(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-25
(54)【発明の名称】認知能力の測定値を得るための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20240718BHJP
G16H 50/20 20180101ALI20240718BHJP
【FI】
A61B10/00 H
G16H50/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577936
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(85)【翻訳文提出日】2024-02-01
(86)【国際出願番号】 IB2022055333
(87)【国際公開番号】W WO2022263974
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523473084
【氏名又は名称】アルトイダ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Altoida,Inc.
【住所又は居所原語表記】80 M St SE,Washington,District of Columbia 20003 USA
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】ブルガー,マキシミリアン
(72)【発明者】
【氏名】ハルムス,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】タルナナス,イオアニス
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA04
(57)【要約】
個人の認知能力の測定値を得るための方法およびシステムは、個人について以下の活動パラメータの少なくとも1つの測定値を得るように提供され:1)空間記憶の正確さ;2)プランニングの正確さ;3)目標までのナビゲーション中に二重タスク相互作用を実行する能力、ここでは二重タスク相互作用の欠落が測定される;4)目標までのナビゲーション中における誤った二重タスク相互作用への固執;5)ナビゲーション経路を完遂するまでに個人が要した合計時間;6)上肢神経運動パラメータ;7)二重タスク相互作用の反応時間;および8)個人のアイドル状態の反応時間;取得された測定値をアルゴリズム内に受け取り;そして当該個人についての機能障害スコアを健康な個人の集団から取得したベースライン測定値に基づいて計算する。測定値は電子的携帯デバイス上でアプリを使用して取得される。このシステムおよび方法は、ゲーム化環境を生成し、第1の時点における第1のユーザー入力またはユーザー入力の組を受信し、そして前記第1のユーザー入力またはユーザー入力の組を第1の測定値または測定値の組に変換し、また第2の時点における第2のユーザー入力またはユーザー入力の組を受信し、そして前記第2のユーザー入力またはユーザー入力の組を第2の測定値または測定値の組に変換するよう、ユーザーデバイスによって実行可能なアプリケーションを含み;前記第1の測定値または測定値の組を受信して第1の機能障害スコアを計算し、また前記第2の測定値または測定値の組を受信して第2の機能障害スコアを計算するよう構成され;また前記第2の機能障害スコアを前記第1の機能障害スコアと比較して前記機能障害スコアにおける変化の大きさおよび/または速度を判定するよう構成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個人の認知能力の測定値を得るための方法であって、この方法はその個人について以下の活動パラメータの少なくとも1つの測定値を取得することを含み:
1)空間記憶の正確さ;
2)プランニングの正確さ;
3)目標までのナビゲーション中に二重タスク相互作用を実行する能力、ここでは二重タスク相互作用の欠落が測定される;
4)目標までのナビゲーション中における誤った二重タスク相互作用への固執;
5)ナビゲーション経路を完遂するまでに個人が要した合計時間;
6)上肢神経運動パラメータ;
7)二重タスク相互作用の反応時間;および
8)個人のアイドル状態の反応時間;
取得した測定値をアルゴリズム内に受け取り;そして
その個人についての機能障害スコアを健康な個人の集団から取得したベースライン測定値に基づいて計算する、方法。
【請求項2】
前記測定値は電子的携帯デバイスのアプリケーションを使用して取得される、請求項1の方法。
【請求項3】
個人の認知能力の測定値を得るためのコンピュータで実行されるシステムであって:
個人について以下の活動パラメータの少なくとも1つに関してリモート源から測定値を受信するよう構成された入力インタフェースと:
1)空間記憶の正確さ;
2)プランニングの正確さ;
3)目標までのナビゲーション中に二重タスク相互作用を実行する能力、ここでは二重タスク相互作用の欠落が測定される;
4)目標までのナビゲーション中における誤った二重タスク相互作用への固執;
5)ナビゲーション経路を完遂するまでに個人が要した合計時間;
6)上肢神経運動パラメータ;
7)二重タスク相互作用の反応時間;および
8)個人のアイドル状態の反応時間;
前記測定値を受信するよう構成され、また前記測定値を使用して前記個人における認知能力を示す機能障害スコアを計算するコンピュータプログラムコードを実行するよう構成されたプロセッサとを含む、システム。
【請求項4】
前記システムは:
前記活動パラメータまたは複数の活動パラメータに関し、第1の時点で取得された第1の測定値または測定値の組、および第2の異なる時点で取得された第2の測定値または測定値の組を受信するよう構成された入力インタフェースと;
前記第1の測定値または測定値の組を受信するよう構成され、前記第1の測定値または測定値の組を使用してコンピュータプログラムコードを実行するよう構成されて、前記個人における認知能力を示す第1の機能障害スコアを計算し、また前記第2の測定値または測定値の組を受信するよう構成され、前記第2の測定値または測定値の組を使用してコンピュータプログラムコードを実行するよう構成されて、第2の機能障害スコアを計算するプロセッサを含み;
前記プロセッサは前記第2の機能障害スコアを前記第1の機能障害スコアと比較して機能障害スコアにおける変化の大きさおよび/または速度を判定するよう構成されている、請求項3のコンピュータで実行されるシステム。
【請求項5】
個人の認知能力の測定値を得るためのコンピュータシステムであって、このシステムは:
ゲーム化環境を生成し、ユーザー入力を受信し、その入力を個人について以下の活動パラメータの少なくとも1つの測定値へと変換する、ユーザーデバイスによって実行可能なアプリケーションを含み:
1)空間記憶の正確さ;
2)プランニングの正確さ;
3)目標までのナビゲーション中に二重タスク相互作用を実行する能力、ここでは二重タスク相互作用の欠落が測定される;
4)目標までのナビゲーション中における誤った二重タスク相互作用への固執;
5)ナビゲーション経路を完遂するまでに個人が要した合計時間;
6)上肢神経運動パラメータ;
7)二重タスク相互作用の反応時間;および
8)個人のアイドル状態の反応時間;
前記システムは測定値を受信して個人における認知能力を示す機能障害スコアを計算するよう構成されている、システム。
【請求項6】
前記システムは:
ゲーム化環境を生成し、第1の時点における第1のユーザー入力またはユーザー入力の組を受信し、そして前記第1のユーザー入力またはユーザー入力の組を第1の測定値または測定値の組に変換し、また第2の時点における第2のユーザー入力またはユーザー入力の組を受信し、そして前記第2のユーザー入力またはユーザー入力の組を第2の測定値または測定値の組に変換するよう、ユーザーデバイスによって実行可能なアプリケーションを含み;
システムは前記第1の測定値または測定値の組を受信して第1の機能障害スコアを計算し、また前記第2の測定値または測定値の組を受信して第2の機能障害スコアを計算するよう構成されており;
システムは前記第2の機能障害スコアを前記第1の機能障害スコアと比較して前記機能障害スコアにおける変化の大きさおよび/または速度を判定するよう構成されている、請求項5のコンピュータシステム。
【請求項7】
プロセッサまたはシステムはその個人についての機能障害スコアにおける変化の大きさおよび速度の両者を判定するよう構成されており、複合スコアを計算する、請求項4または6のシステム。
【請求項8】
システムは電子的携帯デバイスまたはユーザーデバイスからリモートで前記測定値を受信し、機能障害スコアおよび/または複合スコアを計算するよう構成されている、請求項2、5または6の方法またはシステム。
【請求項9】
複数の活動パラメータが測定される、先行する任意の請求項における方法またはシステム。
【請求項10】
少なくとも上肢神経運動パラメータが測定される、先行する任意の請求項における方法またはシステム。
【請求項11】
少なくとも3つの活動パラメータが測定される、先行する任意の請求項における方法またはシステム。
【請求項12】
少なくとも5つの活動パラメータが測定される、先行する任意の請求項における方法またはシステム。
【請求項13】
少なくとも以下の活動パラメータ:
空間記憶の正確さ;
目標までのナビゲーション中に二重タスク相互作用を実行する能力、ここでは二重タスク相互作用の欠落が測定される;
目標までのナビゲーション中における誤った二重タスク相互作用への固執;
上肢神経運動パラメータ;および
個人のアイドル状態の反応時間
が測定される、先行する任意の請求項における方法またはシステム。
【請求項14】
8つ全部の活動パラメータが測定される、先行する任意の請求項における方法またはシステム。
【請求項15】
活動パラメータに属する複数のメトリックが計算され;
メトリックは複数の認知ドメインにマッピングされており;および
それぞれの認知ドメインについてパーセンタイル順位スコアが計算される、先行する任意の請求項における方法またはシステム。
【請求項16】
メトリックはアルゴリズムに基づいて計算される、請求項15の方法またはシステム。
【請求項17】
アルゴリズムは信号解析、センサーフュージョン、代数積分、フーリエ解析、またはウェーブレット解析の1つまたはより多くであるか、またはそれらを含む、請求項16の方法またはシステム。
【請求項18】
認知ドメインは、知覚運動協応、複雑性注意、認知処理速度、抑制機能、認知柔軟性、視覚認知、プランニング、展望記憶、および空間記憶の少なくとも1つを含む、請求項15、16または17の方法またはシステム。
【請求項19】
少なくとも1つの測定値を取得するために個人の手の動きが評価される、先行する任意の請求項における方法またはシステム。
【請求項20】
個人の手の動きを評価することは個人の手の動きの速度および/または正確さをテストすることを含む、請求項19の方法またはシステム。
【請求項21】
個人の手の動きはイメージを個人に対して表示し、個人がそのイメージをなぞりまたはタップする能力を評価することによって評価される、請求項19または20の方法またはシステム。
【請求項22】
イメージは携帯型電子デバイスまたは他のユーザーデバイスの画面上に表示される、請求項21の方法またはシステム。
【請求項23】
ナビゲーションを行う個人の能力が測定値の少なくとも1つを取得するために評価される、先行する任意の請求項における方法またはシステム。
【請求項24】
個人のナビゲーション能力を評価することは個人が複数のオブジェクトを配置し回収することを含む、請求項23の方法またはシステム。
【請求項25】
タスクを実行する個人の能力が測定値の少なくとも1つを取得するために評価される、先行する任意の請求項における方法またはシステム。
【請求項26】
タスクを実行する個人の能力の評価は、サブタスクを正確な順序で実行する能力を評価することを含む、先行する任意の請求項における方法またはシステム。
【請求項27】
ナビゲーションを行いまたはタスクを実行する個人の能力を評価することが、評価の間に個人の注意をそらすことを含む、請求項23から26の方法またはシステム。
【請求項28】
空間記憶の正確さが、ナビゲーション評価において個人が正しく選択した項目の数を測定することにより、またはナビゲーション評価において個人が取った経路の複雑性を分析することによって判定される、先行する任意の請求項における方法またはシステム。
【請求項29】
プランニングの正確さが、タスク実行評価における個人による正しい展望記憶タスクの実行を測定することによって判定される、先行する任意の請求項における方法またはシステム。
【請求項30】
上肢神経運動パラメータが動きの敏捷性、動きの速度、および/または動きの円滑性を含む、先行する任意の請求項における方法またはシステム。
【請求項31】
上肢神経運動パラメータは携帯型電子デバイス上で提供された3Dアクセラレーションデータを信号処理することによって導出される、先行する任意の請求項における方法またはシステム。
【請求項32】
二重タスク相互作用の反応時間が、個人に対して与えた刺激から、個人からの応答までの間の経過時間として測定される、先行する任意の請求項における方法またはシステム。
【請求項33】
アイドル状態の反応時間は、患者のアイドル状態と、二重タスクの実行における次の即時相互作用応答までの間の経過時間として測定される、先行する任意の請求項における方法またはシステム。
【請求項34】
方法は個人によって複数回実行される、請求項1、2または7から33のいずれかの方法。
【請求項35】
方法は複数回、ほぼ毎月の間隔で行われる、請求項34の方法。
【請求項36】
方法は少なくとも5回実行される、請求項35の方法。
【請求項37】
個人から取得された第1の機能障害スコアが、その個人から別の時点において取得された第2の機能障害スコアと比較され、そしてその個人についての機能障害スコアにおける変化の大きさおよび/または速度が判定される、請求項36の方法。
【請求項38】
その個人についての機能障害スコアの変化の大きさおよび速度の両方が判定され、複合スコアが計算される、請求項37の方法。
【請求項39】
認知障害スコアまたは複合スコアが、測定値を電子的携帯デバイスまたはユーザーデバイスからリモートで受信し、機能障害スコアまたは複合スコアを計算するよう構成されたシステムによって計算され、このシステムは、電子的携帯デバイスまたはユーザーデバイスとはリモートで第三者によってアクセス可能な情報出力を含む、先行する任意の請求項における方法またはシステム。
【請求項40】
個人が軽度認知障害を有し、そして認知障害スコアまたは複合スコアに基づいて、その軽度認知障害を有する個人がアルツハイマー病に転換するか否かの予測が行われる、先行する任意の請求項における方法またはシステム。
【請求項41】
以前に軽度認知障害と診断された個人がアルツハイマー病に転換することの予測、アルツハイマー病の診断、または軽度認知障害の診断のための、先行する任意の請求項における方法またはシステムにより取得される認知障害スコアまたは複合スコアの使用。
【請求項42】
認知障害スコアまたは複合スコアに基づいて、軽度認知障害を有する個人がアルツハイマー病に転換することが予測された場合、薬剤的介入または他の介入に関する情報が情報出力により提供される、請求項39または40の方法またはシステム、または請求項41の使用。
【請求項43】
提案される介入が薬剤的介入であり、そして情報が個人に対して投与される特定の薬剤の識別に関する、請求項42の方法、システムまたは使用。
【請求項44】
薬剤は、コリンエステラーゼ阻害剤(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンの如き)、メマンチン(任意選択的にコリンエステラーゼ阻害剤と併用)、モノクローナル抗体(アデュカヌマブ(アデュヘルム)の如き)、BAN2401、ガンテネルマブ(任意選択的にソラネズマブと併用)、ソラネズマブ(任意選択的にガンテネルマブと併用)、シグマ-1受容体アゴニスト(任意選択的にまたANAVEX2(ブラルカメシン)、AVP-786またはAXS-05のようなM2自己受容体アンタゴニストまたはNMDA受容体アンタゴニスト)、SV2Aモジュレーター(AGB101(低用量レベチラセタム)の如き)、肥満細胞安定剤(ALZT-OP1(クロモリン+イブプロフェン)の如き)、抗炎症剤(ALZT-OP1(クロモリン+イブプロフェン)の如き)、RAGEアンタゴニスト(アゼリラゴンの如き)、グルタミン酸モジュレーター(BHV4157(トロリルゾール)の如き)、D2受容体部分アゴニスト(ブレクスピプラゾールの如き)、セロトニン・ドーパミンモジュレーター(ブレクスピプラゾールの如き)、アミロイドワクチン(CAD106の如き)、細菌性プロテアーゼ阻害剤(COR388の如き)、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(エスシタロプラムの如き)、抗酸化剤(イチョウの如き)、植物抽出物(イチョウの如き)、α-2アドレナリンアゴニスト(グアンファシンの如き)、オメガ-3脂肪酸(エイコサペンタエン酸の精製物であるイコサペント酸エチル(IPE)の如き)、アンジオテンシンII受容体ブロッカー(ロサルタンの如き)、カルシウムチャネルブロッカー(アミオジピンの如き)、コレステロール剤(アトルバスタチンの如き)、運動の有無にかかわらずアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ロサルタンの如き)とカルシウムチャネル拮抗薬(アミオジピンの如き)とコレステロール剤(アトルバスタチンの如き)の組み合わせ、チロシンキナーゼ阻害剤(マシチニブの如き)、インスリン抵抗性改善剤(メトホルミンの如き)、ドーパミン再取り込み阻害剤(メチルフェニデートの如き)、α-1アンタゴニスト(ミルタザピンの如き)、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(コハク酸オクトヒドロアミノアクリジンの如き)、ケトン体刺激剤(トリカプリリンの如き)、カプリル酸トリグリセリド(トリカプリリンの如き)、タウ蛋白凝集阻害剤(AADvac1またはTRx0237(LMTX)の如き)、GABA-A受容体のポジティブアロステリックモジュレーター(ゾルピデムおよびゾプリコン)、またはBPDO-1603、或いは一緒にまたは別個に投与されるこれらの任意の組み合わせである、請求項43の方法、システムまたは使用。
【請求項45】
個人が視空間機能において低いスコアを示してメマンチン/ドネペジルの処方が提案され、または個人が実行機能において低いスコアを示してメトホルミンの処方が提案され、または個人が 知覚運動協応において低いスコアを示してTRx0237の処方が提案される、請求項44の方法、システムまたは使用。
【請求項46】
アデュカヌマブ(アデュヘルム)の処方が提案される、請求項44の方法、システムまたは使用。
【請求項47】
提案される介入は薬剤的介入であり、そして情報は薬剤的介入または個人に対して投与される特定の薬剤の頻度および/または用量に関する、請求項42から46の方法、システムまたは使用。
【請求項48】
個人が以前に軽度認知障害と診断されており、そして情報出力によって提供される薬剤的介入または他の介入に関する情報は、以前に処方された介入がその個人に有効であったか否かに関する、請求項42から47の方法、システムまたは使用。
【請求項49】
機能障害スコアまたは複合スコアに基づいてアルツハイマー病の診断を行う手順を含む、請求項1、2、7から40または42から48のいずれかの方法を含むアルツハイマー病の診断方法。
【請求項50】
機能障害スコアまたは複合スコアに基づいてアルツハイマー病の診断を行う手順を含む、請求項1、2、7から40または42から48のいずれかの方法を含む軽度認知障害の診断方法。
【請求項51】
プロセッサまたはシステムが機能障害スコアまたは複合スコアに基づいてアルツハイマー病の診断を行うよう作動可能である、請求項3から40または42から48のいずれかのシステムを含むアルツハイマー病の診断システム。
【請求項52】
プロセッサまたはシステムが機能障害スコアまたは複合スコアに基づいてアルツハイマー病の診断を行うよう作動可能である、請求項3から40または42から48のいずれかのシステムを含む軽度認知障害の診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、個人の認知能力の測定値を得るための方法、および個人の認知能力の測定値を得るためのコンピュータで実行されるシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
世界では今日5千万人を超える人々が認知症にかかっており、殆どはアルツハイマー病(AD)を患っている。先進国および発展途上国のいずれにおいても、ADに罹患した個人、介護者、および社会が受ける影響は甚大である。
【0003】
認知症は、記憶障害、言語および他の認知機能における混乱、行動異常および日常生活活動に対する不自由によって示される、一群の症状や徴候によって特徴付けられる臨床症候群として定義することができる。ADは認知症の最も一般的な原因であり、すべての認知症の症例の75%までの割合を占め、また進行性の神経変性障害である。
【0004】
ADは脳の変化によって引き起こされる脳の変性疾患であり、時間と共に徐々に悪化する認知症の症状をもたらす。初期の症状には、情報を覚えておくことの困難性が含まれる。ADが進行するにつれて、症状はより深刻になり、失調、混乱、および行動の変化が含まれるようになる。最終的には、発話、嚥下、および歩行が困難になる。ADの症状を治療するための処方薬は存在しているが、今のところADを予防し、治癒または遅延させる方途はなく、結局は死がもたらされる。
【0005】
ADは何年も続く発症前段階によって特徴付けられ、その間は典型的な臨床症状(例えば認知障害および軽度認知障害)が検出可能となる前に、脳における進行性の神経変性が生ずる(Backmanら(2001))。理論的には、早い段階におけるADの検出は、治療的介入を実施する機会を提供し、それが臨床的な認知症へと進行することをより効果的に遅延させるものでありうる。
【0006】
しかしながら、幾つかの臨床的マーカー、神経画像バイオマーカー、および生化学マーカーを調べてみても、この疾病の発症前段階の間に、患者をどのようにして特定するかについては課題が残っている(DeKoskyおよびMarek(2003))。
【0007】
まず、多くの研究が示唆するように、エピソード記憶および言語能力といった特定の認知領域の欠損は、認知症の症状が臨床的に診断されるより10年も前から認識しうることであり、より明白な衰退は最後の数年にわたって生ずる。臨床現場では、ADの前臨床期を表す可能性がより高い単独の記憶喪失(すなわち、「健忘」型MCI)を持つ患者を特定するために、「軽度認知障害」という用語が使用されている。しかしながら、集団を対象とする追跡調査がしばしば示すところでは、MCIを持つ患者は、予後に関しては非常に一様性のない群を表す(Palmerら(2002));MCIを有する高齢者は認知症へと進むリスクが大きいものの、かなりの割合は安定した状態にとどまり、また数年の間は通常に戻る場合さえある。軽度認知障害が実際にADに起因する場合、それは症候前ADとして知られている。
【0008】
次に、血清や脳脊髄液中のβ-アミロイドおよびタウ蛋白といった生化学マーカーが、ADの早期発見のために提案されてきたが、しかしこれらのマーカーは、前臨床期においてADの診断を行うためには十分な信頼性を有していない(Blennowら(2006);DeKoskyおよびMarek(2003))。
【0009】
そして、ここ10年の間には、脳画像診断が、ADの前臨床期および早期臨床期の両方において、この病気を診断するための有用なツールとして台頭してきた。例えば、アミロイドPET(ポジトロン放出断層撮影法)画像診断のトレーサーリガンドは、脳内のβ-アミロイドをインビボで測定するための機会を提供し、ADの早期診断およびにADにおける抗アミロイド治療過程のモニタリングの可能性をもたらす(Nordberg(2007);Forsbergら(2008))。さらにまた、MRIによる容積測定で見られる内側側頭葉萎縮は、MCIと初期ADの識別、ならびにMCIと初期ADの進行の評価に使用されている(Duboisら(2007);Ridhaら(2007))。しかしながら、これらの検査はコストと侵襲的な性質のゆえに、現在は研究用途に制限されている。こうした制限は、個人を特に初期の発症前段階において検査するために、この検査を何度も繰り返して使用することを不可能にする(Kourtisら(2019))。
【0010】
モバイルおよびウェアラブルデジタルコンシューマ技術は、上記の限界を克服する可能性を有しており、この技術のAD検出への適用は関心の高い領域となっている。例えば、本出願人の先の特許出願(WO2010/075481、WO2016/157093、およびWO2020/049470として公開されており、その内容は参照によって本願に取り入れられる)は、モバイルデバイスを使用して、ユーザーの認知状態を判定するためのテストを可能にすることを開示している。
【0011】
認知能力の縦断的な測定は、前臨床マーカーおよび認知障害や認知症の症候前段階を評価し、また病気の進行を監視するために重要である。認知機能の低下を評価するための現在の技術はしばしば、横断的評価(すなわち、特定の時点における観察)に基づいている。しかしながら、横断的評価は個人の全体的な認知機能を捕捉するについては意義が限定的であり、認知能力の個体内変動が高いことから、将来の認知能力および認知機能の低下リスクを正確に予測し得ない(Mungasら(2010))。
【0012】
従来の横断的な神経心理学的認知評価は、意欲、注意力、気分、およびテスト環境といった、個人の評価挙動に影響を与える幾つかの交絡因子に影響されやすい。次いで、こうした神経心理学的評価の不確かな特質は、それが予後、診断、そして最終的には一連の認知症疾患(例えばAD)のような脳関連の病気の治療に使用されることから、臨床ケアに対してマイナスの帰結をもたらす。ADについての従来の神経心理学的評価は時間がかかり、信頼性が低く、そしてMCIの把握については不正確であり、また状況や時点が異なると、特に繰り返しての測定の後に大きな変動を示す。こうした変動の理由は、被験者の意欲、注意力、気分、不安レベル、評価前の夜の睡眠の質、およびテスト環境など多岐にわたる。こうした変動は、例えば、患者の認知が後の訪問時に改善したという誤った印象を与えることにより、不正確な診断および不適切な治療につながる可能性がある。従来の横断的神経心理学的評価における制約は、健全な認知機能から認知症までの全領域にわたり個人の認知評価を行うについての、臨床的および研究的な大きなギャップを浮き彫りにしている。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、個人の認知能力の測定値を得るための改善された方法、および個人の認知能力の測定値を得るための改善されたコンピュータ実施システムを提供することを課題としている。
【0014】
本発明のある実施形態によれば、個人の認知能力の測定値を得るための方法が提供され、この方法はその個人について以下の活動パラメータの少なくとも1つの測定値を取得することを含み:
1)空間記憶の正確さ;
2)プランニングの正確さ;
3)目標までのナビゲーション中に二重タスク相互作用を実行する能力、ここでは二重タスク相互作用の欠落が測定される;
4)目標までのナビゲーション中における誤った二重タスク相互作用への固執;
5)ナビゲーション経路を完遂するまでに個人が要した合計時間;
6)上肢神経運動パラメータ;
7)二重タスク相互作用の反応時間;および
8)個人のアイドル状態の反応時間;
取得した測定値をアルゴリズム内に受け取り;そして
その個人についての機能障害スコアを健康な個人の集団から取得したベースライン測定値に基づいて計算する。
【0015】
この方法は好ましくはコンピュータで実行される。それはコンピュータ実装システムまたは以下に記載するコンピュータシステムを用いて実施されてよい。
【0016】
測定値を取得するために必要とされる情報は、モバイルデバイスの入力インタフェース経由で受信するのが好ましい。測定値は好ましくは、その測定値を使用して個人の認知能力を示す機能障害スコアを計算するアルゴリズムを実行するように構成されたプロセッサによって受信される。機能障害スコアは好ましくは第三者によってリモートでアクセス可能であり、情報出力デバイスに表示可能である。
【0017】
測定値は電子的携帯デバイスのアプリケーションを使用して取得されてよい。携帯型の電子デバイスは、例えばスマートフォンまたはタブレットであってよい。
【0018】
本発明の別の実施形態によれば、個人の認知能力の測定値を得るためのコンピュータで実行されるシステムが提供され、このシステムは:
個人について以下の活動パラメータの少なくとも1つに関してリモート源から測定値を受信するよう構成された入力インタフェースと:
1)空間記憶の正確さ;
2)プランニングの正確さ;
3)目標までのナビゲーション中に二重タスク相互作用を実行する能力、ここでは二重タスク相互作用の欠落が測定される;
4)目標までのナビゲーション中における誤った二重タスク相互作用への固執;
5)ナビゲーション経路を完遂するまでに個人が要した合計時間;
6)上肢神経運動パラメータ;
7)二重タスク相互作用の反応時間;および
8)個人のアイドル状態の反応時間;
測定値を受信するよう構成され、また測定値を使用してその個人における認知能力を示す機能障害スコアを計算するコンピュータプログラムコードを実行するよう構成されたプロセッサとを含んでいる。
【0019】
このシステムは:
活動パラメータまたは複数の活動パラメータに関し、第1の時点で取得された第1の測定値または測定値の組、および第2の異なる時点で取得された第2の測定値または測定値の組を受信するよう構成された入力インタフェース;
第1の測定値または測定値の組を受信するよう構成され、この第1の測定値または測定値の組を使用してコンピュータプログラムコードを実行するよう構成されて、個人における認知能力を示す第1の機能障害スコアを計算し、また第2の測定値または測定値の組を受信するよう構成され、この第2の測定値または測定値の組を使用してコンピュータプログラムコードを実行するよう構成されて、第2の機能障害スコアを計算するプロセッサを含んでいてよく;
このプロセッサは第2の機能障害スコアを第1の機能障害スコアと比較して機能障害スコアにおける変化の大きさおよび/または速度を判定するよう構成されている。
【0020】
プロセッサはその個人についての機能障害スコアにおける変化の大きさおよび速度の両者を判定するよう構成されていてよく、複合(または総合)スコアを計算する。
【0021】
本発明の別の実施態様によれば、個人の認知能力の測定値を得るためのコンピュータシステムが提供され、このシステムは:
ゲーム化環境を生成し、ユーザー入力を受信し、その入力を個人について以下の活動パラメータの少なくとも1つの測定値へと変換する、ユーザーデバイスによって実行可能なアプリケーションを含み:
1)空間記憶の正確さ;
2)プランニングの正確さ;
3)目標までのナビゲーション中に二重タスク相互作用を実行する能力、ここでは二重タスク相互作用の欠落が測定される;
4)目標までのナビゲーション中における誤った二重タスク相互作用への固執;
5)ナビゲーション経路を完遂するまでに個人が要した合計時間;
6)上肢神経運動パラメータ;
7)二重タスク相互作用の反応時間;および
8)個人のアイドル状態の反応時間;
システムは測定値を受信して個人における認知能力を示す機能障害スコアを計算するよう構成されている。
【0022】
このシステムは:
ゲーム化環境を生成し、第1の時点における第1のユーザー入力またはユーザー入力の組を受信し、そして第1のユーザー入力またはユーザー入力の組を第1の測定値または測定値の組に変換し、また第2の時点における第2のユーザー入力またはユーザー入力の組を受信し、そして第2のユーザー入力またはユーザー入力の組を第2の測定値または測定値の組に変換するよう、ユーザーデバイスによって実行可能なアプリケーションを含んでいてよく;
システムは第1の測定値または測定値の組を受信して第1の機能障害スコアを計算し、また第2の測定値または測定値の組を受信して第2の機能障害スコアを計算するよう構成されており;
システムは第2の機能障害スコアを第1の機能障害スコアと比較して機能障害スコアにおける変化の大きさおよび/または速度を判定するよう構成されている。
【0023】
システムはその個人についての機能障害スコアにおける変化の大きさおよび速度の両者を判定するよう構成されていてよく、複合(または総合)スコアを計算する。
【0024】
システムは電子的携帯デバイスまたはユーザーデバイスからリモートで測定値を受信し、機能障害スコアおよび/または複合スコアを計算するよう構成されていてよい。例えば、電子的携帯デバイスまたは他のユーザーデバイスは、インターネット経由でリモートシステムに測定値をアップロードしてよく、リモートシステムで処理/計算が実行される。
【0025】
好ましくは、複数の活動パラメータが測定される。
【0026】
ある実施形態においては、少なくとも上肢神経運動パラメータが測定される。例えば、動きの敏捷性、動きの速度、および動きの円滑性が測定されてよい。
【0027】
好ましくは少なくとも3つの活動パラメータが測定され、または少なくとも4つの活動パラメータが測定され、または少なくとも5つの活動パラメータが測定される。有利なこととして、追加の活動パラメータの測定を含めることで、機能障害スコアの正確さが改善される。
【0028】
MCIからADへの転換予測が目標である場合に特に有用なある実施形態においては、少なくとも以下の活動パラメータが測定される:
空間記憶の正確さ;
目標までのナビゲーション中に二重タスク相互作用を実行する能力、ここでは二重タスク相互作用の欠落が測定される;
目標までのナビゲーション中における誤った二重タスク相互作用への固執;
上肢神経運動パラメータ;および
個人のアイドル状態の反応時間。
【0029】
最も好ましい実施形態においては、8つ全部の活動パラメータが測定される。
【0030】
アルゴリズムは、活動パラメータに属するメトリックを計算するように実行される。
【0031】
ある実施形態においては、活動パラメータに属する複数のメトリックが計算され;これらのメトリックは複数の認知ドメインにマッピングされ;そして各々の認知ドメインについてパーセンタイル順位スコアが計算される。
【0032】
メトリックは一般に所定のアルゴリズムに基づいて計算され、このアルゴリズムは信号解析、センサーフュージョン、代数積分、フーリエ解析、またはウェーブレット解析の1つまたはより多くであるか、またはそれらを含んでいてよい。
【0033】
メトリックがマッピングされる認知ドメインは、知覚運動協応、複雑性注意、認知処理速度、抑制機能、認知柔軟性、視覚認知、プランニング、展望記憶、および空間記憶の少なくとも1つを含んでいてよい。
【0034】
個人の手の動きは、測定値の少なくとも1つを取得するために評価されてよい。これには、個人の手の動きの速度および/または正確さをテストすることが含まれてよい。
【0035】
個人の手の動きは、イメージを個人に対して表示し、その個人がイメージをなぞりまたはタップする能力を評価することによって評価してよい。このイメージは、携帯型電子デバイスまたは他のユーザーデバイスの画面上に表示してよい。
【0036】
ナビゲーションを行う個人の能力は、測定値の少なくとも1つを取得するために評価されてよい。これは、個人が複数のオブジェクトを配置し回収することを含む個人のナビゲーション能力を評価することによって達成しうる。
【0037】
タスクを実行する個人の能力は、測定値の少なくとも1つを取得するために評価されてよい。
【0038】
タスクを実行する個人の能力の評価は、サブタスクを正確な順序で実行する能力を評価することを含んでいてよい。
【0039】
ナビゲーションを行いまたはタスクを実行する個人の能力を評価することは、評価の間に個人の注意をそらす(撹乱する)ことを含んでいてよい。
【0040】
ある実施形態においては、空間記憶の正確さは、ナビゲーション評価において個人が正しく選択した項目の数を測定することにより、またはナビゲーション評価において個人が取った経路の複雑性を分析することによって判定される。例えば、経路の複雑性はテストを行っている間に被験者が行った曲がりの数に基づいて測定してよい:曲がりがより少ないことは目標に対してより直接的な経路であることを示し、空間記憶がより高いことに対応する。
【0041】
プランニングの正確さは、タスク実行評価の間における個人による正しい展望記憶タスクの実行を測定することによって判定してよい。
【0042】
上肢神経運動パラメータは、動きの敏捷性、動きの速度、および/または動きの円滑性を含んでいる。これらは携帯型電子デバイス上で提供された3Dアクセラレーションデータを信号処理することによって導出されてよい。
【0043】
二重タスク相互作用の反応時間は、個人に対して与えた刺激から、個人からの応答までの間の経過時間として測定されてよい。
【0044】
アイドル状態の反応時間は、患者のアイドル状態と、二重タスクの実行における次の即時相互作用応答までの間の経過時間として測定される。これは反応時間の測定値とみなしてよく、例えばタスク中の撹乱信号(かん高い音のような)に反応するまでに要した時間である。
【0045】
この方法は個人によって複数回、例えば大体毎月の間隔で行われてよい。この方法は好ましくは、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、または少なくとも6回行われる。
【0046】
個人から取得された第1の機能障害スコアは、その個人から別の時点において取得された第2の機能障害スコアと比較されてよく、そしてその個人についての機能障害スコアにおける変化の大きさおよび/または速度が判定されてよい。
【0047】
ある実施形態においては、その個人についての機能障害スコアの変化の大きさおよび速度の両方が判定され、そこから複合スコアが計算される。
【0048】
認知障害スコアまたは複合スコアは、測定値を電子的携帯デバイスまたはユーザーデバイスからリモートで受信し、機能障害スコアまたは複合スコアを計算するよう構成されたシステムによって計算されてよく、そこにおいてシステムは、電子的携帯デバイスまたはユーザーデバイスとはリモートで第三者によってアクセス可能な情報出力を含んでいる。
【0049】
個人は軽度認知障害を有していてよく、そして認知障害スコアまたは複合スコアに基づいて、その軽度認知障害を有する個人がアルツハイマー病に転換するか否かの予測が行われてよい。個人はテストの結果、軽度認知障害と診断されてよく、またはテストを受けるより以前に軽度認知障害と診断されていてよい。
【0050】
上記した方法により、または上記したシステムにより取得された認知障害スコアまたは複合スコアは、以前に軽度認知障害と診断された個人がアルツハイマー病に転換することを予測するために、または軽度認知障害を診断するために使用される。
【0051】
仮に、認知障害スコアまたは複合スコアに基づいて、軽度認知障害を有する個人がアルツハイマー病に転換することが予測された場合、薬剤的介入または他の介入に関する情報が情報出力により提供されてよい。
【0052】
提案される介入は薬剤的介入であってよく、そして情報は、個人に対して投与される特定の薬剤の識別に関するものであってよい。
【0053】
薬剤は、コリンエステラーゼ阻害剤(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンの如き)、メマンチン(任意選択的にコリンエステラーゼ阻害剤と併用)、モノクローナル抗体(アデュカヌマブ(アデュヘルム)の如き)、BAN2401、ガンテネルマブ(任意選択的にソラネズマブと併用)、ソラネズマブ(任意選択的にガンテネルマブと併用)、シグマ-1受容体アゴニスト(任意選択的にまたANAVEX2(ブラルカメシン)、AVP-786またはAXS-05のようなM2自己受容体アンタゴニストまたはNMDA受容体アンタゴニスト)、SV2Aモジュレーター(AGB101(低用量レベチラセタム)の如き)、肥満細胞安定剤(ALZT-OP1(クロモリン+イブプロフェン)の如き)、抗炎症剤(ALZT-OP1(クロモリン+イブプロフェン)の如き)、RAGEアンタゴニスト(アゼリラゴンの如き)、グルタミン酸モジュレーター(BHV4157(トロリルゾール)の如き)、D2受容体部分アゴニスト(ブレクスピプラゾールの如き)、セロトニン・ドーパミンモジュレーター(ブレクスピプラゾールの如き)、アミロイドワクチン(CAD106の如き)、細菌性プロテアーゼ阻害剤(COR388の如き)、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(エスシタロプラムの如き)、抗酸化剤(イチョウの如き)、植物抽出物(イチョウの如き)、α-2アドレナリンアゴニスト(グアンファシンの如き)、オメガ-3脂肪酸(エイコサペンタエン酸の精製物であるイコサペント酸エチル(IPE)の如き)、アンジオテンシンII受容体ブロッカー(ロサルタンの如き)、カルシウムチャネルブロッカー(アミオジピンの如き)、コレステロール剤(アトルバスタチンの如き)、運動の有無にかかわらずアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ロサルタンの如き)とカルシウムチャネル拮抗薬(アミオジピンの如き)とコレステロール剤(アトルバスタチンの如き)の組み合わせ、チロシンキナーゼ阻害剤(マシチニブの如き)、インスリン抵抗性改善剤(メトホルミンの如き)、ドーパミン再取り込み阻害剤(メチルフェニデートの如き)、α-1アンタゴニスト(ミルタザピンの如き)、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(コハク酸オクトヒドロアミノアクリジンの如き)、ケトン体刺激剤(トリカプリリンの如き)、カプリル酸トリグリセリド(トリカプリリンの如き)、タウ蛋白凝集阻害剤(AADvac1またはTRx0237(LMTX)の如き)、GABA-A受容体のポジティブアロステリックモジュレーター(ゾルピデムおよびゾプリコン)、またはBPDO-1603、或いは一緒にまたは別個に投与されるこれらの任意の組み合わせであってよい。
【0054】
個人が視空間機能において低いスコアを示す場合には、メマンチン/ドネペジルの処方が提案されてよい。個人が実行機能において低いスコアを示す場合には、メトホルミンの処方が提案されてよい。個人が知覚運動協応において低いスコアを示す場合には、TRx0237の処方が提案されてよい。
【0055】
アデュカヌマブ(アデュヘルム)の処方は提案されてよい。
【0056】
提案される介入は薬剤的介入であってよく、そして情報は、薬剤的介入または個人に対して投与される特定の薬剤の頻度および/または用量に関するものであってよい。
【0057】
個人は以前に軽度認知障害と診断されていてよく、そして情報出力によって提供される薬剤的介入または他の介入に関する情報は、以前に処方された介入がその個人に有効であったか否かに関する。
【0058】
本発明の別の実施態様によれば、上述した如き方法を含むアルツハイマー病の診断方法が提供され、機能障害スコアまたは複合スコアに基づいてアルツハイマー病の診断を行うステップをさらに含んでいる。
【0059】
本発明の別の実施態様によれば、上述した如き方法を含む軽度認知障害の診断方法が提供され、機能障害スコアまたは複合スコアに基づいてアルツハイマー病の診断を行うステップをさらに含んでいる。
【0060】
本発明の別の実施態様によれば、上述した如きシステムを含むアルツハイマー病の診断システムが提供され、そこではプロセッサまたはシステムが、機能障害スコアまたは複合スコアに基づいてアルツハイマー病の診断を行うよう作動可能である。
【0061】
本発明の別の実施態様によれば、上述した如きシステムを含む軽度認知障害の診断システムが提供され、そこではプロセッサまたはシステムが、機能障害スコアまたは複合スコアに基づいてアルツハイマー病の診断を行うよう作動可能である。
【0062】
実施においては本願に記載の方法およびシステムは典型的には、以前に軽度認知障害と診断された個人に使用される。その出力は、他の診断評価に対する付属物として使用され、MCIがADに基づくものか否か(すなわちその個人が症候前ADを有するか否か)を識別することを意図している。それは、軽度認知障害を有する個人が進行して認知症、特にアルツハイマー病により生ずる認知症を発現するか否かを予測するために使用されてよい。
【0063】
しかしながら、より広い使用も構想されてよい。例えばそれらは、障害に何も気付かなかった個人について、MCI(例えばADによるMCI)を識別するために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
以下では添付図面を参照して、図示された好ましい実施形態について例示として説明する:
図1から
図6は運動テストのためのユーザーインタフェースの例を示す;
図7から
図16はさかのぼり(Back-in Time)タスクのためのユーザーインタフェースの例を示す;
図17から
図23はデイアウト(Day-Out)タスクのためのユーザーインタフェースの例を示す;
図24はテスト結果にアクセスするためのダッシュボードの実施形態の例示的なログイン画面を示す;
図25は被験者のテスト結果についての例示的な検索フィールドを示す;
図26は被験者のテスト結果の例示的な概観を示す;
図27は
図26の被験者2についての例示的なPDFレポートを示す;
図28は分類子の受信者動作特性(ROC)曲線を示す;
図29は選択したデータセットにおいて識別された変数間依存性を示す;
図30は被験者を認知機能正常とMCIとに分類するための最適なロジスティック回帰推定器のADNIデータにおけるMMSE、FAQおよびDMの特徴の重要度を示す;
図31は別の実施形態についての分類子のROC曲線を示す;
図32はSHAPの動作(出力に対する影響)を示す;
図33は分散の図解を提示している。左側:患者個人の経時的データ。右側:本願で教示された神経心理学的評価(上側の曲線)および従来の神経心理学的評価(下側の曲線)を使用してピックアップした母平均(ライン)で表された、異なる時点(A、B、C)における患者の成績の分散(ドット)。SDは所与の被験者の経時的な分散(LTRS)に関連している。点線:真の分散を示す;
図34はLTRS(上側)およびLDVS(下側)の概略的な図解を示している(数値17.3および41.5はランダムな例である)。左3分の1のラインは低リスクを示し、真ん中の3分の1は中リスクを示し、そして右側の3分の1は高リスクを示す;
図35は
図34に示した2つの測定値から取得された組み合わせ縦断リスクマトリックス(重なり合った領域はより微妙な解釈を可能にする)を示している;
図36は例示的な個人内変動スコアを示している;
図37はLTRSおよび神経心理学的テストに基づき3つの異なるグループについてプロットされ、標準偏差に変換された分散指数を示している;
図38はタスクにわたってプロットされ、健康な対照グループ(A)、MCIグループ(B)およびADグループ(C)について個人内標準偏差(iSD)を示す分散指数を示している;および
図39は本願で教示されたシステムおよび方法を実施するように構成された装置の実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
ADを早期に臨床的に認知することは、医師が被験者を処方薬で治療して病気の症状および関連する負担を緩和するすることができ、また介護者が認知機能、気分および人格の変化に対応することができるようにするために重要である。早期検出はまた、臨床試験に参加する機会を作り出すことにもなる。しかしながら現在は、ADを診断する場合に医師が認知機能を評価するの助けるツールが欠如している。
【0066】
現在のところ医師は、記憶力、抽象的思考力、問題解決力、言語使用、および他の認知スキルの低下といったADに関連する症状を評価するために、幾つもの精神的および神経心理学的テストに依存している。例えば医師は、アルツハイマー病評価尺度-認知行動(ADAS-Cog)、ミニメンタルステート検査(MMSE)、または時計描画テストといった技法を用いて、ADを有する被験者の認知機能障害レベルを評価している。さらにまた、縦断的研究から得られたメタ解析データが示すところでは、完全な神経心理学的評価は、個人がまだMCIの段階にある間に認知症を予測するのに大きく寄与することができる。
【0067】
ADを早期に臨床的に認知することは重要であるが、特にMCIの個人における認知機能障害を評価するのを助け、ADへの進行を予測し、医師がADの診断を行うのを支援するツールは今のところ存在しない。現在の評価方法(上記した評価方法の如き)は面倒であり、また多くの場合に被験者にとって厄介である。
【0068】
本出願はコンピュータ化された認知評価支援装置を記載するものであり、これは認知能力の測定値をもたらすことで損傷した認知機能の評価を助け、医師がADの予測および診断を行うのを助ける。このデバイスは、大人の被験者における認知機能の潜在的な低下をADのない他の大人のベースラインテスト成績と比較して識別する目的で使用され、必要な場合に認知機能障害のある被験者がさらにテストを受けられるようにする。本願に開示されるシステムはアルゴリズムに基づくソフトウェアアプリケーションであり、種々のハードウェアプラットフォーム(典型的にはタブレットやスマートフォンのような携帯型電子デバイス)上で走る。好ましい実施形態においては、デバイスは(1)グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)のための;(2)運動、視覚、知覚、および記憶テストのための電源を管理するための;そして(3)リアルタイムでのテスト報告の生成、印刷、および保管を支援するための機能を含んでいる。
【0069】
好ましい実施形態は、タブレットやスマートフォンのような携帯型電子デバイス上で実行されるよう設計されたアプリケーション(アプリ)として構成される。このアプリは被験者によって行われる一連のテストを実行することができ、例えば、知覚運動協応、複雑性注意、認知処理速度、抑制機能、認知柔軟性、視覚認知、プランニング、展望記憶、および/または空間記憶を評価する。こうしたテストは、被験者の手の動きを評価するための運動テストを含んでいてよい。これらのテストはまたさらに、いわゆるさかのぼりタスクおよびデイアウトタスクを含んでいてよく、ナビゲーションを行いおよび/またはタスクを所定の順序で実行する被験者の能力を評価する。
【0070】
システムは、ユーザーが自分の携帯型電子デバイス上でアプリによってユーザーに提示された種々のテストを実行することを要求するように構成される。アプリはテストの結果を、少なくとも以下の1つを含む活動パラメータの集合の形で記録する:
1)空間記憶の正確さ;
2)プランニングの正確さ;
3)目標までのナビゲーション中に二重タスク相互作用を実行する能力、ここでは二重タスク相互作用の欠落が測定される;
4)目標までのナビゲーション中における誤った二重タスク相互作用への固執;
5)ナビゲーション経路を完遂するまでに個人が要した合計時間;
6)上肢神経運動パラメータ;
7)二重タスク相互作用の反応時間;および
8)個人のアイドル状態の反応時間.
【0071】
これらの結果は次いで、個人のデバイスからリモートにあってよいプロセッサへと提供される。測定された活動パラメータに属するメトリックを計算するためのアルゴリズムが実行される。メトリックは種々の認知ドメインにマッピングされ、そして各々の認知ドメインについてパーセンタイル順位スコアが計算されてよい。これらから、個人の認知能力を示す機能障害スコアが計算される。このスコア(および他の関連情報、例えば各々の個別の認知ドメインに関するスコア)は、次いで医師または他のヘルスケア専門家によってリモートから、医療施設にあるデスクトップコンピュータの如きからアクセス可能である。
【0072】
このシステムはヘルスケア専門家に、認知能力の客観的な測定値をもたらし、個人の知覚および記憶機能を評価するのを支援する補助的なツールとして使用可能である。
【0073】
個人に対しては、このシステムは個別の認知プロフィールをもたらし、これは家族の構成員にも適用可能でありうる。それは認知機能の低下リスクを緩和するのを助ける選択肢を調査するための時間をもたらし、また臨床試験に参加するための被験者を早期に識別する。
【0074】
好ましいシステムはさらに、非侵襲的なハンドヘルド式のソフトウェアデバイスを用いて認知機能を測定する能力をもたらし、ADのような特定の病気の診断評価において役立つ。それは利用可能な薬剤的選択肢でもって、早期にADに介入し管理することを容易にする。システムが非侵襲的な性質であることにより、頻繁に評価を行うことが可能であり、経時的に何度も測定値を得ることが許容され、それは時間的なスナップショットと対比して、被験者の全体的な状況をより良好に反映することができる。
【0075】
システムのこうした縦断的な使用は、経時的な個人の脳の健康をモニタリングすることを支援できる。例えば、健康な個人はMCIの発現に関してモニタリングされることができる。MCIを有する個人は、認知昨日の低下についてモニタリングされることができる。システムの好ましい実施形態はまた、後にADへと転換するMCIの個人について予測力が高いことが示されており、認知症の始まりを防止しまたは遅延させるための介入を可能にする。このシステムはかくして、MCIからADへの転換を予測するために使用可能であり、医師が薬剤または他の介入を決定し処方するのを助ける。システムがユーザーから取得することのできる詳細な情報を考慮すると、システムはまた、得られた結果に基づいて所定の個人に対する具体的な薬剤を提案するために使用することもできる。
【0076】
1つの実施形態において、個人は携帯型電子デバイス、例えばスマートフォンを用いて、家でテストを実行することができる。その成績は結果としてスコアをもたらす。例えば毎日、毎週、または毎月といった形でテストを繰り返すことにより、個人の脳の健康をモニタリングすることができる。何らかの低下の大きさおよび速度の両方を経時的にモニタリングすることができる。見かけ上は健康な個人について、軽度認知障害の兆候が検出されてよく、そしてシステムはその個人の主治医に対して、例えば特定の認知ドメインにおける改善/さらなる低下の防止のための、適切な介入を示唆してよい。さらにまたシステムは、以前にMCIと診断された個人に対する薬剤治療の有効性をモニタリングするために有用でありうる。このシステムは、もはや有効ではない治療処置や他の介入を迅速に識別してよく、改良された薬剤または他の処置が提案されうる。
【0077】
次いでさらなる悪化を遅延させまたは防止し、或いは症状を治療するために処方されてよい薬剤には、コリンエステラーゼ阻害剤(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンの如き)、メマンチン(任意選択的にコリンエステラーゼ阻害剤と併用)、モノクローナル抗体(アデュカヌマブ(アデュヘルム)の如き)、BAN2401、ガンテネルマブ(任意選択的にソラネズマブと併用)、ソラネズマブ(任意選択的にガンテネルマブと併用)、シグマ-1受容体アゴニスト(任意選択的にまたANAVEX2(ブラルカメシン)、AVP-786またはAXS-05のようなM2自己受容体アンタゴニストまたはNMDA受容体アンタゴニスト)、SV2Aモジュレーター(AGB101(低用量レベチラセタム)の如き)、肥満細胞安定剤(ALZT-OP1(クロモリン+イブプロフェン)の如き)、抗炎症剤(ALZT-OP1(クロモリン+イブプロフェン)の如き)、RAGEアンタゴニスト(アゼリラゴンの如き)、グルタミン酸モジュレーター(BHV4157(トロリルゾール)の如き)、D2受容体部分アゴニスト(ブレクスピプラゾールの如き)、セロトニン・ドーパミンモジュレーター(ブレクスピプラゾールの如き)、アミロイドワクチン(CAD106の如き)、細菌性プロテアーゼ阻害剤(COR388の如き)、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(エスシタロプラムの如き)、抗酸化剤(イチョウの如き)、植物抽出物(イチョウの如き)、α-2アドレナリンアゴニスト(グアンファシンの如き)、オメガ-3脂肪酸(エイコサペンタエン酸の精製物であるイコサペント酸エチル(IPE)の如き)、アンジオテンシンII受容体ブロッカー(ロサルタンの如き)、カルシウムチャネルブロッカー(アミオジピンの如き)、コレステロール剤(アトルバスタチンの如き)、運動の有無にかかわらずアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ロサルタンの如き)とカルシウムチャネル拮抗薬(アミオジピンの如き)とコレステロール剤(アトルバスタチンの如き)の組み合わせ、チロシンキナーゼ阻害剤(マシチニブの如き)、インスリン抵抗性改善剤(メトホルミンの如き)、ドーパミン再取り込み阻害剤(メチルフェニデートの如き)、α-1アンタゴニスト(ミルタザピンの如き)、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(コハク酸オクトヒドロアミノアクリジンの如き)、ケトン体刺激剤(トリカプリリンの如き)、カプリル酸トリグリセリド(トリカプリリンの如き)、タウ蛋白凝集阻害剤(AADvac1またはTRx0237(LMTX)の如き)、GABA-A受容体のポジティブアロステリックモジュレーター(ゾルピデムおよびゾプリコン)、またはBPDO-1603、或いは一緒にまたは別個に投与されるこれらの任意の組み合わせが含まれてよい。
【0078】
結果に応じて、システムは薬剤的な介入を示唆してよく、すでに実施されている薬剤的な介入の変更を示唆してよく(用量や投与形態の変更の如き)、および/または介入を引き続き有効にするか否かを指示してよい。
【0079】
このシステムはまた、テスト領域において個人が取得したスコアを調べる機会を医師に提供し、その個人に対する最適な介入を決定することができる。
【0080】
以下に記載するのは本方法およびシステムについて可能な実施例であり、これらはユーザーのスマートフォンやタブレットのような携帯型電子デバイスを使用して実行されてよい。
実施例1
A.ユーザーのタスク
【0081】
ユーザーには一連の視覚的および聴覚的な刺激が連続的および同時的に与えられて、種々の聴覚的および視覚的な刺激に対して応答するユーザーの能力が測定される。被験者は3つのタスクを実行するように依頼される:運動テスト、さかのぼり、およびデイアウトタスクである。これらの難易度の異なる3つの種類のテストは、テストされる機能ドメインの各々において被験者の成績を特徴付ける。これらのテストは1つのセッションで行われ、テストの間には短い休憩(30秒)がある。
a.運動テスト:
【0082】
運動テストは、被験者に画面上で手を動かすテストを行うことを求める、3つの連続する種類のタスクを含んでいる。
図1から
図6は、携帯型電子デバイスの画面上におけるテストの例示的な代表例を示している。第1の種類は被験者に、色付きの経路(
図1および
図2)をできるだけ正確にしかも早くなぞることを求める。第2の種類(
図3および
図4)は制限時間を付加する。第3の種類は被験者に、撹乱オブジェクト(
図5および
図6における緑色と灰色の円)の存在下に目標オブジェクトが現れたならばすぐに、目標オブジェクトをできるだけ正確にしかも早くタップすることを求める。
b.さかのぼり:
【0083】
「さかのぼり」テストにおいては、拡張現実が使用されて、音声信号による撹乱が行われながら、一連の仮想的なオブジェクト(物品)を配置し回収する被験者の能力がテストされる。
図7から
図16は、被験者が自分の携帯型電子デバイスの画面上で見るものを例示している。
【0084】
被験者は拡張現実を使用して、3つの仮想的な物品を自分の現実の環境中の適切な場所に配置するよう指示される(
図7および
図8参照)。仮想現実のトラッキング(追跡)を初期化するために、被験者はデバイスを約60度の角度で持ちながら室内を何歩か歩き回ることを求められる(
図9参照)。3つの物品を全部を良好に配置した後(
図10および
図11参照)、被験者はデバイスのカメラを自分が物品を置いた場所に向けることにより、物品を再度取り上げるように指示される(
図12参照)。物品の取り上げが可能となる前に、被験者は物品配置場面が開始された位置に歩いて戻るように求められる(
図13参照)。
【0085】
物品を取り上げる場合、被験者は音声信号(かん高いビープ音のような)に反応する必要があり、音声信号は画面の下側にあるボタンを押すように被験者を促す(
図14および
図15の指示を参照)。被験者が物品を取り上げるように求められる順番は毎回ランダムにされているが、最後に置いた物品が最初に見つける物品であることはないようにされる。被験者が物品の1つを置いた場所を思い出せない場合には、スキップボタンを使ってその物品をスキップすることができる(
図15参照)。全部の物品が見つかったか、スキップされたか、または3分が経過したならば、テストは終了し、被験者は最初に置いた物品と最初に探した物品についての2つの質問に答えなければならない(
図16参照)。
a.デイアウトタスク:
【0086】
デイアウトタスクは、上記で説明したさかのぼりタスクと類似した拡張現実の機能を用いる。被験者は火事から脱出する状況に直面させられ、そこでは3つの動作が決まった順序で実行される:1)警報が発動され、2)消防署に電話がかけられ、そして3)重要書類が救出される(
図17および
図18)。そのためには、被験者は拡張現実を使用して、これらの動作を表す3つの物品を自分の回りに配置する必要がある。具体的には被験者は上記したさかのぼりタスク(
図19参照)と同じように、拡張現実機能を利用して、1)警報ボタン、2)電話、および3)書類を自分の回りに配置する必要がある。次いで被験者は、これらの3つの物品を取り上げてタスクを実行する。
【0087】
被験者が物品を置くように求められる順序はランダムにされているが、被験者が警報ボタンを最後に置くことはないようにされる。物品を取り上げる動作(タスクの実行)の順序は、上記のように決まっている(
図20参照)。この場合にも、一連の動作を実行している間に被験者は音声信号(ビープ音のような)に反応することが求められる(
図21参照)。さかのぼりタスクとは異なり、被験者は高音および低音の信号を示されるが、かん高い音声信号(ビープ音)だけに反応するように求められる(
図21の指示を参照)。物品を見つける必要がある一方で、画面は火事のアニメーションに包まれて、火災訓練状況の緊急性が模倣される(
図22参照)。
【0088】
全部のタスクが完了したか、スキップされたか、または3分が経過したならば、テストは最初に置いた物品と最初に探した物品についての2つの質問で終了する(
図23参照)。最初にどの物品を探したかという第2の質問に対する答えは、(さかのぼりタスクについての状況とは異なり)常に警報ボタンである。
【0089】
このシステム(好ましくはソフトウェアアプリケーション)は、被験者の応答の誤りおよび反応時間を追跡する。上記したように、デバイスはタスクに応じて、連続的または同時的ないずれかの、視覚的および聴覚的な刺激の組み合わせを提示する。
【0090】
被験者は自分の応答のタイミングおよび正確さ、並びに被験者が実空間で物品を配置し取り上げる際の手の動きや歩行パターンのような動きのデータに基づいてスコア付けされる。このデータはデバイスのセンサーのデータに基づいて生成される。
B.作用の原理
【0091】
上述したシステムは、ヒトの皮質情報処理に関連する知覚機能、神経運動機能、および記憶機能の側面の自動的な特徴付けを可能にする。この評価は、被験者の応答の誤りおよび反応時間を追跡し、聴覚的および視覚的な刺激の変化に応答する被験者の能力を記録することによって達成される。テストは迅速であり(10分程度しか要しない)、広範囲であり(多くの脳機能ドメインを含む)、そして非侵襲的である(被験者との接点は携帯型電子デバイスに限定されている)。
【0092】
上記したタスクは、一連の動作測定値(k1からk8)を規定する。これらの測定値には含まれるものは:
●(k1)選択した正しい物品の数として測定される空間記憶の正確さ、
●(k2)正確な展望記憶タスクの実行(サブタスクの正確な順序)として測定されるプランニングの正確さ、
●(k3)スタートからゴールの間の二重タスク相互作用の欠落、
●(k4)ゴールまでのナビゲーション中の誤った二重タスク相互作用への固執、
●(k5)物品ごとにナビゲーションを完了するための合計時間、
●(k6)上肢神経運動パラメータ、すなわちタスク完了までの動きの敏捷性、動きの速度、および動きの円滑性(iPadのセンサーによって提供される3D加速度データの信号処理から導かれる)、
●(k7)刺激から応答までの間の経過時間として測定される「二重タスク」相互作用の反応時間、および
●(k8)「二重タスク」の実行に対して被験者のアイドル状態から次の直後の相互作用応答までの間の経過時間として測定される「アイドル状態」の反応時間(例えば適当な聴覚信号に対する個人の反応時間)がある。
【0093】
この実施例において、測定値k1からk8はスコア付けアルゴリズムにおいて使用されて機能障害スコアが計算される。具体的には、テストの実施中に生成されたデータから、合計で660のメトリックが計算され、これらのメトリックは一連の活動パラメータ(上記のk1-k8)に属する。関与する計算はアルゴリズムに基づいており、限定するものではないが、信号解析、センサーフュージョン、代数積分、フーリエ解析、およびウェーブレット解析が含まれる。複数の被験者についてのメトリックのデータベースが与えられたなら、660のメトリックに基づいて新たな被験者をスコア付けするためのアルゴリズムを訓練することができる。
【0094】
得られたメトリックは合計で9つの認知ドメイン(表1参照)にマッピングされる。
【表1】
【0095】
認知ドメインのそれぞれについて、パーセンタイル順位スコアが計算され、年齢および性別に応じて調節される。認知ドメインのパーセンタイルは、同じ年齢グループにおいて性別が同じ健康な集団の何パーセントが、その被験者よりも成績が悪いかを記述する。したがって、50%という値は平均的な成績を示唆しており、より高い値は平均を上回る成績を示唆している。
【0096】
加えて、単一の出力測定値すなわちスコアが提示される。0-50のスコアは被験者が「障害」クラスに属することを示唆し、これに対して50を超えるスコアは被験者が「非障害」クラスに属することを示唆する。認知ドメインのパーセンタイルに関する情報は、幾つかの場合にはスコアを解釈するために有用であってよく、例えば個別のケースにおいてスコアが非常に低くてもよい理由を説明する。
C.結果の表示
【0097】
それぞれの被験者についてのテスト結果は、ダッシュボード(例は出願人により提供されるものである)を用いて医療従事者によってアクセスされ考察されることができる。1つの例が
図24に示されている。
【0098】
医療従事者が「マイ患者」タブに入ると、検索フィールドが
図25に示すように提示される。ユーザーが患者IDを入力すると、被験者のセッションのそれぞれのテスト結果が提示される。
【0099】
図26は、被験者の結果例を提示している。表題部の右側には丸印(赤または緑)が項目の隣に示されている。スコアが50を超える場合には、緑色の丸印が示される(被験者1)。スコアが50未満の場合には、赤色の丸印が示される(被験者2)。50を超えるスコアは、被験者の成績がβアミロイド凝集(Aβ42/40比)に基づく症候前ADの生物学的兆候と相関しておらず、従ってADに関連する認知障害の可能性はないことを示している。50未満かそれに等しいスコアは、被験者の成績がβアミロイド凝集(Aβ42/40比)に基づく症候前ADの生物学的兆候と相関しており、従ってADに関する認知障害の可能性があることを示している。
【0100】
図26に示すように、表題部の項目(この場合には被験者2)が選択されたならば、表題部の下側にさらなる情報がレーダーチャートとして表され、スコアが上側に、認知ドメインのパーセンタイルのそれぞれがチャートを取り巻く形で示される。
【0101】
丸印(適宜赤または緑)の隣には、PDFダウンロードアイコンがあり、ダウンロード可能なPDFレポートが提供される。
図27はこうしたレポートの例を示している(
図26の被験者2について)。スコアが50未満の場合には、レポートは「AD関連の認知障害:可能性大」であることを示す。
D.統計的性能
【0102】
この分類子は、MCIの被験者をMCI/Ab-またはMCI/Ab+のいずれかに分離することが可能であるか、換言すれば、アミロイドペータの状態をMCI被験者から検出することが可能であるかどうかをテストする。この分類子の性能を
図28にプロットした。このモデルはMCI患者の以下のデータを使用して構築されている:
●全データセット:120人の被験者、426のデータ点
●MCI/Ab-:42人の被験者、101のデータ点
●MCI/Ab+:78人の被験者、325のデータ点
【0103】
ヨーデンの最適カットオフ(0.81+/-0.15)における統計値は以下の通りである(表2)。
【表2】
E.バリデーター
【0104】
ソフトウェアの技術的成果を評価するために、入れ子式k倍技術を使用して機械学習アルゴリズムを交差検証して、堅牢な性能が実証された。またこれまでに収集されたデータには、認知能力の測定値を提供して医師がADの診断に使用するため認知機能障害の評価を支援するについて、臨床的な成功に対する期待が示されている。具体的には、スコア(障害あり/障害なし)は、ブートストラップベイジアン ネットワークを使用して、MMSEからの読み取り値と関連付けられている。
【0105】
取得されたデジタル測定値とMMSEのような認知特性との間のつながりは、変分オートエンコーダモジュラーベイジアンネットワーク(VAMBN)(Gootjes-Dreesbachら(2020)、その内容は参照によって本願に取り入れられる)と呼ばれる、最近開発された人工知能(AI)の手法を介して分析された。これは変分オートエンコーダとモジュール式ベイジアンネットワークのハイブリッドである。加えて、機械学習を介してデジタル測定値からMMSE下位項目スコアを正確に予測する可能性、およびその逆の可能性もテストされた。
【0106】
AD神経画像化イニシアチブ(ADNI)コホート内のデジタル測定値をシミュレートし、VAMBNを再度実行した。仮想現実ゲームからのデータにVAMBNを適用すると、デジタル測定値、MMSE下位項目スコア、および人口統計学的特徴を含むネットワークが得られた。
図29は1000のブートストラップベイジアンネットワーク(BN)(strength≧0.5およびdirection≧0.5)再構成においてデータセットについて識別された変数の依存性を示している。これらのエッジは、ブートストラップベイジアンネットワーク再構成において通常見られる変数依存性を示している。
【0107】
かくしてこのネットワークは、デジタル測定値と取得された臨床的なスコアとの間の関係の解きほぐしおよび定量化を可能にする。ADNIコホート内でのデジタル測定値のシミュレーションおよびVAMBNの適用は、さらにFAQ(機能評価質問紙法)のような日常生活の機能的活動や分子機構さえも反映した特徴に対する、デジタル測定値の接続関係を予測することをも可能にする。被験者を認知機能正常(CN)および軽度認知障害(MCI)に分類するためのデジタル測定値の感度を評価するために、2つのロジスティック回帰バイナリ分類子が仮想現実ゲームおよびADNIコホートからのデータで訓練された。
【0108】
これらの結果は、デジタル測定値とMMSEやFAQといった臨床的スコアとの間には、大きな依存性があることを示している。したがってデジタル測定値は、発症前段階におけるADの予測において、極めて重要な測定値として作用する可能性を有している。デジタル測定値の診断における利点の評価は、デジタル測定値がMMSEやFAQのような特徴の幾つかよりも、被験者をCNとMCIに分類する性能において高いランクにあるという認識をもたらした。
図30は、被験者をCNとMCIに分類するための最高のロジスティック回帰推定器のADNIデータにおけるMMSE、FAQおよびDM特徴の重要性を示している。
【0109】
加えて、研究が示すところによれば、MCIの被験者のスコアは、βアミロイド凝集(Aβ42/40比)に基づいて症候前ADの生物学的兆候を検知し、ROC-AUC>94%である(Buglerら(2020)およぴTsnanasら(2015);これらの内容は参照によって本願に取り入れられる)。このβアミロイド凝集の兆候は、ADに転換されるであろうMCI被験者を予測することが示唆されている(Sorensenら(2020))。
実施例2
【0110】
上記の実施例においては、8つの活動パラメータを測定して認知障害が取得された。他の実施形態においては、8つ全部の活動パラメータを測定する必要はない。1つの実施形態においては、単一のパラメータが測定されてよく、そしてそれは上肢神経運動パラメータ(例えば、実施例1のk6で規定したようなタスクを完了するまでの動きの敏捷性、動きの速度、および動きの円滑性)であってよい。
【0111】
図31はこの実施例についての分類子のROC曲線を示しており、そして
図32はSHAPの動作(出力に対する影響)を示している。単一の活動パラメータが測定される場合であっても、有用な機能障害スコアを取得可能であることを看取することができる。
【0112】
ヨーデンの最適カットオフ(0.20+/-0.12)における統計値は以下の通りである(表3)。
【表3】
【0113】
健康な対照は、AD、症候前ADおよびMCI/アミロイドベータ陽性の個人から識別可能であることが示された。
実施例3
【0114】
上記の方法およびシステム(複合スコア)を研究において使用して、ADにおける個人レベルの変化を測定した。上述したスコア付けシステムで測定した分散を、この病気をモニタリングし、縦断的なリスク軌跡を特徴付け、そして認知転換事象(健康状態からMCI、および/またはMCIからAD)を予測するための従来の神経心理学的評価と比較した。
方法
研究の構成
【0115】
2つの実験(研究Aおよび研究B)を行って、取得されたスコアをベースライン(基準値)としての一連の確立された神経心理学的評価に対して評価した。研究A(ClinicalTrials.govの識別番号:NCT02050464)は半自然的な観察研究であって29名の参加者を含み、年齢は65歳超であり、軽度から中度のADと診断されていて、スイス国チューリッヒのヒルシュランデンクリニックで募集された。研究B(ClinicalTrials.govの識別番号:NCT02843529)も半自然的な観察を行う多角的研究であって496名の参加者(213名のMCIおよび283名の健康な対照者(HC))を含み、欧州の10のメモリークリニックおよびプライマリケアセンター、並びに米国の2つのプライマリケアコミュニティセンターにおいて行われた。かくして合計で525名の参加者が2つの研究に登録した。これらの参加者は認知的に健康であるか(n=283)、またはMCI(n=213)若しくはAD(n=29)と診断されていた。これらの研究は同様の参加基準(受入/拒絶)および臨床スケールを有しており、本発明者らは解析と同じ規準を使用してADバイオマーカーを特徴付けた。研究は両方とも地域の治験審査委員会(IRB)、すなわちギリシャ国コルフ島のイオニアン大学のバイオ倫理委員会によって承認され、開始された。
【0116】
これらの研究においては、3つのグループ、すなわちHC、MCIおよびADの参加者の認知能力が上述したような複合スコア、および一連の在来の紙と鉛筆を用いた神経心理学的評価を使用して測定された。かくして、この遡及的な観察分析において、独立変数は上述したような複合スコアであるか神経心理学的評価であるかのテスト方法であり(材料の項で詳述する)、本発明者らの重要な従属変数は分散である。
参加者
【0117】
研究Aおよび研究Bの両者において、何らかの重篤な神経性疾患(パーキンソン病、ハンチントン病、正常圧水頭症、脳腫瘍、進行性核上性麻痺、発作障害、硬膜下血腫、多発性硬化症、または重大な頭部外傷とそれに続く持続的な神経学的に通常のまたは既知の構造的脳異常の病歴など)を有する参加者は募集段階で除外された。研究Bにおいて、被験者となるためのさらに大事な規準は:(1)年齢が55~90歳であること、(2)英語、フランス語、スペイン語、ギリシャ語、ドイツ語またはイタリア語が流暢であること、および(3)iPad ProまたはiPhoneを現在所有して積極的に使用しており家にリモート評価のためのWi-Fiネットワークがあることを含めて、デジタルデバイスに慣れていることであった。これらの規準を使用して、最初にダブリンのトリニティカレッジにあるグローバル脳健康研究所(GBHI)で同じ手続きを経て283名の認知的に健康な個人のグループが募集された。認知障害を持つ参加者を募集するについては、バイオマーカー(CSF、脳のMRIおよびApoE遺伝子型)が規準として使用され、そしてMCIの診断と両立性のある認知欠陥が213名の被験者に見出された:170名は欧州の種々の国のメモリークリニックおよびプライマリケアセンターから(以下の手順の項で詳述する)、そして43名は米国のコミュニティセンターからであった。データ品質が悪かったため、7名の参加者はデータ分析から除外された。研究BのコホートはHC(n=283)、および18~40月以内にADを発症するリスクが高いMCIの患者(n=213)からなり、6ヶ月ごとに評価された。MCIのコホートおよびADのコホートは、それぞれの診断がNIA-AAの改訂版ガイドライン(Jackら(2011))の主要な規準に従ってMCIおよびアルツハイマー認知症の診断と一致する場合に、それぞれのバイオマーカーの状態に基づいて独立して含められた。研究Bにおける参加者のコホートはさらに、Buglerら(2020)に詳述されている。研究Aにおけるコホート(スイス国チューリッヒのヒルシュランデンクリニックからの症状のあるAD患者)は、対照および比較のために追加された(n=29)。参加者は性別および教育レベルが調和が取れており、教育(p=0.43、コーエンのd=0.4)、または性別(p=0.68、コーエンのd=0.3)変数について年齢グループの間で認知能力に統計的に有意な差はない。
手順
【0118】
登録に際して、すべての参加者は治験参加およびデータの再使用について、書面によるインフォームドコンセントを提出した。全部のグループ(HC、MCIおよびAD)において、上述したような複合スコアテストが6から8ヶ月ごとに2日間かけて実施された;1日目は練習と最初の測定を含んでおり、そして2日目は「リフレッシュ練習」と続いての2番目の測定を含んでいた。参加者の100名は2日目に上述した複合スコア方法を家で使用した(それらの測定値は、分析に関わる前にクリニックで取得された測定値に対して検証された)。
【0119】
概略的には、手順には以下のものが含まれていた:
1)本願において開示されるシステムを取り入れたスマートデバイスはプライマリケアの医師およびメモリークリニックに渡されてクリニック内で評価された。
2)方法はベースラインにおいて2日間にわたって実施された:1日目(練習および最初の測定)。2日目(リフレッシュ練習および2番目の測定)。
3)幾つかの会場では(健康な対照者およびMCIのある参加者についての研究B)、2日目は監督なしに家で合計でn=100名の被験者について実施された。これらの評価は、1日目のクリニックを訪れての評価と同じ成績を示した。
4)本願において開示される神経心理学的テストはベースラインにおいて実施され、また6ヶ月ごとにフォローアップが行われた。
【0120】
最初の複合スコアテストの時間は練習を含めて20分間であった(10分間の練習、2分間の休憩、8分間の測定)。このベースラインを確立した後、6から8ヶ月ごとに実施される複合スコアテストは平均で8分間を要した。従来の神経心理学的評価は1回の訪問あたりに休憩を入れて120~140分間を要している。6から8ヶ月ごとに、参加者はまたミニメンタルステート検査(MMSE)またはモントリオール認知評価(MOCA)を用いて、臨床的および神経心理学的状態について評価され、そしてNIA-AA(Jackら(2011))の主要診断規準に基づいてMCIから認知症(ADに起因する、またはADとは関連しない)への転換が生じたかどうかが臨床的に検査された。MCI/認知症/ADの臨床的な診断結果は、この研究の予測変数に関して知らされていない研究者によって確認された。
【0121】
研究Aの参加者は2013年から2017年の間の合計で48ヶ月の期間にわたってテストされ、研究Bの参加者は2017年から2020年の合計で40から42ヶ月の期間にわたってテストされた。参加したメモリークリニックはギリシャ、イタリア、スペイン、アイルランド、スイス、および米国にあった。詳しくは、以下の施設が研究Bについてのデータ収集を可能にした:ギリシャのアルツハイマーおよび関連疾患協会「Ag.ヤニス」、ギリシャのテッサロニキにある「Ag.エレニ」メモリークリニック;イタリア国ローマのローマ大学ラ・サピエンツァメモリークリニック;イタリア国ブレシアのIRCCSセントロサンジョバンニ・ディ・ディオファテベネフラテリメモリークリニック;イタリア国ナポリのニューロムドIRCCSメモリークリニック;スペイン国バルセロナのフンダシオンクリニック・ペルアラ・レセルカビオメディカメモリークリニック;アイルランド国ダブリンのダブリン大学トリニティ・カレッジにあるセントジェームスメモリークリニック;BiHELab-ギリシャのコルフ島にあるバイオインフォマティクスおよびヒト電気生理学の研究室および関連する主治医のネットワーク;スイス国チューリッヒおよびアーラウのヒルスランデン私立病院の個別化医療実践部門の2つのオフィス;米国カリフォルニア州ラホーヤのスクリップスヘルス;および米国テキサス州ダラスのテキサス大学脳健康センター。
材料
【0122】
ベースライン神経心理学的(NP)評価。ベースラインNP評価は一連の包括的なテストを含んでいた:WMS-Rウエクスラー記憶検査(教育用に調整)(WMS-IV(2009))、MMSE(Folsteinら(1975))またはMOCA(Nasreddineら(2005))、臨床認知症評価尺度(CDR)メモリボックススコア(Morris(1993))、および前方桁スパン、後方桁スパンの評価を含むフル神経心理学的バッテリー(WMS-IV(2009))、トレイルメイキングテストA、トレイルメイキングテストB(Butlerら(1991))、RAVLT(レイ15語聴覚性言語学習検査)合計、RAVLT A6、RAVLT A7(RAVLT(1996))、ベントンVRT(ベントン視覚記銘検査第5版(1991))、ディジットシンボル(Kaufman(1983))、ブロックデザイン(コース立方体組み合わせテスト、PsycNET(1932))、類似性(Drozdickら(2018))、および動物名想起テスト(Benton(1968))。これらのテストはまとめると、13の認知ドメインに対応している。
【0123】
全体スコア。認知能力および機能性能力についてのデジタルバイオマーカーデータは、上述した複合スコアを使用して収集される。複合スコアの方法論は、それまでの作業(上記に示したもののような)から最も有望な指標を選択し、テスト時間を2時間近くから10分間へと短縮させる。それはまた、上記の文脈においては使用されていない新しい測定値をも含んでいる(例えば、足取り、タッチ圧力、歩行経路および震えを測定する)。この多変数スコア付けはデジタル表現型の効率を増大させ、同じコホートに属する他の人々に基づいて個人の成績を各自の独自の履歴に対して、並びに「規範的な」データに対してより良好に評価することを可能にする。上記に説明した複合スコアは、反応時間、速度、注意および記憶に基づく評価、加速度計、ジャイロスコープ、磁気計、カメラ、マイク、タッチスクリーンを通してのありとあらゆるデバイスセンサー入力(またはその欠如)といった、320を超える個人の特徴を捕捉する。上述したような複合スコア方法論は独立した試験的研究において、若く健康な対照者のサンプルについて、説明したすべての認知ドメインにわたってテストされ、テスト-再テストのばらつきは0.156%であることが見出された。このような小さなばらつきは、複合スコアテストの内部妥当性が優れていることを示しており、その測定値の経時的な表現可能性および安定性を裏付けている。
【0124】
追加のバイオマーカーテスト。追加的に、ADのバイオマーカー(脳脊髄液(CSF)のβ-アミロイドおよびリン酸化タウ蛋白並びに総タウ蛋白レベル、脳のMRIおよびApoE遺伝子型)が、複合スコアテストを通じて取得されたデジタルバイオマーカーについての特定のベースライン測定値として収集された。認知障害の種類についてのより細かな理解を確実にするために;診断された集団において、MCIおよびADに基づく認知症(aMCIおよびADD)、またはMCIおよびADに関係しない認知症(naMCIおよびnADD)という分類が、CSFのβ-アミロイドおよびタウ蛋白レベルバイオマーカーに基づいて行われた。
統計的分析
【0125】
参加者の認知能力における変動を調べるために、上述した複合スコアと代表的な規準である神経心理学的評価を相互に比較することのできる、一般的で意味のある指標が取得された。これについては、いわゆる分散指数が使用された(例えば、Hultschら(2008);Wojtowiczら(2012))。これは各個人についてそれぞれの反応時間に基づいて(速度と正確さがトレードオフとなる対照者を含む)、各個人内、および健康な対照者とMCIおよびADグループとの間で認知測定値について計算された(
図33)。
【0126】
分散指数は中枢神経系(CNS)の完全性および個人の認知構造について、平均成績よりも信頼できる測定値である(Hultschら(2008);Wojtowiczら(2012))。個々の分散プロファイルは回帰技術を使用して取得され、個人内標準偏差(iSD)スコアを標準化されたテストスコアから計算する。分散プロファイルは、上述した複合スコアテストおよびそれらを直接比較可能とするように研究において使用された神経心理学的テストバッテリーによって測定されたすべての認知ドメインについて取得された。神経心理学的評価バッテリーからのテストスコアは最初、線形および二次的な年齢の傾向について回帰されて、平均成績におけるグループ間の相違が制御された。年齢に基づくグループ間の相違を制御することが必要であるのは、年齢幅が55~90歳の参加者についての研究サンプルにおいて存在する、年齢層にわたって相違することが予測されるより大きな平均および平均レベル成績については、より大きな変動が関連する傾向があるためである。こうした線形回帰モデルおよび二次回帰モデルから得られる残差はTスコア(M=50、SD=10)として標準化され、次いでiSDがこれらの残差テストスコアについて計算された。得られた分散予測値は共通のメトリック上で索引付けされ、グループ平均に対する個人の神経心理学的プロファイルにわたる変動量を反映する(
図33)。グループ平均は、測定値全体についての参加者の成績レベルから得られる。分散指数の値が高いことは、認知機能における個人内変動が大きいことを反映している。
【0127】
次に、11の複合スコアと13の従来の神経心理学的認知/機能ドメインにわたって、縦断的リスク軌跡スコア(LTRS)および縦断的低下速度スコア(LDVS)を計算した(下記参照)。
【0128】
グループ相互間の平均の比較について本発明者らはMANOVA(多変量分散分析)および独立した一元配置ANOVA(分散分析)またはT検定を使用し、これに対してグループ内の平均の比較については本発明者らは、独立した一元配置ANOVAを使用した。すべての統計分析に対して多重テストのためのベンジャミン-ホッホベルク補正を適用し、アルファ値0.05(p<0.05、両側)を使用した。すべての統計分析はMac用の統計ソフトSPSS22.0を使用して行った。
縦断的個人内変動関連メトリック
【0129】
LTRS/LDVS。縦断的軌跡リスクスコア(LTRS)は、重線形回帰モデルに基づいて、個人が患う認知機能の低下量といったすべての認知ドメインに対する変化を定量化する(
図34の上)。LTRSは、低下が生ずる期間の長さを考慮に入れていない。それは単に、観察によって捕捉される変化の大きさを定量化するだけである。これに対して縦断的低下速度スコア(LDVS)は、どのような速さで変化が生じたかを定量化し、したがって認知ドメインのそれぞれにおいて低下が危機的な速度で生じているかどうかを評価するために使用することができる(
図34の下)。LDVSもまた、重線形回帰モデルに基づいている。LDVSの値が高いことは普通ではない速さでの低下を示唆しており、低下速度を「重み」とする単純線形回帰を用いて、複合スコアのそれぞれの認知ドメインについて重み付けされた線形回帰モデルを構築する。好ましくは参加者は数週間にわたり少なくとも4回の完全なテストを受け、そしてLTRSおよびLDVSはリスクマトリックスにおいて一緒に解釈されることができる(
図35)。
【0130】
個人内変動。個人内変動は個人の認知能力における揺動を定量化し、ADの初期段階で認知的および機能的変化の根底にある神経病理を高感度に検出することが示されている(
図36)。
【0131】
個人内変動は、認知ドメインのパーセンタイルの経時的な変動を定量化する。この値は、各ドメインの健康な被験者の変動の倍数で表した被験者の検査の平均変動に対応する。好ましくは少なくとも5回のテストが同じ参加者によって行われる。個人内変動は、病気の始まりとADへの転換についての高感度の予測子である。
結果
【0132】
全サンプルにわたる分散スコアは11.45(SD=5.12)Tスコア単位であった。
図37は、LTRSおよび従来の神経心理学的評価に基づく、それぞれの認知状態サブグループ(健康な対照者、MCI、AD)内での分散の大きさを示しており、デジタルバイオマーカーが従来の紙と鉛筆による神経心理学的評価と比較して、2.6倍まで大きな個人内変動を説明することを示している。
【0133】
図37は、標準偏差に変換されて3つの異なるグループについてプロットされた、LTRSおよび神経心理学的テストに基づく分散指数を示している。これらのグラフは、病気の軌跡の関数としての標準偏差の非線形な増大を示している。グループごとにLTRSとNPの全体平均を比較すると以下の値:HC:t=10.00106、p<0.00001;MCI:t=7.02195、p<0.00001;AD:t=6.65272、p=0.000011が得られ、これらの値はp<0.001において統計的に有意である。個別の時点における詳細を表4に示す。
【表4】
【0134】
図37に示された値の比較に対する推計解析により、個人内変動はグループ間で異なっていることが明らかになり(F(2,522)=34.252、p<001、η
2=0.25)、そこではADグループ(m=23.78、SD=4.54)が最も高い変動性を示し、続いてMCI(m=12.48、SD=2.91)、およびHC(m=8.09、SD=1.64)であった。すべてのドメインにわたるグループ間の相違もまた、13NPに対して11複合スコアドメイン(表4)のバッテリーに基づいて観察された。ADグループはMCIよりも大きな分散を示し、そしてMCIはHCよりも大きく(表4)、測定値の堅牢さを確認するものであった。
【0135】
LTRS/LDVS分析に続いて、各グループについての縦断的個人内変動もまたプロットされ、病気の軌跡の関数としての標準偏差の非線形な増大が明らかにされた(
図38)。
図38において、個人内変動は病気の軌跡の傾向を検出するについて、特に転換前事象について、従来の神経心理学的評価よりも一貫して著しく感度が高い(
図38Bの急な山形は、次の評価によるMCIからADへの転換の可能性が高いことを予測している)。分散測定値における「距離」は、病気が進行するにつれて2つの評価型(縦断的個人内変動と神経心理学的評価)の間で増大し、縦断的個人内変動が神経心理学的評価よりもマーカーを検出する感度がより高いことを示している(
図38)。
【0136】
図38はタスクについてプロットされた分散指数を示しており、健康な対照者(A)グループ、MCI(B)グループ、およびAD(C)グループについて、グループの個人内標準偏差(iSD)を示している。これらのグラフは病気の軌跡の関数として、SDにおける非線形な増加を示している。個人内変動は病気の軌跡の傾向について、特に転換前事象について、従来の神経心理学的評価よりも一貫して著しく感度が高い(Bの急な山形は、次の評価による転換の可能性が高いことを予測している)。LIIVは縦断的個人内変動である。
【0137】
複合スコアドメインは、LTRSと縦断的個人内変動の両方の測定値を含んでいることから、
図37および
図38に示された結果は、デジタルバイオマーカーの強さの証拠を提供している。縦断的個人内変動は強力な前臨床リスク予測子であり、MCIからADへの転換(
図38B)を機械学習アルゴリズムを通じて決定する一方で、LTRSは従来の神経心理学的評価よりも認知における変化に対する高い感度を示す(
図37および表4)。
【0138】
まとめると、これらの結果は複合スコア分散メトリックが、病気の軌跡の傾向を捕捉するについて在来の神経心理学的評価よりも一貫して著しく感度が高いことを示している。加えて、複合スコア評価は転換事象よりも6から8ヶ月前に、転換事象を予測することを可能にする。これらの転換予測子は、
図38Bに示された、実際の転換に先立つ個人内変動の急な山形によって特徴付けられ、従来の神経心理学的評価では検出することができない。
考察
【0139】
上述した研究においては、認知加齢の調査における永続的な問題点である、認知症における認知および機能に関する個人レベルの変化に取り組んだ。個人レベルの意味のある変化がいつ生じたかを確立することは、認知症に対する介入を評価するために有用であり、また脳の健康を生涯にわたって保持するために有用である(Livingstonら(2017))。本願において組み合わせて検討した2つのメトリック(複合スコアに一体化されるLTRS/LDVSおよび縦断的個人内変動)は、医療従事者に対して潜在的なツールを提供しうる。LTRS/LDVSは個人レベルにおいて認知訓練、投薬または療法の有効性を評価するために有用であってよく、またそれは、より頻繁に使用されている信頼性変化指数に対する価値ある代替物である。データ収集の頻度が十分であることを条件として、LTRS/LDVSは成績における個々の変化を従来の紙と鉛筆による評価の場合よりも高感度に、また標準的なサンプル被験者における変化を個人内変動の問題と対比しなければならない不自由さなしに評価することを可能にする。また、従来の信頼性変化指数とは異なり、縦断的個人内変動は、個人の成績のみに基づいて結論を引き出すための信頼性のあるツールを提供する。これは試験の効率を最大化する目的で、また認知症の症候前段階におけるものを含めて病気の進行事象を早期に検出するために、情報を現在進行形で利用するアダプティブ試験に関連して特に価値がある(Ritchieら(2016))。
【0140】
ADの文脈において、分散は、病気の症候前段階においてさえも認知能力および機能的能力における変化を検出する高感度のマーカーであることが示されている(Hultschら(2008);Wojtowiczら(2012))。グループレベルの統計における有意な効果は任意の1人の個人についてどのような変化が生じたかを示さない(また示唆すらできない)ことから(Murrayら(2021))、個人レベルにおける意味のある変化を確立することは有益である。これら両方の事実を考慮に入れて、全部で120~140分間の13の認知ドメインについての従来のNP評価と、11の認知ドメインについての10分間の複合スコア評価との間における分散の相違を解析し、そしてHC、MCIおよびADの参加者のグループにおける40ヶ月にわたる分散を比較した。複合スコアは病気の軌跡傾向に関してこれらの変化を捕捉するについて、一貫して著しく高い感度を示した。LTRS/LDVSの結果(
図2、表1)に示されているように、これは特に病気の後期の段階において当てはまり、複合スコアにおいて機能と認知を独自に一体化した複合ドメインに起因するものと考えられる。
【0141】
これらの知見は、上述したような複合スコアの方法論が、病気の進行のモニタリングおよび臨床的治験の終点についての有用なツールであることを示している。さらに、個人内変動は病気の軌跡の傾向のマーカーを識別するについて、従来のNP評価よりも一貫してより高感度であった(
図38)。個人内変動はまた、転換前事象を検出するについて複合スコアメトリックの中でも特に強力なマーカーであり、MCIからADへの転換を実際の事象よりも6~8ヶ月前に予測することのできるツールを実現する。こうした予測は生活様式に対する介入を行って転換を遅らせ健康な脳を長期間維持することを可能にするだけでなく、患者と家族に対して準備、ケアの調整、および利用可能な場合の薬理学的介入のための時間を与える。加えて、この手法は認知症の病態生理学に関与する生物学的(画像的、遺伝的、生化学的)および機能的マーカーの予測的および縦断的な評価を可能にする。このことは、病気の発現および開始についてより大きな理解をもたらすのを助けるはずである。これまでは、MCIから症候性ADへの転化事象を何ヶ月も前に予測することは可能ではなかった。
【0142】
複合スコア方法論は、それが多次元的なデジタルバイオマーカーを捕捉し、またレイテンシーまたは精度ベースの測定値に限定されない点において、従来の神経心理学的評価とは異なる。それは幾つかの客観的に測定された特徴を単一のタスクに一体化する。この一体化は従来の実験室でのテスト設定よりも一般化可能な「現実世界の状況」を生成するため、観察の生態学的妥当性が高まる。ある実施形態では11の認知ドメインに対処する多くの変数の新規な組み合わせとセンサーデータとの両方によって、複合スコア法により収集されるデータの豊富さが、特に変動測定値を考慮した場合に高い感度をもたらすことは驚きではない。複合スコアのデジタルバイオマーカープラットフォームは、認知および運動処理を含む大量の高解像度データ;感情状態を示す音声ベースのデータおよび、病気の発現がどこで、いつ、どのように日常生活機能に影響を及ぼしているかを明らかにするマイクロエラーを生成する。これらのデータは、病気の進行のモデリング、より正確な転換事象の予測や薬の効果のモデリングにさらに活用され、脳の健康の大規模で非侵襲的な生涯のモニタリングをもたらす可能性がある。
【0143】
分散と個人内変動は両方とも年齢とともに非線形に増加することに注意することが重要である。現在のデータパターンは、ドメインにわたる大きな分散は認知能力が低いことと関連しており、これはおそらく認知制御の低下を反映していることを明らかにしている。MCIグループにおける個人内変動の急な山形は、病気のこの段階に特に影響する心配や憂鬱といった内的および外的要因に加えて、複合スコアの複雑性に起因してMCIにおいて特に影響を受けるドメインである実行機能の要求によって説明できる可能性がある。
【0144】
上述した複合スコア法の別の重要な特徴は、その効率である。複合スコアテストを実施するのに要する時間は10分間であって従来の神経心理学的テストバッテリーの120分間とは対照的であり、また家で実施された場合であっても(クリニック訪問時に行われるのと対比される)、もたらされる結果は同等である。また、複合スコアの不均一性/均一性特徴および多様な認知能力におけるLTRS/LDVSまたは縦断的個人内変動の変化もまた、臨床家にとっては有用なツールでありうる。
【0145】
本研究における知見は、認知の変化を検出するについてのデジタルバイオマーカーの感度を強調し、また認知の変化における不均一性に関する研究に関して興味深い方向性を開く。
【0146】
この研究は、能動的なバイオマーカーが認知加齢における病気の進行のモニタリングに対する有用なツールであることを示している。こうしたツールは認知症テストについてさほどの訓練を必要とせずに主たる介護者によって使用でき、患者を再検査に差し向けるか、または認知機能の低下という弱体化を緩和するために必要なリソースを提供する。ADへの転換を事象の6から8ヶ月前に予測することは、投薬量にも影響しうる意味ある変化を検出することを可能にし、より綿密な患者のモニタリングを許容することから、この研究の知見はまた臨床試験にも関連している。加えて、そうした変化を早期に観察することは、転換の直前において根底にある病気のマーカーを研究することを可能にし、ADの病態生理学的過程の理解の向上と、認知機能の低下の新たな表現型の発見の可能性に寄与する。
結論
【0147】
この研究は、新たに用いられるメトリックに基づいて個人レベルにおける意味のある変化を検出するために、上述した複合スコア法に包含されるような能動的なデジタルバイオマーカーを探求する最初の試みを表している。病気を特徴付けるためには認知テストの平均スコアが重要であるが、テスト相互間の個人内変動は簡単に捕捉可能な大量の情報を保持している。スマートデバイスのセンサーを使用する新規なメトリックは、従来の神経心理学的評価と比較して増大した感度を示す。上述した複合スコア法は、認知症に対する従来のバッテリーに対して2.6倍感度が高いことが見出されており、また10分間を要するだけである。この「より良好」で「より速い」性能によって、複合スコア法は患者のケアのための優れたツールとなっており、また薬剤的介入をモニタリングするについて個人の症状が意味ある変化を生じたかを決定するために使用可能である。
実施例4
【0148】
これまでにMCIと診断された個人により自分のスマートフォン上の複合スコアシステムを使用して上記のテストが家で毎月、所望または適切な場合にはより頻繁に実行された。それぞれの成績は、縦断的軌跡リスクスコア(LTRS)および縦断的発現速度スコア(LDVS)からなる複合スコア評価としてもたらされた。複合スコアは、治療反応およびそれがどのように日常生活機能における認知および機能の改善に変換されるかを測定する。それはAduhelm(アデュカヌマブ)のような薬剤による治療的介入の直後に毎月計算可能であり、LTRSおよびLDVSのスコアが足し合わされる。範囲は0~200であり、複合スコアについて提案される視覚化が
図35に示されている。
【0149】
この実施態様において、LTRSはそれぞれの認知ドメインが6ヶ月という所与の時間ウィンドウにわたり縦断的に進行する。次いで、それぞれの認知ドメインについて単純線形回帰を使用して線形回帰モデルが構築される。その結果はそれぞれの認知ドメインiについての直線方程式y=ax+bであり:y_i=m_i*t+b_iである。それぞれの認知ドメインiについてLTRS=0に初期化する。この直線モデルの傾きが負である場合には(すなわち低下がある)、LTRSに対して傾きの絶対値を加える。LTRS>100のときは、LTRS=100に設定する。LTRSスコアは0~100の範囲にわたる。治療的介入からのウィンドウが6ヶ月に満たない場合には、LTRSスコアが較正のために使用される。同様に、この実施態様におけるLDVSはそれぞれの認知ドメインが1ヶ月という所与の時間ウィンドウにわたり縦断的に進行する。次いで、それぞれの認知ドメインについて単純線形回帰を使用して線形回帰モデルが構築される。その結果はそれぞれの認知ドメインiについての直線方程式y=ax+bであり:y_i=m_i*t+b_iである。この直線モデルの傾きが臨界速度において負である場合には(すなわち1ヶ月以内に低下がある)、LDVSの傾きの絶対値に対する乗数として、単一の個人に対して計算された認知ドメインの標準化スコアにわたる標準偏差として個人内標準偏差(iSD)が計算される。LTRS値およびLDVS値の両者は足し合わせられて複合スコアが生成される(0~200)。
【0150】
この実施例においては、150~200の複合スコアは治療的介入が機能しており、何の調整も行う必要がないことを意味している。
【0151】
100から150の間の複合スコアは医師に対して、異なる認知ドメイン(例えば表1に列挙された9つの認知ドメイン)について計算された認知ドメインパーセンタイルを調べるように警告し、システムは個人の医師に対して、その認知ドメインにおけるさらなる劣化を改善/防止するための適切な介入を示唆する。例えば、患者が視空間機能において低いスコアを示した場合、システムはメマンチン(ドネゼピル)の処方を示唆してよい。
【0152】
複合スコアが50~100である場合、システムは治療薬の増量を示唆してよい。1つの例において、治療薬はAduhelm(アデュカヌマブ)であってよく、これはアミロイドベータ指向性の抗体であり、ADの治療に用いられる。別の例では治療薬はAADvac1であってよく、これは脳内における有害なタウ蛋白の凝集に対して効果のある化合物であり、あるプラセボ対照無作為化第2相研究では神経フィラメント軽鎖(NfL)タンパク質の蓄積が遅いことと関連付けられていて、プラセボを投与された患者と比較して神経変性が遅いことが示唆されている(Novakら(2021))。
【0153】
これに加えて、医師はまた異なる認知ドメイン(例えば表1に列挙された9つの認知ドメイン)について計算された認知ドメインパーセンタイルをさらに調べるように奨励され、そしてシステムは個人の医師に対して、その認知ドメインにおけるさらなる劣化を改善/防止するための適切な介入を示唆する。例えば実行機能についてはメトホルミンすなわち現在第3相にある代謝/生体エネルギー化合物であり、知覚運動協応についてはTRx0237すなわち現在第3相にあるタウ蛋白指向性の抗体化合物である(Cummingsら(2020))。
【0154】
最後に、複合スコアが50未満である場合には、システムは治療的介入が危機的な段階にあり、またはその特定の個人/患者については失敗しつつあることを示唆してよい。
【0155】
このシステムはかくして軽度認知障害またはADである個人を診断するために、または軽度認知障害を有する個人がそのうちにADに転換するか否かを予測するために使用されることが可能である。それはまた適切な介入を処方しおよび/または既に処方された介入が有効であるかどうかの判定を補助するについて、医師を支援するために使用することができる。このシステムはしたがって、介入を開始し、介入を停止し、または薬剤やそうでないものに介入を変更することを示唆することによって、医師を支援してよい。それは個人に対して投与される薬剤的介入または特定の薬剤の適切な頻度および/または用量を示唆してよく、および/またはその個人に対する薬剤的介入の適切な投与経路を示唆してよい。これは上述した特定の薬剤的介入、例えば実施例4におけるものに適用され、また本願に開示があると否とを問わず、すべての他の潜在的な薬剤に対して適用される。
【0156】
本願に説明したシステムの1つの著しい利点は、ADの診断のために現在使用されている標準的な神経心理学的評価と比べると、それが一回のテストで認知能力の評価を可能にすることである。その結果として、従来の神経心理学的評価(例えばMMSE、ADAS-Cog)のために2時間を要するのと比べて、認知機能の測定をほぼ10分間程度で実施することができる。
【0157】
本願の教示を実現するために使用される装置300の1つの例が
図39に示されている。本例におけるこの装置300はモバイルデバイス302を含み、それには第1および第2のカメラ304、306が備えられ、典型的には一方は前向きであり(ユーザーから離れる向き)そして他方は後ろ向き(ユーザーに向かっておりディスプレイと同じ側にある)である。モバイルデバイス300は典型的にはまた出力ユニット310、位置センサー312(GPSモジュール、加速度計その他など)、マイクロホン320、ユーザー入力ユニット322および1つまたはより多くの処理ユニット330、340、360を含んでいる。
【0158】
モバイルデバイス300は好ましくは、スマートフォンのようなハンドヘルド可搬式デバイスである。しかしながら、モバイルデバイス302はまた任意の他の可搬式ユーザーデバイスであってよい。それは例えば、スマートウォッチまたはブレスレット、スマートグラスまたは類似物のようなウェアラブルであってよい。モバイルデバイス300は単一のデバイスであってよく、またはスマートウォッチまたはブレスレットと関連されたスマートフォン、或いはスマートグラスのような、複数のデバイスにおいて実現されていてよい。
図39はそうしたスマートデバイス420を、モバイルデバイス300と通信するように構成された外部アクセサリーとして示している。
【0159】
出力ユニット310はディスプレイ316を含んでいてよく、幾つかの実施においてはスマートグラス内のアイプロジェクターのようなプロジェクターであってよい。この出力はまたラウドスピーカーおよび/またはイヤホンまたはヘッドホン用のオーディオ出力ポートのような音響ユニット318を含んでいてよい。
【0160】
限定するものではないが、上記の教示において提示したような複数の異なる被験者からのデータの計算を含めて、コンピューティング作業をモバイルデバイス300からリモートで実行するための、内部デバイス400、典型的には処理ユニット、有利には人工ニューラルネットワークが備えられてよい。処理ユニット400は典型的にはモバイルデバイス300に結合されて、インターネット、無線ネットワークまたはGSMネットワークを経由するなどしてリモートでデータを交換する。幾つかの実施形態においては処理ユニット400は中央処理コンピュータを含んでいてよい。理解されるように、幾つかの実施形態においてはすべての処理はデバイス300内部で実行される。
【0161】
この装置はまた上述したように、スマートホームカメラその他のカメラ430のような外部の光学センサーを含んでいてよく、それは被験者の画像を取得しそれらをモバイルユニット300または外部の処理ユニット400或いは両者に対して伝えるように構成されている。理解されるように、外部の光学ユニット430は一連のカメラその他を含んでいてよく、連続的または同時的に被験者の複数の画像を取得することができる。
【0162】
当業者に理解されるように、これは本願の教示を実現するためのデバイスの単なる1つの例であり、また当業者はこれらの教示から、同じタスクを行うための異なる電子デバイスをどのように構成しまたは作成するかを理解するであろう。
【0163】
上述した方法およびシステムは認知能力の測定値をもたらして医師が損傷した認知機能の評価を行うのを支援し、ADの診断において使用される。それらは評価支援として好ましく用いられることを意図しており、ADの存在または欠如の識別診断を行うことを意図してはいない。特に、それらは他の診断評価の補助として用いられてよく、以前にMCIと診断された被験者がMCIからADに転換するのを予測することを意図している。しかしながら、それらは認知機能の評価および/または他の条件に起因する認知症の発現の予測において用途を見出してよい。
【0164】
当業者には、本発明の広範な概念から逸脱することなしに、上述した実施形態および実施例に対して変更を行うことが可能であることが理解される。したがって理解されるように、本発明は開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に規定された本発明の思想および範囲内の変更を包含することが意図されている。
【0165】
方法について開示および記載されたすべての特徴はシステムについて使用されてよく、また逆も同様である。
【0166】
本願が優先権を主張する米国特許出願第US63/211,953号の開示、および本願に添付された要約書における開示は、参照によって本願に取り入れられる。
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