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特表2024-527441ドープシリコン粒子を含む組成物、及び関連する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-24
(54)【発明の名称】ドープシリコン粒子を含む組成物、及び関連する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/04 20060101AFI20240717BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 39/02 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240717BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240717BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240717BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240717BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
A61K47/04
A61K39/00 A
A61K39/02
A61K48/00
A61K31/7088
A61K31/713
A61K31/7105
A61P31/04
A61P37/04
A61P43/00 105
A61K9/14
A61K9/10
A61K47/18
A61K47/26
A61K47/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527874
(86)(22)【出願日】2022-07-22
(85)【翻訳文提出日】2024-03-25
(86)【国際出願番号】 GB2022051937
(87)【国際公開番号】W WO2023002222
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】2110644.8
(32)【優先日】2021-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524030765
【氏名又は名称】シサフ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サフィー-シーバート、ロギー スザンヌ
(72)【発明者】
【氏名】アーメド、ムフタル
(72)【発明者】
【氏名】ステーラ、フラヴィア
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA22
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC06
4C076DD21
4C076DD38
4C076DD51
4C076DD63
4C084AA13
4C084MA05
4C084MA16
4C084MA41
4C084NA13
4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZB321
4C084ZB322
4C085AA03
4C085BA07
4C085EE05
4C086AA01
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA16
4C086MA41
4C086MA66
4C086NA13
4C086ZB09
4C086ZB21
4C086ZB32
(57)【要約】
加水分解性ドープシリコンと、原薬と複合体化した1以上の脂質と、を含む粒子を含む医薬組成物であって、前記粒子が、1cm当たり1×1016個以上の量のドーパント原子でドープされている、医薬組成物。また、関連する製品、方法、及び医療用途。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解性ドープシリコンと、原薬と複合体化した1以上の脂質と、を含む粒子を含む医薬組成物であって、
前記粒子が、1cm当たり1×1016個以上の量のドーパント原子でドープされている、医薬組成物。
【請求項2】
前記加水分解性ドープシリコン粒子が、1cm当たり最大1×1020個の量のドーパント原子でドープされている、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記原薬が、核酸である、請求項1又は請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記核酸が、RNAである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記核酸が、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子活性化RNA(saRNA)、又は低分子ヘアピンRNA(shRNA)である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記核酸が、メッセンジャーRNA(mRNA)である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記mRNAが、病原菌のタンパク質をコードする、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記医薬組成物が、ワクチン組成物である、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記医薬組成物が、アミノ酸を更に含む、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記医薬組成物が、トレハロースなどの非還元性二糖を更に含む、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記ドープシリコン粒子が、ホウ素ドープシリコンを含む、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記ドープシリコン粒子が、リンドープシリコンを含む、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記ドープシリコン粒子が、核酸結合特性を調節する目的で不純物を意図的に導入するためにドープされている、請求項1~請求項12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記ドープシリコン粒子が、脂質結合特性を調節する目的で不純物を意図的に導入するためにドープされている、請求項1~請求項13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記1以上の脂質が、イオン化性脂質を含む、請求項1~請求項14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記1以上の脂質が、カチオン性脂質を含む、請求項1~請求項14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記1以上の脂質が、DOTAPを含む、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記1以上の脂質が、ラセミ混合物中にDOTAPを含む、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記1以上の脂質が、DOTAPをS鏡像異性形態で含む、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記1以上の脂質が、DOTAPをR鏡像異性形態で含む、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記1以上の脂質が、1以上の脂質付加オリゴペプチドを含み、好ましくは前記1以上の脂質付加オリゴペプチドが、各々、3~20個のアミノ酸残基を有するオリゴペプチド部分及び12~18個の炭素原子を有する脂肪酸鎖を含有し、好ましくは前記アミノ酸残基の少なくとも1つが、pH7.4で正帯電している、請求項1~請求項20のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
原薬を含む医薬組成物の有効性を増強するための、加水分解性ドープシリコン(任意選択的に(optionally)加水分解性ホウ素ドープシリコン)を含む粒子の使用であって、
前記粒子が、1cm当たり1×1016個以上の量のドーパント原子でドープされている、使用。
【請求項23】
前記医薬組成物が、請求項1~請求項21のいずれか一項に定義されるとおりである、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
前記原薬が、請求項3~請求項7のいずれか一項に定義されるとおりである、請求項22又は請求項23に記載の使用。
【請求項25】
前記医薬組成物の前記有効性が、前記原薬の室温での安定性を増大させる前記粒子によって増強される、請求項22~請求項24のいずれか一項に記載の使用。
【請求項26】
前記医薬組成物の前記有効性が、前記原薬の細胞内安定性を増大させる前記粒子によって増強される、請求項22~請求項25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
前記医薬組成物の前記有効性が、分解、例えば酵素的分解から前記原薬を保護する前記粒子によって増強される、請求項22~請求項26のいずれか一項に記載の使用。
【請求項28】
前記医薬組成物の前記有効性が、標的細胞又は標的組織による前記原薬の取り込みを増強する前記粒子によって増強される、請求項22~請求項27のいずれか一項に記載の使用。
【請求項29】
医薬品として使用される、請求項1~請求項21のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項30】
前記医薬品が、ワクチンである、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項31】
医薬品(例えばワクチン)の製造における、請求項1~請求項21のいずれか一項に記載の医薬組成物の使用。
【請求項32】
疾患又は障害の治療又は予防を必要とする対象へ、請求項1~請求項21のいずれか一項に記載の医薬組成物を投与することを含む、前記疾患又は前記障害を治療又は予防する方法。
【請求項33】
ワクチンを必要とする対象へ、請求項1~請求項21のいずれか一項に記載の医薬組成物を含むワクチンを提供する方法。
【請求項34】
核酸を加水分解性ドープシリコン粒子及び1以上の脂質と接触させることを含む、原薬(例えば核酸、例えばmRNA又はsiRNA)の貯蔵安定性を増大させる方法であって、
前記加水分解性ドープシリコン粒子が、1cm当たり最大1×1016個の量のドーパント原子でドープされる、方法。
【請求項35】
前記核酸が、請求項4~請求項6のいずれか一項に定義されるとおりであり、及び/又は、前記加水分解性ドープシリコン粒子が、加水分解性ホウ素ドープシリコン粒子である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記接触させることが、アミノ酸の存在下及び/又はトレハロースなどの非還元性二糖の存在下で追加的に行われる、請求項34又は請求項35に記載の方法。
【請求項37】
原薬を細胞又は組織へと標的化する際に使用するための、請求項1~請求項21のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項38】
原薬の細胞又は組織への前記標的化のための医薬品の製造で使用するための、請求項1~請求項21のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項39】
原薬を細胞又は組織へ標的化する方法であって、請求項1~請求項21のいずれか一項に記載の医薬組成物を、請求項1~請求項21のいずれか一項に記載の医薬組成物を必要とする対象へ投与することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸及び/又は他の薬学的に活性な化合物を含む組成物に使用するための改善された粒子、並びに関連する生成及び方法に関する。そのような方法、製品及び組成物は、遺伝子療法及びワクチン組成物における核酸の送達に特に有用であるが、これに限定されない。本発明の粒子は、1以上の更なる元素でドープされているケイ素を含む。本発明はまた、本発明の粒子を含む医薬組成物、並びに関連する方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
活性医薬剤のための送達ベクター及びビヒクルの改善が必要とされている。これは、生物医学研究の進歩が、効果的で安全かつ費用効果の高い治療へと完全に翻訳されるために必要とされる。
【0003】
例示的な例として、RNAなどの核酸が治療剤として提案されている。低分子干渉RNA(siRNA)は、遺伝子療法における使用が提案されている。治療法又は他の目的のための遺伝子送達は、特に嚢胞性線維症及びある特定のがんなどの疾患の治療のために周知であり、mRNAは、最近、SARS-CoV-2に対する有効なワクチンに使用されている。本明細書で使用される場合、「遺伝子療法」という用語は、何らかの欠損を矯正するための遺伝子又は遺伝子の一部の細胞への送達を指す。本明細書では、「核酸療法」という用語はまた、標的細胞への核酸材料の任意の導入を指すために使用され、かつ遺伝子ワクチン接種を含む。また、「核酸送達」という用語は、いわゆる細胞工場における商業的に有用なタンパク質のインビトロ生成を包含し得る。
【0004】
核酸を細胞へと送達するためのデリバリーシステムであって、3つの広範なクラス、すなわち、ネイキッド核酸の直接注射に関与するクラスと、ウイルス又は遺伝子修飾ウイルスを使用させるクラスと、非ウイルス送達剤を使用させるクラスと、へと送達するためのデリバリーシステム。各々に利点及び欠点がある。送達剤としてのウイルスは、高効率及び高い細胞選択性という利点を有するが、しかし毒性、炎症性応答の生成、及び大きな核酸断片の送達の困難という欠点を有する。したがって、mRNAワクチンは、注射可能なネイキッドmRNA又は非ウイルスデリバリーシステム、例えば脂質ナノ粒子ベクターなどを含み得る。残念なことに、非ウイルスデリバリーシステムではトランスフェクション効率が低いことが認められている。mRNAにはまた、周知の安定性の問題もある。
【0005】
非ウイルス遺伝子デリバリーシステムは、核酸の負帯電したホスフェート(phosphate)骨格と、カチオン性脂質と、任意選択的に(optionally)ペプチド又は他の化合物と、の間の静電相互作用によるナノメートル粒子への遺伝子材料の圧縮に基づく(Erbacher,P.et al,Gene Therapy,1999,6,138-145)。脂質ナノ粒子非ウイルスベクターによるペイロード送達の機構は、核酸と脂質との間に形成された複合体が細胞表面に結合し、次いで、エンドサイトーシスによって細胞に入るインタクトな複合体のエンドサイトーシスに関与するものと提案されている。次いで、複合体は、しばらくの間小胞又はエンドソーム内に局在したままであり、核酸構成成分はその後細胞質へと放出される。次いで、核酸によってコードされるタンパク質の生成、次いで別の遺伝子修飾の発現が起こり得る。
【0006】
非ウイルスデリバリーシステムの構成成分は、静電的に会合してベクター複合体を形成する。脂質構成成分は、核酸と、ある程度、任意のペプチド構成成分(複数可)との両方を、分解、エンドソーム、又はその他から遮蔽する。そのような使用のためのカチオン性脂質は、1980年代後半にFelgnerによって開発され、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84,7413-7417,1987、及び米国特許第5,264,618号に報告される。Felgnerは、商標「Lipofectin」によって公知の現在市販されているカチオン性リポソームを開発した。「Lipofectin」リポソームは、カチオン性脂質DOTMA(2,3-ジオレイルオキシプロピル-1-トリメチルアンモニウム)と中性リン脂質DOPE(ホスファチジルエタノールアミン又は1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン)とが1:1の比率で脂質二重層を有する、球状の小胞である。それ以来、様々な他のカチオン性リポソーム製剤が考案されており、そのほとんどは合成カチオン性脂質と中性脂質とを組み合わせたものである。DOTMA類似体に加えて、複合体アルキルアミン/アルキルアミド、コレステロール誘導体、例えばDC-コレステロールなど、並びにジパルミトール、ホスファチジルエタノールアミン、グルタメート、イミダゾール、及びホスホネートの合成誘導体に言及してもよい。しかしながら、カチオン性ベクターシステムは、血清の存在下におけるそれらのトランスフェクション効率が非常に異なり、これは、インビボ遺伝子療法及びワクチン接種のためのそれらの潜在的な使用に明らかに影響を及ぼす。正電荷された脂質などのイオン化性脂質は、それらの正電荷が、負電荷された核酸との複合体化を可能にする傾向があるので、有用なトランスフェクション剤である。異なる脂質は異なる量(level)の正電荷を有することが理解される。残念なことに、例えば長期間の貯蔵の最中に、核酸を分解から適切に保護するのに充分な核酸の複合体化を可能にするには充分に正帯電していない、多くの脂質が存在する。逆に、非常に高い正電荷を有する脂質は、核酸を結合するのに非常に効率的であり得、したがって、長期貯蔵の最中に核酸を保護するのに使用するための有望な候補であり得るが、その臨床使用を妨げる毒性の問題を有し得る。例えば、ポリエチレンイミン(polyethylenimine:PEI)は、高度にカチオン性であり、かつ効率的なインビトロトランスフェクション脂質として使用される。しかしながら、それらは毒性であり、臨床治療におけるそれらの使用を妨げる。脂質トランスフェクション剤はまた、貯蔵中に分解(又は「エイジング」)されることがあり、これは、それらが複合体化している核酸を保護する能力を低下させ、かつ予想される活性の損失を経時的に緩和するために過剰量の脂質の使用を必要とし得る。
【0007】
許容される毒性プロファイルの両方を有し、かつ効率的なトランスフェクションを引き起こす、臨床的使用に好適で承認された、驚くほど少数の脂質トランスフェクション剤が存在する。1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP)は、現在、多くの用途(PfizerのSARS-CoV-2 mRNAワクチンを含む)で好まれているトランスフェクション試薬であるが、供給上の問題があり、かつ利用可能な代替物はほとんどない。
【0008】
上記で言及した非ウイルスデリバリーシステムの所望によるペプチド構成成分に目を向けると、トランスフェクション複合体において脂質と一緒に任意選択的に(optionally)使用するためのペプチドは、典型的には、2つの官能基:細胞表面受容体(例えば、インテグリン-)認識配列を含有する「頭部基」、及び核酸(例えば、mRNA)に非共有結合的に結合することができる「尾部」を有する。そのようなペプチド構成成分は、ある程度、細胞型特異的又は細胞表面受容体特異的であるように設計され得る。特異性は細胞表面受容体への標的化から生じる。インテグリン特異性の程度は、例えば、複合体にある程度の細胞特異性を付与することができる。いくつかのアデノウイルスベクターに匹敵するトランスフェクション有効性を達成することができる(Jenkins et al.Gene Therapy 7,393-400,2000)。しかしながら、そのようなペプチドに依存することなく、特定の細胞又は特定の組織を標的化する能力を有する組成物が依然として必要とされている。
【0009】
本発明は、以下の利点のうち1つ以上を達成するために、原薬、特に脂質トランスフェクション剤を送達するための医薬組成物の効率を増大させることを試みる:
(1)貯蔵中に核酸を分解から保護する脂質の能力の有効性の増加;
(2)トランスフェクション有効性の増加;
(3)貯蔵中に核酸を分解から保護するために使用される脂質の安定性の増加;
(4)妥当なトランスフェクション能力及び/又は良好な貯蔵安定性を依然として維持しながら、トランスフェクション組成物中において、より低量(level)の脂質、特により低量のDOTMA又はDOTAPなどのカチオン性脂質を使用する能力;
(5)妥当なトランスフェクション能力及び/又は良好な貯蔵安定性を依然として維持しながら、トランスフェクション組成物中に広範囲の脂質を使用する能力;並びに、
(6)特定の種類の組織又は特定の種類の細胞への、核酸などの活性な原薬のより標的化された送達。
【0010】
これまでのところ、細胞へのメッセンジャーRNA(mRNA)の非ウイルス送達は、効率的なベクターの欠如によって特に問題があり、かつ制限されていた。公知の非ウイルスビヒクルを用いてmRNAを送達しようとすると、例えば、特定の組織又は特定の細胞へのmRNAの標的化が不充分であることに起因して、最適以下の量(level)のタンパク質発現がもたらされ得る。更に、公知の非ウイルス性ビヒクルは、mRNAと共に包装した場合、貯蔵安定性が乏しい。細胞へとRNAを送達するための脂質二重層の克服は、RNA治療学の広範な開発にとって大きな障害のままであった。
【0011】
したがって、任意選択的に(optionally)特定の種類の組織又は特定の種類の細胞に特異的な高量(level)のmRNAを細胞に送達し、かつ良好な量のタンパク質発現をもたらすmRNAの送達に、特異的に合わせて調整されたベクターが必要とされている。貯蔵の際に良好な安定性を有するmRNAの送達に合わせて調整された組成物、特に中程度の温度での貯蔵時にそれらの構造及び機能性を保持するmRNA送達複合体もまた、必要とされている。siRNA治療薬の送達にも同様の考察が当てはまる。
【0012】
Pfizer BioNTechワクチンBNT162b2(「Comirnaty」)及びModerna CX-024414ワクチンを含む、SARS-CoV-2に対するいくつかのmRNAワクチンは、ウルトラ・コールド・チェーン貯蔵及び輸送を必要とする。これにより、低所得国ではワクチンへのアクセスが制限され、全ての市場でコスト及び物流の複雑さが増す。ワクチンを貯蔵し、標準的な冷蔵庫温度(約-4℃)又は室温(約20℃)で輸送することができる場合、有利であろう。ワクチンは、貯蔵のために、又は輸送及び流通の最中に少なくとも短期的に、より高い温度(例えば、30℃、40℃、又は50℃)に耐えることができる場合もまた有益であろう。具体的には、mRNA及び脂質を含む既存のmRNAワクチン製剤を修飾して、それらのトランスフェクション有効性を高めることができれば有用であろう。これは、より低い用量の使用を可能にし、潜在的に副作用を低減し、かつ利用可能な用量の総数を増加させるという利点を有する。mRNA及び脂質を含む既存のmRNAワクチン製剤を、それらの貯蔵安定性を改善するように修飾し、それによってより高い温度及び/又はより長い期間での分布及び貯蔵を可能にすることができる場合もまた有用であろう。特定の脂質、特にDOTAPなどのカチオン性脂質の利用可能性に対する圧力を低下させるために、既存のmRNAワクチン製剤を、より低量の脂質(特に、DOTAPなどのより低量のカチオン性脂質)を必要とするように、及び/又はより広範囲の脂質と共に機能するように、修飾することができる場合もまた有用であろう。
【0013】
低温によって注射可能な組成物、例えばmRNAワクチン組成物中でmRNA安定性を維持すること、並びに物流上の課題をもたらすことにはまた、mRNAを注射前に解凍しなければならないという技術的限界、及び注射後に充分な生物学的活性を示すのに充分な時間にわたって高温な体内で安定なままでなければならないという技術的限界がある。これは、身体周囲への移行中、及び/又はエンドソーム区画からの脱出中に安定性を維持することを必要とし得る。インビボでの安定性はまた、タンパク質への充分な翻訳が起こるのに充分な長さにわたって維持されなければならない。
【0014】
mRNAは酵素分解及び化学分解に脆弱である。mRNAなどのRNAを分解することができる酵素は、mRNAを生成するために使用される生物学的培養システムに存在し、かつ完全に除去することは困難である。酵素活性は、低温及び/又はRNAの凍結乾燥によって減速され得るが、これらの溶液の各々には欠点がある。
【0015】
脂質によるカプセル化は、RNA(例えば、遺伝子療法又はワクチン接種のためのmRNA)を分解から保護するために先行技術において使用されている。このアプローチは有効であり得るが、高価及び/又は供給不足であり得る比較的大量の特定の脂質を使用し、脂質自体が経時的に分解し、したがってその保護品質を失うという問題を提示する。核酸及び脂質を含む組成物の複数の構成成分の安定性を高めるための、改善された賦形剤もまた必要とされている。
【0016】
本発明の組成物及び方法は、現在、核酸及び脂質を含む医薬組成物の改善において最も有望であるものと考えられているが、それらはまた、小さな有機化合物及びペプチド(例えば、ペプチド抗原)を含む非核酸活性成分の安定化及び分解からの保護にもまた好適である。
【発明の概要】
【0017】
本発明は、ドープされた、特に1×1015個以上の量、特に1×1016個以上の量のドーパント原子/cm、特にホウ素でドープされた元素ケイ素が、1以上の脂質を含むトランスフェクション組成物などの組成物内の原薬、特に核酸を安定化するのに有用であるという認識に基づいている。そのような組成物は、トランスフェクション有効性の増強、組織又は細胞標的化能力の増強、カチオン性脂質への依存性の減少、及び/又は貯蔵安定性の増強を示す。ドープシリコンは、原薬(特に、核酸)自体を両方とも安定化することができ、1以上の脂質を安定化することもまたでき、その結果、1以上の脂質は、原薬、特に核酸を保護することを可能にする特性を長期間保持することができる。脂質及び/又は核酸の安定化は、核酸(例えば、室温又は4℃で)であるが加水分解性ドープシリコン粒子を含まない原薬を有する従来の組成物で可能であったよりも、長い間及び/又はより高い温度で、問題のある分解なしに組成物を貯蔵することを可能にすることができる。脂質及び/又は核酸の安定化はまた、組成物が、例えば特定の組織型及び/又は特定の細胞型に対する改善された標的作用を提供することによって、細胞のトランスフェクションにおいてより効率的であり、その後、原薬、特に核酸による1以上の治療効果の提供においてより効率的であり得る。安定性及び効率的な送達の課題のいくつかは、核酸(例えば、mRNA)治療薬に関して特に急性であるが、加水分解性ドープシリコン粒子及び1以上の脂質を含む組成物の安定化特性及び保護特性は、ペプチド、タンパク質、及び小分子などの他の非核酸原薬に適用可能であることが更に見出された。加水分解性シリコンのドーピングは、様々な官能基を有する異なる両親媒性分子を、加水分解性シリコン材料のマトリックス結晶構造に合わせることを可能にし得る;したがって、加水分解性ドープシリコンは、脂質などの有機分子の不安定性を打ち消すだけでなく、原薬、特に核酸(例えば、mRNA)分子の安定性もまた増強する。本発明の利点は、例えば加水分解性ドープシリコン粒子の細孔内で起こり得る、有機化合物の結合又はローディングだけに由来するものと考えられるが、1以上の脂質などの有機材料の二次結合のための構造骨格の一部として使用され得る、意図的に導入された不純物(ドーパント)もまた含む。
【0018】
本発明の第1の態様によれば、加水分解性ドープシリコンと、原薬と複合体化した少なくとも1つの脂質とを含む、粒子を含む医薬組成物が提供される。任意選択的に(optionally)、粒子は、1cm当たり1×1016個以上の量のドーパント原子でドープされる。
【0019】
本発明の第2の態様によれば、原薬を含む医薬組成物の有効性を増強するための、加水分解性ドープシリコン(任意選択的に(optionally)加水分解性ホウ素ドープシリコン)を含む粒子の使用が提供される。再び、任意選択的に(optionally)、粒子は、1cm当たり1×1016個以上の量のドーパント原子でドープされる。
【0020】
本発明の第3の態様によれば、医薬品として使用するための、本発明の第1の態様による医薬組成物が提供される。
【0021】
本発明の第4の態様によれば、医薬品の製造における本発明の第1の態様による医薬組成物、例えばワクチンの使用が提供される。
【0022】
本発明の第5の態様によれば、対象における疾患又は障害を治療又は予防する方法であって、疾患又は障害を治療又は予防する方法を必要とする対象へ、本発明の第1の態様による医薬組成物を投与することを含む、方法が提供される。
【0023】
本発明の第6の態様によれば、ワクチンを必要とする対象へワクチンを提供する方法であって、当該対象へ、本発明の第1の態様による医薬組成物を投与することを含む、方法が提供される。
【0024】
本発明の第7の態様によれば、原薬(例えば核酸、例えばmRNA又はsaRNA又はshRNA又はsiRNA)の貯蔵安定性を増大させる方法であって、核酸を加水分解性ドープシリコン粒子及び1以上の脂質と接触させることを含む、方法が提供される。
【0025】
本発明の第8の態様によれば、原薬を細胞又は組織に標的化する際に使用するための、本発明の第1の態様による医薬組成物が提供される。
【0026】
本発明の第9の態様によれば、原薬を細胞又は組織の標的化のための医薬品の製造で使用するための、本発明の第1の態様による医薬組成物が提供される。
【0027】
本発明の第10の態様によれば、細胞又は組織に対する原薬を標的化する方法であって、本発明の第1の態様による医薬組成物を、細胞又は組織に対する原薬を標的化する方法を必要とする対象へ投与することを含む、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、ホウ素ドーピング後のシリコンを示す。
図2図2は、粉末に粉砕した後の図1のホウ素ドープシリコンを示す。
図3図3は、マウスPMBCにおけるClCn7G213R発現を示す。
図4図4は、ClCn7G213Rの骨発現を示す。
図5図5は、CTX-血液試験結果を示す。
図6図6は、調製直後及び室温(RT)での貯蔵から6時間後のpDNAをロードしたBiocouriersのゲル電気泳動画像を示す。
図7図7は、室温(RT)での貯蔵から24時間後及び48時間後のpDNAをロードしたBiocouriersのゲル電気泳動画像を示す。
図8図8は、室温(RT)での貯蔵から72時間後及び8日後のpDNAをロードしたBiocouriersのゲル電気泳動画像を示す。
図9図9は、調製直後及び4℃での貯蔵から6時間後のpDNAをロードしたBiocouriersのゲル電気泳動画像を示す。
図10図10は、4℃での貯蔵から24時間後及び48時間後のpDNAをロードしたBiocouriersのゲル電気泳動画像を示す。
図11図11は、4℃での貯蔵から72時間後及び8日後のpDNAをロードしたBiocouriersのゲル電気泳動画像を示す。
図12図12は、異なる濃度及び体積比でSIS0012にロードした、パン酵母由来のRNAのアガロースゲル遅延度アッセイを示す。ネイキッドRNAを対照として使用した。画像の最初の3つのカラムでは、いくつかのローディングウェルの周りのボックスは対照試料を示す。画像の最後のカラムでは、レーン2、レーン3、レーン4は、10倍希釈、V/V:2.5でSIS0113を含有し、レーン5、レーン6、レーン7は、5倍希釈、V/V:2.5でSIS0113を含有し、レーン8、レーン9、レーン10は、5倍希釈、V/V:5でSIS0113を含有する。
図13図13は、異なる温度(室温(RT)、4℃及び-20℃)での貯蔵後の異なる時点(0~5時間)における選択された濃度及び体積比でSIS0012にロードしたニシン精子由来のDNAのアガロースゲル遅延度アッセイを示す。ネイキッドDNAを対照として使用した。左上の画像において、いくつかのローディングウェルの周りのボックスは対照試料を示す。他の全ての画像において、レーン2、レーン3、レーン4は室温で貯蔵された試料を保持し、レーン5、レーン6、レーン7は4℃で貯蔵された試料を保持し、レーン8、レーン9、レーン10は20℃で貯蔵された試料を保持する。
図14図14は、異なる温度(室温(RT)、4℃及び-20℃)での貯蔵後の異なる時点(24~72時間)における選択された濃度及び体積比でSIS0012にロードしたニシン精子由来のDNAのアガロースゲル遅延度アッセイを示す。ネイキッドDNAを対照として使用した。画像の左カラム及び中央カラムにおいて、レーン2、レーン3、レーン4は室温で貯蔵された試料を保持し、レーン5、レーン6、レーン7は4℃で貯蔵された試料を保持し、レーン8、レーン9、レーン10は20℃で貯蔵された試料を保持する。最も右側の2つの画像では、レーン2、レーン3、レーン4は室温で貯蔵された試料を保持し、レーン5、レーン6、レーン7は4℃で貯蔵された試料を保持し、レーン8、レーン9は20℃で貯蔵された試料を保持し、レーン10対照は20℃で貯蔵された試料を保持する。
図15図15は、異なる温度(室温(RT)、4℃及び-20℃)での貯蔵後の異なる時点(0~6時間)における選択された濃度及び体積比でSIS0012にロードしたADO-siRNAのアガロースゲル遅延度アッセイを示す。ネイキッドsiRNAを対照として使用した(全ての画像においてレーン1)。全ての画像において、レーン2、レーン3、レーン4は室温で貯蔵された試料を保持し、レーン5、レーン6、レーン7は4℃で貯蔵された試料を保持し、レーン8、レーン9、レーン10は20℃で貯蔵された試料を保持する。
図16図16は、異なる温度(室温(RT)、4℃及び-20℃)での貯蔵後の異なる時点(24~120時間)における選択された濃度及び体積比でSIS0012にロードしたADO-siRNAのアガロースゲル遅延度アッセイを示す。ネイキッドsiRNAを対照として使用した(全ての画像においてレーン1)。全ての画像において、レーン2、レーン3、レーン4は室温で貯蔵された試料を保持し、レーン5、レーン6、レーン7は4℃で貯蔵された試料を保持し、レーン8、レーン9、レーン10は20℃で貯蔵された試料を保持する。
図17図17は、異なる温度(室温(RT)及び4℃)での貯蔵後の異なる時点(0~6時間)における選択された濃度及び体積比でシリコンナノ粒子を含まないSIS0012にロードしたADO-siRNAのアガロースゲル遅延度アッセイを示す。ネイキッドsiRNAを対照として使用した。6つの右端の画像において、レーン5、レーン6、レーン7は室温で貯蔵された試料を保持し、レーン8、レーン9、レーン10は4℃で貯蔵された試料を保持する。
図18図18は、室温(RT)又は4℃での貯蔵後の異なる時点(24~120時間)における選択された濃度及び体積比で、シリコンナノ粒子なしでSIS0012にロードしたADO-siRNAのアガロースゲル遅延度アッセイを示す。ネイキッドsiRNAを対照として使用した(全ての画像においてレーン1)。全ての画像において、レーン5、レーン6、レーン7は室温で貯蔵された試料を保持し、レーン8、レーン9、レーン10は4℃で貯蔵された試料を保持する。
図19図19は、室温での貯蔵後の異なる時点(0~6時間)における選択された濃度及び体積比で、SIS0013にロードしたADO-siRNAのアガロースゲル遅延度アッセイを示す。ネイキッドsiRNAを対照として使用した。
図20図20は、室温での貯蔵後の異なる時点(24~120時間)における選択された濃度及び体積比で、SIS0013にロードしたADO-siRNAのアガロースゲル遅延度アッセイを示す。ネイキッドsiRNAを対照として使用した。
図21図21は、4℃での貯蔵後の異なる時点(2~120時間)における選択された濃度及び体積比で、SIS0013にロードしたADO-siRNAのアガロースゲル遅延度アッセイを示す。ネイキッドsiRNAを対照として使用した。右端の2つの画像では、レーン2、レーン3、レーン4に「72時間」のラベルが付けられる。それらのすぐ左の画像では、レーン2、レーン3、レーン4は「24時間」とラベル付けされ、レーン5、レーン6、レーン7は「48時間」とラベル付けされる。
図22図22は、様々な濃度のアルカリホスファターゼについて、酵素活性の尺度として405nmでのUV-Vis吸光度の標準曲線を示す。
図23図23は、50℃でのインキュベーション後の、遊離アルカリホスファターゼ、SIS0012にロードされたアルカリホスファターゼ、及びSIS0013にロードされたアルカリホスファターゼについての、酵素活性の尺度としての405nmでのUV-Vis吸光度の曲線を示す。
図24図24は、siRNAをロードした場合の、NAD、TYR、及びQUEを含むSIS0012及びSIS0013のゲル電気泳動画像を示す。
図25図25は、siRNAをロードした場合の、実施例6のDPPC/PAL-KTTKS-DOPE製剤のゲル電気泳動画像を示す。
図26図26は、siRNAをロードした場合の、実施例6のDPPC/PAL-KTTKS-DOPE製剤の更なるゲル電気泳動画像を示す。
図27図27は、mRNAをロードした場合の、実施例6のDPPC/PAL-KTTKS-DOPE製剤の更なるゲル電気泳動画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の全ての態様の組成物の粒子は、加水分解性ドープシリコンを含む。シリコンはドープされており;有利には、粒子は、1cm当たり1×1015個以上、特に1×1016個以上の量のドーパント原子でドープされる(例えば、1cm当たり1×1017個以上、1×1018個以上、1×1019個以上、又は1×1020個以上のドーパント原子)。シリコンは、nドープ又はpドープされてもよい。本発明の全態様は、シリコンが、Mg、P、Cu、Ga、Al、In、Bi、Ge、Li、Xe、N、Au、Ptから選択される1以上の元素でドープされる、実施形態を含む。
【0030】
最も好ましくは、ドーパントはp型ドーパントである;好ましくは、ドーパントはホウ素を含む。したがって、最も好ましくは、ドーパントは、ホウ素である。Pドープシリコンは、負帯電した核酸及び他の負帯電した薬学的に活性な成分を安定化するのに特に好適であり得る。このようにして、任意選択的に(optionally)、本発明の全ての態様による加水分解性シリコン粒子のドーピングは、妥当なトランスフェクション能力(例えば、良好な組織標的化能若しくは良好な細胞標的化能)及び/又は良好な貯蔵安定性を依然として維持しながら、加水分解性ドープシリコンを含まない従来のトランスフェクション組成物と比較して、DOTMA又はDOTAPなどのカチオン性脂質のより少ない使用を可能にし、かつ潜在的に使用しないことができる。
【0031】
Nドープシリコンは、正帯電した薬学的活性薬学的に活性な成分を安定化することにおいて、また、脂質、例えば正帯電した脂質を分解から保護することにおいて特に有用であってもよく、これは、原薬、例えば核酸の安定化及び保護を間接的に増加させる。
【0032】
原薬が核酸である本発明の様々な態様の実施形態では、医薬組成物は、任意選択的に(optionally)、ポリカチオン性核酸結合構成成分を更に含む。「ポリカチオン性核酸結合構成成分」という用語は当技術分野で周知であり、少なくとも3個の繰り返しカチオン性アミノ酸残基又は正帯電した基を保有する他のカチオン性単位を有するポリマーを指し、そのようなポリマーは、生理学的条件下において核酸と顔貌(complexion)を形成することができる。核酸結合ポリカチオン性分子の例は、1以上のカチオン性アミノ酸を含むオリゴペプチドである。そのようなオリゴペプチドは、例えば、オリゴリジン分子、オリゴヒスチジン分子、オリゴアルギニン分子、オリゴオルニチン分子、オリゴジアミノプロピオン酸分子若しくはオリゴジアミノ酪酸分子、又はヒスチジン、アルギニン、リジン、オルニチンジアミノプロピオン酸、及びジアミノ酪酸残基の任意の組合せを含む若しくはこれらからなる複合オリゴマーであり得る。ポリカチオン性構成成分の更なる例としては、デンドリマー及びポリエチレンイミンが挙げられる。
【0033】
加水分解性シリコンを含む粒子
本発明の全ての態様によれば、ドープシリコン粒子は、純粋なドープシリコン、又は別の加水分解性ドープシリコン含有材料であり得る。この粒子が純粋なドープシリコンでない場合、それらは少なくとも50重量%のシリコンを含有し、すなわち、それらは粒子中の原子の総質量に基づいて少なくとも50重量%のシリコン原子を含む。例えば、シリコン粒子は、少なくとも60%、70%、80%、90%、又は95%のシリコンを含有し得る。シリコン粒子は、好ましくは、例えば室温のPBS緩衝液中で、同じ寸法の純粋なシリコン粒子の加水分解速度の少なくとも10%の加水分解速度を示す。シリコン含有材料の加水分解のためのアッセイは当技術分野で広く知られている(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2011/001456号を参照されたい)。本発明の粒子はいくらかのシリカを含有し得るが、シリカは、加水分解性シリコンではなく、かつ粒子中のシリコン原子の少なくとも半分は、元素シリコン(又はドープ元素シリコン)の形態である。
【0034】
本発明の全ての態様によれば、加水分解性ドープシリコンを含む粒子は、ナノ粒子であり得る。ナノ粒子は、5~400nm、例えば50~350nm、例えば80~310nm、例えば100~250nm、例えば120~240nm、例えば150~220nm、例えば約200nmの公称直径を有する。ナノ粒子は、純粋なシリコン又は加水分解性ドープシリコン含有材料のいずれかで作製され得る。それらは、好ましくは多孔質、より好ましくはメソポーラスである。上記の公称直径は平均直径を指してもよく、粒子の試料中の粒子の総質量の少なくとも90%は、指定されたサイズ範囲内に入り得る。加水分解性ドープシリコンを含む粒子は、粒子をフッ化水素酸(hydrofluoric acid:HF)/エタノール混合物と接触させ、電流を印加するなどの標準的な技術によって、多孔質にすることができる。HF濃度並びに電流密度及び曝露時間を変化させることによって、細孔の密度及びそれらのサイズを制御することができ、かつ走査型電子顕微鏡写真及び/又は窒素吸着脱着体積等温測定によって監視することができる。
【0035】
本発明の全ての態様において、粒子は多孔質であることが好ましい。粒子が多孔質である場合、それらの多孔度のおかげで、それらの総表面積が増加する。例えば、表面積は、対応する非多孔質粒子の表面積にわたって少なくとも50%又は少なくとも100%増加し得る。多くの状況において、本発明の全ての態様による多孔質粒子は、実際には、それらの多孔度のために総表面積がはるかに大きく増加する。好ましくは、粒子はメソポーラスである。
【0036】
特定の実施形態によれば、多孔度は、少なくとも30%、40%、50%、又は60%である。これは、粒子体積のそれぞれ30%、40%、50%、又は60%が、細孔空間にあることを意味する。好ましい細孔径は、1nm~50nm、例えば5nm~25nmの範囲にわたる。
【0037】
ドーピング
本発明の全ての態様は、ドープシリコン含有材料に関する。ドープシリコンの製造は、半導体産業においてよく理解されており、かつイオン注入及び拡散法を含む。したがって、ドープシリコンは容易に入手可能である。あるいは、シリコン中に存在するドーパントの量を増加させるために拡散法を用いることによって、シリコンをドープすることができる。拡散法の一例として、シリコン粉末及びドーピング試薬(例えば、ホウ素ドーピング用のB)をボウル中に入れ、これを混合してN雰囲気下に置き、1050℃~1175℃の温度で数分間かけてドーパント(例えば、ホウ素)をシリコン中に拡散させる。図1及び図2は、この方法によって生成されたホウ素ドープシリコンを示す。
【0038】
ある特定の実施形態では、シリコンのドーピングは、高濃度ドーピングであり、これは、少なくとも1×1015個のドーパント原子/cmのドーピングを意味するものと理解される。いくつかの好ましい実施形態では、ドーパントは、1×1016ドーパント原子/cm以上の量で存在する。したがって、特に好ましい実施形態では、ホウ素は、1×1016ホウ素原子/cm以上の量で存在する。
【0039】
例えば、1×1017個以上のドーパント原子/cm、1×1018個以上のドーパント原子/cm、又は1×1019個以上のドーパント原子/cmが存在し得る。
【0040】
任意選択的に(optionally)、最大1×1020個のドーパント原子/cmが存在し得る。例えば、1×1016個以上のホウ素原子/cm及び最大1×1020ホウ素原子/cmのレベルで存在するホウ素が存在し得る。
【0041】
ホウ素がドーパントとして使用される場合、1×1015個のドーパント原子/cm、及び1×1020個のドーパント原子/cmのドーピング量は、それぞれ、抵抗率13.6ohm-cm及び1.3mohm-cmに対応することが好ましい。ホウ素が好ましいドーパントである本発明の様々な態様は、ホウ素でドープされる、例えば高濃度にドープされることに加えて、他の元素でもまたドープされるシリコンを除外しない。本発明の全ての態様の好ましい実施形態によれば、大部分のドーパントは、ホウ素である。
【0042】
脂質
本技術分野における脂質は、概して、脂肪酸及び脂肪酸誘導体、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、サッカロ脂質(saccharolipid)、及びポリケチドを含むものと理解される。
【0043】
本出願で使用される場合、「脂質」という用語はまた、短いペプチド配列(例えば、3~20個のアミノ酸残基、例えば5~15個のアミノ酸残基など、特に3個、4個、又は5個のアミノ酸残基、最も特には5個のアミノ酸残基を有するペプチド配列など)が、1以上の脂肪酸鎖(特に、10~24の炭素鎖長、好ましくは12~18の炭素鎖長を有する脂肪酸鎖;例えば、14、15、又は16の炭素鎖長;例としては、ペプチド部分は、パルミトイル、セチル、又はミリストイル部分で任意選択的に(optionally)脂質化されていてもよい)にコンジュゲートされている、脂質付加オリゴペプチド(リポペプチドという用語と本明細書では互換的に使用される用語)を包含し得る。
【0044】
脂質付加オリゴペプチドは、任選択的に(optionally)、脂質付加テトラペプチド、脂質付加ペンタペプチド、又は脂質付加ヘキサペプチドであり得る。好ましくは、アミノ酸残基は、リジン又はアルギニンなどの7.4のpH(生理学的pH)でカチオン性である、少なくとも1つのアミノ酸残基(例えば、2アミノ酸残基又は3アミノ酸残基)を含む。例えば、脂質付加オリゴペプチドは、1以上(例えば、2つ)のリジン残基を含み得る。したがって、特定の例は、パルミトイル-ペンタペプチド-4(CAS番号214047-00-4;PAL-KTTKSと略す)である。
【化1】

パルミトイルペンタペプチド-4
【0045】
したがって、本発明の全ての態様による特定の好ましい実施形態では、1以上の脂質は、1以上の脂質付加オリゴペプチド、特にpH7.4(生理学的pH;例としては、リジン及びアルギニンが挙げられる)でカチオン性である、1以上のアミノ酸残基を有するものであるか又は1以上のアミノ酸残基を有するものを含む。
【0046】
脂質付加オリゴペプチドは、DOPE又はDPPCなどの1以上のリン脂質と組み合わせて使用され得る。リポペプチドのアルキル鎖はリン脂質二重層中で有利に同化され得るが、一方で二重層の表面は、ペプチド部分で装飾されているものと考えられる。このようにして、ペプチドは、組織及び/又は細胞標的化を提供し得ると考えられ、例えば、ペプチドが生理学的pHでカチオン性電荷を保有する場合、mRNAなどの核酸などの負帯電したAPIを安定化し得る。
【0047】
本発明の全ての態様によれば、医薬組成物中に1以上の脂質が存在する。好ましくは、当該1以上の脂質は、本発明の加水分解性ドープシリコン粒子と関連して提供される。
【0048】
ある特定の実施形態によれば、脂質は、少なくとも1つのカチオン性脂質;ヘルパー脂質、例えばリン脂質;構造脂質、例えばコレステロール系脂質;及び/又は、ポリエチレングリコール(PEG)脂質であるか、又はこれらを含む。
【0049】
脂質は、ホスファチジルコリン(PC)、水素化PC、ステアリルアミン(SA)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、コレステリル3β-N-(ジメチルアミノエチル)カルバメート塩酸塩(DC)-コレステロール、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP)、及びそれらの誘導体のうちの1以上を含み得る。ある特定の実施形態では、脂質は、DOTAPを含むか、又はDOTAPからなる。脂質で粒子を表面処理することは、核酸又は他の薬学的に活性な薬剤の放出速度を制御するのに役立つことが判明している。シリコン含有粒子の表面を処理するために使用される脂質の種類は、その放出速度に影響を及ぼし得る。特に、加水分解性ドープシリコン粒子を脂質で表面処理することは、粒子の表面電荷に有益な効果をもたらし、これは、低分子干渉RNA、又は低分子活性化RNA、又は低分子ヘアピンRNA、又はメッセンジャーRNAのロードを改善するのに必要なゼータ電位を提供し、かつ標的部位でのそれらの放出速度を制御する。少なくとも1つの脂質の存在はまた、ドープシリコンが不溶性ポリマー加水分解生成物ではなく生体利用可能なオルトケイ酸(OSA)分解生成物へと加水分解するように、ドープシリコンの加水分解速度が制御されることを可能にし得る。ドープシリコンの加水分解速度を制御することは、ドープシリコンに関連した核酸又は他の原薬が放出される速度に影響を及ぼす。放出速度の制御は、原薬の保護が持続される期間に影響を及ぼす。
【0050】
それにもかかわらず、本明細書で使用されるドープシリコンは、原薬を含むが加水分解性ドープシリコン粒子を含まない従来の組成物、特に核酸を含む従来のトランスフェクション組成物よりも少ない脂質(特に、DOTAPなどのより低量のカチオン性脂質)を使用する能力、及び/又はそのような組成物が、依然としてトランスフェクション有効性、貯蔵安定性、及び/又は特定の種類の組織若しくは特定の種類の細胞への標的化送達を提供しながら、より広い範囲の脂質と共に製剤化される能力を提供する。したがって、特定の脂質、特にDOTAPなどのカチオン性脂質への依存を低減する方法が提供される。したがって、本発明の全ての態様のある特定の実施形態では、1以上の脂質は、カチオン性脂質;ヘルパー脂質、例えばリン脂質;構造脂質、例えばコレステロール系脂質;及び/又は、ポリエチレングリコール(PEG)脂質からなる群から選択される。そのような実施形態では、任意選択的に(optionally)、1以上の脂質のいずれも、DOTAPなどのカチオン性脂質ではない。
【0051】
本発明の全ての態様のある特定の実施形態では、脂質はDOTAPであるか、又は製剤中に存在する脂質はDOTAPを含む。DOTAPは、S鏡像異性形態及びR鏡像異性形態として存在し、本発明の全態様によれば、S形態、R形態として、又はラセミ体として存在し得る。本発明の組成物中に存在する全DOTAPのある特定の実施形態によれば、R形態及びS形態は、およそ等量(すなわち、いずれかの形態の60%以下)であり得る。他の実施形態では、全DOTAPの少なくとも80%、90%、95%、98%、又は99%は、R形態である。他の実施形態では、全DOTAPの少なくとも80%、90%、95%、98%、又は99%は、S形態である。1以上の脂質が、DOTAPなどのカチオン性脂質か又はDOTAPなどのカチオン性脂質を含む場合、本発明の全態様によるシリコン粒子のドーピングは、好ましくは、加水分解性ドープシリコン粒子を含まない、核酸などの原薬の送達のための医薬組成物よりも少ないDOTAPなどのカチオン性脂質の使用を可能にする。
【0052】
本発明の全ての態様によれば、脂質(単数)又は脂質(複数)は、500~1000などの範囲内の平均分子量を有し得る。
【0053】
好ましくは、本発明の全態様(例えば、脂質が、カチオン性脂質、ヘルパー脂質、構造脂質、及びPEG脂質のうちの1以上を含有する場合、又はPC、水素化PC、SA、DOPE、DOTAP、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体のうち1以上から選択される場合)によれば、任意の更なる処理(すなわち、濾過プロセス又は滅菌プロセスによって)の前にドープされる脂質(すなわち、全脂質構成成分)の比率は、1:1~45:1、例えば、1:1~20:1、1:1~16:1、1:1~12:1、1:1~11:1、1:1~10:1、1:1~9:1、1:1~8:1、1:1~13:1、2:1~12:1、2:1~11:1、2:1~10:1、2:1~9:1、2:1~8:1、例えば、1:1~7:1、2:1~7:1、3:1~6:1、4:1~5:1である。0.8:1~20:1の脂質構成成分とケイ素モルとの比率は、例えば16:1、12:1、8:1、又は2.5:1が特に有利であることが分かった。
【0054】
有利には、この脂質とドープシリコンとの比率は、加水分解性ドープシリコンの粒子と接触した原薬(例えば、核酸)の放出を制御、及びこの原薬を安定化し、シリコンの生体利用可能な分解生成物であるOSAの制御された放出を促進することができる、多層小胞システムを提供し得る。
【0055】
有利には、脂質化合物は、ドープシリコンナノ粒子の表面電荷に有意な効果を及ぼすことができる。ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamine:PE)、及びレシチンで処理した加水分解性純粋シリコンを含む粒子は、ゼータ電位分析を行った場合に負の表面電荷を実証する(シリコン:脂質の様々な好ましい比である、-60~-20mVの範囲にわたる)。ステアリルアミン又はDOTAPで処理した粒子表面は、正のゼータ電位(0mV~+40mVの範囲にわたり、シリコン:脂質の様々な好ましい比を有する)を実証する。シリコンのドーピングは表面電荷を変化させる。ホウ素(本発明の多くの実施形態ではその様々な態様の全てにおいて好ましい)などのpドーパントの使用は、ゼータ電位をより正にする(すなわち、負の値がより小さい)。純粋なシリコンの典型的な値である-40mVは、シリコンがホウ素でドープされた場合、約-25mVになる。したがって、ホウ素ドープシリコンは、カチオン性脂質で処理した場合、より容易に、正のゼータ電位を達成することができる。例えば、ステアリルアミン又はDOTAPによる処理は、約+20mV~+60mVの値を達成することができる。これは、より少量のカチオン性脂質を用いて、又はより広範囲のカチオン性脂質(ステアリルアミン及びDOTAPよりもカチオン性が低いものを含む)を用いて、正の表面ゼータ電位が達成され得ることを意味する。これはまた、カチオン性脂質が貯蔵中に分解(「老化」)することで、脂質の正電荷の部分的損失をもたらしたとしても、粒子の表面ゼータ電位がより快適に長時間正のままであることを意味する。
【0056】
0.8:1~20:1の脂質構成成分とケイ素モルとの比率は、例えば16:1、12:1、8:1、又は2.5:1が特に有利であることが分かった。
【0057】
脂質又は脂質構成成分は、いくつかの実施形態では、リン脂質であり得るか、又はリン脂質を含み得る。「リン脂質」という用語は、脂肪酸鎖及びホスフェート(phosphate)基を含む脂質を指す。リン脂質は、それらが正帯電したカチオン性脂質とは異なり、全体的な電荷を有しないか、又は負電荷を保有し得るという点で、典型的には中性分子である。リン脂質は、典型的には、正帯電及び負帯電した構成成分の両方を含むが、全体的な電荷を含まない双性イオン化合物である。したがって、リン脂質は、典型的には中性脂質として分類される。特に好適なリン脂質はグリセロリン脂質である。特に好適なリン脂質は、極性頭部基が第四級アンモニウム部分、例えばホスファチジルコリン(phosphatidylcholine:PC)又は水素付加ホスファチジルコリンなどに結合されているリン脂質である。リン脂質の別の例は、DOPE(ホスファチジルエタノールアミン又は1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン)である。脂質の種類は製剤の性質に応じて選択されてもよく、中性又は負帯電したリン脂質は、非プロトン性製剤に好ましいが、一方で正帯電したカチオン性脂質及び小さなCH鎖脂質がプロトン性製剤に好ましい。リン脂質は、レシチンであってもよく、又はレシチンに由来してもよい。
【0058】
好ましくは、リン脂質の側鎖(複数可)は、15個以上の炭素原子を有する脂肪族側鎖(複数可)、又は6個以上の繰り返しエーテル単位を有するエーテル側鎖、例えばポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコール鎖などである。エーテル側鎖を有する脂質は、「PEG脂質」又は「PEG化」脂質と称され得る。したがって、本出願で使用される場合、「脂質」という用語は、したがってPEG脂質を網羅し得る。したがって、ある特定の実施形態によれば、脂質は、1以上のポリエチレングリコール(PEG)脂質であるか、又は1以上のポリエチレングリコール(PEG)脂質を含む。
【0059】
脂質又は脂質構成成分は、いくつかの実施形態では、カチオン性脂質であり得るか、又はカチオン性脂質を含み得る。「カチオン性脂質」という用語は、いくらかのスペーサを介して疎水性尾部に結合したカチオン性頭部基を有する正帯電した分子を指す。例としては、DTDTMA(ジテトラデシルトリメチルアンモニウム)、DOTMA(2,3-ジオレイルオキシプロピル-1-トリメンチルアンモニウム)、DHDTMA(ジヘキサデシルトリメチルアンモニウム)、及びステアリルアミン(SA)が挙げられる。正電荷は、典型的には、負の対イオンによって安定化される。好ましい実施形態では、カチオン性脂質は、DOTAPであるか、又はDOTAPを含む。本明細書に記載されるように、本発明の全態様によるシリコンのドーピングは、加水分解性ドープシリコンなしで製剤化されたトランスフェクション組成物などの従来の組成物と比較して、DOTAPなどのカチオン性脂質のより低い量を使用する能力を提供し得るが、しかし、本明細書で提供される加水分解性ドープシリコンを含む組成物は、妥当なトランスフェクション能力(例えば、良好な組織標的化能又は良好な細胞標的化能)及び/又は良好な貯蔵安定性を維持する。
【0060】
ある特定の実施形態では、脂質は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、ステアリルアミン(SA)、又はそれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0061】
ある特定の実施形態では、脂質は、ホスファチジルコリン、水素付加ホスファチジルコリン、ステアリルアミン、又はそれらの組合せから実質的になり得る。
【0062】
ある特定の実施形態では、脂質は、粒子の総重量に基づいて、少なくとも5重量%の水素化ホスファチジルコリン、例えば少なくとも20重量%、典型的には少なくとも30重量%、特に少なくとも50重量%の水素化ホスファチジルコリンからなり得る。0.8:1~5:1の水素化ホスファチジルコリン対ドープシリコンのモル比は、例えば1:1、1.5:1、2:1、2.5:1、3:1、3.5:1、4:1、又は4.5:1が特に有利であることが分かった。
【0063】
ある特定の実施形態では、脂質は、粒子の総重量に基づいて、少なくとも5重量%のホスファチジルコリン、例えば少なくとも20重量%、典型的には少なくとも30重量%、特に少なくとも50重量%のホスファチジルコリンからなり得る。0.8:1~5:1のホスファチジルコリン対ドープシリコンのモル比は、例えば1:1、1.5:1、2:1、2.5:1、3:1、3.5:1、4:1、又は4.5:1が特に有利であることが分かった。
【0064】
ある特定の実施形態では、脂質は、粒子の総重量に基づいて、少なくとも5重量%のステアリルアミン、例えば少なくとも20重量%、典型的には少なくとも30重量%、特に少なくとも50重量%のステアリルアミンからなり得る。0.8:1~5:1のステアリルアミン対ドープシリコンのモル比は、例えば1:1、1.5:1、2:1、2.5:1、3:1、3.5:1、4:1、又は4.5:1が特に有利であることが分かった。
【0065】
ある特定の実施形態では、脂質は、PC及びSAからなってもよく、好ましくは、PC:SAの重量比は、1:1~20:1、より好ましくは7:1~10:1であり得、例えばPC:SAの重量比が72:8などであり得る。
【0066】
ある特定の実施形態では、脂質は、DOPE、SA、及びDC-コレステロールからなり得る。DOPE:SAの重量比は、1:1~10:1、例えば4:1~8:1の範囲内であり得る。DOPE:DC-コレステロールの重量比は、1:1~5:1、例えば1:1~3:1の範囲内であり得る。SA:DC-コレステロールの重量比は、1:1~1:5、例えば1:2~1:4の範囲内であり得る。いくつかの実施形態では、DOPE:SA:DC-コレステロールの重量比は、48:8:24であり得る。
【0067】
ある特定の好ましい実施形態では、脂質は、DOTAP、DOPE、及びPEG脂質(mPEG2000-DSPEなど)からなり得る。DOTAP:DOPEの重量比は、1:2~2:1、例えばおよそ1:1であり得る。DOTAP:PEG脂質及びDOPE:PEG脂質の比率は、10:1~5:1、例えばおよそ7:1であり得る。全脂質対シリコンの総重量比は、20:1~10:1、例えばおよそ16:1であり得る。
【0068】
アミノ酸
本発明の全ての態様は、1以上のアミノ酸の追加的な所望による存在又は使用を含み得る。
【0069】
その最も広い意味では、「アミノ酸」という用語は、アミン(-NH2)及びカルボキシル(-COOH)官能基を含有する任意の人工有機化合物又は天然に存在する有機化合物を包含する。「アミノ酸」という用語は、αアミノ酸、βアミノ酸、γアミノ酸、及びδアミノ酸を含む。「アミノ酸」という用語は、任意のキラル配置のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態によれば(例えば、本発明のドープシリコン粒子が、PC、水素化PC、SA、DOPE、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体の1以上と製剤化される場合)、アミノ酸は、好ましくは天然に存在するαアミノ酸である。それは、タンパク新生アミノ酸又は非タンパク新生アミノ酸(カルニチン、レボチロキシン、ヒドロキシプロリン、オルニチン、又はシトルリンなど)であり得る。好ましい実施形態では、アミノ酸は、アルギニン、ヒスチジン、若しくはグリシン、又はアルギニンとグリシンとの混合物を含む。特に好ましい実施形態では、アミノ酸は、グリシンを含む。そのようなアミノ酸は、貯蔵中及びインビボでの両方にて、ドープシリコン粒子を安定化し、かつドープシリコンの加水分解を制御するように機能し得る。
【0070】
上記のアミノ酸に加えて、全ての態様は、粒子にある程度の細胞特異性を付与する細胞表面受容体、例えばインテグリン認識配列を含有するペプチドが含まれ得る。ペプチドは、細胞表面受容体認識配列を含有する「頭部基」と、活性医薬剤、例えば核酸に非共有結合的に結合することができ、及び/又はドープシリコンに結合する追加的な「尾部」と、を有し得る。
【0071】
活性医薬剤-粒子会合
好ましい実施形態(例えば、加水分解性ホウ素ドープシリコンを含む粒子が、1以上のアミノ酸、例えばアルギニン、グリシン、及びヒスチジン、及び/又は、1以上の脂質、例えばPC、水素化PC、SA、DOPE、DOTAP、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体、又は他のイオン性若しくはカチオン性脂質と製剤化される場合)によれば、本発明の全態様の製品中に存在する活性医薬剤(例えば、核酸、saRNA、shRNA、siRNA、又はmRNA)の少なくとも70重量%、例えば少なくとも80重量%、例えば少なくとも90重量%が、粒子と会合している。これにより、活性医薬剤がドープシリコンと非共有結合していることを意味する。理論に束縛されることを望むものではないが、これが起こる場合、核酸などの活性医薬剤のランダムなブラウン運動が減少し得、医薬組成物の効率が増強されるものと仮定される。例えば、例えば、製剤中に存在する分解酵素によってそれが分解される機会が減少する。また、理論に束縛されることを望むものではないが、活性医薬剤(例えば、核酸及び特にmRNA)との酵素触媒反応に利用可能な水分子の数の減少があり得るものと考えられる。例えば、水分子は、水と加水分解性ドープシリコンとの反応によって除去され得る。
【0072】
粒子の分解速度、及び分解から生じる活性医薬剤との会合の終わりは、粒子中のドープシリコンの加水分解によって支配される。この速度を制御することができるので、活性医薬剤が生物学的に利用可能になる速度もまた、用量ダンピングを回避するために、及び/又は好適な長期間にわたって漸進的な放出を確実にするために、制御され得る。
【0073】
活性医薬剤が核酸である場合、脂質処理されたホウ素ドープシリコン粒子(例えば、PC、水素化PC、SA、DOPE、DOTAP、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体のうち1以上で処理されたナノ粒子)を、アミノ酸(例えば、グリシン、アルギニン、及びヒスチジンのうち1以上、好ましくはグリシン)で処理した場合、RNA(例えば、mRNA、saRNA、shRNA、又はsiRNA)などの核酸に対して有益な安定化効果が得られることが判明した。特に、脂質処理粒子をアミノ酸で処理すると、生体体液中、例えば眼組織又は血漿中のRNAなどの核酸が安定化することが示されている。この様式にてアミノ酸で製剤化された脂質処理粒子は、身体への送達、例えば経皮注射、硝子体内注射による送達に特に好適であり得る。
【0074】
ドープシリコンに対するアミノ酸(複数可)の比率
好ましくは(例えば、本発明の粒子が、1以上のアミノ酸、例えば、アルギニン、ヒスチジン、及びグリシンのうちの1以上のアミノ酸;及び/又は、1以上の脂質、例えば、PC、水素化PC、SA、DOTAP、DOPE、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体のうちの1以上により製剤化される場合)、アミノ酸(例えばグリシン、又はグリシンとリジンとの混合物)は、シリコンに対する重量比で、少なくとも500:1、少なくとも50:1、少なくとも5:1、少なくとも2.5:1、少なくとも1:1、又は少なくとも0.5:1若しくは0.05:1で任意選択的に(optionally)存在していてもよい。好ましくは、アミノ酸はグリシンであり、これは所望により、シリコンに対する重量比で、少なくとも500:1、少なくとも50:1、少なくとも5:1、少なくとも2.5:1、少なくとも1:1、又は少なくとも0.5:1、又は0.05:1で存在する。
【0075】
有利には、アミノ酸とドープシリコンとのこの比率は、粒子に関連したRNA分子などの活性医薬剤の放出速度に更に影響を与え、かつ安定化する。
【0076】
本発明の全ての態様によれば、粒子は、脂質(例えば、PC、水素化PC、SA、DOTAP、DOPE、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体のうち1以上)、並びにアミノ酸(例えば、グリシン、アルギニン、及びヒスチジンのうち1以上、例えばグリシン、又はグリシンとアルギニンとの混合物など)で処理され得る。アミノ酸は任意のアミノ酸であり得る。好ましくは、アミノ酸は、アルギニン、又はグリシン、又はグリシンとアルギニンとの組合せである。脂質は任意の脂質であり得る。好ましくは、脂質は、リン脂質である。任意選択的に(optionally)、脂質はカチオン性脂質を更に含む。より好ましくは、脂質(単数)又は脂質(複数)は、水素化PC、PC、DOTAP、DOPE、レシチン、ステアリルアミン、及びそれらの誘導体のうち1以上から選択される。任意選択的に(optionally)、脂質は、DOTAP及び/又はその誘導体を含む。
【0077】
好ましくは、アミノ酸対ドープシリコンの比率は、0.05:1~0.4:1、例えば0.08:1~0.35:1、特に0.09:1~0.32:1である。いくつかの実施形態(例えば、脂質が、PC、水素化PC、SA、DOTAP、DOPE、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体のうち1以上から選択される場合)では、アミノ酸は、アルギニンとグリシンとの組合せであり、ここで、Arg:Glyの比率は、1:0.6~3:1、例えば1:0.8~2.5:1、例えば1:1~2:1である。
【0078】
本発明の全ての態様の他の実施形態によれば、粒子は、アルギニンと共に製剤化される。好ましくは、アルギニン対ホウ素ドープシリコンの比率は、0.05:1~0.4:1、例えば0.08:1~0.35:1、特に0.09:1~0.32:1である。
【0079】
本発明の全ての態様の他の実施形態によれば、粒子は、グリシンと共に製剤化される。好ましくは、グリシン対ホウ素ドープシリコンの比率は、0.05:1~0.5:1、例えば0.08:1~0.45:1、特に0.09:1~0.42:1である。
【0080】
本発明の全ての態様で使用するための好ましいアミノ酸には、アルギニン、グリシン、プロリン、リジン、及びヒスチジン、並びにそれらの2つ以上の混合物が含まれる。
【0081】
活性医薬剤
本発明の全ての態様によれば、活性医薬剤(原薬ともまた称される)は、任意の薬学的に活性な化合物であり得る。いくつかの実施形態では、活性医薬剤は、プロドラッグであり得る。本発明の全ての態様の好ましい実施形態では、活性医薬剤は、核酸である。
【0082】
本発明に従って使用するためのRNAなどの核酸には、二本鎖DNA及び一本鎖DNA、RNA、DNA:RNAハイブリッド、並びにPNA(ペプチド核酸)又はRNA若しくはDNA間のハイブリッドが含まれる。この用語はまた、公知の種類の修飾、例えば、当技術分野で公知の標識、メチル化、「キャップ」、類似体による天然に存在するヌクレオチドの1以上の置換、ヌクレオチド間修飾、例えば、非荷電結合を有するもの(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)、負帯電した結合を有するもの(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)、及び正帯電した結合を有するもの(例えば、アミノアルキルホスホルアミデート、アミノアルキルホスホトリエステル)など、ペンダント部分を含有するもの、例えば、タンパク質(ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジンなどを含む)など、干渉物質を有するもの(例えば、アクリジン、ソラレンなど)、キレート剤を含有するもの(例えば、金属、放射性金属、ホウ素、酸化金属など)、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を有するもの(例えば、アルファアノマー核酸など)、並びにポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドの非修飾形態も含む。
【0083】
本明細書で使用される場合、「ヌクレオシド」及び「ヌクレオチド」という用語は、既知のプリン塩基及びピリミジン塩基だけでなく、修飾された他の複素環塩基もまた含有する部分を含むことが理解されよう。そのような修飾としては、メチル化プリン若しくはメチル化ピリミジン、アシル化プリン若しくはアシル化ピリミジン、又は他の複素環が挙げられる。修飾されたヌクレオシド又はヌクレオチドはまた、例えば、ヒドロキシル基の1以上が、ハロゲン、脂肪族基で置き換えられているか、又はエーテル、アミンなどとして官能化されている、糖部分に対する修飾も含む。ヌクレオチド又はポリヌクレオチドに対する他の修飾は、水素結合をそれぞれの相補的ピリミジン又は相補的プリンへと形成するプリン塩基又はピリミジン塩基上の官能基、例えば、イソグアニン、イソシステインなどを、再配列、付加、置換、又は他の方法で変化させることに関与する。いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチド及び/又はプローブは、少なくとも1個、2個、3個、又は4個の修飾ヌクレオチドを含む。
【0084】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるRNAなどの核酸は、1以上のユニバーサル塩基を含む。本明細書で使用される場合、「ユニバーサル塩基(universal base)」という用語は、A、U/T、C、及びGから選択される2つ以上のヌクレオチドにハイブリダイズすることができる、ヌクレオチド類似体を指す。いくつかの実施形態では、ユニバーサル塩基は、デオキシイノシン、3-ニトロピロール、4-ニトロインドール、6-ニトロインドール、5-ニトロインドールからなる群から選択され得る。
【0085】
本発明の全ての態様の好ましい実施形態によれば、核酸は、DNA又はRNAであり得る。好ましい実施形態では、核酸は、RNAである。RNAは、本発明の全ての態様の様々な実施形態において、mRNA、saRNA、shRNA、及びsiRNAを含む。好ましくは、核酸は、mRNAである。好ましい実施形態では、核酸は、mRNAワクチンのmRNAであり得る。
【0086】
その最も広い意味では、saRNAという用語は、RNA活性化(RNAa)経路内で作動する、5~50塩基対長の二本鎖RNA分子を含む、低分子活性化RNAを包含する。例えば、saRNAは、長さが10~45塩基対、15~40塩基対、20~30塩基対、特に20~25塩基対であり得る。
【0087】
その最も広い意味では、shRNAという用語は、RNA干渉(RNAi)経路内で作動する、塩基対合を有し、かつ10~100塩基長を有する一本鎖RNA分子を包含する。例えば、shRNAは、長さが15~95塩基対、20~80塩基対、又は25~75塩基対、特に30~70塩基対であり得る。
【0088】
その最も広い意味では、「siRNA」という用語は、低分子干渉RNA又はサイレンシングRNAとして知られることもある、低分子干渉RNA(siRNA)を包含し、これは、5~50塩基対の長さの二本鎖RNA分子を含み、かつRNA干渉(RNAi)経路内で作動する。例えば、siRNAは、長さが10~45塩基対、15~40塩基対、20~30塩基対、特に20~25塩基対であり得る。
【0089】
「mRNA」という用語は、メッセンジャーRNAを包含し、かつ5プライムキャップ及び/又はポリアデニル化末端を含むmRNAを任意選択的に(optionally)含み得る。あるいは、これらの特徴の一方又は両方が存在しなくてもよい。mRNAは、ある特定の実施形態では、少なくとも100塩基対、少なくとも200塩基対、少なくとも300塩基対、少なくとも500塩基対、又は少なくとも1000塩基対の長さであり得る。
【0090】
本発明の全ての態様の好ましい実施形態によるRNA(例えば、本発明の粒子が、アルギニン、ヒスチジン、及びグリシンのうち1以上、及び/又は、PC、水素化PC、SA、DOTAP、DOPE、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体のうち1以上を用いて製剤化される場合)は、それらの治療特性、例えば活性の増強、血清安定性の増加、オフターゲティングの減少、及び免疫学的活性の低下などを増強するために、天然に存在し得るか、又は化学的に修飾され得る。RNAに対する化学修飾は、当技術分野で一般的に知られている任意の修飾を含み得る。
【0091】
いくつかの実施形態(例えば、本発明の粒子が、アルギニン、ヒスチジン、及びグリシンのうち1以上、及び/又はPC、水素化PC、SA、DOPE、DOTAP、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体のうち1以上と製剤化される場合)によれば、RNAは、siRNAである。いくつかの他の実施形態(例えば、本発明の粒子が、アルギニン、ヒスチジン、及びグリシンのうち1以上、及び/又はPC、水素化PC、SA、DOTAP、DOPE、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体のうち1以上と製剤化される場合)によれば、RNAは、mRNAである。
【0092】
他の実施形態によれば、mRNAは抗原をコードし、それによって、ワクチンである医薬組成物を提供する。抗原は、ウイルス抗原、例えばSARS-CoV-2の抗原、例えばSARS-CoV-2のスパイクタンパク質に由来する抗原であり得る。
【0093】
ある特定の実施形態では、mRNAは、複数のタンパク質をコードし得る。例えば、mRNAは、ウイルス抗原及び補助タンパク質(adjuvanting protein)、以上のウイルス抗原をコードし得る。他の実施形態では、アジュバントは、活性医薬剤に加えて、医薬組成物の追加的な構成成分として代替的又は追加的に提供されてもよい。
【0094】
活性医薬剤に対するドープシリコンの比率
好ましくは(例えば、本発明の粒子が、アルギニン、ヒスチジン、及びグリシンの1以上、及び/又はPC、水素化PC、SA、DOTAP、DOPE、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体の1以上を用いて製剤化される場合)、ドープされた(例えば、ホウ素ドープされた)シリコンと、核酸(siRNA又はmRNAなど)などの活性医薬剤との比率は、1:1~8:1、例えば1:1~6:1、1:1~5:1、1:1~4:1、又は1:1~3:1である。好ましくは、ドープされた(例えば、ホウ素ドープされた)シリコンと、核酸などの活性医薬剤との比率は、1:1~3:1である。有利には、ドープされた(例えば、ホウ素ドープされた)シリコンと、核酸などの医薬品とのこの比率は、粒子によって運ばれる活性医薬剤、例えば核酸分子(例えば、siRNA、saRNA、shRNA、又はmRNA分子)の放出速度に更に影響を与え、かつ安定化する。
【0095】
これらの比率の全て(及び本明細書全体の他の比率)において、比率は重量比であり、「シリコン」に帰属される比率は、加水分解性ドープシリコン含有粒子の総重量であり、かつ後続の比率を変更し得る滅菌プロセス又は濾過プロセスなどの任意の追加的なの調製工程の前に測定されることに留意されたい。
【0096】
好ましい組合せ
本発明の全ての態様によれば、特に好ましい実施形態は、ホウ素ドーピング(特に、上で定義したような高度ホウ素ドーピング)であるドーピング、及び核酸(特にmRNA、及び特にmRNAワクチンの抗原をコードするmRNA)である活性成分に関する。任意選択的に(optionally)、脂質は、DOTAPであるか、又はDOTAPを含む。しかしながら、本明細書中下記の実施例、特に実施例6に示されるように、DOTAPは、本製剤に必ずしも必要ではないことが見出された。したがって、実施例によれば、特に好ましい実施形態では、1以上の脂質は、リン脂質(DPPC及び/又はDOPEなど)並びにpH7.4でカチオン性である1以上のアミノ酸残基を有する脂質付加オリゴペプチド(生理学的pH;例としては、リジン及びアルギニンが挙げられる)のうち1以上であるか、又は1以上を含む。任意選択的に(optionally)、1以上の糖(特に、トレハロース)及び/又は1以上のアミノ酸(特に、グリシン)もまた存在する。
【0097】
あるいは、他の好ましい実施形態では、1つ以上の脂質は、1以上のリン脂質(DPPC及び/又はDOPEなど)であるか、又は1以上のリン脂質を含み、かつ1以上の補酵素(例えば、NAD);1以上のフラバノール(例えば、ケルセチン)、及び/又は1以上のアミノ酸(例えば、チロシン)と製剤化される。任意選択的に(optionally)、1以上の糖(特に、トレハロース)及び/又は1以上のアミノ酸(特に、グリシン)もまた存在する。
【0098】
医薬組成物の有効性の増強
いくつかの態様では、本発明は、加水分解性ドープ(例えば、ホウ素ドープ)シリコンを含む粒子が、原薬を含む医薬組成物の有効性を増強するのに有効であり得るという認識に関する。
【0099】
したがって、本発明は、第7の態様において、原薬を含む医薬組成物の有効性を増強するための、加水分解性ドープシリコン、任意選択的に(optionally)加水分解性ホウ素ドープシリコンを含む粒子の使用と、同様に、加水分解性ドープシリコンを含む粒子を医薬組成物に組み込むことによって、原薬を含む医薬組成物の有効性を増強する方法と、を提供する。医薬組成物の有効性有効性は、加水分解性ドープシリコンを含む粒子が組織又は細胞標的化能を増強するので、粒子によって原薬の室温(又は4℃)での安定性を高めることによって増強され得、及び/又は粒子によって標的細胞若しくは組織による原薬の取り込みを増強することによって、増強され得る。医薬組成物の有効性はまた、又は代替的に、粒子によって原薬の細胞内安定性を高めることによって、及び/又は粒子によって原薬を分解、例えば酵素的分解から保護することによって、増強されてもよい。医薬組成物は、任意選択的に(optionally)、本発明の全ての態様を参照して本明細書で定義されるとおりである。このようにして、任意選択的に(optionally)、妥当なトランスフェクション能力(例えば、良好な組織標的化能若しくは良好な細胞標的化能)及び/又は良好な貯蔵安定性を依然として維持しながら、加水分解性ドープシリコンを含まないトランスフェクション組成物などの従来のトランスフェクション組成物と比較して、より低量のカチオン性脂質、例えばDOTMA又はDOTAPを使用する能力が提供され得る。
【0100】
更なる構成成分及び特徴
本発明の全ての態様の好ましい実施形態によれば、活性医薬剤は、核酸であり、追加的なトランスフェクション試薬を含む1以上の更なる構成成分が追加的に存在し得る。
【0101】
その最も広い意味で、「トランスフェクション試薬」とは、ネイキッド核酸又は精製された核酸の真核生物細胞への導入を促進する薬剤である。例えば、いくつかのトランスフェクション試薬は、真核生物細胞へのmRNAの誘導を促進する薬剤である。
【0102】
本発明の全ての態様の他の実施形態(例えば、本発明のホウ素ドープシリコンナノ粒子が、アルギニン、ヒスチジン、及びグリシンのうち1以上、及び/又はPC、水素化PC、SA、DOTAP、DOPE、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体のうち1以上と製剤化される場合)によれば、トランスフェクション試薬は、リポフェクション(リポソームトランスフェクション)によれば、トランスフェクション試薬は、リポフェクション(リポソームトランスフェクション)試薬、デンドリマー、塩化カルシウム溶液と合わせたホスフェート(phosphate)イオンを含有するHEPES緩衝生理食塩水(HeBS)、又はジエチルアミノエチル-デキストラン(DEAEデキストラン)若しくはポリエチレンイミン(PEI)などのカチオン性ポリマーであり得る。
【0103】
好ましい実施形態(例えば、本発明のホウ素ドープシリコン粒子が、アルギニン、ヒスチジン、及びグリシンのうち1以上、及び/又はPC、水素化PC、SA、DOTAP、DOPE、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体のうち1以上と製剤化される場合)によれば、トランスフェクション試薬は、リポフェクタミンなどのリポフェクション試薬である。
【0104】
本発明の全ての態様の好ましい実施形態による核酸、例えば本発明の様々な態様で使用するためのRNA(siRNA、saRNA、shRNA、又はmRNAなど)は、様々な形態で提供され得る。例えば、いくつかの実施形態(例えば、本発明の粒子が、アルギニン、ヒスチジン、及びグリシンのうち1以上、及び/又はPC、水素化PC、SA、DOPE、DOTAP、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体のうち1以上と製剤化される場合)では、RNAなどの核酸は、溶液中で(単独で、又は様々な他の核酸と組み合わせてのいずれかで)、例えば緩衝液中で提供される。いくつかの実施形態(例えば、本発明のホウ素ドープシリコンナノ粒子が、アルギニン、ヒスチジン、及びグリシンのうち1以上、及び/又はPC、水素化PC、SA、DOTAP、DOPE、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体のうち1以上と製剤化される場合)では、RNAなどの核酸は、単独で、又は他の単離された核酸と組み合わせてのいずれかで、塩として提供される。いくつかの実施形態(例えば、本発明のホウ素ドープシリコンナノ粒子が、アルギニン、ヒスチジン、及びグリシンのうち1以上、及び/又はPC、水素化PC、SA、DOTAP、DOPE、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体のうち1以上と製剤化される場合)では、RNAなどの核酸は、再構成され得る凍結乾燥形態で提供される。例えば、いくつかの実施形態では、RNAなどの核酸は、凍結乾燥ペレット単独で、又は他の単離された核酸と共に凍結乾燥ペレットで提供され得る。いくつかの実施形態(例えば、本発明の粒子が、アルギニン、ヒスチジン、及びグリシンのうち1以上、及び/又はPC、水素化PC、SA、DOTAP、DOPE、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体のうち1以上と製剤化される場合)では、RNAなどの核酸は、例えば、ビーズ、膜などの固体物質に付着して提供される。いくつかの実施形態(例えば、本発明の粒子が、アルギニン、ヒスチジン、及びグリシンのうち1以上、及び/又はPC、水素化PC、SA、DOPE、DOTAP、DC-コレステロール、及びそれらの誘導体のうち1以上と製剤化される場合)では、RNAなどの核酸は、宿主細胞、例えばプラスミドを保有する細胞株の宿主細胞、又は安定に組み込まれた配列を保有する細胞株の宿主細胞に提供される。
【0105】
本発明の医薬組成物は、保存剤、凍結保護剤、及びアジュバントを含むが、これらに限定されない賦形剤を更に含み得る。
【0106】
siRNAを含有する本発明の医薬組成物には、生物システム外で化学合成により合成的に製造されたsiRNAが任意選択的に(optionally)含まれ得る。このようなsiRNAは、核酸分解酵素を含まずに製造され得る。
【0107】
しかしながら、(例えば、ワクチン製剤に使用するための)mRNAなどのより長い核酸を製造する好ましい方法は、生物システムの使用に関与する。mRNAは、典型的には、分解酵素(例えば、リボ核酸ヌクレチダーゼ(RNase))の量を低下させるために、その生物システムから精製される。全ての分解酵素を完全に排除することは困難な場合がある。これは、通常、酵素活性を最小限に抑えるために低温での貯蔵を必要とする。更に、体内への移行及び/又はエンドソーム区画からの脱出の間、核酸は、典型的には分解酵素との接触を含む生理学的条件及び細胞内条件へと曝露される。
【0108】
しかしながら、核酸(mRNAなど)を、その様々な態様において、本発明による加水分解性ホウ素ドープシリコン及びオーム又はそれを超える(ome or more)脂質(及び、任意選択的に(optionally)非還元性二糖)を含む粒子で製剤化することにより、製剤中のmRNAの貯蔵寿命を延ばすことができ、これは、低温貯蔵の必要性を無効にするか、軽減するか、若しくは減少させる可能性があること;及び/又は、体内への移行最中及び/又はエンドソーム区画からの脱出最中にmRNAを安定化することが見出された。
【0109】
したがって、本発明の方法は、核酸(例えば、mRNA)である原薬を、核酸調製物中に存在する酵素に起因する分解から保護する方法を含む。本発明の態様の生成物はまた、核酸が、核酸含有組成物中に存在する酵素に起因する分解から保護されるようなものであり得る。
【0110】
好ましくは、室温(20℃)での酵素的分解は、加水分解性ドープ(例えば、ホウ素ドープ)シリコン含有材料の粒子を含まない同等の組成物と比較して、少なくとも半分、より好ましくは一倍、又は少なくとも5倍、10倍、35倍、50倍、100倍、500倍、若しくは1000倍低減される。好ましくは、組成物中の核酸(mRNAなど)は、4℃にて、少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月、又は少なくとも12ヶ月の半減期を有する。
【0111】
本発明の第1の態様及び他の態様による医薬組成物のある特定の実施形態は、生物源からの活性医薬剤としての核酸(mRNAなど)、及びその生物源に由来する低い量だが測定可能な量の分解酵素を含有する。例えば、pH7.4及び温度25℃にて、核酸基質上で少なくとも1μmol分-1の活性を有する1以上の酵素を含む、1以上の分解酵素が存在し得る。
【0112】
提案された作用機構
理論に束縛されることを望むものではないが、「シリカ化(ensilication)」のプロセスは、ホウ素ドープシリコンがmRNAの貯蔵寿命を延長させることができる理由の説明の一部であり得ることが提案される。
【0113】
シリカ化とは、mRNAの周りに保護的かつ耐性のシリカ「ケージ」を形成することからなり、このシリカケージは、ドープシリコン粒子の部分加水分解の生成物である。シリカ化は、凍結又は冷蔵を必要とせずに、温度によって引き起こされる構造及び機能の損失に対する保護を付与し得る。シリカ化プロセスでは、負帯電したシラノール基は、薬学的に活性な薬剤との、又は組成物中の脂質とのいずれかとの直接的な非共有結合相互作用に関与することができる。
【0114】
得られた組合せは、核酸又は他の薬剤の熱変性を物理的に防止することができる。
【0115】
シリカ化プロセスの更なる特定の改善を得るために、シリカ材料のいくつかの特性は、保護される化合物に合わせて調整され得る。特に、ホウ素ドープシリコンの使用は、核酸と静電相互作用を形成することができる永久カチオン性部位の作製を可能にし、したがって核酸を分解から保護することを可能にする。
【0116】
ホウ素とシリコンクラスタとの相互作用は、シリカケージ形成を担う。3つのホウ素原子は、シリコン原子の数が増加するにつれて、Siケージにカプセル化されたB三角形を形成する傾向がある。
【0117】
シリコンマトリックス内にホウ素をドーピングすると、結晶構造内に正電荷が生じ、シリコン自体の結晶構造内の核酸の結合が可能になる。これは、脂質の分解又は「エイジング」によって引き起こされる現在の問題を軽減し、したがって、核酸複合体化デリバリーシステムの寿命を延ばす。
【0118】
ドープされた加水分解性シリコンを含む粒子の調製
【0119】
本発明の粒子は、当技術分野で従来の技術によって、例えば製粉プロセスによって、又は粒径を小さくするための他の既知の技術によって、都合よく調製され得る。ドープシリコン含有粒子は、ケイ酸ナトリウム粒子、シリカのマグネシウム還元、コロイダルシリカ、又はシリコンウェハ材料から作製され得る。マクロスケール又はマイクロスケールの粒子は、ボールミル、遊星ボールミル、又は他のサイズ削減機序で粉砕され得る。得られた粒子をふるい分け又は空気分級して粒子を回収してもよい。粒子の生成のためにプラズマ法及びレーザアブレーションを使用することもまた可能である。
【0120】
多孔質粒子は、本明細書に記載の方法を含む、当技術分野にて従来の方法によって調製され得る。
【0121】
本発明に従って使用するためのホウ素ドープシリコンの例示的な仕様は、以下のとおりである:
片面研磨ウェハ、CZ
直径:150±0.2mm
配向:(100)±1°
種類:p/ホウ素
抵抗率:0.014±25%Ohm cm。5×1018原子/cmに近い。
一次フラット:57.50±2.5mm
一次フラット1位置:D<100>~{110}
厚さ:675±15μm
梱包:Ultrapak Shipping Casette
TTV:≦18μm
TIR:≦5μm
【0122】
このようなホウ素ドープシリコンは、例えば、Nanografi,Jena,Germany or Si-Mat,Germanyから市販されている。
【0123】
以下の非限定的な例を参照して、本発明の様々な態様及び実施形態を説明する。実施例が非ドープシリコンを使用する場合、それらは本発明のいくつかの態様の範囲外であり得るが、比較例として含まれる。
【実施例
【0124】
<実施例1:ホウ素ドープシリコン粒子の調製>
片面研磨ホウ素ドープシリコンウェハは、Si-Mat,Germanyから購入した。全ての浄化試薬及びエッチング試薬は、クリーンルームグレードであった。エッチングされたシリコンウェハは、純エタノールと10%HF酸水溶液との1:1(v/v)混合物中において、Siを、2~10分間にわたり80mA/cmのアノード電流密度でアノードエッチングすることによって調製した。エッチング後、試料を、純エタノールですすぎ、使用前に乾燥高純度窒素の流れの下で乾燥させた。エッチングはまた、最大1:3溶媒~50%HFの混合物中で行われ得る。典型的な溶媒はエタノール及びイソプロピルアルコールであるが、DMSO又はシクロペンタノンのような他のアプリオティック(apriotic)溶媒もまた、所望の粒子形態を達成するために使用され得る。
【0125】
エッチングされたシリコンウェハを、製粉ボール、及び/又は、乳棒及び乳鉢を用いて破砕した。微粉末を、38μmゲージであるRetsch(商標)ふるいシェーカAS 200を用いてふるい分けした。ふるいの開口サイズによって、均一な粒径選択(20~100μm)が達成された。粒径は、Malvern Instruments製のquantachromeシステム及びPCSによって測定した。更なる使用まで、試料を密閉容器内に保った。
【0126】
ナノシリコン粉末はまた、Sigma及びHefei Kaier,Chinaからも得た。ロード及びエッチングに供する前に、粒径をPCSによって測定し、粒子のサイズを記録した(20~100nmの範囲にわたったサイズ)。
【0127】
直径100nmの多孔質シリコンナノ粒子500mgを、エタノール250mLと混合し、マグネットバーを用いて30分間にわたりかき混ぜた。次いで、溶液を3000rpmで30分間にわたり遠心分離した。上清を廃棄し、ナノ粒子を5mLの蒸留水で洗浄し、丸底フラスコへと移した。フラスコの内容物を凍結させた(-25℃で2時間)。凍結したナノ粒子を、凍結乾燥機を用いて一晩凍結乾燥した。得られた乾燥粉末は、シリコンナノ粒子を活性化する。
【0128】
<実施例2:ホウ素ドープシリコン粒子の調製>
ホウ素ドープシリコンのウェハは、以下の仕様で調製されたBSシリコンから得られた:
片面研磨ウェハ、CZ
直径:150±0.2mm
配向:(100)±1°
種類:p/ホウ素
抵抗率:0.014±25%Ohmcm。5×1018ホウ素原子/cmに近い。
一次フラット:57.50±2.5mm
一次フラット1位置:D<100>~{110}
厚さ:675±15μm
梱包:Ultrapak Shipping Casette
TTV:≦18μm
TIR:≦5μm
【0129】
アンドープシリコンは、American Elements(Manchester,UK)から入手した。
【0130】
シリコンウェハを(実施例1のように)電気的にエッチングして、少なくとも40%の多孔度を達成し、次いで、製粉ボール、及び/又は、乳棒及び乳鉢を用いて破砕した。微粉末を、38μmゲージであるRetsch(商標)ふるいシェーカAS 200を用いてふるい分けした。20μm~100μmの大きさが均一な粒子)をふるいによって選択した。
【0131】
次いで、粉末を、メタノール(5mL中50mg)で処理することによって活性化し、ドラフトの下に残し、次いでゆっくりと蒸発プロセスをさせた。得られた粉末を、非還元性二糖(トレハロース)及びアミノ酸(グリシン)の存在下において、1mg/mLの濃度でヌクレアーゼフリー水中に分散させた。
【0132】
DOTAP溶液:DOTAPを、5mg/mLの濃度でメタノールに可溶化した。特に、50mgのDOTAPを、10mLのメタノールに可溶化し、完全に可溶化するまで超音波処理した。
【0133】
DOPE溶液:DOPEを、5mg/mLの濃度でメタノールに可溶化した。特に、60mgのDOPEを、12mLのメタノールに可溶化し、完全に可溶化するまで超音波処理した。
【0134】
mPEG2000-DSPE溶液:mPEG2000-DSPEを、メタノールに5mg/mLの濃度で可溶化した。特に、40mgのmPEG2000-DSPEを、8mLのメタノールに可溶化し、完全に可溶化するまで超音波処理した。
【0135】
トレハロースはSigma Aldrichによって提供されるように使用した。
【0136】
グリシンはSigma Aldrichによって提供されるように使用した。
【0137】
活性化シリコン粒子を、ヌクレアーゼフリー水中でグリシン及びトレハロースと共に懸濁した。特に、50mgの活性化シリコン粒子、50mgのトレハロース、及び25mgのグリシンを、50mLのヌクレアーゼフリー水中に懸濁し、60分間超音波処理した。
【0138】
次いで、ClCn7G213Rに特異的なsiRNA(詳細については、Capulli et al.,2015,Clin.Molec.Therap.4,e248を参照されたい)を、トランスフェクションビヒクルにロードした。
【0139】
インビボ研究-遺伝子療法のための製剤において実施例2で調製した、ホウ素ドープ及びアンドープシリコン粒子を用いたヘッド・トゥー・ヘッド(head to head)トランスフェクション比較。
【0140】
ClCn7G213Rに特異的なsiRNAを、細胞に首尾よくトランスフェクトした場合、そのsiRNAで処置することができるADO2突然変異マウスを用いて、2型大理石骨病をモデル化する。したがって、このモデルを使用して、トランスフェクション有効性を評価することができる。
【0141】
本発明によるホウ素ドープ粒子又は対照の非ドープ粒子、DOTAP、DOPE、mPEG2000-DSPE、グリシン、トレハロース、及びヌクレアーゼフリー水を用いて、トランスフェクションビヒクルを調製した。ビヒクルを、空で投与するか、又はClCn7G213Rに特異的なsiRNA共にか、のいずれかで投与した。
【0142】
試料を以下のようにコードした:
ADO2+SIS0012-空-アンドープSi含有ビヒクル
ADO2+SIS0012-siRNA-ClCn7G213Rに特異的なsiRNAを有する、アンドープSi含有ビヒクル
ADO2+SIS0013-空-ホウ素ドープSi含有ビヒクル
ADO2+SIS0013-siRNA-ClCn7G213Rに特異的なsiRNAを有する、ホウ素ドープSi含有ビヒクル
【0143】
10日齢のADO2マウスに、これら3つの構築物のうち1つを、2週間にわたって週に3回、腹腔内注射した(1群当たりn=5匹のマウス)。
【0144】
結果
マウスPMBCにおけるClCn7G213R発現を、各処置群についてアッセイし、結果を図3に提示する。図4は、ClCn7G213Rの骨発現を示し、図5は、CTX-血液試験結果を示す(CTXは、骨代謝回転のマーカである)。
【0145】
ADO2SIS0012-siRNA複合体は、標的器官(大腿骨、p<0.05)においてその関連する対照群(ADO2SIS0012空、SiRNA投与なし)と比較した場合、関連遺伝子(ClCn7G213R)の発現を有意に下方制御することができた。くわえて、末梢血単球細胞(PBMC、ADO2SIS0012-siRNA複合体をADO2SIS0012空、SiRNAなしと比較した場合、p<0.005)における同じ遺伝子の有意な下方制御が観察された。分析された期間及び提案された投与レジメン(2週間の処置のみ)では、骨吸収もまたわずかに上昇し、より長い期間にわたってその変化はより実質的であるものと予想される。
【0146】
標的器官ADO2SIS0013でのADO2SIS0012-siRNA複合体(アンドープ多孔質シリコン粒子で作製)の性能を、ADO2SIS0013-siRNA複合体(ホウ素ドープシリコン粒子で作製された)と比較した場合、両方の組成物はかなりの効果を提供した(図4、p<0.02)。ホウ素ドープシリコンの使用は、非ドープ多孔質シリコン(図5、CTX評価)の性能と比較した場合、より速い骨代謝回転をもたらした。したがって、ホウ素によりドープされたシリコンを用いることによって提供される優れた貯蔵特性は、siRNA製剤のトランスフェクション有効性又は治療効果を損なうものではないと言えよう。
【0147】
<実施例3:生物学的pDNA含有製剤の調製>
製剤1型(「Biocourier」製剤と称する)を、表2の成分に従ってシリコン(多孔質、活性化、平均粒径<100nm、実施例2のようにドープ及びアンドープ)を用いて調製した。
【0148】
表2:Biocourier1型の組成
【表1】

【0149】
脂質フィルム調製
上記の表2に列挙した脂質を、清浄なガラス丸底フラスコに移し、溶媒中で混合し、これを40℃及び真空下における水浴中でロータリエバポレータを用いて蒸発させた。
【0150】
脂質フィルムの再水和
溶液中のシリコン粒子、グリシン、及びトレハロースを、脂質フィルムに添加し、必要に応じて、ヌクレアーゼフリー水を用いて最終体積を10mLに調整した。フラスコをパラフィルムで覆い、水浴(60℃)中で5分間にわたり撹拌した。1mLのアリコートを、冷蔵庫内のRNA非含有エッペンチューブに貯蔵した。使用前に、懸濁液は、0.4μm及び0.1μmの孔径の膜フィルタを、60℃で、0.4μmを10回通過させ、次いで0.1μmを10回通過させた。
【0151】
pDNAをビヒクルにロードする
6768bpサイズの凍結pDNA試料を-40℃から室温まで解凍した。
【0152】
ビヒクル及びpDNAを滅菌エッペンチューブ中に一緒に入れ、15秒間にわたり穏やかにボルテックスし、次いで室温で30分間にわたり放置し、次いで使用するまで冷蔵庫に貯蔵した。
【0153】
<実施例4:pDNAを用いた貯蔵安定性研究>
目的
ドープシリコン及びアンドープシリコンの両方を用いて、アガロースゲル電気泳動によって、実施例2に記載されるように生成された異なる製剤の貯蔵安定性を評価すること。
【0154】
使用した製剤
「Biocourier SIS0012」-pDNAがロードされるアンドープシリコン粒子を含有する形成
【0155】
「Biocourier SIS0013」-pDNAがロードされるホウ素ドープシリコン粒子を含有する形成
【0156】
「Biocourier MV10010」-Biocourier SIS0012と同じであるが、しかし委託製造業者によって作製された異なるバッチからのもの。
【0157】
方法
A.pDNA-Biocourier複合体の調製
pDNA溶液(2mg/mL)を、7.2の脂質/DNA比を有するBiocourierと混合することによって、pDNA-Biocourier製剤を調製した。混合物中のDNAの最終濃度は0.275mg/mLであった。混合物を、室温で30分間にわたりインキュベートして完全な複合体化を可能にし、次いで、室温又は4℃のいずれかで貯蔵した。試料を、各測定時点について20μLアリコートで調製し、貯蔵及び分析の際の相互汚染のリスクを最小限に抑えるために別々に貯蔵した。
【0158】
B.アガロースゲル電気泳動
pDNA-Biocourier複合体を、指定された時点(0時間、6時間、24時間、48時間、72時間、及び8日間)で、アガロースゲル電気泳動によって分析した。同様の条件で貯蔵したネイキッドpDNAを全ての場合において対照として使用した。試料を、E-Gel(商標)Power Snap電気泳動デバイス内のE-Gel(商標)アガロースゲル(1%)にロードした。各試料の量、及び異なる時点でゲル上にロードされたpDNAの総含有量を、以下の表に提示する。各時点でゲル上にロードされたネイキッドpDNAの総量もまた、pDNA-Biocourier複合体と同じであった。ゲルを、透過照射(transilluminated)し、E-Gel(商標)Power Snap電気泳動カメラを用いて3分及び7分で画像化した。
【0159】
異なる測定時点における、アガロースゲルにロードされたpDNA-Biocourier複合体の量、及びウェル当たりのpDNAの総量を示す表。
【表2】

【0160】
結果
試験1.室温でのpDNA-Biocourier複合体の安定性。
調製直後及び室温で8日間にわたり貯蔵した後のpDNA-Biocourier製剤のアガロースゲル電気泳動画像を、図6図8に提示する。それらの液体形態である全3つのBiocourier製剤は、ゲルウェル内にpDNAを完全に保持し、完全な複合体化を示した。しかしながら、凍結乾燥形態では、少量のpDNAがゲルを通過し、いくらかの非結合DNAの存在を示した。MVI0010と比較して、SIS0012及びSIS0013のバンドの強度が高いことは、非結合DNAの量が多いことを示す。それにもかかわらず、Biocourier製剤のバンドの強度を、Biocourierにロードされたものと同じ総量のDNAを含有するネイキッドpDNAからのバンドと比較すると、Biocourier上にロードされた全DNAのごくわずかな割合が非結合であることが示され、これは、高い結合有効性を実証する。室温で6時間貯蔵した後、凍結乾燥製剤からゲル中へと放出された非結合pDNAの量は、少なく、室温でのpDNAの分解に起因する可能性があった。凍結乾燥製剤を含むゲルを通じた非結合pDNAの移動を24時間まで続けた。しかしながら、48時間以降、pDNAについて有意なシグナルは観察されず、これは、ゲルを通るDNA移動の欠如を示した。これらのデータから、凍結乾燥製剤は、ロードされたpDNAと完全には複合体化しないが、Biocourierにロードされた多量のDNAと比較して、ゲルを通過する無視可能な量のDNAによって実証されるように、それらの結合有効性は依然として非常に高かったものと推測され得る。また、pDNA-Biocourier複合体は、解離を示していたであろう時間中にはpDNAがゲル中へともはや放出されなかったので、室温で8日間にわたり安定であった。
【0161】
試験2.4℃でのpDNA-Biocourier複合体の安定性。
調製直後及び4℃で8日間にわたり貯蔵した後のpDNA-Biocourier製剤のアガロースゲル電気泳動画像を、図9図11に提示する。観察されたように、4℃での貯蔵の6時間後、少量のpDNAのみが、SIS0012及びSIS0013の凍結乾燥形態を有するゲルを通過した。しかしながら、ゲルを通過する非結合pDNAの量は、BiocourierにロードされたpDNAの総量と比較して低く、高い結合有効性を示した。製剤の液体形態、及びMVI0010の凍結乾燥形態はまた、ゲル中へとpDNAを一切放出せず、ロードされたpDNAの完全な複合体化を示した。SIS0012及びSIS0013の凍結乾燥形態のゲルを通過するpDNAの量は、24時間後に減少し、これは、pDNAのある程度の微量の分解を示した。48時間以降、凍結乾燥したSIS0012ではpDNAは一切観察されなかったが、一方で凍結乾燥したSIS0013では、ゲルを通過するいくらかの微量のpDNAが依然として存在し、これは8日間まで続いた。これは、実験の開始時から存在していたのと同じ非結合pDNAであってもよいか、又は複合体から解離した新規pDNAであってもよいかのいずれかである。しかしながら、DNAの量が非常に少ないことに起因して、pDNAの大部分が複合体と会合したままであることに留意する以外に、その供給源について確実にコメントすることは困難である。全ての製剤の液体形態は、この貯蔵条件において完全な結合及び安定性を示す、8日間までウェルに全てのロードされたpDNAを保持することができた。
【0162】
結論
全てのBiocourier製剤の液体形態は、pDNAと完全に複合体を形成し、室温及び4℃の両方で最大8日間にわたり安定であった。しかしながら、凍結乾燥製剤は、高い結合有効性を有するにもかかわらず、これらの試料では、全てのロードされたpDNA及び少量の過剰/非結合pDNAと完全に複合体化することができなかったことが見出された。液体対応物と比較して凍結乾燥製剤の結合有効性は低いにもかかわらず、それらは、室温及び4℃の両方で最大8日間にわたり安定であった。
【0163】
<実施例4:DNA又はRNAを用いた貯蔵安定性研究>
目的
アガロースゲル電気泳動を用いて評価するための、異なる温度で貯蔵したDNA又はsiRNAをロードしたBiocourier製剤の安定性。
【0164】
使用した製剤
以下の製剤(上に詳述したように調製)に、上記のようにDNA、mRNA、又はsiRNAをロードした。
「Biocourier SIS0012」-アンドープシリコン粒子を含有する形成
「Biocourier SIS0013」-ホウ素ドープシリコン粒子を含有する形成
【0165】
方法
A.核酸-Biocourier複合体の調製
以下の表に従って、mRNA/siRNA/DNA粉末をヌクレアーゼフリー水中に溶解することによって、核酸原液を調製した:
【0166】
【表3】

【0167】
次いで、原液を、ヌクレアーゼフリー水を用いて希釈して、以下の表に従って必要な濃度まで到達させた:
【0168】
【表4】

【0169】
Biocourier原液をまた、ヌクレアーゼフリー水で希釈して、複合体化アッセイに必要な濃度を得た。以下の表に列挙した核酸作業溶液及びBiocourier作業溶液の必要量を混合することによって、核酸-Biocourier複合体を作製し、次いで、室温で40分間にわたりインキュベートして、完全な複合体化を確実にした:
【表5】

【0170】
次いで、調製した核酸-Biocourier複合体を、ゲル電気泳動による分析へ供した。
【0171】
B.アガロースゲル電気泳動
これらの実験に使用されるゲル電気泳動システムは、ゲル電気泳動デバイス、プレキャスト・アガロース・ゲル(ゲル内に埋め込まれた電気泳動緩衝液及び電極を有する)、及びカメラからなる。試料、対照(ネイキッドDNA又はRNA)、及びDNAラダーを、必要量の添加液と混合して、上の表に従って総体積を20μLにしてからゲルにロードした。続いて、ゲル(1%)をデバイスチャンバへと挿入し、試料、対照、及びDNAラダーをロードし、7~8分間にわたり実行した。ゲルを透過照射し、カメラを用いて3分及び7分で画像化した(カメラは、カメラ及びデバイスで利用可能なドッキングポートを通してデバイスにマウントした)。DNA-SIS0012、siRNA-SIS0012、及びsiRNA-SIS0013を、異なる貯蔵条件(室温(20℃)、4℃、及び-20℃)において貯蔵した後、指定された時点(上記の表に示す)で同じ手順を繰り返した。
【0172】
結果
図12は、異なる濃度のRNA、異なる濃度のSIS0012製剤、及び異なる体積比で、SIS0012上へロードしたパン酵母からのRNAのゲル遅延度アッセイからの結果を示す。製造業者によってこの種類のゲルに推奨された100ng/ウェルのRNAはRNAの非常に弱い発光をもたらしたが、一方でRNAの量を200ng/ウェルに増加させた場合、より強いシグナルが得られたことが観察された。したがって、核酸の量は、将来の全ての実験について200ng/ウェルに固定した。SIS0012製剤を、原液からの異なる希釈度及び異なる混合比(v/v)でRNAと混合して、SIS0012溶液の最小濃度と、RNAと複合体を形成し、ゲルを通るその移動を阻害することができる最低混合比とを見出した。2.5の混合比でのSIS0012原液からの10倍希釈は、対照として使用したネイキッドRNAと比較して発光の強度(バンドの輝度)が低下したため、ゲルを通るRNAの移動を部分的にブロックし、かつ5倍希釈したSIS0012溶液を2.5又は4の比でRNAと混合した場合、RNA移動の完全なブロックが得られることが観察された。より低い濃度のSIS0012製剤又はより低い混合比は、RNAに効率的に結合することができず、かつゲルを通るその移動を阻害することができなかった。これらの知見に基づいて、5倍希釈SIS0012溶液及び2.5(V/V)の混合比を、将来の実験のために選択した。これらの実験に使用されたRNAは、複合体化アッセイの概念実証を提供することができたが、RNAについて観察されたバンドが鋭くなく、かつDNAラダーほど強くないので、試料の純度は低いようであった。更に、RNA断片のサイズは、非常に小さい(100bpであるDNAラダーの最小断片よりも小さい)ことが判明し、全長mRNAではなくオリゴマーの存在を示した。
【0173】
SIS0012 Biocourier上にロードしたニシン精子からのDNAの複合体化有効性及び安定性を評価する試験
【0174】
図13は、複合体化直後及び5時間までの、以前の試験に基づく選択された濃度及び混合比でSIS0012製剤上にロードしたニシン精子からの、DNAのアガロースゲル遅延度アッセイからの画像を示す。DNA-SIS0012複合体を、3つの異なる条件:室温、4℃、及び-20℃で貯蔵した。担体が、DNAを効率的に捕捉し、かつゲルを通るその移動を阻害したことを観察することができた(図13A)。DNAからのシグナルはゲルのいずれにおいても観察されず、これは、最初の5時間以内に3つの製剤(異なる温度で貯蔵)のいずれによってもDNAが放出されなかったことを示す。したがって、実験を更に継続して、DNA-SIS0012複合体の安定性をより長期間にわたって研究した。DNA対照(ネイキッドDNA)が、特定のサイズの分解バンドを与えず、むしろ異なるサイズのDNA断片の混合物を示したことは注目に値する。それにもかかわらず、これらの実験は、DNAと担体との複合体形成及び対応する複合体の安定性を評価することを単に目的としていたので、これらの実験の目的のために、DNA断片の完全な分離を得る、又は複合体形成実験にDNAを用いる前に超音波処理によってDNAを更に処理することによって達成することができた特定のサイズの単一バンドを得る必要はない。
【0175】
図14は、異なる温度で最大72時間にわたり貯蔵したDNA-SIS0012複合体のゲル遅延度アッセイの結果を示す。3つの試料のいずれからもDNA放出の証拠は存在しなかった。したがって、これらの観察から、DNA-SIS0012複合体は、3つの異なる貯蔵条件全てで72時間にわたり安定であったものと推測することができた。
【0176】
Biocourier-SIS0012上にロードしたADO-siRNAの複合体化有効性及び安定性を評価する試験
DNA-SIS0012実験からの有望な結果に従って、同じ方法(同じ濃度及び混合比)によって生成され、かつ同じ条件(室温、4℃及び-20℃)で貯蔵されたADO-siRNA-SIS0012複合体の安定性を試験した。結果を図15及び図16に提示する。これらの図から明らかなように、SIS0012製剤は、最大120時間までの3つ全ての貯蔵条件におけるsiRNA-SIS0012複合体の安定性を示す貯蔵条件にかかわらず、全ての測定時点において、siRNAを効率的に捕捉し、ゲルを通るその移動をブロックすることができた。
【0177】
シリコンナノ粒子を有しないBiocourier-SIS0012上にロードしたADO-siRNAの複合体化有効性及び安定性を評価する試験
図17及び図18は、シリコンナノ粒子を有しないSIS0012製剤上にロードしたADO siRNAのゲル遅延度アッセイ結果を示す。Biocourierは、siRNAと複合体を形成し、かつゲルを通るその移動をブロックすることができた。室温で貯蔵した試料も4℃で貯蔵した試料も、siRNAのバンドが観察されなかったため、6時間までの測定時点のいずれにおいても、会合したsiRNAのいかなる量も放出しなかった。しかしながら、24時間後、ゲル中にいくらかの微量のsiRNAが検出され、これは、120時間で増強された非常に弱いシグナル(少量のsiRNAを示す)を生じた。それにもかかわらず、72時間及び120時間の試料は、ゲル添加液なしで実行し、かつ任意のゲル上にロードする前に水で希釈しただけであったことに留意されたい。したがって、観察されるシグナルの強度は、ゲル添加液を用いて試料を希釈した場合、観察されるシグナルよりも小さいであろう。注目すべき別の観察は、siRNAの分解を示す対照siRNAの2つのバンドの存在である。これらの実験で対照として使用したsiRNA溶液(66μg/mL)を、-20℃で貯蔵し、各回の実験を開始する前に解凍した。したがって、siRNAの分解は、短期間の凍結解凍サイクルを繰り返した結果である可能性が高いものと考えられる。
【0178】
Biocouriers-SIS0013上にロードしたADO-siRNAの複合体化有効性及び安定性を評価する試験
図19及び図20は、複合体化の直後及び室温での貯蔵の6時間後までに、SIS0013製剤にロードされたADO-siRNAに対して行われたゲル遅延度アッセイを示す。BiocouriersはsiRNAを捕捉することができ、かつ実験の開始時からゲル全体にわたっていくらかの微量のsiRNAを観察することができたが、シグナルは、120時間前に有意ではなかった。貯蔵後120時間で、シグナルはより強く、複合体からのsiRNAの放出の増加を示した。しかしながら、この時点でさえ、シグナルはネイキッドsiRNAからのシグナルと比較して著しく弱く、ゲルを通過するsiRNAの量が非常に少ないことを示した。また、72時間及び120時間の試料は、ゲル添加液なしで実行し、かつ任意のゲル上にロードする前に水で希釈しただけであったことに留意されたい。したがって、観察されるシグナルの強度は、ゲル添加液を用いて試料を希釈した場合、観察されるシグナルよりも小さいであろう。図16に示すものと同様に、ネイキッドsiRNAは、複数の凍結解凍サイクルに起因するsiRNAの分解を示す2つのバンドを呈した。
【0179】
室温での貯蔵とは異なり、4℃で貯蔵されたsiRNA-SIS0013複合体は、ゲルを通るsiRNA移動の欠如によって示されるように、最大120時間まで安定なままであった(図21)。
【0180】
結論
報告された実験パラメータを用いて開発されたゲル遅延度アッセイは、核酸とBiocourierとの複合体形成を検出するのに有効であり、かつ非常に少量(2~3μL/ウェル)及び低濃度(100ng/μL)の核酸を用いて形成された複合体の安定性を経時的に試験するのに有効である。これは、異なるタイプの核酸(DNA、mRNA、siRNA)に適用することができた。核酸及びBiocourierの最適な複合体化条件は、5倍希釈したBiocourier溶液と、DNA/mRNA(100μg/mL)又はsiRNA(66.5μg/mL)との混合比2.5V/Vであることが判明した。Biocourier製剤SIS0012は、会合したsiRNAを最大120時間まで保持することができたが、一方でシリコンナノ粒子を有しないSIS0012製剤は、24時間後及び120時間後にsiRNAの放出を開始し、ゲルを通して放出されたsiRNAの量は有意であった。SIS0013製剤は、開始点でも少量のsiRNAをゲルへと放出したことから、SIS0012と比較して捕捉効率が低く、かつ120時間後にゲルを通過するsiRNAの量が有意になったことが示唆された。しかしながら、SIS0013-siRNA複合体は4℃で最大120時間安定であり、シリコン粒子がホウ素ドープシリコンを含む場合、優れた貯蔵安定性を実証した。
【0181】
<実施例5:SIS0012(アンドープSi)対SIS0013(ホウ素ドープSi;5×1018ホウ素原子/cm)によるアルカリホスファターゼの安定化>
アルカリホスファターゼは、様々な形態で存在し、様々なタンパク質の分解を触媒し、かつ人体の全ての組織に見られ得る酵素である。アルカリホスファターゼは、主に骨、腎臓、肝臓、腸、及び胎盤に濃縮されている。アルカリホスファターゼは、とりわけ、細菌;消化機能;脂肪及びビタミンBの分解;並びに、骨形成に対する腸管の保護に寄与する。アルカリホスファターゼは、低pH及び高温で活性の喪失を呈する。
【0182】
アルカリホスファターゼ活性は、インビトロアッセイにおいて、その基質又は生成物の1以上の、UV-Vis吸光度がプロキシである濃度の変化を測定することによって監視され得る。例えば、その構造が以下に示される基質4-ニトロフェニルホスファターゼ(PNPP)の濃度を監視して、以下の反応を追跡してもよい。
【化2】

【0183】
材料、方法、及び結果
ウシの腸から単離され、酵母であるピキア・パストリス(Pichia Pastoris)で発現される56kDの組換え酵素として供給されるアルカリホスファターゼを、Sigma Aldrich/Merck(The Old Brickyard,New Rd,Gillingham,Dorset,SP8 4XT)から入手した。アルカリホスファターゼ(ALP)のストック水性原液を、1U/mLの濃度で調製した。1U(μmol/分)は、37℃及びpH7.4で毎分1マイクロモルのPNPPの変換を触媒するALPの量として定義される。
【0184】
4-ニトロフェニルホスファターゼ(PNPP)の20mM溶液を、pH7.4のトリス緩衝液(100mM/L)を用いて調製した。
【0185】
実施例2のプロトコルに従って、SIS0012(アンドープSi)及びSIS0013(ホウ素ドープSi;5×1018ホウ素原子/cm)試料を提供した。
【0186】
ALP溶液を以下の濃度で調製した:
【0187】
0.1、0.5、1、5、10、50、及び100mU/mL
【0188】
15mL試験管中の1U/mL原液由来。
【0189】
次いで、これらをエッペンチューブ内で、調製したPNPPトリス緩衝液の20mM溶液と混合した。
【0190】
チューブを37℃の水浴中で30分間にわたりインキュベートし、その後、UV-Vis吸光度測定を、図22に示すように405nmで行った。
【0191】
以下のようにして、SIS0012及びSIS0013にALPをロードした。
【0192】
8本のエッペンチューブを1.3セット準備した:
【0193】
A 各々50μLのALP(50mU/mL)及び500μLのSIS0012(アンドープSi)を含有する、8本のエッペンチューブを調製した。これらの構成成分をチューブに添加した後、これらを混合し、ボルテックスし、一晩冷蔵した。
【0194】
B 各々50μLのALP(50mU/mL)及び500μLのSIS0013(ホウ素ドープSi)を含有する、8本のエッペンチューブを調製した。これらの構成成分をチューブに添加した後、これらを混合し、ボルテックスし、一晩冷蔵した。
【0195】
C 各々50μLのALP(50mU/mL)及び500μLのトリス緩衝液を含有する、8本のエッペンチューブを調製した。これらの構成成分をチューブに添加した後、これらを混合し、ボルテックスし、一晩冷蔵した。
【0196】
2.これらの調製後、全てのエッペンチューブを、50℃の水浴に入れた。3組のチューブA~チューブCの各々における8本のチューブの各々を、1分、2分、5分、10分、20分、40分、又は60分後に水浴から取り出した。
【0197】
次いで、3.300μLのPNPPを、全てのセットA~セットCの全てのエッペンチューブに添加した。チューブを混合し、ボルテックスした。次いで、それらを37℃の水浴に30分間入れ、その間にPNPPの脱リン酸化が起こった。
【0198】
4.これに続いて、全てのセットA~セットCの全ての試料に対してUV-Vis分析を行った(405nm)。結果を図23に示す。
【0199】
考察
驚くべきことに、SIS0013(ホウ素ドープSi)にロードされたALPの活性は、SIS0012にロードされたALPの活性よりもおよそ20~30%高かった。これは、ドープされたSiによるALPの保護が改善した事に起因すると考えられる。
【0200】
遊離ALPは、SIS0012及びSIS0013の両方と比較して有意な分解を示した。遊離ALPの活性は、50℃でのインキュベーション時間の増加と共に減少した。一方で、SIS0012及びSIS0013にロードされたALPの活性は、インキュベーション時間にかかわらず比較的一定のままであった。遊離ALPは50℃で経時的に変性するものと考えられるが、一方でSIS0012及びSIS0013、特にSIS0013にロードされたALPは、変性から保護され、かつ安定したままである。
【0201】
<実施例6:mRNA又はsiRNAとの更なるシリコン含有製剤の複合体化>
SIS0012及びSIS0013で使用されるDOTAPなどのカチオン性脂質を置き換えるための代替物を調査した。
【0202】
そのような代替物の1つはリポペプチドである。これらは、ペプチド配列(概して、3~20個のアミノ酸残基)にコンジュゲートした脂質鎖(一般に、12~18個の炭素原子長)からなる両親媒性物質である。そのようなリポペプチドの特定の例は、パルミトイルペンタペプチド-4(PAL-KTTKSと略す)である。
【化3】


パルミトイルペンタペプチド-4
【0203】
PAL-KTTKSは、負帯電したRNAへの結合を助けるそのカチオン性リジン残基に起因して、カチオン性脂質の代替物の良好な候補であるものと考えられている。
【0204】
SIS0012及びSIS0013で調査された他の候補としては、NAD、チロシン(TYR)、及びケルセチン(QUE)が挙げられる。これらのリガンドにより、RNAの器官特異的取り込みが増強され得、細胞の内在化及び標的化が改善され得るものと考えられる。更に、これらのリガンドは、負帯電したRNAの結合のための正帯電した環境を提供するのを助けることができる。
【0205】
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(Nicotinamide adenine dinucleotide:NAD)は補酵素である。酸化形態NAD+では、以下の構造を有する。
【化4】

NAD+
【0206】
チロシンは、天然に存在するアミノ酸であり、生理学的pH(pH7.4)で以下の構造を有する。
【化5】


生理学的pHでのチロシン
【0207】
ケルセチンは、以下の構造を有するフラバノールである。
【化6】


ケルセチン
【0208】
NAD、TYR、及びQUE-SIS0012及びSIS0013におけるDOTAPの追加又は置換えの調査
【0209】
修飾SIS0012及び修飾SIS0013組成物は、上記した通常の組成物に0.2mgのNAD、TYR、及びQUEを添加することによって(すなわち、DOTAPに加えて)調製した。次いで、siRNAとの複合体化を評価した。図24は、siRNAがこれらの製剤中で首尾よく完全に結合したことを示す、ゲル電気泳動結果を示す。
【0210】
以下の表に示すように、Zetasizer(Malvern Instrumentsから入手可能)を用いて動的光散乱測定をまた行い、siRNA複合体の形成前後の両方で、サイズ及び電荷を評価した。表が示すように、サイズの増加が、表面電荷の10~15mVの低下と共に、siRNA複合体化後に観察された。
【0211】
【表6】

【0212】
次いで、(NAD、TYR、又はQUEをDOTAP含有組成物へと単に添加するのではなく)NAD、TYR、又はQUEによるDOTAPの置換えを調査した。
【0213】
この研究では、DPPC及びDOPEは、中性pHで表面電荷に有意な役割を果たさない双性イオン脂質であるので、DPPC及びDOPEを、NAD、TYR、又はQUEと共に使用するために選択した。
【0214】
したがって、DPPC/DOPE製剤を、(i)0.2mg及び(ii)1mgのNAD、TYR、及びQUEを用いて調製した。製剤を以下の表に示す。
【0215】
表:ベータニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)で官能化されたDPPC/DOPE LNP Biocourierの組成
【表7】

【0216】
表:ケルセチン(QUE)で官能化されたDPPC/DOPE LNP Biocourierの組成。
【表8】

【0217】
表:チロシン(TYR)で官能化されたDPPC/DOPE LNP Biocourier SIS0012の組成
【表9】

【0218】
以下の表に示すように、Zetasizer測定値が得られ、NAD、TYR、又はQUEの量に関係なく、全ての製剤にわたって負のゼータ電位が明らかになった。
【0219】
表:0.2mg及び1mgのNAD、TYR、及びQUEで官能化されたDPPC/DOPE LNP。
【表10】


【0220】
リポペプチド-SIS0012及びSIS0013におけるDOTAPの置換えの調査
ペプチド両親媒性物質(peptide amphiphile:PA)としてもまた知られているリポペプチドを、DOTAPの別の代替物として調べた。
【0221】
リポペプチドは、トランスフェクション組成物中におけるDOTAPなどのカチオン性脂質を置換又はその量を減少させるという問題に対する解決策を提供し得ると考えられる。リポペプチドは、ペプチド配列にコンジュゲートしたアルキル鎖からなる。それらのアルキル鎖は脂質二重層に同化され得るが、一方で二重層の表面はペプチド部分で装飾されているものと考えられる。
【0222】
例示的なPAは、分子パルミトイルペンタペプチド-4(PAL-KTTKSと略記、上記参照)である。2つのカチオン性リジン残基は、負帯電したRNAとの静電相互作用を呈するDOTAPなどのカチオン性脂質と同様の機能を果たし得る。
【0223】
中性脂質としてDPPC及びDOPEを選択し、PAL-KTTKSを製剤化した。様々な製剤を、異なるシリコンナノ粒子を用いて、又はシリコンを全く用いずに;及び、(pHの影響を調査するために)pH4緩衝液を用いて調製した。
【0224】
DPPC、DOPE、及びPAL-KTTKS含有製剤の完全な詳細を以下の表に提示する。
【0225】
表-シリコンナノ粒子、ホウ素ドープシリコン、及びホウ酸/シリコンナノ粒子を含む、DPPC、DOPE、及びPal-KTTKSの様々な製剤組成。シリコンナノ粒子を含まない製剤対応物もまた対照として製剤化した。全ての製剤を最大10mlの最終体積まで調製した。
【0226】
【表11】

【0227】
全8つの製剤は、正帯電した表面を有し、ゼータ電位(Malvern Instrumentsから入手可能なZetasizerで測定)を以下の表に提示した。
【0228】
これらの結果に基づいて、脂質フィルムの集合の最中に、PAL-KTTKSは、ペプチド部分がナノ粒子表面に曝露した状態で脂質二重層に自身を配置するものと考えられる。更に、その表面上のリジン残基は、正帯電した製剤へ寄与する。
【0229】
表:全8種のDPPC/DOPE/PAL-KTTKS製剤のゼータ電位測定。
【表12】

【0230】
全ての製剤を、siRNA及びmRNAへと静電的に結合するそれらの能力について評価した。
【0231】
ゲル電気泳動分析を行った。siRNAについては完全な複合体化は観察されなかった。しかしながら、mRNAについて完全な複合体化が観察された。図25はsiRNAのゲル電気泳動結果を示し、図26はmRNAのゲル電気泳動結果を示す。
【0232】
siRNAとDPPC/DOPE/PAL-KTTKSとの部分複合体化に対処するために、代替的なロード方法を採用した。図27は、代替ロード方法を使用した後の複合体のゲル電気泳動を示し、これは、siRNAの完全な複合体化の成功を示している。(図27のレーン3の明るい点は、画像化デバイスの人工産物である。)
【0233】
代替的なロード方法では、本明細書中上記のプロトコルと比較して、以下の工程が採用された:
【0234】
1.DPPC、DOPE、及びPal-KTTKSをメタノール中に溶解し、ロータリエバポレータを用いて蒸発させることによって、薄い脂質フィルムを調製した。
【0235】
2.脂質フィルムを、トレハロース及びグリシン、並びにsiRNA又はmRNAのいずれかを伴う、活性化シリコン(SIS0012)又は活性化ホウ素ドープシリコン(SIS0013)を含有する懸濁液で再水和した。丸底ロータリエバポレータフラスコの壁上に脂質-シリコンフィルムが残存しないことを確実にするために、レイドレーション(Reydration)を40℃で10分間行った。
【0236】
リポペプチドは非常に汎用性の高い分子であり、リポペプチドは、それらのアルキル鎖及び/又はそれらのペプチド配列を変更することによって微調整され得る。ペプチドのカスタマイズは、細胞及び/又は組織の標的化を増強し得るものと考えられる。遺伝子療法の分野では、ペプチドのカスタマイズは、RNA、特にmRNAなどの核酸との静電相互作用を生じさせ得る。一例として、PAL-KTTKSは、DPPC及びDOPEと製剤化した場合、ゼータ電位によって確認されるように、正帯電した表面をもたらした。
【0237】
両親媒性分子であるリポペプチドは、自己集合してミセルを形成することができる界面活性剤と、非常に類似した特性を有する。これは、ペプチド配列が分子間水素結合を形成することができる一方で、アルキル鎖が疎水性相互作用に適していることに少なくとも部分的に起因するものと考えられる。DPPC及びDOPEなどのリン脂質もまた、リポソームに自己集合することができる。したがって、PAL-KTTKSが代表例であるPAを組み込む場合(他のリポペプチドを使用してもよいが)、アルキル鎖は、DPPC及びDOPEと疎水性相互作用を形成してリポソーム構造を得ることができる。
【0238】
一方で、シリコンナノ粒子は、複合体全体としての構造安定性を提供し、かつ脂質及び他のリガンド、例えばリポペプチド、NAD、QUE、又はTYRなどと、非共有結合(静電)相互作用を介して相互作用することができ、したがって、核酸の長期安定性及び結合を促進する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
【国際調査報告】