
中国特許出願CN201510788520.8において、420MPaグレードの高強度低降伏比のH字型鋼及びその製造方法が開示されており、前記H字型鋼の化学成分は、質量パーセントで、C:0.11~0.15%、Si:0.20~0.35%、Mn:1.35~1.50%、P≦0.035%、S≦0.025%、Cu:0.25~0.30%、Cr:0.40~0.45、Ni:0.20~0.30%、Nb:0.20~0.30%であり、残りが鉄及び微量の不純物である。この特許は成分の設計を最適化することによって420MPaグレードの低降伏比のH字型鋼の製造を実現し、降伏強度は427MPa以上であり、引張強度は641MPa以上であり、降伏比は0.64~0.67である。この特許において、Ni、Nb、Cu等の元素を添加し、特定の高耐食性環境下で使用し、製造過程でCu元素の影響を受け、高圧延終了温度の条件においてH字型鋼の脚部に亀裂が発生する確率が向上するとともに、製造コストが著しく増加する。
【0007】
特許出願CN201510498771.2において、420MPaグレードの高性能耐震のH字型鋼及びその製造方法が開示されており、C:0.15~0.18wt%、Si:0.30~0.45wt%、Mn:1.35~1.55wt%、V:0.070~0.090wt%、P:≦0.015wt%、S:≦0.020wt%を含み、残りがFe及び不可避な不純物である。製造方法は、溶鋼の製錬、脱酸合金化、溶鋼のLF炉精錬、溶鋼の鋳造、後処理ステップを含む。この特許における製錬は、窒素リッチなバナジウムマイクロ合金化プロセスを用い、オーステナイト結晶粒を効果的に微細化し、製錬時に窒素含有量を増加することによって、バナジウムの炭窒化物を形成して結晶粒界に分散させることに寄与し、オーステナイト結晶粒の核形成を促進してオーステナイト結晶粒を更に微細化し、圧延、制御冷却、迅速冷却等のプロセスを経て、H字型鋼の優れた外形及び表面品質を確保し、性能を向上させる。この特許において、強度指標が420MPaに達するが、低温靭性を大幅に向上させなかった。
【0008】
上記3つの420MPaグレードのH字型鋼及び製造技術は、いずれもマイクロ合金化と異なる冷却方式を組み合わせ、関わる製品は、規格が大きく、高い強度を有するとともに一定の衝撃靭性を確保し、冷却装置に対する要求が高い一方で、通常の装置で圧延し、低温靭性の要求が低い。従って、中小型のH字型鋼製品に対して高温焼きならし圧延条件において強度を向上させるとともに衝撃靭性を更に向上させるために改めて設計する必要がある。また、板材の圧延とは異なり、H字型鋼は複雑な断面を有するため、プロセスに対する要求がより厳しくなる。
【0009】
現在、製鋼プロセスにおける脱リン工程は、一般的に転炉で完了するが、単一転炉の脱リン率が低く、溶鋼におけるリン含有量を0.01%以下に安定的に制御しにくく、脱リン率を向上させるために、現在開示されている従来技術において、2つの転炉を用いて二重プロセスによる高度脱リンを行うことが多く、溶鋼におけるリン含有量を0.01%以下に安定的に制御することができるが、二重プロセスは脱リン転炉及び脱炭転炉で脱リン及び脱炭をそれぞれ行う必要があり、脱リン炉を新設する必要があり、そして、単一転炉の製錬時間より40min以上長く、装置の投資が大きく、製造効率が低いという欠点がある。一部の企業は転炉ダブルスラグ法で高度脱リンを行うが、転炉の一次脱リンスラグを完全に出すことができないため、高度脱リン率を確保できず、溶鋼におけるリン含有量を0.01%以下に安定的に制御しにくい。
【0010】
一部の企業は溶銑前処理の3つの除去プロセス(脱珪、脱硫、脱リン)で脱リンを行うが、脱リン反応がスラグ-鋼界面の反応であり、反応式は下記式(1)に示され、リン元素と酸素元素の反応生成物Pが不安定であり、Pをスラグに入れてCaOと反応してCaO・Pを生成することによってしか除去することができず、鋼スラグと接触した溶鋼のみは脱リン反応が発生し(取鍋における下部の溶鋼はほとんど脱リン反応が発生しない)、従って、長時間に撹拌して鋼スラグと溶鋼の接触を促進することによってしか溶銑におけるPを要求範囲(溶銑におけるP含有量が0.03%以下)にすることができず、溶銑の前処理効率が低く、3つの除去プロセス全体は150~200min行う必要があり、製造効率が低く、且つ溶銑の温度低下量が大きく、鉄鋼企業の利益に深刻な悪影響を与え、3つの除去プロセスで溶銑の前処理を行う中国の鉄鋼企業はますます少なくなっている。従って、脱リンプロセスを改良する必要があり、それによって、リン含有量を低減させる目的を実現し、低温靭性を向上させる効果を達成する。
【0011】
2[P]+5[O]+4(CaO)=(4CaO・P)(1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
北極・南極等極地の寒冷地等の複雑な環境下での高強度、高低温靭性の形鋼の需要を満たすために、降伏強度が420MPaグレードに達する耐低温性の熱間圧延されたH字型鋼及びその製造方法を提供し、該H字型鋼は、極低温度条件における陸上及び海洋地域の石油プラットフォーム建設等の建築構造用鋼の需要を満たすだけでなく、製造コストが低い優位性を有し、建築構造の軽量化を実現し、鋼構造の建築に利便さを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の技術的解決手段は、以下のとおりである。
【0014】
本発明は、420MPaグレードの降伏強度を有する耐低温性のH字型鋼を提供し、その化学成分組成は、質量パーセントで、C:0.08%~0.10%、Si≦0.2%、Mn:1.25%~1.45%、V:0.03%~0.045%、Ti:0.015%~0.025%、Cr:0.15%~0.30%、A1s:0.02%~0.04%、N:0.007%~0.01%、P≦0.008%、S≦0.005%、O≦0.004%であり、残りがFe及び不可避な不純物である。
【0015】
好ましくは、本発明において、P、S元素がP+S≦0.01%を満たす。該式の要求を満たした上で製造されたH字型鋼は、極地温度下での衝撃靭性要求をよりよく満たすことができる。本発明は、特にフランジの厚さが15mm以下の中小型のH字型鋼製品の製造に適合するが、上記規格の製品に限定されない。
【0016】
本発明に係る高強度熱間圧延されたH字型鋼において、各化学元素の設計原理が以下のとおりである。
【0017】
炭素:熱間圧延されたH字型鋼の420MPa強度グレードを取得するとともに耐低温性の要求を満たすために、鋼のマトリックス組織が超微シート状パーライト及び扁平状フェライトであり、同時に一定のナノレベルバナジウム含有炭化物を取得する。規格が小さいH字型鋼の圧縮比が大きく、装置の容量及び圧延終了温度の制御困難性が大きい等の要素を組み合わせると、炭素の含有量を高くしてはならず、0.08%~0.10%に制御する。
【0018】
マンガン:熱間圧延された鋼において、Mnは、オーステナイト組織を安定させ、鋼の焼入性を高め、鋼の強度を向上させることができる。また、Mnは偏析しやすい元素であり、鋼の組織の異なる部位に不均一に分布し、性能の差が大きい。強度を確保するために、Mn含有量を1.25%以上に設定することが好ましい。また、亀裂感度を制御するために、Mnの過剰な添加が低温靭性、可塑性等の機械的性質指標を損なうため、過剰に添加しない方がよい。従って、総合的に考慮すると、本発明において、鋼におけるMn含有量を1.25%~1.45%に制御する。
【0019】
シリコン:Siは脱酸元素であり、強度の向上に寄与するが、多すぎるとSiが鋼の表面に多くのSi含有FeSiOSiを形成し、それにより鋼の粘度を増加し、ミルスケールを除去しにくくなり、表面の品質に影響を与える。従って、Siの含有量の下限を0.20%以下に設定する。
【0020】
リン:リンは鋼中の有害不純物として、液相と固相の間の二相域を著しく拡げることができ、結晶粒界で偏析しやすく、鋼の局所組織を異常にし、鋼材の「脆化」をもたらし、鋼材の低温衝撃靭性及び焼戻脆性を著しく低下させ、機械性能の不均一をもたらし、リンは更に腐食疲労及び溶接亀裂を引き起こす。従って、転炉による製錬において、P含有量を適当に制御することが、H字型鋼の耐低温靭性の向上に著しい役割を果たす。装置の容量を考慮すると、本発明において、P≦0.008%である。
【0021】
硫黄:鋼における不可避な5つの元素の1つとして、固化偏析により、溶接の亀裂や靭性の低下を引き起こす。製造過程による断続的に存在する介在物は鋼の低温靭性に深刻な影響を与えるため、その含有量をできるだけ減少させるべきである。硫黄はMnSの介在物を形成しやすく、亀裂の起点となり、加工性を低下させるため、好ましくはS含有量を0.005%以下に制限する。P、Sの下限値は装置の容量及びコスト制御により決まり、いずれも0%を超えればよく、P+S≦0.010%である。
【0022】
アルミニウム:Alは本発明におけるH字型鋼の製造過程で強力な脱酸元素として使用される。鋼における酸素含有量をできるだけ低くするために、球状不純物の形成確率を低下させる。一部のアルミニウムは更に鋼における窒素元素とAlN析出物を形成することができ、鋼の強度を高めることができる。従って、本発明におけるアルミニウムの含有量を0.02%~0.04%に制御する。
【0023】
チタン:Tiは、強力な炭化物形成元素であり、微量のTiは鋼におけるNを固定することに寄与し、同時に形成された微細TiNは、スラブを加熱する時にオーステナイト結晶粒が過度に成長することを抑制し、それにより元のオーステナイト結晶粒を微細化する役割を果たす。Tiは、鋼において更にTiC、TiS、Ti等の化合物を生成することができ、溶接時に熱影響領域の結晶粒の成長を阻止することができ、最終製品のH字型鋼の溶接性能を改善することもできる。従って、本発明において、0.015%~0.025%のTiを添加する。
【0024】
バナジウム:強力な炭窒化物形成元素として、Vの炭窒化物は圧延後期の冷却段階でナノレベルの炭窒化物を形成し、顕著な沈殿強化の役割を果たし、VN合金はフェライトとパーライト組織の核形成粒子として使用でき、組織の細粒化に寄与する。VCも沈殿強化の役割を果たし、また、バナジウム含有鋼の圧延変形抵抗が低く、圧延荷重を低減させる役割を果たす。420MPaグレードの降伏強度に対して、V含有量を0.03%~0.045%に制御する。
【0025】
クロム:鋼に一定のCrを添加することで鋼の強度、硬度及び耐摩耗性を向上させることができる。鋼にクロムを加えると、鋼の焼入性を著しく向上させることができる。実験により、Mo元素に比べてCr元素の焼入性がやや弱く、低い冷却速度で多くのベイナイト組織を形成して鋼の靭性を低下させることがない。また、Cr含有量が多すぎるか少なすぎると、鋼の焼入性や破壊の遅延に悪影響を与え、欠陥を引き起こしやすくなる。異常な組織の形成を回避することを考慮すると、Crを0.15%~0.30%範囲内に制御する。
【0026】
窒素:鋼におけるN元素は、TiとTiNを形成し、また、VとVNを形成し、VC合金は沈殿強化の効果を達成し、強度を向上させる。N含有量が多すぎると、スラブ表面の品質不良を誘発しやすく、横割れ等が発生し、従って、本発明において、窒素の含有量を0.007%~0.010%とする。
【0027】
酸素:鋼における酸素含有量を適当に低下させることで、強力な酸化元素と酸化物の介在物の大粒子を形成することを回避することができ、それにより鋼の靭性及び可塑性の向上を確保し、本発明において、窒素の含有量≦0.004%とする。
【0028】
前記H字型鋼は、降伏強度≧420MPa、引張強度≧520MPa、伸び率≧20%、-50℃での衝撃エネルギー≧100Jである。
【0029】
本発明は、上記420MPaグレードの降伏強度を有するH字型鋼の製造方法を更に提供し、前記製造方法は、溶銑前処理+高度脱リン→転炉製錬→取鍋へのアルゴン吹き込み→RH/LF精錬→矩形連鋳スラブの鋳造→連鋳スラブを徐冷ピットで徐冷し又は熱間供給・熱間装入すること→型鋼線半連続圧延→冷却床による密集徐冷等を行う工程を主として含む。具体的に以下のステップを含む。
【0030】
(1)溶銑前処理、複数回の脱リンをする。
【0031】
高炉の出銑過程において、高炉における溶銑は第1の取鍋に流入し、高炉における溶銑の連続的な注入に伴い、取鍋に脱リン剤を噴霧して脱リンを行い、取鍋における液位は絶えず上昇し、溶銑の液位が銑排出口の上縁を20~30cm超える場合、銑排出口を開き、溶銑が銑排出口を介して第2の取鍋に流入し、第2の取鍋内で噴霧による脱リン操作を再び行い、且つ第2の取鍋は取鍋の鋼-スラグ界面から20~30cm下の側面にも銑排出口が設けられ、第2の取鍋の上部の脱リンした溶銑は、銑排出口を介して第3の取鍋に下向きに流入し、このように繰り返して銑排出口を介して第Nの取鍋に下向きに流入し、溶銑に対してN回の脱リン操作を行い、溶銑におけるリンの含有量を0.02%以下にし、4≦N≦6である。
【0032】
30~40minの脱リンをするたびに、第1の取鍋~第N-1の取鍋は1回のスラグ交換操作を行う。
【0033】
(2)転炉による製錬:終点のリンの含有量を0.007%以下に制御する。
【0034】
(3)取鍋へのアルゴン吹き込み、RH/LF精錬、矩形連鋳スラブの鋳造、連鋳スラブを徐冷ピットで徐冷し又は熱間供給・熱間装入、型鋼線半連続圧延、冷却床による密集徐冷などの工程を行い、なお、圧延工程において、加熱炉の均熱温度は1210~1250℃であり、スラブの鋳造時間は140~180minであり、仕上圧延の開始温度は1000~1050℃であり、仕上圧延の終了温度は890~930℃である。
【0035】
好ましくは、前記ステップ(1)において、第1の取鍋~第N-1の取鍋の公称容積は30~50tの溶銑であり、深さは1.5~2mであり、取鍋の上部から50~60cm離れた取鍋の側壁に銑排出口が設けられ、銑排出口は外へ20~30cm延出し、スライドプレートを用いて銑排出口の開閉を制御し、前記第Nの取鍋の容積は転炉のトン数とマッチングする。
【0036】
好ましくは、前記脱リン剤の噴霧点は、第1の取鍋への高炉溶銑の注入点、及び次段の取鍋への1段前の取鍋における溶銑の注入点、すなわち第2の取鍋への第1の取鍋における溶銑の注入点、第3の取鍋への第2の取鍋における溶銑の注入点、このように類推し、第N-1の取鍋への第N-2の取鍋における溶銑の注入点を含む。この位置において、溶銑の撹拌は激しく、脱リンの動力学条件は良い。
【0037】
好ましくは、前記脱リン剤は汚泥球と石灰の混合物であり、汚泥球と石灰の質量比は1:1であり、汚泥球における成分は、質量パーセントで、CaO:2~8%、Fe:85~92%、SiO:1~5%を含み、石灰における成分は、質量パーセントで、CaO:85~90%、Fe:0~3%、SiO:0~10%、MgO:0~10%を含み、前記取鍋における脱リン剤の添加量は2~3kg/1トン鉄・取鍋である。
【0038】
好ましくは、前記脱リン剤の噴霧時のキャリアガスは酸素であり、噴霧圧力は0.2~0.3Mpaであり、噴霧流量は2~4m/minである。
【0039】
好ましくは、前記取鍋において、次の取鍋は1つ前の取鍋の位置より60~70cm低い。
【0040】
好ましくは、前記スラグ交換操作については、第1の取鍋におけるスラグを出し、第2の取鍋の上部のスラグを第1の取鍋に入れ、第3の取鍋の上部のスラグを第2の取鍋に入れ、第N-1の取鍋の上部のスラグを第N-2の取鍋に入れるまで続ける。
【0041】
好ましくは、前記第1の取鍋~第N-1の取鍋の上部にいずれもスラグ排出口が設けられ、スラグ排出口は外へ20~30mm延出し、スラグ排出口と銑排出口の取鍋壁における位置差は円周の4分の1である。
【0042】
第1の取鍋~第N-1の取鍋の取鍋車にいずれも油圧昇降装置及び回転装置が配置され、取鍋を1~2m昇降させ、中軸線を中心に取鍋を90度回転させることができる。圧延工程において、圧延が粗圧延及び仕上圧延に分けられ、粗圧延は往復圧延を用い、一般的に7パスとする。仕上圧延は5パスで連続的に圧延し、仕上圧延フレーム間の水冷の全部をオンにし、圧延終了温度の制御を確保するために、仕上圧延の最後2つのパスの圧縮比は6%~12%であり、仕上圧延後の十分な冷却はVの炭窒化物の析出に寄与し、沈殿強化の役割を果たす。
【0043】
本発明は、低炭素低リンバナジウムマイクロ合金化のプロセス設計によって、型鋼の孔型圧延と組み合わせ、420MPaグレードの中小型高靭性H字型鋼製品の工業化製造を実現する。
【0044】
[脱リンプロセスについて]
【0045】
高炉の出銑工程において、溶銑に対して多段の噴霧による脱リン処理を行い、取鍋内の溶銑に対して噴霧による脱リン処理を行い、鋼-スラグ界面での溶銑の脱リンの動力学条件が良く、脱リンが十分であるという特徴を利用し、取鍋の鋼-スラグ界面から20~30cm下の側面に銑排出口が設けられ、取鍋の上部で十分に脱リンした溶銑は該銑排出口を介して次段の取鍋に流入し、次段の取鍋内で噴霧による脱リン操作を再び行い、且つ次段の取鍋の鋼-スラグ界面から20~30cm下の側面にも銑排出口が設けられ、次段の取鍋の上部で十分に脱リンした溶銑は、引き続き銑排出口を介して更に次段の取鍋に下向きに流入することができ、このように繰り返して溶銑に対して4~6回の脱リン操作を行い、以下、具体的に溶銑を4回の脱リンをすることを例にして溶銑の脱リンプロセスを説明する。1段前の取鍋におけるスラグが次段の取鍋に流入できないため、溶銑のみが次段の取鍋に流入し、次段の取鍋における溶銑におけるリンはスラグと再び脱リン平衡反応が発生し、溶銑におけるリン元素を更に除去し、複数回の脱リン処理を経て、溶銑におけるリン元素を極めて低いレベルになるまで除去する。
【0046】
この脱リン方法の具体的な実施プロセスは、以下のとおりである。
【0047】
ステップ(1)において、高炉の出銑工程において、高炉における溶銑は第1の取鍋に流入し、第1の取鍋の公称容積は30~50tの溶銑であり、深さは1.5~2mであり、取鍋の上部から50~60cm離れた取鍋側壁に銑排出口が設けられ、銑排出口は外へ20~30cm延出し、スライドプレートを用いて銑排出口の開閉を制御する。高炉における溶銑の連続的な注入に伴い、第1の取鍋における溶銑の容積が50%以上に達する場合、取鍋に脱リン剤を噴霧して脱リンを行い、このとき、銑排出口は閉状態にあり、取鍋における液位は絶えず上昇し、溶銑の液位が銑排出口の上縁を20~30cm超える場合、銑排出口を開き、溶銑は銑排出口を介して第2の取鍋に流入し、溶銑が第1の取鍋から第2の取鍋に流入する流量速度は高炉溶銑が第1の取鍋に流入する流量速度と同じであり、溶銑の液位は上昇せず下降しない安定した状態にあり、第1の取鍋の鋼-スラグ界面で連続的に脱リン反応が発生し、鋼-スラグ界面近傍の溶銑に含有するリンを連続的に除去し、第1の取鍋の上部で十分に脱リンした溶銑は銑排出口を介して第2の取鍋に流入する。
【0048】
前記第2の取鍋は、第1の取鍋の位置より60~70cm低く、溶銑は、重力の作用により第1の取鍋から銑排出口を介して第2の取鍋に流入する。
【0049】
ステップ(2)において、第2の取鍋、第3の取鍋、第4の取鍋の取鍋サイズパラメータ、脱リンプロセスパラメータは第1の取鍋と完全に同じであり、第2の、第3の、第4の取鍋内にいずれも噴霧による脱リン操作を行う。
【0050】
第2の取鍋の鋼-スラグ界面近傍で十分に脱リンした溶銑は、重力の作用により銑排出口を介して第3の取鍋に流入し、第3の取鍋の鋼-スラグ界面近傍で十分に脱リンした溶銑は重力の作用により銑排出口を介して第4の取鍋に流入する。第4の取鍋の鋼-スラグ界面近傍で十分に脱リンした溶銑は重力の作用により銑排出口を介して第5の取鍋に流入する。
【0051】
第3の取鍋、第4の取鍋、第5の取鍋のそれぞれは、第2の取鍋、第3の取鍋、第4の取鍋の位置より60~70cm低い。
【0052】
第5の取鍋は大体積の取鍋であり、第5の取鍋の容積は転炉のトン数とマッチングし、第5の取鍋内の溶銑をKRステーションに送って脱硫し、脱硫が完了した後に転炉に送って正常な製錬を行い、転炉による製錬の終点のリンの含有量を0.007%以下に制御する。
【0053】
好ましくは、正常に30~40minの脱リンをするたびに、第1の~第4の取鍋は1回のスラグ交換操作を行い、スラグ交換プロセスについては、第1の取鍋におけるスラグを出し、第2の取鍋の上部のスラグを第1の取鍋に入れ、第3の取鍋の上部のスラグを第2の取鍋に入れ、第4の取鍋の上部のスラグを第3の取鍋に入れ、多段の脱リンプロセスを用いるため、次段の取鍋におけるリン含有量はいずれも1段前の取鍋より低く、十分に脱リンするプロセス条件下で、溶滓におけるリンの分配比は基本的に変わらず、すなわち、次段の取鍋のスラグにおけるリン含有量は1段前の取鍋より低く、従って、次段の取鍋の上部のスラグを1段前の取鍋に入れると、スラグは依然として良い脱リン効果を達成することができる。
【0054】
好ましくは、第1の~第4の取鍋の上部にいずれもスラグ排出口が設けられ、スラグ排出口は外へ20~30mm延出し、取鍋内のスラグは該スラグ排出口を介して流出することができ、スラグ排出口と銑排出口の取鍋壁における位置差は円周の4分の1である。
【0055】
好ましくは、第1の~第4の取鍋の取鍋車にいずれも油圧昇降装置及び回転装置が配置され、取鍋を1~2m昇降させ、中軸線を中心に取鍋を90度回転させることができる。
【0056】
好ましくは、スラグ交換操作を行う時に、まず、銑排出口を閉じ、そして、取鍋車の回転装置を利用して中軸線を中心に1段前の取鍋及び次段の取鍋を90度回転させることで、取鍋昇降時に銑排出口に接触することを回避し、その後、油圧昇降装置によって1段前の取鍋を下降させ、次段の取鍋を上昇させ、次段の取鍋が1段前の取鍋より高く、且つ次段の取鍋内のスラグがスラグ排出口を介して1段前の取鍋に流入できるときに、スラグ排出口を開き、スラグは次段の取鍋から1段前の取鍋に流入し、スラグが完全に流入した後、スラグ排出口を閉じる。
【0057】
本発明に言及されない工程はいずれも従来技術を用いることができる。
【発明の効果】
【0058】
本発明の技術的解決手段の利点は、以下のとおりである。
【0059】
1.本発明は、矩形スラブの圧延による中小型のH字型鋼のフランジが薄い特徴と組み合わせ、焼きならし圧延に適合する低いC含有量とVマイクロ合金化を組み合わせる成分の設計を用い、適量のCr元素を添加して冷却速度を制御することによって、ウィドマンステッテン等の異常組織が生成して鋼の低温衝撃靭性を低下させることを回避する。それによりH字型鋼を熱間圧延する圧延機により、安定して制御された420MPaグレード以上の高強靭性の熱間圧延されたH字型鋼を得る。
【0060】
2.本発明は、低リン製錬プロセスを用い、Pの含有量を0.008%以下に制御すると共に、P+Sの含有量を0.011%以下にさせ、鋼の耐低温靭性を向上させることに寄与し、-50℃での条件下でも高いレベルに維持する。
【0061】
3.本発明に係るH字型鋼のマトリックス組織は、微細化パーライト+初析フェライトであり、第2相の粒子は主にV(C、N)であり、組織の安定性がよりよく、取得がより容易である。
【0062】
4.本発明は、マトリックス組織の微細化によって細粒強化、沈殿強化を実現し、H字型鋼が420MPaを取得した上で-50℃での条件での低温衝撃靭性が100Jより大きいという良好な効果を達成する。
【0063】
5.本発明は、高炉の出銑工程において、4つ~6つの小型の取鍋によって溶銑に対して4~6回の噴霧による脱リン操作を行い、該脱リン操作は連続的な操作であり、製造効率が高く、脱リンの総時間は溶銑がこの4つ~6つの小型の取鍋内に流動する時間であり、20~30minだけでよく、3つの除去プロセスの処理時間よりはるかに短く、脱リン効率が高い。
【0064】
6.本発明における小型の取鍋の銑排出口は、取鍋の鋼-スラグ界面近傍に設置され、この位置での脱リンの動力学条件は良く、スラグ-鋼界面での脱リン反応は十分であり、従って、十分に脱リンした溶銑は次段の取鍋に流入し、取鍋の底部で脱リン反応が発生していない溶銑はスラグ-鋼界面近傍に上昇して引き続き脱リン反応が発生し、この脱リン方式の脱リン効率は高い。
【0065】
7.本発明における次段の取鍋におけるスラグのリン濃化量は1段前の取鍋におけるスラグのリン濃化量より低く、従って、次段の取鍋に流入した溶銑は引き続きスラグと脱リン反応が発生することができ、スラグ交換式の脱リン操作を行うことに相当し、4~6回のスラグ交換式の脱リン操作を経て、溶銑におけるリン含有量を0.02%以下にすることができ、溶銑の脱リン率が高く、低リン鋼の安定化製造に有利である。
【0066】
8.本発明における次段の取鍋のスラグのリン濃化量は、1段前の取鍋のスラグのリン濃化量より低く、従って、次段の取鍋のスラグを1段前の取鍋に流入した後、依然として脱リン効果を達成し、脱リンスラグの循環利用を行うことに相当し、脱リン材料の消耗を節約し、脱リンコストを削減させる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1】本発明に係る実施例2で製造された420MPaグレードの降伏強度を有する高靭性耐低温性のH字型鋼の金相組織図(×200)である。
図2】本願に記載の多段脱リンの模式図である。
図3】小型取鍋の構造の模式図である。
図4】小型取鍋の構造の側面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0068】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を説明する。なお、実施例は本発明を更に説明するためのものに過ぎず、本発明の保護範囲を制限するためのものではなく、当業者が本発明に基づいて行った非本質的な修正や調整は、いずれも本発明の保護範囲に属する。
【0069】
下記実施例における連鋳スラブは、設定された化学成分範囲(表1)に基づいて、高炉溶銑を原料とし、高炉の出銑過程での脱リン、KR脱リン、転炉による製錬、精錬を行い、C、Si、Mn、S、P等の含有量を調整し、マイクロ合金化を行い、成分が目標値に達した後に連鋳、スラブの直接加熱又は均熱を行うというプロセスに応じて製造されたものである。実施例1~4の製造ステップは以下のとおりである。
【0070】
前記鋼は、高炉の出銑工程での脱リン、溶銑の前処理のKR脱硫→転炉による製錬→取鍋へのアルゴン吹き込み→精錬→連鋳→型鋼線圧延→オンライン冷却→冷却床による徐冷を経る。型鋼線圧延は、粗圧延及び仕上圧延の2段圧延を含む。熱間圧延工程は、主に温度制御に基づいており、圧延終了温度は、フランジの外側で検出され、圧延材料は、圧延後に冷却床で自然に冷却する。実施例1~4の化学成分及び具体的なプロセスは下記の表1に示す。
【表1】
【0071】
高炉の出銑工程での具体的な脱リンプロセスは以下のとおりである。
【0072】
ステップ1において、高炉の出銑工程で、高炉における溶銑は第1の取鍋に流入し、第1の取鍋の公称容積は30tの溶銑であり、深さは1.5mであり、取鍋の上部から50cm離れた取鍋側壁に銑排出口が設けられ、銑排出口は外へ20cm延出し、スライドプレートを用いて銑排出口の開閉を制御する。高炉における溶銑の連続的な注入に伴い、第1の取鍋における溶銑の容積が50%以上に達する場合、取鍋に脱リン剤を噴霧して脱リンを行い、このとき、銑排出口は閉状態にあり、取鍋における液位は絶えず上昇し、溶銑の液位が銑排出口の上縁を20cm超える場合、銑排出口を開き、溶銑は銑排出口を介して第2の取鍋に流入し、溶銑が第1の取鍋から第2の取鍋に流入する流量速度は高炉溶銑が第1の取鍋に流入する流量速度と同じであり、溶銑の液位は上昇せず下降しない安定した状態にあり、第1の取鍋の鋼-スラグ界面で連続的に脱リン反応が発生し、鋼-スラグ界面近傍の溶銑に含有するリンを連続的に除去し、第1の取鍋の上部で十分に脱リンした溶銑は銑排出口を介して第2の取鍋に流入する、図2~4に示すとおりである。
【0073】
前記脱リン剤の噴霧点は、第1の取鍋への高炉溶銑の注入点、及び次段の取鍋への1段前の取鍋における溶銑の注入点を含み、この位置において、溶銑の撹拌が激しく、脱リンの動力学条件が良い。
【0074】
前記脱リン剤は、汚泥球と石灰の混合物であり、第1の取鍋における脱リン剤の添加量は2kg/1トン鉄・取鍋であり、汚泥球と石灰の質量比は1:1であり、汚泥球における成分は、質量パーセントで、CaO:5%、Fe:88%、SiO:3%であり、残りが不純物であり、石灰における成分は、質量パーセントで、CaO:90%、Fe:1%、SiO:3%、MgO:5%であり、残りが不純物である。
【0075】
前記脱リン剤を噴霧する時のキャリアガスは、酸素であり、噴霧圧力は0.2Mpaであり、噴霧流量は2m/minである。
【0076】
前記第2の取鍋の位置は、第1の取鍋の位置より60cm低く、溶銑は重力の作用により第1の取鍋から銑排出口を介して第2の取鍋に流入する。
【0077】
ステップ2において、第2の取鍋、第3の取鍋、第4の取鍋の取鍋サイズパラメータ、脱リンプロセスパラメータは、第1の取鍋と完全に同じであり、第2の、第3の、第4の取鍋内にいずれも噴霧による脱リン操作を行う。
【0078】
第2の取鍋の鋼-スラグ界面近傍において十分に脱リンした溶銑は、重力の作用により銑排出口を介して第3の取鍋に流入し、第3の取鍋の鋼-スラグ界面近傍において十分に脱リンした溶銑は重力の作用により銑排出口を介して第4の取鍋に流入する。第4の取鍋の鋼-スラグ界面近傍において十分に脱リンした溶銑は重力の作用により銑排出口を介して第5の取鍋に流入する。
【0079】
第3の取鍋、第4の取鍋、第5の取鍋は、それぞれ第2の取鍋、第3の取鍋、第4の取鍋の位置より60cm低い。
【0080】
溶銑に対して成分及び温度検出を行い、4つの小型の取鍋内の脱リン率及び溶銑の温度は下記の表に示す。
【表2】
【0081】
上記の表から分かるように、4つの小型の取鍋内において脱リンを経て後、溶銑におけるリンの含有量は0.163%から0.017%に低減し、溶銑の脱リン率は89.6%であり、溶銑の脱リン率が高く、溶銑の温度は1520℃から1426℃に低減し、溶銑の温度低下量は94℃であり、溶銑の温度低下量が小さく、脱リンされた後の溶銑の温度は、転炉に入る温度要求(1250℃より高い)よりはるかに高い。
【0082】
第5の取鍋は、大体積の取鍋であり、第5の取鍋の容積は、転炉のトン数とマッチングし、第5の取鍋内における溶銑をKRステーションに送って脱硫し、脱硫が完了した後に転炉に送って正常な製錬を行い、転炉による製錬の終点のリンの含有量を0.007%以下に制御する。
【0083】
正常な30~40minの脱リンを行うたびに、第1の~第4の取鍋のそれぞれは、1回のスラグ交換操作を行い、そのスラグ交換プロセスについては、第1の取鍋におけるスラグを出し、第2の取鍋の上部のスラグを第1の取鍋に入れ、第3の取鍋の上部のスラグを第2の取鍋に入れ、第4の取鍋の上部のスラグを第3の取鍋に入れ、多段の脱リンプロセスを用いるため、次段の取鍋におけるリン含有量はいずれも1段前の取鍋より低く、十分に脱リンするプロセス条件下で、溶滓におけるリンの分配比は基本的に変わらず、すなわち、次段の取鍋のスラグにおけるリン含有量は1段前の取鍋より低く、取鍋のスラグに対して成分検出を行い、4つの小型取鍋内のスラグの成分は下記表に示す。
【表3】
【0084】
上記の表から分かるように、次段の取鍋におけるスラグのリンの含有量はいずれも1段前のスラグのリンの含有量より低く、且つアルカリ度がより高く、酸化性がより強く(T.FeはFeOに換算できる)、従って、次段の取鍋の上部におけるスラグを1段前の取鍋に入れると、スラグは依然として良い脱リン効果を達成することができる。
【0085】
第1の~第4の取鍋の上部にいずれもスラグ排出口が設けられ、スラグ排出口は外へ20mm延出し、取鍋内のスラグは該スラグ排出口を介して流出することができ、スラグ排出口と銑排出口の取鍋壁における位置差は円周の4分の1である。
【0086】
第1の取鍋~第4の取鍋の取鍋車にいずれも油圧昇降装置及び回転装置が配置され、取鍋を1.5m昇降させ、中軸線を中心に取鍋を90度回転させることができる。
【0087】
スラグ交換操作を行う時に、まず、銑排出口を閉じ、次に取鍋車の回転装置を利用して中軸線を中心に1段前の取鍋及び次段の取鍋を90度回転させることで、取鍋昇降時に銑排出口に接触することを回避し、その後、油圧昇降装置によって1段前の取鍋を下降させ、次段の取鍋を上昇させ、次段の取鍋が1段前の取鍋より高く、且つ次段の取鍋内のスラグがスラグ排出口を介して1段前の取鍋に流入できるときに、スラグ排出口を開き、スラグは次段の取鍋から1段前の取鍋に流入し、スラグが完全に流入した後、スラグ排出口を閉じる。
【0088】
実施例1~4の熱間圧延プロセスの条件は表2に示す。参照標準はBS EN ISO 377-1997『機械的性質試験試料のサンプリング位置と製造』であり、降伏強度、引張強度、伸び率の試験方法は標準ISO6892-1-2009『金属材料の室温引張試験方法』を参照し、衝撃エネルギーの試験方法は標準ISO 148-1『金属材料のシャルピー振り子衝撃試験』を参照し、結果は表3に示す。
【表4】
【表5】
【0089】
表から分かるように、本発明の実施例1~4におけるH字型鋼の降伏強度は440MPaグレードを維持し、良好な延伸性能を有し、その-50℃での衝撃エネルギーは高い。製造された海洋工事部材の極めて低い環境下での使用条件を満たすことができ、海洋石油プラットフォーム、海洋遠洋輸送船舶等の高い低温靭性の要求を有する支持構造部品の製造に適用できる。
【0090】
図1から分かるように、本願におけるH字型鋼の組織は、粒状のベイナイト+フェライト組織である。Pの含有量の低減は、強度が420MPaグレードのH字型鋼に対して、強度を満たすとともに、靭性特に低温靭性を向上させる。本発明に詳細に説明されていない内容は本分野の通常の技術知識を用いることができる。
【0091】
最後、以上の実施例は本発明の技術的解決手段を説明するためのものに過ぎず、それを制限するためのものではない。実施例を参照して本発明を詳細に説明したが、当業者であれば理解できるように、本発明の技術的解決手段の精神と範囲を逸脱することなく、本発明の技術的解決手段に対して行った修正や同等置換は、本発明の特許請求の範囲に含まれるべきである。
【符号の説明】
【0092】
1…高炉、2…第1の取鍋、3…第2の取鍋、4…第3の取鍋、5…第4の取鍋、6…第5の取鍋、7…粉体噴霧脱硫装置、8…銑排出口、9…スラグ排出口
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】