(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-25
(54)【発明の名称】上皮細胞接着分子(EPCAM)阻害剤およびWNT阻害剤の併用癌治療法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/06 20060101AFI20240718BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240718BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240718BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240718BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240718BHJP
A61K 31/497 20060101ALI20240718BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240718BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240718BHJP
【FI】
A61K45/06 ZNA
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P35/02
A61K31/497
C07K16/18
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579193
(86)(22)【出願日】2022-06-24
(85)【翻訳文提出日】2024-02-16
(86)【国際出願番号】 US2022034885
(87)【国際公開番号】W WO2022272050
(87)【国際公開日】2022-12-29
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】596118493
【氏名又は名称】アカデミア シニカ
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Sec 2,Academia Road,Nankang,Taipei 11529 TW
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ハン-チュン
(72)【発明者】
【氏名】パンダ,スシュリー シャンカル
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA20
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB271
4C084ZC022
4C084ZC751
4C085AA13
4C085BB11
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC48
4C086GA07
4C086GA08
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC75
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、上皮細胞接着分子(EpCAM)阻害剤およびWntシグナル伝達阻害剤を用いた癌の併用療法に関する。具体的には、EpCAM阻害剤は、EpCAMの細胞外ドメイン(EpEX)に対する抗体である。この併用療法は、癌細胞のアポトーシスを誘導し、癌幹細胞性、腫瘍進行および/または転移を阻害し、および/または癌患者の生存を延長するのに有効である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) 上皮細胞接着分子(EpCAM)シグナル伝達の活性化を阻害する有効量の第1の阻害剤;および
(ii) Wntシグナル伝達の活性化を阻害する有効量の第2の阻害剤
を、それを必要とする対象に投与することを含む、癌を処置するための方法。
【請求項2】
第1の阻害剤が、EpCAMの細胞外ドメイン(EpEX)の産生(または放出)を減少させ、および/またはEpEXのWnt受容体への結合を阻止する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第2の阻害剤が、WntリガンドのWnt受容体タンパク質への結合を阻止する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
WntリガンドがEpEXではない、請求項3記載の方法。
【請求項5】
第1の阻害剤が、EpEXに対する抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項1から4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
抗体が、上皮増殖因子(EGF)様ドメインIおよびIIに特異的に結合する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
EGF様ドメインIに位置するCVCENYKLAVN(aa 27~37)(配列番号20)およびEGF様ドメインIIに位置するKPEGALQNNDGLYDPDCD(aa 83~100)(配列番号19)の配列内のエピトープに対して特異的な結合親和性を有する、請求項5記載の方法。
【請求項8】
抗体または抗原結合フラグメントが、
(a) 配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域1(HC CDR1)、配列番号4のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域2(HC CDR2)、および配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域3(HC CDR3)を含む重鎖可変領域(VH);ならびに
(b) 配列番号9のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域1(LC CDR1)、配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域2(LC CDR2)、および配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域3(LC CDR3)を含む軽鎖可変領域(VL)、
を含む、請求項5から7のいずれか一項記載の方法、
【請求項9】
第1の阻害剤が、β-カテニンシグナル伝達を阻害するのに有効である、請求項1から8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
第2の阻害剤が、ポルクピン阻害剤である、請求項1から9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
癌細胞のアポトーシスを誘導するのに有効である、請求項1から8のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
癌幹細胞性、腫瘍進行および/または転移を阻害するのに有効である、請求項1から9のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
対象の生存を延長するのに有効である、請求項1から10のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
癌が、肺癌、脳腫瘍、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、胃癌、頭頸部癌、腎臓癌、白血病、肝臓癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌および精巣癌からなる群より選択される、請求項1から11のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
(i) EpCAMシグナル伝達の活性化を阻害する第1の阻害剤;および
(ii) Wntシグナル伝達の活性化を阻害する第2の阻害剤
を含む、キットまたは医薬組成物。
【請求項16】
第1の阻害剤が、請求項1、2および5から9のいずれか一項記載のものであり、かつ/または第2の阻害剤が、請求項3、4または10に記載のものである、請求項15記載のキットまたは医薬組成物。
【請求項17】
癌を処置するための薬剤またはキットを製造するための、(i) EpCAMシグナル伝達の活性化を阻害する第1の阻害剤、および(ii) Wntシグナル伝達の活性化を阻害する第2の阻害剤、の組合せの使用。
【請求項18】
第1の阻害剤が、請求項1、2および5から9のいずれか一項記載のものであり、かつ/または第2の阻害剤が、請求項3、4または10に記載のものである、請求項15記載の使用。
【請求項19】
薬剤またはキットが癌細胞のアポトーシスを誘導するのに有効である、請求項17または18記載の使用。
【請求項20】
薬剤またはキットが、癌幹細胞性、腫瘍進行および/または転移を阻害するのに有効である、請求項17から19のいずれか一項記載の使用。
【請求項21】
薬剤またはキットが、対象の生存を延長するのに有効である、請求項17から20のいずれか一項記載の使用。
【請求項22】
癌が、肺癌、脳腫瘍、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、胃癌、頭頸部癌、腎臓癌、白血病、肝臓癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌、および精巣癌からなる群より選択される、請求項17から21のいずれか一項記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、米国特許法第119条に基づいて2021年6月25日に提出された米国仮出願番号63/215,036号について優先権の利益を主張し、その内容全体は引用により本明細書に包含させる。
【0002】
技術分野
本発明は、上皮細胞接着分子(EpCAM)阻害剤およびWnt阻害剤を用いた癌の併用療法に関する。具体的には、EpCAM阻害剤は、EpCAMの細胞外ドメイン(EpEX)に対する抗体である。この併用療法は、癌細胞のアポトーシスを誘導し、癌の幹細胞性を抑制し、腫瘍の進行および/または転移を抑制し、および/または癌患者の生存期間を延長させるのに有効である。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
上皮細胞接着分子(Epithelial cell adhesion molecule;EpCAM、別名CD326)は、大腸癌(CRC)を含む多くの癌種で高度に発現されている。健康な上皮細胞における細胞接着機能とは異なり、このタンパク質は細胞膜での切断によって活性化され、細胞外ドメイン(EpEX)および細胞内ドメイン(EpICD)を放出し、増殖、上皮間葉転換(EMT)、幹細胞化および分化に関与して腫瘍の進行を促進する(Chen et al、2020; Gires et al., 2009; Gires et al., 2020; Liang et al., 2018; Lin et al., 2012; Maetzel et al., 2009; Sankpal et al., 2017)。この点に関して、EpEXはEGFRに直接結合し、EGFRのリン酸化およびPD-L1の安定化を含むその下流のシグナル伝達を刺激することが報告されている(Chen et al., 2020;Liang et al., 2018; Pan et al., 2018)。重要なことは、EpCAMが強力な癌幹細胞(CSC)抗原であることが示されていることである。しかしながら、その正確な役割はよくわかっていない(Gires et al., 2009; Gires et al., 2020; Lin et al., 2012)。本明細書中、CSCの病態生物学において中心的な役割を果たすことが知られている経路のひとつがWnt-β-カテニンシグナル伝達であり、このシグナル伝達は、腫瘍形成能、腫瘍の可塑性および薬剤耐性など、いくつかの悪性腫瘍に関連する特徴の促進に関与しているため、この経路は癌における興味深い治療標的となる(Kahn, 2014; Nusse and Clevers, 2017)。CSC集団を標的とすることが有益な治療戦略となる可能性が示唆されているが、CSC集団の決定的な同定は依然として大きな課題となっている(Batlle and Clevers, 2017)。癌治療においてCSCを標的とするために、CSCにシグナルを送る腫瘍微小環境の因子を標的とすることで、Wnt経路の活性化を阻止することが可能であり得る(Batlle and Clevers, 2017; Nusse and Clevers, 2017; Zhan et al., 2017)。
【0004】
EpICDは、細胞の運動性、増殖、生存および転移を促進するよく研究された因子であるため、EpCAMはCSCにおけるWntシグナル伝達のそのようなメディエーターの1つであり得る(Gires et al., 2009; Gires et al., 2020; Liang et al., 2018; Lin et al., 2012; Park et al., 2016)。さらに重要なことに、可溶性EpICDは、β-カテニンおよびFour and one-half LIM ドメインタンパク質2(FHL2)と呼ばれる足場タンパク質と複数タンパク質の核錯体を形成し、核に移行し、T細胞因子(TCF)またはリンパ系エンハンサー因子1(LEF-1)と結合してWnt標的遺伝子を転写し得ることが知られている(Maetzel et al., 2009; Park et al., 2016; Ralhan et al., 2010)。しかしながら、EpEXがWnt経路と何らかの形で協調しているかどうかは不明である。
【0005】
結腸直腸癌(CRC)患者では、EpCAMの高発現は予後不良を示唆しており、これはCRC細胞の機能におけるEpICDの重要な関与が知られていることと一致している(Chen et al., 2020; Kim et al., 2016; Liang et al., 2018; Lin et al., 2012; Seeber et al., 2016; Wang et al., 2016)。さらに、EpCAMは、親腫瘍形成細胞の生殖および表現型の異質性を刺激することにより、CRC幹細胞の発癌能を増強する。マウスモデルでは、EpCAMhigh/CD44+細胞は高い腫瘍形成性を示しただけでなく、幹細胞性を示すいくつかの亜集団への分化にも成功した(Boesch et al., 2018; Dalelba et al., 2007)。実際、EpICD-β-カテニン複合体の核移行は、Oct4、Sox2およびc-Mycなどのリプログラミング遺伝子の転写を上方制御し、CRC細胞に自己再生能力を付与するとともに、スネイル、スラグ、ツイストなどのEMT誘導遺伝子の活性化をもたらすことが知られている(Lin et al., 2012)。したがって、EpCAMの機能的レパートリーをさらに理解することで、CRC幹細胞を標的とする方法が明らかになり得る。
【0006】
癌では、EpICDがβ-カテニンと複合して機能するため、Wntシグナル伝達はEpCAM活性に関与している可能性がある(Liang et al., 2018; Maetzel et al., 2009; Park et al., 2016; Ralhan et al., 2010)。特に、Wntシグナル伝達成分はCRCに豊富に存在し、異常に調節されており、Wnt関連タンパク質は癌細胞の幹細胞性、自己再生および異質性に大きな影響を及ぼす(Batlle and Clevers, 2017; de Sousa e Melo et al., 2017; Kozar et al., 2013; Nusse and Clevers, 2017; Schepers et al., 2012)。さらに、全大腸腫瘍のほぼ80%が大腸腺腫(APC)遺伝子の機能喪失型変異を保有しており、CRC腫瘍の約5%がβ-カテニンの活性化変異を有している(Cancer Genome Atlas, 2012; Morin et al., 1997)。このような変異を有するCRC細胞がシグナル伝達を駆動するために外因性Wntリガンドを必要とするかどうかは依然として議論の余地があるが、Voloshanenkoらは、Wnt活性化変異にかかわらず、Wnt分泌およびその受容体との相互作用が高レベルのWnt活性を駆動し維持するために必要であることを報告した(Voloshanenko et al., 2013)。同様に、S33、S37およびT41におけるβ-カテニンのリン酸化が、プライミングリン酸化部位であるS45に変異を有する細胞で起こり、細胞をWntリガンドに感作させることができることも決定的に示された(Wang et al., 2003)。したがって、Wnt経路を標的とする1つの方法は、Wntタンパク質のパルミトイル化に必要なo-アシル-トランスフェラーゼであるポルクピン(porcupine)を阻害することによってWnt活性化を阻害することである可能性がある(Nusse and Clevers, 2017)。加えて、Wnt活性は腫瘍微小環境における外因性信号(cue)によって支配されているため、APCまたはβ-カテニン変異とは無関係にCRC細胞の幹細胞性を機能的に決定することが見出された(Vermeulen et al., 2010)。したがって、CRC腫瘍を最もよく標的とするためには、必須の細胞内シグナル伝達イベントおよび微小環境からCRC幹細胞への外因性信号を標的とすることによって幹細胞性特性を阻害することが有益である可能性がある(Batlle and Clevers, 2017; Nusse and Clevers, 2017; Vermeulen et al., 2010)。
【発明の概要】
【0007】
発明の概要
本明細書では、上皮細胞接着分子(EpCAM)阻害剤およびWntシグナル阻害剤を併用した癌治療法を記載している。具体的には、EpCAM阻害剤はEpCAMの細胞外ドメイン(EpEX)に対する抗体である。併用療法は、癌細胞のアポトーシスを誘導し、癌の幹細胞性を抑制し、腫瘍の進行および/または転移を抑制し、および/または癌患者の生存期間を延長するのに有効である。
【0008】
一局面において、本発明は、癌を処置するための方法であって、それを必要とする対象に、
(i) EpCAMシグナル伝達の活性化を阻害する有効量の第1の阻害剤;および
(ii) Wntシグナル伝達の活性化を阻害する有効量の第2の阻害剤
を投与することを含む方法を提供する。
【0009】
ある態様において、第1の阻害剤は、EpEXの産生(または放出)を減少させ、および/またはEpEXのWnt受容体への結合を阻害する。
【0010】
ある態様において、第2の阻害剤は、WntリガンドとWnt受容体タンパク質との結合を阻害する。具体的には、WntリガンドはEpEXではない。
【0011】
ある態様において、第1の阻害剤は、EpEXに対する抗体(抗EpEX抗体)またはその抗原結合フラグメントである。
【0012】
ある態様において、本明細書に記載の抗EpEX抗体は、上皮増殖因子(EGF)様ドメインIおよびIIに特異的に結合する。特定の例では、本明細書に記載の抗EpEX抗体は、EGF様ドメインIに位置するCVCENYKLAVN(aa 27~37)(配列番号20)、およびEGF様ドメインIIに位置するKPEGALQNNDGLYDPDCD(aa 83~100)(配列番号19)の配列内のエピトープに特異的結合親和性を有する。
【0013】
いくつかの態様において、抗体または抗原結合フラグメントは、
(a) 配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域1(HC CDR1)、配列番号4のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域2(HC CDR2)、および配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域3(HC CDR3)を含む重鎖可変領域(VH);ならびに、
(b) 配列番号9のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域1(LC CDR1)、配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域(LC CDR2)、および配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域3(LC CDR3)を含む軽鎖可変領域(VL)、
を含む。
【0014】
いくつかの態様において、VHは配列番号15のアミノ酸配列を含み、および/またはVLは配列番号16のアミノ酸配列を含む。
【0015】
いくつかの態様において、β-カテニンシグナル伝達を阻害するのに有効である。
【0016】
いくつかの態様において、第2の阻害剤はポルクピン(porcupine)阻害剤である。
【0017】
いくつかの態様において、本発明の方法は、癌細胞のアポトーシスを誘導するのに有効である。
【0018】
いくつかの態様において、本発明の方法は、癌幹細胞性(cancer stemness properties)、腫瘍進行および/または転移を阻害するのに有効である。
【0019】
いくつかの態様において、本発明の方法は、対象の生存期間の延長に有効である。
【0020】
いくつかの態様において、処置される癌は、肺癌、脳腫瘍、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、胃癌、頭頸部癌、腎臓癌、白血病、肝臓癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌および精巣癌からなる群より選択される。
【0021】
別の態様において、本発明は、
(i) EpCAMシグナル伝達の活性化を阻害する第1の阻害剤;および
(ii) Wntシグナル伝達の活性化を阻害する第2の阻害剤、
を含む医薬組成物のキットを提供する。
【0022】
また、本発明では、癌を処置するための医薬品またはキットを製造するための、(i) EpCAMシグナルの活性化を阻害する第1の阻害剤;および、(ii) Wntシグナルの活性化を阻害する第2の阻害剤、の組合せの使用も提供する。
【0023】
本発明の1以上の態様の詳細は、以下の説明に記載されている。本発明の他の特徴または利点は、以下のいくつかの態様の詳細な説明、および添付の特許請求の範囲から明らかになり得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図面の簡単な説明
上記のまとめおよび以下の発明の詳細な説明は、添付の図面と合わせて読むと、よりよく理解され得る。本発明を説明するために、現時点で好ましい態様を図面に示す。しかしながら、本発明は、図示された正確な配置性および機能性に限定されるものではないことを理解されたい。
【
図1】
図1Aから1D。CRC患者サンプルにおいて、EpCAMは活性型β-カテニンと相関している。(
図1A)CRCの種々の病期におけるEpCAMおよび活性型β-カテニンのIHC染色(スケールバー:100μm)。(
図1B)EpCAMおよび(
図1C)活性型β-カテニン発現について、120名の患者からのサンプルにおける発現強度を定量した。(
図1D)120名の患者サンプルにおけるEpCAMと活性型β-カテニンとの相関は、ピアソン相関係数rを示した。データは一元配置分散分析(one-way ANOVA)後にボンフェローニ補正(Bonferroni correction)を行い、エラーバーは平均値の±SDを表す。*p <0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p <0.0001。
【
図2】
図2Aから2K。EpEXはβ-カテニンの核内転位と関連する生物学的機能を促進する。(
図2A)IFSは、指示された処理による核β-カテニンを示す;各群の50細胞からの核β-カテニンの定量が含まれる(スケールバー:10μm)。(
図2B)ウェスタンブロット分析は、指示された処理による種々の細胞分画における活性β-カテニン発現を示し、(
図2C)HCT116細胞において示されるような対応するTCF活性(%)を示す。指示された処理は、SW620細胞におけるTCF活性(%)(
図2D)、HT29細胞におけるAxin2発現を示すウェスタンブロット分析(
図2E)、およびHT29細胞におけるmRNA発現に対応するウェスタンブロット分析(
図2F)を示す。(
図2G)指示された処理による核β-カテニンを示すIFS。各群50細胞からの核β-カテニンの定量(スケールバー:10μm)および対応するHCT116細胞における核β-カテニンレベルを確認するウェスタンブロット(
図2H)(3回の独立した実験からのバンド強度の定量)、(
図2I)Colo205細胞におけるTCF活性(%)(
図2J)Axin2発現を示すウェスタンブロット分析、および(
図2K)Colo205細胞における相対的mRNA発現。データは一元配置分散分析または二元配置分散分析(C)を用いて分析し、ボンフェローニ補正を行い、エラーバーは平均値の±SDを表す。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。Ctrl:対照。
【
図3】
図3Aから3G。EpEXはEpICDとは無関係にβ-カテニンの核内転座を刺激する。(
図3A)EpCAMノックダウンHCT116細胞における核内β-カテニンを示すウェスタンブロット分析;3つの独立した実験からのバンド強度の定量化。(
図3B)免疫蛍光および(
図3C)ウェスタンブロット分析であり、EpCAM-KO HCT116細胞およびEpEX処理による核内β-カテニンを示す。(
図3D)免疫蛍光および(
図3E)ウェスタンブロット分析であり、HCT116細胞における指示された処理による核内β-カテニンを示す。(
図3F、
図3G)HCT116細胞における指示された処理に対応するTCF(%)活性。(すべて共焦点画像:スケールバー10μm、各群30細胞の核内β-カテニンの定量)。統計は、一元配置分散分析(one-way ANOVA)後、ボンフェローニ補正を用いて行い、エラーバーは平均値の±SDを表す。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。Ctrl:対照、KO:ノックアウト。
【
図4】
図4Aから4E。EpEXおよびWntタンパク質は、β-カテニンの核内移行と関連する生物学的機能を協調的に制御している。指示された処理を行ったHCT116細胞における、(
図4A)IFS(スケールバー10μmおよび各群30細胞の核内β-カテニンの定量)、(
図4B)核内β-カテニンを示すウェスタンブロット分析、(
図4C)対応するTCF(%)活性、(
図4D)Wnt標的Axin2発現、および(
図4E)相対的Axin2 mRNA発現。統計は、一元配置分散分析(one-way ANOVA)後、ボンフェローニ補正を用いて行い、エラーバーは平均値の±SDを表す。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。Ctrl:対照。
【
図5】
図5Aから
図5C。EpCAMシグナルおよびWntシグナルの組合せ阻害は、Wnt関連機能を消失させる。指示された処理によるHCT116細胞における、(
図5A)対応するTCF活性(%)、(
図5B)Wnt標的Axin2発現、(
図5C)Axin2 mRNA相対発現。統計は、一元配置分散分析(one-way ANOVA)後、ボンフェローニ補正を用いて行い、エラーバーは平均値の±SDを表す。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。Ctrl:対照。
【
図6】
図6Aから6H。hEpAb2-6はβ-カテニンの核内転座を抑制し、癌の幹細胞性を制限し、アポトーシスを誘導する。(
図6A)免疫蛍光は、示された抗体または阻害剤処理を伴うHT29細胞における核β-カテニンを示す;各群30細胞からの核β-カテニンの定量(スケールバー:10μm)。(
図6B)ウェスタンブロット分析は、HT29細胞における、示された抗体または阻害剤処理後の核および全β-カテニンを示す;(
図6C)TCF活性を示す。(
図6D)腫瘍球およびコロニー形成アッセイ、(
図6E)球数および(
図6F)コロニー密度(各ケースとも5×10
3細胞を播種)。(G-H) 示された処理を用いたアネキシンVアポトーシスアッセイ;HCT116細胞における3つの独立した試験からのアポトーシス細胞の定量。統計は一元配置分散分析(one-way ANOVA)を用い、ボンフェローニ補正を行った;エラーバーは平均値±SDを表す。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。Ctrl:対照。
【
図7】
図7Aから
図7E。EpCAMおよびWntシグナルを標的とすることで、CRCの幹細胞化が抑制される。(
図7A、
図7B、
図7C)ウェスタン法およびqPCR法により、示した細胞株におけるEpCAMのノックアウト(KO)または強制発現(OE)を示した。(
図7D)EpCAM-KO HT29細胞における増殖曲線の比較。(
図7E)HT29細胞における指示された処理による腫瘍球形成。データは一元配置分散分析または二元配置分散分析(D)を用いて分析し、ボンフェローニ補正を行い、エラーバーは平均値の±SDを表す。*p<0.05、**p<0.01、***p <0.001、****p<0.0001。Ctrl:対照。
【
図8】
図8Aから
図8N。EpEX/EpCAMおよびWntシグナルは協調的に癌の幹細胞性を制御する。(
図8A)表示されたHCT116細胞における増殖曲線の比較および(
図8B)CT26細胞における増殖曲線の比較。(
図8C、
図8D、
図8E、
図8F)インビボでの腫瘍の大きさおよび進行の比較;10
3 対照およびEpCAM-KO HCT116細胞をNSGマウスに皮下移植した(各細胞株についてn=6)。(
図8G)対照およびEpCAM-KO HT29細胞を用いたインビトロ再生アッセイ。HCT116細胞における腫瘍スフェア(sphere)形成(
図8H)およびスフェア数(
図8I)。HT29細胞における指示された処理によるコロニー形成(
図8J)および密度(播種した5×10
3細胞)(
図8K)。SW620細胞(両方のアッセイのために播種された1×10
3細胞)における示された処理による、(
図8L) スフェアおよびコロニー形成、(
図8M)コロニー密度、および(
図8N)スフェア数。データは、一元配置ANOVAまたは二元配置ANOVA(
図8A、
図8B、
図8D)を用いてデータを分析した後、ボンフェローニ補正を行い、エラーバーは平均値の±SDを表した。*p <0.05、**p <0.01、***p <0.001、****p<0.0001。Ctrl:対照、KO:EpCAM-ノックアウト、OE:EpCAM強制発現。
【
図9】
図9Aから
図9I。EpEXはWnt受容体と相互作用し、Wntシグナルを誘導する。(
図9A、
図9B)アフィニティー架橋したEpEX/Wnt受容体タンパク質の共免疫沈降(Co-IP)により、HCT116細胞で複合体が得られた。精製されたWnt受容体-GST融合タンパク質をコートしたプレートに結合する示した抗体複合体とインキュベートした、(
図9C)EpEX単独、または(
図9D)EpEXのいずれかを示すELISA。(
図9E)HCT116細胞における示された処理によるLRP5/6のリン酸化を示すウェスタンブロット分析、3つの独立した試験からの定量されたバンド強化。(
図9F)HEK293細胞にEGFドメイン(I/II)欠失変異型EpCAM-V5プラスミドをトランスフェクトした。アフィニティー架橋した変異型EpCAM-V5/Wnt受容体タンパク質のIPは、それぞれの受容体抗体でブロッティングした複合体をもたらした。HT29細胞をEGFドメイン(I/II)欠失変異型EpEXタンパク質で処理したところ、(
図9G)LRP5/6のリン酸化を示すウェスタンブロットと、少なくとも3回の独立した試験から定量化したバンド強度、および(
図9H)変異型EpEX処理したHCT116細胞における核内転位β-カテニンを示すIFS;各群50細胞の核内β-カテニンの定量(スケールバー10μM)。(
図9I)SW620細胞を用いた3つの独立した試験から、LRP5/6のリン酸化阻害を示すウェスタンブロッティング、および定量化したバンド強度。データは、一元配置分散分析(one-way ANOVA)、ボンフェローニ補正を用いて分析し、エラーバーは平均値の±SDを表す。*p <0.05、**p <0.01、***p <0.001、****p <0.0001。Ctrl:対照、GST:グルタチオンS-トランスフェラーゼ、pAb:ポリクローナル抗体。
【
図10】
図10Aから
図10G。EpEXおよびWntタンパク質はTACEおよびγセクレターゼ酵素を活性化する。示された処理後の、(
図10A)HCT116細胞および(
図10B)H29細胞におけるTACE活性、ならびに(
図10C)HCT116細胞および(
図10D)H29細胞におけるγセクレターゼ活性。(
図10E)示された処理後のHCT116細胞におけるリン酸化TACEおよびPS2のレベルを示す、ウェスタンブロット分析。リン酸化TACEおよびPS2に対する、(
図10F)BIOおよび(
図10G)PF-670462処理の効果;少なくとも3つの独立した試験からのバンド強度を定量した。データは、一元配置分散分析(one-way ANOVA)と、それに続くボンフェローニ多重比較(Bonferroni multiple comparisons)を用いて分析した。エラーバーは平均値の±SDを示す。*p<0.05、**p <0.01、***p<0.001、****p <0.0001。Ctrl:対照。
【
図11】
図11Aから
図11M。EpICDはWnt受容体タンパク質および幹性因子(stemness factor)の転写を上方制御する。(
図11A)EpCAMノックダウンH29細胞におけるWnt受容体タンパク質発現および(
図11B)相対的mRNA発現。(
図11C)EpCAM-KOおよびEpCAMプラスミドをトランスフェクトしたHCT116細胞におけるWnt受容体タンパク質発現を示すウェスタンブロット分析、および3つの独立した試験から定量化したバンド強度、および(
図11D)対応する相対mRNA発現。(
図11E)一晩DAPT処理したHT29細胞におけるWnt受容体タンパク質発現と、3つの独立した試験から定量化したバンド強度、および対応する(
図11F)相対mRNA発現。(
図11G)HCT116細胞、(
図11H)EpCAM-KO HT29細胞、および(
図11I)SW620細胞における、EpCAMプラスミドのトランスフェクションおよびDAPT処理後のWnt受容体プロモーター活性。(
図11J)HCT116細胞における示された処理後のWnt受容体発現を示すウェスタンブロット分析、および3つの独立した試験から定量化したバンド強度(
図11K)相対的mRNA発現。(
図11L)ウェスタンブロット解析により、HT29細胞における指示された処理による幹細胞性因子の発現を示し、3つの独立した試験からバンド強度を定量した;(
図11M)相対的mRNA発現。データは、一元配置分散分析(one-way ANOVA)、ボンフェローニ補正(Bonferroni correction)を用いて分析し、エラーバーは平均値の±SDを表す。*p<0.05、**p <0.01、***p <0.001、****p <0.0001。Ctrl:対照、Trans:トランスフェクション。
【
図12】
図12Aから12F。EpICDはWnt受容体の転写を促進する。(
図12A)EpCAM-KO HCT116細胞におけるWnt受容体タンパク質の発現および(
図12B)対応するmRNAの発現。(
図12C)EpCAMプラスミドを導入したEpCAM-KO HCT116細胞と導入していないEpCAM-KO HCT116細胞の細胞形態の比較。(
図12D)HCT116細胞におけるDAPT処理によるWnt受容体タンパク質の発現を示すウェスタンブロット分析。(
図12E)ルシフェラーゼレポーターを有するWnt受容体プロモータープラスミド構築。(
図12F)EpCAM-KO HCT116細胞にEpCAMプラスミドをトランスフェクションし、一晩DAPT処理した後のWnt受容体プロモーター活性。データは、一元配置分散分析(one-way ANOVA)、ボンフェローニ補正を用いて分析し、エラーバーは平均値の±SDを表す。*p <0.05、**p <0.01、***p <0.001。Ctrl:対照;KO:ノックアウト;PM:プロモーター;LUC:ルシフェラーゼ。
【
図13】
図13Aから13F。EpEXおよびWntタンパク質は共同でWnt受容体および幹性因子の発現を促進する。(
図13A)HCT116細胞における示された処理によるWnt受容体タンパク質発現を示すウェスタンブロット分析、および(
図13B)相対的mRNA発現。(
図13C)EpCAMノックダウンHCT116細胞における、示された幹細胞因子発現を示すウェスタンブロット分析;(
図13D)相対的mRNA発現。(
図13E)示された処理により幹細胞因子発現を示すHT29細胞のウェスタンブロット分析、(
図13F)相対的mRNA発現。データは、一元配置分散分析(one-way ANOVA)、ボンフェローニ補正を用いて分析し、エラーバーは平均値の±SDを表す。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。Ctrl:対照。
【
図14】
図14Aから
図14F。EpAb2-6およびLGK974は協調的に腫瘍の進行を抑制する。(
図14A)SW620細胞における示された処理によるアネキシンVアポトーシスアッセイ、(
図14B)3つの独立した試験によるアポトーシス細胞数の定量。(
図14C)カプランマイヤー生存率プロットは、示された処理後の転移モデルの動物生存率を示す。(
図14D)同所性動物モデルにおける腫瘍の進行を示す生物発光(0日目=移植後72時間)(
図14E)発光の定量、(
図14F)同所性モデルにおける動物の生存期間を示すカプランマイヤー生存期間プロット。データは、一元配置分散分析(one-way ANOVA)または二元配置分散分析(way-way ANOVA)を用いて分析し(
図14E)、その後ボンフェローニ補正を行い、エラーバーは平均値の±SDを表す。*p <0.05、**p<0.01、***p <0.001、****p <0.0001。Ctrl:対照。
【
図15】
図15Aから15E。EpCAMおよびWntシグナルは協同して腫瘍の進行に関与するため、これらの阻害は癌細胞のアポトーシスを誘導し、転移を阻止する。(
図15A、
図15B)示された処理によるアネキシンVアポトーシスアッセイ;HCT116細胞における3つの独立した試験からのアポトーシス細胞の定量。(
図15C)転移性CRCモデル動物および同所性CRCモデル動物(HCT116細胞)の両方の治療スケジュール。(
図15D)転移モデルにおける示された処理後の動物の体重比較(
図15E)剖検の結果、転移モデルにおけるマウスの死亡は、腫瘍が様々な臓器に転移したためであった。(F)同所性動物モデルにおけるマウスの体重比較。データは、一元配置分散分析(one-way ANOVA)、ボンフェローニ補正を用いて分析し、エラーバーは平均値の±SDを表す。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。Ctrl:対照。
【
図16】
図16。まとめると、EpCAMはCRCの幹細胞化を促進するWntシグナルを誘導することから、EpAb2-6およびポルクピン阻害剤による複合阻害は、癌の幹細胞化を抑制し、CRC処置を改善し得る。
【
図17】
図17Aから17B。ヒトEpCAMの配列の特徴およびドメイン。(
図17A)314アミノ酸残基を含むヒトEpCAMの全長(配列番号17)。(
図17B)EpEXドメインが、VGAQNTVIC(aa51~59、配列番号18)を含むEGF Iドメイン(aa 27~59)と、LYDモチーフ(aa 94~96)を含むKPEGALQNNDGLYDPDCD(aa83~100、配列番号19)を含むEGF IIドメイン(aa 66-135)とを含む、EpCAMのドメインの同定。
【
図18】
図18Aから18G。EpAb2-6はEpCAMのEGF様ドメインIおよびIIの両方に結合する。HEK293T細胞に全長またはEGF様ドメイン欠失変異型EpCAM-V5をトランスフェクトした。抗体結合を、(
図18A)ウェスタンブロッティング、(
図18B)フローサイトメトリー、および(
図18C)免疫蛍光法で評価した。(
図18D)EGF-I(Y32A)およびEGF-II(L94A、Y95AまたはD96A)ドメインのアミノ酸を置換したEpCAM変異体を構築した。EpCAM野生型および変異型タンパク質をHEK293T細胞で発現させた。MT201、EpAb2-6およびEpAb23-1のEpCAM野生型および変異体への結合を、(
図18E)免疫蛍光法、(
図18F)フローサイトメトリー、および(
図18G)細胞ELISAで評価した。すべてのデータは平均値±SEMで示した。*, p<0.05; **, p<0.01。
【
図19】
図19。EpAb2-6のアミノ酸配列、ここで、VH(配列番号15)は、配列番号2のHC CDR1、配列番号4のHC CDR2、および配列番号6のHC CDR3を含み;そして、VL(配列番号16)は、配列番号9のLC CDR1、配列番号11のLC CDR2、および配列番号13のHC CDR3を含む。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
以下の説明は、単に本発明の種々の態様を説明するためのものである。そのため、本明細書で説明する特定の態様または改変は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるものではない。当業者であれば、本発明の範囲を逸脱することなく、様々な変更または均等態様等が実施され得ることは理解し得る。
【0026】
本発明を明確かつ容易に理解するために、まず特定の用語を定義する。その他の定義は、詳細な説明の中に記載されている。別段の定義がない限り、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0027】
本明細書で用いる、単数形“a”、“an”、および“the”は、文脈で別段の明確な記載がない限り、複数の対象を含む。よって、例えば、“構成要素(a component)”への言及には、複数のそのような構成要素および当業者に既知のそれらの均等物が含まれる。
【0028】
用語“含む(comprise)”または“含むこと(comprising)”とは、一般的に、1以上の特徴、成分または構成要素の存在を許容することを意味する、含む(include)/含むこと(including)という意味で用いられる。用語“含む”または“含むこと”は、用語“~からなる(consist)”または“~からなる(consisting of)”を包含する。
【0029】
本明細書で用いる用語“ポリペプチド”とは、ペプチド結合を介して結合したアミノ酸残基からなるポリマーを意味する。用語“タンパク質”とは、通常、比較的大きなポリペプチドを意味する。用語“ペプチド”とは、通常、比較的短いポリペプチド(例えば、最大100アミノ酸残基、90アミノ酸残基、70アミノ酸残基、50アミノ酸残基、30アミノ酸残基、20アミノ酸残基または10アミノ酸残基を含む)を意味する。
【0030】
本明細書で用いる用語“約(approximately)”または“約(about)”は、当業者に理解され得る許容可能な逸脱の程度を意味し、それが用いられる文脈によってある程度変化し得る。具体的には、“約”とは、指示される数値の±10%または±5%または±3%の範囲を有する数値を意味し得る。
【0031】
本明細書で用いる用語“実質的に同一”とは、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性(homology)を有する2つの配列を意味する。
【0032】
本明細書で用いる用語“抗体”(複数形が互換的に用いられる)は、特定の標的抗原性分子に特異的に結合する能力を有する免疫グロブリン分子を意味する。本明細書で用いる用語“抗体”には、インタクトな(すなわち全長の)抗体分子だけでなく、抗原結合能を保持するその抗原結合フラグメント、例えばFab、Fab’、F(ab’)2およびFvも含まれる。かかるフラグメントも当技術分野ではよく知られており、インビトロでもインビボでも常用されている。用語“抗体”には、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、ダイアボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、および必要な特異性の抗原認識部位を含む免疫グロブリン分子のその他の修飾構成(抗体のアミノ酸配列変異体、抗体のグリコシル化変異体、および共有結合的に修飾された抗体を含む)も含まれる。
【0033】
インタクトなまたは完全な抗体は、2本の重鎖および2本の軽鎖を含む。各重鎖は可変領域(VH)および第1、第2および第3の定常領域(CH1、CH2およびCH3)を含み、各軽鎖は可変領域(VL)および定常領域(CL)を含む。抗体は“Y”字型をしており、Yの軸はジスルフィド結合を介して結合した2本の重鎖の第2および第3の定常領域からなる。Yの各アームは、1本の軽鎖の可変領域および定常領域に結合した1本の重鎖の可変領域および第1の定常領域を含む。軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域が抗原結合を担っている。両鎖の可変領域は、一般的に、抗原結合を担っており、各々3つの高度に可変の領域、すなわち、HC CDR1、HC CDR2、HC CDR3を含む重(H)鎖CDR、ならびにLC CDR1、LC CDR2、LC CDR3を含む軽(L)鎖CDRを含む。3つのCDRはフレームワーク領域(FR1、FR2、FR3およびFR4)に隣接しており、これらの領域はCDRよりも高度に保存されており、超可変領域を支える足場を形成している。重鎖および軽鎖の定常領域は抗原結合には関与していないが、種々のエフェクター機能に関与している。重鎖の定常ドメインの抗体アミノ酸配列によって、免疫グロブリンは異なるクラスに分類される。免疫グロブリンには、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMの5つの主要なクラスがある。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマおよびミューと呼ばれる。
【0034】
本明細書では、用語“抗原結合フラグメント”または“抗原結合ドメイン”とは、抗原結合を担うインタクトな抗体分子の一部または領域を意味する。抗原結合フラグメントは、親抗体が結合するのと同じ抗原に結合できる。抗原結合フラグメントの例としては、(i) VH-CH1鎖およびVL-CL鎖からなる一価フラグメントであり得るFabフラグメント;(ii) ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントからなる二価フラグメントであり得るF(ab’)2フラグメント;(iii) 抗体分子のVHドメインおよびVLドメインが非共有結合で結合したFvフラグメント;(iv) ペプチドリンカーを介してVHドメインおよびVLドメインから構成される一本鎖ポリペプチド鎖であり得る単鎖Fv(scFv);(v) ペプチドリンカーによって連結された2つのVHドメインおよびジスルフィド橋を介して2つのVHドメインと結合している2つのVLドメインを含み得る(scFv)2、が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
本明細書で用いる用語“キメラ抗体”とは、異なる供給源、例えば異なる種由来のポリペプチドを含む抗体を意味する。ある態様において、キメラ抗体において、軽鎖および重鎖の両方の可変領域は、ある種の哺乳動物(例えば、マウス、ウサギおよびラットなどの非ヒト哺乳動物)由来の抗体の可変領域を模倣し得るが、一方で定常領域は、ヒトなどの別の哺乳動物由来の抗体の配列と相同であってもよい。
【0036】
本明細書で用いる用語“ヒト化抗体”とは、ヒト抗体由来のフレームワーク領域および非ヒト(通常はマウスまたはラット)免疫グロブリン由来の1以上のCDRを含む抗体を意味する。
【0037】
本明細書で用いる用語“ヒト抗体”とは、相補性決定領域(CDR)を含む軽鎖および重鎖の配列の本質的に全体がヒト遺伝子由来の抗体を意味する。ある場合には、ヒト抗体は、例えば、可能性のある免疫原性を減少させ、親和性を増加させ、望ましくない折り畳み(フォールディング)を引き起こし得るシステインを除去するなどのために、1以上のCDR、または1以上のFRに変異を加えるなどして、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列によってコードされていない1以上のアミノ酸残基を含んでいてもよい。
【0038】
本明細書で用いる用語“特異的に結合する(specific binds, specifically binding)”とは、標的抗原のエピトープへの抗体の結合など、2分子間の非ランダムな結合反応を意味する。標的抗原またはエピトープに“特異的に結合する”抗体は、当技術分野でよく理解されている用語であり、そのような特異的結合を決定する方法も当技術分野でよく知られている。抗体が標的抗原と“特異的に結合”するのは、他の物質と結合するよりも高い親和性/結合力(avidity)で、より容易に、および/またはより長時間結合するときである。換言すれば、この定義を読めば、例えば、第1の標的抗原に特異的に結合する抗体は、第2の標的抗原に特異的または優先的に結合しても、または結合しなくてもよいことも理解される。そのため、“特異的結合”または“優先的結合”は、必ずしも排他的結合を必要としない(含めることはできる)。一般的に、結合の親和性は解離定数(KD)で定義され得る。一般的には、抗体に関して用いられるとき、特異的に結合するとは、約107M未満、約108M未満、約109M未満、約1010M未満、約1011M未満、約1012M未満、またはそれ以下などのKD値でその標的に特異的に結合(認識)し、かつ非特異的抗原(BSAまたはカゼインなど)への結合に対する親和性よりも少なくとも100倍低い、例えば、少なくとも1,000倍低い、または少なくとも10,000倍低いKDに対応する親和性で特異的標的に結合する抗体を意味し得る。
【0039】
本明細書で用いる用語“核酸”または“ポリヌクレオチド”とは、ヌクレオチド単位からなるポリマーを意味し得る。ポリヌクレオチドには、デオキシリボ核酸(“DNA”)およびリボ核酸(“RNA”)のような天然核酸、ならびに天然に存在しないヌクレオチドを有する核酸類縁体が含まれる。ポリヌクレオチドは、例えば自動DNA合成機を用いて合成できる。ヌクレオチド配列がDNA配列(すなわち、A、T、G、C)で表されるとき、“U”が“T”に置き換わるRNA配列(すなわち、A、U、G、C)も含まれることが理解され得る。用語“cDNA”とは、一本鎖または二本鎖の形態で、mRNAと相補的または同一のDNAを意味する。
【0040】
本明細書で用いる用語“相補的”とは、2つのポリヌクレオチドの相互作用する表面の位相的な互換性または一致を意味する。第1のポリヌクレオチドは、そのヌクレオチド配列が第2のポリヌクレオチドのポリヌクレオチド結合パートナーのヌクレオチド配列と同一であるとき、第2のポリヌクレオチドと相補的である。したがって、配列が5’-ATATC-3’であるポリヌクレオチドは、配列が5’-GATAT-3’であるポリヌクレオチドと相補的である。
【0041】
本明細書で用いる用語“をコードする”とは、ポリヌクレオチド(例えば、遺伝子、cDNAまたはmRNA)中のヌクレオチドの特定の配列が、RNA転写物(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNAである)の所定の配列またはアミノ酸の所定の配列のいずれかを有する生物学的プロセスにおける他のポリマーおよび高分子の合成のための鋳型として機能する天然特性、およびそこから生じる生物学的特性を意味する。したがって、遺伝子は、その遺伝子によって産生されたmRNAの転写および翻訳によって、細胞またはその他の生物学的システムでタンパク質が産生されるとき、タンパク質をコードしている。遺伝子コードの縮重の結果、多数の異なるポリヌクレオチドおよび核酸が同じポリペプチドをコードし得ることは、当業者に理解される。また、当業者は、常套技術を用いて、ポリペプチドが発現される特定の宿主生物のコドン利用を反映させるために、そこに記載されたポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド配列に影響を与えないヌクレオチド置換を行ってもよいことが理解される。したがって、別段の定めがない限り、“アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列”とは、互いに縮重バージョンであり、同じアミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列を包含する。
【0042】
本明細書で用いる用語“組換え核酸”とは、天然には互いに結合していない配列を有するポリヌクレオチドまたは核酸を意味する。組換え核酸はベクターの形態で存在してもよい。“ベクター”は、目的のヌクレオチド配列および調節配列を含み得る。ベクターは、所定のヌクレオチド配列を発現させるため(発現ベクター)、または所定のヌクレオチド配列を複製、操作または異なる場所間(例えば、異なる生物間)で移動させるために維持するために使用できる。ベクターは、上記の目的のために適当な宿主細胞に導入できる。“組換え細胞”とは、組換え核酸が導入された宿主細胞を意味する。“形質転換された細胞”とは、組換えDNA技術によって、目的のタンパク質をコードするDNA分子が導入された細胞を意味する。
【0043】
ベクターは、プラスミド、コスミド、エピソーム、フォスミド、人工染色体、ファージ、ウイルスベクターなどを含む種々のタイプのものであってよい。一般的には、ベクターにおいて、所定のヌクレオチド配列は、ベクターが宿主細胞に導入されるとき、所定のヌクレオチド配列が調節配列の制御下で宿主細胞において発現され得るように、調節配列に作動可能に連結されている。調節配列としては、例えば、これらに限定されないが、プロモーター配列(例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、T7プロモーターおよびアルコールオキシダーゼ遺伝子(AOX1)プロモーター)、開始コドン、複製起点、エンハンサー、分泌シグナル配列(例えば、α-交配因子(mating factor)シグナル)、停止コドン、および他の制御配列(例えば、シャイン・ダルガーノ配列、終止配列)が挙げられ得る。好ましくは、ベクターは、その後のスクリーニング/選択手順のためのマーカー配列(例えば、抗生物質耐性マーカー配列)をさらに含み得る。タンパク質産生の目的のために、ベクターでは、目的の所定のヌクレオチド配列は、融合ポリペプチドが産生され、その後の精製手順に有益となるように、上記の調節配列以外の別のヌクレオチド配列に連結され得る。前記融合ポリペプチドは、精製を目的としたタグ、例えばHisタグを含む。
【0044】
本明細書で用いる用語“処置”とは、障害、障害の症状もしくは状態、または障害の進行をケア、治癒、緩和、寛解、変更、救済、軽減、改善または影響を及ぼす目的で、前記障害に罹患している、障害の症状もしくは状態、障害によって誘発される障害、または障害の進行を有する対象への1以上の活性薬剤の適用または投与を意味する。
【0045】
本発明は、少なくとも部分的には、EpCAM阻害剤およびWntシグナル伝達阻害剤を用いた併用癌治療法の開発に基づく。
【0046】
EpEXは腫瘍微小環境に寄与し、EpICDは細胞運動性、増殖、生存および転移のよく研究された促進因子であるため、EpCAMは多くの癌種でCSCマーカーとして知られている(Gires et al.2009; Lin et al., 2012; Park et al., 2016; Yu et al., 2017; Liang et al., 2018; Herreros-Pomares et al, 2018; Gires et al., 2020; Chen et al., 2020)。さらに重要なことに、可溶性EpICDは、β-カテニンおよびFour and one-half LIMドメインタンパク質2(FHL2)と称される足場タンパク質と多重タンパク質-核複合体を形成することが知られている。このタンパク質複合体は核内に移動し、そこでT細胞因子(TCF)またはリンパ系エンハンサー因子1(LEF-1)およびDNAと、正統なWntシグナル伝達経路を思わせる方法で結合する(Maetzel et al., 2009; Ralhan et al, 2010; Park et al.2016; Yu et al., 2017)。しかしながら、EpEXがWnt経路と何らかの形で協調しているかどうかは不明である。そこで本発明者らは、EpEXがWntシグナル伝達に機能的に関与しているかどうかを調べ、EpEXを標的として、造血幹細胞におけるEpICDおよびβ-カテニンの細胞内シグナル伝達を調節できるのではないかと予期した。
【0047】
本発明において、驚くべきことに、EpEXはWnt受容体であるFZD6/7およびLRP5/6と相互作用し、β-カテニンの核内移行を促進すること、またEpICDはWnt受容体および幹細胞性(stemness)因子の転写を促進することが見出された。また、WntリガンドおよびEpEXは、正のフィードバックとしてEpCAM切断酵素TACEおよびγ-セクレターゼを活性化し、EpEXおよびEpICDの産生を増強することも見出されている。これらの機序は癌幹細胞性を誘導し、EpEXを標的とするEpCAM阻害剤(例えば、抗EpCAM中和抗体、例えばEpAb2-6)およびWnt阻害剤(例えば、ポルクピン阻害剤、例えばLGK974)を利用することは、CSCのアポトーシスを誘導することが見出されている。この組合せは、潜在的な治療戦略を提供し、特に、腫瘍の進行および/または転移を減少させること、および/または癌患者の生存を延長させることにおいて優れた効果を与える。
【0048】
本明細書で用いる“併用療法”とは、2以上の治療薬またはアプローチを組み合わせた治療を意味する。“併用”とは、2以上の治療薬または治療アプローチが、同じ対象に、同時にまたは順番に投与されることを意味する。好ましくは、併用療法は相乗効果をもたらす。
【0049】
本明細書で用いる用語“相乗効果”とは、2以上の活性物質の組合せにおいて、2以上の活性物質の組み合わせ活性が各活性物質単独の活性の合計を超えるような組み合わせ作用を意味し、またそれを含む。また、用語“相乗効果”とは、2以上の活性物質を併用したとき、単一物質を用いたときと比較して、同等の活性または増強された活性を達成するために、それぞれのより低用量を用い得るような併用活性を提供することも意味し得る。
【0050】
したがって、本発明は、癌を処置するための併用療法であって、(i)EpCAMシグナル伝達の活性化を阻害する有効量の第1の阻害剤(EpCAM阻害剤);および、(ii)Wntシグナル伝達の活性化を阻害する有効量の第2の阻害剤(Wnt阻害剤)を含む組み合わせを、それを必要とする対象に投与することを含む、併用療法を提供する。
【0051】
ある態様において、第1の阻害剤(EpCAM阻害剤)は、EpEXの産生(または放出)を減少させ、および/またはEpEXのWnt受容体への結合を阻止する。ある場合には、第1の阻害剤は、EpEXに対する抗体またはその抗原結合フラグメントである。
【0052】
いくつかの態様において、本明細書で用いる抗EpEX抗体は、EpCAMのEGF様ドメインI(EpCAMのaa27~59)およびEpCAMのEGF様ドメインII(EpCAMのaa66~135)に特異的に結合する。具体的には、本明細書で用いる抗EpEX抗体は、EGF様ドメインIに位置するCVCENYKLAVN(aa27~37)(配列番号20)、およびEGF様ドメインIIに位置するKPEGALQNNDGLYDPDCD(aa 83~100)(配列番号19)の配列内のエピトープに特異的結合親和性を有する。より具体的には、本明細書で用いる抗EpEX抗体は、EpCAMのドメインI内のNYKモチーフ(aa 31-33)およびドメインII内のLYDモチーフ(aa 94-96)を認識する。対照的に、他の多くの抗体(例えば、MT201、M97、323/A3およびエドレコロマブ)は、EpCAMのよく知られているEGF Iドメインのみを標的としている。本発明の抗EpEX抗体の、他の抗体とは異なる特徴を以下に述べる。
【0053】
本明細書で用いる抗EpEX抗体の1つは、以下の実施例に示すEpAb2-6である。EpAb2-6の重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)、ならびにそれらの相補性決定領域(HC CDR1、HC CDR2およびHC CDR3)(LC CDR1、LC CDR2およびLC CDR3)のアミノ酸配列を、以下の表1に示す。本発明の抗EpEX抗体には、EpAb2-6およびその機能変異体が含まれる。
【0054】
【0055】
いくつかの態様において、本発明の抗EpEX抗体は、(a) 配列番号2のHC CDR1、配列番号4のHC CDR2、および配列番号6のHC CDR3を含むVH;ならびに、(b) 配列番号9のLC CDR1、配列番号11のLC CDR2、および配列番号13のLC CDR3を含むVLを含むことを特徴とするEpAb2-6の機能的変異体、またはその抗原結合フラグメントである。
【0056】
いくつかの態様において、(a) 配列番号2のHC CDR1、配列番号4のHC CDR2、および配列番号6のHC CDR3を含むVH;ならびに、(b) 配列番号9のLC CDR1、配列番号11のLC CDR2、および配列番号13のLC CDR3を含むVLを有する、本発明の抗EpEX抗体は、配列番号15またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列を含むVH、および配列番号16またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列を含むVLを含み得る。具体的には、本発明の抗EpEX抗体、配列番号15と少なくとも80%(例えば、82%、84%、85%、86%、88%、90%、92%、94%、95%、96%、98%または99%)の同一性を有するアミノ酸配列を含むVH、および配列番号16と少なくとも80%(例えば、82%、84%、85%、86%、88%、90%、92%、94%、95%、96%、98%または99%)の同一性を有するアミノ酸配列を含むVLを含む。本発明の抗EpEX抗体には、本明細書に記載の関連するVHまたはVLアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列によってコードされる、遺伝子組換え(engineered)由来の抗体も含まれる。
【0057】
用語“実質的に同一”とは、変異体の関連アミノ酸配列(例えば、FR、CDR、VH、またはVLにおいて)が参照(reference)抗体と比較して実質的に差異がなく、変異体が参照抗体に対して実質的に同等の結合活性(例えば、親和性、特異性またはその両方)および生物活性を有することを意味し得る。このような変異体には、わずかなアミノ酸の変化が含まれ得る。ポリペプチドは、その活性または機能とは無関係に、ポリペプチドのある部分内でなされ得る限られた数の変化または修飾を有していてもよく、それでもなお、同等または類似の生物学的活性または機能の許容可能なレベルを有する変異体が得られることが理解され得る。いくつかの例では、アミノ酸残基の変化は保存的アミノ酸置換であり、これは別のアミノ酸残基と類似の化学構造のアミノ酸残基を意味し、ポリペプチドの機能、活性または特性に対する他の生物学的影響は小さいか、実質的に影響しない。通常、FR領域では、CDR領域とは対照的に、抗体の結合機能および生物活性に悪影響を与えない限り(例えば、元の抗体と比較して結合親和性を50%以上低下させるなど)、比較的多くの置換を行うことができる。ある態様において、配列同一性は、参照抗体と変異体との間で、約80%、82%、84%、85%、86%、88%、90%、92%、94%、95%、96%、98%、または99%、またはそれ以上であり得る。変異体は、当業者に公知のポリペプチド配列を変更するための方法に従って調製され得、例えば、そのような方法をまとめた文献、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrook, et al., eds., Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989に記載されている。例えば、アミノ酸の保存的置換には、以下のグループ内のアミノ酸間で行われる置換が含まれる:(i)A、G;(ii)S、T;(iii)Q、N;(iv)E、D;(v)M、I、L、V;(vi)F、Y、W;および、(vii)K、R、H。
【0058】
本明細書に記載の抗体は、動物抗体(例えば、マウス由来抗体)、キメラ抗体(例えば、マウス-ヒトキメラ抗体)、ヒト化抗体、またはヒト抗体であってもよい。本明細書に記載の抗体は、抗原結合フラグメント、例えばFabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fvフラグメント、単鎖Fv(scFv)、(scFv)2も含み得る。抗体またはその抗原結合フラグメントは、当技術分野で公知の方法により調製できる。
【0059】
本明細書で用いる抗EpEX抗体の詳細は、米国特許第9,187,558号に記載されている通りであり、それぞれの関連する記載は、本明細書で言及される目的または主題について、引用により本明細書に包含させる。
【0060】
抗体またはその抗原結合フラグメントを得るためには、この技術分野で従来から用いられている数多くの方法が利用可能である。
【0061】
ある態様において、本明細書で提供される抗体は、従来のハイブリドーマ技術によって作製できる。一般に、標的抗原、例えば腫瘍抗原を、要すれば担体タンパク質、例えばキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)と結合させ、および/またはアジュバント、例えば完全フロイントアジュバントと混合し、その抗原に結合する抗体を生成するために宿主動物を免疫するために使用できる。モノクローナル抗体を分泌するリンパ球を採取し、骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを作製する。このようにして形成されたハイブリドーマクローンをスクリーニングし、目的のモノクローナル抗体を分泌するものを同定し選択する。
【0062】
ある態様において、本明細書で提供される抗体は組換え技術によって調製できる。関連する局面において、開示されたアミノ酸配列をコードする単離された核酸もまた、そのような核酸を含むベクターおよびその核酸で形質転換またはトランスフェクトされた宿主細胞とともに、提供される。
【0063】
例えば、このような抗体の重鎖および軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含む核酸は、常套技術により発現ベクター(例えば、大腸菌ベクターのような細菌ベクター、酵母ベクター、ウイルスベクター、または哺乳動物ベクター)にクローニングでき、抗体の発現のために、いずれかのベクターを適切な細胞(例えば、細菌細胞、酵母細胞、植物細胞、哺乳動物細胞)に導入できる。本明細書に記載の抗体の重鎖および軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列の例を表1に示す。哺乳動物宿主細胞株の例としては、ヒト胚性腎臓株(293細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO細胞)、およびヒト肝臓細胞(Hep G2細胞)が挙げられる。本明細書に記載の抗体を発現させるための組換えベクターは、通常、構成性または誘導性のいずれかのプロモーターに作動可能に連結された抗体アミノ酸配列をコードする核酸を含む。一般的なベクターは、抗体をコードする核酸の発現制御に有用な転写ターミネーターおよび翻訳ターミネーター、開始配列ならびにプロモーターを含む。ベクターは、要すれば、原核生物系および真核生物系の両方の選択マーカーを含み得る。いくつかの例では、重鎖および軽鎖の両方のコーディング配列が同じ発現ベクターに含まれている。他の例では、抗体の重鎖および軽鎖のそれぞれを個別のベクターにクローニングし、別々に作製した後、抗体の組み立てに適した条件下でインキュベートできる。
【0064】
本明細書に記載の抗体を発現させるための組換えベクターは、通常、構成性または誘導性のいずれかのプロモーターに作動可能に連結された抗体アミノ酸配列をコードする核酸を含む。組換え抗体は、細菌、酵母、昆虫、哺乳動物細胞などの原核生物または真核生物の発現系で生産できる。一般的なベクターは、抗体をコードする核酸の発現制御に有用な転写ターミネーターおよび翻訳ターミネーター、開始配列ならびにプロモーターを含む。ベクターは、要すれば、原核生物系と真核生物系の両方の選択マーカーを含み得る。産生された抗体タンパク質は、さらに単離または精製して、さらなるアッセイおよび適用のために実質的に均質な調製物を得ることができる。適切な精製手順としては、例えば、免疫親和性カラムまたはイオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、硫酸アンモニウム沈殿、およびゲルろ過が挙げられる。
【0065】
完全長抗体が望まれるとき、本明細書に記載のVH鎖およびVL鎖の何れかのコーディング配列を免疫グロブリンのFc領域のコーディング配列に連結でき、完全長抗体重鎖および軽鎖をコードする得られた遺伝子を適当な宿主細胞、例えば植物細胞、哺乳動物細胞、酵母細胞、または昆虫細胞で発現させ、組み立てることができる。
【0066】
抗原結合フラグメントは常套法で調製できる。例えば、F(ab’)2フラグメントは全長抗体分子のペプシン消化によって生成でき、FabフラグメントはF(ab’)2フラグメントのジスルフィド結合を還元することによって作製することができる。あるいは、このようなフラグメントは、適切な宿主細胞で重鎖フラグメントおよび軽鎖フラグメントを発現させ、インビボまたはインビトロのいずれかで所望の抗原結合フラグメントを形成するように集合させることにより、組換え技術によって調製することもできる。1本鎖抗体は、重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列および軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を連結することにより、組換え技術によって調製できる。好ましくは、フレキシブルリンカーが2つの可変領域の間に組み込まれている。
【0067】
抗体のN末端および/またはC末端に、別のタンパク質および/または薬物もしくは担体など、1以上の追加の要素を結合させるために、1つの抗体をさらに修飾できる。好ましくは、追加の要素を結合させた抗体は、所望の結合特異性および治療効果を保持する一方で、例えば、溶解性、保存または他の取り扱い特性、細胞透過性、半減期、過敏症の軽減、送達および/または分布の制御を補助する追加の要素に起因する追加の特性を提供する。他の態様には、アッセイ、検出、追跡などのための色素または蛍光色素などの標識の結合が含まれる。ある態様では、抗体をペプチド、色素、フルオロフォア、炭水化物、抗癌剤、脂質などの追加の要素に結合させ得る。さらに、抗体は、例えば、免疫リポソームを形成するために、Fc領域を介してリポソームの表面に直接結合させることができる。
【0068】
ある態様において、第2の阻害剤(Wnt阻害剤)は、WntリガンドのWnt受容体タンパク質への結合を阻止する。具体的には、WntリガンドはEpEXではない。
【0069】
ある態様において、第2の阻害剤(Wnt阻害剤)は、ポルクピン阻害剤である。ポルクピン(PORCN)は、Wntの分泌および生物活性に必要とされるWntファミリータンパク質のパルミトイル化を仲介する膜結合O-アシルトランスフェラーゼである。したがって、ポルクピン阻害剤は、Wntシグナル伝達を阻害することができる。低分子PORCN阻害化合物としては、例えば、LGK-974、ETC-159およびWnt-C59が挙げられる。表2は、低分子PORCN阻害化合物のいくつかの例を示す。
【0070】
【0071】
本明細書で用いる用語“低分子ポルクピン(PORCN)阻害化合物”または“低分子PORCN阻害剤”としては、ポルクピンを阻害する、またはポルクピンに結合する低分子化合物が含まれる。別段に他の記載がない限り、本明細書において低分子PORCN阻害剤に言及する場合、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、水和物および複合体、ならびにその薬学的に許容される塩(その多形、立体異性体、同位体標識体を含む)の溶媒和物、水和物および複合体への言及を含む。
【0072】
本明細書で用いる用語“薬学的に許容される塩”には酸付加塩が含まれる。“薬学的に許容される酸付加塩”とは、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、ならびに酢酸、プロピオン酸、ピルビン酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸を用いて形成される、遊離塩基の生物学的効果および特性を保持する塩を意味する。用語“薬学的に許容される塩”には塩基塩も含まれる。適切な塩基性塩は、無毒性の塩を形成する塩基から形成される。例えば、アルミニウム塩、アルギニン塩、ベンザチン塩、カルシウム塩、コリン塩、ジエチルアミン塩、ジオラミン塩、グリシン塩、リジン塩、マグネシウム塩、メグルミン塩、オラミン塩、カリウム塩、ナトリウム塩、トロメタミン塩、亜鉛塩などが挙げられる。
【0073】
本明細書で用いる用語“有効量”とは、処置された対象または細胞に所望の生物学的効果を付与するための有効成分の量を意味する。有効量は、投与経路および投与頻度、当該医薬を投与される個体の体重および種類、投与目的などの種々の理由により変化し得る。当業者は、本明細書の記載、確立された方法、および自身の経験に基づいて、それぞれの場合の投与量を決定できる。
【0074】
本明細書に記載の処置方法によって処置される対象は、哺乳動物、より好ましくはヒトであり得る。哺乳類動物には、家畜、スポーツ動物、ペット、霊長動物、馬、犬、猫、マウス、ラットなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0075】
本明細書で用いる“薬学的に許容される担体”とは、担体が組成物中の有効成分と適合性があり、好ましくは当該有効成分を安定化させることができ、受容する個体に対して安全であることを意味する。前記担体は、有効成分に対する希釈剤、ビークル、賦形剤またはマトリックスであってもよい。一般に、EpCAM阻害剤、Wnt阻害剤、またはそれらの組合せを含む組成物は、水溶液、例えば生理食塩水のような溶液の形態で製剤化することもでき、粉末の形態で提供することもできる。適切な賦形剤としては、ラクトース、スクロース、デキストロース、ソルボース、マンノース、デンプン、アラビアガム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガカントガム、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、滅菌水、シロップおよびメチルセルロースが挙げられる。組成物は、生理学的条件に近似させるために必要な薬学的に許容される補助物質、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどのpH調整剤および緩衝剤をさらに含んでいてもよい。組成物の形態は、錠剤、丸薬、粉末、ロゼンジ、分包、トローチ、エリキシル剤、懸濁液、ローション、溶液、シロップ、ソフトおよびハードゼラチンカプセル、坐剤、滅菌注射液、および包装粉末であり得る。本発明の組成物は、経口法、経腸法(筋肉内、静脈内、皮下および腹腔内など)、経皮法、座薬法、経鼻法など、生理学的に許容される何れかの経路で送達できる。特定の態様において、本発明の組成物は、即時使用可能な剤形として、または再構成可能な安定粉末として提供され得る液体注射剤形として投与される。
【0076】
いくつかの態様において、本発明で用いる2つの活性成分、EpCAM阻害剤およびWnt阻害剤は、対象への同時投与、個別投与または逐次投与のために、混合物として、または独立して、キットの形態で製剤化できる。各成分は、適切な投与経路のために、適切な薬学的に許容される担体と共に製剤化できる。ある態様において、EpCAM阻害剤およびWnt阻害剤は、EpCAM阻害剤またはそれを含む組成物およびWnt阻害剤またはそれを含む組成物が別個の包装単位内に存在する適切な包装単位で提供され得る。
【0077】
本発明によれば、EpCAM阻害剤およびWnt阻害剤の併用は、EpCAM阻害剤またはWnt阻害剤単独と比較して、癌の治療、特に癌細胞のアポトーシス誘導、腫瘍進行の低減または抑制、癌肝細胞性および/または転移の低減または抑制、および/または癌患者の生存期間の延長において相乗効果をもたらす。特に、実施例(例えば、実施例2.7)に示す、転移性モデルにおいて、EpCAM阻害剤としてのEpCAM中和抗体(EpAb2-6)またはEpCAM阻害剤としてのEpCAM中和抗体(EpAb2-6)とEpCAM阻害剤(LGK974)との組合せの何れかによる処置は、対照IgGまたはEpCAM阻害剤(LGK974)処置群のほとんどの動物が明確な転移および全生存期間の低下を示す一方で、生存期間を延長することができ、同様に、同所性モデルにおいて、対照IgGまたはEpCAM阻害剤(LGK974)処置群の動物は有意な腫瘍を発症し、低い生存期間中央値を示す一方で、EpCAM中和抗体(EpAb2-6)処置群はより遅い腫瘍進行およびより高い生存期間中央値を示し、驚くべきことに、EpCAM中和抗体(EpAb2-6)およびEpCAM阻害剤(LGK974)を用いた併用療法は、腫瘍進行の減少において相乗的に顕著な効果をもたらし(約60%(4/6)の動物が腫瘍を完全に含まないことが見出される)、全生存期間が延長される。
【0078】
いくつかの態様において、EpCAM阻害剤およびWnt阻害剤は、相乗的な抗癌作用または抗転移効果を提供するために、同時に、別個にまたは逐次的に投与され、特に、癌は相乗的な組み合わせに対して感受性である。
【0079】
いくつかの態様において、癌は、肺癌、脳腫瘍、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、胃癌、頭頸部癌、腎臓癌、白血病、肝臓癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌および精巣癌からなる群より選択される。
【0080】
本発明は以下の実施例によってさらに説明されるが、これらは限定ではなく実証の目的で提供される。当業者であれば、本明細書の記載に照らして、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、記載されている特定の態様に多くの変更を加えても、同様または類似の結果を得ることができることを理解すべきである。
【実施例】
【0081】
実施例
上皮細胞接着分子(EpCAM)は、多面発現性(pleiotropic type)1型膜貫通糖タンパク質であり、既知の癌幹細胞マーカーであるが、癌幹細胞性への関与の機序は依然として不明である。本発明において、本発明者らは、結腸直腸癌(CRC)モデル系を用いて、癌幹細胞性を促進するEpCAMとWntシグナル伝達との相互作用を明らかにし、定義した。EpCAM(EpEX)の細胞外ドメインが、シグナル伝達を誘導するWnt受容体タンパク質frizzled6/7およびLRP5/6のリガンドとして機能することを実証する。さらに、細胞内ドメイン(EpICD)は、このようなWnt受容体および重要な幹細胞性因子をコードする遺伝子の転写を上方制御する。興味深いことに、EpEX誘導性Wntシグナル伝達は、EpEXおよびEpICDの脱落を増強するTACEおよびγ-セクレターゼ酵素を活性化し、正のフィードバックループを確立する。このメカニズムに沿って、本発明者らのEpCAM中和抗体(EpAb2-6)およびポルクピン阻害薬(LGK974)はそれぞれ、癌幹細胞性を部分的に減弱させることができるが、それらの組合せはこの現象を消失させ、CRC細胞にアポトーシスを誘導する。この併用療法はまた、ヒトCRCの転移性および同所性動物モデルにおける腫瘍進行を顕著に阻害し、実質的に生存期間を延長させる。EpCAM活性化はWntシグナル伝達を刺激して癌幹細胞性を促進すると結論付ける。このように、EpAb2-6およびポルクピン阻害剤の組合せは、癌幹細胞性を効果的に抑制し、薬物耐性を克服し、かつCRC処置を改善し得る。
【0082】
1.材料および方法
1.1 細胞培養
HCT116、HT29、CT26、SW620、HEK293TおよびHeLa細胞株を用いて試験を行った。HCT116、HT29、HEK293Tはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Gibco)中で培養し、CT26細胞およびSW620細胞はそれぞれRPMI1640(Gibco)およびL-15(Gibco)培地で培養した。培地には10%ウシ胎仔血清(FBS、Gibco)、1%L-グルタミン(Gibco)および1%ペニシリンおよびストレプトマイシン(P/S)(Gibco)を添加した。SW620を除くすべての細胞を5%CO2中37℃で増殖させた。SW620細胞を0%CO2中37℃で増殖させた。
【0083】
増殖曲線については、各細胞株について6ウェルプレートを用いて104個の細胞をトリプレットに播種した。各トリプレットを血球計を用いて計数し、その計数を1日目から8日目まで毎日平均した。データセット全体を収集した後、点をプロットして増殖曲線を分析し、細胞倍加時間を計算した。
【0084】
1.2 細胞分画
細胞(1×106)を一晩播種し、さらに無血清条件下で増殖させた。次いで、細胞をさらに20μg/mL mEpAb2-6またはhEpAb2-6またはMT201で6時間、または400ng/mL LGK974(MedChemExpress)で9時間、または指示された組合せで処理した。製造業者のプロトコルに従って、核/サイトゾル分画キット(Biovision)を用いて、サンプルをサイトゾルおよび核抽出物に分画した。次いで、画分をウェスタンブロット分析に供した。
【0085】
1.3 ウェスタンブロッティング
ウェスタンブロッティングのために、ホスファターゼ阻害剤(Roche)およびプロテアーゼ阻害剤(Roche)カクテルを含む放射性免疫沈降アッセイ(RIPA)緩衝液[(0.01Mリン酸ナトリウム、pH7.2)、150mM NaCl、2mM EDTA、50mM NaF、1%ノニデットP-40、1%デオキシコール酸ナトリウム、および0.1%SDS)]を用いて細胞を抽出した。等量のタンパク質をSDS-PAGEで分離し、PVDF膜に転写した。膜をTBST中の3%BSA(ブロッキング溶液)でブロックし、ブロッキング溶液中で必要な一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。次いで、膜をブロッキング溶液中のHRP結合二次抗体と共に室温で1時間インキュベートし、タンパク質発現を検出した。用いた抗体:抗α-チューブリン(Sigma)、抗EpCAM(abcam)、抗活性β-カテニン(Millipore)、抗総β-カテニン(abcam)、抗Frizzled 6(CST)、抗Frizzled 7(Santa Cruz Biotech)、抗LRP5(abcam)、抗ホスホ-LRP5(abcam)、抗ホスホ-LRP 6(CST)、抗LRP6(CST)および抗EpEX抗体EpAb3-5(実験室で作製)、抗ADAM17(abcam)、抗ホスホADAM17(abcam)、抗プレセニリン2(abcam)、抗リン酸化プレセニリン2(S327)(abcam)、抗リン酸化プレセニリン2(S330)(abcam)および抗Axin2(CST)。
【0086】
1.4 TCF活性
細胞を5×103細胞/ウェルで播種し、12ウェルプレートで一晩増殖させた。次いで、細胞を、ポリジェットトランスフェクション剤(SignaGen)を用いて、TOP-Flash TCFレポータープラスミド(Millipore)で一時的にトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後に、細胞を、20μg/mL抗EpCAM EpAb2-6(実験室内製造)またはMT201(実験室内製造)で6時間、または400ng/mL LGK974(MedChemExpress)で9時間、または指示された組合せで処理した。さらに、細胞を、EpEX(Expi293発現システムによって実験室内製造)または組換えWnt3A(R&Dシステム)またはその組合せで8時間処理した。最後に、細胞を溶解し、ルシフェラーゼアッセイを実施した。
【0087】
1.5 免疫組織化学的染色
ヒト結腸癌組織アレイをBiomaxから購入した。切片をキシレン中で脱脂し、アルコール濃度を低下させた一連の溶液で再水和した。抗原回収を、Trilogy TM(Cell Marque)で同時に行った。ペルオキシダーゼブロッキングのために、切片をH2O2(3%)を含むメタノール中、室温(RT)で20分間インキュベートした。切片をさらにPBSで洗浄し、PBS中の1%ウシ血清アルブミン(BSA)と共に、室温で30分間インキュベートして、非特異的結合をブロックした。一次抗体に続いて、抗活性β-カテニン(Millipore)および抗EpEX抗体EpAb3-5(実験室内製造)を適用し、サンプルを4℃で一晩インキュベートした。次に、切片を0.1%Tween 20(PBST0.1)(Thermo)を含むPBSで洗浄し、スーパーセンシティブスーパーエンハンサー(Super Sensitive Super Enhancer)試薬を用いて室温で20分間処理した。次いで、サンプルをPBST0.1で3回濯いだ。その後、切片をポリマー-HRP試薬を用いて室温で30分間処理し、次いで、PBST0.1で3回濯いだ。次に、ペルオキシダーゼ活性を可視化するために、3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)を色素原として用いた。タンパク質強度の定量は、Fiji-Image Jソフトウェアを用いて行った。
【0088】
1.6 免疫蛍光染色
スライドグラスを24穴プレートに用いて、0.1%ゼラチンでコーティングした。さらに、3×104個の細胞を無血清培地に一晩播種した。細胞を20μg/mL EpAb2-6で6時間、または400ng/mL LGK974(MedChemExpress)で9時間、またはその組合せで処理した。細胞を氷冷PBSを用いて洗浄し、4%パラホルムアルデヒドを用いて室温で15分間固定し、氷冷PBSで洗浄した。さらに、細胞をPBS中の0.1%トライトン-Xを用いて20分間透過処理し、次いでPBSで洗浄した。細胞をPBS中3%BSAで室温にて1時間ブロッキングした。次に、細胞を一次抗体抗活性β-カテニン(Millipore)で一晩処理した。次いで、細胞を洗浄し、PBSおよびDAPIを含む3%BSA中の二次抗体で室温にて1時間処理した。次いで、サンプルをPBSで5回洗浄し、顕微鏡用にマウントした。核β-カテニン強度を、IMARIS(Oxford Instruments)ソフトウェアを用いて計算した。
【0089】
1.7 定量的リアルタイムPCR(qPCR)
TRI試薬を用いて全RNAを抽出し、5μgの全RNAを逆転写酵素を用いてオリゴ(dT)プライマーを用いてさらに逆転写した。Light Cycler 480 SYBR Green-I MasterキットおよびLightCycler480 Systemを用いて、cDNAに対して定量的リアルタイムRT-PCR(qPCR)を実施した。各サンプルの遺伝子発現レベルを、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)またはβ-アクチンの発現レベルに対して標準化した。qPCRで用いたプライマーを表3に列挙する。
【0090】
【0091】
1.8 ルシフェラーゼレポーターアッセイ
HEK293Tパッケージング細胞を、Poly JETトランスフェクションキットを用いて、パッケージングプラスミド(pCMV-ΔR8.91)と、エンベロープ(pMDG)およびshRNA(shEpCAM#1およびshEpCAM#2)含有プラスミドとを同時トランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後に、ウイルス含有上清を回収し、ポリブレン(8μg/mL)を含有する新鮮培地と混合し、標的細胞と共にさらに48時間インキュベートした。形質導入された細胞を必要な抗生物質で選択し、単一クローンを選択して安定なクローンに増殖させた。
【0092】
CRISPR/Cas9を用いたEpCAMノックアウトについては、EPCAM CRISPRガイドRNA(標的配列:GTGCACCAACTGAAGTACAC(配列番号41)、ベクター:pLentiCRISPR v2)をGenScriptから購入し、上記の手順に従ってレンチウイルスの産生およびクローン選択を行った。
【0093】
1.9 腫瘍スフェアアッセイ
細胞を、超低接着性6ウェルプレート(5×104細胞/ウェル)または24ウェルプレート(1×103細胞/ウェル)に播種し、B27を添加したDMEM/F-12中で維持した。さらに、細胞を20μg/mL mEpAb2-6、hEpAb2-6またはMT201(実験室内製造)、または400ng/mL LGK974(MedChemExpress)、またはその組合せで、培養培地への直接添加によって処理した。処理成分を含む全培養培地を1日おきに交換した。細胞を10日間培養し、10日目にスフェアを計数し、顕微鏡下で写真撮影した。
【0094】
1.10 コロニー形成アッセイ
細胞を12ウェルプレートに播種し(5×103細胞/ウェル)、20μg/mLのmEpAb2-6、hEpAb2-6またはMT201(実験室内製造)、400ng/mLのLGK974(MedChemExpress)、または指示された組合せで処理し、この場合、各要素は培地に直接添加した。処理成分と共に培地を隔日で交換し、細胞を10日間増殖させた。10日目に、細胞を洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで固定し、さらに1%クリスタルバイオレットで30分間染色した。コロニーをPBSで3回洗浄し、画像を撮影した。さらに、コロニー密度を測定するために、ウェルを0.5%SDSと共に室温で2時間振盪しながらインキュベートした。上清を回収し、マイクロプレートリーダーを用いて溶液の吸光度を570nmで測定した。
【0095】
1.11 インビトロ再生アッセイ
対照およびEpCAMノックアウト細胞(5×103細胞/ウェル)の両方を、上記のプロトコルに従って、12ウェルプレート中の腫瘍スフェアアッセイに供した。播種後7日目に、プレートを画像化し、スフェアを計数した。さらに、スフェアを単一細胞内にトリプシン処理し、細胞塊を避けるために細胞ストレーナー(BD Falcon)に通し、計数し、腫瘍スフェアアッセイ(5×103細胞/ウェル)に供し、さらに7日間増殖させた。この手順を3回繰り返した。最後の再生後、プレートを画像化し、スフェアを計数した。
【0096】
1.12 EpEXとWnt受容体の相互作用
細胞を一晩播種し、PBS中の10mM EDTAで回収した後、EpEXとWnt受容体タンパク質間の相互作用を安定化させるために2mM DTSSP(Thermo)架橋剤と共にインキュベートした。次に、トリス(pH7.5)を20mMの終濃度まで添加して架橋反応を停止させた。次に、プロテアーゼ阻害剤カクテルを添加したNP40緩衝液(1容量%NP-40、150mM NaCl、50mM Tris、pH8.0)を用いて細胞を溶解した。EpEX-Wnt受容体複合体を沈降させるためにプロテインGダイナビーズを用い、ウェスタンブロッティングによる共免疫沈降を行った。
【0097】
1.13 共免疫沈降(Co-IP)およびその後のウェスタンブロッティング
Pierce 磁性プロテインG ダイナビーズ(Thermo)を用いて、製造者の指示書に従って共免疫沈降を実施した。すなわち、プロテアーゼカクテル阻害剤を添加したNP40緩衝液を用いて細胞を溶解した。500μg~1mgのタンパク質を含む細胞溶解液を、免疫沈降用の抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。次に、生成物をプロテインG ダイナビーズと共に4℃で4時間インキュベートした。ビーズを磁石を用いて沈降させ、3回洗浄した後、サンプル緩衝液をタンパク質結合ビーズに添加し、100℃で10分間加熱した。最終生成物を上記のようにウェスタンブロット分析に供した。沈降およびウェスタンブロット分析に用いた抗体には、Frizzled 6(CST)、Frizzled 7(Santa Cruz Biotech)、LRP5(abcam)、LRP6(CST)およびEpEX(EpAb3-5)(実験室内製造)が含まれた。
【0098】
1.14 酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)
ELISA用に、ウェル(1タンパクあたり少なくとも6ウェル)を組換えFZD6(Proteintech)、組換えFZD7(Proteintech)、組換えLRP5(Proteintech)、組換えLRP6(Proteintech)で4℃で一晩コーティングした。次に、ウェルを1%BSAでブロッキングし、EpEX-his(Expi293 Expression System)で2時間処理した。他に、EpEX-hisをEpAb 2-6と共に一晩インキュベートし、この複合体を用いてタンパク質コーティングプレートを2時間処理した。さらに抗His抗体(abcam)を用い、TMBを実施して450nmで光学密度を記録した。
【0099】
1.15 アポトーシスアッセイ
細胞を24ウェルプレート(5×104細胞/ウェル)に一晩播種した後、20μg/mL mEpAb2-6、hEpAb2-6もしくはMT201、または2μg/mL LGK974(MedChemExpress)もしくはその組合せで24時間処理した。細胞ペレットを回収し、アネキシン-V/PIアポトーシスキット(BD Biosciences)を用いてアポトーシスアッセイを実施した。結果をフローサイトメトリー分析によって読み取り、アポトーシス細胞の割合を計算した。
【0100】
1.16 ルシフェラーゼレポーターアッセイ
細胞を24ウェルプレートに播種し(1×104細胞/ウェル)、37℃で24時間インキュベートした。培地を新しく替え、細胞をPolyJET(SignaGen)によりそれぞれのレポータープラスミド(TCFレポーターまたはWnt受容体プロモーターレポーター)でトランスフェクトした。トランスフェクト効率は、内部対照としてpRL-TK(20ng)で同時トランスフェクトすることによって標準化した。指示されたとおりに追加治療を実施した。ホタルルシフェラーゼおよびレニラ(Renilla)の発光を、Dual-Glo ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)を用いて、トランスフェクションの48時間後に、製造業者の推奨に従って測定した。
【0101】
1.17 インビボでの腫瘍形成能
NSGマウスを同数の2群に分けた。EpCAM対照またはEpCAMノックアウトHCT116細胞を各動物(各群n=6)の右側腹部に皮下移植した(103細胞)。腫瘍を増殖させ、スライドキャリパーを用いて腫瘍の大きさを週2回測定した。試験に用いたいずれかのマウスで腫瘍体積が2000mm3(IACUC、Academia Sinicaの定義による)に達した時点で、全動物を殺処分し、腫瘍重量および体積を測定した。除外されたデータはなかった。
【0102】
1.18 TACE活性アッセイ
細胞を24ウェルプレートに一晩播種し(1×105細胞/ウェル)、さらに250ng/mLのEpEX-Hisまたは100ng/mLWnt3A(R&D Systems)で8時間処理した後、InnoZyme TACE活性キット(Merck)を用いてTACE活性を測定した。簡単に言えば、細胞溶解物をRIPA緩衝液で調製し、TACE抗体コートプレートに添加し、わずかに振盪しながらRTで1時間インキュベートした。さらに、溶解物を除去し、プレートを3回洗浄した。基質を各ウェルに添加し、37℃で5時間インキュベートした。最後に、マイクロプレートリーダーを用いて、324nmの励起および405nmの発光で反応生成物の蛍光シグナルを検出した。
【0103】
1.19 γ-セクレターゼ活性
γ-セクレターゼ活性を、Liaoら(2004)(Liao et al., 2004)によって記載されたプロトコルを用いて測定した。簡単に言えば、細胞を対照プラスミドおよびルシフェラーゼを保有するテトラサイクリン誘導性γ-セクレターゼプラスミド(Liao et al., 2004)(プラスミドは、Liao、ICOB、Academia SinicaのYung-Feng博士からの寛大な贈り物であった)で一時的にトランスフェクトした。細胞を、250ng/mLのEpEX-Hisまたは100ng/mL Wnt3A(R&D Systems)で8時間処理した。さらに、細胞を受動(passive)溶解緩衝液を用いて溶解し、ルシフェラーゼアッセイに供した。
【0104】
1.20 Wnt受容体プロモーターレポータープラスミド構築
LRP5(-1187~+200)、LRP6(-1543~+55)、FZD6(-1385~+205)およびFZD7(-1285~+116)の推定プロモーター領域をHeLaゲノムDNAからクローニングし、pGL4.18プラスミド(Promega、USA)に融合させた。ゲノムDNAを、Genomic DNA Isolation キット(NovelGene、TW)を用いて、製造業者の推奨に従って抽出した。Wnt受容体プロモーターのPCR断片を作製するために用いたプライマーを表4に列挙する。
【0105】
【0106】
1.21 ADAM17およびプレセニリン2のリン酸化に対するGSK3およびCK1の活性
GSK3およびCK1のキナーゼ活性を調べるために、106個の細胞を一晩播種し、GSK3阻害薬BIO(Sigma)またはCK1阻害剤PF-670462(selleckchem)で8時間処理した。次いで、細胞をRIPA緩衝液で溶解し、ウェスタンブロット分析に供して、ADAM17およびプレセニリン2のリン酸化を調べた。他に、細胞をEpEX(実験室内製造)または組換えWnt3A(R&D systems)またはその組合せで8時間処理して、ADAM17およびプレセニリン2のリン酸化を調べた。
【0107】
1.22 プラスミドトランスフェクションおよびタンパク質(EpICD)送達
すべてのプラスミドトランスフェクション手順は、Polyjet DNAトランスフェクション剤(SignaGen Lab)を用いて指示されたように実施した。プロトコルは製造業者の指示に従って実施した。EpICDタンパク質(Expi293発現系により実験室内で製造)の送達は、Pierce タンパク質トランスフェクション試薬キット(Thermo Scientific)を用いて実施した。プロトコルはキットの指示に従って実施した。
【0108】
1.23 マウスにおける腫瘍移植および治療試験
すべての動物実験は、Academia SinicaのIACUCの規則に従って承認され、実施された。転移モデルにはHCT116細胞(1×106)を尾静脈から注射した。他に、ルシフェラーゼを含む2×105個のHCT116細胞を同所性モデルの盲腸壁に外科的に移植した。約6~8週齢のオスNOD/SCIDマウスを動物実験に用いた(転移モデルおよび同所性モデルの各治療群に対してそれぞれn=5およびn=6)。注射/移植の72時間後に、マウスを無作為に4つの異なる処置群に分けた。処置のために、動物に20mg/kgのIgGまたはEpAb2-6を尾静脈から週2回、4週間注射するか、またはビークル[0.5%メチルセルロース(Sigma-Aldrich)および0.5%トゥイーン80(Sigma-Aldrich)]またはビークルと共に製剤された5mg/kgのLGK974(MedChemExpress)を隔日で4週間強制経口投与するか、または動物を阻害剤および抗体の両方の組合せで処置した。転移モデルでは、生存が主要エンドポイントであった。同所性モデルでは、腫瘍の進行を生物発光イメージングを用いてモニターした。腫瘍を画像化するために、D-ルシフェリン(GOLD BIO)の腹腔内注射を実施し、注射後10分で画像を撮影した。
【0109】
1.24 統計分析
GraphPad Prism(GraphPad Software)を用いて統計分析を実施した。データは、必要に応じて一元配置ANOVAまたは二元配置ANOVAを用いて分析し、図の凡例に記載した後、ボンフェローニ多重補正を行った。0.05未満のP値は有意であると考えられ、各有意値に割り当てられた星印は図の凡例に示されている。含まれているすべてのデータセットのエラーバーは、平均値の+SDを表す。すべての実験は少なくとも3回実施された。本試験のデータはいずれも除外されなかった。
【0110】
2.結果
2.1 EpCAM発現はβ-カテニン活性と関連している
試験を開始するために、EpCAM発現がCRC組織サンプル中の活性β-カテニンと相関しているかどうかを調べた。120名の患者組織サンプルに対して免疫組織化学(IHC)を実施したところ、EpCAMおよびβ-カテニンのレベルは、健康な組織サンプルと比較して、疾患サンプルで上昇していることがわかった。さらに、両タンパク質のレベルもまた、CRCのグレードの増加とともに増加することが見出された(
図1A、
図1C)。実際、相関分析は、EpCAMの発現が活性β-カテニンの発現と強く相関していることを示した(ピアソンの相関係数r=0.76、p<0.0001)(
図1D)。したがって、次に、EpCAMが標準的なWntシグナル伝達に関与しているかどうか、またどのように関与しているかを調べることとした。
【0111】
2.2 EpEXはβ-カテニンの核移行に関与している
本発明者らは、次に、EpCAMがβ-カテニンの核局在を促進するかどうかを試験した。これは古典的なWntシグナル伝達の標準的な読み出しである。EpCAMノックダウン(shEpCAM)またはEpCAMノックアウト(KO-EpCAM)結腸癌細胞を活性β-カテニンについて免疫染色した。本発明者らは、EpCAMのノックダウンまたはノックアウトがβ-カテニンの核蓄積を有意に減少させることを見出した(
図2A、
図2B、
図3A、
図3B、
図3C)。特に、EpICDおよびβ-カテニンの複合体は、結合パートナーであるFHL2とともに、核に移行し、TCFまたはLEFなどの転写因子の助けを借りてEpCAM標的遺伝子の転写を調節することが知られている(Lin et al., 2012;Maetzel et al., 2009;Park et al., 2016)。しかしながら、EpICDを含まないβ-カテニンは依然として核に移行し、そのような因子に結合してWnt標的遺伝子を転写し得る(Maetzel et al., 2009;Nusse and Clevers, 2017)。したがって、EpEXがEpICDとは独立してタンパク質の核移行を調節できるかどうかを調べるために、shEpCAM細胞またはKO-EpCAM細胞を外因性EpEXで処理した。この処理はβ-カテニンの核蓄積の有意な増加を刺激した(
図2A、
図2B、
図3A、
図3B、
図3C)。さらに、野生型細胞をγ-セクレターゼ阻害剤であるDAPTで処理すると、β-カテニンの核移行は減少したが、細胞をEpEXおよびDAPTの両方で処理すると、タンパク質の核蓄積が回復した(
図3D、
図3E)。さらに、EpEX処理したEpCAMノックダウンおよびノックアウト細胞において、ルシフェラーゼレポーターを用いてTCF活性をモニターした(
図2Cおよび
図3F)。IFSおよびウェスタンの結果と同様に、EpCAMノックダウンまたはノックアウト細胞は対照細胞と比較してTCF活性の低下を示し、細胞をEpEXで処理すると、この現象は有意に回復した。加えて、野生型細胞のDAPT処理はTCF活性をわずかに低下させたが、この現象はEpEXおよびDAPTの併用処理で有意に増加した(
図3G)。まとめると、これらの観察は、EpICDとは独立してβ-カテニンの核移行を刺激するEpEXの潜在的な働きを示唆している。次に、本発明者らは、野生型細胞におけるβ-カテニンの核移行およびTCF活性に対するEpEXタンパク質およびWntタンパク質(組換えWnt3Aを用いた)の個々の効果および併用効果を調べた(
図2D、
図4A、
図4B、
図4C)。本発明者らは、EpEXまたはWnt3Aのいずれかがβ-カテニンの核移行およびTCF活性を増加させ得る一方で、両方の組合せがシグナルをさらに増加させることを見出した。さらに、これらの処理がAxin2などのWnt経路の直接標的遺伝子も調節するかどうかを試験したいと考えた(
図2E、
図2F、
図4D、
図4E)。実際、本発明者らは、TCF活性の結果と同様に、EpEXまたはWnt3AのいずれかがAxin2発現を増加させたが、併用療法はそのような活性を増強したことを見出した。まとめると、これらの結果は、EpEXがWnt経路を活性化し得る一方で、EpICDがさらに下流のシグナル伝達に関与することを示唆した。
【0112】
次に、野生型細胞におけるWntまたはEpCAMシグナル伝達の阻害がβ-カテニンの核移行を妨げるかどうかを検討した。本発明者らは、EpEXがWnt関連のシグナル伝達を活性化する能力を維持したいと考えたため、β-カテニン破壊複合体を阻害することによってWntシグナル伝達を阻害しないようにした。代わりに、本発明者らは、Wntリガンドの活性化を制限して受容体結合を阻害するポルクピン阻害剤であるLGK974を用いた(Liu et al., 2013)。EpCAMシグナル伝達を阻害するために、EpEXを中和して下流のシグナル伝達を阻害することによって機能する抗EpCAMモノクローナル抗体であるEpAb2-6を用いた(Liao et al., 2015)。LGK974で処理すると、核のβ-カテニンは減少したが、核からタンパク質は完全には除去されなかった。同様に、EpAb2-6で処理すると、核のβ-カテニンシグナルも有意に減少した。興味深いことに、LGK974およびEpAb2-6を併用すると、タンパク質の核蓄積をほとんど消失させた(
図2G、
図2H)。これらの結果は、核TCF活性およびAxin2発現データと一致しており(
図2I、
図2J、
図2Kおよび
図5)、EpEXがWntシグナル伝達を開始し、β-カテニンの核への移行を引き起こすことを示唆している。さらに、EpAb2-6抗体(mEpAb2-6)はハイブリドーマ技術によってマウスで産生されたため、そのヒト化型(hEpAb2-6)をさらに試験することにした(Liao et al., 2015)。また、hEpAb2-6の効果を、臨床治験が行われたヒト抗EpCAM抗体であるアデカツムマブ(MT201)の効果と比較した。この試験では、hEpAb2-6はβ-カテニン阻害活性を保持しており、TCF活性と関連していることがわかったが、MT201は対照処理細胞と比較して有意な効果を示さなかった(
図6A、
図6B、
図6C)。
【0113】
2.3 EpCAMは、癌の幹細胞性および腫瘍形成を促進する
EpCAMはCSCで豊富に発現することが知られているが、本発明者らは、EpEXおよびEpICDが、多くの癌タイプにおいて癌幹細胞性に主に関与するWnt関連シグナル伝達に関与している可能性があることを見出した(Batlle and Clevers, 2017;Gires et al., 2020)。したがって、次に、癌細胞増殖および癌幹細胞性の促進におけるEpCAMの機能的役割を試験した。そのために、本発明者らは、CRISPR/Cas9を用いてEpCAMノックアウト細胞を作製し、通常はEpCAMを発現しないCT26細胞でEpCAMを強制発現させた(
図7A、
図7B、
図7C)。対照細胞およびEpCAMノックアウト細胞の増殖曲線を比較すると、EpCAMのノックアウトは、細胞増殖が有意に遅くなり、倍加時間が対照細胞の18±2時間からノックアウトHCT116細胞では51±2時間に増加した(
図8A)。同様に、倍加時間は対照細胞の23±2時間からノックアウトHT29細胞では48±2時間に増加した(
図7D)。さらに、CT26細胞でEpCAMを強制発現させると、倍加時間が対照細胞の30±2時間からEpCAM発現細胞では21±2時間に減少した(
図8B)。インビボでのEpCAMの腫瘍形成能を評価するために、わずか10
3個の対照細胞またはEpCAMノックアウト細胞をNSGマウスに皮下移植した。EpCAMノックアウト細胞は腫瘍進行の低下を示し、より小さな腫瘍を産生した(
図8C、
図8D、
図8E、
図8F)。このような腫瘍形成能は、EpCAMによって示される癌幹細胞性の結果であり得る。そこで、本発明者らは、対照細胞およびEpCAMノックアウト細胞を用いてインビトロ再生アッセイを実施した。数回の継代後、EpCAMノックアウト細胞は腫瘍形成能を失い、より小さな腫瘍スフェアのサイズおよび数を生じた(
図8G)。Wntシグナル伝達も癌幹細胞性を主に支配していることから、EpCAMが癌細胞においてこのような特性を達成するためにWnt経路と交差するかどうかを明らかにしようとした。従って、本発明者らは、何れかのシグナル伝達を遮断するか、またはそれらを共に遮断しながら、腫瘍スフェアおよびコロニー形成アッセイを実施した。LGK974またはEpAb2-6のいずれかによる処理は腫瘍スフェアおよびコロニー形成を減少させたが、併用は腫瘍スフェアおよびコロニーをほぼ完全に除去した(
図8H、
図8I、
図8J、
図8Kおよび
図7E)。一方で、腫瘍スフェアまたはコロニーの形成能が低下したEpCAMノックアウト細胞は、外因性EpEXで処理すると野生型レベルに回復し、EpEXがWntシグナル伝達を介して幹細胞性を促進できる可能性があることが示唆された。興味深いことに、EpCAMノックアウト細胞をLGK974で処理すると、スフェアまたはコロニー形成能力が完全に失われたが、EpEXをLGK974と共に添加すると、スフェアおよびコロニー形成を部分的に回復することができた(
図8H、
図8I、
図8J、
図8Kおよび
図7E)。したがって、Wntリガンドが存在しなくても、EpEXはある程度の癌幹細胞性を促進することができ、これはWntシグナル伝達への関与により得る。さらに、外因性Wnt3AまたはEpEXの処理は、スフェアおよびコロニー形成能を増強し、この組合せはそのような可能性をさらに増幅した(
図8L、
図8M、
図8N)。次に、本発明者らは、コロニーおよびスフェア形成の阻害能に関してEpAb2-6とMT201を比較したところ、MT201は癌幹細胞性を調節する活性を示さないことが見出された(
図6D、
図6E、
図6F)。まとめると、これらのデータは、EpCAMおよびWntタンパク質がβ-カテニンシグナル伝達を協調的に刺激し、CRCにおける癌幹細胞性を促進するという考えを支持している。
【0114】
2.4 EpEXはWnt受容体と相互作用してβ-カテニンシグナル伝達を促進する
本発明者らは、EpEXがWntシグナル伝達を活性化できることを明らかにしたので、EpEXとWnt受容体との結合をさらに調べた。本発明者らは、EpEXまたはWnt受容体分子であるFZD6/7およびLRP5/6を共免疫沈降させ、沈降産物をウェスタンブロット分析に供した。その結果、EpEXがWnt受容体タンパク質と複合体を形成することが示された(
図9A、
図9B)。EpEXのWnt受容体タンパク質への結合を確認するために、精製したFZD6/7またはLRP5/6融合タンパク質(GSTタグ付き)でELISAプレートをコーティングし、EpEXがタンパク質に結合できるかどうかを試験した(
図9C)。EpEXは全ての受容体タンパク質と結合することが見出されたが、EpEXを抗EpCAMポリクローナル抗体(ほとんどすべてのエピトープをブロックする)と予めインキュベーションすると、そのような結合は有意に減少した。さらに、EpEXをEpAb2-6と予めインキュベーションすると、FZD7およびLRP5タンパク質のみへの結合が大幅に減少したことから、EpEX上のEpAb2-6エピトープがFZD7およびLRP5への結合に関与している可能性が示唆された(
図9C、
図9D)。これに関連して、Wnt経路では、受容体-リガンド相互作用がβ-カテニン破壊複合体を動員することによってシグナル伝達を開始し、β-カテニン破壊複合体が活性化されて核への移行を可能にする。この過程で、LRP5/6は、破壊複合体に存在する細胞膜のグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β)またはカゼインキナーゼ1(CK1)によってリン酸化される(Nusse and Clevers, 2017)。したがって、本発明者らは、EpEXとWnt受容体との相互作用がこのようなリン酸化を開始できるかどうかを試験した。実際、外因性EpEXまたはWnt3Aの処理はLRP5/6リン酸化を増加させ、この組合せは増強効果をもたらした(
図9E)。
【0115】
これらの結果から、EpEXのどの特異的ドメインがWnt受容体と相互作用するかを評価することがさらに奨励された。この問題に答えるために、本発明者らは、EGF様ドメインIまたはドメインIIを欠失したEpEXのいずれかの欠失変異体を発現するプラスミドでHEK293細胞をトランスフェクトし、EpEXの免疫沈降を行った(
図9F)。結果は、EpEXのEGF様ドメインIがWnt受容体と直接相互作用することを明らかにした。さらに、以前にEpEXがLRP5/6のリン酸化(
図9C)およびβ-カテニンの核移行(
図2A、
図2B、
図3B、
図3C、
図3Eおよび
図4A、
図4B)を誘導できることを観察したので、EpEXのドメインIがWnt受容体に結合しても同じ効果が誘導できるかどうかを試験した。そこで、細胞をEGF様ドメイン(I/II)欠損変異EpEXタンパク質で処理し、その活性を観察した(
図9G、
図9H)。実際、EpEXドメインI変異タンパク質処理はLRP5/6のリン酸化およびβ-カテニンの核移行を誘導するが、EpEXドメインII変異タンパク質処理は同じ効果をもたらさないことを見出した。以前に観察したように、EpAb2-6およびLGK974はβ-カテニンの核移行を減弱させることができた(
図2G、
図2H)ため、次に、このような処理がWntシグナル伝達を遮断するためにLRP5/6のリン酸化を阻害できるかどうかを試験した。本発明者らは、LGK974またはEpAb2-6処理のいずれかがLRP5/6リン酸化を低下させることができ、併用処理はこのようなリン酸化を絶対的に阻害することを見出した(
図9I)。これらの結果から、EpEXのEGF様ドメインIがWnt受容体と直接相互作用してβ-カテニンシグナル伝達を活性化することが確認された。
【0116】
2.5 EpEXおよびWntはTACEおよびγ-セクレターゼを活性化する
本発明者らは、EpEXがWnt受容体と相互作用することを見出したので、EpEXの産生、さらにはEpICDの産生に影響を及ぼす可能性のある因子をさらに調べた。したがって、本発明者らは、EpEX誘導性のWntシグナル伝達が、EpEXおよびEpICDをそれぞれ切断するTACEおよびγ-セクレターゼを活性化できるかどうかを調べた。興味深いことに、本発明者らは、外因性EpEXまたはWnt3Aによる処理がTACEおよびγ-セクレターゼ活性を増強し、この組合せがそのような活性化をさらに増強することを見出した(
図10A、
図10B、
図10C、
図10D)。上方制御された活性の機序に関して、本発明者らは、Wnt3AおよびEpEX処理がTACEおよびγ-セクレターゼの活性化サブユニットであるプレセニリン-2(PS2)のリン酸化を増加させることを見出した(
図10E)。このプロセスに関与するキナーゼを同定するために、本発明者らは、β-カテニン破壊複合体のGSK3またはCK1を低分子阻害剤で遮断し、TACEおよびPS2のリン酸化の低下を観察した。このことは、GSK3およびCK1がこのプロセスに関与していることを示唆する(
図10F、
図10G)。これらの観察は、Wnt経路の活性化によるTACEおよびγ-セクレターゼの活性化の詳細な機序を同定するためのさらなる試験を必要とする。
【0117】
2.6 EpICDはWnt受容体タンパク質発現を上方制御する
高レベルのWnt受容体タンパク質はWnt活性を増加させ(MacDonald and He, 2012)、癌幹細胞性に影響を及ぼし得る。従って、Wnt受容体タンパク質のレベルがEpCAMシグナル伝達によって影響されるかどうかを調べた。興味深いことに、EpCAMノックアウトまたはノックダウンがWnt受容体タンパク質レベルを有意に低下させることを見出した(
図11A、
図11B、および
図12A、
図12B)。さらに、ノックアウト細胞を野生型EpCAMプラスミドでトランスフェクトすると、Wnt受容体が回復し、野生型様の細胞形態に変化した(
図11C、
図11D、および
図12C)。さらに、γ-セクレターゼ阻害剤であるDAPTでEpICDの脱落を遮断すると、Wnt受容体の発現低下が観察された(
図11E、
図11F、および
図12D)。これらの結果に基づいて、EpICDがWnt受容体の発現を促進する転写因子として機能し得る仮定した。この仮説を検証するために、Wnt受容体プロモーターの制御下にルシフェラーゼレポーターを構築した(
図12E)。予測されたように、細胞にEpCAMをトランスフェクトするとプロモーター活性が亢進したが、DAPT処理ではその作用がほぼ完全に遮断された(
図11G、
図11H、
図11I、および
図12F)。これらのデータは、EpICDがプロモーターとの直接的な相互作用を介してWnt受容体タンパクの発現レベルを上方制御することを示唆している。これに関連して、EpEXの過剰産生(癌細胞におけるように)は、EpEX-EGFR-ERK系を介してプレセニリン-2をリン酸化し、EpICDを切断するγ-セクレターゼを活性化し得る(Chen et al., 2020;Liang et al., 2018)。本試験では、WntおよびEpEXの両方がγ-セクレターゼを活性化して、より多くのEpICDを産生し得ることにも注目した(
図10)。したがって、本発明者らは、EpEXがWnt受容体を上方制御できるかどうかを調べた。実際、EpEXおよびWnt3A処理はWnt受容体の発現を上方制御し、この組合せは、タンパク質およびmRNAレベルの両方における現象をさらに増強した(
図13A、
図13B)。したがって、EpAb2-6およびLGK974はそれぞれ部分的に減少し、それらの組合せはWnt受容体の発現をほとんどゼロにした(
図11J、
図11K)。さらに、Oct4、Sox2およびc-Mycなどの分化多能性因子は癌の幹細胞性に重要であると考えられており、これらの遺伝子の転写はEpICDによって活性化されることがよく研究されている(Lin et al., 2012)。したがって、本試験では、EpCAMをノックダウンすると、幹細胞性因子のタンパク質および相対的mRNA発現レベルが低下した(
図13C、
図13D)。幹細胞性因子はWnt経路の直接の標的であるため、細胞をEpEXまたはWnt3Aのいずれかで処理すると、分化多能性因子の発現が誘導されたが、併用処理はその効果をさらに増強させた(
図13E、
図13F)。実際、細胞をLGK974またはEpAb2-6で処理すると、分化多能性因子の発現が低下し、併用処理はそのような活性を完全に無効にした(
図11L、
図11M)。これらの結果は、EpICDが幹細胞性タンパク質の転写調節因子として機能することを明らかにしたLinら(Lin et al., 2012)による以前の研究と一致している。したがって、EpEXはWnt受容体に結合してシグナル伝達を開始するが、EpICDは転写因子として機能してWnt受容体タンパク質の産生を促進し、幹細胞性因子は癌幹細胞性を達成し得る。
【0118】
2.7 LGK974およびEpAb2-6は協調的にアポトーシスを誘導し、腫瘍の進行を阻害する
本発明者らのデータから、EpCAMおよびWntタンパク質はWntシグナル伝達を協調的に刺激して幹細胞性を促進することが示唆されたが、これはEpAb2-6およびLGK974を用いて両シグナルを同時に遮断することによって阻害され得るため、この組合せの細胞効果を試験した。EpAb2-6単独で処理すると結腸癌細胞にアポトーシスを誘導できたが、LGK974では誘導できなかったことを見出した。しかし、アポトーシスの誘導は組合せ処理を受けた細胞で増幅された(
図14A、
図14B、
図15A、
図15B)。さらに、このような効果がMT201で再現できるかどうかを評価したところ、該抗体はこのような活性を示さず、一方で、hEpAb2-6はmEpAb2-6と同様の活性を示した(
図6G、
図6H)。これらの結果から、動物モデルを用いてEpAb2-6の抗腫瘍効果を試験することが奨励された。これに関連して、EpCAMは、結腸癌の転移を促進するEMT遺伝子発現を増強することが以前に報告されている(Lin et al., 2012)。したがって、本発明者らは、EpAb2-6およびLGK974の併用効果をヒトの転移動物モデルおよび同所性動物モデルの両方で評価することにした。転移動物モデルでは、HCT116細胞を尾静脈から注入したが、同所性モデルでは細胞を盲腸壁に外科的に移植した。両モデルとも移植後72時間で治療を開始した(
図15C)。転移モデルでは、EpAb2-6または併用のいずれかで処置すると生存期間が延長することが見いだされた。EpAb2-6群では5匹中2匹のみが試験終了時までに死亡し、併用群では5匹中0匹が死亡した。しかしながら、対照IgGまたはLGK974投与群のほとんどの動物に遠隔転移が認められ、全生存期間の短縮と関連していた(
図14C、
図15D、
図15E)。同様に、同所性モデルでは、対照IgGおよびLGK974群のすべての動物が有意に腫瘍を発症し、低い生存期間中央値を示した(
図14D、
図14E、
図14F)。EpAb2-6投与群では腫瘍の進行がはるかに遅く、対照IgGまたはLGK974投与群よりも比較的高い生存期間中央値を示した(
図14D、
図14E、
図14F)。腫瘍進行の減少は併用療法群でさらに顕著であり、6匹中4匹で腫瘍が完全に消失し、動物の全生存期間が延長された(
図14D、
図14E、
図14F)。注目すべきことに、これまでの研究では、LGK974は5mg/kg体重の用量で無毒であると報告されている(Liu et al., 2013)。本発明者らは、LGK974投与動物および併用投与動物の両方の体重が投与期間中に減少したことを見出した(
図15F)。しかしながら、投与中止後、併用群は体重が回復したのに対し、LGK974投与マウスでは腫瘍量のためと考えられる体重減少が続いた。これらのデータをまとめると、EpCAMはCRCにおける癌幹細胞性を確立するためにEpEXおよびEpICDを介してWnt機序を積極的に組織化しているため、EpAb2-6およびポルクピン阻害剤の併用療法は癌幹細胞性を完全に抑制して治療効果を最大化し得ると結論づける(
図16)。
【0119】
2.8 EpAb2-6はEpCAMのEGF様ドメインIおよびIIに結合する
本発明において、EpEXの両方のEGF様ドメインでEpCAMに結合するかどうかを調べた(
図18A、
図18B、
図18C)。EpAb2-6がEpCAMのLYDモチーフを認識することを確認するために、EpCAMの第1のEGF様リピート(aa 27-59;EGF-Iドメイン)および第2のEGF様リピート(aa 66-135;EGF-II/TYドメイン)をコードするcDNA配列を構築した。次に、PCRベースの部位特異的変異誘発を用いて、各ドメインに変異を導入した(
図18D)。これらのEpCAM変異体に対するEpAb2-6抗体の反応性を、免疫蛍光(
図18E)、フローサイトメトリー(
図18F)、および細胞ELISA(
図18G)によって評価した。EpCAM位置Y32(EGF-Iドメイン)またはY95(EGF-IIドメイン)のアミノ酸変異は、EpAb2-6結合の顕著な減少を引き起こしたが、MT201結合には影響を及ぼさなかった。したがって、本発明者らは、EpAb2-6が、それぞれアミノ酸残基Y32およびY95を標的とするEpEXのEGF-IドメインおよびEGF-IIドメインに結合すると結論付ける。
【0120】
3. 考察
EpCAMは強力なCSC表面抗原であることが知られており、その高発現はCRCの一般的な特徴として報告されている(Boesch et al., 2018;Dalerba et al., 2007;Gires et al., 2009;Gires et al., 2020;Lin et al., 2012)。EpICDの細胞内効果に加えて、EpCAMは細胞外腫瘍微小環境においてEpEXを介してシグナルを伝達する。この点に関して、癌細胞の表現型は、自己再生能および高い腫瘍形成能を付与し得る異常かつ不均一な細胞シグナル伝達ネットワークに起因する。さらに、癌細胞の特定の亜集団は、強力な腫瘍形成能を有すると考えられる幹細胞性の特性を示し、メラノーマ中の単一のCSCでさえも完全な不均一腫瘍を形成し得る(Quintana et al., 2008)。この悪性の可能性のために、CSCを除去することは、癌患者を処置する際に非常に有益であり得る。しかしながら、この目標は、癌細胞の高い可塑性のために依然として困難であり、すなわち、非CSCは、微小環境によって適切に刺激されたときに脱分化してCSCになり得る。したがって、CSCの除去には、CSC集団の直接標的化だけでなく、微小環境からの特定のシグナルの同時遮断も必要であり得る(Batlle and Clevers, 2017)。特に、CRC微小環境は、β-カテニンシグナル伝達を介して幹細胞性を付与することが示されているWntリガンドが豊富であることが多い(Batlle and Clevers, 2017; Vermeulen et al., 2010; Voloshanenko et al., 2013)。実際に、CRCは、CSCの状況に応じた機能をサポートするようにモデル化されている(Batlle and Clevers, 2017)。このように、腸幹細胞(ISC)の陰窩(crypt)ニッチは、幹細胞の未分化状態を維持するのに役立つWntリガンドで濃縮されている。Wntシグナル伝達に異常に影響する遺伝子変化は、陰窩前駆体表現型をCRCに変換することができ、ISCがCRCの主要な細胞型の起源であることを示唆している(Barker et al., 2009;van de Wetering et al., 2002)。これらの研究は、Wntシグナル伝達が、幹細胞性を課す因子として、CRCニッチの機能に中心的に関与していることを示唆している。
【0121】
古典的なWnt経路の特徴であるβ-カテニンの核内蓄積は、Wntリガンドがその受容体に結合すると起こり、破壊複合体を細胞膜に動員し、活性型β-カテニンと呼ばれるβ-カテニンを脱リン酸化する(Nusse and Clevers, 2017)。ここではさらに、EpEXがシグナル伝達を活性化するWnt受容体との相互作用を介してβ-カテニンの核内蓄積も誘導できることを示した。したがって、Wntタンパク質またはEpEXとWnt受容体との相互作用は、β-カテニンを放出してEpICDと複合体を形成し、これは核に移動し、そこでWnt受容体タンパク質および幹細胞性因子などのEpCAM標的遺伝子を転写する(Lin et al., 2012)。WntまたはEpEXの影響下で、β-カテニンはEpICDとは独立して核に移動し得、TCF/LEFがEpCAM自体およびAxin2などのWnt標的遺伝子の転写因子として機能することを可能にする(Gires et al., 2020;Maetzel et al., 2009;Nusse and Clevers., 2017)。特に、EpEXおよびEpICDの過剰産生は、EpCAMシグナル伝達の亢進をもたらす。本発明者らは以前に、EpEX-EGFR軸を介したERK1/2シグナル伝達の刺激が、TACEおよびプレセニリン-2のリン酸化を引き起こし、CRCおよび肺癌におけるEpEXおよびEpICD切断を増強する酵素を活性化し得ることを報告した(Chen et al., 2020;Liang et al., 2018)。本発明ではさらに、Wntタンパク質およびEpEXタンパク質もWntシグナル伝達を介してTACEおよびプレセニリン-2を活性化し、GSK3およびCK1が正のフィードバックループを確立する必要があることを見出した。したがって、Wnt受容体のリガンドとしてのEpEXの機能は、EpICDが潜在的な癌幹細胞性を達成する重要なWnt受容体タンパク質の転写に関与する腫瘍微小環境における外因性の手がかり(cue)として示される。
【0122】
現在、癌の治療戦略は、ほとんどの場合、標準的な抗増殖療法によって癌細胞を排除することによって癌を標的とするように設計されている。しかしながら、そのような戦略はしばしば限られた肯定的な結果に悩まされる。処置を中止すると、癌を再発させ得る一部の残存細胞集団(抗癌剤耐性細胞と呼ばれる)がCSCに濃縮される。癌の再発は、多くの場合、複数の独立した機序を介して薬剤耐性を獲得したCSCに起因する(Borst, 2012;Holohan et al., 2013)。したがって、CSCが可塑性および静止性を示す固有の能力は、薬剤耐性の強力な促進因子であると考えられている(Borst, 2012)。興味深いことに、CSCは、細胞外Wnt機構を含む微小環境における外因的な手がかりからこのような特性を獲得している(Batlle and Clevers, 2017;Nusse and Clevers, 2017)。実際、CSCシグナル伝達を抑制することを目的として、Wnt経路を標的とする試みがなされているが(ポルクピン、FZDタンパク質および抗RSPO3の阻害剤)、これらの戦略は薬剤耐性およびCSCプールの再生によって阻止されている(Batlle and Clevers, 2017;Kahn, 2014)。さらに、CRCを含むいくつかの癌タイプはEpCAMを豊富に発現しているため(Gires et al., 2020)、EpEXは腫瘍微小環境における外因的な手がかりとして機能するように濃縮されている。CSC集団およびCSC誘導の手がかりを標的とするためには、EpCAMおよびWntシグナル伝達の両方を同時に標的とすることが必要であり、これにより薬剤耐性を克服し得る。本発明では、本発明者らの抗EpCAM抗体であるEpAb2-6が、LGK974と組み合わせて、癌細胞にアポトーシスを誘導し、マウスモデルにおいて腫瘍進行を妨げるために、癌幹細胞性に関連する機序を減弱させ得ることを示す。特に、動物モデルにおいてアポトーシスを誘導または癌進行を阻害するという点で、LGK974単独の有意な効果は観察されず、これは以前の研究(Cho et al., 2020)と一致している。しかしながら、EpAb2-6と組み合わせた阻害剤は有望な治療効果を示した。したがって、これらの知見は、CSC治療のためのより良い戦略の設計に有益であるとともに、薬剤耐性を克服するのに役立ち得る。
【0123】
WntおよびEpCAMは両方とも、癌の進行、増殖、EMT、転移および幹細胞性における重要な遺伝子の転写を促進する(Gires et al., 2020;Lin et al., 2012)。さらに、両方のシグナル伝達成分は、CRCにおけるCSC表現型およびCSC-微小環境コミュニケーションに寄与する。興味深いことに、本発明者らは、機能的なWntリガンドが存在しない場合(細胞をLGK974で処理したとき)、EpEXがβ-カテニンシグナル伝達および癌幹細胞性を維持することを見出した。WntリガンドおよびEpEXの併用阻害のみが、Wnt経路活性を完全に阻害し、癌幹細胞性を消失させることができた。したがって、EpAb2-6およびポルクピン阻害剤の併用療法は、CSCを標的とする有効な方法であり得る。EpCAMおよびWnt機構の両方の高発現を示す多くの癌タイプ(特に固形腫瘍)に共通する特徴であり、EpCAMはWntシグナル伝達をさらに刺激し得る。したがって、EpCAMは経路をさらに活性化し、CSCを維持し、癌の増殖を促進するため、Wntリガンドを遮断してもシグナル伝達は完全には停止しない可能性がある。このような場合、EpEXおよびWntリガンドの両方を遮断することは、癌の進行を抑制するために必要であり得る。この癌進行の遮断は、CSC表現型に寄与する生存促進細胞内シグナル伝達の欠如、ならびに微小環境と腫瘍細胞との間の情報伝達の阻害に起因し得る。本発明者らの試験から得られた機構的洞察は、既存の治療法を改善したり、新しい抗癌療法を開発したりするのに有用であり得る。
【0124】
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